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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20231201BHJP
   H01L 21/68 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C23C14/35 B
H01L21/68 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020053331
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152196
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 翔太
(72)【発明者】
【氏名】戸島 宏至
(72)【発明者】
【氏名】岩下 浩之
(72)【発明者】
【氏名】平澤 達郎
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/010798(WO,A1)
【文献】特開平10-046334(JP,A)
【文献】特開2002-146528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つ以上のターゲットと、
前記ターゲットごとに設けられ、前記ターゲットの裏面側で、水平な第1の方向にマグネットを往復運動させるマグネット機構と、
水平かつ前記第1の方向とは直交する第2の方向に基板を移動させる基板移動機構と、
前記ターゲットから放出されたスパッタ粒子を通過させる前記第1の方向を長手方向にしてスリット状をなす通過孔を有し、前記ターゲットが配置される第1空間と前記基板移動機構が配置される第2空間とを区画する遮蔽板と、を備える基板処理装置の基板処理方法であって、
前記マグネットが移動する範囲は、
前記範囲の中央よりも一方の側に設けられ、第1の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第1の区間と、
前記範囲の中央を含んで設けられ、前記第1の移動速度よりも速い第2の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第2の区間と、
前記範囲の中央よりも他方の側に設けられ、前記第2の移動速度よりも遅い第3の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第3の区間と、を有し、
前記マグネット機構は
少なくとも2つ以上の前記ターゲットごとに設けられた少なくとも2つ以上の前記マグネットにおいて、前記マグネットごとに位相異ならせて往復運動させる、
基板処理方法。
【請求項2】
ターゲットと、
前記ターゲットの裏面側で、水平な第1の方向にマグネットを往復運動させるマグネット機構と、
水平かつ前記第1の方向とは直交する第2の方向に基板を移動させる基板移動機構と、
前記ターゲットから放出されたスパッタ粒子を通過させる前記第1の方向を長手方向にしてスリット状をなす通過孔を有し、前記ターゲットが配置される第1空間と前記基板移動機構が配置される第2空間とを区画する遮蔽板と、を備える基板処理装置の基板処理方法であって、
前記マグネットが移動する範囲は、
前記範囲の中央よりも一方の側に設けられ、第1の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第1の区間と、
前記範囲の中央を含んで設けられ、前記第1の移動速度よりも速い第2の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第2の区間と、
前記範囲の中央よりも他方の側に設けられ、前記第2の移動速度よりも遅い第3の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第3の区間と、を有し、
前記基板を前記第2の方向に移動させるとともに、前記マグネットを前記第1の方向に往復運動させる工程を複数行い、
前記工程ごとに、前記マグネットの位相が異なる、
基板処理方法。
【請求項3】
前記第1の方向から見て、前記ターゲットは、前記第2の方向に対して傾斜して配置される、
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
ターゲットと、
前記ターゲットの裏面側で、第1の方向にマグネットを往復運動させるマグネット機構と、
前記第1の方向とは直交する第2の方向に基板を移動させる基板移動機構と、
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の基板処理方法を実行させる制御部と、を
備える、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲットから放出されるスパッタ粒子をウエハ等の基板に入射させて成膜を行う基板処理装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、成膜チャンバ内に少なくとも2つのマグネトロンスパッタ機構を並べて配置し、前記マグネトロンスパッタ機構は基板搬送方向に往復運動を行うマグネットを備え、基板を前記少なくとも2つのマグネトロンスパッタ機構の各々に順次に対向させながら前記基板搬送方向に搬送し、この基板搬送中に前記基板に対して前記少なくとも2つのマグネトロンスパッタ機構の各々によって対向時に順次にスパッタ成膜が行われるスパッタ成膜方法において、前記マグネトロンスパッタ機構の前記マグネットの往復運動で、前記少なくとも2つのマグネトロンスパッタ機構の間で前記マグネットの往復運動の位相をずらし、かつ順方向の移動速度と逆方向の移動速度を異ならせたことを特徴とするスパッタ成膜方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-146528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板に成膜を行う基板処理装置において、膜厚の均一性の向上が求められている。
【0006】
本開示の一態様は、膜厚分布を改善する基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る基板処理方法は、少なくとも2つ以上のターゲットと、前記ターゲットごとに設けられ、前記ターゲットの裏面側で、水平な第1の方向にマグネットを往復運動させるマグネット機構と、水平かつ前記第1の方向とは直交する第2の方向に基板を移動させる基板移動機構と、前記ターゲットから放出されたスパッタ粒子を通過させる前記第1の方向を長手方向にしてスリット状をなす通過孔を有し、前記ターゲットが配置される第1空間と前記基板移動機構が配置される第2空間とを区画する遮蔽板と、を備える基板処理装置の基板処理方法であって、前記マグネットが移動する範囲は、前記範囲の中央よりも一方の側に設けられ、第1の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第1の区間と、前記範囲の中央を含んで設けられ、前記第1の移動速度よりも速い第2の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第2の区間と、前記範囲の中央よりも他方の側に設けられ、前記第2の移動速度よりも遅い第3の移動速度で前記マグネットが移動するように制御される区間である第3の区間と、を有し、前記マグネット機構は、少なくとも2つ以上の前記ターゲットごとに設けられた少なくとも2つ以上の前記マグネットにおいて、前記マグネットごとに位相異ならせて往復運動させる、基板処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、膜厚分布を改善する基板処理方法及び基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る基板処理装置1の断面模式図の一例。
図2】スパッタ粒子放出部におけるマグネットの移動を説明する模式図の一例。
図3】一実施形態に係る基板処理装置のA-A断面模式図の一例。
図4】基板処理装置の第1の動作例におけるマグネットの動作を説明する模式図の一例。
図5】基板処理装置の第1の動作例におけるマグネットの動作を説明するグラフの一例。
図6】基板処理装置の第2の動作例におけるマグネットの動作を説明する模式図の一例。
図7】基板処理装置の第2の動作例におけるマグネットの動作を説明するグラフの一例。
図8】基板処理装置の第3の動作例におけるマグネットの動作を説明する模式図の一例。
図9】基板処理装置の第3の動作例におけるマグネットの動作を説明するグラフの一例。
図10】マグネットの位置と速度との関係を示すグラフの一例。
図11】膜厚分布の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
<基板処理装置>
一実施形態に係る基板処理装置1について、図1から図3を用いて説明する。図1は、一実施形態に係る基板処理装置1の断面模式図の一例である。図2は、スパッタ粒子放出部30a,30bにおけるマグネット35a,35bの移動を説明する模式図の一例である。なお、図2は、ターゲット31a,31bのスパッタ粒子の放出面の側からスパッタ粒子放出部30a,30bを見た図である。図3は、一実施形態に係る基板処理装置1のA-A断面模式図の一例である。なお、以下の説明において、水平な一方向(後述する基板Wが搬送される方向)をX方向とし、水平かつX方向と直交する方向(後述するマグネット35a,35bが揺動する方向)をY方向とし、垂直方向をZ方向として説明する。
【0012】
基板処理装置1は、処理チャンバ10と、スパッタ粒子遮蔽板20と、スパッタ粒子放出部30a,30bと、基板支持部40と、基板移動機構50と、排気装置60と、を備える。基板処理装置1は、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition)装置であって、処理チャンバ10内で、スパッタ粒子放出部30a,30bから放出されたスパッタ粒子(成膜原子)を基板支持部40に載置された半導体ウエハ等の基板Wの表面に付着させ、成膜する装置である。
【0013】
処理チャンバ10は、上部が開口されたチャンバ本体10aと、チャンバ本体10aの上部開口を塞ぐように設けられた蓋体10bと、を有する。蓋体10bは、側面が傾斜面として形成されている。処理チャンバ10の内部は、成膜処理が行われる処理空間Sとなる。
【0014】
処理チャンバ10の底部には、排気口11が形成されている。排気口11には、排気装置60が接続されている。排気装置60は、圧力制御弁、および真空ポンプを含む。処理空間Sは、排気装置60により、所定の真空度まで真空排気される。
【0015】
処理チャンバ10の頂部には、処理空間S内にガスを導入するためのガス導入ポート12が挿入されている。ガス導入ポート12には、ガス供給部(図示せず)が接続されている。ガス供給部からガス導入ポート12に供給されたスパッタガス(例えば、不活性ガス)は、処理空間S内に導入される。
【0016】
処理チャンバ10の側壁には、基板Wを搬入出するための搬入出口13が形成されている。搬入出口13は、ゲートバルブ14により開閉される。処理チャンバ10は、搬送チャンバ80に隣接して設けられており、ゲートバルブ14が開かれることにより、処理チャンバ10と搬送チャンバ80が連通するようになっている。搬送チャンバ80内は所定の真空度に保持され、その中に基板Wを処理チャンバ10に対して搬入出するための搬送装置(図示せず)が設けられている。
【0017】
スパッタ粒子遮蔽板20は、略板状の部材として構成されており、処理空間Sの高さ方向の中間位置に水平に配置されている。スパッタ粒子遮蔽板20の縁部は、チャンバ本体10aの側壁に固定されている。スパッタ粒子遮蔽板20は、処理空間Sを第1空間S1と第2空間S2に区画している。第1空間S1は、スパッタ粒子遮蔽板20の上方の空間である。第2空間S2は、スパッタ粒子遮蔽板20の下方の空間である。
【0018】
スパッタ粒子遮蔽板20には、スパッタ粒子を通過させるスリット状をなす通過孔21が形成されている。通過孔21は、スパッタ粒子遮蔽板20の板厚方向(Z方向)に貫通している。通過孔21は、図中の水平な一方向であるY方向を長手方向にして細長く形成されている。通過孔21のY方向の長さは基板Wの直径よりも長く形成される。
【0019】
スパッタ粒子放出部30aは、ターゲット31aと、ターゲットホルダ32aと、絶縁部材33aと、電源34aと、マグネット35aと、マグネット走査機構36aと、を有する。また、スパッタ粒子放出部30bは、ターゲット31bと、ターゲットホルダ32bと、絶縁部材33bと、電源34bと、マグネット35bと、マグネット走査機構36bと、を有する。
【0020】
ターゲット31a,31bは、成膜しようとする膜の構成元素を含む材料からなり、導電性材料であっても誘電体材料であってもよい。また、ターゲット31a,31bは、同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0021】
ターゲットホルダ32a,32bは、導電性を有する材料からなり、スパッタ粒子遮蔽板20の上方に配置され、絶縁部材33a,33bを介して、処理チャンバ10の蓋体10bの傾斜面の、互いに異なる位置に取り付けられている。図1に示す例において、ターゲットホルダ32a,32bは、通過孔21を挟んで、互いに対向する位置に設けられているが、これに限るものではなく、任意の位置に設けることができる。ターゲットホルダ32a,32bは、通過孔21に対して斜め上方にターゲット31a,31bが位置するように、ターゲット31a,31bを保持する。
【0022】
電源34a,34bは、それぞれターゲットホルダ32a,32bに電気的に接続されている。電源34a,34bは、ターゲット31a,31bが導電性材料である場合には、直流電源であってよく、ターゲット31a,31bが誘電性材料である場合には、高周波電源であってよい。電源34a,34bが高周波電源である場合には、整合器を介してターゲットホルダ32a,32bに接続される。ターゲットホルダ32a,32bに電圧が印加されることにより、ターゲット31a,31bの周囲でスパッタガスが解離する。そして、解離したスパッタガス中のイオンがターゲット31a,31bに衝突し、ターゲット31a,31bからその構成材料の粒子であるスパッタ粒子が放出される。
【0023】
マグネット35a,35bは、ターゲットホルダ32a,32bの裏面側に配置され、マグネット走査機構36a,36bによってY方向に往復運動(揺動)することができるように構成されている。マグネット走査機構36a,36bは、例えば、ガイド37a,37bと、駆動部38a,38bと、を有する。マグネット35a,35bは、ガイド37a,37bによりY方向に往復運動することができるように案内されている。駆動部38a,38bは、ガイド37a,37bに沿って、マグネット35a,35bを往復運動させる。図2に示すように、ターゲット31a,31bのスパッタ粒子の放出面の側からみて、マグネット35a,35bは、ターゲット31a,31bの裏面側に配置されており、二点鎖線で示す両端の位置301,302の間を往復運動することができるように構成されている。
【0024】
解離したスパッタガス中のイオンは、マグネット35a,35bの磁界によって引き込まれ、ターゲット31a,31bに衝突する。マグネット走査機構36a,36bがマグネット35a,35bをY方向に往復運動させることにより、イオンがターゲット31a,31bに衝突する位置、換言すれば、スパッタ粒子が放出される位置が変化する。
【0025】
基板支持部40は、処理チャンバ10のチャンバ本体10a内に設けられ、支持ピン41を介して基板Wを水平に支持する。基板支持部40は、基板移動機構50により水平な一方向であるX方向に直線的に移動可能となっている。したがって、基板支持部40に支持された基板Wは、基板移動機構50により水平面内で直線移動される。基板移動機構50は、多関節アーム部51と、駆動部52とを有しており、駆動部52により多関節アーム部51を駆動することにより、基板支持部40をX方向に移動可能となっている。
【0026】
即ち、マグネット35a,35bの移動方向(Y方向)と、基板Wの移動方向(X方向)とは、直交している。また、スパッタ粒子放出部30aとスパッタ粒子放出部30bとは、基板Wの移動方向(X方向)にみて、両端に配置されている。
【0027】
制御部70は、コンピュータからなり、基板処理装置1の各構成部、例えば、電源34a,34b、駆動部38a,38b、駆動部52、排気装置60等を制御する。制御部70は、実際にこれらの制御を行うCPUからなる主制御部と、入力装置、出力装置、表示装置、記憶装置とを有している。記憶装置には、基板処理装置1で実行される各種処理のパラメータが記憶されており、また、基板処理装置1で実行される処理を制御するためのプログラム、すなわち処理レシピが格納された記憶媒体がセットされるようになっている。制御部70の主制御部は、記憶媒体に記憶されている所定の処理レシピを呼び出し、その処理レシピに基づいて基板処理装置1に所定の処理を実行させる。
【0028】
次に、一実施形態に係る基板処理装置1における成膜方法について説明する。
【0029】
まず、処理チャンバ10内の処理空間Sを排気した後、ガス導入ポート12から処理空間Sにスパッタガス(例えば、不活性ガス)を導入して所定圧力に調圧する。
【0030】
次いで、基板支持部40を基板受け渡し位置に位置させ、ゲートバルブ14を開け、搬送チャンバ80の搬送装置(図示せず)により、基板Wを基板支持部40(支持ピン41上)に載置する。次いで、搬送装置を搬送チャンバ80に戻し、ゲートバルブ14を閉じる。
【0031】
次いで、制御部70は、基板移動機構50(駆動部52)を制御して、基板支持部40上の基板WをX方向に移動させるとともに、スパッタ粒子放出部30a,30b(電源34a,34b、駆動部38a,38b)を制御して、ターゲット31a,31bからスパッタ粒子を斜めに放出させる。
【0032】
ここで、スパッタ粒子の放出は、電源34a,34bからターゲットホルダ32a,32bに電圧を印加して、ターゲット31a,31bの周囲で解離したスパッタガス中のイオンがターゲット31a,31bに衝突することによりなされる。また、マグネット走査機構36a,36bによりマグネット35a,35bがY方向に往復運動することで、イオンがターゲット31a,31bに衝突する位置、換言すれば、スパッタ粒子の放出される位置が変化する。
【0033】
スパッタ粒子放出部30a,30bのターゲット31a,31bから斜めに放出されたスパッタ粒子は、スパッタ粒子遮蔽板20に形成された通過孔21を通過して基板Wに斜めに入射され、基板W上に堆積される。
【0034】
ここで、基板処理装置1では、基板Wに成膜処理を施す際、基板WがX方向に移動するとともに、ターゲット31a,31bのスパッタ粒子放出面におけるスパッタ粒子の放出する位置(マグネット35a,35bの位置)がY方向に揺動する。このため、基板WのX方向において、膜厚の分布に不均一が生じるおそれがある。また、基板Wに薄膜を形成する際、例えば、基板WをX方向に移動させる速度を速くすることで、基板Wに入射するスパッタ粒子を減らして、基板Wに薄膜を形成する。このように、基板WをX方向に移動させる速度を速くすることで、基板WのX方向における膜厚の分布に不均一が顕著になるおそれがある。
【0035】
これに対し、基板処理装置1では、マグネット35a,35bの動作を制御することにより、基板Wに成膜される膜における膜厚の均一性を向上させる。
【0036】
<第1の動作例>
図4は、基板処理装置1の第1の動作例におけるマグネット35a,35bの動作を説明する模式図の一例である。図5は、基板処理装置1の第1の動作例におけるマグネット35a,35bの動作を説明するグラフの一例である。ここでは、基板処理装置1は、スパッタ粒子放出部30a,30bからスパッタ粒子を放出させる。なお、図5に示すグラフおいて、横軸は時間を示し、縦軸はマグネット35a,35bのY方向の位置を示す。
【0037】
図4(a)は、成膜処理開始時におけるマグネット35a,35bの位置の一例を示す。図4(a)に示すように、マグネット35a,35bの揺動する位相が異なっている。具体的には、図4(a)に示すマグネット35aとマグネット35bは、揺動する位相が180°ずれている。ここでは、マグネット35aは一方の端の位置301(図2参照)に位置し、マグネット35bは他方の端の位置302(図2参照)に位置する。なお、基板Wは、成膜処理開始位置(図示せず)に位置する。
【0038】
成膜処理を開始すると、基板WをX方向に移動させて通過孔21の下を横断させるとともに、マグネット35a,35bを往復運動させる。図4(b)は、時間経過後おけるマグネット35a,35bの位置の一例を示す。マグネット35aは、他方の端の位置302に向かって移動する。マグネット35bは、一方の端の位置301に向かって移動する。図4(c)は、さらに時間経過後おけるマグネット35a,35bの位置の一例を示す。マグネット35aは、他方の端の位置302に到着する。マグネット35bは、一方の端の位置301に到着する。以降、マグネット35a,35bは、図5に示すように、位相差を保ったまま、Y方向に往復運動をする。
【0039】
このように、基板処理装置1の第1の動作例では、2つのスパッタ粒子放出部30a,30bを用いて基板Wに成膜する基板処理装置1において、マグネット35a,35bごとの位相を異ならせて往復運動させる。これにより、複数のマグネット35が同位相で往復する構成と比較して、基板WのX方向における膜厚の不均一を抑制して、膜厚の均一性を向上させることができる。
【0040】
なお、スパッタ粒子放出部30(30a,30b)の数は、2つである場合を例に説明したが、これに限られるものではなく、複数備えていてもよい。また、位相差は、180°であるものとして説明したが、これに限られるものではない。例えば、スパッタ粒子放出部30の数に応じて位相差を変更してもよい。例えば、4つのスパッタ粒子放出部30を備える構成においては、4つのマグネット35が90°ずつの位相差を有していてもよい。
【0041】
<第2の動作例>
図6は、基板処理装置1の第2の動作例におけるマグネット35aの動作を説明する模式図の一例である。図7は、基板処理装置1の第2の動作例におけるマグネット35aの動作を説明するグラフの一例である。ここでは、基板処理装置1は、スパッタ粒子放出部30aのみを用いてスパッタ粒子を放出させる。また、基板処理装置1は、基板移動機構50により基板Wを複数回X方向に移動させて成膜を行う。なお、図7に示すグラフおいて、横軸は時間を示し、縦軸はマグネット35aのY方向の位置を示す。また、1回目の成膜時におけるマグネット35aのY方向の位置を実線で示し、2回目の成膜時におけるマグネット35aのY方向の位置を破線で示す。
【0042】
図6(a)は、1回目の成膜処理開始時におけるマグネット35aの位置の一例を示す。ここでは、マグネット35aは一方の端の位置301(図2参照)に位置する。なお、基板Wは、成膜処理開始位置(図示せず)に位置する。
【0043】
1回目の成膜処理を開始すると、基板WをX方向に移動させて通過孔21の下を横断させるとともに、マグネット35aを往復運動させる。図6(b)は、時間経過後おけるマグネット35aの位置の一例を示す。マグネット35aは、他方の端の位置302(図2参照)に向かって移動する。図6(c)は、さらに時間経過後おけるマグネット35aの位置の一例を示す。マグネット35aは、他方の端の位置302に到着する。以降、マグネット35aは、図7の実線に示すように、Y方向に往復運動をする。
【0044】
1回目の成膜処理を開始すると、電源34による電圧の印加を停止し、基板Wを成膜処理開始位置(図示せず)に戻す。
【0045】
図6(d)は、2回目の成膜処理開始時におけるマグネット35aの位置の一例を示す。図6(a)と図6(d)を対比して示すように、1回目の成膜処理開始時におけるマグネット35aと、2回目の成膜処理開始時におけるマグネット35aとは、マグネット35aの揺動する位相が異なっている。具体的には、マグネット35aは、揺動する位相が180°ずれている。
【0046】
2回目の成膜処理を開始すると、基板WをX方向に移動させて通過孔21の下を横断させるとともに、マグネット35aを往復運動させる。図6(e)は、時間経過後おけるマグネット35aの位置の一例を示す。マグネット35aは、一方の端の位置301(図2参照)に向かって移動する。図6(f)は、さらに時間経過後おけるマグネット35aの位置の一例を示す。マグネット35aは、一方の端の位置301に到着する。以降、マグネット35aは、図7の破線に示すように、Y方向に往復運動をする。このように、2回目の成膜処理のマグネット35aは、1回目の成膜処理のマグネット35aとの位相差を保ったまま往復運動をするようになっている。
【0047】
このように、基板処理装置1の第2の動作例では、基板WをX方向に移動させて成膜する工程を複数回行い基板Wに成膜する基板処理装置1において、各工程ごとのマグネット35aの位相を異ならせて往復運動させる。これにより、基板WのX方向における膜厚の不均一を抑制して、膜厚の均一性を向上させることができる。
【0048】
なお、成膜処理の回数は、2回に限られるものではなく、複数回であってもよい。また、位相差は、180°であるものとして説明したが、これに限られるものではない。成膜処理の回数に応じて位相差を変更してもよい。例えば、4回の成膜処理を行う構成においては、90°ずつの位相差を有していてもよい。
【0049】
また、基板処理装置1の第2の動作例では、一方のスパッタ粒子放出部30aからスパッタ粒子を放出させるものとして説明したが、これに限られるものではない。スパッタ粒子放出部30a,30bからスパッタ粒子を放出させてもよい。また、スパッタ粒子放出部30a,30bで揺動するマグネット35a,35bの位相が異なっていてもよい。例えば、1回目の成膜処理時のマグネット35a、1回目の成膜処理時のマグネット35b、2回目の成膜処理時のマグネット35a、及び、2回目の成膜処理時のマグネット35bで、90°ずつの位相差を有していてもよい。
【0050】
<第3の動作例>
図8は、基板処理装置1の第3の動作例におけるマグネット35a,35bの動作を説明する模式図の一例である。図9は、基板処理装置1の第3の動作例におけるマグネット35a,35bの動作を説明するグラフの一例である。図10は、マグネット35a,35bの位置と速度との関係を示すグラフの一例である。ここでは、基板処理装置1は、スパッタ粒子放出部30a,30bからスパッタ粒子を放出させる。なお、図9に示すグラフおいて、横軸は時間を示し、縦軸はマグネット35a,35bのY方向の位置を示す。
【0051】
図8(a)は、成膜開始時におけるマグネット35a,35bの位置を示す。図8(a)に示すように、マグネット35a,35bの揺動する位相が異なっている。具体的には、図8(a)に示すマグネット35aとマグネット35bは、揺動する位相が180°ずれている。ここでは、マグネット35aは一方の端の位置301(図2参照)に位置し、マグネット35bは他方の端の位置302(図2参照)に位置する。なお、基板Wは、成膜処理開始位置(図示せず)に位置する。
【0052】
成膜処理を開始すると、基板WをX方向に移動させて通過孔21の下を横断させるとともに、マグネット35a,35bを往復運動させる。ここで、第3の動作例では、マグネット35a,35bの揺動速度を調整する。具体的には、図10に示すように、マグネット35a,35bのY方向の位置に応じて揺動速度を調整する。
【0053】
図8(b)は、区間T1におけるマグネット35a,35bの一例を示す。図10の区間T1に示す領域においては、マグネット35a,35bの揺動速度を後述する区間T2における揺動速度よりも遅くする。
【0054】
図8(c)は、区間T2におけるマグネット35a,35bの一例を示す。図10の区間T2に示す領域においては、マグネット35a,35bの揺動速度を区間T1における揺動速度よりも早くする。
【0055】
図8(d)は、区間T3におけるマグネット35a,35bの一例を示す。図10の区間T3に示す領域においては、マグネット35a,35bの揺動速度を区間T2における揺動速度よりも遅くする。以降、マグネット35a,35bは、図9に示すように、位相差を保ったまま、Y方向に往復運動をする。
【0056】
このように、基板処理装置1の第3の動作例では、2つのスパッタ粒子放出部30a,30bを用いて基板Wに成膜する基板処理装置1において、マグネット35a,35bごとの位相を異ならせて往復運動させる。また、Y方向にみて、マグネット35a,35bが近づく区間T2においては、マグネット35a,35bの揺動速度を、区間T1,T3よりも相対的に速くする。これにより、成膜量を抑制する。また、マグネット35a,35bが離れる区間T1,T3においては、マグネット35a,35bの揺動速度を、区間T2よりも相対的に遅くする。これにより、成膜量を増加させる。これにより、基板WのX方向における膜厚の不均一を抑制して、膜厚の均一性を向上させることができる。
【0057】
なお、スパッタ粒子放出部30(30a,30b)の数は、2つである場合を例に説明したが、これに限られるものではなく、複数備えていてもよい。また、位相差は、180°であるものとして説明したが、これに限られるものではない。例えば、スパッタ粒子放出部30の数に応じて位相差を変更してもよい。例えば、4つのスパッタ粒子放出部30を備える構成においては、4つのマグネット35が90°ずつの位相差を有していてもよい。
【0058】
また、基板処理装置1の第2の動作例において、図10に示すマグネット35aの揺動速度の調整を適用してもよい。
【0059】
図11は、膜厚分布の一例を示すグラフである。図11に示すグラフにおいて、縦軸は膜厚を示し、横軸は基板WのX方向を示す。また、実線は、第1の動作例(第2の動作例)における膜厚分布を示し、破線は第3の動作例の膜厚分布を示し、一点鎖線は参考例における膜厚分布を示す。ここで、参考例では、マグネット35a,35bを同位相で動かすものとする。なお、縦軸に示す膜厚は、参考例の最大変動幅Hを1として正規化している。
【0060】
図11に示すように、参考例では、最大変動幅H(=1)で膜厚が周期的に変動する。また、参考例における膜厚の変動の周期は、マグネット35a,35bが1往復する時間に依存する。
【0061】
これに対し、第1の動作例(第2の動作例)では、膜厚の最大変動幅Hは、0.88となり、膜厚の変動を抑制することができる。また、X方向における振幅の周期も短くなる。第1の動作例(第2の動作例)における膜厚の変動の周期は、マグネット35a,35bが一端から他端まで移動する時間に依存する。このため、第1の動作例(第2の動作例)における膜厚の変動の周期は、参考例における膜厚の変動の周期の1/2となる。
【0062】
また、第3の動作例では、膜厚の最大変動幅Hは、0.68となり、膜厚の変動をを更に抑制することができる。また、X方向における振幅の周期も短くなる。第3の動作例における膜厚の変動の周期は、マグネット35a,35bが一端から他端まで移動する時間に依存する。区間T2における揺動速度を速くすることにより、第3の動作例における膜厚の変動の周期は、第1の動作例(第2の動作例)における膜厚の変動の周期よりも短くなる。これにより、膜厚の均一性を向上させることができる。
【0063】
以上、基板処理装置1について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【符号の説明】
【0064】
W 基板
1 基板処理装置
10 処理チャンバ
20 スパッタ粒子遮蔽板
21 通過孔
30a,30b スパッタ粒子放出部
31a,31b ターゲット
32a,32b ターゲットホルダ
33a,33b 絶縁部材
34a,34b 電源
35a,35b マグネット
36a,36b マグネット走査機構
37a,37b ガイド
38a,38b 駆動部
40 基板支持部
50 基板移動機構
60 排気装置
70 制御部
80 搬送チャンバ
S 処理空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11