(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】基板ホルダ及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20231204BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20231204BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C23C14/34 J
C23C14/50 D
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2020000464
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】林 利典
(72)【発明者】
【氏名】岩井 治憲
(72)【発明者】
【氏名】細田 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】柳坪 秀典
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-207269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/50
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心に回転する回転ドラム機構の側部に設置される基板ホルダであって、
前記基板ホルダの少なくとも一部は、前記中心軸に向かって突き出るように歪曲し、
前記基板ホルダが基板を保持する保持領域面と、前記保持領域面外の領域面とが連続面で構成され、
前記回転ドラム機構が回転する回転方向において、前記側部に2つの前記基板ホルダが並設されたとき、一方の基板ホルダの両端部の中、他方の基板ホルダの側に位置する第1端部が他方の基板ホルダの両端部の中、前記一方の基板ホルダの側に位置する第2端部に沿うように並設され
、
前記基板ホルダは、前記回転ドラム機構に固定される第1部分と、前記第1部分外であって前記保持領域面を含む第2部分とを有し、
前記第2部分は、前記中心軸の方向と直交する方向において、前記第1部分の幅よりも狭い幅を含む領域を有する
基板ホルダ。
【請求項2】
請求項
1に記載の基板ホルダであって、
前記基板ホルダは、前記回転ドラム機構に着脱可能である
基板ホルダ。
【請求項3】
中心軸を中心に回転する回転ドラム機構と、
前記回転ドラム機構の側部に設置される基板ホルダと、
前記側部に対向する成膜源と
を具備し、
前記基板ホルダの少なくとも一部は、前記中心軸に向かって突き出るように歪曲し、
前記基板ホルダが基板を保持する保持領域面と、前記保持領域面外の領域面とが連続面で構成され、
前記回転ドラム機構が回転する回転方向において、前記側部に2つの前記基板ホルダが並設されたとき、一方の基板ホルダの両端部の中、他方の基板ホルダの側に位置する第1端部が他方の基板ホルダの両端部の中、前記一方の基板ホルダの側に位置する第2端部に沿うように並設され
、
前記基板ホルダは、前記回転ドラム機構に固定される第1部分と、前記第1部分外であって前記保持領域面を含む第2部分とを有し、
前記第2部分は、前記中心軸の方向と直交する方向において、前記第1部分の幅よりも狭い幅を含む領域を有する
成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板ホルダ及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム回転方式のスパッタリング装置で、基板に形成される膜の厚みの分布を調整する場合、スパッタリングターゲットの表面から基板へ到達するスパッタリング粒子を意図的に阻害する遮蔽板をスパッタリングターゲットと基板との間に配置する方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、スパッタリング成膜中には、基板は、一般的に基板ホルダに保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基板が平坦でなく歪曲している場合、基板の形状に合させて基板ホルダの一部を凹ませると、凹ませた部分と、該部分外の平坦部分との段差が遮蔽となり、成膜粒子の基板への飛遊が阻害される場合がある。これにより、歪曲した基板を用いた場合、基板に形成される膜の厚みがばらつく現象が起きる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、歪曲された基板に形成される膜の厚みのばらつきを抑制する基板ホルダ及び成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る基板ホルダは、中心軸を中心に回転する回転ドラム機構の側部に設置される。
上記基板ホルダの少なくとも一部は、上記中心軸に向かって突き出るように歪曲する。
上記基板ホルダが基板を保持する保持領域面と、上記保持領域面外の領域面とが連続面で構成される。
上記回転ドラム機構が回転する回転方向において、上記側部に2つの上記基板ホルダが並設されたとき、一方の基板ホルダの両端部の中、他方の基板ホルダの側に位置する第1端部が他方の基板ホルダの両端部の中、上記一方の基板ホルダの側に位置する第2端部に沿うように並設される。
【0007】
このような基板ホルダによれば、歪曲された基板を用いたとしても、基板に形成される膜の厚みのばらつきが抑制される。
【0008】
上記の基板ホルダにおいては、上記基板ホルダは、上記回転ドラム機構に固定される第1部分と、上記第1部分外であって上記保持領域面を含む第2部分とを有し、上記第2部分は、上記中心軸の方向と直交する方向において、上記第1部分の幅よりも狭い幅を含む領域を有してもよい。
【0009】
このような基板ホルダによれば、第2部分は、第1部分の幅よりも狭い幅を含む領域を有するため、複数の基板ホルダが回転ドラム機構の側部に敷き詰められ、成膜源として用いられるターゲット部材の汚染が抑制される。
【0010】
上記の基板ホルダにおいては、上記基板ホルダは、上記回転ドラム機構に着脱可能であってもよい。
【0011】
このような基板ホルダによれば、基板ホルダの回転ドラム機構に着脱が簡便になる。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、中心軸を中心に回転する回転ドラム機構と、上記回転ドラム機構の側部に設置される上記基板ホルダと、上記側部に対向する成膜源とを具備する。
【0013】
このような成膜装置によれば、歪曲された基板を用いたとしても、基板に形成される膜の厚みのばらつきが抑制される。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように、本発明によれば、歪曲された基板に形成される膜の厚みのばらつきを抑制する基板ホルダ及び成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】図(a)は、本実施形態の基板ホルダが適用された成膜装置の模式的上面図である。図(b)は、本実施形態の成膜装置の模式的断面図である。
【
図3】回転ドラム機構に複数の基板ホルダが設置された場合の模式的斜視図である。
【
図4】回転ドラム機構に設置された基板ホルダを上から見たときの模式的上面図である。
【
図5】回転ドラム機構に参考例に係る基板ホルダが設置された場合の模式的斜視図である。
【
図6】回転ドラム機構に別の参考例に係る基板ホルダが設置された場合の模式的斜視図である。
【
図7】基板に形成される膜の膜厚分布を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、本実施形態で例示さる基板ホルダ、基板の形状は、一例であり、以下に例示される形態に限られない。
【0017】
図1(a)は、本実施形態の基板ホルダが適用された成膜装置の模式的上面図である。
図1(b)は、本実施形態の成膜装置の模式的断面図である。
図1(b)には、
図1(a)のA1-A2線に沿った断面が示されている。
【0018】
成膜装置1は、スパッタリング法によって基板90に膜を形成するスパッタリング装置である。成膜装置1は、例えば、真空容器10と、複数のターゲット機構20、21と、酸素プラズマ発生源25と、回転ドラム機構30と、基板ホルダ40と、搬送室50と、電源51、52、55とを具備する。
【0019】
真空容器10は、減圧状態が維持可能な容器である。真空容器10は、開口101、102を介して、例えば、ターボ分子ポンプ、排気管等を含む真空排気系によって、その内部の気体が排気される。また、真空容器10には、開口101、102に限らず、適宜他の排気口が設けられてもよい。
【0020】
真空容器10をZ軸方向から上面視した場合、その外形は、例えば、多角形になっている。真空容器10は、複数のターゲット機構20、21と、回転ドラム機構30と、基板ホルダ40とを収容する。真空容器10には、内部圧力を計測する圧力計が設けられてもよい。
【0021】
ターゲット機構20は、複数のスパッタリングターゲット(以下、ターゲットとする。)を有する。ターゲット機構20は、回転ドラム機構30の側部に対向するように、真空容器10に固定されている。例えば、ターゲット機構20は、ターゲット201と、ターゲット202と、ターゲット203と、ターゲット204とを有する。ターゲット201、202、203、204のそれぞれの平面形状は、例えば、円形である。
【0022】
ターゲット201、202、203、204のそれぞれの径は、例えば、同径であってもよく、異なってもよい。例えば、本実施形態では、ターゲット201、202、203、204のそれぞれの径が同径の場合が例示される。なお、ターゲット機構20が保有するターゲットの数は、この例に限らず、適宜変更される。
【0023】
ターゲット201は、ターゲット部材201tとバッキングプレート201bとを有する。ターゲット202は、ターゲット部材202tとバッキングプレート202bとを有する。ターゲット203は、ターゲット部材203tとバッキングプレート203bとを有する。ターゲット204は、ターゲット部材204tとバッキングプレート204bとを有する。
【0024】
例えば、ターゲット部材201t、202t、203t、204tは、シリコン(Si)材で構成される。バッキングプレート201b、202b、203b、204bは、Cu、Ti等の金属で構成される。バッキングプレート201b、202b、203b、204bのそれぞれの内部または裏側には、磁石が配置されてもよい。これにより、マグネトロンスパッタリングが実現する。
【0025】
複数のターゲット201、202、203、204のそれぞれは、回転ドラム機構30の側部に対向する。複数のターゲット201、202、203、204のそれぞれは、回転ドラム機構30の中心軸301が延在する方向に並設される。中心軸301が延在する方向は、本実施形態では、Z軸方向に対応している。複数のターゲット201、202、203、204は、例えば、Z軸方向において直列状に並ぶ。Z軸方向における複数のターゲット201、202、203、204のピッチは、同じであってもよく、異なってもよい。複数のターゲット201、202、203、204のそれぞれには、電源51から電力が印加される。
【0026】
ターゲット201の近傍には、Ar等の放電ガスを供給するためのガス供給機構201gが設けられる。ターゲット202の近傍には、Ar等の放電ガスを供給するためのガス供給機構202gが設けられる。ターゲット203の近傍には、Ar等の放電ガスを供給するためのガス供給機構203gが設けられる。ターゲット204の近傍には、Ar等の放電ガスを供給するためのガス供給機構204gが設けられる。ガス供給機構201g、202g、203g、204gのそれぞれには、ガス流量を調整するガス流量計が設けられてもよい。
【0027】
また、ターゲット機構21は、回転ドラム機構30の側部に対向するように真空容器10に固定されている。ターゲット機構21は、回転ドラム機構30の回転方向Rにおいてターゲット機構20に並ぶ。ターゲット機構21は、ターゲット機構20と同様に、複数のターゲットを有し、それぞれのターゲットに電源52から電力が供給される。これらの複数のターゲットは、Z軸方向に並ぶ。また、ターゲット機構21における複数のターゲットのそれぞれの近傍には、同様にガス供給機構が配置されている。但し、ターゲット機構21におけるターゲット部材は、例えば、Ti、Ta、Nb等の金属材で構成される。本実施形態では、Ti、Ta、Nb等の金属材を総括的にMとする。
【0028】
以下、ターゲットについては、主に、複数のターゲット201、202、203、204を例にあげる。
【0029】
回転ドラム機構30は、中心軸301を中心として回転方向Rに回転する。回転ドラム機構30の回転速度は、一例として、100rpmである。これにより、回転方向Rにおける基板90とターゲット機構20(または、ターゲット機構21)との相対距離が変わるとともに、ある瞬間においては、基板90とターゲット機構20(または、ターゲット機構21)とが対向する。なお、回転ドラム機構30が回転しながら基板90に成膜を試みる方式をドラム回転方式と呼称する場合がある。
【0030】
回転ドラム機構30は、例えば、基板ホルダ40と、下部回転体311と、上部回転体312と、回転軸313と、フレーム部材314と、吸着体320とを有する。下部回転体311と上部回転体312とは、Z軸方向に離れ、互いに対向する。回転軸313は、上部回転体312の中心に取り付けられる。
【0031】
下部回転体311と、上部回転体312との間には、補強材としての複数のフレーム部材314が介設されている。複数のフレーム部材314のそれぞれは、Z軸方向に延在する。例えば、フレーム部材314の下端は、下部回転体311に固定され、フレーム部材314の上端は、上部回転体312に固定される。複数のフレーム部材314は、例えば、中心軸301の周りに並設される。また、下部回転体311及び上部回転体312のそれぞれは、回転軸313に軸支されている。これにより、下部回転体311及び上部回転体312は、同じ回転速度で同じ回転方向に回転する。
【0032】
Z軸方向から下部回転体311及び上部回転体312を見た場合、その外径は、多角形でもよく、円形でもよい。下部回転体311の外周端と、上部回転体312の外周端との間には、基板ホルダ40が設置されている。基板ホルダ40には、吸着体320が設けられている。
【0033】
基板ホルダ40は、回転ドラム機構30の側部に設置される。ここで、回転ドラム機構30の側部とは、回転ドラム機構30における下部回転体311と上部回転体312との間の領域と、下部回転体311及び上部回転体312のそれぞれの周端部とを含む領域である。基板ホルダ40は、回転ドラム機構30に着脱可能である。
【0034】
例えば、基板ホルダ40は、回転ドラム機構30に、固定されたり、基板ホルダ40から取り外されたりする。固定としては、係止、嵌合、ボルト止等があげられる。また、回転ドラム機構30に保持される基板ホルダ40は、1つに限らず、複数の基板ホルダ40が保持される。複数の基板ホルダ40のそれぞれの中心から中心軸301までの距離は、同じである。
【0035】
基板ホルダ40は、基板90を保持する。例えば、
図1(b)の例では、基板ホルダ40に設けられた吸着体320が基板90の裏面902を吸着することで、基板ホルダ40が基板90を保持する。ここで、吸着とは、例えば、粘着パットによる吸着、あるいは静電吸着等が該当する。基板90が基板ホルダ40に保持される態様は、吸着体320による吸着に限らず、例えば、係止、嵌合等の手法を用いてもよい。また、吸着体320の数は、図示された数に限らす、複数設けられてもよい。
【0036】
基板ホルダ40のその他の詳細については後述する。
【0037】
基板90は、基板ホルダ40に保持される。基板90は、成膜面901と、成膜面901とは反対側の裏面902とを有する。ここで、成膜面901の少なくとも一部は、歪曲している。
図1(b)の例では、中心軸301に向けて凸となった基板90が回転ドラム機構30に保持されている。基板90は、例えば、ガラス基板、樹脂基板、金属基板等である。基板90が回転ドラム機構30に保持された場合、その裏面902の少なくとも一部は、中心軸301と交わり直交する方向において、中心軸301に向いている。すなわち、基板90の背後には、中心軸301が位置している。
【0038】
回転ドラム機構30が回転し、基板90が一組のターゲット201、202、203、204と重複する間には、基板90の成膜面901が一組のターゲット201、202、203、204に重複する。これにより、基板90の成膜面901に、ターゲット201、202、203、204のそれぞれから放出されるスパッタリング粒子が堆積し、成膜面901にスパッタリング膜が形成される。ここで、スパッタリング膜とは、例えば、Si膜、金属Mで構成された金属膜である。
【0039】
また、基板ホルダ40は、回転ドラム機構30に複数設置され得る。これにより、成膜装置1内には、複数の基板90が設置される。例えば、複数の基板90の少なくとも2つは、中心軸301の周りに並設される。また、複数の基板90のそれぞれの中心から中心軸301までの距離は、同じである。複数の基板90の数は、図示された数に限らず、適宜変更される。さらに、基板90は、一体物とは限らず、Z軸方向において分割保持されてもよい。
【0040】
また、Z軸方向において、複数のターゲット201、202、203、204の配列長は、基板90の長さよりも長い。すなわち、Z軸方向において、ターゲット機構20で最上位に位置するターゲット201の一部及び最下位に位置するターゲット204の一部は、基板90からはみ出ている。
【0041】
ここで、「配列長」とは、Z軸方向における、例えば、ターゲット201の上端と、ターゲット204の下端との間の距離とする。また、基板90の長さとは、基板90がターゲット機構20に対向し、ターゲット機構20から基板90を見た場合の基板90の長手方向における長さとする。例えば、その長さは、数mに及ぶ。一例として、その長さは、1.5mである。
【0042】
酸素プラズマ発生源25は、例えば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)アンテナと、酸素ガス供給源とを有するプラズマ発生源である。電源55からECRアンテナに高周波が重畳されると、酸素プラズマ発生源25は、ECR条件下で高密度の酸素プラズマを発生する。
【0043】
回転ドラム機構30の回転によって酸素プラズマ発生源25にSiまたは金属Mが形成された基板90が重なると、酸素プラズマと、基板90に形成されたSiまたは金属Mとが反応して、基板90にSiOxまたはMOxで構成された膜が形成される。基板90に形成される膜は、SiOxまたはMOxで構成された単層の酸化膜でもよく、SiOxとMOxとが交互に積層した積層膜でもよい。
【0044】
なお、ターゲット機構20(または、ターゲット機構21)の周辺には、酸素プラズマ発生源25からの酸素プラズマの巻き込みを防止するためのチムニー板110、111が設けられている。チムニー板110、111は、ターゲット機構20またはターゲット機構21からのスパッタリング粒子を直接的に真空容器10の内壁に付着させにくい防着板としても機能する。
【0045】
また、ターゲット機構20(または、ターゲット機構21)の周辺に、酸素が巻き込まれると、ターゲット部材が酸素によって酸化される可能性がある。このため、本実施形態では、ターゲット機構20(または、ターゲット機構21)の上下に開口101と、開口102とを設け、ターゲット機構20(または、ターゲット機構21)の周辺に漏れた酸素を開口101、102を介して即座に排気する。
【0046】
なお、基板90は基板ホルダ40に保持されたまま、基板90が基板ホルダ40とともに搬送室50を介して真空容器10に搬入されたり、真空容器10から搬出されたりする。
【0047】
基板ホルダ40の詳細について、さらに説明する。
【0048】
図2は、基板ホルダを示す模式的斜視図である。
図2には、基板ホルダ40のほか、基板ホルダ40がターゲット機構20に対向したときの、基板ホルダ40と、基板90、ターゲット機構20及び中心軸301との配置関係が示されている。
【0049】
基板ホルダ40は、回転ドラム機構30(
図1(b)参照)に固定・支持され、回転ドラム機構30の回転に応じて中心軸301の周りに回転する。基板ホルダ40は、所定の回転位置で、複数のターゲット201、202、203、204に対向する。
【0050】
基板ホルダ40は、上下の第1部分40aと、第1部分40a外の第2部分40bとを有する。第2部分40bは、保持領域面401を含む。
【0051】
第1部分40aは、回転ドラム機構30に固定・支持される領域を有する。第2部分40bは、Z軸方向において、上下の第1部分40aの間に設けられる。第1部分40aは、第2部分40bと交差する。これにより、第1部分40aと第2部分40bとにより鈍角の頂が形成される。第1部分40aは、第2部分40bに連設されている。
【0052】
保持領域面401は、基板90を保持する領域面である。例えば、保持領域面401には、吸着体320が設けられている。
【0053】
基板ホルダ40の少なくとも一部は、例えば、中心軸301に向かって突き出るように歪曲している。例えば、基板ホルダ40の第2部分40bは、中心軸301に向けて凸となって突き出ている。例えば、第2部分40bの全体は、弓状に湾曲している。このような基板ホルダ40の形状は一例であって、基板ホルダ40における歪曲した部分の曲率、歪曲する部分の数は、図示した例に限らない。例えば、第2部分40bの一部が弓状に湾曲したり、第2部分40bの一部が所定の角度で屈曲したりしてもよい。また、基板ホルダ40内の屈曲角は、複数あってもよい。このような基板ホルダ40の形状は、基板90の形状に合わせて設定される。
【0054】
基板ホルダ40は、保持領域面401のほかに、保持領域面401外の領域面402を有する。領域面402は、第1部分40aのほか第2部分40bにまで及ぶ。すなわち、領域面402は、第1部分40aと第2部分40bとに属す。領域面402は、保持領域面401に連設されている。また、第2部分において保持領域面401と、領域面402とは、連続面を構成する。例えば、第2部分40bには、基板ホルダ40を貫通する貫通孔が設けられていない。
【0055】
基板ホルダ40がターゲット機構20と対向し、ターゲット機構20の側から基板ホルダ40を見たときに(すなわち、基板ホルダ40を正面から見たとき)、第2部分40bは、第1部分40aの幅よりも狭い幅を含む領域を有する。ここで、基板ホルダ40の幅とは、中心軸301が延在する方向と直交する方向における幅とする。例えば、第2部分40bにおいては、基板ホルダ40の中心40cほど、基板ホルダ40の幅が徐々に狭くなっている。上下の第1部分40aは、例えば、平板で構成される。
【0056】
基板90は、基板ホルダ40の保持領域面401に保持される。基板90の少なくとも一部は、歪曲している。例えば、基板90の全体は、弓状に湾曲し、中心軸301に向けて凸となっている。換言すれば、基板90の形状に適合するように、基板ホルダ40の形状が設定される。
【0057】
図3は、回転ドラム機構に複数の基板ホルダが設置された場合の模式的斜視図である。
【0058】
回転ドラム機構30の側部30wには、側部30wの全周にわたって複数の基板ホルダ40が周設され得る。例えば、回転ドラム機構30の側部30wは、複数の基板ホルダ40によって埋めつくされる。
【0059】
ここで、回転方向Rにおいて、回転ドラム機構30の側部30wに並設された複数の基板ホルダ40から、任意に選択した互いに隣接する基板ホルダ40を基板ホルダ40-1(40)、基板ホルダ40-2(40)とする。また、基板ホルダ40の両端部の中、右側の端部を端部410(第1端部)、左側の端部を端部420(第2端部)とする。
【0060】
本実施形態では、基板ホルダ40-1、40-2は、一方の基板ホルダ40-1の両端部の中、他方の基板ホルダ40-2の側に位置する端部410が基板ホルダ40-2の両端部の中、基板ホルダ40-1の側に位置する端部420に沿うように回転方向Rに並設される。
【0061】
例えば、基板ホルダ40-1、40-2のそれぞれの第1部分40aは、端部410と、端部420とが互いに沿うように回転方向Rに並設される。また、基板ホルダ40-1、40-2のそれぞれの第2部分40bは、端部410と、端部420とが互いに沿うように回転方向Rに並設される。すなわち、基板ホルダ40-1の端部410と、基板ホルダ40-2の端部420とは、回転方向Rにおいて対向する。
【0062】
ここで、
図4は、回転ドラム機構に設置された基板ホルダを上から見たときの模式的上面図である。
【0063】
回転ドラム機構30に設置された複数の基板ホルダ40を中心軸301の方向から見た場合、任意に選択されたいずれかの基板ホルダ40の両端部(端部410、420)は、中心軸301から両端部にまで延ばした放射線に沿って設定される。
【0064】
これにより、基板ホルダ40の第2部分40bが中心軸301に向かって歪曲しても、回転方向Rに隣接する基板ホルダ40は互いに噛み合うことなく、基板ホルダ40の端部410、420のいずれもが隣接する基板ホルダ40の端部に沿うことになる。例えば、回転ドラム機構30の側部30wの全周が複数の基板ホルダ40によって埋めつくされたとき、回転方向Rに隣り合う基板ホルダ40間には、所定のクリアランスが形成される。
【0065】
このような基板ホルダ40を成膜装置1に適用した場合の作用を説明する前に、参考例に係る基板ホルダを成膜装置に適用した場合に起き得る現象について説明する。
【0066】
図5は、回転ドラム機構に参考例に係る基板ホルダが設置された場合の模式的斜視図である。
【0067】
例えば、基板ホルダ46は、基板ホルダ40の保持領域面401と同じ曲率、同じ面積の保持領域面461を有する。但し、基板ホルダ46においては、その幅がZ軸方向において同じになっている。このような場合、複数の基板ホルダ46を回転ドラム機構30の側部に敷き詰めると、隣り合う基板ホルダ46の第2部分46b同士がそれぞれ接触し、隣り合う基板ホルダ46の第1部分46a間に開口460が形成されてしまう。開口460は、第2部分46b間にも形成される。
【0068】
また、
図6は、回転ドラム機構に別の参考例に係る基板ホルダが設置された場合の模式的斜視図である。
【0069】
また、基板ホルダ47は、縦長の平板であり、その幅がZ軸方向において同じになっている。但し、基板ホルダ47は、基板90を中心軸301側に埋め込み保持する保持領域面471と、保持領域面471外であって平坦な領域面472とを有している。ここで、保持領域面471の曲率は、基板90の曲率と同じであるとする。
【0070】
このような場合でも、基板ホルダ47には、保持領域面471と、領域面472との間に、開口470が形成される。開口470は、基板ホルダ47の内部に形成された貫通孔である。
【0071】
このような開口460、470が回転ドラム機構30の側部に形成されると、酸素プラズマ発生源25において生成される活性酸素、酸素等が開口460または開口470を通じて回転ドラム機構30内を通過する場合がある。そして、活性酸素、酸素等は、ターゲット機構20、21にまで到達し、ターゲット機構20、21のターゲット部材を酸化してしまう。あるいは、逆にターゲット機構20、21から放たれたスパッタリング粒子が回転ドラム機構30の内部に堆積して、発塵の要因になる場合もある。
【0072】
また、基板ホルダ47では、保持領域面471と領域面472とにより、段差が形成されている。従って、スパッタリング粒子にとっては、段差付近の領域面472が遮蔽板となって、スパッタリング粒子の基板90への入射が段差により阻害される。これにより、基板90に形成される膜の厚みがばらついてしまう。
【0073】
これに対し、本実施形態の基板ホルダ40では、基板ホルダ40の少なくとも一部が中心軸301に向かって突き出るように歪曲し、保持領域面401と、領域面402とが連続面になっている。さらに、回転方向Rにおいて隣り合う基板ホルダ40においては、一方の基板ホルダ40の両端部の中、他方の基板ホルダ40の側に位置する端部(例えば、端部410)が他方の基板ホルダ40の両端部の中、一方の基板ホルダ40の側に位置する端部(例えば、端部420)に沿うように並設される。
【0074】
これにより、隣り合う基板ホルダ40間及び基板ホルダ40の内部には、開口460、470が形成されないため、酸素プラズマ発生源25において生成される活性酸素、酸素等が回転ドラム機構30内を通過してターゲット機構20、21のターゲット部材を酸化汚染する現象が起きにくい。また、回転ドラム機構30の内部には、スパッタリング粒子が堆積しにくい。
【0075】
これにより、基板ホルダ40を用いることにより、基板90には、良質な膜が形成される。なお、開口とは、開口460、470のような開口であって、例えば、ドラム回転機構30に固定されるために必然的に基板ホルダ40に要される孔部(例えば、ボルト止め用の孔部)等は除かれる。
【0076】
また、中心軸301の方向に延びた長い基板90を用いたとしても、複数のターゲット201、202、203、204が中心軸301の方向に並設されることから、基板90に形成される膜の膜厚分布は、中心軸301の方向においても良好になる。
【0077】
図7(a)(b)は、基板に形成される膜の膜厚分布を示す分布図である。
図7(a)には、
図6で例示された形態の基板ホルダ47が用いられ、
図7(b)では、本実施形態の基板ホルダ40が用いられている。
図7(a)、(b)のそれぞれには、中心軸301の方向における基板90の端部付近のSiO
2膜の膜厚分布が示されている。ここで、測定箇所は、基板90の幅方向に等間隔で6本のライン(PosA~PosF)、基板90の端部から等間隔で8本のライン(Pos1~Pos8)が交差する計42点で行われている。また、縦軸は、膜厚(nm)に対応している。膜厚の測定は、光学的手法で行った。
【0078】
図7(a)に示すように、基板ホルダ47を用いた場合には、膜厚分布のばらつきが大きいことが分かる。特に、
図7(a)のグラフでは、周辺部と中央部との膜厚の差が著しい。このようなばらつきの要因の1つとして、基板90の外周では、開口470が形成されることによる段差によりスパッタリング粒子が遮蔽されていると考えられる。例えば、
図7(a)の例では、(膜厚最大値-膜厚最小値)/(膜厚最大値+膜厚最小値)から導かれた値Aを百分率に換算した膜厚分布値は、4.0%であった。
【0079】
これに対して、本実施形態の基板ホルダ40を用いた結果(
図7(b))では、膜厚分布のばらつきが
図7(a)に比べて改善されていることが分かる。例えば、グラフの周辺部と中央部との膜厚の差が
図7(a)に比べて小さくなっている。例えば、
図7(b)の例では、値Aを百分率に換算した膜厚分布値が1.1%にまで減少した。
【0080】
このように、本実施形態によれば、基板ホルダ40を用いることで、少なくとも一部が歪曲された基板90に形成される膜の厚みばらつきが抑制される。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…成膜装置
10…真空容器
20、21…ターゲット機構
25…酸素プラズマ発生源
30…回転ドラム機構
30w…側部
40、46、47…基板ホルダ
40a、46a…第1部分
40b、46b…第2部分
40c…中心
50…搬送室
51、52、55…電源
90…基板
101、102…開口
110、111…チムニー板
201、202、203、204…ターゲット
201t、201t、203t、204t…ターゲット部材
201b、202b、203b、204b…バッキングプレート
201g、202g、203g、204g…ガス供給機構
301…中心軸
311…下部回転体
312…上部回転体
313…回転軸
314…フレーム部材
320…吸着体
401、461、471…保持領域面
402、472…領域面
410、420…端部
460、470…開口
901…成膜面
902…裏面