(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20231201BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01L21/302 101C
H01L21/302 101G
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2020074978
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2019168088
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】横原 宏行
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰信
(72)【発明者】
【氏名】島田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】海▲瀬▼ 拓也
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/065531(WO,A1)
【文献】特開2017-98521(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003663(WO,A1)
【文献】特許第6118458(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
H01L 21/31
C23C 16/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
処理容器内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記処理容器内にて傾斜させた載置面に基板を載置し、回転可能に基板を支持する支持構造体と、
前記プラズマ生成部と前記支持構造体との間に設けられ、第1スリットが形成された石英の第1スリット板と、
前記プラズマ生成部と前記支持構造体との間にて前記第1スリット板の下に設けられ、第2スリットが形成された石英の第2スリット板と、を有し、
前記第1スリットは、隣接する前記第2スリットに対して前記載置面の傾斜方向と逆の方向にずれている、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
複数の前記第1スリットは、隣接する2つの前記第2スリットの間の中心軸よりも前記支持構造体の旋回方向に位置する、
請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
平面視で前記第1スリットと前記第2スリットとは重ならない、
請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第1スリット板と前記第2スリット板との少なくともいずれかは、前記第1スリット板と前記第2スリット板との中心から径方向にマスキングされている、
請求項1~3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記マスキングされている領域は、前記載置面に載置された基板の直径に対して中心から60%~90%の範囲の直径を有する円である、
請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記プラズマ生成部は、高周波アンテナを有し、
前記高周波アンテナからの高周波を透過する誘電体窓の下方に石英のシールド板が配置されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記シールド板の外縁部は、前記処理容器の側壁に形成された段差部に設けられたクランプと弾性体との間に把持されている、
請求項6に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記第1スリット板よりも上部のプラズマを生成するための空間を形成する前記処理容器の側壁は、円筒状の石英部材で覆われている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記プラズマ生成部は、ガスを供給するガス供給部を有し、
前記ガス供給部は、前記石英部材の側壁に等間隔に設けられた複数のガス孔から前記プラズマを生成するための空間にガスを導入する、
請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記支持構造体の容器部の内部に前記処理容器内を前記容器部内の空間からシールするための磁性流体シール部を有し、
前記磁性流体シール部の内側にロータリージョイントを配置する、
請求項1~9のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、イオン引き込みのためのバイアス電圧として、パルス変調された直流電圧を支持構造体に印加するバイアス電力供給部を備え、エッチングによって形成された副生成物を除去することを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板のエッチングを効率的に行いながら、エッチングによって形成された副生成物が高周波導入用の窓に付着することを抑制するプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、基板に対してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、処理容器内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記処理容器内にて傾斜させた載置面に基板を載置し、回転可能に基板を支持する支持構造体と、前記プラズマ生成部と前記支持構造体との間に設けられ、第1スリットが形成された石英の第1スリット板と、前記プラズマ生成部と前記支持構造体との間にて前記第1スリット板の下に設けられ、第2スリットが形成された石英の第2スリット板と、を有し、前記第1スリットは、隣接する前記第2スリットに対して前記載置面の傾斜方向と逆の方向にずれている、プラズマ処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、基板のエッチングを効率的に行いながら、エッチングによって形成された副生成物が高周波導入用の窓に付着することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るチルトプリクリーン装置の一例を模式的に示す断面図。
【
図2】一実施形態に係る容器部の内部構造の一例を示す図。
【
図3】一実施形態に係る支持構造体を説明するための図。
【
図5】一実施形態に係るシールド板を把持する構造の一例を示す図。
【
図6】一実施形態に係るスリット板のスリットの位置の一例を示した図。
【
図7】一実施形態に係るスリットの位置とイオン及びデポの動きを説明するための図。
【
図8】一実施形態に係るスリットの位置を適正化するためのシミュレーションの一例を示す図。
【
図9】一実施形態の変形例に係るスリットのマスキングを適正化するためのシミュレーション結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[チルトプリクリーン装置]
初めに、
図1~
図5を参照しながら、一実施形態に係るチルトプリクリーン装置10について説明する。
図1は、一実施形態に係るチルトプリクリーン装置10の一例を模式的に示す断面図である。
図2は、一実施形態に係る容器部40の内部構造の一例を示す図である。
図3は、一実施形態に係る支持構造体11を説明するための図である。
図4は、
図1のA-A断面図である。
図5は、一実施形態に係るシールド板13を把持する構造の一例を示す図である。
【0010】
図1及び
図3は、鉛直方向に延びる軸線PXを含む一平面において処理容器12を破断したチルトプリクリーン装置10を示している。チルトプリクリーン装置10は、基板Wに対してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置の一例である。なお、
図1は支持構造体11が傾斜していない状態のチルトプリクリーン装置10を示し、
図3は支持構造体11が傾斜している状態のチルトプリクリーン装置10を示す。支持構造体11は、処理容器12内にて傾斜させた載置面11aに基板Wを載置し、回転可能に基板を支持する。
【0011】
チルトプリクリーン装置10は、支持構造体11、処理容器12、ガス供給部14、ICPソースユニット16、排気系20、バイアス電力供給部62、及び制御部Cntを有する。処理容器12は略円筒形状を有し、アルミニウムで形成されている。一実施形態では、処理容器12の中心軸線は、軸線PXと一致している。この処理容器12は、ウエハ等の基板Wに対してプラズマ処理を行うための空間Sを提供している。
【0012】
一実施形態では、処理容器12は、その高さ方向の中間部分12a、即ち支持構造体11を収容する部分において略一定の幅を有している。また、処理容器12は、当該中間部分の下端から底部に向かうにつれて徐々に幅が狭くなるテーパー状をなしている。また、処理容器12の底部は、排気口12eを提供しており、排気口12eは軸線PXに対して軸対称に形成されている。
【0013】
処理容器12内には、支持構造体11が設けられている。支持構造体11は、静電チャック31により基板Wを吸着保持する。支持構造体11は、軸線PXに直交する第1軸線AX1を中心に回転可能である。支持構造体11は、第1軸線AX1を中心に傾斜軸部50の回転により、軸線PXに対して傾斜することが可能である。支持構造体11を傾斜させるために、チルトプリクリーン装置10は、駆動装置24を有している。駆動装置24は、処理容器12の外部に設けられており、第1軸線AX1を中心に支持構造体11の回転のための駆動力を発生する。また、支持構造体11は、第1軸線AX1に直交する第2軸線AX2を中心に基板Wを回転させるよう構成されている。なお、支持構造体11が傾斜していない状態では、
図1に示すように、第2軸線AX2は軸線PXに一致する。一方、支持構造体11が傾斜している状態では、
図3に示すように、第2軸線AX2は軸線PXに対して傾斜する。支持構造体11の詳細については後述する。
【0014】
排気系20は、処理容器12内の空間を例えば、10-8Torr~10-9Torr(1.33×10-6Pa~1.33×10-7Pa)の高真空に減圧するよう構成されている。一実施形態では、排気系20は、自動圧力制御器20a、クライオポンプまたはターボ分子ポンプ20b、及びドライポンプ20cを有している。ターボ分子ポンプ20bは、自動圧力制御器20aの下流に設けられている。ドライポンプ20cは、バルブ20dを介して処理容器12内の空間に直結されている。また、ドライポンプ20cは、バルブ20eを介してターボ分子ポンプ20bの下流に設けられている。
【0015】
自動圧力制御器20a及びターボ分子ポンプ20bを含む排気系20は、処理容器12の底部に取り付けられている。また、自動圧力制御器20a及びターボ分子ポンプ20bを含む排気系20は、支持構造体11直下に設けられている。したがって、このチルトプリクリーン装置10では、支持構造体11の周囲から排気系20までの均一な排気の流れを形成することができる。これにより、効率の良い排気が達成され得る。また、処理容器12内で生成されるプラズマを均一に拡散させることが可能である。
【0016】
一実施形態において、空間Sの処理容器12の内壁のうち上部側面には、シールド17が着脱自在に設けられ、下部側面及び底面には、シールド26が着脱自在に設けられている。また、支持構造体11の載置面11a以外の壁面、傾斜軸部50の外周面には、シールド21が着脱自在に設けられている。シールド17、21、26は、処理容器12内にエッチングにより生成された副生成物(以下、「デポ」ともいう。)が付着することを防止する。シールド17、21、26は、例えば、アルミニウムから形成された母材の表面をブラスト処理、または追加でアルミ溶射膜を形成することにより構成される。シールド26は複数に分かれてラビリンス構造を形成し、その隙間からガスを排気系20へ導く。シールド17、21、26は適宜交換される。
【0017】
処理容器12の天井部には開口が設けられており、開口は誘電体窓19によって閉じられている。誘電体窓19は板状体であり、石英ガラス又はセラミックスから構成されている。
【0018】
ガス供給部14は、流路14a、14bから処理容器12内に処理ガスを供給する。ガス供給部14の詳細については、
図4を参照して後述する。
【0019】
ICP(Inductively Coupled Plasma)ソースユニット16は、処理容器12内に供給された処理ガスを励起させる。一実施形態では、ICPソースユニット16は、処理容器12の天井部の誘電体窓19上に設けられている。また、一実施形態では、ICPソースユニット16の中心軸線は、軸線PXと一致している。誘電体窓19の上のICPソースユニット16の空間は大気空間であり、誘電体窓19の下の処理容器12内の空間は真空空間である。
【0020】
ICPソースユニット16は、高周波アンテナ53及びシールド部材52を有している。高周波アンテナ53は、シールド部材52によって覆われている。高周波アンテナ53は、例えば銅、アルミニウム、ステンレス等の導体から構成されており、軸線PXを中心に螺旋状に延在している。高周波アンテナ53には、高周波電源51が接続されている。高周波電源51は、プラズマ生成用の高周波電源である。
【0021】
高周波アンテナ53に高周波電源51から所定の周波数の高周波を所定のパワーで供給すると、高周波は誘電体窓19を透過し、処理容器12内に誘導磁界を形成し、誘導磁界によって処理容器12内に導入された処理ガスが励起される。これにより、基板Wの上にドーナツ型のプラズマが生成される。これらのプラズマによって、処理ガスからラジカル及びイオンが生成される。高周波電源51から供給される高周波電力の周波数は、13.56MHz、27MHz、40MHz、60MHzといった周波数であってもよい。
【0022】
処理容器12内の誘電体窓19の下方であって、且つ流路14a、14bの位置よりも上にシールド板13が配置されている。シールド板13は、石英の薄膜であり、誘電体窓19の近傍に設けられ、エッチングにより生成された副生成物が基板W側から飛来し、誘電体窓19に付着することを防止する。
【0023】
バイアス電力供給部62は、基板Wにイオンを引き込むための高周波バイアス電力を支持構造体11に印加するよう構成されている。高周波電源51、高周波アンテナ53、誘電体窓19及びガス供給部14は、プラズマを生成するための空間Uにてプラズマを生成するプラズマ生成部として機能する。
【0024】
誘電体窓19と支持構造体11との間であって、且つシールド板13の下方には、スリット板15が設けられている。スリット板15は、複数のスリット15a1が形成された石英のスリット板15aと、スリット板15aの下に配置され、複数のスリット15b1が形成された石英のスリット板15bとを有する。スリット板15aは、第1スリット板の一例であり、スリット15a1は第1スリット板に形成されたスリットの一例である。スリット板15bは、第2スリット板の一例であり、スリット15b1は第2スリット板に形成されたスリットの一例である。
【0025】
スリット板15の外縁部は、処理容器12の内壁に周方向に把持され、プラズマを生成するための空間Uとプラズマ処理を行うための空間Sとを仕切るようになっている。スリット15a1は、スリット15b1を基準として、支持構造体11の載置面11aの傾斜方向(
図3参照)と逆の方向にずれ、平面視でスリット15a1とスリット15b1とは重ならない。
【0026】
スリット板15aの上部のプラズマを生成するための空間U内の処理容器12の側壁は、円筒状の石英部材18で覆われている。石英部材18の絶縁性により、空間Uに生成されたプラズマがグランドに接続された処理容器12に引き込まれ消失することを防止する。
【0027】
制御部Cntは、例えば、プロセッサ、記憶部、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータである。制御部Cntは、入力されたレシピに基づくプログラムに従って動作し、制御信号を送出する。チルトプリクリーン装置10の各部は、制御部Cntからの制御信号により制御される。
【0028】
以下、支持構造体11、ガス供給部14、シールド板13を把持する構造のそれぞれについてそれぞれ詳細に説明する。
【0029】
[支持構造体]
図3に示すように、支持構造体11は、傾斜した載置面11aに基板Wを載置し、垂直方向に所定のチルト角度に回転可能に基板Wを支持する。
図1には、Y方向から視た支持構造体11の断面図が示されており、
図3には、X方向から視た支持構造体11の断面図が示されている。
図1及び
図3に示すように、支持構造体11は、保持部30、容器部40及び傾斜軸部50を有している。
【0030】
保持部30は、基板Wを保持し、第2軸線AX2を中心に回転することによって、基板Wを水平方向に回転させる機構である。なお、上述したように、第2軸線AX2は、支持構造体11が傾斜していない状態では軸線PXと一致する。保持部30は、静電チャック31、下部電極32及び回転軸部33を有している。
【0031】
静電チャック31は、その上面である載置面11aに基板Wを保持する。静電チャック31は、第2軸線AX2をその中心軸線とする略円盤形状を有しており、絶縁膜の内層として設けられた電極膜を有している。静電チャック31は、電極膜に電圧が印加されることにより、静電力を発生する。この静電力により、静電チャック31は、載置面11aに載置された基板Wを静電吸着する。この静電チャック31と基板Wとの間には、HeガスもしくはArガスといった伝熱ガスが供給されるようになっている。また、静電チャック31内には、基板Wを加熱するためのヒータが内蔵されていてもよい。かかる静電チャック31は、下部電極32上に設けられている。
【0032】
図1及び
図2を参照すると、下部電極32は、第2軸線AX2をその中心軸線とする略円盤形状を有している。下部電極32は、アルミニウム等の導体から構成されている。下部電極32は、バイアス電力供給部62と電気的に接続される。静電チャック31には、冷媒流路が設けられ、冷媒流路に冷媒が供給されることにより、基板Wの温度が制御されるようになっている。
【0033】
回転軸部33は、略円柱形状を有しており、中央にて下部電極32の下面に結合されている。回転軸部33の中心軸線は、第2軸線AX2と一致している。回転軸部33に対して回転力が与えられることにより、保持部30が回転するようになっている。
【0034】
かかる構成の保持部30は、容器部40と共に支持構造体11を形成している。容器部40の中央には、回転軸部33が通る貫通孔が形成されている。容器部40と回転軸部33との間には、磁性流体シール部104が設けられている。磁性流体シール部104は、支持構造体11の内部空間を気密に封止する。磁性流体シール部により、支持構造体11の内部空間は大気圧に維持され、真空状態の空間Sから分離される。
【0035】
さらに
図2を参照して容器部40の内部構造について詳述する。
図2は、
図1の容器部40の内部構造の一例を示す図である。回転軸部33を中心として、回転軸部33の外周には、冷媒流路101に冷媒を供給するためのロータリージョイント(回転冷媒継手)102が配置され、冷媒流路101から静電チャック31内の流路31aに冷媒が供給される。ロータリージョイント102の外周に中空円筒状の下部電極保持部103が配置される。さらに下部電極保持部103の外周に、処理容器12内の真空状態の空間Sを容器部40内の大気空間からシールするための磁性流体シール部104が配置される。このようにロータリージョイント102を磁性流体シール部104の内側に配置することにより、ロータリージョイント102の配置のために、軸AX2方向に回転軸部33を延長する必要がなくなる。その結果、容器部40の軸AX2方向の長さを短くすることができるため、処理容器12の内部容積を大きくすることなく、支持構造体11を大きく傾けることができる。これにより、フットプリントの低減を図ることができる。
【0036】
ロータリージョイント102の下部には、静電チャック31のチャック電極31bやヒータ31cへの電力供給、及びバイアス印加のためのスリップリング105が配置されている。磁性流体シール部104の外周と容器部40の内側内壁との間のスペースには、回転軸部33の回転用モータ106及び基板Wを保持部30からリフトアップ、リフトダウンするためのリフターピン107aを含むリフト機構107が配置される。また、基板Wの裏面にバックサイドガスを供給するためのガスライン108を適宜回転軸部33や下部電極保持部103に設けることができる。
【0037】
図1に戻り、容器部40に形成された開口には、傾斜軸部50の内側端部が嵌め込まれている。傾斜軸部50は、処理容器12に達するまでに基板Wの高さまでオフセットされたものになっている。これにより、第1軸線AX1は基板と同じ高さになり、容器部40がどの角度にチルトしても基板Wの中心が第2軸線AX2上に位置する。これにより、プロセス制御性のマージンを持たせることができる。また、傾斜軸部50は、
図1に示すように、処理容器12の外側まで延在している。傾斜軸部50の一方の外側端部には、駆動装置24が結合されている。
【0038】
駆動装置24は、傾斜軸部50の一方の外側端部を軸支している。駆動装置24によって傾斜軸部50が回転されることにより、支持構造体11が第1軸線AX1を中心に垂直方向に回転し、その結果、支持構造体11が軸線PXに対して傾斜するようになっている。例えば、支持構造体11は、軸線PXに対して第2軸線AX2が0度~90度内の角度をなすように傾斜され得る。
【0039】
傾斜軸部50の内孔には、種々の電気系統用の配線、伝熱ガス用の配管及び冷媒用の配管が通されている。これらの配線及び配管は、回転軸部33に連結されている。
【0040】
図2に示すように、支持構造体11の内部空間には、回転用モータ106が設けられている。回転用モータ106は、回転軸部33を回転させるための駆動力を発生する。一実施形態では、回転用モータ106は、回転軸部33の側方に設けられている。回転用モータ106は、回転軸部33に取り付けられたプーリに伝導ベルトを介して連結されている。これにより、回転用モータ106の回転駆動力が回転軸部33に伝達され、保持部30が第2軸線AX2を中心に水平方向に回転する。保持部30の回転数は、例えば、48rpm以下の範囲内にある。例えば、保持部30は、プロセス中に20rpmの回転数で回転される。なお、回転用モータ106に電力を供給するための配線は、傾斜軸部50の内孔を通って処理容器12の外部まで引き出され、処理容器12の外部に設けられたモータ用電源に接続される。
【0041】
このように、支持構造体11は、大気圧に維持可能な内部空間に多様な機構を設けることが可能である。また、支持構造体11は、その内部空間に収めた機構と処理容器12の外部に設けた電源、ガスソース、チラーユニット等の装置とを接続するための配線又は配管を処理容器12の外部まで引き出すことが可能であるように構成されている。なお、上述した配線及び配管に加えて、処理容器12の外部に設けられたヒータ電源と静電チャック31に設けられたヒータとを接続する配線が、支持構造体11の内部空間から処理容器12の外部まで傾斜軸部50の内孔を介して引き出されていてもよい。
【0042】
[ガス供給系]
次に、ガス供給系について、
図1のA-A断面を示す
図4を参照しながら説明する。ガス供給部14は、ガス導入管14cに接続されている。ガス導入管14cは、処理容器12の内壁の内部に形成された流路14c1及び流路14c2に分岐して接続される。流路14c1及び流路14c2は、周方向に逆方向に半円状に形成され、それぞれの端部にて略垂直に径方向に内側に向かう流路14a及び流路14bに繋がる。
【0043】
流路14aは、処理容器12の内壁を覆う石英部材18の内部に周方向に形成された流路14a1及び流路14a2に分岐する。流路14a1及び流路14a2には、処理容器12の中心に向かって等間隔に開口するガス孔22a、22b、22c、22dが形成されている。
【0044】
流路14bは、流路14a1及び流路14a2の逆側にて石英部材18の内部に周方向に形成された流路14b1及び流路14b2に分岐する。流路14b1及び流路14b2には、処理容器12の中心に向かって等間隔に開口するガス孔22e、22f、22g、22hが形成されている。流路14a1及び流路14a2と、流路14b1及び流路14b2とは上下方向で分離した状態で、同円周上に略リング状に形成され、8つのガス孔22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h(以下、総称して「ガス孔22」ともいう。)が等間隔に配置される。
【0045】
かかる構成により、ガス供給部14は、等間隔に配置された8つのガス孔22からプラズマを生成するための空間Uに処理ガスを導入する。8つのガス孔22から等配に処理容器12内に導入された処理ガスは、ICPソースユニット16から高周波アンテナ53を介して導入したRFパワーによりプラズマ化し、これにより、空間U内で偏りのないプラズマを生成することができる。なお、ガス孔の数は8つに限られず、複数のガス孔が軸線PXに対して周方向に等間隔に設けられ得る。
【0046】
ガス供給部14は、一以上のガスソース、一以上の流量制御器、一以上のバルブを有し得る。したがって、ガス供給部14の一以上のガスソースからの処理ガスの流量は調整可能となっている。ガス供給部14からの処理ガスの流量及び処理ガスの供給のタイミングは、制御部Cntによって個別に調整される。
【0047】
[シールド板を把持する構造]
次に、シールド板13を把持する構造について、
図5を参照しながら説明する。シールド板13の外縁部(外周部)は、処理容器12と、処理容器12の側壁に形成された段差部に設けられたリング状のクランプ25との間に弾性体23を挟んで把持されている。弾性体23は、シールド板13の外縁部の下面と処理容器12の側壁に形成された段差部との間に配置されているスパイラル形状のクッション材である。弾性体23は、例えば、メタルのスパイラルリングで構成され得る。
【0048】
空間Uに生成されたプラズマからの熱によって、シールド板13は膨張及び圧縮を繰り返す。これによってシールド板13には引張応力及び圧縮応力がかかる。これに対して、本実施形態のシールド板13を把持する構造では、シールド板13の外縁部がクランプ25と弾性体23との間で移動ができる構成となっている。このため、上記応力によってシールド板13が割れる等の損傷が生じない構造になっている。
【0049】
[シールド構造]
次に、高周波(RF)導入用の窓であって真空隔壁となる誘電体窓19に基板Wのエッチングにより生成された導電性の副生成物が付着したときの課題について説明する。誘電体窓19にメタル膜が成膜されると、メタル膜によって高周波が誘電体窓19を透過できなくなる。また、誘電体窓19に成膜されたメタル膜に高周波が吸収されて熱に変わり、渦電流加熱が起こり高周波の導入量の低下及び熱応力によって誘電体窓19が割れる等のリスクが発生する。このため、メタル膜が成膜された誘電体窓19は定期的に交換する必要が生じる。
【0050】
この課題を解決するために、スリット板15及びシールド板13を用いたシールド構造を誘電体窓19への防着機能に特化した構造とすると、基板Wのエッチングに必要なイオンの供給がスリット板15により妨げられ、エッチングレートの低下の起因となる場合がある。このため、プラズマ中のイオンを基板W側へ効率的に引き出して基板Wをエッチングすることが望まれる。つまり、誘電体窓19への防着機能の維持とイオンの引き出し機能とを両立した構造を確立することが重要である。
【0051】
これに対して、一実施形態では、真空隔壁である誘電体窓19の直下(真空側)にシールド板13を配置し、プラズマを生成するための空間Uと基板Wとの間にスリット板15を2枚配置するシールド構造を有する。また、2枚のスリット板15a、15bの各スリット15a1、15b1は互い違いになり、スリットを介して基板W側から垂直に直接プラズマを生成するための空間Uが見えないシールド構造となっている。これにより、エッチング時の副生成物がメタル膜として誘電体窓19に付着することを防止できる。
【0052】
スリット板15a、15bのスリット幅(
図6のSW)を狭くするほど誘電体窓19への防着効果は高まるが、イオンの基板W側への供給が妨げられ、エッチングレートが下がる。よって、本実施形態では、スリット板15a、15bの各スリット15a1、15b1の幅及び位置等を適正化する。これにより、誘電体窓19への防着効果を高め、かつエッチングレートの低下を防止することができる。
【0053】
特に、基板Wを載置する支持構造体11は、回転及びチルト角度を制御する機能を有する。よって、支持構造体11を0度~90度の範囲内で基板Wをチルトするとともに、スリット15a1、15b1の位置関係を適正に調整する。これにより、プラズマを生成するための空間Uからのイオンの引き出し量の確保と基板Wからのエッチングの副生成物の通過量の抑制を両立したシールド構造を実現する。以下、本実施形態に係るシールド構造についてより詳細に説明する。
【0054】
[スリット板]
図1の処理容器12の上部を拡大した
図6の下図に示すように、スリット板15は、上部のスリット板15aと下部のスリット板15bとの2枚で構成され、各スリット15a1、15b1の位置は互い違いになっている。つまり、スリット15a1、15b1は平面視で重ならない位置関係になっている。スリット15a1、15b1が互い違いになる位置関係を、以下、「オフセット」とも称呼する。
【0055】
チルトプリクリーン装置10では、支持構造体11により基板Wの回転及び載置面11aのチルト角度を制御できる構造となっている。載置面11aのチルト角度は、0度~90度の範囲内にて調整する。
図7の例では、載置面11aのチルト角度は45度に調整されている。このように支持構造体11により基板Wの回転及び載置面11aのチルト角度の制御と、スリット板15a、15bの各スリット15a1、15b1の幅及び位置の調整とを組み合わせることによって、防着性能とエッチングレートの確保の両立が可能となる。また、誘電体窓19直下にシールド板13を配置することにより、副生成物が高周波導入用の窓である誘電体窓19に付着することを抑制し、誘電体窓19のメンテナンスフリー化を達成でき、メンテナンス性を向上させることができる。
【0056】
スリット板15a、15bの各スリット15a1、15b1の幅及び位置の調整について、
図7を参照しながら具体的に説明する。
図7は、一実施形態に係るスリット15a1、15b1の幅及び位置とイオンのエッチングによる副生成物(デポ)の動きを説明するための図である。
図7に示すように、スリット板15の上のプラズマを生成するための空間Uにおいて電離されたアルゴンイオン(Ar
+)を、スリット15a1、15b1に通して基板W側へ引き出し、アルゴンイオンの作用によりプロセス条件を満たしたエッチングレートを確保することが重要である。また、デポがスリット15a1、15b1を通って空間Uに飛来し、誘電体窓19に付着することを抑制することが重要である。そして、これらトレードオフ関係にある両者(誘電体窓19等への防着と基板Wへのアルゴンイオンの引き込み)を両立させるために、本実施形態では、支持構造体11による基板W(載置面11a)の傾斜と、スリット15a1、15b1のオフセットとを組み合わせる。なお、アルゴンイオンはイオンの一例であり、これに限られず、ガス供給部14から供給するガス種によってイオンの種類は異なる。
【0057】
エッチングに必要なアルゴンイオンを空間Uから引き出し易く、且つ傾斜された基板Wからは直接シールド板13が見えにくい、オフセットされたスリット15a1、15b1の位置関係とするには、スリット15a1、15b1のオフセットの方向が重要である。
【0058】
そこで、基板Wが一定方向にしか傾かないことを利用して、スリット15a1、15b1のオフセットの方向を適正化する。例えば、
図7の例では、基板Wが軸線PXを中心として左斜め上の方向(
図7では、水平方向との角度θ=45°)になるように傾いた状態で軸線PX周りに回転する。そのときの旋回方向をRの矢印で示し、基板W(例えば直径200mm)の外径の旋回軌跡をPAの円で示している。
【0059】
上記基板Wの傾きに対して、2枚のスリット板15a、15bのスリット15a1、15b1の位置をオフセットし、アルゴンイオンが2枚のスリット板15a、15bを通って基板Wに到着しやすいようにする。そのために、スリット15a1は、スリット15a1に隣接する2つのスリット15b1間の中心よりも支持構造体11の旋回方向に位置する。言い換えれば、スリット15a1は、スリット15a1に隣接する2つのスリット15b1間の中心よりも基板Wの傾いた方向(ここでは左方向)に位置する。これにより、空間Uにて生成されたアルゴンイオンが、スリット15b1に対してオフセットされたスリット15a1を通り、スリット15b1を通ってプラズマ処理を行うための空間Sに入射され易くなる。アルゴンイオンは、スリット15a1とスリット15b1とのオフセットにより空間S内に左斜め下方向へ入射され、放射状に移動し、左斜め上に向けて傾く基板W上に入射され易くなる。エッチングレートは、空間Uからスリット15a1、15b1を介して基板W側に引き込むイオンの数によって決まる。かかる構成によれば、スリット15a1、15b1のオフセットの適正な位置関係により、空間Sに入射されるアルゴンイオンの数を増やし、エッチングレートを高めることができる。
【0060】
アルゴンイオンの基板Wへの叩き込みによりエッチング時に生成されたデポは、処理容器12の天井部及び側壁等の内壁に向けて飛ぶ。しかしながら、基板Wは一定方向に傾いていることを利用して、スリット15a1はスリット15b1に対して基板W側から誘電体窓19が見え難い方向にオフセットされている。よって、空間S内を天井部に向けて飛来するデポのほとんどは、スリット板15bの下面に付着するか、スリット15b1を通ってスリット板15aの下面に付着する。これにより、誘電体窓19へデポが付着して誘電体窓19にメタル膜が生成されることを抑制することができる。
【0061】
以上から、スリット15a1は、スリット15a1に隣接する2つのスリット15b1間の中心よりも支持構造体11の旋回方向に位置させる。つまり、アルゴンイオンが基板Wの面にスパッタされ易く、かつ、デポがスリット15a1、15b1を通り難い位置にスリット15a1、15b1をオフセットさせる。これにより、基板Wのエッチングを効率的に行いながら、高周波導入用の誘電体窓19にエッチングによって形成された副生成物が付着することを抑制できる。
【0062】
図6の上図は、
図6の下図のC枠内の領域を拡大して示す。互いにオフセットさせたスリット15a1、15b1間の位置の適正化により、基板W上でエッチングされたときに生成されるデポのメタル膜がシールド板13及び誘電体窓19に多く付着されないような構造となっている。
【0063】
スリット板15a下面とスリット板15bの上面との間隔を「SD」とし、スリット15a1及びスリット15b1の各幅を「SW」とする。スリット15a1及びスリット15b1の各幅は同じである。スリット幅SWを大きくすると、アルゴンイオンが通過し易くなりエッチングレートは上がるが、誘電体窓19への防着効果が低下する。スリット15a1及びスリット15b1間の間隔が広がるほどエッチングレートは下がるが、誘電体窓19への防着効果は向上する。
【0064】
図6の上図に示すように、プラズマが生成されている間、石英のスリット板15a、15bの表面にはイオンシースShが発生する。アルゴンイオンがスリット板15a、15b間を移動するときにシースに触れると、アルゴンイオンは消失する。以上から、スリット板15a、15bの間隔SDが小さいほど、イオンがスリット板に衝突する確率が上がるため、消失するアルゴンイオンの数が増え、エッチングレートが下がる。
【0065】
なお、スリット15a1間の間隔及びスリット15b1間の間隔はそれぞれ、同ピッチでもよいし、同ピッチでなくてもよい。また、スリット15a1、15b1の各長手方向は同方向になるように配置される。すなわち、上下のスリット板15a、15bの対応する複数のスリット15a1、15b1間は同じだけずれている。
【0066】
スリット15a1、15b1間のオフセットの適正値を求めるためのシミュレーションを行った。
図8を参照してスリット15a1、15b1間のオフセットの適正値について説明する。
図8は、一実施形態に係るスリットの位置を適正化するためのシミュレーションの一例を示す図である。
【0067】
シミュレーションの条件は以下である。
・スリット板 直径φが150mmの円盤、上下に2枚
・スリット幅SW 8.5mm
・各スリット板の厚さ 5mm
・スリット板の間隔SD 8.5mm
図8(a)では、スリット15a1は、隣接するスリット15b1間の中心軸Oよりも支持構造体11の旋回方向に位置していない。言い換えれば、スリット15a1は、スリット15a1に隣接するスリット15b1間の中心軸Oよりも基板Wの傾いた方向(
図7の左方向)に位置していない。
【0068】
これに対して、
図8(b)では、スリット15a1は、隣接するスリット15b1間の中心軸Oよりも支持構造体11の旋回方向に位置している。言い換えれば、スリット15a1は、スリット15a1に隣接するスリット15b1間の中心軸Oよりも基板Wの傾いた方向(
図7の左方向)に位置している。
【0069】
6枚の基板W(200mmのウエハ)を、
図8(a)のオフセットの場合と
図8(b)のオフセットの場合についてエッチング処理の結果をシミュレーションにより求めた結果、
図8(b)のオフセットの場合、6枚の基板Wの各基板のエッチングの面内分布に2.62~2.95%のバラツキあった。これに対して、
図8(a)のオフセットの場合、
図8(b)のオフセットの場合よりも、6枚の基板Wのエッチングの面内分布が不均一になり、かつエッチングレートが下がった。
【0070】
以上から、スリット15a1は、スリット15a1に隣接するスリット15b1間の中心よりも支持構造体11の旋回方向(
図7のチルト角度θで示される傾きの方向)に位置するようにオフセット値を定めることが適正であることがわかる。すなわち、
図7に示すように、基板Wが左斜め上に傾斜している場合には、スリット15b1を基準としたスリット15a1の位置をスリット15b1間の中心よりも旋回方向である左にずらす。これにより、スリット15a1、15b1のオフセットの適正な位置関係が確立でき、空間Sに入射されるアルゴンイオンの数を増やし、エッチングレートを高めることができる。加えて、基板Wが左斜め上に傾斜していることから、デポがスリット15a1、15b1を通り難い位置にスリット15a1、15b1がオフセットされている。これにより、基板Wのエッチングを効率的に行いながら、エッチングによって形成された副生成物が誘電体窓19に付着することを抑制できる。
【0071】
[変形例]
プラズマ分布は、基板W上方の中央で密度が高くなる。良好なエッチング分布を得るためには、プラズマを生成するための空間Uへの均等なガス供給と基板W上でのイオン分布を制御する構造が重要である。そこで、次に、実施形態の変形例に係るスリット板15について、
図9を参照しながら説明する。
図9は、一実施形態の変形例に係るスリット15a1、15b1のマスキングを適正化するためのシミュレーション結果の一例を示す図である。
【0072】
上記実施形態では、
図9(a)の「マスクなし」のスリット板15aに示すように、スリット15a1、15b1は、スリット板15a、15bの全面にわたり等間隔に形成される。
図9では、スリット板15aの下側のスリット15b1は図示されていない。
【0073】
一方、一実施形態の変形例に係るスリット板15では、プラズマが基板Wの中心側に形成され易く、基板Wの中心側では外周側よりもプラズマ密度が高くなり易いことに着目してスリット板15の中央部をマスキングする。具体的には、
図9(b)~(e)に示すように、プラズマを広げるためにスリット板15a、15bの中心ではスリット15a1、15b1を開口せず、スリット板15a、15bの外周だけにスリット15a1、15b1を配置した構造を有する。つまり、スリット板15a、15bの中心に位置するスリット15a1、15b1をマスクMによって塞ぎ、これにより、プラズマ中のイオンをスリット板15a、15bの外周で開口したスリット15a1、15b1から空間Sに通す。これにより、基板Wに引き込まれるイオンが基板Wの中心に集中することを抑制でき、エッチングの面内分布のバラツキを小さくすることができる。
【0074】
直径が200mmの基板Wをエッチング処理したときのシミュレーションの条件は以下である。
・スリット板 直径φが400mm、上下に2枚
・スリット幅SW 8.5mm
・スリット板の厚さ 5mm
・スリット板の間隔SD 8.5mm
図9の棒グラフは、スリット板15a、15bに設けられたマスクMの有無及び大きさに対するエッチングの面内分布のバラツキの程度を示す。
【0075】
図9(a)は、マスクMがない場合のスリット板15a、15bのスリット15a1、15b1から引き出されるアルゴンイオンに基づきエッチングしたときのエッチング面内分布のバラツキが、10.4%であることを示す。
【0076】
図9(b)~(e)は、スリット板15a、15bのスリット15a1、15b1の中心からの所定領域がマスクMにより覆われている場合に、引き出されるアルゴンイオンに基づきエッチングしたときのエッチング面内分布のバラツキをそれぞれ示す。
図9(b)のマスクMは直径が100mmの円である。
図9(c)のマスクMは直径が150mmの円である。
図9(d)のマスクMは直径が200mmの円である。
図9(e)のマスクMは直径が250mmの円である。
【0077】
この結果、スリット板15a、15bの中心から所定領域がマスクMにより覆われている場合、エッチング面内分布のバラツキが4.5%~6.9%となり、マスクMを有しない場合と比べて小さくなることがわかる。また、マスクMが大きい程、エッチング面内分布のバラツキが小さくなることがわかる。
【0078】
しかし、マスクMが大きい程、基板Wに到達するイオンの数が減るため、エッチングレートは低下する。このため、マスクMは、基板Wの60~90%のサイズが適切である。これにより、エッチングの面内分布のバラツキを小さくしつつ、基板Wのエッチングレートを維持することができる。なお、2枚のスリット板15a、15bの両方がマスキングされていなくても、その少なくともいずれかがマスキングされていればよい。
【0079】
これによれば、ICPソースユニット16により生成された中心部に高い密度を持つプラズマを、マスクMにより中心部のスリットを塞ぐことで、エッチングの面内分布のバラツキを小さくすることができる。かかる構成と、基板Wを回転及び傾斜させる機能を持つ支持構造体11との組合せにより、良好なエッチングの面内分布を確保することができる。
【0080】
また、マスクMによりマスキングされている領域は、載置面11aに載置された基板Wの直径に対して中心から60%~90%の範囲の直径を有する円であることが好ましい。これにより、エッチング面内分布のバラツキを小さくしつつ、エッチングレートを維持できる。
【0081】
チルトプリクリーン装置10は、成膜前の処理容器12内のクリーニングに使用できる。また、チルトプリクリーン装置10は、ある膜の成膜と次の膜の成膜の間に基板W上の酸化物を除去したり、生成した膜を薄く平坦化したりするときに使用できる。
【0082】
チルトプリクリーン装置10は、プラズマ処理を行うとき、高真空(10-8Torr~10-9Torr)であるため、メンテナンス時に一度処理容器12内を真空状態から大気状態にすると、次の基板Wの処理時に真空状態にする際に時間がかかる。よって、処理容器12内に配置したシールド1,21,26には、プロセス性能を維持したまま一定期間エッチングによる副生成物を堆積させられるような機能を持たせ、装置のダウンタイムを最小限にする為に他の処理装置と同時にメンテナンス(シールド交換)を実施する。
【0083】
このような状況において、チルトプリクリーン装置10はスリット板15によるシールド構造及びシールド板13を有することで、基板Wのエッチングを効率的に行いながら、エッチングによって形成された副生成物が誘電体窓19に付着することを抑制することができる。
【0084】
今回開示された一実施形態及び変形例に係るプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0085】
10 チルトプリクリーン装置
11 支持構造体
12 処理容器
13 シールド板
14 ガス供給部
15 スリット板
15a スリット板
15a1 スリット
15b スリット板
15b1 スリット
16 ICPソースユニット
17、21、26 シールド
18 石英部材
19 誘電体窓
25 クランプ
30 保持部
31 静電チャック
32 下部電極
33 回転軸部
40 容器部
50 傾斜軸部
51 高周波電源
53 高周波アンテナ
102 ロータリージョイント
103 下部電極保持部
104 磁性流体シール部
105 スリップリング
106 回転用モータ
107 リフト機構
S プラズマ処理を行うための空間
U プラズマを生成するための空間