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特許7393604化学強化ガラス及びフォルダブルデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】化学強化ガラス及びフォルダブルデバイス
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20231130BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C03C21/00 101
G09F9/00 302
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021507401
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012063
(87)【国際公開番号】W WO2020189728
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019050003
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 出
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/005212(WO,A1)
【文献】特開2015-226204(JP,A)
【文献】特開2018-188335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と、前記第1の主面の反対側の第2の主面とを備え、厚さが0.30mm以下である化学強化ガラスであり、
前記第1の主面が凸面となり前記第2の主面が凹面となるように屈曲した形状を有し、
前記化学強化ガラスは、前記屈曲した部分において折り畳み可能であり、
前記第1の主面が下側となるように水平面に載置され、重力以外の外力が作用していない状態において、前記第1の主面の一部が前記水平面に接触ぜず、
下記の方法により測定される10mm曲げ時復元力が1.0kgf以下であることを特徴とする化学強化ガラス。
(10mm曲げ時復元力の測定方法)
短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状とした化学強化ガラスを用い、第1の支持盤と第2の支持盤を、前記第1の支持盤の支持面と前記第2の支持盤の支持面とが互いに平行に対向するように配置し、前記第1の支持盤の支持面と前記第2の支持盤の支持面とにそれぞれ、前記化学強化ガラスの前記第1の主面の屈曲していない一の端部と、前記第1の主面の屈曲していない他の端部とをこれらが平面視において重なるように固定し、前記第1の支持盤の支持面と前記第2の支持盤の支持面との間隔Dを10mmとした際の復元力を測定し、これを10mm曲げ時復元力とする。
【請求項2】
屈曲した矩形状であり、
前記第1の主面と前記第2の主面は共に、屈曲していない対向する一対の端部を有し、
前記第1の主面が下側となるように水平面に載置され、重力以外の外力が作用していない状態において、前記第2の主面の前記屈曲していない一の端部の中心点である第1の点と、前記第2の主面の前記屈曲していない他の端部の中心点である第2の点と、前記第1の主面の前記屈曲していない一の端部の中心点である第3の点と、前記第1の主面の前記屈曲していない他の端部の中心点である第4の点とを通る平面で切断でき、
前記平面で切断した断面図において、前記第1の点と、前記第2の主面上にあり前記第1の点と前記第2の点を結ぶ直線からの距離が最も大きい点である第5の点と、前記第2の点と、がなす角θが165°以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
下記の方法により測定される平面時復元力が1.0kgf以下である請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
(平面時復元力の測定方法)
短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状とした化学強化ガラスを用い、第1の支持盤と第2の支持盤を、前記第1の支持盤の支持面と前記第2の支持盤の支持面とが互いに平行に対向するように配置し、前記第2の支持盤の支持面上に前記化学強化ガラスを前記第2の主面が下側となるように載置し、前記第1の支持盤の支持面と前記第2の支持盤の支持面との間隔Dを前記化学強化ガラスの厚さと同じにした際の復元力を測定し、これを平面時復元力とする。
【請求項4】
変形部を備える筐体と、フレキシブルディスプレイとを備え、前記変形部にそって折り畳み可能なフォルダブルデバイスであって、
前記フレキシブルディスプレイは請求項1~のいずれか1項に記載の化学強化ガラスからなるカバーガラスを備え、
前記カバーガラスは、前記フォルダブルデバイスが折りたたまれた際に屈曲している部分において変形するように配置されているフォルダブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラス及びフォルダブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンをはじめとする種々の電子機器のディスプレイ用の保護カバーには、美観向上の観点から、ガラス製のカバー(カバーガラス)が多く用いられている。ガラスは理論強度が高いものの、傷がつくことで強度が大幅に低下する。そのため、耐衝撃性等の強度が求められるカバーガラスには、イオン交換等によりガラス表面に圧縮応力層を形成した化学強化ガラスが用いられている。
【0003】
また、近年屈曲可能なディスプレイを備える折り畳み可能な電子機器(フォルダブルデバイス)が登場している。このようなディスプレイ用のカバーガラスとしての適用のために、可撓性を有する化学強化ガラスが望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、可撓性の超薄板化学強化ガラスが開示されている。当該ガラスは、厚さtが500μm未満であり、30μm未満のイオン交換層の深さDOLを有し、表面圧縮応力CSが100MPaから700MPaであり、かつ中心引張応力CTが120MPa未満であり、かつ、DOL、CSおよびCTが特定の関係を満たす超薄板化学強化ガラスである。
【0005】
また、特許文献2には、ガラスの厚さtが0.4mm以下であり、30μm未満のDOLを有し、CSが100MPaから700MPaであり、かつCTが120MPa未満であり、かつ、DOL、CSおよびCTが特定の関係を満たす超薄板化学強化ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特表2016-508954号公報
【文献】日本国特表2017-529304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような可撓性を有する化学強化ガラスにおいて強度を向上させるためには、可撓性を確保できる範囲でガラスを厚くすることが好ましい。しかしながら、ガラスを厚くすると屈曲された際に強い復元力が生じるようになる。このように被屈曲時の復元力が大きいガラスをフォルダブルデバイス用のカバーガラスに使用すると、フォルダブルデバイスを折りたたみにくい、折りたたんでいても自然に開いてしまう、開く際に勢いよく開いてしまう等の不都合が生じる。
このように、可撓性ガラスにおいて、強度の向上と被屈曲時の復元力の抑制の両立は困難であった。
【0008】
本発明は上記に鑑み、可撓性を有し、強度に優れ、かつ被屈曲時の復元力が小さい化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の化学強化ガラスは、第1の主面と、第1の主面の反対側の第2の主面とを備え、厚さが0.30mm以下である化学強化ガラスであり、第1の主面が凸面となり第2の主面が凹面となるように屈曲した形状を有し、第1の主面が下側となるように水平面に載置され、重力以外の外力が作用していない状態において、第1の主面の一部が水平面に接触しないことを特徴とする。
【0010】
本発明の化学強化ガラスの一態様は、屈曲した矩形状であり、第1の主面と第2の主面は共に、屈曲していない対向する一対の端部を有し、第1の主面が下側となるように水平面に載置され、重力以外の外力が作用していない状態において、第2の主面の屈曲していない一の端部の中心点である第1の点と、第2の主面の屈曲していない他の端部の中心点である第2の点と、第1の主面の屈曲していない一の端部の中心点である第3の点と、第1の主面の屈曲していない他の端部の中心点である第4の点とを通る平面で切断でき、かかる平面で切断した断面図において、第1の点と、第2の主面上にあり第1の点と第2の点を結ぶ直線からの距離が最も大きい点である第5の点と、第2の点と、がなす角θが165°以下であってもよい。
【0011】
本発明の化学強化ガラスの一態様は、下記の方法により測定される10mm曲げ時復元力が1.0kgf以下であってもよい。
(10mm曲げ時復元力の測定方法)
短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状とした化学強化ガラスを用い、第1の支持盤と第2の支持盤を、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面とが互いに平行に対向するように配置し、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面とにそれぞれ、化学強化ガラスの第1の主面の屈曲していない一の端部と、第1の主面の屈曲していない他の端部とをこれらが平面視において重なるように固定し、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面との間隔Dを10mmとした際の復元力を測定し、これを10mm曲げ時復元力とする。
【0012】
本発明の化学強化ガラスの一態様は、下記の方法により測定される平面時復元力が1.0kgf以下であってもよい。
(平面時復元力の測定方法)
短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状とした化学強化ガラスを用い、第1の支持盤と第2の支持盤を、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面とが互いに平行に対向するように配置し、第2の支持盤の支持面上に化学強化ガラスを第2の主面が下側となるように載置し、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面との間隔Dを化学強化ガラスの厚さと同じにした際の復元力を測定し、これを平面時復元力とする。
【0013】
また、本発明のフォルダブルデバイスは、変形部を備える筐体と、フレキシブルディスプレイとを備え、変形部にそって折り畳み可能なフォルダブルデバイスであって、
フレキシブルディスプレイは本発明の化学強化ガラスからなるカバーガラスを備え、
当該カバーガラスは、フォルダブルデバイスが折りたたまれた際に屈曲している部分において変形するように配置されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化学強化ガラスは、可撓性を有し、強度に優れ、かつ被屈曲時の復元力が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態を表す斜視図である。
図2図2は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態を表す側面図である。
図3図3は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態が変形された状態を表す側面図である。
図4図4は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態の変形例を表す側面図である。
図5図5は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態を表す斜視図である。
図6図6は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態を表す断面図である。
図7図7は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態の変形例を表す断面図である。
図8図8は、本発明の化学強化ガラスの一実施形態の変形例を表す断面図である。
図9図9は、曲げ試験装置を説明するための図である。
図10図10は、10mm曲げ時復元力の測定方法を説明するための図である。
図11図11は、平面時復元力の測定方法を説明するための図である。
図12図12は、平面時復元力の測定方法を説明するための図である。
図13図13は、本発明のフォルダブルデバイスの一実施形態の閉状態を表す概略図である。
図14図14は、本発明のフォルダブルデバイスの一実施形態の開状態を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0017】
[化学強化ガラス]
本実施形態の化学強化ガラス(以下において、「本実施形態のガラス」ともいう)の概略図を図1及び図2に示す。図1は斜視図、図2は側面図である。本実施形態のガラス1は、第1の主面2と、第1の主面2の反対側の第2の主面3とを備え、厚さが0.30mm以下である化学強化ガラスである。
また、本実施形態のガラス1は、曲げ加工が施されていることを特徴とする。すなわち、本実施形態のガラス1は、第1の主面2が凸面となり第2の主面3が凹面となるように屈曲した形状を有することを特徴とする。屈曲した形状とは、側面から見た際にガラス1が例えばV字形状やU字形状、略U字形状であることが好ましい。
したがって、本実施形態のガラス1は、第1の主面2が下側となるように水平面Hに載置され、重力以外の外力が作用していない状態において、第1の主面2の一部が水平面Hに接触しない。従来の曲げ加工の施されていない可撓性ガラスは、撓みが無ければ平面状であるため、水平面に載置され、重力以外の外力が作用していない状態において水平面側の主面の全体が水平面に接触する。この点において従来の可撓性ガラスは本実施形態のガラス1と異なる。
【0018】
上記構成を有する本実施形態のガラス1は、閉じる方向(屈曲の度合いが大きくなる方向)に変形された際の変形量が、平面状のガラスが同じ形状に変形された際の変形量と比較して小さく、したがって当該変形により生じる復元力も小さい。
例えば、従来の平面状のガラスを図3に示すように折りたたまれた形状に変形させる場合、ガラスを180°折り曲げて変形させる必要があり、大きい復元力が生じる。一方、本実施形態のガラス1は折り曲げる前から屈曲した形状を有するため、その分折り曲げる際の変形量が少なく、生じる復元力も小さい。
【0019】
このように、本実施形態のガラス1では、板厚を薄くする等の強度の低下を伴う方法ではなく、重力以外の外力が作用していない状態において屈曲した形状とするという強度の低下を伴わない方法により、被屈曲時の復元力を抑制している。このことにより、本実施形態のガラス1では強度の向上と復元力の抑制を両立できる。
【0020】
本実施形態のガラス1の形状は上記の条件を満たす限りにおいて特に限定されず、例えば図1図2に示すように平面状の部分と屈曲した部分とを有してもよく、また、図4に示す変形例のように、全体が屈曲した形状であってもよい。
また、フォルダブルデバイス用のカバーガラスとして用いる観点からは、本実施形態のガラス1における第1の主面2と第2の主面3は屈曲した矩形状が好ましく、かかる主面はU字形状、略U字形状、又はV字形状に屈曲している対向する一対の端部と、屈曲していない対向する一対の端部とを有することがより好ましい。
【0021】
また、本実施形態のガラス1の屈曲の度合いも特に限定されないが、閉じる方向に屈曲された際の復元力を抑制するためには屈曲の度合いが大きいことが好ましい。
一方、屈曲の度合いが大きすぎる場合、開く方向に変形された際に生じる復元力が大きくなり、フォルダブルデバイス用のカバーガラスに適用した場合において、開きにくい、開いていても自然に折りたたまれてしまう、閉じる際に勢いよく閉じてしまう等の不都合が生じるようになる。
【0022】
本実施形態のガラス1の屈曲の度合いは種々の指標により評価できるが、例えば角θを用いて評価できる。以下に、図面を参照して角θについて説明する。
【0023】
図5に、角θの説明用に本実施形態のガラス1の斜視図を示す。かかるガラスは屈曲した矩形状であり、第1の主面2と第2の主面3は共に、屈曲していない対向する一対の端部を有する。
まず、第1の主面2が下側となるように水平面に載置され、重力以外の外力が作用していない状態の化学強化ガラス1において、第2の主面3の屈曲していない一の端部3aの中心点を第1の点P1、第2の主面3の屈曲していない他の端部3bの中心点を第2の点P2、第1の主面2の屈曲していない一の端部2aの中心点を第3の点P3、第1の主面2の屈曲していない他の端部2bの中心点を第4の点P4とする。次に、第1の点P1、第2の点P2、第3の点P3、及び第4の点P4を通る平面(すなわち、図5の点線を通る平面)で切断した断面図を検討する。
かかる第1の点P1~第4の点P4を通る平面で切断できるのは、第2の主面上における第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ線分(点線)に対して、化学強化ガラス1の屈曲部が垂直に交わる場合である。これは、第1の主面上における第3の点P3と第4の点P4とを結ぶ線分(点線)に対して、化学強化ガラス1の屈曲部が垂直に交わる場合とも換言できる。
第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ線分(点線)に対して化学強化ガラス1の屈曲部が垂直に交わるとは、化学強化ガラス1が図6のようにV字形状に屈曲する場合には、谷となる屈曲線がかかる線分と直交することを意味する。また、化学強化ガラス1が図8のようにU字形状又は略U字形状に屈曲する場合には、屈曲の軸となる直線がかかる線分と垂直に位置することを意味する。
【0024】
図6に、図5に示すガラス1を上記のとおり切断した断面図を示す。この断面図において、第1の点P1と、第2の主面3上にあり第1の点P1と第2の点P2を結ぶ直線Lからの距離dが最も大きい点である第5の点P5と、第2の点P2と、がなす角を角θとする。
この角θが小さいほど、屈曲の度合いが大きい。
なお、図5及び図6には、平面状の部分を有し、中央付近で屈曲されたガラスの例を示した。この例は、第2の主面3上における屈曲部が線状である場合、すなわちV字形状に屈曲している場合である。
一方、屈曲の態様が異なるガラスでも同様に角θを求めることができる。形状の異なる変形例の断面図を図7及び図8に示す。図7に示す変形例のガラスは、中央付近から離れた場所で屈曲された形状だが、このようなガラスでも同様に角θを求めることができる。また、図8に示す変形例のガラスは、平面状の部分を有さず全体が屈曲した形状であり、すなわち緩やかなU字形状に屈曲している場合である。このようなガラスでも、図8に図示すように、同様にして第1の点P1、第5の点P5、及び第2の点P2から角θを求めることができる。
【0025】
角θの大きさは、本実施形態のガラス1の用途に応じて適宜調整すればよいが、例えば、好ましくは15°以上、より好ましくは30°以上、さらに好ましくは45°以上であり、また、好ましくは165°以下、より好ましくは150°以下、さらに好ましくは135°以下である。
【0026】
また、化学強化ガラス1がU字形状又は略U字形状に屈曲する場合の、上記の断面図の第5の点P5における曲率半径も特に限定されず、本実施形態のガラス1の用途に応じて適宜調整すればよい。
【0027】
本実施形態のガラス1の厚さは、可撓性を得るために、0.30mm以下とする。また、可撓性のさらなる向上、軽量化、及び復元力の抑制のために、本実施形態の化学強化ガラス1の厚さは0.25mm以下が好ましく、0.20mm以下がより好ましく、0.17mm以下がさらに好ましい。
一方、強度の観点からは、本実施形態のガラス1の厚さは0.03mm以上が好ましく、0.04mm以上がより好ましく、0.05mm以上がさらに好ましく、0.07mm以上がさらに好ましい。
【0028】
本実施形態のガラス1の表面圧縮応力値(CS)は、強度の観点からは大きいことが好ましい。CSを大きくして強度を向上させることにより、耐傷性や耐割れ性が向上し、更に、屈曲されても割れにくくなるため、可撓性も向上する。本実施形態のガラス1のCSは、好ましくは400MPa以上、より好ましくは450MPa以上、さらに好ましくは500MPa以上である。
一方、CSが大きくなりすぎると後述の内部引張応力(CT)を小さくすることが困難となる為、本実施形態のガラス1のCSは好ましくは1200MPa以下、より好ましくは1100MPa以下、さらに好ましくは1000MPa以下である。
また、本実施形態のガラス1の圧縮応力層の深さ(DOL)は、強度を向上させて耐傷性や耐割れ性、可撓性を向上させるためには、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは7μm以上、特に好ましくは8μm以上である。
一方、DOLが大きくなりすぎると後述の内部引張応力(CT)を小さくすることが困難となる為、本実施形態のガラス1のDOLは好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは18μm以下である。
また、本実施形態のガラス1の内部引張応力(CT)は、破砕時に破片が激しく飛散することを抑制するために、好ましくは250MPa以下、より好ましくは200MPa以下、さらに好ましくは180MPa以下、よりさらに好ましくは150MPa以下、特に好ましくは120MPa以下である。
【0029】
本実施形態のガラス1の組成は、母組成、すなわち化学強化処理を施される前の組成がアルカリ金属イオンを含んでいれば特に限定されない。本実施形態のガラス1の母組成の例については、後に詳細に説明する。
【0030】
本実施形態のガラス1の復元力は種々の値により評価できるが、例えば以下に示す曲げ試験により測定される値により評価できる。
【0031】
<曲げ試験>
(曲げ試験装置)
図9に、曲げ試験に用いる曲げ試験装置の概略図を示す。曲げ試験装置は、本実施形態の化学強化ガラス1を変形(湾曲)させる装置である。
【0032】
曲げ試験装置は、ベース12、第1の支持盤(上側支持盤)14、第2の支持盤(下側支持盤)16、調整部300、支持部50、および載置部60を備える。
【0033】
第1の支持盤14は下向きの平坦な面である支持面14aを有し、第2の支持盤16は上向きの平坦な面である支持面16aを有する。これらの支持面には、試験の方法に応じて化学強化ガラス1の端部と当接するストッパが設けられる。詳細は後述する。
【0034】
調整部300は、互いに平行な第1の支持盤14の支持面14aと第2の支持盤16の支持面16aとの間隔Dを調整する。調整部300は、例えばパンタグラフ式のジャッキで構成される。
【0035】
支持部50は、ベース12に対して固定され、蝶番などの連結部52を介して、第1の支持盤14を回動自在に支持する。第1の支持盤14は、第1の支持盤14の支持面14aが第2の支持盤16の支持面16aに対して平行となる試験位置(第1の位置)と、第1の支持盤14の支持面14aが第2の支持盤16の支持面16aに対して斜めになるセット位置(第2の位置)との間で回動自在とされる。第1の支持盤14が試験位置からセット位置に回動する間、第1の支持盤14および第2の支持盤16で支持された化学強化ガラスの湾曲部の曲率半径が徐々に大きくなる。
【0036】
載置部60は、ベース12に対して固定され、第2の支持盤16よりも上方に配設される第1の支持盤14を載せる。第1の支持盤14は、試験位置にあるとき、載置部60の上端面に載せられる。第1の支持盤14の姿勢が安定化するように、第1の支持盤14は複数の載置部60に載せられてもよい。各載置部60にはボルト62の軸部62bを螺合するボルト孔が形成される。また、第1の支持盤14にはボルト62の軸部62bを貫通させる貫通孔が形成される。ボルト62の頭部62aと各載置部60とで第1の支持盤14が挟まれ、第1の支持盤14の姿勢が安定化できる。
【0037】
上記の曲げ試験装置を用いて本実施形態のガラス1を種々の条件で変形(湾曲)させる際に必要な荷重を測定することにより、本実施形態のガラス1の被屈曲時の復元力を評価することができる。荷重の測定には、例えばロードセル(図示省略)を使用することができる。
例えばロードセルを用いて以下に示す条件で測定された10mm曲げ時復元力や平面時復元力を、被屈曲時の復元力の評価の指標として用いることができる。
【0038】
(10mm曲げ時復元力)
試料には、短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状とした化学強化ガラスを用いる。10mm曲げ時復元力の測定の際には、まず、第1の支持盤14の支持面14aに化学強化ガラス1の屈曲していない一の端部1aと当接するストッパ17aを、第2の支持盤16の支持面16aに化学強化ガラス1の屈曲していない他の端部1bと当接するストッパ17bを、それぞれ設ける。ストッパ17a及びストッパ17bは、試験中に化学強化ガラス1の端部1aと端部1bとが平面視において重なる位置で固定されるように設ける。次に、図9に示すように化学強化ガラス1を、端部1aがストッパ17aに、端部1bがストッパ17bにそれぞれ当接するように設置する。その後、第1の支持盤14と第2の支持盤とを接近させ、図10に示すように第1の支持盤14の支持面14aと第2の支持盤16の支持面16aとの間隔Dを10mmとした際の復元力を10mm曲げ時復元力とする。
【0039】
本実施形態のガラス1は、この10mm曲げ時復元力が小さい。
本実施形態のガラス1の10mm曲げ時復元力は、閉じる方向に屈曲された際の復元力を抑制するためには、1.0kgf以下であることが好ましく、0.9kgf以下であることがより好ましく、0.8kgf以下であることがさらに好ましい。また、下限は特に限定されないが、通常0.2kgf以上となる。
なお、上記の10mm曲げ時復元力は、短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状のガラスを用いて測定した復元力である。上記の寸法と異なる寸法のガラスについて上記の10mm曲げ時復元力を測定する際には、同評価を実施してガラスサイズから換算することが出来る。短辺の長さに復元力は比例する。
上記の10mm曲げ時復元力は、本実施形態のガラス1の厚み、角θの大きさ、屈曲部分の曲率半径、組成(母組成)、後述する製造方法における各種処理の条件等を適宜調整することにより、調整することができる。後述の平面時復元力についても同様である。
【0040】
(平面時復元力)
本実施形態のガラス1は、外力が作用していない状態において屈曲した形状を有するため、平面状のガラスと異なり平面状にした際にも復元力が生じる。
平面状にした際の復元力(以下、「平面時復元力」とも記載する)の測定の際の試料には、短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状とした化学強化ガラスを用いる。
まず、図11に示すように曲げ試験装置の第2の支持盤16の支持面16a上にガラス1を第2の主面3が下側となるように載置する。その後、第1の支持盤14と第2の支持盤16とを接近させ、図12に示すように第1の支持盤14の支持面14aと第2の支持盤16の支持面16aとの間隔Dがガラス1の厚さと同じになった際の復元力を平面時復元力とする。本実施形態のガラス1は、この平面時復元力がゼロでない点において平面状のガラスと異なる。
本実施形態のガラス1の平面時復元力は、開く方向に屈曲された際の復元力を抑制するためには、1.0kgf以下であることが好ましく、0.9kgf以下であることがより好ましく、0.8kgf以下であることがさらに好ましい。また、下限は特に限定されないが、通常0.2kgf以上となる。
なお、上記の平面時復元力は、短辺60mm×長辺120mmの長方形のガラスを長辺の中心を結ぶ線にそって屈曲した形状のガラスを用いて測定した復元力である。上記の寸法と異なる寸法のガラスについて平面時復元力を測定する際には、同評価を実施してガラスサイズから換算することが出来る。短辺の長さに復元力は比例する。
【0041】
[フォルダブルデバイス]
本実施形態のガラスの用途は特に限定されないが、好適な用途の一例として、フォルダブルデバイスのフレキシブルディスプレイ用のカバーガラスが挙げられる。
図13及び図14に、本実施形態の化学強化ガラスからなるカバーガラスを備えるフォルダブルデバイス(以下において、「本実施形態のフォルダブルデバイス」ともいう)の概略図を示す。図13は閉状態を示す概略図であり、図14は開状態を示す概略図である。
本実施形態のフォルダブルデバイス5は、筐体6と、フレキシブルディスプレイ7とを備える。
【0042】
筐体6は、ヒンジや可撓性部材により構成される変形部6aを備えており、フレキシブルディスプレイ7は、可撓性のディスプレイである。したがって、本実施形態のフォルダブルデバイス5は、筐体6の変形部6aにそって折り畳み可能であり、図13に示す閉状態や図14に示す開状態等、様々な状態に変形可能である。なお、図13では筐体6は変形部を1つのみ備えているが、筐体6は複数の変形部を備えてもよい。
【0043】
フレキシブルディスプレイ7は、本実施形態のガラス1からなるカバーガラス1を備える。カバーガラス1は、フォルダブルデバイス5が変形部6aで変形された際に、本実施形態のガラス1の屈曲している部分において屈曲するように配置されている。
このように構成されているため、本実施形態のフォルダブルデバイス5は、閉状態におけるカバーガラス1に起因する復元力が、平面状のガラスをカバーガラスとして用いたフォルダブルデバイスと比較して小さい。したがって、本実施形態のフォルダブルデバイス5では、折りたたみにくい、折りたたんでいても自然に開いてしまう、開く際に勢いよく開いてしまう等の不都合が生じにくい。
【0044】
[化学強化ガラスの製造方法]
本実施形態の化学強化ガラスの製造方法は特に限定されず、平面状の化学強化用ガラスに屈曲形状を付与してから化学強化処理を施してもよく、平面状の化学強化用ガラスに化学強化処理を施してから屈曲形状を付与してもよい。なお、「化学強化用ガラス」とは化学強化を施す前のガラスを意味する。
以下に、平面状の化学強化用ガラスに屈曲形状を付与してから化学強化処理を施す本実施形態の化学強化ガラスの製造方法の一例を説明する。
以下に説明する本実施形態の化学強化ガラスの製造方法の一例は、以下の(1)~(4)の工程を備える。
(1)化学強化用ガラス準備工程
(2)切断工程
(3)曲げ加工工程
(4)化学強化処理工程
【0045】
(1)化学強化用ガラス準備工程は、化学強化を施す化学強化用ガラスを準備する工程である。
(2)切断工程は、化学強化用ガラスを所望の寸法及び形状に切断する工程である。
(3)曲げ加工工程は、化学強化用ガラスに曲げ加工を施して屈曲形状を付与する工程である。
(4)化学強化処理工程は、屈曲形状を付与された化学強化用ガラスに化学強化処理を施して、表面に圧縮応力層を形成する工程である。
【0046】
(1)化学強化用ガラス準備工程
化学強化用ガラスの製造方法は特に限定されないが、例えば所望の組成が得られるように適宜種類や分量を調整してガラス原料を連続溶融炉に投入し、加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷する方法が挙げられる。
【0047】
なお、ガラスの成形には種々の方法を採用できる。例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等)、フロート法、ロールアウト法およびプレス法等が挙げられる。
当該ガラスの成形により所望の厚さに成形してもよいが、ガラスの成形後に更に薄板化処理(スリミング処理)を施して所望の厚さにしてもよい。スリミング処理の方法としては、化学エッチングや研削、研磨等が挙げられる。スリミング処理を施すことにより、ガラス表面の微細な傷が除去され、強度の高いガラスが得られるため好ましく、特に化学エッチングを施すことが好ましい。
【0048】
化学強化用ガラスの組成は、化学強化処理により圧縮応力層を形成できる組成であれば特に限定されない。化学強化ガラスとしては、例えばアルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。
【0049】
また、化学強化用ガラスの組成として、例えば以下の組成が挙げられる。なお、以下の組成はいずれも酸化物基準のモル%で表示した組成である。
(1)SiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0~10%、NaOを0~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%およびZrOを0~5%を含有するガラス。
(2)SiOを50~74%、Alを1~10%、NaOを6~14%、KOを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrOを0~5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス。
(3)SiOを68~80%、Alを4~10%、NaOを5~15%、KOを0~1%、MgOを4~15%およびZrOを0~1%含有するガラス。
(4)SiOを67~75%、Alを0~4%、NaOを7~15%、KOを1~9%、MgOを6~14%およびZrOを0~1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71~75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
(5)SiOを65~75%、Alを0.1~5%、MgOを1~6%、CaOを1~15%含有し、NaOおよびKOの含有量の合計が10~18%であるガラス。
(6)SiOを60~72%、Alを1~10%、MgOを5~12%、CaOを0.1~5%、NaOを13~19%、KOを0~5%含有し、RO/(RO+RO)が0.20~0.42(式中、ROとはアルカリ土類金属酸化物の含有量の合計、ROはアルカリ金属酸化物の含有量の合計を示す。)であるガラス。
(7)SiOを55.5~80%、Alを12~20%、NaOを8~25%、Pを2.5%以上、アルカリ土類金属RO(ROはMgO+CaO+SrO+BaOである)を1%以上含有するガラス。
(8)SiOを57~76.5%、Alを12~18%、NaOを8~25%、Pを2.5~10%、アルカリ土類金属ROを1%以上含有するガラス。
(9)SiOを56~72%、Alを8~20%、Bを3~20%、NaOを8~25%、KOを0~5%、MgOを0~15%、CaOを0~15%、SrOを0~15%、BaOを0~15%およびZrOを0~8%含有するガラス。
【0050】
(2)切断工程
切断工程は、得られた化学強化用ガラスを所望の寸法に切断する工程であり、化学強化用ガラスを化学エッチング、または、短パルスレーザによって切断する工程を含む。化学エッチング、または、短パルスレーザを用いてガラスを切断すると、端面(切断面)にマイクロクラックが発生しにくいので、高強度なガラスが得られる。
【0051】
化学エッチングにより化学強化用ガラスを切断する場合は、まず化学強化用ガラスの両表面にレジスト材料を塗布し、所望の形状パターンのフォトマスクを介してレジスト材料を露光し、露光後のレジスト材料を現像して、被エッチング領域以外の領域にレジストパターンを形成する。次いで、被エッチング領域にエッチングを施し、化学強化用ガラスを切断する。
【0052】
エッチャントは、ガラスをエッチング切断できればとくに制限されないが、例えば、フッ酸に硫酸、硝酸、塩酸、ケイフッ酸のうち少なくとも一種の酸を加えたものを使用できる。なお、レジスト材料は、エッチャントに耐性を有するものであれば特に限定されず、公知の材料の中から適宜選択できる。また、レジスト材料の剥離液としては、例えば、KOHまたはNaOHなどのアルカリ溶液が挙げられる。
【0053】
また、上記のエッチング切断工程は、湿式エッチングを採用した例であるが、フッ素ガスを用いた乾式エッチングも採用できる。このように、ガラスを化学エッチングにより切断すると、端面(切断面)のマイクロクラックが非常に少なく、平滑性が非常に高いガラスが得られる。
【0054】
短パルスレーザにより化学強化用ガラスを切断する場合は、例えば短パルスレーザとしてピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ、アト秒レーザ等を用い、公知の装置を用いてガラスを切断する。このように、ガラスを短パルスレーザにより切断すると、端面のマイクロクラックが非常に少なく、平滑性が非常に高いガラスが得られる。
【0055】
なお、切断工程の後、化学強化処理工程の前に、端面が円弧状になるように化学エッチングを施す工程(端面処理工程)を施してもよい。
例えば化学エッチングにより切断されたガラスの端面は、両面から等方的にエッチングされるために、尖った形状となる場合がある。このような場合端面からの破壊が発生しやすくなる恐れがある為、端面処理工程により端面を十分に丸い形状にすることが好ましい。
【0056】
(3)曲げ加工工程
曲げ加工工程においては、切断加工された化学強化用ガラスに曲げ加工を施して、屈曲形状を付与する。曲げ加工の方法は特に限定されない。例えば化学強化用ガラスを所望の角度及び曲率に曲げた状態で熱処理を施すことにより、曲げ加工を施すことができる。曲げ加工時の加熱温度や加熱時間は、適宜調整すればよい。ガラスをガラス転移点温度以上に加熱し、金型を用いて成形する方法がとられる。
なお、(4)の化学強化処理工程を先に行った後に(3)の曲げ加工工程を行う場合には、(3)の工程に化学強化ガラスが供されることとなる。その際の曲げ加工工程の方法は上記化学強化用ガラスの場合と同様である。
【0057】
(4)化学強化処理工程
化学強化処理は、曲げ加工が施された化学強化用ガラスを、当該ガラスに含まれるアルカリ金属イオンよりイオン半径の大きい他のアルカリ金属イオンを含む無機塩組成物に接触させることにより行われる。この処理により、ガラスに含まれるアルカリ金属イオン(Liイオン及び/またはNaイオン)が無機塩組成物に含まれる大きいアルカリ金属イオン(Naイオン及び/またはKイオン)と交換されて、密度の高い圧縮応力層が形成される。
なお、化学強化ガラスの密度は、ガラスの中心に存在するイオン交換されていない領域(中間層)の外縁から圧縮応力層の表面に向かって徐々に増加するため、中間層と圧縮応力層との間には、密度が急激に変化する明確な境界はない。また、先に(4)の化学強化処理工程を行った後に(3)の曲げ加工工程を行う場合には、(4)の工程には曲げ加工が施されていない化学強化用ガラスが供されることとなる。その際の化学強化処理工程の方法は、曲げ加工が施された化学強化用ガラスの場合と同様である。
【0058】
化学強化用ガラスに無機塩組成物を接触させる方法としては、例えばペースト状の無機塩組成物を化学強化用ガラスに塗布する方法、無機塩組成物の水溶液を化学強化用ガラスに噴射する方法、融点以上に加熱して溶融した無機塩組成物(以下「溶融塩」とも記載する)に化学強化用ガラスを浸漬させる方法などが挙げられる。これらの方法の中では、溶融塩に化学強化用ガラスを浸漬させる方法が好ましい。
【0059】
化学強化用ガラスがNaイオンを含有する場合、硝酸カリウム(KNO)を含有し、更にKCO、NaCO、KHCO、NaHCO、KPO、NaPO、KSO、NaSO、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の融剤を含有する無機塩組成物を使用してもよい。
硝酸カリウムの融点は330℃であり、化学強化用ガラスの歪点(通常500~600℃)より低い。
【0060】
溶融塩に化学強化用ガラスを浸漬して化学強化処理を行う際には、化学強化用ガラスを例えば100℃以上に予熱し、所定の温度に加熱された溶融塩中に所定の時間浸漬し、その後溶融塩から引き上げ、放冷する。
【0061】
化学強化温度は、化学強化用ガラスの歪点(通常500~600℃)以下であればよいが、深い圧縮応力層を得るためには350℃以上が好ましく、処理時間の短縮及び低密度層形成促進のためには400℃以上がより好ましく、430℃以上がさらに好ましい。
【0062】
化学強化用ガラスの溶融塩への浸漬時間は、得られる化学強化ガラスの強度と圧縮応力層深さのバランスを鑑みると、1分~10時間が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましく、また、8時間以下がより好ましく、4時間以下がさらに好ましい。
【0063】
なお、本化学強化用ガラスの製造方法は、化学強化処理工程の後、ガラスを洗浄する工程(洗浄工程)を備えることが好ましい。洗浄工程では、必要に応じて処理した工水やイオン交換水等を用いてガラスの洗浄を行うが、特にイオン交換水を用いることが好ましい。好ましい洗浄の条件は用いる洗浄液によっても異なるが、付着した塩を完全に除去させるためには、例えばイオン交換水を用いる場合には0~100℃で洗浄することが好ましい。洗浄工程は、イオン交換水等が入っている水槽に化学強化ガラスを浸漬する方法や、ガラス表面を流水にさらす方法、シャワーにより洗浄液をガラス表面に向けて噴射する方法等、様々な方法により行える。
【実施例
【0064】
(実施例1)
短辺60mm×長辺120mm×厚さ0.05mmの平板状のアルカリ含有ガラスを、表面の圧縮応力値が900MPa、圧縮応力層の厚さが7μmとなるように化学強化処理をした。得られた化学強化ガラスを加熱し、金型を用いて先述した第1の点、第5の点及び第2の点がなす角θが90°となるように曲げ加工し、屈曲した矩形状の化学強化ガラスを作製した。得られた化学強化ガラスの10mm曲げ時復元力を測定したところ、10mm曲げ時復元力は0.41kgfであった。
【0065】
(比較例1)
曲げ加工を実施しなかった以外は実施例1と同様にし、屈曲していない平板状で矩形状の化学強化ガラスを作製した。得られた化学強化ガラスの10mm曲げ時復元力を測定したところ、10mm曲げ時復元力は1.22kgfであった。
【0066】
このように、曲げ加工を実施した化学強化ガラスでは、被屈曲時の復元力を小さくすることができる。
【0067】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年3月18日出願の日本特許出願(特願2019-050003)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 化学強化ガラス(カバーガラス)、
1a、1b 化学強化ガラスの端部、
2 第1の主面、
2a 第1の主面の屈曲していない一の端部、
2b 第1の主面の屈曲していない他の端部、
3 第2の主面、
3a 第2の主面の屈曲していない一の端部、
3b 第2の主面の屈曲していない他の端部、
P1 第1の点、
P2 第2の点、
P3 第3の点、
P4 第4の点、
P5 第5の点、
5 フォルダブルデバイス、
6 筐体、
6a 変形部、
7 フレキシブルディスプレイ、
12 ベース、
14 第1の支持盤(上側支持盤)、
14a 第1の支持盤の支持面、
16 第2の支持盤(下側支持盤)、
16a 第2の支持盤の支持面、
17a、17b ストッパ、
50 支持部、
52 連結部、
60 載置部、
62 ボルト、
62a ボルトの頭部、
62b ボルトの軸部、
300 調整部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14