(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/278 20220101AFI20231130BHJP
H02K 21/16 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
H02K1/278
H02K21/16 M
(21)【出願番号】P 2019188343
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月30日東京都千代田区五番町6番2号において開催された電気学会 モータドライブ・回転機・自動車合同研究会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真紹
(72)【発明者】
【氏名】飯田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 以久也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-252611(JP,A)
【文献】特表2004-521600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/278
H02K 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に互いに離れて配列される複数のストレートティースを有する環状の固定子コアと、
前記ストレートティースに集中巻方式で巻かれる巻線と、
磁性材料で形成され、前記固定子コアと同軸に前記固定子コアの径方向内側に設けられるシャフトと、
前記シャフトの径方向外側に周方向に極性が交互となるようにして配列され、径方向外側の面が隙間を介して前記ストレートティースの径方向内側と向き合う4つのネオジムボンド磁石と、
前記シャフトの径方向外側と前記4つのネオジムボンド磁石の径方向内側との間に設けられる筒状の回転子コアと、
を備えるモータ。
【請求項2】
前記巻線は、前記ストレートティースに並列に巻かれている請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記巻線の並列数は、3以上である、
請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記回転子コアの径方向の寸法は、前記ネオジムボンド磁石の径方向の寸法よりも小さい、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面磁石型のモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ストレートティースの平板状永久磁石と対向する端面の幅Wtと平板状永久磁石のストレートティースと対向する端面の幅Wmの比Wt/Wmが、0.55≦Wt/Wm≦0.65となっていることにより、分数スロットを用いることなくコギングトルクを低減することが可能なモータが開示されている。この種のモータには、高出力密度化を図るために残留磁束密度が高いネオジム焼結磁石が利用され、また小型化に有効である集中巻の巻線構造が利用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ネオジム焼結磁石及び集中巻構造を採用した従来のモータにおいては、出力密度の向上を図るために極数を4極化すると、駆動周波数が高くなることから、固定子は勿論のこと、特に回転子における損失が著しく大きくなるため、出力の向上を実現させながら損失の上昇を抑制する上での改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、出力の向上を実現させながら損失の上昇を抑制できるモータを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係るモータは、周方向に互いに離れて配列される複数のストレートティースを有する環状の固定子コアと、前記ストレートティースに集中巻方式で巻かれる巻線と、磁性材料で形成され、前記固定子コアと同軸に前記固定子コアの径方向内側に設けられるシャフトと、前記シャフトの径方向外側を覆う筒状の回転子コアと、前記回転子コアの径方向外側に周方向に極性が交互となるようにして配列され、径方向外側の面が隙間を介して前記ストレートティースの径方向内側と向き合う4つのネオジムボンド磁石と、前記シャフトの径方向外側と前記4つのネオジムボンド磁石の径方向内側との間に設けられる筒状の回転子コアと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出力の向上を実現させながら損失の上昇を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】4極モデルと2極モデルのそれぞれの回転速度を100,000rpmとして2.5kWで出力した場合の損失の内訳を比較して示す図
【
図4A】2極モデルの回転子磁石における渦電流によるジュール損失密度の分布を示す図
【
図4B】4極モデルの回転子磁石における渦電流によるジュール損失密度の分布を示す図
【
図5A】2極モデルの固定子コアの鉄損密度の分布を示す図
【
図5B】4極モデルの固定子コアの鉄損密度の分布を示す図
【
図6】ネオジム焼結磁石を用いたベースモデルとネオジムボンド磁石を用いたモデル1の損失内訳を示す図
【
図7A】ベースモデルの固定子コアの鉄損密度の分布を示す図
【
図7B】モデル1の固定子コアの鉄損密度の分布を示す図
【
図8A】モデル1の固定子コアの鉄損密度の分布を示す図
【
図8B】ストレートティースを用いたモデル2の固定子コアの鉄損密度分布を示す図
【
図9A】モデル1の固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図
【
図9B】モデル2の固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図
【
図10】巻線スロットの開口幅に対する固定子コア鉄損、シャフト鉄損、及び巻線渦電流損の変化を示す図
【
図11】磁石とシャフトの間に回転子コアを設けたモデル3の断面図
【
図12A】モデル2のシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図
【
図12B】モデル3のシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図
【
図13】巻線の並列数に対する巻線での渦電流損の推移を示す図
【
図14】ネオジム焼結磁石を用いた2極モデルと4極モデルのモデル3において巻線の並列数を「5」にした実施の形態の損失内訳を示す図
【
図15A】つばを有するティース(巻線スロットの開口幅W=2.1mm)を採用した場合にシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図
【
図15B】つばを有さないストレートティース(巻線スロットの開口幅W=11.6mm)を採用した場合にシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図
【
図17】回転子コアが設けられていない場合の回転子総損失と、回転子コアが設けられている場合の回転子総損失とを比較して示す図
【
図18A】2並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図
【
図18B】3並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図
【
図18C】4並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図
【
図18D】5並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図
【
図19A】2並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図
【
図19B】3並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図
【
図19C】4並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図
【
図19D】5並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係るモータを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
現在、我が国における電力消費の50%以上がモータによるものであるため、電気エネルギーを有効に利用する観点から、モータの更なる高効率化は必須である。また同時に、モータの小型化に対する要求も高く、より高出力密度を実現できるモータが望まれている。そこで、モータの小型化及び高出力密度化に有効な手段として、モータの高速化があり、近年では超高速モータの研究が盛んに行われている。一般的に従来の超高速モータでは、高出力密度化を図るために残留磁束密度が高いネオジム焼結磁石を使用している。しかし、ネオジム焼結磁石は、電気伝導率が高いという特徴があるため、高速回転においては、磁石内で発生する渦電流損が問題となる。そこで、従来の超高速モータにおいては、エアギャップ(回転子と固定子の間の隙間)中の高調波磁束を低減できる分布巻の巻線構造を固定子に採用することで、磁石での渦電流損を最小限に抑制している。ただし、分布巻構造はコイルエンドが長く、小型化及び高出力密度化にはあまり適していない。加えて分布巻構造は、軸長が長くなることから、超高速モータで問題となる危険速度の低下を招いてしまう。
【0011】
そこで、近年ではコイルエンドを短くでき、小型化に有効である集中巻の巻線構造を採用した超高速モータの検討もされている。しかし、集中巻構造では、エアギャップの高調波磁束が増加するため、回転子での損失が大きくなりやすいという課題がある。一方、更なる高出力密度化を実現する手段として、モータの極数を増やすことが考えられる。超高速モータにおいては、インバータの駆動周波数が高くなるため、一般的には2極機が採用される。しかし、近年はSiC、GaN等の次世代パワー半導体の登場により、高周波での駆動が可能となってきているため、超高速モータを4極化することで出力密度の向上を図ることは十分有効であると考えられる。
【0012】
ただし、従来のネオジム焼結磁石及び集中巻構造を採用した超高速モータにおいては、4極化すると駆動周波数が高くなることから、固定子は勿論のこと、特に回転子における損失が著しく大きくなってしまい、発熱の観点からモータとして成立することが難しいと予想される。
【0013】
そこで、本実施の形態に係るモータの開発に当たり、まず、電気伝導率が非常に小さいネオジムボンド磁石の適用によって、回転子磁石の渦電流損の抑制を検討した。ネオジムボンド磁石の残留磁束密度が小さいという欠点は、モータを4極化することで十分に補うことができる。そして、超高速モータにワイドギャップ及び固定子につばを設けないストレートティースを採用することによって固定子鉄損を抑制し、更なる高効率化を図っている。ストレートティースの採用に伴い増加する巻線での渦電流は、巻線径を細くして対策している。更に、ストレートティースの採用により無視できなくなるシャフト内での損失増加に対しても、回転子の磁石とシャフトの間にバックコア(回転子コア)を設けるという工夫により抑制する。本願発明者は、4極の超高速モータにおいて、これらの対策を実施することで、従来のネオジム焼結磁石及び集中巻固定子を用いた2極機に対して、1.5倍の出力密度を実現しつつ、同等の損失密度、すなわち効率を改善できることを2D-FEM(二次元有限要素法)での解析によって明らかにした。
【0014】
以下では本実施の形態に係るモータ100の構成例の概要を
図1を参照して説明し、その後に、モータ100の構成要素について従来の構成例などを踏まえて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係るモータの断面図である。本実施の形態に係るモータ100は、周方向に互いに離れて配列される複数のストレートティース302を有する環状の固定子コア300と、ストレートティース302に並列に且つ集中巻方式で巻かれる巻線301(以下「固定子巻線」と称する場合がある)と、固定子コア300と同軸に固定子コア300の径方向内側に設けられるシャフト204と、シャフト204の径方向外側を覆う筒状の回転子コア203と、回転子コア203の径方向外側に周方向に極性が交互となるようにして配列され、径方向外側の面が隙間を介してストレートティース302の径方向内側(先端面)と向き合う4つのネオジムボンド磁石202とを備える。
【0016】
モータ100は、表面磁石型のネオジムボンド磁石202を採用する。表面磁石型のネオジムボンド磁石202は、回転子コア203の露出している。そのため表面磁石型のネオジムボンド磁石202を採用することで、有効磁束量が大きくなり、かつトルクリプルが小さくなる。
【0017】
回転子コア203と固定子コア300のそれぞれは、例えば日本製鉄株式会社製の電磁鋼板「薄手ハイエックスコア20HX1300」を複数積層することで筒状に形成された鉄心である。
【0018】
モータ100は、ネオジムボンド磁石202の外周に、飛散防止のためのCFRPの保護リング201を設けている。保護リング201の厚みは、応力解析を実施し、安全率が2.0以上となるように設定している。なお、機械ギャップG(回転子と固定子の間の隙間)は1.0mmである。
【0019】
シャフト204の材料には、S45C(機械構造用炭素鋼)を例示できる。
【0020】
ネオジムボンド磁石202は、ネオジム磁石粉をプラスチック樹脂(エポキシ系樹脂)と混合して成型固化した磁石である。ネオジムボンド磁石202の磁力はネオジム焼結磁石より弱いが、樹脂を混合しているため、複雑形状、肉薄形状が可能で、且つ仕上げ加工をしなくても高い寸法精度が得られる。
【0021】
【0022】
(従来型の2極モデルの特徴及び構造)
表1はネオジム焼結磁石と集中巻の巻線構造を用いた従来型の2極機(モータ100A)の諸元を示す。
図2は、
図1に示すモータの比較例の断面図、すなわち比較例に係る従来型の2極機であるモータ100Aの断面図である。
【0023】
モータ100Aの各寸法は、本発明において目標値としている、回転速度が100,000rpmにおいて2.4kWを達成できるように、コイルエンドを含むモータ100A全体の損失密度を600W/L以下、回転子での損失密度を800W/L以下となるように、2D-FEMによるパラメータスタディを実施して決定した値である。本願発明者によるこれまでの実機試験の実績から、これらの損失密度の条件を満たせば、強制空冷環境下において十分に連続運転が可能であると想定している。
【0024】
表1に示すように、固定子外径及びコイルエンドを含む軸長は、それぞれ78.0mm、55.0mmであり、2.4kWを達成することで、9.0kW/Lと高い出力密度となっている。
【0025】
また、シャフト204の寸法は、超高速モータにおいて問題となる1次曲げモードを考慮して決定している。巻線占積率は40%である。
【0026】
比較例に係るモータ100Aの固定子コア300は、軸長短縮のために2極6スロットの集中巻構造を採用している。超高速モータでは、固定子コア300にスーパーコアと呼ばれる0.1mm厚の非常に鉄損特性の良い電磁鋼板を使用することがあるが、本実施の形態に係るモータ100では、コスト低減と製造性向上のために、0.2mm厚の電磁鋼板を採用した。
【0027】
比較例に係るモータ100Aの磁石材料には、高出力密度化のため、残留磁束密度が高いネオジム焼結磁石が採用される。着磁は2極の並行着磁とした。
【0028】
(従来型の2極モデル(モータ100A)の2D-FEM解析結果)
ここでは、最終的に試作機を製作して実験を行った際においても十分目標の出力を達成できるように、2D-FEMでの解析において、余裕をみて前述の目標値よりも高い2.5kWを解析目標値として評価する。
【0029】
また、解析における入力電流は理想的な正弦波であるが、実機では、入力電流にひずみが生じる、インバータのスイッチングによる高周波リプル電流が重畳される、そして、機械加工により電磁鋼板に特性劣化が生じるなどの理由により、実機の鉄損が解析結果よりも大きくなることが予想される。したがって、ここでは、理想的な正弦波電流を用いて求めた解析結果の鉄損や渦電流損に、2.5倍の補正係数を掛けて評価している。
【0030】
【0031】
表2は、従来型の2極モデル(モータ100A)が、100,000rpmにおいて2.5kWを出力する際の解析結果を示す。従来型の2極モデルによれば、出力は2.5kWとなっており、その出力密度は9.5kW/Lとなっている。そして、回転子損失密度は、ネオジム焼結磁石において渦電流損が生じていることから、758.6W/Lと比較的高くなっているが、全損失密度でみると596.4W/Lと600W/L以下を達成している。その結果、100,000rpmという超高速回転において94.1%の高効率を示している。以上より、モータを超高速化することによって、従来構造においても9.5kW/Lという高い出力密度を実現しつつ、高効率を達成することができる。
【0032】
これに対して、本実施の形態に係るモータ100では、同等の損失密度を維持しながら、超高速モータを更に高出力密度化及び高効率化することを目指し、4極構造を採用する。
【0033】
(超高速モータの4極化と2D-FEM解析結果)
従来型の2極モデルを4極化するにあたり、目標出力は、2.4kWのままで体積を33%小さくすることによって、1.5倍の出力密度である13.5kW/Lを目標とする。そのため、検討する4極モデルは、2極モデルと軸長は変えずに固定子外径を64.0mmに小さくすることで体積を低減している。また、冷却の観点から、損失密度の条件は従来型の2極モデルと同様の値とする。
【0034】
まず、最初に、4極化の検討を行うにあたり、その改善すべき課題を明確にするために、
図2に示す従来型のネオジム焼結磁石を用いた2極モデルを基に4極モデルを作成した。回転子は、各部の寸法はそのままにネオジム焼結磁石を2極から4極に着磁を変更した。そして、固定子は、バックヨーク幅と固定子ティース幅の比率を変えずに固定子外径を64.0mmに小さくした。それに応じて、巻線は、巻線占積率が40%一定となるようにターン数を変更した。
【0035】
図3は、4極モデルと2極モデルのそれぞれの回転速度を100,000rpmとして2.5kWで出力した場合の損失の内訳を比較して示す図である。
【0036】
まず4極化によって巻線係数が増加することにより、起磁力あたりのトルク係数が向上するため、2.5kW出力時の電流を小さくすることができる。その結果、2極モデルでは20.8Wであった銅損を4極モデルでは9.6Wと53.8%も低減している。
【0037】
しかし一方で、4極化することで、駆動周波数が2倍になることに加えて、出力密度を1.5倍にするために体積を33%小さくしていることから、モータ内の磁束レベルが上昇している。その結果、シャフトでの鉄損、ネオジム焼結磁石での渦電流損、固定子コアでの鉄損が増加し、2極モデルでは156.7Wであった総損失が4極モデルでは217.8Wと1.39倍に増加している。
【0038】
ここで、
図4Aは、2極モデルの回転子磁石における渦電流によるジュール損失密度の分布を示す図である。
図4Bは、4極モデルの回転子磁石における渦電流によるジュール損失密度の分布を示す図である。4極化することで、磁石での渦電流損は、26.1Wと2極モデルの2.16倍に増加している。
【0039】
また、
図5Aは、2極モデルの固定子コアの鉄損密度の分布を示す図である。
図5Bは、4極モデルの固定子コアの鉄損密度の分布を示す図である。
図5A及び
図5Bによれば、同様に、4極モデルの固定子コア鉄損は174.2Wとなり、2極モデルの1.44倍に増加してしまっている。
【0040】
【0041】
また、表3は、両モデルの損失密度を示している。前述のとおり、4極モデルは体積が小さいことに比べて損失量が2極モデルより増加しているため、損失密度で評価すると2極モデルよりも非常に大きくなっている。結果的に4極モデルにおいては、回転子損失密度及び全損失密度がそれぞれ1699.2W/L、1231.1W/Lとなり、目標である800W/L以下、600W/L以下という各条件を大きく上回っている。以上より、従来のネオジム焼結磁石及び集中巻構造を用いた超高速モータにおいて、4極化により出力密度を向上させると、損失密度が非常に大きくなってしまうため、効率や冷却の観点からあまり現実的ではない。そこで、以下では、出力密度を1.5倍にしつつ、同時に効率及び損失密度を改善できる構成例について説明する。
【0042】
(ネオジムボンド磁石適用による渦電流の抑制)
ここでは、まず、従来のネオジム焼結磁石を用いたモデルにおける課題の一つであった磁石内での渦電流損を抑制するため、ネオジムボンド磁石の適用について説明する。
【0043】
【0044】
表4は一般的なネオジム焼結磁石とネオジムボンド磁石の残留磁束密度及び電気伝導率を示す。ネオジムボンド磁石はネオジム焼結磁石に比べて残留磁束密度は約30%程度低いが、一方で電気伝導率がほぼ零という特性を持つため磁石での渦電流を特別な対策無しで抑制することができる。
【0045】
ここでは、ネオジム焼結磁石を用いた4極モデルをベースモデルとして、ネオジムボンド磁石を用いたモデルを検討する。
【0046】
ネオジムボンド磁石はネオジム焼結磁石と質量密度も異なるため、応力・出力等の観点からパラメータスタディを再度実施して再設計を行った。本実施の形態では、このネオジムボンド磁石を適用したモデルをモデル1とする。なお、固定子形状は、ベースモデルとモデル1で同じであり、機械ギャップはベースモデル同様に、1.0mmとしている。
【0047】
図6は、ネオジム焼結磁石を用いたベースモデルとネオジムボンド磁石を用いたモデル1の損失内訳を示す図である。
図7Aは、ベースモデルの固定子コアの鉄損密度の分布を示す図である。
図7Bは、モデル1の固定子コアの鉄損密度の分布を示す図である。
【0048】
図6に示すように、ネオジムボンド磁石の残留磁束密度は低いことから、2.5kWを出力する際の電流値は増加するため、モデル1の銅損は17.6Wとベースモデルの9.6Wよりも1.83倍と大きくなっている。しかし、それでもネオジム焼結磁石を用いた従来型の2極モデルの銅損20.8Wよりも小さい値を実現している。また、磁石の渦電流損がほぼ零になっていることに加えて、
図7A及び
図7Bに示すように、モータ内の磁束密度が低下することによって、モデル1の固定子コアでの鉄損は、119.7Wとベースモデルの174.2Wと比べて大きく低減できている。その結果、銅損の増加よりも鉄損の減少が大きいため、モデル1の合計損失はベースモデルよりも33.4%も低減できている。
【0049】
以上より、4極の超高速モータにおいて、ネオジムボンド磁石を適用することは、磁石での渦電流損のみならず、固定子コアでの鉄損を大きく抑制することが可能となる。しかし、モデル1の全損失密度は819.9W/Lとなり、ベースモデルよりは大きく低減できたものの600W/L以下という条件をまだ上回っている。そこで、モデル1の損失の中でまだ固定子コアの鉄損が一番大きいことから、さらにこの鉄損を低減するために、次節ではストレートティースを適用することを検討する。
【0050】
(ストレートティース適用による固定子鉄損抑制)
図7Bより、モデル1において、固定子のつば部分で鉄損密度が高いことが明らかである。そこで開口幅Wを大きくすることでつばを小さくし、つば部分の磁気飽和を緩和することでつばでの鉄損を抑制することを検討する。開口幅Wは、モータの軸中心から固定子コアのスロットを見たときに隣接するティース間に形成される隙間の周方向幅に等しい。ネオジム焼結磁石のように電気伝導率の高い磁石材料を使用した場合、開口幅Wを大きくすることは、PM渦電流損の増加を招くため現実な方法ではない。しかし、モデル1はネオジムボンド磁石を採用しているため、つばを小さくしても渦電流損増加の懸念が無い。そこで、モデル1において開口幅Wを変化させて解析を行った。開口幅Wが11.6mmのとき最大でつばの無いストレートティースとなる。以下では、ストレートティース形状となるモデルをモデル2とする。
【0051】
図8Aは、モデル1の固定子コアの鉄損密度の分布を示す図である。
図8Bは、ストレートティースを用いたモデル2の固定子コアの鉄損密度分布を示す図である。ストレートティースを採用したモデル2ではつばにおける鉄損が生じないため、固定子コア鉄損が72.5Wとモデル1よりも39.4%も低減できている。一方、開口幅Wを大きくすることによって、巻線スロットに磁束が流入し巻線内で発生する渦電流損が増大すると思われる。
【0052】
そのため、
図9に示すような詳細な巻線モデルを作成して巻線の渦電流損を同時に評価する。
図9Aは、モデル1の固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図である。
図9Bは、モデル2の固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図である。開口幅Wを大きくすることによって、より多くの磁束がスロットに流入していることが確認できる。
【0053】
図10は、巻線スロットの開口幅に対する固定子コア鉄損、シャフト鉄損、及び巻線渦電流損の変化を示す図である。開口幅Wを変えることでモータのトルク/電流特性も変化するため、電流量を変えて出力を合わせており、銅損の変化も一緒に示す。前述の通り、開口幅Wを大きくしていくと固定子鉄損が大きく低下してい
ることがわかる。
【0054】
一方で、巻線での渦電流損が増加することに加えて、ギャップ磁束の空間高調波成分が大きくなるため、シャフトでの鉄損が大きく増加している。
図15Aは、つばを有するティース(巻線スロットの開口幅W=2.1mm)を採用した場合にシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図である。
図15Bは、つばを有さないストレートティース(巻線スロットの開口幅W=11.6mm)を採用した場合にシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図である。したがって、ストレートティースを採用したモデル2は、固定子コア鉄損は大きく低減できるが、巻線の渦電流損とシャフト鉄損が大きくなるため、巻線の渦電流損とシャフト鉄損を抑制する必要がある。
【0055】
(回転子コアの適用によるシャフト渦電流の抑制)
前述したストレートティースを採用したモデル2において、シャフト鉄損が問題となっていた。そこで、
図11に示すように、磁石の厚みを薄くし、磁石とシャフトの間に回転子コアを設けることにする。
図11は、磁石とシャフトの間に回転子コアを設けたモデル3の断面図である。
図11に示されるモータ100は、
図1に示すものと等しい。
図16は、回転子コアの鉄損密度の分布を示す図である。
図17は、回転子コアが設けられていない場合の回転子総損失と、回転子コアが設けられている場合の回転子総損失とを比較して示す図である。
図17によれば、回転子コアが設けられていないときの回転子における総損失が55.6Wであるのに対して、回転子コアが設けられているときの回転子における総損失は、シャフト鉄損が99.9%抑制されることによって、1.8Wとなる。
【0056】
回転子コア203は固定子コア300と同じ電磁鋼板を使用しており、このモデルをモデル3とする。回転子コア203を挿入したことによって、磁石量が減ったことによる出力低下は、電流を増加させることで補っている。
【0057】
図12Aは、モデル2のシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図である。
図12Bは、モデル3のシャフトで発生するジュール損失密度の分布を示す図である。回転子コア203を用いたことによってシャフト204を通過する交番磁界が減少するため、モデル3のシャフト204で発生する鉄損は0.04Wへ99.9%も劇的に低減できる。以上より、僅か厚み1.0mm(径方向の厚み)の回転子コア203を挿入することによって、シャフト204の鉄損抑制に成功した。また、回転子コア203は磁石によって磁気飽和しているため、回転角度に対する磁束変化が小さく、鉄損は1.8Wと非常に小さくなっている。以上より、回転子損失密度を73.4W/Lまで低減できた。このことから、超高速モータに回転子コア203を適用することは、損失密度を低減するために非常に有効な手段である。
【0058】
(巻線径の縮小による巻線の渦電流損の抑制)
前述したように、固定子コア鉄損を抑制するために開口幅Wを大きくすると、巻線で発生する渦電流損が大きくなる。そこで、巻線径と並列数を変更することによる対策を検討する。回転子コア203を用いたモデル3において、巻線で生じる渦電流損を13.0W以下にできれば、モータの全損失密度を目標である600W/L以下にできる。そこで表5に示すように、巻線占積率を40%一定の条件下において、巻線の並列数及び巻線径を変更して解析を行った。
【0059】
【0060】
図13は、巻線の並列数に対する巻線での渦電流損の推移を示す図である。
図18Aは、2並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図である。
図18Bは、3並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図である。
図18Cは、4並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図である。
図18Dは、5並列で巻かれた固定子巻線を含むモータの断面図である。
図19Aは、2並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図である。
図19Bは、3並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図である。
図19Cは、4並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図である。
図19Dは、5並列で巻かれた固定子巻線に発生するジュール損失密度と磁束の分布を示す図である。
【0061】
巻線径を小さくして並列数を増やすことで相対的に巻線の表面積が増えて高周波における表皮効果による実効抵抗が低下するため、巻線での渦電流損(鉄損)が低減されている。巻線の並列数が5まで増えた場合、渦電流損は11.7Wとなり、13.0Wを下回ることができる。その結果、モータの全損失密度が592.0W/Lとなり目標値を下回ると同時に96.0%という高効率を実現している。
【0062】
図14は、ネオジム焼結磁石を用いた2極モデルと4極モデルのモデル3において巻線の並列数を「5」にした実施の形態の損失内訳を示す図である。4極の最終モデル(モデル3の巻線の並列数を「5」にしたもの)においては、ネオジムボンド磁石とストレートティース構造の採用に起因する入力電流の増加が原因で、2極モデルよりも銅損は33.2%増加した。しかし、ネオジムボンド磁石及びストレートティース構造に、回転子コアと巻線の多並列化を組み合わせることで、効果的に鉄損の低減を図り、従来型の2極モデルよりも1.5倍の高出力密度を達成すると同時に、全損失密度を同程度まで低減できた。また、最終モデルは100,000rpmにおける効率も96.0%と、従来型の2極モデルの94.1%より改善できている。
【0063】
以上のように、集中巻固定子を用いた超高速モータにおいて、4極化しつつ体積を33%小さくすることで、出力密度を1.5倍にすることを検討した。2D-FEMによる解析の結果、従来のネオジム焼結磁石を用いた超高速モータの場合、4極化することによって、磁石での渦電流損や固定子での鉄損等、モータ内の損失が大幅に増加することが明らかとなった。そこで、本実施の形態では、まず超高速モータにネオジムボンド磁石を適用することで、磁石内の渦電流損及び固定子鉄損を大きく低減することを図った。また、固定子のつばにおける鉄損密度が高いことに着目し、ストレートティース構造を採用することで固定子コア鉄損の更なる低減を実現した。ストレートティース構造の採用に伴う巻線での渦電流損の増加は、使用する巻線の並列数を増やし、巻線径を細くすることによって対策している。また、ストレートティース構造にすることで、シャフト204での鉄損も増加するが、本実施の形態では、回転子コアを採用するという工夫によって、シャフト204での鉄損を劇的に低減することに成功した。
【0064】
以上の対策を行った結果、本実施の形態に係るモータ100は、従来型の2極モデルと比べて1.5倍である13.5kW/Lという高出力密度を達成すると同時に、回転子損失密度73.4W/L、全損失密度592.0W/Lと十分に強制空冷環境下において連続100,000rpmにおいて96.0%という高効率を実現し、提案構造は出力密度と効率の向上を同時に達成できる。
【0065】
なお本実施の形態に係るモータ100は、
図1に示す構成例に限定されず、以下のように構成してもよい。
【0066】
第1変形例に係るモータ100は、周方向に互いに離れて配列される複数のストレートティース302を有する環状の固定子コア300と、ストレートティース302に集中巻方式で巻かれる巻線301と、固定子コア300と同軸に固定子コア300の径方向内側に設けられるシャフト204と、シャフト204の径方向外側に周方向に極性が交互となるようにして配列され、径方向外側の面が隙間を介してストレートティース302の径方向内側と向き合う4つのネオジムボンド磁石202とを備える。
【0067】
ネオジムボンド磁石202の採用によって磁束密度が低下し回転トルクが低下する。回転トルクの低下を抑制するためには、ネオジムボンド磁石202の面積を大きくすることで、磁束密度を増やすことが有効である。ただし、ネオジムボンド磁石202の断面積を増やすと、相対的に機械ギャップGが狭くなり、ティースのつば部分に渦電流が集中し易くなる。ストレートティース302を用いることによって、つば部分の磁気飽和が緩和されて、つば部分での鉄損が低減される。従って、第1変形例に係るモータ100によれば、ネオジムボンド磁石202の断面積を増やして回転トルクを向上させながら、固定子鉄損が抑制され更なる高効率化を図ることができる。
【0068】
第2変形例に係るモータ100は、第1変形例に係るモータ100の構造に、多並列巻線を組み合わせたものである。ストレートティース302の採用に伴い、スロットの開口幅Wが広がるため、スロットに磁束が流入し易くなり、巻線301での渦電流損が増加する。多並列巻線を採用することで、高周波における表皮効果による巻線の実効抵抗が低下して、巻線301での鉄損の増加が抑制されるため、更なる高効率化を図ることができる。
【0069】
第3変形例に係るモータ100は、第1変形例又は第2変形例に係るモータ100の構造に、回転子コア203を組み合わせたものである。回転子コア203は、シャフト204の径方向外側と4つのネオジムボンド磁石202の径方向内側との間に設けられる筒状のコアである。回転子コア203を設けることによって、回転子コア203に交番磁界が通過するため、シャフト204を通過する交番磁界が減少して、シャフト204で発生する鉄損を低減できる。
【0070】
第4変形例に係るモータ100は、周方向に互いに離れて配列される複数のティースを有する環状の固定子コア300と、ティースに集中巻方式で巻かれる巻線301と、固定子コア300と同軸に固定子コア300の径方向内側に設けられるシャフト204と、シャフト204の径方向外側を覆う筒状の回転子コア203と、回転子コア203の径方向外側に周方向に極性が交互となるようにして配列され、径方向外側の面が隙間を介してティースの径方向内側と向き合う4つのネオジムボンド磁石202とを備える。第4変形例に係るモータ100のティースには、つばありのティースを採用してもよし、つばなしのストレートティースを採用してもよい。ネオジムボンド磁石202と回転子コア203を組み合わせることによって、磁石での渦電流損のみならず、固定子コア300とシャフト204での鉄損を大きく抑制することが可能となる。
【0071】
第6変形例に係るモータ100は、周方向に互いに離れて配列される複数のティースを有する環状の固定子コア300と、ティースに並列に且つ集中巻方式で巻かれる巻線301と、固定子コア300と同軸に固定子コア300の径方向内側に設けられるシャフト204と、シャフト204の径方向外側に周方向に極性が交互となるようにして配列され、径方向外側の面が隙間を介してティースの径方向内側と向き合う4つのネオジムボンド磁石202とを備える。第5変形例に係るモータ100のティースには、つばありのティースを採用してもよし、つばなしのストレートティースを採用してもよい。ネオジムボンド磁石202と並列巻の巻線301を組み合わせることによって、磁石での渦電流損のみならず、巻線301とシャフト204での鉄損を大きく抑制することが可能となる。
【0072】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0073】
100 :モータ
100A :モータ
201 :保護リング
202 :ネオジムボンド磁石
203 :回転子コア
204 :シャフト
300 :固定子コア
301 :巻線
302 :ストレートティース
G :機械ギャップ
W :開口幅