(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】医薬品用量を調節する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/172 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
A61M5/172 500
(21)【出願番号】P 2021504233
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(86)【国際出願番号】 US2019042974
(87)【国際公開番号】W WO2020023473
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-31
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・モロイ
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502341(JP,A)
【文献】国際公開第2010/079554(WO,A1)
【文献】特開2011-064597(JP,A)
【文献】特開2010-069065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピューティングデバイスを使用して、医薬品用量調節を行う方法であって:
調節サイクルタイム期間を、コンピューティングデバイス
が受信することと;
コンピューティングデバイスが調節サイクルタイム期間内に可能な用量と血糖測定値の潜在的なペアの総数より少ない、用量と血糖測定値のペアの閾値数を、受信することと;
用量と血糖測定値のペアを、コンピューティングデバイス
が受信することと;
用量と血糖測定値のペアを、コンピューティングデバイスが受信することは:
薬剤用量値と薬剤用量時間とを含む用量指標を、コンピューティングデバイスが受信することと;
血糖レベルと測定時間とを含む血糖測定値を、コンピューティングデバイスが受信することと;
用量時間が第1の時間範囲内に生じており、かつ血糖測定値が第2の時間範囲内に生じているかどうかをコンピューティングデバイスが判定することと;
肯定の判定に応答して、用量指標と血糖測定値とを、コンピューティングデバイスが関連付けて、用量と血糖測定値のペアを形成することと;
を含み、
受信した調節サイクルタイム期間に応じて異なる現在の調節サイクルタイム期間内に受信した用量と血糖測定値のペアの総数が、閾値数を満たすかどうかを、コンピューティングデバイス
が判定することと;
閾値数を満たすという肯定の判定に応答して、用量調節が必要かどうかを、調節サイクルタイム期間内に受信した用量と血糖測定値のペアに基づき、コンピューティングデバイス
が判定することと;
コンピューティングデバイス
が用量調節を出力することと
を含む前記方法。
【請求項2】
現在の調節サイクルタイム期間は、用量と血糖測定値のペアを受信する前の、調節サイクルタイム期間に等しい期間を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
現在の調節サイクルタイム期間は、所定の事象によって開始される期間を含む、請求項1
に記載の方法。
【請求項4】
所定の事象は、用量と血糖測定値の最初のペアである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
用量と血糖測定値のペアの閾値数を現在の調節サイクルタイム期間内に満たすことができるかどうかを、コンピューティングデバイス
が判定することと;
否定の判定をした場合には、新規の調節サイクルタイム期間を開始することと
を含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
調節サイクルタイム期間をコンピューティングデバイス
が受信すること、および用量と血糖測定値のペアの閾値数をコンピューティングデバイス
が受信することは、設定値トークンを、コンピューティングデバイスのスキャナによってスキャンすることを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
受信した用量と血糖測定値のペアが、安全な閾値の外側にある薬剤用量の量を含むかどうかを、コンピューティングデバイス
が判定することと;
肯定の判定に応答して、コンピューティングデバイス
が修正警告を発することとをさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
用量と血糖測定値のペアの総数が、調節サイクルタイム期間内の潜在的な血糖測定値の総数の所定の割合より少ないかどうかを、コンピューティングデバイス
が判定することと;
肯定の判定に応答して、警告を出させることと
をさらに含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
所定の割合は、用量と血糖測定値の潜在的なペアの総数の最大3分の1である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
血糖測定値が低血糖の閾値を下回るかどうかを、コンピューティングデバイス
が判定することと;
肯定の判定に応答して、血糖測定値に基づき用量調節をコンピューティングデバイス
が判定することと;
コンピューティングデバイス
が用量調節を出力することと
をさらに含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
血糖測定値が低血糖の閾値を下回るという肯定の判定に応答して、新規の現在の調節サイクルタイム期間をコンピューティングデバイス
が開始することをさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
装置であって:
1つまたはそれ以上のプロセッサと;
1つまたはそれ以上のプロセッサによって実行されたときに、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法を装置に実行させる命令を含む
メモリと
を含む前記装置。
【請求項13】
コンピュータプログラムであって、
コンピュータ装置が実行されたときに、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法を
コンピュータ装置に実行させるコンピュータ読取り可能命令を含む前記コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、薬剤用量を調節するための方法、装置、およびシステムに関する。詳細には、本明細書は、血糖測定スケジュールに対して余裕のある投与レジメンに基づく、薬剤用量の自動推奨に関する。
【背景技術】
【0002】
血糖モニタリングは、糖尿病患者の糖尿病を管理する重要な部分を成す。定期的な血糖モニタリングにより、糖尿病患者は、自らの医薬品レジメン、食事、および運動をより効果的に計画できるようになる。血糖測定の1つのタイプは、空腹時血糖(FBG)測定である。
【0003】
患者の薬剤レジメンの有効性をモニタリングするために、血糖測定は、インスリン用量などの薬剤用量とペアにされることが多い。これにより、患者の血糖レベルに対する薬剤の測定された効果に基づき、患者の薬剤レジメンを調節できるようになる。
【0004】
しかし、状況によっては、たとえば医療用品が不足していたり、単に忘れたりすることにより、糖尿病患者は自らの血糖測定値を定期的に確認できないことがある。これは、糖尿病患者の血糖測定値に基づき治療を推奨する際に、影響を及ぼすことがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様によれば、本明細書は、コンピューティングデバイスを使用して、医薬品用量調節を行う方法であって:調節サイクルタイム期間を、コンピューティングデバイスによって受信することと;用量と血糖測定値のペアの閾値数を、コンピューティングデバイスによって受信することであって、用量と血糖測定値のペアの閾値数は、調節サイクルタイム期間内に可能な用量と血糖測定値の潜在的なペアの総数より少ない、受信することと;用量と血糖測定値のペアを、コンピューティングデバイスによって受信することと;現在の調節サイクルタイム期間内に受信した用量と血糖測定値のペアの総数が、閾値数を満たすかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することであって、現在の調節サイクルタイム期間は、受信した調節サイクルタイム期間に応じて異なる、判定することと;閾値数を満たすという肯定の判定に応答して、用量調節が必要かどうかを、調節サイクルタイム期間内に受信した用量と血糖測定値のペアに基づき、コンピューティングデバイスによって判定することと;コンピューティングデバイスによって用量調節を出力することとを含む方法について説明する。
【0006】
現在の調節サイクルタイム期間は、用量と血糖測定値のペアを受信する前の、調節サイクルタイム期間に等しい期間を含んでもよい。
【0007】
現在の調節サイクルタイム期間は、所定の事象によって開始される期間を含む。所定の事象は、用量と血糖測定値の最初のペアであってもよい。
【0008】
方法はさらに:用量と血糖測定値のペアの閾値数を現在の調節サイクルタイム期間内に満たすことができるかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することと;否定の判定をした場合には、新規の調節サイクルタイム期間を開始することとを含む。
【0009】
調節サイクルタイム期間をコンピューティングデバイスによって受信すること、および用量と血糖測定値のペアの閾値数をコンピューティングデバイスによって受信することは、設定値トークンを、コンピューティングデバイスのスキャナによってスキャンすることを含んでもよい。
【0010】
用量と血糖測定値のペアを、コンピューティングデバイスによって受信することは:薬剤用量値と薬剤用量時間とを含む用量指標を、コンピューティングデバイスによって受信することと;血糖レベルと測定時間とを含む血糖測定値を、コンピューティングデバイスによって受信することと;薬剤用量時間と測定時間が、1つまたはそれ以上の所定の基準を満足するかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することと;肯定の判定に応答して、用量指標と血糖測定値とを、コンピューティングデバイスによって関連付けて、用量と血糖測定値のペアを形成することとを含んでもよい。
【0011】
薬剤用量時間と測定時間が、1つまたはそれ以上の所定の基準を満足するかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することは、用量時間が第1の時間範囲内に生じており、かつ血糖測定値が第2の時間範囲内に生じているかどうかを判定することを含んでもよい。
【0012】
方法はさらに:受信した用量と血糖測定値のペアが、安全な閾値の外側にある薬剤用量の量を含むかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することと;肯定の判定に応答して、コンピューティングデバイスによって修正警告を発することとを含んでもよい。
【0013】
方法はさらに:用量と血糖測定値のペアの総数が、調節サイクルタイム期間内の潜在的な血糖測定値の総数の所定の割合より少ないかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することと;肯定の判定に応答して、警告を出させることとを含んでもよい。所定の割合は、用量と血糖測定値の潜在的なペアの総数の最大3分の1であってもよい。
【0014】
方法はさらに:血糖測定値が低血糖の閾値を下回るかどうかを、コンピューティングデバイスによって判定することと;肯定の判定に応答して、血糖測定値に基づき用量調節をコンピューティングデバイスによって判定することと;コンピューティングデバイスによって用量調節を出力することとを含んでもよい。方法はさらに:血糖測定値が低血糖の閾値を下回るという肯定の判定に応答して、新規の現在の調節サイクルタイム期間をコンピューティングデバイスによって開始することを含んでもよい。
【0015】
第2の態様によれば、本明細書は、装置であって:1つまたはそれ以上のプロセッサと;1つまたはそれ以上のプロセッサによって実行されたときに、本明細書に記載の方法のうちのいずれかを装置に実行させる命令を含むメモリとを含む装置について説明する。
【0016】
第3の態様によれば、本明細書は、コンピュータプログラムであって、コンピュータ装置によって実行されたときに、本明細書に記載の方法のうちのいずれかをコンピューティング装置に実行させるコンピュータ読取り可能命令を含むコンピュータプログラムについて説明する。
【0017】
例示的な実施形態を、添付図面を参照しながら非限定的な例としてここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】薬剤用量を管理するためのシステムの例を示す図である。
【
図2】薬剤用量を管理するための装置の電子システムの概略的な例を示す図である。
【
図3】薬剤用量を調節する例示的な方法を示すフロー図である。
【
図4】完全にコンプライアンス遵守のタイトレーション間隔の例を示す図である。
【
図5】余裕のあるコンプライアンスのタイトレーション間隔の例を示す図である。
【
図6】余裕のあるコンプライアンスのタイトレーション間隔のさらなる例を示す図である。
【
図7】余裕のあるコンプライアンスのタイトレーション間隔の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
概要
状況によっては、糖尿病患者が自らの血糖レベルを毎日検査すると予想するのは妥当ではない。毎日の血糖検査を妨げるいくつかの潜在的な限界が存在することがあり、たとえば以下の事柄を含む:
● おそらく費用が高すぎることによる、ランセットおよび試験紙などの血糖測定用品の不足;
● 病気;
● 失念;
● たとえば病気が原因の、服用に対する恐れ;ならびに/または
● 血糖自己測定(SMBG)機器の利用可能性が異なること
【0020】
こうした状況において、血糖測定レジメンに対する厳密なアドヒアランスは、困難であると証明されることがある。何らかの用量調節が計算される前に、患者は、連続した所定の日数の血糖測定を含む完全な血糖測定サイクルを完了しなくてはならないので、1日に少なくとも1回の血糖測定値を所定の日数(「タイトレーション周期」)にわたって記録するといった厳密な血糖測定レジメンに対するアドヒアランスを守らないことは、結果的に必要な頻度で医薬品用量が調節されないことになってしまう。そのような測定サイクルは、「完全にコンプライアンス遵守のタイトレーション間隔」と呼ぶことができる。
【0021】
この限界に対処するために、血糖測定値を記録し薬剤用量の提案を行うために使用されるユーザデバイスは、余裕のある投与レジメンに基づき薬剤用量の調節を行うように構成することができる。余裕のあるレジメンは、タイトレーション間隔を良好に完了させるために、ユーザがどの程度厳しくユーザ用量計画に従うべきかに関して、所定の規則を含む。所定の規則は、潜在的な用量調節を受けるために、タイトレーション周期によって規定された時間スパンにわたってユーザが収集しなくてはならない薬剤用量と血糖測定値のペアの必要最小数(「許容可能な最小アドヒアランス」)を含む。たとえば、患者は、3日間にわたって用量と血糖測定値のペアを2つ収集しなくてはならず、2つが許容可能な最小アドヒアランスであり、3日間がタイトレーション周期である。余裕のあるアドヒアランス基準を使用する測定サイクルは、「余裕のあるアドヒアランスタイトレーション間隔」と呼ぶことができる。
【0022】
タイトレーション周期は、ユーザ用量調節の最短周期として規定される。タイトレーション周期は、ユーザの医療従事者(HCP)によって選択することができる。いくつかの実施形態では、タイトレーション周期は、日数として規定される。たとえば、タイトレーション周期は、1日以上~7日以下であってもよいが、他の範囲も可能である。タイトレーション周期は、本明細書において、調節サイクルタイム期間および/または用量調節周期とも呼ばれる。ユーザが、タイトレーション周期に等しい期間内に、許容可能な最小アドヒアランスを満たすと、用量調節が計算されることになる。
【0023】
タイトレーション間隔は、ユーザの血糖測定値が評価され潜在的な提案用量の調節が行われる前に、ユーザが同じ薬剤用量を維持している少なくともタイトレーション周期にわたる期間として定義される。提案用量は、前のタイトレーション間隔からのデータに基づき、タイトレーション間隔の開始時に提供される。前のタイトレーション間隔がない場合には、提案用量は、ユーザ用量計画において規定された開始用量である。タイトレーション間隔は、1つまたはそれ以上の所定の事象が発生したことにより、途中で終了してもよい。たとえば、低血糖の血糖測定値が入力されることにより、タイトレーション間隔が途中で終了し、用量調節が行われることになってもよい。
【0024】
こうして、ユーザの傾向に合わせることができるカスタマイズされた自動の用量推奨機能が、ユーザに提供される。新規の用量推奨を実現するために、可能なすべての間隔においてインスリンなどの薬剤の投与が必要とされるわけではない。用量調節周期に応じて、患者アドヒアランス(およびいくつかの実施形態においては潜在的な警告)の要件は適宜調節される。余裕のある投与レジメン条件に応じて提案用量を決定することにより、非アドヒアランスのユーザのための用量調節の周期を長くすることができる。
【0025】
全体的なシステムおよび装置の図
図1は、薬剤用量を管理するためのシステム100の例を示す。
【0026】
システムは、ユーザに関する用量と血糖測定値のペアを受信するように構成されたユーザコンピューティングデバイス102を含む。ユーザデバイスはさらに、受信した用量と血糖測定値のペアが、余裕のある投与レジメンと整合性があるかどうかを確認するように構成される。
【0027】
ユーザデバイス102は、
図2に関して説明する方法を実行するように構成される。この方法は、ユーザデバイス102上で実行しているアプリケーションによって実行することができる。
【0028】
ユーザデバイスは、たとえば:携帯電話もしくはタブレットコンピュータなどのモバイルデバイス;パーソナルコンピュータ;ラップトップ;パーソナルデジタルアシスタント;「スマート」デバイス;および/または専用の用量調節デバイスのうちの任意のものであってもよい。
【0029】
システムはさらに、1つまたはそれ以上の外部コンピューティングデバイス104を含んでもよい。ユーザデバイス102は、用量調節設定値など、余裕のあるアドヒアランスレジメンに関する設定値データを、外部コンピューティングデバイスからネットワークを介して受信してもよい。外部コンピューティングデバイスは、ユーザの医療従事者(HCP)の制御下にあってもよい。
【0030】
システムはさらに、1つまたはそれ以上の薬剤投与デバイス106を含んでもよい。薬剤投与デバイスは、薬剤用量をユーザに投与するように動作可能である。投与された薬剤用量を、薬剤投与デバイス106によって記録し、ユーザデバイス102に送信してもよい。この投与された用量のデータを、ネットワークを介してユーザデバイス102に転送してもよい。代替的にまたは追加的に、投与された用量のデータを、たとえばグラフィカルユーザインターフェースを介して、ユーザデバイス102に手入力してもよい。薬剤投与デバイス106は、注射デバイスの形態であってもよい。
【0031】
システムはさらに、1つまたはそれ以上の血糖測定デバイス108を含んでもよい。血糖測定デバイス108は、ユーザの血糖レベルを検査するように動作可能である。血糖レベルを、血糖測定デバイス108によって記録し、ユーザデバイス102に送信してもよい。この血糖測定データを、ネットワークを介してユーザデバイス102に転送してもよい。代替的にまたは追加的に、血糖測定値を、たとえばグラフィカルユーザインターフェースを介して、ユーザデバイス102に手入力してもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、システムは、1つまたはそれ以上のトークン110を含む。トークン110を、ユーザデバイス102によってスキャンして、設定値データをデバイスに転送することができる。たとえば、トークン110は、ユーザデバイス102のRFIDリーダによってスキャンすることができるRFIDタグを含んでもよい。代替的に、トークン110は、ユーザデバイス102によってスキャンすることができるバーコードを含んでもよい。
【0033】
図2は、ユーザデバイス102の例示的な電子回路を示す。ユーザデバイス102の電子システム200は、プロセッサユニット202を含む。プロセッサユニット202および他のハードウェア構成要素は、システムバス(図示せず)によって接続される。各ハードウェア構成要素を、直接またはインターフェースを介してシステムバスに接続してもよい。電源204は、電子システムに電力を供給するために配置される。
【0034】
プロセッサユニット202は、電子システム200の他のハードウェア構成要素の動作を制御する。プロセッサユニット202は、任意の種類の集積回路であってもよい。プロセッサユニット202は、たとえば汎用プロセッサであってもよい。プロセッサユニット202は、シングルコアデバイスまたはマルチコアデバイスであってもよい。プロセッサユニット202は、中央処理装置(CPU)または汎用プロセッシングユニット(GPU)であってもよい。代替的に、プロセッサユニット202は、より専門的なユニット、たとえばRISCプロセッサ、またはファームウェアが組み込まれたプログラム可能なハードウェアであってもよい。複数のプロセッサを含んでもよい。プロセッサユニット202を、処理手段と呼ぶことができる。
【0035】
電子システム200は、作業メモリまたは揮発性メモリ206を含む。プロセッサユニット202は、データを処理するために揮発性メモリ206にアクセスしてもよく、メモリへのデータの記憶を制御してもよい。揮発性メモリ206は、任意のタイプのRAM、たとえばスタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)であってもよく、またはフラッシュメモリであってもよい。複数の揮発性メモリを含んでもよいが、図では省略されている。
【0036】
電子システムは、不揮発性メモリ208を含む。不揮発性メモリ208は、プロセッサユニットの通常動作を制御するための動作命令210のセットを記憶する。不揮発性メモリ208は、読取り専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、または磁気ドライブメモリなど、任意の種類のメモリであってもよい。他の不揮発性メモリを含んでもよいが、図では省略されている。
【0037】
プロセッサユニット202は、動作命令210の制御下で動作する。動作命令210は、電子システム200のハードウェア構成要素に関するコード(すなわちドライバ)、およびユーザデバイスの基本動作に関するコードを含んでもよい。動作命令210は、不揮発性メモリ208に記憶された1つまたはそれ以上のソフトウェアモジュールを起動させることもできる。一般的に、プロセッサユニット202は、動作命令の実行中に生成されたデータを一時的に記憶するために揮発性メモリ206を使用して、不揮発性メモリ208に恒久的または半恒久的に記憶された動作命令210のうちの1つまたはそれ以上の命令を実行する。動作命令は、プロセッサユニット202によって実行されたときに、本明細書に記載の方法のいずれかをユーザデバイスに実行させるコンピュータ読取り可能命令を含んでもよい。
【0038】
プロセッサユニット202、揮発性メモリ206、および不揮発性メモリ208は、オフチップバスによって接続された別個の集積回路チップとして提供してもよく、または単一の集積回路チップに提供してもよい。プロセッサユニット202、揮発性メモリ206、不揮発性メモリ208を、マイクロコントローラとして提供してもよい。
【0039】
電子システム200は、クロック212を含む。クロック212は、クロック水晶、たとえばクォーツ水晶発振器であってもよい。クロック212は、プロセッサユニット202にクロック信号を提供するように構成された、プロセッサユニット202とは別個の構成要素であってもよい。プロセッサユニット202は、クロック212からの信号に基づき、リアルタイムクロックを提供するように構成される。代替的に、クロック212は、単一の集積回路チップにプロセッサユニット202とともに設けられたクロック水晶であってもよい。
【0040】
電子システム200は、1つまたはそれ以上のネットワークインターフェース214を含む。ネットワークインターフェース214は、1つまたはそれ以上のコンピュータネットワークに対するユーザデバイス102の接続を容易にし、ユーザデバイス102とネットワークの他のメンバとの間で双方向の情報交換を容易にする。これらのネットワークは、インターネット、ローカルエリアネットワーク、またはユーザデバイスがデータセンタおよび/もしくはコンタクトセンタと通信するのに必要な任意の他のネットワークを含んでもよい。ネットワークインターフェース214は、イーサネットアダプタ、Wi-Fiアダプタ、および/またはBluetoothアダプタなどのネットワークインターフェースコントローラを含む。ネットワークインターフェース214は、ネットワーク上でユーザデバイスを識別するための1つまたはそれ以上のネットワークアドレスに関連付けられる。1つまたはそれ以上のネットワークアドレスは、IPアドレス、MACアドレス、および/またはIPXアドレスの形であってもよい。ネットワークの他のメンバは、ユーザデータを収集している医療用デバイス106、108を含んでもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、ユーザのプロセッサユニット202は、本明細書に記載の機能のうちの1つまたはそれ以上を実行するのに充分なほど高性能でなくてもよい。その代わりに、プロセッサユニット202は、プロセッサユニット202にとって利用可能なより高いコンピューティング性能を有する付加的なコンピュータシステムと、ネットワークインターフェースを介して通信するように構成される。プロセッサユニット202は、ユーザデバイスからのデータを付加的なコンピュータシステムに送信することができ、ここでデータは、付加的なコンピュータシステムの付加的なコンピューティング性能を使用して処理することができる。付加的なコンピュータシステムは、この処理の結果を、さらに処理できるようにプロセッサユニットに戻すことができる。付加的なコンピュータシステムは、たとえばリモートコンピュータシステム、分散型コンピュータシステム、またはデータセンタの一部分とすることができる。
【0042】
電子システム200はさらに、ディスプレイ216を含む。ディスプレイ216は、ディスプレイドライバを介してプロセッサユニット202によって操作されて、グラフィカルユーザインターフェースをユーザに提供することができる。ディスプレイ216は、LCDスクリーンの形であってもよい。ディスプレイ216は、代替的に、LEDスクリーンの形であってもよい。ディスプレイ216は、ユーザデバイス102に関するステータス情報をユーザに提供する。このようなステータス情報の例は、ユーザデバイスがどのモードであるか、バッテリ状態、メモリ状態、ネットワーク接続状態、および/または外部電源が接続されているかどうかを含む。ディスプレイ216は、ユーザの医薬品スケジュールに関するリマインダをユーザに提供してもよい。たとえば、ユーザ医薬品用量の投与がいつ予定されているかを示すメッセージを、ディスプレイ216に提供してもよい。
【0043】
電子システム200は、スピーカ218を含んでもよい。スピーカ218は、オーディオ変換器の一例である。スピーカ218は、話し言葉の形、またはより一般的な任意の音の形でオーディオ出力を提供するように動作可能である。スピーカ218は、ユーザデバイス102および/または医療用デバイス106、108の使用に関する可聴フィードバックをユーザに提供してもよい。この一例は、医療用デバイス106に含まれた医薬品がデバイス106においてなくなりかけていることを示す可聴インジケーションである。いくつかの実施形態では、スピーカ218は、可聴リマインダをユーザに提供してもよい。たとえば、スピーカ218は、予定された医薬品の用量を摂取するように、または血糖測定値を記録するように、ユーザにリマインドしてもよい。
【0044】
電子システム200はさらに、1つまたはそれ以上の入力インターフェース220を含む。入力インターフェース220によって、ユーザはユーザデバイス102にデータを入力できるようになる。入力インターフェースの例は、タッチスクリーン、キーボード、数字パッド、1つまたはそれ以上の専用ボタン、および/または音声認識エンジンを含む。
【0045】
ユーザデバイスは、いくつかの実施形態では、近距離無線通信トランシーバなどのリーダ222を含んでもよい。次いで、RFIDタグなどの近距離無線通信タグが、ユーザデバイス102によって読み取られる。代替的にまたは追加的に、リーダ222は、クイックレスポンス(QR)コードリーダ、バーコードリーダ、または他の光学コードリーダを含んでもよい。リーダ222によって、ユーザが使用している医薬品を登録できるようになる。たとえば、カートリッジ、自動注射器(AI)、PFS、および/または錠剤を、リーダ222によって読取り可能なRFIDタグおよび/または光学コードとともに供給してもよい。これにより、ユーザに提供された医薬品の量または医薬品のバッチナンバーといった、ユーザの医薬品在庫に関する情報を提供することができる。さらに、リーダ222を使用して、トークン110から設定値を受信することができる。
【0046】
方法のフロー図
図3は、薬剤用量を調節する例示的な方法のフロー図を示す。
【0047】
作動方法3.1において、ユーザコンピューティングデバイス102は、用量調節設定値を受信する。設定値は、調節サイクルタイム期間(すなわちタイトレーション間隔)を含む用量調節周期と、用量と血糖測定値のペアの閾値数を含むユーザアドヒアランス条件とを含む。ユーザアドヒアランス条件は、用量と血糖測定値の1つのペアと、タイトレーション周期との間で、許容可能な最小アドヒアランスを規定する。言い換えれば、ユーザデバイス102は、潜在的な用量調節を受けるために、調節サイクルタイム期間によって規定された時間スパンにわたってユーザが収集すべき用量と血糖測定値のペアの最小数を受信する。
【0048】
たとえば、ユーザは、3日間にわたって用量と血糖測定値のペアを2つ収集すべきであり、2つが許容可能な最小アドヒアランス(すなわち、用量と血糖測定値のペアの閾値数)であり、3日間がタイトレーション周期(すなわち、調節サイクルタイム期間)である。全体的に、余裕のある投与レジメンについては、許容可能な最小アドヒアランスは、タイトレーション周期において可能な用量と血糖測定値のペアの最大数より少ない。
【0049】
いくつかの実施形態では、ユーザコンピューティングデバイスはさらに、用量調節設定値を受信する。さらなる設定値は、以下の項目のうちの1つまたはそれ以上を含んでもよい:FBG範囲および用量調節(固定単位および/またはパーセント);低血糖/高血糖のレベルの規定;血糖計算法(すなわちタイトレーションの中央値または平均値);開始用量、たとえば0以上~500以下の単位;ユーザにとっての通常用量時間(UDT);および/または最大用量。いくつかの実施形態では、これらのさらなる用量調節設定値データは、ユーザデバイスに事前ロードされる。代替的に、これらのさらなる用量調節設定値データは、設定値データと同じやり方でユーザデバイス102によって受信される。
【0050】
設定値はさらに、調節サイクルタイム期間内の用量と血糖測定値の潜在的なペアの総数の所定の割合を含んでもよい。記録されたペアの数が最小アドヒアランス閾値を上回っていても、調節サイクルタイム期間内の用量と血糖測定値のペアの数をユーザ用量が満たしていない場合に警告を出すために、所定の割合を使用することができる。いくつかの実施形態では、警告は、4日より長いタイトレーション周期に対してのみ出される。いくつかの実施形態では、所定の割合は、用量と血糖測定値の潜在的なペアの総数の最大3分の1である。
【0051】
ユーザデバイス102は、任意の好適な手段を介して設定値を受信することができる。いくつかの実施形態では、ユーザデバイス102は、ユーザコンピューティングデバイス102上のグラフィカルユーザインターフェースを介して、用量調節設定値を直接受信する。ユーザは、ユーザコンピューティングデバイス102に関連する入力デバイスを使用して、用量調節設定値を手入力することができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、用量調節設定値は、外部コンピューティングデバイス104などの外部ソースから、ネットワークを介してユーザデバイス102に送信される。外部コンピューティングデバイス104は、医療従事者の制御下にあってもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、ユーザコンピューティングデバイス102を使用してトークン110をスキャンすることができ、このトークン110から、ユーザコンピューティングデバイス102は用量調節設定値を受信する。トークン110は、ユーザの医師など、医療従事者が提供してもよい。医療従事者は、ユーザがユーザデバイス102を用いてトークン110をスキャンする前に、ユーザに関する特定の設定値でトークン110を構成することができる。いくつかの実施形態では、トークンは、ユーザコンピューティングデバイス102上の撮像センサによってスキャンすることができるクイックレスポンス(QR)コードを含む。QRコードを、たとえば医療従事者によってユーザに提供される情報に印刷してもよい。いくつかの実施形態では、トークン110は、用量調節設定値を含む無線周波数識別(RFID)タグを含み、このタグをユーザデバイスのRFIDタグリーダによってスキャンして設定値を受信することができる。
【0054】
作動方法3.2において、ユーザデバイスは、用量と血糖測定値のペアを受信する。血糖測定値は、空腹時血糖測定値であってもよいが、他の例も考えられる。
【0055】
ユーザデバイスは、血糖測定値、薬剤用量値、およびいくつかの実施形態では、暫定的な低血糖値を受信するように構成される。これらの値は、いつどのようにこれらの値が入力、記憶、および/または編集されるかに関する1つまたはそれ以上の規則に関連付けることができる。受信した薬剤用量(すなわち、薬剤用量指標)は、薬剤用量値(すなわち、ユーザによって投与される薬剤の量)と、薬剤用量時間とを含んでもよい。同様に、血糖測定値は、血糖レベルと測定時間(すなわち、ユーザが測定値を取得した時間)とを含んでもよい。
【0056】
用量と血糖値のペアは、ユーザデバイスのグラフィカルユーザインターフェースを介して、ユーザが手入力してもよい。たとえば、ユーザデバイス102は、タッチスクリーンディスプレイを有してもよく、これを介して、ユーザは、投与された用量のデータおよび/または血糖測定データを入力することができる。ユーザデバイス102は、数字パッドまたはキーボードなどの入力手段を含んでもよく、これらを介して、ユーザはデータを入力することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、ユーザデバイス102は、投与された用量のデータを、薬剤投与デバイス106からネットワークインターフェースを介して受信するように構成される。ユーザデバイス102を、ワイヤレスネットワークなどのネットワークを介して、薬剤投与デバイス106に接続してもよい。ワイヤレスネットワークは、たとえばWi-Fiネットワークおよび/またはBluetooth(商標)ネットワークであってもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、ユーザデバイス102は、血糖測定データを、血糖測定デバイス108からネットワークインターフェースを介して受信するように構成される。ユーザデバイス102を、ワイヤレスネットワークなどのネットワークを介して、血糖測定デバイス108に接続してもよい。ワイヤレスネットワークは、たとえばWi-Fiネットワークおよび/またはBluetooth(商標)ネットワークであってもよい。
【0059】
用量と血糖測定のペアは、いくつかの実施形態では、単一の入力として一緒に受信してもよい。他の実施形態では、薬剤用量と血糖測定値は、コンピューティングデバイスによって個別に受信される。ユーザは、薬剤用量と血糖測定値を手動で関連付けて、ペアを作り出してもよい。いくつかの実施形態では、コンピューティングデバイスは、受信した薬剤用量と血糖測定値とを自動的に関連付けて、1つまたはそれ以上の所定の基準に基づきペアを作り出すように構成することができる。
【0060】
たとえば、所定の基準は、薬剤用量時間と測定時間に関係してもよい。たとえば、薬剤用量時間と測定時間が所定の時間範囲内に生じている場合には、これらを関連付けてペアを形成してもよい。薬剤用量が、第1の時間範囲内に有効に受信され、血糖測定値が、第2の時間範囲内に受信された場合には、薬剤用量と血糖測定値を関連付けてペアを形成する。第2の時間範囲は、第1の時間範囲に応じて異なってもよい。たとえば、以下で規定するように、有効に受信された薬剤用量に続き、第2の時間範囲は、血糖測定値を有効に入力できる時間範囲であってもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、「通常用量時間」(UDT)をユーザに提供してもよい。UDTは、ユーザ用量計画において規定された時刻であって、その前後に、ユーザが用量提案をユーザデバイス102から取得し、薬剤の用量を摂取し、ユーザデバイス102に用量を記録するべき時刻を規定する。UDTは、毎日同じであってもよい。代替的に、UDTは日ごとに異なってもよい。UDTを中心としてUDT窓が規定され、これは、ユーザが薬剤用量を記録することができる各日の時間窓を規定する。たとえば、UDT窓は、UDTを中心とした時間範囲を含んでもよい。半分の窓時間「W」を規定してもよく、それにより、UDT窓は、第1の時間UDT-Wで始まり、第2の時間UDT+Wで終わる。いくつかの実施形態では、Wは3時間に等しく、UDTを中心として6時間のUDT窓が提供される。
【0062】
いくつかの実施形態では、1日につき1回の薬剤用量しか記録することが許可されない。各用量値を、用量が投与された時間に関連付けてもよい。通常用量時間窓の間に、デバイスは、用量値と用量が投与された時間とを受信してもよい。いくつかの実施形態では、1つの通常用量窓につき1つの用量値しか許可されない。いくつかの実施形態では、用量値は、用量時間窓内にしか許可しなくてもよい。たとえば、用量投与時間は、有効な用量値とみなされるために、ある時間範囲内になくてはならない。時間範囲は、1つまたはそれ以上の以下の事象によって、その最も早い時間を区切ることができる:
● 現在の通常用量時間窓の開始;
● 前の通常用量時間から、用量提案窓の割合を引いた時間。いくつかの実施形態では、この割合は、用量窓の半分、たとえば6時間の用量窓のうち3時間である;
● 前の血糖測定時間;および/または
● 前の用量計画の有効化時間。
これらの事象のうち最新の事象を使用して、範囲の最も早い時間を規定することができる。範囲の最も遅い時間は、現在時間(すなわち、用量値が受信された時間)によって区切ることができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、用量値は、1つまたはそれ以上の編集規則に関連付けられる。編集規則は、いつどのように用量値を編集できるかを指定する。たとえば、用量値は、用量値の受信から現在の通常用量時間窓の終了まで;用量値の受信から次の血糖測定の時間まで;および/または用量値の受信から次の用量計画の有効化の時間までのうちの1つまたはそれ以上の時間窓内でのみ、編集してもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、1日につき1回の血糖測定しか許可されない。血糖測定は、1日のうちの測定時間窓内にしか許可しなくてもよい。たとえば、測定時間は、有効な血糖測定値とみなされるために、ある時間範囲内になくてはならない。時間範囲は、1つまたはそれ以上の以下の事象によって、その最も早い時間を区切ることができる:
● 前のUDT+Wの時間;
● 前の用量時間窓の終了;
● 前の薬剤用量時間;
● 前の用量計画の有効化時間;および/または
● 当日のための繰り越し時間。
これらの事象のうち最新の事象を使用して、範囲の最も早い時間を規定することができる。範囲の最も遅い時間は、現在時間(すなわち、血糖測定値が受信された時間)によって区切ることができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、血糖測定値は、1つまたはそれ以上の編集規則に関連付けられる。編集規則は、いつどのように血糖測定値を編集できるかを指定する。たとえば、以下の規則のうちの1つまたはそれ以上を適用してもよい:
● 血糖測定値が低血糖である場合には、確定後にそれをユーザによって編集することはできない;かつ/または
● 血糖測定値が低血糖でない場合には、所定の期間内にそれを編集することができる。所定の期間は、測定値の受信後から、以下の事象、すなわち次の用量値が受信される時間;次の通常用量時間窓(すなわち、次のUDT+W)の終了;および/または当日のための繰り越し時間のうちの1つまたはそれ以上が生じるまでの期間を含んでもよい。これらの事象のうち最も早い事象が、所定の期間を規定してもよい。
【0066】
非アドヒアランス期間は、用量と血糖測定値のペアをユーザがユーザデバイスを用いて記録していない期間である。非アドヒアランス期間を判定するために、以下の基準、すなわち血糖測定値の欠如、薬剤用量の欠如、および/またはコンピューティングデバイスによって提供された提案用量とは異なる薬剤用量のうちの1つまたはそれ以上を使用してもよい。
【0067】
血糖測定値の欠如が生じたと判定されるのは、薬剤用量の受信後および次のUDT窓の終了後(すなわち、タイトレーション日(N-1)の用量とN日目のUDT窓の終了との間)、ならびに/または次の薬剤用量(すなわち、N日目の用量)が受信される前に、血糖測定値が受信されないときである。
【0068】
用量の欠如が生じたと判定されるのは、当日の薬剤用量がUDT窓の終了時までに入力されていない場合(すなわち、N日目について薬剤用量が記録されていない状態で、N日目のUDT+Wに到達した場合)である。
【0069】
いくつかの実施形態では、ユーザにとって薬剤用量の安全範囲を示す安全な閾値が提供される。たとえば、安全な閾値は、ユーザにとって安全な最大用量および/または最小用量を含んでもよい。受信した用量と血糖測定値のペアが、安全な閾値の外側にある薬剤用量の量を含む場合には、修正警告をユーザに発することができる。修正警告は、誤った用量の修正のしかたに関する命令を含んでもよい。修正警告は、ユーザの医療従事者に連絡するための命令を含んでもよい。いくつかの実施形態では、修正警告は、ユーザの医療従事者にも送信してよい。
【0070】
いくつかの実施形態では、コンピューティングデバイスは、1つまたはそれ以上の暫定的な低血糖の血糖測定値を受信することができる。低血糖の血糖測定値は、ユーザ用量計画によって規定された低血糖の閾値の、またはその閾値を下回る、ユーザによって記録された血糖読取り値である。いくつかの実施形態では、ユーザは、暫定的な低血糖の血糖測定値を希望する数だけ入力してもよい。これらの低血糖の血糖測定値は、受信され、確定されると、ユーザによって編集することができない。
【0071】
作動方法3.3において、ユーザデバイスは、用量と血糖測定値のペアの総数が、現在の調節サイクルタイム期間の閾値を満たすかどうかを判定する。
【0072】
現在の調節サイクルタイム期間は、様々なやり方で規定することができる。いくつかの実施形態では、「ローリング」調節サイクルタイム期間が使用される。代替的に、「固定」調節サイクルタイム期間を使用することができる。
【0073】
ローリング調節サイクルタイム期間の設定時には、コンピューティングデバイスは、最新の用量と血糖測定値のペアを受信する前の、調節サイクルタイム期間に等しい期間に受信した用量と血糖測定値のペアの総数が、閾値を満たすかどうかを確認する。言い換えれば、現在の調節サイクルタイム期間は、現在時間より前の調節サイクルタイムから現在時間までの期間を含む。いくつかの実施形態では、ローリング調節サイクルタイム期間は、タイトレーション間隔の開始後、所定の期間(たとえば、タイトレーション周期)後まで開始されない。
【0074】
固定時間の調節サイクルタイム期間の設定時には、所定の事象が、現在の調節サイクルタイム期間を開始させる。たとえば、用量と血糖測定値の最初のペアを受信したことにより、第1の現在の調節サイクルタイム期間を開始してもよい。用量調節は、固定時間の調節サイクルタイム期間が経過するまで実行されない。
【0075】
固定時間の調節サイクルタイム期間を使用するいくつかの実施形態では、ユーザデバイス102は、用量と血糖測定値のペアの閾値数を現在の調節サイクルタイム期間内に満たすことができるかどうかを判定する。閾値数を、現在の調節サイクルタイム期間内に満たすことができない場合には、新規の調節サイクルタイム期間が開始される。たとえば、タイトレーション周期が5日であり、最小アドヒアランス閾値が3つのペアである。タイトレーション間隔の開始後、第1のペアが第2日から第3日にわたって記録される。第3日から第4日にわたってペアが記録されない。この場合、現在の調節サイクルタイム期間内にあと1つのペアしか記録できないので、ユーザデバイスは、現在の調節サイクルタイム期間内に閾値数である3つのペアを満足するのは不可能であると判定する。したがって、新規の調節サイクルタイム期間が開始される。
【0076】
いくつかの実施形態では、用量調節が出力された後、コンピューティングデバイスは、新規の調節サイクルタイム期間/タイトレーション間隔を開始する。柔軟なアドヒアランス条件であることから、用量の欠如および/または血糖測定値の欠如によって、新規の調節サイクルタイム期間/タイトレーション間隔が開始されることにはならない。
【0077】
新規の用量計画が有効にされる場合には、現在のタイトレーション間隔が終了してもよく、新規のタイトレーション間隔が新規の用量計画とともに開始される。UDT窓内にある間に用量計画が有効にされた場合には、新規のタイトレーション間隔が即座に始まってもよい。UDT窓外で用量計画が有効にされた場合には、新規のタイトレーション間隔は、有効化後の次のタイトレーション日に開始される。
【0078】
タイトレーション間隔の例は、
図4~
図7を参照しながら以下でより詳細に示される。
【0079】
いくつかの実施形態では、ユーザデバイスはまた、用量と血糖測定値のペアの総数が、調節サイクルタイム期間内の潜在的な血糖測定値の総数の所定の割合より少ないかどうかを判定し;肯定の判定に応答して、警告を出させてもよい。
【0080】
作動方法3.4において、コンピューティングデバイスは、用量調節が必要かどうかを、用量と血糖測定値のペアに基づき判定する。
【0081】
所定の事象のうちの1つまたはそれ以上によって、タイトレーション間隔/現在の調節サイクルタイム期間を終了することができ、用量調節が行われることになる。そのような事象の1つは、タイトレーション間隔が良好に完了することである。血糖測定値は、完了したばかりのタイトレーション間隔から収集される。平均値またはタイトレーション中央値を使用して、用量調節を検索するための血糖値が導き出される。いくつかの実施形態では、ゼロ単位の調節が可能であることに留意すべきである。いくつかの実施形態では、低血糖の血糖測定値によっても、タイトレーション間隔が終了してもよい。低血糖の血糖測定値自体を使用して、用量調節が検索される。複数の低血糖の血糖測定値は、用量調節に対して非累積的な影響を有し、最低値のみが使用される。
【0082】
用量調節は、所定の規則のセットに基づき判定される。これらの規則は、たとえばユーザの医療従事者からユーザデバイスによって受信されて、これらの規則を特定のユーザに合わせられるようにしてもよい。用量調節は、ユーザの薬剤用量を増加/減少させるための単位数として提供してもよい。用量調節は、状況によっては、ゼロ単位であってもよい。
【0083】
いくつかの実施形態では、調節済み用量は、用量提案の単位調節として計算される。特定の血糖測定値向けの用量計画が単位調節(たとえば、+2単位または-3単位)を必要とする場合、この調節がユーザデバイス102を介してユーザに対して出力される。調節は、前のタイトレーション間隔の開始時に提案された用量(すなわち、最後の用量提案)から行われる。
【0084】
いくつかの実施形態では、代替的にまたは追加的に、調節済み用量は、用量提案のパーセント調節として計算される。結果的に得られる血糖測定値向けの用量計画が、パーセント調節(たとえば、+10%または-20%)を必要とする場合、調節は最後の用量提案に適用される。用量調節は、最も近い単位まで切り捨てられる。例示的な説明として:5.8単位は、切り捨てられて5単位になり;5.1は切り捨てられて5単位になり;-5.1は切り捨てられて-6単位になり;かつ/または-5.8は切り捨てられて-6単位になる。
【0085】
いくつかの実施形態では、パーセントの用量調節は常に、少なくとも1単位分、用量提案を調節することになる。たとえば:最後の用量提案5単位が、+10%分調節される場合には、新規の用量提案は6単位であり;最後の用量提案0単位が、1%分調節される場合には、新規の用量提案は1単位であり;かつ/または最後の用量提案5単位が、-1%分調節される場合には、新規の用量提案は4単位である。
【0086】
提案用量は、用量計画によって設定された最大用量を超えなくてもよい。たとえば、用量調節計算により、薬剤用量が、用量計画によって設定された最大用量より多くなるように調節されるべきであることが示される場合には、用量調節は、その最大用量になる調節を上限とする。
【0087】
用量計画には、有効期限があってもよい。用量計画の有効期限に到達すると、ユーザは、用量調節を得るためにユーザデバイス102を使用することができなくなる。いくつかの実施形態では、用量計画の終わりに達したとき、自動通知を生成してもよい。自動通知は、たとえば、ユーザの医療従事者に連絡して用量計画を更新するようユーザに要求してもよく、かつ/またはユーザの医療従事者の元に行くようユーザに知らせてもよい。
【0088】
作動方法3.5において、調節済み薬剤用量が出力される。用量は、デバイスのディスプレイを介して出力される。次いでユーザは、用量を薬剤送達デバイスに手入力することができ、それにより薬剤送達デバイスは、ユーザによって使用されるときに調節済み用量を提供することになる。
【0089】
いくつかの実施形態では、デバイスは、ネットワークインターフェースを介して、調節済み用量を薬剤送達デバイスに出力してもよい。たとえば、調節済み用量は、Wi-FiまたはBluetoothなどのワイヤレスネットワークを介して、デバイスから薬剤送達デバイスに送信される。調節済み用量を受信したことに応答して、薬剤送達デバイスは、自動的に用量設定値を調節することができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、用量調節が必要であると判定され、使用されない期間が発生する場合には、新規の用量推奨が、次の可能なUDTにおいてなお行われる。たとえば、許容可能な最小アドヒアランスが5つのペア、およびタイトレーション周期が7日に設定されている場合には:
● 月曜日朝に有効化。タイトレーション間隔を開始する。
● ペア1 - 月曜日夜の用量、火曜日朝のFBG。
● ペア2 - 火曜日夜の用量、水曜日朝のFBG。
● ペア3 - 水曜日夜の用量、木曜日朝のFBG。
● ペア4 - 木曜日夜の用量、金曜日朝のFBG。
● ペア5 - 金曜日夜の用量、土曜日朝のFBG。
● 土曜日夜、UDT内でアプリを開く。タイトレーション間隔の開始から7日経過していないので、用量調節はなし。用量は摂取されず。
● 日曜日夜、UDT内でアプリを開く。タイトレーション間隔の開始から7日経過していないので、用量調節はなし。用量は摂取されず。
● 数週間にわたりアプリの使用なし。タイトレーション間隔内で7日間にわたって5つのペアが収集されたので、UDT窓内で次回アプリが開かれたとき、新規の用量推奨が行われる。
【0091】
図4は、完全にコンプライアンス遵守のタイトレーション間隔の例を示す。完全にコンプライアンス遵守のタイトレーション間隔400では、用量と血糖測定値の1つのペア402が、1日ごとに、タイトレーション周期404に等しい日数にわたって記録される。示された例では、タイトレーション周期は3日に設定され、それによりタイトレーション間隔を完了するために用量と血糖測定値の3つのペア402a、402b、402cが収集される。しかし、タイトレーション周期404は、任意の好適な期間であってもよい。用量と血糖測定値の第3のペア402cを収集すると、ユーザデバイスは、医薬品用量の調節が必要かどうかを判定し、調節済み医薬品用量406を出力する。次いで、新規のタイトレーション間隔が開始される408。
【0092】
図5は、余裕のある投与レジメンのタイトレーション間隔500の例を示す。この例では、タイトレーション周期504は3日であり、最小アドヒアランス閾値は2つの血糖測定値である。しかし、タイトレーション周期504は、任意の好適な期間とすることができ、最小アドヒアランス閾値は、タイトレーション周期において可能なコンプライアンス遵守のペアの最大数より少ない任意の数とすることができる。
【0093】
タイトレーション間隔500の開始に続き、用量と血糖測定値の第1のペア502aが、タイトレーション間隔の第1日から第2日にわたって記録される。第2の用量510が、タイトレーション間隔の第2日に記録されるが、ペアになることができる対応する血糖測定値は記録されない。第3の用量が、タイトレーション間隔の第3日に記録される。その後、第2の血糖測定値が記録され(この例では、タイトレーション間隔の4日目)、この血糖測定値が第3の用量とペアになり、用量と血糖測定値の第2のペア502bが作り出される。タイトレーション周期504に等しい期間内で最小アドヒアランス閾値(この場合には2つのペア)が満たされているので、コンピューティングデバイスは、用量調節が必要かどうかを判定する。次いで、用量調節506が出力される。新規のタイトレーション間隔508が、4日目に開始される。したがって、タイトレーション間隔500は3日間である。
【0094】
いくつかの実施形態では、タイトレーション間隔500は、最小アドヒアランス閾値が満たされたとき終了する。たとえば、
図5の例の第2の用量510の後に、それとペアになることができる血糖測定値があれば、タイトレーション間隔500は、タイトレーション周期504に等しい期間が経過するのを待つことなく、タイトレーション間隔の2日目に終了することになる。したがって、新規のタイトレーション間隔508は、2日目に開始される。
【0095】
代替的に、いくつかの実施形態では、タイトレーション間隔500は、タイトレーション周期504に少なくとも等しい期間が経過してからしか終了しなくてもよい。たとえば、
図5の例の第2の用量510の後に、それとペアになることができる血糖測定値があったとしても、タイトレーション周期504に等しい期間(すなわち、タイトレーション間隔の開始から3日)が経過するまで用量調節506は行われない。
【0096】
図6は、余裕のある投与レジメンのタイトレーション間隔600のさらなる例を示す。この例において、タイトレーション周期604は、この場合も3日であり、最小アドヒアランス閾値は2つの血糖測定値である。この例では、ローリング調節サイクルタイム期間が使用される。
【0097】
タイトレーション間隔の開始に続き、第1の血糖測定値610が、タイトレーション間隔の2日目にコンピューティングデバイスによって受信される。しかし、この血糖測定値とペアになることができる用量が記録されていない。次いで、第1の薬剤用量612が、第1の血糖測定値610の後の時点で2日目に記録される。第1の用量612とペアになることができる血糖測定値は記録されない。
【0098】
その後、アドヒアランスな第1のペア602aが、タイトレーション間隔の3日目から4日目にわたって記録される。次いで、ユーザデバイス102は、タイトレーション周期604(この例では3日)に等しい前の日数にわたって最小アドヒアランス閾値(この場合には2つのペア)が満たされているかどうかを確認する。この例では、前のペアが記録されていないので、最小アドヒアランス閾値が満たされていない。したがって、用量調節は4日目には実行されない。
【0099】
アドヒアランスな第2のペア602bが、タイトレーション間隔600の3日目から4日目にわたって記録される。ユーザデバイス102は、タイトレーション周期604(この例では3日)に等しい前の日数にわたって最小アドヒアランス閾値(この場合には2つのペア)が満たされているかどうかを確認する。この例では、アドヒアランスな第1のペア602aがこの期間内に記録されているので、最小アドヒアランス閾値が満たされる。したがって、用量調節606が5日目に判定される。次いで、新規のタイトレーション間隔608が開始される。
【0100】
図7は、余裕のあるコンプライアンスのタイトレーション間隔の別の例を示す。この例において、タイトレーション周期704は、この場合も3日であり、最小アドヒアランス閾値は2つの血糖測定値である。
【0101】
タイトレーション間隔700の開始に続き、用量と血糖測定値の第1のペア702aが、タイトレーション間隔700の第3日から第4日にわたって記録される。次いで、ユーザデバイス102は、タイトレーション周期704(この例では3日)に等しい前の日数にわたって最小アドヒアランス閾値(この場合には2つのペア)が満たされているかどうかを確認する。この例では、前のペアが記録されていないので、最小アドヒアランス閾値が満たされていない。したがって、用量調節は4日目には実行されない。
【0102】
用量と血糖測定値の第2のペア702bが、タイトレーション間隔700の第7日から第8日にわたって記録される。次いで、ユーザデバイス102は、タイトレーション周期704に等しい前の日数にわたって最小アドヒアランス閾値が満たされているかどうかを確認する。この例では、記録された第1のペア702aと第2のペア702bとの間に、3日間の非アドヒアランスな日があるので、最小アドヒアランス閾値は満たされていない。したがって、用量調節は8日目には実行されない。
【0103】
アドヒアランスな第3のペア702cが、タイトレーション間隔700の8日目から9日目にわたって記録される。ユーザデバイス102は、タイトレーション周期704に等しい前の日数にわたって最小アドヒアランス閾値が満たされているかどうかを確認する。この例では、アドヒアランスな第2のペア702bがこの期間内に記録されているので、最小アドヒアランス閾値が満たされる。したがって、用量調節706が9日目に判定される。次いで、新規のタイトレーション間隔708が開始される。
【0104】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では同義的に用いられ、1つもしくはそれ以上の活性医薬成分またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、場合により薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬製剤を記述する。活性医薬成分(「API」)とは、最広義には、ヒトまたは動物に対して生物学的効果を有する化学構造体のことである。薬理学では、薬剤または医薬は、疾患の治療、治癒、予防、または診断に使用されるか、さもなければ身体的または精神的なウェルビーイングを向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限定された継続期間で、または慢性障害では定期的に使用可能である。
【0105】
以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つのAPIまたはその組合せを含みうる。APIの例としては、500Da以下の分子量を有する低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが挙げられうる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。1つまたはそれ以上の薬物の混合物も企図される。
【0106】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他の硬性もしくは可撓性のベッセルでありうる。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、投与される医薬製剤の2つ以上の成分(たとえば、APIと希釈剤、または2つの異なる薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジでありうるか、またはそれを含みうる。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0107】
本明細書に記載の薬物送達デバイスに含まれる薬物または薬剤は、多くの異なるタイプの医学的障害の治療および/または予防のために使用可能である。障害の例としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。障害のさらなる例は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。APIおよび薬物の例は、ローテリステ2014年(Rote Liste 2014)(たとえば、限定されるものではないがメイングループ12(抗糖尿病薬剤)または86(オンコロジー薬剤))やメルク・インデックス第15版(Merck Index,15th edition)などのハンドブックに記載されているものである。
【0108】
1型もしくは2型糖尿病または1型もしくは2型糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、はそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アナログ」および「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドに存在する少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失および/または交換によりおよび/または少なくとも1つのアミノ酸残基の付加により天然に存在するペプチドの構造たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導可能な分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換アミノ酸残基は、コード可能アミノ酸残基または他の天然に存在する残基または純合成アミノ酸残基のどれかでありうる。インスリンアナログは、「インスリンレセプターリガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドの構造から形式的に誘導可能な分子構造、たとえば、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば脂肪酸)がアミノ酸の1つまたはそれ以上に結合したヒトインスリンの分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然に存在するペプチドに存在する1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失し、および/または非コード可能アミノ酸を含めて他のアミノ酸によって置き換えられ、または天然に存在するペプチドに非コード可能なものを含めてアミノ酸が付加される。
【0109】
インスリンアナログの例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28~B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0110】
インスリン誘導体の例は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、レベミル(Levemir)(登録商標));B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、トレシーバ(Tresiba)(登録商標));B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0111】
GLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストの例は、たとえば、リキシセナチド(リキスミア(Lyxumia)(登録商標))、エキセナチド(エキセンジン-4、バイエッタ(Byetta)(登録商標)、ビデュリオン(Bydureon)(登録商標)、ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(ビクトーザ(Victoza)(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(シンクリア(Syncria)(登録商標))、デュラグルチド(トルリシティ(Trulicity)(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0112】
オリゴヌクレオチドの例は、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセンナトリウム(キナムロ(Kynamro)(登録商標))である。
【0113】
DPP4阻害剤の例は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0114】
ホルモンの例としては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0115】
多糖の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0116】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体でありうる。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体でありうる。抗体という用語は、4価二重特異的タンデムイムノグロブリン(TBTI)および/またはクロスオーバー結合領域配向を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗原結合分子も含む。
【0117】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含みうるが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本開示に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、四重特異的および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、1価または多価抗体フラグメント、たとえば、2価、3価、4価および多価の抗体、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0118】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与しうるか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼしうる。
【0119】
抗体の例は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0120】
本明細書に記載のいずれのAPIの薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで薬物または薬剤に使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。
【0121】
本明細書に記載のAPI、公式、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または除去)は、本開示の完全な範囲および趣旨から逸脱することなく行うことができ、本発明の完全な範囲および趣旨は、そうした修正、およびあらゆるその等価物を包含することを、当業者は理解するであろう。