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特許7394730磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20231201BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20231201BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20231201BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20231201BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20231201BHJP
   G11B 23/107 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/78
G11B23/107
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020165777
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057492
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】多田 稔生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】中野 愛
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-358630(JP,A)
【文献】特開2020-126704(JP,A)
【文献】特開2020-155190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/706
G11B 5/738
G11B 5/735
G11B 5/78
G11B 23/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
再生ビットサイズSが40000nm以下の磁気記録再生装置において使用され、
磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値がX以上であり、
前記Xは、X=-0.01S+1550、として算出される値である、磁気記録媒体。
【請求項2】
前記残留磁束密度Brverticalは、1200G以上である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層の厚みは、50.0nm以下である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記Xは1201以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気テープである、請求項1~のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項11】
磁気記録再生装置であって、
再生ビットサイズSが40000nm以下であり、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体を含み、
前記磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値がX以上であり、
前記Xは、X=-0.01S+1550、として算出される値である、磁気記録再生装置。
【請求項12】
前記残留磁束密度Brverticalは、1200G以上である、請求項11に記載の磁気記録再生装置。
【請求項13】
前記磁性層の厚みは、50.0nm以下である、請求項11または12に記載の磁気記録再生装置。
【請求項14】
前記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末である、請求項1113のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項15】
前記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末である、請求項1113のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項16】
前記Xは1201以上である、請求項11~15のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項17】
前記磁気記録媒体は、磁気テープである、請求項1116のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項18】
前記磁気記録媒体は、前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1117のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項19】
前記磁気記録媒体は、前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1118のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種データを記録し保管するためのデータストレージ用記録媒体として、磁気記録媒体が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-82329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、高い信号雑音比CNR(Carrier-to-Noise Ratio)を得るために、磁気記録媒体の磁性層の残留磁化Mrと厚さtとの積Mrt(即ち単位面積あたりの残留磁化)を制御することが提案されている(特許文献1の段落0014参照)。
【0005】
磁気記録媒体の高容量化の手段としては、1ビットのサイズを小さくして記録密度を高めることが挙げられる。しかし、1ビットのサイズを小さくすると、1ビットから出力される信号強度が小さくなり出力不足が顕在化することによって、特許文献1で提案されているような従来の手段では、電磁変換特性を向上させることは困難となる。
【0006】
本発明の一態様は、小ビットサイズ領域において優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
再生ビットサイズSが40000nm以下の磁気記録再生装置において使用され、
磁気記録媒体の垂直方向の単位G(ガウス)で表記される残留磁束密度Brverticalの数値がX以上であり、
上記Xは、X=-0.01S+1550、として算出される値である、磁気記録媒体、
に関する。
【0008】
また、本発明の一態様は、
磁気記録再生装置であって、
再生ビットサイズSが40000nm以下であり、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体を含み、
上記磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値がX以上であり、
上記Xは、X=-0.01S+1550、として算出される値である、磁気記録再生装置、
に関する。
【0009】
一形態では、上記残留磁束密度Brverticalは、1200G以上であることができる。
【0010】
一形態では、上記磁性層の厚みは、50.0nm以下であることができる。
【0011】
一形態では、上記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末であることができる。
【0012】
一形態では、上記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末であることができる。
【0013】
一形態では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有することができる。
【0014】
一形態では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有することができる。
【0015】
一形態では、上記磁気記録媒体は、磁気テープであることができる。
【0016】
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、小ビットサイズ領域において優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[磁気記録媒体、磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体に関する。上記磁気記録媒体は、再生ビットサイズSが40000nm以下の磁気記録再生装置において使用され、磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値がX以上である。上記Xは、X=-0.01S+1550、として算出される値である。
【0019】
また、本発明の一態様は、磁気記録再生装置に関する。上記磁気記録再生装置において、再生ビットサイズSは40000nm以下である。上記磁気記録再生装置は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体を含む。上記磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値は、上記X以上である。
【0020】
本発明および本明細書において、「再生ビットサイズS」は、磁気記録媒体への記録再生における線記録密度および再生素子幅から算出される。一例として、線記録密度510kbpiの場合を例として、以下に再生ビットサイズの算出方法を説明する。
単位に関して、「k(キロ)bpi」は、SI単位に換算不可の単位であり、「bpi」は、「bit per inch」を意味する。したがって、510kbpiとは、1インチあたり、即ち25.4mmあたりに記録されるビット数が510,000ビットであることを意味する。25,400,000nmの長さに510,000個のビットが記録されるため、例えばテープ状の磁気記録媒体(即ち磁気テープ)において、磁気テープの長手方向における1ビットあたりの記録ビット長は、1ビットあたりの記録ビット長=25,400,000nm/510,000(=約49.8nm)と算出される。一例として、再生素子幅が0.5μm(即ち500nm)の場合、再生ビットサイズSは、S=(25,400,000nm/510,000)×500nm=24,902nmと算出される。上記では磁気テープの場合を例に説明した。ディスク状の磁気記録媒体(即ち磁気ディスク)についても同様に、線記録密度および再生素子幅から、再生ビットサイズSを求めることができる。「再生素子幅」とは、再生素子幅の物理的な寸法をいうものとする。かかる物理的な寸法は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡等により測定が可能である。
上記のように、磁気記録媒体への記録再生における線記録密度および再生素子幅が定まれば、再生ビット幅を算出することができる。線記録密度および再生素子幅は、磁気記録媒体が適用される磁気記録再生装置(一般に「ドライブ」と呼ばれる。)が決定されれば、かかる磁気記録再生装置における記録再生の固有の値として自ずと定まるものである。磁気記録媒体が適用される磁気記録再生装置は、磁気記録媒体が市販される際に付される規格名により定まる。例えば、磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジ(データカートリッジとも呼ばれる。)の形態で市販される。一例として、「LTO(Linear Tape-Open) Ultrium 8データカートリッジ」として市販されている場合、その磁気テープカートリッジ内の磁気テープは、業界規格の1つである「LTO Ultrium 8」にしたがう磁気記録再生装置に適用される磁気テープである。
【0021】
本発明および本明細書において、磁気記録媒体の垂直方向の残留磁束密度Brverticalは、磁気記録媒体の垂直方向において測定される、磁気記録媒体の単位面積当たりの残留磁化(以下、「垂直方向残留磁化」と記載する。)を磁性層の厚みで除した値である。残留磁化に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向であり、磁性層の厚み方向ということもできる。本発明および本明細書において、磁性層表面とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。垂直方向残留磁化は、振動試料型磁力計において、23℃±1℃の測定温度にて、測定対象の磁気記録媒体の無作為に選択した位置から切り出したサンプル片の垂直方向(磁性層表面と直交する方向)に、外部磁場を最大外部磁場1194kA/m(15kOe)かつスキャン速度4.8kA/m/秒(60Oe/秒)の条件で掃引して求められる値とする。単位に関して、1Oe(エルステッド)=79.6A/mである。サンプル片のサイズは、測定に使用する振動試料型磁力計に導入可能なサイズであればよい。測定値は、振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。測定温度はサンプル片の温度である。サンプル片の周囲の雰囲気温度を測定温度にすることにより、温度平衡が成り立つことによってサンプル片の温度を測定温度にすることができる。垂直方向残留磁化を、単位「G・nm」の値として求めた場合には、求められた値を磁性層厚み(単位:nm)で除することによって、磁気記録媒体の垂直方向の残留磁束密度Brverticalを、単位「G」の値として求めることができる。垂直方向残留磁化を、単位「G・μm」の値として求めた場合には、求められた値を磁性層厚み(単位:μm)で除することによって、磁気記録媒体の垂直方向の残留磁束密度Brverticalを、単位「G」の値として求めることができる。
磁性層の厚みは、以下の方法によって求められる。測定対象の磁気記録媒体の無作為に選択した位置で断面試料を作製する。断面試料は、長さ方向の全域に磁性層が含まれ、かつ厚み方向に磁性層表面と磁性層と隣接する部分(例えば後述する非磁性層)との界面が含まれるように作製する。上記断面試料の無作為に選択した7箇所において、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)によって5万倍の倍率で観察して断面画像を取得する。SEMとしては、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE(Field Emission)-SEM)を用いる。例えば日立製作所製FE-SEM S4800を用いることができ、後述の実施例ではこのFE-SEMを用いた。断面画像は、二次電子像(SE(secondary electron)像)として取得する。断面試料の作製は、FIB(Focused Ion Beam;集束イオンビーム)加工によって行うことができる。上記7箇所の各箇所で得られた断面画像において、デジタイザーによって磁性層の部分をトレースし、トレースされた部分の面積を、断面試料の長さで除することにより、上記7箇所における磁性層の厚みをそれぞれ算出する。算出された値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体の磁性層の厚みとする。磁性層と隣接する部分(例えば非磁性)層との界面は、以下の方法により特定することができる。断面画像をデジタル化して厚み方向の画像輝度データ(厚み方向の座標、幅方向の座標、および輝度の3成分からなる。)を作成する。デジタル化では、断面画像を幅方向に1280分割して、輝度8ビットで処理して256階調のデータを得て、分割した各座標ポイントの画像輝度を所定の階調値に変換する。次に、得られた画像輝度データにおいて、厚み方向の各座標ポイントにおける幅方向の輝度の算術平均(即ち、1280分割した各座標ポイントにおける輝度の算術平均)を縦軸にとり、厚み方向の座標を横軸にとって輝度曲線を作成する。作成した輝度曲線を微分して微分曲線を作成し、作成した微分曲線のピーク位置から磁性層と非磁性層との境界の座標を特定する。断面画像上の、特定した座標に相当する位置を、磁性層と非磁性層との界面とする。
【0022】
後述する強磁性粉末の残留磁化σrは、以下の方法によって求められる。振動試料型磁力計のサンプルロッドに測定対象の強磁性粉末を入れたカプセルを取り付け、任意の方向に外部磁場を印加して、上記と同様の方法で測定を行い、残留磁化量(単位:emu)を求める。単位に関して、1emu=1×10-3A・mである。カプセルに入れる強磁性粉末の量は、例えば10mg以上(例えば100mg程度)とすることができる。カプセル内は強磁性粉末のみによって満たしてもよく、カプセル内を満たす量より強磁性粉末の量が少量の場合には非磁性の材料によってカプセル内の空間を埋めて強磁性粉末を固定してもよい。求められた残留磁化量をカプセルに入れた強磁性粉末の質量(単位:g)で除した値として、強磁性粉末の残留磁化σr(単位:emu/g)を求める。
【0023】
本発明者は、小ビットサイズ領域において優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体を提供するために鋭意検討を重ねた結果、再生ビットサイズが40000nm以下の小ビットサイズ領域では、再生ビットサイズSとの関係で特定の値以上の垂直方向の残留磁束密度Brverticalを示す磁気記録媒体が、優れた電磁変換特性を発揮できることを新たに見出した。詳しくは、磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値が、X=-0.01S+1550、として算出されるX以上である場合、再生ビットサイズが40000nm以下の小ビットサイズ領域において、優れた電磁変換特性を得ることができることが明らかとなった。
【0024】
以下、上記磁気記録媒体および上記記録再生装置について、更に詳細に説明する。
【0025】
<再生ビットサイズS>
上記再生ビットサイズSは、40000nm以下である。高容量化の観点からは再生ビットサイズSが小さいことは好ましく、この点から、再生ビットサイズSは、38000nm以下であることが好ましく、35000nm以下であることがより好ましく、30000nm以下であることが更に好ましく、25000nm以下であることが一層好ましい。また、再生ビットサイズSは、例えば8000nm以上または10000nm以上であることができ、更なる高容量化の観点からは、ここに例示した値を下回ることもできる。
【0026】
<Brvertical
上記磁気記録媒体のBrverticalは、先に記載した方法によって求められ、その単位はGである。例えば、求められたBrverticalがbガウス(G)である場合、Xと対比される数値は、「b」である。Xは、X=-0.01S+1550、として算出され、無単位の値とする。上記磁気記録媒体および上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体の垂直方向の単位Gで表記される残留磁束密度Brverticalの数値は、X以上である。このように再生ビットサイズSから定まるXに対して、BrverticalがX以上である場合、再生ビットサイズが40000nm以下の小ビットサイズ領域において、優れた電磁変換特性を得ることができる。Brverticalは、Xガウス(G)以上であり、1200G以上であることが好ましく、1250G以上であることがより好ましく、1300G以上であることが更に好ましく、1400G以上であることが一層好ましい。Brverticalは、例えば3000G以下、2500G以下または2000G以下であることができる。Brverticalが高いことは、小ビットサイズ領域における電磁変換特性の更なる向上の観点から好ましいため、Brverticalは、ここに例示した値を上回ることもできる。
【0027】
Brverticalについては、以下の手段によってBrverticalが高くなる傾向があることが、本発明者の検討により判明した。したがって、これらの手段の1つまたは2つ以上を組み合わせることによって、BrverticalがXガウス(G)以上の磁気記録媒体を作製することができる。
(1)強磁性粉末として飽和磁化σrが高い強磁性粉末を使用する。
(2)磁性層における強磁性粉末の物理配向を向上させる。
(3)磁性層を形成するための磁性層形成用組成物の調製時、強磁性粉末の粒子の欠けを抑制する。
(4)磁性層の強磁性粉末の充填率を高める。
【0028】
<磁性層>
(強磁性粉末)
上記磁気記録媒体の磁性層に含まれる強磁性粉末について、強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0029】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするかディスプレーに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0030】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0031】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものをいう。
【0032】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0033】
上記磁気記録媒体は、1種または2種以上の強磁性粉末を磁性層に含むことができる。強磁性粉末の具体例としては、六方晶フェライト粉末、ε-酸化鉄粉末等を挙げることができる。
【0034】
六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0035】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0036】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶フェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶フェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe1219の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表す。六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶バリウムフェライト粉末がM型である場合、Aはバリウム原子(Ba)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをバリウム原子(Ba)が占める。六方晶フェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶フェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。また、六方晶フェライト粉末は、上記原子以外の原子、例えば、アルミニウム原子(Al)、コバルト原子(Co)、チタン原子(Ti)、ニオブ原子(Nb)、ビスマス原子(Bi)等の1種または2種以上を含むこともできる。
【0037】
本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0038】
磁性層に含まれる強磁性粉末の残留磁化σrが高いことは、磁気記録媒体のBrverticalを高くすることに寄与し得る。この点から、強磁性粉末の残留磁化σrは、20.0emu/g以上であることが好ましく、20.5emu/g以上であることがより好ましく、21.0emu/g以上であることが更に好ましく、21.5emu/g以上であることが一層好ましく、22.0emu/g以上であることがより一層好ましい。強磁性粉末の残留磁化σrは、例えば、50.0emu/g以下、45.0emu/g以下または40.0emu/g以下であることができ、ここに例示した値を上回ることもできる。
【0039】
強磁性粉末の残留磁化σrは、強磁性粉末の組成および/または作製方法によって制御することができる。例えば、六方晶フェライト粉末については、鉄原子および二価金属原子以外の金属原子の種類および含有率によって、残留磁化σrを調整することができる。また、例えばガラス結晶化法によって六方晶フェライト粉末を作製する場合、結晶化工程における結晶化温度を高くすると残留磁化σrが高い六方晶フェライト粉末が得られ易い傾向がある。
【0040】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、体積基準で、好ましくは30~90体積%の範囲であり、より好ましくは40~90体積%の範囲であり、更に好ましくは50~90体積%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率を高くすることは、磁気記録媒体のBrverticalを高くすることに寄与し得る。例えば、磁性層形成用組成物の固形分(即ち溶媒を除く成分)において強磁性粉末が占める割合を高くすると、強磁性粉末の充填率が高い磁性層を形成することができる。
【0041】
(結合剤)
上記磁気記録媒体は塗布型の磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0042】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0043】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。また、アミン系ポリマー等の分散剤として機能し得るポリマーも使用できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。尚、後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。かかる分散剤は、強磁性粉末の分散性向上のための分散剤としても機能し得る。
【0044】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0045】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質の粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040および0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0046】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術を適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0047】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0048】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0049】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリアミド(例えば芳香族ポリアミド)が好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0050】
<各種厚み>
【0051】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.00~5.00μmである。
【0052】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、Brverticalをより一層高める観点からは、50.0nm以下であることが好ましく、10.0~50.0nmの範囲であることがより好ましい。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0053】
非磁性層の厚みは、例えば0.10~1.50μmであり、0.10~1.00μmであることが好ましい。
【0054】
バックコート層の厚みは、0.90μm以下が好ましく、0.10~0.70μmが更に好ましい。
【0055】
磁性層の厚みの測定方法については、先に記載した通りである。他の層の厚みおよび非磁性支持体の厚みも、先に記載した方法と同様に、またはかかる方法に準じて、求めることができる。また、それらの各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0056】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体を製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0057】
磁性層形成用組成物の調製工程では、強磁性粉末と、結合剤と、溶媒と、を含む磁性液と、研磨剤および溶媒を含む研磨剤液とを、それぞれ別工程において調製することが好ましい。このように強磁性粉末と研磨剤とを別工程で調製した後に混合することによって、磁性層形成用組成物における強磁性粉末の分散性を高めることができる。磁性液の調製工程は、1種以上の分散処理を含むことが好ましい。磁性層における強磁性粉末の分散性が高いことは、垂直配向処理によって磁性層における強磁性粉末の物理配向を向上させる観点から好ましい。そのためには、分散処理によって磁性液中の強磁性粉末の分散性を高めることが好ましい。分散性を高める観点からは、磁性液の分散処理として、分散メディアを使用する分散処理を行うことが好ましい。分散メディアを使用する分散処理は、分散メディアを使用しない分散処理(例えば超音波分散)と比べて強磁性粉末の粒子同士の凝集を解砕する力が通常強いため、磁性液における強磁性粉末の分散性向上に有効である。ただし、分散処理によって強磁性粉末の粒子に欠けが生じることは、磁気記録媒体のBrverticalを低くし得る。そのため、磁性液の分散処理は、強磁性粉末の粒子の欠けを抑制しつつ強磁性粉末の分散性を高めることができるように行うことが好ましい。以上の点から好ましい分散処理は、ビーズ分散である。ビーズ分散の好ましい分散処理条件としては、下記式1により算出されるEが10000nJ以下かつ下記式2により算出されるWが1.0J・min.(J・分)以上30.0J・min.以下となる条件を挙げることができる。
【0058】
式1:E=(a×v×10)/2
式2:W=E×10-9×b×t
【0059】
式1中、Eの単位はnJ(ナノジュール)であり、aはビーズ分散に使用されるビーズの総質量(単位:g)を表し、vはビーズ分散中のビーズの運動速度(単位:m/秒)を表す。ビーズの運動速度vとしては、例えば分散機のローター半径と、分散機において設定するローター回転数から算出される、ローター最外周の線速の値を適用することができる。
式2中、Eは式1により求められる。Wの単位はJ・min.であり、bはビーズ分散において磁性液1cmあたりに使用されるビーズ個数を表し、以下においてビーズ個数密度(単位:個/cm)とも記載する。tはビーズ分散の分散時間(単位:min.)を表す。
【0060】
式1により算出されるEが10000nJ以下であることは、強磁性粉末の粒子の欠けの発生を抑制する観点から好ましい。上記Eは、7000nJ以下であることがより好ましく、5000nJ以下であることが更に好ましく、3000nJ以下であることが一層好ましく、2000nJ以下であることがより一層好ましく、1000nJ以下であることが更に一層好ましく、500nJ以下であることが更により一層好ましく、100nJ以下であることが更になお一層好ましい。また、上記Eは、例えば20nJ以上または30nJ以上であることができる。ただし例示した値を下回ってもよい。
一方、式2により算出されるWが30.0J・min.以下であることも、強磁性粉末の粒子の欠けの発生を抑制する観点から好ましい。上記Wは、20.0J・min.以下であることがより好ましく、15.0J・min.以下であることが更に好ましく、10.0J・min.以下であることが一層好ましい。また、上記Wが1.0J・min.以上であることは、磁性液中の強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めるうえで好ましい。この点からは、上記Wは、2.0J・min.以上であることがより好ましい。
【0061】
磁性液のビーズ分散に使用する分散ビーズに関して、分散ビーズの密度は、3.7g/cm超であることが好ましく、3.8g/cm以上であることがより好ましい。また、分散ビーズの密度は、例えば7.0g/cm以下であり、または7.0g/cm超でもよい。ここで密度とは、分散ビーズの質量(単位:g)を分散ビーズの体積(単位:cm)で除して求められる。測定は、アルキメデス法によって行う。分散ビーズとしては、ジルコニア、アルミナ、またはステンレス製のビーズを単独で用いるか、これらの2種以上を混合して用いることが好ましい。磁性液のビーズ分散に使用する分散ビーズは、ビーズ径が0.01~0.50mmの範囲であるものが好ましい。ビーズ径とは、分散処理に使用する分散ビーズについて、先に記載した粉末の平均粒子サイズの測定方法と同様の方法により測定される値とする。分散機における分散ビーズの充填率は、体積基準で、例えば30~80体積%、好ましくは50~80体積%とすることができる。また、分散時間(分散機内滞留時間)は、10~180分とすることが好ましく、10~120分とすることがより好ましい。
【0062】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0063】
(その他の工程)
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種処理については、例えば特開2010-24113号公報の段落0052~0057等の公知技術を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける上記塗布層を形成した非磁性支持体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。垂直配向処理を行うことは、磁性層における強磁性粉末の物理配向を向上させることにつながり、このことは磁気記録媒体のBrverticalを高くすることに寄与し得る。垂直配向処理における配向磁場強度を高くすることは、磁気記録媒体のBrverticalをより高くすることにつながり得る。配向磁場強度は、例えば0.1~1.5T(テスラ)の範囲とすることができる。
【0064】
上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であることができ、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であることもできる。例えば磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。磁気記録媒体には、磁気記録再生装置においてヘッドトラッキングを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、磁気テープを例として、サーボパターンの形成について説明する。
【0065】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS;Timing Based Servo)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0066】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。サーボシステムとは、サーボ信号を利用してヘッドトラッキングを行うシステムである。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0067】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0068】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0069】
尚、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0070】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0071】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0072】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0073】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0074】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。尚、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0075】
<磁気記録再生装置>
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、例えば、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層側の表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。例えば、上記磁気記録再生装置は、上記磁気テープカートリッジを着脱可能に含むことができる。
【0076】
上記磁気記録再生装置は磁気ヘッドを含むことができる。磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0077】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、例えば、磁気記録媒体の磁性層側の表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、再生ビットサイズSが40000nm以下であり、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0078】
例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0079】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、テープ状の上記磁気記録媒体(即ち磁気テープ)を含む磁気テープカートリッジに関する。
【0080】
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0081】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、例えば、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層側の表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。上記磁気テープカートリッジは、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体(磁気テープ)を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。磁気テープカートリッジに収容される磁気テープの全長は、例えば800m以上であることができ、800m~2000m程度の範囲であることもできる。磁気テープカートリッジに収容されるテープ全長が長いことは、磁気テープカートリッジの高容量化の観点から好ましい。
【実施例
【0082】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」は、特記しない限り、「質量部」、「質量%」を示す。また、下記工程および評価は、特記しない限り、23℃±1℃の大気中で行った。以下に記載の「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
【0083】
[強磁性粉末A~F]
<強磁性粉末の作製>
表1に示す仕込み量で表1に示す原料を秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶解温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで圧延急冷して非晶質体を得た。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、電気炉の炉内温度を表1に示す結晶化温度まで昇温し、同温度で5時間保持し強磁性粉末の粒子を析出(結晶化)させた。
次いで析出した粒子を含む結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、粗粉砕を入れたガラス瓶にビーズ径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った後、分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温80℃で3時間処理した後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、内部雰囲気温度110℃の乾燥機内で6時間乾燥させて強磁性粉末を得た。
【0084】
上記で得られた強磁性粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0085】
上記で得られた強磁性粉末について、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)を行い組成を確認したところ、強磁性粉末A、B、D~Fが六方晶バリウムフェライト粉末であること、および、強磁性粉末Cが六方晶ストロンチウムフェライト粉末であること、が確認された。
【0086】
<強磁性粉末の残留磁化σrの測定>
上記の各強磁性粉末100mgをカプセル内に入れ、カプセル内の空間をパラフィンで埋めた後、このカプセルを振動試料型磁力計(東英工業社製VSM-5)に取り付け、先に記載した方法によって残留磁化σrを求めた。
【0087】
[磁気記録媒体の作製]
<媒体1の作製>
1.アルミナ分散物(研磨剤液)の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSONa基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0088】
2.磁性層形成用組成物の処方
(磁性液a)
強磁性粉末 100.0部
SONa基含有塩化ビニル共重合体 11.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
SONa基含有ポリウレタン樹脂 3.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
オレイン酸 1.5部
アミン系ポリマー(ビックケミー社製DISPERBYK-102)10.0部
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 170.0部
(研磨剤液)
上記1.で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ 2.0部
平均粒子サイズ:100nm
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ブチルステアレート 6.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 140.0部
【0089】
3.非磁性層形成用組成物の処方
カーボンブラック 100.0部
平均粒子サイズ:20nm
SONa基含有塩化ビニル共重合体 10.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
SONa基含有ポリウレタン樹脂 4.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
トリオクチルアミン 5.0部
ステアリン酸 2.0部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 450.0部
メチルエチルケトン 450.0部
【0090】
4.バックコート層形成用組成物の処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 80.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
塩化ビニル共重合体 13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
シクロヘキサノン 355.0部
メチルエチルケトン 155.0部
ステアリン酸 3.0部
ブチルステアレート 3.0部
ポリイソシアネート 5.0部
【0091】
5.各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
磁性液の上記成分をホモジナイザーを用いて混合し、その後連続式横型ビーズミルを用いてビーズ分散した。ビーズ分散の処理条件は、以下の通りとした。以下に記載のビーズ分散中のビーズの運動速度vは、ビーズミルのローター半径と、このビーズミルにおいて設定するローター回転数から算出した、ローター最外周の線速である。
(ビーズ分散条件1)
分散メディア:ジルコニアビーズ(ビーズ密度:6.0g/cm、ビーズ径:0.05mm)
ビーズ総質量a:3.9×10-7
ビーズ分散中のビーズの運動速度v:15m/秒
式1により算出されるE:44nJ
ビーズ充填率:60体積%
ビーズ個数密度b:6.11×10個/cm
分散時間t:10分
式2により算出されるW:2.7J・min.
こうして調製した磁性液を、上記ビーズミルを用いて、上記研磨剤液および他の成分(シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒)と混合した後、バッチ式超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い、磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
ステアリン酸およびブチルステアレートを除いた上記成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いて12時間分散して分散液を得た。分散ビーズとしてはビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディスパーで撹拌した。こうして得られた分散液を0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
ステアリン酸、ブチルステアレート、ポリイソシアネートおよびシクロヘキサノンを除いた上記成分をオープンニーダにより混錬および希釈した後、横型ビーズミルにより、ビーズ径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理を行った。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディスパーで撹拌した。こうして得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過しバックコート層形成用組成物を調製した。
【0092】
6.磁気テープの作製
厚み3.60μmの二軸延伸芳香族ポリアミド製支持体の表面上に、乾燥後の厚みが0.10μmになるように上記5.で調製した非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。形成した非磁性層表面上に、乾燥後の厚みが約50nmになるように上記5.で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。磁性層形成用組成物の塗布層を、この塗布層が湿潤状態にあるうちに磁場強度0.4Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させた。その後、上記支持体の非磁性層と磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.40μmになるように上記5.で調製したバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダで、速度100m/分、線圧300kg/cm(294kN/m)、カレンダロールの表面温度100℃で表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った後に1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、磁気テープを得た。上記の各層の厚みは、製造条件から算出された設計厚みである。
磁気テープの磁性層を消磁した状態で、サーボライターに搭載されたサーボライトヘッドによって、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターンを磁性層に形成した。こうして、磁性層に、LTO Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターンを有する磁気テープを得た。
【0093】
<媒体2~8の作製>
表1、2に示す項目を表1、2に示すように変更し、かつ形成される磁性層の厚みを変えるために磁性層形成用組成物の塗布量を変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープを得た。
【0094】
表2中、磁性液bは、以下の磁性液である。
(磁性液b)
強磁性粉末 100.0部
SONa基含有塩化ビニル共重合体 10.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
SONa基含有ポリウレタン樹脂 4.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
オレイン酸 1.5部
2,3-ジヒドロキシナフタレン 6.0部
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 170.0部
【0095】
表2中、磁性液cは、以下の磁性液である。
(磁性液c)
強磁性粉末 100.0部
SONa基含有塩化ビニル共重合体 8.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
SONa基含有ポリウレタン樹脂 2.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
オレイン酸 1.5部
アミン系ポリマー(ビックケミー社製DISPERBYK-102) 7.0部
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 170.0部
【0096】
表1中、ビーズ分散条件2は、以下の通りである。
(ビーズ分散条件2)
分散メディア:ジルコニアビーズ(ビーズ密度:6.0g/cm、ビーズ径:0.5mm)
ビーズ総質量a:3.9×10-4
ビーズ分散中のビーズの運動速度v:10m/秒
式1により算出されるE:19635nJ
ビーズ充填率:60体積%
ビーズ個数密度b:6.11×10個/cm
分散時間t:10分
式2により算出されるW:1.2J・min.
【0097】
表1中、垂直配向の欄に「あり」と記載されている媒体は、実施例1と同様に垂直配向処理を行って作製された媒体である。 表1中、垂直配向の欄に「なし」と記載されている媒体は、かかる垂直配向処理を行うことなく作製された媒体である。
【0098】
媒体1~8について、それぞれ媒体(磁気テープ)を2つ作製し、1つを以下の電磁変換特性の評価のために使用し、もう1つを以下の各種測定のために使用した。
【0099】
[残留磁束密度Brverticalの測定]
各媒体から3.6cm×3.2cmのサイズのサンプル片を切り出した。このサンプル片について、振動試料型磁力計(東英工業社製VSM-P7)を使用して、先に記載した方法によって、磁気記録媒体の垂直方向において、磁気記録媒体の単位面積当たりの残留磁化(垂直方向残留磁化)を求めた(単位:G・nm)。求められた値を磁性層厚み(単位:nm)で除することによって、磁気記録媒体の垂直方向の残留磁束密度Brvertical(単位:G)求めた。
磁性層の厚みを求めるための断面試料は、以下の(i)および(ii)に記載の方法により作製した。作製した断面試料を用いて、先に記載した方法により、磁性層の厚みを求めたところ、表2に示す値であった。SEM観察のための電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)としては、日立製作所製FE-SEM S4800を使用した。
(i)磁気テープの幅方向10mm×長手方向10mmのサイズの試料を剃刀を用いて切り出した。
切り出した試料の磁性層表面に保護膜を形成して保護膜付試料を得た。保護膜の形成は、以下の方法により行った。
上記試料の磁性層表面に、スパッタリングにより白金(Pt)膜(厚み30nm)を形成した。白金膜のスパッタリングは、下記条件で行った。
(白金膜のスパッタリング条件)
ターゲット:Pt
スパッタリング装置のチャンバー内真空度:7Pa以下
電流値:15mA
上記で作製した白金膜付試料に、更に厚み100~150nmのカーボン膜を形成した。カーボン膜の形成は、下記(ii)で用いるFIB(集束イオンビーム)装置に備えられた、ガリウムイオン(Ga)ビームを用いるCVD(Chemical vapor deposition)機構により行った。
(ii)上記(i)で作製した保護膜付試料に対し、FIB装置によりガリウムイオン(Ga)ビームを用いるFIB加工を行い磁気テープの断面を露出させた。FIB加工における加速電圧は30kV、プローブ電流は1300pAとした。
こうして断面を露出させた断面試料を、磁性層の厚みを求めるためのSEM観察に用いて、先に記載した方法によって磁性層の厚みを求めた。
【0100】
また、各媒体について、参考値として、磁場印加方向を磁気テープの長手方向とした点以外は上記と同様として、磁気テープの長手方向についての残留磁束密度(「Brparallel」と表記する。)を求めた。求められた値を表2に示す。
更に、参考値として、各媒体について、残留磁化Mrと磁性層の厚さtとの積Mrtの値も表2に示す。表2に示すMrtは、各媒体について上記で求めた垂直方向残留磁化である。
後述の表2に示すBrverticalと参考値のMrtおよびBrparallelとの対比から、媒体間のBrverticalの大小関係は、媒体間のMrtの大小関係ともBrparallelの大小関係とも対応しないことが確認できる。
【0101】
[再生出力の評価]
磁気ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用い、表3に示す記録再生条件と媒体との組み合わせで、以下の方法によって再生出力を求めた。表3中、記録再生条件と媒体との組み合わせにおいて、Brverticalの数値が再生ビットサイズSから算出されるXを下回る組み合わせに「Brvertical<X」と記載した。
磁気テープの走行速度(磁気ヘッド/磁気テープ相対速度)は4m/秒とした。記録ヘッドとしてMIG(Metal-In-Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使い、記録電流は各磁気テープの最適記録電流に設定した。再生ヘッドとしては素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよび表3に示す再生素子幅のGMR(Giant-Magnetoresistive)ヘッドを使用した。表3に示す線記録密度で信号の記録を行い、再生信号をアドバンテスト社製のスペクトラムアナライザーで測定し、キャリア信号の出力値を再生出力とした。再生出力の評価のためには、磁気テープの走行を開始してから信号が十分に安定した部分の信号を使用した。再生出力が1.0dB以上であれば、優れた電磁変換特性が得られたと判定できる。表3に示す再生素子幅は、再生素子幅の物理的な寸法であり、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡によって観察して測定された値である。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
表3に示す評価1~3と参考評価との対比から、再生ビットサイズSが40000nm以下の場合、磁気記録媒体のBrverticalの数値が再生ビットサイズSから算出されるX以上であると優れた電磁変換特性が得られることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の一態様は、データストレージ用途において有用である。