(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】低透過性放射線検出プラスチックシンチレーションファイバ
(51)【国際特許分類】
G01T 1/203 20060101AFI20231130BHJP
G01T 1/00 20060101ALI20231130BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20231130BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20231130BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01T1/203
G01T1/00 A
G02B6/02 391
G02B6/036
G02B6/44 301A
(21)【出願番号】P 2020565161
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2020000208
(87)【国際公開番号】W WO2020145278
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2019002289
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】明里 将志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勝洋
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-270637(JP,A)
【文献】特開2018-200172(JP,A)
【文献】特開2000-137122(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043383(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 - 1/16
1/167 - 7/12
G02B 6/02
G02B 6/036
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック光ファイバからなるプラスチックシンチレーションファイバであって、
1種以上の
第2蛍光剤を含有するコアと、
中心部に設けられた前記コアよりも低い屈折率を有するクラッド層と、
前記クラッド層の外周面を被覆する最外層と、を備え、
前記最外層は、
放射線を吸収してシンチレーション光を生じる基材と、当該シンチレーション光を長波長側に変換する1種以上の
第1蛍光剤とを含有し、
前記第1蛍光剤が吸収する前記シンチレーション光は、波長250~350nmの紫外光であり、
前記第2蛍光剤は、前記第1蛍光剤が発する光を吸収し、さらに長波長側の波長350~600nmの光に変換する、
プラスチックシンチレーションファイバ。
【請求項2】
前記クラッド層が、
インナークラッド層と、
前記インナークラッド層の外周面を被覆すると共に、前記インナークラッド層よりも低い屈折率を有するアウタークラッド層と、を含むマルチクラッド構造を有している、
請求項
1に記載のプラスチックシンチレーションファイバ。
【請求項3】
前記
第2蛍光剤が紫外光を青色光に波長変換する、
請求項
1又は2に記載のプラスチックシンチレーションファイバ。
【請求項4】
前記
第2蛍光剤が青色光を緑色光に波長変換する、
請求項
1又は2に記載のプラスチックシンチレーションファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックシンチレーションファイバに関し、特に低透過性の放射線を検出するために好適なプラスチックシンチレーションファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックシンチレーションファイバ(PSF:Plastic Scintillating Fiber)は、シンチレータであるコアの外周面に、コアよりも低屈折率のクラッド層が被覆されたプラスチックファイバであり、主に放射線検出に用いられる。通常、コアは、例えばポリスチレンやポリビニルトルエンなどの芳香環を有する基材に、有機系蛍光剤を添加した高分子材料から構成される。クラッド層は、例えばポリメチルメタクリレートやフッ素含有のポリメチルメタクリレートなどの低屈折率高分子材から構成される。
【0003】
シンチレーションファイバを用いた放射線検出の原理について説明する。シンチレーションファイバのコア基材は芳香環を有しており、照射された放射線がシンチレーションファイバを横断すると、コア内での二次粒子などの再放射などでエネルギーの一部を吸収し、紫外線として放出するという特徴を持つ。この紫外線は、コア基材に蛍光剤が添加されていなければ、コア基材自身に自己吸収され、コア内を伝播できずに消失する。
【0004】
シンチレーションファイバでは、この紫外線がコア基材に添加された蛍光剤に吸収され、より長波長の光が再放出される。そのため、適切な蛍光剤を選択することにより、コア基材に自己吸収され難い、例えば青色などの長波長の光に変換し、ファイバ内を伝播させることができる。ファイバ内を伝播した光は、一端又は両端に接続された検出器において検出される。
【0005】
このように、シンチレーションファイバは、放射線検出と光伝送の2つの機能を兼ね備えており、放射線の通過位置を算出する用途などで使用されている。このようなシンチレーションファイバでは、特許文献1-3に開示されているように、コアから放出される紫外光をいかに高効率に長波長に波長変換させ、長距離伝送するかが重要であった。
【0006】
ここで、特許文献1には、クラッド層の外側に反射層を設けることで、効率よく長距離伝送する方法が開示されている。
特許文献2には、隣接するファイバからの発光を検出してしまうクロストークと呼ばれる現象を防止する目的で、クラッド層に蛍光剤を添加する方法が開示されている。
特許文献3には、高線量場において放射線が多重検出されることを防ぐ目的で、コア、クラッド層の径を制御する方法が開示されている。
特許文献4には、コア中の蛍光剤濃度を制御することで、放射線の横断位置による発光量の低下を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭63-129304号公報
【文献】特開2000-137122号公報
【文献】国際公開第2018/043383号
【文献】国際公開第2018/110536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、シンチレーションファイバについて以下の問題点を見出した。
特許文献1-4に開示されたような従来型のプラスチックシンチレーションファイバでは、コアに到達した放射線によって発生したシンチレーション光を検出する。
しかしながら、トリチウムのβ線に代表されるような一部の放射線は、物質への透過性が著しく低い。このような低透過性の放射線の場合、従来型のプラスチックシンチレーションファイバでは、放射線がコアまで到達できない。そのため、コアにおいてシンチレーション光が発生せず、放射線を検出することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、低透過性の放射線を検出可能なプラスチックシンチレーションファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るプラスチックシンチレーションファイバは、
プラスチック光ファイバからなるプラスチックシンチレーションファイバであって、
1種以上の蛍光剤を含有するコアと、
中心部に設けられた前記コアよりも低い屈折率を有するクラッド層と、
前記クラッド層の外周面を被覆する最外層と、を備え、
前記最外層は、シンチレーション光を生じる基材と、当該シンチレーション光を長波長側に変換する1種以上の蛍光剤とを含有するものである。
【0011】
前記コアに含まれる蛍光剤は、前記最外層において発生した光をさらに長波長側に変換してもよい。低透過性の放射線が消失する前にコア基材に自己吸収され難いより長波長の発光に変換することができる。
【0012】
前記クラッド層が、インナークラッド層と、前記インナークラッド層の外周面を被覆すると共に、前記インナークラッド層よりも低い屈折率を有するアウタークラッド層と、を含むマルチクラッド構造を有していてもよい。
【0013】
前記コアに含まれる蛍光剤が紫外光を青色光に波長変換してもよい。あるいは、前記コアに含まれる蛍光剤が青色光を緑色光に波長変換してもよい。青色光及び緑色光はシンチレーションの検出器で検出感度がよいとされている波長域である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、低透過性の放射線を検出可能なプラスチックシンチレーションファイバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバの断面図である。
【
図2】比較例に係るプラスチックシンチレーションファイバの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバの断面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るプラスチックシンチレーションファイバは、中心部に設けられたコア1と、コア1の外周面を被覆するクラッド層2と、クラッド層2の外周面を被覆する最外層3とを備えたプラスチック光ファイバである。
【0017】
ここで、
図2は比較例に係るプラスチックシンチレーションファイバの断面図であって、
図1に対応した図である。
図2に示すように、比較例に係るプラスチックシンチレーションファイバは、中心部に設けられたコア1と、コア1の外周面を被覆するクラッド層2と、を備えており、最外層3を備えていない。
【0018】
コア1と最外層3とは、放射線に由来する発光をさらに長波長側に変換する蛍光剤を1種以上含有している。蛍光剤としては、例えば、紫外光を青色光に波長変換する蛍光剤や青色光を緑色光に波長変換する蛍光剤を用いることができる。
【0019】
クラッド層2は、コア1よりも低い屈折率を有している。ここで、クラッド層2は、インナークラッド層と、インナークラッド層の外周面を被覆すると共に、インナークラッド層よりも低い屈折率を有するアウタークラッド層とを含むマルチクラッド構造を有していてもよい。
【0020】
本実施の形態に係るプラスチックシンチレーションファイバでは、最外層3が、放射線に対してシンチレーション性を有する基材と、当該シンチレーション光を長波長側に変換する蛍光剤とを含有している。そのため、低透過性の放射線であっても検出することが可能である。
【0021】
図1、2を参照して、以下にその原理について説明する。
まず、
図2に示した比較例に係るプラスチックシンチレーションファイバでは、低透過性の放射線の場合、コア1に放射線が到達することができない。そのため、放射線に由来するシンチレーション光が発生しないために、検出器では何も検出されない。
【0022】
次に、
図1に示した本実施の形態に係るプラスチックシンチレーションファイバでは、ファイバの最外層3の基材が芳香環を有しており、放射線を吸収して長波長の紫外線を放出する。放出された紫外線は、最外層3に含まれる蛍光剤により長波長の光へと変換される。このように、低透過性の放射線を、ファイバ内で自己吸収されにくい長波長の光に変換してコア1まで到達させることができる。
【0023】
最外層3で発生した光は、クラッド層2を介してコア1に到達する。コア1に到達した光は、コア1に含まれる蛍光剤によりさらに長波長の光へと変換される。その一部は、コア1とクラッド層2との屈折率差によって、両者の界面において全反射し、コア1内に閉じ込められて伝播する。コア1内を伝播した光は、一端又は両端に接続された検出器において検出される。そのため、低透過性の放射線であっても検出器にて検出することができる。
【0024】
[原材料]
<コア基材>
プラスチックシンチレーションファイバのコア1に用いられる原材料は透明であれば制約はない。中でもメチルメタクリレートに代表されるメタクリル酸エステルモノマー群、メチルアクリレートに代表されるアクリル酸エステルモノマー群及びスチレンに代表されるビニル基を持った芳香族モノマー群のいずれかからなる共重合体が好適である。中でも、ビニル基を持った芳香族モノマーからなる共重合体であることが好ましい。共重合に用いられるモノマー種は2種類以上であれば制限はない。
【0025】
<クラッド基材>
プラスチックシンチレーションファイバのクラッド層2に用いられる原材料は、コアを形成する材料より低屈折率であり、透明であれば制約はない。中でもメチルメタクリレートに代表されるメタクリル酸エステルモノマー群及びパーフルオロアルキルメタクリレート等のフッ素化モノマー群、メチルアクリレートに代表されるアクリル酸エステルモノマー群及びパーフルオロアルキルアクリレート等のフッ素化モノマー群のいずれかを原料とする重合体もしくは共重合体が好適である。
【0026】
<最外層基材>
プラスチックシンチレーションファイバの最外層3に用いられる原材料は、透明で、放射線を吸収して紫外線を放出するものであれば制約はない。中でもメチルメタクリレートに代表されるメタクリル酸エステルモノマー群、メチルアクリレートに代表されるアクリル酸エステルモノマー群及びスチレンに代表されるビニル基を持った芳香族モノマー群のいずれかからなる共重合体が好適である。中でも、ビニル基を持った芳香族モノマーからなる共重合体であることが好ましい。共重合に用いられるモノマー種は2種類以上であれば制限はない。
【0027】
これらのモノマー群は熱又は光照射により容易に重合体又は共重合体が得られるため、精密な組成分布を形成でき、かつ取り扱い易いという利点がある。重合にあたっては有機過酸化物又はアゾ化合物を重合開始剤として加えてもよい。代表的な有機過酸化物としては1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等が挙げられるが、熱又は光照射によってラジカルを生成するものであれば特に制限はない。
【0028】
また分子量調整のために連鎖移動剤としてメルカプタンを添加してもよい。代表的なメルカプタンとしてはオクチルメルカプタンがあるが、R-SH(ここでRは有機基を表す)の構造を有するものであれば特に制限はない。
【0029】
<蛍光剤>
蛍光剤は複数個の芳香環を有し、かつ共鳴可能な構造を有するものの中から選ばれる。代表的な蛍光剤としては、2-(4-t-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(b-PBD)、2-(4-ビフェニル)-5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、パラターフェニル(PTP)、パラクォーターフェニル(PQP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(PPO)、4,4’-ビス-(2,5-ジメチルスチリル)-ジフェニル(BDB)、2,5-ビス-(5-t-ブチル-ベンゾキサゾイル)チオフェン(BBOT)、1,4-ビス-(2-(5-フェニロキサゾリル))ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス-(4-メチル-5-フェニル-2-オキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン(DPB)、1,6-ジフェニル-1,3,5-ヘキサトリエン(DPH)、1-フェニル-3-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-ピラゾリン(PMP)、3-ヒドロキシフラボン(3HF)などが挙げられる。これらは単体で使用してもよいし、複数の蛍光剤を混合して使用しても構わない。放射線発光性を有する蛍光剤は、重合性モノマー及びコア、最外層を構成する重合体に可溶であることが好ましい。
【0030】
<第一蛍光剤>
蛍光剤の役割の一つは、放射線を吸収した基材が発する紫外蛍光を吸収し、より長波長の光へと変換して放出することである。従って、最外層3に含まれる蛍光剤は最外層の基材の発光波長付近に光吸収を持つものが望ましい。これらの蛍光剤の例としては、上記蛍光剤のうちb-PBDやPTP、PQP等が挙げられる。これらを便宜的に第一蛍光剤と称する。第一蛍光剤は、250~350nmの波長の光を吸収することが好ましく、300~400nmの波長の光を放出することが好ましい。
【0031】
<第二蛍光剤>
第一蛍光剤の発光波長は、多くの場合、一般に検出器の最適受光感度の430nm付近よりも低いため、さらに長波長に変換させることが好ましく、第一蛍光剤が発した光をより長波長の光へ変換する蛍光剤を加えることがある。これらを便宜的に第二蛍光剤と称する。例えば、最外層3に第一蛍光剤を含有させ、コア1に第二蛍光剤を含有させる。
【0032】
第二蛍光剤の例としては、上記蛍光剤のうちBBOT,BDB,POPOP等が挙げられる。第二蛍光剤は、300~400nmの波長の光を吸収することが好ましく、350~600nmの波長の光を放出することが好ましい。第二蛍光剤は、放出したい波長に応じて、単体で使用してもよいし、複数の蛍光剤を混合して使用しても構わない。複数の蛍光剤を使用する場合は、最外層3とコア1とに分けて含有させてもよい。
【0033】
[線径及び製造方法]
本発明のプラスチックシンチレーションファイバの外径は、例えば0.1~3mmである。最外層/クラッド層/コア/クラッド層/最外層の直径方向での層厚さ比は、例えば1/1/96/1/1~10/10/60/10/10である。上述の通り、クラッド層は互いに屈折率の異なる複数の層からなるマルチクラッド層であってもよい。
本発明のプラスチックシンチレーションファイバは、例えば特許文献3に記載の製造方法に基づいて製造することができる。
【0034】
本発明は上記実施の形態に限られず、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0035】
この出願は、2019年1月10日に出願された日本出願特願2019-002289を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0036】
1 コア
2 クラッド層
3 最外層