(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法およびその加工方法、鉄ガリウム合金の単結晶インゴット
(51)【国際特許分類】
C30B 29/52 20060101AFI20231201BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20231201BHJP
C30B 11/02 20060101ALI20231201BHJP
C30B 11/14 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C30B29/52
B22D27/04 D
C30B11/02
C30B11/14
(21)【出願番号】P 2019059338
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 聖志
(72)【発明者】
【氏名】西村 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡野 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
(72)【発明者】
【氏名】干川 圭吾
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138028(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0317266(US,A1)
【文献】特開平05-148098(JP,A)
【文献】特開2018-203563(JP,A)
【文献】特開平10-007493(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0010405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/52
B22D 27/04
C30B 11/02
C30B 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法であって、
前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは、角型坩堝と角柱形状の種結晶を用いて角柱形状に形状制御され、
前記角柱形状の種結晶は側面が全て{100}面である鉄ガリウム合金の単結晶であることを特徴とする鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法。
【請求項2】
前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは、垂直ブリッジマン法、垂直温度勾配凝固法、ゾーンメルト法のいずれかを用いて角柱形状に形状制御されることを特徴とする、請求項1に記載の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法。
【請求項3】
前記鉄ガリウム合金は、ガリウムを17at%以上20at%以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法により育成された鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法であって、
前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは角柱形状を有し、側面が全て{100}面であり、
前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを結晶成長軸方向に沿って、かつ該結晶成長軸方向に平行な{100}面に平行に、ワイヤーソーを用いて切断することを特徴とする、鉄ガリウム合金単の単結晶インゴットの加工方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法により育成された鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法であって、
前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは角柱形状を有し、側面が全て{100}面であり、
前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを結晶成長軸方向と垂直な方向に沿って、ワイヤーソーを用いて切断することを特徴とする、鉄ガリウム合金単の単結晶インゴットの加工方法。
【請求項6】
前記ワイヤーソーはマルチワイヤーソーであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法。
【請求項7】
角柱形状を有し、前記角柱形状の側面が全
て{100}面
の結晶成長面であることを特徴とする鉄ガリウム合金の単結晶インゴット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ガリウム合金(FeGa合金)の単結晶インゴットの育成方法およびその加工方法、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットに関する。特に、垂直ブリッジマン法(Vertical Bridgman method、以下「VB法」と略記する)や垂直温度勾配凝固法(Vertical Gradient Freeze method、以下「VGF法」と略記する)に代表される、融液を坩堝中で固化させる一方向凝固結晶成長法による鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法、この育成方法により得られる角柱形状の単結晶インゴット、およびその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄ガリウム合金は、機械加工が可能であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示すため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。
【0003】
鉄ガリウム合金を磁歪式振動発電デバイスに利用する場合、磁化容易方向である<100>方向を長手方向として、鉄ガリウム合金を長方形板状の磁歪素子に加工する必要がある。また磁歪材料としての特性を高めるためには、磁化容易方向である<100>方向の方位集積度を高める必要があるが、それには多結晶よりも単結晶を使用する方が有利である。
【0004】
鉄ガリウム合金の単結晶の製造方法としては、引き上げ法(チョクラルスキー法、以下「Cz法」ともいう)による単結晶の育成方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、Cz法で育成された単結晶は、円柱状のインゴットであるため、これを切断して長方形板状に加工するには、工数が増加する、単結晶合金の加工ロスが生じるという問題があった。また、磁歪素子の長さがインゴット径により制約を受けるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを長方形板状に切断し、板状部材に加工する場合において、加工工数を低減し、かつ、加工ロスを大幅に低減できる、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法および加工方法、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを提供することを目的とする。また、インゴット径に制約を受けない鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法および加工方法、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法であって、前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは、角型坩堝と角柱形状の種結晶を用いて角柱形状に形状制御され、前記角柱形状の種結晶は側面が全て{100}面である鉄ガリウム合金の単結晶であることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、結晶成長軸(以下「成長軸」ともいう)が<100>方向になるだけではなく、側面も{100}面となる角柱形状の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成することができる。そして、円柱形状の単結晶インゴットを加工して角柱形状にする必要がなくなる。このため、板状部材に加工する際の加工工数を低減し、かつ、加工ロスを大幅に低減できる。
【0010】
このとき、本発明の一態様では、前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは、垂直ブリッジマン法、垂直温度勾配凝固法、ゾーンメルト法のいずれかを用いて角柱形状に形状制御してもよい。
【0011】
このようにすれば、坩堝の形状に合わせて鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成することができる。
【0012】
このとき、本発明の一態様では、前記鉄ガリウム合金は、ガリウムを17at%以上20at%以下含有してもよい。
【0013】
このようにすれば、鉄ガリウム合金は高い磁歪特性を得ることができる。そして、鉄ガリウム合金は体心立方構造を有することができるため、上下面及び側面全てが(100)面である単結晶インゴットを得ることができる。
【0014】
本発明の一態様は、上述の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法により育成された鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法であって、前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは角柱形状を有し、側面が全て{100}面であり、前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを結晶成長軸方向に沿って、かつ該結晶成長軸方向に平行な{100}面に平行に、ワイヤーソーを用いて切断することを特徴とする。
【0015】
このようにすれば、角柱形状の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの側面を加工することなく、ワイヤーソーで切断することができるため、板状部材に加工する際の加工工数を低減し、かつ、加工ロスを大幅に低減できる。また、インゴットの直径より長い、鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を得ることができる。
【0016】
本発明の一態様は、上述の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法により育成された鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法であって、前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは角柱形状を有し、側面が全て{100}面であり、前記鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを結晶成長軸方向と垂直な方向に沿って、ワイヤーソーを用いて切断することを特徴とする。
【0017】
このようにすれば、角柱形状の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの側面を加工することなく、ワイヤーソーで切断することができるため、板状部材に加工する際の加工工数を低減し、かつ、加工ロスを大幅に低減できる。
【0018】
このとき、本発明の一態様では、前記ワイヤーソーはマルチワイヤーソーとしてもよい。
【0019】
鉄ガリウム合金の単結晶インゴットから板状部品を同時に複数に切断することで、より加工工数を低減することができる。
【0020】
本発明の一態様は、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットであって、角柱形状を有し、前記角柱形状の側面が全て{100}面の結晶成長面とすることを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、角柱形状の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの側面を加工することなく、ワイヤーソーで切断することができるため、板状部材に加工する際の加工工数を低減し、かつ、加工ロスを大幅に低減できる。また、切断の方向によっては、インゴットの直径より長い、板状の鉄ガリウム合金単結晶部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法によれば、成長軸が<100>方向になるだけではなく、側面も{100}面となる角柱形状の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成することができる。また、本発明の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法によれば、角柱形状の鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの側面を加工することなく、ワイヤーソーで切断することができるため、板状部材に加工する際の加工工数を低減し、かつ、加工ロスを大幅に低減できる。そして、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを廉価に板状部材に加工することができる。また切断の方向によっては、インゴットの直径より長い、鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を得ることができるため、インゴットを大径化することなく、廉価に鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金単結晶インゴットを育成する育成装置の概略断面図である。
【
図2】
図2は、比較例に係る円柱形状の単結晶インゴットを育成するための、坩堝および種結晶の形状例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る角柱形状の単結晶インゴットを育成するための、坩堝および種結晶の形状例を示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)から
図4(D)は、本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法の概略図である。
図4(A)は単結晶インゴットを示す斜視図である。
図4(B)は定径部から第1の(100)面を得る工程の説明図である。
図4(C)は定径部から第2の(100)面を得る工程の説明図である。
図4(D)はマルチワイヤーソーによる単結晶インゴットの加工方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態にかかる鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法およびその加工方法、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットについて説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
【0025】
鉄ガリウム合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させる特性を有する。この特性を磁歪式振動発電デバイスに利用する場合、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させることが望まれる。具体的には、上述したように、磁化容易方向である<100>方向を長手方向として、鉄ガリウム合金を長方形板状の磁歪素子に加工する必要がある。また、<100>方向の方位集積度を高め、磁歪材料としての特性を高めるためには、多結晶よりも単結晶の使用が有利である。
【0026】
上述した鉄ガリウム合金の単結晶の育成方法(特許文献1)では、(100)面を有した種結晶を用いて、<100>方向を成長軸として、Cz法により単結晶を育成している。このCz法で育成された単結晶は、円柱状のインゴットである。このインゴットを、磁歪式振動発電デバイスに利用する鉄ガリウム合金基板に加工する。
【0027】
鉄ガリウム合金のインゴットを板状に切断する場合には、一般には放電ワイヤーカット方式を用いている。しかし、この方法では、1枚毎に切断するため工数が多大である。このため、半導体装置や太陽電池等ウエハーの加工で用いられている、マルチワイヤーソーで切断することも検討されている。しかしながら、マルチワイヤーソーでの切断では、結晶インゴットに複数本のワイヤーに同じ張力を掛けなければならない。Cz法で育成された円柱状の単結晶インゴットに適用する場合、成長軸と垂直方向に沿って円形状に切断することになる。この場合、磁歪式振動発電デバイスの大きさは、単結晶インゴットの直径に左右される。磁歪式振動発電デバイスが比較的小さな形状であれば問題ないが、細長い長方形板形状の場合、磁歪式振動発電デバイスの大きさはインゴット径に制約を受けてしまう。なお、成長軸と平行に長方形板状に切断するためには切断方向に対する上下面が、各ワイヤーに対して同じ高さになるようにインゴットを加工しなければならなくなり、工数が増加する。また、切断方向に対して上下面を平行に加工することが必要となり、切断範囲もこの平行加工面に限られるため、加工ロスが大幅に発生する。
【0028】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。そして、鉄ガリウム合金が体心立方構造を有しており、各側面が(100)面である角柱形状の単結晶となり得ることに着目した。そして、角型坩堝を用いて垂直ブリッジマン法または垂直温度勾配凝固法等によって、角柱形状の単結晶インゴットの育成を行うことができることに着目した。さらに、角柱形状の単結晶インゴットの各側面が全て(100)面であるため、成長軸方向に垂直な方向だけでなく、成長軸方向に平行な方向に切断しても、<100>方向を長手方向として板状に加工することができることに着目した。そして本発明者らは、かかる知見から本発明を完成するに至った。以下詳細に説明する。
【0029】
1.鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法
(鉄ガリウム合金単結晶)
本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法について説明する。磁歪特性を有する鉄ガリウム合金単結晶インゴットは、例えば、坩堝の底部に種結晶を設置し、鉄とガリウムの原料粉末と種結晶の一部を溶解し、この融解物を坩堝中で種結晶の上部より徐々に固化させて育成することができる。具体的には、VB法やVGF法に代表される、一方向凝固結晶成長法により育成することができる。ここで、鉄ガリウム合金は、体心立方格子構造を有しており、ミラー指数における方向指数のうち第1~第3の<100>軸が等価であり、ミラー指数における面指数のうち第1~第3の{100}面が等価(すなわち、(100)、(010)および(001)は等価)であることを基本とするものである。
【0030】
本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金は、ガリウム含有量が17at%以上20at%以下であることが好ましい。ガリウム含有量がこの範囲であることにより、鉄ガリウム合金は、高い磁歪特性を得ることができる。そして、鉄ガリウム合金は体心立方構造を有することができるため、上下面及び側面全てが(100)面である単結晶インゴットを得ることができる。ガリウム含有量が17at%未満のとき、またガリウム含有量が20at%を超えるときでは、鉄ガリウム合金は高い磁歪特性を得ることが困難となる。
【0031】
(単結晶育成装置)
本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法をより具体的に説明するべく、当該方法に用いる育成装置の一例として、まずは
図1に示す単結晶育成装置について説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金単結晶インゴットを育成する単結晶育成装置の概略断面図である。この
図1では、単結晶育成装置100における単結晶育成用坩堝(以下、「坩堝」ともいう)10と鉄ガリウム合金種結晶(以下、「種結晶」ともいう)16、原料となる鉄とガリウムの混合物17との位置関係を模式的に示している。
【0033】
単結晶育成装置100は、断熱材11、上段ヒーター12a、中段ヒーター12b、下段ヒーター12cで構成される抵抗加熱ヒーター12、可動用ロッド13、坩堝受け14、熱電対15、真空ポンプ18および、チャンバー19を備えている。チャンバー19内の上部が高温、下部が低温となる温度分布を実現可能な構成となっており、VB法やVGF法等の一方向凝固結晶成長法により、鉄とガリウムの混合物17の融解物を坩堝10中で種結晶16の上部より徐々に固化させることで、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成することができる。
【0034】
図1に示すように単結晶育成装置100では、断熱材11の内側にカーボン製の抵抗加熱ヒーター12が配置される。鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成時に、抵抗加熱ヒーター12によりホットゾーンが形成される。抵抗加熱ヒーター12は、上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cとで構成され、これらのヒーター12a~12cへの投入電力を調整することにより、ホットゾーン内の温度勾配を制御することが可能となっている。なお、ホットゾーン内に温度勾配をつけることができれば、単結晶育成装置100の加熱方法は、特に制限はない。
【0035】
抵抗加熱ヒーター12の内側には、単結晶育成用坩堝10が配置され、上下方向に移動可能な可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14(支持台)に載置されている。単結晶育成用坩堝10内の下部に、鉄ガリウム合金種結晶16が充填され、この鉄ガリウム合金種結晶16の上に、原料として粒子状やフレーク状等の、鉄とガリウムの混合物17が充填される。
【0036】
単結晶育成装置100には、チャンバー19と真空ポンプ18が設置されており、チャンバー19内を真空雰囲気に調整して鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成することができる。さらに、アルゴンや窒素等の不活性ガスをチャンバー19へ導入することができ、チャンバー19内を不活性雰囲気にも調整できる。
【0037】
単結晶育成用坩堝10の材質は、鉄ガリウム合金と化学的反応性が低く、高融点材料であるアルミナが好ましい。また、マグネシア、熱分解窒化ホウ素(Pyrolitic Boron Nitride)でもよい。
【0038】
単結晶育成用坩堝10は、上述したように単結晶育成装置100内で可動用ロッド13が設けられた坩堝受け14上に載置され、可動用ロッド13を上下させることにより、単結晶育成用坩堝10を育成炉内で上下させることができる。また、単結晶育成用坩堝10には、坩堝の温度をモニタリングできる熱電対15が取り付けられている。
【0039】
(鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法)
次に、単結晶育成装置を用いた、VB法による鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法について、
図1を参照しつつ説明する。まず、単結晶育成用坩堝10の下部に主面方位が<100>方位の鉄ガリウム合金種結晶16を配置する。そして、鉄ガリウム合金種結晶16の上には、原料である鉄とガリウムの混合物17を必要量配置する。
【0040】
(融解工程)
次に、チャンバー19内にアルゴンや窒素等の不活性ガスを流し、チャンバー19内を不活性雰囲気に調整する。不活性ガスとしては、窒化ガリウム等が生成する恐れがない、アルゴンガスを導入することが好ましい。チャンバー19内が不活性雰囲気となった後、単結晶育成用坩堝10を囲むように配置された上段ヒーター12a、中段ヒーター12bおよび下段ヒーター12cを作動して、昇温し、鉄とガリウムの混合物17の融解を開始する。
【0041】
(育成工程)
次に、単結晶育成用坩堝10の内部で鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成する。具体的には、抵抗加熱ヒーター12を用いて、鉄ガリウム合金種結晶16および融解物(鉄とガリウムの混合物17)が収納された単結晶育成用坩堝10を、高さ方向の上方の温度が高く、下方の温度が低い温度分布となるように加熱する。この状態で、チャンバー19内の温度を、鉄ガリウム合金種結晶16が高さ方向の上半分位まで融解するまで昇温し、シーディングを行う。
【0042】
また、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成するためのシーディングは、鉄ガリウム合金種結晶16の上部と鉄とガリウムの混合物17とを融解させて、安定した固液界面を形成させることにより行われる。ここで、上記固液界面の温度およびその温度での保持時間を適宜設定する。
【0043】
例えば、鉄ガリウム合金種結晶16と融解物との境界面の温度が、鉄ガリウム合金の融点から、当該融点よりも20℃高い温度までの範囲内になるような位置に、単結晶育成用坩堝10をセットする。これらの温度で所定時間、好ましくは1時間以上保持し、鉄ガリウム合金種結晶16の上部と鉄とガリウムの混合物17とを融解させてシーディングを行う。鉄ガリウム合金種結晶16は、鉄ガリウムの混合物17と一体化させるために一部を融解させるが、鉄ガリウム合金種結晶16の全部を融解させないようにしなければならない。
【0044】
シーディングが終了した後、単結晶育成用坩堝10を徐々に降下させてホットゾーン内の温度勾配がある領域を通過させる。このようにして、鉄ガリウム合金種結晶16の結晶方位に従い、融解物を冷却固化させることで鉄ガリウム合金の単結晶インゴットが育成される。
【0045】
すべての融解物を固化させた後、所定速度で冷却を行って鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを得る。次に、チャンバー19内の温度が室温程度になったことを確認した後、育成された単結晶インゴットが入った単結晶育成用坩堝10を坩堝受け14から取り外し、さらに単結晶育成用坩堝10から、育成された単結晶インゴットを取り出す。
【0046】
以上、単結晶育成装置を用いたVB法による鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法について説明したが、同じ単結晶育成装置を用いて、単結晶インゴットの育成中に単結晶育成用坩堝を上下に移動させることに替えて、抵抗加熱ヒーターを調整して温度制御するVGF法によっても、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを育成することができる。
【0047】
また、単結晶インゴットの育成方法における鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成は、VB法およびVGF法に限定されず、坩堝形状で固化させる結晶育成方法を採用することができる。例えば、ゾーンメルト法等の育成方法を採用することができる。なお、ゾーンメルト法を利用する場合は、坩堝内に組成が均一な鉄ガリウム原料を配置する必要があり、育成の前工程として原料融解および急速固化が必要となる。
【0048】
(円柱形状の単結晶インゴットの育成用坩堝および種結晶)
ここで従来技術として、円柱形状の単結晶インゴットの育成用坩堝および種結晶を、
図2を用いて説明する。
図2は、比較例に係る円柱形状の単結晶インゴットを育成するための、坩堝および種結晶の形状例を示す斜視図である。
図2に示すような円柱形状の坩堝および円柱形状の種結晶を使用することにより、上述の単結晶育成装置にて坩堝形状に倣った円柱形状の単結晶インゴットを育成する。なお円柱形状の単結晶インゴットに限れば、例えばVB法、VGF法の他に、Cz法等の引き上げ法を採用することもできる。種結晶は上下面のみ(100)面になる種結晶を使用する。なお種結晶の形状は円柱形状に限られず、角柱形状であっても良い。また、この育成方法では、単結晶インゴットは上面の<100>方向を成長軸として育成される。
【0049】
(角柱形状の単結晶インゴットの育成用坩堝および種結晶)
本発明の一実施形態に係る単結晶インゴットの育成用坩堝および種結晶を、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る角柱形状の単結晶インゴットを育成するための、坩堝10および種結晶16の形状例を示す斜視図である。
図3に示すような角型坩堝10および角柱形状の種結晶16を使用することにより、上述の単結晶育成装置にて坩堝形状に倣った角柱形状の単結晶インゴットを育成する。このとき、角柱形状の単結晶は、成長軸方向の面が<100>であり、かつ角柱形状の単結晶の側面が全て(100)面であるように育成される。
【0050】
種結晶16は、上下面および側面全てが(100)面である角柱形状の単結晶である。本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金は体心立方構造を有する単相により構成されるため、上下面および側面全てが(100)面である角柱形状の単結晶インゴットを得ることができる。種結晶16の上下面および各側面の(100)面から<100>方向に単結晶が成長する。
【0051】
成長軸方向が<100>となるように結晶成長面のみを(100)面とした種結晶16を用いた場合でも、長手方向が成長軸方向である<100>になるように、長方形板状に加工すれば振動発電デバイス用として使用することは可能である。しかし、全側面を(100)面とした種結晶16を使用することで、角柱形状の単結晶インゴットの側面を全て(100)面とすることができる。そして、劈開面でもある(100)面に平行に切断することが容易となり、かつ、厚さや平行度等の面精度が良好となる。
【0052】
坩堝10は、種結晶16を設置する下端が閉じた角筒状の細径部10a、該細径部から上方に向けて直径が大きくなる逆四角錐台形の管状の増径部10b、および該増径部から上方に結晶成長部として続く角筒状の定径部10cを有する。増径部10bの側面は、水平方向に対して30~60度の角度を有する。この角度は40~50度の角度が好ましい。この角度が40度より小さいと増径部が無駄に長くなりコスト高になる。50度より大きいと育成した結晶が多結晶化する問題が発生しやすくなる。好ましくは45度前後である。また、細径部10a、増径部10bおよび定径部10cの断面は、それぞれ正方形の形状を有している。そして、坩堝10は、それぞれの正方形の中心点が同一となり、かつそれぞれの正方形の各辺同士が平行となるような形状を有している。細径部10a及び定径部10cの大きさ、高さは種結晶16や、育成する単結晶の大きさ、高さにより適宜決定される。また、増径部10bの大きさ、高さは、上記の角度を満たすよう適宜決定される。
【0053】
種結晶16と細径部10aの側面が平行となるように、種結晶16は細径部10aに配置される。種結晶16上面の(100)面から、単結晶が<100>方向、すなわち鉛直上方に細径部10a、増径部10bおよび定径部10c内で成長する。また、細径部10aおよび増径部10bにおいては、種結晶16の側面の(100)面から、単結晶が<100>方向に成長する。ここで、種結晶16の側面と、定径部10cの側面は平行であるため、定径部10cの側面に接する単結晶インゴットの側面は(100)面となる。
【0054】
以上より、本発明の一実施形態に係る単結晶インゴットの育成方法において、
図3に示すような角型坩堝10および、全側面を(100)面とした角柱形状の種結晶16を使用することにより、結晶育成装置にて全側面が(100)面である角柱形状の単結晶インゴットを育成することができる。
【0055】
2.鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法
次に、本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法について説明する。本加工方法では、1本のワイヤーソー又はマルチワイヤーソーを用いて、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを成長軸と平行方向に切断し、板状に加工する。以下詳細に説明する。
【0056】
(円柱形状の単結晶インゴットの加工方法)
従来技術として、上述した円柱形状の単結晶インゴットをマルチワイヤーソーで切断加工する例について説明する。円柱形状の単結晶インゴットは、VB法、VGF法、Cz法等により、上下面を(100)面にして育成される。
【0057】
まず、単結晶インゴットの種結晶部および増径部を切断し、定径部を得る。そして、成長軸に垂直な第1の(100)平面1面が定径部の上下面となるように、定径部の上下面を加工する。VB法による育成の場合には最終固化面がほぼ平面のために加工の必要はないが、Cz法による育成で最終固化面の凹凸が大きい場合には最終固化面も平面に加工する。
【0058】
次に、成長軸に平行な(100)面に沿って切断するために、第1の(100)平面に垂直に第2の(100)平面1面を面出し加工する。なお、この時、X線回折による方位確認が必要となる。そして、各ワイヤーに平行に接触できるよう、第1の(100)平面および第2の(100)平面に垂直となるように、第3の(100)平面2面を加工する。ここで、第3の(100)平面2面を加工しない場合、板状に切断加工する際、ワイヤーと接触する面は曲面となる。このため、ワイヤーが傾斜面に接することになり、切断位置ずれやワイヤーを支持するワークロールの溝からのワイヤー外れ等不具合が発生し、定径部を板状に加工することが困難となる。
【0059】
平面に加工された第3の(100)平面内にワイヤーが収まるようにワイヤー巻き数を調整後、第2の(100)平面に平行となるよう、マルチワイヤーソーにて単結晶インゴットを板状に加工する。第3の(100)平面内にワイヤーが収まらない場合、第3の(100)平面と第2の(100)平面との間の曲面部分にワイヤーが接触することになり、切断位置ずれやワイヤーを支持するワークロールの溝からのワイヤー外れ等不具合が発生し、定径部を板状に加工することが困難となる。このため単結晶が円柱形状の場合は、単結晶インゴットの大きさ(平面に加工された第3の(100)平面の大きさ)に応じて、その都度マルチワイヤーソーを巻き直し、マルチワイヤーソーの幅を調整する必要があり、加工工数の増加が生じる。
【0060】
このように、円柱形状の単結晶インゴットを結晶成長軸方向に沿って切断する場合、切断方向に対して上下面を平行に加工することが必要となり、切断範囲も平行加工面に限られるため、加工工数と加工ロスが大幅に発生する。なお、円柱形状の単結晶インゴットを結晶成長軸方向に対し垂直な面に沿って切断する場合、切断した単結晶は、円形状になりインゴット径に制約を受けてしまう。また、円柱形状の単結晶インゴットの底面側(または上面側)から切断することも可能であるが、切断された結晶の大きさはばらばらとなり、その後長方形の板状に加工する際障害となる。
【0061】
(角柱形状の単結晶インゴットの加工方法)
本発明の一実施形態に係る角柱形状の単結晶インゴットの加工方法を、
図4(A)から
図4(D)を用いて説明する。
図4(A)から
図4(D)は、本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの加工方法の概略図である。角柱形状の単結晶インゴットは、VB法、VGF法等により、上下面及び側面全てを(100)面にして育成される。なおCz法では単結晶を回転させながら引き上げて育成するため、角柱形状の単結晶インゴットを育成することはできない。
【0062】
(単結晶インゴット)
上述した育成方法により得られた単結晶インゴットについて図を用いて説明する。
図4(A)は単結晶インゴットを示す斜視図である。
図4(A)に示すように、角柱形状の単結晶インゴット20は、種結晶部20a、増径部20bおよび定径部20cを有する。種結晶部20a、増径部20bおよび定径部20cは、上述した単結晶育成用坩堝の細径部、増径部および定径部で育成された単結晶インゴットに該当する。単結晶インゴット20から種結晶部20aおよび増径部20bを切断し、定径部20cを得る。種結晶部20aおよび増径部20bの切断方法は特に限定されない。
【0063】
(第1の(100)面)
単結晶インゴット20から第1の(100)面を得る工程について、図を用いて説明する。
図4(B)は定径部から第1の(100)面を得る工程の説明図である。まず、得られた定径部20cについて、成長軸と垂直な(100)面を特定する。(100)面を特定することができれば特定方法は特に限定されないが、特定の簡便さの観点からX線回折装置を用いることが好ましい。そして、成長軸に垂直な(100)面になるように、定径部20cの上下面を平面研削により加工して、第1の(100)平面を得る。
【0064】
(第2の(100)面)
第2の(100)面を得る工程について、図を用いて説明する。
図4(C)は定径部から第2の(100)面を得る工程の説明図である。第1の(100)面を得た後に、定径部20cの成長軸に水平な(100)面を同様の方法により特定する。そして、成長軸に水平になるように、定径部20cの側面を平面研削により加工して、第2の(100)平面を得る。
【0065】
(単結晶インゴットの加工)
ワイヤーソーによる単結晶インゴットの加工方法について、図を用いて説明する。
図4(D)はマルチワイヤーソーによる単結晶インゴットの加工方法の概略図である。定径部20cの第1の(100)面および第2の(100)面を得た後に、切断面が第2の(100)平面に平行となるよう、成長軸に沿って、定径部20cをマルチワイヤーソー30で切断し板状に加工する。この場合には定径部20cは角柱状態であるので、ワイヤーが定径部20cに接触する面は、第1の(100)面および第2の(100)面に垂直な第3の平面となる。複数のワイヤーと第3の平面との接触面は平坦であるため、安定して定径部20cを切断することができる。単結晶インゴットが円柱形状結晶の場合、上述したように定径部を板状に加工するにはワイヤーと接触する面を曲面から平面に加工する必要があるが、角柱形状の単結晶インゴットではこの工程を省略することができる。
【0066】
また、マルチワイヤーソー30の巻き数は特に制限されず、マルチワイヤーソー30の幅は特に制限されない。マルチワイヤーソー30の巻き数によっては、マルチワイヤーソー30の幅は定径部20cの幅(第3の平面の短径)よりも広くなる。しかし、定径部20cは角柱形状であり、定径部20cの切断の際、定径部20cの外側のマルチワイヤーソー30は定径部20cに接触することはない。単結晶が角柱形状の場合はマルチワイヤーソー30の幅を調整する必要がないため、板状部材に加工する際の加工工程を簡略化でき、工数を削減することができる。そして、第3の平面全てを切断範囲にすることができるため、加工ロスを大幅に低減できる。また、成長軸に沿って定径部20cを切断することで、定径部20cの大きさよりも長い板状部材を得ることができる。なお単結晶インゴットの加工方法は、マルチワイヤーソー30に限定されず、ワイヤーが1本であるワイヤーソーを用いてもよい。
【0067】
以上においては成長軸に沿って定径部20cを切断する態様を説明したが、成長軸方向と垂直な方向に沿って定径部20cを切断することもできる。この場合、定径部20cの大きさよりも長い板状部材を得ることはできないが、形状が方形であるため長方形の板状に加工する際の加工工程を簡略化でき、工数を削減することができる。そして、加工ロスを大幅に低減できる。
【0068】
このように、本発明の一実施形態に係る鉄ガリウム合金の単結晶インゴットは、角柱形状の単結晶インゴットを使用することで、板状部材に加工する際の加工工程を簡略化でき、工数を削減することができる。また、円柱形状の単結晶インゴットを切断加工することなく角柱形状の単結晶インゴットを得ることができるため、かかる切断加工による単結晶のロスが大幅に減少する。そして、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットを、廉価に板状部材に加工することができる。また、切断の方向によっては、インゴット定径部の大きさより長い、鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
(単結晶の育成)
まず、大気中、室温20℃の環境下で、化学量論比で鉄とガリウムの比率が80:20になるように、すなわちガリウム含有量が原子量%で20%となるように、鉄原料とガリウム原料を秤量した。湯煎により融解したガリウム原料へ鉄原料を投入し、容器内で攪拌を行った後、室温まで冷却し、原料である鉄とガリウムの混合物を作製した。
【0071】
単結晶育成用坩堝として、厚さ3mm、細径部を内寸10mm×10mm角、高さ30mmの下端が閉じた角筒状、増径部を半頂角45°の逆四角錐種台形形状、定径部を内寸50mm×50mmの角筒状、全体の高さ200mmの緻密質アルミナ製坩堝を準備した。
【0072】
鉄ガリウム合金種結晶は、縦10mm、横10mm、高さ30mmの直方体形状で全面(100)として加工後、坩堝に入るように面取り研削し、更に方位ずれしないように隣り合う側面2面は残して他の側面2面を平面研削盤で加工しながら縦横幅を調整した。
【0073】
そして、単結晶育成用坩堝内の下部に、鉄ガリウム合金種結晶を充填し、かつ、当該鉄ガリウム合金種結晶の上に鉄とガリウムの混合物を充填した。
【0074】
次に、鉄ガリウム合金種結晶と、鉄とガリウムの混合物が充填された単結晶育成用坩堝を、多孔質アルミナ製の坩堝受け上に載置し、熱電対の先端部を単結晶育成用坩堝の側面に接触させた。
【0075】
次に、可動用ロッドを駆動させて坩堝受けをチャンバー内の最下部にセットした。その後、チャンバー内にアルゴンガスを導入し、チャンバー内を大気圧の不活性雰囲気に調整した。また、カーボン製の抵抗加熱ヒーターからなる上段ヒーター、中段ヒーターおよび下段ヒーターとしては、独立に制御可能で、かつ、高さ方向の長さが200mmのものを使用した。
【0076】
そして、上段ヒーターの温度を1450℃、中段ヒーターの温度を1400℃、下段ヒーターの温度を1300℃の温度幅で設定し、チャンバー内の昇温を行った。昇温が終了してチャンバー内の温度が安定した後、可動用ロッドを駆動させて坩堝受けを上昇させることにより、単結晶育成用坩堝を緩やかな速度で上昇させた。チャンバー内には上部の温度が高く、下部の温度が低い温度勾配がつくられているので、チャンバーの上部に移動するに従って単結晶育成用坩堝内の温度が上昇し、鉄とガリウムの混合物が融解してその融解物が形成された。
【0077】
上記融解物が形成された単結晶育成用坩堝の位置する付近で、熱電対の温度が安定した状態で1350~1400℃の範囲になるよう単結晶育成用坩堝を上昇させた。単結晶育成用坩堝を保持する位置が定まったら、3時間保持してシーディングを行った後、可動用ロッドを駆動させて5mm/hの速度で単結晶育成用坩堝を降下させ、鉄ガリウム合金の単結晶の育成を開始した。単結晶育成用坩堝の降下距離が150mmとなった後、育成を終了した。
【0078】
上記単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝から育成した鉄ガリウム合金単結晶のインゴットを取り出したところ、定径部が角柱形状の縦50mm、横50mm、長さ100mmの鉄ガリウム合金単結晶のインゴットが得られた。
【0079】
(結晶加工工程)
得られた単結晶インゴットの種結晶部および増径部を外周刃切断装置にて切断した。そして、X線回折装置を用いて、成長軸と垂直な{100}面を特定し、平面研削により定径部と増径部の切断面近傍に第1の(100)平面1面を加工した。
【0080】
次に、X線回折装置を用いて、側面の{100}面を特定し、平面研削により第2の(100)平面1面を研削加工した。
【0081】
次に、1000番のSiC砥粒、0.7mmピッチのワークローラーを使用し、0.16mmのピアノ線を70巻以上としたマルチワイヤーソーを準備し、第2の(100)平面と平行となるよう結晶を固定し、板状に切断した。そして、100mm×50mm×0.5mm厚の鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を70枚得た。また、板状部材の厚さは0.5±0.01mm以内であった。
【0082】
[比較例1]
(単結晶の育成)
単結晶育成用坩堝として、厚さ3mm、細径部を内径5.2mm、高さ30mmの下端が閉じた円筒状、増径部を半頂角45°の円錐形状、定径部を内径52mmの円筒状、全体の高さ200mmの緻密質アルミナ製坩堝を準備した。鉄ガリウム合金種結晶は、直径5mm、高さ30mmの円柱形状で上下面となる円部分を(100)面として加工した。上記以外は実施例1と同様の方法で単結晶インゴットを育成した。
【0083】
単結晶の育成終了後、単結晶育成用坩堝から育成した鉄ガリウム合金単結晶のインゴットを取り出したところ、定径部が円柱形状の直径52mm、長さ100mmの鉄ガリウム合金単結晶のインゴットが得られた。
【0084】
(結晶加工工程)
得られた単結晶インゴットの種結晶部および増径部を外周刃にて切断した。そして、X線回折装置を用いて、成長軸と垂直な{100}面を特定し、平面研削により定径部と増径部の切断面近傍に第1の(100)平面1面を加工した。
【0085】
次に、X線回折装置を用いて、円柱側面の{100}面を特定し、平面研削により第2の(100)平面1面を研削加工した。
【0086】
次に、第1の(100)平面および第2の(100)平面と垂直になるように、幅37mmの第3の平面2面を加工した。この平行な第3の平面間の距離は36mmとなった。
【0087】
次に、1000番のSiC砥粒、0.7mmピッチのワークローラーを使用し、0.16mmのピアノ線を50巻に調整してマルチワイヤーソーを準備し、第2の(100)平面と平行となるよう結晶を固定し、第3の平面から板状に切断した。そして、100mm×37mm×0.5mm厚の鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を50枚得た。また、板状部材の厚さは0.5±0.01mm以内であった。
【0088】
比較例1で得られた板状部材の収量は、板状の鉄ガリウム合金単結晶の体積および全枚数から考えると、実施例1の板状部材の約53%の収量となる。また、実施例1において、鉄ガリウム合金単結晶の定径部全体の体積に対する、板状部材全体の体積の割合は70%であるのに対し、比較例1における割合は約44%であった。このことから、実施例1は比較例1に対し、板状部材への加工における鉄ガリウム合金単結晶のロスが少ないことが分かる。
【0089】
以上の実施例の結果より、成長軸の<100>方向を利用して振動発電デバイスを製造する場合、比較例1の従来方法と比べて、鉄ガリウム合金単結晶の板状部材を廉価に製造できることが分かる。
【0090】
なお、上記のように本発明の一実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0091】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの育成方法およびその加工方法、鉄ガリウム合金の単結晶インゴットの構成も本発明の一実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 単結晶育成用坩堝、10a 細径部、10b 増径部、10c 定径部、11 断熱材、12 抵抗加熱ヒーター、12a 上段ヒーター、12b 中段ヒーター、12c 下段ヒーター、13 可動用ロッド、14 坩堝受け、15 熱電対、16 鉄ガリウム合金種結晶、17 鉄とガリウムの混合物、18 真空ポンプ、19 チャンバー、20 単結晶インゴット、20a 種結晶部、20b 増径部、20c 定径部、30 マルチワイヤーソー、100 単結晶育成装置