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特許7394788ポリマー材料におけるレーザー添加剤およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ポリマー材料におけるレーザー添加剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/36 20060101AFI20231201BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231201BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20231201BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20231201BHJP
   C09C 3/04 20060101ALI20231201BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C09C1/36
C08L101/00
C08K9/02
C09C3/06
C09C3/04
C09C1/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020564131
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2019062127
(87)【国際公開番号】W WO2019219557
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】18172573.0
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國井 幸四郎
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-186705(JP,A)
【文献】特開平07-082509(JP,A)
【文献】特開2006-021991(JP,A)
【文献】特開2008-004332(JP,A)
【文献】特表2018-530632(JP,A)
【文献】特開2003-275600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/36
C09C 3/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子、および、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子を封入する封入層を含む顔料であって、前記封入層が少なくともカルシウム化合物を含、ここでカルシウム化合物が、CaO、またはCaOとCaCOおよび/またはCaTiOとの混合物である、前記顔料。
【請求項2】
封入層が、カルシウム化合物に加えて、少なくとも1つのさらなる金属オキシドを含有し、ここで金属が、Zr、Ce、Si、Al、ZnおよびVからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の顔料。
【請求項3】
封入層における少なくとも1つのカルシウム化合物のパーセント重量含有量が、封入層の重量に基づき、少なくとも80重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料。
【請求項4】
顔料が、その使用に先立ち、還元条件下で熱処理ステップに供されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項5】
顔料が、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子から構成されるコア、および、コアの上に直接位置付けられる封入層からなることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項6】
顔料が、基体粒子の上に直接位置付けられるニオブドープされた二酸化チタンの層を有する基体粒子から構成されるコア、および、コアの上に直接位置付けられる封入層からなることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項7】
基体粒子が、シリケート材料から、二酸化チタンから、Al、Si、ZrまたはMnでドープされた二酸化チタンから、アルミナ、シリカ、炭素、グラファイト、酸化鉄、バリウムスルファートから、および/またはパール顔料からなることを特徴とする、請求項6に記載の顔料。
【請求項8】
ニオブドープされた二酸化チタンが、チタンのモル質量に基づき、0.05~15%のニオブのパーセンテージモル比を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項9】
封入層が、0.5から1000nmまでの範囲にある厚さを有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項10】
封入層のパーセント重量含有量が、コアの重量に基づき、1から30重量%までの範囲にあることを特徴とする、請求項のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項11】
顔料が、0.01から100μmまでの範囲にある粒子サイズを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の顔料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の顔料の、ポリマー組成物におけるレーザー吸収添加剤としての使用。
【請求項13】
顔料が、ポリマー組成物において、ポリマー組成物の総重量に基づき、0.001から20重量%までの範囲にある割合において存在することを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
ポリマー組成物が、少なくとも1つのポリマー化合物、およびレーザー吸収添加剤、および任意に、溶媒、充填剤、添加剤および/または着色剤を含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
ポリマー化合物が、熱可塑性体、熱硬化性体、エラストマー、またはシリコーンであることを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
少なくとも1つのポリマー化合物、および請求項1~11のいずれか一項に記載の顔料を含むポリマー組成物。
【請求項17】
顔料が、ポリマー組成物において、ポリマー組成物の総重量に基づき、0.001から20重量%までの割合において存在することを特徴とする、請求項16に記載のポリマー組成物。
【請求項18】
ポリマー化合物が、熱可塑性体、熱硬化性体、エラストマー、またはシリコーンであることを特徴とする、請求項16または17に記載のポリマー組成物。
【請求項19】
物体または少なくともその表面の一部が、請求項16~18のいずれか一項に記載のポリマー組成物から構成されるまたはを含むことを特徴とする、表面を有する物体からなるレーザーマーク可能な物品。
【請求項20】
物体が、表面にレーザーマークを有することを特徴とする、請求項19に記載のレーザーマーク可能な物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーク可能なポリマー材料のための添加剤に、およびとりわけ、ニオブドープされた二酸化チタン、およびポリマー材料においてニオブドープされた二酸化チタンを封入する層をレーザー吸収添加剤として含む顔料に、このタイプのレーザー吸収添加剤を含むポリマー材料に、および、少なくとも1つのポリマー材料およびレーザー吸収添加剤として顔料を含有する該封入されたニオブドープされた二酸化チタンを含むレーザーマークされた生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製造された商品のラベリングは、事実上すべての産業の部門において標準的な手順である。頻繁に、製造日、バッチナンバー、シリアルナンバー、バーコード、2Dコード、会社のロゴ、または有効日などの生成物情報の詳細は、プラスチック物品に適用されなければならない。この目標のために、レーザーマーク手順などの非接触な、極めて迅速な、および柔軟なマーキング技術は好ましい。この技術を使用して、非平面の表面にさえ、ポリマー部分または対象に高速にて刻印を適用することが可能である。このやり方で生成された刻印は、プラスチック本体自体に付されるため、永久に耐摩耗性がある。
【0003】
多くのプラスチックはレーザー光を透過するため、大抵、プラスチック材料において局所的に高度に可視の変色を引き起こすレーザー感受性剤がプラスチックに添加される。プラスチックにおける変色は、レーザー光とポリマーとの相互作用の結果として直接的に、または、レーザー光とレーザー吸収添加剤との相互作用の結果として間接的に生じ得る。レーザー感受性添加剤は、レーザー光を吸収する有機染料または顔料であり得る。変色には様々な原因、例えばポリマーの分解、またはレーザー吸収添加剤自体の不可視形態から可視形態への変換が考えられ得る。プラスチックの色の黒ずみは、一般に、導入されるレーザーエネルギーの結果として、炭化に起因して発生する。
無数の添加剤が、プラスチックのレーザーマークのために知られている。Nd-YAGレーザー(ネオジムドープさらたイットリウムアルミニウムガーネットレーザー)、YVO4レーザー(イットリウムバナデートレーザー)、および1064nmファイバーレーザーを使用するレーザーマークのために好適な材料は、好ましくは、波長1064nmの光を吸収し、およびそれ自体はわずかな固有色のみ有するものである。例は、リン酸銅、酸化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、アンチモンドープされた酸化スズ、基体上のアンチモンドープされたスズ酸化物、三酸化アンチモン、フッ素ドープされた酸化スズ、インジウムドープされた酸化スズまたは金属である。
【0004】
例えば、EP 1377522 A2には、表面のアンチモン濃度が粒子全体の濃度よりも高い、か焼されたアンチモン/スズ混合酸化物からなるプラスチックのレーザーマークのための添加剤が記載される。粒子サイズは0.1~10μm、好ましくは0.5~5μmである。かかる添加剤で、薄い背景にダークマーキングが得られる。
EP 1720712 A1において、1~100nmの粒子サイズを有する、ドープされた酸化スズ、酸化アンチモン、または酸化インジウムを含む高度に透過性のレーザーマーク可能なおよびレーザー溶接可能なプラスチック材料が記載され、高度に透過性のプラスチックパーツをもたらす。ここで得られるマーキングはダークである。
WO 2017/016645 A1において、アンチモンドープされた酸化スズ層でコーティングされ、および15μm未満の範囲にある粒子サイズを呈する球状二酸化チタン粒子が、ポリマー材料のためのレーザー吸収添加剤として示唆される。
【0005】
これらの刊行物から理解され得るとおり、しばしば使用されるレーザー添加剤は、アンチモンドープされた酸化スズから構成される、またはそれを含有し、後者は、とりわけマイカ基体上にある。アンチモンドープされた酸化スズは、レーザー光を非常によく吸収し、それ自体わずかに薄灰色がかった色のみを呈し、およびプラスチック材料にダークマーキングをもたらすが、ダークマーキングは黒色がかったというよりむしろ茶色がかった色合いを有する。加えて、ドーパントとしてのアンチモンは、それによる環境損傷および健康上の問題が懸念され、とりわけそれを含む対応する化合物または成分の調製またはリサイクル中に発生し得るため、いくつかの国において投与制限に供される。
【0006】
したがって、レーザー吸収添加剤におけるドーパントとしてアンチモンを回避するための無数の試みがあった。二酸化チタンはアンチモンフリーであり、および環境にも健康にも有害でない材料である。材料は、レーザー光を吸収することができ、およびレーザー吸収添加剤として使用されるとき、プラスチックにおいてマーキングをもたらすが、レーザー感度は、種々のプラスチック材料において、および種々のレーザーマーク条件下で、高コントラストのダークマーキングを与えるために十分なほど強くない。
加えて、二酸化チタン粒子は、ある光触媒活性を呈することが知られ、それから作られる物品がUV光にさらされるとき、ほとんどのポリマー材料において黄変効果をもたらすであろう。
【0007】
したがって、そこに含有されるレーザー吸収添加剤が、これらのレーザー吸収添加剤を使用することによって環境の損傷も健康の損傷も予測されず、および、それらを含有するポリマー材料が、太陽光、とくにUV光の影響によって色の変化を受けることが想定されない、様々なレーザーマーク条件下で、茶色がかった色合いを呈さない、レーザー作用によって鋭いおよびダークなレーザーマークを誘発する、レーザーマーク可能な明るいまたは着色されたプラスチックの必要性が依然としてあった。
したがって、本発明の目的は、レーザー感受性、すなわち、ポリマー材料を含有する物品の形態におけるときレーザーマークされることが想定されるポリマー材料のための顔料の形態においてレーザー吸収添加剤を提供することであり、ここでレーザー吸収添加剤は、これらのポリマー材料において優れたコントラストを有する、鮮明なダークな青みがかった~黒色がかったレーザーマークの作製を可能にし、人々の健康および/または環境に有害であり得るドーパント材料を含有せず、および太陽光の影響下でポリマー材料に実質的な色の変化の効果を誘発しない。
【0008】
さらにまた、本発明の目的は、かかる顔料の使用を提案することである。
加えて、本発明の目的は、その中にレーザー吸収剤添加剤を有するポリマー組成物を提供することであり、ここでレーザー吸収剤は、これらのポリマー材料において優れたコントラストを有する、鮮明なダークな青みがかった~黒色がかったレーザーマークの作製を可能にし、人々の健康および/または環境に有害であり得るドーパント材料を含有せず、およびポリマー組成物は、太陽光にさらされるとき、実質的な色の変化を受けない。
【0009】
なおさらにまた本発明の追加の目的は、容易にレーザーマークされ得る、および、レーザーマークされる場合、それらの表面に鮮明な黒色または黒色がかったレーザーマークを呈し、人々の健康および/または環境に有害であり得るドーパント材料を含有しない、および、太陽光の影響下で実質的な色の変化を被らないポリマー組成物を含む物品を提供することである。
驚くべきことに、本発明者らは、ニオブドープされた二酸化チタンは、ニオブドープされた二酸化チタンがポリマー材料においてレーザー吸収材料として使用されるとき、ただしニオブドープされた二酸化チタンがポリマー材料と直接接触していない、要求される特徴を満たすことができることを見出した。
ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子は、それ自体知られている。JP 4950651 Bにおいて、樹脂中に分布されているニオブドープされた二酸化チタンの粒子を含有する樹脂組成物が記載される。樹脂は、入射する太陽放射線をある程度遮蔽するために、ガラスラミネートの中間層に使用される。
JP5054330 Bにおいて、導電層をそこに有するコア粒子から構成される粒状導電性粒子粉末が記載され、ここで導電層は、ニオブをドープされた二酸化チタンから構成される。導電性粒子は、導電性インクおよび塗料、ならびに、インクおよび塗料を使用して作られる導電性フィルムのために使用される。
US 5,945,035において、プレートレット状または針状の基体に導電層を有する導電性顔料が記載され、導電層は、ニオブおよび/またはタンタルドープされた二酸化チタンから構成され得る。顔料は、高い電気伝導率を有する淡い不透明な装飾顔料である。
顔料を含有する封入されたニオブドープされた二酸化チタン、および高分子材料におけるレーザー吸収剤としてのそれらの使用は、これまで知られていなかった。
【発明の概要】
【0010】
よって、本発明は、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子、および、粒子を含有するニオブドープされた二酸化チタンを封入する層を含む、封入層が少なくともカルシウム化合物を含む顔料に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
さらにまた本発明は、該顔料の、ポリマー組成物におけるレーザー吸収添加剤としての使用に関する。
加えて本発明は、少なくとも1つのポリマー化合物およびレーザー吸収剤を含む、ここでレーザー吸収剤は、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子、および、粒子を含有するニオブドープされた二酸化チタンを封入する層を含む顔料を含み、封入層が少なくともカルシウム化合物を含むポリマー組成物に関する。
なおさらにまた、本発明は、表面を有する物体からなる、物体が、上記のとおりのポリマー組成物から構成される、またはその表面の少なくとも一部にかかるポリマー組成物を含む、レーザーマーク可能な物品に関する。
第1の側面において、本発明は、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子、および、ニオブドープされた二酸化チタンが、任意のポリマーベースの用途において使用されるとき、それが適用されるポリマーマトリックスと直接接触しないように、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子を封入する、すなわち囲う層を含む顔料に関する。
【0012】
ニオブドープされた二酸化チタンは、それを含有し、および本発明による顔料のコアを提供する固体粒子の形態において本発明において適用され、それにより、コアは、3つの一般的な態様において構造化され得る。
第1の態様において、コア粒子は、ニートのニオブドープされた二酸化チタンからなる。第2の態様において、コア粒子は、基体粒子(基体粒子を有利に囲う)の表面に直接層を有する基体粒子から構成され、層は、ニオブドープされた酸化チタンから構成され、コア粒子の最上層を形成する。第3の態様において、コア粒子は、同様にレーザー吸収材料であり得る別の材料との均質な混合物における、ニオブドープされた二酸化チタンから構成される。
【0013】
好ましい第1の態様において、本発明に従う顔料は、ニートのニオブドープされた二酸化チタンからなるコア粒子を含み、コア粒子は、少なくとも1つのカルシウム化合物を含む層によって封入される。封入層の詳細な組成物は、後に記載されるだろう。
このタイプの顔料は、任意の形状を呈してもよく、および例えば、球形、回転楕円体、または不規則な粒状の形状において提供される。これらの顔料は、0.01から100μmまで、とりわけ0.05から80μmまでの範囲にある粒子サイズを有する。d値(粒子の5体積パーセントが所与の値以下である)は、好ましくは、0.1から5μmまでの範囲にある一方、d95値(粒子の95体積パーセントは、所与の値以下である)は、好ましくは10から60μmまでの範囲にあり、1μmのd値と15μmのd95値との組み合わせが最も好ましい。封入層はコア粒子の形状に従うので、上に言及された顔料の形状は、それぞれのコア粒子の形状にも対応する。
【0014】
第2の実施形態において、本発明に従う顔料は、基体粒子の表面に直接コーティングを有する基体粒子から構成されるコアに基づいており、コーティングは、ニオブドープされた二酸化チタンから構成され、およびコア粒子の最上層を形成する。基体材料として、天然または合成のマイカ、タルクまたはセリサイト、ドープされていないまたはドープされた二酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭素、グラファイト、酸化鉄、硫酸バリウムまたはパール顔料などのシリケート材料が使用され得る。ドープされた二酸化チタンは、ここではAl、Si、Zr、またはMnのドーピングを有する。マイカおよびドープされていない二酸化チタンは、容易に入手可能でありおよび高価ではないため、基体材料として好ましくは使用される。ニオブドープされた二酸化チタン層および基体粒子は、全体の重量に対して、10:90から99:1までの重量比でコア粒子中に存在する。有利には、コア粒子の層:コアの重量比は、コア粒子全体の重量に対して、50:50から95:5の範囲にある。
【0015】
第2の態様に従うコア粒子は、大抵、使用される基体材料の形状を呈する。基体材料は、例えば、プレートレット形状、繊維形状、球状、回転楕円体、レンチキュラー、または不規則な顆粒の形状を有し得る。使用する基材材料に応じて、球形、プレートレット状、または不規則な粒状の形状が好ましい。
ニオブドープされた二酸化チタンの最上層を有するコア粒子は、第1の態様のコア粒子などのカルシウム化合物を少なくとも含む層によって封入される。
このタイプの顔料の粒子サイズはまた、0.01から100μmまでの範囲、とりわけ0.05から80μmまでの範囲にあり得、すでに上で開示されるとおり、0.1から5μmまでの範囲にあるd値、および10から60μmまでの範囲のd95値を呈する。15μmのd95値と組み合わせた1μmのd値が最も好ましい。第2の態様に従う顔料は、好ましくは、基体材料の形状も呈する。
【0016】
第3の態様において、本発明に従う顔料は、ニオブドープされた二酸化チタン、および、それ自体でレーザー光線を吸収しても吸収しなくてもよい少なくとも1つのさらなる材料の混合物からなる顔料コア顆粒の形態において提供され、少なくともカルシウム化合物を含む層により封入される。好ましくは、コア顆粒中に存在する少なくとも1つのさらなる材料もまた、レーザー光線を吸収する。少なくとも1つのさらなる材料は、一般に、カーボンブラック、アンチモン、TiO、Al-、Si-、Zr-、Mn-またはSb-ドープされたTiO、Sb、混合されたSb/Snオキシド、Sb-、F-、またはP-ドープされたSnO、銅水酸化物ホスファート、銅ホスファート、マグネタイト、モリブデンスルフィド、モリブデンオキシドおよび/またはBiOClからなる群から選択され得るが、本発明の目的のために、アンチモンを含まない材料が好ましい。顔料コア顆粒は、ニオブドープされた二酸化チタンと、少なくとも1つのさらなる材料との均質な混合物からなる。顔料は、球形状、回転楕円体、レンチキュラー形状、ソーセージ形状または不規則形状などの任意の形状を呈し得る。言うまでもなく、粒子形状は、それらが形成される技術的手順のためにわずかに変形してもよい。第3の態様に従う顔料の粒子サイズは、0.01から100μmまで、とりわけ0.05から80μmまでの範囲にあり、0.1から5μmまでの範囲にあるd値および10から60μmまでの範囲にあるd95値を呈する。15μmのd95値と組み合わせた1μmのd値が最も好ましい。
【0017】
第2および第3の態様において、本発明に従う顔料のコア粒子におけるニオブドープされた二酸化チタンの含有量は、コア粒子全体の重量に基づいて、少なくとも10重量%である。有利には、ニオブドープされた二酸化チタンの含有量は、顔料がポリマー組成物におけるレーザー吸収添加剤として使用されるとき、ニオブドープされた二酸化チタンの利点を保証するために、コア粒子全体の重量に基づき、10~99重量%、とりわけ30~95重量%、好ましくは40~90重量%、およびとくに50~80重量%である。
上に記載の3つのすべての態様おいて、ニオブドープされた二酸化チタンにおけるニオブのパーセントモル比は、チタンのモル質量に基づき、0.05から15%までの範囲にある。とりわけ、ニオブのモル比のパーセンテージは、チタンのモル質量に基づいて、0.1から10%まで、とりわけ0.3から5%までの範囲にある。
【0018】
本発明の目的のために、粒子サイズは、顔料の最長軸の長さであるとみなされる。粒子サイズは、原則として、当業者によく知られている粒子サイズ決定のための任意の方法を使用して決定され得る。粒子サイズの決定は、レーザー感受性顔料のサイズに応じて、単純なやり方で、例えば直接観察および高分解能光学顕微鏡における数多の個々の粒子の直接観察および測定によって行われ得るが、走査型電子顕微鏡(SEM)または高分解能電子顕微鏡(HRTEM)などの電子顕微鏡だけでなく、原子間力顕微鏡(AFM)もまたより良好であり、後者は各場合において好適な画像分析ソフトウェアを備える。粒子サイズの決定は、有利には、レーザー回折の原理で動作する測定器械(例えば、Malvern Mastersizer 3000、APA300、Malvern Instruments Ltd.、UK)を使用して行われてもまたよい。これらの測定器械を使用して、粒子サイズおよび体積内の粒子サイズ分布の両方は、標準的な方法(SOP)の顔料懸濁液から決定され得る。本発明に従って、最後に述べた測定方法が好ましい。
【0019】
上に言及された3つのすべての態様において、本発明による顔料において、それを囲うコア粒子の上に直接的に存在する封入層に関して、それは、カルシウム化合物を少なくとも含む。本発明に従って、カルシウム化合物は、好ましくはCaO、またはCaCOと混合されたCaO、CaTiOと混合されたCaO、または、CaCOおよびCaTiOと混合されたCaOである。好ましくは、封入層は、封入層の重量に基づき、少なくとも80重量%の少なくとも1つのカルシウム化合物のパーセント重量含有量を含む。20重量%までの残りのパーセンテージは、さらなる金属酸化物またはさらなる金属酸化物から構成され得、ここで、金属は、Zr、Ce、Si、Al、ZnおよびVからなる群から選択される。金属酸化物(単数または複数)は、封入層の重量に基づいて、0から20重量%までの範囲に、好ましくは0から10重量%までの範囲にある。対応して、カルシウム化合物の含有量は、封入層の重量に基づいて、80から100重量%までの範囲に、好ましくは90から100重量%までの範囲にある。
【0020】
本発明に従って、少なくとも1つのカルシウム化合物を含む封入層は、0.5~1000nmの範囲、好ましくは1~200nmの範囲、とくに3~150nmの範囲にある厚さを有する。
封入層のパーセント重量含有量は、コア粒子の重量に基づき、1から30重量%までの範囲にある。
封入層は、本発明に従う顔料のコア粒子を囲い、および封入し、およびよってコア粒子に含まれるニオブドープされた二酸化チタンが、本発明に従う顔料が使用されるとき、適用媒体と直接接触することを防ぐ。これは、ニオブドープされた二酸化チタンの主な化合物である二酸化チタンはある光触媒特性を呈することが知られているので、任意の適用媒体において有利であるが、このために大抵使用されるほとんどのポリマーは、二酸化チタンがそれぞれのポリマー組成物に存在する場合、太陽光、とくにUV光に想定される(supposed to)とき分解するため、ポリマー組成物における本顔料のレーザー吸収添加剤としての使用に関してとくに有利である。
【0021】
驚くべきことに、ニオブドープされた二酸化チタンのレーザー吸収特性は、封入層によって損なわれない。加えて、ニオブドープされた二酸化チタンの淡い色は、少なくともカルシウム化合物を含む封入層によって暗くならない。
本発明に従う顔料のコア粒子に使用されるニオブドープされた二酸化チタンは、当技術分野で知られているとおりに生産されることができる。この目標のために、チタン化合物の溶液、およびニオブ化合物の脱イオン水中の溶液は、酸の助けをもって約2.0の範囲にてpHを設定しながら、容器内に堆積される。溶液は、約50~95℃の温度にて加熱されおよび一定に保たれ、および、pHは、約0.5~5時間にわたって塩基を添加することにより一定に保たれる。対応するニオブドープされた二酸化チタン水和物の沈殿の後、その結果得られる生成物は濾過され、洗浄され、および乾燥される。酸化物水和物を酸化物に変換するために、乾燥された生成物は、500から1100℃までの範囲にある温度にて5分から5時間までにわたってか焼される。か焼後、要求される場合、その結果得られる生成物は、製粉されてもよい。
【0022】
原材料として、無機水溶性原材料は好ましい。実例として、チタン原材料は、TiCl、TiCl、TiOSOまたはペルオキソチタン酸塩であり得る。ニオブ原材料として、例として、NbCl、Nb、NbOまたはペルオキソニオブ酸塩が使用されてもよい。アルカリ性溶液の生産のために、NaOHまたはNaCOが使用されてもよい。酸として、大抵HClが使用される。言うまでもなく、他の好適な原材料もまた使用されてもよい。安価、および水性媒体を容易に取り扱う生産プロセスを実行できるようにするために、水溶性無機材料が好ましい。
基体粒子にニオブドープされた二酸化チタン層を含有する顔料の産生は、例えば、US 5,945,035に記載されるとおりに実行され得る。ここでも同様に、最終的なか焼ステップが実行され得る。
【0023】
本発明に従う顔料の産生のために、ニオブドープされた二酸化チタンを含有するコア粒子は、少なくともカルシウム化合物を含む封入層によって封入される。好ましくは、カルシウム化合物は、生産ルートに応じて、CaO、またはCaOとCaCOおよび/またはCaTiOとの混合物である。任意の水溶性カルシウム化合物、とくに無機カルシウム塩は、封入層の産生のために使用され得る。好ましくは、CaClまたはCa(NOが使用される。Zr、Ce、Si、Al、ZnまたはVの少量の水溶性塩もまた存在し得る。
コア粒子は、6.5から7.5までの範囲にある、好ましくは約7.0のpHの水溶液にそれらを分散させ、および、50~100℃の範囲の温度にてpHを一定に保ちながら、水溶性カルシウム塩ならびにH、NaCOまたはKCOを添加することにより、カルシウム化合物含有層でコーティングされる。反応が完了した後、分散体は濾過され、および固体は洗浄され、および乾燥される。その後、中間カルシウム生成物を、600から1000℃までの範囲にある温度にてCaOあるいはCaCOおよび/またはCaTiOと混合されたCaOに変換するために、固体粒子は、少なくとも1つのか焼ステップを想定される(supposed to)。
【0024】
コア粒子のか焼、およびニオブドープされた二酸化チタンを含有する封入されたコア粒子のか焼は、空気中、不活性ガス雰囲気中、または還元ガス雰囲気中で起き得る。驚くべきことに、コア粒子に含有されるニオブドープされた二酸化チタン水和物またはニオブドープ二酸化チタンが還元雰囲気においてか焼される場合、このか焼ステップが、ニオブドープされた二酸化チタン水和物が生成される直後に、または、カルシウム化合物を含む封入層で同じものの封入の後に行われるかに関わらず、レーザー吸収材料としての性能は、同じ生成物を周囲条件下または不活性ガス雰囲気でか焼した後よりも良好であるということが判明した。理論に拘束されることなく、還元雰囲気でか焼が実行されるとき、その結果得られる二酸化チタンの結晶格子にいくつかの酸素欠陥が生じ、その結果得られるニオブドープされた二酸化チタンのレーザー吸収性能が拡大し得ると想定される。
【0025】
ニオブドープされた二酸化チタン水和物は、ワンポット反応で封入層を含むカルシウム化合物で封入する直前に生成される場合、中間のか焼ステップを省略して、最終的なか焼のみが実行されてもよい。反応時間および労力に関して、この手順が好ましい。
次いで、好ましくは、最終的なか焼は、2ステップで行われるべきである。最初に、空気中でのか焼ステップは、コア粒子の二酸化チタン水和物および封入層の酸化カルシウム水和物または炭酸カルシウム水和物をそれぞれの酸化物に変換するために行われるべきである。痕跡量のCaCOおよび/またはCaTiO3もまた封入層に存在してもよい。次に、第2のか焼ステップにおいて、上に言及されるとおり、その結果得られる二酸化チタンの結晶格子において酸素欠陥を生成させるために、さらなるか焼は、還元ガス雰囲気として当技術分野で一般に知られている還元N/HまたはHガス雰囲気中において起きるべきである。還元条件下でのか焼ステップの温度は、600から1000℃までの範囲において調整されるべきである。
【0026】
レーザー吸収添加剤としての使用に先立って、還元条件下でか焼ステップに供される本顔料、すなわち、ニオブドープされた二酸化チタンを含有する粒子、および、粒子を含むニオブドープされた二酸化チタンを封入する層を含む、カルシウム化合物を含む顔料は、本発明に従って好ましい。
第2の側面において、本発明は、ポリマー組成物におけるレーザー吸収添加剤としての上に記載の顔料の使用に関する。添加剤として本発明に従う顔料のポリマー組成物への添加により、マーキングされる物品に含有されるポリマー組成物の総重量(後者はポリマー組成物を使用することによって生成される)に基づき、とりわけ0.001~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、および極めて好ましくは0.05~3重量%の濃度において、物品の表面のダークな青色がかったまたは黒色がかったレーザーマークにおける高いコントラストが達成され、色において、同等の濃度にて市販の吸収剤を使用して作られるレーザーマークより純粋な黒に比較的近い。
【0027】
さらにまた、ポリマー組成物自体は、太陽放射線を想定(supposed to)されるとき、先行技術の粒子を含有する二酸化チタンを含有するポリマー組成物より、たとえあるとしても、はるかに少ない太陽光への曝露による色の変化を呈する。加えて、レーザー吸収添加剤自体は、人々の環境および健康に不利であり得、およびさらにまた、良好な耐熱性である物質を含まず、後者は、生産される対応する物品が、その生産および/または使用の任意の点にて高温度に曝露される場合に重要である。該濃度は、所望されるコントラストだけでなく、使用媒体の層の厚さにも依存する。よって、十分な数の顔料粒子をレーザービームに提供するために、プラスチック体においてより、プリントおよびコーティング塗布において、有意に高い濃度が必要である。
【0028】
しかしながら、本発明による顔料の濃度は、ポリマーにおけるまたはポリマーシステムにおける、好ましくは熱可塑性体、熱硬化性体、エラストマーまたはシリコーンにおいてレーザー添加剤として使用されるとき、採用されるポリマー材料にもまた依存する。レーザー顔料の低い割合は、ポリマーシステムをわずかに変化させ、およびそのプロセス性に影響を与えない。本発明の著しい利点は、それで生成される商品において、良好な品質、鮮明さ、およびダークな黒色がかった色のコントラストのあるレーザーマークを達成するために、低濃度のみの本発明のレーザー添加剤が必要であるということである。本顔料は淡いボディカラーを呈し、および要求されるな濃度が低いため、それとともに提供されるポリマー組成物は、黄色がかったよりもむしろ白色がかったまたは明るい青色がかった、明るいボディカラーも呈し得る。
【0029】
さらにまた、本発明に従うレーザー吸収添加剤の他にも、着色剤がポリマーに添加されてもよく、すべてのタイプの色の変化を可能にし、および同時にレーザーマークの保持を確実にする。好適な着色剤は、とりわけ、レーザーマーク中に分解せず、およびレーザー光の下で反応しない着色金属酸化物顔料および着色有機顔料および染料である。
任意に、ポリマー組成物において大抵使用される任意の種類の溶媒、充填剤および他の添加剤は、上に記載のとおりの顔料を組み込んだポリマー組成物中の着色剤と組み合わせて、または代替的に存在し得る。好適な充填剤および添加剤は、例えば、難燃剤、抗酸化剤、光安定剤、プロセス助剤、無機充填剤等々である。
【0030】
本発明のポリマー組成物のために好適なポリマー材料は、すべての知られるポリマー、とくにマーキングに要求される程度までレーザー光線を吸収しないもの、とりわけ熱可塑性体、さらにまた、Ullmann, Vol. 15, pp. 457 ff., Verlag VCHに記載されるとおり、熱硬化性体およびエラストマーである。好適なポリマーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステル-エステル、ポリエーテル-エステル、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリラート(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルケトン、および、例えばPC/ABS、MABSなどの、そのコポリマー、混合物および/またはポリマーブレンドである。
【0031】
好適な熱硬化性ポリマーは、例えば、ポリウレタン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、および特定のポリエステル樹脂である。
レーザー光の作用下では炭化することはできないが、シリコーン樹脂およびポリシロキサンもまた有用である。
本発明による顔料は、ポリマー顆粒、コーティング組成物またはプリントインクを顔料と混合し、および任意に熱の作用下で混合物を変形させることによって、マーキングされる所望の物品のための出発材料であるポリマー組成物に組み込まれ、後者は、好ましくは、成形されたプラスチック物品またはプラスチックフィルム、またはその表面に固化したポリマーコーティングを含む任意の材料の物体、例えば固化した塗料またはペーパーコーティング、または粉末コーティング、固化した自動車用塗料またはプリントインク等々である。顔料は、ポリマー組成物に同時にまたは連続して添加され得る。作業条件下で温度安定性である接着剤、有機ポリマー相溶性溶媒、安定剤および/または界面活性剤は、顔料の組み込み中に、任意にポリマー組成物、好ましくはプラスチック顆粒に添加され得る。
【0032】
本発明に従う顔料のプラスチック顆粒への組み込みは、例えば、配合することによって、マスターバッチを介して、ペーストを介して、または成形プロセスステップ中の直接添加(直接顔料沈着)によって起き得る。例えば、プロエシング助剤、抗酸化剤、潤滑剤、安定剤、難燃剤、充填剤、および着色顔料の群から選択されるものなどの1以上の添加剤は、任意に、好ましくは開始ポリマーに、顔料の組み込み中のプラスチック顆粒の形態で添加され得る。ドープされたプラスチック顆粒の実験室での調製は、一般に、最初にプラスチック顆粒を好適なミキサーに導入し、それらを1つ以上の分散助剤で湿らせ、および次いで本顔料および要求される着色顔料を添加することによって組み込むことによって行われる。工業的慣行において、ポリマー組成物の着色およびポリマー組成物への添加剤の添加は、大抵、着色濃縮物(マスターバッチ)または化合物を介して行われる。このために、着色顔料および添加剤は、押出機(大抵は共回転二軸スクリュー押出機)で高剪断力で溶融プラスチックに分散される。プラスチック溶融物は、押出機ヘッドの穴あきプレートを通って出て、および好適な下流デバイス(例えば、ストランドペレット化プロセスまたは水中造粒)によって顆粒に変換される。よって得られた顆粒は、押出機または射出成形機で直接さらにプロセス化され得る。プロセシング中に形成された成形物は、本顔料の極めてに均一な分布を呈する。続いて、適切なレーザーを使用してレーザーマークが行われる。
【0033】
ポリマー組成物のポリマー材料がポリマーバインダーであり、および、ポリマー組成物がコーティング組成物またはプリントインクである場合、本発明の顔料は、対応するポリマーバインダーと、および任意に、溶媒および/またはコーティングおよびプリントシステムで通常使用される他の添加剤および充填剤と単に混合されてもよい。
本発明は、第3の態様においてもまた、上に記載の本発明に従う少なくとも1つのポリマー化合物および顔料を含むポリマー組成物に関する。少なくとも1つのポリマー化合物は、上に開示される群から選択される。ポリマー混合物および/またはそれらのコポリマーもまたしばしば使用される。本発明に従うポリマー組成物は、好ましくはレーザー吸収添加剤として使用される本顔料の他にも、既に上に記載のポリマー組成物に大抵使用されるさらなる添加剤および/または充填剤を含み得る。任意に、溶媒もまた存在し得る。本発明に従うポリマー組成物のためのポリマー化合物は、熱可塑性体、熱硬化性体、エラストマーまたはシリコーン材料である。
【0034】
コア粒子においてニオブドープされた二酸化チタンを、および少なくともカルシウム化合物を含むコア粒子に封入層を含む本発明による顔料は、ポリマー組成物の総重量に基づき、ポリマー組成物中に0.001から20重量%まで、好ましくは0.01から10重量%まで、および極めてとくに好ましくは0.05から3重量%までの割合で存在する。本発明の大きな利点は、太陽放射線に曝露されるとき、色が大きく変化しない明るい色のポリマー組成物を提供しながら、レーザー吸収添加剤として使用される本発明の顔料のほんの少量でさえ、本発明によるポリマー組成物から構成されるかまたはそれを含有する、その結果得られる物品に極めて鮮明でコントラストのあるダークマーキングをもたらすことができることである。
【0035】
第4の態様において、本発明は、レーザーマーク可能な物品にも関し、それにより、物品は、表面を有する物体からなり、物体または少なくともその表面は、上記のようなポリマー組成物から構成される。物体は任意の形状を有してもよく、およびそれ自体で関心のある対象の一部または対象それ自体、つまり所望される商品である。物体は、少なくとも物体の表面が、レーザー吸収添加剤として本顔料を含有するポリマー組成物から構成されるまたは含む限り、および、物体材料が、要求されたレーザーマークを生成するために必要なレーザー作用の温度に耐えることができる限り、任意のポリマー材料、レーザー吸収添加剤として本顔料を含むポリマー組成物、金属、木材、紙、ボール紙などから構成され得る。該物品は、レーザーマーク添加剤顔料の含有量のためにレーザーマーク可能である。この目標のために、レーザーマークは、少なくとも物品の表面に有利に存在する。対応するレーザーマークは、太陽放射線による励起によって色において有意に変化しない、物品の明るい表面または着色された表面に高コントラストの鋭い黒色がかったまたはダークな青色がかったマーキングである。マーキングの暗さは、とりわけ、ポリマー組成物中のレーザー吸収顔料の実際の濃度、およびある程度、使用されるレーザー装置に依存する。
【0036】
優れた光学特性、コントラストおよびエッジの鮮明さの他にも、ポリマー組成物、および結果的に本発明に従うレーザーマーク可能な物品における細かく分割されたレーザー吸収顔料は、迅速なマーキングを可能にし、およびレーザー設定に基づく大きなプロセスウィンドウを提供する。
レーザーを使用する本発明に従うポリマー組成物を含む物品の刻印は、検体をパルスレーザー、好ましくはNd:YAGレーザーVO4レーザーまたは1064nmファイバーレーザーの光線経路に入れることによって行われる。さらにまた、例えばマスキング技法を介して、エキサイマーレーザーを使用する刻印は可能である。しかしながら、所望の結果はまた、使用される顔料の高い吸収の領域に波長を有する他の従来のタイプのレーザーを使用して達成することもできる。得られるマーキングは、照射時間(またはパルスレーザーの場合においてパルスカウント)とレーザーの照射パワー、および使用するポリマーシステムによって決まる。使用されるレーザーの出力は、特定の用途に依存し、当業者によってケースバイケースに基づき容易に決定され得る。
【0037】
使用されるレーザーは、一般に、100nmから32μmまでの範囲にある、好ましくは355nmから10.9μmまでの範囲にある、および最も好ましくは800nmから1200nmまでの範囲にある波長を有する。ここで、例えば、COレーザー(約10.6μm)、Nd:YAGレーザー(約1064nm)、YVOレーザー(約1064nm)、ファイバーレーザー(約1064nm)、緑色レーザー(532nm)、UVレーザー(355nm)または半導体ダイオードレーザー(405-3330nm)について言及され得る。エキシマレーザーは以下の波長を有する:F2エキシマレーザー(157nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)、KrClエキシマレーザー(222nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、XeClエキシマレーザー(308nm)、およびXeFエキシマレーザー(351nm)。
【0038】
最も好ましくは、レーザーは、約1064nmの波長をもつパルス近赤外レーザーである。ファイバーレーザー、YAGレーザー、YVOレーザーは、このクラスのレーザーに属する。レーザーは、ナノ秒からフェムト秒の範囲のパルス幅でパルスされる。本発明に従うプロセスにおいて使用され得る対応するレーザーは市販されている。
本発明に従う顔料を含むポリマー組成物は、従来のプリントプロセスまたはレーザーマークプロセスがこれまでプラスチックの刻印に使用されてきたすべての分野で使用され得る。例えば、本発明に従うポリマー組成物から作られる、またはポリマー組成物を含む成形組成物、半製品、および完成部品は、電気、電子、および自動車産業で使用され得る。例えば、加熱、換気および冷却セクターにおけるケーブル、パイプ、装飾ストリップまたは機能部品、あるいはレーザー吸収添加剤として本顔料を含むポリマー組成物からなるスイッチ、プラグ、レバーおよびハンドルのラベル付けおよび刻印は、接近が困難な場所においてさえレーザー光を用いて行われ得る。さらにまた、本発明に従うポリマー組成物は、食品部門または玩具部門の包装に使用され得る。その表面にコーティング層またはプリントインク層を産生するために本発明のポリマー組成物を使用することによって製造することができるほとんどすべての物品もまた製造されても、およびレーザーマークを備えていてもよい。これは、とくに証券および識別アプリケーション(クレジットカード、識別プレート、ラベル)または広告アプリケーション(ロゴ、装飾要素、販促物品)に属する。包装、証券、または広告製品のマーキングは、それらが長持ちし、拭き取りや引っかき傷に強いという事実によって際立つ。包装用途のために、それらはその後の滅菌プロセス中にも安定であり、マーキングプロセス中に衛生的に純粋な方法で適用できることがさらに有利である。完全なラベル画像は、再利用可能なシステムのパッケージに恒久的に適用され得る。さらに、本発明によるポリマー組成物は、医療技術、例えば、ペトリ皿、マイクロタイタープレート、使い捨て注射器、アンプル、サンプル容器、供給管、および医療収集バッグまたは貯蔵バッグのマーキングに使用することができる。
【0039】
レーザー刻印のためのさらに重要な適用エリアは、動物を個別にラベル付けするためのプラスチックタグ、いわゆる牛タグまたは耳タグである。バーコードシステムは、具体的には動物に属する情報を保存するために使用される。これは、スキャナーを用いて要求されるとおりに読み取ることができる。タグはときには何年もの間動物に残るので、刻印は極めて耐久性がなければならない。
【0040】
よって、本発明によるポリマー組成物からなる成形組成物、半製品および完成部品、または、少なくともその表面に後者を含む物品のレーザーマークが実行可能である。
ポリマー組成物におけるレーザー吸収添加剤としての本発明に従う顔料の使用は、明るい色のポリマーにおいてコントラストフルなダークなマーキングの創作を可能にし、マーキングは茶色がかった色合いを呈しないが、市場で所望される暗黒から青色がかったマーキングでありながら、その結果得られる物品は、人々の環境および健康に有害であり得るアンチモンを含有する必要はない。さらに、ポリマー組成物から作られた物品は、レーザー添加剤が光触媒的に活性な二酸化チタンを含むが、太陽放射線によって励起されるとき、それらの色を有意に変化させない。さらにまた、本発明による極めて少量のレーザー添加顔料の含有量は、高いパルス速度での迅速なマーキングを可能にし、およびレーザー設定に基づく大きなプロセスウィンドウを提供する。
以下の実施例は、本発明を説明することを意図しているが、それを限定するものではない。示されているパーセンテージは重量パーセントである。
【0041】
例1:
CaO-封入層(H -ルート)を有するNb-ドープされたTiO 粒子
1.6lの脱イオン水を反応槽内で約75℃の温度に加熱する。溶液のpHをHCl(35%)で1.8に調整する。次いで、374gHCl(35%)中の8.83gのNbCl粉末および1490mlのTiCl溶液(416g/l)の溶液を、NaOH(32%)でpHを1.8に保ちながら、ゆっくりと出発溶液に滴下する。反応が達成される後、NaOH(32%)を添加することによりpHを7.0に調整し、およびその結果得られる分散体の温度を80℃に上昇させる。次いで、25.27gのCaCl 2HO、50.85gの脱イオン水、および98.3gのH(30%)の水性混合物を、pHを一定に保ちながら添加する。反応は約1.5時間以内に終了する。最終的に、固体をろ過し、脱イオン水で洗浄し、および105℃にて数時間乾燥させることにより、酸化カルシウム水和物でコーティングされたNbドープされた酸化チタン水和物粉末が得られる。乾燥粉末を電気炉で850℃にて7分間か焼する。その後、か焼粉末を還元条件(1%Hガス)下、700℃にて10分間再度か焼する。
ニオブドープされた二酸化チタンのコア粒子および酸化カルシウムの封入層を含む顔料が得られる。
【0042】
例2:
CaO封入層(Na CO -ルート)を有するNb-ドープされたTiO 粒子
1.6lの脱イオン水を反応槽内で約75℃の温度に加熱する。溶液のpHをHCl(35%)で1.8に調整する。次いで、374gHCl(35%)中の8.83gのNbCl粉末および1490mlのTiCl溶液(416g/l)の溶液を、NaOH(32%)でpHを1.8に保ちながら、ゆっくりと出発溶液に滴下する。反応が達成される後、NaOH(32%)を添加することによりpHを7.0に調整し、およびその結果得られる分散体の温度を80℃に上昇させる。次いで、25.27gのCaCl 2HO、246gの脱イオン水、および24.65gのNaCOの水性混合物を、pHを一定に保ちながら添加する。反応は約1.5時間以内に終了する。最終的に、固体をろ過し、脱イオン水で洗浄し、および105℃にて数時間乾燥させることにより、酸化カルシウム水和物でコーティングされたNbドープされた酸化チタン水和物粉末が得られる。乾燥粉末を電気炉で850℃にて7分間か焼する。その後、か焼粉末を還元条件(1%Hガス)下、700℃にて10分間再度か焼する。
ニオブドープされた二酸化チタンのコア粒子および酸化カルシウムの封入層を含む顔料が得られる。
【0043】
比較例1:
封入層をもたない、Nb-ドープされたTiO 粒子
1.6lの脱イオン水を反応槽内で約75℃の温度に加熱する。溶液のpHをHCl(35%)で1.8に調整する。374gHCl(35%)中の8.83gのNbCl粉末および1490mlのTiCl溶液(416g/l)の溶液を、NaOH(32%)でpHを1.8に保ちながら、ゆっくりと出発溶液に滴下する。反応が達成される後、NaOH(32%)を添加することによりpHを7.0に調整する。最終的に、固体をろ過し、脱イオン水で洗浄し、および105℃にて数時間乾燥させる。か焼粉末を還元条件(4%Hガス)下、710℃にて30分間か焼する。
ニオブドープされた二酸化チタン粒子が得られる。
【0044】
レーザーマーク特性の評価
例1および2、および比較例1に従う0.06gの顔料を、プラネタリーミキサー(ARV-310、シンキー社)中で真空下で19.94gのPVC T-ゾル化合物(Nippon Pigment Co.の製品)と混合する。混合物を0.1mmのPETフィルムにコーティングし、180℃にて3分間乾燥させる。各試験片は、約0.5mmの全体の厚さを有する。
コーティング組成物中の顔料の濃度は、コーティング組成物全体の重量に基づき、0.3重量%である。
本発明による顔料の代わりに、レーザー吸収顔料としてIriotec(登録商標)8825(Merck KGaAのレーザー顔料、マイカ基体上のアンチモンドープされた酸化スズ)を使用して、さらなる比較サンプル(比較例2)を調製する。その含有量もまた、全コーティング組成物の重量に基づき、0.3重量%である。
コーティングされたプラスチックフィルムは、標準条件下で1064nmファイバーレーザー(Panasonic SunxのLP-V10U)で照射され、試験グリッドを形成する。
最大出力:15W
パルス周波数:20KHz-100KHz
【0045】
【表1】
【0046】
例は、本発明による顔料が、レーザー吸収添加剤として使用されるとき、それに封入層を有しないニオブドープされた二酸化チタン粒子と同じ優れたレーザーマーク能力を呈することを表す。レーザーマークの色は、所望されるとおりの青色がかった黒色である。レーザーマーク能力は、市販の比較生成物より優れている。
【0047】
マーキングおよび試験試料の色特性の評価
光安定性試験
例1および2、および比較例1に従う2gの顔料を、プラネタリーミキサー(ARV-310、シンキー社)中で真空下で18gのPVC T-ゾル化合物(Nippon Pigment Co.の製品)と混合する。混合物を0.1mmのPETフィルムにコーティングし、180℃にて3分間乾燥させる。各試験片は、約0.5mmの全体の厚さを有する。
同じサイズ、および形状を有する3片の試験片を調製する。試験片の色を、色測定器((CR-400、Konica Minolta Co.)で測定する。試験片をサンプルプレート上に互いに隣接して配置する。人工太陽光を発するキセノンランプ(XC-500、Seric Co.)を試験片の真上45.5cmの距離に配置する。次いで、各試験片の半分をアルミホイルでカバーする。次いで、アルミホイルでカバーされていない各試験片の残りのエリアをキセノンランプからの光に曝露する(30.000 lux、30分)。
次いで、太陽光に曝露されているエリア部分と太陽光にさらされていないものとの色の違いを評価する。色の違いはデルタE(ΔE、各試験片の曝露部分および非曝露部分のL *、a * b *値を使用して比色計で計算)として示される。
光安定性試験:
【0048】
【表2】
【0049】
試験は、本顔料を含有するポリマー化合物が、封入されていないニオブをドープした二酸化チタン粒子を含有するポリマー化合物とは対照的に、太陽放射線の曝露に起因する色の有意な変化を呈しないことを表す。
【0050】
試験試料およびマーキングの明るさ:
試料を、上に記載のレーザーマーク評価の手順に対応して調製する。
【0051】
レーザーマーク自体の明度値L(ダークマーキングを得るためには可能な限り低くしなければならない)と、それぞれの試験フィルムの透明度(透明度が高いほど良い)を測定する。加えて、コーティングにレーザー添加剤を含有する試験フィルムの色データ(L、a、b)は、可能な限りニュートラルであるべきである。

比色測定を、15Wバナデートレーザー(Trumpf VectorMark 5)、80%出力、速度2000 mm / s、周波数80 kHz、ライン距離50 μm(代替モード)でマークされた、それぞれ20 mm x 20mmのピースで実施する。比色評価を、Konica Minolta CR-400色測定器を使用して実施する。
【0052】
【表3】
【0053】
試験フィルムの透明度は、以下のとおりに算出する:
透明度=[L値(白色背景)-L-値(黒色背景)]/L-値(白色背景)×100%
【0054】
例3-5
シリコーン試験プレートにおけるレーザーマーク:
シリコーンポリマーは、レーザー光に曝露されるときに炭化することができないため、シリコーンポリマーにおけるレーザーマークは、固有のレーザー活性を呈するレーザーマーク顔料を使用することによってのみ得ることができる。
本発明による顔料は、シリコーンポリマープレートにおいて試験される。この目標のために、Silopren LSP 2530のシリコーンプレートを調製し、それぞれシリコンプレートの重量に基づき、0.1重量%(例3)、0.3重量%(例4)、および0.5重量%(例5)の、例1に従う本顔料の含有量を有する。シリコンプレートを、15Wのバナジン酸塩レーザー(Trumpf VectorMark 5)、99%の出力、速度1000mm/s、周波数16kHzでマークする。各場合において数cmの長方形を調製する。レーザー吸収は、レーザー吸収顔料の含有量の増加とともに上昇し、例4および5において、明るい背景にコントラストのあるダークマーキングが良好かつ優れた品質でもたらされる。
レーザー吸収顔料を含有するシリコン試験プレートを、コーティングにおけるレーザー吸収顔料を含有するコーティングされた試験フィルムの代わりに使用することを除いて、白と黒の背景上のレーザーマークおよび試験プレートのL値を、上記の例1、2および比較例1と2と同様に測定する。

以下の結果が達成される:
【0055】
【表4】
【0056】
試験プレートの各々は、明確に可視のダークレーザーマークを呈し、それにより、例4および5に従うレーザーマークは、良好なコントラストを有する、とくに所望されるダークさである。加えて、試験プレートの透明性は許容できるままであり、一方試験プレートの色は、高度に所望される淡い青色がかった白色である。