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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】処理方法及び処理システム
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20231130BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20231130BHJP
   B23K 26/122 20140101ALI20231130BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231130BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20231130BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231130BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231130BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231130BHJP
【FI】
B22F3/105
B22F3/16
B23K26/122
B23K26/21 Z
B23K26/34
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2019509903
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2018012480
(87)【国際公開番号】W WO2018181344
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-08-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2017069730
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 祐一
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-83221(JP,A)
【文献】特開2000-288751(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108546(WO,A1)
【文献】特表2016-535170(JP,A)
【文献】特開2005-267746(JP,A)
【文献】特開平6-155587(JP,A)
【文献】特開2014-34712(JP,A)
【文献】特開平11-324906(JP,A)
【文献】特開2015-178191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F,B23K,B33Y,B29C,B29D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理方法であって、
前記所定面の全面を覆うように液体を供給することと、
前記所定面上の、前記目標部位を含む一部領域を非液浸状態とすることと、
前記目標部位を含む一部領域を局所的に非液浸状態にした状態で、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記目標部位にビームを照射することと、を含み、
前記非液浸状態とすることは、供給された前記液体が前記ビームの光路を含む所定空間に入ることを制限することで、前記一部領域を非液浸状態にすることを含む処理方法。
【請求項2】
ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理システムであって、
前記所定面を覆うように液体を供給する液体供給装置と、
前記所定面上の前記目標部位を含む一部領域に局所的に非液浸状態が生じるように、前記液体供給装置から供給される液体を処理する液体処理装置と、
前記目標部位に向けてビームを射出するビーム照射部と、
前記所定面を移動する移動装置と、を備え、
前記目標部位を含む一部領域を局所的に非液浸状態にした状態で、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記目標部位にビームを照射し、
前記液体処理装置は、供給された前記液体が前記ビームの光路を含む所定空間に入ることを制限することで、前記一部領域を非液浸状態にする処理システム。
【請求項3】
前記ビームは、供給された前記液体を介さずに、前記目標部位に照射される請求項2に記載の処理システム。
【請求項4】
前記目標部位へのビームの照射は、前記所定面上に、供給された前記液体で覆われた領域と供給された前記液体で覆われていない領域とが存在する状態で行われる請求項2又は3に記載の処理システム。
【請求項5】
前記移動装置は、可動ステージを有し、
前記液体供給装置は、前記ステージ上に設けられた槽内に前記液体を供給し、
前記処理は、前記槽内に配置された前記所定面の目標部位に対して行われる請求項2~4のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項6】
前記液体供給装置は、前記槽内の液体の量を調整する調整装置を含み、
前記調整装置を介して前記槽内の液体の量を制御する制御装置をさらに備える請求項5に記載の処理システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記ステージの上下方向の位置の変化に応じて前記調整装置を制御する請求項6に記載の処理システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記処理の進行に応じて前記調整装置を制御する請求項6又は7に記載の処理システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記槽内に供給された液体の液面が前記所定面より高い位置に維持されるように、前記調整装置を制御する請求項6~8のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項10】
前記液体の処理は、前記液体の除去を含む請求項2~9のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項11】
前記液体処理装置は、前記液体を除去可能な吸引口を有する請求項10に記載の処理システム。
【請求項12】
前記吸引口は、前記目標部位の上方で前記液体の除去が行われるように配置される請求項11に記載の処理システム。
【請求項13】
前記液体の処理は、気体の供給を含む請求項2~12のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項14】
前記液体処理装置は、前記目標部位の上方から前記気体を供給するガス供給口を有する請求項13に記載の処理システム。
【請求項15】
前記気体は不活性ガスである請求項13又は14に記載の処理システム。
【請求項16】
ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理システムであって、
前記所定面を有する物体に、前記所定面を覆うように液体を供給する液体供給装置と、
前記目標部位に向けてビームを射出するビーム照射部と、
前記所定面を移動する移動装置と、
前記所定面上の前記目標部位を含む一部領域に局所的に非液浸状態が生じるように、前記液体供給装置から供給される液体が前記ビームの光路を含む所定空間に入ることを制限することで、前記一部領域を非液浸状態にする液体処理装置と、を備える処理システム。
【請求項17】
前記液体供給装置による前記物体への液体供給を行いながら、前記目標部位へのビーム照射による前記所定の処理を行う請求項16に記載の処理システム。
【請求項18】
前記移動装置は、可動ステージを有し、
前記液体供給装置は、前記ステージ上に設けられた槽内に前記液体を供給し、
前記処理は、前記槽内に配置された前記所定面の目標部位に対して行われる請求項16又は17に記載の処理システム。
【請求項19】
前記液体の供給により、前記所定面を有する物体の温度調整、又は前記所定面を有する物体の冷却が行われる請求項2~18のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項20】
前記処理は、造形対象の三次元造形物の3Dデータに基づいて、複数の層が積層されて成る三次元造形物を形成する造形処理であり、
前記所定面は、前記目標部位が設定される造形の対象面である請求項2~18のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項21】
造形材料として粉末を供給する材料供給部をさらに備え、
前記目標部位に造形処理が施されるように、前記3Dデータに基づいて、前記ビームと前記対象面とを相対移動させ、これと並行して、前記目標部位への、前記ビームの照射と前記造形材料の供給を行う請求項20に記載の処理システム。
【請求項22】
前記ビーム照射部は、光学系を有し、該光学系を介して前記ビームを照射する請求項2~21のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項23】
造形材料として粉末を供給する材料供給部をさらに備え、
前記造形材料は、前記光学系の光軸に沿って前記目標部位に供給され、
前記ビームは、前記光軸に対して傾斜する方向から前記目標部位に照射される請求項22に記載の処理システム。
【請求項24】
造形材料として粉末を供給する材料供給部をさらに備え、
前記光学系は、光軸を含む中心部に前記光軸に平行な方向に貫通する貫通孔が形成された終端レンズを有する集光光学系であり、
前記造形材料は、前記貫通孔内に配置された供給管の一端に設けられた材料供給口を介して前記目標部位に供給される請求項22又は23に記載の処理システム。
【請求項25】
造形材料として粉末を供給する材料供給部をさらに備え、
前記造形材料は、前記光学系の光軸に対して傾斜する方向に沿って前記目標部位に供給され、
前記ビームは、前記光軸に沿って前記目標部位に照射される請求項22に記載の処理システム。
【請求項26】
前記ビームの光路の少なくとも一部を囲むカバー部材と、
造形材料としての粉末を供給する材料供給部と、をさらに備え、
前記処理は、造形対象の三次元造形物の3Dデータに基づいて、複数の層が積層されて成る三次元造形物を形成する造形処理であり、
前記所定面は、前記目標部位が設定される造形の対象面であり、
前記目標部位に造形処理が施されるように、前記3Dデータに基づいて、前記ビームと前記対象面とを相対移動させ、これと並行して、前記目標部位への、前記ビームの照射と前記造形材料の供給を行い、
前記カバー部材は、前記ビーム及び前記造形材料が通過する出口を有する請求項2~25のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項27】
前記所定面を有するワーク上の前記目標部位に処理が施されるように、前記ビームと前記ワークとを相対移動させる請求項2~26のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項28】
前記ビームの光路の少なくとも一部を囲むとともに、前記ビームが通過する出口を有するカバー部材をさらに備える請求項2~27のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項29】
前記液体処理装置は、前記カバー部材を用いて前記液体を処理する請求項28に記載の処理システム。
【請求項30】
前記カバー部材は、ガス供給口を有する請求項29に記載の処理システム。
【請求項31】
前記液体処理装置は、前記カバー部材の前記出口を介して前記ガス供給口からの気体を供給する請求項30に記載の処理システム。
【請求項32】
前記カバー部材は、前記出口の周囲に前記ガス供給口を有する請求項30又は31に記載の処理システム。
【請求項33】
前記所定面は、前記目標部位が設定される造形の対象面であり、
前記ガス供給口は、前記対象面が対向するように配置されている請求項32に記載の処理システム。
【請求項34】
前記ガス供給口からの気体は不活性ガスである請求項30~33のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項35】
前記液体の処理は、前記液体の除去を含む請求項29~34のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項36】
前記カバー部材は、前記液体を除去可能な吸引口を有する請求項35に記載の処理システム。
【請求項37】
前記カバー部材は、前記出口の周囲に前記吸引口を有する請求項36に記載の処理システム。
【請求項38】
前記所定面は、前記目標部位が設定される造形の対象面であり、
前記吸引口は、前記対象面が対向するように配置されている請求項37に記載の処理システム。
【請求項39】
前記液体の供給により、前記所定面を有する前記ワークの温度調整、又は前記所定面を有する前記ワークの冷却が行われる請求項27~38のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項40】
前記液体は、前記所定面の少なくとも一部を覆う請求項2~39のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項41】
前記処理は、前記所定面を有するワークにビームを照射して前記ワークを加工する加工処理である請求項2~19および27~40のいずれか一項に記載の処理システム。
【請求項42】
前記加工処理は、除去加工を含む請求項41に記載の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理方法及び処理システムに係り、さらに詳しくは、ビームの照射により、所定面上の目標部位に所定の処理を施す処理方法及び処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビーム等のビームを照射して処理対象の目標部位に所定の処理を施す技術として、例えばCADデータから直接3D(三次元)形状を生成する技術が知られている。この技術は、ラピッドプロトタイピング(3Dプリンティング、あるいは付加製造、あるいはダイレクトデジタル製造と呼ばれることもあるが、以下、ラピッドプロトタイピングを総称として用いる)と呼ばれる。3Dプリンタ等のラピッドプロトタイピングにより三次元造形物を形成する造形装置を、扱う材料で分類すると、樹脂を扱うものと金属を扱うものに大別できる。ラピッドプロトタイピングで製作される金属製の三次元造形物は、実際の機械構造物の一部(それが量産品にせよ試作品にせよ)として用いられることになる。既存の金属用3Dプリンタ(以下、M3DP(Metal 3D Printer)と略記する)として、PBF(Powder Bed Fusion)とDED(Directed Energy Deposition)の2種類がよく知られている。
【0003】
DEDでは、溶解させた金属材料を、加工対象に付着させる方法をとっている。例えば、集光レンズで絞ったレーザビームの焦点付近に、粉末金属を噴射する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
3Dプリンタでは、例えば、ビームの照射に起因して造形物に反り、変形などが生じないように、改善する余地がある。同様の改善点は、レーザビームをワークに照射して加工を行うレーザ加工装置においても存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2003/0206820号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理方法であって、液体を供給することと、前記所定面上の、前記目標部位を含む一部領域を非液浸状態とすることと、前記目標部位を含む一部領域を非液浸状態にした状態で、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記目標部位にビームを照射することと、を含む処理方法が、提供される。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理方法であって、液体を供給することと、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記供給された液体を介さずに、前記目標部位にビームを照射することと、を含む処理方法が、提供される。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理方法であって、液体を供給することと、前記ビームの光路が気体空間となるように、供給された前記液体の処理を行うことと、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記目標部位に、前記気体空間を介してビームを照射することと、を含む処理方法が、提供される。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理システムであって、液体を供給可能な液体供給装置と、前記所定面上の前記目標部位を含む一部領域に局所的に非液浸状態が生じるように、前記液体供給装置から供給される液体を処理する液体処理装置と、前記目標部位に向けてビームを射出するビーム照射部と、前記所定面を移動する移動装置と、を備え、前記目標部位を非液浸状態にした状態で、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記目標部位にビームを照射する処理システムが、提供される。
【0010】
本発明の第5の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理システムであって、液体を供給可能な液体供給装置と、前記目標部位に向けてビームを射出するビーム照射部と、前記所定面を移動する移動装置と、を備え、前記目標部位に前記処理が施されるように、供給された前記液体を介さずに、前記目標部位にビームを照射する処理システムが、提供される。
【0011】
本発明の第6の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理システムであって、液体を供給可能な液体供給装置と、前記目標部位に向けてビームを射出するビーム照射部と、前記ビームの光路が気体空間となるように、前記液体供給装置によって供給される液体を処理する液体処理装置と、を備え、前記目標部位に前記処理が施されるように、前記目標部位に、前記気体空間を介してビームを照射する処理システムが、提供される。
【0012】
本発明の第7の態様によれば、ビームの照射により、所定面上の目標部位に処理を施す処理システムであって、前記所定面を有する物体に液体を供給可能な液体供給装置と、前記目標部位に向けてビームを射出するビーム照射部と、前記所定面を移動する移動装置と、を備える処理システムが、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る造形装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】造形ヘッド部を、ワークが搭載されたステージとともに示す図である。
図3】光源系からの平行ビームがミラーアレイに照射され、複数のミラー素子それぞれからの反射ビームが集光光学系に対する状態を示す図である。
図4】造形ヘッド部の集光光学系及びその下方の部分を、-Y方向から見てかつ一部省略して示す図である。
図5図2の一部を拡大して示す図であって、集光光学系を保持する鏡筒及びカバー部材を、ステージ上のワークの目標部位近傍とともに示す図である。
図6】造形装置の制御系を中心的に構成する制御装置の入出力関係を示すブロック図である。
図7】ワーク上の平面でない凹凸部に目標部位が設定される場合について説明するための図である。
図8】ビーム照射部の光軸に沿ってビームを照射し、光軸に対して傾斜した経路に沿って造形材料を供給するタイプの造形ヘッド部で用いられる変形例に係るカバー部材を示す図である。
図9】第1の実施形態における造形ヘッド部で用いることができる、変形例に係るカバー部材を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る加工システムの全体構成を示すブロック図である。
図11】加工システムが備える加工ヘッド部の集光光学系及びその下方の部分を、ステージとともに示す図である。
図12】加工システムの制御系を中心的に構成する制御装置の入出力関係を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《第1の実施形態》
以下、第1の実施形態について、図1図6に基づいて説明する。図1には、第1の実施形態に係る造形システム100の全体構成が、ブロック図にて示されている。
【0015】
造形システム100は、DED方式のM3DPである。造形システム100は、ラピッドプロトタイピングにより、後述するステージ上で三次元造形物を形成するのにも用いることができるが、ワーク(例えば、既存の部品)に対して三次元造形による付加加工を行うのにも用いることもできる。本実施形態では、後者のワークに対する付加加工を行う場合を中心として説明を行う。
【0016】
造形システム100は、移動装置200、計測装置400及び造形ヘッド部500と、これら各部を含む造形システム100の全体を制御する制御装置600とを備えている。このうち、計測装置400と、造形ヘッド部500とは、所定方向に離れて配置されている。以下の説明では、便宜上、計測装置400と、造形ヘッド部500とは、後述するX軸方向(図2参照)に離れて配置されているものとする。
【0017】
図2には、造形ヘッド部500が、移動装置200の一部を構成するステージ12とともに示されている。図2では、ステージ12が備える後述するテーブル上にワークWが搭載されている。本明細書では、付加加工が施される前のワーク(例えば、既存の部品)、及び該ワークに対して三次元造形による付加加工が施されたワーク(付加加工中のワークを含む)の両者をワークWと表記する。なお、テーブル上に造形用の部材を固定し、その部材上に溶融池を形成しながら付加加工を行う場合には、その部材がワークWとなる。図2には、ワークWに対する付加加工中の状態が示されている。以下では、図2における紙面に直交する方向をX軸方向、紙面内の左右方向をY軸方向、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸方向とし、X軸、Y軸及びZ軸回りの回転(傾斜)方向を、それぞれθx、θy及びθz方向として説明を行う。
【0018】
移動装置200は、造形の対象面(ここではワークW上の目標部位TAが設定される面)TAS(図2及び図5参照)の位置及び姿勢を変更する。具体的には、対象面TASを有するワークWが搭載されるステージ12を例えば6自由度方向(X軸、Y軸、Z軸、θx、θy及びθzの各方向)に移動することで、対象面の6自由度方向の位置の変更を行う。本明細書においては、ステージ、ワーク又は対象面などについて、θx、θy及びθz方向の3自由度方向の位置を適宜「姿勢」と総称し、これに対応して残りの3自由度方向(X軸、Y軸及びZ軸方向)の位置を適宜「位置」と総称する。
【0019】
移動装置200は、6自由度方向に移動可能なステージ12と、ステージ12を動かすための駆動機構14とを備えている。ステージ12の駆動機構は、XY平面に平行な床面上を自在に移動可能な多関節ロボットを備えている。以下では、ステージ12の駆動機構14を、便宜上、ロボット14(図6参照)とも称する。ロボット14により、ステージ12は、X軸、Y軸及びZ軸の各方向に関してそれぞれ所定のストロークで移動可能であり、残りの3自由度方向には微小移動可能である。
【0020】
ステージ12の少なくとも6自由度方向の位置情報は、ロボット14が備える各種センサ(関節の回転角、あるいは腕の伸縮量などを検出する各種センサ(センサ群17と称する))の検出情報に基づいて求められる(図6参照)。なお、センサ群17は、ロボット14に設けられているが、図6では説明の便宜上、ロボット14とは別にセンサ群17が示されている。
【0021】
なお、ステージ12の駆動機構14は、ロボットに限らず、ステージ12がエンドエフェクタを構成するパラレルリンク機構と、該パラレルリンク機構をXY平面内で移動する平面モータ又はリニアモータとを備える機構などであっても良い。また、駆動機構14は、ステージ12を6自由度方向に移動できるものに限定されず、ステージ12を、少なくともX軸、Y軸及びZ軸の3自由度方向に動かすことができれば良い。
【0022】
ステージ12は、図2に示されるように、ワークWが搭載される平面視矩形のテーブル12aと、テーブル12aの上面に固定された平面視矩形の所定高さの枠部材12bと、を備えている。なお、ワークWは、メカニカルチャックあるいは真空チャックなどから成るチャック部材(不図示)を使って、テーブル上に固定される。
【0023】
枠部材12bは、テーブル12aの上面に対して隙間なく接合されており、枠部材12bとテーブル12aの上面とによって枠部材12bを周壁とする平面視矩形の槽13が形成されている。なお、テーブル12aと枠部材12bとが一つの部材であっても良い。また、槽13は、プール、あるいはリザーバーと呼んでも良い。槽13は、その内部に冷却水CWを貯めることができる。槽13の周壁を構成する枠部材12bの+Y側の部分には、枠部材12bをY軸方向に貫通する孔(不図示)が形成されており、該孔にコネクタ15を介して排水管16が接続されている。コネクタ15は、ステージ12に設けられた第1部分15aと、排水管16の一端に設けられた第2部分15bとを有し、第1部分15aに対して第2部分15bを装着可能である。本実施形態では、ステージ12が、所定の経路に沿って移動し、造形ヘッド部500の近傍の所定位置に到達すると、待機している第2部分15bが、ステージ12に設けられた第1部分15aに装着され、排水管16の一端が槽13(ステージ12)に接続されるようになっている。なお、コネクタ15を設けずに、ステージ12に排水管16が接続されても良い。また、排水管16をステージ12に接続したまま、ステージ12を移動できるようにしても良い。
【0024】
排水管16には、その内部の流路を流れる液体の流量を調整可能な第1の流量制御弁18A(図2では不図示、図6参照)が設けられている。この第1の流量制御弁18Aは、排水管16内部の流路を全閉にすることもできるため、ストップ弁としても機能する。第1の流量制御弁18Aは、制御装置600によって制御される。
【0025】
造形ヘッド部500の近傍には、所定高さの位置に、給水管19の一端側に設けられた供給口20aを有するアウトレット部20が配置されている。アウトレット部20は、図2中の矢印a、a’で示されるように、第1駆動部22A(図2では不図示、図6参照)によってZ軸に垂直な方向(本実施形態では、Y軸方向)に沿って往復移動可能である。なお、アウトレット部20は、移動可能でなくても良いし、Z軸に垂直な方向に加えて、あるいはZ軸に垂直な方向に替えて、他の方向(例えば、Z軸方向)に移動可能であっても良い。給水管19の他端には、内部に冷却水を収容した液体タンクを含む冷却水供給装置21(図2では不図示、図6参照)が接続されている。また、給水管19には、第1の流量制御弁18Aと同様の機能を有する第2の流量制御弁18B(図6参照)が設けられている。第2の流量制御弁18Bは、制御装置600によって制御される。
【0026】
また、造形ヘッド部500の近傍には、所定高さの位置に、槽13内の冷却水CWの水面(液面)のレベル(水位)を検出する空中型の超音波式水位センサ(以下、水位センサと略記する)26が設けられている。この水位センサ26は、簡単に説明すると、スピーカとマイクと温度計がセットになったもので、スピーカから放射した音が水面(液面)で反射しマイクに届くまでの時間から、水面(液面)までの距離を計算し水位(液面レベル)に換算する。温度計は音速が温度の影響を受けるのを補正(温度補償)するためのものである。なお、超音波式水位センサに限らず、槽13内の冷却水の水面(液面)のレベル(水位)を検出可能なセンサであれば、いかなるタイプのセンサを用いても良い。
【0027】
水位センサ26は、図2中の矢印b、b’で示されるように、第2駆動部22B(図2では不図示、図6参照)によってZ軸に垂直な方向(本実施形態では、Y軸方向)に沿って往復移動可能である。なお、水位センサ26は、移動可能でなくても良いし、Z軸に垂直な方向に加えて、あるいはZ軸に垂直な方向に替えて、Z軸方向に移動可能であっても良い。
【0028】
本実施形態では、造形時に、第1駆動部22A及び第2駆動部22Bが、必要に応じ、制御装置600によって制御され、これにより、ステージ12のY軸方向の位置の変化に連動して、アウトレット部20及び水位センサ26が、Y軸方向に移動する。
【0029】
また、本実施形態では、造形中、冷却水CWの水面(液面)が、ステージ12(テーブル12a)上に搭載されたワークWの対象面TASより所定距離高い位置に位置するように、制御装置600によって、水位センサ26の計測情報に基づいて、第1、第2の流量制御弁18A、18Bが制御される。これについては、さらに後述する。
【0030】
本実施形態に係る造形システム100では、ワークに対する付加加工時等において、ワークに対して所望の形状の造形物を形成する等のため、造形ヘッド部500に対し、より具体的には後述するビーム照射部からのビームに対してワーク(ステージ12)の位置及び姿勢が制御される。原理的には、この逆にビーム照射部からのビームの方が可動であっても良いし、ビームとワーク(ステージ)の両方が可動であっても良い。
【0031】
本実施形態では、移動装置200は、ロボット14のX軸方向及びY軸方向に関する位置情報を計測する位置計測系28(図6参照)を備えている。位置計測系28の計測情報は、制御装置600に送られる。
【0032】
本実施形態では、後述するように、計測装置400により、ステージ12上に搭載されたワークW上の対象面TAS(例えば上面)の少なくとも一部の三次元空間内の位置情報(本実施形態では形状情報)が計測され、その計測後にワークWに対する付加加工(造形)が行われる。したがって、制御装置600は、ワークW上の対象面の少なくとも一部の形状情報を計測したときに、その計測結果と、その計測時におけるセンサ群17(ロボット14が備える各種センサ)の検出情報及び位置計測系28の計測結果と、を対応づけることで、ステージ12に搭載されたワークW上の対象面の位置及び姿勢を、造形システム100の基準座標系(以下、ステージ座標系と呼ぶ)と関連付けることができる。これにより、それ以後は、センサ群17の検出情報及び位置計測系28の計測結果に基づくステージ12の位置及び姿勢のオープンループの制御により、ワークW上の対象面TASの目標部位に対する6自由度方向に関する位置制御が可能になっている。本実施形態では、センサ群17及び位置計測系28として、原点出しが不要なアブソリュート型のエンコーダが用いられているため、リセットが容易である。なお、ステージ12の6自由度方向の位置のオープンループの制御によるワークW上の対象面の目標部位に対する6自由度方向に関する位置制御を可能にするために用いられる、計測装置400で計測すべき前述の三次元空間内の位置情報は、形状に限らず、対象面の形状に応じた少なくとも3点の三次元位置情報であれば足りる。
【0033】
計測装置400は、ステージ12に搭載されたワークの位置及び姿勢をステージ座標系と関連付けるためのワークの三次元位置情報、一例として形状の計測を行う。計測装置400は、図6に示されるように、例えばレーザ非接触式の三次元計測機401を備えている。三次元計測機401は、例えば米国特許出願公開第2012/0105867号明細書に開示されている形状測定装置と同様に構成されている。
【0034】
本実施形態に係る三次元計測機401を用いる計測方法では、例えば光切断法を用いることで、被検物の表面に一本のライン光からなるライン状投影パターンを投影し、ライン状投影パターンを被検物表面の全域を走査させる毎に、被検物に投影されたライン状投影パターンを投影方向と異なる角度から撮像する。そして、撮像された被検物表面の撮像画像よりライン状投影パターンの長手方向の画素毎に三角測量の原理等を用いて被検物表面の基準平面からの高さを算出し、被検物表面の三次元形状を求める。ただし、ライン光の被検物に対するX、Y平面に平行な方向の走査は、米国特許出願公開第2012/0105867号明細書に記載されている装置では、センサ部の移動によって行われるのに対し、本実施形態では、ステージ12の移動によって行われる点が相違する。勿論、センサ部の移動によって、あるいはセンサ部とステージ12の両方の移動によって前述の走査が行われても良い。
【0035】
計測装置400は、上述の三次元計測機401の代わりに、あるいは上述の三次元計測機に加えて、アライメントマークを光学的に検出するマーク検出系56(図6参照)を備えていても良い。マーク検出系56は、例えばワークに形成されたアライメントマークを検出することができる。制御装置600は、マーク検出系56を用いて少なくとも3つのアライメントマークの中心位置(三次元座標)をそれぞれ正確に検出することで、ワーク(又はステージ12)の位置及び姿勢を算出する。かかるマーク検出系56は、例えばステレオカメラを含んで構成することができる。マーク検出系56により、ステージ12上に予め形成された最低3箇所のアライメントマークを光学的に検出することとしても良い。
【0036】
本実施形態では、制御装置600は、上述したようにして三次元計測機401からのライン光に対してワークWの表面(対象面)を走査し、その表面形状データを取得する。そして、制御装置600は、その表面形状データを用いて最小自乗的処理を行いワーク上の対象面の三次元的位置及び姿勢をステージ座標系に対して関連付けを行う。ここで、被検物(ワークW)に対する上述した計測中を含み、ステージ12の6自由度方向の位置は、制御装置600によってステージ座標系上で管理されているので、ワークの位置及び姿勢がステージ座標系に対して関連付けられた後は、三次元造形による付加加工時を含み、ワークWの6自由度方向の位置(すなわち、位置及び姿勢)の制御は全てステージ座標系に従ったステージ12のオープンループの制御により行うことができる。
【0037】
造形ヘッド部500は、図2に示されるように、光源系510及び集光光学系82を含み、集光光学系82(終端レンズ82a)を介して光軸AXに対してYZ面内で傾斜したビームLB、LBを射出するビーム照射部520と、粉状の造形材料PDを供給する材料供給部530と、集光光学系82を保持する鏡筒85の下端に接続されたカバー部材30と、カバー部材30の内部の第1空間30a(図5参照)内に後述するガス供給口を介して不活性ガス、例えば窒素(N)を供給するガス供給装置40(図6参照)と、を備えている。
【0038】
光源系510は、例えば複数のレーザユニットを含む光源ユニット60(図2では不図示、図6参照)と、ダブルフライアイ光学系及びコンデンサレンズ系等を備えた照度均一化光学系(不図示)とを備え、照度均一化光学系を用いて、複数のレーザユニットからそれぞれ射出されるビームを混合し、断面照度分布が均一化された平行ビームを生成する。
【0039】
なお、照度均一化光学系の構成は、特に問わない。例えば、ロッドインテグレータ、コリメーターレンズ系などを用いて照度均一化光学系を構成しても良い。
【0040】
光源系510の光源ユニット60(複数のレーザユニット)は、制御装置600(図6参照)に接続されており、制御装置600によって、複数のレーザユニットのオンオフが、個別に制御される。これにより、ビーム照射部520からワークW(上の対象面)に照射されるレーザビームの光量(レーザ出力)が調整可能である。
【0041】
なお、造形システム100が、光源、あるいは光源と照度均一化光学系を備えていなくても良い。例えば、所望の光量(エネルギー)と所望の照度均一性を有する平行ビームを、外部装置から造形システム100に供給しても良い。
【0042】
ビーム照射部520は、図2に示されるように、光源系510の他、光源系510からの平行ビームの光路上に順次配置されたビーム断面強度変換光学系78及び空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)の一種であるミラーアレイ80と、ミラーアレイ80からの光を集光する集光光学系82とを有する。ここで、空間光変調器とは、所定方向へ進行する光の振幅(強度)、位相あるいは偏光の状態を空間的に変調する素子の総称である。
【0043】
ビーム断面強度変換光学系78は、光源系510からの平行ビームの断面の強度分布を変換する。本実施形態では、ビーム断面強度変換光学系78は、光源系510からの平行ビームを、その断面の中心を含む領域の強度がほぼ零となるドーナツ状(輪帯状)の平行ビームに変換する。ビーム断面強度変換光学系78は、本実施形態では、例えば光源系510からの平行ビームの光路上に順次配置された凸型円錐反射鏡及び凹型円錐反射鏡によって構成されている。光源系510からの平行ビームは、凸型円錐反射鏡の反射面により放射状に反射され、この反射ビームが凹型円錐反射鏡の反射面で反射されることで、輪帯状の平行ビームに変換される。
【0044】
本実施形態では、ビーム断面強度変換光学系78を経由した平行ビームは、後述するようにミラーアレイ80及び集光光学系82を介してワークに照射される。ビーム断面強度変換光学系78を用いて光源系510からの平行ビームの断面強度分布を変換することによって、ミラーアレイ80から集光光学系82の瞳面(入射瞳)PPに入射するビームの強度分布を変更することが可能である。また、ビーム断面強度変換光学系78を用いて光源系510からの平行ビームの断面強度分布を変換することによって、実質的に集光光学系82から射出されるビームの集光光学系82の射出面における強度分布を変更することも可能である。
【0045】
なお、ビーム断面強度変換光学系78は、凸型円錐反射鏡と凹型円錐反射鏡との組み合わせに限らず、例えば米国特許出願公開第2008/0030852号明細書に開示される、回折光学素子、アフォーカルレンズ、及び円錐アキシコン系の組み合わせを用いて構成しても良い。ビーム断面強度変換光学系78は、ビームの断面強度分布を変換するものであれば良く、種々の構成が考えられる。ビーム断面強度変換光学系78の構成によっては、光源系510からの平行ビームを、その断面の中心(集光光学系82の光軸)を含む領域での強度をほぼ零でなく、その外側の領域での強度よりも小さくすることも可能である。
【0046】
ミラーアレイ80は、本実施形態では、XY平面及びXZ平面に対して45度(π/4)を成す面(以下、便宜上基準面と呼ぶ)を一面に有するベース部材80Aと、ベース部材80Aの基準面上に例えばP行Q列のマトリクス状に配置された例えばM(=P×Q)個のミラー素子81p,q(p=1~P、q=1~Q)と、各ミラー素子81p,qを個別に駆動するM個のアクチュエータ(不図示)を含む駆動部87(図2では不図示、図6参照)とを有している。ミラーアレイ80は、多数のミラー素子81p,qの基準面に対する傾きを調整することにより(例えば、すべてのミラー素子81p,qの反射面を基準面とほぼ平行にすることにより)、基準面と平行な大きな反射面を実質的に形成可能である。
【0047】
ミラーアレイ80の各ミラー素子81p,qの反射面は、例えば矩形である。ミラーアレイ80の各ミラー素子81p,qは、例えば各ミラー素子81p,qの反射面の一方の対角線に平行な回転軸回りに回動可能に構成され、その反射面の基準面に対する傾斜角度を所定角度範囲内の任意の角度に設定可能である。各ミラー素子の反射面の角度は、回転軸の回転角度を検出するセンサ、例えばロータリエンコーダ83p,q図2では不図示、図6参照)によって計測される。
【0048】
駆動部87は、例えばアクチュエータとして電磁石あるいはボイスコイルモータを含み、個々のミラー素子81p,qは、アクチュエータによって駆動されて非常に高応答で動作する。
【0049】
ミラーアレイ80を構成する複数のミラー素子のうち、光源系510からの輪帯状の平行ビームによって照明されたミラー素子81p,qのそれぞれは、その反射面の傾斜角度に応じた方向に反射ビーム(平行ビーム)を射出し、集光光学系82に入射させる(図3参照)。なお、本実施形態において、ミラーアレイ80に入射する平行ビームの断面形状(断面強度分布)を輪帯形状とは異ならせても良い。例えば、集光光学系82の瞳面PPにおいて、光軸AXの周囲の輪帯状の領域の一部(例えば、光軸AXに対して一側の第1部分と他側の第2部分)だけにビームが照射されるようにしても良い。また、ビーム断面強度変換光学系78を設けなくても良い。
【0050】
集光光学系82は、開口数N.A.が例えば0.5以上、好ましくは0.6以上の高N.A.で、低収差の光学系である。集光光学系82は、図2に示されるように、円筒状の鏡筒85によって保持された終端レンズ82aを含む1又は複数枚の大口径のレンズ(図2等では、終端レンズ82aを代表的に図示)によって構成される。本実施形態では、終端レンズ82aとして、光軸AXを含む中心部に光軸AX方向に貫通する中空部(貫通孔)THを有するレンズ(便宜上、中抜けレンズと呼ぶ)が用いられている。集光光学系82が複数枚のレンズを有する場合、終端レンズ82a以外のレンズは、中抜けレンズであっても良いし、中抜けレンズでなくても良い。集光光学系82は、大口径、低収差かつ高N.A.であるため、ミラーアレイ80からの複数の平行ビームを後側焦点面上に集光することができる。ビーム照射部520は、集光光学系82(終端レンズ82a)から射出されるビームを、例えば、スポット状(又はスリット状)に集光することができる。また、集光光学系82は、1又は複数枚の大口径のレンズによって構成されるので、入射光の面積を大きくすることができ、これにより、開口数N.A.が小さい集光光学系を用いる場合に比べてより多量の光エネルギを取り込むことができる。したがって、本実施形態に係る集光光学系82によって集光されたビームは、極めてシャープで高エネルギ密度を有することとなり、これにより、付加加工の加工精度を高めることが可能になる。
【0051】
本実施形態では、後述するように、ステージ12をXY平面に平行な走査方向(図2では、一例としてY軸方向)に移動することにより、ビームと造形の対象面TASを有するワークWとを走査方向(スキャン方向)に相対走査しながら造形(加工処理)を行う場合を説明する。なお、造形の際に、ステージ12のY軸方向への移動中に、X軸方向、Z軸方向、θx方向、θy方向及びθz方向の少なくとも1つの方向にステージ12を移動しても良いことは言うまでもない。また、本実施形態では、後述するように、材料供給部530によって供給された粉状の造形材料(金属材料)をビーム(レーザビーム)のエネルギにより溶融するようになっている。したがって、前述したように、集光光学系82が取り込むエネルギの総量が大きくなれば、集光光学系82から射出されるビームのエネルギが大きくなり、単位時間に溶解できる金属の量が増える。その分、造形材料の供給量とステージ12の速度とを上げれば、造形加工のスループットが向上する。
【0052】
本実施形態の造形システム100では、造形の対象面TASが所定面(以下、造形面MPと呼ぶ)に位置合わせされる(例えば図2参照)。造形システム100では、例えばスポット状のビームの照射領域(ビームスポット)を、造形面MP上に形成し、そのビームスポットを形成するビーム(スポットビーム)に対してワークW(対象面TAS)を相対走査しながら造形(加工処理)を行うことができる。
【0053】
造形システム100では、ワークに対する付加加工のための造形に際し、制御装置600が、ワークWの対象面TASの6自由度方向の位置制御を、前述したオープンループの制御により行っている。この制御により、対象面TASは、光軸AXに垂直になるように制御される。制御装置600は、各層の造形が終了する毎に、ステージ12を、所定距離(各層の厚さに相当)ずつ-Z方向に下降させるが、これと並行して、冷却水CWの液面が対象面TASより所定距離高い(僅かに高い)位置に維持されるように、水位センサ26の計測情報に基づき、第1及び第2の流量制御弁18A、18Bを制御して、槽13内へのアウトレット部20からの冷却水CWの供給量及び槽13内部からの排水管を介した冷却水CWの排水量を制御する。これをさらに詳述すると、制御装置600は、造形面MPより所定距離だけ高い位置に冷却水の液面を位置合わせすべき目標面TS(図2参照)を予め設定しており、水位センサ26の計測情報に基づいて、実際の液面と目標面TSとの差を求め、その差が零となるように、第2の流量制御弁18B及び第1の流量制御弁18Aの開度を制御している。これにより、ステージ12上のワークの対象面TASのZ軸方向の位置の変化及び造形の進捗に連動して、造形中、冷却水CWの液面が、造形面MPに位置合わせされる対象面TASより所定距離高くなるように調整(設定)される。
【0054】
なお、本実施形態において、上述の造形面MPは、集光光学系82の後側焦点面である(例えば図2参照)が、造形面は、後側焦点面の近傍の面でも良い。また、本実施形態において、造形面MPは、集光光学系82の射出側の光軸AXに垂直であるが、垂直でなくても良い。
【0055】
造形面MP上におけるビームの強度分布を設定する、あるいは変更する方法(例えば、上述したようなビームスポット又はスリット状の照明領域などを形成する方法)としては、例えば集光光学系82に入射する複数の平行ビームの入射角度分布を制御する手法を採用することができる。
【0056】
なお、本実施形態の集光光学系82は、その瞳面(入射瞳)PPと前側焦点面とが一致する構成となっているため、ミラーアレイ80を用いた複数の平行ビームLBの入射角度の変更により、その複数の平行ビームLBの集光位置を正確に、簡便に制御することができるが、集光光学系82の瞳面(入射瞳)と前側焦点面とが一致する構成でなくても良い。
【0057】
本実施形態では、ミラーアレイ80を採用し、制御装置600が、各ミラー素子81p,qを非常に高応答で動作させることで、集光光学系82の瞳面PPに入射する複数の平行ビームLBの入射角度をそれぞれ制御する。これにより、造形面MP上におけるビームの強度分布を設定又は変更することができる。この場合、制御装置600は、ビームと対象面TAS(造形の目標部位TAが設定される面であり、本実施形態ではワークW上の面である)との相対移動中に造形面MP上におけるビームの強度分布、例えばビームの照射領域の形状、大きさ、個数の少なくとも1つを変化させることが可能である。この場合において、制御装置600は、造形面MP上におけるビームの強度分布を連続的、あるいは断続的に変更することができる。制御装置600は、ビームと対象面TASとの相対位置に応じて造形面MP上におけるビームの強度分布を変化させることもできる。制御装置600は、要求される造形精度とスループットとに応じて、造形面MPにおけるビームの強度分布を変化させることもできる。
【0058】
また、本実施形態では、制御装置600が、前述したロータリエンコーダ83p,qを用いて、各ミラー素子の状態(ここでは反射面の傾斜角度)を検出し、これにより各ミラー素子の状態を、リアルタイムでモニタしているので、ミラーアレイ80の各ミラー素子の反射面の傾斜角度を正確に制御できる。
【0059】
なお、造形面に形成される照射領域の形状、及び大きさを可変にしないのであれば、ミラーアレイ80に代えて、所望の形状のソリッドなミラーを用いて、集光光学系82の瞳面に入射する1つの平行ビームの入射角度を制御して、照射領域の位置を変更することもできる。
【0060】
図4には、造形ヘッド部500の集光光学系82及びその下方の部分が-Y方向から見てかつ一部省略して示されている。また、図5には、図2における鏡筒85及びその下方の部分が、ワークW上の目標部位TA近傍部分とともに拡大して示されている。材料供給部530は、図4に示されるように、集光光学系82の終端レンズ82aの中空部TH内に光軸AXに沿って配置されたZ軸方向に延びる供給管84と、供給管84の一端(上端)に配管90aを介して接続された材料供給装置86と、を有している。供給管84の他端(下端)には、材料供給口84aが形成され、材料供給口84aは、カバー部材30内部の第1空間30a内に配置されている。
【0061】
供給管84は、図4に示されるように、終端レンズ82aの中空部TH内に配置され、供給管84の外周面と終端レンズ82aの中空部TH内面との間の隙間が、シール部材89によってシールされている。このため、図5に示されるように、終端レンズ82a下方のカバー部材30内部の第1空間30aは、終端レンズ82a上方の鏡筒85内部の空間(第2空間)85aとは、分離されており、第1空間30aから第2空間85aへの気体の流入が阻止されている。なお、シール部材89を設けずに、終端レンズ82aの中空部TH内を気体が通過可能な構成にしても良い。この場合、終端レンズ82aの下側空間(第1空間30a)の圧力よりも、終端レンズ82aの上側空間(鏡筒85内部の第2空間85a)の圧力を高くして、終端レンズ82aの中空部THを、射出面側から入射面側に向かって気体の流れが生じないようにしても良い。あるいは、第2空間85aから第1空間30aに向かって常時気体(不活性ガスなど)を噴き出していても良い。
【0062】
カバー部材30は、図5に拡大して示されるように、中空の円錐状の部材(外面及び内面に円錐面を有するほぼ均一な厚さの板部材)から成り、その底面(図5における上側の面)に平面視円環状の取付部31が設けられている。取付部31は、内径がカバー部材30の底面より小さく(終端レンズ82aの外径より僅かに大きく)、外径がカバー部材30の底面より僅かに大きい円環状の板部材から成る。カバー部材30は、取付部31を介して鏡筒85の下端面に固定されている。すなわち、カバー部材30は、鏡筒85に吊り下げ支持されている。カバー部材30の先端部(図5における下端部)には、その先端に、対象面TASに照射されるビーム(LB、LB)の出口30bが形成されている。なお、カバー部材30の振動の鏡筒85への伝達を抑えるために、鏡筒85とカバー部材30との間に防振部材(ゴムなど)を配置しても良い。また、カバー部材30を、鏡筒85とは別の支持部材で支持しても良い。
【0063】
図4に戻り、材料供給装置86は、内部に、造形材料PDが収容されたカートリッジを有し、カートリッジ内の造形材料PDを、配管90a及び供給管84を介して、材料供給口84aから出口30bに向かって、例えば自由落下させたり、あるいは所定の圧力で押し出すことで落下させたりして、光軸AXに沿って対象面上に供給する。このように造形材料PDを落下させる場合、通常、造形材料は、下に行くほど(カバー部材30の先端に近づくほど)拡散し、供給管84の下端から対象面TASまでの距離が所定距離以上あると、出口30bより広い面積の領域にまで拡散する。これでは、造形材料PDをビームLB、LBで溶融させても、対象面上で微細な造形は困難となる。
【0064】
そこで、本実施形態では、カバー部材30の内面30cの円錐面形状を利用し、その円錐面状の内面に沿って図5中に符号SFで示される螺旋状の旋回流を生じさせるように、不活性ガスの一種である窒素をカバー部材30の内部空間(第1空間)30aに供給する前述のガス供給装置40(図6参照)が設けられている。なお、ガス供給装置40は、窒素に代えて、不活性ガスの一種である希ガス(例えばヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)など)、窒素と少なくとも1種類の希ガスとの混合ガス、あるいは複数種類の希ガスの混合ガスを第1空間30a内に供給しても良い。
【0065】
カバー部材30の上端部近傍には、図5に示されるガス供給管42を接続するための開口30dが形成されている。開口30dには、ガス供給管42の一端が接続されている。これをさらに詳述すると、ガス供給管42の一端は、カバー部材30の壁に対して平面視(上方から見て)鋭角で交差するように、例えばカバー部材30の内面30cの接線方向にカバー部材30に形成された開口30dに外側から挿入され、ガス供給管42の先端のガス供給口42aがカバー部材30内部の第1空間30a内に露出している。この場合、ガス供給口42aは、カバー部材30の高さ方向の中央より上部に位置している。また、ガス供給口42aは、材料供給口84aよりも高い位置に位置している。
【0066】
また、ガス供給管42の一端部は、カバー部材30の開口30dに挿入された状態で一端側が他端側に比べて低くなるようにXY平面に対して僅かに傾斜している。すなわち、上述の開口30dは、平面視でカバー部材30の内面30cに対して鋭角で交差し、かつXY平面に対して僅かに傾斜する向きで、カバー部材30に形成されている。
【0067】
ガス供給管42の他端は、ガス供給装置40(図6参照)に接続されている。このため、ガス供給装置40の作動状態では、ガス供給管42のガス供給口42aを介して、カバー部材30の円錐状の内面30cに実質的に沿って、例えばカバー部材30の内面30cの接線方向に実質的に沿って、窒素(不活性ガス)が第1空間30a内に送り込まれ、その送り込まれた窒素は、図5に符号SFで示されるようなカバー部材30の内面30cに沿った光軸AXの周りの螺旋状の旋回流(循環による旋回流)となってカバー部材30の出口30bに向かって流れ、出口30bから第1空間30aの外部に流出する。この場合の旋回流SFは、流速が中心に近付くほど速くなるので、(粘性影響が強くなる中心の極近傍を除いて)ベルヌーイの定理により中心に近付くほど静圧は低くなる。また、カバー部材30の内面30cの直径は、下に行くほど(カバー部材30の出口30bに近づくほど)小さい。従って、カバー部材30は、流体を加速させる収束ノズル(コンバージェント・ノズル)として機能し、狭い部分(カバー部材30の先端部)に近づく程、カバー部材30の内部を流れるガスの流速は速く、圧力は低くなる。従って、旋回流SFにおける静圧は、カバー部材30の出口30bの位置の中心部で最も低くなる。このため、供給管84から真下に落下する粉状の造形材料PDは、下に行くほど(カバー部材30の出口30bに近づくほど)、窒素(不活性ガス)の旋回流によってカバー部材30の内面30cの形状に対応して細く絞られる。したがって、ガス供給装置40の作動状態では、供給管84から供給される粉状の造形材料PDをほぼ一点(ここでは、光軸AX上の点)に収束させることができ、造形材料PDをビームLB、LBで溶かすことによって、優れた造形精度、高分解能を確保した3次元造形物の作製が可能となる。本実施形態に係るガス供給装置40は、第1空間30a内に送り込む不活性ガスの温度、流速等を調整可能である。なお、カバー部材30に設けられた開口30dをガス供給口としても良い。この場合、ガス供給管42の先端は、第1空間30aに露出しないようにカバー部材30の開口30dに接続すれば良い。
【0068】
また、ガス供給口42a(開口30d)を、カバー部材30の高さ方向の中央より下方に配置しても良い。また、ガス供給口42a(開口30d)を、材料供給口84aよりも下方に配置しても良い。
【0069】
ところで、前述の槽13内の冷却水量の調整の説明から明らかなように、造形時には、ワークWの対象面TASより高い位置に冷却水CWの液面(水面)が設定される。しかるに、目標部位TA部分に冷却水があると、その冷却水CWに悪影響を受けて所望の造形精度を確保できないおそれがある。そこで、造形システム100では、図2及び図5に示されるように、上述の旋回流SFとなった後、カバー部材30先端の出口30bから噴出される不活性ガスを目標部位TAに向けて供給することとしている。この場合において、カバー部材30先端の出口30bから噴出され、目標部位TAに供給される不活性ガスの流速を高速にすると、その不活性ガスの流れにより、目標部位TAを含む対象面TAS上の一部領域上に存在する冷却水CWを吹き飛ばして除去することができる。これにより、目標部位TAを含む一部領域が局所的に非液浸状態(ドライ状態)に設定され、その局所的非液浸状態、すなわち対象面TAS上に、供給された冷却水CWで覆われた領域と供給された冷却水CWで覆われていない領域とが存在する状態で、目標部位への造形材料PDの供給とビームの照射とが行われ、目標部位TAに対する造形が行われる。したがって、冷却水の影響を受けることなく、優れた造形精度、高分解能を確保した3次元造形物の作製が可能となる。
【0070】
なお、上述の説明から明らかなように、本実施形態では、出口30bを介して射出されたビームLB、LBによって、造形面MPにおけるビームの照射領域が形成されるので、造形面に形成される照射領域の形状、大きさ、あるいは位置の変更ができる範囲は、出口30bの形状及び大きさで制限される。
【0071】
また、本実施形態では、図5から明らかなように、ガス供給口42aが、終端レンズ82aの下面とほぼおなじ高さの位置に設けられているので、高速の不活性ガス流によって終端レンズ82aの下面がガスパージされ、終端レンズ82aを汚染(材料供給口84aからの造形材料の付着を含む)から守ることが可能になる。加えて、終端レンズ82aは、カバー部材30によって物理的に保護されているので、カバー部材30外部雰囲気中の汚染物質による汚染から守られている。
【0072】
説明が前後したが、ここで、材料供給装置86についてさらに説明する。材料供給装置86は、例えば2つの粉末カートリッジを有し、2つの粉末カートリッジのそれぞれには、第1の造形材料(例えばチタン)、第2の造形材料(例えばステンレス)の粉末が収容されている。なお、本実施形態では、材料供給装置86は、2種類の造形材料を供給するために2つの粉末カートリッジを備えているが、材料供給装置86が備える粉末カートリッジは1つでも良い。
【0073】
本実施形態では、材料供給装置86は、制御装置600に接続されており(図6参照)、造形時に、制御装置600からの指示に応じ、材料供給装置86(内部のコントロールユニット)によって、2つの粉末カートリッジの一方が選択され、その選択された粉末カートリッジからの造形材料が、配管90aを介して供給管84に供給される。なお、材料供給装置86の構成を変更することで、必要な場合に一方の粉末カートリッジからの第1の造形材料と他方の粉末カートリッジからの第2の造形材料との混合物を、配管90aを介して供給管84に供給できる構成としても良い。
【0074】
制御装置600は、材料供給装置86によって選択された粉末カートリッジから供給管84に供給される造形材料の単位時間あたりの供給量を調整可能である。供給管84に供給される造形材料の単位時間あたりの供給量の調整は、粉末カートリッジからの粉末の取得に際し、粉末カートリッジの外部を内部に対して負圧にするが、その負圧のレベルを調整すること、あるいは材料供給装置86から配管90aに供給される粉末の量を調整するバルブを設け、そのバルブの開度を調整すること、等により行うことができる。
【0075】
本実施形態では、輪帯状の平行ビームがミラーアレイ80に照射されるので、ミラーアレイ80からの反射ビームは、集光光学系82の周縁近傍の部分領域(N.A.が大きな部分領域)に入射し、集光光学系82の射出端、すなわちビーム照射部520の射出端に位置する終端レンズ82aの光軸AXから離れた周縁部の領域を介して集光光学系82の造形面MP(本実施形態では集光光学系82の後側焦点面に一致)に集光される(図2参照)。すなわち、同一の集光光学系82の周縁近傍の部分を通る光のみによって、例えばビームスポットが形成される。このため、別々の光学系を介した光を同一領域に集光してビームスポット(レーザスポット)を形成する場合に比べて、高品質なビームスポットの形成が可能である。また、本実施形態では、集光光学系82の終端レンズ82aの中空部TH内に配置された供給管84及び供給管84の上端に一端が接続された配管90aへのビームの照射を制限することができる。このため、本実施形態では、ミラーアレイ80からの反射ビームを全てスポットの形成に利用することが可能になるとともに、集光光学系82の入射面側の供給管84に対応する部分にビームが供給管84に照射されるのを制限するための遮光部材等を設ける必要がなくなる。かかる理由により、輪帯状の平行ビームによりミラーアレイ80を照明することとしている。
【0076】
なお、集光光学系82から供給管84に入射するビームを制限するために、例えば図4に二点鎖線で示される制限部材92を集光光学系82の入射面側(例えば瞳面PP)に設けても良い。制限部材92によって、集光光学系82からのビームの供給管84への入射を制限する。制限部材92としては、遮光部材を用いても良いが、減光フィルタ等を用いても良い。かかる場合において、集光光学系82に入射する平行ビームは、断面円形の平行ビームであっても良いし、輪帯状の平行ビームであっても良い。後者では、ビームが制限部材92に照射されることがないので、ミラーアレイ80からの反射ビームを全てスポットの形成に利用することが可能になる。
【0077】
本実施形態では、ワークに対する付加加工時等には、図2及び図5に示されるように、集光光学系82(終端レンズ82a)の周縁部近傍を通過し供給管84の+Y側及び-Y側(ワークW(ステージ12)のスキャン方向の前方及び後方)の光路を通るビーム(図2図5に便宜上ビームLB1、LB1として示されている)が供給管84の真下に集光されて、ビームスポットが造形面上に形成され、そのビームスポットを形成するスポットビームに対して、材料供給口84aから造形材料PDが光軸AXに沿ってカバー部材30の出口30bを通って供給される。これにより、供給管84の真下に溶融池WPが形成される。そして、かかる溶融池WPの形成がステージ12をスキャン方向(図5では+Y方向)に走査しながら行われる。これにより、所定幅(ビームスポットの幅)で所定長さのビード(溶融凝固した金属)BE(図5参照)を形成することが可能である。なお、図5に示されるビームLB、LBは、ミラーアレイ80の異なるミラー素子81p.qでそれぞれ反射され集光光学系82の瞳面PPに異なる入射角度で入射した別々の平行ビームであっても良いし、同一の平行ビーム、例えば断面輪帯状の平行ビームの一部であっても良い。
【0078】
複数の平行ビームを集光光学系82の瞳面PPに入射させる場合において、例えば集光光学系82に入射する平行ビームLBの数を減らさずに、ビームのX軸方向の幅、又はY軸方向の幅、又はX軸方向の幅及びY軸方向の幅が徐々に狭まるように、集光光学系82に入射する複数の平行ビームLBの入射角度の調整を行った場合、ビームの集光密度(エネルギー密度)が高くなる。したがって、それに応じて、単位時間当たりの粉末(造形材料)の供給量を増やし、かつ対象面TASのスキャン速度を上げることで、形成されるビードBEの層の厚さを一定に保つとともに、スループットを高いレベルで保つことが可能になる。ただし、かかる調整方法に限らず、他の調整方法を用いて、形成されるビードBEの層の厚さを一定に保つこともできる。例えば、ビームのX軸方向の幅、又はY軸方向の幅、又はX軸方向の幅及びY軸方向の幅に応じて複数のレーザユニットのうちの少なくとも1つのレーザ出力(レーザビームのエネルギ量)を調節しても良いし、ミラーアレイ80から集光光学系82に入射する平行ビームLBの数を変更しても良い。この場合、上述した調整方法に比べて、スループットは幾分低下するが、調整が簡便である。
【0079】
図6には、造形システム100の制御系を中心的に構成する制御装置600の入出力関係を示すブロック図が示されている。制御装置600は、ワークステーション(又はマイクロコンピュータ)等を含み、造形システム100の構成各部を統括制御する。
【0080】
上述のようにして構成された本実施形態に係る造形システム100の基本的機能は、既存の部品(ワーク)に対し、三次元造形により所望の形状を付け加えることである。ワークは造形システム100に投入され、所望の形状を正確に付け加えられた後に造形システム100から搬出される。このとき、その付け加えられた形状の実際の形状データは、制御装置600から外部の装置、例えば上位装置に送られる。造形システム100で行われる一連の動作は、大略次の通りである。
【0081】
まず、ステージ12が、所定のローディング/アンローディングポジションにあるときに、ワーク搬送系300(図6参照)によってワークがステージ12に搭載される。このとき、ステージ12は、基準状態(Z、θx、θy、θz)=(Z、0、0、0)にあり、そのX、Y位置は、位置計測系28によって計測されているロボット14のX、Y位置と一致している。すなわち、ステージ12は、ロボット14上で定められた基準点(x=0,y=0)にある。
【0082】
次いで、制御装置600により、ワークWを搭載したステージ12が計測装置400の下方に移動される。ステージ12の移動は、制御装置600が位置計測系28の計測情報に基づいて、ロボット14を、床面上でX軸方向(及びY軸方向)に駆動することで行われる。この移動中も、ステージ12は、前述した基準状態が維持されている。
【0083】
次に制御装置600により、計測装置400を用いて、基準状態にあるステージ12上のワークWの対象面TASの少なくとも一部の三次元空間内の位置情報(本実施形態では形状情報)の計測が行われる。これ以後は、この計測結果に基づき、ワークW上の対象面TASの6自由度方向の位置は、ステージ座標系(基準座標系)上で、オープンループの制御により管理することが可能になる。
【0084】
次に制御装置600により、対象面TASの少なくとも一部の形状情報の計測が終了したワークWを搭載したステージ12が、造形ヘッド部500(カバー部材30)の下方に向かって移動される。このとき、第1及び第2の流量制御弁18A、18Bは、全閉状態になっている。
【0085】
ステージ12が、所定の経路に沿って移動し、造形ヘッド部500の下方の所定位置に到達すると、前述したように、排水管16の一端に接続されたコネクタ15の第2部分15bが、ステージ12に設けられた第1部分15aに装着され、排水管16の一端が槽13(ステージ12)に接続される。
【0086】
次に、制御装置600により、液面(水面)が目標面TSに一致するまで槽13内に冷却水CWが供給される。この冷却水CWの供給は、次の手順で行われる。すなわち、制御装置600は、第2の流量制御弁18Bを所定開度で開き、水位センサ26の計測情報をモニタしつつ、槽13内へのアウトレット部20からの冷却水CWの供給を開始する。そして、冷却水CWの液面が目標面TSに一致したことを水位センサ26の計測情報に基づいて確認すると、制御装置600は、第2の流量制御弁18Bを全閉状態にして槽13内へのアウトレット部20からの冷却水CWの供給を停止する。なお、冷却水CWの影響を受けずに付加加工が可能であれば、冷却水CWの供給を停止しなくても良い。すなわち、付加加工と並行して、アウトレット部20からの冷却水の供給を行っても良い。
【0087】
次に、ステージ12上のワークに3Dデータに対応する形状を付加する三次元造形による付加加工が行われる。この付加加工は、例えば、次のようにして行われる。
【0088】
すなわち、制御装置600は、付加加工により付加すべき形状(付加加工後に作られる物体の形状から付加加工の対象となるワークの形状を取り去った形状)の三次元CADデータを三次元造形用のデータとして、例えばSTL(Stereo Lithography)データに変換し、更に、この三次元STLデータから、Z軸方向にスライスした各レイヤ(層)のデータを生成する。そして、制御装置600は、各レイヤのデータに基づき、ワークに対する各層の付加加工を行うべく、移動装置200及び造形ヘッド部500を制御して、前述した局所非液浸状態での、ビームスポットの形成、及びスポットビームに対する供給管84からの造形材料PDの供給による溶融池WPの形成を、ステージ12をスキャン方向に走査しながら行うことを、第1層から第N層まで繰り返し行う。ここで、第n層(n=1~N-1)の造形が終了する毎に、制御装置600の指示に基づき、ロボット14によってステージ12が、所定距離下降駆動されるが、このステージ12の下降に連動して、制御装置600により水位センサ26の計測情報に基づいて、第2の流量制御弁18B及び第1の流量制御弁18Aの開度制御(開閉を含む)が行われ、槽13内の冷却水CWの量が、液面(水面)が目標面TS(造形面MPより所定距離高い面)に一致するように、調整される。すなわち、このようにしてステージ12の下降(及び造形の進行)に応じて、冷却水CWの液面の制御が行われる。なお、付加加工時におけるワーク上の対象面の位置及び姿勢の制御は、先に計測した対象面の形状情報を考慮して行われる。
【0089】
なお、冷却水CWの影響を受けずに付加加工が可能であれば、冷却水CWの供給を停止しなくても良い。すなわち、付加加工と並行して、アウトレット部20からの冷却水の供給を行っても良い。
【0090】
ここで、上の説明では、ワークWの付加加工の目標部位TAが設定される対象面(例えば上面)TASが、ステージ12の傾きを調整することで、集光光学系82の光軸に垂直な面(XY平面に平行な面)に設定される平面であることを前提として、ステージ12のスキャン動作を伴う造形が行われるものとしている。
【0091】
第N層の造形が終了すると、制御装置600により、第1の流量制御弁18Aが全開され、槽13内の冷却水CWが排水管16を介して外部に排水される。排水完了後、制御装置600により、ステージ12が、所定位置に固定された排水管16から離れる方向に駆動されることで、コネクタ15の第1部材15aと第2部材15bの係合が解除され、ステージ12から排水管16が取り外される。そして、制御装置600により、付加加工済みのワークWを搭載したステージ12が前述のローディング/アンローディングポジションに移動される。
【0092】
次いで制御装置600により、ワーク搬送系300に対し、ワークのアンロードが指示される。この指示に応じ、ワーク搬送系300によって、付加加工済みのワークWがステージ12(テーブル12a)上から取り出され、造形システム100の外部に搬送される。そして、制御装置600により、ロボット14に指示が与えられ、ステージ12が基準状態に設定される。これにより、移動装置200は、ローディング/アンローディングポジションにて、次のワークの搬入に備えて待機することとなる。
【0093】
なお、これまでは、既存のワークに形状を付け加える例について説明したが、本実施形態に係る造形システム100の使用用途がこれに限られるものではなく、通常の3Dプリンタなどと同様に、ステージ12上で何もないところから三次元形状を造形によって生成することも可能である。この場合は、「無」というワークに、付加加工を施すことに他ならない。かかるステージ12上での三次元造形物の造形の際には、制御装置600は、計測装置400が備えるマーク検出系56(図6参照)により、ステージ12上に予め形成された最低3か所のアライメントマークを光学的に検出することで、ステージ12上に設定される造形の対象面の6自由度方向の位置情報を求め、この結果に基づいてビーム(の照射領域)に対するステージ12(テーブル12a)上の対象面の位置及び姿勢を制御しつつ、前述した局所非液浸状態でのビームLB、LBに対するステージ12の走査駆動による各層の三次元造形を、上記実施形態と同様に行うこととすることができる。
【0094】
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る造形システム100によると、制御装置600により、ビームと対象面TASとを相対移動させつつビームで照射される造形材料DPを供給することで、槽13内に配置されたワークWの対象面TAS上の非液浸状態とされた一部領域内の目標部位TAに造形が施されるように、多層の積層断面のデータに基づいて、移動装置200、ビーム照射部520及び材料供給部530が制御される。すなわちこのようにして、局所非液浸方式でワークWに対する三次元造形による付加加工又は三次元造形によるワークの作製が行われる。
【0095】
また、本実施形態に係る造形システム100によると、制御装置600により、各層の造形が終了する度に対象面TAS(ステージ12)が1層分下降駆動されるが、その下降駆動の度にステージ12の下降に連動して槽13内の冷却水CWの液面がその造形が終了した最上層の上面より僅かに高くなるよう、槽13内の冷却水CWの量が調整される。すなわち、このようにしてステージ12の下降駆動、及び造形の進行に連動して槽13内の冷却水CWの液面の調整が行われ、目標部位を含む一部の局所非液浸領域以外の領域ではワークWの全体が冷却水で常に覆われる。したがって、造形加工中のワークの温度不均一に起因するワークの反り等の発生を効果的に抑制することが可能になる。特に、厚さの薄いワークの場合に、その有用性が高い。
【0096】
また、造形システム100では、材料供給部530によって供給された粉状の造形材料(金属材料)PDをレーザビームのエネルギにより溶融する。造形システム100では、造形に際し、ガス供給装置40が、制御装置600によって作動され、ガス供給管42のガス供給口42aを介して、カバー部材30の内面30cに沿った螺旋状の旋回流(図5の符号SF参照)が生じるようにカバー部材30内に窒素(不活性ガス)が送り込まれる。この窒素(不活性ガス)の旋回流によって、供給管84から真下に向けて落下により供給される粉状の造形材料PDは、下に行くほど(カバー部材30の先端に近づくほど)、カバー部材30の内面30c(内壁面)の形状に対応して細く絞られる。これにより、供給管84から供給される粉状の造形材料PDをほぼ一点(ここでは、光軸AX上の点)に収束させることができ、造形材料PDをビームLB、LBで溶かすことによって、優れた造形精度、高分解能を確保した3次元造形物の作製が可能となる。
【0097】
また、造形システム100では、上述の局所非液浸状態での造形が次のようにして実現されている。すなわち、造形システム100では、上述の旋回流SFとなった後、カバー部材30先端の出口30bから噴出される不活性ガスを目標部位TAに向けて供給する。この目標部位TAに供給される不活性ガスの流速を高速にすることで、その不活性ガスの流れにより、目標部位TAを含む対象面TA上の一部領域上に存在する冷却水CWを吹き飛ばすことができる。これにより、目標部位TAを含む一部領域が局所的に非液浸状態(ドライ状態)に設定され、その非液浸状態で目標部位TAに対する造形材料PDを用いた造形が行われる。したがって、冷却水の影響を受けることなく、優れた造形精度、高分解能を確保した3次元造形物の造形又は作製が可能となる。
【0098】
また、本実施形態に係る造形ヘッド部500では、高N.A.の集光光学系82が、1又は複数枚の大口径のレンズによって構成されるので、入射光の面積を大きくすることができ、これにより、開口数N.A.が小さい集光光学系を用いる場合に比べてより多量の光エネルギを取り込むことができる。したがって、本実施形態に係る集光光学系82によって集光されたビームは、極めてシャープで高エネルギ密度を有することとなり、これにより、造形による加工精度を高めることができる。また、集光光学系82が取り込むエネルギの総量が大きくなれば、集光光学系82から射出されるビームのエネルギが大きくなり、単位時間に溶解できる金属の量が増える。その分、造形材料の供給量とステージ12の速度とを上げれば、造形ヘッド部500による造形加工のスループットが向上する。
【0099】
また、本実施形態に係る造形ヘッド部500では、例えば集光光学系82に入射する複数の平行ビームの入射角度分布を制御することで、造形面MP上におけるビームの強度分布を設定又は変更することができる。
【0100】
したがって、造形システム100では、例えばラピッドプロトタイピングにより造形物をワークWの対象面TAS上に高い加工精度で形成することが可能になる。
【0101】
なお、上記実施形態では、対象面TAS上に冷却水CW(液体)を供給するため、ステージ12に槽13を設け、槽13内に液体を供給する場合について説明したが、対象面上への液体の供給方式がこれに限定されるものではない。
【0102】
また、上記実施形態に係る造形システム100では、造形時に円錐状のカバー部材30に接続されたガス供給管42のガス供給口42aを介して、カバー部材30の内面30cに沿った螺旋状の旋回流SFが生じるように不活性ガス(気体)をカバー部材30の内部の第1空間30aに供給し、不活性ガスが旋回流となった後、第1空間30aの外部に流出させる場合について説明した。上記実施形態に係る造形システム100では、造形時に、カバー部材30の出口30bから供給される不活性ガスを利用して、目標部位TAを含む一部領域を局所的に非液浸状態している。この場合において、カバー部材30に開口を複数形成して、それぞれの開口にガス供給管42を個別に接続しても良い。この場合、例えばカバー部材30の円形の底面(図5における上側の面)において、中心角が等角度間隔となる位置にそれぞれガス供給管42を接続可能となるように、複数の開口を形成しても良い。この場合、複数のガス供給管42のそれぞれのガス供給口42aからカバー部材30の接線方向に窒素を供給することで、同一回り方向(時計回り又は反時計回り)の1つの旋回流を生じさせることとしても良い。
【0103】
なお、上記実施形態と異なり、旋回流SFを生じさせることなく、カバー部材30の内部空間を介して不活性ガス(気体)を目標部位TAに向けて供給ないしは噴射することとしても良い。カバー部材は、Z軸方向(光軸AXと平行な方向)に関して出口30bとは反対側から出口30b側に向かって収束する一部に曲面を含む形状、例えば円錐状又は楕円錐状の内面を有する部材であれば良く、その外観形状は特に問わない。また、カバー部材を備えていなくても良い。例えば、不活性ガス(気体)を目標部位TAを含む一部領域に供給することができるのであれば、カバー部材を備えていなくても良い。
【0104】
なお、上記実施形態に係る造形システム100は、造形ヘッド部500が、ビーム照射部520の終端レンズ82aとして、光軸AXを含む中心部に光軸方向に貫通する貫通孔が形成されたレンズ(中抜きレンズ)が用いられ、材料供給部530は、終端レンズ82aの貫通孔に挿入され、造形材料を光軸AXに沿って供給する供給管84を有し、ビーム照射部520は、供給管84から目標部位TAに供給される造形材料に、カバー部材30の内部空間30aを介して光軸AXに対して傾斜した光路に沿ってビームを照射する場合について説明した。このような構成を採用したのは、ビーム照射部520の集光光学系82は、大口径、低収差かつ高N.A.であるため、同一の集光光学系82の周縁近傍の部分を通る光のみによって、例えばビームスポットが形成され、これにより別々の光学系を介した光を同一領域に集光してビームスポット(レーザスポット)を形成する場合に比べて、高品質なビームスポットの形成が可能であることを考慮したからである。したがって、終端レンズは、中抜けレンズでなくても勿論良い。
【0105】
なお、上記実施形態では、ワークWの付加加工の目標部位TAが設定される対象面(例えば上面)TASが、ステージ12の傾きを調整することで、集光光学系82の光軸に垂直な面(XY平面に平行な面)に設定される平面であるものとして、説明を行なったが、実際には、特に付加加工の場合、目標部位TAは、平面上に設定されるとは限らない。すなわち、ワークW上の平面でない凹凸部に目標部位TAが設定されることが考えられるが、かかる場合であっても、図7に示されるように、その凹凸部UPを含むワークW上の一部領域を、前述と同様にして局所的な非液浸領域NISに設定することができ、同様の造形加工を行うことができる。
【0106】
また、造形ヘッド部は、上記実施形態のような構成に限定されるものではない。造形ヘッド部は、例えばビーム照射部の光軸に沿ってビームを照射し、光軸に対して傾斜した経路に沿って造形材料を供給するタイプであっても良い。このタイプの造形ヘッド部を採用する場合、カバー部材として、例えば図8に示されるカバー部材230を用いることができる。カバー部材230は、全体として円柱形状を有し、図8における下端部にビームの出口、造形材料の出口及び不活性ガスの出口を兼ねる出口230bを有する。これをさらに詳述すると、カバー部材230には、図8における下端面から上端面近傍(上端面より所定距離下方の位置)まで至る開口部232(内部空間)が形成され、該開口部232は、それぞれカバー部材230の円柱の軸を中心とする内周面から成る第1部分232a、第2部分232b及び第3部分232cの3つの部分を有する。第1部分232aは、最上部に位置し上下方向に延びる円柱面状の内周面から成る。第2部分232bは、第1部分232aに連続して下方に延びるテーパ状の内周面(円錐面の一部)から成る。第3部分232cは、第2部分に連通し、カバー部材230の下端面に至るテーパ状の内周面(円錐面の一部)から成る。第2部分232bは、第3部分232cに近づくに従って徐々に直径が小さくなる。一方、第3部分232cは、反対に第2部分232bから離れる従って直径が大きくなる。開口232の第3部分232c及び第2部分232bの下端の開口によって、出口230bが形成されている。
【0107】
開口部232の第1部分232aの内部には、第1部分232aより一回りに小さい上下方向に延びる円筒状のビーム射出部234が設けられている。ビーム射出部234の内部は、ビームLBの通路である。また、ビーム射出部234と、開口部232の第1部分232aとの間の空間は、造形材料PDの供給通路の一部となっている。造形材料PDは、ビーム射出部234と第1部分232aとの間の空間とその下方の開口部232の第2部分232b(の内部空間)を介して出口230bからビーム照射部の光軸に対して所定角度傾斜した方向からカバー部材230の下方の目標部位に供給される。
【0108】
カバー部材230では、さらに、開口部232の第1部分232a及び第2部分232bの外側に一対の不活性ガスの供給路236が形成されている。供給路236は、例えばZ軸に垂直な断面において円弧状に形成され、その下端が、開口部232の第3部分232cの内周面の一部に開口している。カバー部材230を用いる場合、造形ヘッド部は、前述の集光光学系82に比べてN.A.が小さい集光光学系が用いられ、その集光光学系の終端レンズとして、中抜けレンズではない通常のレンズが用いられる。
【0109】
なお、上記実施形態では、冷却水CWが供給された対象面TASに向けて不活性ガスを供給することで、目標部位TAを含む一部領域を非液浸状態にする場合について説明したが、対象面TAS上の一部領域を非液浸状態にする方法は、これに限定されるものではない。例えば、冷却水CWを吸引して、対象面TAS上の一部領域を非液浸状態に設定することも可能である。例えば、上述した第1の実施形態における造形ヘッド部500において、前述のカバー部材30に代えて、図9に示されるカバー部材330を用いても良い。カバー部材330は、円錐状の内面330cを有する円柱状の部材から成り、前述のカバー部材30の出口30bと同等の役割の出口330bを下面に有し、下面の出口330bの外側の位置に出口330bを取り囲む環状(例えば円環状)の凹部から成るガス供給口332が形成されている。また、カバー部材330の下面の、出口330bに対してガス供給口332の外側には、ガス供給口332より一回り大きい環状(例えば円環状)の凹部から成る吸引口334が形成されている。吸引口334は、不図示の吸引路を介して不図示の真空ポンプ等の吸引装置に接続されている。また、ガス供給口332は、不図示の供給路を介して不図示のガス供給装置に接続されている。ガス供給装置はガス供給口332から不活性ガスを下方に向けて噴出しても良いし、不活性ガス以外の気体、例えば圧縮空気を噴出しても良い。吸引装置により吸引路内を負圧にすることにより、吸引口334を介して冷却水CW、ガス供給口332から噴出された気体(、及び出口330bから流出した不活性ガス)などが吸引路内に吸引され、外部に排出される。この結果、カバー部材330の下方には、液体が存在しない非液浸空間NISが形成される(図9参照)。なお、環状のガス供給口332の代わりに複数のガス供給口を環状に配置しても良い。また、環状の吸引口334の代わりに複数の吸引口を環状に配置しても良い。
【0110】
なお、ワークW上面とカバー部材330の下面との間の液体層の厚さが十分に薄ければ、吸引口334及びガス供給口332の一方のみを、カバー部材330に設けても良い。また、出口330bからの不活性ガスの噴出を、併せて行なっても良いし、行わなくても良い。
【0111】
なお、アウトレット部20に加えて、あるいは代えて、冷却水CWの供給口をステージ12(たとえば枠部材12b)に設けても良い。この場合、冷却水CWの供給口に接続される供給管は、排水管16と同様に、着脱自在であっても良いし、供給管がステージ12に常時接続されていても良い。
【0112】
また、ステージ12の孔に接続された排水管に加えて、あるいは代わりに、ステージ12の上方に排出管(排水管)を配置して、槽13内に配置された、その排出管の先端(排出口)を介して液体排出を行うようにしても良い。この場合、排出管は移動可能であっても良いし、動かなくても良い。
【0113】
また、アウトレット部20に加えて、あるいは代えて、カバー部材(30,230,330)に冷却水CWの供給口を設けても良い。
【0114】
また、上述の実施形態では、対象面TASに冷却水CWが接触するように冷却水CWの供給を行っているが、対象面TASに冷却水CWが接触しないように供給しても良い。対象面TASに冷却水CWが接触していなくても、ワークWの対象面TAS以外の外面に冷却水CWが接触していれば、ワークWの反り、変形などを抑える効果を期待できる。
【0115】
また、ステージ12に槽13(枠部材12b)を設けなくても良い。この場合、ステージ12の下方に、ステージ12から流れ落ちる冷却水CWを回収する機構を設けても良い。また、この場合、排水管16をステージ12に接続しなくても良い。
【0116】
また、カバー部材(30,230,330)が鏡筒85に対して相対移動可能であっても良い。
【0117】
なお、上記実施形態では、空間光変調器としてミラーアレイ80を用いる場合について説明したが、これに代えて、MEMS技術によって作製されるデジタル・マイクロミラー・デバイス(Digital Micromirror Device:DMD(登録商標))を多数マトリクス状に配置して成る大面積のデジタル・ミラーデバイスを用いても良い。
【0118】
なお、上記実施形態では、集光光学系82の瞳面に入射する複数の平行ビームの入射角度を個別に制御することにより造形面上でのビームの強度分布の変更を行う場合について説明したが、集光光学系82の瞳面に入射する複数の平行ビームの全ての入射角度が制御(変更)可能でなくても良い。したがって、上記実施形態と同様にミラーアレイを用いて集光光学系82に入射する平行ビームの入射角度を制御する場合などに、全てのミラー素子が反射面の状態(反射面の位置及び傾斜角度の少なくとも一方)を変更可能でなくても良い。また、上記実施形態の集光光学系82に入射する複数の平行ビームの入射角度の制御に用いることができる反射型空間光変調器は、上述のミラーアレイに限られない。使用可能な反射型空間光変調器としては、例えば、反射型液晶表示素子、電気泳動ディスプレイ(EPD:Electro Phonetic Display)、電子ペーパー(又は電子インク)、光回折型ライトバルブ(Grating Light Valve)等が例として挙げられる。
【0119】
また、造形面上でのビームの強度分布の変更を、集光光学系(投影光学系)の入射面側に配置されるマスクの開口(大きさ、形状、数)を変更することによって行っても良い。この場合、集光光学系の物体面にマスクを配置し、像面、またはその近傍を造形面とすれば良い。また、この場合、集光光学系の瞳面におけるビーム強度分布を、例えば輪帯状にしたり、あるいは光軸を含む円形領域を遮光する遮光部材を瞳面に配置したりすることによって、その集光光学系の終端レンズを中抜けレンズとすることもできる。
【0120】
また、上述したように、集光光学系82は大口径であることが望ましいが、開口数N.A.が0.5より小さい集光光学系を用いても良い。
【0121】
また、上記実施形態において、ビームの強度分布を管理するために、集光光学系82の後側焦点面、又はその近傍に受光部を配置可能なセンサを造形システム100が備えていても良い。例えば、ステージ12上にCCDイメージセンサを搭載し、該CCDイメージセンサにより、ビームの強度分布(造形面における照射領域内の強度分布)を適当な頻度でキャリブレーションすることが望ましい。このように、集光光学系82からのビームを受光するセンサでビームの強度分布を計測することで、集光光学系82の熱収差などの変動要因も加味されたビームの強度分布の管理が可能となる。また、その結果に基づいてミラーアレイ80などを制御することによって、集光光学系82の後側焦点面などにおけるビームの強度分布を所望状態に精度良く設定することができる。また、このセンサを使って基準座標系におけるビームの位置を管理するようにしても良い。
【0122】
なお、上記実施形態では、造形材料としてチタン、ステンレスの粉末を用いる場合につて例示したが、鉄粉その他の金属の粉末は勿論、ナイロン、ポリプロピレン、ABS等の粉末など金属以外の粉末を用いることも可能である。
【0123】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態について、図10図12に基づいて説明する。ここで、前述した第1の実施形態と同一又は同等の構成部分については、同一の符号を用いるとともに、その説明を省略する。
【0124】
また、第1実施形態で説明した、いろいろな変形例も、第2実施形態に適用可能である。
【0125】
図10には、第2の実施形態に係る加工システム1100の全体構成が、ブロック図にて示されている。
【0126】
加工システム1100は、加工対象物(ワークとも呼ばれる)に対してレーザビーム(以下、ビームと称する)を照射し、例えば研削加工、切削加工あるいは穴あけ加工などの種々の除去加工などを行うシステムである。
【0127】
加工システム1100は、移動装置200、計測装置400及び加工ヘッド部1500と、これら各部を含む加工システム1100の全体を制御する制御装置1600とを備えている。計測装置400と、加工ヘッド部1500とは、所定方向(X軸方向、図11参照)に関して互いに離れて配置されている。すなわち、本第2の実施形態に係る加工システム1100では、前述した第1の実施形態に係る造形システム100が備える造形ヘッド部500に代えて加工ヘッド部1500が設けられ、制御装置600に代えて制御装置1600が設けられている。なお、移動装置200は、加工システム1100では、図10に示される計測装置400及び加工ヘッド部1500、並びにワーク搬送系300(図10では不図示、図12参照)の相互間で、ステージ12(図11参照)を自在に移動可能である。
【0128】
図11には、加工ヘッド部1500が備えるビーム照射部の一部を構成する集光光学系182及び集光光学系182を保持する鏡筒85の下端に吊り下げ状態で固定されたカバー部材130が、移動装置200が備えるステージ12とともに示されている。加工システム1100においても、前述の造形システム100と同様に、ステージ12の枠部材12b(槽13を区画する)に、コネクタ15を介して排水管16が、着脱自在に装着されるようになっている。排水管16には、第1の流量制御弁18A(図11では不図示、図12参照)が設けられ、該第1の流量制御弁18Aは、制御装置1600によって制御される(図12参照)。
【0129】
また、加工システム1100においても、前述の造形システム100と同様に、加工ヘッド部1500の近傍には、所定高さの位置に、給水管19の一端側に設けられたアウトレット部20が配置され、アウトレット部20は、第1駆動部22A(図11では不図示、図12参照)によってY軸方向に沿って往復移動可能である。給水管19の他端には、内部に冷却水を収容した液体タンクを含む冷却水供給装置21(図11では不図示、図12参照)が接続されている。また、給水管19には、第2の流量制御弁18B(図12参照)が設けられている。第2の流量制御弁18Bは、制御装置1600によって制御される。
【0130】
また、加工ヘッド部1500の近傍には、所定高さの位置に、槽13内の冷却水CWの水面(液面)のレベル(水位)を検出する水位センサ26が設けられている。水位センサ26は、第2駆動部22B(図11では不図示、図12参照)によってY軸方向に沿って往復移動可能である。
【0131】
本第2の実施形態では、ワークの加工時に、第1駆動部22A及び第2駆動部22Bが、必要に応じ、制御装置1600によって制御され、これにより、ステージ12のY軸方向の位置の変化に連動して、アウトレット部20及び水位センサ26が、Y軸方向に移動する。
【0132】
また、本実施形態では、ワークの加工中、冷却水CWの水面が、ステージ12(テーブル12a)上に搭載されたワークWの上面より僅かに高い位置に常時位置されるように、制御装置1600によって、前述した第1の実施形態と同様、水位センサ26の計測情報に基づいて、第1、第2の流量制御弁18A、18Bが制御される。制御装置1600は、ワークWの目標部位が設定される対象面TAS(通常ビーム照射部520Aに対向するワークWの上面である)を位置合わせすべき面(以下、加工面と呼ぶ)MPより所定距離だけ高い位置に冷却水の液面を位置合わせすべき目標面TS(図11参照)を予め設定している。そして、制御装置1600は、水位センサ26の計測情報に基づいて、実際の液面と目標面TSとの差を求め、その差が零となるように、第2の流量制御弁18B及び第1の流量制御弁18Aの開度を制御している。これにより、ステージ12上のワークの対象面TASのZ軸方向の位置の変化及び加工の進捗に連動して、加工中常時、冷却水CWの液面が、加工面MPに位置合わせされる対象面TASより所定距離高くなるように調整(設定)される。なお、以下では、ワークWの上面を上面TAS又は対象面TASとも称する。
【0133】
加工ヘッド部1500は、ビーム照射部520Aを備えている。
【0134】
集光光学系182は、開口数N.A.が例えば0.5以上、好ましくは0.6以上の高NAで、低収差の光学系である。集光光学系182は、鏡筒85にそれぞれ保持された終端レンズ182aを含む複数のレンズを有する。終端レンズ182aとして、中抜きレンズではない通常の凸レンズが用いられている。
【0135】
また、加工システム1100では、ビームとワークWとの相対移動中に加工面MP上におけるビームの強度分布、例えばビームの照射領域の形状、大きさ、個数の少なくとも1つを変化させることが可能である。この場合において、制御装置1600は、加工面MP上におけるビームの強度分布を連続的、あるいは断続的に変更することもできる。
【0136】
カバー部材130は、図11に示されるように、中空の円錐状の部材から成る第1部材130aと、第1部材130aの内側に配置された一回り小さい円錐台状の第2部材130bと、第1部材130aと第2部材130bとを両者の底面(図11における上側の面)側で連結する平面視円環状の取付部130cとを有している。取付部130cは、内径が第1部材130aの底面より小さく(終端レンズ182aの外径より僅かに大きく)、外径がカバー部材130の底面(図11における上側の面)より僅かに大きい円環状の板部材から成る。カバー部材130は、取付部130cを介して鏡筒85の下端面にその基端(底面側)が固定されている。カバー部材130の先端部(底面とは反対側)には、その先端に、ワークに照射されるビームLBの出口130dが形成されるように、僅かに外側に広げられている。カバー部材130(第1部材130a)の内部は、第2部材130bによって円錐状の内側空間(第1空間)と、その外側の外側空間(第2空間)とに区画されている。第1空間には、終端レンズ182aの下端部が露出している。第2空間は、XY平面に平行な断面が平面視円環状であり、その円環の内径及び外経、並びに幅が、+Z側から-Z側に向かって徐々に小さくなる空間である。
【0137】
第1部材130aには、ガス供給装置40(図12参照)に接続され、不活性ガスの一種である窒素を、ガス供給口42aからカバー部材130内部の第2空間に供給するガス供給管42が複数箇所に接続されている。なお、不活性ガスとして窒素に代えて、希ガス(例えばヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)など)を用いても良い。ガス供給管42は、それぞれ、図11に示されるように、カバー部材130の第1部材130aの上端部近傍にその一端のガス供給口42aが第2空間に露出する状態で外側から接続されている。複数のガス供給口42aのそれぞれは、例えば第1部材130aの円形の底面(図11における上側の面)において、中心角が等角度間隔となる位置にそれぞれ設けられている。
【0138】
ガス供給装置の作動状態では、複数のガス供給管42それぞれのガス供給口42aを介して、第1部材130aの円錐面状の内面に実質的に沿って、窒素(不活性ガス)が第2空間内に送り込まれ、その送り込まれた窒素は、図11に符号LFを付した矢印で示されるように第1部材130aの内面に沿って上方から下方に向かうほぼ直線状の収束流れとなり、出口130dを介してカバー部材130の外部に噴出される。本第2の実施形態に係るガス供給装置40は、カバー部材130の第2空間内に送り込む不活性ガスの温度、流速等を調整可能である。
【0139】
ところで、前述の槽13内の冷却水量の調整の説明から明らかなように、加工処理に際しては、ワークWの対象面TASより幾分高い位置に冷却水CWの液面(水面)が設定される。しかるに、目標部位TA部分に冷却水があると、その冷却水CWに悪影響を受けて十分な加工精度を確保できないおそれがある。そこで、加工システム1100では、図11に示されるように、カバー部材130先端の出口130dから噴出される高速の不活性ガスを目標部位TAに向けて供給し、その不活性ガスの流れにより、目標部位TAを含む対象面TAS上の一部領域上に存在する冷却水CWを吹き飛ばして除去することとしている。これにより、目標部位TAを含む一部領域が局所的に非液浸状態(ドライ状態)に設定され、対象面TAS上に、供給された冷却水CWで覆われた領域と供給された冷却水CWで覆われていない領域とが存在する状態で、目標部位へのビームの照射が行われ、目標部位TAに対する加工処理が行われる。
【0140】
図12には、加工システム1100の制御系を中心的に構成する制御装置1600の入出力関係を示すブロック図が示されている。制御装置1600は、ワークステーション(又はマイクロコンピュータ)等を含み、加工システム1100の構成各部を統括制御する。
【0141】
上述のようにして構成された加工システム1100の基本的機能は、加工対象物(ワーク)に対し、切削、研削、あるいは穴あけ加工等の種々の加工を行なうことである。ワークは加工システム1100に投入され、加工された後に加工システム1100から搬出される。加工システム1100で行われる一連の作業は自動化されており、ワークの供給は、パレットにまとめた一定量を1ロットとして、ロット単位で投入することが可能である。
【0142】
まず、加工前の1ロットのワークが搭載されたパレット(不図示)を外部から加工システム1100内の所定の搬出入位置に搬入する。この搬入は、制御装置1600の指示に応じてワーク搬送系300によって行われる。ここで、1ロットは例えばi×j個であり、パレット上にi×j個のワークがi行j列のマトリックス状の配置で搭載されている。すなわち、パレット上面には、i行j列のマトリックス状の配置でワークの搭載位置(載置位置)が定められており、それぞれの搭載位置にワークが搭載(載置)されている。
【0143】
次に、ロット内の第1番目のワークをパレットから取り出してステージ12(テーブル12a)に搭載する。このときロボット14は、加工システム1100内のワーク搬送系300が設置された位置の近傍に設定されているローディング/アンローディングポジションにあるものとする。また、このときステージ12は、前述した基準状態(Z、θx、θy、θz)=(Z、0、0、0)にあり、そのXY位置は、位置計測系28によって計測されているロボット14のX、Y位置と一致している。すなわち、ステージ12は、ロボット14上で定められた基準点(x=0,y=0)にある。
【0144】
次いで、制御装置1600により、ワークWを搭載したステージ12が計測装置400の下方に移動される。ステージ12の移動は、制御装置1600が位置計測系28の計測情報に基づいて、ロボット14を制御して、床面上でX軸方向(及びY軸方向)に駆動することで行われる。この移動中も、ステージ12は、前述した基準状態が維持されている。
【0145】
次に制御装置1600により、計測装置400を用いて、基準状態にあるステージ12上のワークWの対象面TAS、例えば上面の少なくとも一部の三次元空間内の位置情報(本実施形態では形状情報)の計測が行われる。これ以後は、この計測結果に基づき、ワークWの対象面TASの6自由度方向の位置は、ステージ座標系(基準座標系)上で、オープンループの制御により管理することが可能になる。
【0146】
次に制御装置1600により、対象面TASの少なくとも一部の形状情報の計測が終了したワークWを搭載したステージ12が、加工ヘッド部1500の下方に向けて移動される。このとき、第1及び第2の流量制御弁18A、18Bは、全閉状態になっている。
【0147】
ステージ12が、所定の経路に沿って移動し、加工ヘッド部1500の下方の所定位置に到達すると、前述と同様、排水管16の一端に接続されたコネクタ15の第2部分15bが、ステージ12に設けられた第1部分15aに装着され、排水管16の一端が槽13(ステージ12)に接続される。
【0148】
次に、制御装置1600により、液面(水面)が目標面TS(図11参照)に一致するまで槽13内に冷却水CWが供給される。この冷却水CWの供給は、制御装置1600により、前述と同様、水位センサ26の計測情報をモニタしつつ、第2の流量制御弁18Bの開閉制御を行うことで実現される。
【0149】
次に、ステージ12上のワークに対して、加工が行われる。この加工は、次のようにして行われる。
【0150】
すなわち、制御装置1600により、移動装置200及び加工ヘッド部1500が制御され、前述した局所非液浸状態(図11参照)でのワークの加工が、ビームに対してステージ12をスキャン方向に走査しながら行われる。ここで、加工時におけるワーク上の対象面(及び目標部位)の位置及び姿勢の制御は、先に計測装置400を用いて計測した対象面の位置情報(本実施形態では形状情報)を考慮して行われる。
【0151】
ここで、加工システム1100では、例えばワークWの切削加工、研削加工あるいは穴あけ加工などが行われるが、これらの加工の中には、高精度、高スループットのワークの加工を実現するため、集光光学系182によるビームLBの集光点に目標部位TAが常に位置合わせされる結果、加工処理が進むにつれて、ワークWは上昇駆動されるものもある。そこで、本実施形態では、加工処理が進むにつれて、制御装置1600の指示に基づき、ロボット14によってステージ12が、上昇駆動(又は下降駆動)されるが、このステージ12の上昇(又は下降)に応じて、制御装置1600により水位センサ26の計測情報に基づいて、第2の流量制御弁18B及び第1の流量制御弁18Aの開度制御(開閉を含む)が行われ、槽13内の冷却水CWの量が、液面(水面)が目標面TS(加工面MPより所定距離高い面)に一致するように、調整される。すなわち、このようにしてステージ12の上昇(又は下降)、及び加工の進行に応じて、冷却水CWの液面の制御が行われる。なお、加工時におけるワーク上の上面(対象面)TASの位置及び姿勢の制御は、先に計測した対象面の形状情報を考慮して行われる。
【0152】
ワークWに対する加工処理が終了すると、制御装置1600により、第1の流量制御弁18Aが全開され、槽13内の冷却水CWが排水管16を介して外部に排水される。排水完了後、制御装置1600により、前述と同様、ステージ12が所定位置に固定された排水管16から離れる方向に駆動されることで、ステージ12から排水管16が取り外される。そして、制御装置1600の指示に応じ、ロボット14が加工済みのワークWを搭載したステージ12とともに、前述のローディング/アンローディングポジションに移動する。
【0153】
次いで制御装置1600により、ワーク搬送系300に対し、ステージ12上に搭載されているワークのアンロードが指示される。この指示(ステージ12上にある加工済みのワーク(ここでは、ロット内の第1番目のワーク)の、パレット上の搭載位置を特定する情報を含む)に応じ、ワーク搬送系300によって、加工済みのワークWがステージ12上から取り出され、パレット上の特定された搭載位置に戻される。
【0154】
そして、制御装置1600により、ロボット14に指示が与えられ、ステージ12が基準状態に設定される。これにより、移動装置200は、ローディング/アンローディングポジションにて、次のワークの搬入に備えて待機することとなる。
【0155】
以後、同様にして、ロット内の第2番目以降のワークWに対して、同様の処理が繰り返される。
【0156】
以上、説明したように、本第2の実施形態に係る加工システム1100によると、制御装置1600により、ビーム照射部520Aから射出されるビームLBとワークWとを相対移動させ、槽13内に配置されたワークWの対象面TAS上の非液浸状態とされた目標部位TAに加工(例えば切削加工、研削加工、穴あけ加工など)が施されるように、移動装置200によるワークWの移動と、ビーム照射部520からのビームLBの照射状態と、が制御される。すなわちこのようにして、局所非液浸方式でワークWに対する加工処理が行われる。
【0157】
また、本第2の実施形態に係る加工システム1100によると、制御装置1600により、ワークWの加工が行われる結果、加工の進行とともに、ワークWの上面の上下方向の位置(高さ)が変化するが、その位置(高さ)の変化に応じて、槽13内の冷却水CWの液面がそのワークの上面より僅かに高くなるよう、その冷却水CWの量が調整される。すなわち、このようにしてステージ12の上下動と加工の進行とに連動して槽13内の冷却水CWの液面の調整が行われ、目標部位を含む一部の局所非液浸領域以外の領域ではワークWの全体が冷却水で常に覆われる。したがって、加工中のワークWの温度不均一に起因するワークWの反り等の発生を効果的に抑制することが可能になる。特に、厚さの薄いワークの場合に、その有用性が高い。
【0158】
なお、上記第2の実施形態では、ワークW上に冷却水CW(液体)を供給するため、ステージ12に槽13を設け、槽13内に液体を供給する場合について説明したが、対象面上への液体の供給方式がこれに限定されるものではない。
【0159】
また、上記第2の実施形態に係る加工システム1100では、加工時における目標部位TAを含む一部領域を局所的に非液浸状態とするため、カバー部材130(第1部材130a)の内部に位置する複数のガス供給口42aを介して、第1部材130aの内面に沿って上方から下方への直線上の流れLFが生じるように不活性ガス(気体)をカバー部材30の内部の第2空間に導入し、カバー部材130の外部に噴出する場合について説明した。しかしながら、これに限らず、前述した第1の実施形態と同様に、カバー部材の内部に旋回流SFを生じさせた後、カバー部材の内部空間を介して不活性ガス(気体)を目標部位TAを含む一部領域に噴射することとしても良い。
【0160】
また、カバー部材は、Z軸方向(光軸AXと平行な方向)に関して出口130dとは反対側から出口130d側に向かって収束する一部に曲面を含む形状、例えば円錐状又は楕円錐状の内面を有する部材であることが望ましいが、その外観形状は特に問わない。また、カバー部材を備えていなくても良い。
【0161】
なお、本第2の実施形態に係る加工システム1100においても、図9に示されるカバー部材330と同様に、その下面の出口の外側にガス供給口及び吸引口が設けられたカバー部材を、カバー部材130に代えて用いることとしても良い。このようにしても、カバー部材の下方に、液体が存在しない非液浸空間を形成することができる。
【0162】
なお、これまでは、不活性ガスの供給ないしは噴き付け、又は気体の供給及び/又は液体等の吸引により、対象面上の一部領域に局所的非液浸領域を形成するという説明を行なったが、非液浸領域はビームの光路上に形成され、このビームの光路を局所的非液浸状態とすることは、ビームの光路が気体空間となるように、対象面上に供給された液体(冷却水CW)を処理することと言い換えることができる。この場合、目標部位に造形処理、あるいは加工処理などの所定の処理が施されるように、目標部位に、気体空間を介してビームが照射される。すなわち、ビームは、供給された液体を介さずに、目標部位に照射される。これは、ビームが、供給された液体を介さずに、目標部位に照射されるように、供給された液体の処理が行われると言い換えることができる。
【0163】
なお、これまでは、対象面上に供給された液体を、前述した種々の方法を用いて除去することで、対象面上に局所的非液浸領域ないしはビーム光路上の気体空間を形成する場合について説明した。しかしながら、これに限らず、液体が所定空間に入ることを制限することで、対象面上の局所的非液浸領域ないしはビーム光路上の気体空間を形成することとしても良い。一例として、上記第1の実施形態について説明すると、槽13内への冷却水の供給が開始されるとほぼ同時に第1空間30a内部から外部への不活性ガスの流出(噴き出し)を開始し、造形が終了するまで、そのガスの流出(噴き出し)状態を造形時及び非造形時を問わず、常時維持することとしても良い。このようにすると、各層の造形が終了し、ステージ12が下降する際に、槽13内に冷却水CWが追加して供給されるが、この際に、冷却水CWがその時点の目標部位TAを含む対象面TAS上の一部領域(及びビームLB、LBの光路空間)に入ることを予め制限して、局所的な非液浸領域ないしはビーム光路上の気体空間を形成することができる。
【0164】
なお、上記第1の実施形態に係る造形システム100では、一例として、制御装置600が、移動装置200、計測装置400及び造形ヘッド部500の構成各部を制御する場合について説明したが、これに限らず、造形システム100の制御装置を、マイクロプロセッサ等の処理装置をそれぞれ含む複数のハードウェアにより構成しても良い。この場合において、移動装置200、計測装置400及び造形ヘッド部500のそれぞれが処理装置を備えていても良いし、移動装置200、計測装置400及び造形ヘッド部500のうちの2つを制御する第1処理装置と、残りの1つを制御する第2処理装置の組み合わせであっても良い。いずれの場合もそれぞれの処理装置が、上述した制御装置600の機能の一部を受け持つことになる。あるいは、複数のマイクロプロセッサ等の処理装置と、これらの処理装置を統括的に管理するホスト・コンピュータとによって、造形システムの制御装置を構成しても良い。
【0165】
同様に、上記第2の実施形態においても、加工システム1100の制御装置を、マイクロプロセッサ等の処理装置をそれぞれ含む複数のハードウェアにより構成しても良い。この場合において、移動装置200、計測装置400及び加工ヘッド部1500のそれぞれが処理装置を備えていても良いし、移動装置200、計測装置400及び加工ヘッド部1500のうちの2つを制御する第1処理装置と、残りの1つを制御する第2処理装置の組み合わせであっても良い。いずれの場合もそれぞれの処理装置が、上述した制御装置1600の機能の一部を受け持つことになる。あるいは、複数のマイクロプロセッサ等の処理装置と、これらの処理装置を統括的に管理するホスト・コンピュータとによって、加工システムの制御装置を構成しても良い。
【0166】
なお、第1の実施形態において、造形材料としての粉末の供給を行わずに、対象面TASにビーム照射部520からのビームを照射して、加工(例えば切削加工、研削加工、穴あけ加工などの除去加工)などを行うようにしても良い。この場合、ステージ12上で形成された3次元造形物をワークとして、粉末供給なしのビーム照射を行っても良い。また、粉末の供給を行う付加加工は、非液浸領域を形成して、ビーム照射部520からのビームを液体(CW)を介さずにワークWに照射し、粉末供給を行わない加工(例えば切削加工、研削加工、穴あけ加工などの除去加工)は、ビーム照射部520からのビームを液体(CW)を介してワーク(Wまたは別のワーク)に照射しても良い。
【0167】
なお、上述の第1、第2の実施形態において、計測装置400を備えていなくても良い。
【0168】
また、上述の第1、第2の実施形態において、アウトレット部20から供給される液体(CW)は、対象面TASを有する物体(ワークW)を温度調整、あるいは物体を冷却するための液体であるが、他の目的のために用いられる液体であっても良いし、水以外の液体でも良い。
【0169】
また、上述の第1、第2の実施形態において、対象面TASが液浸部分と非液浸部分を含んでいるが、対象面TASが液浸部分を含んでいなくてもよい。その場合は、ワークWの対象面TAS以外の面が液体(CW)と接触するように液体供給を行っても良い。
【0170】
なお、液体(CW)による温度調整/冷却に加えて、あるいは液体(CW)による温度調整/冷却に替えて、ペルチェ素子などの冷却デバイスを使ってワークを温度調整/冷却しても良い。
【0171】
また、上記の第1、第2の実施形態において、目標部位TAを非液浸状態にして目標部位TAにビームの照射を行っているが、付加加工、除去加工に影響が無い程度であれば、ビームが照射される部分に液体(CW)の薄膜、滴などが存在していても良い。この場合も、液体を介さずにビームを照射していると言っても良い。
【0172】
また、上述の各実施形態では、部材、開口、穴などの形状を、円形、矩形などを用いて説明している場合があるが、これらの形状に限られないことは言うまでもない。
【0173】
なお、上記実施形態で引用した全ての米国特許出願公開明細書などの開示を援用して本明細書の記載の一部とする。
【産業上の利用可能性】
【0174】
以上、説明したように、本発明に係る処理システム及び処理方法は、ビームの照射により、所定面上の目標部位に所定の処理を施すのに適している。
【符号の説明】
【0175】
12…ステージ、13…槽、18A…第1の流量制御弁、18B…第2の流量制御弁、19…給水管、20…アウトレット部、21…液体供給装置、26…水位センサ、30…カバー部材、30a…第1空間、30b…出口、30c…内面、42…ガス供給管、42a…ガス供給口、82…集光光学系、82a…終端レンズ、84…供給管、84a…材料供給口、100…造形システム、130…カバー部材、182…集光光学系、200…移動装置、230…カバー部材、330…カバー部材、330b…出口、332…ガス供給口、334…吸引口、520…ビーム照射部、530…材料供給部、600…制御装置、1600…制御装置、AX…光軸、CW…冷却水、LB、LB、LB…ビーム、PD…造形材料、SF…旋回流、TA…目標部位、TAS…対象面、TH…中空部。
図1
図2
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図12