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特許7393939複合めっき、めっき付き金属基材及び電気接点用端子
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  • 特許-複合めっき、めっき付き金属基材及び電気接点用端子 図1
  • 特許-複合めっき、めっき付き金属基材及び電気接点用端子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】複合めっき、めっき付き金属基材及び電気接点用端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20231130BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C25D15/02 J
C25D15/02 H
C25D7/00 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019233431
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021102793
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】笠原 正靖
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181480(WO,A1)
【文献】特開2008-056950(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013219(WO,A1)
【文献】特開2008-231530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/00-15/02
C25D 5/00- 7/12
H01R 13/00
C22C 49/00-49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属めっき層と、前記金属めっき層中に分散状態で配置された、セルロース繊維、キチン繊維及びキトサン繊維からなる群から選択される有機物の繊維と、を有する複合めっきであって、
前記複合めっき中に含まれる前記有機物の繊維の全体の平均体積割合X(vol%)が、前記複合めっきの任意の表面において露出している前記有機物の繊維の平均面積割合Y(%)よりも大きく
記平均面積割合Y(%)が10以下であり、
前記平均体積割合X(vol%)に対する前記平均面積割合Y(%)の比が0.14以上0.8以下であり、かつ、
前記平均体積割合X(vol%)が5より大きいことを特徴とする複合めっき。
【請求項2】
前記金属めっき層の{111}面と{200}面と{220}面と{311}面のそれぞれのX線回折強度の和に対する{111}面の回折強度の割合が70%以上である、請求項に記載の複合めっき。
【請求項3】
金属めっき層が、銀、パラジウム及び金からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項1又は2に記載の複合めっき。
【請求項4】
前記有機物の繊維を含まない金属めっきを200℃で2時間熱処理を行った後に接触荷重1Nを負荷した際の接触抵抗に対する前記複合めっきを200℃で2時間熱処理を行った後に接触荷重1Nを負荷した際の接触抵抗の比が0.8以下である、請求項1乃至までのいずれか1項に記載の複合めっき。
【請求項5】
金属基材と、前記金属基材上に形成された請求項1乃至までのいずれか1項に記載の複合めっきと、を備えるめっき付き金属基材。
【請求項6】
請求項に記載のめっき付き金属基材を備える電気接点材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合めっき、めっき付き金属基材及び電気接点用端子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属材料は、導電性等の材料特性が優れていることから、様々な用途で幅広く使用されている。例えば、銅板等の金属基材に、銀(Ag)をはじめとする貴金属類、錫(Sn)などの金属めっき層が設けられためっき付き金属基材は、基材の優れた導電性及び強度と、金属めっきの良好な電気接触特性とを兼ね備えた高性能導体として各種の接点、スイッチ、端子などの電気接点材に広く用いられている。
【0003】
一方、繰返しの挿抜、摺動を伴う電気接点材料は、摺動性(耐摩耗性)に優れることが望まれる。このような電気接点材料の摺動性を大きく向上させるため、金属組織中に炭素粒子などの硬質粒子を取り込み複合めっきとすることで、摺動性を向上させることができることが知られている。
【0004】
特許文献1には、銀めっき中に含まれる炭素粒子の酸化処理により炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去し、炭素粒子を銀めっき中に均一に分散させることで銀めっき膜中に炭素粒子を取り込む技術が開示されている。これにより、銀めっきを炭素粒子との複合材の表層に露出する分散物としての炭素粒子の割合が複合材全体の平均割合よりも多い複合材が形成される。しかしながら、この方法では、銀めっき膜の表面に分散された炭素粒子の脱離が起こり得ると記載されているため、複合材の表面性能の低下を招くおそれがある。また、銀めっき膜中に含まれる炭素粒子が大きく、炭素粒子の周囲を銀めっきで取り囲むために、銀めっき皮膜の厚さを0.5μm以上に調整する必要がある。
【0005】
金属めっき皮膜の表面に分散物が過剰に含まれると、導電性の低下、金属めっき皮膜の接触抵抗の増大等の諸特性に影響を及ぼすことがある。特に、接触抵抗の増大は、金属めっき皮膜と他の導電性部材との電気的接触を妨げる要因になり、このような金属めっき皮膜は電気接点用端子に適用しにくくなる。そのため、接触抵抗の増大をできるだけ抑えることが望ましい。
【0006】
特許文献2には、銀めっき膜の優先配向面をAg{111}面とすることで、50℃168時間の加熱後における接触抵抗の増大を抑制できることが開示されている。しかしながら、銀めっき膜の優先配向面をAg{111}面とすることによる銀めっき膜の表層への影響については言及されていない。すなわち、金属めっき皮膜の表面に過剰に露出する分散物の割合を低減し、接触抵抗の増大を抑制可能な複合めっきの開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-254876号公報
【文献】特許第6395560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属めっきの表面に対する分散物の露出が低減され、接触抵抗の増大が抑制された複合めっき、めっき付き金属基材及び電気接点用端子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、所定の有機物の繊維がマトリックス金属中に分散された状態で含まれる複合めっきにおいて、複合めっき中に含まれる有機物の繊維の全体の平均体積割合をX(vol%)、複合めっきの任意の表面に露出する有機物の繊維の平均面積割合をY(%)としたとき、X>YかつY≦10を満たすように複合めっき中に存在する有機物の繊維の分散状態を制御することにより、得られる複合めっきの表面を金属めっき自体の表面に近い状態に発現できるとの知見を得た。これにより、複合めっきの表面に過剰に露出する分散物の割合が低減し、接触抵抗の増大が抑制された複合めっき、及び当該複合めっきを用いためっき付き金属基材及び電気接点用端子が得られることを見出した。
【0010】
本発明の態様は、金属めっき層と、前記金属めっき層中に分散状態で配置された、セルロース繊維、キチン繊維及びキトサン繊維からなる群から選択される有機物の繊維と、を有する複合めっきであって、前記複合めっき中に含まれる前記有機物の繊維の全体の平均体積割合X(vol%)が、前記複合めっきの任意の表面において露出している前記有機物の繊維の平均面積割合Y(%)よりも大きく、かつ、前記平均面積割合Y(%)が10以下である、複合めっきである。
【0011】
本発明の態様は、前記平均体積割合X(vol%)に対する前記平均面積割合Y(%)の比が0.14以上0.8以下である、複合めっきである。
【0012】
本発明の態様は、前記平均体積割合X(vol%)が5より大きい、複合めっきである。
【0013】
本発明の態様は、前記金属めっき層の{111}面と{200}面と{220}面と{311}面のそれぞれのX線回折強度の和に対する{111}面の回折強度の割合が70%以上である、複合めっきである。
【0014】
本発明の態様は、金属めっき層が、銀、パラジウム及び金からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む、複合めっきである。
【0015】
本発明の態様は、前記有機物の繊維を含まない金属めっきを200℃で2時間熱処理を行った後に接触荷重1Nを負荷した際の接触抵抗に対する前記複合めっきを200℃で2時間熱処理を行った後に接触荷重1Nを負荷した際の接触抵抗の比が0.8以下である、複合めっきである。
【0016】
本発明の態様は、金属基材と、前記金属基材上に形成された上記複合めっきと、を備えるめっき付き金属基材である。
【0017】
本発明の態様は、上記めっき付き金属基材を備える電気接点材料である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属めっき層と、金属めっき層中に分散状態で配置された、セルロース繊維、キチン繊維及びキトサン繊維からなる群から選択される有機物の繊維と、を有する複合めっき中に含まれる有機物の繊維の全体の平均体積割合X(vol%)を、複合めっきの任意の表面において露出している有機物の繊維の平均面積割合Y(%)よりも大きくし、かつ、平均面積割合Y(%)を10以下に制御することによって、複合めっきの表面を金属めっき自体の表面に近い状態に発現できる。これにより、金属めっきの表面に対する分散物の露出が低減され、接触抵抗の増大が抑制された複合めっきを得ることができる。また、金属めっきと有機物の繊維との複合化により得られる複合めっきは優れた摺動性を発現し得る。さらに、分散物が金属めっきの表面に過剰に露出することによる分散物の脱離を防止できるため、それに伴う機能性、例えば、導電性、摺動性等の低下を抑制できる。このような複合めっきを備えるめっき付き金属基材及び電気接点材料にも同様の作用を付与することできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の複合めっきの一実施態様を示す概略断面図であり、その部分拡大図において、金属めっき層に含まれる有機物の繊維の分布を示す。
図2図2は、本発明のめっき付き金属基材の一実施態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[複合めっき]
図1に、本実施形態に係る複合めっきの一例を示す。図1に示されるように、本実施形態に係る複合めっき1は、金属めっき層(マトリックス金属)2と、金属めっき層2中に分散状態で配置された有機物の繊維3とを有する。図1には示されていなが、有機物の繊維3は所定の面積割合で金属めっき層2の表面に露出して存在している。尚、図1において、有機物の繊維3は、便宜上、円状、楕円状の形状で示している。また、複合めっき1の形状については、特に制限はなく、例えば、箔、薄板又は厚板のような板材、線材、棒材、管材、角材等のような種々の形状が挙げられる。
【0022】
<金属めっき層>
金属めっき層は、有機物の繊維と電気めっき可能なめっき膜である。金属めっき層には、電気めっき可能な金属中に有機物の繊維が分散状態で配置されており、金属めっき層の表面付近にも一定量の有機物の繊維が分散されている。そのため、金属めっき層の表面に適度な凹凸が付与され、金属めっき層に粗面化された金属表面が形成される。このような有機物の繊維が複合された金属めっき層は、有機物の繊維を含んでいない金属めっき層と比べて表層の動摩擦係数を低減できるため、優れた摺動性が発現される。
【0023】
金属めっき層の平均厚さは、特に制限はないが、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.2μm以上4μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上3μm以下であることがさらに好ましい。特に、金属めっき層の平均厚さの下限値が0.3μm以上であることにより、後述するめっき付き金属基材が備える金属基材からの金属の過度な拡散を防止することができ、これにより金属めっき層の耐久性が増大する。また、金属めっき層の平均厚さの上限値が3μm以下であることにより、金属めっき層の厚さが厚過ぎることに起因する生産コストの増大を抑制できる。
【0024】
金属めっき層の平均厚さは、例えば、複合めっきを樹脂包理させた後、金属めっき層の厚さ方向の断面の形成、研磨による断面加工を経て、走査型電子顕微鏡を用いて測定できる。厚さの測定は、断面の任意の3ヶ所で行い、その平均値を厚さ(平均厚さ)として算出することができる。尚、めっき付き金属基材を用いて金属めっき層の平均厚さを測定する際、その厚さには、金属めっき層の金属と金属基材の金属との混在により形成され得る介在層の厚さは含まれない。
【0025】
(金属)
金属めっき層に含まれる金属は、電気めっき可能な金属であり、マトリックス金属として有機物の繊維を分散させる。このような金属として、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、錫(Sn)、金(Au)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)又はこれらの合金等が挙げられる。特に、金属めっき層は、銀、パラジウム及び金からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。この中でも、電気接点用材料として、優れた導電率、接触抵抗、はんだ濡れ性をバランスよく実現できる、銀又はパラジウムが好ましく、特に、接触抵抗に優れた銀が最適である。参考として、表1~表3に、パラジウム、銀及び金のめっき浴組成並びにめっき条件の例を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
金属めっき層の{111}面と{200}面と{220}面と{311}面のそれぞれのX線回折強度の和に対する{111}面の回折強度の割合は、65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。金属母相の結晶配向を{111}面が主配向となるように制御することで、複合めっき中に含まれる有機物の繊維の平均割合を多くできると共に、複合めっき中に含まれる有機物の繊維の平均割合と複合めっきの表面に露出する有機物の繊維の割合の差を大きくすることができる。特に、上記回折強度の割合が70%以上であることにより、金属めっき層の{111}面が主配向になるように制御でき、接触抵抗の増大もより抑制することができる。例えば、金属めっき層の金属として銀が含まれる場合、銀と有機物の繊維との複合めっきを形成する際、Ag{111}面が主配向となるように制御することが好ましい。
【0030】
<有機物の繊維>
有機物の繊維は、セルロース繊維、キチン繊維及びキトサン繊維からなる群から選択される。セルロース繊維、キチン繊維及びキトサン繊維は、炭素と酸素を有する有機物の繊維であり、単位構造の複数回の繰り返しによって得られる高分子材料、特に生体由来の高分子材料である。このような繊維の中でも、環境負荷が少なくかつ材料コストが安価であることから、工業的には、セルロース繊維が好ましく、セルロースミクロフィブリル又はその誘導体がより好ましい。セルロースミクロフィブリルは、セルロース分子鎖が数十本束となってできた微細な繊維であり、セルロース繊維は、このセルロースミクロフィブリルがさらに束となって構成されている。セルロース繊維の直径は数十μmであるのに対し、セルロースミクロフィブリルの直径は数nm~0.1μmである。セルロースミクロフィブリル又はその誘導体は、分散性(親水性)、他物質との親和性、微粒子の捕捉及び吸着などに優れる特性を有している。また、キチン繊維及びキトサン繊維は、吸着能に優れるだけでなく、誘導体の形成により親水化処理を容易に行うことができる。
【0031】
有機物の繊維は短繊維であることが好ましく、金属めっき層中に短繊維が分散状態、特に均一な分散状態で配置されていることがより好ましい。これにより、複合めっきは、安定した高い強度を得ることができる。また、短繊維のサイズとしては、直径が4~10nm、長さが5~10μmであることが好ましい。
【0032】
さらに、特定方向の強度(特に引張強度)を有効に高める場合には、有機物の繊維、特に短繊維は、金属めっき層中に一方向に揃った状態で分散されていることが好ましい。一方、強度(特に引張強度)を異方性なく均一に高める場合には、有機物の繊維、特に短繊維は、金属めっき層中にランダム方向に配列した状態で分散されていることが好ましい。
【0033】
セルロースは、軟化温度(220~230℃)が金属の融点よりも低い。そのため、従来の公知の加圧鋳造法または焼結法によって、金属が溶融する温度までセルロース繊維を加熱する場合、セルロース繊維が熱分解してしまい、金属中に、セルロース繊維が取り込まれた複合材を製造することができない。一方、セルロース繊維は、親水性であるため、水溶液(特に酸性水溶液)からなる各種金属のめっき液にセルロース繊維を添加すると、セルロース繊維は、めっき液中において凝集することなく分散させることが可能である。次いで、セルロース繊維が分散されているめっき液中で電気めっき(分散めっき)を行うことにより、セルロース繊維が、特に熱分解等の特性変化を生じることなく、金属めっき層中に分散状態で配置させることができる。このため、複合めっきは電気めっき法によって形成することができる。尚、有機物の繊維は、セルロース繊維、キチン繊維及びキトサン繊維のうちのいずれかを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本実施形態に係る複合めっきにおいて、複合めっき中に含まれる有機物の繊維の全体の平均体積割合をX(vol%)、複合めっきの任意の表面に露出する有機物の繊維の平均面積割合をY(%)としたとき、X>YかつY≦10を満たすように有機物の繊維の分散状態が制御されている。すなわち、平均体積割合X(vol%)が平均面積割合Y(%)よりも大きく、かつ、平均面積割合Y(%)が10以下である。このように、複合めっき中に存在する有機物の繊維の分散状態、特に複合めっきの表面に存在する有機物の繊維の割合を適切に制御することにより、複合めっきの表面を金属めっき自体の表面に近い状態に発現できる。これにより、金属めっきの表面に対する分散物の露出が低減され、接触抵抗の増大が抑制された複合めっきを得ることができる。また、分散物が金属めっきの表面に過剰に露出することによる分散物の脱離を防止できるため、それに伴う機能、例えば、導電性、摺動性等の低下を抑制できる。
【0035】
平均体積割合X(vol%)は、3より大きいことが好ましく、5より大きいことがより好ましい。特に、平均体積割合X(vol%)について、X>5を満たすように複合めっきを形成することで、複合めっきの表面にも有機物の繊維が適度に分散される。その結果、分散物が複合めっきの表面に過剰に露出することなく、接触抵抗の増大をより抑制することができ、その上、複合めっきに優れた摺動性を付与できる。また、平均体積割合X(vol%)の上限値は30以下であることが好ましい。平均体積割合X(vol%)について、X≦30を満たすように複合めっきを形成することで、複合めっきの表面に有機物の繊維が過剰に分散されることを抑制し、接触抵抗の増大をより抑制することができる。
【0036】
平均面積割合Y(%)は、5以下であることが好ましい。Y≦5を満たすように複合めっきを形成することで、複合めっきの表面に有機物の繊維が過剰に分散されることを抑制し、接触抵抗の増大をより抑制することができる。
【0037】
平均面積割合Y(%)を測定する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、作製した複合めっきの任意の表面において、所定の範囲で区画した観察視野内に対し、オージェ電子分光法により元素マッピングを行い、さらに得られた元素マッピングデータを判別分析法により2値化することにより、観察視野内に占める有機物の繊維の平均面積割合Y(%)を算出することができる。その際、平均面積割合Y(%)は、所定の範囲で区画した観察視野の領域を任意に複数選択し、各観察視野で得られた面積割合の平均値から算出できる。観察視野内に有機物の繊維が複数存在する場合、視野内の面積割合は、観察視野内に占める各有機物の繊維の面積の合計で算出する。
【0038】
平均体積割合X(vol%)に対する平均面積割合Y(%)の比は、0.10以上0.95以下であることが好ましく、0.14以上0.8以下であることがより好ましい。特に、平均体積割合X(vol%)と平均面積割合Y(%)との比であるY/Xについて、0.14≦Y/X≦0.8を満たすように複合めっきを形成することで、複合めっき中に含まれる有機物の繊維と、複合めっきの表面に露出する有機物の繊維とが適度な分散状態で存在する。その結果、分散物が複合めっきの表面に過剰に露出することなく、接触抵抗の増大をより抑制することができる。
【0039】
複合めっき中に含まれる有機物の繊維の平均質量割合は、0.02質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、平均質量割合の下限値は0.5質量%以上であることがより好ましく、平均質量割合の上限値は8質量%以下であることがより好ましい。平均質量割合が0.02質量%以上であることにより、有機物の繊維による金属めっき層に含まれる金属の補強効果を十分に発揮でき、複合めっきの摺動性を向上させる。また、複合めっきを電気めっき法で形成する場合、一定量以上の不純物(ここでは有機物の繊維)がめっき液に含まれると、めっき液の組成が崩れ、金属の析出ができなくなるおそれがある。そのため、電気めっき法での複合めっきを容易に製造する観点から、平均質量割合は10質量%以下であることが好ましい。また、金属めっき層中に含まれる有機物の繊維の割合の増大に起因して、導電率の低下率が大きくなり過ぎてしまうことを抑制する観点から、有機物の繊維の平均質量割合は8質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
<接触抵抗>
接触抵抗の増減は、有機物の繊維を含まない金属めっきそれ自体との対比により測定される。本実施形態に係る複合めっきにおいて、有機物の繊維を含まない金属めっきを200℃で2時間熱処理を行った後に接触荷重1Nを負荷した際の接触抵抗に対する前記複合めっきを200℃で2時間熱処理を行った後に接触荷重1Nを負荷した際の接触抵抗の比は、0.85以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましい。
【0041】
[めっき付き金属基材]
図2に、本実施形態に係るめっき付き金属基材の一例を示す。図2に示されるように、本実施形態に係るめっき付き金属基材5は、金属基材4と、金属基材4上に形成された上述の複合めっき1とを備える。複合めっき1は、図1に示されるように金属めっき層2と、金属めっき層2中に分散状態で配置された有機物の繊維3とを有しており、有機物の繊維3は所定の面積割合で金属めっき層2の表面に露出して存在している。金属基材4の形状については、特に制限はなく、例えば、箔、薄板又は厚板のような板材、線材、棒材、管材、角材等のような種々の形状が挙げられる。
【0042】
<金属基材>
金属基材の材料は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設定される。金属基材の材料として、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、炭素鋼、ステンレス合金などが挙げられ、導電性の観点から、銅および銅合金が好ましい。金属基材の厚さは、特に限定されるものではないが、金属基材に複合めっきが形成しやすく、金属基材に所定の強度を付与する観点から0.020mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0043】
[複合めっき及びめっき付き金属基材の製造方法]
複合めっきは、例えば、電気めっき法によって形成することができる。複合めっきを電気めっき法によって形成する場合、めっき浴に有機物の繊維を添加する際、さらにデシルアミンやドデシルアミンのような界面活性剤をめっき浴へ添加する。これにより、複合めっきを形成する際、有機物の繊維が金属めっき層中の金属粒子に覆われやすくなり、複合めっきの表層に露出しにくくなる。このような界面活性剤の添加により、平均体積割合X(vol%)と平均面積割合Y(%)について、X>YかつY≦10を満たすように有機物の繊維の分散状態を制御できる。こうして、電気めっきにより金属基材上に複合めっきが形成されためっき付き金属基材が作製される。作製しためっき付き金属基材は、複合めっきと、複合めっきが形成された表面をもつ金属基材とで構成された表面処理材として機能する。このような表面処理材において、複合めっきは、金属基材上に積層された表面処理被膜であることが好ましく、例えば、金属基材上に電気めっきにより形成しためっき被膜であることがより好ましい。
【0044】
一方、上述の実施形態では、複合めっきを、電気めっき法により製造した場合について説明してきたが、有機物の繊維の材料特性が変化しない温度(例えば200℃以下)で複合めっきを製造できる方法であれば特に限定されるものではない。複合めっきの他の製造方法として、例えば、無電解めっき法、ゾルゲル法、各種塗布法、低融点はんだなどの低融点金属の溶湯との混合などが挙げられる。
【0045】
<複合めっきの用途>
本実施形態に係る複合めっきは、金属めっき層の材料として用途に応じて適した金属を選択することによって、様々な技術分野で種々の製品に適用することができる。例えば、銅板(導電性基板)上に、金属めっき層に含まれる銀と有機物の繊維とで表面処理被膜(複合めっき)を形成した表面処理銅板(めっき付き金属基材)は、コネクタの構成部品である端子等の電気接点材料として使用でき、本実施形態に係るめっき付き金属基材を備える電気接点用材料は、電気接点用端子としての使用に好適である。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0047】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1~6)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表4に示す金属めっき層の金属と、有機物の繊維としてセルロース繊維とを表4に示す平均質量割合で配合した複合めっきを形成した。尚、セルロース繊維は、直径が約20nm、長さが数μmのスギノマシン社製のセルロース繊維を使用した。表2に示す銀めっき浴に、銀めっき浴に対して0.01~30体積%程度のセルロース繊維を添加し、さらに界面活性剤としてドデシルアミンを10~200mg/Lの濃度で添加し、攪拌して銀めっき浴中にセルロース繊維を分散させた。その後、セルロース繊維が分散した状態の銀めっき浴中で、表2に示すめっき条件で電気銅めっきを行い、厚さが2μmになるように複合めっきを作製した。添加される界面活性剤の量は、複合めっきにおけるセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が表4に示す値になるように添加した。
【0049】
<平均質量割合>
複合めっき中に含まれる有機物の繊維の平均質量割合については、複合めっきの質量に対する、複合めっきを溶解した後に残る残留物の質量の比率から求めた。複合めっきの質量は、45cm×15cmの区画でめっき付き金属基材片を3片採取し、各片の質量を測定し、金属基材の厚さと密度から算出した金属基材の質量を差し引くことで算出した。残留物の質量は、質量測定を行った各試料片を溶解液中に浸漬して金属を溶解し、次いで、残留物を含む溶液を2500rpmにて10分間遠心分離することで残留物を分離及び回収し、回収物を乾燥させた後にその質量を測定することで算出した。溶解液としては、金属めっき層の金属が銀の場合は水酸化アンモニウムと過酸化水素水の混合液を、金属めっき層の金属が金またはパラジウムの場合は濃硝酸と濃塩酸の混合液を用いた。測定は、めっき付き金属基材片に形成された複合めっきの任意の3箇所から採取した供試材で行い、平均値を平均質量割合として算出した。
【0050】
<平均体積割合X>
複合めっきに含まれるセルロース繊維の全体の平均体積割合(vol%)については、複合めっきの質量と、複合めっきを水酸化アンモニウムと過酸化水素水にて溶解した後に残る残留物の質量から複合めっきに含まれるセルロース繊維の質量割合とを求めた後、銀の密度(10.49g/cm)及びセルロースの密度(1.5g/cm)から体積割合X(vol%)を算出した。尚、複合めっきを溶解した後の残留物は、フーリエ変換赤外分光分析によりセルロースであると同定した。このような体積割合の算出を、任意の3ヶ所から採取した供試材で行い、平均値を平均体積割合X(vol%)として算出した。
【0051】
<平均面積割合Y>
複合めっきを評価に供する大きさ(3cm×3cm)に切り出し、アセトン中に浸漬させて超音波洗浄により複合めっきの表層の油分を除去した。その後、乾燥させて評価用の試験片を得た。このように準備した試験片を走査型オージェ電子分光装置(「PH1680」、アルバック・ファイ社製)を用いて、倍率:300倍、観察視野:400μm×280μm、走査線数512本にて、水洗処理した試験片の任意の表面の3箇所について、炭素及び酸素の元素分布を取得(評価)した。なお、前述の洗浄処理は、オージェ電子顕微鏡へ試験片を導入する直前の2時間以内に行った。この元素分布画像を、画像寸法計測ソフト(「Pixs2000 Pro」、イノテック社製)を用いて、下限閾値を150、上限閾値を255にそれぞれ設定し、二値化の設定にて、分離点は除く一方で内部は塗りつぶしを行い、画像処理後の画像を作成した。さらに、得られた画像を解析し、処理後の画像から黒塗り部の面積が占める割合と観察範囲(400μm×280μm:112000μm)から面積割合を算出した。このような面積割合の算出を、任意の表面の3カ所から取得した元素分布に対して行い、その平均値を、平均面積割合Y(%)とした。
【0052】
(実施例7)
実施例1~6と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表4に示す金属めっき層の金属と、有機物の繊維としてキトサン繊維とを表4に示す平均質量割合で配合した複合めっきを形成した。尚、キトサン繊維は、直径が約20nm、長さが数μmのスギノマシン社製のキトサン繊維を使用した。添加される界面活性剤の量は、複合めっきにおけるキトサン繊維の平均面積割合Y(%)が表4に示す値になるように調整した。
【0053】
(実施例8)
実施例1~7と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表4に示す金属めっき層の金属と、有機物の繊維としてセルロース繊維とキトサン繊維の両方の合計を表4に示す平均質量割合で配合した複合めっきを形成した。界面活性剤の量は、複合めっきにおけるセルロース繊維とキトサン繊維の平均面積割合Y(%)が表4に示す値になるように調整した。
【0054】
(比較例1)
複合めっき中に含まれるセルロース繊維の全体の平均体積割合X(vol%)が11、複合めっきの表面に露出するセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が11となるように複合めっき層を形成した以外は実施例1~6と同様の方法で作成した。
【0055】
(比較例2)
複合めっき中に含まれるセルロース繊維の全体の平均体積割合X(vol%)が15、複合めっきの表面に露出するセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が14となるように複合めっき層を形成した以外は実施例1~6と同様の方法で作成した。
【0056】
(従来例1)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表2に示す銀めっき浴とめっき条件で電気銀めっきを行い、厚さが2μmになるように金属めっき層(銀めっき膜)を形成した。
【0057】
(実施例9)
表1に示すパラジウムめっき条件、及び表4に示すセルロース繊維の平均質量割合以外は、実施例1~6と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、パラジウムとセルロース繊維とを含む厚さ2μmの複合めっきを形成した。添加される界面活性剤の量は、複合めっきにおけるセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が表4に示す値になるように調整した。
【0058】
(比較例3)
複合めっき中に含まれるセルロース繊維の全体の平均体積割合X(vol%)が12、複合めっきの表面に露出するセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が11となるように複合めっき層を形成した以外は実施例9と同様の方法で作成した。
【0059】
(従来例2)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表1に示すパラジウムめっき浴とめっき条件で電気パラジウムめっきを行い、厚さが2μmになるように金属めっき層(パラジウムめっき膜)を形成した。
【0060】
(実施例10)
表3に示す金めっき条件、及び表4に示すセルロース繊維の平均質量割合以外は、実施例1~6と同様の方法で、厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、金とセルロース繊維とを含む厚さ0.5μmの複合めっきを形成した。添加される界面活性剤の量は、複合めっきにおけるセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が表4に示す値になるように調整した。
【0061】
(比較例4)
複合めっき中に含まれるセルロース繊維の全体の平均体積割合X(vol%)が14、複合めっきの表面に露出するセルロース繊維の平均面積割合Y(%)が13となるように複合めっき層を形成した以外は実施例10と同様の方法で作成した。
【0062】
(従来例3)
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表3に示す金めっき浴とめっき条件で電気金めっきを行い、厚さが0.5μmになるように金属めっき層(金めっき膜)を形成した。
【0063】
実施例1~10及び比較例1~3で作製しためっき付き金属基材について、回析強度比割合及び接触抵抗の比を以下の方法で測定した。また、従来例1~3で作製した金属めっき層の回析強度の割合及び接触抵抗の比についても、同様の方法で測定した。
【0064】
1.回析強度の割合の測定
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表4に示す複合めっきが形成された供試材を作製した。作製した各3枚ずつの供試材について、X線回折装置(PANalytical社製、「X‘pert MRD Pro」)を用いて、管球電圧45kv電流40mAの条件で2θ-θスキャンを行った。得られたプロファイルから、金属めっき層の{111}面、{200}面、{220}面及び{311}面のそれぞれのピークの最大強度を算出し、下記の式(I)により、{111}面の回折強度の割合を算出した。尚、式(I)中の「M」は金属めっき層の金属を表す。
【0065】
M{111}/{M{111}+M{200}+M{220}+M{311}}・・・(I)
【0066】
2.接触抵抗の比の測定
厚さ0.3mmの銅板(C1100)上に、表4に示す複合めっきが形成された供試材を200℃に維持した恒温槽にて2時間大気下で加熱した後、4端子法にて各供試材の接触抵抗を測定した。接触抵抗の比は、半径5mmの銀プローブを使用し、10mA通電、荷重100gfの条件で、任意の測定点10箇所から得られた接触抵抗の値の平均値を算出した後、同様の条件で測定した従来例1~3の各金属めっき層が示す接触抵抗を「1」とし、それに対するその平均値の比を評価結果とした。
【0067】
【表4】
【0068】
表4の結果から、金属めっき層の金属が銀である場合(実施例1~8、従来例1、比較例1~2)において、平均体積割合X(vol%)が平均面積割合Y(%)以下、すなわち、X>Yを満たさない比較例1では、接触抵抗の比について従来例1と比べて優位性がほとんど認められなかった。また、平均体積割合X(vol%)が平均面積割合Y(%)より大きいものの、平均面積割合Y(%)が10を超える、すなわち、Y≦10を満たさない比較例2においても、接触抵抗の比について従来例1と比べて優位性は認められなかった。
【0069】
一方、平均体積割合X(vol%)が平均面積割合Y(%)より大きい、すなわち、X>Yを満たし、かつ、平均面積割合Y(%)が10以下、すなわち、Y≦10を満たす実施例1の接触抵抗の比は従来例1と比べて小さく、接触抵抗の増大が抑制されていた。その中でも、平均体積割合X(vol%)が5より大きい実施例2~5では、接触抵抗の比は実施例1と比べてさらに小さく、接触抵抗の増大がより抑制されていた。また、Ag{111}面の回折強度の割合が70%以上である実施例3~5では、接触抵抗の比は実施例2と比べてさらに小さく、特に優れていた。
【0070】
金属めっき層のめっき材料としてパラジウムめっきを使用している実施例9と比較例3とを比較すると、実施例9も比較例3に比べて接触抵抗の比が小さく、接触抵抗の増大が抑制されていた。
【0071】
金属めっき層のめっき材料として金めっきを使用している実施例10と比較例4とを比較すると、実施例10も比較例4に比べて接触抵抗の比が小さく、接触抵抗の増大が抑制されていた。
【符号の説明】
【0072】
1 複合めっき
2 金属めっき層(マトリックス金属)
3 有機物の繊維
4 金属基材
5 めっき付き金属基材
図1
図2