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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】アレーアンテナ及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20231201BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20231201BHJP
   C23C 16/511 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H05H1/46 B
H01L21/302 101D
C23C16/511
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020004973
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021114360
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英紀
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸彦
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-074792(JP,A)
【文献】特開2014-192318(JP,A)
【文献】特開2005-285564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0342372(US,A1)
【文献】国際公開第2009/096952(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/3065
C23C 16/511
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置のチャンバ内に電磁波を放射するアレーアンテナであって、
複数のアンテナと、
複数の前記アンテナのうち隣接する前記アンテナの間のそれぞれに間隔を設けて配置されている複数の結合防止素子と、を有し、
複数の前記結合防止素子のそれぞれは、
前記チャンバ内にてグランド面を構成する天壁に接続された第1の部材と、
前記第1の部材の先端又はその近傍に接続され、三角形以上の多角形であり、前記多角形の隣接する辺同士を相対させて配置されている第2の部材と、を有する、アレーアンテナ。
【請求項2】
複数の前記結合防止素子は、前記アンテナの間を結ぶ線上に配置されている、
請求項1に記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
複数の前記アンテナ及び複数の前記結合防止素子は、前記チャンバ内を仕切る誘電体窓よりも上部の閉空間に配置されている、
請求項1又は2に記載のアレーアンテナ。
【請求項4】
前記チャンバ内にてグランド面を構成する側壁に隣接する前記アンテナと前記側壁の間のそれぞれに、1以上の前記結合防止素子が配置されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
チャンバと、前記チャンバ内に電磁波を放射するアレーアンテナとを有するプラズマ処理装置であって、
複数のアンテナと、
複数の前記アンテナのうち隣接する前記アンテナの間のそれぞれに間隔を設けて配置された複数の結合防止素子と、を有し、
複数の前記結合防止素子のそれぞれは、
前記チャンバ内にてグランド面を構成する天壁に接続された第1の部材と、
前記第1の部材の先端又はその近傍に接続され、三角形以上の多角形であり、前記多角形の隣接する辺同士を相対させて配置されている第2の部材と、
を有する、プラズマ処理装置。
【請求項6】
チャンバと、
前記チャンバ内を、基板にプラズマ処理を行う処理室と閉空間とに仕切る誘電体窓と、
前記閉空間に設けられ、前記処理室内に電磁波を放射するアレーアンテナとを有するプラズマ処理装置であって、
前記アレーアンテナは、
複数のアンテナと、
複数の前記アンテナのうち隣接する前記アンテナの間のそれぞれに間隔を設けて配置された複数の結合防止素子と、を有し、
複数の前記結合防止素子のそれぞれは、
前記チャンバ内にてグランド面を構成する天壁に接続された第1の部材と、
前記第1の部材の先端又はその近傍に接続された第2の部材と、
を有する、プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アレーアンテナ及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波のパワーによりガスをプラズマ化し、ウェハにプラズマ処理を行うプラズマ処理装置が知られている。例えば、特許文献1は、フェーズドアレイのマイクロ波アンテナを用いてチャンバ内の半導体基板上での反応速度を修正する方法であって、チャンバ内でプラズマを励起し、フェーズドアレイのマイクロ波アンテナからマイクロ波放射ビームを放射し、チャンバ内の半導体基板の表面上での反応速度を変化させるように、ビームをプラズマに方向付けることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-103454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、アンテナ間の電磁気的な結合を抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、プラズマ処理装置のチャンバ内に電磁波を放射するアレーアンテナであって、複数のアンテナと、複数の前記アンテナの間に間隔を設けて配置された複数の結合防止素子と、を有し、複数の前記結合防止素子のそれぞれは、前記チャンバ内にてグランド面を構成する天壁に接続された第1の部材と、前記第1の部材の先端又はその近傍に接続された第2の部材と、を有する、アレーアンテナが提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、アンテナ間の電磁気的な結合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面模式図。
図2】実施形態に係るモノポールアンテナの一例を示す図。
図3】実施形態に係る電力・位相制御の一例を示す図。
図4】従来のアンテナ間の電磁気的な結合を説明するための図。
図5】実施形態に係る結合防止素子によるアンテナ間の電磁気的な結合抑制を示す図。
図6】実施形態に係る結合防止素子の構成の一例を示す図。
図7】実施例に係る結合防止素子の配置の一例を示す図。
図8】実施例に係る結合防止素子の配置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[プラズマ処理装置]
一実施形態に係るプラズマ処理装置10について、図1を用いて説明する。図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置10の一例を示す断面模式図である。プラズマ処理装置10は、マイクロ波プラズマ処理装置を一例に挙げて説明する。
【0010】
一実施形態に係るプラズマ処理装置10は、ウェハ等の基板Wを収容するチャンバ1を有する。チャンバ1の内部は、マイクロ波のパワーによって形成される表面波プラズマによりガスをプラズマ化し、基板Wに対して成膜処理、エッチング処理等の所定のプラズマ処理を行う処理室1sと、誘電体窓5により処理室1sと仕切られた閉空間1rとを有する。
【0011】
チャンバ1は、略円筒状であり、接地されている。チャンバ1は、天壁9にて上部開口を閉塞され、これにより、内部を気密に保持することが可能である。チャンバ1は、アルミニウムまたはステンレス鋼等の金属材料から形成され、接地されている。かかる構成により、チャンバ1の天壁9及び側壁12は、グランドに接続されている。
【0012】
基板Wを載置するステージ3は、チャンバ1内の底部中央から延びる筒状の支持部材4に支持されている。ステージ3には、基板Wを静電吸着するための静電チャック、温度制御機構、基板Wの面に熱伝達用のガスを供給するガス流路等が設けられてもよい。また、ステージ3には、整合器を介して高周波バイアス電源が電気的に接続されてもよい。ただし、高周波バイアス電源はプラズマ処理の特性によっては設けなくてもよい。
【0013】
チャンバ1の底部には排気管(図示省略)が接続されており、排気管には真空ポンプを含む排気装置(図示省略)が接続されている。排気装置を作動させるとチャンバ1内が排気され、これにより、処理室1s内が所定の真空度まで減圧される。チャンバ1の側壁には、基板Wの搬入及び搬出を行うための搬入出口(図示省略)と、搬入出口を開閉するゲートバルブ(図示省略)とが設けられている。
【0014】
チャンバ1には、複数のガス管11aが形成され、ガス供給部21から供給されたガスが、複数のガス管11aを通って処理室1sに供給される。
【0015】
天壁9には、チャンバ1内にマイクロ波を放射する7つのモノポールアンテナ2a~2g(図1ではモノポールアンテナ2a~2cのみ図示)からなるアレーアンテナ2が設けられている(図3参照)。アレーアンテナ2は、複数のモノポールアンテナからチャンバ1内へ電磁波を照射する。なお、モノポールアンテナの数は7つに限られず、2以上であればよく、3以上が好ましい。モノポールアンテナは、アレーアンテナ2が有する複数のアンテナに相当する。
【0016】
モノポールアンテナ2a~2gは同一構成を有する。図2には、代表してモノポールアンテナ2aの構成を示し、その他のモノポールアンテナ2b~2gの構成についての図示及び説明は省略する。モノポールアンテナ2aは、同軸ケーブル状をなし、内部導体121と、その外側の外部導体122と、これらの間に設けられたテフロン(登録商標)等の誘電体123とを有する。なお、誘電体123の代わりに空気層を設けてもよい。モノポールアンテナ2aの先端は、長さDだけ突出した内部導体121からなるアンテナ部11を構成している。アンテナ部11の長さDは、例えば、数10mm~数100mmとなる。
【0017】
アンテナ部11を、天壁9の下面9aと同じ高さの面であって、誘電体123の端部からチャンバ1の内部空間に露出させることにより、放射部125からマイクロ波がチャンバ1内に放射される。ただし、内部導体121は、誘電体123から飛び出さない構成でもよい。天壁9の下面9aは電気的にグランド面になっている。
【0018】
かかる構成により、図1に示すように、マイクロ波は、マイクロ波出力部6から出力され、制御部8の制御に従い電力・位相制御部7によって電力及び/又は位相が制御され、チャンバ1内に放射される。
【0019】
モノポールアンテナ2a~2gは、天壁9に概ね等間隔に設けられている。隣り合うモノポールアンテナ2a~2gの中心間の距離は、マイクロ波の波長λに対してλ/2よりも小さくなるように配置されている。誘電体窓5は、複数のアンテナ部11とステージ3との間にてチャンバ1を仕切り、誘電体窓5の上の空間Vと下の空間Uとに分ける仕切り板となっている。誘電体窓5は、例えば、石英、アルミナ(Al)等のセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により形成されている。誘電体窓5の上の空間Vは、モノポールアンテナ2a~2g及び複数の結合防止素子30が配置される閉空間1rであり、マイクロ波の電磁波を放射する空間である。誘電体窓5の下の空間Uは、処理室1sであり、マイクロ波の電磁波によってガスをプラズマ化し、プラズマにより基板Wに対して所望の処理を行う空間である。
【0020】
閉空間1rには、数10mm~数100mm程度の自由空間が存在し、その下部に設置された誘電体窓5を介して処理室1sにプラズマが生成される。複数のアンテナ部11の先端と誘電体窓5の上面との距離は、マイクロ波の波長λに対してλ/4よりも大きい。モノポールアンテナ2a~2gから出力されたマイクロ波は、閉空間1rに放射され、閉空間1rを伝播する。閉空間1rは大気空間であり、処理室1sは真空空間である。
【0021】
プラズマ処理装置10は、制御部8を有する。制御部8は、プロセッサ、メモリなどの記憶部、入力部、表示部、信号の入出力インターフェイス部等を備えるコンピュータであり、プラズマ処理装置10の各部を制御する。記憶部には、制御プログラム及びレシピデータが格納されている。コンピュータ(CPU)が、制御プログラムを実行し、レシピデータに従ってプラズマ処理装置10の各部を制御する。また、コンピュータは、アレーアンテナ2のアンテナ部11毎に備えられた電力・位相制御部7を制御し、アンテナ部11から放射するマイクロ波の電力及び/又は位相を制御する。
【0022】
かかる構成のプラズマ処理装置10においてプラズマ処理を行う際には、まず、基板Wが、搬送アーム上に保持された状態で、開口したゲートバルブから搬入出口を通りチャンバ1内に搬入される。
【0023】
基板Wは、ステージ3の上方まで搬送されると、搬送アームからプッシャーピンに移され、プッシャーピンが降下することによりステージ3に載置される。ゲートバルブは基板Wを搬入後に閉じられる。処理室1sの圧力は、排気装置により所定の真空度に保持される。所定ガスが誘電体窓5の下の処理室1sに導入される。電力及び/又は位相を制御されたマイクロ波により、誘電体窓5の所定位置にて電界が強まり、処理室1s内のガスがプラズマ化されて局所プラズマが生成される。局所プラズマを走査することによってプラズマ密度の時間積分値の空間分布を制御でき、基板Wに均一又は所望のプラズマ処理が施される。
【0024】
一実施形態にかかるプラズマ処理装置10は、制御部8の制御により、電力・位相制御部7を用いてモノポールアンテナ2a~2gのそれぞれから放射されるマイクロ波の電力及び位相を制御する。これにより、モノポールアンテナ2a~2gのそれぞれから投入されたマイクロ波が干渉を起こし、任意の箇所にて電界強度を高めることができる。これにより、プラズマを集中して生成することで、高度なプラズマ密度分布の制御が可能になる。
【0025】
以上に説明した位相制御によるマイクロ波の合成は、機械的動作を伴わないため、高速制御が可能である。これにより、複数のモノポールアンテナ2a~2gの電力・位相制御を高速に制御できる。つまり、最大でマイクロ波の周波数と同程度の高速制御により、マイクロ波の合成の焦点位置Cを時間に応じて動かすことが可能である。この結果、プラズマ密度分布を均一又は自由に制御できる。
【0026】
図3は、一実施形態に係る制御部8による電力・位相制御の一例を示す図である。図3の例では、制御部8が、電力・位相制御部7を用いてモノポールアンテナ2a~2gから放射されるマイクロ波の位相φ(x)~φ(x)を、焦点位置Cにて強め合うように制御する。また、焦点位置Cを中心とした合成部分Arにおけるマイクロ波の電界の強さを制御するために、モノポールアンテナ2a~2gからそれぞれ放射されるマイクロ波の電力を制御する。
【0027】
制御部8は、電力・位相制御部7を用いて焦点位置Cが径方向L1又は周方向L2等に誘電体窓5の表面を走査するように、マイクロ波の位相φ(x)~φ(x)を高速に制御する。また、走査中、制御部8は、電力・位相制御部7を用いてマイクロ波の電力を制御する。このようにして焦点位置C及び合成部分Arを高速に移動させながらマイクロ波の電力を制御することで、誘電体窓5の下方に透過するマイクロ波のパワーによって生成されるプラズマPの密度分布を自由に制御できる。
【0028】
また、制御部8は、電力・位相制御部7を用いてマイクロ波の位相φ(x)~φ(x)を制御する速度を変化させることで、合成部分Arの移動速度を変えることができる。例えば、制御部8が、誘電体窓5の外周側で合成部分Arをゆっくり動かし、内周側で合成部分Arを外周側よりも早く動かすようにマイクロ波の位相φ(x)~φ(x)を制御することで走査スピードを変化させる。また、走査中、マイクロ波の電力を制御する。これにより、処理室1s内の外周のプラズマ密度を内周のプラズマ密度よりも高く制御する等、プラズマ密度分布を自由に制御できる。
【0029】
[結合防止素子]
図1に示すように、隣接するモノポールアンテナの間に結合防止素子30が2つずつ配置されている。結合防止素子30は、モノポールアンテナ間の電磁気的な結合を抑制するように構成される。以下では、従来、結合防止素子30を配置しない場合のモノポールアンテナ間の電磁気的な結合について図4を参照しながら説明する。その後、実施形態に係る結合防止素子30の電磁気的な結合抑制機能について図5を参照しながら説明する。図4は、従来のアンテナ間の電磁気的な結合を説明するための図である。図5は、実施形態に係る結合防止素子30によるアンテナ間の電磁気的な結合抑制を説明するための図である。説明の便宜のため、モノポールアンテナ2a、2bを例に挙げて説明するが、実施形態では隣接するモノポールアンテナの間のそれぞれに2つずつ結合防止素子30が配置されている。
【0030】
従来、モノポールアンテナ2a、2bの間の電磁気的な結合やモノポールアンテナ2a、2bと主に側壁12との電磁気的な結合により、モノポールアンテナ2a、2bの下部でマイクロ波の電磁波が弱くなる現象が生じていた。
【0031】
図4(a)及び(b)に示すように、マイクロ波の電磁波は、モノポールアンテナ2a、2bからチャンバ1内の誘電体窓5の上の閉空間1rに供給される。シミュレーションでは、モノポールアンテナ2aからマイクロ波を供給せず、モノポールアンテナ2bのみからマイクロ波を出力する。つまり、本シミュレーションでは、図4(b)に示すように、マイクロ波のパワーは、モノポールアンテナ2bのみから閉空間1rに放射され、モノポールアンテナ2aからは放射されない。
【0032】
本シミュレーションでは、モノポールアンテナ2bとモノポールアンテナ2aの間の電磁気的な結合のために、モノポールアンテナ2bから投入したマイクロ波のパワーのうち、36%がモノポールアンテナ2aへ結合してしまうといった現象が発生している。つまり、モノポールアンテナ2bへ投入したマイクロ波のパワーのうち、約1/3がプラズマの生成に寄与せず、パワーのロスが生じている。
【0033】
そこで、以下に説明する実施形態では、回路定数的にメタマテリアルとして機能する結合防止素子30を、モノポールアンテナ2bとモノポールアンテナ2aの間に最低2つ配置する。
【0034】
図5(a)及び(b)に示すように、実施形態に係るアレーアンテナ2の一例では、モノポールアンテナ2bとモノポールアンテナ2aの間に2つの結合防止素子30が配置されている。2つの結合防止素子30は、複数のモノポールアンテナの間に間隔を設けて配置されている。2つの結合防止素子30は、キノコ(マッシュルーム)型であり、柄の部分と傘の部分を有する同一構成である。
【0035】
結合防止素子30の柄の部分は、チャンバ1内にて下面9aがグランド面を構成する天壁9に接続された第1の部材31である。傘の部分は、第1の部材31の先端又は先端近傍に接続された第2の部材32である。第1の部材31及び第2の部材32は、同じ材質の金属(導体)から構成されてもよいし、異なる材質の金属から構成されてもよい。
【0036】
また、結合防止素子の個数は2つに限られず、2つ以上の結合防止素子が、モノポールアンテナの間を結ぶ線上に配置されてもよい。結合防止素子30のメタマテリアルとしての最大性能は、アンテナの間に配置する結合防止素子30の数が多くなる程高くなるが、結合防止素子30間の調整が難しくなる。
【0037】
実施形態では、第1の部材31は棒状であり、第2の部材32は四角形の板状であり、第2の部材32の中心に第1の部材31の先端が嵌め込まれている。しかし、形状はこれに限られず、例えば、第1の部材31及び第2の部材32がいずれも棒状であり、T字になるように第2の部材32の中心に第1の部材31の先端が嵌め込まれていてもよい。
【0038】
本シミュレーションでは、図5(b)に示すように、マイクロ波のパワーは、モノポールアンテナ2bのみから閉空間1rに放射され、モノポールアンテナ2aからは放射されない。図5(b)の例では、結合防止素子30のメタマテリアルとしての機能によって、モノポールアンテナ2bとモノポールアンテナ2aの間の電磁気的な結合が抑制されている。その結果、モノポールアンテナ2bから投入したマイクロ波のパワーのうち、モノポールアンテナ2aへの結合は、わずかに0.6%である。つまり、アンテナ間の電磁気的な結合が低減され、モノポールアンテナ2bへ投入したマイクロ波のパワーのほとんどがプラズマの生成に使われ、パワーのロスがほぼ生じていない。
【0039】
[結合防止素子のメタマテリアル機能]
次に、結合防止素子30の動作とメタマテリアルの機能について、図6を参照しながら更に詳細に説明する。図6(a)は、実施形態に係る天壁9の下面9aに接続された結合防止素子30の構成と配置の一例を示す図である。図6(b)は、図6(a)の等価回路である。
【0040】
図6(b)に示す等価回路は、発信側(モノポールアンテナ2b)の信号ラインとグランドとの間にて直列に接続された第1の部材31のインダクタンス成分L及びキャパシタンス成分Cを有する。また、信号ラインにてこれらの成分に並列に接続された第2の部材32のインダクタンス成分Lと、2つの結合防止素子30の間のキャパシタンス成分Cとを有する。
【0041】
キャパシタンス成分C及びインダクタンス成分Lは、第1の部材31の寸法によって定まる。キャパシタンス成分C及びインダクタンス成分Lは、第2の部材32の寸法及び相対する2つの第2の部材32の配置(間隔)によって定まる。これらの値を適切に設定することで、モノポールアンテナ2bから投入したマイクロ波の電磁波の共振が発生する。これにより、モノポールアンテナ2bからモノポールアンテナ2aへ向かう特定の電磁波をカットし、アンテナ間の電磁気的な結合を抑制できる。これにより、2つの結合防止素子30をメタマテリアルとして機能させることができる。なお、第2の部材32の表面積は、コンデンサの電極面積に相当する。
【0042】
2つの第2の部材32の配置(間隔)により定まるキャパシタンス成分Cと、第1の部材31の長さにより定まるインダクタンス成分Lは、マイクロ波の電磁波の共振を発生させるために必須の成分である。つまり、結合防止素子30の個数と配置によって、キャパシタンス成分C及びインダクタンス成分Lを発生させることより、結合防止素子30をメタマテリアルとして機能させることができる。よって、結合防止素子30はキャパシタンス成分Cを備えるために、隣接するモノポールアンテナの間に少なくとも2つ配置し、メタマテリアルを作成する。
【0043】
そして、キャパシタンス成分Cとインダクタンス成分Lとを用いてマイクロ波の電磁波を、結合防止素子30の寸法に応じた特定の周波数で共振させる。その結果、モノポールアンテナ2bから投入したマイクロ波の電磁波はメタマテリアルの機能を有する2つの結合防止素子30でほぼ全反射される。反射したマイクロ波の電磁波は、インピーダンス調整することにより、マイクロ波出力部6側には戻らず、アンテナ部11から閉空間1rに放射され、プラズマの生成に寄与する。
【0044】
第1の部材31は、天壁9の下面9aに対して略垂直方向に設けられる。第2の部材32は、下面9aに対して略水平方向に設けられる。ただし、第1の部材31は、下面9aに対して垂直方向からあらかじめ定められた角度傾いてもよい。これにより、キャパシタンス成分Cを微調整でき、共振周波数の微調整が可能になる。
【0045】
かかる構成の各結合防止素子30は、着脱可能である。一例としては、第1の部材31の基端31aが天壁9に形成された穴に圧入されている。第1の部材31の基端31aは、下面9aに形成された穴に挿入され、ねじ止めされていてもよい。天壁9に貫通穴を設け、第1の部材31を上から貫通させ、天壁9の上面で固定されるようにしてもよい。第1の部材31の先端は、第2の部材32に形成された穴に圧入されてもよいし、第2の部材32に形成された穴にねじ止めされていてもよい。
【0046】
これにより、各結合防止素子30を交換可能に配置できる。また、第1の部材31を伸縮が可能なように形成することで、第1の部材31の長さを微調整し、これにより、インダクタンス成分Lを微調整でき、共振周波数の微調整が可能になる。
【0047】
なお、図6(a)の例では、2つの結合防止素子30には対称性があるが、2つの結合防止素子30は必ずしも対称性がなくてもよい。
【0048】
[実施例]
次に、実施例に係る結合防止素子30の配置の一例について、図7を参照しながら説明する。図7および図8は、実施例に係る結合防止素子30の配置の一例を示す図である。図7は、プラズマ処理装置10を上面視し、上からモノポールアンテナ及び結合防止素子30を見た図である。図7は、説明の便宜のために、4つのモノポールアンテナ2a~2dが配置されている例を示す。
【0049】
図7の例では、結合防止素子30の第2の部材32は六角形であり、複数の結合防止素子30が、六角形の隣接する辺同士を相対させて配置されている。ただし、第2の部材32の形状は、これに限られず、三角形以上の多角形であれば良く、また、多角形の隣接する辺同士を相対させて配置されていることが好ましい。第2の部材32を三角形以上の多角形で形成することで、結合防止素子30を2次元に配置できる。
【0050】
4つのモノポールアンテナ2a~2dのうち、隣接するモノポールアンテナの間のそれぞれに2つ以上の結合防止素子30が配置されている。例えば、隣接するモノポールアンテナを結ぶ線Pa、Pb、Pc、Pd、Pe上には、結合防止素子30が2つずつ配置されている。これにより、隣接するモノポールアンテナ2a~2dの一方から他方へ向かう特定周波数の電磁波をカットし、電磁波を隣り合うモノポールアンテナ2a~2dに伝搬させることを抑制できる。これにより、隣接するモノポールアンテナ2a~2dの間にて、2つずつ配置された結合防止素子30をメタマテリアルとして機能させることができる。
【0051】
さらに、モノポールアンテナ2b、2dを結ぶ線Pf上に配置されている2つの結合防止素子30によってもモノポールアンテナ2b、2dの一方から他方へ向かう特定周波数の電磁波をカットでき、2つの結合防止素子30を回路定数的にメタマテリアルとして機能させることができる。以上のように、六角形の結合防止素子30を2次元的に配置することで、上下、左右及び斜め方向に伝搬する電磁波を抑制できる。
【0052】
さらに、図7および図8に示すように、モノポールアンテナ2a~2dと側壁12との間に1つ以上の結合防止素子30(図8では1つ)が配置されている。これにより、モノポールアンテナ2a~2dと側壁12との間に配置された1つ以上の結合防止素子30により、モノポールアンテナ2a~2dと側壁12との電磁気的な結合を抑制できる。
【0053】
かかる構成では、モノポールアンテナ2a~2dと側壁12との電磁気的な結合を抑制するためには、結合防止素子30は最低1つ配置されていれば良い。その理由について図8を参照して説明する。図8は、説明の便宜のため、モノポールアンテナ2dと、側壁12と、その間に配置された1つの結合防止素子30とを示す。
【0054】
グランド面となる側壁12の内面は、電磁波的にはミラーと同様であり、電磁波が側壁12で反射する。つまり、電磁波にとって、図8(a)に示す構成は、図8(b)に示す構成と同一であり、電磁波が側壁12でほぼ全反射する。よって、モノポールアンテナ2dと側壁12と間には最低1つの結合防止素子30が配置されていればよく、結合防止素子30と側壁12との距離に応じたキャパシタンス成分Cが生成される。よって、モノポールアンテナと側壁12との間に1つの結合防止素子30を配置するだけで、メタマテリアルとして機能させるためのキャパシタンス成分C及びインダクタンス成分Lを得ることができる。この結果、モノポールアンテナ2a~2dと側壁12との電磁気的な結合を抑制できる。
【0055】
なお、モノポールアンテナは、天壁9及び/又は側壁12に配置され得る。よって、結合防止素子30は、天壁9及び/又は側壁12に配置され得る。例えば、側壁12に配置されたモノポールアンテナと天壁9との間に1つ以上の結合防止素子30が配置されても良い。
【0056】
以上に説明したように、実施形態にかかるアレーアンテナによれば、アンテナ間の電磁気的な結合及びアンテナと壁面との間の電磁的な結合を抑制でき、マイクロ波のパワーをより効率的にロスなくプラズマの生成に利用できる。
【0057】
今回開示された実施形態に係るアレーアンテナ及びプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 チャンバ
2 アレーアンテナ
2a~2g モノポールアンテナ
3 ステージ
5 誘電体窓
6 マイクロ波出力部
7 電力・位相制御部
8 制御部
9 天壁
10 プラズマ処理装置
11 アンテナ部
12 側壁
30 結合防止素子
31 第1の部材
32 第2の部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8