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特許7395163セラミックス/樹脂複合材料、その製造方法及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】セラミックス/樹脂複合材料、その製造方法及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/83 20060101AFI20231204BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20231204BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231204BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231204BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20231204BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C04B41/83 Z
C08K3/28
C08L83/05
C08L101/00
H01B3/12 337
H05K1/03 610E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022530057
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016801
(87)【国際公開番号】W WO2021251020
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020101278
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 賢明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 雄二
(72)【発明者】
【氏名】本多 沢雄
(72)【発明者】
【氏名】大幸 裕介
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-174182(JP,A)
【文献】特開2019-001961(JP,A)
【文献】特開平08-091960(JP,A)
【文献】特開平04-285079(JP,A)
【文献】特開2009-179517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C08K 3/00,3/28
C08L 83/05,101/00
H01B 3/12
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料であって、
アスペクト比が5未満であって窒化アルミニウムを含むセラミックス粒子が相互に接点で焼結固化して3次元的に結合し、前記セラミックス粒子間相互の間隙によって構成される細孔が連続する細孔構造を形成する多孔質セラミックス焼結体相と、
前記細孔内に充填された樹脂相であって、前記樹脂相は、以下の式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体を含む熱硬化性樹脂の硬化物を含有する樹脂相と、
を備え
【化1】
〔式中、R 1 は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基であり、R 2 、R 3 、R 4 及びR 5 は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。〕
前記細孔の平均気孔径が0.1μm以上30.0μm以下であり、
前記樹脂相は、前記複合材料の15体積%以上75体積%以下であり、
前記複合材料は25℃において20W/mK以上の熱伝導率を有する、複合材料
【請求項2】
前記セラミックス粒子の平均粒子径は、0.5μm以上100μm以下である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記多孔質セラミックス焼結体は、前記セラミックス粒子を構成する金属元素以外の金属元素であって、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、B、Si、Mn、Mg及びAlからなる群から選択される1種以上の金属元素の含有量の総量が1質量%以下である、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の複合材料を備える、熱伝導性絶縁要素。
【請求項5】
合材料の製造方法であって、
アスペクト比が5未満であって窒化アルミニウムを含むセラミックス粒子を含む原料組成物を焼成して前記セラミックス粒子が相互に接点で焼結固化して3次元的に結合し、前記セラミックス粒子間相互の間隙によって構成される細孔が連続する細孔構造を形成する多孔質セラミックス焼結体を得る工程と、
前記細孔に、以下の式(1)で表される、シルセスキオキサン誘導体を含む熱硬化性樹脂を導入する工程と、
【化2】
〔式中、R 1 は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基であり、R 2 、R 3 、R 4 及びR 5 は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。〕
前記熱硬化性樹脂を硬化させて前記細孔中に樹脂相を形成する工程と、
を備え、
前記細孔の平均気孔径が0.1μm以上30.0μm以下であり、
前記樹脂相は、前記複合材料の総体積量の15体積%以上75体積%以下であり、
前記複合材料は25℃において20W/mK以上の熱伝導率を有する、製造方法。
【請求項6】
前記多孔質セラミックス焼結体は、前記セラミックス粒子を構成する金属元素以外の金属元素であって、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、B、Si、Mn、Mg及びAlからなる群から選択される1種以上の金属元素の含有量の総量が1質量%以下である、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質セラミックス焼結体を、放電プラズマ焼結法により取得する、請求項5又は6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年6月10日に出願された日本国特許出願2020-101278の関連出願であり、この出願に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全ての記載内容が援用によりこの出願の一部を構成するものとする。
本明細書は、セラミックスと樹脂との複合材料(セラミックス/熱硬化性樹脂複合材料)及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ等に代表されるパワーモジュールなどの半導体装置の下部には絶縁性を有する基板が備えられる。こうした基板に求められているのは絶縁性のほか、耐熱性及び熱伝導性である。かかる基板には、こうした要請を高次元で満たすセラミックス材料が使用されるのが一般的である。なかでも、これらの要求特性を充足しかつ比較的比重の小さい窒化物セラミックスが使用されることが多い。
【0003】
窒化物セラミックスとしては、従来は主に窒化アルミニウムが使用されてきたが、近年、モジュールの高温作動化に加えて機械的強度も求められることから、窒化ケイ素が主流となりつつある。一方、窒化ケイ素は要求特性を充足するものの高コストであることから実用性に課題がある。そこで、比較的低いコストと絶縁性、耐熱性及び熱伝導性といった特性を満たすために、様々な窒化物セラミックスとシルセスキオキサン誘導体やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の複合化が試みられている(特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1には、窒化ホウ素、シルセスキオキサン誘導体及び硬化触媒の混合物を180℃、0.05気圧下、120MPaの荷重をかけて1時間ウォームプレスをかけて作製した絶縁材料が開示されている。また、特許文献2には、窒化物セラミックス-樹脂複合材料が開示されている。すなわち、アモルファス窒化ホウ素と、六方晶窒化ホウ素、窒化ケイ素及び窒化アルミニウムのうちのいずれかとの混合粉末を、焼結助剤の存在下、1850~2000℃、20~120MPa加圧下、窒素雰囲気下で6~20時間焼結して焼結体を得ること、及び、この焼結体に、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含侵し硬化させてセラミックス樹脂複合体を作製したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-133851号公報
【文献】国際公開第2017/155110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される窒化ホウ素とシルセスキオキサン誘導体との複合材料では、熱伝導率が十分ではなかった。また、特許文献2に開示される窒化ホウ素を含む窒化物セラミックス焼結体とエポキシ樹脂との複合材料では、複合材料内に窒化ホウ素を含む窒化物セラミックスの連続体を形成して熱伝導率を確保するには、窒素雰囲気下で長時間の高温加圧プロセスを要するため、窒化ケイ素等の窒化物セラミックス単体で基板を構成するのに比べて製造プロセス上のメリットは小さかった。しかも、得られる複合材料は、要求特性を十分には充足できていなかった。さらに、エポキシ樹脂は、耐熱性も不十分であるほか、焼結体における窒化ケイ素や窒化ホウ素等の粒子のアスペクト比が5以上を要するものであるため、その形状異方性ゆえに熱伝導性や強度の異方性を回避できなかった。
【0007】
以上のとおり、現在までのところ、熱伝導性、耐熱性及び絶縁性に優れたセラミックス/樹脂複合材料を得ることは困難であった。
【0008】
本明細書は、熱伝導性、耐熱性及び絶縁性などの特性を発揮するのに好適なセラミックス/樹脂複合材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、セラミックスと樹脂との複合材料において、熱伝導性、耐熱性及び絶縁性を発揮するのに好適な複合材料の相構成及び複合化プロセスについて種々検討した。その結果、アスペクト比が5未満の一次粒子のセラミックス粉末を用いて多孔質セラミックス焼結体を取得した後、この多孔質焼結体の細孔内に樹脂を導入して複合化することで、熱伝導性及び耐熱性、並びに絶縁性優れる複合材料を得ることができた。本明細書は、かかる知見に基づき以下の手段を提供する。
【0010】
[1]アスペクト比が5未満のセラミックス粒子が3次元的に結合した多孔質セラミックス焼結体相と、前記多孔質セラミックス焼結体の細孔中の樹脂によって構成される樹脂相と、を備える、セラミックス/樹脂複合材料。
[2]前記セラミックス粒子の平均粒子径は、0.5μm以上100μm以下である、[1]に記載の複合材料。
[3]前記セラミックス粒子は、窒化アルミニウムを含む、[1]又は[2]に記載の複合材料。
[4]前記多孔質セラミックス焼結体相は、前記セラミックス粒子を構成する金属元素以外の金属元素であって、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、B、Si、Mn、Mg及びAlからなる群から選択される1種以上の金属元素の含有量が1質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合材料。
[5]前記樹脂は、熱硬化性樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の複合材料。
[6]前記熱硬化性樹脂は、以下の式(1)で表される、シルセスキオキサン誘導体を含有する、[5]に記載の複合材料。
【化1】
〔式中、R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基であり、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。〕
[7][1]~[6]のいずれかに記載の複合材料であって、前記樹脂が硬化されている前記複合材料を備える、熱伝導性絶縁要素。
[8]セラミックス/樹脂複合材料の製造方法であって、
アスペクト比が5未満のセラミックス粒子を含むセラミックス原料組成物を焼成して前記セラミックス粒子が3次元的に結合した多孔質セラミックス焼結体を得る工程と、
前記多孔質セラミックス焼結体の細孔に樹脂を充填して、前記複合材料を得る工程と、
を備える、製造方法。
[9]さらに、前記樹脂は熱硬化性樹脂であり、前記複合材料中の前記熱硬化性樹脂を硬化させる工程、を備える、[8]に記載の製造方法。
[10]前記セラミックス原料組成物は、窒化アルミニウムを含む、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]前記多孔質セラミックス焼結体は、前記セラミックス粒子を構成する金属元素以外の金属元素であって、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、B、Si、Mn、Mg及びAlからなる群から選択される1種以上の金属元素の含有量が1質量%以下である、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]前記多孔質セラミックス焼結体を、放電プラズマ焼結法により取得する、[8]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書は、熱伝導性、耐熱性及び絶縁性に優れるセラミックス/樹脂複合材料、その製造方法及びその利用に関する。本明細書に開示するセラミックス/樹脂複合材料(以下、単に、本複合材料ともいう。)は、以下のようにして取得できる。まず、本複合材料における樹脂に比して熱伝導性及び耐熱性に優れ、主として、熱伝導性及び耐熱性に貢献し、絶縁性にも貢献するセラミックスの粒子が連結して形成された連続細孔構造を有する多孔質体を焼結体として予め取得する。そして、この多孔質焼結体の細孔に、主として絶縁性に貢献する樹脂を充填することにより本複合材料を得ることができる。本複合材料においては、セラミックス相が均一な細孔構造(換言すれば、連続構造でもある。)を備えているため、等方的な熱伝導性と優れた耐熱性とを確保でき、細孔の存在により低下が推測される絶縁性を細孔内に充填する樹脂で補うことができる。
【0012】
均一な細孔構造を備える多孔質焼結体は、樹脂導入時において樹脂浸透性に優れるとともに、気泡が抜けやすいため、細孔が確実に樹脂により充填される。このため、本複合材料は、良好な絶縁性を備えることができる。
【0013】
従来のセラミックス/樹脂複合材料は、窒化物セラミックス連続体を得るために原料粉末を窒素加圧下、高温で長時間CIP成形して、アスペクト比が5以上の窒化セラミックスの一次粒子で構成されることを要するものであった。本複合材料ではアスペクト比が5未満の安価且つ焼結性が良好である、例えば、窒化物セラミックス粉末を原料とすることができるために、細孔構造が均一である多孔質焼結体を、短時間の焼成で容易に得ることができる。
【0014】
本複合材料は、熱伝導性(放熱効果)、耐熱性及び絶縁性が求められる熱伝導性絶縁要素や構造体などに有用である。本複合材料の適用対象となる構造体は、例えば、半導体装置;各種インバータ;コンピュータのCPU;LED等が挙げられる。半導体装置とは、特に限定するものではないが、例えば、電力変換や電力制御などに利用するいわゆるパワーモジュールを構成するパワー半導体装置が挙げられる。パワー半導体装置等に使用される素子や制御回路は特に限定するものではなく、公知の種々の素子や制御回路を包含している。また、本明細書における半導体装置は、単に素子や制御回路のみならず、放熱や冷却等のためのユニットを備える半導体モジュールも包含している。
【0015】
また、熱伝導性絶縁要素とは、放熱及び絶縁すべき個所に供給されて放熱機能及び絶縁機能(電流遮断機能)を発揮する構成要素をいう。熱伝導性絶縁要素としては、としては、特に限定するものではないが、例えば、種々の電子部品や半導体装置における絶縁層、絶縁膜のほか、絶縁フィルム、絶縁シート、絶縁基板などが挙げられる。
【0016】
以下では、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された「セラミックス/樹脂複合材料、その製造方法及びその利用」を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0017】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本発明の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本発明の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0018】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0019】
以下、本複合材料及びその製造方法等について詳細に説明する。
【0020】
(本複合材料)
本複合材料は、アスペクト比が5未満であるセラミックス粒子が3次元的に結合した多孔質セラミックス焼結体相と、前記多孔質セラミックス焼結体相の細孔中の樹脂によって構成される樹脂相と、を備えることができる。
【0021】
<多孔質セラミックス焼結体相>
本複合材料における多孔質セラミックス焼結体相(以下、単に、セラミックス相ともいう。)は、セラミックス粒子が3次元的に結合した多孔質構造を有している。かかる多孔質構造は、一般的には、アグリゲート型と称される、原料のセラミックスの粒子が相互に接点で焼結固化した構造体である。かかる多孔質構造体における細孔は、粒子間相互の間隙によって構成されている。かかる多孔質構造体が主として一次粒子によって構成される場合、細孔は主として一次粒子間相互の間隙として存在し、また、かかる多孔質構造体が主として二次粒子によって構成される場合、細孔は主として二次粒子間相互の間隙とが存在しうる。多孔質構造体が一次粒子と二次粒子とによって構成される場合には、各粒子相互間の間隙が細孔となる。なお、二次粒子は、概して、例えば、一次粒子を集合させたり、造粒したりすることによって取得される。
【0022】
こうした多孔質構造体は、完全には緻密化していない状態の焼結体相である。このため、原料として用いたセラミックス粒子の粒子径やアスペクト比がセラミックス相においても維持される傾向にあり、セラミックス相や複合材料においても、セラミックスの粒子形態(平均粒子径、アスペクト比等)を評価することができる。
【0023】
セラミックスとしては、特に限定するものではないが、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、シリカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。セラミックスは、本複合材料の用途等に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
本複合材料の熱伝導率を考慮すると、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び窒化ケイ素などの窒化物セラミックスを好ましく用いることができる。これらは、空孔が残存した多孔体であっても20W/(m・k)以上の熱伝導率を有している。また、後述する熱硬化性樹脂としてのシルセスキオキサン誘導体との密着性に優れるからである。熱伝導率に加え、樹脂との濡れ性、製造容易性の観点から、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素を好ましく用いることができる。さらに好ましくは、低アスペクト比である点及び低温焼結性の点を考慮すると、窒化アルミニウムを用いることができる。窒化アルミニウムは、低温焼結性のために、放電プラズマ焼結によって、気孔率の調整も容易である。
【0025】
セラミックス相が、主として一次粒子が相互に連結して多孔質構造体を形成しているとき、そのセラミックス一次粒子の平均粒子径は、例えば、平均粒子径が、0.2μm以上100μm以下であり、また例えば、0.5μm以上50μm以下であり、また例えば、0.5μm以上40μm以下であり、また例えば、0.5μm以上30μm以下であり、また例えば、0.5μm以上20μm以下であり、また例えば、0.5μm以上10μm以下であり、また例えば、0.5μm以上5μm以下である。平均粒子径は、大きすぎると、多孔質構造体の厚み等が増大することになり小型化や薄層化に対応しにくくなり、また、小さすぎると細孔径も小さくなり、樹脂含浸がしにくくなるからである。好ましくは、上限は、50μmであり、より好ましくは、40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
【0026】
また、セラミックス相が、主として、一次粒子が集合又は凝集した二次粒子が構成単位となって、こうした二次粒子が相互に連結して多孔質構造体を形成しているとき、そのセラミックス二次粒子の平均粒子径は、上記一次粒子の平均粒子径の態様をそのまま適用できる。また、この場合のセラミックス一次粒子の平均粒子径は、特に限定するものではないが、例えば、50nm以上300nm以下であり、また例えば、100nm以上200nm以下である。
【0027】
セラミックス相におけるセラミックス一次粒子及び二次粒子の平均粒子径の測定方法は、以下の方法で測定できる。セラミックス相を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後に白金コーティングを行う。その後、走査型電子顕微鏡、例えば、「S-4800」(日立ハイテクノロジー社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「ImageJ」(https://imagej.nih.gov/ij/)に取り込み、測定することができる。なお、実施例では、画像解析の画素数は123万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個を観察し、各粒子の直径の長さを測り、それらの平均値を平均粒子径とする。なお、本明細書において、セラミックス粒子の「直径」とは、観察対象の粒子を取り囲むことのできる最小円の直径を意味している。
【0028】
セラミックス相が、主としてセラミックス一次粒子が相互に連結して形成されている場合、セラミックス一次粒子のアスペクト比は、例えば、5未満である。セラミックス相のセラミックス一次粒子のアスペクト比が5以上であると、不均一な細孔構造となり、また、セラミックス相に異方性が生じやすくなるからである。一般に、均一な細孔構造が得られ易くなり、得られたセラミックス相の異方性も抑制されるからである。また、均一な細孔構造によれば、細孔内に樹脂の導入の際、気泡が抜けやすく、樹脂の導入が均一となり、絶縁性を容易に維持できる。アスペクト比は、また例えば、4以下であり、また例えば、3以下であり、また例えば、2以下であり、また例えば、1.5以下であり、また例えば、1.3以下であり、また例えば、1.2以下であり、また例えば、1.1以下である。
【0029】
また、セラミックス相の多孔質構造体が、主としてセラミックス二次粒子が相互に連結して形成されている場合、セラミックス二次粒子のアスペクト比は、上記した一次粒子における態様をそのまま適用できる。また、この場合のセラミックス一次粒子のアスペクト比は、特に限定されない。
【0030】
セラミックス一次粒子及び二次粒子のアスペクト比は、以下の方法で測定できる。セラミックス相を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後に白金コーティングを行う。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「S-4800」(日立ハイテクノロジー社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「ImageJ」(https://imagej.nih.gov/ij/)に取り込み、測定することができる。なお、実施例では、画像解析の画素数は123万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個を観察し、各粒子の長径と短径の長さを測り、アスペクト比=長径/短径の計算式より各粒子の値を算出し、それらの平均値をアスペクト比とする。なお、本明細書において、セラミックス粒子の「長径」とは、観察対象の粒子を取り囲むことのできる最小円の直径を、セラミックス粒子の「短径」とは、観察対象の粒子に取り囲まれることのできる最大円の直径を、それぞれ意味している。
【0031】
セラミックス相におけるセラミックス一次粒子及び二次粒子の形態は、アスペクト比が5未満であれば特に限定するものではないが、例えば、球状、棒状、針状、柱状、繊維状、板状、鱗片状、ナノシートおよびナノファイバーなどが挙げられ、結晶でも非結晶でも良い。好ましくは、球状である。
【0032】
セラミックス相の気孔率は、特に限定するものではないが、例えば、5%以上であり、また例えば、10%以上であり、また例えば、15%以上である。また、例えば、気孔率は40%以下、また例えば、35%以下、また例えば、30%以下である。また、セラミックス相の閉気孔率は、例えば、5%以下であり、また例えば、3%以下であり、また例えば、1%以下である。閉気孔率が小さいほど、絶縁性に優れるからである。閉気孔率の測定は、アルキメデス法による密度測定値と理論密度の差によることができる。セラミックス相の気孔率の測定方法は、後段に記載する。
【0033】
セラミックス相の平均気孔直径は、例えば、樹脂の導入性等の観点から、例えば、0.1~30.0μmである。平均気孔直径は、JIS R 1655:2003に準拠し、水銀ポロシメーターを用いて累積気孔径分布曲線(JIS R 1655:2003の付図6参照)を作成したときの、気孔径体積の積算値が全体(累積気孔体積の値が最大値)の50%となる気孔径である。
【0034】
セラミックス相は、例えば、本複合材料の25体積%以上95体積%以下とすることができる。25体積%よりも小さいと、熱伝導率が低くなりすぎるからであり、また、95体積%を超えると、樹脂による接着性が低くなりすぎるほか、閉気孔の発生確率が上昇してしまうからである。上記比率は、また例えば、30体積%以上90体積%以下であり、また例えば、35体積%以上85体積%以下であり、また例えば35体積%以上80体積%であり、また例えば、40体積%以上75体積%以下である。なお、これらの範囲における下限値及び上限値はそれぞれ他の上限値及び下限値と組み合わせることもできる。
【0035】
本複合材料中のセラミックス相の比率は、焼結セラミックス多孔質体のかさ密度と真密度の測定により求めることができる。
セラミックス相のかさ密度(D)=質量/体積・・(1)
セラミックス相の気孔率(%)=(1-(D/セラミックス相の真密度))×100=樹脂相の比率(%)・・・・・(2)
セラミックス相の比率(%)=100-樹脂相の比率・・・・・(3)
【0036】
セラミックス相のかさ密度は、JIS Z 8807:2012の幾何学的測定による密度及び比重の測定方法に準拠し、円盤状のセラミックス相の径(ノギスにより測定)から計算した体積と、電子天秤により測定した質量から求めることとする(JIS Z 8807:2012の9項参照)。セラミックス相の真密度は、JIS Z 8807:2012の気体置換法による密度及び比重の測定方法に準拠し、乾式自動密度計を用いて測定したセラミックス相の体積と質量より求めることとする(JIS Z 8807:2012の11項の式(14)~(17)参照)。
【0037】
セラミックス相は、用いるセラミックスの焼結助剤に由来する金属元素など、用いるセラミックスの構成金属元素以外の金属元素の含有量がセラミックス相全体の質量に対して、例えば1質量%以下である。焼結助剤などを構成する低融点化合物や不純物は、概して、熱伝導率及び/又は絶縁性を低下させると考えられる。本複合材料は、後述するようにプラズマ焼結を利用して多孔質体を得ることで、こうした他金属元素の含有量(総量)を上記のように低減することができる。
【0038】
こうした他金属元素の含有量は、また例えば、セラミックス相全体質量に対して0.8質量%以下、また例えば、0.6質量%以下、また例えば。0.4質量%以下、また例えば、0.2質量%以下、また例えば、0.1質量%以下にすることができる。なお、焼結助剤由来の金属元素の含有量としても、セラミックス相の質量の例えば、3質量%以下、また例えば、2.5質量%以下、また例えば。2質量%以下、また例えば、1.5質量%以下、また例えば、1質量%以下にすることができる。
【0039】
他金属元素は、典型的には、焼結助剤として用いられる化合物の金属元素である。焼結助剤として用いられる化合物は、セラミックスの種類によっても異なるが、セラミックスの構成金属元素以外の金属元素であって、例えば、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、B、Si、Mn、Mg及びAlからなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0040】
例えば、窒化アルミニウムには、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化ジスプロシウム等であり、対象となる金属元素は、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd及びDy等が挙げられる。
【0041】
窒化ホウ素には、炭酸カルシウム、ホウ酸、酸化アルミニウム、リン酸三カルシウム、酸化イットリウムであり、対象となる金属元素は、Ca、Al、Y等が挙げられる。窒化ケイ素には、酸化イットリウムなどの希土類元素酸化物等であり、対象となる金属元素は、イットリウム等の希土類元素、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。
【0042】
こうした金属元素含有量の測定は、蛍光X線分析(XRF)でセラミックス相の元素組成を定量することができる。
【0043】
<樹脂相>
樹脂相は、セラミックス相の細孔中の樹脂によって構成される。樹脂相は、連続細孔構造体の細孔を充填するため、樹脂相自体も連続相を形成することができ、良好な絶縁性に貢献する。樹脂相は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、それぞれ必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
熱可塑性樹脂は、特に限定されないで公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、テフロン(登録商標)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等が挙げられる。熱伝導率及び絶縁性を考慮すると、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0045】
熱硬化性樹脂は、特に限定されないで公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。なかでも、耐熱性等の観点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びシリコン樹脂が挙げられる。
【0046】
シリコン樹脂としては、特に限定しないが、例えば、付加反応性官能基、縮合反応性官能基及び重合性官能基等の反応性官能基を備えていてもよいシルセスキオキサン誘導体及びシリコーン等のポリシロキサン樹脂を用いることができる。付加反応としては、例えば、ヒドロシリル化反応及びチオール-エン反応等が挙げられ、縮合反応としては、例えば脱水縮合反応及び脱アルコール縮合反応等が挙げられる。また、重合性官能基としては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基等、アクリロイル基、メタクリロイル基及びビニル基等が挙げられる。シルセスキオキサン誘導体にあっては、シルセスキオキサン誘導体中のアルコキシシリル基の加水分解・重縮合、シルセスキオキサン誘導体中のヒドロシリル基とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和基とのヒドロシリル化反応等の官能基によって、架橋構造を有するシルセスキオキサン誘導体の硬化物を得ることができる。シルセスキオキサン誘導体は、それ自体、加熱により重縮合して3次元架橋構造体を構築するほか重合性官能基を備えることにより、より高い自由度及び/又は架橋度の3次元架橋構造体を得ることができる。また、シルセスキオキサン誘導体は、耐熱性及び絶縁性に優れるほか、それ自体、常温(5℃~35℃)で液体であり、細孔構造への導入に際して特段溶媒や加熱等が不要であるため、好適である。シルセスキオキサン誘導体としては、特に限定しないで、公知のシルセスキオキサン誘導体を用いることができる。例えば、特開2006-131850号公報、特開2006-152085号公報、国際公開第2013/099460号公報、特開2019-1961号公報、特開2019-70071号公報等に記載のシルセスキオキサン誘導体を用いることができる。
【0047】
また、耐熱性及び絶縁性等の観点から、好ましくは、シルセスキオキサン誘導体としては、以下の式で表されるシルセスキオキサン誘導体(以下、本シルセスキオキサン誘導体ともいう。)を用いることができる。本シルセスキオキサン誘導体は、熱伝導性にも優れている。
【0048】
【化2】
〔式中、R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基であり、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。〕
【0049】
本シルセスキオキサン誘導体の有することができる、上記式(1)中左から右へ各構成単位を構成単位(a)~(g)と称するものとし、以下説明する。
【0050】
式(1)におけるs、t、u、v、w、x及びyは、それぞれの構成単位のモル比を表す。なお、式(1)において、s、t、u、v、w、x及びyは、式(1)で表される本シルセスキオキサン誘導体が含有する各構成単位の相対的なモル比を表す。すなわち、モル比は、式(1)で表される各構成単位の反復数の相対比である。モル比は、本シルセスキオキサン誘導体のNMR分析値から求めることができる。また、本シルセスキオキサン誘導体の各原料の反応率が明らかなとき又は収率が100%のときには、その原料の仕込み量から求めることができる。
【0051】
式(1)における構成単位(b)、(c)、(e)、(f)及び(g)のそれぞれについては、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。また、式(1)における配列順序は、構成単位の組成を示すものであって、その配列順序を意味するものではない。
したがって、本シルセスキオキサン誘導体における構成単位の縮合形態は、必ずしも式(1)の配列順通りでなくてよい。
【0052】
<構成単位(a):[SiO4/2]s
構成単位(a)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を4個(酸素原子として2個)備えるQ単位である。本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(a)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度を考慮すると、例えば、全構成単位に占めるモル比率(s/(s+t+u+v+w+x+y))は、0.1以下であり、また例えば、0である。
【0053】
<構成単位(b):[R1-SiO3/2]t
構成単位(b)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個(酸素原子として1.5個)備えるT単位である。R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~30の有機基を表すことができる。すなわち、この有機基R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を持つ官能基とすることができる。かかる有機基R1の具体例としては、特に限定するものではないが、例えば、ビニル基、オルトスチリル基、メタスチリル基、パラスチリル基、アクリロイルオキシメチル基、メタクリロイルオキシメチル基、2-アクリロイルオキシエチル基、2-メタクリロイルオキエメチル基、3-アクリロイルオキシプロピル基、3-メタクリロイルオキシプロピル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、4-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、1-フェニルエテニル基、2-フェニルエテニル基、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、4-ペンチニル基、3-メチル-1-ブチニル基、フェニルブチニル基等が例示される。
【0054】
式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、全体として有機基R1を2種以上含むことができるが、その場合、全ての有機基R1は、互いに同一であってよいし、異なってもよい。有機基R1としては、構成単位(1-2)を形成する原料モノマーが得やすいことから、例えば、炭素原子数が少ないビニル基及び2-プロペニル基(アリル基)である。尚、無機部分とは、SiO部分を意味する。
【0055】
また、構成単位(b)において、R1は、前述に例示のとおり炭素原子数1~20のアルキレン基(2価の脂肪族基)、炭素原子数6~20の2価の芳香族基又は炭素原子数3~20の2価の脂環族基から選択される少なくとも1種を含むことができる。炭素原子数1~20のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、i-ブチレン基等が例示される。炭素原子数6~20の2価の芳香族基としてはフェニレン基、ナフチレン基等が例示される。また、炭素原子数3~20の2価の脂環族基としては、ノルボルネン骨格、トリシクロデカン骨格又はアダマンタン骨格を有する2価の炭化水素基等が例示される。
【0056】
1は炭素原子数2~30の有機基であり、炭素原子数が少ないことは、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物の無機部分の割合を高くし、耐熱性の優れたものにすることができることから、好ましくは炭素原子数が2~20であり、より好ましくは炭素原子数が2~10であり、さらに好ましくは炭素原子数が2~5である。例えば、炭素原子数が少ないビニル基及び2-プロペニル基(アリル基)が特に好適である。
【0057】
<構成単位(c):[R2-SiO3/2]u
構成単位(c)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個備えるT単位である。R2は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。構成単位(c)は、後段で説明する構成単位(d)と比較して、水素原子を含まない点において相違する。構成単位(c)は、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率向上に貢献する。また、本シルセスキオキサン誘導体の硬化物において残存する水素原子量を低減することができる。また、本シルセスキオキサン誘導体のC/Siのモル比の増大に貢献することができる。さらに、本シルセスキオキサン誘導体におけるヒドロシリル化反応を、構成単位(a)及び構成単位(f)との間に規制することができて、構造規則性を向上させて熱伝導率向上に貢献できる場合がある。
【0058】
炭素原子数1~10のアルキル基は、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。熱伝導率の観点からは、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。また例えば、メチル基である。
【0059】
炭素数6~10のアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、炭素数1~4のアルキル基で置換されたフェニル基等が挙げられる。熱伝導率の観点からは、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0060】
炭素数7~10のアラルキル基としては、に限定されるものではないが、炭素数1~4のアルキル基の水素原子の1つがフェニル基などのアリール基で置換されたアルキル基が挙げられる。例えば、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
【0061】
構成単位(c)に含まれるR2が、メチル基など、炭素数1~4のアルキル基のとき、後段で説明する構成単位(e)における複数のR3も同一とすることができる。こうすることで、熱伝導率やフィラー分散性を高めることができる。また、R2が、フェニル基など、フェニル基などのアリール基又はアラルキル基のとき、後段で説明する構成単位(e)(D単位)における複数のR3も同一とすることができる。こうすることで、熱伝導率やフィラー分散性を高めることができる。
【0062】
また、R2がメチル基などの炭素数1~4のアルキル基のとき、構成単位(f)におけるR4と同一とすることができる。また、同様に、構成単位(g)におけるR5と同一とすることができる。耐熱性、分散性及び粘度とのバランスが良いため、Rはメチル基又はフェニル基がより好ましい。
【0063】
<構成単位(d):[H-SiO3/2]v
構成単位(d)も、構成単位(c)と同様、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個備えるT単位であるが、構成単位(d)は、構成単位(c)とは異なり、ケイ素原子に結合する水素原子を備えている。本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(d)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率や耐熱性を考慮すると、例えば、全構成単位に占めるモル比は0.1以下であり、また例えば、0である。
【0064】
<構成単位(e):[R3 2-SiO2/2]w>
構成単位(e)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を2個(酸素原子として1個)備えるD単位である。R3は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を表すことができる。構成単位(e)に含まれる複数のR3は同種であってよく、異っていてもよい。これらの各置換基は、構成単位(c)のR3について規定された各種態様が挙げられる。
【0065】
<構成単位(f):[H, R4 2-SiO1/2]x
構成単位(f)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を1個(酸素原子として0.5個)備える単位である。R4は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を表すことができる。構成単位(f)に含まれる複数のR4は同種であってよく、異っていてもよい。これらの各置換基は、構成単位(c)のR2について規定された各種態様が挙げられる。
【0066】
<構成単位(g):[R5 3-SiO1/2]y
構成単位(g)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を1個(酸素原子として0.5個)備えるM単位である。構成単位(g)は、ケイ素原子に結合する水素原子を備えず全てがアルキル基等である点において、構成単位(f)と相違している。本構成単位により、本シルセスキオキサン誘導体の有機性を向上させることができるし、粘度も低下させることができる。R5は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を表すことができる。構成単位(g)に含まれる複数のR5は同種であってよく、異っていてもよい。これらの各置換基は、構成単位(c)のR2について規定された各種態様が挙げられる。
【0067】
本シルセスキオキサン誘導体は、さらに、Siを含まない構成単位として[R6O1/2]を備えることができる。ここで、R6は水素原子及び又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0068】
この構成単位は、後述する原料モノマーに含まれる加水分解性基であるアルコキシ基、又は、反応溶媒に含まれたアルコールが、原料モノマーの加水分解性基と置換して生成したアルコキシ基であって、加水分解・重縮合せずに分子内に残存したもの、及び/又は、加水分解後、重縮合せずに分子内に残存した水酸基である。
【0069】
以上のように、本シルセスキオキサン誘導体の各構成単位は、それぞれ独立に種々の態様を採ることができるが、例えば、R1としては、ビニル基、アリル基等が好適である。また例えば、構成単位(c)、同(e)、同(f)及び同(g)におけるそれぞれR2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、メチル基などの炭素原子数1~10のアルキル基であることが好適であり、より好適には、R2及びR3が、メチル基など同一のアルキル基であり、さらに好適には、R2、R3及びR4が、メチル基などの同一のアルキル基であり、より一層好適には、R2、R3、R4及びR5(ただし、0<yのとき)、メチル基などの同一のアルキル基である。また例えば、構成単位(c)、同(e)におけるR2及びR3がフェニル基などのアリール基であり、同(f)及び同(g)がメチル基などのアルキル基であることも好適である。
【0070】
各構成単位のモル比は、t、u、w及びxは正の数であり、s、v及びyは0又は正の数である。ここで、モル比が0であることは、その構成単位を含んでいないことを意味している。
【0071】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(a)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(s/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0.1以下であり、また例えば、0である。
【0072】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(b)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の硬化性等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(t/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.3以下である。架橋反応性を有するT単位である構成単位(b)をかかるモル比率で備えることで、良好な架橋構造を有するシルセスキオキサン誘導体を得ることができる。また例えば、当該モル比率は、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば、0.17以上であり、また例えば、0.18以上であり、また例えば、0.20以上であり、また例えば、0.25以上である。また例えば、0.28以下であり、また例えば、0.27以下であり、また例えば、0.26以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.1以上0.27以下であり、また例えば、0.15以上0.26以下である。
【0073】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(c)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(u/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.6以下である。また例えば、0.2以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上であり、また例えば、0.45以上であり、また例えば、0.5以上であり、また例えば、0.55以上である。また例えば、0.55以下であり、また例えば、0.5以下であり、また例えば、0.4以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.3以上0.6以下であり、また例えば、0.4以上0.55以下である。
【0074】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(d)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の熱伝導率や耐熱性を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(v/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0.1以下であり、また例えば、0.05以下であり、また例えば、0である。
【0075】
式(1)において、例えば、u>vである。すなわち、いずれもT単位である構成単位(c)及び同(d)に関し、構成単位(c)が構成単位(d)よりも多いことを意味している。好ましくは、u/(u+v)が、例えば、0.6以上であり、また例えば、0.7以上であり、また例えば、0.8以上であり、また例えば、0.9以上であり、また例えば、1である。
【0076】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(e)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(w/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.2以下である。また例えば、0.05以上であり、また例えば、0.07以上であり、また例えば、0.08以上であり、また例えば、0.09以上であり、また例えば、0.1以上である。また例えば、0.18以下であり、また例えば、0.16以下であり、また例えば、0.15以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.04以上0.15以下であり、また例えば、0.05以上0.1以下である。
【0077】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(f)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の耐熱性、粘度及び硬化性等を考慮すると、式(1)の全構成単位に占めるモル比率(x/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0超0.3以下である。また例えば、当該モル比率は、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば、0.17以上であり、また例えば、0.18以上であり、また例えば、0.20以上であり、また例えば、0.25以上である。また例えば、0.28以下であり、また例えば、0.27以下であり、また例えば、0.26以下である。これらの下限及び上限は、それぞれを組み合わせることができるが、例えば、0.1以上0.27以下であり、また例えば、0.15以上0.26以下である。
【0078】
本シルセスキオキサン誘導体における構成単位(g)の割合は特に限定するものではないが、本シルセスキオキサン誘導体の粘度等を考慮すると、全構成単位に占めるモル比率(y/(s+t+u+v+w+x+y))として、例えば、0以上0.1以下であり、また例えば、0以上0.08以下であり、また例えば、0以上0.05以下であり、また例えば、0である。
【0079】
また、式(1)において、硬化性や耐熱性を考慮すると、x>yである。M単位である構成単位(f)を備えることで、本シルセスキオキサンの粘度低下に貢献することができるが、他のM単位である構成単位(g)が多いと硬化性や耐熱性が低下する恐れがあるからである。x/(x+y)は、例えば、0.5以上であり、また例えば、0.7以上であり、また例えば、0.8以上であり、また例えば、0.9以上であり、また例えば1である。
【0080】
本シルセスキオキサン誘導体は、式(1)における各構成単位のモル比が、以下の(1)又は(2)の条件を充足することができる。かかるモル比を充足することで、熱伝導性、耐熱性及び粘度のバランスの採れたシルセスキオキサン誘導体を得ることができる。なお、以下のモル比において、好ましくは、t=1である。
【0081】
(1)s=0、v=0であり、t:u:w:x:y=0.8以上2.2(好ましくは、1.2以下)以下:1.5以上3.6以下:0.25以上0.6以下:0.8以上2.2(好ましくは、1.2)以下:0以上0.6以下
【0082】
(2)s=0、v=0であり、t:u:w:x:y=0.8以上1.2以下:2.4以上3.6以下:0.4以上0.6以下:0.8以上1.2以下:0以上0.6以下であり、Aはビニル基であり、R2、R3及びR4は、メチル基である(ただし、0<yのとき、R5は、メチル基である。)。
【0083】
本シルセスキオキサン誘導体において、C/Siのモル比は、例えば、0.9超である。この範囲であると、熱伝導率が向上されるからである。また例えば、当該モル比は、1以上であり、また例えば、1.2以上である。C/Siのモル比は、例えば、1H-NMR測定により、本シルセスキオキサン誘導体を評価することにより得ることができる。ケミカルシフトδ(ppm)が-0.2~0.6のシグナルはSi-CH3の構造に基づき、δ(ppm)が0.8~1.5はOCH(CH3)CH2CH3、OCH(CH32及びOCH2CH3の構造に基づき、δ(ppm)が3.5~3.9のシグナルはOCH2CH3の構造に基づき、δ(ppm)が3.9~4.1のシグナルはOCH(CH3)CH2CH3の構造に基づき、δ(ppm)が4.2~5.2のシグナルはSi-Hの構造に基づき、δ(ppm)が5.7~6.3のシグナルはCH=CH2の構造に基づくと考えられるので、各々のシグナル強度積分値から、側鎖に関する連立方程式を立てて決定することができる。尚、構成単位Tについては、仕込んだモノマー(トリエトキシシラン、トリメトキシビニルシラン等)がそのままシルセスキオキサン誘導体に組み込まれることが分かっているので、全てのモノマーの仕込み値とNMR測定値とから、シルセスキオキサン誘導体に含まれる各構成単位のモル比を決定し、さらに、C/Siモル比を決定できる。
【0084】
<分子量等>
本シルセスキオキサン誘導体の数平均分子量は、300~30,000の範囲にあることが好ましい。かかるシルセスキオキサンは、それ自体が液体で、取り扱いに適した低粘性であり、有機溶剤に溶け易く、その溶液の粘度も扱い易く、保存安定性に優れる。数平均分子量は、より好ましくは500~15,000、更に好ましくは700~10,000、特に好ましくは1,000~5,000である。数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により、例えば、後述の〔実施例〕における測定条件で、標準物質としてポリスチレンを使用して求めることができる。
【0085】
本シルセスキオキサン誘導体は、液状であって、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることが好ましく、80,000mPa・s以下であることがより好ましく、50,000mPa・s以下であることが特に好ましい。但し、上記粘度の下限は、通常、1mPa・sである。なお、粘度は、E型粘度計(東機産業(株)TVE22H形粘度計)を使用し、25℃で測定することができる。
【0086】
<本シルセスキオキサン誘導体の製造方法>
本シルセスキオキサン誘導体は、公知の方法で製造することができる。シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、国際公開第2005/01007号パンフレット、同第2009/066608号パンフレット、同第2013/099909号パンフレット、特開2011-052170号公報、特開2013-147659号公報等においてポリシロキサンの製造方法として詳細に開示されている。
【0087】
本シルセスキオキサン誘導体は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、本シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、適当な反応溶媒中で、縮合により、上記式(1)中の構成単位を与える原料モノマーの加水分解・重縮合反応を行う縮合工程を備えることができる。この縮合工程においては、例えば、構成単位(a)(Q単位)を形成する、シロキサン結合生成基を4個有するケイ素化合物(以下、「Qモノマー」という。)と、構成単位(b)~(d)(T単位)を形成する、シロキサン結合生成基を3個有するケイ素化合物(以下、「Tモノマー」という。)と、構成単位(e)(D単位)を形成する、シロキサン結合生成基を2個有するケイ素化合物(以下、「Dモノマー」という。)と、シロキサン結合生成基を1個有する構成単位(f)及び(g)(M単位)を形成する、ケイ素化合物(以下、「Mモノマー」という。)とを用いることができる。
【0088】
本明細書において、例えば、構成単位(b)を形成するTモノマーと、構成単位(c)及び(d)を形成するTモノマー、構成単位(e)を形成するDモノマー、及び、構成単位(f)、(g)を形成するMモノマーのそれぞれにつき少なくとも1種が用いられる。原料モノマーを、反応溶媒の存在下に、加水分解・重縮合反応させた後に、反応液中の反応溶媒、副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることが好ましい。
【0089】
原料モノマーであるQモノマー、Tモノマー、Dモノマー又はMモノマーに含まれるシロキサン結合生成基は、水酸基又は加水分解性基である。このうち、加水分解性基としては、ハロゲノ基、アルコキシ基等が挙げられる。Qモノマー、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーの少なくとも1つは、加水分解性基を有することが好ましい。縮合工程において、加水分解性が良好であり、酸を副生しないことから、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、炭素原子数1~3のアルコキシ基がより好ましい。
【0090】
縮合工程において、各々の構成単位に対応するQモノマー、Tモノマー又はDモノマーのシロキサン結合生成基はアルコキシ基であり、Mモノマーに含まれるシロキサン結合生成基はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。また、各々の構成単位に対応するモノマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
構成単位(a)を与えるQモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。構成単位(b)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、(p-スチリル)トリメトキシシラン、(p-スチリル)トリエトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられる。構成単位(c)を与えるTモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。構成単位(d)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリクロロシラン等が挙げられる。構成単位(e)を与えるDモノマーとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、ジメトキシベンジルメチルシラン、ジエトキシベンジルメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等が挙げられる。構成単位(f)、(g)を与えるMモノマーとしては、加水分解により2つの構成単位(f)を与えるヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの他、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジメチルシラノール、ジメチルビニルシラノール、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリプロピルシラノール、トリブチルシラノール等が挙げられる。構成単位(h)を与える有機化合物としては、2-プロパノール、2-ブタノール、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。
【0092】
縮合工程においては、反応溶媒としてアルコールを用いることができる。アルコールは、一般式R-OHで表される、狭義のアルコールであり、アルコール性水酸基の他には官能基を有さない化合物である。特に限定するものではないが、かかる具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2-エチル-2-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール等が例示できる。これらの中でも、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、3-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール等の第2級アルコールが用いられる。縮合工程においては、これらのアルコールを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましいアルコールは、縮合工程で必要な濃度の水を溶解できる化合物である。このような性質のアルコールは、20℃におけるアルコールの100gあたりの水の溶解度が10g以上の化合物である。
【0093】
縮合工程で用いるアルコールは、加水分解・重縮合反応の途中における追加投入分も含めて、全ての反応溶媒の合計量に対して0.5質量%以上用いることで、生成する本シルセスキオキサン誘導体のゲル化を抑制することができる。好ましい使用量は1質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上40質量%以下である。
【0094】
縮合工程で用いる反応溶媒は、アルコールのみであってよいし、さらに、少なくとも1種類の副溶媒との混合溶媒としても良い。副溶媒は、極性溶剤及び非極性溶剤のいずれでもよいし、両者の組み合わせでもよい。極性溶剤として好ましいものは炭素原子数3若しくは7~10の第2級又は第3級アルコール、炭素原子数2~20のジオール等である。
【0095】
非極性溶剤としては、特に限定するものではないが、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、アミド、ケトン、エステル、セロソルブ等が挙げられる。これらの中では、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素が好ましい。こうした非極性溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン等が、水と共沸するので好ましく、これらの化合物を併用すると、縮合工程後、シルセスキオキサン誘導体を含む反応混合物から、蒸留によって反応溶媒を除く際に、水分を効率よく留去することができる。非極性溶剤としては、比較的沸点が高いことから、芳香族炭化水素であるキシレンが特に好ましい。
【0096】
縮合工程における加水分解・重縮合反応は、水の存在下に進められる。原料モノマーに含まれる加水分解性基を加水分解させるために用いられる水の量は、加水分解性基に対して好ましくは0.5~5倍モル、より好ましくは1~2倍モルである。また、原料モノマーの加水分解・重縮合反応は、無触媒で行ってもよいし、触媒を使用して行ってもよい。触媒を用いる場合は、通常、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸に例示される酸触媒が好ましく用いられる。酸触媒の使用量は、原料モノマーに含まれるケイ素原子の合計量に対して、0.01~20モル%に相当する量であることが好ましく、0.1~10モル%に相当する量であることがより好ましい。
【0097】
縮合工程における加水分解・重縮合反応の終了は、既述の各種公報等に記載される方法にて適宜検出することができる。なお、本シルセスキオキサン誘導体の製造の縮合工程においては、反応系に助剤を添加することができる。例えば、反応液の泡立ちを抑える消泡剤、反応罐や撹拌軸へのスケール付着を防ぐスケールコントロール剤、重合防止剤、ヒドロシリル化反応抑制剤等が挙げられる。これらの助剤の使用量は、任意であるが、好ましくは反応混合物中の本シルセスキオキサン誘導体濃度に対して1~100質量%程度である。
【0098】
本シルセスキオキサン誘導体の製造における縮合工程後、縮合工程より得られた反応液に含まれる反応溶媒及び副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることにより、生成した本シルセスキオキサン誘導体の安定性を向上させることができる。
【0099】
樹脂相には、上記した樹脂のほかに、樹脂の種類に応じて、また、必要に応じて、多孔質焼結セラミックス相との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して含浸・硬化時の欠陥の発生を低減するための消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤、硬化促進剤、触媒等を加えることができる。シルセスキオキサン誘導体を用いる場合には、必要に応じて後述する触媒を適宜用いることができる。こうした種々の添加剤は、当業者であれば、公知材料から適宜選択して用いることができる。
【0100】
樹脂相は、例えば、本複合材料の15体積%以上75体積%以下とすることができる。15体積%よりも小さいと、接着性や適用対象表面への追従性が低くなりすぎるからであり、また、75体積%を超えると、熱伝導性が低くなりすぎるからである。上記比率は、また例えば、20体積%以上70体積%以下であり、また例えば、25体積%以上65体積%以下であり、また例えば30体積%以上65体積%であり、また例えば、35体積%以上65体積%以下である。なお、これらの範囲における下限値及び上限値はそれぞれ他の上限値及び下限値と組み合わせることもできる。
【0101】
本複合材料のセラミックス相は、後述する放電プラズマ焼結法にて製造することができる。放電プラズマ焼結法は、加圧とパルス通電により、パルス通電による電磁的エネルギー、材料の自己発熱および粒子間に発生する放電プラズマエネルギーなどにより、アグリゲート型多孔質体の焼結を容易に実現するものである。概して、迅速焼結、粒成長抑制、焼結助剤がなくでも焼結が可能であるなど種々のメリットがある。
【0102】
(本複合材料の製造方法)
本複合材料の製造方法は、アスペクト比が5未満のセラミックス粒子を含む原料組成物を焼成して前記粒子が3次元的に結合した多孔質セラミックス焼結体を得る工程と、前記多孔質セラミックス焼結体の細孔に樹脂を充填して、前記複合材料を得る工程と、を備えることができる。この製造方法によると、等方的で優れた熱伝導性と優れた耐熱性及び絶縁性を備える複合材料を容易に製造することができる。
【0103】
多孔質セラミックス焼結体を得るための原料組成物は、本複合材料で説明したセラミックス相を構成するセラミックス及び粒子の態様をそのまま適用できる。したがって、こうした態様になるようなセラミックス原料粉末を適宜選択することができる。
【0104】
原料組成物には、セラミックス粉末のほか、焼結を促進するための焼結助剤を含めることができる。焼結助剤については、既に説明したとおりであり、その含有量としては、本複合材料のセラミックス相を構成するセラミックスの金属元素以外であって、例えば、Ca、Ba、Sr、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、B、Si、Mn、Mg及びAlからなる群から選択される1種又は2種以上の金属元素がセラミックス相の1質量%以下となるように選択することができる。原料組成物には、焼結助剤を添加しないことが好適である。焼結助剤による弊害もあるからである。
【0105】
原料組成物を焼成して前記粒子が3次元的に結合した多孔質セラミックス焼結体を得るには、公知のセラミックスの固相焼結法を用いることができる。原料組成物を用いて多孔質焼結体を得るには、粒子が三次元的に連結した多孔質焼結体である限り、どのような製造方法であってもよいが、なかでも放電プラズマ焼結法を用いることができる。放電プラズマ焼結法によれば、一次粒子又は二次粒子によるアグリゲート型の多孔質焼結体を容易に短時間加熱により得ることができる。
【0106】
焼結は、溶融温度よりも低い温度で実施するため、原料組成物中のセラミックス粉末の種類によっても異なるが、例えば、1500℃~2000℃以下程度である。例えば、窒化アルミニウムの場合には、1600℃~1700℃程度である。又、加熱時間は、一定温度に、数分から10数分程度維持することで、アグリゲート型多孔質焼結体を得ることができる。なお、放電プラズマ焼結法における加圧状態は、アグリゲート型多孔質焼結体を得るために適宜調整することができる。なお、放電プラズマ焼結法は、真空下または窒素雰囲気下で行われる。
【0107】
放電プラズマ焼結法によれば、気孔率40%以下、閉気孔率3%以下である。また、放電プラズマ焼結法によれば、アグリゲート型の多孔質焼結体の製造が容易であるため、多孔質焼結体の平均気孔径を、用いる原料の粒径等に応じて種々のサイズで製造することができる。
【0108】
次いで、この多孔質焼結体の細孔に樹脂を導入する。樹脂は、それ自体が液体であるか、適当な溶剤に溶解して溶解液として導入するが、好ましくは、無溶剤で液体である樹脂を導入する。こうすることで、溶媒の揮発に伴う樹脂相における気泡の形成を抑制できるからである。例えば、シルセスキオキサン誘導体は、25℃における粘度が、100,000mPa・s以下の液状物質であるので好適である。
【0109】
多孔質焼結体への樹脂の導入は、多孔質焼結体に対して、樹脂を噴霧、塗布、含浸等によって行うことができる。例えば、真空又は加圧下での含浸等を用いることができる。真空含浸では、例えば、1000Pa以下、また例えば、500Pa以下とすることができる。加圧含浸では、例えば、1Mpa以上300MPa以下での加圧含浸とすることができる。樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても、必要に応じて加熱して流動性を向上させることができる。シルセスキオキサン誘導体の場合には、常温で液体であり、加熱は不要であり、常温での導入が可能である。
【0110】
なお、樹脂には、既に説明したように、適宜、種々の添加剤を加えるできる。また、樹脂の導入に先立って、多孔質焼結体の細孔表面には、シランカップリング剤を導入(含浸)しておくことができる。
【0111】
本複合材料を得るには、樹脂を細孔内に導入後、細孔内に保持させて充填された状態とする必要がある。導入した樹脂を少なくとも部分的に硬化させることで、樹脂を細孔内に充填することができる。
【0112】
樹脂の硬化は、硬化前の樹脂が細孔内に存在している状態で行うため、例えば、含浸により樹脂を導入した場合、そのまま樹脂に含浸させた状態を維持して冷却や加熱を行うことができる。含浸させた状態で硬化させたら、硬化後に、本複合材料を切削加工等により任意の形態とすることができる。
【0113】
硬化は、セラミックス相の細孔に導入した樹脂を硬化させることを考慮すると、加熱を用いることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂の場合、加熱等により樹脂を流動化させてその後冷却することで硬化する。熱可塑性樹脂の場合、導入時に加熱してそのまま冷却することで細孔に樹脂を充填することができる。熱硬化性樹脂の場合、細孔内に導入後、加熱することで硬化させることにより充填することができる。
【0114】
樹脂の充填のために必要な温度は、樹脂の種類及び架橋反応触媒の有無によって異なる。無触媒の場合は、一般に100℃以上が好ましく、触媒を使用する場合は、触媒の特性に合わせた反応温度を適宜選択できる。例えば、ヒドロシリル化反応性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体を用いる場合であって無触媒のとき、例えば、100℃以上の温度で加熱することが好ましい。100℃未満であると、未反応のアルコキシシリル基やヒドロシリル基が残存しやすくなる傾向があるからである。また例えば、200℃以上300℃以下程度で加熱することで容易に加熱した硬化物を得ることができる。一方、ヒドロシリル化反応用の触媒等を用いる場合には、より低い温度(例えば、室温~200℃、好ましくは50℃~150℃、より好ましくは100℃~150℃)で硬化物を得ることができる。この場合の硬化時間は、通常、0.05~24時間であり、0.1~5時間が好ましい。触媒の存在下では、100℃以上であれば、十分に、加水分解・重縮合とヒドロシリル化反応による硬化物を得ることができる。
【0115】
なお、ヒドロシリル化反応用の触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等の第8族から第10族金属の単体、有機金属錯体、金属塩、金属酸化物等が挙げられる。通常、白金系触媒が使用される。白金系触媒としては、cis-PtCl2(PhCN)2、白金カーボン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、塩化白金酸、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金等が例示される。これらのうち、特に好ましくは1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体である。なお、Phはフェニル基を表す。触媒の使用量は、シルセスキオキサン誘導体の量に対して、0.1質量ppm~1000質量ppmであることが好ましく、0.5~100質量ppmであることがより好ましく、1~50質量ppmであることが更に好ましい。
【0116】
本複合材料の樹脂が熱硬化性樹脂の場合、本複合材料と他要素との接着を考慮すると、熱硬化性樹脂が完全に硬化しない状態で充填することが好適である。このような部分的硬化状態は、当業者であれば、熱硬化性樹脂においては、加熱温度や時間等を制御することによって設定することができる。
【0117】
(本複合材料の熱伝導性)
本複合材料の25℃での熱伝導率は、セラミックス相の比率や樹脂の熱伝導率によっても異なるが、例えば、20W/mk以上である。また例えば、30W/mk以上であり、また例えば、35W/mk以上であり、また例えば、40W/mk以上であり、また例えば、45W/mk以上である。
【0118】
熱伝導率λ(W/m・K)は、密度ρ(g/cm3)、比熱c(J/g・K)、熱拡散率α(mm2/s)の値を用い、以下の式aに基づいて算出することができる。
λ=α・ρ・c (a)
【0119】
密度は、アルキメデスの原理に則り、空気中及び純水中での質量を電子天秤で測定した値から以下の式bを用いて算出する。式中、Mは質量を示す。
【数1】
【0120】
なお、測定は25℃で実施し、25℃での純水の密度については、流体工業株式会社ホームページ (https://www.ryutai.co.jp/shiryou/liquid/water-mitsudo-1.htm)で公開されている値(997.062)を使用した。
【0121】
比熱の測定は、DSC(TA Instruments社製Q100)を使用し、標準物質にはアルミナ粉末(住友化学株式会社製AKP-30)を比熱0.78(J/g・K)として行った。測定は空容器・標準物質・被験サンプル各々に対して昇温速度10℃/minで行い、25℃での標準物質・被験サンプル各々の熱流(mW)と空容器の熱流の差H及び測定時の質量Mを用いて式cより算出することができる。
【数2】
【0122】
熱拡散率測定はレーザーフラッシュ法(Netzsch社製LFA-467)で、25℃で実施した。サンプルは、本シルセスキオキサン誘導体を1.2cm×1.2cm、厚み0.5~1mmに成型したもの(硬化物)を用いる。また、測定時にはレーザーの反射を抑制する為、カーボンスプレーでサンプル表面を塗装する。測定は1サンプルにつき3回実施し、その平均値を熱拡散率として熱伝導率の計算に使用することができる。
【0123】
本複合材料の耐熱性は、200℃における絶縁破壊試験を行い、絶縁耐力として測定することができる。絶縁破壊試験は、JIS C2110-1に準拠して印加電圧60Hz交流、500V/secで昇圧して10mA以上の電流が流れた際の電圧値を絶縁破壊電圧とした。さらにこの絶縁破壊電圧値を、サンプル中で破壊が起こった箇所の厚みで除すことで、絶縁耐力とした。試験はシリコーンオイル中、200℃で実施し、電極は両極とも6mmΦの棒電極とした。
【0124】
本複合材料及び多孔質焼結体は、種々の用途に用いることができる。多孔質焼結体(セラミックス相)自体、種々の用途の複合材料のための熱伝導性、耐熱性を担保する樹脂複合化のための担体として用いることができる。また、本複合材料は、既述のとおり各種の熱伝導性絶縁要素を構成することができる。
【0125】
(絶縁要素及びその製造方法、構造体及びその製造方法)
本明細書に開示される絶縁要素は、本複合材料からなるか又は本複合材料を備えている。絶縁要素の3次元形状としては、特に限定するものではないが、フィルム、シートなどの形態を採ることができる。本複合材料は、必要に応じて切削加工などにより種々の3次元形状を採ることができる。
【0126】
絶縁要素は、例えば、種々の電子部品の絶縁対象の絶縁部位に絶縁層、接合層として供給されて、さらに必要に応じて他の層が積層等されることで構造体を得ることができる。また、構造体としては、例えば、絶縁基板などの絶縁材、積層基板、半導体装置などが挙げられる。より具体的には、回路基板、多層回路基板、各種パワーモジュール装置、LED装置等が挙げられる。
【実施例
【0127】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0128】
(シルセスキオキサン誘導体の合成)
本実施例では、以下の操作によりシルセスキオキサン誘導体を合成した。合成したシルセスキオキサン誘導体の一般式及び置換基を以下に示す。
【0129】
【化3】
【0130】
温度計・滴下漏斗・攪拌翼を取り付けた200mlの4つ口丸底フラスコにビニルトリメトキシシラン(7.4g,50mmol)、メチルトリエトキシシラン(26.7g、150mmol)、ジメトキシジメチルシラン(3.0g、25mmol)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(3.4g、25mmol)、キシレン(15g)、2-プロパノール(15g)を量り取り、水浴中20℃程度でよく攪拌した。ここに別途1mol/L塩酸水溶液(0.45g、4.4mmol)、純水(11.4g)、2-プロパノール(4.5g)を混合して調製しておいた溶液を滴下漏斗から1時間程度で滴下し、更に一晩室温で攪拌を続けた。得られた溶液から真空下60℃で溶媒を除去し、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体1 19gを得た(収率100%)。
【実施例2】
【0131】
(複合材料の作製及び評価)
平均粒径0.5μmの一次粒子を含む窒化アルミニウム粉末を、3kNで直径10mmの円盤状に成形し、放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業社製、SPS-515S)を用いて、放電プラズマ焼結法により、1600℃で5分間加熱して、多孔質焼結体(直径10mm)を得た。
【0132】
次に、この多孔質焼結体を、実施例1で合成したシルセスキオキサン誘導体を投入した含浸槽に浸漬して、常温減圧下にてシルセスキオキサン誘導体の導入を行った。その後、この含浸槽内のシルセスキオキサン誘導体を230℃で120分加熱してシルセスキオキサン誘導体を硬化させた。その後、硬化したシルセスキオキサン誘導体固形物から、多孔質焼結体相当部分を切り出して本複合材料を得た。この複合材料につき、セラミックス相比率、熱伝導率及び200℃での絶縁耐力を測定した。なお、同じ窒化アルミニウム粉末とシルセスキオキサン誘導体を体積比で7:3となるようにして十分に混合して、60MPaで加圧しながら、230℃、120分加熱硬化することで比較例の複合材料を得た。比較例の複合材料についても、熱伝導率を測定した。
【0133】
実施例の複合材料につき、焼結状態、窒化アルミニウムの一次粒子の平均粒子径、アスペクト比、気孔率、セラミックス相比率、熱伝導率及び200℃での絶縁耐力を評価した。
【0134】
(1)焼結状態
走査型電子顕微鏡を用いて、多孔質焼結体の断面を観察した。観察の前処理として、非酸化物セラミックス焼結体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後に白金コーティングを行い、1500倍で観察した。
【0135】
(2)平均粒子径及びアスペクト比
セラミックス相を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後に白金コーティングを行った後、走査型電子顕微鏡、「S-4800」(日立ハイテクノロジー社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、「ImageJ」(https://imagej.nih.gov/ij/)に取り込み、測定した。画像解析の画素数は123万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個を観察し、各粒子の直径(長径)の長さを測り、それらの平均値を平均粒子径とした。また、同時に、各粒子の短径の長さも測定して、アスペクト比=長径/短径の計算式より各粒子の値を算出し、それらの平均値をアスペクト比とした。
【0136】
(3)気孔率及びセラミックス相の比率
気孔率は、焼結体のかさ密度と真密度の測定により求めた。
セラミックス相のかさ密度(D)=質量/体積・・(1)
セラミックス相の気孔率(%)=(1-(D/セラミックス相の真密度))×100=樹脂相の比率(%)・・・・・(2)
セラミックス相の比率(%)=100-樹脂相の比率・・・・・(3)
【0137】
セラミックス相のかさ密度は、JIS Z 8807:2012の幾何学的測定による密度及び比重の測定方法に準拠し、円盤状のセラミックス相の径(ノギスにより測定)から計算した体積と、電子天秤により測定した質量から求めた(JIS Z 8807:2012の9項参照)。セラミックス相の真密度は、JIS Z 8807:2012の気体置換法による密度及び比重の測定方法に準拠し、乾式自動密度計を用いて測定したセラミックス相の体積と質量より求めた(JIS Z 8807:2012の11項の式(14)~(17)参照)。
【0138】
(4)熱伝導率
熱伝導率λ(W/m・K)は、密度ρ(g/cm3)、比熱c(J/g・K)、熱拡散率α(mm2/s)の値を用い、以下の式aに基づいて、25℃における熱伝導率を算出した。
λ=α・ρ・c (a)
【0139】
密度は、アルキメデスの原理に則り、空気中及び純水中での質量を電子天秤で測定した値から以下の式bを用いて算出した。なお、測定は25℃で実施し、25℃での純水の密度については、流体工業株式会社ホームページ(https://www.ryutai.co.jp/shiryou/liquid/water-mitsudo-1.htm)で公開されている値(997.062)を使用した。比熱は、DSC(TA Instruments社製Q100)を使用し、標準物質にはアルミナ粉末(住友化学株式会社製AKP-30)を比熱0.78(J/g・K)とし用いて行った。測定は空容器・標準物質・被験サンプル各々に対して昇温速度10℃/minで行い、25℃での標準物質・被験サンプル各々の熱流(mW)と空容器の熱流の差H及び測定時の質量Mを用いて以下の式cより算出した。熱拡散率は、レーザーフラッシュ法(Netzsch社製LFA-467)で、25℃で実施した。サンプルは、本複合材料を1.2cm×1.2cm、厚み0.5~1mmに成型したものを用いた。また、測定時にはレーザーの反射を抑制する為、カーボンスプレーでサンプル表面を塗装した。測定は1サンプルにつき3回実施し、その平均値を熱拡散率とした。
【数3】
【0140】
(5)絶縁耐力
200℃における絶縁破壊試験を行い、絶縁耐力を測定した。絶縁破壊試験は、YAMABISHI社製 YHTA/D-30K-2KDRを制御装置とし、JIS C2110-1に準拠して印加電圧60Hz交流、500V/sec.で昇圧して10mA以上の電流が流れた際の電圧値を絶縁破壊電圧とした。さらにこの絶縁破壊電圧値を、サンプル中で破壊が起こった箇所の厚みで除すことで、絶縁耐力とした。試験はシリコーンオイル中、200℃で実施し、電極は両極とも6mmΦの棒電極とした。
【0141】
実施例の複合材料では、窒化アルミニウム焼結体は、一次粒子同士が焼結して3次元的に連結してその間隙が細孔構造を形成していた。その平均粒子径は、原料時と同様0.5μmであり、形状は、ほぼ球形でアスペクト比は、1であった。形成する一次粒子が平均粒子径0.5μm、また、気孔率は、28体積%であり、セラミックス相の比率は72体積%であった。また、25℃の熱伝導率は、41W/mKであり、その絶縁耐力(200℃)は、50kV/mmであった。これに対して、比較例の複合材料は、25℃の熱伝導率は4.5W/mKであった。
【0142】
以上のことから、実施例の複合材料は、高い熱伝導性、耐熱性及び絶縁性を有していることがわかった。