IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-イオン交換膜、レドックスフロー電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】イオン交換膜、レドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20231130BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20231130BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20231130BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20231130BHJP
   C08F 14/18 20060101ALI20231130BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20231130BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231130BHJP
【FI】
C08J5/22 101
C08J5/22 CEW
H01M8/1067
H01M8/18
H01M8/1018
C08F14/18
C25B13/08 302
C25B9/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553250
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040724
(87)【国際公開番号】W WO2020080427
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018197566
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】角倉 康介
(72)【発明者】
【氏名】早部 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 達也
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓久央
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-163858(JP,A)
【文献】特開2015-158017(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100079(WO,A1)
【文献】特開2005-294171(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047925(WO,A1)
【文献】特許第5474762(JP,B2)
【文献】特開2001-323084(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088298(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C25B 1/00- 9/20、 13/00- 15/08
H01B 1/02- 1/24
H01M 8/00- 8/0297、 8/08- 8/2495
C08F 14/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜であって、
前記含フッ素ポリマーが、含フッ素オレフィンに基づく単位と、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位とを含み、
前記含フッ素オレフィンが、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数2~3のフルオロオレフィンであり、
前記スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位が、式(1-4)で表される単位であり、
X線小角散乱法によって測定されるイオンクラスター間の距離Dと、イオンクラスターの直径Dcとの差(D-Dc)が、0より大きく、0.0nm以下であり、
レドックスフロー電池に用いることを特徴とするイオン交換膜。
式(1-4) -[CF -CF(-(CF -(OCF CFY) -O-(CF -SO M)]-
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、xは0または1であり、yは0~2の整数であり、zは1~4の整数であり、YはFまたはCF である。
【請求項2】
前記イオン交換膜の膜厚が30~100μmである、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
補強材をさらに含む、請求項1又は2に記載のイオン交換膜。
【請求項4】
前記含フッ素ポリマーのイオン交換容量が0.95ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項5】
充放電時の電流密度が120mA/cm以上であるレドックスフロー電池に用いる、請求項1~のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
正極、負極、電解液、及び、請求項1~のいずれか1項に記載のイオン交換膜を含むレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜およびレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気を蓄電および放電できる2次電池が注目されており、中でもレドックスフロー電池が注目されている。レドックスフロー電池は、例えば、風力発電および太陽光発電等の自然エネルギーの発電による余剰電極の蓄電するシステムとして利用できる。特許文献1には、正極および負極がイオン交換膜によって区切られたレドックスフロー電池が開示されている(段落0063等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-097219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、レドックスフロー電池の性能向上のために、イオン交換膜に求められる要求性能が高まっている。具体的には、レドックスフロー電池の充放電する際の電力効率が高くなるようなイオン交換膜が望ましい。電力効率を高くするには、電圧効率と電流効率の少なくとも一方を向上させる必要がある。なお、従来、電流効率を高めようとすると、電圧効率が大きく低下するという関係にあった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、レドックスフロー電池に適用した際に、電流効率に優れ、かつ、電圧効率の低下を抑制できる、イオン交換膜の提供を目的とする。
また、本発明は、レドックスフロー電池の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、イオン交換膜のイオンクラスター間の距離Dとイオンクラスターの直径Dcとの差(D-Dc)の調整により、所望の効果が得られるのを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できるのを見出した。
【0007】
[1] スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換膜であって、
X線小角散乱法によって測定されるイオンクラスター間の距離Dと、イオンクラスターの直径Dcとの差(D-Dc)が、0より大きく、0.50nm以下であることを特徴とするイオン交換膜。
[2] D-Dcが0より大きく、0.40nm以下である、[1]に記載のイオン交換膜。
[3] 前記イオン交換膜の膜厚が30~100μmである、[1]又は[2]に記載のイオン交換膜。
[4] 前記含フッ素ポリマーが、含フッ素オレフィンに基づく単位と、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位とを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
[5] 含フッ素オレフィンが、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数2~3のフルオロオレフィンである、[4]に記載のイオン交換膜。
[6] 前記スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位が、式(1)で表される単位である、[4]に記載のイオン交換膜。
式(1) -[CF-CF(-L-(SOM))]-
Lは酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基であり、Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、nは1または2である。
[7] 前記式(1)で表される単位が、式(1-4)で表される単位である、[6]に記載のイオン交換膜。
式(1-4) -[CF-CF(-(CF-(OCFCFY)-O-(CF-SOM)]-
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンであり、xは0または1であり、yは0~2の整数であり、zは1~4の整数であり、YはFまたはCFである。
[8] 補強材をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
[9] レドックスフロー電池に用いる、[1]~[8]のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
[10] 前記含フッ素ポリマーのイオン交換容量が0.95ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上である、[1]~[9]のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
[11] 充放電時の電流密度が120mA/cm以上であるレドックスフロー電池に用いる、[1]~[10]のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
[12]正極、負極、電解液、及び、[1]~[11]のいずれか1項に記載のイオン交換膜を含むレドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レドックスフロー電池に適用した際に、電流効率に優れ、かつ、電圧効率の低下を抑制できる、イオン交換膜の提供できる。特に、充放電時の電流密度が高いレドックスフロー電池(充放電時の電流密度が120mA/cm以上のレドックスフロー電池)に適用した際に、電流効率に優れ、かつ、電圧効率の低下を抑制できる、イオン交換膜の提供できる。
また、本発明によれば、レドックスフロー電池の提供もできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】イオンクラスター間の距離Dと、イオンクラスターの直径Dcとを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における下記の用語の意味は以下の通りである。
「イオン交換基」とは、この基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換しうる基であり、下記のスルホン酸型官能基等が挙げられる。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(-SOH)、またはスルホン酸塩基(-SO。ただし、Mはアルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。)を意味する。
「前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するポリマーを含む膜である。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「ペルフルオロ炭化水素基」とは、水素原子の全てがフッ素原子で置換された炭化水素基を意味する。
「ペルフルオロ脂肪族炭化水素基」とは、水素原子の全てがフッ素原子で置換された脂肪族炭化水素基を意味する。
【0011】
ポリマーにおける「単位」は、モノマーが重合することによって形成された、該モノマー1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを処理することによって該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。
【0012】
「補強材」は、イオン交換膜の強度を向上させるために用いられる部材を意味する。補強材としては、補強布に由来する材料が好ましい。
「補強布」は、イオン交換膜の強度を向上させるための補強材の原料として用いられる布を意味する。
「補強糸」は、補強布を構成する糸であり、イオン交換膜を含む電池の運転環境下で溶出しない糸である。「補強糸」としては、補強布をアルカリ性水溶液(例えば、濃度が32質量%の水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬しても溶出しない材料からなる糸が好ましい。
「犠牲糸」は、補強布を構成する糸であり、イオン交換膜を含む電池の運転環境下でその少なくとも一部が溶出する糸である。「犠牲糸」としては、補強布をアルカリ性水溶液に浸漬したときに、アルカリ性水溶液に溶出する材料からなる糸が好ましい。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[イオン交換膜]
本発明のイオン交換膜は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマー(以後、「含フッ素ポリマー(S)」ともいう)を含むイオン交換膜であって、X線小角散乱法によって測定されるイオンクラスター間の距離Dと、イオンクラスターの直径Dcとの差(D-Dc)が、0より大きく、0.50nm以下であり、好ましくは0より大きく、0.40nm以下であり、より好ましくは0より大きく、0.30nm以下である。
【0014】
本発明のイオン交換膜を用いたレドックスフロー電池であれば、電流効率に優れ、かつ、電圧効率の低下が抑制される。この理由としては、以下のように考えられる。
本発明のイオン交換膜が含フッ素ポリマー(S)からなる場合には、本発明のイオン交換膜においては、含フッ素ポリマー(S)の骨格をなすフッ素化炭化水素部分を形成する疎水部分と、イオン交換基であるスルホン酸型官能基とがミクロに分離した構造となり、結果として、複数のスルホン酸型官能基が集まり、その周辺に配位している水分子が集められて、イオンクラスターが形成される。
すなわち、本発明のイオン交換膜のイオンクラスターは、含フッ素ポリマー(S)の骨格をなすフッ素化炭化水素部分を形成する疎水部分と、イオン交換基であるスルホン酸型官能基が複数集まった部分と、その周辺に配位している水分子とからなるものであると考えられる。
より具体的には、本発明のイオン交換膜においては、図1に示すように、2個の大きいサイズのイオンクラスター10と、その間を繋ぐ小さなサイズのイオンチャンネル12とが形成される。結果として、膜の厚み方向に連続してイオンチャンネルが通じ、これがイオン(特にプロトンHの)伝導通路(チャンネル)として機能する。
なお、本発明のイオン交換膜が、含フッ素ポリマー(S)に加えて、それ以外のポリマーを含む場合にも、イオン交換膜が含フッ素ポリマー(S)からなる場合と同様に、含フッ素ポリマー(S)およびそれ以外のポリマーのイオン交換基の会合によって、イオンクラスターが形成されると考えられる。
本発明者らは、従来技術においては、膜抵抗が高くなって、電圧効率が低下するという問題を見出している。本発明によれば、上記D-Dcによって表されるイオンチャンネルの長さを所定値以下にすることにより、膜抵抗が低下する結果、優れた電流効率を維持しつつ、かつ、電圧効率の低下を抑制できたと推測される。
特に、本発明のイオン交換膜は、上述の効果がより発揮される点で、充放電時の電流密度が高いレドックスフロー電池に好適である。なお、本明細書において「充放電時の電流密度が高い」とは、レドックスフロー電池の充放電時の電流密度が120mA/cm以上であることを意味し、通常、120~1000mA/cmである。
【0015】
フッ素系イオン交換樹脂(フッ素原子を有するイオン交換樹脂)を含むイオン交換膜中のイオン伝導モデルに関しては種々のモデルが提案されている。なかでも、Gierkeらにより提案されているイオンクラスターモデルが広く一般に知られている(引用文献:GIERKE, T. D.; MUNN, G. E.; WILSON, FCd. The morphology in nafion perfluorinated membrane products, as determined by wide‐and small‐angle x‐ray studies. Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics, 1981, 19.11: 1687-1704.)。
上記文献においては、以下の3つの式が記載されており、これらよりイオンクラスター直径Dcを求める旨が記載されている。
式(A) ΔV=ρΔm/ρ
式(B) Vc=[ΔV/(1+ΔV)]D+NpVp
式(C) Dc=(6Vc/π)1/3
上記式中、ΔVはポリマーの体積変化、ρはポリマーの密度、ρは水の密度、Δmはポリマーの含水割合、Vcはクラスター体積、Dはイオンクラスター間の距離、Npはクラスター中のイオン交換サイトの数、Vpはイオン交換基部分の体積を表す。
【0016】
本明細書においては、上記文献に記載のイオンクラスターモデルを用いて、イオンクラスターの直径Dc、および、イオンクラスター連結部距離D-Dcを求める。
なお、文献中において、上記式(B)中のVpはイオン交換基部分の体積(厚み)部分を示す項で、その値は68×10-24cmで与えられ、イオン交換基サイトの有効半径である0.25nmと一致する、との記載がある。本明細書におけるイオンクラスター直径Dcには、このイオン交換基部分の有効半径を含まない形とするため、Vpはゼロとして計算する。つまり、本明細書において、上記式(B)はVc=[ΔV/(1+ΔV)]Dとして取り扱う。
従って、本明細書においては、イオンクラスターの直径Dcは、以下の式(D)により求められる。
式(D) Dc={(ΔV/(1+ΔV))×D×(6/π)}1/3
上記直径Dcを算出する際に用いるイオンクラスター間の距離Dは、後述する実施例欄に記載のX線小角散乱法によって求められる値を用いる。
また、ΔVの算出方法は、後述する実施例欄にて詳述する。
【0017】
X線小角散乱法によって測定されるイオンクラスター間の距離Dは、電流効率と電圧効率のバランスの点から、3.50nm以上が好ましく、4.00nm以上がより好ましく、4.30nm以上がさらに好ましい。また、5.00nm以下が好ましく、4.80nm以下がより好ましく、4.50nm以下がさらに好ましい。
【0018】
イオンクラスター間の距離Dと、イオンクラスターの直径Dcとの差(D-Dc)は、0より大きく、0.50nm以下であり、電流効率と電圧効率のバランスの点から、好ましくは0より大きく、0.40nm以下であり、より好ましくは0より大きく、0.30nm以下である。
本発明のイオン交換膜は後述する方法によって製造することができるが、(D-Dc)の値は、イオン交換膜を製造する際の加水分解条件や加水分解後の膜の乾燥条件で調整できる。
【0019】
含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、0.95ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましい。含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が0.95ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上の場合、特に、電圧効率がより高まる。なかでも、電圧効率がより優れる点から、含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は1.00ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上が好ましい。
なお、電流効率と電圧効率のバランスの点から、含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、2.05ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下が好ましく、1.50ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下がより好ましく、1.30ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下がさらに好ましい。
【0020】
イオン交換膜の膜厚は、一定の強度を保つ点から、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、電流効率および電圧効率を高める点から、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0021】
イオン交換膜に使用される含フッ素ポリマー(S)は1種でもよく、2種以上を積層または混合して使用してもよい。
また、イオン交換膜は、含フッ素ポリマー(S)以外のポリマーを含んでいてもよいが、実質的に含フッ素ポリマー(S)からなるのが好ましい。実質的に含フッ素ポリマー(S)からなるとは、イオン交換膜中のポリマーの合計質量に対して、含フッ素ポリマー(S)の含有量が90質量%以上であるのを意味する。含フッ素ポリマー(S)の含有量の上限としては、イオン交換膜中のポリマーの合計質量に対して、100質量%が挙げられる。
含フッ素ポリマー(S)以外の他のポリマーの具体例としては、環内に窒素原子を1個以上含む複素環化合物の重合体、並びに、環内に窒素原子を1個以上と酸素原子および/または硫黄原子とを含む複素環化合物の重合体からなる群から選択される1種以上のポリアゾール化合物が挙げられる。
ポリアゾール化合物の具体例としては、ポリイミダゾール化合物、ポリベンズイミダゾール化合物、ポリベンゾビスイミダゾール化合物、ポリベンゾオキサゾール化合物、ポリオキサゾール化合物、ポリチアゾール化合物、ポリベンゾチアゾール化合物が挙げられる。
また、イオン交換膜の耐酸化性やイオンクラスター直径の制御の点から、他のポリマーとしては、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂も挙げられる。
【0022】
含フッ素ポリマー(S)は、含フッ素オレフィンに基づく単位およびスルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位を含むのが好ましい。
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2~3のフルオロオレフィンが挙げられる。フルオロオレフィンの具体例としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。なかでも、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S)の特性に優れる点から、TFEが好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位としては、式(1)で表される単位が好ましい。
式(1) -[CF-CF(-L-(SOM))]-
【0024】
Lは、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ炭化水素基である。
酸素原子は、ペルフルオロ炭化水素基中の末端に位置していても、炭素原子-炭素原子間に位置していてもよい。
n+1価のペルフルオロ炭化水素基中に炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0025】
Lとしては、酸素原子を含んでいてもよいn+1価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基が好ましく、n=1の態様である、酸素原子を含んでいてもよい2価のペルフルオロアルキレン基、または、n=2の態様である、酸素原子を含んでいてもよい3価のペルフルオロ脂肪族炭化水素基がより好ましい。
上記2価のペルフルオロアルキレン基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0026】
Mは、水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
nは、1または2である。
【0027】
式(1)で表される単位としては、式(1-1)で表される単位、式(1-2)で表される単位、または、式(1-3)で表される単位が好ましい。
式(1-1) -[CF-CF(-O-Rf1-SOM)]-
式(1-2) -[CF-CF(-Rf1-SOM)]-
【0028】
【化1】
【0029】
f1は、炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0030】
f2は、単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。上記ペルフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0031】
rは0または1である。
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
【0032】
式(1)で表される単位としては、式(1-4)で表される単位がより好ましい。
式(1-4) -[CF-CF(-(CF-(OCFCFY)-O-(CF-SOM)]-
xは0または1であり、yは0~2の整数であり、zは1~4の整数であり、YはFまたはCFである。Mは、上述した通りである。
【0033】
式(1-1)で表される単位の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF-CF(-O-(CF-SOM)]-
-[CF-CF(-O-CFCF(CF)-O-(CF-SOM)]-
-[CF-CF(-(O-CFCF(CF))-SOM)]-
【0034】
式(1-2)で表される単位の具体例としては、以下の単位が挙げられる。式中のwは1~8の整数である。式中のMの定義は、上述した通りである。
-[CF-CF(-(CF-SOM)]-
-[CF-CF(-CF-O-(CF-SOM)]-
【0035】
式(1-3)で表される単位としては、式(1-3-1)で表される単位が好ましい。式中のMの定義は、上述した通りである。
【0036】
【化2】
【0037】
f3は炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、Rf4は単結合または炭素原子-炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。rおよびMの定義は、上述した通りである。
【0038】
式(1-3)で表される単位の具体例としては、以下が挙げられる。
【0039】
【化3】
【0040】
スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
含フッ素ポリマー(S)は、含フッ素オレフィンに基づく単位、並びに、スルホン酸型官能基およびフッ素原子を有するモノマーに基づく単位以外の、他のモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
他のモノマーの具体例としては、CF=CFRf5(ただし、Rf5は炭素数2~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF=CF-ORf6(ただし、Rf6は炭素数1~10のペルフルオロアルキル基である。)、CF=CFO(CFCF=CF(ただし、vは1~3の整数である。)が挙げられる。
他のモノマーに基づく単位の含有量は、イオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマー(S)中の全単位に対して、30質量%以下が好ましい。
【0042】
イオン交換膜は、単層構造であっても、多層構造であってもよい。多層構造である場合、例えば、含フッ素ポリマー(S)を含み、イオン交換容量や単位が互いに異なる層を複数積層させる態様が挙げられる。
【0043】
また、イオン交換膜は、その内部に補強材を含んでいてもよい。つまり、イオン交換膜は、含フッ素ポリマー(S)と補強材とを含む態様であってもよい。
補強材は、補強布(好ましくは、織布)を含むのが好ましい。補強布以外にも、フィブリル、多孔体が補強材として挙げられる。
補強布は、経糸と緯糸とからなり、経糸と緯糸とが直交しているのが好ましい。補強布は、補強糸と犠牲糸とからなるのが好ましい。
【0044】
補強糸としては、ポリテトラフルオロエチレンからなる補強糸、ポリフェニレンサルファイドからなる補強糸、ナイロンからなる補強糸およびポリプロピレンからなる補強糸からなる群から選ばれる少なくとも1種の補強糸が好ましい。
【0045】
犠牲糸は、1本のフィラメントからなるモノフィラメントであっても、2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントであってもよい。
イオン交換膜の製造時およびイオン交換膜の電池への装着時などのハンドリング中は、犠牲糸によってイオン交換膜の強度が保たれるが、電池の運転環境下で犠牲糸が溶解するため膜の抵抗を低下させることができる。
【0046】
また、イオン交換膜の表面には、無機物粒子とバインダーとを含む無機物粒子層がさらに配置されていてもよい。無機物粒子層は、イオン交換膜の少なくとも一方の表面に設けられるのが好ましく、両表面に設けられるのがより好ましい。
イオン交換膜が無機物粒子層を有すると、イオン交換膜の親水性が向上し、イオン伝導度が向上する。
【0047】
[イオン交換膜の製造方法]
本発明のイオン交換膜は、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの膜(以下、「前駆体膜」ともいう。)を製造し、次に、前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換して製造するのが好ましい。
【0048】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーとしては、含フッ素オレフィンと、スルホン酸型官能基に変換できる基およびフッ素原子を有するモノマー(以下、「含フッ素モノマー(S’)」ともいう。)との共重合ポリマー(以下、「含フッ素ポリマー(S’)」ともいう。)が好ましい。
共重合の方法は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など公知の方法を採用できる。
【0049】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S)の特性に優れる点から、TFEが好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
含フッ素モノマー(S’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつ、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物が挙げられる。
含フッ素モノマー(S’)としては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマー(S)の特性に優れる点から、式(2)で表される化合物が好ましい。
式(2) CF=CF-L-(A)
式(2)中のLおよびnの定義は、上述した通りである。
Aは、スルホン酸型官能基に変換できる基である。スルホン酸型官能基に変換できる基は、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換し得る官能基が好ましい。スルホン酸型官能基に変換できる基の具体例としては、-SOF、-SOCl、-SOBrが挙げられる。
【0051】
式(2)で表される化合物としては、式(2-1)で表される化合物、式(2-2)で表される化合物、式(2-3)で表される化合物が好ましい。
式(2-1) CF=CF-O-Rf1-A
式(2-2) CF=CF-Rf1-A
【0052】
【化4】
【0053】
式中のRf1、Rf2、rおよびAの定義は、上述した通りである。
【0054】
式(2)で表される化合物としては、式(2-4)で表される化合物がより好ましい。
式(2) CF=CF-(CF-(OCFCFY)-O-(CF-SO
式中のM、x、y、zおよびYの定義は、上述した通りである。
【0055】
式(2-1)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。式中のwは1~8の整数であり、xは1~5の整数である。
CF=CF-O-(CF-SO
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-(CF-SO
CF=CF-[O-CFCF(CF)]-SO
【0056】
式(2-2)で表される化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。式中のwは、1~8の整数である。
CF=CF-(CF-SO
CF=CF-CF-O-(CF-SO
【0057】
式(2-3)で表される化合物としては、式(2-3-1)で表される化合物が好ましい。
【0058】
【化5】
【0059】
式中のRf3、Rf4、rおよびAの定義は、上述した通りである。
【0060】
式(2-3-1)で表される化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
【0061】
【化6】
【0062】
含フッ素モノマー(S’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
含フッ素ポリマー(S’)の製造には、含フッ素オレフィンおよび含フッ素モノマー(S’)に加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。
【0063】
含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(S’)中の含フッ素モノマー(S’)に基づく単位の含有量を変化させて、調整できる。含フッ素ポリマー(S)中のスルホン酸型官能基の含有量は、含フッ素ポリマー(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基の含有量と同一であるのが好ましい。
【0064】
前駆体膜の製造方法の具体例としては、押し出し法が挙げられる。
また、上述した多層構造のイオン交換膜を製造する際には、共押し出し法によってスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる複数の層を積層させる態様が挙げられる。
【0065】
前駆体膜中のスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換する方法の具体例としては、前駆体膜に加水分解処理または酸型化処理等の処理を施す方法が挙げられる。
なかでも、前駆体膜とアルカリ性水溶液とを接触させる方法が好ましい。
【0066】
前駆体膜とアルカリ性水溶液とを接触させる方法の具体例としては、前駆体膜をアルカリ性水溶液中に浸漬する方法、前駆体膜の表面にアルカリ性水溶液をスプレー塗布する方法が挙げられる。
アルカリ性水溶液の温度は、イオンクラスターのサイズ(すなわち、(D-Dc)の値)の調整の点から、30~70℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触時間は、(D-Dc)の値の調整の点から、100分以下が好ましく、3~80分が好ましく、20~60分がより好ましい。
なお、アルカリ性水溶液の温度は70℃超であってもよいが、その場合、(D-Dc)の値の調整の点から、後述するように、前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、得られたイオン交換膜を乾燥する処理を行うのが好ましい。
【0067】
アルカリ性水溶液は、(D-Dc)の値の調整の点から、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤および水を含むのが好ましい。
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
本明細書において、水溶性有機溶剤とは、水に容易に溶解する有機溶剤であり、具体的には、水1000ml(20℃)に対する溶解性が、0.1g以上の有機溶剤が好ましく、0.5g以上の有機溶剤がより好ましい。水溶性有機溶剤は、非プロトン性有機溶剤、アルコール類およびアミノアルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むのが好ましく、非プロトン性有機溶剤を含むのがより好ましい。
水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
非プロトン性有機溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンが挙げられ、ジメチルスルホキシドが好ましい。
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエトキシエタノール、ブトキシエタノール、ブチルカルビトール、ヘキシルオキシエタノール、オクタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールが挙げられる。
アミノアルコール類の具体例としては、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、1-アミノ-3-プロパノール、2-アミノエトキシエタノール、2-アミノチオエトキシエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが挙げられる。
【0069】
アルカリ金属水酸化物の濃度は、(D-Dc)の値の調整の点から、アルカリ性水溶液中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、5~50質量%がさらに好ましい。
水溶性有機溶剤の含有量は、(D-Dc)の値の調整の点から、アルカリ性水溶液中、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、4~50質量%がさらに好ましい。
水の濃度は、(D-Dc)の値の調整の点から、アルカリ性水溶液中、39~80質量%が好ましい。
【0070】
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、アルカリ性水溶液を除去する処理を行ってもよい。アルカリ性水溶液を除去する方法としては、例えば、アルカリ性水溶液で接触させた前駆体膜を水洗する方法が挙げられる。
前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後に、得られたイオン交換膜を乾燥する処理を行ってもよい。(D-Dc)の値の調整の点から、乾燥の処理としては加熱処理が好ましく、その際の加熱温度は50~160℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。加熱時間は、6~24時間が好ましい。
【0071】
また、必要に応じて、前駆体膜とアルカリ性水溶液との接触後(または、上記乾燥処理後)に、得られたイオン交換膜を酸性水溶液と接触させて、スルホン酸型官能基を-SOHに変換してもよい。
酸性水溶液中の酸の具体例としては、硫酸、塩酸が挙げられる。
【0072】
上述したように、イオン交換膜には補強材が含まれていてもよい。
補強材を含むイオン交換膜を製造する際には、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーと補強材とを含む前駆体膜を用いる。スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーと補強材とを含む前駆体膜の製造方法としては、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む層、補強材、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む層をこの順に配置して、積層ロールまたは真空積層装置を用いてこれらを積層する方法が挙げられる。
【0073】
[レドックスフロー電池]
本発明のレドックスフロー電池(レドックスフロー二次電池)は、正極と負極とを備えるセルと、上記イオン交換膜と、を有し、上記イオン交換膜が、正極と負極とを区切るように上記セル内に配置されている。イオン交換膜によって区切られた正極側の正極セル室には活物質を含む正極電解液が含まれ、イオン交換膜によって区切られた負極側の負極セル室には活物質を含む負極電解液が含まれる。
バナジウム系レドックスフロー電池の場合、正極セル室には、バナジウム4価(V4+)およびバナジウム5価(V5+)を含む硫酸電解液からなる正極電解液を、負極セル室には、バナジウム3価(V3+)およびバナジウム2価(V2+)を含む負極電解液を流通させて、電池の充電および放電が行われる。このとき、充電時には、正極セル室においては、バナジウムイオンが電子を放出するためV4+がV5+に酸化され、負極セル室では外路を通じて戻って来た電子によりV3+がV2+に還元される。この酸化還元反応では、正極セル室ではプラス電荷(陽電荷)が過剰となり、一方、負極セル室では、プラス電荷(陽電荷)が不足する。隔膜は正極セル室のプロトンを選択的に負極室に移動させることで電気的中性が保たれる。放電時には、この逆の反応が進む。
【実施例
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0075】
[イオン交換膜の膜厚]
イオン交換膜の膜厚は、イオン交換膜を90℃で2時間乾燥させた後、イオン交換膜断面を光学顕微鏡にて観察し、画像解析ソフトを用いて求めた。
【0076】
[含フッ素ポリマーのイオン交換容量]
含フッ素ポリマー(S)を、1/10気圧(76mmHg)以下の減圧下に90℃で16時間放置した後の質量を測定し、含フッ素ポリマー(S)の乾燥樹脂の質量とした。乾燥した含フッ素ポリマー(S)を2モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に60℃で1時間浸漬した。含フッ素ポリマー(S)を超純水で洗浄した後、取り出し、含フッ素ポリマー(S)を浸漬していた液を0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、滴定した値を使用した乾燥樹脂の質量で割ることによって、含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量を求めた。
【0077】
[クラスター間の距離(D)]
測定対象であるイオン交換膜を、1Mの硫酸水溶液に24時間浸漬後、続いて25℃の水に24時間浸漬し、得られた湿潤状態のイオン交換膜に対してX線回折測定装置を用いて測定を行い、得られた散乱光強度のピークを示す角度を算出した。
X線小角散乱法の測定手順としては、湿潤状態のイオン交換膜を薄いフィルムの袋(小角X線散乱光強度のピークのないものが望ましい)の中に水とともに密閉して試料台に設置した。測定は室温下で実施し、散乱プロフィールを例えばqレンジで0.1~5(nm-1)程度の範囲で測定した。ここで、qはq=4π/λ×sin(θ/2)で定義される散乱ベクトルの絶対値であり、λは入射X線の波長、θは散乱角を意味する。
X線小角散乱測定には「あいちシンクロトロンBL8S3」を用い、入射X線の波長は1.5Å(8.2keV)、ビームサイズは約850μm×280μm、カメラ長は1121mm、検出器はR-AXIS IV(イメージングプレート)を用い、露光時間は60secとした。データ処理は得られた2次元データを円環平均処理し1次元化した後に、イメージングプレート読み取り時のバックグランド補正、透過率補正、空気散乱および空セル補正、試料厚み補正を行った。
上記手順によって得られる散乱プロフィールにおいて検出されるピークがイオン交換膜中の構造の規則性の存在を示している。一般にq=0.8~4(nm-1)の範囲に検出されるピーク位置(q)がイオンクラスター間の間隔を示す因子である。
このピーク位置を下式(E)より、イオンクラスター間の間隔Dを算出した。
式(E) D=2π/q(nm)
【0078】
[イオンクラスターの直径(Dc)]
測定対象であるイオン交換膜の4cm×4cmのサンプルを1Mの硫酸水溶液に24時間浸漬後、続いて25℃の水に24時間浸漬した後に得られる湿潤状態のイオン交換膜の質量(W1)と、湿潤状態のイオン交換膜を90℃で16時間、1/10気圧(76mmHg)以下の減圧環境下で放置して乾燥させた乾燥状態のイオン交換膜の質量(W2)とを算出した。得られたW1およびW2を用いて、式(F)に示す含水割合(Δm)を算出した。
式(F) Δm=(W1-W2)/W2
次に、上述したように、Gierkeらにより提案されているイオンクラスターモデルを参考にして、イオンクラスターの直径Dcを算出した。具体的には、イオンクラスターの直径Dcは、以下の式(D)により求めた。
式(D) Dc={(ΔV/(1+ΔV))×D×(6/π)}1/3
式(D)中のDは、上記式(E)より算出される値(nm)であり、ΔVは式(A)により算出した。
式(A) ΔV=ρΔm/ρ
なお、式(A)中、Δmとしては上記により算出された値を、ρとしてはスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの密度である2.1(g/cm)を、ρとしては水の密度である1.0(g/cm)を用いた。
【0079】
[電流効率、電圧効率、電力効率]
後述する手順により得られたイオン交換膜の両面に、液透過性のカーボンフェルトを設置した。次に、カーボンフェルトが両面に設置されたイオン交換膜をグラファイト電極で挟み込み、所定の圧力を加えて、グラファイト電極、カーボンフェルト、イオン交換膜、カーボンフェルト、グラファイト電極をこの順で有する積層体を得た。さらに、PTFE製のセル室枠内に、得られた積層体を配置して、セル室枠内を積層体で仕切り、充放電セルを構成した。
その片側のセル室を正極側とし、逆側のセル室を負極側とし、正極側にはバナジウム4価およびバナジウム5価を含む硫酸電解液からなる液を、負極側にはバナジウム3価およびバナジウム2価を含む硫酸電解液を流通させながら、充放電試験を行った。
充放電の電流密度は200mA/cmとし、正極側および負極側共に、バナジウムイオンの全濃度は1.6mol/Lとした。
電流効率(%)は、放電時に取り出せた電気量を、充電時に必要となった電気量で除して求めた。つまり、以下の式によって求めた。
電流効率(%)={(放電時に取り出せた電気量)/(充電時に必要となった電気量)}×100
電圧効率(%)は、放電時の平均セル電圧を充電時の平均セル電圧で除して求めた。つまり、以下の式によって求めた。
電圧効率(%)={(放電時の平均セル電圧)/(充電時の平均セル電圧)}×100 電力効率(%)は、電流効率と電圧効率との積に該当する。
なお、電流効率が高い場合、充放電を通して、イオン交換膜における不要なバナジウムイオンの透過が抑えられているのを意味する。
また、電圧効率が高い場合、充放電セルの抵抗(イオン交換膜抵抗、溶液抵抗、接触抵抗およびその他の抵抗の合計)が小さい。
電力効率が高い場合、充放電におけるエネルギー損失が小さい。
【0080】
[実施例1]
TFEと、下式(X)で表されるモノマーとを重合させて得られたポリマーS1をペレット製造用の溶融押出し機に供給して、ポリマーS1のペレットを得た。
CF=CF-O-CFCF(CF)-O-CFCF-SOF ・・・(X)
その後、ポリマーS1のペレットをフィルム製造用の溶融押出し機に供給して、押し出し法によってフィルム状に成形し、ポリマーS1からなる前駆体膜を製造した。
得られた前駆体膜を、膜の外周がPTFEパッキンでシールされた状態で、55℃に加温した5.5質量%のジメチルスルホキシドおよび30質量%の水酸化カリウムのアルカリ性水溶液に接触させ、60分間処理を行った。
上記処理後、得られたフィルムを水洗し、実施例1のイオン交換膜を得た。
【0081】
[実施例2~3、比較例1~3]
表1に示すように、加水分解後のイオン交換容量、イオン交換膜の厚み、アルカリ性水溶液の組成・温度、アルカリ性水溶液との接触時間を調整した以外は、実施例1と同様の手順に従って、イオン交換膜を得た。
イオン交換容量については、重合時のTFEと式(X)で表されるモノマーとの比率を調整することにより、また、膜の厚みは、押出し機に供給する樹脂の量を調整することにより、表1に記載の値とした。
【0082】
得られたイオン交換膜に関して、上述した方法により、電流効率、電圧効率、電力効率を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
表1中、「AR」欄は、イオン交換膜中の含フッ素ポリマーのイオン交換容量(ミリ当量/グラム乾燥樹脂)を表す。
「厚み(μm)」欄は、イオン交換膜の厚みを表す。
「D」は、上述した方法によって算出されるイオンクラスター間の距離Dを表す。
「Dc」は、上述した方法によって算出されるイオンクラスターの直径Dcを表す。
「D-Dc」は、DとDcとの差を表す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、本発明のイオン交換膜を用いたレドックスフロー電池においては、電流効率に優れ、かつ、電圧効率の低下が抑制され、結果として電力効率も優れていた。
【符号の説明】
【0086】
10 イオンクラスター
12 イオンチャンネル
【0087】
なお、2018年10月19日に出願された日本特許出願2018-197566号の明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1