(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】流体輸送管
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20231130BHJP
F16L 11/16 20060101ALI20231130BHJP
B29C 70/30 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
F16L11/08 Z
F16L11/16
B29C70/30
(21)【出願番号】P 2020043216
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆博
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 大輔
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107739(JP,A)
【文献】特開2009-243496(JP,A)
【文献】特開2009-085310(JP,A)
【文献】実開昭53-081920(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0290784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
F16L 11/16
B29C 70/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する内管と、
前記内管の外周部に設けられた内圧補強層と、
前記内圧補強層の外周部に設けられた軸力補強層と、
前記軸力補強層の外周部に設けられた保護層と、
を具備し、
前記内圧補強層は、複数の繊維補強テープが積層されて巻き付けられて構成され、
各層の前記繊維補強テープの長手方向の突き合せ部の位置が、各層によって長手方向に所定のずれ長さでずれており、
前記繊維補強テープの静摩擦係数及び流体輸送管の破壊内圧から算出され、それぞれの前記繊維補強テープに要求される張力以上の摩擦力を得るために必要な前記繊維補強テープ同士の最小限の重なり長さをLとすると、任意の重なり合う前記繊維補強テープ同士における前記ずれ長さが、2L以上であることを特徴とする流体輸送管。
【請求項2】
前記繊維補強テープの長手方向の突き合せ部において、前記繊維補強テープ同士は接着又は融着していないことを特徴とする請求項1記載の流体輸送管。
【請求項3】
前記繊維補強テープが、前記内管の外周部にギャップをあけて螺旋巻きされることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体輸送管。
【請求項4】
各層の前記繊維補強テープの長手方向の突き合せ部が仮接続部材によって接続されており、接続された複数の前記繊維補強テープが重ねられて一体の複層テープが構成され、前記複層テープが前記内管の外周部に巻き付けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体輸送管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば海中において油やガス等の流体を輸送可能な流体輸送管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海中において浮体構造物と海底との間で油やガス等の流体を輸送する際には、可撓性を有する流体輸送管が用いられる。流体輸送管には、可撓性に加え、内部の流体の内圧に耐えうる耐内圧特性等の種々の特性が要求されている。
【0003】
図5は、一例としてこのような流体輸送管の使用例を示す概略図である。
図5に示す油ガス等輸送システム100は、主に、浮体設備101と、これと接続される流体輸送管105等から構成される。浮体設備101は、係留索111によって海底109に係留されており、図示を省略する海底設備に流体輸送管105が接続される。
【0004】
このように使用される流体輸送管としては、例えば、プラスチック管の外側に鋼製の凹型補強材を用い、開口部側を互いにかみ合うようにして2層に短ピッチで螺旋巻きし、内圧補強層を形成し、その外周に軸力補強層を及び防食層を形成した可撓性流体輸送管がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6は、従来の流体輸送管105の一般的な構造を示す図である。一般的な流体輸送管105は、主に可撓管117、樹脂層121、内圧補強層125、軸力補強層127、保護層129等から構成される。
【0007】
可撓管117は、例えばインターロック管等の可撓性を有する管体であり、周囲には、流体の気密性や水密性を確保するための樹脂層121が設けられる。なお、可撓管117と樹脂層121との間には、必要に応じて座床層119aが設けられる。
【0008】
樹脂層121の外周部には、内圧補強層125が設けられる。内圧補強層125は、可撓管117内を流れる流体の内圧等に対する補強層である。内圧補強層125は、例えば断面C形状または断面Z形状等の金属製のテープ等を互いに向かい合うように、かつ、互いに軸方向に重なり合うように短ピッチで巻きつけられて形成される。
【0009】
内圧補強層125の外周には、座床層119bを介して軸力補強層127が設けられる。軸力補強層127は、主に可撓管117が軸方向へ変形することを抑えるための補強層である。軸力補強層127は、例えば平型断面形状の補強条をロングピッチで、座床層119cを介して2層交互巻きして形成される。
【0010】
軸力補強層127の外周部には、座床層119dを介して保護層129が設けられる。保護層129は、例えば海水等が補強層へ浸入することを防止するための層である。
【0011】
このような従来の流体輸送管は、可撓性を確保しつつ、極めて高い耐内圧特性を得ることができる。しかしながら、このような構成は、流体輸送管の重量が大きくなる。特に、海底に沈めて用いられる流体輸送管は、全長が長く、浮体設備101近傍では、海中の全長にわたる流体輸送管105の重量による張力がかかるため、より強度の高い軸力補強層127が必要となり、ますます流体輸送管105の重量増が懸念される。このため、より軽量な流体輸送管が要求される。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡易な構造で軽量な流体輸送管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、本発明は、可撓性を有する内管と、前記内管の外周部に設けられた内圧補強層と、前記内圧補強層の外周部に設けられた軸力補強層と、前記軸力補強層の外周部に設けられた保護層と、を具備し、前記内圧補強層は、複数の繊維補強テープが積層されて巻き付けられて構成され、各層の前記繊維補強テープの長手方向の突き合せ部の位置が、各層によって長手方向に所定のずれ長さでずれており、前記繊維補強テープの静摩擦係数及び流体輸送管の破壊内圧から算出され、それぞれの前記繊維補強テープに要求される張力以上の摩擦力を得るために必要な前記繊維補強テープ同士の最小限の重なり長さをLとすると、任意の重なり合う前記繊維補強テープ同士における前記ずれ長さが、2L以上であることを特徴とする流体輸送管である。
【0014】
前記繊維補強テープの長手方向の突き合せ部は、長手方向に重ならないように端部を突き合わせ、あるいは微小な間隙があっても良く、長手方向に所定長さ重ねられていても良い。
【0015】
前記繊維補強テープが、前記内管の外周部にギャップをあけて螺旋巻きされてもよい。
【0016】
各層の前記繊維補強テープの長手方向の突き合せ部が仮接続部材によって接続されており、接続された複数の前記繊維補強テープが重ねられて一体の複層テープが構成され、前記複層テープが前記内管の外周部に巻き付けられてもよい。
なお、仮接続の方法としては、上記仮接続部材による接続によらず、製造時に繊維補強テープにかかる張力に耐える簡易な接着や融着であっても良い。
【0017】
本発明によれば、内圧補強層を繊維補強テープで構成するため、構造が簡易であり軽量である。このため、取り扱い性や製造性が良好である。また、このように内圧補強層が軽量であるため、軸力補強層に要求される軸力が低減し、さらに軽量化することができる。
【0018】
また、重なり合う繊維補強テープの突き合せ部の位置が、各層で長手方向に所定量だけずれている。このため、任意の位置において、少なくとも(積層枚数-1)枚の繊維補強テープによる破断強度を確保することができる。
【0019】
この際、各層の繊維補強テープ同士を、強固に接合して長尺化する必要がないため、製造が容易である。
【0020】
また、繊維補強テープがギャップをあけて螺旋巻き付けられるため、製造が容易である。
【0021】
また、繊維補強テープの長手方向の突き合せ部を仮接続部材で接続して長尺の繊維補強テープを構成し、長尺の繊維補強テープを複数重ねて一体の複層テープを構成することで、内管の外周に巻き付けるのが容易である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易な構造で軽量な流体輸送管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】(a)は、複層テープ19を示す斜視図、(b)は、複層テープ19の突き合せ部23の配置を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態にかかる流体輸送管について説明する。
図1は流体輸送管1の斜視断面図であり、
図2は流体輸送管1の周方向断面図である。流体輸送管1は、例えば、前述したように、油やガス等の流体の輸送等のために海中で用いられる。流体輸送管1は、主に可撓管3、樹脂層5、内圧補強層9、軸力補強層11、保護層13等から構成される。
【0025】
可撓管3は、流体輸送管1の最内層に位置し、例えばインターロック管などの外圧に対する座屈強度に優れ、耐食性も良好なステンレス製である。この場合、可撓管3はテープを断面S字形状に成形させてS字部分で互いに噛み合わせて連結されて構成され、可撓性を有する。なお、インターロック管に代えて、同様の可撓性を有し、座屈強度等に優れる管体であれば、ベローズ管などの他の態様の管体を使用することも可能である。
【0026】
可撓管3の外周部には、樹脂層5が設けられる。樹脂層5は、可撓管3内を流れる流体を遮蔽する。樹脂層5は、例えばポリエチレン等の樹脂製である。なお、可撓管3と樹脂層5との間に座床層15aを設けてもよい。座床層15aは、必要に応じて設けられ、可撓管3の外周の凹凸形状を略平らにならすための層であり、可撓管3の可撓性に追従して変形可能である。例えば、座床層15aは不織布等のように、ある程度の厚みを有し、可撓管3の外周の凹凸のクッションとしての役割を有する。
【0027】
なお、可撓管3の外周部に、樹脂層5が設けられるとは、必ずしも可撓管3と樹脂層5とが接触していることを要せず、例えば、座床層15aのような他層が間に挟まれて設けられたとしても、樹脂層5は、可撓管3の「外周部に」設けられていると称する。また、以下の説明において、「外周部」なる用語を用いる場合も同様とする。なお、
図2においては、座床層についての図示を省略する。
【0028】
ここで、可撓管3と樹脂層5とを合わせて内管7とする。なお、可撓管3のみで内部の流体の気密性・水密性を確保することができれば、樹脂層5は不要である。このように、内管7は、可撓性を有し、内部に流体が流れ、外部への流出を遮蔽することができれば、その態様は特に制限されない。
【0029】
内管7の外周部には、内圧補強層9が設けられる。内圧補強層9は、主に可撓管3内を流れる流体の内圧等に対する補強層である。内圧補強層9は、複数の繊維補強テープが積層されて形成された複層テープが巻きつけられて構成される。なお、複層テープの詳細は後述する。
【0030】
内圧補強層9の外周部には、軸力補強層11が設けられる。軸力補強層11は、主に流体輸送管1が軸方向へ変形する(伸びる)ことを抑えるための補強層である。軸力補強層11は、平型断面形状の補強条をロングピッチで(補強条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように)2層交互巻きして形成される。補強条は内圧補強層9の外周において、周方向に複数配置され、ロングピッチで巻きつけられる。軸力補強層11は、内管7の可撓性に追従して変形可能である。
【0031】
なお、必要に応じて、内圧補強層9と軸力補強層11の間にポリエチレン製等の樹脂テープである座床層15bを設けてもよく、また、逆向きに螺旋状に巻きつけられる2層の補強条の間に、座床層15cを設けてもよい。座床層15b、15cは、補強部材同士が流体輸送管1の変形に追従する際に擦れて、摩耗することを防止するためである。
【0032】
軸力補強層11の外周部には、保護層13が設けられる。保護層13は、例えば海水等が軸力補強層11等へ浸入することを防止するための層である。保護層13は、例えばポリエチレン製やポリアミド系合成樹脂製等が使用できる。なお、軸力補強層11の外周には、必要に応じて座床層15dが設けられる。座床層15dは、軸力補強層11の外周の凹凸形状を略平らにならすための層である。以上のように、流体輸送管1を構成する各層は、それぞれ流体輸送管1の曲げ変形等に追従し、可撓性を有する。
【0033】
次に、複層テープの詳細について説明する。
図3(a)は、複層テープ19を示す斜視図である。前述したように、複層テープ19は、複数の繊維補強テープ17a、17b、17c、17dが積層されて構成される。なお、図示した例では4枚の繊維補強テープ17a、17b、17c、17dが積層される例を示すが、繊維補強テープの積層数は特に限定されない。
【0034】
なお、繊維補強テープ17a、17b、17c、17dは、ポリエチレンやポリプロピレンなどの母材樹脂に対して炭素繊維やアラミド繊維などが一体化したテープである。
【0035】
繊維補強テープ17a、17b、17c、17dの製造長さには限界があるため、それ以上の長さの複層テープ19を得るために、それぞれの繊維補強テープ17a、17b、17c、17dは、長手方向において所定の間隔で突き合せ部23で突き合せられる。なお、突き合せ部23においては、端部同士の間に微小な間隙があっても良い。また、突き合せ部23においては、端部同士が長手方向に所定長さ重ねられていても良い。それぞれの突き合せ部23においては、繊維補強テープ17a、17b、17c、17d同士は接着又は融着しておらず、各層の突き合せ部23は仮接続部材21によって接続される。なお、仮接続部材21による接続によらず、製造時に各繊維補強テープにかかる張力に耐える簡易な接着や融着であっても良い。なお、仮接続部21による接続や、仮接着、仮融着は、製造時における張力に耐え得る程度であれば良く、各繊維補強テープの破断強度に耐える必要はない。例えば、繊維補強テープの破断強度と製造時にかかる張力では100倍程度の差があるため、仮接続部の強度は、繊維補強テープの破断強度の1/100以下の破断強度であってもよい。
すなわち、仮接続部材21で接続された複数の繊維補強テープ17a、17b、17c、17dが重ねられて一体の複層テープ19が構成される。なお、仮接続部材21は、抗張力に寄与する必要がないため、粘着テープなどが適用可能である。
【0036】
図3(b)は、複層テープ19における、各層の繊維補強テープ17a、17b、17c、17dの長手方向の突き合せ部23の位置を示す概念図である。複層テープ19において、各層の繊維補強テープ17a、17b、17c、17dの長手方向の突き合せ部23の位置は、各層によって長手方向に所定のずれ長さ(図中2×Lの長さ)でずれている。ずれ長さ2Lについては詳細を後述する。
【0037】
図4は、複層テープ19が内管7の外周に巻き付けられた状態を示す図である。内圧補強層9は、複層テープ19が内管7の外周部に巻き付けられて構成される。なお、複層テープ19は幅方向の端部同士の間にギャップ25が形成されるようにショートピッチで螺旋状に巻きつけられる。
【0038】
なお、ギャップ25を形成せずに、端部同士を突き合わせて巻き付けてもよく、端部同士がラップするように巻き付けてもよい。但し、重なり部を形成することで、内圧補強層9の外径が大きくなるため、重なり部が形成されない方が望ましい。このため、多少のギャップ25を形成することで、複層テープ19の端部同士の重なり合いを抑制することができる。
【0039】
次に、前述した、複層テープ19の各層における突き合せ部23同士の長手方向のずれ長さについて説明する。内圧補強層9を構成する複層テープ19に働く長手方向の応力は、
σ=P・D/(2t・Fp・sin2φ) (式1)
(Pは内管7の内部の流体の圧力、Dは内管の外径、tは複層テープ19の肉厚、Fpは内管7の表面積に対する複層テープ19の巻き付け面積率(すなわち、ギャップ25を除く複層テープ19で覆われた内管7の表面積/内管7の総表面積)、φは螺旋巻き角度)
で表すことができる。
【0040】
したがって、複層テープ19がn層の繊維補強テープの積層体である場合、その枚数で除することで、繊維補強テープ1枚あたりに必要な破断張力を算出することができる。本実施形態では、n層の繊維補強テープの積層体において、任意の位置で少なくとも(n-1)層の繊維補強テープで複層テープ19に求められる長手方向の破断張力を満足させるものとする。すなわち、繊維補強テープ1枚あたりに必要な破断張力Tは、
T=P’・D・s/((n-1)・2t・Fp・sin2φ) (式2)
(P’は流体輸送管の破壊内圧、sは繊維補強テープの断面積)
となる。
【0041】
ここで、繊維補強テープ同士の静摩擦係数をμとすると、繊維補強テープ同士の接触によって生じる最大摩擦力Fは、
F=μ・N (式3)
で表される。但し、Nは、繊維補強テープに付与される垂直抗力である。
【0042】
ここで、本実施形態のように、繊維補強テープが連続して巻き付けられ、全ての部位に一定の力がかかるとすると、繊維補強テープに付与される垂直抗力Nは、垂直方向の力の総和であって、面圧×面積となる。すなわち、垂直抗力Nは、繊維補強テープ同士の接触面積に比例することとなる。
【0043】
したがって、
垂直抗力N=ρ・S (式4)
(ρは繊維補強テープの面圧、Sは繊維補強テープ同士の接触面積)
と表すことができる。また、
S=l・w (式5)
(lは繊維補強テープ同士の重なり長さ、wは繊維補強テープの幅)
であるため、繊維補強テープの引き抜き力(互いにずれはじめる力)F’は、
F’=μ・ρ・l・w (式6)
で表される。
【0044】
例えば、2枚の繊維補強テープを内管の外周に螺旋状に1周巻き付けて、外側の繊維補強テープの端部を内管7に固定した状態で、内側の繊維補強テープのみを引っ張り出すのに必要な引張力は、同様に2枚の繊維補強テープを内管の外周に螺旋状に2周巻き付けた場合の引張力よりも小さい。このように、繊維補強テープに面圧が全体に付与される場合には、重なり合う長さlによって、引き抜き力が変化する。
【0045】
このため、
l=F’/(μ・ρ・w) (式7)
と表すことができる。ここで、F’が前述した、繊維補強テープ1枚あたりに必要な破断張力T以上となれば、繊維補強テープ同士の摩擦力によって、必要な抗張力を満足することができる。
【0046】
そこで、このような最小限の重なり長さをLとすると、
L≧T/(μ・ρ・w) (式8)
を満足するように重なり長さを設定すれば、当該重なり部において、繊維補強テープに張力が付与された際に、繊維補強テープに要求される最大張力Tが付与されても、繊維補強テープ同士がずれることがなく、確実に耐内圧特性を確保することができる。
【0047】
ここで、繊維補強テープの静摩擦係数μは、JIS K 7125で規定する方法であらかじめ測定することができる。また、Tは、流体輸送管1の仕様及び複層テープ19の巻き付け方法から、前述した式2で算出される。
【0048】
なお、内管7の内部の流体の圧力は、内圧補強層9にそのままかかるわけではないが、内圧によって内管7が膨張し始めると、内管7は内圧補強層9で拘束されるため、内管7の内面にかかる圧力と内管7の外面から外周部の内圧補強層9にかかる圧力とは略同一(ρ=P)となる。このため、内圧補強層9は、内部の流体の圧力に耐え得る設計としておけばよい。
【0049】
同様に、繊維補強テープ同士の垂直抗力の算出においても、各繊維補強テープに最大張力が必要となる状態では、内部の流体の圧力がかかるものとして計算することができる。なお、実際には、繊維補強テープ同士の垂直抗力には、巻き付け時の複層テープ19の張力によって生じる成分も含まれる。このため、繊維補強テープ同士の摩擦力はより大きくなる。しかし、巻き付け時の繊維補強テープ同士の押さえつけ力を無視して設計することで、より安全率が高くなるため、本実施形態では、簡単のために、垂直抗力を内圧によってかかる力とする。
【0050】
なお、内圧の仕様が明らかではない場合には、破壊内圧を以下のようにして定義することもできる。まず、JIS K 7031により、流体輸送管に漏れが確認されるまで内圧の負荷を上げていき、漏れが生じた内圧を、当該流体輸送管の破壊内圧とする。なお。速度は、最高使用圧力の4倍までの加圧時間を60秒とする。また、試料長は、呼び径φ100mm以下のものは試料長500mm以上、呼び径φ100mm~150mmのものは試料長750mm以上、呼び径φ150mm以上のものは試料長1000mm以上とする。
【0051】
このように、繊維補強テープ同士の最小限の重なり長さLを算出することができる。すなわち、Lは、繊維補強テープの静摩擦係数及び流体輸送管の破壊内圧から算出され、それぞれの繊維補強テープに要求される張力以上の摩擦力を得るために必要な繊維補強テープ同士の最小限の重なり長さである。
【0052】
本実施形態では、
図3(b)に示すように、複層テープ19の長手方向に対して、任意の重なり合う繊維補強テープ同士におけるずれ長さが、2L以上である。このようにすることで、複層テープ19の任意の位置において、必要な抗張力を確保することができる。
【0053】
例えば、
図3(b)のA位置における抗張力を検討する。この場合、繊維補強テープ17a、17b、17dは、A位置を境に両側(左右方向)への引張力が付与されても、最も近い突き合せ部23までの長さが十分に長い(L以上の長さ)ため、突き合せ部23の影響を受けることがない。
【0054】
一方、繊維補強テープ17cは、A部の図中左側については繊維補強テープ17a、17b、17dと同様であるが、A部の図中右側については、突き合せ部23までの長さがL未満となる。このため、繊維補強テープ17cを、A部において左右に引張力を付与すると、右側の突き合せ部23までの長さが短く、十分な摩擦力を得ることができないため、突き合せ部23から左側へ繊維補強テープ17cがずれる恐れがある。
【0055】
しかし、本実施形態では、4枚の繊維補強テープの内、少なくとも3枚の繊維補強テープによって抗張力を受け持つことができる。すなわち、n層の複層テープ19の任意の位置において、(n-1)層の繊維補強テープによって張力を負担することができる。このため、(n-1)層の繊維補強テープによって必要な耐内圧特性を確保することができれば、残りの1層の繊維補強テープは張力を負担する必要がなく、当該繊維補強テープの突き合せ部23においても、強固な融着や接着などが不要となる。
【0056】
以上、本実施の形態によれば、流体輸送管1の内圧補強層9が、複数枚の繊維補強テープ17a、17b、17c、17dが積層された複層テープ19を巻きつけることにより形成されるため、軽量であり、また、製造も容易である。このように、従来のような鋼製の凹型部材等を用いた内圧補強層と比較して簡易な構造としても、例えば、常温でも5MPa程度の圧力で液化する液化二酸化炭素などの輸送に用いられる場合等、必要な耐内圧特性を確保できれば十分適用可能である。また、流体輸送管1が軽量となるため、必要な軸力が低減し、軸力補強層11もより簡易なものとすることもできる。
【0057】
また、n層の繊維補強テープの各層の突き合せ部23同士を、複層テープ19の長手方向に対して2L以上離すことで、複層テープ19の長手方向の任意の位置において、少なくとも(n-1)層以上の繊維補強テープにより抗張力を受け持つことができる。このため、任意の位置において、突き合せ部23に最も近い層の繊維補強テープは張力を負担する必要がない。この結果、突き合せ部23は張力を負担する必要がなく、融着や接着などで強固に接続する必要がない。
【0058】
このように、通常、繊維補強テープ同士を繊維補強テープの抗張力以上の強度で融着や接着するのは困難であるが、本発明では、接続部(突き合せ部)に高い抗張力が不要である。このため、製造性も良好である。また、繊維補強テープを仮接続部材21で接続すれば、製造時の長尺の繊維補強テープを送り出して積層するのが容易であり、製造性がさらに良好である。
【0059】
また、突き合せ部23を特殊な接続部材等で接続する必要がないため、複層テープ19の厚みを薄くすることができる。さらに、複層テープ19を、内管7の外周部にギャップをあけて螺旋巻きすることで、複層テープ19同士が重ならないため、内圧補強層9の厚みを薄くすることができる。
【0060】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば、流体輸送管1は、油やガス等の輸送の他、海中でのLNG等の輸送にも利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1………流体輸送管
3………可撓管
5………樹脂層
7………内管
9………内圧補強層
11………軸力補強層
13………保護層
15a、15b、15c、15d………座床層
17a、17b、17c、17d………繊維補強テープ
19………複層テープ
21………仮接続部材
23………突き合せ部
100………油ガス等輸送システム
101………浮体設備
105………流体輸送管
109………海底
111………係留索
117………可撓管
119a、119b、119c、119d………座床層
121………樹脂層
125………内圧補強層
127………軸力補強層
129………保護層