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特許7394045多孔質ガラス母材の製造装置、および製造方法
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  • 特許-多孔質ガラス母材の製造装置、および製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】多孔質ガラス母材の製造装置、および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20231130BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C03B8/04 A
C03B8/04 E
C03B37/018 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020179250
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022070166
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 大輝
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-254242(JP,A)
【文献】特開2000-211929(JP,A)
【文献】特開平08-034623(JP,A)
【文献】特開平09-067129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04,37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化された原料化合物を、酸水素火炎中で原料微粒子を発生させ、発生させた前記原料微粒子を回転している出発部材上に付着させて多孔質ガラス母材を製造する堆積装置を複数備える多孔質ガラス母材の製造装置であって、
液体状の前記原料化合物を種類別に貯留する少なくとも1基の貯留容器と、
前記貯留容器内の前記原料化合物を気化させる少なくとも1基の蒸気発生機構と、
前記蒸気発生機構で気化された前記原料化合物を複数の前記堆積装置に供給する少なくとも1本の通気路とを備え、
前記通気路は、
複数の前記堆積装置に気化された前記原料化合物を供給するべく共用される共通通気路と、
気化された前記原料化合物を個々の前記堆積装置に向けて供給すべく前記共通通気路から分岐された複数の個別通気路とを備え、
複数の前記個別通気路は、
それぞれ、気化された前記原料化合物の流量を制御する流量制御器と、
気化された前記原料化合物の流通をオン/オフ制御する蒸気弁と、
前記流量制御器よりも上流に配置され、流路面積を調整することができるバルブと、を備え
前記蒸気発生機構での気化した前記原料化合物の圧力に対して前記個別通気路における前記バルブの下流の圧力が60~95%となるように前記個別通気路が備える前記バルブの開度を調整する制御部をさらに備えることを特徴とする製造装置。
【請求項2】
前記原料化合物は、シリコン化合物および/またはドープ用化合物であることを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記ドープ用化合物は、ゲルマニウム化合物であることを特徴とする請求項に記載の製造装置。
【請求項4】
請求項1からの何れか1項に記載の製造装置において、前記蒸気発生機構での気化した前記原料化合物の圧力に対して前記バルブの下流の圧力が60~95%となるように前記バルブの開度を調整することを特徴とする多孔質ガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス母材の製造方法および製造装置に関し、特には、気化ガスの圧力変動による多孔質ガラス母材の脈理を抑制することを特徴とする製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ母材を製造するために、各種方法が提案されている。その中で、よく知られた方法であるVAD法は、回転しつつ上昇するシャフトに出発部材を取り付け、反応室内に垂下し、反応室内に設置され出発部材の軸方向に対して所定の角度で設置されたコア堆積バーナ及びクラッド堆積バーナにより、生成したガラス微粒子を出発部材の先端に付着堆積させて、コア層とクラッド層からなる多孔質ガラス母材を製造する方法である。
【0003】
このようにして製造された多孔質ガラス母材は、密閉可能な炉心管とこの一部又はほぼ全体を加熱する電気炉、炉心管内に任意のガスを導入するガス導入ポート、および炉心管内からガスを排出するガス排出ポートを備えた加熱炉内で脱水、焼結される。脱水は、例えば塩素と酸素とアルゴンとヘリウムから構成される脱水ガス中で、多孔質ガラス母材を約1,100℃に加熱して行われる。ガラス化は、例えばヘリウム雰囲気中で、多孔質ガラス母材を約1,500℃に加熱して行われる。このとき、例えば、脱水時およびガラス化時、多孔質ガラス母材を上から下に引き下げて電気炉による加熱領域を通過させることにより脱水・ガラス化する。
【0004】
さて、1つの蒸気発生機構から複数のVAD装置に原料ガスを供給する構造では、複数の製造装置の製造開始、終了のタイミングが重なることや、蒸気発生機構内への液補給などに起因して、気化ガスの通気路内で圧力変動が起き、気化ガス流量が暴れ、多孔質ガラス母材に脈理が発生するトラブルが生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、気化ガス流量の変動に伴う脈理を抑制することができる多孔質ガラス母材の製造装置、および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決すべく、本発明に係る多孔質ガラス母材の製造装置は、気化された原料化合物を、酸水素火炎中で原料微粒子を発生させ、発生させた原料微粒子を回転している出発部材上に付着させて多孔質ガラス母材を製造する堆積装置を複数備える。当該製造装置は、液体状の原料化合物を種類別に貯留する少なくとも1基の貯留容器と、貯留容器内の原料化合物を気化させる少なくとも1基の蒸気発生機構と、蒸気発生機構で気化された原料化合物を複数の堆積装置に供給する少なくとも1本の通気路とを備える。通気路は、複数の堆積装置に気化された原料化合物を供給するべく共用される共通通気路と、気化された原料化合物を個々の堆積装置に向けて供給すべく共通通気路から分岐された複数の個別通気路とを備える。そして、複数の個別通気路は、それぞれ、気化された原料化合物の流量を制御する流量制御器と、気化された原料化合物の流通をオン/オフ制御する蒸気弁と、流量制御器よりも上流に配置され、流路面積を調整することができるバルブと、を備える。
【0007】
本発明では、蒸気発生機構での気化した原料化合物の圧力に対して個別通気路におけるバルブの下流の圧力が60~95%となるように個別通気路が備えるバルブの開度を調整する制御部をさらに備えるとよい。
【0008】
本発明では、原料化合物は、シリコン化合物および/またはドープ用化合物であることよい。ドープ用化合物は、ゲルマニウム化合物であるとよい。
【0009】
また、本発明に係る多孔質ガラス母材の製造方法は、上記何れかの製造装置において、蒸気発生機構での気化した原料化合物の圧力に対してバルブの下流の圧力が60~95%となるようにバルブの開度を調整することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】製造装置全体図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によるシリカガラスの多孔質ガラス母材は例えば図1に示した製造装置1により製造される。
【0012】
製造装置1は、2台のVAD装置31A、31Bを備えている。VAD装置31A、31Bは、気化された原料化合物を、酸水素火炎中で原料微粒子を発生させ、発生させた原料微粒子を回転している出発部材上に付着させて多孔質ガラス母材を製造する堆積装置の一種である。製造装置1における原料化合物は、シリコン化合物とドープ用化合物(ドープ剤)を含む。ドープ用化合物は、例えばゲルマニウム化合物とするとよい。製造装置1は、液体状の前記原料化合物を種類別に貯留する貯留容器(2、12)を備える。貯留容器2は、シリコン化合物としてのSiClを貯留する。貯留容器12は、ドープ剤としてのGeClを貯留する。
【0013】
また、製造装置1は、貯留容器内の原料化合物を気化させる蒸気発生機構(3、13)を備える。蒸気発生機構3は、貯留容器2に対応して設けられる。貯留容器2に貯留されたSiClを気化して2台のVAD装置(31A、31B)に供給する。蒸気発生機構13は、貯留容器12に対応して設けられ、貯留容器12に貯留されたGeClを気化して2台のVAD装置(31A、31B)に供給する。
【0014】
なお、本実施形態では2台のVAD装置(31A、31B)が連結された構成を例に説明しているが、さらに多くのVAD装置が連結されてもよい。また、貯留容器および蒸気発生機構はシリコン化合物用とドープ剤用の2組が設けられているが、いずれか1組でもよいし、3組以上設けられてもよい。
【0015】
製造装置1は、蒸気発生機構(3、13)で気化された原料化合物をVAD装置(31A、31B)に供給する通気路を備える。本実施形態では、製造装置100は、シリコン化合物(SiCl)用の通気路(4、104A、104B)と、ドープ用化合物(GeCl)用の通気路(14、114A、114B)を備える。通気路には設置位置におけるガスの圧力を測定する圧力指示調節計が設けられる。以下、圧力指示調節計をPIC(Puressure Indicating Controller)と呼ぶ。
【0016】
通気路は、複数のVAD装置に気化された原料化合物を供給するべく共用される共通通気路(4、14)と、共通通気路から分岐され気化された原料化合物を個々のVAD装置(10A、10B)に向けて供給する個別通気路(104A、104B、114A、114B)とを備える。個別通気路(104A、104B、114A、114B)には、それぞれ、気化された原料化合物の流量を制御する流量制御器(マスフローコントローラ;103A、103B、113A、113B)と、気化された原料化合物の流通をオン/オフ制御する蒸気弁(102A、102B、112A、112B)と、流量制御器よりも上流に配置され、流路面積を調整することができるバルブ(101A、101B、111A、111B)と、バルブより下流の圧力を測定するPIC(105A、105B、115A、115B)が設けられる。
【0017】
蒸気発生機構3で気化されたSiClガスは、VAD装置(31A、31B)に供給される。SiClガスを供給する通気路の共通通気路4には、蒸気発生機構3で気化されたSiClガスの圧力を測定するPIC(105A、105B)が設けられる。共通通気路14からVAD装置(31A、31B)に向けて、個別通気路(104A、104B)が分岐する。VAD装置31Aに向かうSiClガスは、個別通気路104Aを通り、バルブ101A、PIC105A、蒸気弁102A、流量制御器(マスフローコントローラ;103A)を経てコア形成用バーナ32Aに送気される。同様に、VAD装置31Bに向かうSiClガスは、個別通気路104Bを通り、バルブ101B、PIC105B、蒸気弁102B、流量制御器103Bを経てコア形成用バーナ32Bに送気される。蒸気弁(102A、102B)と流量制御器(103A、103B)の間に不活性ガスを導入する通気路を接続し、蒸気弁(102A、102B)及び不活性ガスを導入する通気路に設けた蒸気弁(106A、106B)を、一方を開放時に他方を遮断するようにオン/オフ(開放/遮断)することで、製造時は気化ガスを、製造停止時は不活性ガスを流量制御器(103A、103B)に導入するとよい。
【0018】
蒸気発生機構13で気化されたGeClガスは、第2成分としてVAD装置(31A、31B)に供給される。GeClガスを供給する通気路の共通通気路14には、蒸気発生機構13で気化されたGeClガスの圧力を測定するPIC(115A、115B)が設けられる。共通通気路14からVAD装置(31A、31B)に向けて、個別通気路(114A、114B)が分岐する。VAD装置31Aに向かうGeClガスは、個別通気路114Aを通り、バルブ111A、PIC115A、蒸気弁112A、流量制御器113Aを経てコア形成用バーナ32Aに送気される。同様に、VAD装置31Bに向かうGeClガスは、バルブ111B、PIC115B、蒸気弁112B、流量制御器113Bを経てコア形成用バーナ32Bに送気される。蒸気弁(112A、112B)と流量制御器(113、113B)の間に不活性ガスを導入する通気路を接続し、蒸気弁(112A、112B)及び不活性ガスを導入する通気路に設けた蒸気弁(116A、116B)を、一方を開放時に他方を遮断するようにオン/オフすることで、製造時は気化ガスを、製造停止時は不活性ガスを流量制御器(113A、113B)に導入するとよい。
【0019】
さらに第3成分としてC-Ar、N、Airなどがバルブ(20A、20B)および流量制御器(21A、21B)を経てVAD装置(31A、31B)に送気される。SiClガスおよびGeClガスはコア形成用バーナ(32A、32B)の他、クラッド形成用バーナ(33A、33B、34A、34B)における酸水素火炎中での火炎加水分解によりシリカ微粒子、GeO微粒子とされて、回転している出発部材上に堆積される。
【0020】
VAD装置に供給される気化ガス(SiClガスおよびGeClガス)の圧力変動は、蒸気発生機構への液補給、他のVAD装置での製造開始や停止タイミングなどが重なることで起こりうる。
【0021】
製造装置1は、気化ガスの供給経路における流量制御器(103A、103B、113A、113B)より上流にバルブ(101A、101B、111A、111B)を備え、圧力変動が生じたときにこのバルブの開度を調整することで、意図的に圧力損失を生じさせる。これによりバルブ下流に対するバルブ上流での圧力変動の影響を小さくすることができ、気化ガス流量の暴れによる多孔質ガラス母材への脈理を抑制できる。使用するバルブの種類としては、ゲートバルブ、チャッキバルブ、バタフライバルブ、グローブバルブ、ボールバルブなどが考えられる。
【0022】
具体的には、蒸気発生機構(3、13)での気化ガス(気化されたシリコン化合物および/または気化されたドープ用化合物)の圧力に対して60~95%となるようにバルブ下流の圧力を調整すると有効である。
【0023】
バルブ下流の圧力を蒸気発生機構での気化ガスの圧力に対して60%以下とすると流量制御器の上流および下流の差圧が小さくなり、設定した流量が流れない可能性がある。
【0024】
一方、バルブ下流の圧力を蒸気発生機構での気化ガスの圧力に対して95%以上とすると圧力低下による圧力変動を抑制する効果が小さい。
【0025】
各バルブの開度は、当該バルブの下流直近に設けられたPIC(例えばバルブ101Aに対してはPIC105A)で検出した圧力と、共通通気路に配置されたPIC(例えば、SiClガスについてはPIC5)に応じて、蒸気発生機構での気化した原料化合物の圧力に対して個別通気路におけるバルブの下流の圧力が60~95%となるように自動で調整するとよい。製造装置1は、このような自動調整を実現すべく、制御部40を備えるとよい。このように構成することで、精密な制御が可能となる。なお、図1には、制御部40が、VAD装置31Aに向けたSiClガスの個別通気路104Aにおけるバルブ101Aの開度を自動調整する構成を例示したが、他のバルブ(101B、111A、111B)についても同様に制御部40による自動調整を行うとよい。
【0026】
この方法によれば、大がかりな設備投資を行うことなく、低コストで多孔質ガラス母材の脈理の発生を抑えることができる。
【0027】
[実施例1]
PIC5での圧力を0.06MPaとし、個別通気路のPIC(105A、105B)での圧力がPIC5での圧力の50、70、80、または98%となるようにバルブ(101A、101B)7の開度を調整しSiClを流した。流量制御器(103A、103B)はレンジ0~1200cc/minでSiCl用に調整した。その他条件は同一とし、多孔質ガラス母材を製造し、圧力変動が起きたときの流量制御器での流量変動および多孔質母材への脈理有無を確認した。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
圧力比率が70%および80%の場合、バルブの上流で圧力変動があった場合でもバルブの下流側で流量の変動はなく(極めて小さく)、脈理の発生もなかった。
【0030】
一方で圧力比率が50%の場合、SiCl流量が設定流量に到達せず、目標の光学特性を得られなかった。
【0031】
また圧力比率が98%の場合、流量制御器のSiCl流量が変動し、多孔質ガラス母材に脈理が発生した。
【0032】
[実施例2]
PIC15での圧力を0.06MPaとし、個別通気路のPIC(115A、115B)での圧力がPIC15での圧力の50、70、80、または98%となるようにバルブ(111A、111B)の開度を調整しGeClを流した。流量制御器(113A、113B)はレンジ0~50cc/minでGeCl用に調整した。その他条件は同一とし、多孔質ガラス母材を製造し、圧力変動が起きたときの流量制御器での流量変動および多孔質母材への脈理有無を確認した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
圧力比率が70、80%の場合、バルブの上流で圧力変動があった場合でもバルブの下流側で流量の変動はなく、脈理の発生もなかった。
【0035】
一方で圧力比率が50%の場合、GeCl流量が設定流量に到達せず、目標の光学特性を得られなかった。
【0036】
また圧力比率が98%の場合、流量制御器のGeCl流量が変動し、多孔質ガラス母材に脈理が発生した。
【0037】
以上で説明したように本発明の製造装置並び製造方法によれば、気化ガス流量の変動に伴う脈理を抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 製造装置
2、12 貯留容器
3、13 蒸気発生機構
4、14 共通通気路
101A、101B、111A、111B、20A、20B バルブ
102A、102B、106A、106B、112A、112B、116A、116B 蒸気弁
103A、103B、113A、113B、21A、21B 流量制御器
5、15、105A、105B、115A、115B PIC
31A、31B VAD装置
32A、32B コア形成用バーナ
33A、33B、34A、34B クラッド形成用バーナ
40 制御部
図1