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特許7393590平面状コネクター用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた平面状コネクター
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  • 特許-平面状コネクター用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた平面状コネクター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】平面状コネクター用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた平面状コネクター
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20231129BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20231129BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231129BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20231129BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20231129BHJP
   H01R 13/46 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/34
C08K3/36
C08K7/04
C08K7/14
H01R13/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023535606
(86)(22)【出願日】2023-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2023001017
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022010537
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 光博
(72)【発明者】
【氏名】長永 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】青藤 宏光
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/204125(WO,A1)
【文献】特開2018-080242(JP,A)
【文献】特開2018-109096(JP,A)
【文献】国際公開第2003/095520(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108219385(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L67
C08K3
C08K7
H01R13/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)全芳香族ポリエステル、
(B)繊維状無機充填剤、
(C)マイカ、並びに
(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤
を含有する平面状コネクター用液晶性樹脂組成物であって、
前記(A)全芳香族ポリエステルは、下記構成単位(I)~(IV)を含有し、
全構成単位に対して、
構成単位(I)の含有量は、40~75モル%、
構成単位(II)の含有量は、0.5~7.5モル%、
構成単位(III)の含有量は、8.5~30モル%、
構成単位(IV)の含有量は、8.5~30モル%
であり、
前記(B)繊維状無機充填剤の重量平均繊維長は、200~500μmであり、
前記液晶性樹脂組成物全体に対して、
前記(A)全芳香族ポリエステルの含有量は、45~70質量%、
前記(B)繊維状無機充填剤の含有量は、5~20質量%、
前記(C)マイカの含有量は、7~27質量%、
前記(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤の含有量は、5~25質量%、
前記(B)繊維状無機充填剤、前記(C)マイカ、及び前記(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤の合計の含有量は、30~55質量%
である液晶性樹脂組成物。
【化1】
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立して、アリーレン基を表す)
【請求項2】
前記(B)繊維状無機充填剤は、ガラス繊維及びミルドガラスファイバーからなる群より選択される1種以上である請求項1に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
JIS K 7202-2に準拠して測定したMスケールにおけるロックウェル硬さは、140以下である請求項1又は2に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液晶性樹脂組成物を含み、外枠部と外枠部の内側に形成された格子構造とを有し、
前記格子構造における格子部のピッチ間隔が1.5mm以下である、平面状コネクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面状コネクター用液晶性樹脂組成物及びそれを用いた平面状コネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有し、優れた寸法安定性も有するため高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。また、液晶性樹脂は、流動性等にも優れるため、従来各種電子部品の材料として採用されてきた。特に、近年のエレクトロニクス機器の高性能化に伴い、微細な構造等を有する成形品(平面状コネクター等)に対するニーズがある。このようなニーズに応えるために、例えば、特許文献1には、所定の液晶性ポリマー、無機充填剤及びガラス繊維からなる複合樹脂組成物から成形され、成形性、平面度、そり変形、耐熱性等の性能に優れ、格子部等に割れ(「クラック」とも呼ばれる。)が生じにくい平面状コネクターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-214652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、LTEから5Gへの移行に伴い、通信端末の計算処理能力の向上が求められている。このためには、CPUの性能を向上させ、高速演算処理を達成することが必要である。高速演算処理を達成するための手法としては、マルチコア、マルチソケット、多ピン化等の技術が挙げられる。
【0005】
CPUの実装には、通常、対応するCPUソケットが用いられる。CPUの多ピン化に伴い、CPUでは、高面積化、狭ピッチ化といった製品設計の変化が生じ、CPUソケットでも、高面積化、狭ピッチ化といった変化が生じる。CPUソケット材料の候補として、液晶性樹脂組成物が挙げられる。液晶性樹脂組成物を用いて、CPUソケットの高面積化を図る場合、CPUソケットのサイズ拡大によるそり変形の抑制が求められる。一方、液晶性樹脂組成物を用いて、CPUソケットの狭ピッチ化を図る場合、ピッチ間距離及び極間壁厚みの減少に伴うクラック発生及び強度低下の抑制が求められる。
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の液晶性樹脂組成物は、溶融粘度が著しく高く、流動性が不良であり、又は、従来の液晶性樹脂組成物を用いて、CPUソケットに代表される平面状コネクターの高面積化及び狭ピッチ化を図っても、そり変形、クラック発生、又は機械的強度低下の抑制が十分ではない。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、耐クラック性及び機械的強度に優れ、そり変形が抑制された平面状コネクターの製造を実現できる、流動性が良好な液晶性樹脂組成物、及び当該液晶性樹脂組成物を含む平面状コネクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位を多く含む所定の全芳香族ポリエステルと、重量平均繊維長が150~500μmである繊維状無機充填剤と、マイカと、タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤とを所定量含む平面状コネクター用液晶性樹脂組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) (A)全芳香族ポリエステル、(B)繊維状無機充填剤、(C)マイカ、並びに(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤を含有する平面状コネクター用液晶性樹脂組成物であって、
前記(A)全芳香族ポリエステルは、下記構成単位(I)~(IV)を含有し、
全構成単位に対して、構成単位(I)の含有量は、40~75モル%、構成単位(II)の含有量は、0.5~7.5モル%、構成単位(III)の含有量は、8.5~30モル%、構成単位(IV)の含有量は、8.5~30モル%であり、
前記(B)繊維状無機充填剤の重量平均繊維長は、150~500μmであり、
前記液晶性樹脂組成物全体に対して、前記(A)全芳香族ポリエステルの含有量は、45~70質量%、前記(B)繊維状無機充填剤の含有量は、5~20質量%、前記(C)マイカの含有量は、7~27質量%、前記(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤の含有量は、5~25質量%、前記(B)繊維状無機充填剤、前記(C)マイカ、及び前記(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤の合計の含有量は、30~55質量%である液晶性樹脂組成物。
【0009】
【化1】
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立して、アリーレン基を表す)
【0010】
(2) 前記(B)繊維状無機充填剤は、ガラス繊維及びミルドガラスファイバーからなる群より選択される1種以上である(1)に記載の液晶性樹脂組成物。
【0011】
(3) JIS K 7202-2に準拠して測定したMスケールにおけるロックウェル硬さは、140以下である(1)又は(2)に記載の液晶性樹脂組成物。
【0012】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の液晶性樹脂組成物を含み、外枠部と外枠部の内側に形成された格子構造とを有し、
前記格子構造における格子部のピッチ間隔が1.5mm以下である、平面状コネクター。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐クラック性及び機械的強度に優れ、そり変形が抑制された平面状コネクターの製造を実現できる、流動性が良好な液晶性樹脂組成物、及び当該液晶性樹脂組成物を含む平面状コネクターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例で成形した平面状コネクターを示す図であり、(a)は平面図、(b)は右側面図である。なお、図中の数値の単位はmmである。
図2】実施例で成形した平面状コネクターのゲート位置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は右側面図である。なお、図中の数値の単位はmmである。
図3】実施例で行ったメッシュ強度の測定における測定部位を示す図である。なお、図中の数値の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
<平面状コネクター用液晶性樹脂組成物>
本発明に係る平面状コネクター用液晶性樹脂組成物は、(A)全芳香族ポリエステル、(B)繊維状無機充填剤、(C)マイカ、並びに(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤を含有し、前記(B)繊維状無機充填剤の重量平均繊維長は、150~500μmである。
【0017】
[(A)全芳香族ポリエステル]
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、(A)全芳香族ポリエステルを含有する。(A)全芳香族ポリエステルは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。(A)全芳香族ポリエステルは、下記構成単位(I)~(IV)を含有し、
全構成単位に対し、
構成単位(I)の含有量は、40~75モル%、
構成単位(II)の含有量は、0.5~7.5モル%、
構成単位(III)の含有量は、8.5~30モル%、
構成単位(IV)の含有量は、8.5~30モル%
である。
【0018】
【化2】
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立して、アリーレン基を表す)
【0019】
構成単位(I)は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(以下、「HNA」ともいう。)から誘導される。(A)成分は、全構成単位に対して構成単位(I)を40~75モル%含む。構成単位(I)の含有量がこの範囲内であると、耐熱性及び製造性が良好となりやすい。耐熱性及び製造性の観点から、構成単位(I)の含有量は、全構成単位に対し、好ましくは40~60モル%、より好ましくは45~60モル%である。
【0020】
構成単位(II)は、4-ヒドロキシ安息香酸(以下、「HBA」ともいう。)から誘
導される。(A)成分は、全構成単位に対し、構成単位(II)を0.5~7.5モル%含む。構成単位(II)の含有量がこの範囲内であると、耐熱性及び製造性が良好となりやすい。耐熱性及び製造性の観点から、構成単位(II)の含有量は、全構成単位に対し、好ましくは1~6モル%である。
【0021】
構成単位(III)は、ジカルボン酸から誘導される構成単位である。Arとしては1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基等が挙げられる。構成単位(III)は、耐熱性の点で、1,4-フェニレンジカルボン酸(以下、「TA」ともいう。)から誘導されることが好ましい。構成単位(III)の含有量は、全構成単位に対し、8.5~30モル%であり、好ましくは17.5~30モル%である。
【0022】
構成単位(IV)は、ジオールから誘導される構成単位である。ジオールとしては、ハイドロキノン、ジヒドロキシビフェニル等が用いられ、ジヒドロキシビフェニル、特に、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」ともいう。)が耐熱性の点で好ましい。構成単位(IV)の含有量は、全構成単位に対し、8.5~30モル%であり、好ましくは17.5~30モル%である。
【0023】
(A)成分は、特定の構成単位である(I)~(IV)を、全構成単位に対し、特定の量含有するため、耐熱性及び製造性のいずれにも優れる。なお、(A)成分は、全構成単位に対して構成単位(I)~(IV)を合計で100モル%含むことが好ましい。
【0024】
次いで、本発明における全芳香族ポリエステルの製造方法について説明する。本発明における全芳香族ポリエステルは、直接重合法やエステル交換法等を用いて重合される。重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。
【0025】
本発明では、重合に際し、重合モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の脂肪酸無水物等が挙げられる。
【0026】
これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、1-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒を挙げることができる。
【0027】
反応条件としては、例えば、反応温度200~380℃、最終到達圧力0.1~760Torr(即ち、13~101,080Pa)である。特に溶融反応では、例えば、反応温度260~380℃、好ましくは300~360℃、最終到達圧力1~100Torr(即ち、133~13,300Pa)、好ましくは1~50Torr(即ち、133~6,670Pa)である。
【0028】
反応は、全原料モノマー(HNA、HBA、TA、及びBP)、アシル化剤、及び触媒を同一反応容器に仕込んで反応を開始させることもできるし(一段方式)、原料モノマーHNA、HBA、及びBPの水酸基をアシル化剤によりアシル化させた後、TAのカルボキシル基と反応させることもできる(二段方式)。
【0029】
溶融重合は、反応系内が所定温度に達した後、減圧を開始して所定の減圧度にして行う。撹拌機のトルクが所定値に達した後、不活性ガスを導入し、減圧状態から常圧を経て、所定の加圧状態にして反応系から全芳香族ポリエステルを排出する。
【0030】
上記重合方法により製造された全芳香族ポリエステルは、更に常圧又は減圧、不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。固相重合反応の好ましい条件は、反応温度230~350℃、好ましくは260~330℃、最終到達圧力10~760Torr(即ち、1,330~101,080Pa)である。
【0031】
次いで、全芳香族ポリエステルの性質について説明する。本発明における全芳香族ポリエステルは、溶融時に光学的異方性を示す。ある樹脂が溶融時に光学的異方性を示すことは、その樹脂が液晶性樹脂であることを意味する。本発明における全芳香族ポリエステルは、熱安定性と易加工性を併せ持つ。
【0032】
溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。より具体的には溶融異方性の確認は、オリンパス社製偏光顕微鏡を使用しリンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより実施できる。全芳香族ポリエステルは光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光は透過する。
【0033】
ネマチックな全芳香族ポリエステルは融点以上で著しく粘性低下を生じるので、一般的に融点又はそれ以上の温度で液晶性を示すことが加工性の指標となる。融点は、でき得る限り高い方が耐熱性の観点からは好ましいが、全芳香族ポリエステルの溶融加工時の熱劣化や押出機の加熱能力等を考慮すると、360℃以下であることが好ましい目安となる。なお、より好ましくは300~360℃であり、更により好ましくは320~358℃である。
【0034】
本発明における製膜温度、かつ、剪断速度1000/秒における前記全芳香族ポリエステルの溶融粘度は、好ましくは500Pa・s以下であり、より好ましくは50~400Pa・sであり、更により好ましくは100~300Pa・sである。上記溶融粘度が上記範囲内であると、前記全芳香族ポリエステルそのもの、又は、前記全芳香族ポリエステルを含有する組成物は、その押出時において、製膜性が確保されやすい。なお、本明細書において、前記溶融粘度としては、ISO11443に準拠して測定して得られた値を採用する。
【0035】
(A)成分の含有量は、液晶性樹脂組成物全体に対して、45~70質量%であり、好ましくは50~65質量%であり、より好ましくは54~61質量%である。(A)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体の耐クラック性、機械的強度、及びそり変形抑制効果が向上しやすい。
【0036】
[(B)繊維状無機充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物が繊維状無機充填剤を含有すると、該液晶性樹脂組成物からなる成形体は、耐クラック性が向上しやすく、また、メッシュ強度等の機械的強度が向上しやすい。繊維状無機充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
繊維状無機充填剤の平均繊維長は、150~500μmであり、好ましく200~450μmであり、より好ましくは250~400μmである。上記平均繊維長が150μm以上であると、本発明の液晶性樹脂組成物からなる成形体は、耐クラック性が向上しやすく、また、メッシュ強度等の機械的強度が向上しやすい。上記平均繊維長が500μm以下であると、液晶性樹脂組成物からなる成形体は、そり変形抑制効果が向上しやすい。なお、本明細書において、繊維状無機充填剤の平均繊維長としては、繊維状無機充填剤の実体顕微鏡画像10枚をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により、実体顕微鏡画像1枚ごとに100本の繊維状無機充填剤、即ち、合計1000本の繊維状無機充填剤について繊維長を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の繊維状無機充填剤の平均繊維長は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存した繊維状無機充填剤について、上記方法を適用することで測定される。また、本明細書において、特に断りがない限り、平均繊維長は、重量平均繊維長を意味する。
【0038】
繊維状無機充填剤の繊維径としては、特に限定されず、例えば、20μm以下でよく、5~15μmでもよい。なお、本明細書において、繊維状無機充填剤の繊維径としては、繊維状無機充填剤を走査型電子顕微鏡で観察し、30本の繊維状無機充填剤について繊維径を測定した値の平均を採用する。液晶性樹脂組成物中の繊維状無機充填剤の繊維径は、液晶性樹脂組成物を600℃で2時間の加熱により灰化して残存した繊維状無機充填剤について、上記方法を適用することで測定される。
【0039】
以上の形状を満足する繊維状無機充填剤であれば、何れの繊維も用いることができる。繊維状無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、カーボン繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維(ウォラストナイト)、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。本発明においては、耐クラック性及び機械的強度の観点から、繊維状無機充填剤として、ガラス繊維及びミルドガラスファイバーからなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0040】
(B)成分の含有量は、液晶性樹脂組成物全体に対して、5~20質量%であり、好ましくは7~18質量%であり、より好ましくは9~16質量%である。(B)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体の耐クラック性、機械的強度、及びそり変形抑制効果が向上しやすい。
【0041】
[(C)マイカ]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、マイカが含まれる。本発明に係る液晶性樹脂組成物にマイカが含まれることにより、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体のそり変形抑制効果が向上しやすい。マイカは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
マイカは、液晶性樹脂組成物全体に対して7~27質量%含まれる。マイカの含有量が、液晶性樹脂組成物全体に対して7質量%未満であると、液晶性樹脂組成物からなる成形体のそり変形抑制効果が十分ではないため好ましくない。マイカの含有量が、液晶性樹脂組成物全体に対して27質量%超であると、液晶性樹脂組成物からなる成形体の耐クラック性又は機械的強度が低下する恐れがあるため好ましくない。マイカは、液晶性樹脂組成物中に、液晶性樹脂組成物全体に対して9~24質量%含まれることが好ましく、11~21質量%含まれることがより好ましい。
【0043】
〔マイカ〕
マイカとは、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄等を含んだケイ酸塩鉱物の粉砕物である。本発明において使用できるマイカとしては、白雲母、金雲母、黒雲母、人造雲母等が挙げられ、これらのうち色相が良好であり、低価格であるという点で白雲母が好ましい。
【0044】
また、マイカの製造において、鉱物を粉砕する方法としては、湿式粉砕法及び乾式粉砕法が知られている。湿式粉砕法とは、マイカ原石を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水を加えてスラリー状態にて湿式粉砕で本粉砕し、その後、脱水、乾燥を行う方法である。湿式粉砕法と比較して、乾式粉砕法は低コストで一般的な方法であるが、湿式粉砕法を用いると、鉱物を薄く細かく粉砕することがより容易である。後述する好ましい平均粒子径及び厚みを有するマイカが得られるという理由で、本発明においては薄く細かい粉砕物を使用することが好ましい。したがって、本発明においては、湿式粉砕法により製造されたマイカを使用するのが好ましい。
【0045】
また、湿式粉砕法においては、被粉砕物を水に分散させる工程が必要であるため、被粉砕物の分散効率を高めるために、被粉砕物に凝集沈降剤及び/又は沈降助剤を加えることが一般的である。本発明において使用できる凝集沈降剤及び沈降助剤としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化コッパラス、ポリ硫酸鉄、ポリ塩化第二鉄、鉄-シリカ無機高分子凝集剤、塩化第二鉄-シリカ無機高分子凝集剤、消石灰(Ca(OH))、苛性ソーダ(NaOH)、ソーダ灰(NaCO)等が挙げられる。これらの凝集沈降剤及び沈降助剤は、pHがアルカリ性又は酸性である。本発明で使用するマイカは、湿式粉砕する際に凝集沈降剤及び/又は沈降助剤を使用していないものが好ましい。凝集沈降剤及び/又は沈降助剤で処理されていないマイカを使用すると、液晶性樹脂組成物中の液晶性樹脂の分解が生じにくく、多量のガス発生や液晶性樹脂の分子量低下等が起きにくいため、得られる表面実装リレー用部品等の成形体の性能をより良好に維持するのが容易である。
【0046】
マイカのメディアン径は、10~100μmであることが好ましく、20~80μmであることが特に好ましい。マイカのメディアン径が10μm以上であると、成形体の剛性に対する改良効果が十分となりやすいため好ましい。マイカのメディアン径が100μm以下であると、成形体の剛性の向上が十分となりやすく、ウェルド強度も十分となりやすいため好ましい。更に、マイカのメディアン径が100μm以下であると、本発明の平面状コネクター等を成形するのに十分な流動性を確保しやすい。なお、本明細書において、メディアン径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値をいう。
【0047】
本発明において使用できるマイカの厚みは、電子顕微鏡の観察により実測した厚みが0.01~1μmであることが好ましく、0.03~0.3μmであることが特に好ましい。マイカの厚みが0.01μm以上であると、液晶性樹脂組成物の溶融加工の際にマイカが割れにくくなるため、成形体の剛性が向上しやすい可能性があるため好ましい。マイカの厚みが1μm以下であると、成形体の剛性に対する改良効果が十分となりやすいため好ましい。
【0048】
本発明において使用できるマイカは、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよく、かつ/又は、結合剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
【0049】
[(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤が含まれる。本発明に係る液晶性樹脂組成物に(D)成分が含まれることにより、液晶性樹脂組成物からなる成形体の耐クラック性及び機械的強度が向上しやすい。タルクは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。シリカは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0050】
タルクのメディアン径が50μm以下であることが好ましい。上記メディアン径が50μm以下であると、得られる液晶性樹脂組成物の溶融粘度が上昇しにくく、この液晶性樹脂組成物を成形した場合、モールドデポジット(以下、「MD」ともいう。)が発生しにくい。溶融粘度及びMDが低減しやすいことから、上記メディアン径は、好ましくは10~25μm、より好ましくは11~20μm、更により好ましくは12~16μmである。なお、モールドデポジットとは、成形における金型への付着物をいう。
【0051】
シリカのメディアン径は、特に限定されず、例えば、1.3~30.0μmでよい。上記メディアン径がこの範囲内であると、液晶性樹脂成形体の成形性が向上しやすい。上記メディアン径は、好ましくは1.5~25.0μmであり、より好ましくは2.0~15.0μmである。
【0052】
(D)成分の含有量は、液晶性樹脂組成物全体に対して、5~25質量%であり、好ましくは7~23質量%であり、より好ましくは9~21質量%である。(D)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体の耐クラック性、機械的強度、及びそり変形抑制効果が向上しやすい。
【0053】
(B)繊維状無機充填剤、(C)マイカ、及び(D)タルク及びシリカからなる群より選択される1種以上の無機充填剤の合計の含有量は、液晶性樹脂組成物全体に対して、30~55質量%であり、好ましくは35~50質量%であり、より好ましくは39~46質量%である。上記合計の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体の耐クラック性、機械的強度、及びそり変形抑制効果が向上しやすい。
【0054】
[(E)(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を除く無機充填剤]
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、任意に(E)(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を除く無機充填剤を含有してもよい。該液晶性樹脂組成物が(D)成分を含有すると、該液晶性樹脂組成物の成形体は曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすい。(D)成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。(D)成分としては、例えば、マイカ及びタルクを除く板状充填剤、シリカを除く粒状充填剤等が挙げられる。
【0055】
(マイカ及びタルクを除く板状充填剤)
本発明に係る液晶性樹脂組成物が板状充填剤を含有すると、該液晶性樹脂組成物からなる成形体は、曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすく、反りが抑制されやすい。板状充填剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0056】
板状充填剤は、メディアン径が15~50μmであることが好ましい。上記メディアン径が15μm以上であると、必要な機械的強度が確保されやすく、成形体の反り抑制効果が高くなりやすい。上記メディアン径が50μm以下であると、組成物の溶融時の流動性が向上しやすい。好ましい上記メディアン径は20~30μmである。
【0057】
板状充填剤としては、特に限定されず、例えば、ガラスフレーク、黒鉛、各種の金属箔(例えば、アルミ箔、鉄箔、銅箔)等が挙げられる。
【0058】
(シリカを除く粒状充填剤)
本発明に係る液晶性樹脂組成物が粒状充填剤を含有すると、該液晶性樹脂組成物からなる成形体は、曲げ弾性率等の機械的強度が向上しやすく、表面白化が抑制されやすい。粒状充填剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0059】
粒状充填剤のメディアン径は、好ましくは0.3~5.0μmである。上記メディアン径が0.3μm以上であると、成形体の耐衝撃性が維持されやすい。上記メディアン径が5.0μm以下であると、成形体の表面白化抑制効果が高くなりやすい。上記メディアン径は、より好ましくは0.5~5.0μmであり、更により好ましくは0.5~4.0μmである。
【0060】
粒状充填剤としては、例えば、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カリウムアルミニウム、珪藻土、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;ピロリン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム等のリン酸塩;炭化硅素;窒化硅素;窒化硼素等が挙げられる。本発明においては、成形体の表面白化抑制及び成形体の低発塵性の観点から、粒状充填剤として、硫酸バリウムを使用することが好ましい。
【0061】
(E)成分の含有量は、液晶性樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.2~2質量%であり、更により好ましくは0.5~1質量%である。(D)成分の含有量が上記範囲内であると、液晶性樹脂組成物の流動性が十分に確保されつつ、液晶性樹脂組成物からなる成形体の機械的強度が向上しやすい。
【0062】
[その他の成分]
本発明に係る液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の重合体、その他の充填剤、一般に合成樹脂に添加される公知の物質、即ち、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0063】
その他の重合体とは、(A)全芳香族ポリエステル以外の重合体をいい、例えば、エポキシ基含有共重合体が挙げられる。その他の充填剤とは、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び(E)成分以外の充填剤をいい、例えば、有機充填剤、カーボンブラックが挙げられる。
【0064】
[液晶性樹脂組成物の調製]
本発明に係る液晶性樹脂組成物の調製は特に限定されない。例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、任意に(E)成分、及び任意にその他の成分を配合して、これらを1軸又は2軸押出機を用いて溶融混練処理することで、液晶性樹脂組成物の調製が行われる。
【0065】
[液晶性樹脂組成物]
上記のようにして得られた本発明に係る液晶性樹脂組成物は、溶融時の流動性の観点、成形加工性の観点から、溶融粘度が80Pa・sec以下であることが好ましく、75Pa・sec以下であることがより好ましく、73Pa・sec以下であることが更により好ましい。本明細書において、溶融粘度としては、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度、剪断速度1000sec-1の条件で、ISO 11443に準拠した測定方法で得られた値を採用する。
【0066】
本発明に係る液晶性樹脂組成物は、耐クラック性の観点から、JIS K 7202-2に準拠して測定したMスケールにおけるロックウェル硬さが好ましくは140以下、より好ましくは135以下、更により好ましくは130以下である。
【0067】
<平面状コネクター>
本発明の液晶性樹脂組成物を成形することにより、本発明の平面状コネクターを得ることができる。平面状コネクターの形状は、特に限定されない。平面状コネクターは、外枠部と外枠部の内側に形成された格子構造とを有し、上記格子構造における格子部のピッチ間隔が1.5mm以下であってもよい。平面状コネクターは、前記格子構造の内部に開口部を有してもよい。平面状コネクターは、上記外枠部と前記格子部の厚み比率が1.0以下であってもよい。また、平面状コネクターは、平面状コネクターにおける端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下、製品全体の高さが5.0mm以下という非常に薄肉の平面状コネクターであってもよい。
【0068】
本発明の平面状コネクターの形状としては、例えば、図1に示すようなものが挙げられる。この平面状コネクターは、全体の大きさが43.88mm×43.88mm×3mmtであり、厚みが3mm以下の外枠部と、厚みが1.5mm以下の格子部と、中央部に13.88mm×13.88mmの開口部とを有する。また、この平面状コネクターのピン挿入穴は、平面状コネクターに差し込んだピンの抜けを防止するために、ピン挿入穴の幅が一部狭まっていてもよい。
【0069】
本発明の平面状コネクターの格子部におけるピン挿入穴の形状は特に限定されず、角形、丸形等であってもよい。
【0070】
本発明の平面状コネクターを得る成形方法としては特に限定されないが、得られる平面状コネクターの変形を防ぎ、良好な平面度(後述する)を有する平面状コネクターを得るために、残留内部応力のない成形条件を選ぶことが好ましい。充填圧力を低くし、得られる平面状コネクターの残留内部応力を低下させるために、成形機のシリンダー温度は、液晶性ポリマーの融点以上の温度が好ましい。
【0071】
また、金型温度は70~100℃が好ましい。金型温度が低いと、金型に充填された複合樹脂組成物が流動不良を起こす可能性があるため好ましくない。金型温度が高いと、バリ発生等の問題が生じる可能性があるため好ましくない。射出速度については、150mm/秒以上で成形することが好ましい。射出速度が低いと、未充填成形品しか得られない可能性があり、完全に充填した成形品が得られたとしても、充填圧力が高く残留内部応力の大きい成形品となり、平面度が劣るコネクターしか得られない可能性がある。
【0072】
本発明の平面状コネクターは、耐クラック性及び機械的強度に優れる。本発明の平面状コネクターの曲げ弾性率は、13GPa以上であってもよく、13.5GPa以上であってもよい。弾性率が13GPa以上である平面状コネクターは、薄肉の格子部を有するものであっても割れを生じにくく、耐クラック性に優れる。なお、曲げ弾性率は、ISO178に準拠して測定される。
【0073】
また、本発明の平面状コネクターは、そり変形が抑制されている。平面状コネクターの変形の程度は、平面状コネクターの平面度を指標として判断する。具体的には、平面状コネクターを水平な机の上に静置し、平面状コネクターの高さを画像測定器により測定し、コネクター端面より、0.5mmの位置を10mm間隔で測定し、最大高さと最小高さの差を平面度とする。本発明の平面状コネクターは、IRリフローを行う前後において、平面度の変化が抑制されている。
【実施例
【0074】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
<全芳香族ポリエステル>
・全芳香族ポリエステル1
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから30分かけて5Torr(即ち、667Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で3時間の熱処理を行い、全芳香族ポリエステル1のペレットを得た。ペレットの融点は348℃、溶融粘度は9Pa・sであった。なお、全芳香族ポリエステル1の融点は、後述する融点の測定方法の通りに測定し、全芳香族ポリエステル1の溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA);1218g(48モル%)
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);37g(2モル%)
1,4-フェニレンジカルボン酸:560g(TA);(25モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);628g(25モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);165mg
アシル化剤(無水酢酸);1432g
【0076】
・全芳香族ポリエステル2
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で3時間反応させた。その後、更に360℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち、1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化し、全芳香族ポリエステル2のペレットを得た。ペレットの融点は320℃、溶融粘度は20Pa・sであった。なお、全芳香族ポリエステル2の融点は、後述する融点の測定方法の通りに測定し、全芳香族ポリエステル2の溶融粘度は、後述する溶融粘度の測定方法と同様にして測定した。
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA);1347g(60モル%)
1,4-フェニレンジカルボン酸(TA);378g(14モル%)
1,3-フェニレンジカルボン酸(IA);162g(6モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP);605g(20モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1704g
【0077】
[融点の測定方法]
TAインスツルメント社製DSCにて、全芳香族ポリエステルを室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の測定後、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度、20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピークの温度を測定し、ポリマーの融点とした。
【0078】
<全芳香族ポリエステル以外の材料>
・ガラス繊維:ECS03T-786H(日本電気硝子(株)製、チョップドストランド、繊維径10μm、長さ3mm、真比重2.6)
・ミルドガラスファイバー:PF70E001(日東紡(株)製、繊維径10μm、平均繊維長70μm(メーカー公称値))
・マイカ:AB-25S((株)山口雲母工業製、マイカ、メディアン径25μm)
・タルク:クラウンタルクPP(松村産業(株)製、タルク、メディアン径14.6μm)
・シリカ:FB-5SDC(デンカ(株)製、シリカ、メディアン径5.0μm)
【0079】
<液晶性樹脂組成物の製造>
上記成分を、表1に示す割合で二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて、下記のシリンダー温度で溶融混練し、液晶性樹脂組成物ペレットを得た。
〔製造条件〕
シリンダー温度:
370℃:全芳香族ポリエステル1を含有する液晶性樹脂組成物の場合
350℃:全芳香族ポリエステル2を含有する液晶性樹脂組成物の場合
【0080】
<溶融粘度>
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1B型を使用し、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高い温度で、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、液晶性樹脂組成物の溶融粘度を測定した。なお、具体的な測定温度は、全芳香族ポリエステル1を含有する液晶性樹脂組成物については370℃、全芳香族ポリエステル2を含有する液晶性樹脂組成物については350℃であった。結果を表1に示す。
【0081】
<重量平均繊維長>
液晶性樹脂組成物中の繊維状無機充填剤の重量平均繊維長は下記の方法で測定した。
液晶性樹脂組成物ペレット5gを600℃で2時間加熱し灰化した。灰化残渣を5質量%ポリエチレングリコール水溶液に十分分散させた後、スポイトでシャーレに移し、実体顕微鏡で繊維状無機充填剤を観察した。繊維状無機充填剤の実体顕微鏡画像10枚をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機((株)ニレコ製LUZEXFS)によって画像処理手法により、実体顕微鏡画像1枚ごとに100本の繊維状無機充填剤、即ち、合計1000本の繊維状無機充填剤について繊維長を測定した値の平均を繊維状無機充填剤の重量平均繊維長として採用した。結果を表1に示す。
【0082】
<荷重たわみ温度>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形し、ISO試験片A形を得た。この試験片を80mm×10mm×4mmに切り出し、試験片を作製した。この試験片を用いて、ISO75-1及び2に準拠して荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度を成形体の耐熱性を表す指標として用いた。結果を表1に示す。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業(株)、SE100DU
シリンダー温度:
370℃(実施例1~5並びに比較例1~3、5、及び6)
350℃(比較例4)
金型温度:90℃
射出速度:33mm/sec
【0083】
<曲げ試験>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形し、ISO試験片A形を得た。この試験片を80mm×10mm×4mmに切り出し、曲げ試験片を作製した。この試験片を用いて、ISO178に準拠し、曲げ強度、曲げ弾性率、及び曲げ歪を測定した。結果を表1に示す。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業(株)、SE100DU
シリンダー温度:
370℃(実施例1~5並びに比較例1~3、5、及び6)
350℃(比較例4)
金型温度:90℃
射出速度:33mm/sec
【0084】
<ロックウェル硬さ>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形し、測定用試験片(100mm×10mm×4mm)を得た。これらの試験片を2枚重ねて8mm厚の試験片として用いて、JIS K 7202-2に準拠し、ロックウェル硬度計((株)東洋精機製作所)を使用して、Mスケール条件(基準荷重:10kg、試験荷重:100kg、鋼球圧子径:1/2in)におけるロックウェル硬さを測定した。結果を表1に示す。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業(株)、SE100DU
シリンダー温度:
370℃(実施例1~5並びに比較例1~3、5、及び6)
350℃(比較例4)
金型温度:80℃
射出速度:33mm/sec
【0085】
<平面度>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を射出成形し、80mm×80mm×1mmの平板状試験片を5枚作製した。得られた1枚目の平板状試験片を水平面に静置し、(株)ミツトヨ製のCNC画像測定機(クイックビジョン404PRO)を用いて、上記平板状試験片上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。高さを測定した位置は、平板状試験片の主平面上に、この主平面の各辺からの距離が3mmとなるように、一辺が74mmの正方形を置いたときに、この正方形の各頂点、この正方形の各辺の中点、及びこの正方形の2本の対角線の交点に該当する位置である。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さの中から、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状試験片についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、リフロー前の平面度の値とした。結果を表1に示す。
[成形条件]
成形機:住友重機械工業(株)、SE-100DUZ
シリンダー温度:
370℃(実施例1~5並びに比較例1~3、5、及び6)
350℃(比較例4)
金型温度:80℃
射出速度:33mm/sec
保圧力:60MPa
【0086】
下記条件のIRリフローを行い、上述の方法で平面度を測定し、リフロー後の平面度とした。結果を表1に示す。
[IRリフロー条件]
測定器;日本パルス技術研究所製大型卓上リフローハンダ付け装置RF-300(遠赤外線ヒーター使用)
試料送り速度;140mm/秒
リフロー炉通過時間;5分
プレヒートゾーンの温度条件;150℃
リフローゾーンの温度条件;225℃
ピーク温度;287℃
【0087】
<メッシュ強度>
下記成形条件で、液晶性樹脂組成物を、図1に示すような、全体の大きさ43.88mm×43.88mm×3mmt、中央部に13.88mm×13.88mmの開口部を有し、格子部ピッチ間隔1.0mmの平面状コネクター(ピン孔数1248ピン)に射出成形した。なお、ゲートは、図2に示す特殊なゲート(オーバーフロー)を使用した。
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE30DUZ
シリンダー温度(ノズル側からの温度を示す);
370℃-370℃-370℃-380℃(実施例1~5並びに比較例1~3、5、及び6)
350℃-350℃-350℃-340℃(比較例4)
金型温度;80℃
射出速度;300mm/sec
保圧力;50MPa
保圧時間;2sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1.2MPa
【0088】
得られた平面状コネクターを用い、下記測定条件で、図3に示す地点(黒塗り部)の強度を測定し、メッシュ強度とした。結果を表1に示す。
[測定条件]
試験機;オリエンテック製テンシロンRTA-250
スパン距離;6mm
試験速度;1mm/min
【0089】
<耐クラック性>
上述の通りにして得た図1の平面状コネクターに対して、下記条件でIRリフローを行い、格子部を光学顕微鏡にて観察し、クラック数を計測した。クラック数が少ないほど、耐クラック性が高いことを示す。具体的には、平面状コネクター1個中に発生したクラックの数を数え、以下の基準に従って耐クラック性を評価した。
○(良好):クラックの数が8個未満であった。
×(不良):クラックの数が8個以上であった。
[IRリフロー条件]
測定機:日本パルス技術研究所製大型卓上リフローハンダ付け装置RF-300(遠赤外線ヒーター使用)
試料送り速度:140mm/sec
リフロー炉通過時間:5min
温度条件;
プレヒートゾーン:150℃
リフローゾーン:240℃
ピーク温度:260℃
【0090】
【表1】
【0091】
表1に記載の結果から明らかなように、実施例の液晶性樹脂組成物は、耐クラック性及び機械的強度に優れ、そり変形が抑制された平面状コネクターの製造を実現でき、流動性が良好であった。
【要約】
耐クラック性及び機械的強度に優れ、そり変形が抑制された平面状コネクターの製造を実現できる、流動性が良好な液晶性樹脂組成物、及び当該液晶性樹脂組成物を含む平面状コネクターを提供する。
本発明に係る平面状コネクター用液晶性樹脂組成物は(A)全芳香族ポリエステルと(B)繊維状無機充填剤と(C)マイカと(D)タルク及び/又はシリカとを含有し、(A)成分は構成単位(I)~(IV)を含有し、全構成単位に対する量は(I):40~75モル%、(II):0.5~7.5モル%、(III):8.5~30モル%、(IV):8.5~30モル%、(B)成分の重量平均繊維長は150~500μm、組成物全体に対する量は(A):45~70質量%、(B):5~20質量%、(C):7~27質量%、(D):5~25質量%、(B)~(D)の合計:30~55質量%である。Ar及びArは独立にアリーレン基を表す。
図1
図2
図3