(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】細胞外小胞の保存安定化剤及び保存安定化方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20231130BHJP
A01N 1/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C12N5/00
A01N1/00
(21)【出願番号】P 2021514217
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016738
(87)【国際公開番号】W WO2020213682
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019080005
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山根 昌之
(72)【発明者】
【氏名】今若 直子
(72)【発明者】
【氏名】中川 祐二
(72)【発明者】
【氏名】笹本 宏大
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-512102(JP,A)
【文献】特開2018-130085(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070939(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0125864(US,A1)
【文献】FUHRMANN G. and STEVENS M. M.,Stability of extracellular vesicles during lyophilization - implications for their pharmaceutical use,Journal of Extracellular Vesicles, The 2nd United Kingdom Extracellular Vesicle Forum Meeting Abstracts,2016年02月23日,Vol. 5, No. 1, 30924,p. 14, Poster 27
【文献】TISSUE ENGINEERING: Part C,2009年12月08日,Vol. 16, No. 4,pp. 783-792
【文献】化学と生物,1980年,Vol. 18, No. 2,pp. 78-87
【文献】Drug Design, Development and Therapy,2018年12月28日,Vol. 13,pp. 205-220
【文献】ユニークな水溶性高分子 ポリビニルピロリドン,第一工業製薬 社報 No.576 拓人2016春,2016年,p. 17,[インターネット], URL <https://www.dks-web.co.jp/catalog_pdf/576_3.pdf>, [検索日 2020-06-19]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーを含
み、
前記ポリマーがビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含み、重量平均分子量が、3,000~250,000である共重合体、又は重量平均分子量が1,500~15,000であるポリビニルピロリドンであり、
ポリマーと細胞外小胞と水系溶媒とを含有する保存溶液の凍結保存に用いられる
細胞外小胞の保存安定化剤。
【請求項2】
前記ポリマーが、
前記共重合体である、請求項1に記載の保存安定化剤。
【請求項3】
前記共重合体の前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が、1:0.1~1:3である、請求項2に記載の保存安定化剤。
【請求項4】
前記共重合体のフィケンチャーのK値が、5~50である、請求項2に記載の保存安定化剤。
【請求項5】
前記ポリマーが、
前記ポリビニルピロリドンである、請求項1に記載の保存安定化剤。
【請求項6】
前記ポリビニルピロリドンのフィケンチャーのK値が、
9~20である、請求項
5に記載の保存安定化剤。
【請求項7】
ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーの存在下、細胞外小胞を凍結保存することを含んでな
り、
前記ポリマーが、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含み、重量平均分子量が、3,000~250,000である共重合体、又は重量平均分子量が1,500~15,000であるポリビニルピロリドンであり、
前記細胞外小胞を凍結保存することが、ポリマーと細胞外小胞と水系溶剤を含有する保存溶液を調製し、当該保存溶液を凍結保存することである
細胞外小胞の保存安定化方法。
【請求項8】
前記ポリマーが、
前記共重合体である、請求項
7に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
【請求項9】
前記共重合体の前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.1~1:3である、請求項
8に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
【請求項10】
前記共重合体のフィケンチャーのK値が、5~50である、請求項
8に記載の保存安定化方法。
【請求項11】
前記ポリマーが、
前記ポリビニルピロリドンである、請求項
7に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
【請求項12】
前記ポリビニルピロリドンのフィケンチャーのK値が、
9~20である、請求項
11に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞の保存安定化剤、保存安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞は、その粒子内部にタンパク質やmicroRNA等の核酸が存在し、細胞間の物質伝達を担っていることが知られている。細胞外小胞は、血液等の体液中にも分泌されており、細胞外小胞中のタンパク質やmicroRNA等が疾患の診断マーカーとして注目されている。さらに、一部の幹細胞に由来するエクソソームが組織修復能を有していることや核酸医薬のデリバリーツールとしての利用性が示されていることから、医薬品としての応用も期待されている。
【0003】
このように細胞外小胞を診断マーカーや医薬品として利用する際、或いは細胞外小胞の機能解析等の基礎研究等を行う上では、細胞外小胞の品質を低下させずに保存する必要がある。その為、細胞外小胞の保存としては、凍結保存が一般的である。
【0004】
また、トレハロースを細胞外小胞の凍結保存に用いることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Steffi Bosch, Laurence de Beaurepaire, Marie Allard, Mathilde Mosser, Claire Heichette, Denis Chretien, Dominique Jegou & Jean-Marie Bach. Trehalose prevents aggregation of exosomes and cryodamage. Scientific Reports volume 6, Article number: 36162 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞外小胞は凍結の影響を受けやすく、凍結融解操作を繰り返すことで、細胞外小胞の粒子数が減少する場合がある。
本発明の課題は、細胞外小胞を安定的に保存することが可能な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、種々の化合物を用いて細胞外小胞を安定的に保存可能であるか鋭意検討した結果、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーの存在下で、細胞外小胞を保存することにより、細胞外小胞を安定的に保存可能であることを見出した。
【0008】
本発明は、細胞外小胞の保存安定化剤、保存安定化方法に関する。
[1]ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーを含んでなる、細胞外小胞の保存安定化剤。
[2]前記ポリマーが、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含む共重合体、又はポリビニルピロリドンである、[1]に記載の保存安定化剤。
[3]前記ポリマーが、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含む共重合体である、[1]に記載の保存安定化剤。
[4]前記共重合体の前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が、1:0.1~1:3である、[2]又は[3]に記載の保存安定化剤。
[5]前記共重合体のフィケンチャーのK値が、5~50である、[2]~[4]から選ばれる何れか一つに記載の保存安定化剤。
[6]前記共重合体の重量平均分子量が、3,000~250,000である、[2]~[5]から選ばれる何れか一つに記載の保存安定化剤。
[7]前記ポリマーが、ポリビニルピロリドンである、[1]に記載の保存安定化剤。
[8]前記ポリビニルピロリドンのフィケンチャーのK値が、5~140である、[2]又は[7]に記載の保存安定化剤。
[9]前記ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が、1,000~3,000,000である、[2]、[7]及び[8]から選ばれる何れか一つに記載の保存安定化剤。
[10]ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーの存在下、細胞外小胞を凍結保存することを含んでなる、細胞外小胞の保存安定化方法。
[11]前記ポリマーが、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含む共重合体、又はポリビニルピロリドンである、[10]に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
[12]前記ポリマーが、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含む共重合体である、[10]に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
[13]前記共重合体の前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.1~1:3である、[11]又は[12]に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
[14]前記共重合体のフィケンチャーのK値が、5~50である、[11]~[13]から選ばれる何れか一つに記載の保存安定化方法。
[15]前記共重合体の重量平均分子量が、3,000~250,000である、[11]~[14]から選ばれる何れか一つに記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
[16]前記ポリマーが、ポリビニルピロリドンである、[10]に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
[17]前記ポリビニルピロリドンのフィケンチャーのK値が、5~140である、[11]又は[16]に記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
[18]前記ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が、1,000~3,000,000である、[11]、[16]及び[17]から選ばれる何れか一つに記載の細胞外小胞の保存安定化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細胞外小胞の保存安定化剤、及び本発明の細胞外小胞の保存安定化方法によれば、細胞外小胞を安定的に保存することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施例1及び比較例1で行ったKollidon(登録商標)VA64を用いたエクソソームの保存安定化試験の結果を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、実験例1及び実験例2で行ったエクソソームの保存安定化試験前後のタンパク質濃度の変化を検証した結果を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、実験例3及び実験例4で行ったエクソソームの保存安定化試験前後における粒子数の変化を検証した結果を示す図である。
【
図1D】
図1Dは、実施例2及び比較例2で行ったエクソソームの保存安定化試験前後における粒子数の変化を検証した電子顕微鏡の観察像である。
【
図2】
図2は、実施例3及び比較例3で行ったCOLO201細胞の培養上清由来のエクソソームを用いた保存安定化試験の結果を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例3及び比較例3で行った間葉系幹細胞(MSC)の培養上清由来のエクソソームを用いた保存安定化試験の結果を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例3及び比較例3で行った血清由来のエクソソームを用いた保存安定化試験の結果を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例3及び比較例3で行った血漿由来のエクソソームを用いた保存安定化試験の結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例4で行った凍結温度(-80℃)がエクソソームの保存安定化に与える影響を安定化試験により検証した結果を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例4で行った凍結温度(-20℃)がエクソソームの保存安定化に与える影響を安定化試験により検証した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例5で行った凍結融解操作の回数がエクソソームの保存安定化に与える影響を安定化試験により検証した結果を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例6で行った凍結融解操作の回数がエクソソームの保存安定化に与える影響を電子顕微鏡観察により検証した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、比較例4及び比較例5で行ったトレハロースを用いたエクソソームの保存安定化試験の結果を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例7-8及び比較例6で行ったKollidon(登録商標)12PF又は17PFを用いた保存安定化試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る保存安定化とは、細胞外小胞の生理的活性を維持した状態での保存を可能とすることである。具体的には、例えば、細胞外小胞を凍結保存することによる細胞外小胞の生理的活性に対する悪影響を低減することが挙げられる。当該悪影響としては、例えば、細胞小胞の粒子数が減少すること、細胞外小胞を構成する脂質や膜表面に存在するタンパク質、細胞外小胞に内包されるタンパク質やペプチド、核酸等が、保存時の温度等の外的要因により変性したり、経時変化したりすることにより活性を失うこと等が挙げられる。
細胞外小胞の生理活性は、例えば、CD9、CD63、CD81等の細胞外小胞の膜表面に存在するマーカータンパク質の活性を測定する、細胞外小胞の粒子数をNTA(Nano Tracking Analysis)法により測定する、電気顕微鏡により細胞外小胞の粒子数や形状など状態を観察する、タンパク質やペプチドの数をプロテオーム解析により測定する等により確認することができる。
【0012】
<本発明の細胞外小胞の保存安定化剤>
本発明の細胞外小胞の保存安定化剤(以下、本発明の保存安定化剤と略記する場合がある)は、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーを含んでなる、細胞外小胞の保存安定化剤である。本発明の保存安定化剤によれば、細胞外小胞を安定的に凍結保存することが可能である。
【0013】
本発明の保存安定化剤に用いられるポリマー(以下、本発明に係るポリマーと略記する場合がある)としては、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するものであれば、ホモポリマー(ポリビニルピロリドン)であっても共重合体であってもよい。前記共重合体としては、例えば、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含む共重合体が挙げられ、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位のみからなる共重合体がより好ましい。
本発明に係るポリマーとしては、細胞外小胞を安定化する効果が高いことからビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位を含む共重合体が好ましく、ビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位のみからなる共重合体がより好ましい。また、本発明に係るポリマーとしては、生体許容性材料として使用されることからポリビニルピロリドンが有用である。
これら本発明に係るポリマーは、1種を単独で用いても、2種以上混合して用いてもよく、1種を単独で用いるのが好ましい。なお、重合開始剤由来の構造等の重合反応に伴い付加される構成単位を含むポリマーも本発明に係るポリマーに包含される。すなわち、ホモポリマー(ポリビニルピロリドン)やビニルピロリドン由来のモノマー単位及びビニルアセテート由来のモノマー単位のみからなる共重合体は、モノマー単位としては、前記2つのモノマー単位のみからなるが、重合開始剤由来の構造等の重合反応に伴い付加されるモノマー単位以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0014】
本発明に係るポリマーのフィケンチャーのK値は、特に限定されないが、例えば、5~140であり、6~100が好ましく、7~40がより好ましい。フィケンチャーのK値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のフィケンチャーの式(1)に適用して計算される数値である。
【0015】
【数1】
式(1)中、ηrelは、ポリマー水溶液の水に対する相対粘度、cは、ポリマー水溶液中のポリマー濃度(%[w/v])である。
【0016】
本発明に係るポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000~3,000,000であり、1,000~2,000,000が好ましく、1,000~150,000がより好ましい。
【0017】
前記共重合体における、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比は特に限定されないが、例えば、1:0.1~1:3であり、1:0.2~1:2が好ましく、1:0.3~1:1がより好ましく、1:0.4~1:1が更に好ましい。
【0018】
前記共重合体のフィケンチャーのK値は特に限定されないが、例えば、5~50であり、10~45が好ましく、15~40がより好ましく、20~40が更に好ましい。
【0019】
前記共重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、3,000~250,000であり、5,000~200,000が好ましく、10,000~150,000がより好ましく、20,000~100,000が更に好ましく、30,000~80,000が特に好ましい。
【0020】
前記共重合体としては、例えば、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.1~1:3であって、かつ前記共重合体のフィケンチャーのK値が5~50又は/及び重量平均分子量が3,000~250,000である共重合体が挙げられ、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.2~1:2であって、かつ前記共重合体のフィケンチャーのK値が10~45又は/及び重量平均分子量が5,000~200,000である共重合体が好ましく、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.3~1:1であって、かつ前記共重合体のフィケンチャーのK値が15~40又は/及び重量平均分子量が10,000~150,000である共重合体がより好ましく、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.4~1:1であって、かつ前記共重合体のフィケンチャーのK値が20~40又は/及び重量平均分子量が20,000~100,000である共重合体が更に好ましく、前記共重合体における、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が1:0.4~1:1であって、かつ前記共重合体のフィケンチャーのK値が20~40又は/及び重量平均分子量が30,000~80,000である共重合体が特に好ましい。
【0021】
前記共重合体としては、例えば、前記ビニルピロリドン由来のモノマー単位と前記ビニルアセテート由来のモノマー単位の構成比が6:4である、Kollidon(登録商標)VA64(BASF社製)が挙げられる。Kollidon(登録商標)VA64のフィケンチャーのK値は25.2~30.8、重量平均分子量は45,000~70,000である。
【0022】
前記ポリビニルピロリドンのフィケンチャーのK値は特に限定されないが、例えば、5~140であり、6~100が好ましく、7~40がより好ましく、8~30が更に好ましく、9~20が特に好ましい。
【0023】
前記ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、1,000~3,000,000であり、1,000~2,000,000が好ましく、1,000~100,000がより好ましく、1,000~40,000が更に好ましく、1,500~15,000が特に好ましい。
【0024】
前記ポリビニルピロリドンとしては、例えば、フィケンチャーのK値が5~140であって、かつ重量平均分子量が1,000~3,000,000であるポリビニルピロリドンが挙げられ、フィケンチャーのK値が6~100であって、かつ重量平均分子量が1,000~2,000,000であるポリビニルピロリドンが好ましく、フィケンチャーのK値が7~40であって、かつ重量平均分子量が1,000~100,000であるポリビニルピロリドンがより好ましく、フィケンチャーのK値が8~30であって、かつ重量平均分子量が1,000~40,000であるポリビニルピロリドンが更に好ましく、フィケンチャーのK値が9~20であって、かつ重量平均分子量が1,500~15,000であるポリビニルピロリドンが特に好ましい。
【0025】
前記ポリビニルピロリドンとしては、例えば、Kollidon(登録商標)12PF(分子量2,000~3,000、K値が10.2~13.8)、Kollidon(登録商標)17PF(分子量7,000~11,000、K値が15.3~18.0)、Kollidon(登録商標)25(分子量28,000~34,000、K値が22.5~27.0)、Kollidon(登録商標)30(分子量44,000~54,000、K値が27.0~32.4)、Kollidon(登録商標)90F(分子量1,000,000~1,500,000、K値が81.0~96.3)、PVP K-120(分子量2,100,000~3,000,000、K値が110~130)などが挙げられ、Kollidon(登録商標)12PF、Kollidon(登録商標)17PF、Kollidon(登録商標)25、Kollidon(登録商標)30、Kollidon(登録商標)90Fが好ましく、Kollidon(登録商標)12PF、Kollidon(登録商標)17PF、Kollidon(登録商標)25、Kollidon(登録商標)30がより好ましく、Kollidon(登録商標)12PF、Kollidon(登録商標)17PF、Kollidon(登録商標)25が更に好ましく、Kollidon(登録商標)12PF、Kollidon(登録商標)17PFが特に好ましい。
【0026】
前記本発明の保存安定化剤は、本発明に係るポリマーの他に、水系溶媒を含んでいてもよい。前記水系溶媒としては、水;リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、トリス緩衝液、MES緩衝液)等の緩衝液;生理食塩水が挙げられる。また、前記水系溶媒は、更に増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤その他この分野で用いられているものであって、本発明に係るポリマーや本発明に係る細胞外小胞の安定性を阻害したり、本発明に係るポリマーによる細胞外小胞の保存安定化効果を阻害したりしないものを含んでいてもよく、通常この分野で用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。
【0027】
前記本発明の保存安定化剤における、本発明に係るポリマーの濃度は、通常、0.005~20%(w/v)であり、0.01~15%(w/v)が好ましく、0.05~10%(w/v)がより好ましい。
【0028】
前記本発明の保存安定化剤における、pHは、通常、5~10であり、5.5~9.5が好ましく、5~9がより好ましい。
【0029】
<本発明に係る細胞外小胞>
本発明に係る細胞外小胞は、細胞に由来する、脂質二重膜で構成される小型膜小胞である。当該細胞外小胞は、通常20nm~1000nmの直径を有するものが挙げられ、50nm~800nmのものが好ましく、50nm~500nmのものがより好ましく、50nm~200nmのものが特に好ましい。本発明に係る細胞外小胞としては、例えば、Nature Reviews Immunology 9, 581-593 (August 2009)、「肥満研究」Vol.13 No.2 2007 トピックス 青木直人等に記載の通り、その発生起源や小型膜小胞の大きさ等により様々に分類されるものが挙げられる。具体的には、エクソソーム、微小胞、エクトソーム、膜粒子、エクソソーム様小胞、アポトーシス小体、アディボソーム等が挙げられる。
本発明の保存安定化剤は、これらのうち、エクソソーム、微小胞に対してより有用であり、エクソソームに対して特に有用である。
【0030】
前記エクソソームは、細胞に由来する、脂質二重膜で構成された小型膜小胞であり、例えば、50nm~200nmの直径を有するものが挙げられ、50nm~150nmのものが好ましく、50nm~100nmのものがより好ましい。なお、エクソソームは、後期エンドソームに由来すると考えられている。
【0031】
前記微小胞は、細胞に由来する、脂質二重膜で構成された小型膜小胞であり、例えば、100nm~1000nmの直径を有するものが挙げられ、100nm~800nmのものが好ましく、100nm~500nmの直径を有するものがより好ましい。なお、微小胞は、細胞膜に由来すると考えられている。
【0032】
本発明に係る細胞外小胞は、生体試料に含有されるものであっても、生体試料から単離されたものであってもよく、生体試料から単離されたものが好ましい。
【0033】
生体試料は、本発明に係る細胞外小胞を含みうるものであれば、特に限定されない。生体試料としては、例えば、体液試料、細胞の培養上清、細胞抽出液が挙げられ、体液試料及び細胞の培養上清が好ましい。体液試料としては、例えば、血液、血清、血漿等の血液由来試料、尿、バフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液等の臨床検査の分野で用いられる体液試料が挙げられ、血液由来試料が好ましい。細胞の培養上清としては、例えば、COLO201細胞やMM1細胞、BLCL21細胞、U87 MG細胞、SK-N-SH細胞、HCT116細胞、PC3細胞、BPH-1細胞、DAUDI細胞、A549細胞、K562細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞(MSC)、線維芽細胞、臍帯静脈内皮細胞、T細胞、マクロファージ、B細胞、樹状細胞を常法に従い培養した培養上清が挙げられる。細胞抽出液としては、例えば、COLO201細胞やMM1細胞、BLCL21細胞、U87 MG細胞、SK-N-SH細胞、HCT116細胞、PC3細胞、BPH-1細胞、DAUDI細胞、A549細胞、K562細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞(MSC)、線維芽細胞、臍帯静脈内皮細胞、T細胞、マクロファージ、B細胞、樹状細胞を常法に従い破砕を行い抽出したものが挙げられる。
生体試料は、例えば、動物から直接採取されたものであっても、回収、濃縮、精製、単離、緩衝液等による希釈、ろ過滅菌等の前処理を行ったものであってもよい。これら前処理は、この分野で用いられる常法に従い、適宜行えばよい。動物としては、細胞外小胞を含みうる動物であれば特に限定されず、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ヤギ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ハムスター、ロバ、モルモットが挙げられ、ヒトが好ましい。
【0034】
生体試料から細胞外小胞を単離する方法としては、常法に従い行えばよく、特に限定されない。生体試料から細胞外小胞を単離する方法としては、例えば、アフィニティー法(例えば、PSアフィニティー法)、分画遠心分離法(例えば、ペレットダウン法、スクロースクッション法、密度勾配遠心法等の超遠心法)、免疫沈降法、クロマトグラフィー法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー法、ゲル浸透クロマトグラフィー法)、密度勾配法(例えば、ショ糖密度勾配法)、電気泳動法(例えば、オルガネラ電気泳動法)、磁気分離法(例えば、磁気活性化細胞選別(MACS)法)、限外濾過濃縮法(例えば、ナノ膜限外濾過濃縮法)、パーコール勾配単離法、マイクロ流体デバイスを利用した方法、PEG沈殿法等が挙げられ、高い精製度の細胞外小胞を得られるアフィニティー法、理論的に偏りの無い回収が可能である分画遠心分離法が好ましく、アフィニティー法、超遠心法がより好ましく、アフィニティー法が特に好ましい。アフィニティー法の中でも、PSアフィニティー法が好ましい。アフィニティー法及び分画遠心分離法は、例えば、特開2016-088689に記載の方法に準じておこなえばよい。
これらの単離方法は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせてもよい。また、1種の単離方法による単離を2回以上繰り返してもよい。
【0035】
本発明の保存安定化剤は、本発明の保存安定化剤の存在下、本発明に係る細胞外小胞を保存する方法に用いられる。本発明に係る細胞外小胞の保存は、細胞外小胞の保存の常法に従って行えばよい。本発明の保存安定化剤によれば、本発明に係る細胞外小胞を安定的に保存することが可能である。
【0036】
<本発明の細胞外小胞の保存安定化方法>
本発明の細胞外小胞の保存安定化方法(以下、「本発明の保存安定化方法」と略記する場合がある)は、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマー(本発明に係るポリマー)の存在下、細胞外小胞を凍結保存することを含んでなる、細胞外小胞の保存安定化方法である。
すなわち、本発明の保存安定化方法は、本発明に係るポリマーと細胞外小胞とを接触させ、本発明に係るポリマーの存在下で細胞外小胞を凍結保存するものである。
具体的には、本発明に係るポリマーと細胞外小胞とを接触させることによって、本発明に係るポリマーと細胞外小胞とを含有する保存溶液(以下、本発明に係る保存溶液と略記する場合がある)を調製し、当該保存溶液を凍結保存するものである。
【0037】
本発明の保存安定化方法における、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、前記<本発明の細胞外小胞の保存安定化剤>の項において述べたものと同一であり、具体例や好ましいものも同一である。
また、本発明の保存安定化方法に用いられる細胞外小胞は、前記<本発明に係る細胞外小胞>の項において述べたものと同一であり、具体例や好ましいものも同一である。
【0038】
本発明に係る保存溶液の調製方法としては、最終的に本発明に係るポリマーと細胞外小胞とを含有する溶液を得る方法であれば、特に限定されない。本発明に係る保存溶液の調製方法は、具体的には、水系溶媒を含む本発明の保存安定化剤と生体試料又は細胞外小胞を含有する溶液とを混合する方法、水系溶媒を含む本発明の保存安定化剤と細胞外小胞とを混合する方法、或いは本発明に係るポリマーと生体試料又は細胞外小胞を含有する溶液とを混合する方法が挙げられ、水系溶媒を含む本発明の保存安定化剤と生体試料又は細胞外小胞を含有する溶液とを混合する方法が好ましい。
前記水系溶媒を含む本発明の保存安定化剤としては、前記<本発明の細胞外小胞の保存安定化剤>の項において述べたものと同一であり、好ましいものも同一である。
【0039】
前記細胞外小胞を含有する溶液における溶媒としては、水系溶媒が好ましい。前記水系溶媒としては、例えば、水;リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、トリス緩衝液、MES緩衝液)等の緩衝液;生理食塩水が挙げられる。また、前記水系溶媒には、更に増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤その他この分野で用いられているものであって、本発明に係るポリマーや本発明に係る細胞外小胞の安定性を阻害したり、本発明に係るポリマーによる細胞外小胞の保存安定化効果を阻害したりしないものを含んでいてもよく、通常この分野で用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。
【0040】
前記細胞外小胞を含有する溶液のpHは、通常、5~10であり、5.5~9.5が好ましく、5~9がより好ましい。
【0041】
本発明に係る保存溶液中の本発明に係るポリマーの濃度は特に限定されないが、例えば、0.0001~10%(w/v)であり、0.00025~5%(w/v)が好ましく、0.0005~2.5%(w/v)がより好ましく、0.001~1%(w/v)が更に好ましく、0.0025~0.5%(w/v)が特に好ましい。
【0042】
本発明に係る保存溶液の単位体積当たりの細胞外小胞の粒子数は特に限定されないが、例えば、2×105~2×1016(particles/mL)であり、2×105~2×1015(particles/mL)が好ましく、2×106~2×1014(particles/mL)がより好ましい。
【0043】
本発明に係る保存溶液の調整の際の温度、言い換えれば本発明に係るポリマーと細胞外小胞とを接触させる際の温度は、通常、2℃~42℃であり、2℃~40℃が好ましく、2℃~37℃がより好ましい。
【0044】
本発明に係るポリマーと細胞外小胞とを接触させる時間は、通常、1秒~30分であり、1秒~20分が好ましく、1秒~10分がより好ましい。
【0045】
本発明に係る保存溶液のpHは、通常、5~10であり、5.5~9.5が好ましく、5~9がより好ましい。
【0046】
本発明の保存安定化方法において、本発明に係る保存溶液を凍結保存する際の温度は、特に限定されないが、例えば、-2℃~-150℃であり、-5℃~-150℃が好ましく、-10℃~-150℃がより好ましい。
【0047】
本発明の保存安定化方法において、本発明に係る保存溶液の保存期間(前記本発明に係る保存溶液を凍結保存する際の温度下で本発明に係る保存溶液を保存する期間)は特に限定されないが、例えば、1秒~5年であり、5分~2年が好ましい。
【0048】
本発明の保存安定化方法は、例えば以下の様に行えばよい。
まず、生体試料から常法に従い細胞外小胞を単離し、細胞外小胞を含有する水や緩衝液等の溶液(pHが例えば、5~10であり、5.5~9.5が好ましく、5~9がより好ましい)を得る。次いで、別途調製した、本発明に係るポリマーを含有する水や緩衝液等の溶液(pHが例えば、5~10であり、5.5~9.5が好ましく、5~9がより好ましい)を、生体試料又は前記細胞外小胞を含有する溶液に添加し、例えば、2℃~42℃、好ましくは2℃~40℃、より好ましくは2℃~37℃で、例えば、1秒~30分、好ましくは1秒~20分、より好ましくは1秒~10分接触(混合)させる。これにより、例えば、0.0001~10%(w/v)、好ましくは0.00025~5%(w/v)、より好ましくは0.0005~2.5%(w/v)、更に好ましくは0.001~1%(w/v)、特に好ましくは0.0025~0.5%(w/v)の濃度の本発明に係るポリマーと、例えば、2×105~2×1016(particles/mL)、好ましくは2×105~2×1015(particles/mL)、より好ましくは2×106~2×1014の濃度(本発明に係る保存溶液の単位体積当たりの細胞外小胞の粒子数)の細胞外小胞とを含有する保存溶液(pHが例えば、5~10であり、5.5~9.5が好ましく、5~9がより好ましい)を得る。
次いで、得られた保存溶液(すなわち、本発明に係るポリマーの共存下で細胞外小胞)を、例えば、-2℃~-150℃、好ましくは-5℃~-150℃、より好ましくは-10℃~-150℃で、例えば、1秒~5年、好ましくは5分~2年、凍結保存する。
【0049】
本発明の保存安定化剤及び保存安定化方法によれば、本発明に係る細胞外小胞を安定的に凍結保存することが可能である。より具体的には、本発明の保存安定化剤及び保存安定化方法によれば、本発明に係る細胞外小胞を凍結保存した場合であっても、本発明の安定化剤を用いない場合に比べて、凍結保存させた本発明に係る細胞外小胞の粒子数の減少を著しく低減できる。また、本発明の保存安定化剤及び保存安定化方法によれば、本発明の安定化剤を用いない場合に比べて、本発明に係る細胞外小胞の膜表面に存在するマーカータンパク質の活性を保ったまま凍結保存することができる。
【0050】
本発明において、凍結保存された本発明に係る保存溶液を融解する際の融解温度及び融解時間は、細胞外小胞を融解し得る温度及び時間であれば特に限定されないが、融解温度は、例えば、2℃~42℃であり、2℃~40℃が好ましく、2℃~37℃がより好ましく、融解時間は、例えば、1秒~180分であり、30秒~120分が好ましく、1分~60分がより好ましい。
また、本発明に係る保存溶液の凍結融解回数(具体的には、凍結融解をおこなう回数)は特に限定されないが、例えば1回~50回であり、1回~20回が好ましい。
【0051】
本発明に係る保存溶液の融解方法は、具体的には、前述のように凍結保存された本発明に係る保存溶液を、例えば、2℃~42℃、好ましくは2℃~40℃、より好ましくは2℃~37℃で、例えば、1秒~180分、好ましくは30秒~120分、より好ましくは1分~60分融解することにより行う。
【0052】
本発明の保存安定化方法によれば、前述の凍結及び融解を、例えば、1回~50回、好ましくは1回~20回繰り返し行うことができる。
すなわち、本発明の保存安定化方法は、本発明に係る細胞外小胞の凍結及び融解における細胞外小胞の保存安定化方法ともいえる。同様に、本発明の保存安定化剤は、本発明に係る細胞外小胞の凍結及び融解に対する保存安定化剤ともいえる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の保存安定化剤及び保存安定化方法は、細胞外小胞を安定的に保存させることが可能であることから、細胞外小胞を用いた診断や医薬品の分野において有用である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されない。
【0055】
<実施例1.Kollidon(登録商標)VA64を用いたエクソソームの保存安定化試験>
Kollidon(登録商標)VA64のエクソソームを凍結保存する際の保存安定化効果について、COLO201細胞由来エクソソームを用いて検証した。測定条件の詳細は、表1に示す。
(1)エクソソームの取得
COLO201細胞(JCRB細胞バンクより分譲)を、Expi293(登録商標) Expression Medium(ThermoFisher SCIENTIFIC社製)を用いて96時間培養し、培養上清を得た。得られたCOLO201細胞培養上清10mLから、MagCapture(登録商標) Exosome Isolation Kit PS(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて、当該キットに添付の説明書に記載の手順に従ってエクソソームを精製し、1mM EDTA含有 1×Tris buffer(pH7.4)中にエクソソームを得た。得られた溶液を「エクソソーム精製溶液」と略記する場合がある。
(2)エクソソームの凍結保存
得られたエクソソーム精製溶液を、4℃で16時間インキュベートした。次いで、5%(w/v)Kollidon水溶液(Kollidon(登録商標)VA64(BASF社製)、大塚蒸留水(大塚製薬株式会社製))を調製した。インキュベート後のエクソソーム精製溶液に、5%(w/v)Kollidon水溶液を終濃度0.05%(w/v)となるように添加した。得られた溶液を「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」と略記する場合がある。
次いで、得られた安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液を用いて、「-80℃で5分間凍結した後室温で5分間融解する」条件で20回凍結融解操作を繰り返した。得られた凍結融解後の溶液を「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」と略記する場合がある。
(3)保存安定化効果の検証
「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」に含まれるエクソソームマーカーであるCD63を、PS Capture(登録商標) エクソソームELISAキット(ストレプトアビジンHRP)(富士フイルム和光純薬株式会社製、抗CD63抗体を含む)を用いて、当該キットに添付の説明書に記載の手順に従って測定し、吸光度を求めた。
また、抗CD9,モノクローナル抗体(30B)(富士フイルム和光純薬株式会社製)、又は、抗CD81,モノクローナル抗体(17B1)(011-27773,富士フイルム和光純薬株式会社製)をビオチン標識用キット-SH(LK10,株式会社同仁化学研究所製)によりビオチン標識した。得られた標識抗体を抗CD63抗体の代わりに使用して、同様の方法によりエクソソームマーカーであるCD9及びCD81を測定し、それぞれ吸光度を求めた。
更に、コントロールとして、「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」の代わりに「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」を用いて、同様の方法によりCD63、CD9及びCD81を測定し、それぞれ吸光度を求めた。
吸光度から、「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」の吸光度を100[%]とした場合の、それぞれの溶液の吸光度の相対値[%]を、エクソソームマーカー毎に算出した。算出した値を「シグナル値」と略記する場合がある。
(4)結果
シグナル値の結果を
図1Aのグラフに示す。
図1Aにおいて、横軸はKollidon(登録商標)VA64の有無および測定したエクソソームマーカーの種類を示し、Kollidon+が実施例1の結果、Kollidon-は後述する比較例1の結果を示す。縦軸は、シグナル値を示す。
【0056】
<比較例1.エクソソームの保存安定化試験>
表1に記載の条件に従い、5%(w/v)Kollidon水溶液をインキュベート後のエクソソーム精製溶液に添加しない以外は、実施例1と同様の方法により測定を行い、凍結保存後のエクソソーム溶液のシグナル値[%]を算出した。
シグナル値の結果を
図1Aに示す。図中、Kollidon-が比較例1の結果を示す。
【0057】
図1Aのグラフより、Kollidon(登録商標)VA64を添加せずエクソソーム溶液のみを凍結保存した場合(比較例1)、凍結保存後のシグナル値は、凍結保存前のシグナル値に比べて、いずれのエクソソームマーカーにおいても著しく低下した。他方、Kollidon(登録商標)VA64を含有させて凍結保存した場合(実施例1)、いずれのエクソソームマーカーにおいても、凍結保存の前後でシグナル値はほぼ変化せず、凍結保存後であっても、エクソソームマーカーの活性は保持されていた。すなわち、エクソソームマーカーであるCD63、CD9、CD81(テトラスパニン)は、これらに対する各抗体と結合可能な状態が保持されていることが示された。
これらの結果から、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、細胞外小胞を凍結保存する際に、細胞外小胞を保存安定化させる効果を有することが判った。
【0058】
<実験例1.エクソソームの保存安定化試験前後におけるタンパク質濃度の変化>
細胞外小胞の凍結保存前後における相対シグナル値の変動が、細胞外小胞がサンプルチューブに吸着することによるものではないことを確認する為、プロテインアッセイBCAキット(富士フイルム和光純薬製)を用いて、実施例1における「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」及び「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」のタンパク質濃度を、それぞれBCAプロテインアッセイにより測定した。具体的には、当該キットに添付のプロテインアッセイBCA試薬Aに、当該キットに添付のプロテインアッセイBCA試薬Bを1/50量[v/v]添加して混合液を調製した。当該混合液200μLと「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」又は「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」25μLを、NUNC 96well plate平面プレート(サーフィッシャーサイエンティフィック社製)中でそれぞれ混合し、60℃条件下で30分間インキュベートした。その後、プレートリーダーを用いてインキュベート後の溶液の562nmの吸光度をそれぞれ測定し、吸光度から「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」及び「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」のタンパク質濃度をそれぞれ算出した。
結果を
図1Bに示す。
図1Bにおいて、横軸はKollidon(登録商標)VA64の有無を示し、Kollidon+が実験例1の結果、Kollidon-は後述する実験例2の結果を示す。縦軸は、測定した溶液中のタンパク質濃度[ng/μL]を示す。
【0059】
<実験例2.エクソソーム保存安定化試験前後のタンパク質濃度の変化>
実験例1と同様の方法により、比較例1における凍結保存前のエクソソーム溶液及び凍結保存後のエクソソーム溶液のタンパク質濃度を測定した。測定条件の詳細は、表1に示す。結果を
図1Bに示す。Kollidon-は実験例2の結果を示す。
【0060】
図1Bより、Kollidon(登録商標)VA64を用いるか否かに関わらず、凍結保存の前後でエクソソーム溶液中のタンパク質濃度には変化がないことが判った。
図1A及び
図1Bの結果から、細胞外小胞の凍結保存前後におけるシグナル値の変動は、細胞外小胞がサンプルチューブに吸着することによるものではないことが確認された。
【0061】
<実験例3.エクソソームの保存安定化試験前後における粒子数の変化>
実施例1における「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」及び「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」の単位体積当たりの粒子数を、NanoSight(Malvern Panalytical社製)を用いて、ナノ粒子トラッキング解析法(Nano Tracking Analysis法)により、NanoSightの説明書に記載の手順に従ってそれぞれ3回測定し、単位体積当たりの平均粒子数[Particles/mL]を算出した。
結果を
図1Cに示す。
図1Cにおいて、横軸はKollidon(登録商標)VA64の有無を示し、Kollidon+が実験例3の結果、Kollidon-は後述する実験例4の結果を示す。縦軸は、測定した溶液中の粒子数[×10
11 particles/mL]を示す。
【0062】
<実験例4.エクソソームの保存安定化試験前後における粒子数の変化>
実験例3と同様の方法により、比較例1における凍結保存前のエクソソーム溶液及び凍結保存後のエクソソーム溶液の単位体積当たりの粒子数を測定し、単位体積当たりの平均粒子数[Particles/mL]を算出した。
結果を
図1Cに示す。Kollidon-は実験例4の結果を示す。
【0063】
図1Cより、Kollidon(登録商標)VA64を添加せずエクソソーム溶液のみを凍結保存した場合(実験例4)、凍結保存後に著しく粒子数が減少した。他方、Kollidon(登録商標)VA64を含有させて凍結保存した場合(実験例3)、凍結保存の前後で粒子数はほぼ変わらなかった。
【0064】
<実施例2.エクソソームの保存安定化試験前後における粒子数の変化>
細胞外小胞の凍結保存により粒子数が減少することを検証する為、実施例1における「安定化剤含有-凍結保存前エクソソーム溶液」及び「安定化剤含有-凍結保存後エクソソーム溶液」を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。透過型電子顕微鏡により観察した像を
図1Dに示す。
図1D中、Kollidon+が実施例2の結果を示し、Kollidon-は後述する比較例2の結果を示す。
【0065】
<比較例2.エクソソームの保存安定化試験前後における粒子数の変化>
実施例2と同様の方法により、比較例1における凍結保存前のエクソソーム溶液及び凍結保存後のエクソソーム溶液を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。透過型電子顕微鏡により観察した像を
図1Dに示す。
【0066】
図1Dより、Kollidon(登録商標)VA64を添加せずエクソソーム溶液のみを凍結保存した場合(比較例2)、凍結保存後に粒子が減少している様子が観察された。他方、Kollidon(登録商標)VA64を含有させて凍結保存した場合(実施例2)、凍結保存の前後で大きな変化は観察されなかった。
【0067】
図1C及び
図1Dから、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、細胞外小胞を凍結保存させる際に、粒子数をほぼ保ったまま、細胞外小胞を保存安定化させる効果を有することが判った。
【0068】
また、
図1Bから
図1Dより、細胞外小胞の凍結保存前後におけるシグナル値の変動は、細胞外小胞がサンプルチューブに吸着することによるものではなく、細胞外小胞の粒子数の減少が原因であることが判った。
【0069】
<実施例3.各種試料由来するエクソソームを用いた保存安定化試験>
Kollidon(登録商標)VA64によるエクソソームを凍結保存させる際の保存安定化効果が、各種試料に由来するエクソソームに対しても有効であるか検討した。すなわち、試料として、実施例1と同様の方法により得られたCOLO201細胞培養上清1mL、実施例1と同様の方法により間葉系幹細胞(MSC)(ロンザ製)を培養して得られた間葉系幹細胞培養上清1mL、血清(ビジコムジャパン製)1mL、及び血漿(ビジコムジャパン製)1mLをそれぞれ用いて検討した。
具体的には、表1に記載の条件に従い、実施例1記載の方法に準じて吸光度を測定し、シグナル値を算出した。なお、用いた試料の単位体積当たりの粒子数を実験例3と同様の方法により測定した結果、COLO201細胞培養上清の単位体積当たりの粒子数は2×10
10particles/mL、間葉系幹細胞培養上清の単位体積当たりの粒子数は、2×10
9particles/mL、血清の単位体積当たりの粒子数は、2×10
10particles/mL、血漿の単位体積当たりの粒子数は、6×10
10particles/mLであった。
シグナル値の結果を
図2から
図5それぞれに示す。
図2はCOLO201細胞由来のエクソソームを用いた場合、
図3は間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソームを用いた場合、
図4は血清由来エクソソームを用いた場合、
図5は血漿由来エクソソームを用いた場合の結果である。図中、横軸はKollidon(登録商標)VA64の有無および凍結融解操作の回数を示し、Kollidon+が実施例3の結果、Kollidon-は後述する比較例3の結果をそれぞれ示す。
縦軸は、シグナル値[%]を示す。
【0070】
<比較例3.異なる試料に由来するエクソソームを用いた保存安定化試験>
表1に記載の条件に従い、5%(w/v)Kollidon水溶液をインキュベート後のエクソソーム精製溶液に添加する操作を行わなかった以外は、実施例3と同様の方法により、凍結保存後のエクソソーム溶液のシグナル値[%]を算出した。
シグナル値の結果を
図2から
図5にそれぞれ示す。図中、Kollidon-が比較例3の結果を示す。
【0071】
図2から
図5のグラフより、COLO201細胞由来エクソソームを用いた場合(
図2)と同様、間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソームを用いた場合(
図3)、血清由来エクソソームを用いた場合(
図4)、血漿由来エクソソームを用いた場合(
図5)のいずれの場合にも、Kollidon(登録商標)VA64を用いると、凍結保存の前後でシグナル値はほぼ変化しなかった。
これらの結果から、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、細胞外小胞の由来によらず、細胞外小胞を凍結保存する際に、細胞外小胞を安定化させる効果を有することが判った。
【0072】
<実施例4.凍結温度がエクソソームの保存安定化に与える影響>
Kollidon(登録商標)VA64によるエクソソームを凍結保存する際の保存安定化効果に対して、エクソソームの凍結温度が与える影響について検証した。すなわち、凍結温度を-80℃又は-20℃として検討を行った。
具体的には、表1に記載の条件に従い、実施例1記載の方法に準じて吸光度を測定し、シグナル値を算出した。シグナル値の結果を
図6及び
図7のグラフにそれぞれ示す。
図6は-80℃で凍結保存させた場合の結果、
図7は-20℃で凍結保存させた場合の結果である。図中、Kollidon+が実施例4の結果、Kollidon-は後述する比較例4の結果をそれぞれ示す。横軸は凍結融解操作の回数、及び検出したエクソソームマーカーの種類を示す。縦軸は、シグナル値[%]を示す。
図6及び
図7のグラフより、-20℃及び-80℃のいずれの凍結温度においても、エクソソームマーカーであるCD9及びCD63のいずれについても、凍結保存の前後でシグナル値はほぼ変化しなかった。
これらの結果から、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、細胞外小胞の凍結温度によらず、細胞外小胞を凍結保存させる際に、細胞外小胞を安定化させる効果を有することが判った。
【0073】
<実施例5.凍結融解操作の回数がエクソソームの保存安定化に与える影響>
Kollidon(登録商標)VA64によるエクソソームを凍結保存させる際の保存安定化効果に対して、凍結温度が-20℃の場合に凍結融解操作の回数が与える影響について検証した。すなわち、凍結温度を-20℃、凍結融解操作の回数を15回として検討した。具体的には、表1に記載の条件に従い、実施例1記載の方法に準じて吸光度を測定し、シグナル値を算出した。
シグナル値の結果を
図8にそれぞれ示す。図中、横軸は凍結融解操作の回数、及び検出したエクソソームマーカーの種類を示す。縦軸は、シグナル値[%]を示す。
【0074】
<実施例6.凍結融解操作の回数がエクソソームの保存安定化に与える影響>
Kollidon(登録商標)VA64によるエクソソームを凍結保存させる際の保存安定化効果に対して、凍結融解操作の回数が与える影響について検証した。すなわち、実施例5において凍結融解操作の回数を15回行った後のエクソソームを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。また、コントロールとして、凍結融解操作を行う前のエクソソームについても、同様の方法により観察した。透過型電子顕微鏡により観察した像を
図9に示す。図中、上段が凍結融解操作を行う前(0回)の観察像、下段が凍結融解操作を15回おこなった後の観察像である。
【0075】
図8のグラフより、凍結温度を-20℃として凍結融解操作を15回行った場合においても、いずれのエクソソームマーカーにおいても凍結保存の前後でシグナル値はほぼ変化しなかった。
また、
図9の電子顕微鏡により観察した像より、Kollidon(登録商標)VA64を用いて、-20℃で15回、細胞外小胞の凍結融解操作を行った場合、凍結保存前後で形状の変化は観察されず、粒子数もほぼ保たれていた。
以上の結果から、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、細胞外小胞の凍結操作の回数によらず、細胞外小胞を凍結保存させる際に、細胞外小胞を安定化させる効果を有することが判った。
【0076】
<比較例4.トレハロースを用いたエクソソームの保存安定化試験>
トレハロースは、エクソソームの凍結保存において、エクソソームの凝集を抑制し粒子数を保持することにより、エクソソームを凍結保存によるダメージから保護し安定化させることが示唆されている(非特許文献1)。そこで、本発明に係る安定化剤と同様、トレハロースが、凍結保存時に粒子数の減少を抑制するのみならず、エクソソームマーカー(エクソソームの表面抗原)の活性を保持可能であるか検証した。
(1)エクソソームの取得
実施例1と同様の方法により、COLO201細胞の培養上清からエクソソームを精製し、エクソソーム精製溶液を取得した。
(2)エクソソームの凍結保存
得られたエクソソーム精製溶液を、4℃で16時間インキュベートした。次いで、トレハロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を大塚蒸留水(大塚製薬株式会社製)に溶解させ、500mMトレハロース水溶液を調製した。インキュベート後のエクソソーム精製溶液に、500mMトレハロース水溶液を、終濃度25mMとなるように添加した。得られた溶液を「トレハロース含有-凍結保存前エクソソーム溶液」と略記する場合がある。次いで、トレハロースを添加したエクソソーム溶液を用いて、-80℃で5分間凍結した後室温で5分間融解する条件で3回凍結融解操作を繰り返した。得られた溶液を「トレハロース含有-凍結保存後エクソソーム溶液」と略記する場合がある。
(3)エクソソームマーカーの吸光度測定
「トレハロース含有-凍結保存前エクソソーム溶液」からエクソソームマーカーであるCD9を、PS Capture(登録商標)エクソソームELISAキット(ストレプトアビジンHRP)(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて、当該キットに添付の説明書に記載の手順に従って測定し、吸光度を算出した。但し、CD9を検出する為、抗CD9,モノクローナル抗体(30B)(富士フイルム和光純薬株式会社)をビオチン標識用キット-SH(LK10,株式会社同仁化学研究所)によりビオチン標識したものを、キット中の抗CD63抗体の代わりに使用した。
更に、コントロールとして、「トレハロース含有-凍結保存後エクソソーム溶液」の代わりに「トレハロース含有-凍結保存前エクソソーム溶液」を用いて、同様の方法によりCD9を測定して吸光度を求めた。
吸光度から、「トレハロース含有-凍結保存前エクソソーム溶液」の吸光度を100[%]とした場合の、それぞれの溶液の吸光度の相対値[%]を、エクソソームマーカー毎に算出した。算出した値を「シグナル値」と略記する場合がある。
(4)結果
シグナル値の結果を
図10のグラフに示す。図中、トレハロース+が比較例4の結果を示し、トレハロース-は後述する比較例5の結果を示す。
図10において、横軸はトレハロースの有無を示す。また、縦軸は、シグナル値を示す。
【0077】
<比較例5.エクソソームの保存安定化試験>
表1に記載の条件に従い、500mMトレハロース水溶液をインキュベート後のエクソソーム精製溶液に添加しなかった以外は、比較例4と同様の方法により測定を行い、シグナル値[%]を算出した。
シグナル値の結果を
図10に示す。図中、トレハロース-が比較例5の結果を示す。
図10のグラフより、トレハロースを添加せずエクソソーム溶液のみを凍結保存した場合(比較例5)、凍結保存後のシグナル値は、凍結保存前のシグナル値に比べて、いずれのエクソソームマーカーにおいても著しく低下した。他方、トレハロースを含有させて凍結保存した場合(比較例4)においても、エクソソームマーカーのシグナル値は著しく低下した。
【0078】
比較例4及び比較例5の結果から、トレハロースは、エクソソームの凍結保存時に粒子数減少を抑制することが示唆されているが、トレハロースを用いてもエクソソームマーカー(エクソソームの表面抗原)の活性は保持できないことが判った。
【0079】
<実施例6.Kollidon(登録商標)17PFを用いたエクソソームの保存安定化試験>
ポリビニルピロリドンのエクソソームを凍結保存させる際の保存安定化効果について、Kollidon(登録商標)17PFおよびCOLO201細胞の培養上清由来エクソソームを用いて検証した。
(1)エクソソームの取得
実施例1と同様の方法により、COLO201細胞の培養上清からエクソソームを精製し、エクソソーム精製溶液を取得した。
(2)エクソソームの凍結保存融解
得られたエクソソーム精製溶液を、4℃で16時間インキュベートした。次いで、市販のポリビニルピロリドンであるKollidon(登録商標)17PF(BASF社製)を大塚蒸留水に溶解させ、10%(w/v)Kollidon 17PF水溶液を調整した。インキュベート後のエクソソーム精製溶液に、10% Kollidon(登録商標)17PF水溶液を、終濃度0.1%となるように添加した。得られた溶液を、「Kollidon(登録商標)17PF含有-凍結融解凍結保存前エクソソーム溶液」と略記する場合がある。次いで、Kollidon(登録商標)17PFを添加したエクソソーム溶液を用いてに対し、-80℃で5分間凍結させ室温で5分間融解させる-80℃で5分間凍結した後室温で5分間融解する条件にて、3回凍結融解した。得られた溶液を、「Kollidon(登録商標)17PF含有-凍結融解凍結保存後エクソソーム溶液」と略記する場合がある。
(3)保存安定化効果の検証
「Kollidon(登録商標)17PF含有-凍結融解凍結保存後エクソソーム溶液」を測定試料として、PS Capture(登録商標)エクソソームELISAキット(ストレプトアビジンHRP)(富士フイルム和光純薬株式会社、抗CD63抗体を含む)における抗CD63抗体の代わりに抗CD9抗体を用いた以外は、当該キットに添付の説明書に記載の手順に従ってエクソソームマーカーであるCD9を測定し、吸光度を得た。抗CD9抗体は、抗CD9,モノクローナル抗体(30B)(富士フイルム和光純薬株式会社)をビオチン標識用キット-SH(LK10,株式会社同仁化学研究所)によりビオチン標識したものを用いた。更に、コントロールとして、「Kollidon(登録商標)17PF含有-凍結融解凍結保存前エクソソーム溶液」を用いて、同様の方法によりCD9をそれぞれ測定して吸光度を得た。
得られた吸光度から、「Kollidon(登録商標)17PF含有-凍結融解凍結保存前エクソソーム溶液」の吸光度を100[%]とした場合の、それぞれの溶液「Kollidon(登録商標)17PF含有-凍結融解凍結保存後エクソソーム溶液」の吸光度の相対値[%](シグナル値)を算出した。
(4)結果
シグナル値の結果を
図11のグラフに示す。
図11において、横軸はKollidon(登録商標)の種類および有無を示し、縦軸は、シグナル値をそれぞれ示す。図中、17PF+が実施例6の結果を示す。
【0080】
<実施例7.Kollidon(登録商標)12PFを用いたエクソソームの保存安定化試験>
「Kollidon(登録商標)17PF」の代わりに「Kollidon(登録商標)12PF」を使用した以外は、実施例6と同様の方法によりCD9を測定し、相対的シグナル値を算出した。相対的シグナル値の結果を
図11のグラフに示す。図中、12PF+が実施例7の結果を示す。
【0081】
<比較例6.凍結融解がエクソソームの安定化に与える影響>
表1に記載の条件に従い、10%(w/v)Kollidon 12PF水溶液をインキュベート後のエクソソーム精製溶液に添加しなかった以外は、実施例6と同様の方法により測定を行い、シグナル値[%]を算出した。シグナル値の結果を
図11のグラフに示す。図中、Controlが比較例6の結果を示す。
【0082】
図11のグラフより、Kollidon(登録商標)17PF又はKollidon(登録商標)12PFを用いずにエクソソーム溶液のみを凍結保存した場合(比較例6)、凍結保存後のシグナル値は、凍結保存前のシグナル値に比べて著しく低下した。
他方、Kollidon(登録商標)VA64を用いて凍結保存した場合と同様、Kollidon(登録商標)17PF又はKollidon(登録商標)12PFを用いて凍結保存した場合(実施例6、実施例7)、いずれも凍結保存の回数に依らず、凍結保存の前後でシグナル値はほぼ変化しなかった。
これらの結果から、ポリビニルピロリドンも、細胞外小胞を凍結保存する際に、細胞外小胞を保存安定化させる効果を有することが判った。
【0083】
実施例1-8、比較例1-6、および実験例1-4の実験条件、並びに結果を示す図の番号を下記表1に纏めて示す。
【0084】
【0085】
<実施例8.エクソソームの保存安定化試験>
Kollidon(登録商標)VA64のエクソソームを凍結保存する際の保存安定化効果について、プロテオーム解析により検証した。
(1)エクソソームの取得
実施例1と同様の方法により、COLO201細胞の培養上清からエクソソームを精製し、エクソソーム精製溶液を取得した。
(2)エクソソームの凍結保存
得られたエクソソーム精製溶液を、4℃で16時間インキュベートした。次いで、5%(w/v)Kollidon水溶液(Kollidon(登録商標)VA64(BASF社製)、大塚蒸留水(大塚製薬株式会社製))を調製した。インキュベート後のエクソソーム精製溶液に、5%(w/v)Kollidon水溶液を終濃度0.05%(w/v)となるように添加した。得られた溶液を-80℃で8日間凍結した後、室温で10分間融解した。
(3)保存安定化効果の検証
凍結融解後の溶液を用いて、アセトンによるタンパク質沈殿処理を行い、さらにアセトンにより洗浄した。その後、トリプシンによる加水分解処理を行い、LC-MS/MSに供した。MS/MSから抽出したデータを基に配列データベース検索により、ペプチド及びタンパク質を同定した。
(4)結果
同定されたペプチド数及びタンパク質数を下記表2に示す。表中、VA64はKollidon(登録商標)VA64を示す。VA64添加が実施例8の結果を表す。
【0086】
【0087】
<比較例7.凍結融解がエクソソームの保存安定化に与える影響>
5%(w/v)Kollidon水溶液をインキュベート後のエクソソーム精製溶液に添加しなかった以外は、実施例8と同様の方法によりプロテオーム解析を行い、凍結融解後の溶液に含まれるペプチド及びタンパク質を同定した。
同定されたペプチド数及びタンパク質数を表2に示す。VA64非添加が比較例7の結果を表す。
【0088】
表2より、Kollidon(登録商標)VA64を用いてエクソソームの凍結融解を行った場合(実施例8)は、エクソソーム溶液のみを凍結融解した場合(比較例7)よりも、ペプチド数およびタンパク質数が多かった。
これらの結果から、ビニルピロリドン由来のモノマー単位を有するポリマーは、細胞外小胞を凍結保存する際に、細胞外小胞に含まれるタンパク質およびペプチドを安定的に保存できることが判った。