(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、延伸多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 265/04 20060101AFI20231130BHJP
C08F 283/06 20060101ALI20231130BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20231130BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C08F265/04
C08F283/06
C08F2/44 C
C08J9/00 A CEW
(21)【出願番号】P 2020515571
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017673
(87)【国際公開番号】W WO2019208707
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018087280
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】▲樋▼口 信弥
(72)【発明者】
【氏名】江畑 志郎
(72)【発明者】
【氏名】巨勢 丈裕
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504841(JP,A)
【文献】特開平10-120738(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084400(WO,A1)
【文献】特表2011-530630(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065638(WO,A1)
【文献】特表2018-515635(JP,A)
【文献】特開2005-002188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-2/60,
6/00-283/00,
283/02-289/00,
291/00-297/08,
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体および水性媒体を含む分散液1中、
極性基を有する単量体の使用量が、重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150質量%以下の条件下、テトラフルオロエチレンと
前記極性基を有する単量体との共重合を行うことを特徴とする、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法
であって、
前記非フッ素系単量体が、式(1)で表される単量体であり、
式(1) CH
2
=CR
11
-L
1
-R
12
前記極性基を有する単量体が、式(3)で表される単量体である、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
式(3) CR
31
R
32
=CR
33
-L
3
-R
34
(式(1)中、R
11
は、水素原子またはアルキル基を表す。L
1
は、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR
12
との結合位置を表す。R
12
は、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはニトリル基を表す。ただし、L
1
が単結合の場合、R
12
はニトリル基である。)
(式(3)中、R
31
およびR
32
は、それぞれ独立に、水素原子またはフッ素原子を表す。R
33
は、水素原子、フッ素原子、または、フッ素原子が置換していてもよいアルキル基を表す。L
3
は、単結合または2価の連結基を表す。R
34
は、式(A)で表される基または式(B)で表される基を表す。
式(A) -SO
3
M
式(B) -COOM
式(A)および式(B)中、Mは、水素原子、NH
4
、または、アルカリ金属原子を表す。)
【請求項2】
前記水性媒体中にて前記非フッ素系単量体の重合を行い、次いで前記非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体および水性媒体を含む分散液1中で、前記テトラフルオロエチレンと前記極性基を有する単量体との共重合を行う、請求項
1に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレンと
前記極性基を有する単量体との共重合の際に重合開始剤を使用し、
前記重合開始剤の使用量が、前記重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対して0.10質量%以上である、請求項1
または2に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項4】
前記極性基を有する単量体の使用量が重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150mol%以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項5】
水性媒体中で、ポリアルキレンオキシド化合物と酸化剤とを混合して得られる分散液2中にて、
極性基を有する単量体の使用量が、重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150質量%以下の条件下、テトラフルオロエチレンと
前記極性基を有する単量体との共重合を行い、変性ポリテトラフルオロエチレンを得る、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法
であって、
前記極性基を有する単量体が、式(3)で表される単量体である、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
式(3) CR
31
R
32
=CR
33
-L
3
-R
34
(式(3)中、R
31
およびR
32
は、それぞれ独立に、水素原子またはフッ素原子を表す。R
33
は、水素原子、フッ素原子、または、フッ素原子が置換していてもよいアルキル基を表す。L
3
は、単結合または2価の連結基を表す。R
34
は、式(A)で表される基または式(B)で表される基を表す。
式(A) -SO
3
M
式(B) -COOM
式(A)および式(B)中、Mは、水素原子、NH
4
、または、アルカリ金属原子を表す。)
【請求項6】
前記分散液2中にて、前記テトラフルオロエチレンと前記極性基を有する単量体との共重合を行い、
前記ポリアルキレンオキシド化合物が、式(2)で表される化合物である、請求項
5に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
式(2) R
21-(O-L
2)
n-O-R
22
(式(2)中、R
21およびR
22は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アクリロイル基、または、メタクリロイル基を表す。L
2は、炭素数1~4のアルキレン基を表す。nは、1~50を表す。)
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレンと
前記極性基を有する単量体との共重合の際に重合開始剤を使用し、
前記重合開始剤の使用量が、前記重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対して0.10質量%以上である、請求項
5又は
6に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項8】
前記極性基を有する単量体の使用量が重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150mol%以下である、請求項
5~
7のいずれか1項に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法により得られる変性ポリテトラフルオロエチレンが粒子状に分散した水性分散液を製造し、前記粒子状の変性ポリテトラフルオロエチレンを凝集させて、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末を得る、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法。
【請求項10】
テトラフルオロエチレンに基づく単位に対して極性基を有する単量体に基づく単位が0.005~0.150mol%であり、
標準比重が2.230以下であり、
親水性官能基を含有する炭素数6~34のフッ素系オリゴマーおよびフッ素系界面活性剤を実質的に含有しない、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末。
【請求項11】
請求項
9に記載の方法により変性ポリテトラフルオロエチレン粉末を製造し、前記変性ポリテトラフルオロエチレン粉末をペースト押出して押出ビードを得て、前記押出ビードを延伸して延伸多孔体を得る、延伸多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法および延伸多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレンは、その優れた性質のため種々の用途に用いられている。
従来、ポリテトラフルオロエチレンの製造の際には、パーフルオロオクチルスルホン酸等のフッ素系界面活性剤が用いられていた。しかしながら、環境面の観点から、フッ素系界面活性剤の使用を控えることが望まれていた。
そこで、ポリテトラフルオロエチレンの新たな製造方法の一つとして、テトラフルオロエチレンを重合する際に、ドデシル硫酸ナトリウム等の炭化水素含有界面活性剤を用いる方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、ドデシル硫酸ナトリウム等の炭化水素含有界面活性剤を用いると、テトラフルオロエチレンを重合する際に、炭化水素含有界面活性剤に対して連鎖移動反応が起こる。そのため、この炭化水素含有界面活性剤を用いる方法においては、フッ素系界面活性剤を用いた従来の方法では確認されたことがない、様々な鎖長分布を有する親水性官能基を含有するフッ素系オリゴマーの存在が生成物中に確認された。このフッ素系オリゴマーは、上述したように、炭化水素含有界面活性剤が連鎖移動の起点となり生成された副生成物である。このような副生成物の存在は、ポリテトラフルオロエチレンの性能劣化に繋がるおそれがあると共に、環境面からも望ましくない。
【0005】
本発明は、副生成物である親水性官能基を含有するフッ素系オリゴマーの生成が少ない、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法の提供を課題とする。
また、本発明は、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、および、延伸多孔体の製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
(1) 非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体および水性媒体を含む分散液1中、
極性基を有する単量体の使用量が、重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150質量%以下の条件下、テトラフルオロエチレンと極性基を有する単量体との共重合を行うことを特徴とする、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(2) 極性基が、後述する式(A)で表される基または後述する式(B)で表される基である、(1)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(3) 極性基を有する単量体が、後述する式(3)で表される単量体である、(2)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(4) 前記水性媒体中にて前記非フッ素系単量体の重合を行い、次いで前記非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体および水性媒体を含む分散液1中で、前記テトラフルオロエチレンと前記極性基を有する単量体との共重合を行う、(1)~(3)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(5) 非フッ素系単量体が、後述する式(1)で表される単量体である、(1)~(4)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(6) 前記テトラフルオロエチレンと極性基を有する単量体との共重合の際に重合開始剤を使用し、
前記重合開始剤の使用量が、前記重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対して0.10質量%以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(7) 極性基を有する単量体の使用量が重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150mol%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(8) 水性媒体中で、ポリアルキレンオキシド化合物および炭化水素含有界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種と酸化剤とを混合して得られる分散液2中にて、
極性基を有する単量体の使用量が、重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150質量%以下の条件下、テトラフルオロエチレンと極性基を有する単量体との共重合を行い、変性ポリテトラフルオロエチレンを得る、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法
(9) 前記分散液2中にて、前記テトラフルオロエチレンと前記極性基を有する単量体との共重合を行い、
前記ポリアルキレンオキシド化合物が、後述する式(2)で表される化合物である、(8)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(10) 前記テトラフルオロエチレンと極性基を有する単量体との共重合の際に重合開始剤を使用し、
前記重合開始剤の使用量が、前記重合系に供給するテトラフルオロエチレンの全量に対して0.10質量%以上である、(8)又は(9)に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(11) 極性基を有する単量体の使用量が重合系に供給するテトラフルオロエチレン全量に対して0.150mol%以下である、(8)~(10)のいずれかに記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法。
(12) (1)~(11)のいずれかに記載の方法により得られる変性ポリテトラフルオロエチレンが粒子状に分散した水性分散液を製造し、前記粒子状の変性ポリテトラフルオロエチレンを凝集させて、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末を得る、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法。
(13) テトラフルオロエチレンに基づく単位に対して極性基を有する単量体に基づく単位が0.005~0.150mol%であり、
標準比重が2.230以下であり、
親水性官能基を含有する炭素数6~34のフッ素系オリゴマーおよびフッ素系界面活性剤を実質的に含有しない、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末。
(14) (12)に記載の方法により変性ポリテトラフルオロエチレン粉末を製造し、前記変性ポリテトラフルオロエチレン粉末をペースト押出して押出ビードを得て、前記押出ビードを延伸して延伸多孔体を得る、延伸多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、副生成物である親水性官能基を含有するフッ素系オリゴマーの生成が少ない、変性ポリテトラフルオロエチレンの製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、変性ポリテトラフルオロエチレン粉末の製造方法、および、延伸多孔体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、単量体1分子に由来する原子団の総称である。
【0010】
本発明の変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」ともいう。)の製造方法の特徴点としては、非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体(以下、「特定重合体」ともいう。)および水性媒体を含む分散液1中、または、水性媒体中で、ポリアルキレンオキシド化合物および炭化水素含有界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種と酸化剤とを混合して得られる分散液2中にて、極性基を有する単量体(以下、「特定単量体」ともいう。)と共に、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)の重合を行う点が挙げられる。
分散液1および分散液2が、TFEの重合が良好に進行し得る疎水性環境の場を提供でき、さらに、特定単量体は連鎖移動の発生を抑制しつつTFEの重合を安定的に進行し得る役割を果たす。結果として、副生成物である親水性官能基を含有するフッ素系オリゴマーの生成を抑制しつつ、良好な分子量を示す変性PTFEを製造できる。なお、本発明の製造方法によれば、TFEを重合する際に、炭化水素含有界面活性剤を用いずに、変性PTFEを製造できる。
なお、親水性官能基を含有するフッ素系オリゴマーには、主に、炭素数6~34程度のCF2が連結してなるオリゴマーが含まれる。
これら親水性官能基を含有するフッ素系オリゴマーやフッ素系界面活性剤は、本発明の変性ポリテトラフルオロエチレンに実質的に含まれない。「実質的に含まれない」、とは分析上の検出限界である3ppbよりも低い値である。
【0011】
特定重合体は、生成するPTFEの分散性等に対して、フッ素系界面活性剤使用の場合の作用効果の少なくとも一部を代替すると推定される。
【0012】
本発明における変性PTFE中の特定重合体の量は後述のようにごく少量であり、したがって、TFEをその中で重合させる特定重合体を含む水性媒体における特定重合体の量もまたごく少量である。したがって、TFEをその中で重合させる特定重合体を含む水性媒体は、水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体であることが好ましい。この場合、水性媒体中の特定重合体は、後述のように、粒子状形態で水性媒体中に分散していると考えられる。
TFEの重合に用いる特定重合体を含む水性媒体としては、水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体であってもよく、水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体をさらに水性媒体で希釈して得られる水性媒体であってもよい。
水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体をそのまま使用する場合、TFEを重合する重合系(重合容器内等)で非フッ素系単量体を重合し、引き続き同じ重合系でTFEの重合を行うことが好ましい。水性媒体中で非フッ素系単量体を重合して得られる水性媒体を希釈して使用する場合は、同じ重合系でTFEの重合を行ってもよく、別の重合系でTFEの重合を行ってもよい。
【0013】
<<第1実施態様>>
変性PTFEの製造方法の第1実施態様としては、以下の2つの工程を有する態様が挙げられる。
工程A1:水性媒体中にて、非フッ素系単量体の重合を行い、特定重合体および水性媒体を含む分散液1を得る工程
工程A2:分散液1中にて、重合系に供給するTFE全量に対する特定単量体の使用量が0.150質量%以下の条件下、TFEと特定単量体との共重合を行い、変性PTFEを得る工程
前記のように工程A1で得た特定重合体を含む水性媒体は、水性媒体で希釈して工程A2の特定重合体を含む水性媒体として使用してもよい。また、工程A2においてTFEと特定単量体との共重合を始める前に、分散液1中に後述のような添加剤を添加して共重合を行ってもよい。場合によっては、共重合に使用される添加剤を工程A1に使用される水性媒体に添加し、工程A1で該添加剤と特定重合体を含む水性媒体を得て、得られた水性媒体を工程A2の水性媒体として使用することもできる。
以下、上記好適態様を例として本発明を詳述する。
【0014】
<工程A1>
以下では、まず、工程A1で使用される材料について詳述し、その後、工程A1の手順について詳述する。
【0015】
(非フッ素系単量体)
非フッ素系単量体とは、フッ素原子を含まない単量体である。
非フッ素系単量体は、通常、重合性基を有し、重合性基の数は、1~3個が好ましく、1個がより好ましい。
重合性基としては、エチレン性不飽和基が好ましい。より具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、ビニル基、アリル基が挙げられ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエステル基、ビニルエーテル基が好ましい。
【0016】
非フッ素系単量体としては、式(1)で表される単量体が好ましい。
式(1) CH2=CR11-L1-R12
R11は、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1がより好ましい。
L1は、単結合、-CO-O-*、-O-CO-*または-O-を表す。*はR12との結合位置を表す。例えば、L1が-CO-O-*である場合、式(1)はCH2=CR11-CO-O-R12を表す。
R12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、またはニトリル基を表す。ただし、L1が単結合の場合、R12はニトリル基である。
アルキル基およびアルケニル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
アルキル基は、鎖状であっても、環状であってもよい。アルキル基が環状である場合、シクロアルキル基に該当する。
アルケニル基は、鎖状であっても、環状であってもよい。
【0017】
式(1)で表される単量体としては、式(1-1)で表される単量体、式(1-2)で表される単量体、式(1-3)で表される単量体、および、式(1-4)で表される単量体からなる群から選択される単量体が好ましい。
式(1-1) CH2=CR11-CO-O-R13
式(1-2) CH2=CR11-O-CO-R14
式(1-3) CH2=CR11-O-R15
式(1-4) CH2=CR11-R16
R11の定義は、上述した通りである。
R13は、水素原子、アルキル基またはアルケニル基を表し、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルケニル基が好ましい。
R14は、アルキル基を表し、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
R15は、アルキル基を表し、直鎖状アルキル基または環状アルキル基が好ましい。
R16は、ニトリル基を表す。
【0018】
非フッ素系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ビニルメタクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルが挙げられる。
非フッ素系単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
非フッ素単量体としては、前記式(1-1)で表される単量体および前記式(1-2)で表される単量体がより好ましく、R13がアルキル基である前記式(1-1)で表される単量体が特に好ましい。前記式(1-1)で表される単量体および前記式(1-2)で表される単量体は水親和性の基であるエステル基やカルボキシ基を有することより、該単量体やその重合体は水親和性を有する。したがって、特に低濃度では、該単量体やその重合体は、界面活性剤を必要とすることなく水性媒体中に安定に分散すると考えられる。
【0019】
(特定重合体)
特定重合体は、非フッ素系単量体に基づく単位を含む重合体から構成される。
重合体は、通常、非フッ素系単量体に基づく単位のみを含むが、本発明の効果を損なわない範囲でフッ素系単量体に基づく単位を含んでいてもよい。フッ素系単量体とは、フッ素原子を有する単量体であり、例えば、TFEが挙げられる。
工程A1で、特定重合体および水性媒体を含む分散液1を製造し、工程A1で使用した重合系中の特定重合体および水性媒体を含む分散液1中で引き続き工程A2のTFEの重合を行う場合、重合途中の特定重合体や未反応非フッ素系単量体を含む特定重合体含有水性媒体が工程A2で使用される場合がある。また、工程A1の重合系中の雰囲気を、工程A2を考慮してTFE含有雰囲気下で行うこともある。このような場合、工程A2における特定重合体の一部はTFE単位を含む重合体となる場合があると考えられる。
また、別の見方からすれば、工程A2で得られる変性PTFE粒子は、特定重合体とPTFEとの物理的混合物からなる粒子に限られず、非フッ素系単量体に基づく単位を有するTFE共重合体を含む粒子であるとも考えられる。
重合体中における非フッ素系単量体に基づく単位の含有量は、重合体の全単位に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限としては、100質量%が挙げられる。
【0020】
(水性媒体)
水性媒体としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合物の場合、水溶性有機溶媒濃度は、10質量%以下が好ましい。
水性媒体としては、水のみであることが好ましい。
【0021】
(重合開始剤)
工程A1では、重合開始剤を用いてもよい。つまり、非フッ素系単量体の重合の際に、重合開始剤を用いてもよい。
重合開始剤としては、水溶性ラジカル開始剤、水溶性酸化還元系触媒が好ましい。
水溶性ラジカル開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジコハク酸過酸化物、ビスグルタル酸過酸化物、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の水溶性有機過酸化物が好ましい。
水溶性酸化還元系触媒としては、臭素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過硫酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸またはその塩、亜硫酸水素またはその塩、チオ硫酸またはその塩、有機酸等の還元剤と、の組み合わせが好ましい。なかでも、臭素酸またはその塩と、亜硫酸またはその塩(例:亜硫酸アンモニウム)との組み合わせ、過マンガン酸またはその塩(例:過マンガン酸カリウム)と、シュウ酸との組み合わせがより好ましい。
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム単独、または、過硫酸塩とジコハク酸過酸化物との混合系が好ましく、過硫酸アンモニウム単独、または、過硫酸アンモニウムとジコハク酸過酸化物との混合系がより好ましい。
重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、重合開始剤の仕込み方法としては、重合反応を開始する前にその全量を反応系に仕込んでおいてもよく、連続的または断続的に反応系に添加してもよい。
【0022】
(工程A1の手順)
工程A1では、水性媒体中にて非フッ素系単量体の重合を行う。具体的には、非フッ素系単量体と水性媒体とを混合して、得られた混合液中にて非フッ素系単量体の重合を行うのが好ましい。
【0023】
非フッ素系単量体の使用量は、後述する工程A2で用いられるTFEの全量に対して、0.001~0.050質量%が好ましく、0.001~0.020質量%がより好ましく、0.002~0.020質量%がさらに好ましく、0.003~0.016質量%が特に好ましい。
なお、非フッ素系単量体の仕込み方法としては、重合反応を開始する前に、その全量を反応系に仕込んでおく、初期一括添加が好ましい。
【0024】
非フッ素系単量体の使用量は、後述する工程A2で用いられるTFEの全量に対して、0.0005~0.050mol%が好ましく、0.0005~0.020mol%がより好ましく、0.001~0.020mol%がさらに好ましく、0.002~0.015mol%が特に好ましい。
なお、非フッ素系単量体の仕込み方法としては、重合反応を開始する前に、その全量を反応系に仕込んでおく、初期一括添加が好ましい。
【0025】
非フッ素系単量体と水性媒体とを混合して得られる分散液中における非フッ素系単量体の含有量は、分散液全質量に対して、0.0005~0.0080質量%が好ましく、0.0005~0.0030質量%がより好ましい。
非フッ素系単量体は通常その全量が重合して特定重合体となることより、得られた特定重合体含有水性媒体における特定重合体濃度は、上記数値範囲となる。
上記非フッ素系単量体濃度および特定重合体濃度は、得られた特定重合体含有水性媒体を水性媒体で希釈することなく工程A2に使用する場合の濃度である。得られた特定重合体含有水性媒体を水性媒体で希釈して上記特定重合体濃度とし、その希釈液を工程2に使用する場合は、工程A1で希釈倍率に応じた高濃度の特定重合体含有水性媒体を製造する。希釈倍率は特に限定されるものではないが、10倍以下が好ましい。
【0026】
重合開始剤の使用量は、非フッ素系単量体全量に対して、0.2~1000質量%が好ましく、0.2~500質量%がより好ましい。
【0027】
重合開始剤の使用量は、非フッ素系単量体全量に対して、0.1~1000mol%が好ましく、0.1~300mol%がより好ましい。
【0028】
非フッ素系単量体の重合温度は、10~95℃が好ましく、50~90℃がより好ましい。重合時間は、5~400分が好ましく、5~300分がより好ましく、5~200分がさらに好ましい。
重合時の圧力条件は、減圧条件または常圧条件が好ましい。中でも、0~2.0MPaが好ましく、0~1.0MPaがより好ましく、0~0.5MPaが更に好ましい。
また、重合時の雰囲気をTFE雰囲気として、重合を行ってもよい。なお、通常、水性媒体中での非フッ素系単量体の重合が、TFEの重合よりも優先して進行する。
【0029】
上記工程A1により、特定重合体が得られる。
特定重合体は、粒子状で水性媒体中に分散していると考えられる。後述する工程A2のTFEおよび特定単量体の共重合の際に、特定重合体は乳化剤ではないが、水性媒体および変性PTFE粒子双方に対する界面張力のバランスにより特定重合体が双方の境界に存在して、変性PTFE粒子の水性媒体中における分散安定化に寄与すると推測される。
特定重合体粒子の粒子径は、0.1~100nmが好ましく、0.1~50nmがより好ましい。
【0030】
<工程A2>
工程A2は、分散液1中にて、TFE全量に対する特定単量体の使用量が0.150質量%以下の条件下、TFEおよび特定単量体の共重合を行い、変性PTFEを得る工程である。本工程を実施することにより、特定重合体により水性媒体中で分散安定化された変性PTFE粒子は、特定単量体との共重合によって、表面の界面活性能がより高くなると推測される。その結果、変性PTFEの高分子量化が促進されるとともに、延伸物性等の向上に寄与すると推測される。
以下では、まず、工程A2で使用される材料について詳述し、その後、工程A2の手順について詳述する。
【0031】
(特定重合体を含む水性媒体)
工程A2における特定重合体を含む水性媒体としては、工程A1で得られた特定重合体を含む水性媒体、または、工程A1で得られた特定重合体を含む水性媒体を水性媒体で希釈して得られる特定重合体を含む水性媒体、を使用する。
TFEの重合に使用する特定重合体含有水性媒体における特定重合体量としては、重合系に供給するTFEの全量に対して、0.001~0.050質量%が好ましく、0.001~0.020質量%がより好ましく、0.002~0.020質量%がさらに好ましく、0.003~0.016質量%が一層好ましく、0.003~0.010質量%が特に好ましい。
水性媒体としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、工程A1で例示した溶媒が挙げられる。
工程A1で得られた特定重合体含有水性媒体を希釈せずにそのまま使用する場合は、工程A2における水性媒体は工程A1の水性媒体と同じものである。工程A1で得られた特定重合体含有水性媒体を希釈して使用する場合、希釈する水性媒体が工程A1で使用した水性媒体と同じ水性媒体である場合も同様である。
【0032】
(特定単量体)
特定単量体は、TFEとの共重合の際に用いられる。特定単量体中の極性基は水性媒体に対して相互作用を示すため、TFEの重合の際にTFEと水性媒体との間に位置して、界面活性剤的な機能を示すと推測される。結果として、TFEの重合が良好に進行すると共に、連鎖移動の発生も抑制される。
【0033】
特定単量体に含まれる極性基としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸塩基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、ホスホン酸基、ホスホン酸塩基が挙げられる。なかでも、フッ素系オリゴマーの生成がより抑制される点で、式(A)で表される基または式(B)で表される基が好ましく、式(A)で表される基がより好ましい。
式(A) -SO3M
式(B) -COOM
式(A)および式(B)中、Mは、水素原子、NH4、または、アルカリ金属原子を表す。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子が挙げられる。
【0034】
特定単量体は、通常、重合性基を有し、重合性基の数は、1~3個が好ましく、1個がより好ましい。
重合性基としては、エチレン性不飽和基が好ましい。より具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、ビニル基、アリル基が挙げられ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルエステル基、ビニルエーテル基が好ましい。
【0035】
フッ素系オリゴマーの生成がより抑制される点で、特定単量体としては、式(3)で表される単量体が好ましい。
式(3) CR31R32=CR33-L3-R34
式(3)中、R31およびR32は、それぞれ独立に、水素原子またはフッ素原子を表す。
【0036】
R33は、水素原子、フッ素原子、または、フッ素原子が置換していてもよいアルキル基を表す。なかでも、TFEとの共重合性がより良好である点で、水素原子またはフッ素原子が好ましい。
なお、「フッ素原子が置換していてもよいアルキル基」とは、アルキル基中の少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基を意味する。
フッ素原子が置換していてもよいアルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1がより好ましい。
【0037】
L3は、単結合または2価の連結基を表す。なかでも、TFEとの共重合性がより良好である点で、単結合が好ましい。
2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基(2価の飽和炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基であってもよい。2価の飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、例えば、アルキレン基が挙げられる。炭素数は1~20が好ましい。また、2価の芳香族炭化水素基は、炭素数5~20が好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。それ以外にも、炭素数2~20のアルケニレン基、炭素数2~20のアルキニレン基であってもよい。)、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO2-、-C(O)-、-Si(Ra)2-、-N(Rb)-、および、これらを2種以上組み合わせた基が挙げられる。ここで、Raは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)またはフェニル基を表す。Rbは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10)を表す。
上記これらを2種以上組み合わせた基としては、例えば、-OC(O)-、-C(O)N(Rb)-、アルキレン基-O-アルキレン基、アルキレン基-OC(O)-アルキレン基、アルキレン基-Si(Ra)2-フェニレン基-Si(Ra)2が挙げられる。
なお、上記2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)が挙げられる。つまり、上記2価の炭化水素基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0038】
R34は、上記式(A)で表される基または上記式(B)で表される基を表す。
【0039】
式(3)で表される単量体としては、式(3-1)で表される単量体、式(3-2)で表される単量体、式(3-3)で表される単量体、式(3-4)で表される単量体、式(3-5)で表される単量体、および、式(3-6)で表される単量体からなる群から選択される単量体が好ましく、式(3-1)で表される単量体がより好ましい。
式(3-1) CR31R32=CR33-R34
式(3-2) CR31R32=CR33-(CF2)m1-R34
式(3-3) CR31R32=CR33-(CF2C(CF3)F)m2-R34
式(3-4) CR31R32=CR33-O-(CFR35)m3-R34
式(3-5) CR31R32=CR33-O-(CF2CFR35O)m4-CF2CF2-R34
式(3-6) CR31R32=CR33-CF2-O-(CF(CF3)CF2O)m5-CF(CF3)-R34
【0040】
式(3-1)~式(3-6)中、R31~R34の定義は、上述した通りである。
式(3-2)中、m1は1~10の整数を表す。
式(3-3)中、m2は1~5の整数を表す。
式(3-4)中、m3は1~10の整数を表す。R35は、フッ素原子またはCF3を表す。
式(3-5)中、m4は1~10の整数を表す。R35の定義は、上述した通りである。
式(3-6)中、m5は0または1~10の整数を表す。
【0041】
特定単量体の具体例としては、ビニルスルホン酸アンモニウムが挙げられる。
特定単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(重合開始剤)
工程A2では、重合開始剤を用いてもよい。つまり、TFEの重合の際に、重合開始剤を用いてもよい。
使用される重合開始剤としては、工程A1で説明した重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤としては、過硫酸塩とジコハク酸過酸化物との混合系が好ましく、過硫酸アンモニウムとジコハク酸過酸化物との混合系がより好ましい。
重合開始剤の使用量は、重合系に供給するTFEの全量に対して、0.10質量%以上が好ましく、0.10~1.5質量%がより好ましく、0.20~1.0質量%がさらに好ましい。
【0043】
(安定化助剤)
工程A2では、安定化助剤を用いてもよい。
安定化助剤としては、パラフィンワックス、フッ素系溶媒、シリコーンオイルが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。パラフィンワックスとしては、室温で、液体でも、半固体でも、固体であってもよい。なかでも、炭素数12以上の飽和炭化水素が好ましい。パラフィンワックスの融点は、40~65℃が好ましく、50~65℃がより好ましい。
安定化助剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
(その他)
また、工程A2では、本発明の効果を損なわない範囲で、TFEおよび特定単量体以外の単量体を使用してもよいが、変性PTFEの各種特性がより優れる点で、TFEの合計使用量が、工程A2で使用される単量体の合計使用量に対して、99.5質量%以上が好ましく、99.8質量%以上がより好ましい。
【0045】
(工程A2の手順)
TFEおよび特定単量体は、常法により、反応系(つまり、重合反応容器)に投入される。例えば、TFEは、重合圧力が所定の圧力となるように、連続的または断続的に反応系(重合体1)に投入される。また、例えば、特定単量体は水性媒体に溶解させて、得られた溶液が連続的または断続的に反応系(重合体1)に投入される。
重合開始剤を用いる場合、重合開始剤は反応系に一括して添加されてもよいし、分割して添加されてもよい。
【0046】
TFE全量に対する特定単量体の使用量は、0.150質量%以下である。つまり、TFE全仕込み量に対する特定単量体の仕込み量は、0.150質量%以下である。
重合中の乳液の安定性の観点からは、TFE全量に対する特定単量体の使用量は、0.100質量%以下が好ましく、0.090質量%以下がより好ましい。また、分子量向上の点からは、TFE全量に対する特定単量体の使用量は、0.020質量%以上が好ましく、0.030質量%以上がより好ましい。
なお、2種以上の特定単量体を用いる場合、特定単量体の合計使用量が上記範囲であればよい。
【0047】
TFE全量に対する特定単量体の使用量は、0.150mol%以下であるのが好ましい。つまり、TFE全仕込み量に対する特定単量体の仕込み量は、0.150mol%以下であるのが好ましい。
重合中の乳液の安定性の観点からは、TFE全量に対する特定単量体の使用量は、0.100mol%以下が好ましく、0.090mol%以下がより好ましい。また、分子量向上の点からは、TFE全量に対する特定単量体の使用量は、0.001mol%以上が好ましく、0.005mol%以上がより好ましく、0.010mol%以上がより好ましい。
なお、2種以上の特定単量体を用いる場合、特定単量体の合計使用量が上記範囲であればよい。
【0048】
重合温度は、10~95℃が好ましく、15~90℃がより好ましい。重合圧力は、0.5~4.0MPaが好ましく、0.6~3.5MPaがより好ましい。重合時間は、50~520分が好ましく、50~450分がより好ましく、50~300分がさらに好ましい。
【0049】
なお、工程A1および工程A2は、同一の重合反応容器内で連続的に行ってもよい。
また、本発明の製造方法においては、工程A1において特定粒子が形成されればよく、工程A1において完全に非フッ素系単量体が消費される前に、工程A2を実施してもよい。
【0050】
上記手順によって、変性PTFEが粒子状に分散した水性分散液(変性PTFE粒子を含む水性分散液)が得られる。水性分散液中での変性PTFE粒子の濃度は、10~45質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、水性分散液中の変性PTFE粒子をより容易に凝析でき、かつ、凝析液の白濁を抑制できる。
変性PTFE粒子の平均一次粒子径は、100~500nmが好ましく、150~300nmがより好ましい。平均一次粒子径が100nm以上であると、低い押出圧力でペースト押出成形でき、表面に波打ち等のない、表面平滑性に優れた成形物が得られやすい。平均一次粒子径が500nm以下であると、押出時の粒子間の空隙が少なくなるため、押出安定性に優れ、結果として表面平滑性に優れた成形物が得られやすい。
変性PTFE粒子の平均一次粒子径は、レーザー散乱法粒子径分布分析計により測定されるD50に該当する。
【0051】
上記手順によって得られる変性PTFEは、TFEに基づく単位(以下、TFE単位とも記す。)と、特定単量体に基づく単位と、非フッ素系単量体に基づく単位とを含む。
変性PTFEは、通常、TFE単位を主成分として含む。主成分とは、変性PTFEの全単位に対して、TFE単位の含有量が99.700質量%以上を意図し、99.900質量%以上が好ましい。TFE単位の含有量は、変性PTFEの全単位に対して、通常、99.999質量%以下である。
特定単量体に基づく単位の含有量は、変性PTFEの全単位に対して、0.020~0.150質量%が好ましく、0.030~0.100質量%がより好ましい。
なお、2種以上の特定単量体を用いる場合、それぞれの特定単量体に基づく単位の合計含有量が上記範囲であればよい。
非フッ素系単量体に基づく単位の含有量は、変性PTFEの全単位に対して、10~500質量ppmが好ましく、10~200質量ppmがより好ましく、20~200質量ppmがさらに好ましく、30~150質量ppmが特に好ましい。
なお、2種以上の非フッ素系単量体を用いる場合、それぞれの非フッ素系単量体に基づく単位の合計含有量が上記範囲であればよい。
【0052】
上記では工程A1を実施する態様について述べたが、溶液1を用意できれば他の方法でもよい。例えば、別途用意した特定重合体を水性媒体中に添加して溶液1を得た後、溶液1中にてTFEの重合を行う方法でもよい。
【0053】
<<第2実施態様>>
変性PTFEの製造方法の第2実施態様としては、以下の2つの工程を有する態様が挙げられる。
工程B1:水性媒体中で、ポリアルキレンオキシド化合物および炭化水素含有界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種と酸化剤とを混合して、分散液2を得る工程
工程B2:分散液2中にて、TFE全量に対する特定単量体の使用量が0.150質量%以下の条件下、TFEと特定単量体との共重合を行い、変性PTFEを得る工程
以下、各工程の手順について詳述する。
【0054】
<工程B1>
工程B1は、水性媒体中で、ポリアルキレンオキシド化合物および炭化水素含有界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種(以後、「核形成添加剤」ともいう。)と酸化剤とを混合して、分散液2を得る工程である。
以下では、まず、工程B1で使用される材料について詳述し、その後、工程B1の手順について詳述する。
【0055】
(ポリアルキレンオキシド化合物)
ポリアルキレンオキシド化合物は、TFEと特定単量体との重合の際の核(シード)を形成するための化合物である。言い換えれば、核形成添加剤に該当する。
ポリアルキレンオキシド化合物とは、ポリアルキレンオキシド鎖を含む化合物であり、ポリアルキレンオキシド鎖としては、例えば、ポリメチレンオキシド鎖、ポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖が挙げられる。
【0056】
ポリアルキレンオキシド化合物は、1000ppmの濃度で約40ダイン/cmを超える水中における表面張力を有するのが好ましい。上記表面張力は、約42ダイン/cm超がより好ましく、約45ダイン/cm超がさらに好ましい。上記表面張力は、約73ダイン/cm以下が好ましい。
【0057】
ポリアルキレンオキシド化合物の数平均分子量は、50~2000が好ましく、100~1500がより好ましく、150~1300がさらに好ましい。
【0058】
フッ素系オリゴマーの生成がより抑制される点で、ポリアルキレンオキシド化合物としては、式(2)で表される化合物が好ましい。
式(2) R21-(O-L2)n-O-R22
式(2)中、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アクリロイル基、または、メタクリロイル基を表す。
L2は、炭素数1~4のアルキレン基を表し、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
nは、1~50を表す。
【0059】
ポリアルキレンオキシド化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールブチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0060】
ポリアルキレンオキシド化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
(炭化水素含有界面活性剤)
炭化水素含有界面活性剤とは、炭化水素を含む界面活性剤である。より具体的には、炭素原子における1価置換基の少なくとも幾つかが水素原子であり、フッ素原子および塩素原子等のハロゲン原子による置換も可能である。好ましい炭化水素含有界面活性剤においては、炭素原子に置換する1価置換基の少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%が水素原子である。
【0062】
炭化水素含有界面活性剤としては、例えば、炭化水素界面活性剤およびシロキサン界面活性剤が挙げられる。
炭化水素界面活性剤とは、ケイ素原子を含まず、炭素原子に置換する1価置換基の100%が水素原子であるので、塩素原子およびフッ素原子等のハロゲン原子を含まない界面活性剤を意味する。
シロキサン界面活性剤とは、多数のシロキサン単位を含むシロキサン骨格を含む疎水性基を有する炭化水素含有界面活性剤を意味する。
【0063】
炭化水素界面活性剤としては、アニオン性炭化水素界面活性剤が好ましい。アニオン性炭化水素界面活性剤とは、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、および、リン酸基等の負に帯電している親水性部分と、疎水性部分としてアルキル基等の炭化水素部分とを有する炭化水素界面活性剤を意味する。
アニオン性炭化水素界面活性剤の一例としては、Resolution Performance ProductsによってVersatic(登録商標)10として供給されている、高度に分岐しているC10三級カルボン酸が挙げられる。
アニオン性炭化水素界面活性剤の他の例としては、BASFによってAvanel(登録商標)Sシリーズとして供給されている直鎖アルキルポリエーテルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0064】
アニオン性炭化水素界面活性剤としては、式(4)で表されるアニオン性炭化水素界面活性剤も好ましい。
式(4) R41-L4-M
R41は、アルキル基を表す。アルキル基は直鎖状でも、分岐鎖状でも、環状でもよく、直鎖状が好ましい。アルキル基の炭素数は、例えば、6~20が挙げられる。
L4は、-ArSO3
-、-SO3
-、-SO4
-、-PO3
-、-PO4
-、または、-COO-を表す。なお、Arは、アリーレン基を表す。
Mは、1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、例えば、H+、Na+、K+、NH4
+が挙げられる。
式(4)で表されるアニオン性炭化水素界面活性剤の具体例としては、ドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0065】
アニオン性炭化水素界面活性剤の別の例としては、Akzo Nobel Surface Chemistry LLC.から入手可能なスルホサクシネート界面活性剤Lankropol(登録商標)K8300が挙げられる。
【0066】
炭化水素界面活性剤としては、非イオン性炭化水素界面活性剤も好ましい。非イオン性炭化水素界面活性剤は、荷電基を有さないが、長鎖炭化水素であることが多い疎水性部分を有する。非イオン性炭化水素界面活性剤の親水性部分としては、エチレンオキシドの重合から得られるポリエチレンオキシド鎖等の水溶性官能基が挙げられる。
非イオン性炭化水素界面活性剤としては、様々な種類のポリアルキレンオキシドブロック、例えば、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドを有するブロックコポリマーが挙げられる。
【0067】
好適な非イオン性炭化水素界面活性剤としては、特表2016-537499号公報の段落0043~0052に記載の界面活性剤が挙げられる。
【0068】
好適なシロキサン界面活性剤としては、米国特許第6,841,616号(Willeら)および同第7,977,438号(Brothersら)に記載の界面活性剤が挙げられる。
【0069】
(酸化剤)
酸化剤としては、例えば、過酸化水素および重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤としては、上述した工程A1で説明した重合開始剤で例示された化合物が挙げられる。重合開始剤としては、過硫酸塩が好ましく、過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムがより好ましい。
【0070】
水性媒体としては、工程A1で使用される水性媒体が挙げられる。
【0071】
(工程B1の手順)
工程B1では、水性媒体中にて、核形成添加剤と酸化剤とを混合して、分散液2を得る。言い換えれば、本工程では、水性媒体中にて、核形成添加剤を酸化剤に曝露している。
水性媒体中にて、核形成添加剤と酸化剤とを混合すると、親油性核形成部位が水性媒体中に分散された分散液2が得られる。より具体的には、ポリアルキレンオキシド化合物および炭化水素含有界面活性剤等の核形成添加剤と酸化剤とを混合すると、核形成添加剤の親水性部分が分解され、核形成添加剤の疎水性部分が親油性核形成部位になる。親油性核形成部位は、水性媒体中に分散され、これらの部位において、フルオロポリマーを微細に分散させることが可能となる。
親油性核形成部位はTFEとの親和性に優れるため、親油性核形成部位が含まれる分散液2中においては、TFEの重合が進行しやすい。つまり、親油性核形成部位は、TFEが重合するための疎水性環境の場となりえる。
【0072】
核形成添加剤の使用量は、水性媒体全質量に対して、0.1~50質量ppmが好ましく、0.5~25質量ppmがより好ましい。
酸化剤の使用量は、水性媒体全質量に対して、0.5~100質量ppmが好ましく、0.5~50質量ppmがより好ましい。
核形成添加剤と酸化剤とを混合する際の温度は、20~120℃が好ましく、40~120℃がより好ましい。
核形成添加剤と酸化剤とを混合する際の混合時間は、0.05~1.00時間が好ましい。
【0073】
核形成添加剤と酸化剤とを混合する前、または、混合している間に、水溶性無機塩を水性媒体に添加するのが好ましい。水溶性無機塩の添加は、核形成中に形成されるフルオロポリマー粒子の数を増加させるのに有用である。
水溶性無機塩の使用量は、水性媒体全質量に対して、0.01~80質量ppmが好ましく、1~50質量ppmがより好ましい。
水溶性無機塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、炭酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、テトラホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二アンモニウムが挙げられ、亜硫酸塩が好ましく、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムがより好ましい。
【0074】
<工程B2>
工程B2は、分散液2中にて、TFE全量に対する特定単量体の使用量が0.150質量%以下の条件下、TFEおよび特定単量体の共重合を行い、変性PTFEを得る工程である。
本工程は、分散液1のかわりに分散液2を用いた以外は、上述した工程A2と同様の手順を実施するため、その説明を省略する。
工程B2によって得られる変性PTFEの各種特性は、工程A2によって得られる変性PTFEの各種特性で説明した通りである。ただし、工程B2によって得られる変性PTFEには、非フッ素系単量体に基づく単位は含まれない。
【0075】
<変性PTFE粉末>
変性PTFE粒子を含む水性分散液から、変性PTFE粒子からなる変性PTFE粉末(変性PTFEファインパウダー)を得る方法としては、例えば、変性PTFE粒子を凝集させる方法が挙げられる。
具体的には、変性PTFE粒子を含む水性分散液の変性PTFEの濃度が8~25質量%になるように水で希釈するなどして、水性分散液の温度を5~35℃に調整した後、水性分散液を激しく撹拌して変性PTFE粒子を凝集させる。この際、必要に応じてpHを調節してもよい。また、電解質や水溶性の有機溶媒等の凝集助剤を水性分散液に加えてもよい。
その後、適度な撹拌を行い、凝集した変性PTFE粒子を水から分離し、得られた湿潤粉末(ウェットファインパウダー)を必要に応じて造粒および整粒し、次いで、必要に応じて乾燥する。これにより変性PTFE粉末が得られる。
【0076】
上記乾燥は、湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置して行う。乾燥方法としては、例えば、真空乾燥、高周波乾燥、熱風乾燥が挙げられる。
乾燥温度は、10~300℃が好ましく、100~300℃がより好ましい。
【0077】
なかでも、未乾燥の変性PTFE粉末の乾燥は、アンモニアを含む雰囲気下で行うのが好ましい。ここで、アンモニアを含む雰囲気とは、未乾燥の変性PTFE粉末にアンモニアガスが接触し得る雰囲気を意味する。例えば、アンモニアガスを含む雰囲気や、未乾燥の変性PTFE粉末を含む水分中にアンモニアまたはアンモニアを発生する化合物が溶解していて、加熱等によってアンモニアガスが発生する雰囲気等を意味する。
アンモニアを発生する化合物としては、例えば、アンモニウム塩、尿素が挙げられる。これらの化合物は、加熱により分解してアンモニアガスを発生する。
アンモニアを含む雰囲気下で未乾燥の変性PTFE粉末を乾燥すると、物性を損なうこと無く、変性PTFE粉末のペースト押出圧力を下げられる。
【0078】
本発明の変性PTFE粉末は、テトラフルオロエチレンに基づく単位に対して極性基を有する単量体に基づく単位を0.005~0.150mol%有する。極性基を有する単量体に基づく単位は、0.010~0.100mol%であることがより好ましい。
【0079】
変性PTFE粉末の標準比重(SSG)は、2.230以下であり、2.130~2.230であることが好ましく、2.135~2.220がより好ましく、2.135~2.210がさらに好ましい。SSGは、相対的な分子量の尺度として用いられるが、その値が低いほど、分子量が高いことを意味する。
【0080】
工程A1及び工程A2によって得られる変性PTFEは、TFE単位と特定単量体に基づく単位と非フッ素系単量体に基づく単位を全て有する重合体であってもよく、TFE単位と特定単量体に基づく単位を有する重合体と非フッ素系単量体に基づく単位を有する重合体との混合物であってもよい。
【0081】
<成形物>
上述した変性PTFEは、ペースト押出成形用に好適に適用できる。
変性PTFE(特に、変性PTFE粉末)をペースト押出成形し、所望の成形品が得られる。
ペースト押出成形とは、変性PTFE粉末と潤滑剤とを混合し、変性PTFE粉末に流動性を持たせ、これを押出成形して、例えば、フィルム、チューブの成形物を成形する方法である。
潤滑剤の混合割合は、変性PTFE粉末が流動性を有するように適宜選定すればよく、例えば、変性PTFE粉末と潤滑剤との合計量を100質量%とした場合、10~30質量%が好ましく、15~20質量%がより好ましい。
潤滑剤としては、例えば、ナフサ、乾点が100℃以上の石油系炭化水素が好ましい。
混合物には、着色を目的として顔料等の添加剤を添加してもよく、強度および導電性等の付与を目的として各種充填剤を添加してもよい。
【0082】
成形物の形状としては、例えば、チューブ状、シート状、フィルム状、繊維状が挙げられる。用途としては、例えば、チューブ、電線の被覆、シール材、多孔膜、フィルターが挙げられる。
また、変性PTFE粉末をペースト押出して押出ビードを得て、押出ビードを延伸し、変性PTFEの延伸多孔体が得られる。延伸条件としては、例えば、5~1000%/秒の速度で、500%以上の延伸倍率が挙げられる。
延伸多孔体で構成される物品の形状としては、例えば、チューブ状、シート状、フィルム状、繊維状が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0084】
各種測定方法および評価方法は下記のとおりである。
(A)変性PTFE粒子の平均一次粒子径(nm)(以下、「PPS」ともいう。)
変性PTFE粒子の水性分散液を試料とし、レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所製、商品名「LA-920」)を用いて測定した。
(B)標準比重(SSG)
ASTM D4895-04に準拠して測定した。
12.0gの試料(変性PTFE粉末)を計量し、内径28.6mmの円筒金型で34.5MPaで2分間保持した。これを290℃のオーブンへ入れて120℃/hrで昇温した。さらに、380℃で30分間保持した後、60℃/hrで降温して294℃で24分間保持した。試料を23℃のデシケーター中で12時間保持した後、23℃での試料の水に対する比重値を測定し、これを標準比重とした。SSGの値が小さいほど、分子量が大きい。
(C)押出圧力の測定
室温で2時間以上放置された変性PTFE粉末(100g)を内容量500mLのガラス瓶に入れ、潤滑油(アイソパーH(登録商標)、エクソン社製)(21.7g)を添加し、3分間混合して混合物を得た。得られた混合物を25℃恒温槽に2時間放置した後に、リダクションレシオ(ダイスの入り口の断面積と出口の断面積の比)100、押出速度51cm/分の条件で、25℃にて、直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30°のオリフィスを通して、ペースト押出を行い、押出ビード(ひも状物)を得た。このときの押出に要する圧力を測定し、押出圧力(単位:MPa)とした。
(D)応力緩和時間の測定
押出圧力の測定と同様にして押出ビードを得て、これを230℃で30分間乾燥し、潤滑剤を除去した。次に、押出ビードを適当な長さに切断し、クランプ間隔3.8cmとなるように両方の末端を固定し、空気循環炉中で300℃に加熱した。続いて、延伸速度1000%/秒、総延伸2400%の条件で押出ビードを延伸し、応力緩和時間の測定用のサンプルを作製した。このサンプルの両方の末端を固定具で固定し、ぴんと張り全長25cmとした。応力緩和時間は、このサンプルを390℃のオーブン中に放置したときに破断するのに要する時間を求めた。
(E)フッ素系オリゴマーの測定
試料(変性PTFE粉末)に対して、エタノールによるソックスレー抽出を5時間行い、エタノールによる抽出物に対してLC/MS分析を行い、パーフルオロオクチルスルホン酸、パーフルオロオクタン酸を標品として、主に、炭素数6~34のCF2連鎖のオリゴマー群を定量した。オリゴマーの存在が確認される場合を「有り」、確認されない場合を「無し」とした。
なお、LC/MS分析においては、Agilent 1260シリーズHPLC/6460MSを用いて、カラムとしてはImtakt製cadenza CD-C18 2mmφ×100mm 3μm粒径を用いた。また、測定に際しては、酢酸アンモニウム水溶液とメタノールのグラジェントをかけた。
【0085】
(実施例1)
[工程A1]
100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、パラフィンワックス(1500g)、脱イオン(60L)を仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、減圧にして、n-ブチルメタクリレート(n-BMA)(1g)と脱イオン水(0.5L)とを、オートクレーブ内に注ぎながら仕込んだ。なお、n-ブチルメタクリレートの使用量が、後で使用されるTFEの全量に対して、0.011質量%となるように、n-ブチルメタクリレートを仕込んだ。
次に、オートクレーブ内を大気圧以下の状態として、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温した。その後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.053g)を脱イオン水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入し、n-ブチルメタクリレートを重合させた。
[工程A2]
10分後に、TFEで1.96MPaまで加圧し、過硫酸アンモニウム(0.54g)およびジコハク酸過酸化物(濃度80質量%、残り水)(53g)を約70℃の温水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入した。939秒後には、オートクレーブ内の内圧が1.89MPaまで降下した。なお、上記重合開始剤(過硫酸アンモニウムおよび含水ジコハク酸過酸化物)の使用量は、TFEの全量に対して、0.59質量%であった。
次に、オートクレーブ内の内圧を1.96MPaに保つようにTFEを添加し、TFEの重合を進行させた。TFEを1kg添加した後、ビニルスルホン酸アンモニウム(13.3g)を脱イオン水(1.5L)に溶解させた溶液を、供給されるTFE1kgに対して、ビニルスルホン酸アンモニウムが0.60gとなるように、供給されるTFE量を流量計で確認しながら、ビニルスルホン酸アンモニウムの供給を行った。
TFEの添加量が9kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ内のTFEを大気放出した。重合時間は99分だった。
得られた変性PTFEの水性分散液を冷却し、上澄みのパラフィンワックスを除去した。ワックスの回収率は、56%であった。水性分散液の固形分濃度(変性PTFEの濃度)は約12質量%であった。また、水性分散液中の変性PTFEの平均一次粒子径は177nmだった。
得られた水性分散液を、20℃に調整して撹拌し、変性PTFE粒子を凝集させ、変性PTFE粉末を取得した。次に、この変性PTFE粉末を、炭酸アンモニウム水溶液と共に270℃で乾燥した。
得られた変性PTFE粉末のSSGは2.182だった。押出圧力は22.3MPaだった。応力緩和時間は、92秒だった。
また、得られた変性PTFE粉末中には、フッ素系オリゴマーは確認されなかった。
【0086】
(実施例2)
供給されるTFE1kgに対するビニルスルホン酸アンモニウムの添加量を0.60gから0.90gとした以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0087】
(実施例3)
n-ブチルメタクリレートの使用量を1gから0.4g、温調後添加の過硫酸アンモニウムを0.053gから0.11g、供給されるTFE1kgに対するビニルスルホン酸アンモニウムの添加量を0.60gから0.79gとした以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0088】
(実施例4)
1gのn-ブチルメタクリレートのかわりに1gのi-ブチルメタクリレート(i-BMA)を使用した以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0089】
(実施例5)
1gのn-ブチルメタクリレートのかわりに1gのビニルメタクリレート(VMA)を使用し、供給されるTFE1kgに対するビニルスルホン酸アンモニウムの添加量を0.60gから0.62gとした以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0090】
(実施例6)
[工程B1]
100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、パラフィンワックス(1500g)、脱イオン(60L)を仕込んだ。オートクレーブを窒素置換した後、減圧にして、PEG1000(数平均分子量:1000、ポリエチレングリコール)(0.39g)と脱イオン水(0.5L)とを、オートクレーブ内に注ぎながら仕込んだ。なお、n-ブチルメタクリレートの使用量が、後で使用されるTFEの全量に対して、0.011質量%となるように、n-ブチルメタクリレートを仕込んだ。
次に、オートクレーブ内を大気圧以下の状態として、オートクレーブ内の溶液を撹拌しながら75℃に昇温した。その後、酸化剤である過硫酸アンモニウム(0.053g)を脱イオン水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入し、n-ブチルメタクリレートを重合させた。
[工程B2]
10分後に、TFEで1.96MPaまで加圧し、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.54g)およびジコハク酸過酸化物(濃度80質量%、残り水)(53g)を約70℃の温水(1L)に溶解させた溶液を、オートクレーブ内に注入した。939秒後には、オートクレーブ内の内圧が1.89MPaまで降下した。なお、上記重合開始剤(過硫酸アンモニウムおよび含水ジコハク酸過酸化物)の使用量は、TFEの全量に対して、0.59質量%であった。
次に、オートクレーブ内の内圧を1.96MPaに保つようにTFEを添加し、TFEの重合を進行させた。TFEを1kg添加した後、ビニルスルホン酸アンモニウム(13.3g)を脱イオン水(1.5L)に溶解させた溶液を、供給されるTFE1kgに対して、ビニルスルホン酸アンモニウムが0.59gとなるように、供給されるTFE量を流量計で確認しながら、ビニルスルホン酸アンモニウムの供給を行った。
TFEの添加量が9kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ内のTFEを大気放出した。重合時間は99分だった。
得られた変性PTFEの水性分散液を冷却し、上澄みのパラフィンワックスを除去した。ワックスの回収率は、57%であった。水性分散液の固形分濃度(変性PTFEの濃度)は約12質量%であった。また、水性分散液中の変性PTFEの平均一次粒子径は173nmだった。
得られた水性分散液を、20℃に調整して撹拌し、変性PTFE粒子を凝集させ、変性PTFE粉末を取得した。次に、この変性PTFE粉末を、炭酸アンモニウム水溶液と共に270℃で乾燥した。
得られた変性PTFE粉末のSSGは2.182だった。押出圧力は23.5MPaだった。応力緩和時間は、88秒だった。
また、得られた変性PTFE粉末中には、フッ素系オリゴマーは確認されなかった。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0091】
(実施例7)
1gのn-ブチルメタクリレートのかわりに1gのi-ブチルメタクリレート(i-BMA)、温調後添加の過硫酸アンモニウムを0.053gから0.11g、供給されるTFE1kgに対するビニルスルホン酸アンモニウムの添加量を0.60gから1.1gとした以外は、上記(実施例1)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0092】
(実施例8)
[工程A1]に続く[工程A2]に入る時間を、10分後から30分後に変えた以外は、上記(実施例4)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0093】
(実施例9)
[工程A1]における重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.053gを0.11gへ変えた以外は、上記(実施例8)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0094】
(実施例10)
[工程A2]におけるビニルスルホン酸アンモニウム0.60gの供給を、アクリル酸アンモニウム0.43gに変えた以外は、上記(実施例7)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
各種評価は、表1にまとめて示す。
【0095】
(比較例1)
ビニルスルホン酸アンモニウムに代えてラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を用いて、SLSの供給量を供給されるTFE1kgに対して1.48gとなるように、TFE量の供給量を流量計で確認しながら、ラウリル硫酸ナトリウムを供給し、乾燥温度を270℃から220℃に変更した以外は、上記(実施例6)と同様の手順に従って、変性PTFEの水性分散液を得て、変性PTFE粉末を得た。
なお、得られた変性PTFE粉末中には、フッ素系オリゴマー群(H(CF2CF2)nSO3H(n=3~16))として、n=9、10付近をピークとした分布があり、合計で230ppm検出された。
【0096】
表1中、「SLS(g/TFEkg)」欄は、供給されるTFE1kgに対するSLSの添加量を表す。
「APS(g)」欄は、温調後添加の過硫酸アンモニウムの使用量を表す。
「非フッ素系単量体使用量(質量%)」は、TFEの全量に対する、使用された非フッ素系単量体の使用量の割合(使用質量割合)を表す。
「PEG使用量(質量ppm)」欄は、水性媒体全質量に対する、PEG1000の使用量の割合を表す。
「特定単量体使用量(質量%)」は、TFEの全量に対する、使用された特定単量体の使用量の割合(使用質量割合)を表す。
「非フッ素系単量体使用量(mol%)」は、TFEの全量に対する、使用された非フッ素系単量体の使用量の割合(mol割合)を表す。
「特定単量体使用量(mol%)」は、TFEの全量に対する、使用された特定単量体の使用量の割合(mol割合)を表す。
【0097】
【0098】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、フッ素系オリゴマーの生成がなく、効率よく変性PTFE(変性PTFE粒子の水性分散液)を製造できる。
なお、2018年4月27日に出願された日本特許出願2018-087280号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。