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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】電気・電子機器用部品
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20231130BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20231130BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20231130BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20231130BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20231130BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20231130BHJP
   H05K 7/06 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B23K26/21 E
C22C9/00
C22C9/02
C22C9/04
C22C9/06
C22C9/10
B23K26/21 N
H05K7/06 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020097954
(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公開番号】P2021186865
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】檀上 翔一
(72)【発明者】
【氏名】川田 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】秋谷 俊太
(72)【発明者】
【氏名】葛原 颯己
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/129219(WO,A1)
【文献】特開2012-246549(JP,A)
【文献】特開2013-40389(JP,A)
【文献】特開2014-161862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90質量%以上のCuを含有する複数の板材で構成され、
前記複数の板材同士を、互いに突き合わせた状態又は重ね合わせた状態で線状に接合して一体化する溶接部を有し、
溶接方向をX軸方向、溶接方向に対して垂直な方向をY軸方向、板材法線方向をZ軸方向とし、前記溶接部を前記Y軸方向と前記Z軸方向を含むYZ面の断面で見て、前記溶接部の前記YZ面に存在する結晶粒の方位を、前記Z軸方向に垂直な結晶面の面指数(hkl)と、前記X軸に平行な結晶方向の方向指数[uvw]とを用いて(hkl)[uvw]の形で示し、等価な面・方位については{hkl}<uvw>の形で示しているときに、
前記YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域では、前記YZ面に存在する全結晶粒に対する{100}<001>で示される結晶粒の面積率が、3%以上である、
電気・電子機器用部品。
【請求項2】
前記溶接部を、溶接した前記板材の表面側から前記Y軸方向に沿って測定したときの長さを溶接幅とするとき、
前記YZ面で見て、前記溶接幅の中点位置を通る垂直2等分線を中心位置とする前記溶接幅のY軸方向の40%の幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さと、で囲まれる領域に存在する全結晶粒に対する{100}<001>で示される結晶粒の面積率が20%以上である、
請求項1に記載の電気・電子機器用部品。
【請求項3】
前記板材が、Ag、Fe、Ni、Co、Si、Cr、Sn、Zn、MgおよびPからなる群より選択される1種以上の元素を含む、
請求項1又は2に記載の電気・電子機器用部品。
【請求項4】
前記板材が、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物である、
請求項1、2又は3に記載の電気・電子機器用部品。
【請求項5】
前記電気・電子機器用部品がベーパーチャンバである、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気・電子機器用部品。
【請求項6】
前記電気・電子機器用部品がバスバーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気・電子機器用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器の高機能化、高性能化によって発熱量が増加する傾向がある。また、電気・電子機器の小型化が進むことで、発熱密度が増加するため、発生した熱を冷却することが重要になってきている。発生した熱を冷却するための部材としては、例えば、面状のヒートパイプであるベーパーチャンバが挙げられる。ベーパーチャンバの素材としては、高い熱伝導率を有する銅系材料(銅、銅合金)を用いることが望まれる。
【0003】
ここで、ベーパーチャンバは、2枚の板を重ねた状態で外周部を接合して形成した内部空間に作動液を入れ、その後、減圧封入することによって接合された密閉構造を有する。かかる接合方法としては、例えば、レーザ溶接、抵抗溶接、拡散接合、TIG溶接が挙げられる。
これら溶接で接合される場合、溶接部は、高温に加熱されることにより一度融解させた後に再凝固させることによって形成されるため、板材に焼きなましをした場合と同様、軟質化して、板材自体の強度よりも軟質化して強度が低くなるという問題がある。強度が低くなると、変形しやすくなる。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、複数の部品を拡散接合やろう付けで接合してベーパーチャンバを製造する方法において、筐体の素材として析出硬化型銅合金を用い、時効処理して析出硬化させることで、筐体の強度等を向上させる技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1の技術では、析出硬化型銅合金を用いる必要があり、非析出型銅合金や、純銅には適用できないという問題がある。また、特許文献1の技術では、時効処理を行う必要があり、工程数増加に伴う生産性の低下が生じるという問題がある。
このため、析出硬化型銅合金を用い時効処理して析出硬化させる方法以外の方法によって、溶接部の強度を高くすることが望まれる。
【0005】
上述した溶接部の強度が低くなるという問題は、ベーパーチャンバに限らず、バスバー等のその他の電気・電子機器においても同様に存在する。
【0006】
なお、特許文献2には、レーザを特定の軌跡で照射することにより、接合強度を向上させる技術が開示されているが、特許文献2の技術は、アルミと銅との接合に関する技術であり、銅系材料同士の接合には適用し難い。詳述すると、銅系材料は、熱伝導率が高いため熱が逃げやすく、また、レーザ光が反射しやすいため、銅系材料は、レーザ溶接による接合をし難い材料である。このため、特許文献2のように、レーザ光を用いた単純な溶接では、接合強度が低く十分に接合できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/199219号
【文献】特開2017-168340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、従来の技術では、接合した溶接部の剛性と曲げ戻し加工に優れた特性を備える電気・電子機器用部品を提供することが困難であるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ベーパーチャンバやバスバーなどの溶接部を有する電気・電子機器用部品において、溶接部の結晶組織の配向を制御することによって、剛性があり、かつ、溶接部の曲げ戻し加工に優れた電気・電子機器用部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、90質量%以上のCuを含有する組成の板材と、レーザ溶接装置のレーザ光を制御することで、溶接した部分の結晶粒の面および方位を制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)90質量%以上のCuを含有する複数の板材で構成され、前記複数の板材同士を、互いに突き合わせた状態又は重ね合わせた状態で線状に接合して一体化する溶接部を有し、溶接方向をX軸方向、溶接方向に対して垂直な方向をY軸方向、板材法線方向をZ軸とし、前記溶接部をY軸とZ軸を含むYZ面の断面で見て、前記溶接部の前記YZ面に存在する結晶粒の方位を、前記Z軸に垂直な結晶面の面指数(hkl)と前記X軸に平行な結晶方向の方向指数[uvw]とを用いて(hkl)[uvw]の形で示し、Cuの立方晶の対称性のもとで等価な方位については、{hkl}<uvw>と示したとき、前記YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域では、前記YZ面に存在する全結晶粒に対する、{100}<001>で示される方位の結晶粒の面積率が3%以上である、電気・電子機器用部品。
(2)前記溶接部を、溶接した前記板材の表面側から前記Y軸方向に沿って測定したときの長さを溶接幅とするとき、前記溶接部を前記YZ面で見て、前記溶接幅の中点位置を通る垂直2等分線を中心位置とする前記溶接幅のY軸方向の40%の幅と、溶接幅に同じ長さのZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域に存在する全結晶粒に対する、{100}<001>で示される方位の結晶粒の面積率が20%以上である、(1)に記載の電気・電子機器用部品。
(3)前記板材が、Ag、Fe、Ni、Co、Si、Cr、Sn、Zn、MgおよびPからなる群より選択される1種以上の元素を含む、(1)又は(2)に記載の電気・電子機器用部品。
(4)前記板材が、99.96質量%以上のCuおよび不可避不純物である、(1)、(2)又は(3)に記載の電気・電子機器用部品。
(5)前記電気・電子機器用部品がベーパーチャンバである、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の電気・電子機器用部品。
(6)前記電気・電子機器用部品がバスバーである、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の電気・電子機器用部品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベーパーチャンバやバスバーなどの溶接部を有する電気・電子機器用部品において、溶接部の結晶組織の配向を制御することによって、剛性があり、かつ、溶接部での曲げ戻し加工に優れた電気・電子機器用部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は、2枚のCu板材を突き合わせた状態で線状に接合したときの概略斜視図であり、(b)は、2枚のCu板材を重ね合わせた状態で線状に接合したときの概略斜視図である。
図2】突き合わせたCu板材を接合したCu部材の表面状態をZ軸上から観察したときの光学顕微鏡写真である。
図3】接合したCu板材の断面状態をX軸上から観察したときの光学顕微鏡写真である。
図4】Cu板材を接合したCu部材のYZ面の断面の結晶粒の方位の分布を示す図である。
図5】Cu板材を接合したCu部材のYZ面の溶接部を示す拡大図である。
図6】レーザ溶接装置の概略構成を示す図である。
図7】レーザ溶接装置のレーザ光のスポット径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明は、本発明における実施の形態の一例であって、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0015】
(結晶粒の面積率)
本発明の実施形態となる電気・電子機器用部品は、90質量%以上のCuを含有する複数の板材で構成され、複数の板材同士を、互いに突き合わせた状態又は重ね合わせた状態で線状に接合して一体化する溶接部を有し、溶接方向をX軸方向、溶接方向に対して垂直な方向をY軸方向、板材法線方向をZ軸方向とし、溶接部をY軸方向とZ軸方向を含むYZ面の断面で見て、溶接部のYZ面に存在する結晶粒の方位を、Z軸方向に垂直な結晶面の面指数(hkl)と、X軸に平行な結晶方向の方向指数[uvw]とを用いて(hkl)[uvw]の形で示し、また、(100)[001]と(001)[100]などのように、銅合金の立方晶の対称性のもとで等価な方位については、ファミリーを表すカッコ記号を使用し、{hkl}<uvw>と示したとき、YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域では、YZ面に存在する全結晶粒に対する、{100}<001>で示される方位の結晶粒の面積率が3%以上とする。
【0016】
(接合状態)
図1(a)は、2枚のCu板材111、112を突き合わせた状態で線状にレーザ溶接してCu部材10(2枚のCu板材の接合体)を形成したときの概略斜視図であり、図1(b)は、2枚のCu板材111、112を重ね合わせた状態で線状にレーザ溶接してCu部材10を形成したときの概略斜視図である。図1(a)に示す実施態様では、Cu板材111、112同士を突き合わせた状態で線状に接合して一体化する溶接部13を有し、その部分をレーザ溶接で接合している。また、図1(b)に示す実施態様では、Cu板材111、112を重ね合わせた状態で一体化する溶接部13Aを有し、その部分をレーザ溶接で接合している。なお、重ね合わせて溶接したCu部材では、接合されたY軸方向の接合幅が表面の溶接幅の1/2以上になるようにする。板材同士の接合幅が、溶接幅の1/2以上にならないと、十分な強度が得られない。なお、ここでいう「Cu板材」とは、90質量%以上のCu(銅)を含有する板材を意味する。
【0017】
(接合部分の写真)
図2は、突き合わせたCu板材を接合したCu部材の表面状態を示す写真である。X軸方向がレーザ掃引方向であることを示している。また、レーザ光の照射を受けて、Cu板材の圧延の加工痕が消滅している部分があることが分かる。Cu板材が、溶接幅を有する溶接した板材の表面で、Y軸方向に沿った領域を溶接部と称している。図3は、レーザ溶接したCu板材の断面状態を示す光学顕微鏡写真である。図3に示すように、レーザ光を受けて溶融し接合した溶接部分を溶接幅と表している。図3からの断面図から見ても、溶接幅を認めることができる。図2で示されるレーザ溶接の痕の幅を本発明における溶接幅と規定し、また点線状の断面の測定位置で切断し、断面組織の観察を行った。断面における結晶粒の結晶方位の観察結果を次に示している。
【0018】
(接合部分の結晶方位)
図4は、Cu板材を接合したCu部材の断面の結晶粒の方位の分布を示す図である。図4では、各結晶粒の配向をグレースケールで示しているとともに、{100}<001>で示される結晶粒は濃いグレースケールで示している。これにより、図4から、溶接幅中央で{100}<001>で示される結晶粒が集中していることが認められる。特に、YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、レーザ照射側の板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域では、YZ面に存在する全結晶粒に対する、{100}<001>で示される方位の結晶粒の面積率が3%以上の面積を占有していることが読み取れる。
【0019】
(結晶方位の測定)
結晶方位の測定は、EBSD法を用いた。EBSD法(Electron BackScatter Diffraction:電子後方散乱回折法)とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。測定面積およびスキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて決定すればよい。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。なお、溶接部断面とは、溶接方向(すなわち溶接レーザの掃引方向)をX軸、溶接方向と垂直な方向をY軸、板材法線方向をZ軸とした時のYZ面を示し、溶接方向に1mmの間隔で切断した5つのYZ面で測定し、その測定結果の平均値を{100}<001>の方位を有する結晶粒の面積率とした。また、結晶粒内の許容角度(Grain Tolerance Angle)は10°とした。一般的には、結晶粒界は隣接結晶粒間の方位差により、方位差10°以上あれば結晶粒界を形成していると考えられている。したがって、その角度10°以内であれば、結晶粒界のない一つの結晶粒と判断することができる。
【0020】
(測定する領域)
図5は、Cu板材を接合したCu部材のYZ面の溶接部を示す拡大図である。
EBSD法の測定に関して詳述すると、図1のように、2枚のCu板材111、112を互いに突き合わせた状態で線状に接合して一体化する溶接部13を有する場合は、溶接方向をX軸方向(レーザ掃引方向)、溶接方向に対して垂直な方向をY軸方向(板材の幅方向)、板材法線方向をZ軸方向(板材の厚さ方向)とする。
EBSD法の測定は、図2の点線状の断面観察位置で切断し、断面となるYZ面の組織の観察を行った。図5に断面の詳細を示している。ここでは、YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域の組織観察を行った。
したがって、測定する領域は、Cu板材表面からY軸方向における溶接幅と、Cu板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域であり、板厚が溶接幅よりも小さい場合は溶接幅とZ軸方向に沿った全部の領域とする。これは、板厚が溶接幅より大きい場合には、実際の曲げ戻し加工によりクラックが入るかは、表面の結晶粒の粗大な部分がクラックに関係している。したがって、表面のクラックに影響しない範囲まで測定しても、結晶粒の配向とクラックとの間に相関がなくなることから、Cu板材の表面のクラックに影響する範囲を測定し、規定することとした。
【0021】
また、図5(b)に示すように、同様に、2枚のCu板材111、112を重ね合わせしてレーザ溶接した場合の断面組織の観察範囲も同様に表すことができる。すなわち、測定する領域は、YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域であり、2枚の板材の厚さの和が溶接幅よりも小さい場合は、溶接幅とZ軸方向に沿った領域である。ただし、重ね合わせた接合では、上下の板材1、2が溶接幅の(1/2)以上の幅で接合していることが必要となる。十分な接合強度を得るために、突き合せた場合は突き合せた板の厚さ方向全てが接合されており、重ね合わせの場合は重ね合った板が溶接で接合されたY軸方向の幅が表面の溶接幅の1/2以上にする。
【0022】
断面の結晶方位の測定領域は、以下の理由によって限定している。
Cu板材の溶接部の中央におけるYZ面の領域では、レーザ光によって金属Cuが溶融し、空冷による冷却で再結晶化している。そのために、溶接前の金属組織と異なる金属組織となる。特に、結晶粒は粗大化して、結晶粒径が大きくなっている。一般には、結晶粒径が小さいほど結晶粒界が亀裂・破損の障害となって、曲げ戻し加工が良好になる。したがって、結晶粒径が大きくなることは曲げ戻し加工が低下する原因となる。しかし、{100}<001>で示される方位の結晶粒が多くなると、板状の場合に負荷される応力の方向がCu金属のすべり面・すべり方向と異なってくることで、曲げ戻し加工の低下を防止することができる。
さらに、Cu部材の表面にある粗大な結晶粒が曲げ戻し加工によりクラックに繋がることが多い。したがって、表面より溶接幅と同じ長さの深さ方向に測定し、その面積率を規定している。溶接幅と同じ長さの深さより深い位置では、熱の影響による結晶粒の粗大化が少ないし、実用上の曲げ戻し加工によるクラックへの寄与も大きくない。したがって、Cu部材の表面近傍を測定することが重要であり、Z軸方向に溶接幅と同じ長さとしていることで曲げ戻し加工を実用に合わせて評価することができる。
【0023】
(溶接幅領域の結晶粒の面積率)
また、図4に示すように、電気・電子機器用部品におけるCu板材は、溶接した板材の表面側からY軸方向に沿って測定したときの長さを溶接幅とするとき、前記YZ面で見て、前記溶接幅の中点位置を通る垂直2等分線を中心位置とする前記溶接幅のY軸方向の40%の幅と、溶接幅に同じ長さのZ軸方向の深さとで囲まれる領域に存在する全結晶粒に対して、{100}<001>で示される結晶粒の面積率が20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。ここで、Z軸方向の深さは、Y軸方向に沿っている溶接幅に同じ長さの深さとする。
2枚のCu板材を突き合せた状態で接合部分を線状にレーザ溶接した場合、Cu部材として最も不安定な部分であり、この領域における結晶粒の配向を結晶粒の面積率が20%以上で制御することで、曲げ戻し加工に優れたものとすることができる。
また、2枚のCu板材を重ね合わせた状態で線状にレーザ溶接した場合であっても、溶接幅の1/2以上の接合幅内であって、かつ、溶接幅のY軸方向の40%の幅の領域における結晶粒の配向を結晶粒の面積率が20%以上で制御することで、さらに曲げ戻し加工に優れたものとすることができる。
【0024】
この電気・電子機器用部品に用いるCu板材は、90質量%以上のCu板材を用いることで熱伝導率を備えることができる。もともと、Cuは高い熱伝導率を備えているが、添加元素が多くなり、また、第2相が現れることで熱伝導率が低下する。したがって、本実施形態の電気・電子機器用部品に用いるCu板材は、90質量%以上のCuを含有することで、熱伝導率の低下を抑え、曲げ戻し加工に優れたものとすることができる。
【0025】
(Cu板材の材質)
ここで、の90質量%以上のCuとは、90質量%以上のCuを含有する板材であればよく、純CuでもいずれのCu合金でもよく、特に限定はしない。板材がCu合金の場合には、90質量%以上のCuを含有し、Ag、Fe、Ni、Co、Si、Cr、Sn、Zn、Mg、Pから選ばれ1種以上の元素を含む成分組成を有することが好ましい。または、板材が純Cuの場合には、99.96%以上のCuかつCd、Mg、Pb、Sn、Cr、Bi、Se、Teが合計5ppm以下かつ、Ag、Oの合計が400ppm以下である成分組成を有することが好ましい。純Cuでは、熱伝導率に優れているため放熱・冷却部材として優れた性能を発揮することができる。なお、いわゆる純Cuは、電気銅、無酸素銅(OFC)、TPC等を例に挙げることができる。
【0026】
(Cu板材の形状)
また、本発明でいう「板材」とは、所定の形状、例えば、板、条、箔、棒、線などに加工されたものであって、所定の厚みを有する形状のものであって、広義には条材を含む意味である。本発明において、板材の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05~1.0mm、さらに好ましくは0.1~0.8mmである。
【0027】
板材がCu合金の場合の成分組成の限定理由を説明する。
(1)板材がCu合金である場合
板材は、Ag、Fe、Ni、Co、Si、Cr、Sn、Zn、MgおよびPからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが好ましい。
【0028】
(Ag:0.05~5.00質量%)
Ag(銀)は、耐熱性を向上させる作用を有する成分であり、かかる作用を発揮させる場合には、Ag含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。また、Ag含有量の上限については特に設ける必要はないが、Agは高価であるため、材料コストの観点から、Ag含有量の上限を5.00質量%とすることが好ましい。
【0029】
(Fe:0.05~0.50質量%)
Fe(鉄)は、導電率、強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Fe含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。しかしながら、Feを0.50質量%より多く含有させても、それ以上の向上効果が期待できず、さらに導電率や熱伝導率が低下する傾向がある。このため、Fe含有量は、0.05~0.50質量%とすることが好ましい。
【0030】
(Ni:0.05~5.00質量%)
Ni(ニッケル)は、Cuの母相(マトリクス)中に、単体またはSiとの化合物からなる第二相粒子の析出物として、例えば50~500nm程度の大きさで微細析出し、この析出物が転位移動を抑制することにより析出硬化させ、さらに、粒成長が抑制されて結晶粒の微細化によって材料強度を上昇させるとともに、曲げ戻し加工に優れたものとする作用を有する重要な成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Ni含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が5.00質量%を超えると、導電率および熱伝導率の低下が顕著になることから、Ni含有量の上限は5.00質量%とすることが好ましい。
【0031】
(Co:0.05~2.00質量%)
Co(コバルト)は、Cuの母相(マトリクス)中に、単体またはSiとの化合物からなる第二相粒子の析出物として、例えば50~500nm程度の大きさで微細析出し、この析出物が転位移動を抑制することにより析出硬化させ、さらに、粒成長が抑制されて結晶粒の微細化によって材料強度を上昇させるとともに、曲げ戻し加工に優れたものとする作用を有する重要な成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Co含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Co含有量が2.00量%を超えると、導電率および熱伝導率の低下が顕著になることから、Co含有量の上限は2.00質量%以下にすることが好ましい。
【0032】
(Si:0.05~1.10質量%)
Si(珪素)は、Cuの母相(マトリクス)中に、CoやCrなどとともに化合物からなる第二相粒子の析出物として微細析出し、この析出物が転位移動を抑制することにより析出硬化させ、さらに、粒成長が抑制されて結晶粒の微細化によって材料強度を上昇させる作用を有する重要な成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Si含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が1.10質量%を超えると、導電率の低下が顕著になって、30%IACS超えの導電率が得られなくなることから、Si含有量の上限は1.10質量%にすることが好ましい。
【0033】
(Cr:0.05~0.50質量%)
Cr(クロム)は、Cuの母相(マトリクス)中に、化合物や単体として、例えば50~500nm程度の大きさの析出物の形で微細析出し、この析出物が転位移動を抑制することにより析出硬化させ、さらに、粒成長が抑制されて結晶粒の微細化によって材料強度を上昇させるとともに、曲げ戻し加工に優れたものとする作用を有する成分である。この作用を発揮させる場合には、Cr含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。また、Cr含有量が0.50質量%を超えると、導電率および熱伝導率の低下が顕著になることから、Cr含有量は、0.05~0.50質量%とすることが好ましい。
【0034】
(Sn:0.05~9.50質量%)
Sn(錫)は、Cuの母相(マトリクス)中に固溶し、Cu合金の強度向上に寄与する成分であり、Sn含有量は0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Sn含有量が9.50質量%を超えると脆化が生じやすくなる。このため、Sn含有量は0.05~9.50質量%とすることが好ましい。また、Snの含有は、導電率および熱伝導率を低下させる傾向があることから、導電率及び熱伝導率の低下を抑制する場合には、Sn含有量を0.05~0.50質量%とするのがより好ましい。
【0035】
(Zn:0.05~0.50質量%)
Zn(亜鉛)は、曲げ戻し加工に優れたものにするとともに、Snめっきやはんだめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Zn含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Zn含有量が0.50質量%を超えると、導電性や熱伝導率が低下する傾向がある。このため、Zn含有量は、0.05~0.50質量%とすることが好ましい。
【0036】
(Mg:0.01~0.50質量%)
Mg(マグネシウム)は、耐応力緩和特性を向上させる作用を有する成分である。かかる作用を発揮させる場合には、Mg含有量を0.01質量%以上とすることが好ましい。一方、Mg含有量が0.50質量%を超えると、導電率や熱伝導率が低下する傾向がある。このため、Mg含有量は、0.01~0.50質量%とすることが好ましい。
【0037】
(P:0.01~0.50質量%)
P(リン)はCu合金の脱酸材として寄与するだけでなく、化合物として20~500nm程度の大きさの析出物の形で微細析出し、この析出物が転位移動を抑制することにより析出硬化させ、さらに、粒成長が抑制されて結晶粒の微細化によって材料強度を上昇させることができる。かかる作用を発揮させるためにはP含有量を0.01質量%以上とすることが好ましい。一方、P含有量が0.50質量%を超えると、板材成形時の熱間加工で割れが生じやすくなる傾向がある。このため、P含有量は、0.01~0.50質量%とする。
【0038】
(2)板材が純Cuである場合
板材は、99.96%以上のCuかつ、不可避不純物として、たとえばCd、Mg、Pb、Sn、Cr、Bi、Se、Teが合計5ppm以下かつ、Ag、Oがそれぞれ400ppm以下である成分組成を有する純Cuであることが好ましい。
【0039】
(電気・電子機器用部品の製造方法)
本発明の一実施形態である電気・電子機器用部品の製造方法は、90質量%以上のCuを含有する複数の板材同士を、互いに突き合わせた状態又は重ね合わせた状態にセットした後に、複数の板材同士の被接合ライン上に沿って、400~500nmの波長を有する第1レーザ光を100~500μmのスポット径で照射した後に、800~1200nmの波長を有する第2レーザ光を10~300μmのスポット径で照射して、複数の板材同士を線状に接合して一体化する溶接工程を含み、溶接工程では、第1レーザ光の照射走査方向のスポット径の先端が、被接合ライン上の任意の位置である第1位置を通過してから、第2レーザ光の照射走査方向のスポット径の先端が第1位置を通過するまでの通過時間差は、50~1500μsecである。
このように、レーザ光が400nm以上500nm以下の波長をもつ第1レーザ光を100から500μmのスポット径で照射し、かつ、800nm以上かつ1200nm以下の波長をもつ第2レーザ光を10から300μmのスポット径で照射することで、従来困難であったCu板材の溶接を容易にさせた上、異なる波長及びスポット径のレーザ光を用いて、かつ、第1レーザ光の進行方向のスポット径先端と第2レーザ光の進行方向のスポット径先端の通過時間差を50μsec以上1500μsec以下にすることで、{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上を有する曲げ戻し加工に優れた溶接部の金属組織を得ることができる。
【0040】
(レーザ溶接法)
レーザ溶接法は、指向性や集中性の良い波長の光をレンズで集め、きわめて高いエネルギー密度のレーザ光を熱源とする溶接方法である。レーザ光の出力を調整することで、深さに対して幅の狭い溶込み溶接も可能である。また、レーザ光は、アーク溶接のアークに比べてきわめて小さく絞り込むことができる。集光レンズにより高密度化されたエネルギーで、レーザ溶接装置は局所の溶接や融点の異なる材料の接合が可能である。溶接による熱影響が少なく溶接の模様は細く、加工反力も発生しないため、微細な溶接にも向いている。
【0041】
(レーザ溶接装置)
図7は、レーザ溶接装置の概略構成の一例を示す図である。レーザ溶接装置20は、制御部21、発振器221、222、レーザヘッド29、加工台、ガス供給ノズル30を備えている。加工台上に被加工材であるCu板材111、112を突き合わせた状態又は重ね合わせた状態にして配置する。制御部21は、レーザ光を発振する発振器22、図示しないスキャナ、レーザヘッド29、加工台等の制御を行う。制御部21は、例えば、図示しないX軸モータ及びY軸モータの回転を制御することによって、被加工材であるCu板材111、112の進路方向を制御する。また、制御部21は、レーザ光231、232を移動させ制御するものであってもよい。これは、被加工材の大きさによって適宜選択することができる。制御部21は、第1及び第2発振器221、222から発振される複数の第1及び第2レーザ光231、232の発振を制御する。発振した第1及び第2レーザ光231、232は、グラスファイバー25を通して、レーザヘッド29内の第1及び第2集光レンズ261、262によって平行な光に集められる。この第1及び第2レーザ光231、232を第1及び第2ミラー271、272で加工台の方向に変更し、この第1及び第2レーザ光231、232を集束レンズ28でCu板材の接合部に収束して照射させることで、溶接を実施する。このときに、ガス供給ノズル30から、第1及び第2レーザ光231、232による加熱によって生ずる酸化を防止するために、不活性ガスを供給する。不活性ガスは、アルゴン、ヘリウム等から適宜選択することができる。
【0042】
レーザは溶接用のレーザとして公知のものの中から適宜選択することができる。レーザの一例としてCOレーザ、Nd:YAGレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザなどが挙げられる。出力やレーザ光の集光性などの点からファイバレーザを用いることが好ましい。レーザ溶接装置のその他の構成は、従来公知のあらゆる構成から選択することができる。
【0043】
(レーザ溶接)
図7は、レーザ溶接装置のレーザ光のスポット径を示す図である。図7に示すように、レーザ光が400nm以上500nm以下の波長をもつ第1レーザ光231を100から500μmのスポット径で照射する。そして、800nm以上かつ1200nm以下の波長をもつ第2レーザ光232を10から300μmのスポット径で照射する。複数のレーザ光を同時に照射することで、従来困難であったCu板材を容易に溶接することが可能になった。その上、異なる波長、異なるスポット径の複数のレーザ光を用いて、かつ、第1レーザ光231の進行方向のスポット径先端と第2レーザ光232の進行方向のスポット径先端の通過時間差を50μsec以上1500μsec以下にする。これにより、{100}<001>で示される方位の結晶粒の面積率が3%以上を有する曲げ戻し加工に優れた溶接部を得ることができる。なお、本発明の実施例では十分な接合強度を得るために、突き合せた場合は突き合せた板の厚さ方向全てが接合されており、重ね合わせの場合は重ね合った板が溶接で接合されたY軸方向の幅が表面の溶接幅の1/2以上になるように製造した。
【0044】
また、電気・電子機器用部品の製造方法における溶接工程では、図7に示すように、第1レーザ光231の照射走査方向のスポット径211の先端が接合箇所を通過してから、第2レーザ光232の照射走査方向のスポット径212の先端が、第1レーザ光231が通過した接合箇所と同じ位置P1を通過するまでの通過時間差が、50~1500μsecである電気・電子機器用部品の製造方法である。ここで「通過時間差」とは、図7(a)に示すように、第1レーザ光231のスポット径211の先端が、Cu部材のある地点P1を通過した時点から、図7(b)に示すように、第2レーザ光232のスポット径212が地点P1を通過するまでの時間差を示している。
【0045】
本発明の電気・電子機器用部品は、複数の板材を、互いに突き合わせ又は重ね合わせた状態にセットした後に、複数の板材同士の接合箇所に、第1及び第2レーザ光231、232で照射して、複数の板材同士を線状に接合して一体化する。Cu板材表面のみ効率よく浸透する第1レーザ光231を第2レーザ光232より広い範囲でCu板材を予熱させ、予熱が冷める前にCu板材に深く浸透する第2レーザ光232を照射することで、ブローホールや内部欠陥などの不良がほぼ生じない溶接加工を施すことができる。
【0046】
第1及び第2レーザ光231、232の波長及びスポット径の範囲外であると、表面品質が低下したり、溶接ができなかったりするため、不適当である。また、第1レーザ光231による予熱を制御すると、第2レーザ光232で板材を溶融、凝固させる際の冷却速度に影響を与えており、鋭意検討した結果、通過時間差が50μsec以上、1500μsec以下にすることで、{100}<001>の方位を持つ結晶粒の面積率が溶接部全体の3%以上にすることができることがわかった。通過時間差が50μsec未満であると予熱が不十分であり、1500μsec以上であると予熱が抜けてしまうため、溶接部が凝固する際の冷却速度が上昇し、凝固組織の結晶粒が微細かつランダムに配向するため、所望の組織が得られなかった。なお、第1及び第2レーザ光231、232の波長およびスポット径が範囲外であると、表面にブローホール等の欠陥が生じるため不適当である。
【0047】
(溶接の効果)
溶接部の結晶組織の配向を制御することによって、剛性があり、かつ、溶接部の曲げ戻し加工に優れた電気・電子機器用部品を得ることができる。特に、溶接部の中心付近は強度が周囲よりも低下しているため中心付近の結晶粒の配向をより制御することで、更に剛性があり、かつ、溶接部の曲げ戻し加工に優れた電気・電子機器用部品を得ることができる。
【0048】
(電気・電子機器への適用)
本発明の電気・電子機器用部品は、半導体装置、LSI、あるいはこれらを利用した多くの電子機器で使用することが考えられる、さらに、例えば、特に小型化、高集積化の必要がある、家庭用ゲーム機、医療機器、ワークステーション、サーバー、パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション、携帯電話、ロボットのコネクタ、バッテリー端子、ジャック、リレー、スイッチ、オートフォーカスカメラモジュール、リードフレーム等の電気・電子機器への利用が可能である。
【0049】
(ベーパーチャンバ)
特に、曲げ戻し加工に優れた特性を有することで、ヒートパイプ、ベーパーチャンバに提供することが好ましい。特に、ベーパーチャンバの構造材として用いると、加工する際に、溶接部の曲げ戻し加工に優れていることで、クラックが発生しにくい。さらに、クラックに由来する使用時のリークや腐食が改善されるため、ベーパーチャンバの熱伝導率の低下を抑制し、製品の劣化の抑制、長寿命化に優れた効果を発揮することができる。
【0050】
(バスバー)
また、バスバーは、曲げ戻し加工に優れた特性を有することで、電気的に接続する電気経路、また、放熱のための輸送経路としても適用することができる。特に、発熱部分からバスバーをつないで放熱部分又は外部まで経路を設けることで冷却装置としても適用できる。
【実施例
【0051】
本発明の実施例について以下に説明する。本発明は様々な態様が可能であり、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1~10、比較例1~17:Cu合金で2枚の同じ板材の突き合せによる接合)
実施例1~10では、Cu合金の板材2枚をt=0.15mm、幅20mm、長さ1000mmに切り出し、それぞれの長さ1000mmが接するように突き合せて配置し、幅20mmをレーザ光が400nm以上500nm以下の波長をもつレーザ光を100から500μmのスポット径で照射し、かつ、800nm以上かつ1200nm以下の波長をもつレーザ光を10から300μmのスポット径で100から400mm/秒で掃引し、溶接した。
比較例1~10、12~17では、実施例1~10と比較してレーザ条件を異にしている。比較例11は、板材の配置条件、レーザ条件を実施例1と同じであるが、成分組成が異なっている。添加元素の添加量が12質量%にしてあり、10質量%未満の範囲外になっている。
【0053】
表1~6には、添加元素を加えた同種のCu板材、純Cuの成分組成、板厚、レーザ溶接の条件、EBSD法による溶接部等における{100}<001>の方位を持つ結晶粒の面積率、曲げ戻し試験の評価結果となる曲げ戻し加工を表わしている。EBSD法、曲げ戻し試験の内容を、以下に説明する。
【0054】
(EBSD法)
走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製、JSM-7001FA)で、YZ面におけるY軸方向の溶接幅と、板材表面からZ軸方向の厚さ方向であって、溶接幅に同じ長さの深さとで囲まれる領域で、結晶粒を50個以上含む溶接部断面全体に対し、0.1μmステップで電子線を照射し、菊池パターンを捉えて、結晶粒の方位分布を測定した。その中から、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いて、{100}<001>の方位を持つ結晶粒の面積率を計測した。
(曲げ戻し試験)
曲げ戻し試験は、溶接部中央から0.1mm外したところを頂点とした90°曲げ試験を行った後、平坦に戻し、再度曲げ試験を行う作業を5回行った。幅中央10mmの位置の断面を観察し、5回目まで表面または溶接部にクラックが無いものを「◎」、3回目までは、表面または溶接部にクラックが無いものの、4回目又は5回目でクラックが発生したものを「〇」、3回目以下でクラックが発生したものを「×」として評価した。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1~10と比較例1~10とは、レーザ溶接における第1レーザ光の照射走査方向のスポット径の先端が接合箇所を通過してから、第2レーザ光の照射走査方向のスポット径の先端の第1レーザ光が通過した接合箇所と同じ位置を通過するまでの通過時間差の差を比較している。
実施例1~10は、第1及び第2レーザ光の通過時間差を80~1390μsecの間で照射することで、所定の領域におけるYZ面に存在する全結晶粒に対する{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上になっている。その結果、曲げ戻し加工は、すべて「〇」になっている。さらに、実施例4、7、10では、YZ面における溶接幅の40%幅の所定の領域に存在する全結晶粒に対する{100}<001>の結晶粒の面積が20%以上であることから、曲げ戻し加工は「◎」になっている。
比較例1~10は、同じ成分組成で、溶接部の断面における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%未満になっている。その結果、曲げ戻し加工は、すべて「×」になっている。比較例11は、添加元素の添加量が10質量%未満の範囲外になっていることで、溶接した断面にブローホールが多く形成されていて、結晶粒の方位の測定、曲げ戻し試験ができなかった。比較例12~15では、曲げ戻し加工は「×」であり、比較例16、17は、Cu板材は接合していなかったために測定・評価ができなかった。電気・電子機器用部品として実用できないことは明らかである。
【0057】
(実施例11~20、比較例18~27:Cu合金で2枚の同じ板材の重ね合わせによる接合)
実施例11~20、比較例18~27では、表2に記載の成分組成を持つCu合金の板材2枚を重ね合わせて、表2に記載した溶接条件で溶接した他は、実施例1(突き合せ)と同様にした。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例11~20は、所定の領域における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上になっている。その結果、曲げ戻し加工は、すべて「〇」になっている。さらに、実施例11、12、13、15、16、18,19では、YZ面における溶接幅の40%幅の所定の領域に存在する{100}<001>方位の結晶粒の面積率が20%以上であることから、曲げ戻し加工はすべて「◎」になっている。
比較例18~27は、溶接部の断面における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%未満になっている。その結果、曲げ戻し加工は、すべて「×」になっている。
【0060】
(実施例21~25、比較例28~34:純Cuで2枚の同じ板材の突き合せによる接合)
実施例21~25、比較例28~34では、表3に記載の成分組成を持つ純Cu板材の2枚を突き合せて、表3に記載した溶接条件で溶接した他は、実施例1(突き合わせ)と同様にした。その結果を表3に示している。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例21~25は、所定の領域における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上になっている。その結果、曲げ戻し加工は、すべて「〇」になっている。さらに、実施例22、23、25では、40%幅の所定の領域に存在する{100}<001>の結晶粒の面積率が20%以上であることから、曲げ戻し加工は「◎」になっている。
比較例28~34は、曲げ戻し加工は、すべて「×」になっている。
【0063】
(実施例26~28、比較例35~37:Cu合金で2枚の異なる組成の板材の突き合せによる接合)
実施例26~28、比較例35~37では、表4に示す成分組成の異なる2枚のCu合金の板材を用い、表4に記載した溶接条件で溶接した他は、実施例1(突き合わせ)と同様にした。その結果を表4に示している。
【0064】
【表4】
【0065】
実施例26~28は、所定の領域における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上になっている。特に、実施例27では、YZ面における溶接幅の40%幅の所定の領域に存在する{100}<001>の結晶粒の面積率が20%以上であることから、曲げ戻し加工は「◎」になっている。比較例35、36、37は、溶接部の断面における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%未満になっている。その結果、曲げ戻し加工は、すべて「×」になっている。
【0066】
(実施例29、30、比較例38、39:純Cuで2枚の異なる組成の同じ板材の突き合せによる接合)
実施例29、30、比較例38、39では、表5に記載の成分組成を持つ純Cu板材で、成分組成が異なる2枚を突き合せて、表5に記載した溶接条件で溶接した他は、実施例1(突き合わせ)と同様にした。結果を表5に示している。
【0067】
【表5】
【0068】
実施例29、30は、所定の領域における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上になっている。その結果、曲げ戻し加工は、「〇」になっている。比較例38、39は、溶接部の断面における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%未満になっている。その結果、曲げ戻し加工は、「×」になっている。
【0069】
(実施例31、比較例40:Cu合金と純Cuの板材の突き合せによる接合)
実施例31、比較例40は、合金元素が添加されたCu合金板材と金属元素の添加のない純Cu板材の2枚を、実施例1と同じ条件で板材を突き合せて配置し、下記表に示す条件で溶接した。結果を表6に示している。
【0070】
【表6】
【0071】
実施例31は、所定の領域における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上になっている。その結果、曲げ戻し加工は、「〇」になっている。比較例40は、溶接部の断面における{100}<001>の結晶粒の面積率が3%未満になっている。その結果、曲げ戻し加工は、「×」になっている。
【0072】
以上、これらの実施例・比較例により、所定の領域では、全結晶粒に対する{100}<001>の結晶粒の面積率が3%以上であれば、曲げ戻し試験には実用上問題がないことがわかる。したがって、本発明により、ベーパーチャンバやバスバーなどの溶接部を有する電気・電子機器用部品において、溶接部の結晶組織の配向を制御することによって、剛性があり、かつ、溶接部での曲げ戻し加工に優れた電気・電子機器用部品を得られることがわかる。
【符号の説明】
【0073】
10 Cu部材
111 Cu板材
112 Cu板材
13 溶接部
20 レーザ溶接装置
21 制御部
22 発振器
221 第1発振器
222 第2発振器
23 レーザ光
231 第1レーザ光
232 第2レーザ光
25 グラスファイバー
26 集光レンズ
261 第1集光レンズ
262 第2集光レンズ
27 ミラー
271 第1ミラー
272 第2ミラー
28 集束レンズ
29 レーザヘッド
30 ガス供給ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7