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特許7393299無線通信システム、通信方法、及び無線基地局
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】無線通信システム、通信方法、及び無線基地局
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/50 20230101AFI20231129BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20231129BHJP
   H04W 72/12 20230101ALI20231129BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20231129BHJP
   H04W 72/566 20230101ALI20231129BHJP
   H04W 28/14 20090101ALI20231129BHJP
【FI】
H04W72/50 110
H04W72/0446
H04W72/12
H04W84/12
H04W72/566
H04W28/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020089325
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021184544
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】玉置 真也
(72)【発明者】
【氏名】原 一貴
(72)【発明者】
【氏名】南 勝也
(72)【発明者】
【氏名】久保 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ダビド
【審査官】松野 吉宏
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2009-0114042(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第1756227(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0381336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの無線基地局と複数の無線端末との間の無線接続が直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)である無線通信システムであって、
前記無線基地局は、
現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得する情報取得部と、
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行う演算部と、
を備えており、
前記演算部の前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて前記バッファ内の各データについて現在の時刻からそれぞれの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記情報取得部が取得する前記情報は、前記無線基地局の前記バッファの情報であり、
前記演算部は、前記無線基地局から前記無線端末への下り方向について前記スケジューリングを行うことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記情報取得部が取得する前記情報は、前記無線端末の前記バッファの情報であり、
前記演算部は、前記無線端末から前記無線基地局への上り方向の前記スケジューリングを行うことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
1つの無線基地局と複数の無線端末との間の無線接続が直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)である無線通信システムにおける通信方法であって、
前記無線基地局と前記無線端末の少なくとも一方の、現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得すること、及び
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行うこと、
を特徴としており、
前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて前記バッファ内の各データについて現在の時刻からそれぞれの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする通信方法。
【請求項5】
複数の無線端末との間の無線接続が直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)である無線基地局であって、
自身と前記無線端末の少なくとも一方の、現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得する情報取得部と、
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行う演算部と、
を備えており、
前記演算部の前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて現在の時刻から前記バッファ内の各データの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする無線基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線通信システムの優先スケジューリング方式に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムでは1台の無線基地局と複数台の無線端末との間の通信においてデータ衝突を避けるために各無線端末に対して無線資源の割当制御が行われている。例えば、モバイル無線通信規格のLTE(Long Term Evolution)や無線LAN(Local Area Network)のIEEE 802.11axではOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)が採用されており、無線資源量をRB(Resource Block)ないしRU(Resource Unit)単位で各無線端末に割り当てる。RB/RUとデータレートの関係はMCS(Modulation and Coding Scheme)およびトーン数(サブキャリア数)に依存する(例えば、非特許文献1及び2を参照。)。
【0003】
機械制御やミッションクリティカルサービス向けの通信においては、ある時刻までにすべてのデータ送信を終了しなければならないという終了デッドライン制約を課した優先スケジューリングが用いられることがある。例えば、終了デッドラインを考慮した優先スケジューリング方式として、デッドライン時刻に近いデータを優先的に処理するEarliest Deadline First(EDF)スケジューリングやDeadline Monotonic(DM)スケジューリング等がある(例えば、非特許文献3及び4を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】F. Capozzi, “Downlink Packet Scheduling in LTE Cellular Networks: Key Design Issues and a Survey,” IEEE Communications Surveys & Tutorials, vol. 15, no. 2, pp. 678-700, Second Quarter 2013.
【文献】E. Khorov et al., “A Tutorial on IEEE 802.11ax High Efficiency WLANs,” IEEE Communications Surveys & Tutorials, vol. 21, no. 1, pp. 197-216, First Quarter 2019.
【文献】B. Liu et al., “An Efficient Downlink Packet Scheduling Algorithm for Real Time Traffics in LTE Systems,” Proc. IEEE 10th Consumer Communications and Networking Conference (CCNC), pp. 364-369, Jan. 2013
【文献】高田, “リアルタイムスケジューリング理論とその適用事例,” 情報処理, Vol. 47, No. 5, pp. 514-518, May 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、無線資源割当においてデータ送信をある時刻までに開始するという開始デッドライン制約を課した優先スケジューリング方式は知られていない。このため、開始デッドライン制約を満たす適切な時間周波数割り当てを実現することが困難であるという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、開始デッドライン制約を満たす優先スケジューリングが可能な無線通信システム、通信方法、及び無線基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る無線通信システムは、開始デッドライン制約を満たせないデータに対しては周波数スケジューリングを行って並列送信することとした。
【0008】
具体的には、本発明に係る無線通信システムは、1つの無線基地局と複数の無線端末との間の無線接続が直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)である無線通信システムであって、
前記無線基地局は、
現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得する情報取得部と、
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行う演算部と、
を備えており、
前記演算部の前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて前記バッファ内の各データについて現在の時刻からそれぞれの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする。
【0009】
本発明は、デッドラインの厳しい複数の無線端末間で周波数資源を分割して送信開始時刻を早めることができるため、一部のデータを先行して利用することが可能な画像データなどにおいて受信端末でのデータ利用開始時刻を早めることができる。従って、本発明は、開始デッドライン制約を満たす優先スケジューリングが可能な無線通信システムを提供することができる。
【0010】
このとき、本発明に係る無線通信システムの前記情報取得部が取得する前記情報は、前記無線基地局の前記バッファの情報であり、前記演算部は、前記無線基地局から前記無線端末への下り方向について前記スケジューリングを行うことができる。
また、本発明に係る無線通信システムの前記情報取得部が取得する前記情報は、前記無線端末の前記バッファの情報であり、前記演算部は、前記無線端末から前記無線基地局への上り方向の前記スケジューリングを行うこともできる。
すなわち、上述した無線資源割当は、下り方向にも上り方向にも適用できる。
【0011】
また、本発明に係る通信方法は、1つの無線基地局と複数の無線端末との間の無線接続がOFDMAである無線通信システムにおける通信方法であって、
前記無線基地局と前記無線端末の少なくとも一方の、現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得すること、及び
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行うこと、
を特徴としており、
前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて前記バッファ内の各データについて現在の時刻からそれぞれの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る無線基地局は、複数の無線端末との間の無線接続がOFDMAである無線基地局であって、
自身と前記無線端末の少なくとも一方の、現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得する情報取得部と、
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行う演算部と、
を備えており、
前記演算部の前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて現在の時刻から前記バッファ内の各データの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする。
【0013】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、開始デッドライン制約を満たす優先スケジューリングが可能な無線通信システム、通信方法、及び無線基地局を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る無線通信システムの基本構造を説明する図である。
図2】IEEE 802.11ax規格におけるRU配置(20MHzチャネル)を説明する図である。
図3】終了デッドライン制約の無線通信システムを説明する図である。
図4】終了デッドライン制約の無線通信システムを説明する図である。
図5】本発明に係る無線通信システムを説明する図である。
図6】本発明に係る無線通信システムを説明する図である。
図7】本発明に係る通信方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
(発明の概要)
災害地等において、画像データを無線送受信機能を具備した複数のカメラから1台の基地局を介してサーバへアップロードすることを考える。被災状況を把握するためにはリアルタイムに複数のカメラ画像をチェックする必要がある。
【0018】
各カメラからのデータを時間スケジューリングして送信した場合は、あるカメラ画像が表示された後に次のカメラ画像が表示されることになる。一方で、複数のカメラ画像を周波数スケジューリングして並列に送信することができれば、1台あたりの送信速度は低下するが、サーバ側で複数のカメラ画像を並列して受信することができる。画像データの符号化方式として例えば、階層符号化を採用すれば、先行して受信した一部のデータから低解像度画像を表示し、データの受信状況に応じて解像度を増加させて最終的に鮮明な画像を得ることができる。また、画像をいくつかのブロックに分割して送信すれば一部のブロックから順に表示することもできる。
【0019】
したがって、このようなリアルタイムアプリケーションでは、データ送信をある時刻までに開始しなければならないという開始デッドライン制約を課した優先スケジューリングが必要とされる。
【0020】
しかしながら、既存の、ある時刻までにすべてのデータ送信を終了しなければならないという終了デッドライン制約を課した優先スケジューリングでは、データ送信の開始時刻は考慮されないため、サーバ側でのデータ受信開始のリアルタイム性を担保できない。
【0021】
本発明では、無線基地局が、一定の時間間隔で、複数の無線端末に対してOFDMAに基づいて無線資源割当を行う無線通信システムにおいて、各無線端末へ割り当てる無線資源量を、EDFスケジューリングやDMスケジューリング等を用い、開始デッドラインの厳しいデータを優先的に時間スケジューリングする。その後、開始デッドライン制約を満たせないデータに対しては周波数スケジューリングを行って並列送信を可能とする。したがって、開始デッドライン制約を担保してリアルタイムにデータ送信を開始することが可能となる。
【0022】
なお、本発明は、無線基地局から無線端末への下り方向のスケジューリングにも無線端末から無線基地局への上り方向のスケジューリングにも適用できる。
下り方向のスケジューリングの場合、無線基地局は自身のバッファ内の下りキュー長、下りデータの優先度、及び下りデータの終了ないし開始デッドラインの情報に基づいてデータ送信のスケジューリングを決定する。
上り方向のスケジューリングの場合、無線端末から無線基地局へ無線端末内のバッファ内の上りキュー長、上りデータの優先度、及び上りデータの終了ないし開始デッドラインの情報を報告させ、無線基地局は報告された情報に基づいて各無線端末からのデータ送信のスケジューリングを決定して、各無線端末へ当該スケジューリングを通知する。
【0023】
(システム構成)
図1は、本実施形態の無線通信システム301の基本構造を説明する図である。無線通信システム301は、1台の無線基地局10と複数台の無線端末20を備える。無線通信システム301は、無線基地局10と無線端末20との間の無線接続が直交周波数分割多元接続(OFDMA:Orthogonal Frequency Division Multiple Access)である。
【0024】
図2は、IEEE 802.11ax規格のOFDMAのRU配置を説明する図である。IEEE 802.11ax規格における最小RUサイズRRU1は26トーンであり、例えば、20MHzチャネルでは最大で9個のRUを割り当てることができる。1ユーザあたり1個のRUを割り当てることが可能であり、割当可能な無線資源量として、RUサイズを26トーン(RU1)、52トーン(RU2)、106トーン(RU4)、242トーン(RU9)から選択できるものとする。各無線端末のデータレートは割り当てられたRUのトーン数およびMCSにより決定される。なお、本実施形態の無線資源割当の機能は無線基地局10に備えられる。
【0025】
(終了デッドライン制約)
まず、図3及び図4を用いて終了デッドライン制約について上り通信を例として説明する。
【0026】
図3は、無線端末20を説明する図である。無線端末20は、無線受信機21、バッファ22、及び無線送信機23を備える。 無線受信機21は、無線基地局10から割り当られたRUサイズを含む無線資源割当情報を受信する。
バッファ22は、入力される上りデータを保管し、無線基地局10から受信した無線資源割当情報をもとにデータを出力する。バッファ22は、フロー毎のキュー長、優先度、および終了デッドラインの情報を取得する。同一のフローであれば、そのデータの終了デッドラインは全て同じである。優先度情報としては例えば、IP(Internet Protocol)ヘッダのToS(Type of Service)値を利用することができる。なお、終了デッドライン制約を有するデータは終了デッドラインを有さないデータとは異なる優先度が設定されている。
無線送信機23は、無線基地局10にバッファ22から出力されるフロー毎のキュー長、優先度、およびフロー毎の終了デッドラインの情報を送信する。
【0027】
図4は、無線基地局10を説明する図である。無線基地局10は、無線受信機11、資源割当計算機12、及び無線送信機13を備える。
無線受信機11は、各無線端末20からキュー長、優先度、および終了デッドラインの情報を受信する。
資源割当計算機12は、各無線端末20から得られた優先度情報をもとに、優先スケジューリングを行う。優先スケジューリングとして任意の方式が適用可能だが、終了デッドライン制約のあるデータに対しては他の優先度のデータに対して完全優先とすることが望ましい。終了デッドライン制約のあるデータ同士のスケジューリングに関しては、DMスケジューリングやEDFスケジューリング等を用いることができる。例えば、各無線端末20から得られたキュー長および終了デッドラインの情報をもとに、デッドラインに近いデータを優先的にスケジューリングする。先にスケジューリングされたデータから順に時間スロットを割り当てる。同時刻の周波数スロットに空きがあれば次にデッドラインに近いデータに周波数スロットを割り当てる。つまり、最もデッドラインに近いデータの送信が終了する時間スロットでは、次にデッドラインに近いデータの送信を開始できる場合がある。
無線送信機13は、資源割当計算機12がスケジューリングし、各無線端末へ割り当てたRUサイズを含む無線資源割当情報を送信する。
【0028】
(開始デッドライン制約)
続いて、図5及び図6を用いて開始デッドライン制約について説明する。
【0029】
図5は、無線端末20を説明する図である。無線端末20は図3の説明に加え、次の機能を有する。
無線受信機21は、無線基地局20から割り当られたRUサイズを含む無線資源割当情報を受信する。
バッファ22は、入力される上りデータを保管し、無線基地局20から受信した無線資源割当情報をもとにデータを出力する。さらに、バッファ22は、フロー毎のキュー長、優先度、および開始デッドラインの情報を取得する。同一のフローであれば、そのデータの開始デッドラインは全て同じである。優先度情報としては例えば、IP(Internet Protocol)ヘッダのToS(Type of Service)値を利用することができる。また、開始デッドラインは、各無線端末20にデータが発生した時刻を基準として送信を開始しなければならない時刻までの期間である。なお、開始デッドライン制約を有するデータは開始デッドラインを有さないデータとは異なる優先度が設定される。
無線送信機23は、無線基地局10にバッファ22から出力されるフロー毎のキュー長、優先度、およびフロー毎の開始デッドラインの情報を送信する。
【0030】
図6は、無線基地局10を説明する図である。無線基地局10は、
自身と前記無線端末の少なくとも一方の、現在のバッファ内のキュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を取得する情報取得部と、
前記キュー長、優先度及び開始デッドラインの情報を用いて、OFDMAに基づく前記無線端末との間のデータ送信のスケジューリングを行う演算部と、
を備えており、
前記演算部の前記スケジューリングは、
前記優先度の情報に基づいて送信するデータについての優先スケジューリングを行うこと、
前記優先スケジューリングでは前記開始デッドラインの制約のあるデータを他のデータより優先させること、
前記開始デッドラインの制約のあるデータ同士のスケジューリングを行う際には、現在の時刻に最も近い前記開始デッドラインを持つデータから順に時間スロットを割り当てること、
1つの前記時間スロットにおける周波数スロットの分割数が1であると仮定して、前記キュー長の情報に基づいて現在の時刻から前記バッファ内の各データの送信開始時刻までの待ち時間を計算すること、
前記バッファ内のデータ毎に前記待ち時間と前記開始デッドラインとを比較すること、及び
前記バッファ内のいずれかのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせない場合、前記バッファ内の全てのデータの前記待ち時間が前記開始デッドラインを満たせるようになるまで前記周波数スロットの分割数を増加すること
であることを特徴とする。
なお、前記情報取得部は、無線受信機11や無線基地局10のバッファ(不図示)からキュー長、優先度、及び開始デッドラインの情報を取得する機能部(不図示)である。前記演算部は、資源割当計算機12である。
【0031】
無線基地局10は図4の説明に加え、次の機能を有する。
無線受信機11は、各無線端末20からキュー長、優先度、および開始デッドライン情報を受信する。
【0032】
資源割当計算機12は、各無線端末20から得られた優先度情報をもとに、優先スケジューリングを行う。開始デッドライン制約のあるデータに対しては他の優先度のデータに対して完全優先とする。開始デッドライン制約のあるデータ同士のスケジューリングに関しては、DMスケジューリングやEDFスケジューリング等を用いることができる。例えば、各無線端末20から得られたキュー長および開始デッドラインの情報をもとに、デッドラインに近いデータを優先的にスケジューリングする。先にスケジューリングされたデータから順に時間スロットを割り当てる。このスケジューリングを以下で「開始デッドライン優先スケジュール」と記載する。初期として、ある時間スロットにおいては1つのデータがすべての周波数スロットを占有すると仮定する。つまり、周波数スロットの分割数を1とし、RUサイズをRU9とする。
【0033】
ここで、図7を用いて資源割当計算機12のスケジューリングを詳細に説明する。
まず、資源割当計算機12は、上記の開始デッドライン優先スケジュールにて各データの送信開始時刻を取得するとともに、キュー長情報およびデータレートから各データを送信するために必要な時間(送信期間)を計算する(ステップS01)。次に、資源割当計算機12は現時刻から各データの送信開始時刻までの待ち時間を計算する(ステップS02)。待ち時間は、自身よりも前にスケジューリングされたデータの送信期間を積算することで求められる。ここで、資源割当計算機12は分割数numDevを1に設定する(ステップS03)。
【0034】
資源割当計算機12は、i番目のデータの待ち時間wとi番目のデータの開始デッドラインdを比較する(ステップS04)。全てのデータについて開始デッドライン制約が満たされていれば(ステップS04にて“True”)分割数を確定する(ステップS05)。一方、少なくとも1つのデータが開始デッドライン制約を満たせない場合(ステップS04にて“False”)、周波数スロットの分割数を増加し、開始デッドライン制約が満たされていないデータに周波数スロットを割り当てる(ステップS06)。
【0035】
資源割当計算機12は、周波数スロットの分割数とその上限値avRUとを比較する(ステップS07)。周波数スロットの分割数が上限値avRU以下の場合(ステップS07にて“False”)、資源割当計算機12は各データの送信期間(送信開始時刻)および待ち時間を再計算する(ステップS09及びS10)。一方、周波数スロットの分割数が上限値avRUより大きい場合(ステップS07にて“True”)、資源割当計算機12はスケジューリング不可と判断する(ステップS08)。
【0036】
[補足]
ステップS01において、スケジューリングに使用されるi番目のデータの開始デッドラインdは、各無線端末からデータの発生時刻を基準とした時間として無線基地局10に通知される。
ステップS06において、分割数の増加は、1ずつ増加させても構わないし、開始デッドライン制約を満たしていないデータの数だけ増加させても構わない。
例えば、分割数が2の場合は、2つのデータに対してRUサイズをRU4とすることができる。分割数が3の場合は、1つのデータに対してRUサイズをRU4、2つのデータに対してRUサイズをRU2とすることができる。分割数が4以上の場合についても、RU1、RU2、RU4のRUサイズを任意に組み合わせることで分割ができる。RUサイズは各データのキュー長に可能な限り比例させることが望ましい。RUサイズの割当は、終了デッドライン制約がある場合にはそれを考慮して行っても構わない。また、データの最低送信ビットレートが決められている場合は、そのビットレート以上となるようにRUサイズを決定することが望ましい。
ステップS08のスケジューリング不可の場合、資源割当計算機12は、例えば、無線端末20に開始デッドライン制約を満たすことができないことを伝えてもよい。その場合、無線端末20は当該データを廃棄してもよいし、他の無線基地局への接続を試みてもよい。
[補足ここまで]
【0037】
無線送信機13は、資源割当計算機12が行ったスケジューリングの結果、すなわち各無線端末へ割り当てたRUサイズ又は開始デッドライン制約を満たせない旨の通知を含む無線資源割当情報を無線端末20へ送信する。
【0038】
(他の実施形態)
上記の実施形態では、上り通信の無線資源割当方式について記載したが、下り通信にも適用できることは明らかである。
上記の実施形態では、IEEE 802.11ax規格に基づく無線通信システムについて記載したが、OFDMAを採用するあらゆる通信システムに適用できることは明らかである。
また、無線基地局10は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10:無線基地局
11:無線受信機
12:資源割当計算機
13:無線送信機
20:無線端末
21:無線受信機
22:バッファ
23:無線送信機
301:無線通信システム
図1
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図7