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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/046 20060101AFI20231204BHJP
   F04D 29/047 20060101ALI20231204BHJP
   F04D 13/06 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
F04D29/046 A
F04D29/047 A
F04D13/06 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020059967
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156257
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】小西 康貴
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 裕之
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-013040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/046
F04D 29/047
F04D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ装置であって、
永久磁石が埋設された羽根車と、
前記羽根車を収容するポンプケーシングと、
複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、
前記モータ固定子を収容するモータケーシングと、
固定側軸受と、前記固定側軸受に隣接して配置され、かつ前記羽根車に固定された回転側軸受と、を備える軸受組立体と、
前記羽根車の回転によって昇圧された液体を前記回転側軸受に噴射する液体噴射装置と、を備え、
前記液体噴射装置は、
前記回転側軸受の回転側アキシャル面に隣接して配置された液体噴射部と、
一端が前記ポンプケーシングの吐出ポートに接続され、他端が前記液体噴射部に接続された液体移送ラインと、
前記液体移送ラインに接続され、前記昇圧された液体の圧力を保持する圧力タンクと、
前記液体移送ラインを開閉する開閉弁と、を備えており、
前記ポンプ装置は、前記液体噴射部の動作を制御する制御部を備えており、
前記制御部は、
前記開閉弁を開いて、前記液体噴射部を通じて、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に静圧を発生させ、その後、
前記モータ固定子に電流を供給して、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に動圧を発生させる、ポンプ装置。
【請求項2】
前記開閉弁は、前記圧力タンクと前記液体噴射部との間における前記液体移送ラインに接続されている、請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記液体噴射部は、前記回転側軸受と同心状に配置された多孔質部材を備えている、請求項1または請求項2に記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記液体噴射部は、環状の多孔質リングを備えている、請求項3に記載のポンプ装置。
【請求項5】
前記液体噴射部は、前記回転側軸受の周方向に沿って配置された複数の液体噴射ノズルを備えている、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のポンプ装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に動圧を発生させた後、前記開閉弁を閉じる、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のポンプ装置。
【請求項7】
前記制御部は、
電流の前記モータ固定子への供給を停止するための停止指令を出した後、前記開閉弁を開いて、前記液体噴射部を通じて、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に静圧を発生させ、
電流の前記モータ固定子への供給を停止した後、前記開閉弁を閉じる、請求項に記載のポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータとポンプとが一体的に構成されたキャンドモータポンプは、回転軸とポンプケーシングとの間の隙間を封止するための軸封装置を必要としないため、液体の漏洩は起こらない。したがって、キャンドモータポンプは、液体の漏洩を嫌う分野において広く使用されている。さらに、半導体製造装置など、装置全体を小型化する現場では、場所を取らないアキシャルギャップ型PMモータを搭載したキャンドモータポンプが好ましく使用される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
アキシャルギャップ型PMモータを搭載したキャンドモータポンプは、単一の軸受組立体によって回転自在に支持された羽根車を備えている。この軸受組立体は、互いに緩やかに係合する回転側軸受と固定側軸受との組み合わせから構成されている。回転側軸受が羽根車の回転とともに回転すると、回転側軸受と固定側軸受との間に液体の動圧が発生し、結果として、羽根車が軸受組立体によって非接触に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-013040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような軸受組立体の非接触状態は、モータポンプの運転中における回転側軸受の動作により発生したくさび効果に起因するものであり、モータポンプの停止中では、このような効果は発生しない。したがって、モータポンプの停止中では、固定側軸受および回転側軸受は、接触状態となる。結果として、モータポンプの停止状態から運転を開始する場合には、回転側軸受が固定側軸受に摺動してしまい、軸受組立体は、摩耗してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、モータポンプの運転開始時であっても、軸受組立体の摩耗を防止することができるポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、永久磁石が埋設された羽根車と、前記羽根車を収容するポンプケーシングと、複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、前記モータ固定子を収容するモータケーシングと、固定側軸受と、前記固定側軸受に隣接して配置され、かつ前記羽根車に固定された回転側軸受と、を備える軸受組立体と、前記羽根車の回転によって昇圧された液体を前記回転側軸受に噴射する液体噴射装置と、を備えるポンプ装置が提供される。前記液体噴射装置は、前記回転側軸受の回転側アキシャル面に隣接して配置された液体噴射部と、一端が前記ポンプケーシングの吐出ポートに接続され、他端が前記液体噴射部に接続された液体移送ラインと、前記液体移送ラインに接続され、前記昇圧された液体の圧力を保持する圧力タンクと、前記液体移送ラインを開閉する開閉弁と、を備えている。
【0008】
一態様では、前記開閉弁は、前記圧力タンクと前記液体噴射部との間における前記液体移送ラインに接続されている。
一態様では、前記液体噴射部は、前記回転側軸受と同心状に配置された多孔質部材を備えている。
一態様では、前記液体噴射部は、環状の多孔質リングを備えている。
一態様では、前記液体噴射部は、前記回転側軸受の周方向に沿って配置された複数の液体噴射ノズルを備えている。
【0009】
一態様では、前記ポンプ装置は、前記液体噴射部の動作を制御する制御部を備えており、前記制御部は、前記開閉弁を開いて、前記液体噴射部を通じて、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に静圧を発生させ、その後、前記モータ固定子に電流を供給して、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に動圧を発生させる。
一態様では、前記制御部は、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に動圧を発生させた後、前記開閉弁を閉じる。
一態様では、前記制御部は、電流の前記モータ固定子への供給を停止するための停止指令を出した後、前記開閉弁を開いて、前記液体噴射部を通じて、前記回転側軸受と前記固定側軸受との間に静圧を発生させ、電流の前記モータ固定子への供給を停止した後、前記開閉弁を閉じる。
【発明の効果】
【0010】
液体噴射装置は、回転側軸受と固定側軸受との間に静圧を発生させるように構成されている。したがって、ポンプ装置は、回転側軸受と固定側軸受との間に静圧を発生させた状態で、羽根車を回転させることができる。結果として、モータポンプの運転開始時において、回転側軸受は固定側軸受に摺動することなく、ポンプ装置は、軸受組立体の摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。
図2】軸受組立体の一実施形態を示す図である。
図3】液体噴射部を通じて液体移送ラインから回転側軸受に供給される液体の流れを示す図である。
図4】複数の液体噴射ノズルを備えた液体噴射部を示す図である。
図5図4のA-A線断面図である。
図6図4に示す液体噴射部を通じて液体移送ラインから回転側軸受に供給される液体の流れを示す図である。
図7】回転側軸受の回転側アキシャル面と固定側軸受の固定側アキシャル面との間に形成された隙間を示す図である。
図8】モータポンプの運転開始から運転停止までの、ポンプ装置の構成要素の動作の時間経過を示す図である。
図9】インバータ装置の動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、ポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。このポンプ装置は、モータとポンプとが一体的に構成されたモータポンプを備えている。図1に示すモータポンプはアキシャルギャップ型PMモータを搭載したキャンドモータポンプである。
【0013】
図1に示すように、モータポンプは、複数の永久磁石5が埋設された羽根車1と、これらの永久磁石5に作用する磁力を発生するモータ固定子6と、羽根車1を収容するポンプケーシング2と、モータ固定子6を収容するモータケーシング3と、羽根車1のラジアル荷重およびアキシャル荷重を支持する軸受組立体10と、を備えている。
【0014】
モータ固定子6および軸受組立体10は、羽根車1の吸込側に配置されている。本実施形態では、複数の永久磁石5が設けられているが、本発明は本実施形態に限定されず、複数の磁極が着磁された1つの永久磁石を用いてもよい。具体的には、S極とN極とが交互に着磁された、複数の磁極を有する1つの環状の永久磁石を用いてもよい。
【0015】
ポンプケーシング2とモータケーシング3との間にはシール部材としてのOリング9が設けられている。Oリング9を設けることにより、ポンプケーシング2とモータケーシング3との間から液体が漏洩することを防止することができる。
【0016】
モータケーシング3には、吸込口15aを有する吸込ポート15が連結されている。この吸込ポート15は、図示しない吸込ラインに接続される。吸込ポート15とモータケーシング3との間には、シール部材としてのOリング13が設けられている。Oリング13を設けることにより、モータケーシング3と吸込ポート15との間から液体が漏洩することを防止することができる。
【0017】
吸込ポート15、モータケーシング3、および軸受組立体10の中心部には、それぞれ液体流路15b,3a,10aが形成されている。これら液体流路15b,3a,10aは一列に連結され、吸込口15aから羽根車1の液体入口まで延びる1つの液体流路を構成する。液体流路15b,3a,10aは、羽根車1の液体入口に連通している。
【0018】
本実施形態に係るモータポンプは、永久磁石5およびモータ固定子6がこれら液体流路15b,3a,10aに沿って配置されるアキシャルギャップ型PMモータを搭載したキャンドモータポンプである。
【0019】
ポンプケーシング2の側面には、吐出口16aを有する吐出ポート16が設けられており、回転する羽根車1によって昇圧された液体は、吐出口16aを通って吐き出される。なお、本実施形態に係るモータポンプは、吸込口15aと吐出口16aが直交する、いわゆるエンドトップ型モータポンプである。
【0020】
羽根車1は、滑りやすく、かつ摩耗しにくい非磁性材料から形成されている。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPPS(ポリフェニレンスルファイド)などの樹脂や、セラミックが好適に使用される。ポンプケーシング2およびモータケーシング3も羽根車1と同じ材料から形成することができる。
【0021】
図2は、軸受組立体10の一実施形態を示す図である。羽根車1は単一の軸受組立体10によって回転自在に支持されている。この軸受組立体10は液体の動圧を利用したすべり軸受(動圧軸受)である。この軸受組立体10は、固定側軸受12と、固定側軸受12の周囲に配置される回転側軸受11と、を備えている。
【0022】
固定側軸受12は、円筒状の固定側ラジアル面12aと、固定側ラジアル面12aの半径方向外側に位置する固定側アキシャル面12bと、を有している。回転側軸受11は、固定側ラジアル面12aを囲む円筒状の回転側ラジアル面11aと、回転側ラジアル面11aの半径方向外側に位置する回転側アキシャル面11bと、を有している。回転側軸受11は固定側軸受12を取り囲むように配置されている。
【0023】
回転側軸受11は、羽根車1に固定されており、羽根車1の液体入口を囲むように配置されている。固定側軸受12は、モータケーシング3に固定されており、回転側軸受11の吸込側に配置されている。図1および図2に示すように、モータケーシング3と固定側軸受12との間には、シール部材としてのOリング14が設けられている。Oリング14を設けることにより、モータケーシング3と固定側軸受12との間から液体が漏洩することを防止することができる。
【0024】
回転側ラジアル面11aおよび固定側ラジアル面12aは羽根車1のラジアル荷重(ラジアルスラスト)を支持するラジアル面であり、回転側アキシャル面11bおよび固定側アキシャル面12bは羽根車1のアキシャル荷重(アキシャルスラスト)を支持するアキシャル面である。ここで、ラジアル面は、羽根車1のラジアル方向(すなわち、半径方向)に作用する荷重を受ける面(すなわち、ラジアルスラスト発生面)であり、アキシャル面は、羽根車1のアキシャル方向(すなわち、軸方向)に作用する荷重を受ける面(すなわち、アキシャルスラスト発生面)である。
【0025】
回転側ラジアル面11aおよび固定側ラジアル面12aは羽根車1の軸心と平行であり、回転側アキシャル面11bおよび固定側アキシャル面12bは羽根車1の軸心に対して垂直である。回転側ラジアル面11aおよび回転側アキシャル面11bは互いに垂直であり、固定側ラジアル面12aおよび固定側アキシャル面12bは互いに垂直である。
【0026】
図1に示すように、ポンプ装置は、モータ固定子6に電流を供給するインバータ装置26をさらに備えている。モータ固定子6は、固定子コア6Aと、複数の固定子コイル6Bと、を有している。これら複数の固定子コイル6Bは環状に配列されている。羽根車1およびモータ固定子6は、軸受組立体10および吸込口15aと同心状に配列されている。
【0027】
回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間には、微小な隙間が形成されている。回転側軸受11の側面には、動圧を発生させるためのスパイラル溝17(図1参照)が形成されている。
【0028】
固定子コイル6Bは、リード線25を介してインバータ装置26に接続されている。このインバータ装置26は、電流をモータ固定子6の固定子コイル6Bに供給して、モータ固定子6に回転磁界を発生させる。この回転磁界は羽根車1に埋設されている永久磁石5に作用し、羽根車1を回転駆動する。羽根車1のトルクはモータ固定子6に供給される電流の大きさに依存する。羽根車1にかかる負荷が一定である限り、羽根車1が予め定められた速度で回転している間は、モータ固定子6に供給される電流は概ね一定である。
【0029】
羽根車1が回転すると、液体は吸込口15aから羽根車1の液体入口に導入される。液体は羽根車1の回転によって昇圧され、吐出口16aから吐き出される。羽根車1が液体を移送している間、羽根車1の背面は昇圧された液体によって吸込側に(すなわち吸込口15aに向かって)押圧される。
【0030】
羽根車1から吐き出された液体の一部は、羽根車1とモータケーシング3との間の微小な隙間を通って軸受組立体10に導かれる。回転側軸受11が羽根車1とともに回転すると、回転側軸受11と固定側軸受12との間に液体の動圧が発生し、これにより羽根車1が軸受組立体10によって支持される。軸受組立体10は、羽根車1の吸込側に配置されているので、羽根車1のアキシャル荷重を吸込側から支持する。
【0031】
モータポンプの運転中、回転側軸受11と固定側軸受12との間に発生する液体の動圧によって、回転側軸受11は固定側軸受12に対して非接触である。しかしながら、モータポンプの停止中では、液体の動圧は発生しないため、回転側軸受11は固定側軸受12に接触する。特に、羽根車1に埋設された永久磁石5とモータ固定子6との間には、強力な引力が発生するため、回転側軸受11は固定側軸受12に密着する。したがって、モータポンプの運転開始時では、回転側軸受11が固定側軸受12に摺動してしまい、軸受組立体10は、摩耗してしまう。結果として、軸受組立体10から摩耗粉が発生してしまい、摩耗粉がモータポンプによって搬送される液体に混入するおそれがある。
【0032】
そこで、図1および図2に示す実施形態では、ポンプ装置は、モータポンプの運転開始時であっても、軸受組立体10の摩耗を防止する構成を有している。以下、図面を参照して、摩耗防止構成について、説明する。
【0033】
ポンプ装置は、モータポンプの運転開始の直前において、回転側軸受11と固定側軸受12との間に静圧を発生させて、回転側軸受11および固定側軸受12を非接触状態にする構成を有している。より具体的には、ポンプ装置は、羽根車1の回転によって昇圧された液体を回転側軸受11に噴射する液体噴射装置50を備えている。
【0034】
図1および図2に示すように、液体噴射装置50は、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bに隣接して配置された液体噴射部51と、一端52aがポンプケーシング2の吐出ポート16に接続され、他端52bが液体噴射部51に接続された液体移送ライン52と、液体移送ライン52に接続され、昇圧された液体の圧力を保持する圧力タンク53と、液体移送ライン52を開閉する開閉弁(本実施形態では、電磁弁)54と、を備えている。
【0035】
図1に示す実施形態では、インバータ装置26は、その内部に開閉弁54の開閉動作を制御する制御部27を備えている。一実施形態では、制御部27は、インバータ装置26の外部に配置されてもよい。制御部27は、液体噴射部51、より具体的には、開閉弁54の動作を制御するように構成されている。制御部27は、開閉弁54に電気的に接続されており、開閉弁54を動作させて、液体移送ライン52を開閉する。
【0036】
開閉弁54を閉じた状態で、インバータ装置26がモータポンプを運転すると、液体は羽根車1の回転によって昇圧され、吐出口16aから吐き出される。液体移送ライン52の一端52aは、吐出ポート16に接続されているため、液体の一部は、液体移送ライン52を通じて、圧力タンク53に供給される。液体の逆流を防止するために、液体移送ライン52には、逆止弁56が取り付けられている。逆止弁56は、液体の移送方向において、圧力タンク53の上流側に配置されている。
【0037】
圧力タンク53は、耐圧容器内に内蔵されたゴム製のブラダを備えており、モータポンプの吐出圧力が上昇すると、ブラダの外側の空気を圧縮し、液体が加圧状態で貯留される。一実施形態では、液体をより加圧状態で貯留するために、圧力タンク53は、耐圧容器の表面に取り付けられたヒーター(図示しない)を備えてもよい。ヒーターを設けることにより、圧力タンク53内の空気は加熱されるため、圧力タンク53に貯留された液体の圧力を上昇させることができる。一実施形態では、圧力タンク53を加熱するために、モータ固定子6、インバータ装置26のスイッチング素子などの発熱源を使用してもよい。
【0038】
図3は、液体噴射部51を通じて液体移送ライン52から回転側軸受11に供給される液体の流れを示す図である。なお、図面を見やすくするために、液体噴射部51および回転側軸受11は互いに離間して配置されているが、これら液体噴射部51および回転側軸受11は互いに接触してもよい。
【0039】
圧力タンク53内に液体を貯留した後、制御部27が開閉弁54を開くと、圧力タンク53に貯留された液体は液体移送ライン52を通じて液体噴射部51に供給される。一実施形態では、圧力タンク53内で液体を冷却することにより、冷却された液体を回転側軸受11に供給することができる。したがって、軸受組立体10の温度を測定する温度測定器(図示しない)を軸受組立体10に隣接して配置し、この温度測定器を制御部27に電気的に接続してもよい。このような構成により、制御部27は、温度測定器を通じて、軸受組立体10の温度を監視し、必要に応じて、開閉弁54を開いて、冷却された液体を軸受組立体10に供給してもよい。軸受組立体10は、冷却された液体によって、冷却される。
【0040】
図1に示す実施形態では、液体噴射部51は、回転側軸受11と同心状に配置された多孔質部材、より具体的には、環状の多孔質リングを備えている。液体噴射部51を多孔性(ポーラス)の部材から構成することにより、液体噴射部51に供給された液体(すなわち、加圧液体)は、液体噴射部51の円周方向において均一に流れ(図3参照)、加圧液体は、液体噴射部51から回転側軸受11の回転側アキシャル面11bに均一に噴射される。
【0041】
図4は、複数の液体噴射ノズル51aを備えた液体噴射部51を示す図である。図5は、図4のA-A線断面図である。図6は、図4に示す液体噴射部51を通じて液体移送ライン52から回転側軸受11に供給される液体の流れを示す図である。図4乃至図6に示すように、液体噴射部51は、回転側軸受11の周方向に沿って等間隔に配置された複数の液体噴射ノズル51aを備えてもよい。図5に示す実施形態では、8つの液体噴射ノズル51aが設けられているが、液体噴射ノズル51aの数は本実施形態には限定されない。2つ以上の液体噴射ノズル51aが設けられてもよい。このような構成によっても、液体噴射部51から供給された加圧液体は、液体噴射部51から回転側軸受11の回転側アキシャル面11bに均一に噴射される。
【0042】
一実施形態では、図1に示す実施形態と図4に示す実施形態とを組み合わせてもよい。すなわち、液体噴射部51は、環状の多孔質リングと、複数の液体噴射ノズル51aと、の両方を備えてもよい。
【0043】
液体噴射部51は、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bに隣接して配置されているため、液体噴射部51から噴射された液体は、回転側軸受11を固定側軸受12から離間する方向に押し出し、回転側軸受11と固定側軸受12との間に静圧を発生させる。結果として、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間には隙間が形成される(図7参照)。このようにして、液体噴射装置50は、回転側軸受11を浮上させる。なお、図7は、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に形成された隙間を示す図である。
【0044】
インバータ装置26は、液体噴射装置50が回転側軸受11を固定側軸受12から離間させている状態で、電流をモータ固定子6の固定子コイル6Bに供給して、羽根車1を回転駆動する。このような構成により、ポンプ装置は、回転側軸受11と固定側軸受12との間に静圧を発生させた状態で、回転側軸受11と固定側軸受12との間に動圧を発生させることができる。したがって、モータポンプの運転開始時において、回転側軸受11は固定側軸受12に摺動することなく、結果として、軸受組立体10の摩耗を防止することができる。
【0045】
以下、モータポンプの運転開始から運転停止までのインバータ装置26の動作について、図面を参照して、説明する。なお、以下、本明細書中において、モータ固定子6および永久磁石5の組み合わせを「モータ」と定義する。したがって、「モータが回転する」との表現は、電流のモータ固定子6への供給によって、永久磁石5が埋設された羽根車1が回転していることを意味する。
【0046】
図8は、モータポンプの運転開始から運転停止までの、ポンプ装置の構成要素の動作の時間経過を示す図である。図9は、インバータ装置26の動作のフローチャートである。図8に示すように、圧力タンク53に加圧液体が貯留された状態(すなわち、蓄圧状態)で、ポンプ装置が始動される。より具体的には、作業者は、ポンプ装置を始動および停止させるためのON/OFFスイッチ(図示しない)を押下する(図9のステップS101参照)。ON/OFFスイッチの押下を契機として、インバータ装置26(より具体的には、制御部27)は、モータが回転しているか否かを判断する(ステップS102参照)。
【0047】
モータポンプの運転が開始されていない場合、すなわち、モータが回転していない場合には(ステップS102の「No」参照)、制御部27は、開閉弁54を開き(ステップS103参照)、圧力タンク53内に貯留された加圧液体を、液体噴射部51を通じて、回転側軸受11に噴射する。結果として、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に静圧が発生して、回転側軸受11が浮上する。圧力タンク53の容量は、羽根車1の回転速度が所定の回転速度に達するまでの時間、回転側軸受11を浮上させることが可能な容量に決定される。
【0048】
制御部27は、開閉弁54を開いてから所定時間が経過した後、モータの始動指令を出し(ステップS104参照)、電流をモータ固定子6に供給して、モータを駆動する。より具体的には、インバータ装置26は、電流をモータ固定子6に供給することにより、羽根車1を回転させる。一実施形態では、インバータ装置26は、モータの回転速度が所定の回転速度に達するまで、電流のモータ固定子6への供給量を徐々に増加させてもよい。羽根車1が回転すると、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に動圧が発生し、羽根車1は、軸受組立体10によって支持される。
【0049】
図9のステップS104の後、制御部27は、モータ固定子6に供給される電流の大きさ(および/または電流の周波数)に基づいて、モータの回転速度が所定の回転速度に達しているか否かを判断し(ステップS105参照)、モータの回転速度が所定の回転速度に達していない場合(ステップS105の「No」参照)、開閉弁54の開動作を継続する(ステップS103参照)。モータの回転速度が所定の回転速度に達している場合(ステップS105の「Yes」参照)、制御部27は、開閉弁54を閉じる(ステップS106参照)。
【0050】
図8に示すように、開閉弁54を閉じることにより、圧力タンク53に貯留された液体の圧力は上昇する。開閉弁54を閉じることにより、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に発生する静圧は消滅する。その一方で、モータポンプの運転中において、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間の動圧の発生は継続される。したがって、回転側軸受11は浮上し続ける。
【0051】
モータポンプの運転を停止する場合、作業者は、ON/OFFスイッチを押し(ステップS101参照)、制御部27は、モータが回転しているか否かを判断する(ステップS102参照)。モータが回転している場合(ステップS102の「Yes」参照)、制御部27は、モータの停止指令を出し(ステップS107参照)、電流のモータ固定子6への供給を停止する前に、開閉弁54を開く(ステップS108参照)。
【0052】
一実施形態では、制御部27は、モータ固定子6に供給する電流を徐々に低減させて、電流の値が所定の値に達したときに、開閉弁54を開いてもよい(図8参照)。一実施形態では、制御部27は、モータの回転速度が所定の回転速度に達したときに、開閉弁54を開いてもよい。開閉弁54を開くことにより、圧力タンク53内に貯留された加圧液体は、液体噴射部51を通じて、回転側軸受11に噴射され、結果として、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に静圧が発生する。
【0053】
ステップS108の後、制御部27は、モータが回転しているか否かを判断する(ステップS109参照)。モータが回転している場合(ステップS109の「Yes」参照)、すなわち、羽根車1が回転している場合、開閉弁54の開動作を継続する(ステップS108参照)。モータが回転していない場合(ステップS109の「No」参照)、すなわち、羽根車1が回転していない場合、開閉弁54を閉じて(ステップS106参照)、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に発生する静圧を消滅させる。
【0054】
このように、制御部27は、羽根車1の回転が停止した後、開閉弁54を閉じるように構成されている。このような構成により、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bと固定側軸受12の固定側アキシャル面12bとの間に発生する静圧は、これらの間に発生する動圧が消滅した後に消滅する。したがって、モータポンプの運転停止によって、動圧が消滅した後においても、静圧は発生しているため、永久磁石5とモータ固定子6との間に発生する引力に起因して、回転側軸受11が固定側軸受12に衝突することはない。結果として、回転側軸受11の固定側軸受12への衝突に起因する軸受組立体10の摩耗を防止することができる。
【0055】
上述した実施形態では、制御部27は、モータ固定子6に供給される電流の大きさや電流の周波数に基づいて、モータの回転速度が所定の回転速度に達しているか否かを判断する。一実施形態では、制御部27は、電流の大きさまたはモータの回転速度のみに基づいて、判断してもよい。
【0056】
液体噴射装置50は、様々な要素(例えば、液体噴射部51を通じて、回転側軸受11の回転側アキシャル面11bに接触する液体の受圧面積、圧力タンク53に貯留される液体の圧力の大きさ、液体噴射部51が多孔質リングである場合におけるポーラスの孔の密度(気孔率)、回転側軸受11の浮上時間)に基づいて設計される。
【0057】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1 羽根車
2 ポンプケーシング
3 モータケーシング
3a 液体流路
5 永久磁石
6 モータ固定子
6A 固定子コア
6B 固定子コイル
9 Oリング
10 軸受組立体
10a 液体流路
11 回転側軸受
11a 回転側ラジアル面
11b 回転側アキシャル面
12 固定側軸受
12a 固定側ラジアル面
12b 固定側アキシャル面
13 Oリング
14 Oリング
15 吸込ポート
15a 吸込口
15b 液体流路
16 吐出ポート
16a 吐出口
25 リード線
26 インバータ装置
27 制御部
50 液体噴射装置
51 液体噴射部
51a 液体噴射ノズル
52 液体移送ライン
52a 一端
52b 他端
53 圧力タンク
54 開閉弁
56 逆止弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9