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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】バイオセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20231201BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20231201BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231201BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231201BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
G01N27/04 Z
G01N25/20 Z
G01N33/483 D
C12M1/34 E
C12Q1/00 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020012125
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021117171
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
(72)【発明者】
【氏名】椎木 弘
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070557(JP,A)
【文献】特開2018-128310(JP,A)
【文献】特開2018-105821(JP,A)
【文献】特開2006-226850(JP,A)
【文献】特開2006-349412(JP,A)
【文献】米国特許第5017494(US,A)
【文献】特開平02-027245(JP,A)
【文献】特開2010-197046(JP,A)
【文献】三浦佳子 ほか,金ナノ粒子の調製とそれを利用したバイオセンシング,ドージンニュース,No.113,日本,株式会社同仁化学研究所,2005年02月08日,p.1-8,インターネット<URL:https://www.dojindo.co.jp/letterj/113/news113.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 25/20
G01N 27/327
G01N 33/483
C12M 1/34
C12Q 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を備えたバイオセンサであって、
感熱部と、
前記感熱部に接続され互いに対向して形成された一対の対向電極と、
一対の前記対向電極の少なくとも一方に付着した金属含有体と、
前記金属含有体に固定された前記酵素とを備え、
前記金属含有体が、金属粒子と、前記金属粒子に被覆された有機物膜とを備えていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオセンサにおいて、
一対の前記対向電極のうち少なくとも一方と前記金属含有体とが、絶縁性接着剤で固定されていること特徴とするバイオセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバイオセンサにおいて、
前記感熱部が、薄膜サーミスタであることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載のバイオセンサにおいて、
一対の前記対向電極が櫛形電極であって、
一対の前記櫛形電極間における前記薄膜サーミスタの表面に前記金属含有体が付着していることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項5】
請求項4に記載のバイオセンサにおいて、
一対の前記櫛形電極間における前記薄膜サーミスタと前記金属含有体とが絶縁性接着剤で固定されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のバイオセンサにおいて、
前記金属粒子が、Auナノ粒子であることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項7】
請求項6に記載のバイオセンサにおいて、
前記対向電極の表面が、Au又はAuを含有する金属で形成されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のバイオセンサにおいて、
前記有機物膜が、クエン酸であり、
前記金属含有体が、負に帯電していることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のバイオセンサにおいて、
前記感熱部が、絶縁性フィルム上に設けられていることを特徴とするバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース等を高精度に検出可能なバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマーカーを反応熱でセンシングするバイオセンサが開発されている。例えば、特許文献1では、密閉容器であるカラム内に固定化生体素子(固定化酵素)を充填、固定化し、そこへ生体物質を導入し、酵素反応における発熱をサーミスタ等の温度センサで測定する機構を備えた酵素サーミスタ装置が記載されている。
また、特許文献2では、サーミスタに、酵素(グルコースに対する識別機能を有するグルコースオキシダーゼ(GOD))を直接固定化することで、装置の小型化や、構成を簡略化したバイオセンサが記載されている。
【0003】
また、特許文献3では、一対の電極を有したサーミスタ等の薄膜温度センサ(感温部)と、電極に形成され酵素を含み選択的に生体物質資料の化学反応を促進させる接着層とを備えたカロリメトリックバイオセンサが記載されている。
さらに、特許文献4では、基板表面に一組の電極が相対峙され、電極上又は電極間にプローブで修飾された導電性微粒子の膜が形成されてなる電気抵抗型検出センサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-65773号公報
【文献】特開平7-113773号公報
【文献】特開2015-200611号公報
【文献】国際公開第2005/045409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1に記載の技術では、反応系を高温に保つための恒温槽が必要になり、装置が大型になってしまうと共に、恒温のための機器構成や制御系も必要になり、高コストであった。また、酵素反応におけるエンタルピー変化は1~100kj/mol程度であり、温度変化が非常に小さく、高精度の測定が困難であった。
また、特許文献2に記載の技術では、構成が簡略化され、温度変化も比較的大きくできるが、反応系の熱容量が大きく、十分な精度を確保することがやはり困難であった。
さらに、特許文献1~4に記載の技術よりも多くの酵素を固定することが要望されている。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、小型で熱容量が小さく、多くの酵素を固定させて高感度・高精度な測定が可能なバイオセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るバイオセンサは、酵素を備えたバイオセンサであって、感熱部と、前記感熱部に接続され互いに対向して形成された一対の対向電極と、一対の前記対向電極の少なくとも一方に付着した金属含有体と、前記金属含有体に固定された前記酵素とを備え、前記金属含有体が、金属粒子と、前記金属粒子に被覆された有機物膜とを備えていることを特徴とする。
【0008】
このバイオセンサでは、金属含有体が、金属粒子と、金属粒子に被覆された有機物膜とを備えているので、金属粒子を、酵素とトランデューサーである感熱部との接合媒体とすることで、表面積を増大させ、酵素固定量を増加させることができる。特に、金属粒子を有機物膜で被覆したことで、金属含有体が負又は正に帯電して、酵素がより固定し易くなり、感度が向上する。したがって、酵素固定量を増加させることで、小型化が可能になり熱容量も小さくすることができる。
【0009】
第2の発明に係るバイオセンサは、第1の発明において、一対の前記対向電極のうち少なくとも一方と前記金属含有体とが、絶縁性接着剤で固定されていること特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、一対の対向電極のうち少なくとも一方と金属含有体とが、絶縁性接着剤で固定されているので、酵素反応により電流が発生しても、絶縁性接着剤で固定されていることで電流の影響を抑制することができる。
【0010】
第3の発明に係るバイオセンサは、第1又は第2の発明において、前記感熱部が、薄膜サーミスタであることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、感熱部が、薄膜サーミスタであるので、比表面積が大きく、広い面積に酵素を固定することが可能になり、感度がより向上する。また、感熱部を薄膜サーミスタとすることで、感熱部における熱容量を十分に低減することができ、微小な発熱でも十分な温度変化を生じさせて測定することができる。
【0011】
第4の発明に係るバイオセンサは、第3の発明において、一対の前記対向電極が櫛形電極であって、一対の前記櫛形電極間における前記薄膜サーミスタの表面に前記金属含有体が付着していることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、一対の櫛形電極間における薄膜サーミスタの表面に金属含有体が付着しているので、電極上だけではなく櫛形電極の間にも酵素があることで、発熱量/吸熱量が大きくなり、感熱部に直接接触することでより感度が向上する。
【0012】
第5の発明に係るバイオセンサは、第4の発明において、一対の前記櫛形電極間における前記薄膜サーミスタと前記金属含有体とが絶縁性接着剤で固定されていることを特徴とする。
導電性の金属粒子を有機物膜で被覆することで金属含有体に絶縁性を付与しているが、被覆が十分でないと導電性が生じる可能性がある。しかしながら、このバイオセンサでは、一対の櫛形電極間における薄膜サーミスタと金属含有体とが絶縁性接着剤で固定されているので、一対の櫛形電極間に介在する金属含有体の絶縁性を絶縁性接着剤(絶縁性の架橋剤等)で向上させることができる。
【0013】
第6の発明に係るバイオセンサは、第1から第5の発明のいずれかにおいて、前記金属粒子が、Auナノ粒子であることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、金属粒子が、Auナノ粒子であるので、酵素との相性が良く、酵素を固定し易いことから感度を向上させることができる。
【0014】
第7の発明に係るバイオセンサは、第6の発明において、前記対向電極の表面が、Au又はAuを含有する金属で形成されていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、対向電極の表面が、Au又はAuを含有する金属で形成されているので、Au粒子を含有する金属含有体が付着し易くなり、Au表面電極とAuナノ粒子とにより接合強度が増す。
【0015】
第8の発明に係るバイオセンサは、第1から第7の発明のいずれかにおいて、前記有機物膜が、クエン酸であり、前記金属含有体が、負に帯電していることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、有機物膜が、クエン酸であり、金属含有体が、負に帯電しているので、クエン酸がAu粒子等の金属粒子に付着し易く、さらに金属含有体が負に帯電していることで、正に帯電しているグルコースオキシダーゼ等の酵素が固定し易くなる。
【0016】
第9の発明に係るバイオセンサは、第1から第8の発明のいずれかにおいて、前記感熱部が、絶縁性フィルム上に設けられていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、感熱部が、絶縁性フィルム上に設けられているので、柔軟で薄いフィルムを基板とすることで、さらに熱容量を低減することができると共に、曲面などにも絶縁性フィルムを曲げて容易に実装することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るバイオセンサによれば、金属含有体が、金属粒子と、金属粒子に被覆された有機物膜とを備えているので、金属粒子を有機物膜で被覆したことで、金属含有体が負又は正に帯電して、酵素がより固定し易くなり、感度が向上する。
したがって、本発明のバイオセンサでは、多くの酵素を固定することが可能になり、小型化が可能であると共に、グルコース等の微少量の生体物質について高精度な測定が可能になり、血糖自己測定器,中性脂肪測定器,尿検査機器等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るバイオセンサの第1実施形態を示す概略的な断面図(図3のA-A線断面図)である。
図2】第1実施形態のバイオセンサにおいて、要部の模式的な断面図である。
図3】第1実施形態のバイオセンサを示す平面図である。
図4】本発明に係るバイオセンサの第2実施形態を示す概略的な断面図である。
図5】第2実施形態のバイオセンサを示す平面図である。
図6】本発明に係るバイオセンサの第3実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るバイオセンサにおける第1実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0020】
本実施形態のバイオセンサ1は、測定対象となる特定の基質成分に対して選択的に反応する酵素を備えたバイオセンサであって、図1から図3に示すように、絶縁性フィルム2と、絶縁性フィルム2上に設けられた感熱部3と、感熱部3に接続され互いに対向して形成された一対の対向電極4と、一対の対向電極4の少なくとも一方に付着した金属含有体5と、金属含有体5に固定された酵素Gとを備えている。
【0021】
上記金属含有体5は、金属粒子6と、金属粒子6に被覆された有機物膜7とを備えている。
一対の対向電極4のうち少なくとも一方と金属含有体5とは、絶縁性接着剤(図示略)で固定されている。
上記絶縁性接着剤は、絶縁性の架橋剤であって、例えばグルタルアルデヒドやウシ血清アルブミン等である。本実施形態では、グルタルアルデヒドとウシ血清アルブミンとの両方を絶縁性接着剤として用いている。
【0022】
上記感熱部3は、薄膜サーミスタである。
また、一対の対向電極4は、櫛形電極である。
すなわち、一対の上記対向電極4は、複数の櫛部4aを有して感熱部3の上面で互いに対向配置されてパターン形成された櫛形電極である。
一対の櫛形電極(対向電極4)間における薄膜サーミスタ(感熱部3)の表面には、金属含有体5が付着している。
すなわち、一対の櫛形電極(対向電極4)間における薄膜サーミスタ(感熱部3)と金属含有体5とが絶縁性接着剤で固定されている。
【0023】
上記金属粒子6は、Auナノ粒子である。なお、Auナノ粒子は、粒径がnmオーダーのAu粒子である。
また、対向電極4の表面は、Au又はAuを含有する金属で形成されている。
さらに、有機物膜7は、クエン酸であり、金属含有体5が、負に帯電している。
【0024】
上記絶縁性フィルム2は、帯状に延在し、感熱部3は、絶縁性フィルム2の一端側に配されている。
上記絶縁性フィルム2は、例えば厚さ7.5~125μmのポリイミド樹脂シートで形成されている。なお、絶縁性フィルム2としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも作製できる。
【0025】
また、本実施形態のバイオセンサ1は、一対の対向電極4に一端が接続されて絶縁性フィルム2の表面にパターン形成された一対のパターン配線4bを備えている。
一対の上記パターン配線4bは、絶縁性フィルム2に沿って延在し、他端にパッド部4cを有している。
上記パッド部4cは、リード線等を接続するために、延在しているパターン配線4bの主部よりも幅広に形成された端子部である。
【0026】
上記対向電極4及びパターン配線4bは、例えば膜厚5~100nmのCr又はNiCrの接合層4Aと、該接合層4A上にAuで膜厚50~1000nm形成された電極層4Bとを有している。
【0027】
上記感熱部3は、サーミスタ特性を有するTi-Al-Nの薄膜サーミスタで形成されている。
感熱部3は、例えばTi-Al-Nのサーミスタ材料で矩形状に形成されている。特に、感熱部3は、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。この感熱部3は、膜厚方向にc軸配向度が高い膜である。
【0028】
感熱部3は、例えば窒素含有雰囲気中の反応性スパッタ法にて成膜される。その時のスパッタ条件は、例えば、組成比Al/(Al+Ti)比=0.85のTi-Al合金スパッタリングターゲットを用い、到達真空度:4×10-5Pa、スパッタガス圧:0.2Pa、ターゲット投入電力(出力):200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において窒素ガス分圧:30%とする。
【0029】
上記金属含有体5は、例えばクエン酸で被覆され負に帯電したAuナノ粒子の分散液を、感熱部3及び対向電極4の上に滴下し、乾燥させることで、クエン酸被覆Auナノ粒子として感熱部3及び対向電極4に固定する。
本実施形態のバイオセンサ1を、上記基質成分としてグルコースを検出するグルコースセンサとして用いる場合、上記酵素Gとして、例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)が採用可能である。
【0030】
このグルコースオキシダーゼ(酵素G)は、リン酸緩衝溶液(pH=7)に溶解させ、12UμL-1となるよう調整する。その後、グルタルアルデヒド及び牛血清アルブミンを含む溶液と混合し、最終的に8UμL-1となるよう調整する。感熱部3及び対向電極4には、この溶液を0.5μL滴下する。
なお、グルタルアルデヒド及び牛血清アルブミンは、絶縁性接着剤として機能する。
【0031】
酵素Gのグルコースオキシダーゼは、以下のような酵素反応を示す。
(グルコースオキシダーゼ)
グルコース+O→ グルコノラクトン+H
この感応仮定で生じた熱による感熱部3の抵抗値変化を検出することで、グルコース濃度を測定することができる。
【0032】
このように本実施形態のバイオセンサ1では、金属含有体5が、金属粒子6と、金属粒子6に被覆された有機物膜7とを備えているので、金属粒子6を、酵素とトランデューサーである感熱部3との接合媒体とすることで、表面積を増大させ、酵素固定量を増加させることができる。特に、金属粒子6を有機物膜7で被覆したことで、金属含有体5が負又は正に帯電して、酵素Gがより固定し易くなり、感度が向上する。したがって、酵素固定量を増加させることで、小型化が可能になり熱容量も小さくすることができる。
【0033】
また、一対の対向電極4のうち少なくとも一方と金属含有体5とが、絶縁性接着剤で固定されているので、酵素反応により電流が発生しても、絶縁性接着剤で固定されていることで電流の影響を抑制することができる。
また、感熱部3が、薄膜サーミスタであるので、比表面積が大きく、広い面積に酵素を固定することが可能になり、感度がより向上する。さらに、感熱部3を薄膜サーミスタとすることで、感熱部3における熱容量を十分に低減することができ、微小な発熱でも十分な温度変化を生じさせて測定することができる。
【0034】
また、一対の櫛形電極(対向電極4)間における薄膜サーミスタ(感熱部3)の表面に金属含有体5が付着しているので、電極上だけではなく櫛形電極(対向電極4)の間にも酵素Gがあることで、発熱量/吸熱量が大きくなり、感熱部3に直接接触することでより感度が向上する。
また、一対の櫛形電極(対向電極4)間における薄膜サーミスタ(感熱部3)と金属含有体5とが絶縁性接着剤で固定されているので、さらに絶縁性接着剤(絶縁性の架橋剤等)で上記固定を行うことで、一対の櫛形電極(対向電極4)間に介在する金属含有体5の絶縁性を絶縁性接着剤(絶縁性の架橋剤等)で向上させることができる。
【0035】
また、金属粒子6が、Auナノ粒子であるので、酵素Gとの相性が良く、酵素Gを固定し易いことから感度を向上させることができる。
さらに、対向電極4の表面が、Au又はAuを含有する金属で形成されているので、Au粒子を含有する金属含有体5が付着し易くなり、Au表面電極(対向電極4)とAuナノ粒子(金属粒子6)とにより接合強度が増す。
【0036】
また、有機物膜7が、クエン酸であり、金属含有体5が、負に帯電しているので、クエン酸がAu粒子等の金属粒子6に付着し易く、さらに金属含有体5が負に帯電していることで、正に帯電しているグルコースオキシダーゼ等の酵素が固定し易くなる。
さらに、感熱部3が、絶縁性フィルム2上に設けられているので、柔軟で薄いフィルムを基板とすることで、さらに熱容量を低減することができると共に、曲面などにも絶縁性フィルム2を曲げて容易に実装することが可能になる。
【0037】
次に、本発明に係るバイオセンサの第2及び第3実施形態について、図4から図6を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0038】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、一対の対向電極が感熱部3の上面に複数の櫛部4aを有して対向した櫛形電極であるのに対し、第2実施形態のバイオセンサ21は、図4及び図5に示すように、一対の対向電極24が、感熱部3の下面に設けられた下部電極24Aと、感熱部3の上面に設けられた上部電極24Bとで構成されている点である。
【0039】
すなわち、上記下部電極24Aは、絶縁性フィルム2上に直接、矩形状にCr等でパターン形成され、上記上部電極24Bは、感熱部3の上面に矩形状にCrの接合層とAuの電極層との積層構造でパターン形成されている。このように、第2実施形態では、一対の対向電極24は、感熱部3を上下で挟んで対向配置されている。
【0040】
感熱部3は、下部電極24Aの内側に配され下部電極24Aよりも小さい矩形状に形成され、上部電極24Bは、感熱部3の内側に配され感熱部3よりも小さい矩形状に形成されている。
また、金属含有体5は、少なくとも上部電極24Bの全体を覆うようにして形成され、この金属含有体5に酵素Gが固定されている。
【0041】
このように第2実施形態のバイオセンサ21でも、第1実施形態と同様に、感熱部3及び上部電極24Bの上に形成された金属含有体5に酵素Gが固定されているので、酵素固定量を増加させることができる。
【0042】
次に、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、一対の対向電極4が、薄膜サーミスタの感熱部3上に形成されているのに対し、第3実施形態のバイオセンサ31では、図6に示すように、一対の対向電極34が絶縁性フィルム2上に形成されている点である。また、第3実施形態の感熱部33がチップサーミスタである点でも第1実施形態と異なっている。
【0043】
すなわち、第3実施形態では、一対の対向電極34が絶縁性フィルム2上に互いに間隔を空けて対向状態にパターン形成され、一対の対向電極34に跨がるようにして絶縁性フィルム2上に感熱部33が実装されている。チップサーミスタである感熱部33は、両端部に端子電極(図示略)が形成されており、端子電極が対応する対向電極34上でハンダ等で接合されている。
一対の対向電極34は、絶縁性フィルム2上に並んでAuで矩形状にパターン形成しており、これら対向電極34上に金属含有体5と酵素Gとが付着、固定されている。
【0044】
このように第3実施形態のバイオセンサ31では、感熱部33の大きさにかかわらず、任意の大きさで一対の対向電極34を設けることができるため、広い面積で金属含有体5に酵素Gを固定することが可能になり、酵素固定量をさらに増大させることができる。
【実施例
【0045】
上記第1実施形態のバイオセンサを実施例として作製し、この実施例でグルコース濃度を測定した結果を以下に示す。
本発明の実施例は、長さ50μmのポリイミドの絶縁性フィルム上にAl-Ti-Nの薄膜サーミスタを膜厚100nmでスパッタリング法により成膜し、エッチングにより約2mm×1.8mmの長方形にパターニングすることで、感熱部3を形成した。
【0046】
一対の対向電極4は、薄膜サーミスタの感熱部3上に膜厚20nmのCrの接合層4Aと膜厚200nmのAuの電極層4Bとを成膜し、エッチングにより櫛形にして形成した。
金属含有体5及び酵素Gは、上述した製法で作製、固定を行った。
このように製作した本発明の実施例のバイオセンサを用いて、希薄なグルコース溶液(5mol/l)を測定した。
【0047】
なお、グルコース溶液とリン酸緩衝溶液(PBS:基準溶液)との温度を25℃に保ち、交互にバイオセンサを浸して抵抗値を確認した。
この抵抗値測定では、本実施例のバイオセンサのパッド部4cにコネクタを接続し、データロガーを用いて抵抗値を連続的に記録した。
【0048】
また、25℃のリン酸緩衝溶液に浸した際の抵抗値を基準とし、グルコース溶液は、このグルコース溶液に浸した際の抵抗値変化が1%以上であれば、検出可能なグルコース濃度とした。具体的には、5×10-3mol/Lのグルコース溶液とリン酸緩衝溶液とに交互に浸漬させた場合の抵抗値の測定結果を表1に示す。
なお、比較例として、金属含有体5を用いず、上記薄膜サーミスタの感熱部3上に直接、酵素Gを滴下したものも作製し、同様に測定を行った。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から分かるように、本発明の実施例のバイオセンサでは、リン酸緩衝溶液(PBS:基準溶液)に浸した場合に比べ、グルコース溶液に浸した場合、抵抗値が約25%低下した。このように本実施例のバイオセンサでは、酵素Gの接合媒体として金属含有体5を用いることで、十分な感度でグルコースを検出することができた。
なお、比較例では、十分に酵素Gを固定化できなかったため、発熱量が不足し、上記抵抗値の変化が小さく、感度が低かった。
【0051】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、有機物膜としてクエン酸を採用しているが、他の有機物でも構わない。例えば、有機物膜として、水溶性ポリマー系(ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドンなど)、カルボキシ基やアミノ基を末端に持つアルキルチオール系(カルボキシペンタンチオール,アミノヘキサンチオール、アミノエタンチオールなど)、N-ヒドロキシスクシンイミドを末端に持つアルキルチオール系ジチオビス(スクシンイミジル ヘキサノエートなど)、その他(アスコルビン酸、ポリアニリン、ポリピロールなど)が採用可能である。
なお、有機物膜としてアミノエタンチオールで被膜されたAu粒子は、正に帯電した金属含有体となる。
【符号の説明】
【0053】
1,21,31…バイオセンサ、2…絶縁性フィルム、3,33…感熱部、4,24,34…対向電極、5…金属含有体、6…金属粒子、7…有機物膜、G…酵素
図1
図2
図3
図4
図5
図6