(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】コネクタ用オスピン及びコネクタ用オスピンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20231130BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20231130BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20231130BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20231130BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
C25D5/50
H01R13/03 D
H01R43/16
(21)【出願番号】P 2021067981
(22)【出願日】2021-04-13
【審査請求日】2022-02-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 知亮
(72)【発明者】
【氏名】成井 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】大江 淳雄
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】吉田 昌弘
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-149805(JP,A)
【文献】特開2020-149770(JP,A)
【文献】特開2012-99398(JP,A)
【文献】特開2012-28139(JP,A)
【文献】特開2015-124434(JP,A)
【文献】特開2015-167099(JP,A)
【文献】特開平11-260994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03
H01R 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンであって、
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備え、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とが、互いに異なるめっきで被覆されており、
前記第1領域の硬度は、前記第2領域の硬度よりも高く、
前記第2領域の接触抵抗は、前記第1領域の接触抵抗よりも低く、
前記第1領域は、Ni、Cuを含まないSn合金、Co、Fe、Au、W、Ti、Bi、Zn及びCrの少なくとも一種以上によって被覆されており、
少なくとも前記第1領域はオイルで被覆されている、コネクタ用オスピン。
【請求項2】
銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンであって、
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備え、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とが、互いに異なるめっきで被覆されており、
前記第1領域は、In又はIn合金によって被覆されており、
前記第2領域の接触抵抗は、前記第1領域の接触抵抗よりも低い、コネクタ用オスピン。
【請求項3】
前記第2領域は、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上によって被覆されている、請求項1または2に記載のコネクタ用オスピン。
【請求項4】
160℃で120時間加熱した後の前記第2領域の接触抵抗が10mΩ以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコネクタ用オスピン。
【請求項5】
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域
及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを
行う工程2と、
前記第1領域の
前記めっきを剥離させる工程3と、
前記第2領域の
前記めっきにリフロー処理を行う工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、請求項1に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
【請求項6】
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域
及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを
行う工程2と、
前記第1領域の
前記めっき及び前記第2領域の
前記めっきにリフロー処理を行う工程3と、
前記第1領域の
前記めっきを剥離させる工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、請求項1に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
【請求項7】
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第2領域にSn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第2領域のSn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきにリフロー処理を行う工程3と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程4と、
を含む、請求項1に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
【請求項8】
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域
及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを
行う工程2と、
前記第1領域の
前記めっき表面にNiめっき、又はCoめっきを行う工程3と、
前記第2領域の
前記めっきにリフロー処理を行う工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、請求項1に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
【請求項9】
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域及び第2領域に
Cuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第1領域の
前記めっき表面にInめっき又はIn合金めっきを行う工程3と、
前記第2領域の
前記めっきにリフロー処理を行う工程4と、
を含む、コネクタ用オスピンの製造方法。
【請求項10】
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含む第1のめっきを行う工程2と、
前記第2領域に、前記第1のめっきより厚みの大きいSn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含む第2のめっきを行う工程3と、
前記第1領域の第1のめっき、及び、前記第2領域の第2のめっきにリフロー処理を行う工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、請求項1に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ用オスピン及びコネクタ用オスピンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用及び車載用電子機器用接続部品であるコネクタには、黄銅やリン青銅の表面にNiやCuの下地めっきを施し、さらにその上にSn又はSn合金めっきを施した材料が使用されている。近年、Sn又はSn合金めっきは、めっき材をプレス加工で成形したオス端子及びメス端子嵌合時の挿入力の低減化が求められている。
【0003】
特許文献1には、Cu又はCu合金からなる母材表面に、Ni層、Cu-Sn合金層及びSn層からなる表面めっき層がこの順に形成され、かつNi層の厚さが0.1~1.0μm、Cu-Sn合金層の厚さが0.1~1.0μm、そのCu濃度が35~75at%、Sn層の厚さが2.0μm以下で、かつ0.001~0.1質量%のカーボンを含有する接続部品用導電材料が開示されている。そして、このような構成によれば、高温雰囲気下で長時間経過後も低接触抵抗を維持することができると記載されている。
【0004】
特許文献2には、基材に下地めっきを施し、次に第1層のSnめっきを施し、更にその上に第1層の1/2以下の平均厚みInめっきを施し、続いてリフローして外観良好なSn-In合金めっきを得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-002341号公報
【文献】特開平11-279791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、端子の最大挿入力は、オス端子先端の傾斜部と平坦部との境界をメス端子の接点部が乗り越えるときに生じる。この挿入力を低減するには、低摩擦係数を付与するめっきの適用または端子形状の改善が求められる。低摩擦係数を付与するSn系めっきとして知られる3層めっきは、硬いCu-Sn層で端子嵌合時の摺動部に掛かる荷重を保持し、挿入力を低く保つ構造となっている。しかしながら、表層が純SnであるためリフローSnと同様の機構で摩擦が発生する。その他、従来、種々のめっき構造が知られているが、それぞれ問題がある。例えば、表面にCu-Sn層を露出させた構造では、挿入力は更に低減するが、表面に酸化Cuが生じることで、接触抵抗が悪化する懸念がある。これは、Cuに限らず、酸化する金属とSnとの合金を用いても同様である。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、メスピンへの挿入力(摩擦力)が低く、且つ、メスピンとの接触抵抗が良好なコネクタ用オスピン及びコネクタ用オスピンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、オスピンの傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とを区別して互いに異なるめっきで被覆し、第1領域と第2領域とに、それぞれ所定の特性を持たせることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施形態は、以下のように特定される。
(1)銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンであって、
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備え、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とが、互いに異なるめっきで被覆されており、
前記第1領域の硬度は、前記第2領域の硬度よりも高く、
前記第2領域の接触抵抗は、前記第1領域の接触抵抗よりも低く、
前記第1領域は、Ni、Cuを含まないSn合金、Co、Fe、Au、W、Ti、Bi、Zn及びCrの少なくとも一種以上によって被覆されており、
少なくとも前記第1領域はオイルで被覆されている、コネクタ用オスピン。
(2)銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンであって、
メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備え、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とが、互いに異なるめっきで被覆されており、
前記第1領域は、In又はIn合金によって被覆されており、
前記第2領域の接触抵抗は、前記第1領域の接触抵抗よりも低い、コネクタ用オスピン。
(3)前記第2領域は、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上によって被覆されている、(1)または(2)に記載のコネクタ用オスピン。
(4)160℃で120時間加熱した後の前記第2領域の接触抵抗が10mΩ以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のコネクタ用オスピン。
(5)メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第1領域の前記めっきを剥離させる工程3と、
前記第2領域の前記めっきにリフロー処理を行う工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、(1)に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
(6)メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第1領域の前記めっき及び前記第2領域の前記めっきにリフロー処理を行う工程3と、
前記第1領域の前記めっきを剥離させる工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、(1)に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
(7)メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第2領域にSn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第2領域のSn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきにリフロー処理を行う工程3と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程4と、
を含む、(1)に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
(8)メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第1領域の前記めっき表面にNiめっき、又はCoめっきを行う工程3と、
前記第2領域の前記めっきにリフロー処理を行う工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、(1)に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
(9)メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域及び第2領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含むめっきを行う工程2と、
前記第1領域の前記めっき表面にInめっき又はIn合金めっきを行う工程3と、
前記第2領域の前記めっきにリフロー処理を行う工程4と、
を含む、コネクタ用オスピンの製造方法。
(10)メスピンに挿入される傾斜部と、前記傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材にめっきされたコネクタ用オスピンの製造方法であって、
前記傾斜部から前記傾斜部と前記平坦部との境界を含む第1領域と、前記メスピンに嵌合された状態において前記メスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行う工程1と、
前記第1領域にCuを含まないSn合金、Au及びPdのいずれか一種以上を含む第1のめっきを行う工程2と、
前記第2領域に、前記第1のめっきより厚みの大きいSn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含む第2のめっきを行う工程3と、
前記第1領域の第1のめっき、及び、前記第2領域の第2のめっきにリフロー処理を行う工程4と、
前記第1領域にオイル被覆処理を行う工程5と、
を含む、(1)に記載のコネクタ用オスピンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、メスピンへの挿入力(摩擦力)が低く、且つ、メスピンとの接触抵抗が良好なコネクタ用オスピン及びコネクタ用オスピンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピン、及び、嵌合するコネクタ用メスピンの外観模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピンの上面模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る「製法1」で製造したコネクタ用オスピンの層構造である。
【
図4】本発明の実施形態に係る「製法2」または「製法5」で製造したコネクタ用オスピンの層構造である。
【
図5】本発明の実施形態に係る「製法3」で製造したコネクタ用オスピンの層構造である。
【
図6】本発明の実施形態に係る「製法4」で製造したコネクタ用オスピンの層構造である。
【
図7】(A)は実施例2に係る外観観察写真である。(B)は(A)の矢印方向に指し示す第1領域(Ni)と第2領域(Sn)との境界を含む領域において測定したSEM像である。
【
図8】(A)は実施例6の第1領域に係る断面TEM像である。(B)は実施例6の第1領域に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【
図9】(A)は実施例10の第1領域に係る断面TEM像である。(B)は実施例10の第1領域に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【
図10】(A)は実施例10の第2領域に係る断面TEM像である。(B)は実施例10の第2領域に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【
図11】(A)は
参考例11の第1領域に係る断面TEM像である。(B)は
参考例11の第1領域に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【
図12】(A)は
参考例11の第2領域に係る断面TEM像である。(B)は
参考例11の第2領域に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【
図13】(A)は
参考例12の第1領域に係る断面TEM像である。(B)は
参考例12の第1領域に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【
図14】(A)は比較例1に係る断面TEM像である。(B)は比較例1に係るライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のコネクタ用オスピン及びコネクタ用オスピンの製造方法の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
<コネクタ用オスピンの構成>
本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピンは、銅又は銅合金からなる基材と、基材の表面に形成されためっき層とで構成されている。コネクタ用オスピンの基材の表面にはNiまたはNi合金などからなる下地層が形成されており、さらに後述のように、所定の部位に所定のめっき層が形成されている。本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピンの形状は、後述の傾斜部と平坦部とを有する限り特に限定されず、一般に公知のコネクタ用オスピンが有する形状とすることができる。
図1に、一例として、本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピン10、及び、嵌合するコネクタ用メスピン20の外観模式図を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピン10は、コネクタ用メスピン20に挿入される傾斜部11と、傾斜部11に連なる平坦部12とを備えている。
図1に示すコネクタ用オスピン10では、四角柱状に形成され、先端が傾斜して先細り、傾斜部11を構成している。当該四角柱の4つの側面が、それぞれ平坦部12を有している。コネクタ用オスピン10は、円柱状であってもよく、三角柱、五角柱などの多角柱状に形成されていてもよい。また、傾斜部11の角度についても特に限定されず、嵌合するコネクタ用メスピン20との関係で適宜設計することができる。
【0015】
コネクタ用オスピン10は、
図2に示すように、傾斜部11から傾斜部11と平坦部12との境界13を含む第1領域14と、コネクタ用メスピン20に嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域15とが、互いに異なるめっきで被覆されている。第1領域14は、コネクタ用オスピン10をコネクタ用メスピン20に嵌合させる際に、初めに挿入される部分に対応し、傾斜部11を含み、さらに傾斜部11と平坦部12との境界13を含む領域である。第1領域14は、傾斜部11から境界13までであってもよく、
図2に示すように、境界13から少し平坦部12まで伸びた領域であってもよい。
【0016】
第2領域15は、コネクタ用メスピン20に嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する領域に対応し、
図2に示すように、第1領域14の終端から、平坦部12の所定の長さまでの領域とされ、その長さはコネクタ用メスピン20の大きさによって適宜調整することができる。
【0017】
コネクタ用オスピン10の大きさは特に限定されず、コネクタ用メスピン20との関係から適宜調整することができる。コネクタ用メスピン20の軸方向における第1領域14の長さは、例えば、先端から1.5~3mm程度、第2領域の長さは第1領域との境目から2mm以上にそれぞれ設計することができる。
【0018】
コネクタ用オスピン10は、上述のように、コネクタ用メスピン20に初めに挿入される第1領域14と、コネクタ用メスピン20に嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域15とを、互いに異なるめっきで被覆することで、後述の実施形態1及び2で示すように、それぞれ別々の部位で別々の特性を持たせている。
【0019】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係るコネクタ用オスピン10は、第1領域14の硬度が、第2領域15の硬度よりも高い。このような構成によれば、コネクタ用メスピン20に初めに挿入される第1領域14の硬度が第2領域15の硬度よりも高いため、コネクタ用オスピン10の挿入力を抑えることができる。第1領域14の硬度が第2領域15の硬度よりも相対的に高いことが必要であり、硬さの基準については特に限定されないが、例えば、第1領域14のビッカース硬さをHv100以上とし、第2領域15のビッカース硬さを、第1領域14のビッカース硬さ未満であり、且つ、Hv100未満とすることができる。
【0020】
第1領域14は、Ni、Sn合金、Co、Fe、Au、W、Ti、Ag、Bi、Zn及びCrの少なくとも一種以上によって被覆されていてもよい。このような構成によれば、Ni、Sn合金、Co、Fe、Au、W、Ti、Ag、Bi、Zn、Crは硬度が高い金属であるため、第1領域14の硬度を向上させることができる。
【0021】
本発明の実施形態1に係るコネクタ用オスピン10は、第2領域15の接触抵抗が第1領域14の接触抵抗よりも低い。このような構成によれば、第2領域15の接触抵抗が第1領域14の接触抵抗よりも低いため、コネクタ用メスピン20に嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域15の導電率が相対的に高くなる。第2領域15の接触抵抗は、良好な導電率を得るという観点からは小さいほうが好ましい。また、接触抵抗が大きすぎると導通不良という問題が生じるおそれがある。このような観点から、第2領域15の接触抵抗は、5mΩ以下であるのが好ましく、3mΩ以下であるのがより好ましい。
【0022】
本発明の実施形態1に係るコネクタ用オスピン10は、少なくとも第1領域14がオイルで被覆されている。オイルとしては、リン酸エステル、パラフィン類及びチオール化合物等のコンタクトオイルとして一般に用いられているものを使用することができる。少なくとも第1領域14に被覆されたオイルは、10nm以下の厚みの非常に薄い層を構成している。このように、第1領域14がオイルで被覆されていることで、第1領域14の潤滑性が向上し、コネクタ用オスピン10の挿入力を良好に抑制することができる。また、第1領域14の耐食性が向上し、酸化が抑制されて、耐熱性やはんだ濡れ性等の耐久性を向上させることができる。なお、オスピンの第1領域がオイルで被覆されていることは、オスピンの第1領域を有機溶剤(アセトンなど適宜適した溶媒)に溶かし、当該溶出成分をGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)にかけることによって確認することが出来る。
【0023】
上述のように、本発明の実施形態1に係るコネクタ用オスピン10は、第1領域と第2領域という異なる部位に、それぞれ異なる特性を持たせているため、共に高い特性を得ることが難しい挿入力と接触抵抗とを両立させることができ、コネクタ用メスピン20への挿入力(摩擦力)が低く、且つ、メスピンとの接触抵抗が良好となる。
【0024】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係るコネクタ用オスピン10は、第1領域14が、In又はIn合金によって被覆されている。このような構成によれば、第1領域14が、自己潤滑作用を有する金属であるIn又はIn合金によって被覆されているため、第1領域14の挿入力を抑制することができる。
【0025】
本発明の実施形態2に係るコネクタ用オスピン10は、第2領域15の接触抵抗が、第1領域の接触抵抗よりも低い。このような構成によれば、第2領域15の接触抵抗が第1領域14の接触抵抗よりも低いため、コネクタ用メスピン20に嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域15の導電率が相対的に高くなる。
【0026】
上述のように、本発明の実施形態2に係るコネクタ用オスピン10は、第1領域と第2領域という異なる部位に、それぞれ異なる特性を持たせているため、共に高い特性を得ることが難しい挿入力と接触抵抗とを両立させることができ、コネクタ用メスピン20への挿入力(摩擦力)が低く、且つ、メスピンとの接触抵抗が良好となる。
【0027】
本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピン10は、第2領域15が、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上によって被覆されていてもよい。このような構成によれば、コネクタ用メスピン20に嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域15の接触抵抗が低下し、導電率が向上する。また、第2領域15のはんだ濡れ性も向上する。
【0028】
本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピン10は、160℃で120時間加熱した後の第2領域の接触抵抗が10mΩ以下であるのが好ましい。このような構成によれば、コネクタ用オスピン10の長時間の使用(通電)による接触抵抗の上昇を抑制することができ、製品としての耐久性が向上する。コネクタ用オスピン10は、160℃で120時間加熱した後の第2領域の接触抵抗が10mΩ以下であるのがより好ましい。
【0029】
<コネクタ用オスピンの製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピン10の製造方法について詳述する。コネクタ用オスピン10は、以下の「製法1」~「製法5」に示す5通りの製造方法によってそれぞれ製造することができる。なお、以下の説明では便宜的に第1領域の最表層をNi、Co、In、又はこれらの合金とし、第2領域の最表層をSnとしているが、上述の通り第1領域および第2領域の最表層はこれに限定されるものではない。
【0030】
(製法1:リフロー前に第1領域のめっきを剥離)
まず、
図1に示すような、メスピンに挿入される傾斜部と、傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる(オスピンの)基材を準備する。基材表面は、前処理として脱脂及び酸洗を行っておく。
次に、傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきを行い、NiまたはNi合金層を形成する。
【0031】
下地めっきを行った後は、Cuめっき等によって中間層めっきを形成した後に後述のSnめっきを行ってもよいし、中間層めっきを形成することなく後述のSnめっきを行ってもよい。中間層めっきは、下地めっきのNiなどの金属が上層へ拡散することを抑制するために形成される。当該中間層めっきとしては、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。
【0032】
次に、第1領域及び第2領域にSnめっきを行う。当該Snめっきとしては、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。なお、当該Snめっきは、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきであってもよい。
【0033】
次に、第1領域のSnめっきを剥離させる。Snめっきの剥離方法としては特に限定されないが、例えば、第1領域のみを剥離液(例えば、石原ケミカル株式会社製のSPF-11)に浸漬することで、表層のSnめっきを剥離させることができる。なお、中間層めっきを形成している場合は、このとき同時に第1領域の中間層めっきを剥離させてもよい。
【0034】
次に、第2領域のSnめっきにリフロー処理(加熱処理)を行う。このとき、第1領域も同時に、すなわち、めっき材料全体がリフロー処理されていてもよい。リフローの条件、すなわち加熱温度と加熱時間を調整することにより、表層の厚みや組成が決定される。リフロー条件は、例えば、最高到達点160~300℃とし、加熱時間8~20秒を、室温から到達温度までの加熱時間で実施してもよい。
【0035】
リフロー処理を施した後に、後処理として、第1領域に対し、更に摩擦を低下させ、また低ウィスカ性及び耐久性も向上させる目的でコンタクトオイル等によるオイル被覆処理を行う。オイル被覆処理としては、第1領域をオイル浴に浸漬してもよく、オイルを噴霧または塗布してもよい。最後に熱風等でオイルを乾燥させる。
以上の「製法1」に記載の方法で製造したコネクタ用オスピンの層構造を、
図3に示す。
【0036】
(製法2:リフロー後に第1領域のめっきを剥離)
まず、
図1に示すような、メスピンに挿入される傾斜部と、傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材を準備し、製法1と同様にして、下地めっきを行い、NiまたはNi合金層を形成する。また、製法1と同様にして、さらに中間層めっきを行ってもよい。
【0037】
次に、第1領域及び第2領域にSnめっきを行う。当該Snめっきとしては、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。なお、当該Snめっきは、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきであってもよい。
【0038】
次に、第1領域及び第2領域のSnめっきにリフロー処理(加熱処理)を行う。リフローの条件、すなわち加熱温度と加熱時間を調整することにより、表層の厚みや組成が決定される。リフロー条件は、製法1と同様とすることができる。
【0039】
次に、第1領域のSnめっきを剥離させる。Snめっきの剥離方法としては特に限定されないが、例えば、第1領域のみを剥離液(例えば、石原ケミカル株式会社製のSPF-11)に浸漬することで、表層のSnめっきを剥離させることができる。なお、中間層めっきを形成している場合は、このとき同時に第1領域の中間層めっきを剥離させてもよい。
【0040】
第1領域のSnめっきを剥離させた後に、後処理として、第1領域に対し、オイル被覆処理を行う。オイル被覆処理としては、製法1と同様とすることができる。最後に熱風等でオイルを乾燥させる。
以上の「製法2」に記載の方法で製造したコネクタ用オスピンの層構造を、
図4に示す。
【0041】
(製法3:第2領域にのみSnめっき)
まず、
図1に示すような、メスピンに挿入される傾斜部と、傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材を準備し、製法1と同様にして、下地めっきを行い、NiまたはNi合金層を形成する。また、製法1と同様にして、さらに中間層めっきを行ってもよい。
【0042】
次に、第1領域を除くように第2領域にSnめっきを行う。当該Snめっきとしては、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。なお、当該Snめっきは、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきであってもよい。
【0043】
次に、第2領域のSnめっきにリフロー処理(加熱処理)を行う。このとき、第1領域も同時にリフロー処理されていてもよい。リフローの条件、すなわち加熱温度と加熱時間を調整することにより、表層の厚みや組成が決定される。リフロー条件は、製法1と同様とすることができる。
【0044】
リフロー処理を施した後に、後処理として、第1領域に対し、オイル被覆処理を行う。オイル被覆処理としては、製法1と同様とすることができる。最後に熱風等でオイルを乾燥させる。
以上の「製法3」に記載の方法で製造したコネクタ用オスピンの層構造を、
図5に示す。
【0045】
(製法4:第1領域に後付けめっき)
まず、
図1に示すような、メスピンに挿入される傾斜部と、傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材を準備し、製法1と同様にして、下地めっきを行い、NiまたはNi合金層を形成する。また、製法1と同様にして、さらに中間層めっきを行ってもよい。
【0046】
次に、第1領域及び第2領域にSnめっきを行う。当該Snめっきとしては、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。なお、当該Snめっきは、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきであってもよい。
【0047】
次に、第1領域のSnめっき表面にNiめっき、Coめっき、Inめっき又はIn合金めっきを行う。当該Niめっき、Coめっき、Inめっき、In合金めっきとしては、それぞれ、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。
【0048】
次に、第2領域のSnめっきにリフロー処理(加熱処理)を行う。このとき、第1領域も同時にリフロー処理されていてもよい。リフローの条件、すなわち加熱温度と加熱時間を調整することにより、表層の厚みや組成が決定される。リフロー条件は、製法1と同様とすることができる。
【0049】
リフロー処理を施した後に、後処理として、第1領域に対し、オイル被覆処理を行う。オイル被覆処理としては、製法1と同様とすることができる。最後に熱風等でオイルを乾燥させる。
以上の「製法4」に記載の方法で製造したコネクタ用オスピンの層構造を、
図6に示す。
【0050】
(製法5:差厚めっき)
まず、
図1に示すような、メスピンに挿入される傾斜部と、傾斜部に連なる平坦部とを備えた、銅又は銅合金からなる基材を準備し、製法1と同様にして、下地めっきを行い、NiまたはNi合金層を形成する。また、製法1と同様にして、さらに中間層めっきを行ってもよい。
【0051】
次に、第1領域に厚さ0.1~0.2μmのSnめっき(第1のSnめっき)を行う。なお、下地めっき上に中間層めっき(Cuめっき等)を形成している場合は、Snめっきは中間層めっきの2倍程度の厚み以下に形成することが好ましい。例えば、中間層めっきとして厚み0.3μmのCuめっきを形成した場合は、Snめっきは0.6μm以下の厚みに形成することが好ましい。このような構成によれば、Cu-Sn合金の生成においてSnが余ってしまうことを抑制することができる。当該Snめっきとしては、湿式(電気、無電解)めっきを用いることができる。また、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いてもよい。なお、当該第1のSnめっきは、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきであってもよい。
【0052】
次に、第2領域に、第1のSnめっきより厚みの大きいSnめっき(第2のSnめっき)を行う。このとき、第2のSnめっきは、第1のSnめっきの厚みの3~6倍の厚みを有することが好ましい。第2のSnめっきが、第1のSnめっきの厚みの3倍以上の厚みを有すると、接触抵抗を低くすることができる。また、第2のSnめっきが、第1のSnめっきの厚みの6倍以下の厚みを有すると、生産性を上げることができる。なお、当該第2のSnめっきは、Sn、Au、Pd及びAgのいずれか一種以上を含むめっきであってもよい。
【0053】
次に、第1領域の第1のSnめっき、及び、第2領域の第2のSnめっきにリフロー処理(加熱処理)を行う。リフロー条件は、製法1と同様とすることができる。但し、第1領域の最表層に純Sn層が残らないようにリフロー条件を適宜設定する。
【0054】
リフロー処理を施した後に、後処理として、第1領域に対し、オイル被覆処理を行う。オイル被覆処理としては、製法1と同様とすることができる。最後に熱風等でオイルを乾燥させる。
以上の「製法5」に記載の方法で製造したコネクタ用オスピンの層構造を、
図4に示す。製法5によれば、めっき材料の第1領域をエッジマスクなどで覆い、第1領域に流れる電流量を減らすことで、一回で(一つのめっき浴で)第1のSnめっき及び第2のSnめっきを同時に行うことができるため、製造効率が良好である。
【0055】
上述の製法1~5で製造されるコネクタ用オスピンの各めっき層の厚みに関して、第2領域におけるリフローSnめっきは0.8~2μmであるのが好ましい。また、第2領域が3層めっき(下地めっき層、中間層、表層)である場合は、下地めっき層の厚みは0.2~1.5μm、中間層の厚みは0.1~1.5μm、表層の厚みは0.2~1.5μmであるのが好ましい。
また、製法4で、第1領域のSnめっき表面にNiめっき、Coめっき、Inめっき又はIn合金めっきを行うが、下層のSnめっきを十分に覆うという観点から、各めっきの厚みが0.3μm以上であるのが好ましい。また、製造コストの増加を抑制することができるため、各めっきの厚みは1.0μm以下であるのが好ましい。
【0056】
上述の製法1~5で示した本発明の実施形態に係るコネクタ用オスピンの製造方法によれば、いずれも、コネクタ用オスピンの第1領域は表層がSn以外の金属でめっきされており、挿入力が抑制されている。Sn以外の金属は、純Snと比べると接触抵抗が高くなりやすいが、コネクタ用オスピンの先端はメスピンとの電気的な接点として使用されないため、機能上問題はない。また、コネクタ用オスピンの第2領域は、リフローSnめっきまたは3層めっきが形成されており、良好な接触抵抗を維持している。リフローSnめっきまたは3層めっきは摩擦係数が悪化するが、コネクタ用オスピンの先端の挿入力が低下することでコネクタ用オスピン全体の最大挿入力は低減する。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例と比較例を共に示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0058】
<コネクタ用オスピンの作製>
実施例1~10、参考例11、12及び比較例1~9として、下記の基材に対し、電解脱脂、酸洗をこの順で行った。次に、下記のめっき処理A~Eを行った。
【0059】
(基材)
図1に示す形状のコネクタ用オスピンの基材を準備した。基材の全長は23mm、先端から傾斜部を含む2mmまでを第1領域とし、残りの領域を第2領域とした。メスピンとの接点は先端から3mmの位置となる。基材の成分はCu-30Znであった。
【0060】
(めっき処理A:製法1のめっき処理)
(製法1)
傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきとして、以下の条件で無光沢Niめっきを行い、厚み1μmのNi層を形成した。
【0061】
・無光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液(JX金属商事(株)、スルファミン酸Niめっき液1014)
めっき温度:55℃
【0062】
次に、第1領域及び第2領域に、以下の条件で無光沢Snめっきを行い、厚み1μmのSn層を形成した。
【0063】
・無光沢Snめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:メタンスルホン酸Snめっき液(JX金属商事(株)、NSP-S200)
【0064】
次に、サンプルの第1領域のみを、剥離液(石原ケミカル株式会社製のSPF-11)に40℃で1分浸漬させた後、洗浄することで、第1領域のSnめっきを剥離させた。
次に、サンプルに対し、リフロー処理(加熱処理)を行った。リフロー処理は、電気管状炉を650℃に設定し、大気雰囲気の電気管状炉内におかれたサンプルが160℃~300℃に達したことを熱電対で確認して、表1に示す処理時間及び設定温度で実施した。
リフロー処理を施した後に、後処理として、第1領域に対し、コンタクトオイル(Harry Miller Corp製HM-15)を塗布した後、熱風で乾燥させることで、第1領域にオイル層を形成した。
【0065】
(めっき処理B:製法3のめっき処理)
傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきとして、以下の条件で、無光沢Niめっき、半光沢Niめっき、または、光沢Niめっきを行い、厚み1μmのNi層を形成した。
【0066】
・無光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液(JX金属商事(株)、スルファミン酸Niめっき液1014)
めっき温度:55℃
【0067】
・半光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液(JX金属商事(株)、スルファミン酸Niめっき液1014)+サッカリン
めっき温度:55℃
【0068】
・光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液(JX金属商事(株)、スルファミン酸Niめっき液1014)+サッカリン+添加剤
めっき温度:55℃
【0069】
次に、第2領域に、上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Snめっきを行い、厚み1μmのSn層を形成した。
次に、サンプルに対し、上述のめっき処理Aと同様の条件でリフロー処理(加熱処理)を行った。
リフロー処理を施した後に、上述のめっき処理Aと同様の条件で、第1領域に対し、オイル被覆処理を行った。
【0070】
(めっき処理C:製法4のめっき処理)
傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきとして、上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Niめっきを行い、厚み1μmのNi層を形成した。
また、参考例12については、下地めっき上に、中間層めっきとして、以下の条件で厚み0.36μmのCuめっきを施した。
【0071】
・Cuめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸Cuめっき液(Cu濃度60g/L)
【0072】
次に、第1領域及び第2領域に、上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Snめっきを行い、厚み1μmまたは0.27μmのSn層を形成した。
次に、第1領域のSnめっき表面に、以下の条件で、Niめっき、Coめっき、または、Inめっきを行った。各めっき厚みは表1に示すように、0.3μm、0.4μm、0.5μm、または、1.0μmであった。
【0073】
・Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液(JX金属商事(株)、スルファミン酸Niめっき液1014)
めっき温度:55℃
【0074】
・Coめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸コバルトめっき液(Co濃度85g/L)
めっき温度:55℃
【0075】
・Inめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:Inめっき液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社、ミクロファブIn4950)
めっき温度:30℃
【0076】
次に、サンプルに対し、上述のめっき処理Aと同様の条件でリフロー処理(加熱処理)を行った。
リフロー処理を施した後に、上述のめっき処理Aと同様の条件で、第1領域に対し、オイル被覆処理を行った。
【0077】
(めっき処理D:製法5のめっき処理)
傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきとして、上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Niめっきを行い、厚み1μmのNi層を形成した。
また、参考例11については、下地めっき上に、中間層めっきとして、上述のめっき処理Cと同様の条件で厚み0.3μmのCuめっきを施した。
次に、第1領域に上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Snめっき(第1のSnめっき)を行い、第1領域のみに厚み0.1μmまたは0.4μmのSnめっきを形成した。
次に、第2領域に上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Snめっき(第2のSnめっき)を行い、第2領域のみに厚み0.9μmまたは0.4μmのSnめっきを形成した。
次に、サンプルに対し、上述のめっき処理Aと同様の条件でリフロー処理(加熱処理)を行った。
リフロー処理を施した後に、上述のめっき処理Aと同様の条件で、第1領域に対し、オイル被覆処理を行った。
【0078】
(めっき処理E:従来のめっき処理)
傾斜部から傾斜部と平坦部との境界を含む第1領域と、メスピンに嵌合された状態においてメスピンと電気的に接触する第2領域とに、下地めっきとして、上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Niめっきを行い、厚み1μmのNi層を形成した。
また、比較例2~5については、下地めっき上に、中間層めっきとして、上述のめっき処理Cと同様の条件で厚み0.3μmのCuめっきを施した。
次に、第1領域及び第2領域に、上述のめっき処理Aと同様の条件で無光沢Snめっきを行い、厚み1μm、0.8μm、0.4μm、0.2μm、または、0.1μmのSn層を形成した。
次に、サンプルに対し、上述のめっき処理Aと同様の条件でリフロー処理(加熱処理)を行った。
リフロー処理を施した後に、上述のめっき処理Aと同様の条件で、第1領域に対し、オイル被覆処理を行った。
【0079】
<評価>
・層構成
各サンプルの層構成は、以下に示すように、SEM像及びTEM像を撮影して評価した。また、いくつかのサンプルについては、他のサンプルの評価結果から推定した。
実施例1~3、5~9のサンプルについて、それぞれ、SEM(JEOL株式会社製、型式JSM-5410)にて100~10000倍の倍率で断面観察を行った。
図7(A)に、実施例2について、上述のオスピンが5本連なったサンプルの外観観察写真を示す。
図7(B)に、
図7(A)の矢印方向に指し示す第1領域(Ni)と第2領域(Sn)との境界を含む領域において測定したSEM像を示す。
実施例6、10
、参考例11、12、比較例1、2、4のサンプルについて、それぞれ、透過電子顕微鏡:TEM(日本電子株式会社製JEM-2100F)を用いて、加速電圧:200kVとして、断面分析を行った。得られた断面TEM像について、
図8(A)(実施例6の第1領域)、
図9(A)(実施例10の第1領域)、
図10(A)(実施例10の第2領域)、
図11(A)(
参考例11の第1領域)、
図12(A)(
参考例11の第2領域)、
図13(A)(
参考例12の第1領域)、
図14(A)(比較例1)、
図15(比較例2)、
図16(比較例4)に示す。各TEM像では、ライン分析方向を矢印で示している。
また、上記ライン分析による深さ方向の各元素濃度のグラフについて、
図8(B)(実施例6の第1領域)、
図9(B)(実施例10の第1領域)、
図10(B)(実施例10の第2領域)、
図11(B)(
参考例11の第1領域)、
図12(B)(
参考例11の第2領域)、
図13(B)(
参考例12の第1領域)、
図14(B)(比較例1)に示す。
実施例1~3の層構成について、第1領域はSEM像から推定し、第2領域は比較例1から推定した。
実施例4の層構成について、実施例1~3と構造は同じであると推定した。
実施例6の第1領域の層構成について、断面TEM像・ライン分析結果から確認した。第2領域の層構成は比較例1から推定した。
実施例5、7~9の層構成について、第1領域は実施例6の断面TEM像・ライン分析結果から確認し、第2領域は比較例1から推定した。なお、表2において実施例5~9の第1領域の層構成は、1種類の層構成ではなく場所によってその層構成が異なると考えられる。例えば、実施例6の第1領域の層構成は
図8(A)及び
図8(B)に示されるように、基材/Ni/Ni-Snの層構成と、基材/Ni/Ni-Sn/Sn/Ni-Snの層構成とが混在している。
実施例10、
参考例11の第1領域および第2領域の層構成それぞれについて、断面TEM像・ライン分析結果から確認した。
参考例12の層構成について、第1領域は全面にその組成を付けためっきの断面TEM像・ライン分析結果(不図示)から、第2領域は比較例4から推定した。なお、
参考例12の第2領域はCu/Sn=0.36/0.27に対し、比較例4は0.30/0.40とSn比が厚いが、
図16に示される断面では表層までCu-Sn合金化しているため、
参考例12の第2領域も表層までCu-Sn合金化していると考えられる。
比較例1、2、4の層構成について、断面TEM像・ライン分析結果から確認した。
比較例3の層構成について、比較例1、2、4から推定した。
【0080】
・挿入力
得られた試料の挿入力は、市販のSnリフローめっきメスピン(025型住友TS/矢崎090IIシリーズメス端子非防水)を用いてめっきを施したオスピンと挿抜試験することによって評価した。
【0081】
試験に用いた測定装置は、アイコーエンジニアリング株式会社製1311NRであり、オスピンの摺動距離3mmで評価した。サンプル数は5個とした。挿入力は、各サンプルの最大値を平均した値を採用した。
【0082】
・接触抵抗(初期)
接触抵抗は株式会社山崎精機研究所製の精密摺動試験装置CRS-G2050型を用い、接点荷重1Nに設定し、四端子法にて測定した。コネクタを模倣するため、接点部の凸材はSnめっき板材(Cu-30ZnにSnを1μmめっき)をφ3mmの半球状に加工したものを使用した。当該接触抵抗を表2に「接触抵抗(初期)」として示す。
【0083】
・接触抵抗(耐熱)
耐熱性は、大気加熱(160℃、120時間以上)試験後のサンプルの接触抵抗を測定し、評価した。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下である。当該接触抵抗を表2に「接触抵抗(耐熱)」として示す。
【0084】
・はんだ濡れ性
第2領域と同じめっき構造を有するサンプルを溶かした鉛フリーはんだに浸漬し、Solder checker SAT-5200を用いてはんだ濡れ時間を測定した。はんだ濡れ時間(最大濡れ力の2/3に達するまでの時間)が1秒以下をA、1秒超3秒以下をB、3秒超をCと評価した。
【0085】
試験条件及び評価結果を表1、2に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
(評価結果)
実施例1~10、参考例11、12は、いずれも、挿入力(摩擦力)が1.3Nよりも低かった。
実施例1~10、参考例11、12は、接触抵抗は未評価であるが、表層のめっき構成がこれらと同様である比較例1または比較例4の接触抵抗が良好に抑制されていることから、実施例1~10、参考例11、12も同様に接触抵抗が抑制されていると考えられる。
実施例1~10、参考例11は、良好なはんだ濡れ性を示した。
【0089】
比較例1、4、6、8は、挿入力が大きかった。
比較例8は、接触抵抗(耐熱)が大きかった。また、比較例8は表層のめっき厚みが0.2μmと厚いにもかかわらず接触抵抗が大きいため、同様のめっき構成であり、且つ、表層のめっき厚みが比較例8より薄い比較例6、7、及び、表層のめっき厚みが比較例8と同じである比較例9についても、接触抵抗が大きいことがわかる。
また、一般に表層のSnめっき厚みが薄いと挿入力が下がる。比較例2は、Snめっき厚みが比較例1及び4の間であるため、挿入力についてもそれらの間、すなわち、1.39~1.5の間にあると類推できる。比較例3の挿入力も同様の観点から、比較例1及び5の間、すなわち、1.12~1.5の間にあると類推できる。
比較例3は、第1領域に対し、オイル被覆処理を行った以外は比較例2と同様に作製したものであるため、比較例2と同等の接触抵抗を示すと考えられる。
比較例5は、第1領域に対し、オイル被覆処理を行った以外は比較例4と同様に作製したものであるため、比較例4と同等の接触抵抗を示すと考えられる。
【符号の説明】
【0090】
10 コネクタ用オスピン
11 傾斜部
12 平坦部
13 傾斜部と平坦部との境界
14 第1領域
15 第2領域
20 コネクタ用メスピン