IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-圧電フィルム 図1
  • 特許-圧電フィルム 図2
  • 特許-圧電フィルム 図3
  • 特許-圧電フィルム 図4
  • 特許-圧電フィルム 図5
  • 特許-圧電フィルム 図6
  • 特許-圧電フィルム 図7
  • 特許-圧電フィルム 図8
  • 特許-圧電フィルム 図9
  • 特許-圧電フィルム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】圧電フィルム
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/20 20230101AFI20231201BHJP
   H10N 30/40 20230101ALI20231201BHJP
   H10N 30/85 20230101ALI20231201BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20231201BHJP
   H04R 17/00 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
H10N30/20
H10N30/40
H10N30/85
H10N30/87
H04R17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021565370
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042164
(87)【国際公開番号】W WO2021124743
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019228384
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】藤方 進吾
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126257(WO,A1)
【文献】特開2003-347616(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018313(WO,A1)
【文献】特開2005-050830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/20
H10N 30/40
H10N 30/85
H10N 30/87
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む圧電体層と、前記圧電体層の両面に設けられる電極層とを有する、カットシート状の圧電フィルムであって、
端面における前記電極層の厚さ方向の距離が、前記圧電体層の厚さに対して40%以上、95%以下であることを特徴とする圧電フィルム。
【請求項2】
前記電極層の少なくとも一方を覆う保護層を有する、請求項1に記載の圧電フィルム。
【請求項3】
前記高分子材料がシアノエチル基を有する、請求項1または2に記載の圧電フィルム。
【請求項4】
前記高分子材料がシアノエチル化ポリビニルアルコールである、請求項に記載の圧電フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器等に用いられる圧電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイおよび有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど、ディスプレイの薄型化および軽量化に対応して、これらの薄型ディスプレイに用いられるスピーカーにも薄型化および軽量化が要求されている。また、プラスチック等の可撓性基板を用いたフレキシブルディスプレイの開発に対応して、これに用いられるスピーカーにも可撓性が要求されている。
【0003】
従来のスピーカーの形状は、漏斗状のいわゆるコーン型、および、球面状のドーム型等が一般的である。しかしながら、このようなスピーカーを上述の薄型のディスプレイに内蔵しようとすると、十分に薄型化を図ることができず、また、軽量性および可撓性等を損なう虞れがある。また、スピーカーを外付けにした場合、持ち運び等が面倒である。
【0004】
そこで、薄型で、軽量性および可撓性等を損なうことなく、薄型のディスプレイおよびフレキシブルディスプレイ等に一体化可能なスピーカーとして、シート状で可撓性を有し、印加電圧に応答して伸縮する性質を有する圧電フィルムを用いることが提案されている。
【0005】
例えば、本件出願人は、シート状で、可撓性を有し、かつ、高音質な音を安定して再生することができる圧電フィルムとして、特許文献1に開示される圧電フィルム(電気音響変換フィルム)を提案した。
特許文献1に開示される圧電フィルムは、常温で粘弾性を有する高分子材料からなる粘弾性マトリックス中に圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体(圧電体層)と、高分子複合圧電体の両面に形成された電極層と、電極層の表面に形成された保護層とを有するものである。また、特許文献1に開示される圧電フィルムは、高分子複合圧電体をX線回折法で評価した際の、圧電体粒子に由来する(002)面ピーク強度と(200)面ピーク強度との強度比率α1=(002)面ピーク強度/((002)面ピーク強度+(200)面ピーク強度)が、0.6以上1未満であるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/018313号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような圧電フィルムは、例えば、屈曲した状態で維持することで、圧電スピーカーとして機能する。すなわち、圧電フィルムを屈曲状態で維持し、電極層に駆動電圧を印加することで、圧電体粒子の伸縮によって高分子複合圧電体が伸縮し、この伸縮を吸収するために振動する。圧電フィルムは、この振動によって空気を振動させて、電気信号を音に変換している。
【0008】
この圧電フィルムは、圧電体層の両面に電極層を有し、その両面に保護層を設けた構成を有する。このような圧電フィルムにおいて、圧電体層は、例えば、300μm以下が好ましく、非常に薄い。また、圧電フィルムは、所望の形状に切断されて、カットシートとして用いられる場合が多い。
そのため、圧電フィルムの端部(切断面)において、圧電体層の両面の電極がショートし易く、圧電フィルムが適正に動作しなくなってしまう場合がある。
【0009】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、高分子材料を含むマトリクス中に圧電体粒子を含む圧電体層の両面に電極層を有するカットシート状の圧電フィルムにおいて、端部における電極層のショートによる動作不良を防止できる圧電フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む圧電体層と、圧電体層の両面に設けられる電極層とを有する、カットシート状の圧電フィルムであって、
端部における電極層の厚さ方向の距離が、圧電体層の厚さに対して40%以上であることを特徴とする圧電フィルム。
[2] 電極層の少なくとも一方を覆う保護層を有する、[1]に記載の圧電フィルム。
[3] 端部における電極層の厚さ方向の距離が、圧電体層の厚さに対して95%以下である、[1]または[2]に記載の圧電フィルム。
[4] 高分子材料がシアノエチル基を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の圧電フィルム。
[5] 高分子材料がシアノエチル化ポリビニルアルコールである、[4]に記載の圧電フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高分子材料を含むマトリクス中に圧電体粒子を含む圧電体層の両面に電極層および保護層を有するカットシート状の圧電フィルムにおいて、端部における電極層のショートを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の圧電フィルムの一例を概念的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の圧電フィルムにおける圧電体層の厚さに対する電極間距離の比率測定方法を説明するための概念図である。
図3図3は、本発明の圧電フィルムにおける圧電体層の厚さに対する電極間距離の比率測定方法を説明するための概念図である。
図4図4は、本発明の圧電フィルムの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図5図5は、本発明の圧電フィルムの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図6図6は、本発明の圧電フィルムの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図7図7は、本発明の圧電フィルムの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図8図8は、本発明の圧電フィルムの製造方法の一例を説明するための概念図である。
図9図9は、本発明の圧電フィルムを利用する平面スピーカーの一例の概念図である。
図10図10は、実施例における測定方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の圧電フィルムについて、添付の図面に示される好適実施態様を基に、詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に制限されるものではない。また、以下に示す図は、いずれも、本発明を説明するための概念的な図であって、各層の厚さ、構成部材の大きさ、および、構成部材の位置関係等は、実際の物とは異なる。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の圧電フィルムは、高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む圧電体層と、この圧電体層の両面に設けられ電極層とを有するものである。また、圧電体層の厚さに対して、端部における電極間の厚さ方向の距離が40%以上である。
本発明の圧電フィルムは、好ましくは一方の電極層を覆って、より好ましくは両方の電極層を覆って、保護層を有する。
【0015】
このような本発明の圧電フィルムは、一例として、電気音響変換フィルムとして用いられるものである。具体的には、本発明の圧電フィルムは、圧電スピーカー、マイクロフォン、および、音声センサー等の電気音響変換器の振動板として用いられる。
電気音響変換器は、圧電フィルムへの電圧印加によって、圧電フィルムが面方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、圧電フィルムが、上方(音の放射方向)に移動し、逆に、圧電フィルムへの電圧印加によって、圧電フィルムが面方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、圧電フィルムが、下方に移動する。
電気音響変換器は、この圧電フィルムの伸縮の繰り返しによる振動により、振動(音)と電気信号とを変換するものであり、圧電フィルムに電気信号を入力して電気信号に応じた振動により音を再生したり、音波を受けることによる圧電フィルムの振動を電気信号に変換したり、振動による触感付与および物体の輸送等に利用される。
具体的には、圧電フィルムの用途としては、フルレンジスピーカー、ツイーター、スコーカーおよびウーハーなどのスピーカー、ヘッドホン用スピーカー、ノイズキャンセラー、マイクロフォン、ならびに、ギターなどの楽器に用いられるピックアップ(楽器用センサー)等、各種の音響デバイスが挙げられる。また、本発明の圧電フィルムは非磁性体であるため、ノイズキャンセラーのなかでもMRI用ノイズキャンセラーとして好適に用いることが可能である。
また、本発明の圧電フィルムを利用する電気音響変換器は薄く、軽く、曲がるため、帽子、マフラーおよび衣服といったウェアラブル製品、テレビおよびデジタルサイネージなどの薄型ディスプレイ、ならびに、音響機器等としての機能を有する建築物、自動車の天井、カーテン、傘、壁紙、窓およびベッドなどに好適に利用される。
【0016】
図1に、本発明の圧電フィルムの一例を概念的に示す。
図1に示す圧電フィルム10は、圧電体層12と、圧電体層12の一方の面に積層される第1電極層14と、第1電極層14に積層される第1保護層18と、圧電体層12の他方の面に積層される第2電極層16と、第2電極層16に積層される第2保護層20と、を有する。
本発明の圧電フィルム10は、例えば、ロール・トゥ・ロールによって作製された長尺な圧電フィルム、または、大判の圧電フィルムから、所望の形状に切り出された、カットシート状(枚葉紙状)のフィルムである。従って、圧電フィルム10の端面は、切断面である。
【0017】
本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12は、高分子材料を含むマトリックス24中に、圧電体粒子26を含む、高分子複合圧電体層である。
【0018】
ここで、高分子複合圧電体(圧電体層12)は、次の用件を具備したものであるのが好ましい。なお、本発明において、常温とは、0~50℃である。
(i) 可撓性
例えば、携帯用として新聞および雑誌等のように書類感覚で緩く撓めた状態で把持する場合、絶えず外部から、数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けることになる。この時、高分子複合圧電体が硬いと、その分、大きな曲げ応力が発生し、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生し、やがて破壊に繋がる恐れがある。従って、高分子複合圧電体には適度な柔らかさが求められる。また、歪みエネルギーを熱として外部へ拡散できれば応力を緩和することができる。従って、高分子複合圧電体の損失正接が適度に大きいことが求められる。
(ii) 音質
スピーカーは、20Hz~20kHzのオーディオ帯域の周波数で圧電体粒子を振動させ、その振動エネルギーによって振動板(高分子複合圧電体)全体が一体となって振動することで音が再生される。従って、振動エネルギーの伝達効率を高めるために高分子複合圧電体には適度な硬さが求められる。また、スピーカーの周波数特性が平滑であれば、曲率の変化に伴い最低共振周波数f0が変化した際の音質の変化量も小さくなる。従って、高分子複合圧電体の損失正接は適度に大きいことが求められる。
【0019】
スピーカー用振動板の最低共振周波数f0は、下記式で与えられるのは周知である。ここで、sは振動系のスチフネス、mは質量である。
【数1】

このとき、圧電フィルムの湾曲程度すなわち湾曲部の曲率半径が大きくなるほど機械的なスチフネスsが下がるため、最低共振周波数f0は小さくなる。すなわち、圧電フィルムの曲率半径によってスピーカーの音質(音量、周波数特性)が変わることになる。
【0020】
以上をまとめると、高分子複合圧電体は、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことが求められる。また、高分子複合圧電体の損失正接は、20kHz以下の全ての周波数の振動に対して、適度に大きいことが求められる。
【0021】
一般に、高分子固体は粘弾性緩和機構を有しており、温度上昇あるいは周波数の低下と共に大きなスケールの分子運動が貯蔵弾性率(ヤング率)の低下(緩和)あるいは損失弾性率の極大(吸収)として観測される。その中でも、非晶質領域の分子鎖のミクロブラウン運動によって引き起こされる緩和は、主分散と呼ばれ、非常に大きな緩和現象が見られる。この主分散が起きる温度がガラス転移点(Tg)であり、最も粘弾性緩和機構が顕著に現れる。
高分子複合圧電体(圧電体層12)において、ガラス転移点が常温にある高分子材料、言い換えると、常温で粘弾性を有する高分子材料をマトリックスに用いることで、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の遅い振動に対しては柔らかく振舞う高分子複合圧電体が実現する。特に、この振舞いが好適に発現する等の点で、周波数1Hzでのガラス転移点Tgが常温にある高分子材料を、高分子複合圧電体のマトリックスに用いるのが好ましい。
【0022】
マトリックス24となる高分子材料は、常温において、動的粘弾性試験による周波数1Hzにおける損失正接Tanδの極大値が、0.5以上であるのが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に、最大曲げモーメント部における高分子マトリックス/圧電体粒子界面の応力集中が緩和され、高い可撓性が期待できる。
【0023】
また、マトリックス24となる高分子材料は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において100MPa以上、50℃において10MPa以下であるのが好ましい。
これにより、高分子複合圧電体が外力によってゆっくりと曲げられた際に発生する曲げモーメントが低減できると同時に、20Hz~20kHzの音響振動に対しては硬く振る舞うことができる。
【0024】
また、マトリックス24となる高分子材料は、比誘電率が25℃において10以上で有ると、より好適である。これにより、高分子複合圧電体に電圧を印加した際に、高分子マトリックス中の圧電体粒子にはより高い電界が掛かるため、大きな変形量が期待できる。
しかしながら、その反面、良好な耐湿性の確保等を考慮すると、高分子材料は、比誘電率が25℃において10以下であるのも、好適である。
【0025】
このような条件を満たす高分子材料としては、シアノエチル化ポリビニルアルコール(シアノエチル化PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニリデンクロライドコアクリロニトリル、ポリスチレン-ビニルポリイソプレンブロック共重合体、ポリビニルメチルケトン、および、ポリブチルメタクリレート等が好適に例示される。
また、これらの高分子材料としては、ハイブラー5127(クラレ社製)などの市販品も、好適に利用可能である。
【0026】
マトリックス24を構成する高分子材料としては、シアノエチル基を有する高分子材料を用いるのが好ましく、シアノエチル化PVAを用いるのが特に好ましい。すなわち、本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12は、マトリックス24として、シアノエチル基を有する高分子材料を用いるのが好ましく、シアノエチル化PVAを用いるのが特に好ましい。
以下の説明では、シアノエチル化PVAを代表とする上述の高分子材料を、まとめて『常温で粘弾性を有する高分子材料』とも言う。
【0027】
なお、これらの常温で粘弾性を有する高分子材料は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用(混合)して用いてもよい。
【0028】
本発明の圧電フィルム10において、圧電体層12のマトリックス24には、必要に応じて、複数の高分子材料を併用してもよい。
すなわち、高分子複合圧電体を構成するマトリックス24には、誘電特性および機械的特性などの調節等を目的として、上述した常温で粘弾性を有する高分子材料に加え、必要に応じて、その他の誘電性高分子材料を添加しても良い。
【0029】
添加可能な誘電性高分子材料としては、一例として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体およびポリフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系高分子、シアン化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシサッカロース、シアノエチルヒドロキシセルロース、シアノエチルヒドロキシプルラン、シアノエチルメタクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルジヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルアミロース、シアノエチルポリアクリルアミド、シアノエチルポリアクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルサッカロースおよびシアノエチルソルビトール等のシアノ基またはシアノエチル基を有するポリマー、ならびに、ニトリルゴムおよびクロロプレンゴム等の合成ゴム等が例示される。
中でも、シアノエチル基を有する高分子材料は、好適に利用される。
また、圧電体層12のマトリックス24において、これらの誘電性高分子材料は、1種に制限はされず、複数種を添加してもよい。
【0030】
また、誘電性高分子材料以外にも、マトリックス24のガラス転移点Tgを調節する目的で、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリブテンおよびイソブチレン等の熱可塑性樹脂、ならびに、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂およびマイカ等の熱硬化性樹脂等を添加しても良い。
さらに、粘着性を向上する目的で、ロジンエステル、ロジン、テルペン、テルペンフェノール、および、石油樹脂等の粘着付与剤を添加しても良い。
【0031】
圧電体層12のマトリックス24において、常温で粘弾性を有する高分子材料以外の高分子材料を添加する際の添加量には制限はないが、マトリックス24に占める割合で30質量%以下とするのが好ましい。
これにより、マトリックス24における粘弾性緩和機構を損なうことなく、添加する高分子材料の特性を発現できるため、高誘電率化、耐熱性の向上、圧電体粒子26および電極層との密着性向上等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0032】
圧電体層12となる高分子複合圧電体は、このような高分子マトリックスに、圧電体粒子26を含むものである。圧電体粒子26は、高分子マトリックスに分散されている。好ましくは、圧電体粒子26は、高分子マトリックスに均一(略均一)に分散される。
圧電体粒子26は、好ましくは、ペロブスカイト型またはウルツ鉱型の結晶構造を有するセラミックス粒子からなるものである。
圧電体粒子26を構成するセラミックス粒子としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、および、チタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFe3)との固溶体(BFBT)等の粒子が例示される。
【0033】
圧電体粒子26の粒径は、圧電フィルム10のサイズ、および、圧電フィルム10の用途等に応じて、適宜、選択すれば良い。圧電体粒子26の粒径は、1~10μmが好ましい。
圧電体粒子26の粒径を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0034】
圧電フィルム10において、圧電体層12中におけるマトリックス24と圧電体粒子26との量比は、圧電フィルム10の面方向の大きさ、圧電フィルム10の厚さ、圧電フィルム10の用途、および、圧電フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
圧電体層12中における圧電体粒子26の体積分率は、30~80%が好ましく、50~80%がより好ましい。
マトリックス24と圧電体粒子26との量比を上記範囲とすることにより、高い圧電特性とフレキシビリティとを両立できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0035】
また、圧電フィルム10において、圧電体層12の厚さには制限はなく、圧電フィルム10のサイズ、圧電フィルム10の用途、圧電フィルム10に要求される特性等に応じて、適宜、設定すればよい。
圧電体層12の厚さは、8~300μmが好ましく、8~200μmがより好ましく、10~150μmがさらに好ましく、15~100μmが特に好ましい。
圧電体層12の厚さを、上記範囲とすることにより、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0036】
圧電体層12は、厚さ方向に分極処理(ポーリング)されているのが好ましい。分極処理に関しては、後に詳述する。
【0037】
圧電体層12には、金属不純物が混入する場合がある。
例えば、圧電体層12は、後述するように、圧電体層12を形成するための塗料を用いて形成する。この塗料は、有機溶媒に、マトリックス24となる高分子材料と圧電体粒子26とを投入して、攪拌することで調製する。この塗料の調製の際の攪拌時に、攪拌を行う金属製のプロペラが破損して、塗料中に混入してしまい、金属不純物として圧電体層12中に混入する場合がある。
【0038】
このような金属不純物が圧電体層12に混入すると、金属不純物に起因して、第1電極層14と第2電極層16とがショートしてしまい、圧電フィルム10が適正に作動しなくなってしまう場合がある。
従って、圧電体層12は、このような金属不純物の量が少ないのが好ましい。具体的には、圧電体層12中における金属不純物の量は、200ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、全く含まないのがさらに好ましい。
【0039】
なお、圧電体層12中における金属不純物の量は、圧電体層12を強酸等で処理して灰化を行い、ICP(Inductively Coupled Plasma(誘導結合プラズマ))分析によって測定すればよい。検出対象金属は、一例として、Li、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、In、Ba、Tl、および、Biとする。これらの金属が好ましい範囲にあると、ショートが抑制できる。
【0040】
図1に示す圧電フィルム10の積層フィルムは、このような圧電体層12の一方の面に、第2電極層16を有し、第2電極層16の表面に第2保護層20を有し、圧電体層12の他方の面に、第1電極層14を有し、第1電極層14の表面に第1保護層18を有してなる構成を有する。圧電フィルム10では、第1電極層14と第2電極層16とが電極対を形成する。
言い換えれば、本発明の圧電フィルム10を構成する積層フィルムは、圧電体層12の両面を電極対、すなわち、第1電極層14および第2電極層16で挟持し、さらに、第1保護層18および第2保護層20で挟持してなる構成を有する。
このように、第1電極層14および第2電極層16で挾持された領域は、印加された電圧に応じて駆動される。
【0041】
なお、本発明において、第1電極層14および第2電極層16等おける第1および第2とは、本発明の圧電フィルム10を説明するために、便宜的に付しているものである。
従って、本発明の圧電フィルム10における第1および第2には、技術的な意味は無く、また、実際の使用状態とは無関係である。
【0042】
本発明の圧電フィルム10は、これらの層に加えて、例えば、電極層と圧電体層12とを貼着するための貼着層、および、電極層と保護層とを貼着するための貼着層を有してもよい。
貼着剤は、接着剤でも粘着剤でもよい。また、貼着剤は、圧電体層12から圧電体粒子26を除いた高分子材料すなわちマトリックス24と同じ材料も、好適に利用可能である。なお、貼着層は、第1電極層14側および第2電極層16側の両方に有してもよく、第1電極層14側および第2電極層16側の一方のみに有してもよい。
【0043】
圧電フィルム10において、第1保護層18および第2保護層20は、第1電極層14および第2電極層16を被覆すると共に、圧電体層12に適度な剛性と機械的強度を付与する役目を担っている。すなわち、本発明の圧電フィルム10において、マトリックス24と圧電体粒子26とを含む圧電体層12は、ゆっくりとした曲げ変形に対しては、非常に優れた可撓性を示す一方で、用途によっては、剛性および機械的強度等が不足する場合がある。圧電フィルム10は、それを補うために第1保護層18および第2保護層20が設けられる。
第1保護層18と第2保護層20とは、配置位置が異なるのみで、構成は同じである。従って、以下の説明においては、第1保護層18および第2保護層20を区別する必要がない場合には、両部材をまとめて、保護層ともいう。
【0044】
保護層には、制限はなく、各種のシート状物が利用可能であり、一例として、各種の樹脂フィルムが好適に例示される。中でも、優れた機械的特性および耐熱性を有するなどの理由により、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)、および、環状オレフィン系樹脂等からなる樹脂フィルムが好適に利用される。
【0045】
保護層の厚さにも、制限は無い。また、第1保護層18および第2保護層20の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
保護層の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれる。そのため、機械的強度およびシート状物としての良好なハンドリング性等が要求される場合を除けば、保護層は、薄いほど有利である。
【0046】
第1保護層18および第2保護層20の厚さが、それぞれ、圧電体層12の厚さの2倍以下であれば、剛性の確保と適度な柔軟性との両立等の点で好ましい結果を得られる。
例えば、圧電体層12の厚さが50μmで第1保護層18および第2保護層20がPETからなる場合、第1保護層18および第2保護層20の厚さはそれぞれ、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、中でも25μm以下とするのが好ましい。
【0047】
なお、本発明の圧電フィルムにおいて、保護層は、必須の構成要件ではない。従って、本発明の圧電フィルムは、第1保護層18および第2保護層20のいずれかを有さなくてもよく、両方を有さなくてもよい。
しかしながら、第1電極層14および第2電極層16の保護、圧電体層12の保護、および、圧電フィルムの取り扱い性(ハンドリング性)等を考慮すると、本発明の圧電フィルムは、第1保護層18または第2保護層20を有するのが好ましく、第1保護層18および第2保護層20の両方を有するのが好ましい。
【0048】
圧電フィルム10(積層フィルム)において、圧電体層12と第1保護層18との間には第1電極層14が、圧電体層12と第2保護層20との間には第2電極層16が、それぞれ形成される。第1電極層14および第2電極層16は、圧電フィルム10(圧電体層12)に電界を印加するために設けられる。
【0049】
第1電極層14および第2電極層16は、位置が異なる以外は、基本的に同じものである。従って、以下の説明においては、第1電極層14および第2電極層16を区別する必要がない場合には、両部材をまとめて、電極層ともいう。
【0050】
本発明の圧電フィルムにおいて、電極層の形成材料には制限はなく、各種の導電体が利用可能である。具体的には、炭素、パラジウム、鉄、錫、アルミニウム、ニッケル、白金、金、銀、銅、クロム、モリブデン、これらの合金、酸化インジウムスズ、および、PEDOT/PPS(ポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸)などの導電性高分子等が例示される。
中でも、銅、アルミニウム、金、銀、白金、および、酸化インジウムスズは、好適に例示される。その中でも、導電性、コストおよび可撓性等の観点から銅がより好ましい。
【0051】
また、電極層の形成方法にも制限はなく、真空蒸着およびスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)、めっきによる成膜、上記材料で形成された箔を貼着する方法、および、塗布による方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
中でも特に、圧電フィルム10の可撓性が確保できる等の理由で、真空蒸着によって成膜された銅およびアルミニウム等の薄膜は、電極層として、好適に利用される。その中でも特に、真空蒸着による銅の薄膜は、好適に利用される。
【0052】
第1電極層14および第2電極層16の厚さには、制限はない。また、第1電極層14および第2電極層16の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、上述した保護層と同様に、電極層の剛性が高過ぎると、圧電体層12の伸縮を拘束するばかりか、可撓性も損なわれる。そのため、電極層は、電気抵抗が高くなり過ぎない範囲であれば、薄いほど有利である。
【0053】
本発明の圧電フィルム10では、電極層の厚さとヤング率との積が、保護層の厚さとヤング率との積を下回れば、可撓性を大きく損なうことがないため、好適である。
例えば、保護層がPET(ヤング率:約6.2GPa)で、電極層が銅(ヤング率:約130GPa)からなる組み合わせの場合、保護層の厚さが25μmだとすると、電極層の厚さは、1.2μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.1μm以下とするのがさらに好ましい。
【0054】
圧電フィルム10は、圧電体層12を、第1電極層14および第2電極層16で挟持し、さらに、第1保護層18および第2保護層20を挟持した構成を有する。
このような圧電フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの損失正接(Tanδ)が0.1以上となる極大値が常温に存在するのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10が外部から数Hz以下の比較的ゆっくりとした、大きな曲げ変形を受けたとしても、歪みエネルギーを効果的に熱として外部へ拡散できるため、高分子マトリックスと圧電体粒子との界面で亀裂が発生するのを防ぐことができる。
【0055】
圧電フィルム10は、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)が、0℃において10~30GPa、50℃において1~10GPaであるのが好ましい。
これにより、常温で圧電フィルム10が貯蔵弾性率(E’)に大きな周波数分散を有することができる。すなわち、20Hz~20kHzの振動に対しては硬く、数Hz以下の振動に対しては柔らかく振る舞うことができる。
【0056】
また、圧電フィルム10は、厚さと動的粘弾性測定による周波数1Hzでの貯蔵弾性率(E’)との積が、0℃において1.0×106~2.0×106N/m、50℃において1.0×105~1.0×106N/mであるのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10が可撓性および音響特性を損なわない範囲で、適度な剛性と機械的強度を備えることができる。
【0057】
さらに、圧電フィルム10は、動的粘弾性測定から得られたマスターカーブにおいて、25℃、周波数1kHzにおける損失正接(Tanδ)が、0.05以上であるのが好ましい。
これにより、圧電フィルム10を用いたスピーカーの周波数特性が平滑になり、スピーカー(圧電フィルム10)の曲率の変化に伴い最低共振周波数f0が変化した際の音質の変化量も小さくできる。
【0058】
上述のように、本発明の圧電フィルム10は、ロール・トゥ・ロールによって作製された長尺な圧電フィルム、または、大判の圧電フィルムから、所望の形状に切り出された、カットシート状のものである。従って、端面は切断面である。
ここで、本発明の圧電フィルム10は、端部における第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離dが、圧電体層12の厚さtに対して、40%以上である。なお、厚さ方向とは、言い換えれば、圧電体層12と、第1電極層14および第2電極層16と、第1保護層18および第2保護層20との積層方向である。
本発明の圧電フィルム10は、このような構成を有することにより、端部における第1電極層14と第2電極層16とのショート(短絡)を好適に防止できる。
【0059】
圧電フィルムでは、圧電体層を挟持する電極層の絶縁性が設計通り十分に確保されていることが重要である。絶縁性が不十分である場合、駆動に必要な電圧を印加した時に電極間で生じるショートによって電源に設計値以上の電圧が掛かり、電源の故障(破損)または保護回路により異常停止することで、駆動が停止する。
【0060】
圧電体層を電極層で挟持したカットシート状の圧電フィルムの場合、電極層間のショートは、殆どが圧電フィルムの端面(切断面)で生じる。
すなわち、大判のシート状物から所望の形状のカットシートを切り出す際には、例えば、カッター刃による切断、および、金型による打ち抜き等が用いられる。この切断では、切り出されるカットシートの切断部には剪断応力が掛かり、降伏応力が掛かった時点で、シートが切断(裁断)される。
そのため、本発明の圧電フィルム10の端部(端面/切断面)では、剪断応力による塑性変形、いわゆるダレが生じて、図1に概念的に示すように、第1電極層14と第2電極層16とが近接してしまい、ショートが生じやすくなる。
【0061】
電極間で放電(スパーク)が生じる電圧は、大気条件および電極の形状によっても異なるが、例えば平板と針状の電極で電極間距離が100μm程度の場合、一般的に、数百ボルトにも達する。
ところが、高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む圧電体層、すなわち、高分子複合圧電体層の両面に電極層を設けた圧電フィルムでは、切断条件によっては、実際の放電は、それよりも大幅に低い電圧で発生する。
この延長上にあると考えられるショートの発生現象について、本発明者は、さらに検討を重ねた。その結果、カットシート状の圧電フィルムのショートは、切断時に生じる電極層のバリ、および、切断で生じた電極層のカス(切れカス)が、切断面すなわち圧電フィルムの端面に付着することに原因があることを見出した。
【0062】
圧電体層を電極層で挟持した圧電フィルムを切断する場合には、電極層が金属の展延性によって部分的に引き出されてしまう、いわゆるバリ(ひげ)を生じる。また、切断によって、電極層が微細に破断されて電極層のカスが生じる。切断を行う際には、バリおよびカスの生成を避けることができない。
例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の圧電材料を圧電体層として用いる、一般的な圧電フィルムであれば、電極層のバリおよびカスによる影響は、少ない。従って、圧電体層を厚くすることで、ショートを回避することも可能である。
これに対して、高分子複合圧電体層は、高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含むため、PVDF等からなる圧電体層に比して、硬く、かつ、脆い。そのため、高分子複合圧電体層を電極層で挟持した圧電フィルムでは、切断時にカッター刃および打ち抜き金型等に掛かる負担が大きく、また、振動も生じやすく、一般的な圧電フィルムよりも、電極層のバリおよびカスが多量に生成されてしまう。
そのため、高分子複合圧電体層を電極層で挟持した圧電フィルムでは、電極層のバリおよびカスが端面に多量に付着してしまう。その結果、圧電フィルムの端面における電極間距離が、実際の電極層同士の距離に比して、実質的に非常に短くなってしまう。また、高分子圧電体層の場合には、圧電体層を厚くしても、その分、切断長が長くなり、バリおよびカスの生成量が増えるので、解決策にはならない。すなわち、高分子複合圧電体層を電極層で挟持した圧電フィルムでは、単純に電極層間の距離を長くしても、ショートの解決策にはならない。
【0063】
本発明者は、さらに検討を重ねた結果、高分子複合圧電体層を電極層で挟持した圧電フィルムでは、端面へのバリおよびカスの付着量が、切断後の端部(切断面)における厚さ方向の電極層の距離と高分子圧電体層の厚さとの比率に相関することを見出した。
切断時におけるバリおよびカスの生成量は、切断を行うカッター刃等の切れ味に関係する。すなわち、切断時におけるバリおよびカスの生成量は、切断時におけるカッター刃および金型等の切れ味が良いほど、少ない。
一方で、切断による圧電フィルム端部における塑性変形の大きさは、切断を行うカッター刃等の切れ味に関係する。カッター刃等の切れ味が良い場合には、端部の塑性変形は小さい。従って、カッター刃等の切れ味が良い場合には、圧電体層の厚さと、端部における電極層の距離との差は小さくなる。
【0064】
すなわち、実際に端面に付着するバリおよびカスの量は測定は困難であるが、端面へのバリおよびカスの付着量と、高分子圧電体層の厚さに対する端部における厚さ方向の電極層の距離の比率との間には、相関が有り、高分子複合圧電体層の厚さと、端部における電極層の厚さ方向の距離との差を小さくするほど、端面に付着するバリおよびカスの量を少なくできる。
本発明者の検討によれば、圧電フィルムの端部における電極層の厚さ方向の距離を、高分子複合圧電体層の厚さに対して40%以上とすることにより、端面への電極層のバリおよびカスの付着量を十分に少なくして、圧電体層が薄い場合であっても、電極層のショートを防止するのに必要な絶縁性を確保できる。
【0065】
本発明は、このような知見を得ることで成されたものであり、高分子材料を含むマトリックス中に圧電体粒子を含む高分子複合圧電体層を圧電体層12とし、圧電体層12の両面を第1電極層14および第2電極層16で挟持したカットシート状の圧電フィルム10において、端部(裁断部)における第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離が、圧電体層12の厚さの40%以上とする。
以下の説明では、端部(裁断部)における第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離を『距離d』、圧電体層12の厚さを『厚さt』、厚さtに対する距離dの比を『比率p』とも言う。
本発明の圧電フィルム10は、このような構成を有することにより、カットシート状の圧電フィルムにおいて、端部における第1電極層14と第2電極層16とのショートを防止して、安定して適正に作動することが可能である。また、本発明の圧電フィルム10によれば、比率pが40%未満となった場合には、刃の交換、刃の調節、刃の研磨、および、刃のメンテナンス等を行うことで、適正な生産管理を行うことも可能になる。
【0066】
圧電フィルム10において、比率pが40%未満では、端部における第1電極層14と第2電極層16との十分な絶縁性を確保できず、ショートが生じる可能性が高くなる。
比率pは、50%以上であるのが好ましい。
【0067】
なお、比率pの上限には、上限は無い。しかしながら、切断を行えば、剪断応力に起因する塑性変形は、必ず生じる。そのため、比率pが100%になることは有り得ない。
この点を考慮すると、比率pは、最大95%となる。
【0068】
本発明において、圧電フィルム10の端部における第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離dと圧電体層12の厚さtとの比率pは、公知の各種の方法で測定可能である。
一例として、EDS(Energy dispersive X-ray spectrometry、エネルギー分散型X線分析装置((EDX))を搭載したSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)を用いて、圧電フィルム10の端面すなわち切断面の端部を観察して、電極層を形成する材料の元素マッピングを行って測定する方法が例示される。SEMおよびEDXは、市販品を用いればよい。一例として、SEMは日立ハイテクノロジーズ社製のSU8220が、EDSは、BRUKER社製のXFash 5060FQが、それぞれ、例示される。
【0069】
すなわち、図2の上段に概念的に示すように、EDSを搭載したSEM(SEM-EDS)によって、圧電フィルム10の端面の端部を観察すると共に、EDSによって、観察領域の端面の元素分析を行う。
次いで、元素分析の結果から、図2の下段に概念的に示すように、第1電極層14および第2電極層16の形成材料の元素マッピングを行い、マッピング結果の画像を得る。例えば、第1電極層14および第2電極層16の形成材料が銅である場合には、元素分析の結果から銅マッピングを行い、銅マッピングの結果の画像を得る。
【0070】
電極層の形成材料の元素マッピングの画像を得たら、図2の下段に示すように、元素マッピングの画像から、圧電フィルム10の端部において、第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離dを測定する。
【0071】
一方、圧電体層12の厚さtは、圧電フィルム10のカタログ値等で既知の場合には、その数値を用いればよい。
あるいは、後述する圧電フィルム10の製造工程(例えば図5の状態)において、圧電体層12を形成した時点で、公知の方法で圧電体層12の厚さtを測定してもよい。あるいは、後述する圧電フィルム10の製造工程において、圧電体層12となる塗料の塗布厚および組成から、圧電体層12の厚さtを算出してもよい。あるいは、圧電体層12を形成した時点(例えば図5の状態)で、全厚を測定して、その後、一部で圧電体層12を除去して、厚さを測定し、その差から、圧電体層12の厚さtを求めてもよい。
【0072】
これらの方法で圧電体層12の厚さtが測定(知見)できない場合には、以下の方法で、圧電体層12の厚さtを測定すればよい。
圧電フィルム10を樹脂に包埋する。樹脂による包埋は、圧電フィルム10の切断面から5mm以上、樹脂で包埋するように行うのが好ましい。包埋に用いる樹脂は、圧電フィルム10の形成材料および大きさ(最大面の面積、厚さ)等に応じて、適宜、設定すればよい。なお、包埋に用いる樹脂は、必要に応じて、複数種を混合して用いてもよい。
圧電フィルム10を樹脂に包埋したら、樹脂に包埋した圧電フィルム10を、任意の場所で直線状に切断する。切断は、ミクロトーム等を使う方法の公知の方法で行えばよい。
なお、切断は、切断面の長手方向の中心が、圧電フィルム10の全ての端部(端面)から5mm以上、内側となる位置で行うのが好ましい。
次いで、必要に応じて切断面を研磨する。研磨は、公知の方法で行えばよい。
さらに、切断面の長手方向の中心部において、上述したSEM-EDSによる第1電極層14および第2電極層16の形成材料の元素マッピングを行う。次いで、元素マッピングの画像から、切断面の長手方向の中心で、第1電極層14の内面と第2電極層16の内面との厚さ方向の距離を測定し、この距離を、その切断面における圧電フィルムの厚さとする。これにより、圧電フィルム10の切断面において、上述した塑性変形(ダレ)の影響を受けることなく、圧電体層12の厚さtを測定できる。
このような圧電体層12の切断面における厚さの測定を、任意の5断面で行い、その平均値を、測定対象となる圧電フィルム10の圧電体層12の厚さtとする。
なお、この樹脂による包埋を行う方法は、第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離dの測定にも利用可能である。すなわち、距離dの測定位置を含むように圧電フィルムを端部より5mm以上包埋して、ミクロトームを用いた切断、および、必要に応じて研磨を行い、カットシート状の圧電フィルム10の個々の端面(切断面)に対して、SEM-EDSを用いて、上述のようにして距離dを測定すればよい。
【0073】
厚さt、および、距離dの測定結果から、下記の式によって、圧電体層12の厚さtに対する、圧電フィルム10の端部における第1電極層14と第2電極層16との厚さ方向の距離dの比率p[%]を算出する。
p[%]=(d/t)×100
【0074】
ここで、例えばカットシート状の圧電フィルム10が矩形である場合には、4つの端面(切断面)を有する。従って、図3に概念的に示すように、1つの角部に対して、辺Aと直交する矢印a方向からSEMで観察した辺Aの一方の端部の比率p、および、辺Bと直交する矢印b方向からSEMで観察した辺Bの一方の端面の比率pが測定できる。
すなわち、圧電フィルム10が矩形である場合には、4か所の角部に対して、合計で8か所の圧電フィルム10の端部の比率pが測定できる。
【0075】
なお、本発明の圧電フィルムは、上述のような矩形には制限はされず、様々な形状が利用可能である。一例として、本発明の圧電フィルムの平面形状すなわち主面の形状は、円形、楕円形、三角形、および、五角形以上の多角形等が例示される。
いずれの形状であっても、距離dと、厚さtとの比率p[%]は、端部すなわち切断面をSEM-EDSで観察して、電極の形成材料の元素マッピングを行う、上述の方法で測定すればよい。
本発明においては、圧電フィルムが多角形の場合には、全ての角部を測定対象として、図3に示すように2方向から比率pを測定し、全ての比率p(角部の数×2か所)の平均値を、圧電フィルム10における比率pとする。なお、多角形とは、面取り等によって角部が曲線状になっている場合も含む。また、圧電フィルムが円形および楕円形などの多角形以外の場合には、外周を等分した8か所において比率pを測定し、その平均値を、圧電フィルム10における比率pとする。
【0076】
以下、図4図8の概念図を参照して、本発明の圧電フィルム10の製造方法の一例を説明する。
まず、図4に示す、第2保護層20の表面に第2電極層16が形成されたシート状物34を準備する。さらに、図6に概念的に示す、第1保護層18の表面に第1電極層14が形成されたシート状物38を準備する。
【0077】
シート状物34は、第2保護層20の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき等によって第2電極層16として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。同様に、シート状物38は、第1保護層18の表面に、真空蒸着、スパッタリング、めっき等によって第1電極層14として銅薄膜等を形成して、作製すればよい。
あるいは、保護層の上に銅薄膜等が形成された市販品をシート状物を、シート状物34および/またはシート状物38として利用してもよい。
シート状物34およびシート状物38は、同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0078】
なお、保護層が非常に薄く、ハンドリング性が悪い時などは、必要に応じて、セパレータ(仮支持体)付きの保護層を用いても良い。なお、セパレータとしては、厚さ25~100μmのPET等を用いることができる。セパレータは、電極層および保護層の熱圧着後、取り除けばよい。
【0079】
次いで、図5に示すように、シート状物34の第2電極層16上に、圧電体層12となる塗料(塗布組成物)を塗布した後、硬化して圧電体層12を形成する。これにより、シート状物34と圧電体層12とを積層した積層体36を作製する。
【0080】
圧電体層12の形成は、圧電体層12を形成する材料に応じて、各種の方法が利用可能である。
一例として、まず、有機溶媒に、上述したシアノエチル化PVA等の高分子材料を溶解し、さらに、PZT粒子等の圧電体粒子26を添加し、攪拌して塗料を調製する。
有機溶媒には制限はなく、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン、および、シクロヘキサノン等の各種の有機溶媒が利用可能である。
シート状物34を準備し、かつ、塗料を調製したら、この塗料をシート状物34にキャスティング(塗布)して、有機溶媒を蒸発して乾燥する。これにより、図5に示すように、第2保護層20の上に第2電極層16を有し、第2電極層16の上に圧電体層12を積層してなる積層体36を作製する。
【0081】
塗料のキャスティング方法には制限はなく、バーコーター、スライドコーター、および、ドクターナイフ等の公知の方法(塗布装置)が、全て、利用可能である。
あるいは高分子材料が加熱溶融可能な物であれば、高分子材料を加熱溶融して、これに圧電体粒子26を添加してなる溶融物を作製し、押し出し成形等によって、図4に示すシート状物34の上にシート状に押し出し、冷却することにより、図5に示すような、積層体36を作製してもよい。
【0082】
なお、上述のように、圧電体層12において、マトリックス24には、常温で粘弾性を有する高分子材料以外にも、PVDF等の高分子圧電材料を添加しても良い。
マトリックス24に、これらの高分子圧電材料を添加する際には、上記塗料に添加する高分子圧電材料を溶解すればよい。あるいは、加熱溶融した常温で粘弾性を有する高分子材料に、添加する高分子圧電材料を添加して加熱溶融すればよい。
【0083】
圧電体層12を形成したら、必要に応じて、カレンダ処理を行ってもよい。カレンダ処理は、1回でもよく、複数回、行ってもよい。
周知のように、カレンダ処理とは、加熱プレスおよび加熱ローラ等を用いて、被処理面を加熱しつつ押圧して、平坦化等を施す処理である。
【0084】
次いで、第2保護層20の上に第2電極層16を有し、第2電極層16の上に圧電体層12を形成してなる積層体36の圧電体層12に、分極処理(ポーリング)を行う。圧電体層12の分極処理は、カレンダ処理の前に行ってもよいが、カレンダ処理を行った後に行うのが好ましい。
圧電体層12の分極処理の方法には制限はなく、公知の方法が利用可能である。例えば、分極処理を行う対象に、直接、直流電界を印加する、電界ポーリングが例示される。なお、電界ポーリングを行う場合には、分極処理の前に、第1電極層14を形成して、第1電極層14および第2電極層16を利用して、電界ポーリング処理を行ってもよい。
また、本発明の圧電フィルム10においては、分極処理は、圧電体層12の面方向ではなく、厚さ方向に分極を行うのが好ましい。
【0085】
次いで、図6に示すように、分極処理を行った積層体36の圧電体層12側に、先に準備したシート状物38を、第1電極層14を圧電体層12に向けて積層する。
さらに、この積層体を、第1保護層18および第2保護層20を挟持するようにして、加熱プレス装置および加熱ローラ等を用いて熱圧着して、積層体36とシート状物38とを貼り合わせ、図7に示すような、大判(長尺)の圧電フィルム10Lを作製する。
あるいは、積層体36とシート状物38とを、接着剤を用いて貼り合わせて、好ましくは、さらに圧着して、圧電フィルム10Lを作製してもよい。
【0086】
なお、この圧電フィルム10Lは、カットシート状のシート状物34およびシート状物38等を用いて製造してもよく、あるいは、ロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)を利用して製造してもよい。
【0087】
最後に、図8に概念的に示すように、カッター刃および打ち抜き金型等の切断手段を用いて、作製した大判の圧電フィルム10Lを所定の形状、例えば、矩形に切断して、カットシート状の圧電フィルム10とする。
【0088】
このようにして作製される圧電フィルム10は、面方向ではなく厚さ方向に分極されており、かつ、分極処理後に延伸処理をしなくても大きな圧電特性が得られる。そのため、圧電フィルム10は、圧電特性に面内異方性がなく、駆動電圧を印加すると、面方向では全方向に等方的に伸縮する。
【0089】
図9に、本発明の圧電フィルム10を利用する、平板型の圧電スピーカーの一例を概念的に示す。
この圧電スピーカー40は、圧電フィルム10を、電気信号を振動エネルギーに変換する振動板として用いる、平板型の圧電スピーカーである。なお、圧電スピーカー40は、マイクロフォンおよびセンサー等として使用することも可能である。
【0090】
圧電スピーカー40は、圧電フィルム10と、ケース42と、粘弾性支持体46と、枠体48とを有して構成される。
ケース42は、プラスチック等で形成される、一面が開放する薄い筐体である。筐体の形状としては、直方体状、立方体状、および、円筒状とが例示される。
また、枠体48は、中央にケース42の開放面と同形状の貫通孔を有する、ケース42の開放面側に係合する枠材である。
粘弾性支持体46は、適度な粘性と弾性を有し、圧電フィルム10を支持すると共に、圧電フィルムのどの場所でも一定の機械的バイアスを与えることによって、圧電フィルム10の伸縮運動を無駄なく前後運動(フィルムの面に垂直な方向の運動)に変換させるためのものである。粘弾性支持体46としては、一例として、羊毛のフェルトおよびPET等を含んだ羊毛のフェルトなどの不織布、ならびに、グラスウール等が例示される。
【0091】
圧電スピーカー40は、ケース42の中に粘弾性支持体46を収容して、圧電フィルム10によってケース42および粘弾性支持体46を覆い、圧電フィルム10の周辺を枠体48によってケース42の上端面に押圧した状態で、枠体48をケース42に固定して、構成される。
【0092】
ここで、圧電スピーカー40においては、粘弾性支持体46は、高さ(厚さ)がケース42の内面の高さよりも厚い。
そのため、圧電スピーカー40では、粘弾性支持体46の周辺部では、粘弾性支持体46が圧電フィルム10によって下方に押圧されて厚さが薄くなった状態で、保持される。また、同じく粘弾性支持体46の周辺部において、圧電フィルム10の曲率が急激に変動し、圧電フィルム10に、粘弾性支持体46の周辺に向かって低くなる立上がり部が形成される。さらに、圧電フィルム10の中央領域は四角柱状の粘弾性支持体46に押圧されて、(略)平面状になっている。
【0093】
圧電スピーカー40は、第1電極層14および第2電極層16への駆動電圧の印加によって、圧電フィルム10が面方向に伸長すると、この伸長分を吸収するために、粘弾性支持体46の作用によって、圧電フィルム10の立上がり部が、立ち上がる方向に角度を変える。その結果、平面状の部分を有する圧電フィルム10は、上方に移動する。
逆に、第1電極層14および第2電極層16への駆動電圧の印加によって、圧電フィルム10が面方向に収縮すると、この収縮分を吸収するために、圧電フィルム10の立上がり部が、倒れる方向(平面に近くなる方向)に角度を変える。その結果、平面状の部分を有する圧電フィルム10は、下方に移動する。
圧電スピーカー40は、この圧電フィルム10の振動によって、音を発生する。
【0094】
なお、圧電フィルム10において、伸縮運動から振動への変換は、圧電フィルム10を湾曲させた状態で保持することでも達成できる。
従って、圧電フィルム10は、図9に示すような剛性を有する平板状の圧電スピーカー40ではなく、単に湾曲状態で保持することでも、可撓性を有する圧電スピーカーとして機能させることができる。
【0095】
このような圧電フィルム10を利用する圧電スピーカーは、良好な可撓性を生かして、例えば丸めて、または、折り畳んで、カバン等に収容することが可能である。そのため、圧電フィルム10によれば、ある程度の大きさであっても、容易に持ち運び可能な圧電スピーカーを実現できる。
また、上述のように、圧電フィルム10は、柔軟性および可撓性に優れ、しかも、面内に圧電特性の異方性が無い。そのため、圧電フィルム10は、どの方向に屈曲させても音質の変化が少なく、しかも、曲率の変化に対する音質変化も少ない。従って、圧電フィルム10を利用する圧電スピーカーは、設置場所の自由度が高く、また、上述したように、様々な物品に取り付けることが可能である。例えば、圧電フィルム10を、湾曲状態で洋服など衣料品およびカバンなどの携帯品等に装着することで、いわゆるウェアラブルなスピーカーを実現できる。
【0096】
さらに、上述したように、本発明の圧電フィルムを可撓性を有する有機EL表示デバイスおよび可撓性を有する液晶表示デバイス等の可撓性を有する表示デバイスに貼着することで、表示デバイスのスピーカーとして用いることも可能である。
【0097】
上述したように、圧電フィルム10は、電圧の印加によって面方向に伸縮し、この面方向の伸縮によって厚さ方向に好適に振動するので、例えば圧電スピーカー等に利用した際に、高い音圧の音を出力できる、良好な音響特性を発現する。
良好な音響特性すなわち圧電による高い伸縮性能を発現する圧電フィルム10は、複数枚を積層することにより、振動板等の被振動体を振動させる圧電振動素子としても、良好に作用する。
なお、圧電フィルム10を積層する際には、短絡(ショート)の可能性が無ければ、圧電フィルムは第1保護層18および/または第2保護層20を有さなくてもよい。または、第1保護層18および/または第2保護層20を有さない圧電フィルムを、絶縁層を介して積層してもよい。
【0098】
一例として、圧電フィルム10の積層体を振動板に貼着して、圧電フィルム10の積層体によって振動板を振動させて音を出力するスピーカーとしてもよい。すなわち、この場合には、圧電フィルム10の積層体を、振動板を振動させることで音を出力する、いわゆるエキサイターとして作用させる。
積層した圧電フィルム10に駆動電圧を印加することで、個々の圧電フィルム10が面方向に伸縮し、各圧電フィルム10の伸縮によって、圧電フィルム10の積層体全体が面方向に伸縮する。圧電フィルム10の積層体の面方向の伸縮によって、積層体が貼着された振動板が撓み、その結果、振動板が、厚さ方向に振動する。この厚さ方向の振動によって、振動板は、音を発生する。振動板は、圧電フィルム10に印加した駆動電圧の大きさに応じて振動して、圧電フィルム10に印加した駆動電圧に応じた音を発生する。
従って、この際には、圧電フィルム10自身は、音を出力しない。
【0099】
1枚毎の圧電フィルム10の剛性が低く、伸縮力は小さくても、圧電フィルム10を積層することにより、剛性が高くなり、積層体全体としては伸縮力は大きくなる。その結果、圧電フィルム10の積層体は、振動板がある程度の剛性を有するものであっても、大きな力で振動板を十分に撓ませて、厚さ方向に振動板を十分に振動させて、振動板に音を発生させることができる。
【0100】
圧電フィルム10の積層体において、圧電フィルム10の積層枚数には、制限はなく、例えば振動させる振動板の剛性等に応じて、十分な振動量が得られる枚数を、適宜、設定すればよい。
なお、十分な伸縮力を有するものであれば、1枚の圧電フィルム10を、同様のエキサイター(圧電振動素子)として用いることも可能である。
【0101】
圧電フィルム10の積層体で振動させる振動板にも、制限はなく、各種のシート状物(板状物、フィルム)が利用可能である。
一例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる樹脂フィルム、発泡ポリスチレン等からなる発泡プラスチック、段ボール材等の紙材、ガラス板、および、木材等が例示される。さらに、十分に撓ませることができるものであれば、振動板として、表示デバイス等の機器を用いてもよい。
【0102】
圧電フィルム10の積層体は、隣接する圧電フィルム同士を、貼着層(貼着剤)で貼着するのが好ましい。また、圧電フィルム10の積層体と振動板も、貼着層で貼着するのが好ましい。
貼着層には制限はなく、貼着対象となる物同士を貼着できるものが、各種、利用可能である。従って、貼着層は、粘着剤からなるものでも接着剤からなるものでもよい。好ましくは、貼着後に固体で硬い貼着層が得られる、接着剤からなる接着剤層を用いる。
以上の点に関しては、後述する長尺な圧電フィルム10を折り返してなる積層体でも、同様である。
【0103】
圧電フィルム10の積層体において、積層する各圧電フィルム10の分極方向には、制限はない。なお、上述のように、圧電フィルム10の分極方向とは、厚さ方向の分極方向である。
従って、圧電フィルム10の積層体において、分極方向は、全ての圧電フィルム10で同方向であってもよく、分極方向が異なる圧電フィルムが存在してもよい。
【0104】
ここで、圧電フィルム10の積層体においては、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向が互いに逆になるように、圧電フィルム10を積層するのが好ましい。
圧電フィルム10において、圧電体層12に印加する電圧の極性は、圧電体層12の分極方向に応じたものとなる。従って、分極方向が第1電極層14から第2電極層16に向かう場合でも、第2電極層16から第1電極層14に向かう場合でも、積層される全ての圧電フィルム10において、第1電極層14の極性および第2電極層16の極性を、同極性にする。
従って、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向を互いに逆にすることで、隣接する圧電フィルム10の電極層同士が接触しても、接触する電極層は同極性であるので、ショートする恐れがない。
【0105】
圧電フィルム10の積層体は、長尺な圧電フィルム10を、1回以上、好ましくは複数回、折り返すことで、複数の圧電フィルム10を積層する構成としてもよい。
長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成は、以下のような利点を有する。
すなわち、カットシート状の圧電フィルム10を、複数枚、積層した積層体では、1枚の圧電フィルム毎に、第1電極層14および第2電極層16を、駆動電源に接続する必要がある。これに対して、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、一枚の長尺な圧電フィルム10のみで積層体を構成できる。また、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、駆動電圧を印加するための電源が1個で済み、さらに、圧電フィルム10からの電極の引き出しも、1か所でよい。
さらに、長尺な圧電フィルム10を折り返して積層した構成では、必然的に、隣接する圧電フィルム10同士で、分極方向が互いに逆になる。
【0106】
以上、本発明の圧電フィルムについて詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例
【0107】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例に制限されるものでなく、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
【0108】
[圧電フィルムの作製]
図4図7に示す方法で、大判の圧電フィルムを作製した。
まず、下記の組成比で、シアノエチル化PVA(CR-V 信越化学工業社製)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。その後、この溶液に、圧電体粒子としてPZT粒子を下記の組成比で添加して、プロペラミキサー(回転数2000rpm)で攪拌して、圧電体層を形成するための塗料を調製した。
・PZT粒子・・・・・・・・・・・300質量部
・シアノエチル化PVA・・・・・・・30質量部
・DMF・・・・・・・・・・・・・・70質量部
なお、PZT粒子は、主成分となるPb酸化物、Zr酸化物およびTi酸化物の粉末を、Pb=1モルに対し、Zr=0.52モル、Ti=0.48モルとなるように、ボールミルで湿式混合してなる混合粉を、800℃で5時間、焼成した後、解砕処理したものを用いた。
【0109】
一方、厚さ4μmのPETフィルムに、厚さ0.1μmの銅薄膜を真空蒸着してなるシート状物を用意した。すなわち、本例においては、第1電極層および第2電極層は、厚さ0.1mの銅蒸着薄膜であり、第1保護層および第2保護層は、厚さ4μmのPETフィルムとなる。
シート状物の第2電極層(銅蒸着薄膜)の上に、スライドコーターを用いて、先に調製した圧電体層を形成するための塗料を塗布した。なお、塗料は、乾燥後の塗膜の膜厚が40μmになるように、塗布した。
次いで、シート状物に塗料を塗布した物を、120℃のホットプレート上で加熱乾燥することでDMFを蒸発させた。これにより、PET製の第2保護層の上に銅製の第2電極層を有し、その上に、厚さが30μmの圧電体層(高分子複合圧電体層)を有する積層体を作製した。
【0110】
作製した圧電体層を、厚さ方向に分極処理した。
【0111】
分極処理を行った積層体の上に、第1電極層(銅薄膜側)を圧電体層に向けて、PETフィルムに同薄膜を蒸着したシート状物を積層した。
次いで、積層体とシート状物との積層体を、ラミネータ装置を用いて、温度120℃で熱圧着することで、複合圧電体と第1電極層とを貼着して接着して、図7に示すような大判の圧電フィルムを作製した。
なお、大判の圧電フィルムは、この圧電体層の厚さが30μmの圧電フィルムに加え、圧電体層を形成するための塗料を塗布厚を変更することで、圧電体層の厚さが60μmの圧電フィルムおよび圧電体層の厚さが140μmの圧電フィルムも作製した。
【0112】
[実施例1~9および比較例1~4]
作製した圧電フィルムを、使用するカッター刃および金型を、種々、変更して、210×300mmに切り出して、カットシート状の圧電フィルムを作製した。
作製した各圧電フィルムについて、端部における第1電極層と第2電極層との厚さ方向の距離d、および、圧電体層の厚さtを、SEM-EDSを用いる上述した方法で測定し、距離dと厚さtとの比率p[%]を算出した。なお、SEM-EDSによる測定において、SEMは日立ハイテクノロジーズ社製のSU8220を用い、EDSは、BRUKER社製のXFash 5060FQを用いた。
【0113】
作製した圧電フィルムを、図9に示すように、予め粘弾性支持体としてグラスウールを収納した210×300mmのケース上に載せた後、周辺部を枠体で押さえて、圧電フィルムに適度な張力と曲率を与えることで、図9に示すような圧電スピーカーを作製した。
なお、ケースの深さは9mmとし、グラスウールの密度は32kg/m3で、組立前の厚さは25mmとした。
【0114】
作製した圧電スピーカーを無響音室に置き、入力信号として50Vおよび100Vの100Hzのサイン波をパワーアンプを通して入力し、図10に示すように、スピーカーの中心から50cm離れた距離に置かれたマイクロフォン50で音を録音した。
【0115】
録音データから、以下の評価を行った。
A: 問題なく音が鳴った
B: 放電音がした後、音が鳴った
C: 何も音がしない(パワーアンプに過電流が流れトリップした)
結果を下記の表に示す
【0116】
【表1】
【0117】
上記表に示すように、圧電体層の厚さtに対する端部における第1電極層と第2電極層との厚さ方向の距離dの比率pが40%以上である本発明の圧電フィルムは、スピーカーに利用した際に、ショートすることなく、適正に音を出力できる。なお、B評価の圧電フィルムは、端面すなわち切断面における電極間の絶縁性が、若干、低く、通電と同時に放電したために、放電音が発生したが、その後は、十分な電極間の絶縁性を確保して、問題なく音を出力した。
これに対し、比率pが40%未満の比較例は、端面すなわち切断面における電極間の絶縁性が不十分で、ショートが生じたため、音が鳴らなかったと思われる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0118】
スピーカーおよびマイク等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0119】
10,10L 圧電フィルム
12 圧電体層
14 第1電極層
16 第2電極層
18 第1保護層
20 第2保護層
24 高分子マトリックス
26 圧電体粒子
34,38 シート状物
36 積層体
40 圧電スピーカー
42 ケース
46 粘弾性支持体
48 枠体
50 マイクロフォン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10