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特許7393494粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20231129BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231129BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231129BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J11/06
C09J7/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022156137
(22)【出願日】2022-09-29
(62)【分割の表示】P 2018182168の分割
【原出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2022177275
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】長倉 毅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 史恵
(72)【発明者】
【氏名】塚田 高士
(72)【発明者】
【氏名】大津賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 昌世
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特許第7152234(JP,B2)
【文献】特開2010-202692(JP,A)
【文献】特開2018-115336(JP,A)
【文献】特開2018-138666(JP,A)
【文献】特開2018-123282(JP,A)
【文献】特開2000-327785(JP,A)
【文献】特開2013-151658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするアクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤と、ポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物であり、
前記帯電防止剤が、イオン性化合物であり、
前記イオン性化合物のカチオンが、ピリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、グアニジニウム、アンモニウム、イソウロニウム、チオウロニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、メチリウム、リチウム、モルホリニウムからなる群から選択された1種であり、
前記イオン性化合物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、0.01~10重量部の割合で必須成分として含有し、
前記ポリエーテル変性シロキサン化合物が、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物であり、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を0.01~1.0重量部の割合で含有することを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物が、副生成物のプロペニルエーテル化ポリオキシアルキレン、及び/又は、アルデヒド縮合物が除去されたHLB値が4~15、重量平均分子量が10000以下のポリエーテル変性シロキサン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
樹脂フィルムの片面に、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層が積層されていることを特徴とする粘着フィルム。
【請求項4】
請求項に記載の粘着フィルムが用いられた、表面保護フィルム。
【請求項5】
請求項に記載の粘着フィルムが用いられた、偏光板用の表面保護フィルム。
【請求項6】
光学フィルムの少なくとも一方の面に、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層が積層されている粘着剤層付き光学フィルム。
【請求項7】
前記樹脂フィルムの片面の、前記粘着剤層が形成された側とは反対面に、帯電防止処理および防汚処理がされている請求項に記載の粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止剤を含有する粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムに関する。
さらに詳細には、優れた粘着性能とともに、帯電防止性能と、耐汚染性能との両立を図ることが可能な粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムを提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯電防止性能を備えた粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層、及びそれを用いた表面保護フィルムにおいては、帯電防止性能と、被着体への耐汚染性能との関係は、トレードオフの関係にあり、帯電防止性能を維持したまま耐汚染性能を改善することは困難であった。
さらに、近年では、表面保護フィルムが貼合される被着体の、材質の種類が増えている。また、表面保護フィルムが貼合される被着体の表面も、被着体に施される種々の表面処理により、その表面状態の性状が多岐にわたるものとなっている。そのため、全ての被着体に対して、帯電防止性能とともに耐汚染性能を同時に満足させることが益々難しくなっている。
【0003】
このような課題を解決するために、例えば、表面保護フィルムの粘着剤層を形成する粘着剤組成物として、特定モノマーを特定の比率で共重合させたアクリル系共重合体と、帯電防止剤と、その構造中にフッ素或いはケイ素を含有する化合物とを含有する粘着剤組成物を用いた表面保護フィルムが提案されている(特許文献1)。また、前記その構造中にフッ素或いはケイ素を含有する化合物が、ポリエーテル変性ポリオルガノシロキサン、含フッ素アルキル基含有のフッ素系界面活性剤、その構造中にフッ素やケイ素を含有するアクリル系ポリマー、のいずれかから選択されるとしている。また、特許文献1に記載の発明に係わる表面保護フィルムが貼合される被着体が、含フッ素化合物又は含ケイ素化合物を用いてのハードコート処理、或いは、これらの化合物によって低反射処理もしくは防汚処理して形成された機能性層である場合にも、該被着体から表面保護フィルムを剥離する際の、静電気の発生自体が抑制され、剥離帯電による被着体汚染や、剥離帯電に起因するスパーク等により電子回路の破壊等の障害の発生を抑制することができるとしている。
【0004】
また、表面保護フィルムの粘着剤層を、カルボキシ基を有する特定構造の第一の構成単位及びヒドロキシ基を有する単量体に由来する第二の構成単位を含む第一の(メタ)アクリル共重合体と、ポリエーテル末端にヒドロキシ基を有するポリエーテル変性シリコーンと、アルカリ金属塩と、を含有する粘着剤組成物を用いて形成することが提案されている(特許文献2)。特許文献2に記載の発明に係わる表面保護フィルムは、帯電防止性能及び被着体に対する低汚染性を、高いレベルで両立できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5544800号公報
【文献】特許第6058390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の発明に係わる表面保護フィルムは、被着体汚染の試験方法として、「上記したAG偏光板及びHC偏光板の機能性層側の表面に、先に得た各表面保護フィルムをそれぞれ2kgfローラー1往復で圧着して貼り付けた。そして、これらの試料を70℃の環境下で3日間放置する。その後、試料を取り出し、23℃、50%RH中で24時間放置した後、試料を被着体から剥がし、汚染の度合いを目視にて観察し、下記の基準で評価した。」(引用文献1の段落〔0049〕)ものである。
しかし、特許文献1に記載の発明に係わる表面保護フィルムは、より過酷な試験条件である高温・高湿度の環境下(例えば、温度60℃、湿度90%RHの雰囲気下)に保管して行った場合の耐汚染性能に関しては、何ら開示されておらず不明である。
また、引用文献1には、ポリエーテル変性ポリオルガノシロキサンについての記載があるが、該化合物に含有されている不純物、及びその不純物が及ぼす、被着体に対する汚染性への悪影響については、全く記載されておらず、何らの示唆も成されていない。
また、特許文献1に記載の発明に係わる表面保護フィルムは、粘着剤のベースポリマーのアクリル系共重合体として、アルキレンオキサイド基を持つ(メタ)アクリル酸エステルを共重合させていることから、必要とされる帯電防止性能や粘着性能を得ることができても、耐汚染防止性能を含めた特性バランスに優れるものを得ることが難しいという問題があった。
また、特許文献2に記載の発明に係わる表面保護フィルムは、粘着剤層を形成する粘着剤組成物の(メタ)アクリル系共重合体として、カルボキシ基を含む特定構造の第一の構成単位等の特定構造のモノマー成分を用いることで、帯電防止性能と耐汚染性能とを両立させている。
しかし、粘着剤組成物中に含有させるポリエーテル変性シリコーンと、第一の(メタ)アクリル系共重合体との相溶性の悪さや、第一の(メタ)アクリル系共重合体自体の粘着性能により、充分な特性バランスを有する粘着剤層を得ることが難しいという問題があった。
また、引用文献2には、ポリエーテル変性ポリオルガノシロキサンについての記載があるが、該化合物に含有されている不純物、及びその不純物が及ぼす、被着体に対する汚染性への影響については、全く記載されておらず、何らの示唆も成されていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、優れた粘着性能とともに、帯電防止性能と、耐汚染性能との両立を図ることが可能な粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、ポリエーテル変性シロキサン化合物として、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層が、被着体表面への汚染を防止する優れた耐汚染性能を有することを見出した。
即ち、不純物を含有しない精製したポリエーテル変性シロキサン化合物と、不純物を含むポリエーテル変性シロキサン化合物とでは、粘着剤層の性能において、帯電防止性能及び耐汚染性能の優劣に違いがあることを見出して、本発明を完成するに至った。
本発明は、アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物とすることを技術思想とする。
【0009】
本発明の、帯電防止剤及び無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を含有する粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムは、優れた粘着性能とともに、帯電防止性能と、耐汚染性能との両立を図ることができる。
本発明に係る粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムは、従来技術の課題を解決したものである。
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするアクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤と、ポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物であり、前記ポリエーテル変性シロキサン化合物が、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物であり、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を0.01~1.0重量部の割合で含有することを特徴とする粘着剤組成物を提供する。
【0011】
前記無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物が、副生成物のプロペニルエーテル化ポリオキシアルキレン、及び/又は、アルデヒド縮合物が除去されたHLB値が4~15、重量平均分子量が10000以下のポリエーテル変性シロキサン化合物であることが好ましい。
【0012】
前記アクリル系ポリマーが、(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種以上の合計100重量部に対して、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーの少なくとも1種以上の合計を0.1~10重量部と、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーの少なくとも1種以上の合計を0.01~0.5重量部と、を共重合させた、酸価が0.1~1.0で、重量平均分子量が30万超過100万以下の共重合体からなるアクリル系ポリマーであり、前記(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種以上の合計100重量部のうち、2-エチルヘキシルアクリレートを60重量部以上の割合で含有してなり、前記アクリル系ポリマーのガラス転移温度が0℃以下であり、前記架橋剤が、(D)3官能以上のイソシアネート化合物であり、前記帯電防止剤が、融点25~50℃のイオン性化合物であり、前記粘着剤組成物が、さらに、(E)架橋遅延剤と、(F)架橋触媒として錫化合物以外の架橋触媒とを含有してなることが好ましい。
【0013】
前記帯電防止剤が、イオン性化合物であり、前記イオン性化合物のカチオンが、ピリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、グアニジニウム、アンモニウム、イソウロニウム、チオウロニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、メチリウム、リチウム、モルホリニウムからなる群から選択された1種であり、前記イオン性化合物が、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、0.01~10重量部の割合で必須成分として含有してなることが好ましい。
【0014】
前記粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層の、表面抵抗率が1.0×10+12Ω/□以下であり、
フッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層に対する、前記粘着剤層の剥離帯電圧が+0.3~-0.3kVの範囲内であり、
前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層の、前記低屈折率層が表面基材に施された偏光板に対する、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.04~0.2N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が2.0N/25mm以下であり、
前記粘着剤組成物を架橋させてなる粘着剤層を、前記低屈折率層が表面基材に施された偏光板に貼り合せ後、温度60℃、湿度90%RHの雰囲気下に2日放置し、前記雰囲気下から取り出し後1日経過したのちに、前記偏光板から前記粘着剤層を剥がした際に汚染性が無いことが好ましい。
【0015】
前記(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーが、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上であり、
前記(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルテトラヒドロフタル酸からなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0016】
前記粘着剤組成物が、(E)架橋遅延剤と、(F)架橋触媒として錫化合物以外の架橋触媒とを含有してなり、前記(E)架橋遅延剤が、ケトエノール互変異性体の化合物であり、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(E)架橋遅延剤を0.1~300重量部の割合で含有してなり、
前記(F)架橋触媒が、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、鉄キレート化合物からなる群の中から選択された少なくとも1種以上の金属キレート化合物であり、
前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(F)架橋触媒を0.001~0.5重量部の割合で含有してなり、前記(E)/前記(F)の重量部比率が、80~1000であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、樹脂フィルムの片面に、上記の粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層が積層されていることを特徴とする粘着フィルムを提供する。
【0018】
また、本発明は、上記の粘着フィルムが用いられた、表面保護フィルムを提供する。
【0019】
また、本発明は、上記の粘着フィルムが用いられた、偏光板用の表面保護フィルムを提供する。
【0020】
また、本発明は、光学フィルムの少なくとも一方の面に、上記の粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層が積層されている粘着剤層付き光学フィルムを提供する。
【0021】
また、本発明は、前記樹脂フィルムの片面の、前記粘着剤層が形成された側とは反対面に、帯電防止処理および防汚処理がされている粘着フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の表面保護フィルムは、その用途において被着体が、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる基材群から選択された基材を用いた光学フィルムの表面に適用可能である。
本発明の表面保護フィルムは、これら被着体に対して、優れた粘着性能、耐汚染性能を有し、且つ優れた剥離帯電防止性能を有している。
さらに、本発明の表面保護フィルムは、該被着体の表面に、フッ素化合物を含有する防汚層、又は、フッ素化合物を含有する樹脂組成物を用いて低屈折率層が形成されている場合においても、優れた粘着性能、耐汚染性能を有し、且つ優れた剥離帯電防止性能を有している。
本発明によれば、優れた粘着性能とともに、帯電防止性能と、耐汚染性能との両立を図ることが可能な粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムを提供することができる。このため、本発明は、産業上の利用価値が極めて大である。
また、本発明の表面保護フィルムは、被着体に対して、優れた粘着性能、耐汚染性能を有し、且つ優れた剥離帯電防止性能を有している。
また、本発明に係わる、アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物、及びそれを用いた粘着フィルム、表面保護フィルムは、優れた粘着性能とともに、帯電防止性能と、耐汚染性能との両立が図られている。
本発明において、アクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、ポリエーテル変性シロキサン化合物として、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層が、優れた粘着性能とともに、帯電防止性能と、耐汚染性能との両立を図ることが可能となる理由は、明確ではない。想定される理由としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン化合物が無臭化精製されることで、ポリエーテル変性シロキサン化合物に含有されている副生成物が極めて少ない状態となり、アクリル系ポリマーとの相溶性が向上することにより、ポリエーテル変性シロキサン化合物のブリードアウトが生じないように分散性が改善されることなどが考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするアクリル系ポリマーと、帯電防止剤と、架橋剤と、ポリエーテル変性シロキサン化合物とを含有する粘着剤組成物であり、前記ポリエーテル変性シロキサン化合物が無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物であり、前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、0.01~1.0重量部の割合で含有することを特徴とする。
【0024】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは、粘着剤組成物の主剤ポリマーであり、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系ポリマーである。また、アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主成分とする共重合体が好ましい。ここで、主成分の割合は、例えばアクリル系ポリマーの全体を100重量部として、50重量部以上が好ましく、80重量部以上がより好ましく、90重量部以上が特に好ましい。
【0025】
(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートモノマーのアルキル基は、直鎖、分枝状、環状のいずれでもよい。
【0026】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは、(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種以上の合計100重量部のうち、2-エチルヘキシルアクリレートを、60重量部以上の割合で含有することが好ましく、70重量部以上の割合で含有することがより好ましく、80重量部以上の割合で含有することが特に好ましい。
【0027】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーにおいて、(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共重合されるモノマーとしては、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマー、及び、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーが挙げられる。
【0028】
(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーとしては、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドからなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上が挙げられる。
【0029】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは、(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種以上の合計100重量部に対して、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーの少なくとも1種以上の合計を、0.1~10重量部の割合で含有してなることが好ましく、1.0~6.0重量部の割合で含有してなることがより好ましく、2.0~5.0重量部の割合で含有してなることがさらに好ましく、2.5~4.5重量部の割合で含有してなることが特に好ましい。
【0030】
(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルテトラヒドロフタル酸からなる化合物群の中から選択された少なくとも1種以上が挙げられる。
【0031】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは、(A)アルキル基の炭素数がC1~C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも1種以上の合計100重量部に対して、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーの少なくとも1種以上の合計を、0.01~0.5重量部の割合で含有してなることが好ましく、0.01~0.4重量部の割合で含有してなることがより好ましく、0.01~0.3重量部の割合で含有してなることが特に好ましい。
【0032】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは、酸価が0.1~1.0で、重量平均分子量(Mw)が30万超過100万以下の共重合体であることが好ましい。Mwは、80万以下がより好ましく、60万以下がさらに好ましい。これにより、耐汚染性能を改善することに寄与できる。ここで、「酸価」とは、酸の含有量を表す指標の一つであり、カルボキシル基を含有するポリマー1gを中和するのに要する、水酸化カリウムのmg数で表される。
【0033】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーの製造方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、乳化重合法等、適宜、公知の重合方法が使用可能である。アクリル系ポリマーの製造に用いられるモノマーは、少なくとも、上記の(A)~(C)から、それぞれ1種以上を含むことが好ましい。本発明の効果を損なわない範囲内で、他のモノマーを共重合させることが可能である。
【0034】
本実施形態の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは、粘着性能を含めた特性バランスに優れる粘着剤組成物を得ることを容易にするため、アルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含まない共重合体であることが好ましい。ここで、アルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、アルキレンオキサイド基としては、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、ブチレンオキサイド基などが挙げられる。
【0035】
本実施形態に係わる粘着剤組成物は、帯電防止剤を含有する。本実施形態の帯電防止剤は、イオン性化合物であることが好ましく、特には、温度25℃で固体であり、融点25~50℃のイオン性化合物であることが好ましい。このようなイオン性化合物は、融点が低く、また、長鎖のアルキル基を有するため、アクリル系ポリマーとの親和性は高いと推測される。アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記イオン性化合物の少なくとも1種以上の合計を0.01~10重量部の割合で必須成分として含有してなることが好ましい。
【0036】
前記イオン性化合物のアニオンとしては、六フッ化リン酸塩(PF )、チオシアン酸塩(SCN)、過塩素酸塩(ClO )、四フッ化ホウ酸塩(BF )等の無機アニオン、カルボン酸塩(RCOO)、スルホン酸塩(RSO )、アルコキシド又はフェノキシド塩(RO)、有機イミド塩(R)、メチド塩(R)、有機ボレート塩(R)等の有機アニオンなどが挙げられる。有機アニオンの各一般式に含まれるRは、フッ素置換を有してもよい有機基である。有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基(アリール基、アラルキル基等)、脂肪族又は芳香族のカルボニル基、脂肪族又は芳香族のスルホニル基等の少なくとも1種以上が挙げられる。これらの有機基は、水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0037】
前記イオン性化合物のカチオンとしては、ピリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、グアニジニウム、アンモニウム、イソウロニウム、チオウロニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、メチリウム、リチウム、モルホリニウムからなる群から選択された1種が挙げられる。
イオン性化合物のアニオン及び/又はカチオンが、アルキル基等の有機基を含む場合、アルキル基の鎖長や置換基の位置、個数等の選択により、融点が25~50℃のものを得ることができる。
【0038】
本実施形態に係わる粘着剤組成物は、さらに、架橋剤を含有する。架橋剤としては、(D)3官能以上のイソシアネート化合物が好ましい。(D)3官能以上のイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等のジイソシアネート類のビュレット変性体やイソシアヌレート変性体、トリメチロールプロパンや、グリセリン等の3価以上のポリオールとのアダクト体などが挙げられる。アクリル系ポリマーの100重量部に対して、(D)3官能以上のイソシアネート化合物の少なくとも1種以上の合計を0.1~10重量部の割合で含有してなることが好ましく、0.5~5重量部の割合で含有してなることがさらに好ましく、1~3重量部の割合で含有してなることが特に好ましい。
【0039】
本実施形態に係わる粘着剤組成物は、(E)架橋遅延剤を含有してもよい。(E)架橋遅延剤としては、ケトエノール互変異性体の化合物が好ましく、具体例としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステルや、アセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ-ジケトンが挙げられる。これらは、ポリイソシアネート化合物を架橋剤とする粘着剤組成物において、架橋剤の有するイソシアネート基をブロックすることにより、架橋剤の配合後における粘着剤組成物の過剰な粘度上昇やゲル化を抑制し、粘着剤組成物のポットライフを延長することができる。前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、(E)架橋遅延剤を0.1~300重量部の割合で含有してなることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係わる粘着剤組成物は、(F)架橋触媒として錫化合物以外の架橋触媒を含有してもよい。錫化合物以外の架橋触媒としては、第三級アミン等のアミン系化合物、錫キレート以外の金属キレート化合物が挙げられる。
第三級アミンとしては、トリアルキルアミン、N,N,N’,N’-テトラアルキルジアミン、N,N-ジアルキルアミノアルコール、トリエチレンジアミン、モルホリン誘導体、ピペラジン誘導体等が挙げられる。
(F)架橋触媒が、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、鉄キレート化合物からなる群の中から選択された少なくとも1種以上の金属キレート化合物であることが好ましい。金属キレート化合物の具体例としては、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、鉄トリスアセチルアセトネート、チタニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、トリス(2,4-ヘキサンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ヘキサンジオナト)チタン、トリス(2,4-ヘキサンジオナト)アルミニウム等が挙げられる。
前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、前記(F)架橋触媒を0.001~0.5重量部の割合で含有してなることが好ましい。
【0041】
(E)架橋遅延剤は、(F)架橋触媒とは反対に、架橋を抑制する効果を有することから、(E)架橋遅延剤は、(F)架橋触媒と割合を適切に設定することが好ましい。粘着剤組成物のポットライフを長くし、貯蔵安定性を向上させるには、(E)/(F)の重量部比率が、80~1000であることが好ましく、80~700であることがより好ましく、80~300であることが特に好ましい。ここで、(E)/(F)の重量部比率とは、(E)の重量部を(F)の重量部で除算して得られた商の値である。
【0042】
本実施形態に係わる粘着剤組成物は、ポリエーテル変性シロキサン化合物として、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を含有する。前記アクリル系ポリマーの100重量部に対して、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を0.01~1.0重量部の割合で含有することが好ましく、0.01~0.8重量部の割合で含有することがより好ましい。無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を粘着剤組成物に配合することにより、粘着剤層の粘着力及び耐汚染性能を改善することができる。
さらに、本実施形態に係わる、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を含有する粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層は、被着体表面への汚染を防止する優れた耐汚染性能を有している。
【0043】
ポリエーテル変性シロキサン化合物は、ポリエーテル基を有するシロキサン化合物であり、通常のシロキサン単位〔-SiR -O-〕の他に、ポリエーテル基を有するシロキサン単位〔-SiR(RO(RO))-O-〕を有する。ここで、Rは1種又は2種以上のアルキル基又はアリール基、R及びRは1種又は2種以上のアルキレン基、Rは1種又は2種以上のアルキル基やアシル基等(末端基)を示す。ポリエーテル基としては、ポリオキシエチレン基〔(CO)〕やポリオキシプロピレン基〔(CO)〕等のポリオキシアルキレン基が挙げられる。ポリエーテル基を有するシロキサン単位において、ポリエーテル基の末端がOH基(上記一般式においてR=H)であってもよい。
【0044】
ポリエーテル変性シロキサン化合物は、例えば、水素化ケイ素基を有するポリオルガノシロキサン主鎖に対し、不飽和結合及びポリオキシアルキレン基を有する有機化合物をヒドロシリル化反応によりグラフトさせることによって得ることができる。具体的には、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン重合体等が挙げられる。
【0045】
本発明では、副生成物が除去されてなる無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を用いることを特徴としている。
この副生成物は、例えばヒドロシリル化反応において、不飽和結合及びポリオキシアルキレン基を有する有機化合物として、アリルエーテル化ポリオキシアルキレンを用いる場合、アリル基の異性化により、プロペニルエーテル化ポリオキシアルキレンを生成することがある。さらにプロペニルエーテル基の加水分解により、プロピオンアルデヒド又はその縮合物(アセタール等)を生成することがある。そこで、前記無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物は、副生成物のプロペニルエーテル化ポリオキシアルキレン、及び/又は、アルデヒド縮合物が除去されてなるポリエーテル変性シロキサン化合物であることが好ましい。これらの副生成物は、酸分解、水素添加などにより除去することができる。上記の副生成物が除去されてなる無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を用いることにより、耐汚染性能を改善することができる。本実施形態に係わる粘着剤組成物は、無臭化精製されてないポリエーテル変性シロキサン化合物を含有しないことにより、上記の副生成物を含有しない粘着剤組成物とすることができる。
【0046】
ポリエーテル変性シロキサン化合物のHLB値は、4~15の範囲が好ましい。HLB値とは、例えばJIS K3211(界面活性剤用語)等に規定する親水親油バランス(親水性親油性比)である。また、ポリエーテル変性シロキサン化合物の分子量は、例えば重量平均分子量(Mw)として、10000以下であることが好ましい。アクリル系ポリマーとの相溶性の観点からは、HLB値が低く、分子量が低い方が相溶性は良好であるが、分子量が低いポリエーテル変性シロキサン化合物であれば、HLB値が比較的高く、ポリマーとの相溶性がやや低くても、優れた帯電防止性能が得られる。
【0047】
本実施形態の粘着剤組成物は、上述の添加剤に限らず、界面活性剤、硬化促進剤、可塑剤、充填剤、硬化遅延剤、加工助剤、老化防止剤、酸化防止剤などの公知の添加剤が適宜に配合されてもよい。これらは、単独で、もしくは2種以上を併せて用いることができる。
【0048】
本実施形態の粘着剤組成物は、偏光板の表面基材(例えば、偏光子の保護層)に貼合される表面保護フィルム用の粘着剤組成物として好適である。ここで、偏光板の偏光子の保護層としては、TAC系フィルム、PMMA系フィルム、PET系フィルムからなる群より選択された1種が挙げられる。ここで、TACはトリアセチルセルロース、PMMAはポリメチルメタクリレート、PETはポリエチレンテレフタレートの略称である。
また、偏光板の偏光子の保護層の表面に施されている表面処理が、未処理、AG処理、LR処理、AR処理、AG-LR処理、AG-AR処理からなる群より選択された1種であってもよい。ここで、AGとはアンチグレア(Anti Glare)、LRとはローリフレクション(Low Reflection)、ARとはアンチリフレクション(Anti Reflection)である。
【0049】
本実施形態の粘着剤組成物は、これを架橋してなる粘着剤層の表面抵抗率が1.0×10+12Ω/□以下であることが好ましく、5.0×10+11Ω/□以下であることがより好ましく、1.0×10+11Ω/□以下であることが特に好ましい。表面抵抗率が大きいと、粘着剤層を被着体から剥離する時に発生した静電気を逃がす性能に劣る。このため、表面抵抗率を十分に小さくすることにより、粘着剤層を被着体から剥離する時に発生する静電気に伴って生じる剥離帯電圧が低減され、被着体に影響することを抑制することができる。
【0050】
本実施形態の粘着剤組成物は、これを架橋してなる粘着剤層において、フッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層に対する、粘着剤層の剥離帯電圧が+0.3~-0.3kVの範囲内であることが好ましい。低屈折率層形成用の組成物に用いられるフッ素化合物としては、フッ素化オレフィン類、フッ素化ビニルエーテル類、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート等の1種又は2種以上の重合物である含フッ素共重合体、フッ素化アルキル基含有シラン化合物等の縮合物が挙げられる。含フッ素共重合体は、フッ素化されたモノマーに加えて、オレフィン類、ビニルエーテル類、(メタ)アクリレート等の、フッ素化されていないモノマーが共重合されていてもよい。低屈折率層は、高屈折率層等と組み合わせて反射防止層を構成してもよい。低屈折率層が形成される基材は、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等から選択される少なくとも1種以上が挙げられる。PMMAを基材とした低屈折率層に対する、粘着剤層の剥離帯電圧が+0.3~-0.3kVの範囲内であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の粘着剤組成物は、これを架橋してなる粘着剤層を、被着体に貼り合せ後、温度60℃、湿度90%RHの雰囲気下に2日(48hr)放置し、前記雰囲気下から取り出し後1日経過したのちに、前記被着体から前記粘着剤層を剥がした際に汚染性が無いことが好ましい。被着体としては、PMMA基材、TAC基材等の表面基材、又はその表面に、フッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層、あるいは、これらの表面基材又は低屈折率層を有する偏光板などが挙げられる。
【0052】
本実施形態の粘着剤組成物は、これを架橋してなる粘着剤層の、被着体に対する粘着力は、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.04~0.2N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が2.0N/25mm以下であることが好ましく、後者の粘着力が0.2~1.6N/25mmであることがより好ましい。これにより、粘着力が剥離速度によっても変化が少ない性能が得られ、高速剥離によっても、速やかに剥離することが可能になる。また、貼り直しのため、一旦、表面保護フィルムを被着体から剥がすときにも、過大な力を必要とせず、被着体から剥がし易い。被着体としては、PMMA基材、TAC基材等の表面基材、又はその表面に、フッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層、あるいは、これらの表面基材又は低屈折率層を有する偏光板、例えば低反射(LR)表面処理を施した偏光板、AG-LR処理を施した偏光板などが挙げられる。
【0053】
本実施形態の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層のゲル分率は、95~100%であることが好ましく、97~100%であることがより好ましい。このように粘着剤層のゲル分率が高いことにより、低速の剥離速度において、粘着力が過大にならない。また、粘着剤組成物に含有されている共重合体からの、未重合モノマーあるいはオリゴマーの溶出量が低減して、高温・高湿度における耐久性が改善され、被着体の汚染を抑制することに寄与できる。
【0054】
本実施形態の粘着フィルムは、本実施形態の粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤層を、樹脂フィルムの片面または両面に形成してなる。また、本実施形態の表面保護フィルムは、前記粘着剤層を、樹脂フィルムの片面に形成してなる表面保護フィルムである。本実施形態の粘着剤組成物は、優れた帯電防止性能を備え、低速の剥離速度、及び高速の剥離速度において、粘着力のバランスが優れ、さらに、優れた耐汚染性能を有する。このため、偏光板の表面保護フィルムの用途として好適に使用することができる。
【0055】
粘着剤層の基材フィルムや、粘着面を保護する離型フィルム(セパレーター)としては、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルム等を用いることができる。
樹脂フィルムの片面の、前記粘着剤層が形成された側とは反対面に、帯電防止処理および防汚処理がされていてもよい。帯電防止処理としては、帯電防止剤の塗布や練り込み等が挙げられる。防汚処理としては、シリコーン系、フッ素系の離型剤やコート剤、シリカ微粒子等による処理が挙げられる。離型フィルムには、粘着剤層の粘着面と合わされる側の面に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系の離型剤などにより離型処理が施されてもよい。
【0056】
また、光学フィルムの少なくとも一方の面に、本実施形態の粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層を積層することにより、粘着剤層付き光学フィルムを得ることができる。光学フィルムとしては、偏光フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、防眩(アンチグレア)フィルム、紫外線吸収フィルム、赤外線吸収フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルム等が挙げられる。光学部材が適用される機器としては、液晶パネル、有機ELパネル、タッチパネル等が挙げられる。
偏光板用の表面保護フィルムなどの光学用の表面保護フィルム及び粘着フィルムの場合、基材フィルム及び粘着剤層は、十分な透明性を有することが好ましい。
【実施例
【0057】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。
【0058】
<アクリル系ポリマーの製造>
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、反応装置内の空気を窒素ガスで置換した。その後、反応装置に、2-エチルヘキシルアクリレート100重量部、8-ヒドロキシオクチルアクリレート4.0重量部、アクリル酸0.1重量部とともに溶剤(酢酸エチル)を加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部を2時間かけて滴下させ、65℃で6時間反応させ、実施例1に用いるアクリル系ポリマーを得た。
[実施例2~6及び比較例1~3]
モノマーの組成を各々、表1の(A)~(C)の記載のようにした以外は、上記の実施例1に用いるアクリル系ポリマー溶液と同様にして、実施例2~6及び比較例1~3に用いるアクリル系ポリマー溶液を得た。
実施例1~6及び比較例1~3のアクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)を、表2に記載した。
【0059】
<粘着剤組成物及び表面保護フィルムの製造>
[実施例1]
上記のとおり製造した実施例1のアクリル系ポリマー溶液に対して、架橋剤(コロネートHX)2.0重量部、架橋遅延剤(アセチルアセトン)9.0重量部、架橋触媒(チタニウムトリスアセチルアセトネート)0.1重量部、帯電防止剤(4-メチル-1-オクチルピリジニウム 六フッ化リン酸塩)0.9重量部、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物(KF-6017P(無臭化タイプ)、HLB値=5)0.05重量部を加えて撹拌混合して実施例1の粘着剤組成物を得た。この粘着剤組成物を離型フィルム(シリコーン樹脂コートされたPETフィルム)の上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶剤を除去し、厚さが20μmの粘着剤層を得た。その後、基材フィルム(一方の面に帯電防止及び防汚処理されたPETフィルム)の、帯電防止及び防汚処理された面とは反対の面に、離型フィルム付き粘着剤層を転写させ、「基材フィルム/粘着剤層/離型フィルム」の積層構成を有する実施例1の表面保護フィルムを得た。
[実施例2~6及び比較例1~3]
添加剤の組成を各々、表1の(D)~(H)の記載のようにした以外は、上記の実施例1の表面保護フィルムと同様にして、実施例2~6及び比較例1~3の表面保護フィルムを得た。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1において、各成分の重量部は、(A)の合計を100重量部として求めた。また、(D)~(H)の各欄では、アクリル系ポリマーを100重量部として求めた、各成分の重量部を括弧( )内の数値で示した。
また、表1に用いた各成分の略記号の化合物名を、表3に示す。なお、コロネート(登録商標)HX、同HL及び同Lは東ソー株式会社の商品名であり、タケネート(登録商標)D-140Nは三井化学株式会社の商品名である。
表3のG-1~G-5は、融点25~50℃のイオン性化合物(常温で固体)であり、G-6は、融点が50℃を超えるイオン性化合物(常温で固体)である。
表3の(H)欄には、HLB値と商品名を併記した。H-1及びH-3~H-6は、信越化学工業株式会社の、H-2は東レ・ダウコーニング株式会社の商品名である。H-1~H-4の重量平均分子量(Mw)は、いずれも1万以下であり、H-5のMwは2万、H-6のMwは3万であった。
【0063】
【表3】
【0064】
<試験方法及び評価>
実施例1~6及び比較例1~3における表面保護フィルムを、それぞれ、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で7日間エージングした後、以下の試験方法により評価した。
【0065】
<粘着力の試験方法>
離型フィルムを剥がして、粘着剤層を表出させた表面保護フィルムを、粘着剤層を介して偏光板の表面に貼合し、1日放置した後、50℃、5気圧、20分間オートクレーブ処理し、室温でさらに12時間放置したものを、粘着力の測定試料とした。得られた測定試料を、180°方向に引張試験機を用いて低速度(0.3m/min)又は高速度(30m/min)において剥がして測定した剥離強度を粘着力とした。
【0066】
<表面抵抗率の試験方法>
表面保護フィルムをエージングした後、偏光板に貼合する前に、離型フィルムを剥がして粘着剤層を表出し、抵抗率計ハイレスタUP-HT450(三菱化学アナリテック製)を用いて粘着剤層の表面抵抗率を測定した。
【0067】
<剥離帯電圧の試験方法>
離型フィルムを剥がして、粘着剤層を表出させた表面保護フィルムを、被着面にフッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層を有する偏光板に貼合した。表面保護フィルムを、30m/minの引張速度で180°剥離した際に、被着体が帯電して発生する電圧(帯電圧)を高精度静電気センサSK-035、SK-200(株式会社キーエンス製)を用いて測定し、測定値の最大値を剥離帯電圧とした。
【0068】
<耐汚染性能の試験方法>
ガラス板の片面上に、低反射(LR)表面処理を施した偏光板を、貼合機を用いて、粘着剤層(両面粘着テープ)を介して貼合した。その後、前記偏光板の表面に、表面保護フィルムを、貼合機を用いて貼合した。被着体に貼り合せ後、温度60℃、湿度90%RHの雰囲気下に2日(48hr)放置し、前記雰囲気下から取り出し後1日経過したのちに、表面保護フィルムを被着体から剥がし、偏光板の表面の汚染状態を目視にて観察した。耐汚染性能の判断基準は、前記偏光板の表面に対して汚染なしの場合を「○」、わずかに汚染ありの場合を「△」、汚染ありの場合を「×」と評価した。
【0069】
<無臭性の試験方法>
耐汚染性能の試験において、表面保護フィルムを被着体から剥がした際に、剥がした表面保護フィルムの粘着剤層の表面および偏光板の表面の臭いをかぎ、臭気の度合いを評価した。剥がした際に、特別な臭気無しの場合を「〇」、わずかに臭気ありの場合を「△」、特別な臭気ありの場合を「×」と評価した。
なお、ポリエーテル変性シロキサン化合物に含まれる不純物である、副生成物のプロペニルエーテル化ポリオキシアルキレン、及び、アルデヒド縮合物の含有量は、機器分析にて測定できない程の極めて微量しか含有されていない。そのため、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物かどうかの判定方法として、無臭性の試験を採用したものである。
【0070】
表4に、実施例1~6及び比較例1~3の表面保護フィルムについて、各種試験の評価結果を示す。「表面抵抗率」は、「m×10+n」を「mE+n」とする方式(ただし、mは任意の実数値、nは正の整数)により表記した。
「耐汚染性能」の欄には、実施例1~6及び比較例1~3の表面保護フィルムの性能試験で用いた、偏光板の表面基材の材質(PMMA)及び表面処理(AG-LR)を示す。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例1~6の表面保護フィルムは、被着体である偏光板に対する、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力が0.04~0.2N/25mmであり、高速の剥離速度30m/minでの粘着力が2.0N/25mm以下であり、粘着性能が優れていた。
また、実施例1~6の表面保護フィルムは、粘着剤層の表面抵抗率が1.0×10+12Ω/□以下であり、フッ素化合物を含有する低屈折率層形成用の組成物を用いて形成された低屈折率層の被着体に対する、粘着剤層の剥離帯電圧が+0.3~-0.3kVの範囲内であり、帯電防止性能が優れていた。
さらに、実施例1~6の表面保護フィルムは、被着体に貼り合せ後、温度60℃、湿度90%RHの雰囲気下に2日放置し、前記雰囲気下から取り出し後1日経過したのちに、表面保護フィルムを被着体から剥がした際に汚染性が無く、耐汚染性能にも優れていた。
すなわち、実施例1~6の表面保護フィルムが、本発明の課題を解決できていることは、表4に示された評価結果により立証されている。
【0073】
比較例1~3の表面保護フィルムでは、無臭化精製されていないポリエーテル変性シロキサン化合物を粘着剤組成物に配合したためか、帯電防止性能及び上記の被着体に対する耐汚染性能が悪かった。特に、実施例1と、比較例1とは、アクリル系ポリマーの組成割合が同一であって、無臭化精製されたポリエーテル変性シロキサン化合物を含有した実施例1と、無臭化精製されていないポリエーテル変性シロキサン化合物を含有した比較例1とでは、耐汚染性能の違いが生じている。さらに、比較例3の表面保護フィルムでは、低速の剥離速度0.3m/minでの粘着力、及び高速の剥離速度30m/minでの粘着力がいずれも高過ぎることから、粘着剤層の粘着性能も劣っていた。
このように、比較例1~3の表面保護フィルムでは、本発明の課題を解決することができなかった。