(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】制振用成形品及び制振用成形品用の樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 9/30 20060101AFI20231129BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231129BHJP
C08K 13/06 20060101ALI20231129BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20231129BHJP
C08K 7/08 20060101ALN20231129BHJP
C08K 3/00 20180101ALN20231129BHJP
C08K 9/10 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
F16F9/30
C08L101/00
C08K13/06
C08J3/22 CEZ
C08K7/08
C08K3/00
C08K9/10
(21)【出願番号】P 2022508234
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009138
(87)【国際公開番号】W WO2021187218
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020046358
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 尚信
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307094(JP,A)
【文献】特開2003-292746(JP,A)
【文献】特開2012-171989(JP,A)
【文献】特開2002-356574(JP,A)
【文献】特開2006-152020(JP,A)
【文献】特開2008-075087(JP,A)
【文献】特開2015-203062(JP,A)
【文献】特開2017-197733(JP,A)
【文献】特開2017-172586(JP,A)
【文献】特開2012-171990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
C08J 3/00 - 3/28
F16F 9/00 - 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂A、反応性官能基を有するオレフィン系エラストマーB及び無機フィラーCを含む樹脂組成物からなる制振用成形品であって、
該熱可塑性樹脂Aがポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、及びポリアミド樹脂(PA)からなる群より選択される少なくとも1種であり、該無機フィラーCが該オレフィン系エラストマーBにより被覆されている制振用成形品。
【請求項2】
前記オレフィン系エラストマーBがエポキシ基含有オレフィン系共重合体であり、少なくとも、α-オレフィン由来の構成単位及びα,β-不飽和酸グリシジルエステル由来の構成単位を有する請求項1記載の制振用成形品。
【請求項3】
前記無機フィラーCがマイカもしくはチタン酸カリウムウィスカーである請求項1又は2記載の制振用成形品。
【請求項4】
オレフィン系エラストマーBと無機フィラーCを溶融混練後に熱可塑性樹脂Aを加え溶融混練する制振用成形品用の樹脂組成物の製造方法
であって、該熱可塑性樹脂Aがポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、及びポリアミド樹脂(PA)からなる群より選択される少なくとも1種である樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電、自動車等に使用される制振性を有する成形品に関し、既存の材料よりもさらに優れた制振性を有する成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通機関の発達による騒音や振動、また職場での作業環境が社会問題となっている。家庭では、快適性の追求から、騒音・振動等を低減した家電製品などや、自動車では車内環境の改善に防音や防振材料が広く求められている。
【0003】
音や振動を軽減するには樹脂製の制振材料が有効であり、制振特性に優れた原料などを樹脂に練り込む等の取り組みがなされている。例えば文献1では熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる高分子材料と無機フィラーを含有する樹脂組成物が剛性と制振性に優れることが示されている。
【0004】
また文献2ではポリエステルとポリオレフィンにエチレン- メタクリル酸グリシジル-スチレン共重合体を含む樹脂が衝撃性と繰り返し屈強性に優れた制振材料であると示されている。そして文献3にはα-オレフィン、α、β-不飽和カルボン酸エステル及びα、β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステルの3元共重合体等のビニル重合体とポリエステル樹脂とゴム状弾性体樹脂と無機層状化合物の4成分を少なくとも含有する樹脂組成物を使用することによる改善方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-203062号公報
【文献】特開2011-148960号公報
【文献】特許第4460426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の制振材料による制振効果は見られるものの制振性の要求は近年上がっており、さらなる改善が求められている。
【0007】
本発明の目的は、これまで以上の制振効果を発揮する成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1. 少なくとも、熱可塑性樹脂A、反応性官能基を有するオレフィン系エラストマーB及び無機フィラーCを含む樹脂組成物からなる制振用成形品であって、該無機フィラーCが該オレフィン系エラストマーBにより被覆されている制振用成形品。
2. 前記オレフィン系エラストマーBがエポキシ基含有オレフィン系共重合体であり、少なくとも、α-オレフィン由来の構成単位及びα,β-不飽和酸グリシジルエステル由来の構成単位を有する前記1記載の制振用成形品。
3. 前記無機フィラーCがマイカもしくはチタン酸カリウムウィスカーである前記1又は2記載の制振用成形品。
4. オレフィン系エラストマーBと無機フィラーCを溶融混練後に熱可塑性樹脂Aを加え溶融混練する制振用成形品用の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまで以上に制振性に優れた制振用成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例2の成形品断面の電子顕微鏡(×20000倍)写真である。
【
図2】比較例2の成形品断面の電子顕微鏡(×20000倍)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の制振用成形品は、少なくとも、熱可塑性樹脂A、反応性官能基を有するオレフィン系エラストマーB及び無機フィラーCを含む樹脂組成物からなる制振用成形品であって、該無機フィラーCが該オレフィン系エラストマーBにより被覆されていることを特徴とする。
【0012】
<熱可塑性樹脂A>
本発明の熱可塑性樹脂Aとして、結晶性熱可塑性樹脂や非晶性熱可塑性樹脂が好適に用いられる。結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミド樹脂(PA)等が挙げられる。溶融成形加工性を有するものであればよい。
【0013】
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン(共)重合体(COP、COC)等が挙げられるが、耐熱性面で特にポリカーボネート樹脂、環状オレフィン(共)重合体が好適に用いられる。本発明の熱可塑性樹脂Aは、慣用の方法により製造できる。
【0014】
<反応性官能基を有するオレフィン系エラストマーB>
本発明の反応性官能基を有するオレフィン系エラストマーB(以下単にオレフィン系エラストマーBともいう)は、エポキシ基含有オレフィン系共重合体であることが好ましく、少なくとも、α-オレフィン由来の構成単位及びα,β-不飽和酸グリシジルエステル由来の構成単位を有することを特徴とする。
【0015】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン等のC2~4のオレフィンを使用することができ、エチレン、プロピレンであることが好ましい。α,β-不飽和酸グリシジルエステルとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートを使用することが好ましい。その他、C1~12の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等の第3成分を共重合させてもよい。
【0016】
オレフィン及びグリシジルエステルは、共重合体中それぞれ30~90モル%。70~10モル%の範囲で調整することができ、第3成分は0~30モル%の範囲を含有させることができる。
【0017】
本発明では特に、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(以下EGMAともいう)であることが好ましい。エチレンに対するグリシジルメタクリレートの割合は特に制限されるものではないが、共重合体の変性部位を各単量体質量に換算し、共重合体100質量部に対する割合として1~30質量部、好ましくは3~20質量部、更に好ましくは8~15質量部の範囲が好ましい。
【0018】
<無機フィラーC>
本発明の成形品に含有させる無機フィラーCとしては、例えばガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、タルク、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸カルシウム等が挙げられ、マイカ、チタン酸カリウムウィスカーが特に好ましい。無機フィラーの繊維長(溶融混練などにより組成物に調製する前の状態)は0.01~10mmのものが好ましく、直径は5~20μmのものが好ましい。
【0019】
本発明の無機フィラーは、その表面がオレフィン系エラストマーBによって被覆されていることを特徴とする。被覆されているか否かは、成形品の断面をSEMで観察する、もしくは以下の方法(以下、被覆確認法ともいう)によって知ることができる。
【0020】
オレフィン系エラストマーBによって被覆されている無機フィラーは、オレフィン系エラストマーBと無機フィラーCを溶融混錬する被覆処理工程によって製造することができる。このオレフィン系エラストマーBを表面に被覆処理した無機フィラーを、熱可塑性樹脂Aに溶融混練する。熱可塑性樹脂Aとオレフィン系エラストマーBの両方を溶解出来きる溶剤にて、被覆に関与していない熱可塑性樹脂Aと過剰のオレフィン系エラストマーBを取り除く。その後、被覆処理した無機フィラーをFT-IRで測定する。
【0021】
被覆処理していない無機フィラーと比較し、FT-IRのオレフィン系エラストマーB由来の吸収が観測された場合、無機フィラーがオレフィン系エラストマーBによって被覆されているということが分かる(以下、被覆確認法ともいう)。
【0022】
成形品用の樹脂組成物は、無機フィラーの表面にオレフィン系エラストマーBを被覆させる製造工程を経たのち、熱可塑性樹脂Aを添加し、さらに溶融混錬することによって製造することができる。オレフィン系エラストマーBにより被覆されている無機フィラーが、熱可塑性樹脂A中に分散された状態の成形品を得ることができる。
【0023】
オレフィン系エラストマーBは、被覆させたオレフィン系エラストマーBに追加して熱可塑性樹脂Aとの溶融混錬時に添加してもよい。
【0024】
本発明において、無機フィラーCは、熱可塑性樹脂A100質量部に対して20~200質量部含むことが好ましく、30~160質量部含むことがより好ましい。
【0025】
<他の成分>
本発明においては、本発明の効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。
【0026】
<成形品>
本発明の成形品は、以上説明した成形品用の樹脂組成物を成形してなる。本発明の成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記のような樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで製造することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<材料>
以下の材料を使用し、評価用試料を作製した。使用量は、表1および表2に示す。
A1 ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS):ポリプラスチックス社製
A2 ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT):ポリプラスチックス社製
B1 エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体:住友化学社製ボンドファーストL
B2 ポリ(エチレン-オクテン):ダウ・ケミカル日本社製Engage8440
C1 マイカ:山口雲母工業所製ミカレット21PU
C2 ガラス繊維:日東紡績社製PF70E-001
C3 チタン酸カリウム:大塚化学社製ティスモN102
C4 ガラス繊維:日本電気硝子社製ECS03T-747
C5 ガラス繊維:日本電気硝子社製ECS03T-187
C1MB11 B1:C1=21:9でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
C1MB12 B1:C1=12:18でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
C1MB13 B1:C1=1:1でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
C1MB2 B2:C1=21:9でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
C2MB1 B1:C2=12:18でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
C3MB1 B1:C3=21:9でブレンド後、溶融混練しマスターバッチ化したもの
D 酸化防止剤:BASFジャパン社製 イルガノックス1010
E 滑剤:三洋化成工業社製 サンワックス161-P
【0029】
<樹脂組成物の製造>
マスターバッチは、BとCを表1および表2に記載の量をシリンダー温度190℃で混練後、ペレタイズして作製した。
実施例1から5および比較例1から9は、熱可塑性樹脂A1とペレタイズしたマスターバッチをシリンダー温度320℃で混練後、射出成形し、試験片(200mm×10mm×1.6mt)である成形品を作製した。
実施例6と比較例10は、熱可塑性樹脂A2とペレタイズしたマスターバッチをシリンダー温度260℃で混練後、射出成形し、試験片(200mm×10mm×1.6mt)である成形品を作製した。
上記被覆確認法によって、無機フィラーCがオレフィン系エラストマーBにより被覆されていることを確認した。
【0030】
<評価>
損失係数は、中央加振法による機械インピーダンスの反共振点の半値幅から求めた。装置は小野測器製の損失係数測定装置を使用した。結果を表1及び2に示す。なお特に断りの無い限り測定は、23℃50%RH雰囲気下で行った。
【0031】
<評価結果>
【0032】
【0033】
【0034】
表1及び2に示すように、本発明は、制振性に優れた成形品であることが判る。
【符号の説明】
【0035】
A 熱可塑性樹脂
B1 オレフィン系エラストマー(EGMA)
C1 無機フィラー(マイカ)