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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】光伝送システム及び特性推定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/07 20130101AFI20231130BHJP
   H04B 10/50 20130101ALN20231130BHJP
   H04B 10/60 20130101ALN20231130BHJP
【FI】
H04B10/07
H04B10/50
H04B10/60
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022513021
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014894
(87)【国際公開番号】W WO2021199317
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹井 健生
(72)【発明者】
【氏名】中村 政則
(72)【発明者】
【氏名】松下 明日香
(72)【発明者】
【氏名】木坂 由明
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049616(WO,A1)
【文献】特開2017-011463(JP,A)
【文献】特開2016-208257(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02634934(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/07
H04B 10/50
H04B 10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムであって、
前記光受信装置は、
前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理部、
を備え
前記デジタル信号処理部は、前記受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の逆特性応答モデルを推定し、前記逆特性応答モデルと前記受信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記係数を最適化する光伝送システム。
【請求項2】
前記デジタル信号処理部は、前記受信信号に、前記逆特性応答モデルで示される各デバイスの逆特性を与えることによって前記出力信号を取得する、請求項に記載の光伝送システム。
【請求項3】
前記デジタル信号処理部は、最適化された前記係数を用いて、各デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定し、特性を変更可能なデバイスに対して推定結果をフィードバックする、請求項1又は2に記載の光伝送システム。
【請求項4】
光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムであって、
前記光送信装置は、
前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理部、
を備え
前記デジタル信号処理部は、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定し、前記順特性応答モデルと送信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記線形応答及び非線形応答の順特性において使用される係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定する光伝送システム。
【請求項5】
前記デジタル信号処理部は、前記光送信装置が送信した所定の信号に前記順特性応答モデルで示される各デバイスの特性を与えることによって、取得した前記出力信号と前記受信信号とを比較して、前記評価関数を最小化するように前記係数を更新する、請求項に記載の光伝送システム。
【請求項6】
前記デジタル信号処理部は、最適化された前記係数を用いて、各デバイスの線形応答及び非線形応答の順特性を推定し、特性を変更可能なデバイスに対して推定結果をフィードバックする、請求項4又は5に記載の光伝送システム。
【請求項7】
光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムにおける特性推定方法であって、
前記光受信装置が、
前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理ステップ、
を有し、
前記デジタル信号処理ステップにおいて、前記受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の逆特性応答モデルを推定し、前記逆特性応答モデルと前記受信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記係数を最適化する特性推定方法。
【請求項8】
光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムにおける特性推定方法であって、
前記光送信装置が、
前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理ステップ、
を有し、
前記デジタル信号処理ステップにおいて、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定し、前記順特性応答モデルと送信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記線形応答及び非線形応答の順特性において使用される係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定する特性推定方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送システム及び特性推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光送信装置と光受信装置とを用いた長距離の光ファイバ伝送において、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する様々なデバイスが存在する。ここでいう伝送路を構成するデバイスとは、光送信装置において送信処理を行うためのデバイス(以下「送信側デバイス」という)、光ファイバ、光受信装置において受信処理を行うためのデバイス(以下「受信側デバイス」という)である。
【0003】
送信側デバイスには、例えばDAC(Digital-to-Analog Converter:デジタルアナログ変換器)、ドライバアンプ、変調器及びレーザ等が含まれる。受信側デバイスには、例えば90°ハイブリッド回路、フォトダイオード、TIA(Trans Impedance Amplifier)及びADC(Analog to Digital Converter:アナログデジタル変換器)等が含まれる。
【0004】
これらのデバイスには、デバイス特有の線形応答(例えば、周波数特性)及び非線形応答(例えば、信号電圧の飽和特性)の特性がある(例えば、非特許文献1及び2参照)。これらの特性により、光伝送システムの信号品質が制限されている。上述したデバイス特有の特性に応じた伝送信号の劣化を補償するためには、線形応答及び非線形応答の特性を推定する必要がある。線形応答及び非線形応答は、デバイスの個体、環境及びパラメータによって大きく異なる。そのため、線形応答及び非線形応答の特性をシステム毎に都度推定し、劣化を補償することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A. Matsushita et al., “High-Spectral-Efficiency 600-Gbps/Carrier Transmission Using PDM-256QAM Format”, Journal of Lightwave Technology, 37(2), 2019.
【文献】T. Tanimura et al., “Experimental Demonstration of a Coherent Receiver that Visualizes Longitudinal Signal Power Profile over Multiple Spans out of Its Incoming Signal”, ECOC2019 PD.3.4, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したデバイスのそれぞれは、一度光送信装置や光受信装置の内部に組み込まれると、デバイス個々の応答の特性を推定することが難しいという問題があった。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する個々のデバイスの応答特性を簡便に推定することができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムであって、前記光受信装置は、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理部、を備え、前記デジタル信号処理部は、前記受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の逆特性応答モデルを推定し、前記逆特性応答モデルと前記受信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記係数を最適化する光伝送システムである。
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムであって、前記光送信装置は、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理部、を備え、前記デジタル信号処理部は、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定し、前記順特性応答モデルと送信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記線形応答及び非線形応答の順特性において使用される係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定する光伝送システムである。
【0009】
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムにおける特性推定方法であって、前記光受信装置が、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理ステップ、を有し、前記デジタル信号処理ステップにおいて、前記受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の逆特性応答モデルを推定し、前記逆特性応答モデルと前記受信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記係数を最適化する特性推定方法である。
本発明の一態様は、光送信装置と、光受信装置とを備える光伝送システムにおける特性推定方法であって、前記光送信装置が、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて、前記光送信装置と前記光受信装置との間の伝送路を構成する各デバイスの特性を推定するデジタル信号処理ステップ、を有し、前記デジタル信号処理ステップにおいて、前記光受信装置において受信された受信信号に基づいて前記伝送路を構成するデバイス毎に線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定し、前記順特性応答モデルと送信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように前記線形応答及び非線形応答の順特性において使用される係数を最適化し、最適化された前記係数を用いて、前記各デバイスの特性を推定する特性推定方法である。

【発明の効果】
【0010】
本発明により、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する個々のデバイスの応答特性を簡便に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態における光伝送システムのシステム構成を示す図である。
図2】第1の実施形態における係数決定部の内部構成を示す図である。
図3】第1の実施形態における応答モデル推定部が推定する逆特性応答モデルの一例を示す図である。
図4】第1の実施形態における応答モデル推定部が推定する逆特性応答モデルの一例を示す図である。
図5】第1の実施形態における光受信装置によるデバイス特性推定処理の流れを示すフローチャートである。
図6】第1の実施形態における光受信装置の処理を説明するための図である。
図7】第2の実施形態における光伝送システムのシステム構成を示す図である。
図8】第2の実施形態における係数決定部の内部構成を示す図である。
図9】第2の実施形態における光送信装置によるデバイス特性推定処理の流れを示すフローチャートである。
図10】第2の実施形態における光送信装置の処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における光伝送システム100のシステム構成を示す図である。光伝送システム100は、光送信装置1と、光受信装置2とを備える。光送信装置1と、光受信装置2は、光伝送路3を介して通信可能に接続される。光伝送路3は、光送信装置1が送信する光信号を光受信装置2に伝送する。光伝送路3は、光送信装置1と光受信装置2とを接続する光ファイバで構成される。
【0013】
第1の実施形態では、光受信装置2が、光送信装置1と光受信装置2との間の伝送路を構成するデバイス(以下「構成デバイス」という。)の特性を推定し、推定した構成デバイスの特性に基づいてデバイス応答を補償する構成について説明する。本発明において、構成デバイスは、送信側デバイス、光ファイバ及び受信側デバイスである。また、送信側デバイスには、例えばDAC、ドライバアンプ、変調器及びレーザ等が含まれる。受信側デバイスには、例えば90°ハイブリッド回路、フォトダイオード、TIA及びADC等が含まれる。なお、送信側デバイス及び受信側デバイスは、上記の例に限定されない。
【0014】
本発明によりデバイス特性を推定可能なデバイスは、DAC、ドライバアンプ、変調器及びレーザ、合分波器、光アンプ、ファイバ、光フィルタ、90°ハイブリッド回路、フォトダイオード、TIA及びADC等のデバイスである。DAC(デジタルアナログ変換器)では、デバイス特性として周波数特性が推定可能である。ドライバアンプでは、デバイス特性として周波数特性と出力飽和特性が推定可能である。変調器では、デバイス特性として周波数特性、IQインバランス、IQスキュー、消光比ずれ及びバイアスずれ等が推定可能である。レーザでは、デバイス特性として周波数オフセットが推定可能である。
【0015】
合分波器では、デバイス特性としてフィルタの中心周波数ずれやフィルタの形状が推定可能である。光アンプでは、デバイス特性としてチルトが推定可能である。ファイバでは、デバイス特性として分散値、損失値、非線形位相回転量等が推定可能である。光フィルタでは、デバイス特性としてフィルタの中心周波数ずれやフィルタの形状が推定可能である。90°ハイブリッド回路では、デバイス特性として偏波ビームスプリッタの消光比ずれが推定可能である。フォトダイオードでは、デバイス特性として周波数特性、出力飽和特性、バランスPDのアンバランス等が推定可能である。TIAでは、デバイス特性として周波数特性、出力飽和特性、熱によるゲイン変化及びレーン管ゲインインバランス等が推定可能である。ADCでは、デバイス特性として周波数特性が推定可能である。
【0016】
光送信装置1は、デジタル信号処理部11及び送信器12を備える。
デジタル信号処理部11は、信号マッピング部13及びフィルタ14で構成される。信号マッピング部13は、外部の情報源から与えられる送信情報をマッピングして電気信号を生成する。フィルタ14は、生成された電気信号をフィルタリングする。フィルタ14は、例えばナイキストフィルタである。
【0017】
送信器12は、デジタル信号処理部11によって生成された電気信号を光信号に変換して光伝送路3を介して光受信装置2に送信する。送信器12の内部には、DAC、ドライバアンプ、変調器及びレーザ等が含まれる。すなわち、送信器12は、送信側デバイスに相当する。送信器12は、例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)の変調方式を用いる。
【0018】
光受信装置2は、コヒーレント受信器21及びデジタル信号処理部22を備える。
コヒーレント受信器21は、光送信装置1から送信された光信号を受信する。コヒーレント受信器21の内部には、90°ハイブリッド回路、フォトダイオード、TIA及びADC等が含まれる。すなわち、コヒーレント受信器21は、受信側デバイスに相当する。コヒーレント受信器21は、ベースバンド光信号を偏波面が直交する2つの光信号に分離する。これらの光信号と局発光源(不図示)の局発光が90°ハイブリッド回路(不図示)に入力され、両光を互いに同相及び逆相で干渉させた1組の出力光、直交(90°)及び逆直交(-90°)で干渉させた1組の出力光の計4つの出力光が得られる。これらの出力光はフォトダイオード(不図示)によりそれぞれ光信号からアナログの電気信号に変換される。TIAは、これらのアナログの電気信号をインピーダンス変換及び増幅してADCに出力する。ADC、これらのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0019】
光伝送路3中を光信号が伝搬する際に、信号の光パワーに比例して信号の位相が回転する非線形光学効果によって信号波形が歪む。デジタル信号処理部22は、コヒーレント受信器21が出力するデジタル信号を受信信号として取り込み、取り込んだ受信信号に対して各種補償を行う。
【0020】
デジタル信号処理部22は、波長分散補償部23、適応等化部24、周波数オフセット補償部25、キャリア位相雑音補償部26、係数決定部27、デバイス特性推定部28及び復調部29を備える。
【0021】
波長分散補償部23は、入力したデジタル信号において、光伝送路3で生じた波長分散を補償する。
【0022】
適応等化部24は、光伝送路3において光信号の波形に生じた歪みを補償する。すなわち、適応等化部24は、光伝送路3において符号間干渉(シンボル間干渉)によって光信号に生じた符号誤りを訂正する。適応等化部24は、設定されたタップ係数に応じて、FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)によって適応等化処理を実行する。
【0023】
周波数オフセット補償部25は、適応等化処理が実行された4つのデジタル信号に対して、周波数オフセットを補償する処理を実行する。
【0024】
キャリア位相雑音補償部26は、周波数オフセットが補償された4つのデジタル信号に対して、位相オフセットを補償する処理を実行する。
【0025】
係数決定部27は、光受信装置2において受信された受信信号に基づいて、伝送路を構成する各構成デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化する。係数決定部27は、図2に示すように、応答モデル推定部271及び係数更新部272で構成される。図2は、第1の実施形態における係数決定部27の内部構成を示す図である。
【0026】
応答モデル推定部271は、受信信号に基づいて構成デバイス毎に線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定する。ここで、線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルとは、線形応答及び非線形応答の特性を表すモデルである。次に、応答モデル推定部271は、順特性応答モデルを用いて逆特性応答モデルを推定する。ここで、逆特性応答モデルとは、順特性応答モデルで示される構成デバイスの順特性の逆特性を表すモデルである。
【0027】
係数決定部27が上記処理を行うためには、まず応答モデル推定部271は、補償がなされたデジタル信号を用いて同期をとる必要がある。その後、応答モデル推定部271は、同期がとられたデジタル信号に対して、前段で補償した分の波長分散、歪み、周波数オフセット及び位相オフセットを与える。例えば、応答モデル推定部271は、同期がとられたデジタル信号に対して、前段で補償した分の波長分散、歪み、周波数オフセット及び位相オフセットを乗算する。これにより、応答モデル推定部271は、同期がとられたデジタル信号を用いて、模擬受信信号を生成する。模擬受信信号は、波長分散補償部23に入力された受信信号そのものではなく、波長分散補償部23に入力された受信信号と同じ信号とみなせる信号である。そして、応答モデル推定部271は、生成した模擬受信信号を用いて順特性応答モデル及び逆特性応答モデルを推定する。
【0028】
係数更新部272は、逆特性応答モデルと模擬受信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように係数を最適化する。例えば、係数更新部272は、出力信号と、光送信装置1が送信した所定の信号とを比較して評価関数を作成し、評価関数を最小化するように係数を更新することによって係数を最適化する。ここで、光送信装置1が送信した所定の信号とは、トレーニング信号である。係数更新部272は、模擬受信信号に、逆特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を与えることによって出力信号を取得する。
【0029】
デバイス特性推定部28は、最適化された係数を用いて、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定する。デバイス特性推定部28によって推定される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性は、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の順特性の逆の特性を有する。デバイス特性推定部28は、係数決定部27から出力される模擬受信信号に対して、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を与えることによってデバイス応答を補償する。
復調部29は、デバイス特性推定部28から出力されたデジタル信号に対して復調及び復号を行うことにより復調信号を取得する。
【0030】
図3及び図4は、第1の実施形態における応答モデル推定部が推定する逆特性応答モデルの一例を示す図である。
まず図3を用いて説明する。図3の上図は順特性応答モデル31の一例を示し、図3の下図は逆特性応答モデル32の一例を示す。順特性応答モデル31及び逆特性応答モデル32は、構成デバイス毎に推定される。図3では構成デバイスとして、1つのドライバアンプの例を示している。ドライバアンプの順特性応答モデル31が、線形応答が帯域制限フィルタ、非線形応答がarctanの直列接続で表すことができるとする。この場合、ドライバアンプの逆特性応答モデル32として「高周波を強調するFIRフィルタ」と「tan」で順特性応答モデル31の逆特性を模擬できる。応答モデル推定部271は、この処理を模擬受信信号に基づいて行う。
【0031】
tanの係数とフィルタタップの係数を順特性の逆特性になるように設定することができれば、出力信号のSNR(信号対雑音比)を高めることができる。逆に言えば、出力信号のSNRが高くなるようにtanの係数とフィルタタップの係数を最適化することで構成デバイスの逆特性を推定することができる。そこで、本発明における光受信装置2は、模擬受信信号に基づいて推定される逆特性応答モデル32を用いて出力信号を取得する。そして、光受信装置2は、取得した出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように係数(図3の場合、tanの係数とフィルタタップの係数)を最適化する。
【0032】
また、順特性応答モデル31及び逆特性応答モデル32は、必ずしも図3のように線形応答のモデルと非線形応答のモデルとが1つずつ直列に接続されたものであるとは限らない。デバイスによっては、図4に示すように線形応答のモデル、非線形応答のモデル、線形応答のモデルの直列接続で表すことができる場合や線形応答のモデル、非線形応答のモデル、線形応答のモデルがそれぞれ並列に並べられたモデル等が考えられる。このように、デバイスによって線形非線形の順番やモデルが変わるため、応答モデル推定部271は構成デバイス毎に順特性応答モデル31及び逆特性応答モデル32の内部も変えて良い。
【0033】
図5は、第1の実施形態における光受信装置2によるデバイス特性推定処理の流れを示すフローチャートである。図5の処理は、光送信装置1から所定の信号が送信された後に実行される。
光受信装置2のコヒーレント受信器21は、光送信装置1から送信されたトレーニング信号を受信する(ステップS101)。コヒーレント受信器21は、受信したトレーニング信号をデジタル信号に変換してデジタル信号処理部22に出力する。波長分散補償部23は、コヒーレント受信器21から出力されたデジタル信号それぞれに対して波長分散を補償する(ステップS102)。波長分散補償部23は、波長分散補償後のデジタル信号を適応等化部24に出力する。
【0034】
適応等化部24は、波長分散補償部23から出力されたデジタル信号の波形に生じた歪みを補償する適応等化処理を行う(ステップS103)。なお、適応等化処理の方法は、従来と同じであるため説明を省略する。適応等化部24は、適応等化処理後のデジタル信号を周波数オフセット補償部25に出力する。
【0035】
周波数オフセット補償部25は、適応等化部24から出力されたデジタル信号に対して、周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償処理を実行する(ステップS104)。なお、周波数オフセット補償処理の方法は、従来と同じであるため説明を省略する。周波数オフセット補償部25は、周波数オフセット補償処理後のデジタル信号をキャリア位相雑音補償部26に出力する。
キャリア位相雑音補償部26は、周波数オフセットが補償されたデジタル信号に対して、位相オフセットを補償するキャリア位相補償処理を実行する(ステップS105)。なお、キャリア位相補償処理の方法は、従来と同じであるため説明を省略する。キャリア位相雑音補償部26は、キャリア位相補償処理後の信号を係数決定部27に出力する。
【0036】
係数決定部27の応答モデル推定部271は、キャリア位相雑音補償部26から出力されたデジタル信号を用いて信号を同期する(ステップS106)。光受信装置2によって各補償がなされていないデジタル信号では、様々な要因のノイズにより同期をとることが難しい。それに対して、各補償がなされたデジタル信号は、ノイズの影響が抑制されるため同期が容易となる。応答モデル推定部271は、同期後に補償がなされたデジタル信号に対して、補償した波長分散、歪み、周波数オフセット及び位相オフセットを与える。すなわち、応答モデル推定部271は、同期後に補償がなされたデジタル信号に対して、補償した波長分散、歪み、周波数オフセット及び位相オフセットの値を乗算する(ステップS107)。これにより、応答モデル推定部271は、補償がなされたデジタル信号を用いて模擬受信信号を生成する。
【0037】
応答モデル推定部271は、生成した模擬受信信号を用いて構成デバイスの順特性応答モデルを推定する。応答モデル推定部271は、誤差逆伝搬法を用いて係数の最適化を行うことで構成デバイスの順特性を推定する。光伝送システム100における各構成デバイスにあったモデル(例えば、FIRフィルタ等と非線形関数)を用いて、構成デバイスそれぞれの線形応答及び非線形応答の特性をモデル化する。例えば、図6に示すように、応答モデル推定部271は、生成した模擬受信信号を用いて、構成デバイスそれぞれの順特性応答モデルを推定する。
【0038】
図6は、第1の実施形態における光受信装置2の処理を説明するための図である。図6に示す例では、構成デバイスそれぞれの順特性応答モデルとして、DAC、ドライバアンプ(Drv)、変調器(Mod)、光伝送路3(Fiber)、フォトダイオード(PD)、TIA及びADCそれぞれの順特性応答モデルが示されている。
【0039】
その後、応答モデル推定部271は、順特性応答モデルを用いて逆特性応答モデルを推定する(ステップS108)。図6に示す例では、構成デバイスそれぞれの逆特性応答モデルとして、DAC-1、ドライバアンプ-1(Drv-1)、変調器-1(Mod-1)、光伝送路-1(Fiber-1)、フォトダイオード-1(PD-1)、TIA-1及びADC-1それぞれの逆特性応答モデルが示されている。
【0040】
係数更新部272は、逆特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性において使用される係数として適当な初期値を設定する。なお、係数の初期値は任意である。例えば、初期値を0としてもよいし、他の推定方法やモニタなどにより判明している係数はその値を使用しても良い。
【0041】
係数更新部272は、ステップS107の処理で生成された模擬受信信号に対して、逆特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を与える(ステップS109)。すなわち、係数更新部272は、模擬受信信号に対して、逆特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を与えていく。これにより、係数更新部272は、出力信号を取得する。係数更新部272が取得する出力信号は、光送信装置1において送信された所定の信号(例えば、トレーニング信号)と想定される信号である。
【0042】
係数更新部272は、取得した出力信号と、予め取得したトレーニング信号とを比較し、所定の評価関数を作成する(ステップS110)。評価関数は、どのような評価関数が用いられてもよい。例えば、評価関数として、下記の式(1)に示す残差平方和や、下記の式(2)に示す残差平方和に正則化項を付けた式が用いられてもよい。
【0043】
【数1】
【0044】
【数2】
【0045】
式(1)においてJは評価関数を表し、xはi(iは1以上の整数)サンプル目の模擬受信信号を表し、tはiサンプル目の正解信号を表す。また、式(2)において右辺の2項目が正則化項である。正則化項におけるφは任意のパラメータを表す。正則化項をつけることによって、デバイス応答の推定精度を高めることができる。なお、デバイス応答の推定精度を高めることができれば正則化項は任意の関数で良い。
【0046】
次に、係数更新部272は、作成した評価関数を最小化するように、最適化アルゴリズムを用いて、逆特性に用いられる係数を更新する(ステップS111)。最適化アルゴリズムとしては、係数を1点ずつ最適化する方法や、誤差逆伝搬法や最急降下法等の機械学習分野に存在する既存の手法が用いられてもよい。
【0047】
係数を1点ずつ最適化する方法を用いる場合、係数更新部272は以下の[1]から[3]に示す処理を行う。
[1]評価関数が最小になるようにφを最適化(他のφは固定)
[2]同様に、φからφを1点ずつ最適化
[3]再度φから最適化を行い、φからφの全係数が収束するまで繰り返す
なお、最適化するφの順番は任意で良い。
【0048】
最急降下法を用いる場合、係数更新部272は以下の式(3)に基づいて、係数を更新する。最急降下法を用いることにより、係数更新部272は全ての係数の更新を同時に実行することができるため、推定時間を短縮することができる。さらに、推定精度の改善の可能性がある。
【0049】
【数3】
【0050】
式(3)において、aはk個目の逆特性応答モデルに使用される係数を表し、μはステップサイズを表す。式(3)のように、評価関数Jのaによる微分が必要となる。この微分の求め方は様々想定されるが、どのような方法が用いられてもよい。例えば、この微分は、機械学習分野でよく使用される誤差逆伝搬法(例えば、参考文献1参照)や数値微分等を用いて算出される。
(参考文献1: R. P. Lippmann., “An introduction to computing with neural nets”, IEEE ASSP Mag., 4(2)1987.)
【0051】
係数更新部272は、更新後の係数を各逆特性応答モデルに設定する。その後、光受信装置2は、新たに設定された係数を用いて、ステップS109~S111の処理を係数が収束するまで繰り返し実行する(ステップS112)。
【0052】
デバイス特性推定部28は、最適化された係数を係数更新部272から取得する。デバイス特性推定部28は、取得した最適化された係数を用いて、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定する(ステップS113)。具体的には、デバイス特性推定部28は、最適化された係数を、各逆特性応答モデルに設定することによって逆特性を推定する。
【0053】
デバイス特性推定部28は、係数決定部27から出力される模擬受信信号に対して、推定した各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を与えることによってデバイス応答を補償する。デバイス特性推定部28は、デバイス応答を補償したデジタル信号を復調部29に出力する。復調部29は、デバイス特性推定部28から出力されたデジタル信号に対して復調及び復号を行うことにより復調信号を取得する。
【0054】
以上のように構成された光伝送システム100によれば、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する個々のデバイスの応答特性を簡便に推定することができる。具体的には、光受信装置2は、模擬受信信号に基づいて、光送信装置1と光受信装置2との間の伝送路を構成する各構成デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化する係数決定部27と、最適化された係数を用いて、各構成デバイスの特性を推定するデバイス特性推定部28とを備える。係数決定部27は、各構成デバイスの逆特性応答モデルを推定し、逆特性応答モデルで示される線形応答及び非線形応答で使用する係数を最適化する。デバイス特性推定部28は、最適化された係数を逆特性応答モデルで示される線形応答及び非線形応答に用いることによって、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定する。このように、光送信装置1に備えられる送信側デバイスや光受信装置2に備えられる受信側デバイスを取り出したり、光送信装置1及び光受信装置2を分解することなく、個々のデバイスの線形応答及び非線形応答の特性を推定することができる。そのため、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する個々のデバイスの応答特性を簡便に推定することが可能になる。
【0055】
<第1の実施形態における変形例>
上記の実施形態では、光送信装置1が所定の信号としてトレーニング信号を光受信装置2に送信し、光受信装置2がトレーニング信号により得られた模擬受信信号を用いて係数を最適化する構成を示した。光受信装置2は、トレーニング信号を用いる以外の方法で係数を最適化するように構成されてもよい。以下、2つのパターンについて説明する。
【0056】
(係数を最適化する他の方法(その1))
光送信装置1からトレーニング信号ではない任意の信号(例えば、運用中の信号であってもよい)を光受信装置2に送信する。光受信装置2は、光送信装置1から送信されたトレーニング信号ではない任意の信号を受信する。そして、光受信装置2は、受信した信号を用いて図5に示す処理を実行する。なお、光受信装置2は、出力信号と比較する信号として、復調部29により復号前の信号を用いてもよいし、復号後のbitを再度シンボルマッピングした信号を用いても良い。
【0057】
(係数を最適化する他の方法(その2))
推定開始時に信号が疎通できるほど高品質な場合、上記のいずれかの方法で係数を最適化することができる。一方で、使いたいデバイス非線形領域が強い非線形領域である場合には推定開始時に信号が疎通していない場合も考えられる。その場合、推定/補償を繰り返し行うことで、使いたい非線形領域でのデバイス特性を推定及び補償が可能になる。具体的な処理について説明する。
【0058】
光受信装置2は、信号が疎通する程度に弱い非線形領域で構成デバイスを動作させる(ステップ1)。その後、光受信装置2は、実施形態に記載の係数の最適化手法又は係数を最適化する他の方法(その1)によりデバイス特性を推定する(ステップ2)。光受信装置2は、求めた構成デバイスの特性を用いてデバイス特性を補償する(ステップ3)。これにより、光受信装置2は、処理開始時よりも高い信号品質を得る。その後、光受信装置2は、信号が疎通する程度に、前回より強い非線形領域で構成デバイスを動作させる(ステップ4)。光受信装置2は、ステップ2~ステップ4の処理を係数が収束するまで繰り返し行う。
【0059】
上記の実施形態では、光受信装置2において、推定した特性を用いてデバイス応答を補償する構成を示した。これに対して光受信装置2において推定した特性の情報を光送信装置1に何らかの手法で通知し、通知された特性の情報を用いて光送信装置1でデバイス応答を補償するように構成されてもよい。
【0060】
デバイスによっては、その特性を自ら変えられるものも存在する例えば、光フィルタの中心周波数、光アンプのチルト、レーザの発振周波数など)。そこで、デバイス特性推定部28は、特性を変更可能なデバイス毎に、推定した特性の情報をフィードバックすることで特性を変えるように構成されてもよい。
これにより、実施形態とは別の方法でデバイス応答を補償することができる。
【0061】
デバイス特性の推定は、上記の実施形態のように光受信装置2内のデジタル信号処理部22を構成するチップ内に物理的に係数決定部27及びデバイス特性推定部28を備えてオンライン処理で行われても良いし、光受信装置2から受信信号を取り出してオフライン処理で行われても良い。オフライン処理で行われる場合、デジタル信号処理部22が備える全ての機能部又は係数決定部27とデバイス特性推定部28とが外部のコンピュータ等の外部装置に設けられる。デジタル信号処理部22が備える全ての機能部が外部装置に設けられる場合、外部装置は波長分散補償部23に入る直前の信号を取得し、図5に示す処理を行う。デジタル信号処理部22が備える係数決定部27とデバイス特性推定部28とが外部装置に設けられる場合、外部装置はキャリア位相雑音補償部26から出力された信号を取得し、図5に示すステップS106~113の処理を行う。
【0062】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、光受信装置が構成デバイスの特性を推定し、推定した構成デバイスの特性に基づいてデバイス応答を補償する構成を示した。第2の実施形態では、光送信装置が構成デバイスの特性を推定し、推定した構成デバイスの特性に基づいてデバイス応答を補償する構成について説明する。
【0063】
図7は、第2の実施形態における光伝送システム100aのシステム構成を示す図である。光伝送システム100aは、光送信装置1aと、光受信装置2aとを備える。光送信装置1aと、光受信装置2aは、光伝送路3を介して通信可能に接続される。
【0064】
第2の実施形態において光送信装置1aは、デジタル信号処理部11に係数決定部15及びデバイス特性推定部16を新たに備える点で光送信装置1と構成が異なる。第2の実施形態において光受信装置2aは、デジタル信号処理部22aにおいて係数決定部27及びデバイス特性推定部28を備えない点で光受信装置2と構成が異なる。
【0065】
係数決定部15は、光受信装置2aから得られる受信信号に基づいて、各構成デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化する。係数決定部15は、図8に示すように、応答モデル推定部151及び係数更新部152で構成される。図8は、第2の実施形態における係数決定部15の内部構成を示す図である。
【0066】
応答モデル推定部151は、光受信装置2aから得られる受信信号に基づいて構成デバイス毎に線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定する。光受信装置2aから得られる受信信号は、何らかの手法で光受信装置2aから受信信号が取り出されて光送信装置1aに入力される。ここで、光受信装置2aから取り出される受信信号は、コヒーレント受信器21から出力された信号である。
【0067】
係数更新部152は、順特性応答モデルと送信信号とを用いて得られる出力信号に関する評価関数が所定の閾値以上となるように係数を最適化する。例えば、係数更新部152は、出力信号と、光送信装置1aが送信した所定の信号とを比較して評価関数を作成し、評価関数を最小化するように係数を更新することによって係数を最適化する。ここで、光送信装置1aが送信した所定の信号とは、トレーニング信号である。係数更新部152は、所定の信号に、順特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の特性を与えることによって出力信号を取得する。
【0068】
デバイス特性推定部16は、最適化された係数を用いて、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定する。デバイス特性推定部16によって推定される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性は、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の順特性の逆の特性を有する。デバイス特性推定部16は、係数決定部15から出力される受信信号に対して、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を与えることによってデバイス応答を補償する。
【0069】
図9は、第2の実施形態における光送信装置1aによるデバイス特性推定処理の流れを示すフローチャートである。図9の処理は、光送信装置1aに受信信号が入力された後に実行される。
応答モデル推定部151は、入力された受信信号を用いて順特性応答モデルを推定する(ステップS201)。これにより、応答モデル推定部151は、構成デバイスそれぞれの線形応答及び非線形応答の特性をモデル化する。例えば、図10に示すように、応答モデル推定部151は、入力された受信信号を用いて、構成デバイスそれぞれの順特性応答モデルを推定する。
【0070】
図10は、第2の実施形態における光送信装置1aの処理を説明するための図である。図10に示す例では、構成デバイスそれぞれの順特性応答モデルとして、DAC、ドライバアンプ(Drv)、変調器(Mod)、光伝送路3(Fiber)、フォトダイオード(PD)、TIA及びADCそれぞれの順特性応答モデルが示されている。
【0071】
係数更新部152は、順特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の特性において使用される係数として適当な初期値を設定する。なお、係数の初期値は任意である。例えば、初期値を0としてもよいし、他の推定方法やモニタなどにより判明している係数はその値を使用しても良い。
【0072】
係数更新部152は、送信信号に対して、順特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の特性を与える(ステップS202)。すなわち、係数更新部152は、送信信号に対して、順特性応答モデルで示される各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の特性を乗算する。これにより、係数更新部152は、出力信号を取得する。係数更新部152が取得する出力信号は、光受信装置2aにおいて受信された信号とみなせる信号である。
【0073】
係数更新部152は、取得した出力信号と、予め取得したトレーニング信号とを比較し、所定の評価関数を作成する(ステップS203)。例えば、係数更新部152は、上記の式(1)又は(2)のいずれかを用いる。次に、係数更新部152は、作成した評価関数を最小化するように、最適化アルゴリズムを用いて、逆特性に用いられる係数を更新する(ステップS204)。係数更新部152は、最適化アルゴリズムとして、第1の実施形態に示したいずれかの手法を用いる。
【0074】
係数更新部152は、更新後の係数を各順特性応答モデルに設定する。その後、光送信装置1aは、新たに設定された係数を用いて、ステップS202~S204の処理を係数が収束するまで繰り返し実行する(ステップS205)。デバイス特性推定部16は、最適化された係数を係数更新部152から取得する。デバイス特性推定部16は、取得した最適化された係数を用いて、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定する(ステップS206)。具体的には、まずデバイス特性推定部16は、最適化された係数を、各順特性応答モデルに設定することによって構成デバイスそれぞれの順特性を推定する。その後、デバイス特性推定部16は、構成デバイスそれぞれの順特性の逆の特性を推定することによって逆特性を推定する。
【0075】
以上のように構成された光伝送システム100aによれば、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する個々のデバイスの応答特性を簡便に推定することができる。具体的には、光送信装置1aは、受信信号に基づいて、各構成デバイスの特性に応じた劣化を補償するために用いる係数を最適化する係数決定部15と、最適化された係数を用いて、各構成デバイスの特性を推定するデバイス特性推定部16とを備える。係数決定部15は、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の順特性応答モデルを推定し、順特性応答モデルで示される線形応答及び非線形応答で使用する係数を最適化する。デバイス特性推定部16は、最適化された係数を順特性応答モデルで示される線形応答及び非線形応答に用いることによって、各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の順特性を推定する。そして、デバイス特性推定部16は、推定した順特性の逆の特性を推定することによって各構成デバイスの線形応答及び非線形応答の逆特性を推定する。このように、光送信装置1aに備えられる送信側デバイスや光受信装置2aに備えられる受信側デバイスを取り出したり、光送信装置1a及び光受信装置2aを分解することなく、個々のデバイスの線形応答及び非線形応答の特性を推定することができる。そのため、光送信装置と光受信装置との間の伝送路を構成する個々のデバイスの応答特性を簡便に推定することが可能になる。
【0076】
<第2の実施形態における変形例>
上記の実施形態では、光送信装置1aが所定の信号としてトレーニング信号を光受信装置2aに送信し、さらに光受信装置2aにおいて受信された受信信号を用いて係数を最適化する構成を示した。光送信装置1aは、トレーニング信号を用いる以外の方法で係数を最適化するように構成されてもよい。以下、2つのパターンについて説明する。
【0077】
(係数を最適化する他の方法(その1))
光送信装置1aがトレーニング信号ではない任意の信号(例えば、運用中の信号であってもよい)を光受信装置2aに送信する。光受信装置2aは、光送信装置1aから送信されたトレーニング信号ではない任意の信号を受信する。光受信装置2aのコヒーレント受信器21から出力された受信信号は、何らかの手法で光受信装置2aから受信信号が取り出されて光送信装置1aに入力される。そして、光送信装置1aは、入力された受信信号を用いて図9に示す処理を実行する。
【0078】
(係数を最適化する他の方法(その2))
推定開始時に信号が疎通できるほど高品質な場合、上記のいずれかの方法で係数を最適化することができる。一方で、使いたいデバイス非線形領域が強い非線形領域である場合には推定開始時に信号が疎通していない場合も考えられる。その場合、推定/補償を繰り返し行うことで、使いたい非線形領域でのデバイス特性を推定及び補償が可能になる。具体的な処理について説明する。
【0079】
光送信装置1aは、信号が疎通する程度に弱い非線形領域で構成デバイスを動作させる(ステップ11)。その後、光送信装置1aは、実施形態に記載の係数の最適化手法又は係数を最適化する他の方法(その1)によりデバイス特性を推定する(ステップ12)。光送信装置1aは、求めた構成デバイスの特性を用いてデバイス特性を補償する(ステップ13)。これにより、光送信装置1aは、処理開始時よりも高い信号品質を得る。その後、光送信装置1aは、信号が疎通する程度に、前回より強い非線形領域で構成デバイスを動作させる(ステップ14)。光送信装置1aは、ステップ12~ステップ14の処理を係数が収束するまで繰り返し行う。
【0080】
デバイス特性の推定は、上記の実施形態のように光送信装置1a内のデジタル信号処理部11aを構成するチップ内に物理的に係数決定部15及びデバイス特性推定部16を備えてオンライン処理で行われても良いし、光受信装置2から受信信号を取り出してオフライン処理で行われても良い。オフライン処理で行われる場合、係数決定部15及びデバイス特性推定部16が外部のコンピュータ等の外部装置に設けられる。係数決定部15及びデバイス特性推定部16が外部装置に設けられる場合、外部装置はコヒーレント受信器21から出力された信号を取得し、図9に示すステップS201~206の処理を行う。
【0081】
上述した光送信装置1,1a及び光受信装置2,2aの一部の機能部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0082】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、光伝送システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1,1a…光送信装置, 2,2a…光受信装置, 11,11a…デジタル信号処理部, 12…送信器, 13…信号マッピング部, 14…フィルタ, 15…係数決定部, 16…デバイス特性推定部, 21…コヒーレント受信器, 22,22a…デジタル信号処理部, 23…波長分散補償部, 24…適応等化部, 25…周波数オフセット補償部, 26…キャリア位相雑音補償部, 27…係数決定部, 28…デバイス特性推定部, 29…復調部, 151…応答モデル推定部, 152…係数更新部, 271…応答モデル推定部, 272…係数更新部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10