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特許7393755ヘッドマウントディスプレイ及びこれに用いられる虚像結像レンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ヘッドマウントディスプレイ及びこれに用いられる虚像結像レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20231130BHJP
   H04N 13/344 20180101ALI20231130BHJP
   H04N 13/339 20180101ALI20231130BHJP
   H04N 13/346 20180101ALI20231130BHJP
   G02B 25/00 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
H04N13/344
H04N13/339
H04N13/346
G02B25/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021572714
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2021001443
(87)【国際公開番号】W WO2021149628
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2020009320
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】宮島 泰史
(72)【発明者】
【氏名】高木 康博
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106526852(CN,A)
【文献】中国実用新案第205450452(CN,U)
【文献】特表2017-521708(JP,A)
【文献】国際公開第2013/076994(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014107938(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第109407301(CN,A)
【文献】特開2018-084788(JP,A)
【文献】国際公開第2020/008804(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00、25/00、27/01-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左眼用及び右眼用画像を画面上に表示する表示装置であって、前記画面の中央部から周辺部に亘って平面状に形成された表示装置と、
前記画面上の左眼用及び右眼用画像に対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系と、
を備え、
前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系は、それぞれ単一のレンズで構成され、ユーザの視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ光学的中心よりも光軸直交方向外側に前記光学的中心の度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域を備え、
前記度数調整領域は、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がマイナス側に変化する領域を含み、前記光学的中心の度数に対する度数変化量の絶対値は、前記光学的中心から15mm離れた位置で0.10~3.00Dの範囲内である、ヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
左眼用及び右眼用画像を画面上に表示する表示装置であって、前記画面の中央部から周辺部に亘って平面状に形成された表示装置と、
前記画面上の左眼用及び右眼用画像に対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系と、
を備え、
前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系は、
プラス度数が設定された第1レンズと、
前記第1レンズとは別体のレンズで、光学的中心よりも光軸直交方向外側に前記光学的中心の度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域を備え、前記第1レンズに対して光軸方向に重ねて配置されている第2レンズと、
それぞれ備えた組み合わせレンズで構成され、
前記度数調整領域は、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がマイナス側に変化する領域を含み、前記光学的中心の度数に対する度数変化量の絶対値は、前記光学的中心から15mm離れた位置で0.10~3.00Dの範囲内である、ヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記光学的中心における度数及びレンズ中心厚が前記第2レンズと等しい球面設計レンズと比較して、前記第2レンズの縁厚が厚く設定されている、請求項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項4】
光学的中心における度数及びレンズ中心厚が前記単一のレンズと等しい球面設計レンズと比較して、前記単一のレンズの縁厚が厚く設定されている、請求項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項5】
前記表示装置は、前記左眼用及び右眼用画像をそれぞれ表示する左眼用及び右眼用画面を有し、
前記左眼用虚像結像光学系の前記左眼用画面に対する逆側且つユーザの左眼の前方に配置される左眼用ハーフミラーと、
前記右眼用虚像結像光学系の前記右眼用画面に対する逆側且つユーザの右眼の前方に配置される右眼用ハーフミラーと、
をさらに備えている、請求項1~の何れかに記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項6】
ヘッドマウントディスプレイの虚像結像光学系に用いられるレンズであって、
ユーザの視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ光学的中心よりも光軸直交方向外側に前記光学的中心の度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域を備え、
前記度数調整領域は、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がマイナス側に変化する領域を含み、前記光学的中心の度数に対する度数変化量の絶対値は、前記光学的中心から15mm離れた位置で0.10~3.00Dの範囲内である、虚像結像レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザに対して立体像を映し出すヘッドマウントディスプレイ及びこれに用いられる虚像結像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、仮想現実(VR)技術及び拡張現実(AR)技術の研究開発が進み、医療、設計などのプロフェッショナル分野からゲーム、娯楽などの一般コンシューマ分野までの幅広い分野における利用が期待されるようになった。VR技術及びAR技術では、頭部に装着するディスプレイ装置としてのヘッドマウントディスプレイ(HMD)が使用される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ヘッドマウントディスプレイは、左眼用及び右眼用画像を画面上に表示する表示装置を備えており、左右の眼のそれぞれに対応する視差画像を表示装置の画面上に表示することでユーザに対して立体像を映し出す。このように左右の眼に対応する視差画像を表示する立体表示方式を二眼式立体表示と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/137165号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッドマウントディスプレイでは、ユーザに高い没入感を与えるため、広角な範囲で画像を表示させる。このため、画面上に表示された画像を正面視により視認する場合のほか、側方視により視認する場合においても、ユーザが画像を明瞭に視認できることが望まれている。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、ユーザが画像を明瞭に視認できる範囲を広げることが可能なヘッドマウントディスプレイ及びこれに用いられる虚像結像レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その第1の局面は次のように規定される。
【0008】
第1の局面に規定されるヘッドマウントディスプレイは、左眼用及び右眼用画像を画面上に表示する表示装置と、前記画面上の左眼用及び右眼用画像に対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系と、を備え、前記虚像結像光学系は、ユーザの視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ光学的中心よりも光軸直交方向外側に前記光学的中心の度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域を備えている。ここで光軸直交方向外側とは、虚像結像光学系の光軸と直交する方向であって、光軸から離間する方向である。
【0009】
ヘッドマウントディスプレイでは、表示装置に表示された左眼用および右眼用画像の虚像(拡大正立像)を得るため所定のプラス度数が設定された虚像結像光学系が用いられる。一般的なヘッドマウントディスプレイでは、この虚像結像光学系に球面設計レンズもしくは度数一定の非球面レンズが用いられていたため、正面視の場合に比べてユーザの眼から表示装置の画面までの距離が遠くなる側方視の場合に、表示装置の画面の位置とユーザが画像を明瞭に視認できる焦点の位置とのずれが大きくなり、ユーザが視認する画像の解像度が低下してしまう。
【0010】
これに対し、第1の局面に規定されるヘッドマウントディスプレイでは、虚像結像光学系の光学的中心よりも光軸直交方向外側に、光学的中心の度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域が設定されているため、ユーザが側方視した際の焦点の位置(ユーザが画像を明瞭に視認できる位置)が遠方に延長され、表示装置の画面の周辺部に位置する画像を従来よりも明瞭に視認することができる。即ち、表示装置の画面に表示された画像を正面視により視認する場合のほか、側方視により視認する場合においても明瞭に視認でき、ユーザが画像を明瞭に視認できる範囲を広げることが可能である。
【0011】
ここで前記度数調整領域は、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がマイナス側に変化する領域を含んでいる(第2の局面)。
【0012】
第3の局面に規定のヘッドマウントディスプレイは、第1、第2の何れかの局面に規定のヘッドマウントディスプレイにおいて、虚像結像光学系を、プラス度数が設定された第1レンズと、前記第1レンズとは別体のレンズで、前記度数調整領域を備え、前記第1レンズに対して光軸方向に重ねて配置されている第2レンズと、を備えた組み合わせレンズで構成する。
【0013】
ここで第1レンズには、従来から虚像結像光学系に用いられていた球面設計レンズや度数一定の非球面レンズが含まれる。即ち、従来の虚像結像光学系に前記第2レンズを追加することで第1の局面と同等の効果を奏する。
【0014】
この場合、前記光学的中心における度数及びレンズ中心厚が前記第2レンズと等しい球面設計レンズと比較して、前記第2レンズの縁厚が厚く設定されている(第4の局面)。
【0015】
第5の局面に規定のヘッドマウントディスプレイは、第1、第2の何れかの局面に規定のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記虚像結像光学系を単一のレンズで構成する。
【0016】
このようにすることで、虚像結像光学系を組み合わせレンズで構成した場合に比べて軽量化を図ることができる。
【0017】
この場合、光学的中心における度数及びレンズ中心厚が前記単一のレンズと等しい球面設計レンズと比較して、前記単一のレンズの縁厚が厚く設定されている(第6の局面)。
【0018】
第7の局面に規定のヘッドマウントディスプレイは、第1~第6の何れかの局面に規定のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記表示装置は、前記左眼用及び右眼用画像をそれぞれ表示する左眼用及び右眼用画面を有し、前記左眼用虚像結像光学系の前記左眼用画面に対する逆側且つユーザの左眼の前方に配置される左眼用ハーフミラーと、前記右眼用虚像結像光学系の前記右眼用画面に対する逆側且つユーザの右眼の前方に配置される右眼用ハーフミラーと、をさらに備える。
【0019】
第8の局面に規定される虚像結像レンズは、ヘッドマウントディスプレイの虚像結像光学系に用いられるレンズであって、ユーザの視線が通過する各領域にプラス度数が設定され、且つ光学的中心よりも光軸直交方向外側に前記光学的中心の度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域を備えている。
【0020】
このように規定される第8の局面の虚像結像レンズによれば、ヘッドマウントディスプレイに用いられて第1の局面と同等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るVR用HMDの概略構成を示した図である。
図2】(A)は同実施形態のVR用HMDの虚像結像レンズの半分を示した概略図、(B)は同レンズにおけるレンズの光軸直交方向に沿った平均度数の変化を模式的に示した図である。
図3】(A)は同実施形態のVR用HMDにおける焦点の位置と画面の関係を示した図である。(B)は比較例として虚像結像光学系に球面設計レンズを用いた場合における焦点の位置と画面との関係を示した図である。
図4】(A)は図2(B)とは異なる平均度数の変化を模式的に示した図である。(B)は図2(B)および図4(A)とは異なる平均度数の変化を模式的に示した図である。
図5】組み合わせレンズで構成された虚像結像光学系の概略図である。
図6】本発明の効果を確認するために使用された画像観察装置の概略構成を示した図である。
図7図6の画像観察装置で用いられた虚像結像光学系の概略構成図で、(A)は第1レンズと第2レンズからなる組み合わせレンズを用いた場合、(B)は第1レンズのみを用いた場合を示している。
図8図6の画像観察装置で観察された画像を撮影した写真で、(A)は図7(A)の虚像結像光学系を用いた場合、(B)は図7(B)の虚像結像光学系を用いた場合を示している。
図9】本発明の他の実施形態に係るAR用HMDの概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1に、第1の実施形態に係るVR用HMD(混乱のない限り、単にHMDと呼ぶ)1の概略構成を示す。図1及びその他の図面において、ユーザの左眼Ea及び右眼Ebを図面上下方向に並べ、この方向を左右方向、図面左右方向を前後方向とする。なお、左眼Ea及び右眼Ebの中心を通って前後方向に延びる基準線を中心線L、左眼Ea及び右眼Ebのそれぞれから中心線Lに平行に図面左に延びる基準線を主視線La,Lbとする。また、ユーザの左眼Ea及び右眼Ebの離間距離Pとし、例えば成人の平均的な左右眼の離間距離(典型的に65mm)で与えるとする。HMD1は、フレーム2、表示装置3、及び左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bを備える。
【0024】
フレーム2は、表示装置3及びその他の構成各部を保持する筐体である。フレーム2の形状は、表示装置3を内側に保持するよう前面が閉じ、表示装置3の表示面(画面)を背面側から覗くことができるよう背面が開き、表示装置3を覗く両眼の周囲を覆うよう前面の周囲を側面が囲む形状であれば任意の形状であってよい。また、フレーム2の一側面からユーザの後頭部を周って他側面に接続することで、HMD1をユーザの顔前に装着する装着バンド(不図示)を設けてもよい。なお、ユーザがHMD1を装着した状態において、左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lbがそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸と重なる又はほぼ重なるよう、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bがフレーム2内に保持されているものとする。
【0025】
表示装置3は、左眼用及び右眼用画像3a,3bを画面3c上に表示する装置である。表示装置3として、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイを使用することができる。表示装置3は、フレーム2の前面裏側に、画面3cを背面側に向けて保持されている。表示装置3の画面3cは、左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lb上に位置して左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ表示する2つの領域を含む。なお、単一の画面3cを有する表示装置3に代えて、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ表示する2つの表示装置を使用してもよい。
【0026】
左眼用及び右眼用虚像結像光学系(単に、虚像結像光学系とも呼ぶ)4a,4bは、表示装置3の画面3c上の左眼用及び右眼用画像3a,3bに対してそれぞれ配置され、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ虚像表示面Va,Vb上に虚像結像してそれらの拡大正立像を左眼Ea及び右眼Ebに映し出す光学系である。本実施形態では、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bは、それぞれ単一の虚像結像レンズ50より構成されるが、複数のレンズを組み合わせて構成してもよい。左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bは、それぞれ、左眼用及び右眼用画像3a,3bがそれぞれ表示される画面3c上の2つの領域に対して後方に配置される。
【0027】
左眼Ea及び右眼Ebによりそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bを介して、画面3c上の左眼用及び右眼用画像3a,3bを視ると、それらの虚像がそれぞれ虚像表示面Va,Vb上に映し出される。ここで、左眼用及び右眼用画像3a,3bとして視差画像を与えると、虚像表示面Va,Vbの重複領域において虚像表示面Va上の虚像を左眼Eaにより視ると同時に虚像表示面Vb上の虚像を右眼Ebにより視ることで、両眼から重複領域を臨む領域As内で虚像を立体視することができる。つまり、領域As内に立体像が映し出される。重複領域以外の虚像表示面Va,Vb上の領域では虚像を両眼視することができないため、単に、虚像表示面Va上の虚像を左眼Eaにより二次元視し、虚像表示面Vb上の虚像を右眼Ebにより二次元視することとなる。つまり、領域Amでは立体像は映し出されない。
【0028】
図2(A)は、虚像結像光学系4a,4bのレンズ(虚像結像レンズ)50の半分を示している。本例の虚像結像レンズ50は、前面(表示装置側)53および後面(眼球側)52がともに凸形状の両凸レンズである。後面52が下記式(1)で定義される非球面の凸面とされ、前面53が下記式(2)で定義される球面の凸面とされている。なお、虚像結像レンズ50の光学的中心O(後面52では基点O1、前面53では基点O2)を通る前後方向の軸をz軸とし、z軸はレンズ50の光軸に一致する。
z=r2/(R1+(R1 2-Kr21/2)+δ …(1)
z=r2/(R2+(R2 2-Kr21/2) …(2)
式(1)、式(2)のrは、z軸からの距離である。すなわち、後面52では基点O1、前面53では基点O2を中心として、z軸に直交する左右方向、上下方向の軸をそれぞれx軸、y軸とする直交座標系を考えた場合、r=(x2+y21/2である。R1、R2は面の頂点における曲率半径、K(コーニック係数)は1、である。また、後面52を定義する式(1)において、δは、Σ{Ann}で表される非球面成分である。但し、An:非球面係数、n:正の整数である。Σ{ }は、{ }内の総和を示す記号である。なお、上記式(1)、式(2)はレンズの後方に向かう方向をz軸の正方向とすることで、メニスカス形状のレンズに適用できるが、本例のような両凸レンズの後面に適用する場合はz軸の符号が逆となる。
【0029】
例えば、非球面成分δは、A44+A66+A88+A1010で表されるされるものであってもよく、またA33で表されるされるものであってもよい。非球面成分δを特定するための非球面係数Anは、所望の光学特性(度数変化)が得られるように光線追跡によるシミュレーションによって適宜決定することができる。
【0030】
図2(B)は虚像結像レンズ50の光軸直交方向に沿った度数変化(詳しくはメリジオナル方向の屈折力とサジタル方向の屈折力との平均である平均度数の変化)を示した図である。虚像結像レンズ50における度数変化は、レンズメータの測定光束を虚像結像レンズ50の裏面に対し垂直に入射することにより測定することができる。またHMD1の装用状態を反映した光学特性を得るべく、眼の回旋中心を基準として被検レンズ(虚像結像レンズ50)の光学特性を測定可能なレンズメータを用いて測定したものであってもよい。ここで平均度数は、距離の逆数をメートルで表したディオプター(Diopter [D])を単位として与えられる。
【0031】
図2(B)で示すように、虚像結像レンズ50はレンズの各領域(ユーザの視線が通過する各領域)がプラス度数に設定されている。また本例の虚像結像レンズ50は光学的中心Oよりも光軸直交方向外側に、光学的中心の度数S0よりもマイナス側(本例では度数の絶対値が小さくなる側である)の度数が設定された度数調整領域55を有している。本例では、この度数調整領域55において、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がマイナス側に変化している。
【0032】
ここで、度数調整領域55における度数変化量、詳しくは光学的中心の度数S0に対する度数変化量の絶対値ΔS(図2(B)参照)は、光学的中心から15mm離れた位置で0.10~3.00Dの範囲内であることが好ましい。
【0033】
度数調整領域55を有する虚像結像レンズ50の場合、図2(A)において二点鎖線で示される曲率半径R1の球面(以下、元の球面ともいい、図2(A)に符号Sで示す。)から非球面成分δに対応する厚み分だけレンズの厚みが増加し、その厚みの増加量はレンズの縁に近い程大きくなる。ここではレンズの縁における厚みの増加量がT1で表されている。即ち、虚像結像レンズ50は、光学的中心の度数S0及びレンズ中心厚T0が虚像結像レンズ50と等しい球面設計レンズと比較した場合、レンズの縁厚が厚くなっている。このような形態の虚像結像レンズ50は、レンズ中心厚を更に薄くしても所定の縁厚が維持されることから、球面設計レンズよりもレンズ中心厚が薄いレンズとすることが可能である。即ち、レンズの重量(換言すればHMDの重量)を軽減することが可能である。
【0034】
以上のように構成された第1の実施形態に係るVR用HMDにおいては、ユーザが画像を明瞭に視認できる範囲を広げることが可能である。図3(B)はVR用HMDの虚像結像光学系に球面設計レンズ(2つの屈折面を共に球面で構成したレンズ)50Bを用いた場合における、焦点の位置と画面3cとの関係を示している。同図で示すように虚像結像光学系に球面設計レンズ50Bを用いた場合、焦点の位置は2点鎖線Jで示すように略円形に設定される。このため、ユーザの正面に広がる平面状の画面3cの中央部にピントが合った状態(正面視の状態)から更に視線を側方に移動させ側方視すると、ユーザの眼に対し画面3cの周辺部は中央部よりも遠い位置にあるため、画面3cの周辺部とユーザが画像を明瞭に視認できる焦点の位置Jとのずれが大きくなり、ユーザが視認する画像の解像度が低下してしまう。
【0035】
これに対し度数調整領域55を備えた虚像結像レンズ50では、図3(A)に示すように、レンズ50の縁に近づく程、焦点の位置Qが遠方に移動するため、側方視において視認される画面3cの周辺部に表示された画像であっても明瞭に視認することができる。
【0036】
なお、上記虚像結像レンズ50は、図2(B)で示すように、光学的中心Oからレンズの縁に向けて度数を漸次変化させたものであるが、度数変化の態様はこれに限定されるものなく適宜変更可能である。例えば図4(A)に示すように、光学的中心Oから距離r0内のレンズ中央部56の度数をS0とし、レンズ中央部56より外側の領域をS0よりもマイナス側に度数を変化させた度数調整領域55として設定することも可能である。また図4(B)で示すように、度数調整領域55は、光軸直交方向外側に向かうにつれて度数がマイナス側に変化する領域55aのほか、所定の度数が維持されている(度数変化の無い)領域55bが含まれていてもよい。
【0037】
またHMD1の虚像結像光学系4a,4bは、単一のレンズ50に代えて、複数のレンズを組み合わせて構成することも可能である。
【0038】
図5に示す例において、虚像結像光学系4a,4bは、第1レンズ60と第2レンズ62からなる組み合わせレンズで構成されている。第1レンズ60はプラス度数S0が設定された単焦点レンズである。第2レンズ62は光学的中心Oの度数が0Dで、光学的中心Oよりも光軸直交方向外側に、レンズの縁に向かうにつれて度数がマイナス側(本例では度数の絶対値が大きくなる側である)に変化する度数調整領域55を備えている。
【0039】
第2レンズ62は、後面52に非球面成分δが付加されており、非球面成分δに対応する厚み分だけレンズの厚みが増加し、その厚みの増加量はレンズの縁に近い程大きくなる。即ち第2レンズ62は、光学的中心の度数(0D)及びレンズ中心厚T0が第2レンズ62と等しい球面設計レンズと比較した場合、レンズの縁厚が厚くなっている。
【0040】
これら第1レンズ60及び第2レンズ62は、その光軸が重なる又はほぼ重なるように、光軸方向に重ねて配置されている。このように構成された組み合わせレンズを用いた場合であっても、上記虚像結像レンズ50を用いた場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0041】
<実施例>
図6において、70は、表示装置71と虚像結像光学系74a,74bとを対向配置させた画像観察装置である。虚像結像光学系74a,74bとして、第1レンズ60と第2レンズ62からなる組み合わせレンズを用いた場合(図7(A)参照)、第1レンズ60のみを用いた場合(図7(B)参照)のそれぞれにおいて、虚像結像光学系74a,74bを介して表示装置71に表示された画像を観察することで、度数調整領域55を備えた第2レンズ62を用いたことによる効果を確認した。
【0042】
なおここでは、第1レンズ60としてGoogle Cardboard(登録商標)用のレンズ(φ34mm)を使用した。虚像表示距離は第1レンズ60から略1000mmである。
【0043】
第2レンズ62の仕様は以下の通りである。
【0044】
屈折率:1.608、光学的中心における度数:0.00D、中心厚:1.80mm、
度数変化:光学的中心Oから光軸直交方向外側15mmの位置で度数を-0.75Dに変化させた。
【0045】
その他:光学的中心Oから光軸直交方向外側25mmの位置でのレンズ厚は球面設計レンズよりも260μm厚い。
【0046】
また表示装置71として、スマートフォン(Google Pixel 3)を使用した。
【0047】
図8は、画像観察装置70で観察された表示装置71の画像を撮影した写真である。図8(A)は、虚像結像光学系として第1レンズ60及び第2レンズ62を用いた場合(図7(A)参照)の画像である。図8(B)は、虚像結像光学系として第1レンズ60のみを用いた場合(図7(B)参照)の画像である。図8(A)と図8(B)を比較すると、図8(A)の方が周辺部における画像の解像度が高いことが分かる。また図8(A)と図8(B)を比較すると撮影された範囲が広くなっていることが分かる。これらは度数調整領域55を備えた第2レンズ62を虚像結像光学系74a,74bに用いたことによる効果である。
【0048】
図9に、第2の実施形態に係るAR用HMD(混乱のない限り、単にHMDと呼ぶ)11の概略構成を示す。HMD11は、フレーム12、左眼用及び右眼用表示装置13a,13b、左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17b、及び左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bを備える。これらの構成各部のうち、第1の実施形態に係るHMD1の構成と共通する構成については同じ符号を用いて示すとともに、その説明を省略する。
【0049】
フレーム12は、左眼用及び右眼用表示装置13a,13b及びその他の構成各部を保持する筐体である。フレーム12は、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bをそれぞれ左及び右側面の内側に保持し、背面側から内部を覗くことができるよう背面が開き、背面側から内部を覗いた際に前方を臨めるよう透光性の前面を有するとともに左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面を視ることができるよう左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lb上にそれぞれ左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを保持する。なお、ユーザがHMD11を装着した状態において、左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを介してそれぞれ折れ曲がる左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lbがそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸4a0,4b0と重なる又はほぼ重なるよう、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bがフレーム12内に保持されているものとする。
【0050】
左眼用及び右眼用表示装置13a,13bは、それぞれ左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれの画面(左眼用及び右眼用画面とも呼ぶ)上に表示する装置である。表示装置13a,13bとして、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイを使用することができる。左眼用表示装置13aは、フレーム12の左側面の内側に、画面を右側に向けて保持されている。右眼用表示装置13bは、フレーム12の右側面の内側に、画面を左側に向けて保持されている。
【0051】
左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bは、それぞれ、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面上に表示される左眼用及び右眼用画像3a,3bを反射するとともに前方の目標物からの光を透過することにより互いに重ねて左眼Ea及び右眼Ebに映し出すシースルー機能を実現するための光学部材である。左眼用ハーフミラー17aは、左眼用虚像結像光学系4aの左眼用画面(左眼用表示装置13a)に対する逆側且つユーザの左眼Eaの前方(すなわち、主視線La上)に配置される。右眼用ハーフミラー17bは、右眼用虚像結像光学系4bの右眼用画面(右眼用表示装置13b)に対する逆側且つユーザの右眼Ebの前方(すなわち、主視線Lb上)に配置される。
【0052】
左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bは、それぞれ、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面に向けてフレーム12内の左側及び右側に配置され、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ前方の虚像表示面Va,Vb上に虚像結像してそれらの拡大正立像を左眼Ea及び右眼Ebに映し出す。
【0053】
左眼Ea及び右眼Ebによりそれぞれ左眼用ハーフミラー17aと左眼用虚像結像光学系4a及び右眼用ハーフミラー17bと右眼用虚像結像光学系4bを介して、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面上の左眼用及び右眼用画像3a,3bを視ると、それらの虚像がそれぞれ前方の虚像表示面Va,Vb上に映し出される。ここで、左眼用及び右眼用画像3a,3bとして視差画像を与えると、虚像表示面Va,Vbの重複領域において虚像表示面Va上の虚像を左眼Eaにより視ると同時に虚像表示面Vb上の虚像を右眼Ebにより視ることで、両眼から重複領域を臨む領域As内で、その領域内に実際に存在する目標物に重ねて虚像を立体視することができる。つまり、領域As内の目標物に重ねて立体像が映し出される。
【0054】
なお、本実施形態に係るHMD11では、フレーム12内で、左眼用表示装置13a及び左眼用虚像結像光学系4aを主視線La上の左眼用ハーフミラー17aに対して左に配置したが、これに代えて、左眼用ハーフミラー17aの上方又は下方に配置してもよい。また、本実施形態に係るHMD11では、フレーム12内で、右眼用表示装置13b及び右眼用虚像結像光学系4bを主視線Lb上の右眼用ハーフミラー17bに対して右に配置したが、これに代えて、右眼用ハーフミラー17bの上方又は下方に配置してもよい。
【0055】
以上説明したように、第2の実施形態に係るHMD11によれば、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ画面上に表示する左眼用及び右眼用表示装置13a,13b、左眼用及び右眼用画像3a,3bに対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4b、左眼用虚像結像光学系4aの左眼用画面に対する逆側且つユーザの左眼Eaの前方に配置される左眼用ハーフミラー17a、右眼用虚像結像光学系4bの右眼用画面に対する逆側且つユーザの右眼Ebの前方に配置される右眼用ハーフミラー17bを備える。虚像結像光学系4a,4bに用いられた虚像結像レンズ50は、光学的中心Oよりも光軸直交方向外側に、光学的中心Oの度数よりもマイナス側の度数が設定された度数調整領域55が設定されているため、側方視した際の焦点の位置が遠方に延長され、表示装置13a,13bの画面の周辺部に位置する画像を明瞭に視認することができる。即ち、表示装置13a,13bの画面に表示された画像を正面視により視認する場合のほか、側方視により視認する場合においても明瞭に視認でき、ユーザが画像を明瞭に視認できる範囲を広げることが可能である。
【0056】
なお、第2の実施形態に係るHMD11では、シースルー機能を備えるために左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを使用したが、これに代えて、装置の小型化のために平面導波路及びホログラフィック光学素子を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
なお、第1及び第2の実施形態に係るHMD1,11において、表示装置3並びに左眼用及び右眼用表示装置13a,13bが表示する左眼用及び右眼用画像3a,3bはカラーでもモノクロでもよい。カラーの場合に、色収差を補正する光学系をさらに備えてもよい。
<その他の変形例・適用例>
虚像結像光学系の度数調整領域は、虚像結像光学系の光軸周りの全周に亘って設けてもよいし、周方向の一部にのみ設けることも可能である。
【0058】
上記実施形態の虚像結像レンズは両凸形状としたが、平凸形状やメニスカス形状で構成することも可能であり、また場合によってはレンズの厚みを低減するためにフレネル形状を採用することも可能である。
【0059】
また上記実施形態は、度数を変化させるための非球面成分δを虚像結像レンズや第2レンズの後面に付加した例であったが、非球面成分δはレンズの前面に付加することや、前面及び後面の両面に付加することも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ヘッドマウントディスプレイ(VR用HMD)
3,13a,13b 表示装置
3a 左眼用画像
3b 右眼用画像
3c 画面
4a,4b 虚像結像光学系
11 ヘッドマウントディスプレイ(AR用HMD)
17a 左眼用ハーフミラー
17b 右眼用ハーフミラー
50 虚像結像レンズ
52 後面
53 前面
55 度数調整領域
60 第1レンズ
62 第2レンズ
Ea 左眼
Eb 右眼
δ 非球面成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9