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特許7394607結晶軸配向ゼオライト膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】結晶軸配向ゼオライト膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/26 20060101AFI20231201BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20231201BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20231201BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231201BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231201BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C01B39/26
B01D67/00
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019219421
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021088482
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 諭
(72)【発明者】
【氏名】馬場 翔子
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 壽也
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-158323(JP,A)
【文献】特開2001-240411(JP,A)
【文献】特表2013-538779(JP,A)
【文献】特表2015-526366(JP,A)
【文献】特開2013-188687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0116339(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0321149(US,A1)
【文献】Journal of the Ceramic Society of Japan,日本,2013年,Vol.121, No.1415,p.550-554
【文献】Microporous and Mesoporous Materials,2012年,Vol.151,pp.188-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01D 67/00
B01D 69/00
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a軸配向性を備えるモルデナイト(MOR)ゼオライトにより構成されるa軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト種結晶層を有し、
a軸配向性を備える前記モルデナイト(MOR)ゼオライトが、対イオンとして、Hイオン、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、Erイオン、Ybイオンから成る群から選択される1種以上のイオンを含有するc軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト膜。
【請求項2】
c軸の配向度を表すFortho値が0.1以上であることを特徴とする請求項1に記載のc軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト膜。
【請求項3】
モルデナイト(MOR)ゼオライトに、対イオンとして、Hイオン、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、Erイオン、Ybイオンから成る群から選択される1種以上のイオンを導入する工程と、
多孔質基体上に、平行磁場中で前記対イオンが導入されたa軸配向性を備えるモルデナイト(MOR)ゼオライトを担持することで、a軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト種結晶層を形成する工程と、
該a軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト種結晶層を有する多孔質基体をゼオライト合成溶液に浸漬させて水熱処理する工程と、
を有する、請求項1又は2に記載のc軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト膜の製造方法。
【請求項4】
前記平行磁場における磁束密度が1T以上であることを特徴とする請求項に記載のc軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶軸を所定方向に配向した結晶軸配向ゼオライト膜、およびその製造方法に関する。より詳細には、磁場中で、多孔質基体上にゼオライト結晶を担持することで、結晶軸を所定方向に配向した結晶軸配向ゼオライト種結晶層をあらかじめ形成し、該結晶軸配向ゼオライト種結晶層を有する多孔質基体をゼオライト合成溶液に浸漬させ水熱処理することで得られる、結晶軸配向ゼオライト膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、分子と同程度の細孔を有する結晶性のアルミノシリケートであり、A型(LTA)、Y型(FAU)、モルデナイト型(MOR)、ベータ型(BEA)、ZSM-5型(MFI)など種々の構造が存在し、その多くは、電気的中性を保つため、結晶内にNaイオンやCaイオンなどの対イオンが存在する。尚、括弧内の表記は国際ゼオライト学会が規定した構造コードである。これらのゼオライトは、各々の化学組成や結晶構造に基づいた固有の吸着能、触媒能、イオン交換能等を有しており、吸着材、触媒、イオン交換体、分離膜といった用途で利用されている。
【0003】
近年、ゼオライトの用途として、無機多孔質基体表面に形成させたゼオライト膜をガス混合物、または液体混合物の分離膜として利用する検討が盛んにおこなわれている。ゼオライト膜の形状としては、平板、円筒型など様々な形状が提案されている。工業化に必要な膜モジュールとして、2重円筒型やバッフル型などが提案されており、いずれも円筒型膜が用いられている(特許文献1、2)。
【0004】
ゼオライト膜の合成法として最も一般的なもののひとつが二次成長法であり、これは、多孔質基体上にあらかじめゼオライトの種結晶を担持して種結晶層を形成した後に、水熱処理等によってこの種結晶を成長させることでゼオライト膜を得る方法である。ここで、多孔質基体での種結晶の担持において、その後の二次成長法でゼオライトが緻密に集合したゼオライト膜を製膜するために、種結晶は、多孔質基体上に薄く担持する必要がある。また二次成長法は、緻密性、配向性に優れたゼオライト膜を得ることが期待出来るゼオライト膜合成法であり、この手法を利用してゼオライト細孔の開孔方向(配向性)を制御し、透過度の高いゼオライト膜を合成する検討が行われている。
【0005】
上記例として、特許文献3には、モルデナイトゼオライトからなる配向性制御膜の製造法として、二次成長法における水熱合成用溶液の組成、水熱処理温度、水熱処理時間等を調整してc軸配向モルデナイトゼオライト膜を製造する方法が示されている。より詳細には、SiO/Al(モル比)が40~100、HO/NaO(モル比)が100~120、HO/SiO(モル比)が30~40である原料溶液を用いて150℃で5時間の水熱処理することで、分離膜として実用性のあるc軸配向モルデナイトゼオライト膜を製造する方法が示されている。
【0006】
しかしながら、この文献で開示された製造方法においては、得られるモルデナイトゼオライト膜が耐酸性に優れるものの、開口方向がc軸に限定されるという問題があった。また、水熱合成用溶液の組成により、モルデナイトゼオライト膜を構成するモルデナイトゼオライトの配向がb軸またはc軸に変化する旨の記載があり、モルデナイトゼオライト膜が得られる水熱処理条件の中でも更に限定的な条件でのみしかc軸配向モルデナイトゼオライト膜が得られなかった。
【0007】
一方、非特許文献1には、多孔質基体上へモルデナイト型ゼオライト結晶を含むスラリーをスリップキャストしてモルデナイト型ゼオライト成形体を作製する製造方法が提案されている。該製造方法では、磁場中に配置した多孔質基体上に、結晶を含むスラリーを接触させることで、得られるモルデナイト型ゼオライト成形体の配向性を制御している。
【0008】
しかしながら、このとき用いられたモルデナイト型ゼオライト結晶は、磁場と平行方向にb軸が配向する特徴を有しているものであり、磁場と平行方向にa軸が配向する特徴を有するものではない。また、非特許文献1の方法で得られたモルデナイト型ゼオライト成形体では、モルデナイト型ゼオライト結晶が単に多孔質基体表面に担持されるだけであり、ゼオライト膜のようにモルデナイト型ゼオライトが緻密に集合していない。さらに、非特許文献1では、XRDにより配向性を評価しているものの、XRDでは成形体表面近傍の配向性の評価しかできず、ゼオライト膜を製膜するために必要な多孔質基体近傍の配向性が不明であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4575817号
【文献】特許第3597231号
【文献】特許第4527229号
【非特許文献】
【0010】
【文献】C. Matsunaga et. al, Microporous and Mesoporous Materials, Vol.151(2012年), P188-194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、a軸配向性を備えるMORゼオライトを用いて構成されるc軸配向MORゼオライト膜と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、a軸配向性を備えるモルデナイトゼオライトをa軸配向させたときに、a軸配向するだけでなくc軸配向することを知見した。この知見に基づき、本発明者らは、a軸配向性を備えるモルデナイトゼオライトを種結晶として用いることで、c軸配向モルデナイトゼオライト膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、a軸配向性を備えるモルデナイト(MOR)ゼオライトにより構成されるa軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト種結晶層を有するc軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト膜である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、a軸配向性を備えるモルデナイトゼオライトを用いて構成されるc軸配向モルデナイトゼオライト膜とその製造方法を提供することができる。なお、本発明の一実施形態によれば、平板基材のみならず、特に工業的に有利な円筒基材に対してc軸配向ゼオライト膜を成膜することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、a軸配向性を備えるモルデナイトゼオライト(以下、「a軸配向性MORゼオライト」ともいう)により構成されるa軸配向モルデナイトゼオライト種結晶層(以下、単に「種結晶層」ともいう)を有するc軸配向モルデナイト(MOR)ゼオライト膜及びその製法に関する。
【0017】
ここで、結晶軸配向性とは、一般に、ある外場(例えば磁場)を与えたときに特定の結晶軸が所定の方向に向く性質を意味する。本発明において、「a軸配向性」とは、外場を与えたときに磁場方向(磁力線が延びる方向)に対して平行にa軸が向く性質をいう。つまり、磁場を印加したときに磁場方向に対して平行方向にa軸が向くMORゼオライトを、a軸配向性を備えるMORゼオライトという。
【0018】
本発明のc軸配向MORゼオライト膜は、担体(例えば、多孔質基体上)にあらかじめa軸配向性MORゼオライトを担持してa軸配向MORゼオライト種結晶層を形成し、その後、水熱処理によってこの種結晶層のa軸配向性MORゼオライトを結晶成長させることで得ることができる。a軸配向MORゼオライト種結晶層を得る際には、磁場を印加し、a軸配向性MORゼオライトのa軸を磁場方向に対して平行に向かせる。この時、a軸配向性MORゼオライトは、a軸配向するだけでなくc軸配向する。特に、担持面に対して平行に磁場を印加してa軸配向性MORゼオライトを担持する場合、a軸配向性MORゼオライトのa軸が担持面に対して平行となる方向を向く。そして、a軸配向性MORゼオライトは、担持面に対して平行にa軸配向するとともに、担持面に対して垂直にc軸配向する。
【0019】
本発明のc軸配向MORゼオライト膜は、a軸配向するだけでなくc軸配向したa軸配向性MORゼオライトによって、a軸配向MORゼオライト種結晶層を形成した後に、該種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトを結晶成長して得られる膜である。結晶成長するMORゼオライトは、種結晶として用いられるa軸配向性MORゼオライトと同様に結晶軸が配向する。具体的には、結晶成長するMORゼオライトは、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトのa軸に対して平行にa軸配向するとともに、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトのc軸に対して平行にc軸配向する。このため、本発明のc軸配向MORゼオライト膜では、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトを含め、その膜を構成するMORゼオライトがc軸配向している。そして、本発明のc軸配向MORゼオライト膜では、a軸配向性MORゼオライトにより構成されるa軸配向MORゼオライト種結晶層が残存する。
【0020】
本発明のc軸配向MORゼオライト膜では、上述したとおり、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトを含め、その膜を構成するMORゼオライトがc軸配向している。ここで、c軸配向するとは、MORゼオライトの担持面が平面である場合には、ゼオライトのc軸が互いに平行に揃うことを指し、MORゼオライトの担持面が曲面である場合には、曲面を平面に変換したときにゼオライトのc軸が互いに平行に揃うことを指す。例えば、c軸配向MORゼオライト膜を構成するMORゼオライトが、円筒形状の多孔質基体の表面(曲面)に担持されている場合、c軸配向するとは、円筒形状の多孔質基体を展開して、MORゼオライトが担持される多孔質基体の表面を平面に変換したときに、ゼオライトのc軸が互いに平行に揃うことを指す。本発明のc軸配向MORゼオライト膜を構成するMORゼオライトは、その全てがc軸配向している必要はなく、その一部がc軸配向していればよい。例えば、本発明のc軸配向MORゼオライト膜において、c軸の配向度を表すFortho値は、0.1以上あればよく、0.2以上であることが好ましい。なお、Fortho値の詳細は、後述する。
【0021】
また、本発明のc軸配向MORゼオライト膜において、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトは、前述した通り、c軸配向するだけでなく、a軸配向している。ここで、a軸配向するとは、MORゼオライトの担持面が平面である場合には、ゼオライトのa軸が互いに平行に揃うことを指し、MORゼオライトの担持面が曲面である場合には、曲面を平面に変換したときにゼオライトのa軸が互いに平行に揃うことを指す。種結晶層において、a軸配向性MORゼオライトは、その全てがa軸配向している必要はなく、その一部がa軸配向していればよい。例えば、種結晶層において、a軸の配向度を表すFortho値は、0.1以上あればよく、0.25以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましい。なお、本発明のc軸配向MORゼオライト膜において、a軸配向したMORゼオライトのa軸と、c軸配向したMORゼオライトのc軸は、異なる方位に伸びる軸である(つまり、平行に延びる軸ではない)。
【0022】
また、本明細書において、MORゼオライト膜とは、水熱処理等によって種結晶(MORゼオライト)を結晶成長することで生成されるMORゼオライト(以下、「成長MORゼオライト」ともいう)を含む膜を指す。
【0023】
本発明のc軸配向MORゼオライト膜において、成長MORゼオライトは、緻密に集合して層(以下、「成長層」ともいう)を形成していてもよく、種結晶層の表面がこの成長層で覆われていてもよい。成長層は、一般的に、種結晶層よりもMORゼオライトの密度が高い。また、成長層の厚みは、特に限定されるものではなく、本発明のゼオライト膜の用途を考慮して適宜設定することができる。なお、成長層には、成長MORゼオライトの他にも、シリカ、アルミナなどのMORゼオライトとは異なる他の成分が含まれていてもよい。
【0024】
また、本発明において、a軸配向MORゼオライト種結晶層とは、a軸配向したMORゼオライトにより構成される層であり、種結晶層を構成するMORゼオライトの少なくとも一部が種結晶として結晶成長のために使用される層である。本発明のMORゼオライト膜に含まれる上述した成長ゼオライトは、種結晶層に含まれる種結晶(a軸配向性MORゼオライト)を結晶成長することで生成されるものである。
【0025】
本発明のc軸配向MORゼオライト膜のうち、種結晶層におけるc軸の配向度(例えば、Fortho値)は、本発明のMORゼオライト膜の配向度と異なっていてもよく同一であってもよい。一方で、本発明のMORゼオライト膜の配向度は、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトよりも、上述した成長ゼオライトによる影響が反映されやすいため、本発明のMORゼオライト膜と種結晶層の配向度は互いに異なる値となりやすい。例えば、種結晶層において、c軸の配向度を表すFortho値は、0.1以上あればよく、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
【0026】
なお、種結晶層には、MORゼオライトの他にも、シリカ、アルミナなどの他の成分が含まれていてもよい。
【0027】
種結晶層において、種結晶として使用されるa軸配向性MORゼオライトは、外場を与えたときに磁場方向(磁力線が延びる方向)に対して平行方向にa軸が向くものであればよいが、a軸配向だけでなくc軸配向しやすくなる観点から、特定の対イオンが導入されていることが好ましい。尚、ここで対イオンとは、ゼオライト内のアルミニウム原子起因の負電荷を補償するためのイオンを指す。
【0028】
種結晶として使用されるa軸配向性MORゼオライトは、特定の対イオンが導入される前に、該対イオンとは異なる他の対イオン(以下、単に「他の対イオン」ともいう)が導入されていてもよい。このような他の対イオンとしては、特に制限はないが、イオン交換の容易さ、ハンドリングの観点から、水素、またはナトリウムであることが好ましい。なお、他の対イオンが導入されている場合には、他の対イオンを特定の対イオンにイオン交換することで、特定の対イオンが導入されたa軸配向性MORゼオライトを得ることができる。
【0029】
種結晶層は、例えば、a軸配向性MORゼオライトの粉末を含有するスラリーを、多孔質基体などに塗布及び乾燥することで形成できる。該スラリーを調製するためのa軸配向性MORゼオライトの粉末は、乾式ボールミル、ジェットミルなどの乾式法や湿式ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミルなどの湿式法の粉砕方法によって製造することができる。スラリー作成方法は、例えば、多孔質基体への塗布方法に応じて適切なものを選択することができる。
【0030】
本発明において、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトの結晶軸の配向は、磁場中で調整することができるが、結晶軸の配向は、効率的に行うことができることが好ましい。該観点から、MORゼオライトの粉末は、粉砕後、粒径に応じて、適切な分離法により分離することが好ましい。分離後の粒径分布はa軸配向性MORゼオライトの単結晶のサイズと同程度であることが好ましい。尚、分離法として遠心分離、沈降分離などが例示できる。
【0031】
種結晶層のa軸配向性MORゼオライトに導入され得る特定の対イオンとしては、磁場方向(磁力線が延びる方向)に対して平行にa軸を向ける性質(つまり、a軸配向性)を付与することが可能なイオンを挙げることができ、a軸配向だけでなくc軸配向しやすくなる観点から、Hイオン、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、Erイオン、Ybイオンから成る群から選択される1種以上のイオンであることが好ましく、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、Erイオン、Ybイオンから成る群から選択される1種以上のイオンであることがより好ましく、Cuイオン、又はYbイオンであることが特に好ましい。
【0032】
MORゼオライトに対イオンを導入する方法(イオン交換方法)は、特に制限はなく、例えば、MORゼオライトの対イオンにYbイオンを導入する場合、Ybイオンを含む水溶液にNa型またはH型のMORゼオライトを浸漬して製造することができる。Ybイオンを含む溶液としては硝酸イッテルビウム水溶液、塩化イッテルビウム水溶液などを例示することができる。水溶液中のYbイオンの濃度は0.001~0.3Mが好ましく、0.001~0.1Mが更に好ましい。尚、Mはmol/Lである。
【0033】
Feイオン、Cuイオン、Euイオン、又はErイオンをMORゼオライトの対イオンに導入する場合も、上記例と同様、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、又はErイオンを含む水溶液にNa型またはH型のMORゼオライトを浸漬して製造することができる。Feイオン、Cuイオン、Euイオン、又はErイオンを含む溶液としては、それぞれのイオンを含む硝酸塩、または塩化物塩を溶解させた水溶液などを例示することができる。水溶液中のFeイオン、Cuイオン、Euイオン、又はErイオンの濃度は0.001~0.3Mが好ましく、0.001~0.1Mが更に好ましい。また、H型のMORゼオライトを種結晶として用いるときは特にイオン導入をする必要はなくH型のMORゼオライトを用いることができる。
【0034】
なお、成長層におけるMORゼオライトは、種結晶層を構成するa軸配向性MORゼオライトから結晶成長するものであり、a軸配向性を備えているか否かに関わらず、種結晶層のa軸配向性MORゼオライトの結晶軸と同様に結晶軸が配向する。このため、成長層におけるMORゼオライトには、前述した特定の対イオンが導入されていなくてもよいが、導入されていてもよい。
【0035】
種結晶層は、担体に担持することができ、例えば、多孔質基体に担持されていてもよい。種結晶層を構成するMORゼオライト(種結晶)を担持する多孔質基体としては、特に制限はないが、圧力差に耐える強度や、脱水濃縮時の温度で変形などの起こさない耐熱性を有するものが好ましい。多孔質基体としては、例えば、無機系多孔質基体、有機系多孔質基体、又は無機有機ハイブリッド多孔質基体等が挙げられる。
【0036】
無機系多孔質基体としては、特に限定するものではないが、表面にMOR型ゼオライトを担持でき、多孔質であれば特に制限されるものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化珪素、または炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、またはステンレスなどの焼結金属、ガラス、カーボン成形体等が挙げられる。
【0037】
有機系多孔質基体としては、特に限定するものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル等のビニル重合体、ポリエステル、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等の縮合重合体、または天然系高分子化合物等が挙げられる。
【0038】
無機有機ハイブリッド多孔質基体としては、特に限定するものではないが、例えば、前記無機系多孔質基体と前記有機系多孔質基体を混合又は積層させたものが挙げられる。
【0039】
多孔質基体表面層の細孔径としては、好ましくは0.05~1.5μm、さらに好ましくは0.1~1.2μmである。多孔質基体表面層の細孔径の評価は、バルブポイント法や水銀圧入法などで行うことができる。尚、「多孔質基体表面層」とは、成長MORゼオライトを形成し得る基体表面部分をいい、具体的には、多孔質基体の外表面から、多孔質基体の25%程度までの厚さの部位をいう。また、多孔質基体表面層以外の部分の細孔径は特に制限されないが、その部分の気孔率は気体や液体を分離する際の強度及び透過度の観点から、20~60%程度の気孔率を有するものが好ましい。
【0040】
なお、本発明のc軸配向MORゼオライト膜において、ゼオライトの結晶相(結晶構造)は、X線回折測定により確認することができる。
【0041】
次に、本発明のc軸配向MORゼオライト膜を製造する方法について説明する。以下の説明では、本発明のc軸配向MORゼオライト膜の製造方法の一例として、多孔質基体上に、c軸配向MORゼオライト膜を製造する方法について説明する。
【0042】
本発明のc軸配向MORゼオライト膜は、概して、多孔質基体上にあらかじめa軸配向性MORゼオライトを担持して種結晶層を形成し、これをゼオライト合成溶液に浸漬して水熱処理することによって、この種結晶層に含まれるa軸配向性MORゼオライト(種結晶)を結晶成長させ、緻密に集合した成長MORゼオライトを生成することにより製造することができる。この方法は、緻密なゼオライト膜の合成法として一般的な二次成長法である。二次成長法の具体的な処理は、例えば、特開2017-213488号公報や、特開2005-289735号公報や、特開2016-174996号公報に記載されているため、詳細な説明は省略する。
【0043】
本発明に係る製造方法では、一般的な二次成長法とは異なり、種結晶層の形成の際に、磁場中で多孔質基体にa軸配向性MORゼオライトを担持することで、a軸配向性MORゼオライトのa軸を磁場方向(磁力線が延びる方向)に対して平行に向ける。この時、a軸配向性MORゼオライトは、a軸配向するとともにc軸配向する。磁場を印加する方向(磁場方向)は、特に限定されるものではないが、例えば、多孔質基体の担持面に対して略平行とすることができる。磁場方向を多孔質基体の担持面に対して略平行とする場合には、a軸配向性MORゼオライトは、担持面に対して平行に(基体面に沿うように)a軸配向し、担持面に対して垂直方向にc軸配向することができる。そして、種結晶層が形成された多孔質基体をゼオライト合成溶液中に浸漬し水熱処理を行うことで本発明のゼオライト膜を製造する。
【0044】
なお、本明細書において、磁場は、磁力線の間隔が均一で磁力線どうしが平行な平行磁場を指す。磁場を印加しながらa軸配向性MORゼオライトを担体に担持したときに、a軸配向するだけなくc軸配向する理由(例えば、a軸配向性MORゼオライトを担持面に平行な磁場を印加しながら担持したときに、担持面に対して垂直方向にc軸配向できる理由)としては、MORゼオライトは斜方晶であり格子定数はc軸が最短軸(格子定数:b軸>a軸>c軸)であるためであると推定できるが詳細は不明である。
【0045】
本発明によるa軸配向MORゼオライト種結晶層は、担持面に略平行に磁場を印加してa軸配向性MORゼオライトを担持することで形成することもできるため、基体形状は平板形状に限らず、円筒形状基体も使用でき、楕円筒形状、星形筒形状など複雑な筒型形状の基体も使用可能である。なお、円筒形状は、ゼオライト膜を工業的に製造する際に広く一般的に使用されている基体形状である。
【0046】
本発明の製造方法では、種結晶層を構成するためのa軸配向性MORゼオライトに、磁場方向に対して平行方向にa軸が向く性質(つまり、a軸配向性)を付与することができるとともに、a軸配向だけでなくc軸配向しやすくなる観点から、上述した特定の対イオンが導入されていることが好ましい。また、本発明の製造方法は、特定の対イオンが導入されたMORゼオライトを、磁場方向に対して略平行に配置した多孔質基体に担持することにより、磁場方向に対して平行にa軸配向したa軸配向性MORゼオライトで種結晶層を形成し、該種結晶層を有する多孔質基体を、ゼオライト合成溶液に浸漬し水熱処理する製造方法であることが好ましい。
【0047】
本発明に係る製造方法で用いられるゼオライト合成溶液は、MORゼオライトを構成する成分を含む溶液であり、例えば、シリカ源、アルミナ源、アルカリ金属塩を所定の量比となるように混合し、一定時間熟成させることで得ることができる。
【0048】
前記シリカ源としては、コロイダルシリカやシリカ微粉末などの固体シリカ、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなどの無機ケイ酸化合物、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどの有機シラン化合物等を例示することができる。
【0049】
また、前記アルミナ源としては、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、または塩化アルミニウムなどの無機アルミニウム化合物、酢酸アルミニウムやシュウ酸アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物等を例示することができる。
【0050】
また、アルカリ金属塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、フッ化ナトリウムなどを例示することができる。
【0051】
シリカ源、アルミナ源、及びアルカリ金属塩の量比としては、MORゼオライトが得られる従来既知の比であれば特に制限はないが、Al/SiOモル比が0.5~0.004とすることができ、AO/SiOモル比が0.1~1.0(但し、Aはアルカリ金属を示す)であることが好ましい。
【0052】
水熱処理の温度は、MORゼオライトが得られる従来既知の温度範囲であれば特に制限はなく、水熱処理後の結晶性が良いことから、130℃~200℃が好ましく、180℃前後がより好ましい。
【0053】
水熱処理の時間は、得られるMORゼオライト膜の結晶性がよいことから、4時間以上が好ましく、6時間以上がより好ましい。
【0054】
種結晶層を有する多孔質基体の、水熱処理中の浸漬形態に特に制限はないが、MORゼオライト(種結晶)を担持した担持面が、ゼオライト合成溶液の液面に対し、垂直になるように立設して配置する方法、または、平行になるように配置する方法があげられる。MORゼオライト(種結晶)を担持した面が平行になるように配置する方法においては、その面が、上側、下側のどちらを向いていてもよい。
【0055】
種結晶層、及びゼオライト膜の配向度は、X線回折法により測定したX線回折ピーク強度(I)から算出可能な(1)式で示すロトゲーリングファクター(F)を用いて評価でき、より簡便な評価方法としては、X線回折法により測定したX線回折ピークのうち(h00)、(0k0)、(00l)に該当するピークのみに着目し算出する(4)式で示すロトゲーリングファクターオルソゴナル(Fortho)値によっても評価できる。
【0056】
ロトゲーリングファクター(F)は、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、次式(1)により計算する。
F=(p-p)/(1-p) (1)
【0057】
ここで、上式(1)におけるpは無配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面(c軸と垂直な全ての面)の回折強度の合計の割合として、次式(2)により求める。
=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (2)
(上式(2)中、h,k,lは、それぞれ整数を表す)
【0058】
上式(1)におけるpは配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、上式(2)と同様に次式(3)により求める。
p=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (3)
(上式(3)中、h,k,lは、それぞれ整数を表す)
【0059】
ロトゲーリングファクターオルソゴナル(Fortho)値は対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、次式(4)により計算する。
ortho=(portho-p0ortho)/(1-p0ortho) (4)
【0060】
ここで、上式(4)におけるp0orthoは無配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合、(h00)、(0k0)、(00l)面の回折強度の和に対する、(00l)面(c軸と垂直な全ての面)の回折強度の合計の割合として、次式(5)により求める。
0ortho=ΣI(00l)/ΣI((h00)+(0k0)+(00l)) (5)
(上式(5)中、h,k,lは、それぞれ整数を示す)
【0061】
上式(4)におけるporthoは配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合、(h00)、(0k0)、(00l)面の回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、上式(5)と同様に次式(6)により求める。
ortho=ΣI(00l)/ΣI((h00)+(0k0)+(00l)) (6)
(上式(6)中、h,k,lは、それぞれ整数を示す)
【0062】
尚、a軸の配向度を評価する際は、式(2)、(3)、(5)、及び(6)の分子の(00l)を(h00)に置き換えればよい。
【0063】
次に、多孔質基体上への磁場を用いたa軸配向性MORゼオライトの担持方法(つまり、種結晶層の形成方法)について具体的に説明する。
【0064】
まず、a軸配向性MORゼオライトを所定量含むスラリーを用意する。該スラリーを、磁場中で、その多孔質基体の表面に所定量均一に滴下して、所定時間保持する。例えば、多孔質基体(例えば、平板形状あるいは円筒形状の多孔質基体)の外表面に対して磁場方向(磁力線が延びる方向)が平行な1テスラ以上の磁場中で、その多孔質基体の表面に、a軸配向性MORゼオライトを含むスラリーを所定量均一に滴下して、30秒間保持する。この場合には、a軸配向性MORゼオライトが、多孔質基体の表面に対して平行にa軸配向するとともに、多孔質基体の表面に対して垂直にc軸配向する。そして、スラリー中の水が多孔質基体中に給水され、a軸配向性MORゼオライトが多孔質基体表面に固定化(つまり、担持)され、a軸配向MORゼオライト種結晶層が形成される。その後、a軸配向性MORゼオライト(種結晶)が担持された多孔質基体を磁場から取り出し、室温、60分の乾燥を行うことで、a軸配向性MORゼオライトを担持した(つまり、種結晶層が形成された)多孔質基体を得ることができる。
【0065】
前記磁場については、a軸配向性MORゼオライトのa軸が磁場方向に対して平行に向くものであればよく、対イオンや配向の程度を考慮して適宜選択することができる。特に限定されるものではないが、例えば、磁場方向は、多孔質基体の外表面に対して平行にすることができ、磁束密度は、1T以上とすることができる。また、例えば、対イオンがYbイオンのa軸配向性MORゼオライトを担持するとき、磁束密度として10Tを選択すると、配向度Fortho値が0.7以上を得ることができる。
【0066】
なお、多孔質基体の外表面(基体面)に対する磁力線の角度や磁束密度は、担持するa軸配向性MORゼオライトの対イオンなどに応じて選択することができ、上述した例に限定されるものではない。
【0067】
前記MORゼオライトを所定量含むスラリーは、例えば、対イオンが導入されたa軸配向性MORゼオライト5gを水10gに混合し、直径0.5mmのジルコニアボールとともに8時間ボールミル混合することによって分散させ、その後50gの水を添加してから4日間静置し、上澄みを採取することで調製できる。
【0068】
滴下するスラリーの量および濃度としては、多孔質基体に担持するa軸配向性MORゼオライト(種結晶)の単位面積あたりの担持量にあわせて滴下し、担持されたa軸配向性MORゼオライト(種結晶)の濃度を多孔質基体表面に対して、例えば、1~20g/mとなるように調整することが挙げられる。例えば、直径3cmで厚さが2mmの多孔質基体では、濃度0.2~5wt%のスラリーを1~2ml滴下することで前記種結晶層が形成された多孔質基体を得ることができる。
【0069】
本発明によれば、c軸配向したMORゼオライトにより構成されるc軸配向MORゼオライト膜とその製造方法を提供することができる。このc軸配向MORゼオライト膜は、平板形状、円筒形状等様々な基体の表面に対して垂直にc軸配向したMORゼオライトで構成することもできる。また、このc軸配向MORゼオライト膜を利用することで、単位時間あたりにより多くの被処理流体を処理することができると考えられる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0071】
参考例1 Feイオン交換方法
80.36gの塩化鉄(II)4水和物を400.1gの蒸留水に溶解させ、1.0mol/L(M)の鉄(II)イオン濃度とした溶液中に、21gの東ソー製MORゼオライト(HSZ-642NAA)を添加し60分間の攪拌しイオン交換を行った。続いて、吸引濾過によりこの粉末を回収し、100℃で一晩乾燥することで対イオンとしてFeイオンが導入されたMORゼオライト(以下、「Fe―MORゼオライト」ともいう)サンプルを得た。このサンプルをICP測定した結果、Fe交換率は68%であった。
【0072】
参考例2 Cuイオン交換方法
68.206gの塩化銅(II)2水和物を400.5gの蒸留水に溶解させ、1.0mol/L(M)の銅(II)イオン濃度とした溶液中に、20gの東ソー製MORゼオライト(HSZ-642NAA)を添加し24時間の攪拌しイオン交換を行った。続いて、吸引濾過によりこの粉末を回収し、100℃で一晩乾燥することで対イオンとしてCuイオンが導入されたMORゼオライト(以下、「Cu―MORゼオライト」ともいう)サンプルを得た。このサンプルをICP測定した結果、Cu交換率は64%であった。
【0073】
参考例3 Euイオン交換方法
14.76gの塩化ユーロピウム(III)6水和物を395.02gの蒸留水に溶解させ、0.1mol/L(M)のユーロピウム(III)イオン濃度とした溶液中に、30gの東ソー製MORゼオライト(HSZ-642NAA)を添加し24時間の攪拌しイオン交換を行った。続いて、吸引濾過によりこの粉末を回収し、100℃で一晩乾燥することで対イオンとしてEuイオンが導入されたMORゼオライト(以下、「Eu―MORゼオライト」ともいう)サンプルを得た。このサンプルをICP測定した結果、Eu交換率56%であることが分かった。
【0074】
参考例4 Erイオン交換方法
10.30gの塩化エルビウム(III)6水和物を280.06gの蒸留水に溶解させ、0.10mol/L(M)のエルビウム(III)イオン濃度とした溶液中に、25gの東ソーMOR製ゼオライト(HSZ-642NAA)を添加し24時間の攪拌混合を行った。続いて、吸引濾過によりこの粉末を回収し、100℃で一晩乾燥することで対イオンとしてErイオンが導入されたMORゼオライト(以下、「Er―MORゼオライト」ともいう)サンプルを得た。このサンプルをICP測定した結果、Er交換率51%であることが分かった。
【0075】
参考例5 Ybイオン交換方法
24.43gの塩化イッテルビウム(III)6水和物を694.21gの蒸留水に溶解させ、0.090mol/L(M)のイッテルビウム(III)イオン濃度とした溶液中に、50gの東ソー製MORゼオライト(HSZ-642NAA)を添加し28時間の攪拌混合を行った。続いて、吸引濾過によりこの粉末を回収し、100℃で一晩乾燥することで対イオンとしてYbイオンが導入されたMORゼオライト(以下、「Yb―MORゼオライト」ともいう)サンプルを得た。このサンプルをICP測定した結果、Yb交換率55%であることが分かった。
【0076】
参考例6 多孔質基体への磁場中でのMORゼオライト(種結晶)の担持
参考例1乃至5で得た、対イオンとして、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、Erイオン、YbイオンおよびHイオンを含有するMORゼオライト各5.0g、蒸留水10g、Φ0.5ジルコニアボール200gを250mL容量の樹脂ポットに入れ、8時間のボールミル粉砕をそれぞれ実施した。粉砕後のスラリーに蒸留水50gを添加し、これを回収、デカンテーション4日間の後に上澄みのみを30mL採取し、MORゼオライト(種結晶)の担持に用いるスラリーとした。このスラリーを平板状のAl多孔体に1.5mL滴下し、平板状のAl多孔体の外表面に対し、垂直または平行に磁力線が交わる1~10Tの磁場を、超伝導マグネットを用いて印加した状態で30秒間保持した。その後、20℃、60分の乾燥を行い、得られた種結晶層を有するAl多孔体表面について以下に示す条件でX線回折測定を実施した。
【0077】
(X線回折測定条件)
XRD装置:RINT UltimaIII
線源 : CuKα線(λ=1.54Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎分6.5°
発散スリット: 1/3deg
散乱スリット: 1/3deg
受光スリット: 7.0mm、0.15mm
ステップ幅 : 0.01°
測定範囲 : 2θ=5~40°
【0078】
X線回折結果と上式(4)~(6)を用いて、Fortho値を算出した。算出されたFortho値をそれぞれ表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、Feイオン、Cuイオン、Euイオン、Erイオン、YbイオンおよびHイオンを対イオンとしてそれぞれ含有するMORゼオライトを、担持面(基体面)に対して垂直方向に磁場を印加してAl多孔体表面に担持した時には、種結晶層のMORゼオライトは、基体垂直方向にa軸配向し、担持面(基体面)に対して平行方向に磁場を印加してAl多孔体表面に担持した時には、種結晶層のMORゼオライトは、基体垂直方向にc軸配向していることを確認した。また、Cu-MOR、Yb-MORを用いて種結晶層を形成した場合には、1Tの垂直磁場でFortho値が0.5以上、1Tの平行磁場でFortho値が0.3以上となり、高い配向性を示すことが確認された。
【0081】
実施例1 a軸配向種結晶層を有するc軸配向MORゼオライト膜の製膜
非特許文献M. Matsukata et. al,Journal of Membrane Science, Vol.316 (2008年), p18-27を参考に、0.484gのアルミン酸ナトリウム(和光純薬製)を水酸化ナトリウム溶液(12.946gの水酸化ナトリウム(和光純薬製)及び213.065gの蒸留水)に混合し、ウォーターバス中で50℃に保持した状態で30分の攪拌混合を行った。その後、123.55gのコロイダルシリカ(日産化学)を上記溶液に追加し、ウォーターバス中で50℃に保持した状態で4時間の攪拌混合を行いゼオライト合成用の透明溶液(以下、「ゼオライト合成溶液」という。)を得た。生成したゼオライト合成溶液のモル比は、36SiO:0.15Al:10NaO:960HOであった。
【0082】
参考例2と同様の方法でイオン交換によりCuを導入して、Cu-MORゼオライトを得た。参考例6における基体を円筒基体とし、基体表面と平行方向に10Tの磁場を印加したこと以外は参考例6と同様の方法で、取得したCu-MORゼオライトを用いて、多孔質アルミナ円筒基体の表面に種結晶層(Cu-MOR種結晶層)を形成した。この多孔質アルミナ円筒基体(ノリタケカンパニーリミテド製 商品名NA-1)を圧力容器中に配置し、その圧力容器中に、上記ゼオライト合成溶液を注ぎ入れ、圧力容器を密閉した。この状態の圧力容器を180℃のオーブン内に6時間静置することで、水熱合成法によりMORゼオライト膜を合成した。急冷した後に圧力容器から取り出して得られたMORゼオライト膜を、100℃の沸騰水中に浸漬した後、100℃のオーブン内で乾燥させる処理を3回繰り返すことで、MORゼオライト膜の洗浄とともに余分に生成したアモルファスを除去した。こうして得られたMORゼオライト膜を上述した方法でX線回折測定を実施し、Fortho値を得た。結果を表2に示す。尚、円筒基体であるためX線回折測定は基体面の限定した領域しか一度に測れないため、90度ずつ回転させ合計4回測定した。
【0083】
比較例1
磁場をかけずにCu―MORゼオライト(種結晶)を多孔質アルミナ円筒基体に担持したこと以外は、実施例1と同様の調製法で、MORゼオライト膜を得た。種結晶層を形成した後とMORゼオライト膜を形成した後に、実施例1と同様にX線回折測定を実施し、Fortho値を得た。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に記載の通り、種結晶としてCu-MORゼオライトを10Tの平行磁場で担持したc軸配向モルデナイトゼオライト膜は、Fortho値の平均値が0.45であり、該ゼオライト膜を構成するMORゼオライトがc軸配向していることが確認された。また磁場をかけずに担持したモルデナイトゼオライト膜のFortho値は0.07以下であり、該ゼオライト膜を構成するMORゼオライトがc軸配向していなかった。
【0086】
実施例1のMORゼオライト膜では、MORゼオライトが多孔質基体に形成される細孔の開孔方向と平行にc軸配向しているため、大きな透過度を持つと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のa軸配向MORゼオライト種結晶層を有するc軸配向MORゼオライト膜は、吸着材、触媒、イオン交換体、分離膜といった用途で使用することができる。特に、多孔質基体に形成される細孔の開孔方向と平行にc軸配向する本発明のゼオライト膜は、単位時間あたりにより多くの被処理流体を処理できると考えられる。