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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】エッチング方法およびエッチング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20231201BHJP
   C23F 1/12 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
C23F1/12
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021563782
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040468
(87)【国際公開番号】W WO2021117368
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019222355
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】戸田 聡
(72)【発明者】
【氏名】新藤 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】立花 光博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春菜
(72)【発明者】
【氏名】楊 元
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-502253(JP,A)
【文献】特開平03-093223(JP,A)
【文献】米国特許第08658511(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0050807(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
C23F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともモリブデン膜またはタングステン膜とシリコン含有物とを有し、前記モリブデン膜または前記タングステン膜が露出した状態の基板をチャンバー内に設ける工程と、
前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して前記モリブデン膜または前記タングステン膜を前記シリコン含有物に対して選択的にエッチングする工程と、
を有し、
前記エッチングする工程は、酸化が優位になるような条件でモリブデン膜またはタングステン膜をエッチングすることを含み、エッチング面の空孔の拡張を抑制する、エッチング方法。
【請求項2】
前記エッチングする工程は、前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して前記モリブデン膜または前記タングステン膜をエッチングする第1段階と、前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給し、前記酸化が優位になるような条件に切り替えて前記モリブデン膜または前記タングステン膜をエッチングする第2段階とを有する、請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記酸化が優位になるような条件によるエッチングは、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスを同時に供給し、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスの流量比を調整することにより、酸化を優位にする、請求項1または請求項2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記酸化が優位になるような条件によるエッチングは、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスをシーケンシャルに供給し、前記酸化ガスを供給する時間と前記六フッ化物ガスを供給する時間の比を調整することにより、酸化を優位にする、請求項1または請求項2に記載のエッチング方法。
【請求項5】
少なくともモリブデン膜またはタングステン膜とシリコン含有物とを有し、前記モリブデン膜または前記タングステン膜が露出した状態の基板をチャンバー内に設ける工程と、
前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して前記モリブデン膜または前記タングステン膜を前記シリコン含有物に対して選択的にエッチングする工程と、
を有し、
前記エッチングする工程は、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスとを同時に供給する段階と、
前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスとを同時に供給する段階に先立って行われる、前記酸化ガスを供給する段階を有る、エッチング方法。
【請求項6】
前記エッチングする工程において、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスとを同時に供給する際の前記六フッ化物ガスと前記酸化ガスとの比は、10:90~99.9:0.1の範囲である、請求項5に記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記六フッ化物ガスは、MoFガス、WFガス、SFガスから選択された少なくとも一種である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記酸化ガスは、Oガス、Oガス、NOガス、NOガスから選択されたものである、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項9】
前記モリブデン膜または前記タングステン膜の、前記シリコン含有物に対するエッチング選択比は50以上である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項10】
前記モリブデン膜または前記タングステン膜の、前記シリコン含有物に対するエッチング選択比は450以上である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項11】
前記基板は、さらに前記モリブデン膜または前記タングステン膜の下地にバリア膜としてAl膜およびTiN膜の少なくとも一方を含んでおり、前記モリブデン膜またはタングステン膜の、前記Al膜および前記TiN膜の少なくとも一方に対するエッチング選択比は50以上である、請求項または請求項10に記載のエッチング方法。
【請求項12】
前記シリコン含有物は、Si膜、SiO膜、SiN膜の少なくとも一種である、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項13】
前記エッチングする工程における前記チャンバー内の圧力は、133.3~93326Paの範囲である、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項14】
前記エッチングする工程における基板の温度は、50~500℃である、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項15】
前記六フッ化物ガスがMoFガスである場合に、前記エッチングする工程における基板の温度は、50~300℃である、請求項14に記載のエッチング方法。
【請求項16】
前記六フッ化物ガスがWFガスである場合に、前記エッチングする工程における基板の温度は、200~500℃である、請求項14に記載のエッチング方法。
【請求項17】
少なくともモリブデン膜またはタングステン膜とシリコン含有物とを有し、前記モリブデン膜または前記タングステン膜が露出した状態の基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内で前記基板を載置する載置台と、
前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給するガス供給部と、
前記チャンバー内を排気する排気部と、
前記載置台上の基板の温度を調節する温調部と、
制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記モリブデン膜または前記タングステン膜が前記シリコン含有物に対して酸化が優位になるような条件で選択的にエッチングされ、エッチング面の空孔の拡張が抑制されるように、前記ガス供給部と、前記排気部と、前記温調部とを制御する、エッチング装置。
【請求項18】
少なくともモリブデン膜またはタングステン膜とシリコン含有物とを有し、前記モリブデン膜または前記タングステン膜が露出した状態の基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内で前記基板を載置する載置台と、
前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給するガス供給部と、
前記チャンバー内を排気する排気部と、
前記載置台上の基板の温度を調節する温調部と、
制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスとを同時に供給する段階と、前記酸化ガスと前記六フッ化物ガスとを同時に供給する段階に先立って行われる、前記酸化ガスを供給する段階とにより前記モリブデン膜または前記タングステン膜が前記シリコン含有物に対して選択的にエッチングされるように、前記ガス供給部と、前記排気部と、前記温調部とを制御する、エッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法およびエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体記憶装置には、導電体膜としてタングステン(W)膜が用いられており、最近では、モリブデン(Mo)膜も用いられている。W膜等の導電体膜のエッチングには、一般的にプラズマエッチングやウエットエッチングが用いられ、例えば、特許文献1には、Clガス、Oガス、Nガスを用いたプラズマエッチングによりタングステン膜をシリコン含有膜に対して選択的にエッチングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-250570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、モリブデン膜またはタングステン膜をシリコン含有膜に対して高選択比でエッチングすることができるエッチング方法およびエッチング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るエッチング方法は、少なくともモリブデン膜またはタングステン膜とシリコン含有物とを有し、前記モリブデン膜または前記タングステン膜が露出した状態の基板をチャンバー内に設ける工程と、前記チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して前記モリブデン膜または前記タングステン膜を前記シリコン含有物に対して選択的にエッチングする工程と、を有し、前記エッチングする工程は、酸化が優位になるような条件でモリブデン膜またはタングステン膜をエッチングすることを含み、エッチング面の空孔の拡張を抑制する
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、モリブデン膜またはタングステン膜をシリコン含有物に対して高選択比でエッチングすることができるエッチング方法およびエッチング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係るエッチング方法を示すフローチャートである。
図2】第1の実施形態のエッチング方法が適用される基板の構造例を示す断面図である。
図3】第1の実施形態のエッチング方法が適用される基板の他の構造例を示す断面図である。
図4図2の構造の基板に対してエッチング処理を行った状態を示す断面図である。
図5図3の構造の基板に対してエッチング処理を行った状態を示す断面図である。
図6】第1の実施形態のエッチング方法における酸化ガスと六フッ化物ガスを供給する工程のシーケンス例であるシーケンス1を示すタイミングチャートである。
図7】第1の実施形態のエッチング方法における酸化ガスと六フッ化物ガスを供給する工程のシーケンス例であるシーケンス2を示すタイミングチャートである。
図8】第1の実施形態のエッチング方法における酸化ガスと六フッ化物ガスを供給する工程のシーケンス例であるシーケンス3を示すタイミングチャートである。
図9】第1の一実施形態のエッチング方法における酸化ガスと六フッ化物ガスを供給する工程のシーケンス例であるシーケンス4を示すタイミングチャートである。
図10】第2の実施形態に係るエッチング方法の一例を示すフローチャートである。
図11】第2の実施形態のエッチング方法が適用される基板の構造例を模式的に示す断面図である。
図12図11の基板にエッチングを施した状態を模式的に示す断面図である。
図13図11の基板のMo膜にシームが存在する状態を模式的に示す断面図である。
図14図11の基板のMo膜に存在するシームがエッチングにより露出してピットに拡張した状態を模式的に示す断面図である。
図15図11の基板においてMo膜をOガスとWFガスを用いてCVEでエッチングする場合のシームの膨張が抑制されるメカニズムを説明するための断面図である。
図16図11の基板においてMo膜をOガスとWFガスを用いてALEでエッチングする場合のシームの膨張が抑制されるメカニズムを説明するための断面図である。
図17】第2の実施形態に係るエッチング方法の他の例を示すフローチャートである。
図18】第1および第2の実施形態に係るエッチング方法を実施するためのエッチング装置の一例を示す断面図である。
図19】実験例1におけるエッチングレートの温度依存性を示す図である。
図20】実験例1におけるエッチングレートの圧力依存性を示す図である。
図21】実験例1におけるエッチングレートのガス比率依存性を示す図である。
図22】実験例4におけるリセス深さとエッチング面の空孔の割合との関係を示す図である。
図23】実験例5におけるリセス深さとエッチング面の空孔の割合との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態について説明する。
【0009】
<エッチング方法>
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るエッチング方法を示すフローチャートである。
第1の実施形態に係るエッチング方法においては、最初に、少なくともモリブデン(Mo)膜またはタングステン(W)膜とシリコン(Si)含有物とを有し、Mo膜またはW膜が露出した状態の基板をチャンバー内に設ける(ステップ1)。次に、チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給し、Mo膜またはW膜をSi含有物に対して選択的にエッチングする(ステップ2)。
【0010】
エッチングに供される基板は、特に限定されないが、Siのような半導体基体を有する半導体ウエハが例示される。
【0011】
Si含有物としては、Si、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)を挙げることができる。これらは典型的には膜として形成される。すなわち、基板は、Si含有物として、Si膜、SiO膜、SiN膜の少なくとも一種を有していてよい。また、Si含有物としてのSiは、基体そのものであってもよい。
【0012】
Mo膜およびW膜は、通常用いられる膜形成技術で成膜されたものであればよく、例えばCVD、ALD、PVDで成膜されたものを挙げることができる。
【0013】
また、基板としては、Mo膜またはW膜、およびSi含有物以外のものを含んでいてもよい。例えばMo膜またはW膜の下地にバリア膜としてAl膜およびTiN膜の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0014】
基板の構造は、Mo膜またはW膜とSi含有物とを有しMo膜またはW膜が露出した構造であれば特に限定されないが、所与のパターンが形成されたSi含有膜にパターンを埋めるようにMo膜またはW膜が形成された構造を挙げることができる。具体的には、図2に示すように、凹部パターン102を有するSiO膜101の上に、バリア膜としてのAl膜103を介してMo膜104が凹部パターン102を埋めるように形成された構造が例示される。また、図3のように、Mo膜の代わりにW膜を用いる場合は、Al膜103の上にバリア膜としてTiN膜105を形成し、その上にW膜106が形成された構造が例示される。
【0015】
ステップ2では、基板に酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して、露出した状態のMo膜またはW膜をエッチングする。例えば、図2図3に示す構造の基板のエッチングでは、それぞれ図4図5に示すように、Mo膜104、W膜106を凹部パターン102の途中までエッチングする。
【0016】
酸化ガスとしては、Mo膜またはW膜を酸化できるものであればよく、Oガスを好適に用いることができる。酸化ガスとしては、他に、Oガス、NOガス、NOガス等を挙げることができる。
【0017】
六フッ化物は、フッ化される元素の原子の周囲に6個のフッ素(F)原子が配置された正八面体の分子構造を有するものであり、フリーラジカルとなるようなFが存在しない安定なフッ化物である。六フッ化物ガスは、MoまたはWの酸化物と反応してMoOFやWOFのような揮発性の高い酸フッ化物を生成する。このため、Mo膜またはW膜のエッチングが進行する。
【0018】
一方、六フッ化物ガスは、Si含有物とほとんど反応しない。このため、酸化ガスと六フッ化物ガスとにより、Mo膜またはW膜をSi含有物に対して高選択比でエッチングすることができる。また、六フッ化物ガスは、AlやTiN等ともほとんど反応せず、Mo膜またはW膜をAlやTiN等のSi含有物以外の他の物質に対しても高選択比でエッチングすることができる。
【0019】
六フッ化物ガスとしては、MoFガス、WFガス、SFガスを好適に用いることができる。また、Mo膜のエッチングの際にMoFガスを用い、W膜のエッチングの際にWFガスを用いることにより、膜中への不純物の混入を極力減らすことが可能となる。
【0020】
ガスとして酸化ガスと六フッ化物ガスのみを用いてもよいが、これらのほかにNガスやArガス等の不活性ガスを供給してもよい。
【0021】
ステップ2を実施する際のチャンバー内の圧力は、1~700Torr(133.3~93326Pa)の範囲を用いることができ、1~100Torr(133.3~13332Pa)、さらには、10~100Torr(1333~13332Pa)の範囲が好ましい。
【0022】
また、ステップ2を実施する際の温度は、50~500℃の範囲を用いることができ、50~400℃の範囲が好ましい。六フッ化物ガスとしてMoFガスを用いた場合は、50~300℃が好ましく、WFガスを用いた場合は、200~500℃、さらには200~400℃が好ましい。このように、MoFガスを用いる場合には、好ましい範囲がより低温側に存在する。
【0023】
ステップ2を実施する際には、酸化ガスと六フッ化物ガスとを同時にチャンバー内(基板)に供給してもよいし、これらをシーケンシャルに供給してもよい。例えば、以下のシーケンス1~4に示すシーケンスで行うことができる。
【0024】
シーケンス1は、図6に示すように、酸化ガスと六フッ化物ガスとを同時にチャンバー内に供給して、酸化処理とエッチングとを同時に行い、その後、酸化ガスと六フッ化物ガスを停止してチャンバー内を真空排気する。酸化+エッチング処理と真空排気を1回のみで終了してもよいし、これらを複数回繰り返してもよい。また、真空排気の際にパージガスを供給してもよい。シーケンス1の場合、六フッ化物ガス(XF)と酸化ガス(Ox)の比(XF:Ox)は、10:90~99.9:0.1とすることができる。六フッ化物ガスとしてMoFガスを用いる場合は、ほぼこの範囲で良好なエッチングを行うことができる。また、六フッ化物ガスとしてWFガスを用いる場合は、XF:Oxの好ましい範囲は、20:80~90:10である。
【0025】
シーケンス2は、図7に示すように、先に酸化ガスをチャンバー内に供給して酸化処理を行い、酸化ガスを流したままの状態で、途中から六フッ化物ガスを供給し、酸化処理とエッチングとを同時に行う。その後、酸化ガスと六フッ化物ガスを停止してチャンバー内を真空排気する。酸化処理と酸化+エッチング処理と真空排気を1回のみで終了してもよいし、これらを複数回繰り返してもよい。また、真空排気の際にパージガスを供給してもよい。シーケンス2において、XF:Oxの範囲はシーケンス1と同様である。
【0026】
シーケンス3は、シーケンシャルな処理であり、図8に示すように、最初に酸化ガスをチャンバー内に供給して酸化処理を行い、次いで、酸化ガスを停止して六フッ化物ガスを供給してエッチングを行う。その後、六フッ化物ガスを停止してチャンバー内を真空排気する。酸化処理とエッチング処理と真空排気を1回のみで終了してもよいし、これらを複数回繰り返してもよい。また、真空排気の際にパージガスを供給してもよい。
【0027】
シーケンス4は、図9に示すように、シーケンス3と同様シーケンシャルな処理であり、酸化処理とエッチング処理の間にチャンバー内の真空排気を行っている点のみシーケンス3とは異なっている。
【0028】
シーケンス1およびシーケンス2のように、酸化処理とエッチング処理とを同時に行う場合は、処理速度が速いという利点がある。特に、シーケンス2の場合、最初に酸化ガスによりMo膜またはW膜の表面を酸化してから酸化ガスと六フッ化物ガスを供給して酸化処理とエッチング処理を同時に行うので、より処理速度を速くすることができる。ただし、シーケンス1およびシーケンス2の場合、反応しやすいところからエッチングが進行するため、パターンの粗密差や高アスペクト比によるローディング効果が問題になる場合がある。
【0029】
これに対して、シーケンス3およびシーケンス4のように、酸化ガスと六フッ化物ガスを交互に供給することにより、Mo膜またはW膜の酸化処理とエッチング処理とを別々に制御でき、ローディング効果が発生し難くなる。つまり、Mo膜またはW膜の酸化した部分のみしかエッチング反応が進行しないため、パターンの粗密差等によるエッチング速度差が生じ難い。また、シーケンス4では、酸化処理とエッチング処理との間に真空排気を行うため、反応の制御性をより高めることができる。ただし、酸化処理とエッチング処理とが別々に行われるため、少量ずつしかエッチングすることができず、処理速度が遅くなる。
【0030】
これらシーケンス1~4は、デバイスの構造や処理の内容に応じてどのような点を重視するかで適宜使い分ければよい。
【0031】
なお、ステップ2の後、基板に対し、残渣除去等の後処理を行ってもよい。
【0032】
以上のようにして、Mo膜またはW膜を酸化ガスと六フッ化物ガスを用いてエッチングすることにより、上記シーケンス1~4のいずれのシーケンスでも、Si含有物に対して50以上の高いエッチング選択比を得ることができる。また、条件を最適化することにより、100以上、さらには450以上の極めて高いエッチング選択比を得ることができる。特に、Si膜に対しては、5000以上という一層高いエッチング選択比が得られる。また、Si含有物以外のAl膜やTiN膜のような他の物質に対しても50以上の高いエッチング選択比を得ることができる。特に、Al膜に対しては、1000以上の極めて高いエッチング選択比が得られる。
【0033】
上記特許文献1には、Clガス、Oガス、Nガスを用いたプラズマエッチングによりタングステン膜をSi含有膜に対して選択的にエッチングすることが記載されている。しかし、タングステン膜のSi含有膜に対するエッチング選択比は1.5~4程度であり、本実施形態のような50以上、さらには450以上という極めて高いエッチング選択比を実現するものではない。すなわち、本実施形態では、プラズマを用いないガスエッチングにより、特許文献1のプラズマエッチングでは到達できないような高エッチング選択比でMo膜またはW膜をエッチングすることができる。
【0034】
また、上述したように、酸化ガスおよび六フッ化物ガスをシーケンシャルに供給することにより、パターンの粗密差や高アスペクト比によるローディング効果を有効に抑制できるといった効果も得られる。
【0035】
さらに、六フッ化物ガスとしてMoFガスを用いることにより、より低温でエッチングが可能であり、熱負荷によるデバイスダメージに対して有効である。
【0036】
[第2の実施形態]
図10は、第2の実施形態に係るエッチング方法の一例を示すフローチャートである。
本例のエッチング方法においては、最初に、少なくともMo膜またはW膜とSi含有物とを有し、Mo膜またはW膜が露出した状態の基板をチャンバー内に設ける(ステップ11)。次に、チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給し、酸化が優位になるような条件でMo膜またはW膜をSi含有物に対して選択的にエッチングする(ステップ12)。
【0037】
本実施形態では、Mo膜またはW膜中にシームのような空孔が存在する場合に、エッチングにより露出した空孔の拡張を抑制することを主眼とする。すなわち、Mo膜またはW膜中にシームが存在すると、エッチングによりシームが露出した際にシームに六フッ化物ガスが侵入し、シームが拡張してより大きなピットに成長する。また、Mo膜またはW膜中にはシームよりも大きいピットも一部存在し、ピットが露出した際にもピットに六フッ化物ガスが侵入し、より大きなピットとなる。本実施形態においては、酸化が優位になるような条件でMo膜またはW膜をエッチングすることにより、エッチング面が酸化した状態に保持され、エッチング面に露出したシームやピットの空孔部分も酸化して間口が膨潤するため、シームやピットの空孔の内部に六フッ化物ガスが侵入し難くなる。このため、シームやピットの空孔の拡張が抑制された状態でエッチングが進行する。
【0038】
以下詳細に説明する。
ステップ11において、エッチングに供される基板は、第1の実施形態と同様、特に限定されず、Siのような半導体基体を有する半導体ウエハが例示される。Si含有物も、第1の実施形態と同様、Si、SiO、SiNを挙げることができ、これらは、Si膜、SiO膜、SiN膜であってよい。また、Si含有物としてのSiは、基体そのものであってもよい。
【0039】
Mo膜およびW膜についても、第1の実施形態と同様、通常用いられる膜形成技術で成膜されたものであればよく、例えばCVD、ALD、PVDで成膜されたものを挙げることができる。
【0040】
また、基板としては、第1の実施形態と同様、Mo膜またはW膜、およびSi含有物以外のものを含んでいてもよく、例えばMo膜またはW膜の下地にバリア膜としてAl膜およびTiN膜の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0041】
基板の構造は、第1の実施形態と同様、Mo膜またはW膜とSi含有物とを有しMo膜またはW膜が露出した構造であれば特に限定されない。所与のパターンが形成されたSi含有膜にパターンを埋めるようにMo膜またはW膜が形成された構造を挙げることができる。本実施形態では、Mo膜やW膜中のシームがエッチングの過程で露出した際にピットへの成長を抑制することを主眼とするため、シームが発生しやすい構造の場合に特に有効である。例えば、図11示す構造の基板を挙げることができる。
【0042】
図11に示す基板Sはシリコンウエハとして構成され、シリコン基体200上にMo膜を含む三次元の構造体300が形成されている。
【0043】
構造体300は、SiO膜201とMo膜202とが交互に積層された積層部210と、積層部210の積層方向に設けられた溝(スリット)220とを有する。Mo膜202はスリット220の内壁にも形成されている。積層部210の積層数は実際には数十層程度であり、高さは数μm~10μm程度である。Mo膜の代わりにW膜を用いてもよいが、その場合はSiO膜とW膜との間にTiN膜等のバリア膜が必要である。なお、Mo膜の場合にも、SiO膜との間にAl膜等のバリア膜を設けてもよい。また、SiOの代わりに、Si、SiNのような他のシリコン含有物膜を用いてもよく、また、シリコン含有物膜以外の膜であってもよい。
【0044】
このような構造の基板Sでは、スリット220を介して積層部210のMo膜202のエッチングが行われる。Mo膜202の積層部210の部分は成膜時にシームが発生しやすく、積層部210の奥側ほどシームが多くなる傾向にある。
【0045】
ステップ12では、第1の実施形態のステップ2と同様、基板に酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して、Mo膜またはW膜をエッチングする。例えば、図11に示す構造の基板のエッチングでは、図12に示すように、Mo膜202の途中までエッチングする。
【0046】
本実施形態においても、酸化ガスとしては、Mo膜またはW膜を酸化できるものであればよく、Oガスを好適に用いることができる。酸化ガスとしては、他に、Oガス、NOガス、NOガス等を挙げることができる。また、六フッ化物ガスとしては、MoFガス、WFガス、SFガスを好適に用いることができる。また、ガスとして酸化ガスと六フッ化物ガスのみを用いてもよいが、これらのほかにNガスやArガス等の不活性ガスを供給してもよい。
【0047】
例えば、図11のような構造において、図13に模式的に示すように、Mo膜202の積層部210の部分にはシーム221が存在する(一部はシームよりも大きなピットとなっている)。この状態でシーム221の存在位置までMo膜202のエッチングが進行すると、図14に示すように、シーム221内に六フッ化物ガスが侵入し、シーム221が拡張してシームより大きいピット222となる。また、ピットが存在する場合もピットに六フッ化物ガスが侵入し、より大きなピットとなる。
【0048】
本実施形態では、ステップ12において、酸化ガスによる酸化が六フッ化物ガスによるエッチングよりも優位になる条件でエッチングを行うことにより、エッチング面およびシーム221部分を酸化した状態に保ち、露出したシーム221の拡張を抑制する。
【0049】
具体的には、上述したシーケンス1,2のような酸化ガスと六フッ化物ガスとを同時に供給する期間を主体とする、いわゆるCVEの場合は、酸化ガスと六フッ化物ガスの流量比(酸化ガスの流量/六フッ化ガスの流量)を調整することにより、具体的には流量比を増加させることにより酸化を優位にすることができる。酸化ガスと六フッ化物ガスの流量比(酸化ガスの流量/六フッ化ガスの流量)を2以上とすることが好ましい。また、上述したシーケンス3,4のような酸化ガスと六フッ化物ガスとをシーケンシャルに供給する、いわゆるALEの場合は、酸化ガスを供給する期間を長くすることにより酸化を優位にすることができる。酸化ガスを供給する時間と六フッ化物ガスを供給する時間の比(酸化ガスを供給する時間/六フッ化ガスを供給する時間)が1以上であることが好ましい。
【0050】
このように酸化を優位にすることにより、シームの膨張が抑制されるメカニズムを以下に説明する。
【0051】
まず、図11の基板SにおいてMo膜202を酸化ガスであるOガスとエッチングガスであるWFガスを用いてCVEでエッチングする場合を例にとって説明する。この場合、OガスでMo膜202を酸化しながらWFガスによりエッチングを進行させる。この際に酸化が優位になるように酸化ガスをリッチにすると(例えばO/WF=3~7)、図15の(a)のように、酸化ガスが潤沢なため、Mo膜202のエッチング面に酸化膜223が生成され、エッチング面に露出したシーム221も酸化した状態になる。このため、シーム221の間口が酸化により膨潤して狭くなり、シーム221の内部にWFが侵入し難くなって、シーム221の拡張が抑制された状態でエッチングが進行する。これに対し、酸化ガスであるOガスが少なく酸化が優位でない場合、図15の(b)のように酸化ガスが潤沢でないため、同様にシーム221が酸化した状態となっても、酸化部分はすぐにWFガスにより削られる。このため、シーム221の間口が広くなり、シーム221の内部にWFが侵入し、シーム221が拡張してピットに成長する。
【0052】
次に、図11の基板SにおいてMo膜202を酸化ガスであるOガスとエッチングガスであるWFガスを用いてALEでエッチングする場合を例にとって説明する。この場合、Oガスを供給してMo膜202を酸化した後、WFガスを供給して酸化部分をエッチングするサイクルを繰り返すことによりエッチングを進行させる。最初に酸化ガスであるOガスを供給すると(例えば、供給時間=360sec)、図16の(a)のように、Mo膜202のエッチング面に酸化膜223が生成され、エッチング面に露出したシーム221も酸化した状態になる。このため、シーム221の間口が酸化により膨潤して狭くなる。次いで、エッチングガスであるWFガスを供給するが、その際のエッチング時間が短いと(例えば、15~30sec)、図16の(b)に示すように、シーム221の間口部分のエッチング量が少ないため、シーム221の内部にWFが侵入し難い。これに対し、エッチング時間が長いと(例えば、60~360sec)、図16の(c)に示すように、エッチング面の酸化膜がほとんど削られる。このため、シーム221の間口が広くなり、シーム221の内部にWFが侵入しやすくなる。
【0053】
なお、ステップ12を実施する際のチャンバー内の圧力および温度は、第1の実施形態におけるステップ2と同様である。
【0054】
次に、第2の実施形態に係るエッチング方法のより実際的な他の例について説明する。
例えば、上述した図11の構造の基板においてMo膜202をエッチングする場合、Mo膜202のスリット220の内壁部分および積層部210のスリット220近傍部分では比較的シームが少ない傾向にある。一方、積層部210の奥側の部分ではシームが多い傾向にある。このため、シームが多くなり始める部分を把握しておき、その部分まではエッチングレートを重視する通常の条件でエッチングし、その部分以降を上述したシームの拡張を抑制する条件でエッチングすることが好ましい。
【0055】
図17は、第2の実施形態に係るエッチング方法の他の例を示すフローチャートである。
本例のエッチング方法においては、最初に、少なくともMo膜またはW膜とSi含有物とを有し、Mo膜またはW膜が露出した状態の基板をチャンバー内に設ける(ステップ21)。次に、チャンバー内に、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給し、第1段階および第2段階によりMo膜またはW膜をSi含有物に対して選択的にエッチングする(ステップ22)。第1段階は、酸化ガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを供給して通常のエッチングを行う(ステップ22-1)。第2段階は、酸化ガスと、六フッ化物ガスとを供給し、エッチング条件を酸化が優位になるような条件に切り替えてエッチングを行う(ステップ22-2)。
【0056】
本例のエッチング方法により、Mo膜またはW膜のエッチングにおいて初期のシームの少ない部分を、エッチレート等のエッチング特性を重視した条件でエッチングし、シームが多い後段部分のみを上述したような酸化が優位になる条件でエッチングすることができる。
【0057】
第1段階および第2段階のエッチングは、CVEでもALEのいずれでもよく、第1の実施形態のシーケンス1~4のいずれでもよい。第1段階は、第1の実施形態のステップ2の条件と同様の条件で行うことができる。第2段階は、ステップ12と同様の条件で行うことができる。第1段階および第2段階のエッチングがいずれもCVEの場合、エッチングの際の圧力を第2のエッチングよりも第1のエッチングのほうを高くすることが好ましい。圧力を高くすることによりエッチングレートを上げることができる。また、酸化ガスと六フッ化物ガスの流量比(酸化ガスの流量/六フッ化ガスの流量)は、第1段階よりも第2段階のほうを高くすることが好ましい。第1段階および第2段階のエッチングがいずれもALEの場合、エッチングガスを供給する際の圧力を第2のエッチングよりも第1のエッチングのほうを高くすることが好ましい。また、酸化ガスを供給する時間と六フッ化物ガスを供給する時間の比(酸化ガスを供給する時間/六フッ化ガスを供給する時間)が、第1段階よりも第2段階のほうが高くなるようにすることが好ましい。
【0058】
<エッチング装置>
次に、第1および第2の実施形態に係るエッチング方法を実施するためのエッチング装置の一例について説明する。
図18は、一実施形態に係るエッチング方法を実施するためのエッチング装置の一例を示す断面図である。
【0059】
図18に示すように、エッチング装置1は、密閉構造のチャンバー10を備えている。チャンバー10の内部には、基板Sを水平状態で載置する載置台12が設けられている。基板Sは、Mo膜またはW膜とSi含有物とを有し、Mo膜またはW膜が露出した状態である。また、エッチング装置1は、チャンバー10にエッチングガスを供給するガス供給機構13、チャンバー10内を排気する排気機構14、および制御部15を備えている。
【0060】
チャンバー10は、チャンバー本体21と蓋部22とによって構成されている。チャンバー本体21は、略円筒形状の側壁部21aと底部21bとを有し、上部は開口となっており、この開口が蓋部22で閉止される。側壁部21aと蓋部22とは、シール部材(図示せず)により密閉されて、チャンバー10内の気密性が確保される。
【0061】
蓋部22は、外側を構成する蓋部材25と、蓋部材25の内側に嵌め込まれ、載置台12に臨むように設けられたシャワーヘッド26とを有している。シャワーヘッド26は円筒状をなす側壁27aと上部壁27bとを有する本体27と、本体27の底部に設けられたシャワープレート28とを有している。本体27とシャワープレート28との間には空間29が形成されている。
【0062】
蓋部材25および本体27の上部壁27bには空間29まで貫通してガス導入路31が形成されており、このガス導入路31には後述するガス供給機構13の配管48が接続されている。
【0063】
シャワープレート28には複数のガス吐出孔32が形成されており、配管48およびガス導入路31を経て空間29に導入されたガスがガス吐出孔32からチャンバー10内の空間に吐出される。
【0064】
側壁部21aには、ウエハWを搬入出する搬入出口23が設けられており、この搬入出口23はゲートバルブ24により開閉可能となっている。
【0065】
載置台12は、平面視略円形をなしており、チャンバー10の底部21bに固定されている。載置台12の内部には、載置台12の温度を調節し、その上に載置された基板Sの温度を制御する温調部35が設けられている。温調部35は、例えば載置台12を加熱するヒータを有しており、ヒータコントローラ(図示せず)によりヒータの出力を制御することにより、載置台12上の基板Sの温度を制御する。基板Sの温度によっては、温調部35として温調媒体(例えば水など)が循環する管路を備えたものであってもよい。この場合は、管路内に予め定められた温度の温調媒体を通流させることにより、基板Sの温度制御がなされる。載置台12に載置された基板Sの近傍には、基板Sの温度を検出する温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0066】
ガス供給機構13は、六フッ化物ガスを供給する六フッ化物ガス供給源(XF)45、酸化ガスとしてOガスを供給するOガス供給源46、および不活性ガスとしてNガスを供給するNガス供給源47を有しており、これらにはそれぞれ六フッ化物ガス供給配管41、Oガス供給配管42、およびNガス供給配管43の一端が接続されている。六フッ化物ガス供給配管41、Oガス供給配管42、およびNガス供給配管43の他端は、共通の配管48に接続され、配管48が上述したガス導入路31に接続されている。六フッ化物ガス供給配管41、Oガス供給配管42、およびNガス供給配管43には、流路の開閉動作および流量制御を行う流量制御部49が設けられている。流量制御部49は例えば開閉弁およびマスフローコントローラのような流量制御器により構成されている。
【0067】
したがって、六フッ化物ガス、酸化ガスであるOガス、不活性ガスであるNガスは、各ガス供給源45、46、47から配管41、42、43、48を経てシャワーヘッド26内に供給され、シャワープレート28のガス吐出孔32からチャンバー10内へ吐出される。
【0068】
排気機構14は、チャンバー10の底部21bに形成された排気口51に繋がる排気配管52を有しており、さらに、排気配管52に設けられた、チャンバー10内の圧力を制御するための自動圧力制御弁(APC)53およびチャンバー10内を排気するための真空ポンプ54を有している。
【0069】
チャンバー10の側壁には、チャンバー10内の圧力を計測するための圧力計として高圧用および低圧用の2つのキャパシタンスマノメータ56a,56bが、チャンバー10内に挿入されるように設けられている。キャパシタンスマノメータ56a,56bの検出値に基づいて、自動圧力制御弁(APC)53の開度が調整され、チャンバー10内の圧力が制御される。
【0070】
制御部15は、典型的にはコンピュータからなり、エッチング装置1の各構成部を制御するCPUを有する主制御部を有している。また、制御部15は、主制御部に接続された、入力装置(キーボード、マウス等)、出力装置(プリンタ等)、表示装置(ディスプレイ等)、記憶装置(記憶媒体)をさらに有している。制御部15の主制御部は、例えば、記憶装置に内蔵された記憶媒体、または記憶装置にセットされた記憶媒体に記憶された処理レシピに基づいて、エッチング装置1に、所定の動作を実行させる。
【0071】
このようなエッチング装置1においては、上記構造の基板Sをチャンバー10内に搬入し、載置台12に載置する。そして、温調部35により基板Sの温度を例えば50~500℃の範囲の予め定められた温度に制御し、チャンバー10内の圧力を1~700Torr(133.3~93326Pa)の範囲の予め定められた圧力に制御する。
【0072】
次いで、酸化ガスとしてのOガスと、エッチングガスとしての六フッ化物ガスとを用いて、上記第1の実施形態または第2の実施形態により基板SのMo膜またはW膜をエッチングする。このエッチングの際には、Mo膜またはW膜をSiO膜等のSi含有物に対して50以上の高いエッチング選択比でエッチングすることができる。また、Al膜やTiN膜等に対しても50以上の高いエッチング選択比が得られる。
【0073】
エッチングが終了してチャンバー10内を真空排気した後、必要に応じて不活性ガスであるNガスによりチャンバー10内をパージした後、基板Sをチャンバー10から搬出する。不活性ガス(Nガス)をエッチングの際の希釈ガスとして用いてもよい。
【0074】
なお、エッチング後、チャンバー10内でまたは他のチャンバーで、残渣除去等の後処理を行ってもよい。
【0075】
<実験例>
次に、実験例について説明する。以下の実験例のうち実験例1~3までは第1の実施形態に関するものであり、実験例4~5は第2の実施形態に関するものである。
【0076】
[実験例1]
ここでは、ベアウエハ上にALDで成膜したMo膜(ALD-Mo膜)を有するサンプル、およびPVDで成膜したMo膜(PVD-Mo膜)を有するサンプルを準備し、エッチング処理を行った。エッチング処理は、酸化ガスとしてOガスを用い、六フッ化物ガスとしてWFガスを用いて、上記シーケンス1(OガスおよびWFガスの同時供給)により行った。なお、OガスおよびWFガスの他に、希釈ガスとしてNガスを供給した。その際に、載置台温度を260~400℃、圧力を5~100Torr、Oガス+WFガスに対するWFガスの比率を20~90%(WF:O=20:80~90:10)で変化させ、各条件でのエッチングレートを求めた。
【0077】
この際の、エッチングレートの温度依存性、圧力依存性、およびガス比率依存性をそれぞれ図19図20図21に示す。図19図20に示すように、ALD-Mo膜およびPVD-Mo膜のいずれも、OガスおよびWFガスにより、温度280℃以上、圧力10Torr以上でエッチング可能であり、温度が高いほど、また、圧力が高いほどエッチングレートが上昇する傾向が見られた。また、図21に示すように、WFガスの比率が20~90%(WF:O=20:80~90:10)の範囲で(図21のデータは30~90%のみ)、Mo膜のエッチングが可能であることが確認された。
【0078】
次に、ベアウエハ上にSiO膜を有するサンプル、アモルファスSi(a-Si)膜を有するサンプル、Al膜を有するサンプル、TiN膜を有するサンプルについても、同様の条件でエッチングを行った。なお、各膜としてCVDにより成膜したものを用いた。そして、これらの膜のエッチングレートと上記ALD-Mo膜およびPVD-Mo膜のエッチングレートからエッチング選択比を求めた。
【0079】
その結果、ALD-Mo膜について、SiO膜に対する選択比が459、a-Si膜に対する選択比が5189、Al膜に対する選択比が1429、TiN膜に対する選択比が78であった。また、PVD-Mo膜について、SiO膜に対する選択比が494、a-Si膜に対する選択比が5560、Al膜に対する選択比が1536、TiN膜に対する選択比が83であった。このように、いずれのMo膜もSiO膜およびa-Si膜といったSi含有膜に対して450以上の高い選択比が得られることが確認された。また、他の膜に対しても高い選択比が得られることが確認された。
【0080】
[実験例2]
ここでは、ベアウエハ上にALDで成膜したMo膜(ALD-Mo膜)を有するサンプル、およびPVDで成膜したMo膜(PVD-Mo膜)を有するサンプルを準備し、エッチング処理を行った。エッチング処理は、酸化ガスとしてOガスを用い、六フッ化物ガスとしてMoFガスを用いて、上記シーケンス1(OガスおよびMoFガスの同時供給)により行った。なお、OガスおよびMoFガスの他に、希釈ガスとしてNガスを供給した。その際に、載置台温度を50~400℃、圧力を5~100Torr、Oガス+MoFガスに対するMoFガスの比率を10~99%(MoF:O=10:90~99.9:0.1)で変化させ、エッチング時間を120secとして各条件でのエッチング量を求めた。その結果、ALD-Mo膜およびPVD-Mo膜のエッチング量がいずれも50nmを超えていた。
【0081】
次に、ベアウエハ上にCVDにより成膜されたPoly-Si膜を有するサンプル、CVDにより成膜されたSiN膜を有するサンプル、熱酸化膜(SiO膜)を有するサンプルについても、同様の条件でエッチングを行った。その結果、温度が200℃でこれらの膜のエッチング量が1nm未満であった。
【0082】
以上から、六フッ化物ガスとしてMoFガスを用いてMo膜をエッチングする場合も、Si含有膜に対して50を超える高いエッチング選択比が得られることが確認された。
【0083】
[実験例3]
ここでは、Si基体上に凹部パターンを有するSiO膜が形成され、その上にバリア膜としてのTiN膜を介してW膜が形成されたウエハサンプルを準備し、エッチング処理を行った。なお、SiO膜およびTiN膜はCVDにより成膜した。エッチング処理は、酸化ガスとしてOガスを用い、六フッ化物ガスとしてWFガスを用いて、上記シーケンス1(OガスおよびWFガスの同時供給)により行った。なお、OガスおよびWFガスの他に、希釈ガスとしてNガスを供給した。条件は、載置台温度200~400℃、圧力1.5~15Torr、Oガス+WFガスに対するWFガスの比率を50~70%(WF:O=50:50~70:30)とした。
【0084】
その結果、エッチングレートは、6~35nm/minとなり、圧力が高いほどエッチングレートが増加する傾向が見られた。また、W膜のSiO膜に対するエッチング選択比は350であり、TiN膜に対するエッチング選択比は103であった。
【0085】
[実験例4]
ここでは、図11の構造の基板において、Mo膜202をCVEでエッチングしたときの、積層部210のリセス深さとエッチング面の空孔の割合を求めた。具体的には、Mo膜のスリット220の内壁部分に対し第1の条件で第1段階のエッチングを行い、積層部210の部分に対しそれぞれ異なる第2の条件で第2段階のエッチング(リセス)を行ったケースAおよびケースBについてエッチング面の空孔の割合を求めた。また、比較のため第1の条件のみでエッチングしたケースCについても実験を行った。酸化ガスとしてはOガス、エッチングガスとしてはWFガスを用いた。また、キャリアガスとしてNガスを用いた。エッチングの際のステージ温度はいずれも275~300℃とし、第1段階のエッチングおよび第2段階のエッチングのいずれも上記ガスを同時に供給するCVEでエッチングした。第1の条件は、圧力:50~200Torr、Oガス流量:300~500sccm、WFガス流量:300~500sccmとした。また、第2の条件は、ケースAでは、圧力:10~50Torr、Oガス流量:550~700sccm、WFガス流量:100~250sccmとし、ケースBでは、圧力:10~50Torr、Oガス流量:700~1000sccm、WFガス流量:50~100sccmとした。
【0086】
結果を図22に示す。図22は、横軸にリセス深さ(スリット面からの深さ)をとり、縦軸にエッチング面のシームやピットの空孔の割合(面積比)をとって、これらの関係を示す図である。縦軸の空孔の割合は、エッチング面の面積に対する複数存在するシームおよびピットを合計した面積の割合である。この図に示すように、第1の条件のみでエッチングしたケースCでは、リセス深さが22nmを超えたあたりから空孔の割合が増加していくのに対し、第2のエッチングを酸化が優位になる条件で行ったケースAおよびケースBは、リセス深さが30nmまででは空孔の割合はほとんど増加しなかった。
【0087】
[実験例5]
ここでは、図11の構造の基板において、Mo膜202をCVEとALEでエッチングしたときの、積層部210のリセス深さとエッチング面の空隙率を求めた。具体的には、Mo膜のスリット220の内壁部分に対し第1の条件でCVEによる第1段階のエッチングを行い、積層部210の部分に対しそれぞれ異なる第2の条件のALEで第2段階のエッチング(リセス)を行ったケースDおよびケースEについて実験を行った。酸化ガスとしてはOガス、エッチングガスとしてはWFガスを用いた。また、キャリアガスとしてNガスを用いた。エッチングの際のステージ温度はいずれも275~300℃とした。第1段階のエッチングの条件は、圧力:70~200Torr、Oガス流量:300~500sccm、WFガス流量:300~500sccmとした。また、第2段階のエッチングの条件は、ケースDでは、酸化段階で、圧力:70~200Torr、Oガス流量:400~800sccm、時間:360sec、エッチング段階で、圧力:10~70Torr、WFガス流量:300~600sccm、時間:15secとした。ケースEでは、エッチング段階の時間を30secとした他はケースDと同じ条件とした。
【0088】
結果を図23に示す。図23は、横軸にリセス深さ(スリット面からの深さ)をとり、縦軸にエッチング面のシームやピットの空孔の割合(面積比)をとって、これらの関係を示す図である。図23には、比較のため全て第1の条件でCVEによりエッチングを行ったケースCの結果も示している。この図に示すように、第1の条件のエッチングのみのケースCでは、リセス深さが22nmを超えたあたりから空孔の割合が増加していくのに対し、第2段階のエッチングを酸化が優位になるような条件のALEで行ったケースDは、リセス深さが30nmまででは空孔の割合の増加は小さかった。また、第2段階のエッチングについてエッチング段階の時間をケースDより長くしたケースEでは、リセス深さが25nmを超えると空孔の割合が急激に増加する傾向が見られた。
【0089】
<他の適用>
以上、実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0090】
例えば、図2図3図11に示す基板の構造例はあくまで例示であり、Mo膜またはW膜とSi含有物とを有しMo膜またはW膜が露出した構造であれば適用可能である。また、上記エッチング装置の構造についても例示に過ぎず、ノンプラズマでガスによりエッチングを行うものであれば特に限定されない。
【0091】
また、六フッ化物ガスとして、MoFガス、WFガス、SFガスを挙げたが、SeFガス、ReFガス等の他の六フッ化物ガスを用いてもよい。
【0092】
さらに、基板として半導体ウエハを用いた場合について示したが、半導体ウエハに限らず、LCD(液晶ディスプレイ)用基板に代表されるFPD(フラットパネルディスプレイ)基板や、セラミックス基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1;エッチング装置、12;載置台、13;ガス供給機構、14;排気機構、15;制御部、35;温調部、101,201;SiO膜、102;凹部パターン、103;Al膜、104,202;Mo膜、105;TiN膜、106;W膜、210;積層部、220;溝(スリット)、221;シーム、222:ピット、223;酸化膜、300;構造体、S;基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図19
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図22
図23