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特許7394085スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20231130BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20231130BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/01
C04B35/453
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021064478
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159957
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梶山 純
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 好孝
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-203821(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027540(WO,A1)
【文献】特開2003-183820(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170950(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C04B 35/01
C04B 35/453
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ面において、電子顕微鏡による断面組織観察をした場合、以下に定義されるマイクロクラックの量が50μm/mm以下であり、
前記スパッタ面に対して、ピールテストを行った後、電子顕微鏡による断面組織観察から確認される剥離粒子の面積割合が0.03%以上1.0%以下であるセラミックス系スパッタリングターゲット。
マイクロクラックの量=マイクロクラックの発生頻度×マイクロクラックの平均深さ
【請求項2】
前記マイクロクラックの量が40μm/mm以下である、請求項1に記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記マイクロクラックの量が30μm/mm以下である、請求項1に記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記剥離粒子の面積割合が0.5%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記剥離粒子の面積割合が0.3%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記スパッタ面の表面粗さRaが0.05~0.50μmである、請求項1~5のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項7】
In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mg、Ta、Sm及びSiのうち1種以上を含む、請求項1~6のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項8】
Znの含有量がZnO換算で1~15質量%のIZOである、請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項9】
Snの含有量がSnO2換算で1~15質量%のITOである、請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項10】
Inの含有量がIn23換算で10~60質量%、Gaの含有量がGa23換算で10~60質量%、Znの含有量がZnO換算で10~60質量%のIGZOである、請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項11】
Alの含有量がAl23換算で0.1~5質量%のAZOである、請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
【請求項12】
セラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
セラミックス焼結体を準備する工程、
前記セラミックス焼結体に対して、番手#300以上#1000以下のスポンジ研磨材を使用して平面研削する工程、
及び上記平面研削後のセラミックス焼結体に対して、スポンジ研磨材を装着した振動ツールを使用して仕上げ加工を行うことにより、スパッタ面を形成する工程
を含むセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
前記仕上げ加工後の前記スパッタ面において、電子顕微鏡による断面組織観察をした場合、以下に定義されるマイクロクラックの量が50μm/mm以下であり、
前記スパッタ面に対して、ピールテストを行った後、電子顕微鏡による断面組織観察から確認される剥離粒子の面積割合が1.0%以下である、請求項12に記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
マイクロクラックの量=マイクロクラックの発生頻度×マイクロクラックの平均深さ
【請求項14】
前記マイクロクラックの量が40μm/mm以下である、請求項13に記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項15】
前記マイクロクラックの量が30μm/mm以下である、請求項13に記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項16】
前記剥離粒子の面積割合が0.5%以下である、請求項13~15のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項17】
前記剥離粒子の面積割合が0.3%以下である、請求項13~15のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項18】
前記仕上げ加工後の前記スパッタ面の表面粗さRaが0.05~0.50μmである、請求項12~17のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項19】
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mg、Ta、Sm及びSiのうち1種以上を含む、請求項12~18のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項20】
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Znの含有量がZnO換算で1~15質量%のIZOである、請求項12~19のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項21】
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Snの含有量がSnO2換算で1~15質量%のITOである、請求項12~19のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項22】
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Inの含有量がIn23換算で10~60質量%、Gaの含有量がGa23換算で10~60質量%、Znの含有量がZnO換算で10~60質量%のIGZOである、請求項12~19のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項23】
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Alの含有量がAl23換算で0.1~5質量%のAZOである、請求項12~19のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの薄膜形成方法の一つにスパッタリングがある。スパッタリングに使用されるスパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」ともいう。)として、セラミックス製のものが知られている。セラミックス製のターゲット材は、たとえば金属酸化物などのセラミックス成分を含む粉末または粒子を成形し、焼結させた焼結体を、切削や研磨などにより所定の大きさに機械加工して得られる。
【0003】
近年、ナノ領域への微細化が進み、スパッタリングにおいては基板パーティクルの管理が益々厳しくなっている。そのため、長年実施されてきた方法についても改めて見直し、スパッタ中の基板パーティクル低減に繋がる対策を打つ必要がある。
【0004】
スパッタリングターゲット材の加工精度は基板表面に形成される薄膜(スパッタ膜)の品質に影響することが知られている。このため、セラミックス製のスパッタリングターゲット材の加工に関し、薄膜の品質を向上させるための対策が検討されてきた。
【0005】
ITOやIZO等のセラミックス系スパッタリングターゲット表面には、ターゲットの機械加工時に発生する加工ダメージ層が存在しており、0.1~数十μm程度の微小なクラック(以下、「マイクロクラック」ともいう。)が存在している。表面にこのマイクロクラックが多数存在すると、マイクロクラック周辺のターゲット強度が局所的に脆くなり、ターゲットのスパッタリング時にターゲット表面の粒子が剥落しやすく、パーティクルの発生や、しいてはノジュールの発生の原因となる。特にターゲットの加工面が表面に露出しているターゲットの使用初期においては、上記異常が発生しやすいと考えられる。
【0006】
特許文献1(国際公開第2016/027540号)には、スパッタリングに供されるスパッタ面の表面粗さRaが0.5μm以上1.5μm以下であり、前記スパッタ面に形成されたクラックの最大深さが15μm以下の平板状のセラミックスであるターゲット材が開示されている。Raが0.5μm未満だと、スパッタリング中にターゲット材で生じたノジュールがターゲット材にとどまらずにスパッタ膜にパーティクルとして付着し、スパッタ膜の品質が低下しやすくなると記載されている。また、クラックの最大深さが15μmを超えると、スパッタリング中にノジュールが発生しやすくなり、また、ターゲット材の機械的強度に影響を及ぼす場合もあると記載されている。
【0007】
特許文献2(特開第2004-204356号公報)には、ITOスパッタリングターゲット焼結体のスパッタ面を多重発振超音波洗浄することにより得られたスパッタされる表面の100μm×100μmのエリアに存在する平均直径0.2μm以上の付着粒子の数が400個以下であることを特徴とするITOスパッタリングターゲットが開示されている。特許文献2では、ITOスパッタリングターゲットは一般に焼結体を旋盤などにより研削加工して得られるが、ターゲット表面に付着しているITOの研削粉がノジュール発生の原因の一つであるとの推測に基づき、超音波洗浄によりITO研削粉を除去し、又は粘着テープ引き剥がしによりITO研削粉を除去することで、ターゲット表面の清浄化をより一層進め、スパッタリングによる成膜中にノジュールの発生が少なく、異常放電やパーティクルが生じにくい透明導電膜形成用ITOスパッタリングターゲットを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/027540号
【文献】特開2004-204356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、セラミックス焼結体を平面研削する代わりに、セラミックス焼結体を切断して、この切断面をスパッタ面とするなどしてマイクロクラックの発生を抑制している。一方、セラミックス焼結体を平面研削する場合におけるマイクロクラックの抑制についての検討は不十分である。また、切断面をスパッタ面とする場合、大面積のターゲットの製造に適さず、ターゲットの用途がおのずと制限される。
【0010】
特許文献2では、研削粉を除去することにより、異常放電やパーティクルの発生が抑制される効果が得られているが、研削粉とは別に、マイクロクラックに起因するパーティクルも発生するため、別のアプローチが望まれる。特許文献2では、マイクロクラックの発生を抑制することに関しての検討は不十分である。
【0011】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、スパッタリング時において基板パーティクル増加につながるノジュールの発生量を抑制できるスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が鋭意検討した結果、スパッタリングターゲットのスパッタ面のマイクロクラックの量(マイクロクラックの数及び深さの両方を考慮した指標)が、基板パーティクル増加につながるノジュール発生と密接な関係にあるとの知見を得た。また、スパッタリングターゲットのスパッタ面のマイクロクラックの量を適切に制御し、及び/又はスパッタリングターゲットのスパッタ面の付着物の剥離量を適切に制御することにより、使用初期の微細ノジュール発生を有意義に減少させることができることが判明した。そこで、本発明は以下のように特定される。
(1)
スパッタ面において、電子顕微鏡による断面組織観察をした場合、以下に定義されるマイクロクラックの量が50μm/mm以下であり、
前記スパッタ面に対して、以下の条件でのピールテストにより確認される剥離粒子の面積割合が1.0%以下であるセラミックス系スパッタリングターゲット。
マイクロクラックの量:
ターゲットの機械加工面(=最終的な製品のスパッタ面)の表層に生じる加工ダメージ(マイクロクラック)を評価するために、機械加工面を表面とした時の側面(ターゲットの機械加工面に垂直する断面)を観察面とし、サンドペーパーによる粗研磨、コロイド状のSiO2やAl23等をメディアとする液状の研磨剤を用いたバフ研磨により、観察面を鏡面研磨する。当該鏡面研磨面の面表層付近を日本電子製FE-SEM(JSM-6700F)を用いてスパッタ面に沿って観察し、スパッタ面にクラックの起点があるものであって、深さ(=スパッタ面からの最大垂直距離)が0.1μm以上のマイクロクラックが20個確認されるまでカウントを繰り返し、20個を1個目のマイクロクラックから20個目のマイクロクラックまでの合計長さLで除することにより、スパッタ面側の上端部分の長さ1mm当たりのマイクロクラック数に換算する。これを前記マイクロクラックの発生頻度とする。また、電子顕微鏡で観察された像と縮尺(スケール)に基づいて前記マイクロクラックの1個1個に対しそのスパッタ面からの鉛直方向深さを計算し、前記20個の前記マイクロクラックに対する深さの計算値の平均D(=[D1+D2+D3+・・・+D20]÷20)をとって、前記マイクロクラックの平均深さとする。前記マイクロクラックの発生頻度と前記マイクロクラックの平均深さとの積を前記マイクロクラックの量と定義する(図6参照)。
ピールテストの条件:
ターゲットのスパッタ面に両面カーボンテープを貼り付け、貼り付けた部分を親指で2秒程度擦りつけることにより、ターゲット表面の剥離粒子をカーボンテープに付着させる(貼り付けの面積は100mm2以上とする)。テープの上記貼り付け面に対し、上記操作をターゲットの同一平面内にて3回行う(同一のテープを、平面内の異なる任意3箇所に貼り付けて剥がす)。このテープ(100mm2以上)のターゲットへの貼り付け面を観察面として電子顕微鏡で観察・写真撮影し、観察面における付着粒子の面積割合を画像処理ソフトにて計算する。上記方法で同一カーボンテープ試料を観察した3視野の平均値を、ピールテストによる剥離粒子の面積割合とする。
(2)
前記マイクロクラックの量が40μm/mm以下である、(1)に記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(3)
前記マイクロクラックの量が30μm/mm以下である、(1)に記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(4)
前記剥離粒子の面積割合が0.5%以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(5)
前記剥離粒子の面積割合が0.3%以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(6)
前記スパッタ面の表面粗さRaが0.05~0.50μmである、(1)~(5)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(7)
In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mg、Ta、Sm及びSiのうち1種以上を含む、(1)~(6)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(8)
Znの含有量がZnO換算で1~15質量%のIZOである、(1)~(7)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(9)
Snの含有量がSnO2換算で1~15質量%のITOである、(1)~(7)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(10)
Inの含有量がIn23換算で10~60質量%、Gaの含有量がGa23換算で10~60質量%、Znの含有量がZnO換算で10~60質量%のIGZOである、(1)~(7)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(11)
Alの含有量がAl23換算で0.1~5質量%のAZOである、(1)~(7)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲット。
(12)
セラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
セラミックス焼結体を準備する工程、
前記セラミックス焼結体に対して、番手#300以上#1000以下のスポンジ研磨材を使用して平面研削する工程、
及び上記平面研削後のセラミックス焼結体に対して、振動ツールを使用して仕上げ加工を行うことにより、スパッタ面を形成する工程
を含むセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(13)
前記仕上げ加工後の前記スパッタ面において、電子顕微鏡による断面組織観察をした場合、以下に定義されるマイクロクラックの量が50μm/mm以下であり、
前記スパッタ面に対して、ピールテストを行った後、電子顕微鏡による断面組織観察から確認される剥離粒子の面積割合が1.0%以下である、(12)に記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
マイクロクラックの量=マイクロクラックの発生頻度×マイクロクラックの平均深さ
(14)
前記マイクロクラックの量が40μm/mm以下である、(13)に記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(15)
前記マイクロクラックの量が30μm/mm以下である、(13)に記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(16)
前記剥離粒子の面積割合が0.5%以下である、(13)~(15)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(17)
前記剥離粒子の面積割合が0.3%以下である、(13)~(15)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(18)
前記仕上げ加工後の前記スパッタ面の表面粗さRaが0.05~0.50μmである、(12)~(17)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(19)
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mg、Ta、Sm及びSiのうち1種以上を含む、(12)~(18)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(20)
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Znの含有量がZnO換算で1~15質量%のIZOである、(12)~(19)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(21)
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Snの含有量がSnO2換算で1~15質量%のITOである、(12)~(19)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(22)
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Inの含有量がIn23換算で10~60質量%、Gaの含有量がGa23換算で10~60質量%、Znの含有量がZnO換算で10~60質量%のIGZOである、(12)~(19)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
(23)
前記セラミックス系スパッタリングターゲットは、Alの含有量がAl23換算で0.1~5質量%のAZOである、(12)~(19)のいずれかに記載のセラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スパッタリング時において基板パーティクル増加につながる微細ノジュールの発生量を抑制できるスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における、スパッタリングターゲットの製造方法を示すプロセスフローである。
図2】砥石を使用した平面研削機での加工時に、ターゲット表面にマイクロクラックが発生する原因を示す図である。
図3】本開示の一部の実施形態における、スポンジ研磨材を使用して平面研削加工を行う手法を示す図である。
図4】マイクロクラックの観察方法を示す図である。
図5】スパッタライフを通して発生するパーティクル数を示す図である。
図6】マイクロクラックの平均深さの計算方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0016】
(1.スパッタリングターゲット)
本実施形態において、スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、スパッタ面を有する限り、平板状、円筒状など、任意の形状であってもよい。好ましくは平板状である。スパッタ面とは、製品としてスパッタリングが行われるべき面である。
【0017】
スパッタリングターゲットが平板状である場合、これを担持するバッキングプレートを有するのが通常である。バッキングプレートとしては、従来使用されているものを適宜選択して使用することができる。たとえば、ステンレス、チタン、チタン合金、銅等を適用することができるが、これらに限定されない。バッキングプレートは、通常接合材を介してスパッタリングターゲットと接合するが、接合材としては、従来使用されているものを適宜選択して使用することができる。たとえば、インジウム金属等が挙げられるが、これに限定されない。
【0018】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、セラミックス焼結体からなるものであればよく、その組成は特に限定されない。
【0019】
スパッタリングターゲットを構成するセラミックス焼結体の組成は特に限定されないが、例えば、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mg、Ta、SmおよびSiのうち少なくとも1種を含有する酸化物等を挙げることができる。具体的には、Snの含有量がSnO2換算で1~15質量%のITO(In23-SnO2)、Znの含有量がZnO換算で1~15質量%のIZO(In23-ZnO)、Inの含有量がIn23換算で10~60質量%、Gaの含有量がGa23換算で10~60質量%、Znの含有量がZnO換算で10~60質量%のIGZO(In23-Ga23-ZnO)、及びAlの含有量がAl23換算で0.1~5質量%のAZO(Al23-ZnO)などを例示することができるが、これらに限定されない。
【0020】
なお、セラミックス焼結体は、通常、焼結後に平面研削などの加工が行われる。詳細は後述するが、本開示の一側面において、平面研削を行った後でも、振動ツールを使用して仕上げ加工を行う。この明細書において、仕上げ加工前のものをセラミックス焼結体といい、仕上げ加工後のものをスパッタリングターゲットという。
【0021】
本開示のセラミックス系スパッタリングターゲットは、スパッタ面において、電子顕微鏡で断面組織観察をした場合、以下に定義されるマイクロクラックの量が50μm/mm以下である。
マイクロクラックの量=マイクロクラック発生頻度×マイクロクラックの平均深さ
【0022】
マイクロクラックの発生頻度は当該断面組織観察におけるスパッタ面側の上端部分の長さ1mm当たりの本数として表す。具体的には、ターゲットの機械加工面(=最終的な製品のスパッタ面)の表層に生じる加工ダメージ(マイクロクラック)を評価するために、機械加工面を表面とした時の側面(ターゲットの機械加工面に垂直する断面)を観察面とし、サンドペーパーによる粗研磨、コロイド状のSiO2やAl23等をメディアとする液状の研磨剤を用いたバフ研磨により、観察面を鏡面研磨する。当該鏡面研磨面の面表層付近を日本電子製FE-SEM(JSM-6700F)を用いてスパッタ面に沿って観察し、スパッタ面にクラックの起点があるものであって、深さ(=スパッタ面からの最大垂直距離)が0.1μm以上のマイクロクラックが20個確認されるまでカウントを繰り返し、20個を1個目のマイクロクラックから20個目のマイクロクラックまでの合計長さLで除することにより、スパッタ面側の上端部分の長さ1mm当たりのマイクロクラック数に換算する。これを前記マイクロクラックの発生頻度とする。また、電子顕微鏡で観察された像と縮尺(スケール)に基づいて前記マイクロクラックの1個1個に対しそのスパッタ面からの鉛直方向深さを計算し、前記20個の前記マイクロクラックに対する深さの計算値の平均D(=[D1+D2+D3+・・・+D20]÷20)をとって、前記マイクロクラックの平均深さとする。前記マイクロクラックの発生頻度と前記マイクロクラックの平均深さとの積を前記マイクロクラックの量と定義する(図6参照)。
【0023】
スパッタリングターゲット表面のマイクロクラック量の低減により、スパッタリング時(特に初期)のパーティクルやノジュールの発生を抑制することができ、安定してスパッタリングを行うことができる。この観点から、スパッタ面において、マイクロクラックの量は45μm/mm以下であることが好ましく、40μm/mm以下であることがより好ましく、35μm/mm以下であることがさらにより好ましく、30μm/mm以下であることがさらにより好ましく、25μm/mm以下であることがさらにより好ましく、20μm/mm以下であることがさらにより好ましい。
【0024】
スパッタリングターゲット表面のマイクロクラックの量の下限は特に設けない。スパッタ面において、断面組織観察をした場合、マイクロクラックの量は0μm/mmであってもよい。ただし、マイクロクラックの量を極端に減らすと、効果が頭打ちになる割にはコストと手間が高くなるので、マイクロクラックの量は、実際の必要に応じて、例えば1μm/mm以上であってもよく、5μm/mm以上であってもよく、10μm/mm以上であってもよく、15μm/mm以上であってもよい。
【0025】
また、上記のように計測された各マイクロクラックの深さの最大値は、4μm以下であることが好ましい。マイクロクラックの量のみならず、マイクロクラックの最大深さも抑えることにより、スパッタリング中にノジュールの発生をさらに減らすことができる。この観点から、マイクロクラックの最大深さは、4μm未満であることがより好ましく、3.8μm以下であることがさらにより好ましく、3.5μm以下であることがさらにより好ましく、3.0μm以下であることがさらにより好ましく、2.8μm以下であることがさらにより好ましく、2.5μm以下であることがさらにより好ましい。
【0026】
また、本開示のセラミックス系スパッタリングターゲットは、一実施形態において、スパッタ面に対して、以下の条件によるピールテストを行った後のテープ付着面を電子顕微鏡で観察した時の剥離粒子の面積割合が1.0%以下である。
【0027】
ターゲットのスパッタ面に両面カーボンテープを貼り付け、貼り付けた部分を親指で2秒程度擦りつけることにより、ターゲット表面の剥離粒子をカーボンテープに付着させる(貼り付けの面積は100mm2以上とする)。テープの上記貼り付け面に対し、上記操作をターゲットの同一平面内にて3回行う(同一のテープを、平面内の異なる任意3箇所に貼り付けて剥がす)。このテープ(100mm2以上)のターゲットへの貼り付け面を観察面として電子顕微鏡で観察・写真撮影し、観察面における付着粒子の面積割合を画像処理ソフトにて計算する。上記方法で同一カーボンテープ試料を観察した3視野の平均値を、ピールテストによる剥離粒子の面積割合とする。
【0028】
本発明においては、上記両面カーボンテープとして日新EM株式会社製SEM用カーボンテープ(製品No.732)を用い、剥離粒子の面積割合評価用の写真として日本電子製FE-SEM(JSM-6700F)で撮影した100倍での反射電子組成像を画像処理ソフトImageJにて2値化した。上記方法で同一カーボンテープ試料を観察した3視野の平均値を、ピールテストによる剥離粒子の面積割合とした。
【0029】
スパッタリングターゲット表面の付着物の剥離量の低減により、スパッタリング時(特に初期)のパーティクルやノジュールの発生を抑制することができ、安定してスパッタリングを行うことができる。この観点から、スパッタ面に対してピールテストを行った後のテープ付着面を電子顕微鏡で観察した時の剥離粒子の面積割合が0.9%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらにより好ましく、0.7%以下であることがさらにより好ましく、0.6%以下であることがさらにより好ましく、0.5%以下であることがさらにより好ましく、0.4%以下であることがさらにより好ましく、0.3%以下であることがさらにより好ましく、0.2%以下であることがさらにより好ましく、0.1%以下であることがさらにより好ましい。
【0030】
ピールテスト後の剥離粒子の面積割合の下限は特に設けない。スパッタ面に対してピールテストを行った後、テープ付着面を電子顕微鏡で観察した時の剥離粒子の面積割合が0%であってもよい。ただし、剥離粒子の面積割合を極端に減らすと、効果が頭打ちになる割にはコストと手間が高くなるので、ピールテスト後の剥離粒子の面積割合は、実際の必要に応じて、例えば0.001%以上であってもよく、0.01%以上であってもよく、0.05%以上であってもよく、0.1%以上であってもよく、0.15%以上であってもよく、0.20%以上であってもよい。
【0031】
本開示のセラミックス系スパッタリングターゲットは一実施形態において、スパッタ面の表面粗さRaが0.05~0.50μmであることが好ましい。スパッタ面の表面粗さRaが0.50μm以下であれば、ターゲットのスパッタ面の物理的な強度が十分に向上し、スパッタ中の表面粒子の剥離を低減させることができる。この観点から、スパッタ面の表面粗さRaは、0.50μm未満であることがより好ましく、0.40μm以下であることがさらより好ましく、0.30μm以下であることがさらにより好ましく、0.20μm以下であることがさらにより好ましく、0.10μm以下であることがさらにより好ましい。
【0032】
一方で、スパッタリングターゲットのスパッタ面にはエロージョンされない部分(非エロージョン部分)が存在するところ、スパッタ中に非エロージョン部分に付着した膜又は粉を剥離又は飛散させないことが望ましい。この観点で、スパッタリングターゲットのスパッタ面と膜又は粉との密着性を考慮すると、平滑すぎる状態は好ましくないと考えられる。実際、Raが0.05μm未満になると、非エロージョン部分に付着した膜又は粉が容易に剥離、飛散して、基板パーティクル数に影響することが確認されている。そこで、スパッタリングターゲットのスパッタ面の表面粗さRaは好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは0.07μm以上であり、さらにより好ましくは0.10μm以上であり、さらにより好ましくは0.12μm以上であり、さらにより好ましくは0.15μm以上である。
【0033】
なお、表面粗さRaは、JIS B0601:2013の「算術平均粗さRa」を意味する。測定には触針式の表面粗さ計を使用する。
【0034】
(2.スパッタリングターゲットの製造方法)
次に、IZO又はITOスパッタリングターゲットを例として、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法を示すプロセスフローである。
【0035】
まず、焼結体を構成する原材料を準備する。本実施形態では、酸化インジウムの粉末と酸化亜鉛の粉末(ITOの場合、酸化スズの粉末)を準備する(S301、S302)。これらの原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、さらに好ましくは4N(99.99質量%)以上であるとよい。純度が2Nより低いと焼結体120に不純物が多く含まれてしまうため、所望の物性を得られなくなる(例えば、形成した薄膜の透過率の減少、抵抗値の増加、アーキングに伴うパーティクルの発生)という問題が生じ得る。
【0036】
次に、これら原材料の粉末を粉砕し混合する(S303)。原材料の粉末の粉砕混合処理は、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズ(いわゆるメディア)を用いた乾式法を使用したり、前記ボールやビーズを用いたメディア撹拌式ミル、メディアレスの容器回転式ミル、機械撹拌式ミル、気流式ミルなどの湿式法を使用したりすることができる。ここで、一般的に湿式法は、乾式法に比べて粉砕及び混合能力に優れているため、湿式法を用いて混合を行うことが好ましい。
【0037】
原材料の組成については特に制限はないが、目的とする焼結体の組成比に応じて適宜調整することが望ましい。
【0038】
次に、原材料の粉末のスラリーを乾燥、造粒する(S303)。このとき、急速乾燥造粒を用いてスラリーを急速乾燥してもよい。急速乾燥造粒は、スプレードライヤを使用し、熱風の温度や風量を調整して行えばよい。
【0039】
次に、上述した混合及び造粒して得られた混合物(仮焼結を設けた場合には仮焼結されたもの)を所望の形状の金型に充填し、加圧成形して平板形状の成形体を形成する(S304)。この工程によって、目的とする焼結体に好適な形状に成形する。成形処理では、成形圧力を制御して、54.5%以上58.0%以下の相対密度を有する成形体を形成することができる。成形体の相対密度を上記の範囲にすることで、その後の焼結によって得られる焼結体の相対密度を99.7%以上99.9%以下にすることができる。成形体を得た後に、更に冷間等方圧加圧(CIP)にて成形してもよい。
【0040】
次に、成形工程で得られた平板形状の成形体を焼結する(S305)。焼結には電気炉を使用する。焼結条件は焼結体の組成によって適宜選択することができる。例えばSnO2を10質量%含有するITOであれば、酸素ガス雰囲気中において、1400℃以上1600℃以下の温度下に10時間以上30時間以下置くことにより焼結することができる。焼結温度が下限よりも低い場合、焼結体の相対密度が低下してしまう。一方、1600℃を超えると電気炉や炉材へのダメージが大きく頻繁にメンテナンスが必要となるため、作業効率が著しく低下する。また、焼結時間が下限よりも短いと焼結体120の相対密度が低下してしまう。
【0041】
次に、焼結体のスパッタ面を形成するために、機械加工を行う(S306)。通常、スパッタリングターゲットの表面機械加工は、平面研削機を用いた砥石での研削が適用される。本発明者の研究によると、この研削砥石の送り速度を遅くすることや、切込み量を小さくすることにより、ターゲットへの加工ダメージを抑え、上記マイクロクラックを低減させることが可能である。しかし、この砥石での加工条件変更では対策が不十分であり、表面マイクロクラックが多く残留しているため、ターゲットのスパッタリング時に初期パーティクルが多く発生する現象が確認されている。
【0042】
具体的には、図2に示すように、砥石での機械加工では、平面研削機(砥石)が回転して(曲線の矢印)ターゲット表層をえぐり取るように研削が行われるため、展性延性の無いセラミックス系スパッタリングターゲットの加工においては、加工時にマイクロクラックが新たに発生しやすくなっていると考えられる。
【0043】
そこで、本開示の一実施形態において、機械加工を行うにあたり、通常の砥石での機械研削工程ののちに、最終的なターゲット表面を砥石でなくスポンジ研磨材で研削することで低加工ダメージの加工を行い、ターゲット表面のマイクロクラックの深さと発生頻度を低減させる。また、研削加工後に後述の振動ツールを使用して、ターゲット表面に微小な振動を与えながら仕上げ加工を行うことで、機械加工後のターゲット表面に付着している、剥離しやすい微小な粒子を除去することができる。振動ツールに取り付ける研磨材としては、同じくスポンジ研磨材を用いてよい。
【0044】
具体的には、研磨に使用するスポンジ研磨材は番手#300以上#1000以下である。好ましくは、第一段階として#300~#600の粗いスポンジ研磨材による研磨を行い、第二段階として#600~#1000の細かいスポンジ研磨材により仕上げ研磨を行うことで、加工の手間を抑えつつ発明の効果を得ることが可能である。これにより、スパッタ面のマイクロクラックの深さと発生頻度を低減させ、ひいてはマイクロクラックの量を低減させることができる。また、ピールテストによるターゲット表面の剥離粒子の面積割合を低減させることができる。
【0045】
すなわち、本開示の一実施形態は、セラミックス系スパッタリングターゲットの製造方法を提供し、当該方法は、
セラミックス焼結体を準備する工程、
前記セラミックス焼結体に対して、番手#300以上#1000以下のスポンジ研磨材を使用して平面研削する工程、
及び上記平面研削後のセラミックス焼結体に対して、振動ツールを使用して仕上げ加工を行うことにより、スパッタ面を形成する工程
を含む。
【0046】
また、スパッタ面のマイクロクラックの深さと発生頻度を低減させる観点から、最終的な加工面の形成に使用するスポンジ研磨材の番手の下限は#600以上であることが好ましく、#700以上であることがより好ましく、#800以上であることがさらにより好ましい。研磨に使用するスポンジ研磨材の番手の上限について、#1000以下であれば所望の効果が得られるが、必要に応じて、#950以下であってもよく、#900以下であってもよく、#850以下であってもよい。本明細書において、番手はJIS R6001-2:2017に規定する粒度を指す。
【0047】
図3は、本開示の一部の実施形態における、スポンジ研磨材を使用して平面研削加工を行う手法を示す。図3の上方では、平面研削(平研)では、スポンジ研磨材から構成される研磨ホイールを使用している。研削時には、研磨ホイールの回転軸がセラミックス焼結体の加工すべき面(スパッタ面に対応する面)に略並行になるように、研磨ホイールをセラミックス焼結体の上方に置く。研磨ホイールが回転した状態でスポンジ研磨材とセラミックス焼結体の加工すべき面が接触すると、スポンジ研磨材のブラシが変形し、セラミックス焼結体の表面に圧力がかかるので、当該表面が研削される。スポンジ研磨材のブラシが変形量は、研磨ホイールの切込み量に対応する。図示された実施形態では、研磨ホイールに装着されるスポンジ研磨材とセラミックス焼結体の加工すべき面が実際に接触する面積は、50mm(スポンジ研磨材の幅と同様)×約60mmである。砥石の番手や砥粒集中度に合わせて、研磨ホイールの回転数、送り速度などの加工条件を適正化できることはいうまでもない。
【0048】
図3の下方では、スポンジ研磨材を装着したポリッシャーを使用した平面研削を示している。研磨時には、ポリッシャーの回転軸がセラミックス焼結体の加工すべき面(スパッタ面に対応する面)に略垂直になるように、ポリッシャーをセラミックス焼結体の上方に置く。ポリッシャーが回転した状態でスポンジ研磨材とセラミックス焼結体の加工すべき面が接触すると、セラミックス焼結体の表面に圧力がかかるので、当該表面が研削される。図示された実施形態では、ポリッシャーに装着されるスポンジ研磨材は上方から見て直径300mmの円盤状であり、平面研削時に、当該円盤状のスポンジ研磨材全体がセラミックス焼結体の加工すべき面に接触している。砥石の番手や砥粒集中度に合わせて、ポリッシャーの回転数、送り速度などの加工条件を適正化できることはいうまでもない。
【0049】
仕上げ加工に用いる振動ツールとは、スポンジ研磨材を装着した状態で微小な振動を発生させることが可能な装置のことをいう。スポンジ研磨材を介してセラミックス焼結体に対して微小な振動を与えることにより、研削加工後のターゲット表面に付着した微小な付着物を剥離させることができる。これらの微小な付着物は、スパッタリング時(特に初期)のパーティクルやノジュールの原因になり得るので、仕上げ加工により取り除くことが望ましい。なお、研磨材を装着する振動ツールのメーカーや型番、振動の振動数や回転数、吸塵機能の有無等は上記に限定する必要は無く、任意の振動ツールを使用できるものとする。ただし、作業効率の観点からダブルアクションサンダーという種類の振動ツールが特に好ましい。
【0050】
スパッタリングターゲットを構成するセラミックス焼結体の組成は特に限定されないが、例えば、In、Zn、Al、Ga、Zr、Ti、Sn、Mg、Ta、SmおよびSiのうち少なくとも1種を含有する酸化物等を挙げることができる。具体的には、Znの含有量がZnO換算で1~15質量%のIZO(In23-ZnO)、Snの含有量がSnO2換算で1~15質量%のITO(In23-SnO2)、Inの含有量がIn23換算で10~60質量%、Gaの含有量がGa23換算で10~60質量%、Znの含有量がZnO換算で10~60質量%のIGZO(In23-Ga23-ZnO)、及びAlの含有量がAl23換算で0.1~5質量%のAZO(Al23-ZnO)などを例示することができるが、これらに限定されない。
【0051】
また、製造されるスパッタリングターゲットの他の物性は前述と同様である。
【実施例
【0052】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0053】
(比較例1)
<平面研削処理>
ZnO含有量10.7質量%組成のIZO板状セラミックス焼結体を用意した。このセラミックス焼結体の一面を、株式会社岡本工作機械製作所製平面研削装置で、番手#80の砥石を使用して、砥石回転数1800rpm、切込み量50μm/pass、スパークアウト4passの条件で、粗研処理した。続いて同装置と番手#400の砥石を使用して、砥石回転数1250rpm、切込み量10μm/pass、スパークアウト6passの条件で精研処理を実施した。
【0054】
(比較例2)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、比較例1と同様の条件で平面研削処理を行った。
<仕上げ加工>
次いで、平面研削処理した面について、埼玉精機株式会社製振動ツール(オービタルサンダーU-62)に、番手#800のスポンジ研磨材(3M製スコッチブライト7448DOT)を装着して、研磨時間150min/m2の条件で、仕上げ加工をした。なお、研磨材を装着する振動ツールのメーカーや型番、振動の振動数や回転数、吸塵機能の有無等は上記に限定する必要は無く、任意の振動ツールを使用できるものとする。
【0055】
(比較例3)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、砥石の番手を#800に変更した以外、比較例1と同様の条件で粗研処理を行った。
【0056】
(参考例1)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意した。まず、下処理として#400砥石による平面研削処理を実施し、さらに、埼玉精機株式会社製振動ツール(オービタルサンダーU-62)に、番手#500のスポンジ研磨材を装着して、ターゲットの厚みが元の厚みより15μm以上小さくなるように研削し、次いで、仕上げとして、番手#800のスポンジ研磨材を同じ振動ツールに装着して、ターゲットの厚みが#500のスポンジ研磨材での研削後よりさらに2μm以上小さくなるように研削した。研磨時間の条件は1000min/m2とした。#400の機械加工による加工ダメージ除去のため、振動ツールによる研磨加工には相当の時間を要した。
【0057】
(比較例4)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、番手#320の円盤状スポンジ研磨材(φ300mm)を装着した三和ダイヤ工販株式会社製・型式SDK-P1000NC湿式研磨装置(ポリッシャー)で平面処理した。研削条件は、ポリッシャー回転数120rpm、加工面への面圧(押しつけ圧)を0.58g/mm2となるよう設定し、研削時間約300min/m2の条件で研削した。次に、円盤状スポンジ研磨材を番手#800のものに変えて、同様の条件で平面処理した。
【0058】
(実施例1)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、比較例4と同様の条件で、平面研削処理を行った。
<仕上げ加工>
埼玉精機株式会社製振動ツール(オービタルサンダーU-62)に、番手#800のスポンジ研磨材(3M製スコッチブライト7448DOT)を装着して、研磨時間150min/m2の条件で、仕上げ加工をした。
【0059】
(比較例5)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、番手#320のスポンジ研磨材から構成される柳瀬株式会社製ユニロンフラップホイール(研磨ホイール)で平面処理した。研削条件は、ホイール回転数を10000rpm、切込み量(=ターゲット設置時の高さを0とした時の、研磨ホイールがターゲットと重複する分の厚み)を6mmとした。次に、研磨ホイールを構成するスポンジ研磨材の番手を#800のものに変えて、同様の条件で平面処理した。
【0060】
(実施例2)
<平面研削処理>
比較例1と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、比較例5と同様の条件で、平面研削処理を行った。
<仕上げ加工>
次いで、平面研削処理した面について、埼玉精機株式会社製振動ツール(オービタルサンダーU-62)に、番手#800のスポンジ研磨材(3M製スコッチブライト7448DOT)を装着して、研磨時間150min/m2の条件で、仕上げ加工をした。
【0061】
(比較例6)
<平面研削処理>
SnO2含有量10質量%組成のITO板状セラミックス焼結体を用意した。このセラミックス焼結体の一面を、株式会社岡本工作機械製作所製平面研削装置で、番手#80の砥石を使用して、砥石回転数1800rpm、切込み量50μm/pass、スパークアウト4passの条件で、粗研処理した。続いて同装置と番手#400の砥石を使用して、砥石回転数1250rpm、切込み量10μm/pass、スパークアウト6passの条件で精研処理を実施した。
【0062】
(比較例7)
<平面研削処理>
比較例6と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、番手#320の円盤状スポンジ研磨材(φ300mm)を装着した三和ダイヤ工販株式会社製・型式SDK-P1000NC湿式研磨装置(ポリッシャー)で平面処理した。研削条件は、ポリッシャー回転数120rpm、加工面への面圧(押しつけ圧)を0.58g/mm2となるよう設定し、研削時間約300min/m2の条件で研削した。次に、円盤状スポンジ研磨材を番手#800のものに変えて、同様の条件で平面処理した。
【0063】
(実施例3)
<平面研削処理>
比較例6と同様の組成のセラミックス焼結体を用意し、比較例7と同様の条件で平面研削処理を行った。
<仕上げ加工>
次いで、平面研削処理した面について、埼玉精機株式会社製振動ツール(オービタルサンダーU-62)に、番手#800のスポンジ研磨材(3M製スコッチブライト7448DOT)を装着して、研磨時間150min/m2の条件で、仕上げ加工をした。
【0064】
各比較例及び実施例の加工条件を表1にまとめる。
【0065】
【表1】
【0066】
(表面粗さ計による表面粗さRaの測定)
上記加工を施した各実施例及び各比較例のIZO又はITOスパッタリングターゲットを5分間超音波洗浄した後、株式会社ミツトヨ製触針式の表面粗さ計(Surftest SJ-301)を使用して、下記の表2の条件に従い、ターゲット表面の5カ所のRaを測定し、その平均値を算出した。なお、上記5カ所は、四隅近辺の4カ所と、中央の1カ所である。
【0067】
【表2】
【0068】
(断面マイクロクラック個数評価)
上記加工を施した各実施例及び各比較例のIZO又はITOスパッタリングターゲットから20mm×10mmサイズのサンプルを切り出し、5分間超音波洗浄した後、JEOL社製電子顕微鏡JSM-6700Fにてスパッタ面に垂直な断面を組織観察し、スパッタ面側の上端部分の長さ1mm当たりのマイクロクラック個数を確認した(図4参照)。マイクロクラックの判定は、機械加工面(研削面)にクラックの起点があるものであって、機械加工面からの深さが0.1μm以上のマイクロクラックを計測する、という基準で行われた。また、機械加工面に起点がない内部のクラックはマイクロクラックとして算入せず、また、1つのマイクロクラックに複数のつながった枝分かれがある場合でも、1つのマイクロクラックとして計算した。なお、観察視野内に機械加工面に起点が観察されないものであっても、観察視野以外の場所で機械加工面に起点があると認められるものは、マイクロクラックとして算入した。この方法により、合計20個のクラックが確認されるまでスパッタ面に沿って計測を行う。観察倍率は自由に設定して良いが、マイクロクラックの多くは0.1~20μm程度と小さいため、通常は5000倍~10000倍程度の倍率とし、発見されるマイクロクラックの大きさに応じて倍率を変更するのが良い。ここでは観察倍率を10,000倍とした。
【0069】
(断面マイクロクラック深さ評価)
上記断面マイクロクラック個数評価においてマイクロクラックとして算入されたマイクロクラックについて、前述の方法により、電子顕微鏡で観察された像と縮尺(スケール)によりマイクロクラックの1個1個に対しそのスパッタ面からの鉛直方向深さを計算し、20個のマイクロクラックに対する深さの計算値の平均をとって、断面マイクロクラックの深さとした。それぞれの例における、20個のマイクロクラックの深さの最大値も記録した。
【0070】
(ピールテスト)
ターゲットのスパッタ面に両面カーボンテープを貼り付け、貼り付けた部分を親指で2秒程度擦りつけることにより、ターゲット表面の剥離粒子をカーボンテープに付着させた(貼り付けの面積は100mm2以上とする)。テープの上記貼り付け面に対し、上記操作をターゲットの同一平面内にて3回行った(同一のテープを、平面内の異なる任意3箇所に貼り付けて剥がす)。このテープ(100mm2以上)のターゲットへの貼り付け面を観察面として電子顕微鏡で観察・写真撮影し、観察面における付着粒子の面積割合を画像処理ソフトにて計算した。上記方法で同一カーボンテープ試料を観察した3視野の平均値を、ピールテストによる剥離粒子の面積割合とした。
【0071】
(初期スパッタ評価)
上記加工を施した各実施例及び各比較例のIZO及びITOスパッタリングターゲットを用いて、ターゲットライフが0.8kWhrとなるまでスパッタした後、以下のスパッタリング試験を行った。成膜条件は、出力2.0kW、圧力0.67Pa、ガス流量145sccm、膜厚55nm、雰囲気Ar100%であった。そして、スパッタライフを通して、基板(ウエハー)に発生したパーティクルの発生数を単位面積当たりで計測し、以下の基準で評価した。
〇:ライフ初期(~5kWhr)までの単位面積あたりパーティクル発生数の最大値が10個/cm2未満
△:ライフ初期(~5kWhr)までの単位面積あたりパーティクル発生数の最大値が10個/cm2以上25個/cm2未満
×:ライフ初期(~5kWhr)までの単位面積あたりパーティクル発生数の最大値が25個/cm2以上
【0072】
また、比較例1、2、及び参考例1、実施例1について、スパッタライフを通して発生するパーティクル数を図5に示す。
【0073】
上記スパッタリング試験におけるパーティクル発生数の評価結果を表3に示す。表3から分かるように、基板パーティクルの発生数に関しては、実施例は比較例より明らかに少なかった。
【0074】
【表3】
【0075】
(考察)
比較例1では、番手#400の砥石を使用した平面研削機で平面研削を処理したのみであり、加工面(スパッタ面)のマイクロクラック量が50μm/mmを超え、ピールテストによる剥離率も良好ではなかった。その結果、初期スパッタ評価結果が不良であった。
【0076】
比較例2では、平面研削機での加工面に対して、振動ツールで仕上げをすることで剥離率が改善されたが、マイクロクラック量の改善が十分でなく、スパッタ試験において中程度のパーティクル発生が見られた。
【0077】
比較例3では、砥石の番手を#800に変えることで加工ダメージの低減を狙ったものの加工面(スパッタ面)のマイクロクラック量は十分に低減できず、やはりマイクロクラック量が50μm/mmを超え、ピールテストによる剥離率も良好ではなかった。その結果、初期スパッタ評価結果が不良であった。
【0078】
参考例1についてみると、下処理に#400のスポンジ研磨材、仕上げに#500と#800のスポンジ研磨材を用いて合計17μm以上の研削を行った結果、マイクロクラック量及びピールテストによる剥離量を低減でき、スパッタ時にパーティクルの少ないターゲットを得ることができたが、上記工程にはおよそ1000min/m2の膨大な時間がかかるため、量産への適用は困難という欠点がある。
【0079】
比較例4についてみると、ポリッシャー加工によりマイクロクラック量を低減できることが確認できたが、それだけでは不十分であり、仕上げ加工なしでは、ピールテストによる剥離率の向上が困難であった。
【0080】
比較例5についてみると、同じ番手#800でも、砥石でなくスポンジ研磨材を使用することでマイクロクラック量を低減できることが確認できたが、それだけでは不十分であり、仕上げ加工なしでは、ピールテストによる剥離率の向上が困難であった。その結果、初期スパッタ評価結果が不良であった。
【0081】
実施例1及び2についてみると、番手#800のスポンジ研磨材を使用することでマイクロクラック量を低減できることが確認でき、また振動ツールを使用して仕上げ加工を行うことでピールテストによる剥離量を低減することもでき、スパッタ時にパーティクルの少ないターゲットを得ることができた。
【0082】
比較例6、7、実施例3についてみると、スパッタリングターゲット材をIZOからITOに変更しても、同等の差異、効果が得られることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6