(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ベーマイトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/36 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
C01F7/36
(21)【出願番号】P 2019190811
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】梶野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】川上 義貴
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 康平
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-298528(JP,A)
【文献】特開平4-275917(JP,A)
【文献】特表2008-534416(JP,A)
【文献】SHKOLNIKOV, E. I. et al.,Structural properties of boehmite produced by hydrothermal oxidation of aluminum,The Journal of Supercritical Fluids,2013, 73,10-17.,http://dx.doi.org/10.1016/j.supflu.2012.10.011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00- 7/788
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比が0.50以上で、軽装嵩密度が0.30g/mL以上であるベーマイト。
【請求項2】
前記軽装嵩密度が0.70g/mL以上である請求項1に記載のベーマイト。
【請求項3】
Ti、Si、MgおよびZnから成る群から選択される1つ以上をさらに含み、
Ti、Si、MgおよびZnの合計含有
量が0.1質量%以上である、請求項1または2に記載のベーマイト。
【請求項4】
アルミニウムアルコキサイドを含む溶液に、水濃度が5重量%以上80重量%以下のアルコール水溶液から成る第1の加水分解液を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.5以上2.0以下の範囲となるように添加して加水分解する第1の加水分解工程と、
得られた溶液に、水またはアルコール水溶液から成る第2の加水分解液を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.0以上7.0以下の範囲となるように添加して加水分解する第2の加水分解工程と、
得られた溶液から水とアルコールを除去して、ベーマイト粉末を回収する工程と、
前記ベーマイト粉末を、湿度80%以上100%以下となるように加湿しつつ80℃以上110℃以下の乾燥温度にて撹拌乾燥する工程と、を含み、
前記第1の加水分解液および前記第2の加水分解液の少なくとも一方は、乾燥後に得られるベーマイトに対して0.05重量部以上10重量部以下の有機カルボン酸を含む、ベーマイトの製造方法。
【請求項5】
前記第1の加水分解液が前記有機カルボン酸を含み、
前記有機カルボン酸が酢酸である、請求項4に記載のベーマイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベーマイトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ(Al2O3)は、耐熱性、絶縁性、耐摩耗性、耐食性といった優れた物理的、化学的特性を有することから、各種用途に幅広く使用されている。アルミナの原料としては、水酸化アルミニウム、ベーマイト(アルミナ1水酸化)等が知られている(特許文献1~2)。
【0003】
特許文献1には、凝集粒子が少なく、粉砕時の再凝集粒子の発止、異物混入、不純物汚染を防止できると共に、焼成効率が高く、粉砕効率も損なわない高純度アルミナを与えることができる水酸化アルミニウム粉末について開示されている。特許文献1に記載された水酸化アルミニウムは、細孔半径Rが0.01μm以上1μm以下の範囲における累積細孔容積Vが、0.2mL/g以上1.0mL/g未満であり、また、軽装嵩密度が0.30g/mL以上0.60g/mL以下であってもよい。
【0004】
特許文献2には、高表面積を有するベーマイトおよびγ-アルミナの製造方法が開示されている。特許文献2に記載された方法で製造されたベーマイト粒子は、ナノサイズを有し、高表面積および高純度を有し、また、得られたベーマイトを用いることで吸着剤、触媒、触媒支持体およびクロマトグラフィなどの製造に適切なγ-アルミナが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-169208号公報
【文献】特表2008-534416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車の排ガス用触媒、ガスクロマトグラフィー用固定相等の用途に使用されるアルミナは高温環境下で使用される。そのため、常温のみならず、高温環境下でも高い比表面積を有することが求められる。そのような特性を有するアルミナの製造には、高温環境下でも高い比表面積を有する原料を用いることが望ましい。
しかしながら、特許文献1に記載の水酸化アルミニウムは、比表面積について検討されておらず、特許文献2に記載のベーマイトは、常温における表面積について検討されているものの、高温環境下に置かれたときの比表面積の減少を抑えることについては検討されていない。
【0007】
そこで本開示は、高温環境下でも高い比表面積を有するアルミナ製品を製造するための原料として、常温における比表面積が高く、かつ高温環境下に置かれたときの比表面積の減少率が低いベーマイト、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比が0.50以上で、軽装嵩密度が0.30g/mL以上であるベーマイトである。
【0009】
本発明の態様2は、前記軽装嵩密度が0.70g/mL以上である態様1に記載のベーマイトである。
【0010】
本発明の態様3は、Ti、Si、MgおよびZnから成る群から選択される1つ以上をさらに含み、
Ti、Si、MgおよびZnの合計含有量が0.1質量%以上である、態様1または2に記載のベーマイトである。
【0011】
本発明の態様4は、アルミニウムアルコキサイドを含む溶液に、水濃度が5重量%以上80重量%以下のアルコール水溶液から成る第1の加水分解液を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.5以上2.0以下の範囲となるように添加して加水分解する第1の加水分解工程と、
得られた溶液に、水またはアルコール水溶液から成る第2の加水分解液を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.0以上7.0以下の範囲となるように添加して加水分解する第2の加水分解工程と、
得られた溶液から水とアルコールを除去して、ベーマイト粉末を回収する工程と、
前記ベーマイト粉末を、湿度80%以上100%以下となるように加湿しつつ80℃以上110℃以下の乾燥温度にて撹拌乾燥する工程と、を含み、
前記第1の加水分解液および前記第2の加水分解液の少なくとも一方は、乾燥後に得られるベーマイトに対して0.05重量部以上10重量部以下の有機カルボン酸を含む、ベーマイトの製造方法である。
【0012】
本発明の態様5は、前記第1の加水分解液が前記有機カルボン酸を含み、
前記有機カルボン酸が酢酸である、態様4に記載のベーマイトの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本開示のベーマイトによれば、常温における比表面積が高く、かつ高温環境下に置かれたときの比表面積の減少率が低いベーマイトを提供することができる。また、本開示の製造方法によれば、本開示のベーマイトを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、ベーマイトがマイクロ細孔を含み、かつマイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比を0.50以上とすることにより、焼成前のBET比表面積が高く、かつ焼成後のBET比表面積の減少が抑制できるベーマイトが得られること見出したものである。
以下に、本発明の一実施形態に係るベーマイトおよびベーマイトの製造方法について説明する。
【0015】
<実施形態1>
実施形態1に係るベーマイトは、マイクロ細孔とメソ細孔とを含み、マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比が0.50以上である。
ベーマイトがマイクロ細孔を含むことにより、ベーマイトのBET比表面積を向上することができる。また、マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比が0.50以上であることにより、ベーマイトを高温下で焼成した後もBET比表面積の減少を抑制することができ、これにより、より耐熱性能の優れたベーマイトを得ることができる。
マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比は、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.77以上である。
【0016】
本明細書において「マイクロ細孔」とは、細孔直径が2nm以下の細孔のことであり、「メソ細孔」とは、細孔直径が2nm超50nm以下の細孔のことである。マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比は、「マイクロ細孔容積(mL/g)÷メソ細孔容積(mL/g)」として計算する。なお、本明細書においては、マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比は、「マイクロ-メソ細孔容積比」と称することがある。
【0017】
本明細書において「マイクロ細孔容積」とは、ベーマイト1g当たりに含まれるマイクロ細孔の容積のことを意味し、「メソ細孔容積」とは、ベーマイト1g当たりに含まれるメソ細孔の容積(mL)のことを意味する。
【0018】
マイクロ細孔容積およびメソ細孔容積は、窒素ガス吸着法を用いて測定する。まず、測定するベーマイトを120℃で8時間、真空脱気して前処理を行い、その後に定容法を用いて窒素による吸着脱離等温線を測定する。測定条件は、吸着温度77K、吸着質は窒素、吸着質断面積は0.162nm2、吸着平衡状態に達してからの待ち時間は500秒とする。
細孔容積の測定では、細孔直径に合わせて複数の測定方法を併用することができる。一例として、MP法(例えば測定範囲を細孔半径約0.21nm~約1nmに設定)とBJH法(例えば測定範囲を細孔半径約1nm~約100nmに設定)とを併用してもよい。それらの測定方法で得られた結果から、細孔直径2nm以下(細孔半径1nm以下)の細孔の容積の合計値を求めて「マイクロ細孔容積」とし、細孔直径2nm超50nm以下(細孔半径1nm超25nm以下)の細孔の容積の合計値を求めて「メソ細孔容積」とする。
【0019】
「rp,peak(Area)」とは、BJH法を用いて求めた細孔分布曲線の中の、細孔半径のピークのことであり、rp,peak(Area)の好ましい範囲は、0.01nm以上3.50nm以下、より好ましくは0.01nm以上2.50nm以下、更に好ましくは、0.01nm以上1.5nm以下である。ベーマイトのrp,peak(Area)を上記範囲に調整する事でマイクロ細孔を多数有するベーマイトが得られる事になり、より耐熱性の向上したベーマイトを得られる。
【0020】
測定用ベーマイトの前処理には、市販されている前処理装置(例えば、マイクロトラックベル(株)製のBELPREP-vac2)を用いることができる。
マイクロ細孔およびメソ細孔の測定は、市販されている測定装置(例えば、マイクロトラックベル(株)製のBELSORP-miniII)を用いることができる。BELSORP-miniIIは、MP法およびBJH法による細孔容積測定を行うことができる。
【0021】
ベーマイトが含むマイクロ細孔容積は0.10mL/g以上であるのが好ましく、BET比表面積を効果的に向上することができる。マイクロ細孔容積は、0.20mL/g以上であるのがより好ましく、0.28mL/gであることが更に好ましい。また、マイクロ細孔容積の上限は特に限定されないが、例えば2.00mL/g以下とすることができる。
【0022】
ベーマイトが含むマイクロ細孔とメソ細孔の合計容積は0.30mL/g以上であるのが好ましく、0.50mL/g以上であるのがより好ましく、0.60mL/gであることが更に好ましく、0.65mL/gであることが一層好ましい。また、合計容積の上限は特に限定されないが、例えば4.00mL/g以下とすることができる。
【0023】
さらに、実施形態1に係るベーマイトは、軽装嵩密度が0.30g/mL以上である。軽装嵩密度が0.30g/mL以上と嵩高であると、例えば、自動車の排ガス用触媒として使用される所定容量のセル、またはガスクロマトグラフィー用固定相において使用される所定容量のセルに充填するときに、嵩密度が低いベーマイトと比べて、より多く充填可能となる。
軽装嵩密度は、0.70g/mL以上であるのが好ましく、0.78g/mL以上であるのが更に好ましい。上記範囲にすることにより、上述と同様に自動車の排ガス用触媒、ガスクロマトグラフィー用固定相において使用される一定容量のセルに、さらに多く充填可能となる効果が得られるだけでなく、ガスクロマトグラフィーの分離性能向上効果も得られる。
軽装嵩密度の上限は特に限定されないが、理論的には、アルミナの理論密度の約3.98g/cm3が上限となる。しかしながら、粉末状であることから粒子間の空間が残るため、実際には理論密度ほどの高密度にすることが難しい。現実的な観点から、軽装嵩密度は、例えば1.20g/mL以下としてもよい。
【0024】
実施形態1に係るベーマイトは、重装嵩密度が0.40g/mL以上であるのが好ましく、自動車の排ガス用触媒、ガスクロマトグラフィー用固定相等として長時間使用した場合でも体積の目減りが少なく、性能低下が抑制できる。重装嵩密度は、0.60g/mL以上であることがより好ましく、0.90g/mL以上であることが特に好ましい。
重装嵩密度の上限は特に限定されないが、理論的には約3.98g/cm3以下であり、現実的な観点では、例えば1.30g/mL以下としてもよい。
【0025】
軽装嵩密度および重装嵩密度は、JIS R 9301-2-3(1999)に規定された方法に従って測定する。
「軽装嵩密度」は、振動を防ぎ、静置した容積既知の容器(シリンダー)中に、試料(ベーマイト粉末)を自由に落下させて集めた試料の質量を求め、この質量を等量の水の体積で除することで算出する。
「重装嵩密度」は、軽装嵩密度を測定した後、試料の入ったシリンダーを3cmの高さから100回落下させてタッピング(圧縮)を行い、圧縮後の試料の体積を読みとり、質量を体積で除して重装嵩密度を算出する。なお、100回のタッピングの途中で粉末の圧縮後の体積が飽和していることを確認の上で測定を行う。
【0026】
本開示のベーマイトは、上述した特性に加えて、さらなる特性を付与するために、Ti、Si、MgおよびZnの元素を1つ以上含んでいてもよい。それらの元素の含有量は、例えば、Tiが0.1質量%以上2.0質量%以下、Siが0.1質量%以上2.0質量%以下、Mgが0.1質量%以上2.0質量%以下、Znが0.1質量%以上2.0質量%以下であり、それらの合計量が0.1質量%以上としてもよい。各元素の好ましい含有量について以下に説明する。
【0027】
Ti、Si、MgおよびZnは、いずれもアルミナの表面に酸点を付与する元素である。つまり、ベーマイトがTi、Si、MgおよびZnの元素のいずれか1種以上を含むと、表面に酸点を有するアルミナを製造することができる。そのようなアルミナを自動車の排ガス用触媒として使用すると、触媒層を透過するガスから硫黄成分を吸着しやすくするという特性を付与することができる。当該特性を効果的に発揮させるため、Ti、Si、MgおよびZnの合計含有量は0.1質量%以上であるのが好ましい。また、各元素の好ましい含有量はTi、Si、MgおよびZnの各々について0.1質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0028】
実施形態1のベーマイトによれば、マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比が0.50以上であることにより、BET比表面積を向上できるだけでなく、高温下で焼成した後も、BET比表面積の減少を抑制することができる。
【0029】
例えば、実施形態1のベーマイトは、焼成前の初期のBET比表面積(これを「BET1」と称する)が200m2/g以上と高い値を示し得る。
また、実施形態1のベーマイトは、450℃焼成後のベーマイトのBET比表面積(これを「BET2」と称する)に対する650℃焼成後のベーマイトのBET比表面積(これを「BET3」と称する)との比率((BET3)÷(BET2)で算出)が0.85以上と高い値を示し得る。つまり、焼成温度を450℃から650℃まで上昇させても、BET比表面積の減少率を0.15(1.00-0.85で算出)と低く抑えることができる。
【0030】
BET比表面積は、JIS Z 8830(2013)に規定された方法に従い、窒素吸着法により求める。
【0031】
[ベーマイトの製造方法]
実施形態1のベーマイトを製造する方法は特に限定されないが、上記物性を有するベーマイトを再現性良く製造することができることから、以下の製造方法を採用することが好適である。
なお、本願の開示に接した当業者であれば、それらの記載に基づいて、実施形態1のベーマイトを製造可能な異なる方法に到達することもあり得る。
以下、実施形態1のベーマイト粉末の好適な製造方法を例示する。
【0032】
ベーマイトの製造方法は、アルミニウムアルコキサイドを含む溶液に、水濃度が5重量%以上80重量%以下であるアルコール水溶液を、水/アルミニウムアルコキサイドモル比が2.5以上7.0以下の範囲となるように添加して加水分解する工程と、加水分解の混合液から水とアルコールを除去して、ベーマイト粉末を回収する工程と、加湿下で撹拌乾燥する工程を含む。
【0033】
発明者らは、2段階で行う加水分解工程において、第1および第2の加水分解工程の少なくとも一方において有機カルボン酸を含む加水分解液を用い、かつ、加湿下で撹拌乾燥工程を行うことにより、ベーマイトの嵩密度を著しく高くできることを新たに見いだして、本開示の製造方法を完成するに至った。
以下に各工程について詳述する。
【0034】
(1)加水分解工程
アルミニウムアルコキサイドの加水分解は2段階で行う。
具体的には、アルミニウムアルコキサイドを含む溶液に、第1の加水分解液(アルコール水溶液)を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.5以上2.0以下の範囲となるように添加して加水分解する第1の加水分解工程と、第1の加水分解工程後の溶液に、第2の加水分解液(水またはアルコール水溶液)を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.0以上7.0以下の範囲となるように添加して加水分解する第2の加水分解工程を含む。なお、ここで「アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比」とは、アルミニウムアルコキサイド初期仕込み量(モル)に対する、各加水分解工程で添加される各加水分解液に含まれる水の量(モル)の比である。
また、第1の加水分解工程と第2の加水分解工程との間に、アルコールの除去(回収)を行ってもよい。
【0035】
加水分解反応の完結後、得られる粉末におけるベーマイトの結晶構造等の諸物性は、アルミニウムアルコキサイドと水のモル比に依存し、さらに化学修飾剤を含む場合はその種類および添加量にも依存する。本開示の製造方法では、加水分解を2段階で行うことに特徴があり、第1の加水分解工程においては、アルミニウムアルコキサイドと水との割合を所定の範囲に制限した第1の加水分解液を用いることにより加水分解反応を部分的に留め、次いで行う第2の加水分解工程においてさらに加水分解反応を進めることで、所望の特性を有するベーマイト粉末を生成することができる。
【0036】
本開示の製造方法におけるさらなる特徴は、加水分解の際に、有機カルボン酸を含む加水分解液を使用することにある。第1の加水分解工程に使用される第1の加水分解液および第2の加水分解工程に使用される第2の加水分解液の少なくとも一方は、撹拌乾燥後に得られるベーマイトに対して0.05重量部以上10重量部以下の有機カルボン酸を含んでいる。
【0037】
発明者らは鋭意検討した結果、有機カルボン酸を含む加水分解液を用いて加水分解を行うと、ベーマイト表面に、特定範囲の細孔容積を有するマイクロポアを形成できることを見出した。さらに、有機カルボン酸を含む加水分解液を用いて加水分解を行った後に、加湿下で撹拌乾燥することにより、ベーマイトのマイクロ細孔容積を増加させる効果があることも見いだした。
【0038】
出願人は、それらの効果をより発揮させるためには第1の加水分解工程に使用される第1の加水分解液が有機カルボン酸を含むことが特に好ましいことを見いだした。例えば、第1の加水分解液にのみ有機カルボン酸を含む条件で製造したベーマイトは、第2の加水分解液にのみ有機カルボン酸を含む条件で製造したベーマイトと比較して、焼成後のBET比表面積が向上することが確認された。これは、第1の加水分解液に有機カルボン酸を含むことにより、加水分解反応に対する有機カルボン酸の効果がより顕著になったためであると考えられる。
【0039】
なお、第1の加水分解液と第2の加水分解液の両方に有機カルボン酸を含んでもよい。その場合には、第1および第2の加水分解液の各々に含まれる有機カルボン酸の合計量が、撹拌乾燥後に得られるベーマイトに対して0.05重量部以上10重量部以下となるように、有機カルボン酸の添加量を制御する。
有機カルボン酸としては、例えば酢酸が好適である。
【0040】
(1-i)アルミニウムアルコキサイド
原料となるアルミニウムアルコキサイドとしては、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムsec-ブトキサイド、アルミニウムtert-ブトキサイド等などを用いることができる。
この中でも、アルミニウムイソプロポキサイドが好適である。
【0041】
また、得られるベーマイト粉末の物性を損なわない範囲で、上記アルミニウムアルコキサイドを化学修飾して得たアルミニウムアルコキサイド誘導体、或いは該誘導体とアルミニウムアルコキサイドとの混合物を用いてもよい。
【0042】
アルミニウムアルコキサイドを含む溶液は、アルミニウムアルコキサイドのみでもよいが、添加するアルコール水溶液との混和性を高める目的で、アルコールを含んでいてもよい。アルコールとしては、後述する第1の加水分解液に使用されるアルコールと同一のものが好ましい。
アルミニウムアルコキサイドを含む溶液がアルコールを含む場合、アルミニウムアルコキサイドに対するアルコールのモル比(アルコールのモル量/アルミニウムアルコキサイドのモル量)は、第1の加水分解工程における加水分解反応に悪影響を及ぼさない範囲であれば、特に制限はないが、通常、0~1.5である。なお。当該モル比が0の場合、アルコールを含まないことを意味する。
【0043】
(1-ii)第1の加水分解工程
本開示の製造方法の特徴の一つは、第1の加水分解工程で使用する第1の加水分解液が、水ではなく、アルコール水溶液であることにある。
アルコール水溶液中の水濃度は、5~80重量%であり、好ましくは、5~50重量%、より好ましくは5~30重量%である。
第1の加水分解液が有機カルボン酸を含む場合には、所定の水濃度に調製したアルコール水溶液に、得られるベーマイトに対して0.05重量部以上10重量部以下の有機カルボン酸を添加して、第1の加水分解液を準備する。
【0044】
第1の加水分解液のアルコール水溶液中の水濃度が5重量%未満であると、水が不足して加水分解反応が不十分になる。当該水濃度が80重量%を超えると、アルミニウムアルコキサイドと水が十分に混合する前に、加水分解反応が進むため、加水分解が不均一となってしまう。その結果、焼成後のアルミナ粉末に凝集粒子が発生しやすく、粉砕性を損なう。
【0045】
第1の加水分解液にアルコール水溶液を使用することにより、アルミニウムアルコキサイドの加水分解反応が徐々に進行するため、急激な発熱反応を起こすことなく緩やかな加水分解を行うことができる。
本開示の第1および第2の加水分解液で使用されるアルコールとしては、例えば炭素数が1~8の一価のアルコールが挙げられ、好ましくは1~4の一価のアルコールが挙げられる。具体的には、下記(式1)で表されるアルコールが挙げられる。この中でも、イソプロピルアルコールが特に好ましい。なお、これらのアルコールは1種で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
R1OH (式1)
ここで、R1は、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ネオブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、ノルマルヘプチル基、イソヘプチル基、ネオヘプチル基、ノルマルオクチル基、イソオクチル基およびネオオクチル基からなる群より選ばれる1種であり、好ましくは炭素数1~4のメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ネオブチル基であり、より好ましくはイソプロピル基である。
【0046】
第1の加水分解工程では、第1の加水分解液の添加量は、アルミニウムアルコキサイドに対する、第1の加水分解液中の水のモル比(水のモル量/アルミニウムアルコキサイドのモル量)が1.5~2.0、好ましくは1.6~1.8の範囲となるように調整される。
第1の加水分解工程におけるアルミニウムアルコキサイドと水のモル比が1.5未満であると、水が不足してアルミニウムアルコキサイドの加水分解反応が不十分となる。当該モル比が2.0を超えると、アルミニウムアルコキサイドの加水分解反応が進行しすぎて、第2の加水分解工程より前に、加水分解が過度に進行する。そのため、目的とする物性のベーマイト粉末が得られない。
【0047】
第1の加水分解液には、得られるベーマイト粉末の物性を損なわない範囲で、酸、塩基等の表面電荷調節剤、分散剤、乳化剤等の界面活性剤を添加することもできる。
【0048】
第1の加水分解工程における加水分解反応温度は、使用するアルミニウムアルコキサイドおよびアルコールの種類によりアルミニウムアルコキサイドのアルコールへの溶解度等が異なるために一概に限定されないが、例えば、常温以上、溶媒の沸点以下の温度である。
【0049】
(1-iii)アルコールの除去
第1の加水分解工程で得られた溶液には、第1の加水分解液に含まれるアルコールおよび加水分解により生じたアルコールが含まれている。任意で、その溶液からアルコールを除去(分離回収)する工程を行ってもよい。なお、アルコール除去工程を行わない場合には、第1の加水分解工程を行った後、続けて第2の加水分解工程を行う。
アルコールを除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、加水分解後の溶液を、イオン交換樹脂を詰められたカラムに通液させる方法、当該溶液を加熱してアルコールを蒸発させる方法等が挙げられる。
除去するアルコールの量は任意であるが、例えば、溶液中に含まれるアルコールの全量を100重量%として、0重量%以上50重量%以下のアルコールを除去することができる。なお、「0重量%」とは、アルコールを除去しないことを意味する。
【0050】
(1-iv)第2の加水分解工程
第2の加水分解工程では、第2の加水分解液として水またはアルコール水溶液を用いることができる。第2の加水分解液の添加量は、アルミニウムアルコキサイドに対する、第2の加水分解液中の水のモル比(水のモル量/アルミニウムアルコキサイドのモル量)が1.0~7.0、好ましくは1.5~6.5の範囲となるように調整される。なお、ここで規定されるモル比を求める際のアルミニウムアルコキサイドのモル量は、第1の加水分解工程を行う前に仕込んだアルミニウムアルコキサイドのモル量である。
【0051】
第1の加水分解工程後に第2の加水分解工程を行うことで、目的とする物性を有するベーマイトが生成する。
なお、第2の加水分解液は、水単独であってもよいが、アルコール水溶液であってもよい。アルコール水溶液中の水濃度は、含有するアルコールが第2の加水分解工程における加水分解反応に悪影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はなく、通常、水濃度5~100重量%(アルコール濃度換算で0~95重量%)である。
第2の加水分解液が有機カルボン酸を含む場合には、水、または所定の水濃度に調製したアルコール水溶液に、得られるベーマイトに対して0.05重量部以上10重量部以下の有機カルボン酸を添加して、第2の加水分解液を準備する。
【0052】
第2の加水分解工程終了後のスラリーに含まれる水濃度は、スラリー全量を100重量%として、10重量%~25重量%の範囲であることが好ましく、特にアルコールがイソプロピルアルコールである場合は、12重量%~20重量%の範囲であることがより好ましい。
【0053】
第2の加水分解液には、得られるベーマイト粉末の物性を損なわない範囲で、酸、塩基等の表面電荷調節剤、分散剤、乳化剤等の界面活性剤を添加することもできる。
【0054】
第2の加水分解工程における加水分解反応温度も、使用するアルミニウムアルコキサイドおよびアルコールの種類によりアルミニウムアルコキサイドのアルコールへの溶解度等が異なるために一概に限定されないが、通常、常温以上、溶媒の沸点以下の温度である。
【0055】
第2の加水分解反応終了後に得られるベーマイト粉末含有混合液は、熟成処理をおこなってもよい。該熟成処理は、例えば、常温以上加水分解温度以下の温度で、30分以上、通常は1時間~1日間静置して行う。
【0056】
(2)ベーマイト粉末の回収工程
第2の加水分解工程で得られた溶液から、酢酸、水およびアルコールを除去して、ベーマイト粉末を回収する。
第2の加水分解工程後(または熟成処理後)に得られる溶液は、ベーマイト粉末を含んでいる。ベーマイト粉末を含む混合液から、酢酸、水、アルコール(含まれる場合は、未反応アルコキサイド)を除去して、ベーマイト粉末を回収する。該混合液を濾過、乾燥等の常法で処理することによりベーマイトの粉末を得ることができる。なお、得られたベーマイトには、微量の水、微量のアルコールおよび/または微量の酢酸が残存してもよい。そのような微量の水、アルコールおよび酢酸は、ベーマイトのメソ細孔、マイクロ細孔および粒子間に存在していると推測される。
【0057】
(3)加湿下での撹拌乾燥工程(高嵩密度化処理)
得られたベーマイト粉末を撹拌乾燥機に投入して、水を噴霧して加湿しながら撹拌乾燥する。水の噴霧量は、撹拌乾燥中の湿度80%以上100%以下となるように調節する。乾燥温度は、80℃以上110℃以下とする。
上述の通り加水分解工程において有機カルボン酸を含む加水分解液を用いた上で、この撹拌乾燥工程を行うと、ベーマイトの嵩密度を著しく高くできる。そのため、この撹拌乾燥工程で行われる加湿下での撹拌乾燥処理を「高嵩密度化処理」と称することがある。
【0058】
(4)最終乾燥工程
高嵩密度化処理の後に、最終乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程では、得られたベーマイト粉末を金属製のバット等に一定量仕込み、定置型乾燥機で熱処理する。乾燥温度は200℃~400℃であり、4時間以上乾燥させる。特に、乾燥温度を250℃以上とするのが好ましい。
【0059】
最終乾燥工程を行うことにより、メソ細孔容積とマイクロ細孔容積を増加することができる。そのメカニズムは定かではないが、以下のようなものであると推測される。
ベーマイト粉末の回収工程および加湿下での撹拌乾燥工程を経た後でも、ベーマイト中(例えば、ベーマイトのメソ細孔内およびマイクロ細孔内)には水、アルコールおよび酢酸が微量存在し得る。最終乾燥工程により、メソ細孔内およびマイクロ細孔内に存在する水、アルコールおよび酢酸を蒸発させることにより、メソ細孔容積とマイクロ細孔容積を増加させることができる。
【0060】
なお、マイクロ細孔内に存在する水、アルコールおよび酢酸は蒸発しにくく、それぞれの沸点まで加熱しても除去しきれないことがある。特に、沸点が比較的低いアルコールよりも、沸点が比較的高い水および酢酸は蒸発しにくい。本発明者らは、マイクロ細孔内にある水および酢酸の量を低減して、マイクロ細孔容積をさらに増加させる効果を得るためには、250℃以上で4時間以上乾燥させることが有効であることを見いだした。特に、300℃以上、4時間以上乾燥させると、水および酢酸の除去効果が高く、マイクロ細孔容積をより増加させることができる。
【0061】
本開示の製造方法によれば、マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比が0.50以上で、軽装嵩密度が0.30g/mL以上であるベーマイトを製造することができる。また、本開示の製造方法の好ましい条件で製造することにより、軽装嵩密度を0.70g/mL以上にまで向上したベーマイトを製造することもできる。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
加熱融解したアルミニウムイソプロポキシドに、チタンイソプロポキシドを酸化チタン換算で0.5重量部加えて、1時間撹拌した。次に、アルミニウムイソプロポキシドに対してモル比で1.7となる量の水と、重量比率でイソプロピルアルコール:水=9:1となる量のイソプロピルアルコールとを混合して、イソプロピルアルコールと水との混合液(水濃度10重量%)を調製した。その混合液に、得られるベーマイトに対し3.7重量部となる量の酢酸を添加して撹拌し、第1の加水分解液とした。この第1の加水分解液の全量を、チタンイソプロポキシドが添加されたアルミニウムイソプロポキシドに滴下して第1の加水分解工程を行った。
【0063】
次いで、第1の加水分解工程で得られた溶液を加熱して、含まれているイソプロピルアルコール量に対して、約60重量%のイソプロピルアルコールを回収した。その後、アルミニウムイソプロポキシドに対してモル比が1.7となる量の水を第2の加水分解液として添加して第2の加水分解工程を行い、ベーマイト、水、酢酸およびイソプロピルアルコールを含む懸濁液(スラリー)を得た。得られた懸濁液を撹拌加熱して乾燥し、ベーマイト粉末を得た。
【0064】
得られたベーマイト粉末100重量部に、加湿用純水90重量部を噴霧しながら、湿度80%、80℃以上110℃以下で撹拌乾燥することにより、嵩密度を高くしたベーマイト粉末を得た。この高嵩化したベーマイト粉末を乾燥機で220℃、6時間で乾燥する最終乾燥工程を行って、実施例1のベーマイト試料を得た。ベーマイト試料は、Tiを含んでおり、また、高嵩化されていた。
【0065】
[実施例2]
最終乾燥工程の乾燥温度を300℃に変更した他は実施例1と同様に粉末を作製し、実施例2のベーマイト試料を得た。
【0066】
[実施例3]
最終乾燥工程を行わず、代わりに、常温で1時間静置して自然乾燥させた。その他は実施例1と同様に粉末を作製し、実施例3のベーマイト試料を得た。
【0067】
[比較例1]
第1の加水分解液を調製する際に、イソプロピルアルコールと水との混合液に酢酸を加えず、当該混合液をそのまま第1の加水分解液として使用した。その他は実施例1と同様に粉末を作製し、比較例1のベーマイト試料を得た。
【0068】
[比較例2]
第1の加水分解液を調製する際に、イソプロピルアルコールと水との混合液に酢酸を加えず、当該混合液をそのまま第1の加水分解液として使用した。また、高嵩化処理および熱処理をしなかった。その他は実施例1と同様に粉末を作製し、比較例2のベーマイト試料を得た。
【0069】
[比較例3]
高嵩化処理および熱処理をしなかった他は実施例1と同様に粉末を作製し、比較例4のベーマイト試料を得た。
【0070】
[比較例4]
特許文献1(特開2014-169208号)の実施例3の条件に沿って試料を作成した。アルミニウムイソプロポキシド100.0重量部とイソプロピルアルコール11.1重量部の混合液に、水44.1重量部とイソプロピルアルコール11.0重量部のアルコール水溶液を添加して加水分解させた。次いで、蒸留によりイソプロピルアルコールを分離回収した後に、更に水19.0質量部を添加して加水分解した。加水分解工程終了後のスラリー中の濃度が、24.5%となるよう蒸留でアルコールを回収した。得られた懸濁液を撹拌加熱して乾燥し、得られたベーマイト粉末を比較例4のベーマイト試料とした。
【0071】
上記の実施例および比較例で得られた各試料について、BET比表面積、軽装嵩密度、重装嵩密度、マイクロ細孔容積およびメソ細孔容積を測定した。各測定における測定条件等を以下に記載する。また、測定結果を表1に示す。なお、表1の「rp,peak(Area)」とは、BJH法を用いて求めた細孔分布曲線の中の、細孔半径のピークのことである。また、t法細孔径(2t)とは、t法を用いて解析した際の細孔径である。
【0072】
(BET比表面積)
BET比表面積は、JIS Z 8830(2013)に規定された方法に従い、窒素吸着法により求めた。
表1の「BET1」とは、焼成前(初期)の試料のBET比表面積、「BET2」とは、試料を450℃で60分焼成した後の試料のBET比表面積、「BET3」とは、試料を650℃で60分焼成した後の試料のBET比表面積のことを示す。なお、450℃焼成、650℃焼成のいずれも、昇降温200℃/時間、大気雰囲気、粉末の仕込み量10gとした。
BET比表面積の比率は、BET3をBET2で割って求めた(つまり、「BET3/BET2」である)。BET比表面積の減少率は1.00からBET比表面積の比率を引いて求めた(つまり、「1.00-(BET3/BET2)」である)。
【0073】
本明細書では、BET1が270m2/g以上を「良」、200m2/g以上270m2/g未満を「可」、200m2/g未満を「不可」と評価する。
また、本明細書では、BET比表面積の減少率が0.10以下を「良」、0.10超0.15以下を「可」、0.15超を「不可」と評価する。
【0074】
(軽装嵩密度、重装嵩密度)
軽装嵩密度および重装嵩密度は、JIS R 9301-2-3(1999)に規定された方法に従って測定した。
軽装嵩密度は、0.30g/mL以上が本願範囲内であり、0.70g/mL以上が好ましく、0.80g/mL以上が特に好ましい。軽装嵩密度が0.30g/mL未満は本願範囲外である。
【0075】
(マイクロ細孔容積、メソ細孔容積)
マイクロ細孔容積、メソ細孔容積の測定に先立って、試料を前処理装置(マイクロトラックベル(株)製のBELPREP-vac2)内に入れて、120℃で8時間の真空脱気の条件下で前処理を行った。その後、マイクロトラックベル(株)製のBELSORP-miniIIを用いて、前処理済み試料の細孔容積を測定した。細孔容積はMP法(細孔半径約0.21nm~約1nm)、BJH法(細孔半径約1nm~約100nm)で行った。それらの測定方法で得られた結果から、細孔直径2nm以下(細孔半径1nm以下)の細孔の容積の合計値を求めて「マイクロ細孔容積」とし、細孔直径2nm超50nm以下(細孔半径1nm超25nm以下)の細孔の容積の合計値を求めて「メソ細孔容積」とした。
【0076】
マイクロ-メソ細孔容積比(マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比)は、0.50以上が本願範囲内であり、0.70以上が好ましく、0.77以上が特に好ましい。マイクロ-メソ細孔容積比が0.50未満は本願範囲外である。
【0077】
【0078】
表1の結果を以下に検討する。
実施例1~3のベーマイト試料の作製において、第1の加水分解液に酢酸を添加し、また、高嵩密度化処理を行った。そのため、マイクロ-メソ細孔容積比(マイクロ細孔容積のメソ細孔容積に対する比)が0.70以上、軽装嵩密度が0.70g/mL以上のベーマイトが得られた。これらのベーマイトは、焼成前の初期のBET比表面積(BET1)が270m2/g以上であるだけでなく、BET比表面積の減少率が0.15以下と小さい値であった。つまり、実施例1~3のベーマイトは、高温下でも高いBET比表面積を維持でき、良好な耐熱性能を有することが分かった。
【0079】
特に実施例2では、酢酸添加、高嵩密度化処理に加えて、最終乾燥工程の温度を300℃と高くしたことにより、マイクロ-メソ細孔容積比が0.77以上、軽装嵩密度が0.80g/mL以上のベーマイトが得られた。その結果、BET比表面積(BET1)が270m2/g以上であり、BET比表面積の減少率が0.10以下と極めて小さい値であった。このことから、実施例2のベーマイトは、特に耐熱性能に優れていることが分かった。
【0080】
比較例1は、加水分解液に酢酸を添加しなかったため、高嵩密度化処理を行ったにもかかわらず、マイクロ-メソ細孔容積比が0.50未満であった。そのため、BET比表面積の減少率が0.15を超えており、耐熱性能が不十分であった。また、熱処理前の初期のBET比表面積(BET1)が200m2/g未満であった。
【0081】
比較例2は、加水分解液に酢酸を添加せず、高嵩密度化処理も行わなかったため、マイクロ-メソ細孔容積比が0.50未満で、軽装嵩密度が0.30g/mL未満であった。そのため、BET比表面積の減少率が0.15を超えており、耐熱性能が不十分であった。
【0082】
比較例3は、加水分解液に酢酸を添加したが、高嵩密度化処理を行わなかったため、マイクロ-メソ細孔容積比が0.50未満で、軽装嵩密度が0.30g/mL未満であった。そのため、BET比表面積の減少率が0.15を超えており、耐熱性能が不十分であった。
【0083】
比較例4は、加水分解液に酢酸を添加せず、高嵩密度化処理を行わなかったため、マイクロ-メソ細孔容積比が0.50未満であった。そのため、BET比表面積の減少率が0.15を超えており、耐熱性能が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示のベーマイトは、ディーゼルエンジンの排ガス用触媒、ガソリンエンジンの排ガス用触媒などのアルミナ製品の原料として利用することができる。