(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】金属合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/02 20060101AFI20231130BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C22C1/02 501Z
C22C1/02 501F
B22D1/00 H
(21)【出願番号】P 2020085390
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂東 慎介
(72)【発明者】
【氏名】今村 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】原 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】石野 裕士
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表昭63-503229(JP,A)
【文献】特開平03-008537(JP,A)
【文献】特開2012-061507(JP,A)
【文献】特開昭63-062829(JP,A)
【文献】特開昭57-019346(JP,A)
【文献】特開2017-087229(JP,A)
【文献】特開平08-300119(JP,A)
【文献】日本伸銅協会,「銅および銅合金の基礎と工業技術」,改訂版 第1刷,日本,日本伸銅協会,1994年10月31日,pp.13-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/02
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希薄元素を含有する金属合金の製造方法であって、
溶融状態の金属材料を一方向に流動させながら当該金属材料に
体積平均粒子径
(D50)で2.0~4.0mmの粒子状の希薄元素を添加する工程を含み、
前記金属合金中の希薄元素の所望する濃度を濃度Dとして、
前記添加する工程において、前記希薄元素の1秒間の添加量M1が、前記濃度Dと、前記一方向に流動する前記金属材料の1秒当たりの流量Fとを用いて算出される、前記希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整し、
前記金属合金中の前記希薄元素の濃度は、10~900質量ppmの濃度である、金属合金の製造方法。
【請求項2】
前記添加する工程において、
溶融状態の前記金属材料は不活性ガスを充満させた樋内を一方向に流動し、
前記希薄元素の添加は、前記樋と連通し鉛直方向上方側に延在する添加路の、鉛直方向上方側の開口部に、ベルトコンベアを用いて搬送した前記希薄元素を当該ベルトコンベアの先端より落下させて投入することにより行う、請求項1に記載の金属合金の製造方法。
【請求項3】
前記希薄元素の添加は、前記希薄元素の濃度が50質量%以下である粒子状の希釈粒子を用いて行う、請求項1または2に記載の金属合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属合金分野においては少量の添加元素を含有させることで、当該元素を添加後の金属合金の物性を向上させることがある。例えば、特許文献1には、結晶を微細化して折り曲げ性及びエッチング性に優れたフレキシブルプリント基板用銅合金箔を得るために、銅に対して、P、Ti、Sn、Ni、Be、Zn、In及びMgの群から選ばれる1種以上の添加元素を合計で0.003~0.825質量%含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような添加元素を少量含有する金属合金(希薄金属合金)は、その製造工程において、添加元素を含有させる前の溶融した状態の金属材料(以下、溶融金属材料とも称す)を、一方向に流動させながら当該溶融金属材料に添加元素を添加させる工程を含むことがある。具体的には、例えば、添加元素を含有させる前の母材としての金属材料を溶融する溶融炉から、当該溶融炉で溶融した溶融金属材料を、少量の添加元素を添加しながら、樋を通じてタンディッシュ炉内に供給し、タンディッシュ炉から鋳造設備へ導き鋳造することで例えばインゴットとして得ることができる(連続鋳造)。そして、このような方法で添加元素を含有する金属合金を製造することで、添加元素を母材中に均一に含有させることができるとともに、銅合金を連続的に効率よく製造することができる。
しかし、近年、金属合金を部品として含む製品では、より高度な性能が要求されており、それに伴い、当該金属合金おいても高いレベルでの物性の均一性が求められている。金属合金の物性の均一性を高めるためには添加元素の添加量をより均一にすることが挙げられるが、特に鉄や銅などの冶金分野では例えば900質量ppm以下の元素の添加により製品の物性が変動するので添加量のばらつきを低減させることが重要となる。
【0005】
そこで、本発明は一実施態様において、物性の均一性をより向上させることが可能な金属合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属合金の製造方法は一実施態様において、希薄元素を含有する金属合金の製造方法であって、溶融状態の金属材料を一方向に流動させながら当該金属材料に希薄元素を添加する工程を含み、前記金属合金中の希薄元素の所望する濃度を濃度Dとするとき、前記添加する工程において、前記希薄元素の1秒間の添加量M1が、前記濃度Dと、前記一方向に流動する前記金属材料の1秒当たりの流量Fとを用いて算出される、前記希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物性の均一性をより向上させることが可能な金属合金の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
本実施形態の金属合金の製造方法は、溶融状態の金属材料(希薄元素を添加する前の金属合金)を一方向に流動させながら、当該金属材料に希薄元素を添加する工程を含む。そして、本実施形態では、金属合金の希薄元素の所望する濃度を濃度Dとするとき、添加する工程において、希薄元素の1秒間の添加量M1が、濃度Dと、一方向に流動する金属材料の1秒当たりの流量Fとを用いて算出される、希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整する。
【0009】
本実施形態において、金属合金とは、希薄元素が添加されたものであれば特に限定されず任意の合金とすることができ、金属合金の態様は、インゴット、合金条、合金箔、金属合金片、等任意にすることができる。また、希薄元素とは、金属合金中に10~900質量ppmの濃度で含まれている任意の元素とすることができ、より具体的には、そのような濃度で含まれる元素において、金属合金中でむらが生じた場合に金属合金の物性の均一性に影響を及ぼすものとすることができる。具体的な希薄元素としては、P、Ag、Fe、Ca、Zr、Cr、Ti、Sn、Ni、Be、Zn、In、Mg、V、Mo、W、Ba、Sr及びYが挙げられる。
また、希薄元素が添加される金属としては、特に限定されず、金属単体(不可避不純物を含む場合もある)や、上記の希薄元素以外の元素が添加された金属合金、とすることもでき、具体的には例えば、銅、カルシウム銅、クロム銅が挙げられる。
【0010】
本実施形態の金属合金の製造方法では、より詳細には、母材としての、希薄元素を添加する前の金属材料を溶融する溶融炉と、当該溶融炉で溶融した金属材料(以下、溶融した金属材料を溶融金属材料とも称す)が一方向に通る樋と、当該樋を通じて溶融金属材料が供給されるタンディッシュ炉と、当該タンディッシュ炉から溶融金属材料が導かれる鋳造装置とを備える製造装置を用いることができる。また、当該製造装置は、樋と連通して鉛直方向上方側に延在する添加路と、当該添加路の鉛直方向上方側の開口部にその先端が位置するベルトコンベアと、を備えることができる。
したがって、このような製造装置を用いた場合には、溶融金属材料を樋中を一方向に(樋の一方から他方へ)流動させながら、添加路の鉛直方向上方側の開口部に対して、ベルトコンベアを用いて搬送した希薄元素を、当該ベルトコンベアの先端より落下させて投入することで、当該溶融金属材料に対して希薄元素を添加することができる。
【0011】
なお、上記の製造装置において、溶融炉は、例えば低周波誘導炉とすることができ、また、無酸素状態で溶融されることが好ましい。
樋は、筒状の通路とすることができ、樋を通る溶融金属材料が酸化することを防止するために、樋内部に窒素ガスなどの不活性ガスを充満(樋内部の下方に溶融金属材料が流れ、その材料上の空間に充満)させることが好ましい。
添加路は、樋と連通する鉛直方向上方側(傾斜していてもよい)に延在する筒状の通路とすることができ、当該添加路の鉛直方向上方側の開口部を有する。ベルトコンベアにより搬送された希薄元素が落下して添加路の内部に入りやすくするために、当該開口部が広がるような形状をしていたり、または、開口部に漏斗が取り付けられていてもよい。
ベルトコンベアは、希薄元素を自動的に搬送するために用いることができ、搬送された希薄元素が、ベルトコンベアの先端より落下して添加路の開口部に投入される。定量的にベルトコンベアで希薄元素を搬送し投入させるため、当該ベルトコンベアは、希薄元素が落下する前後の重さを測定可能な計量機能を有することが好ましい。このような計量機能を有するベルトコンベアは、例えば希薄元素の単位時間当たりの所定の量が投入されるように、ベルト上に載せられた希薄元素の質量変化量を計測することで、希薄元素の投入を調整することができ、具体的には、実際の投入量(質量変化量)が所定の量を超えた場合には、ベルトコンベアによる搬送が一定時間停止することで、希薄元素の投入を調整することができる。
タンディッシュ炉では、溶融金属材料が溜められる炉であり、撹拌されつつ、不純物などを取り除くことができる。希薄元素は、本実施形態では樋を通る溶融金属材料に対して添加することが好ましいが、タンディッシュ炉内の溶融金属材料に対して添加することを妨げない。
鋳造設備は、タンディッシュ炉から一定量の溶融金属材料が導かれ、冷却されることで、金属合金をインゴットとして製造することができる。
【0012】
また、本実施形態の製造方法により製造された金属合金が、インゴットの場合には、上記の鋳造装置を経ることで得ることができ、また、本実施形態の製造方法により製造された金属合金が、合金条や合金箔等の場合には、本実施形態の金属合金の製造方法は、特に限定されず公知の加工工程を含むことができる。
【0013】
ここで、本実施形態では、上述のように、溶融金属材料に希薄元素を添加する工程において、希薄元素の1秒間の添加量M1が、濃度D(インゴットの希薄元素の所望する濃度)と、一方向に流動する溶融金属材料の1秒当たりの流量Fとを用いて算出される、希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整される。
【0014】
なお、「希薄元素の1秒間の添加量M1」とは、実際に、溶融金属材料に対して添加した希薄元素についての1秒間の質量を指す。
また「希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2」とは、金属合金の希薄元素の所望する濃度Dと、一方向に流動する溶融金属材料の1秒当たりの流量Fとを用いて算出され、換言すれば、金属合金中の希薄元素の濃度を所望の濃度Dにするために算出される、溶融金属材料に対して添加する希薄元素についての1秒当たりの質量である。つまり、希薄元素をそのまま(単体で)溶融金属材料に添加する場合には、インゴットの希薄元素の濃度Dは、D=M2/(F+M2)で導き出すことができ、希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2は、M2=D×F/(1-D)となる。したがって、希薄元素の1秒間の添加量M1は、M1<2×M2=2×D×F/(1-D)となる。
また、希薄元素の添加を、後述のように希釈された希釈粒子を用いて行う場合には、希釈粒子の希薄元素の濃度を濃度dとするとき、金属合金の希薄元素の濃度Dは、D=M2/(F+M2/d)で導き出すことができ、希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2は、M2=D×F/(1-D/d)となる。したがって、希薄元素の1秒間の添加量M1は、M1<2×M2=2×D×F/(1-D/d)となる。
上記の溶融金属材料の流量Fは、任意の方法で行うことができる。
【0015】
そして、本実施形態において、希薄元素の1秒間の添加量M1を、希薄元素の1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整することにより、得られた金属合金の希薄元素の濃度のばらつきを低減し、物性の均一性をより向上させることできる。
すなわち、1秒間の添加量M1が1秒当たりの理論添加量M2の2倍を超える場合には、溶融金属材料中において希薄元素の濃度が大きくなりすぎた部分が生じ得る。また同時に、1秒間の添加量M1が多すぎた場合には、次の1秒間での希薄元素の添加量M1が0になるように調整したり、或いは、次の数秒間にわたって、希薄元素の添加量M1を継続的に低減するように調整したりすることとなるが、そのように添加量M1が低減することで、溶融金属材料中において、上記のように希薄元素の濃度が大きくなりすぎた部分に加えて、希薄元素の濃度が低くなりすぎた部分が生じ得る。したがって、希薄元素の1秒間の添加量M1を、1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整することにより、溶融金属材料中のこのような希薄元素のむらが低減されるので、金属合金中の希薄元素の濃度のばらつきを低減することができる。
【0016】
ここで、本実施形態のインゴットの製造方法において、希薄元素の1秒間の添加量M1が、1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整する方法としては、下記の方法が挙げられる。
すなわち、希薄元素の1秒間の添加量M1を1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整する方法としては、金属合金の製造装置において、樋中を流動する溶融金属材料中に、添加路を通じて投入するためのベルトコンベアのベルト幅(ベルトの進行方向に直交する方向の長さ)を比較的小さくする方法が挙げられる。すなわち、ベルトコンベアのベルト幅が大きい場合には、幅方向に広く希薄元素が載った状態で搬送され、それにより、希薄元素が、ベルトコンベアの先端から添加路の開口部に一度に多く落下し、添加量が多くなる傾向(先端から、幅方向に並んだ希薄元素が一度に多く落下する傾向)がある。しかし、ベルト幅を小さくすることにより、ベルトコンベアの先端から添加路の開口部に落下する希薄元素を小さくすることができ、希薄元素の1秒間の添加量M1を調整しやすくすることができる。
【0017】
また、上記方法以外の方法としては、希薄元素が後述のように粒子状である場合には、希薄元素の粒子径を比較的小さくする方法が挙げられる。希薄元素の粒子径を小さくすることにより、希薄元素が、ベルトコンベアの先端から添加路の開口部に落下する際、粒子径が小さいので少しずつ落下することとなり(先端から、希薄元素が一度に多く落下しせず)、希薄元素の1秒間の添加量M1を調整しやすくすることができる。
【0018】
さらに、上記方法以外の方法としては、ベルトコンベアを用いて搬送した希薄元素を落下させて投入する際、添加路の開口部に対して、気体、より好ましくは窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込む方法が挙げられる。具体的には、希薄元素を、樋中を流動する溶融金属材料中に、添加路を通じて投入する際、添加路内には、溶融金属材料の熱により上昇気流が発生し得、それにより希薄元素の添加路内での落下にむらが生じるおそれがある。しかし、添加路の開口部に対して気体を吹き込むことにより、より安定して希薄元素を落下させることができる。また、特に、本実施形態において、不活性ガスを樋内に充満させた状態で材料を流動させた場合には、当該ガスが添加路内を逆流するおそれがあることから、添加路の開口部に対して、気体を吹き込むことにより、より安定して希薄元素を落下させることができる。また、不活性ガスを用いた場合には、希薄元素の酸化を防止することもできる。
【0019】
以上、本実施形態における、希薄元素の1秒間の添加量M1を、1秒当たりの理論添加量M2の2倍未満になるように調整する方法を例示したが、本実施形態のインゴットの製造方法において調整する方法は、上記に限らず任意の方法を採用することができ、また、調整する方法は、上記の方法のいずれか1つまたは組み合わせて採用することができる。
【0020】
ところで、本実施形態において、希薄元素の添加は、粒子状である希薄元素を用いて行うことが好ましい。粒子状の希薄元素を用いることにより、適切に希薄元素の1秒間の添加量M1を調整しやすくすることができ、また、希釈粒子を用いることにより、投入量が嵩増しされ、希薄元素の1秒間の添加量M1をさらに調整しやすくすることができる。また、希薄元素の例えば酸化などの化学変化を抑制し、希薄元素の取り扱い性も向上させることができる。
【0021】
なお、粒子径としては、2.0~4.0mmであることが好ましい。なお粒子径は、体積平均粒子径であり体積粒子径分布の50%の値(D50)を指す。
粒子径が2.0mm未満では、溶融金属材料に対して速やかに溶解させられる点で有利であるが、搬送において塊になりやすく、1秒間の添加量M1を調整しにくい傾向がある。また、粒子径が1.0mm未満では、酸化するおそれがあったり、気流の影響を受けるおそれが生じる。一方、粒子径が4.0mmを超えると、取り扱いが容易であるが、1秒間の添加量M1を調整しにくい傾向がある。
【0022】
また、希釈粒子としては、特に限定されないが、希薄元素の濃度dが50質量%以下であるものが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。このような範囲にすることにより、投入量を嵩増して1秒間の添加量M1を調整することができる。
【0023】
さらに、金属合金が希薄元素以外の添加元素を含む場合には、本実施形態において希薄元素以外の添加元素の添加は、希薄元素の添加方法のように添加路を用いて添加したり、溶融炉で溶融させる材料自体が当該添加元素を含むものとしたり、或いは、タンディッシュ炉内に添加元素を添加することにより、行うことができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の金属合金の製造方法は、上記例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、物性の均一性をより向上させることが可能な金属合金の製造方法を提供することができる。