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特許7395583積層体とその製造方法、並びに成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-01
(45)【発行日】2023-12-11
(54)【発明の名称】積層体とその製造方法、並びに成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231204BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20231204BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231204BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231204BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20231204BHJP
   B29D 7/00 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B7/022
G09F9/00 313
G09F9/00 342
C08J5/18 CEY
C08J7/046
B29D7/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021522841
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020021022
(87)【国際公開番号】W WO2020241725
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2019100576
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴理博
(72)【発明者】
【氏名】船崎 一男
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128899(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034315(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060100(WO,A1)
【文献】特開2012-093647(JP,A)
【文献】特開2016-107524(JP,A)
【文献】特開2011-194587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
G09F 9/00
C08J 5/18
C08J 7/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の樹脂層の少なくとも片面に前記第2の樹脂層とは組成の異なる第1の樹脂層が積層された積層構造の熱可塑性樹脂層と、当該熱可塑性樹脂層の前記第1の樹脂層上に積層された硬化被膜とを含む、熱成形用の積層体であって、
総厚みが75μm~5000μmであり、
前記第1の樹脂層が、メタクリル酸メチル単位を50~100質量%含むメタクリル樹脂5~80質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~20質量%とを含む(メタ)アクリル樹脂含有層であり、
前記第2の樹脂層がポリカーボネート樹脂含有層であり、
前記硬化被膜は、硬化性(メタ)アクリレートを含む硬化性組成物の硬化物からなり、厚みが10~20μmであり、下記式(1)で定義されるZ値が10~75であり、
下記評価方法により求められるしわの発生しない最低の曲げ半径Rが10~75mmである、積層体。
Z=93.1-11×X+1.5×Y・・・(1)
(上記式中、Xは硬化被膜の23℃における複合弾性率(GPa)であり、Yは硬化被膜の厚み(μm)である。)
[しわの発生しない曲げ半径Rの評価方法]
積層体から幅60mm、長さ200mmの短冊状試料を切り出す。この試料を170℃で5分間加熱した後、直ちに半円柱状の凸型の凸曲面上に載せ、さらにその上に直ちに、凸型の凸曲面形状に沿った形状で、凸型の凸曲面よりも曲げ半径が試料厚み分大きい凹曲面を有する凹型を載せて、152.3℃で30秒プレスする。このとき、積層体の硬化被膜側が凸型側となるように、また、断面視にて、積層体の長さ方向が凸型の円弧に沿うように、積層体を型にセットする。熱プレス後、常温まで冷却し、断面視円弧状に湾曲させた積層体を型から取り出す。湾曲させた積層体の内側にある硬化被膜を目視観察し、硬化被膜のしわの有無を調べる。凸型の直径は、10mm、30mm、45mm、75mm、100mmの5条件とし、これら5条件の評価のうち、しわの発生しない最低の曲げ半径Rを、「しわの発生しない曲げ半径R」として求める。
【請求項2】
134~162℃の範囲内の少なくとも一部の温度条件において、前記第1の樹脂層の弾性率と前記第2の樹脂層の弾性率のうち、弾性率の大きい方の弾性率の小さい方に対する弾性率の比が1.2以上217未満である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記硬化被膜の複合弾性率(X)が4.3~9.8GPaである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記硬化被膜は、多官能(メタ)アクリレート及び多官能ウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上の硬化性(メタ)アクリレートを含む硬化性組成物の硬化物からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記硬化被膜の鉛筆硬度が2H~5Hである、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
総厚みが500μm超3000μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第1の樹脂層の厚みが70μm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
ディスプレイ保護板用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂層を共押出成形する工程(S1)と、
前記熱可塑性樹脂層の前記第1の樹脂層上に、光重合性硬化性組成物を塗工して、塗工膜を形成する工程(S2-L)と、
前記塗工膜を光硬化して前記硬化被膜を形成する工程(S3-L)とを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記第1の樹脂層の弾性率と前記第2の樹脂層の弾性率のうち、弾性率の大きい方の弾性率の小さい方に対する弾性率の比が1.2以上217未満を充足する温度で、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体を曲げ加工する、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形用保護板として好適な積層体とその製造方法、並びにこの積層体を熱成形する工程を含む成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ、並びに、かかるパネルディスプレイとタッチパネル(タッチスクリーンとも言う)とを組み合わせたタッチパネルディスプレイは、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;携帯電話(スマートフォンを含む)、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用されている。
表面の擦傷等を防止するために、液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ及びタッチパネル等の表面には透明な保護板が設置される。従来、保護板としては強化ガラスが主に使われてきたが、加工性及び軽量化の観点から、透明樹脂板が検討されている。
【0003】
透明樹脂製の保護板として、耐衝撃性に優れるポリカーボネート層と光沢及び耐擦傷性に優れるメタクリル樹脂層とを含む樹脂板が検討されている。この樹脂板は、好ましくは共押出成形によって製造される。光沢、耐擦傷性、及び耐衝撃性等の機能を向上するために、好ましくは、この樹脂板の少なくとも片面に硬化被膜が形成される。この硬化被膜は、ハードコート層として機能することができる。
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート層の両面にメタクリル樹脂層を積層した3層構造の樹脂板の少なくとも片面に、硬化性塗料を塗布し硬化させて硬化被膜を形成する液晶ディスプレイ保護板の製造方法が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6365583号公報
【文献】特許第6420924号公報
【文献】特許第6488242号公報
【文献】特許第4201365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車載用のカーナビゲーションシステム及びディスプレイオーディオ等の用途において、デザイン性及び視認性等の観点から、曲面加工等の形状加工が施されたディスプレイが開発されている。このような用途に使用される保護板には、ディスプレイの形状に合わせて、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の熱成形により、曲面加工等の形状加工が施される。この形状加工の工程では、熱と応力により、硬化被膜にクラック又はしわ等の欠陥が生じる恐れがある。
具体的には、樹脂板の片面に硬化被膜が積層された保護板を、熱成形により、硬化被膜側を外側にし、硬化被膜側を伸ばすように湾曲加工する場合、外側の硬化被膜に引張応力がかかり、クラックが発生する恐れがある。樹脂板の片面に硬化被膜が積層された保護板を、硬化被膜側を内側にし、硬化被膜側が縮まるように湾曲加工する場合、硬化被膜に圧縮応力がかかり、しわが発生する恐れがある。
なお、樹脂板の両面に硬化被膜が積層された保護板では、引張応力がかかる外側の硬化被膜にはクラックが発生する恐れがあり、圧縮応力がかかる内側の硬化被膜にはしわが発生する恐れがある。また、保護板をS字状に湾曲させる場合などには、1つの硬化被膜に対して、引張応力がかかる部分と圧縮応力のかかる部分がある場合もある。
【0006】
特許文献1には耐擦傷性について記載があるが、樹脂板の少なくとも片面に硬化被膜を形成した後の熱成形について記載がなく、熱成形の工程で硬化被膜に生じるクラック又はしわ等を抑制する手法を開示していない。
【0007】
特許文献2は、曲げ加工時の割れ及びしわ等を抑制することを目的としている(段落0005)。この文献には、(メタ)アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン樹脂を含む主層(A)と、主層(A)の両面に積層された熱可塑性樹脂層(B)とを含む樹脂層と、該樹脂層の少なくとも一方の面に積層されたハードコート層(硬化被膜に相当)とを含み、ハードコート層側の鉛筆硬度、ポリエチレンテレフタレート基材とハードコート層とを含む積層体の限界伸度(%)、ポリメチルメタクリレート基材とハードコート層を含む積層体の最大伸度(%)、及びハードコート層の膜厚(μm)等を好適化した樹脂積層体が開示されている(請求項1)。熱可塑性樹脂層(B)に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂等が挙げられている(段落0040)。
【0008】
特許文献2において、「最大伸度」は、樹脂積層体の引張試験を行い、樹脂積層体が破断した時点の伸度である(段落0086)。「破断時点」を基準とするこの物性は、熱成形の工程で樹脂積層体が破断する前にハードコート層に生じるクラック又はしわ等の抑制との関連性はあまり高くない。そのため、特許文献2に記載の規定では、熱成形の工程でハードコート層に生じるクラック又はしわ等を安定的に高レベルに抑制することは難しい。
【0009】
特許文献3は、積層状態で保管しても変形故障がなく、偏光板加工した場合に偏光層との接着性に優れ、液晶表示装置に実装した場合に環境変化に伴う液晶表示装置の光ムラを抑制できる複層フィルムの積層物を提供することを目的としている(段落0010)。この文献には、基材と、硬化性組成物及び微粒子を含む透明層(硬化被膜に相当)とを含み、基材の長手方向と平行な両端に厚み出し加工部を有する長尺状の複層フィルムの積層物において、微粒子のモース硬度、透明層の弾性率、及び基材と透明層との接着力等を好適化した複層フィルムの積層物が開示されている(請求項1、2、4)。基材の材料としては、(メタ)アクリル系ポリマー等が挙げられている(段落0070)。
特許文献3では、透明層の弾性率は好ましくは0.5~3.0GPaである(請求項4)。このように透明層の弾性率が低い場合、熱成形の工程でクラックの発生は抑制されると考えられる。しかしながら、弾性率が0.5~3.0GPaと低い透明層は、表面硬度が低く、良好な耐擦傷性を有することが難しい。
【0010】
一般的に、硬化被膜の表面硬度を高め、耐擦傷性を高めれば、熱成形時に圧縮応力がかかった際のしわの発生は抑制できるが、熱成形時に引張応力がかかった際にクラックが入りやすくなる傾向がある。硬化被膜の表面硬度を低めれば、熱成形時に引張応力がかかった際のクラックの発生は抑制できるが、耐擦傷性が低下し、熱成形時に圧縮応力がかかった際のしわが入りやすくなる傾向がある。表面硬度/耐擦傷性と熱成形性とを両立することは難しい。
【0011】
特許文献4には、プラスチックフィルムと、その一方の側に設けた反応硬化型樹脂組成物を含むハードコート塗工液を塗工し硬化させてなるハードコート層(硬化被膜に相当)とからなる積層体からなり、前記ハードコートの鉛筆硬度が2H以上で、かつ、前記プラスチックフィルムの厚さを188μm、前記ハードコート塗工液を厚さ4μmで塗工して前記ハードコート層を形成したときのマンドレル試験で10mm以上の曲率の際にクラックの入らない、可撓性をもつタッチパネル用ハードコートフィルムが開示されている(請求項1)。
特許文献4は、好ましくは25~250μm(段落0008)の薄いプラスチックフィルムの表面にハードコート層を形成した薄い可撓性ハードコートフィルムに関する。特許文献4には、「マンドレル試験で10mm以上の曲率の際にクラックの入らない」と記載されているが、この文献は、熱成形の工程でハードコートに生じるクラック又はしわ等を抑制する手法を開示していない。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、表面硬度が高く耐擦傷性が良好で、熱成形時の硬化被膜のしわが抑制され、熱成形用保護板用として好適な積層体と、その製造方法を提供することを目的とする。
なお、本発明の積層体は、液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ及びタッチパネル等の保護板として好適なものであるが、任意の用途に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するべく、表面硬度/耐擦傷性と熱成形性とを両立可能な硬化被膜の物性と厚みについて詳細に検討を重ね、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の[1]~[11]の積層体とその製造方法及び成形方法を提供する。
[1] 第2の樹脂層の少なくとも片面に前記第2の樹脂層とは組成の異なる第1の樹脂層が積層された積層構造の熱可塑性樹脂層と、当該熱可塑性樹脂層の前記第1の樹脂層上に積層された硬化被膜とを含む積層体であって、
下記式(1)で定義されるZ値が10~75である、積層体。
Z=93.1-11×X+1.5×Y・・・(1)
(上記式中、Xは硬化被膜の23℃における複合弾性率(GPa)であり、Yは硬化被膜の厚み(μm)である。)
【0014】
[2] 134~162℃の範囲内の少なくとも一部の温度条件において、前記第1の樹脂層の弾性率と前記第2の樹脂層の弾性率のうち、弾性率の大きい方の弾性率の小さい方に対する弾性率の比が1.2以上217未満である、[1]の積層体。
[3] 前記硬化被膜の複合弾性率(X)が4.3~9.8GPaである、[1]又は[2]の積層体。
【0015】
[4] 前記第1の樹脂層が(メタ)アクリル樹脂含有層であり、前記第2の樹脂層がポリカーボネート樹脂含有層である、[1]~[3]のいずれかの積層体。
[5] 前記(メタ)アクリル樹脂含有層は、メタクリル樹脂5~80質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~20質量%とを含む、[4]の積層体。
【0016】
[6] 前記硬化被膜の鉛筆硬度が2H~5Hである、[1]~[5]のいずれかの積層体。
[7] 総厚みが500μm超3000μm以下である、[1]~[6]のいずれかの積層体。
[8] 前記第1の樹脂層の厚みが70μm以上である、[1]~[7]のいずれかの積層体。
[9] ディスプレイ保護板用である、[1]~[8]のいずれかの積層体。
【0017】
[10] 前記熱可塑性樹脂層を共押出成形する工程(S1)と、
前記熱可塑性樹脂層の前記第1の樹脂層上に、光重合性硬化性組成物を塗工して、塗工膜を形成する工程(S2-L)と、
前記塗工膜を光硬化して前記硬化被膜を形成する工程(S3-L)とを含む、[1]~[9]のいずれかの積層体の製造方法。
【0018】
[11] 前記第1の樹脂層の弾性率と前記第2の樹脂層の弾性率のうち、弾性率の大きい方の弾性率の小さい方に対する弾性率の比が1.2以上217未満を充足する温度で、[1]~[9]のいずれかの積層体を曲げ加工する、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面硬度が高く耐擦傷性が良好で、熱成形時の硬化被膜のしわが抑制され、熱成形用保護板用として好適な積層体と、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る第1実施形態の積層体の模式断面図である。
図2】本発明に係る第2実施形態の積層体の模式断面図である。
図3】本発明に係る一実施形態の押出成形装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[積層体]
本発明の積層体は、第2の樹脂層(以下、層Bとも言う)の少なくとも片面に第2の樹脂層とは組成の異なる第1の樹脂層(以下、層Aとも言う)が積層された積層構造の熱可塑性樹脂層と、この熱可塑性樹脂層の第1の樹脂層上に積層された硬化被膜とを含み、下記式(1)で定義されるZ値が10~75である。
Z1=93.1-11×X+1.5×Y・・・(1)
(上記式中、Xは硬化被膜の23℃における複合弾性率(GPa)であり、Yは硬化被膜の厚み(μm)である。)
【0022】
本明細書において、硬化被膜の23℃における複合弾性率は、硬化被膜単体の形態で測定するのではなく、硬化被膜が熱可塑性樹脂層上に積層された積層体の形態で測定するものとする。この複合弾性率は、[実施例]の項に記載の方法にて求めるものとする。
一般的に、薄膜成形体に対しては、厚みに応じて、「フィルム」、「シート」、又は「板」の用語が使用されるが、これらの間に明確な区別はない。本明細書において、「熱可塑性樹脂層」は、熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂シート、及び熱可塑性樹脂板を包括する用語として用いている。
【0023】
本発明の積層体には、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の公知の熱成形により曲面加工等の形状加工を施すことができる。本発明の積層体は、液晶ディスプレイ等のパネルパネルディスプレイ及びタッチパネル等に用いられる曲面加工等の形状加工が施された保護板等として好適である。
【0024】
熱可塑性樹脂層は、第1の樹脂層(層A)として(メタ)アクリル樹脂含有層を含むことが好ましい。
ディスプレイ保護板の用途において、熱可塑性樹脂層は、第1の樹脂層(層A)として(メタ)アクリル樹脂含有層を含み、第2の樹脂層(層B)としてポリカーボネート樹脂含有層を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂層は必要に応じて、上記以外の任意の層を含むことができる。
ポリカーボネート樹脂含有層はポリカーボネート樹脂(PC)を含有する層であり、(メタ)アクリル樹脂含有層は(メタ)アクリル樹脂(PM)を含有する層である。ポリカーボネート樹脂(PC)は耐衝撃性に優れ、(メタ)アクリル樹脂(PM)は光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる。したがって、これら樹脂を積層した熱可塑性樹脂層を含む本発明の積層体は、光沢、透明性、耐衝撃性、及び耐擦傷性に優れる。
本発明の積層体は、硬化被膜を有するため、耐擦傷性に優れる。
【0025】
一般的に、熱可塑性樹脂層の片面に硬化被膜が積層された積層体を、熱成形により、硬化被膜側を内側にし、硬化被膜側が縮まるように湾曲加工する場合、硬化被膜に圧縮応力がかかり、しわが発生する恐れがある。
本明細書において、「しわ」とは、熱成形時の熱変形(熱圧縮)によって、層A又は硬化被膜が圧縮されて変形した後、その弾性により材料が回復しようとした量(塑性変形量)を目視確認できた状態を言う。
【0026】
熱圧縮後の塑性変形を抑制するには、高硬度の硬化被膜を用いればよいと考えられる。一般的に、硬化被膜の表面硬度を高めれば、熱成形時に圧縮応力がかかった際のしわの発生は抑制できるが、熱成形時に引張応力がかかった際にクラックが入りやすくなる傾向がある。
【0027】
本発明者らは、ナノインデンテーション方により測定される硬化被膜の複合弾性率に着目した。複合弾性率は、変形による内部の応力緩和を差し引いた弾性量を表しており、硬化被膜の複合弾性率及び厚みとしわ発生の度合い(塑性変形量)との関係について検討を行い、式(1)を導出した。積層体が式(1)を充足することで、熱成形時のしわを抑制することができる。
【0028】
本明細書において、硬化被膜の「複合弾性率」は、[実施例]の項に記載の方法にて、ナノインデンテーション法により測定するものとする。測定機構から、複合弾性率はプローブを膜内に押し込んだ後の引き抜き時の応力から求められる。ナノインデンテーション法では、硬化被膜単独の物性値を抽出できる。例えば高硬度であっても複合弾性率が低い材料は、硬化被膜の内部で緩和が早く、弾性回復量が小さく回復時間が長く、熱成形性が良いと言える。
【0029】
硬化被膜は硬化性組成物の架橋硬化物からなり、その組成と架橋構造を考慮すれば、硬度が高いほど複合弾性率も高くなる傾向があると考えられるかもしれないが、これら物性の間には必ずしも明確な相関関係があるわけではない。ナノインデンテーション測定を行い、硬化被膜の複合弾性率を求め、このパラメータと厚みを好適化することにより、硬化物の組成と架橋構造を好適化することができる。
【0030】
硬化被膜の23℃における複合弾性率(X)は高い方が、硬化被膜が変形を緩和しにくく弾性回復し易くなるので好ましい。ただし、Xが過低では、硬化被膜の鉛筆硬度が低下する恐れがある。Xは、好ましくは3.12超9.82未満、より好ましくは4.3~9.8、特に好ましくは4.35~9.18である。
硬化被膜の厚み(Y)は小さい方が、硬化被膜が層Aの弾性回復を受けやすいので好ましい。ただし、Yが過大では、硬化被膜の鉛筆硬度が低下する恐れがある。Yは硬化被膜の複合弾性率にもよるが、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下であり、5μm以下であってもよい。
【0031】
本発明の積層体は、134~162℃の範囲内の少なくとも一部の温度条件において、第1の樹脂層の弾性率と第2の樹脂層の弾性率のうち、弾性率の大きい方の弾性率の小さい方に対する弾性率の比(以下、単に「弾性率比」とも言う。)が1.2以上217未満であることが好ましい。134~162℃は、熱成形温度を想定した温度である。
【0032】
厚みが500μm超3mm以下のシート等の積層体においては、曲げ半径Rが30mm以上の比較的緩やかな曲げであっても、熱成形時にしわが発生する恐れがある。この場合、上記したように硬化被膜及び層Aとして応力を緩和する速度が遅い材料を用いることに加えて、第1の樹脂層と第2の樹脂層のうちの一方が他方に比べて、応力を早く緩和するように構成することが好ましい。その指標として弾性率比が挙げられ、上記のように規定することで、熱成形時のしわを効果的に抑制することができる。
第1の樹脂層(層A)が(メタ)アクリル樹脂含有層であり、第2の樹脂層(層B)がポリカーボネート樹脂含有層である態様では、熱成形温度において、層Bの方が層Aに比べて高弾性率である場合が多い。この場合、層Bが層Aに比べて、応力を早く緩和するように構成することが好ましい。弾性率比は、より好ましくは0.004~217、より好ましくは0.015~63.5である。
【0033】
本発明の積層体において、熱可塑性樹脂層が第1の樹脂層(層A)(好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)と、第2の樹脂層(層B)(好ましくはポリカーボネート樹脂含有層)を含む場合、熱可塑性樹脂層の層A側の表面の鉛筆硬度は、層Bの弾性率の影響を受けて、層A単独のときの鉛筆硬度から変化する。
一般的に常温(例えば23℃)において、(メタ)アクリル樹脂よりも、ポリカーボネート樹脂の方が弾性率は低い傾向があるため、ポリカーボネート樹脂含有層と(メタ)アクリル樹脂含有層とを含む熱可塑性樹脂層の表面の鉛筆硬度は、(メタ)アクリル樹脂含有層単独からなる熱可塑性樹脂層の鉛筆硬度よりも低くなる傾向がある。この場合、表面硬度と熱成形性(熱成形時のしわ抑制)の両立はより困難である。
【0034】
積層体に含まれる硬化被膜の表面の鉛筆硬度(以下、単に「硬化被膜の鉛筆硬度」と略記する場合がある。)は、積層体の耐擦傷性を向上させその耐久性を向上させる観点からは、高い方が好ましい。具体的には、好ましくは2H以上、より好ましくは3H以上、特に好ましくは4H以上である。硬化被膜の鉛筆硬度は、熱成形時のクラック抑制の観点からは、低い方が好ましく、好ましくは5H以下、より好ましくは4H以下である。硬化被膜の鉛筆硬度が好ましくは2H~5H、より好ましくは2H~4Hの範囲内であれば、積層体の耐擦傷性と熱成形時の硬化被膜のしわ抑制を両立できる。
【0035】
硬化被膜は、第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)に対して密着性が高いことが好ましい。
硬化被膜の密着性は、硬化被膜の組成及び構造とそれに接する層Aの組成との組合せで決まる。
硬化被膜の密着性を高めるために、硬化被膜の組成と架橋構造を調整してもよいし、それに接する層Aの組成を調整してもよい。
例えば、層Aが(メタ)アクリル樹脂含有層である場合、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂(MK)を1~90質量%を含む態様、又は、メタクリル樹脂5~80質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~20質量%とを含む態様では、硬化被膜の密着性を高くすることができ、好ましい。
【0036】
硬化被膜の密着性を向上させる目的で、層Aの表面には、硬化被膜を形成する前に、プライマー処理、サンドブラスト処理、及び溶剤処理等の表面凹凸化処理;コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン照射処理、及び紫外線照射処理等の表面酸化処理等の表面処理を施してもよい。
【0037】
以下、本発明の積層体において、互い背反する特性である表面硬度と熱成形性を両立するための好ましい材料と構成について述べる。
【0038】
(硬化被膜)
硬化被膜としては、耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜及び低反射性硬化被膜が挙げられる。本発明の積層体は、機能層として少なくとも耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜を含み、必要に応じて耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜に接して低反射性硬化被膜等の他の機能層を有していてもよい。
本明細書において、特に明記しない限り、「硬化被膜」は耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜を意味する。
【0039】
耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜の厚みは特に制限されず、表面硬度と熱成形時のしわ抑制の観点から、好ましくは2.6μm超30μm以下、より好ましくは5~20μm、特に好ましくは10~20μmである。硬化被膜の厚みが2.6μm以下では、表面硬度が不充分となる恐れがある。硬化被膜の厚みが30μm超では、熱成形時にしわが発生する恐れがある。
【0040】
<耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜>
本発明の積層体は、機能層として少なくとも耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜を含む。この硬化被膜は、硬化性組成物の硬化物からなる。
硬化性組成物は、上記式(1)を充足する硬化被膜を形成できれば特に限定されず、1種以上の硬化性化合物、重合開始剤、必要に応じて各種添加剤を含有することができる。硬化被膜が熱可塑性樹脂層の両面に積層されている場合、各硬化被膜を構成する硬化性組成物は同一であっても異なっていてもよい。
硬化性組成物中の硬化性化合物の種類と含有量、硬化性組成物中の添加剤の種類と含有量、硬化条件、及び硬化被膜の厚み等を調整することで、硬化被膜が上記式(1)を充足するように調整できる。
硬化性組成物の種類としては、光硬化性組成物、熱硬化性組成物、及び湿気硬化性組成物等が挙げられ、中でも、硬化被膜の表面及びその近傍の硬度が増す光硬化性組成物が好ましい。
【0041】
硬化性組成物は例えば、硬化性主剤と重合開始剤を必須とし、必要に応じて、水酸基を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコール、イソシアネート、及び水酸基を有しない単官能アクリレート等を添加して、調製することができる。
【0042】
硬化性主剤としては硬化性(メタ)アクリレートが好ましい。具体的には、多官能(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ(メタ)アクリレート、多官能カルボキシ基変性エポキシ(メタ)アクリレート、多官能エポキシ基変性エポキシ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(メタ)アクリレート、及び多官能シロキサン変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。
他の硬化性主剤としては、多官能脂環式エポキシ樹脂、多官能グリシジルエーテルエポキシ樹脂、多官能ビニルエーテル、多官能オキセタン、及び多官能アルコキシシラン等が挙げられる。
硬化主剤は、1種又は2種以上用いることができる。硬化主剤を適切に選択することにより、硬化被膜の硬度、柔軟性、複合弾性率、及び破断伸度等の物性の調節が可能である。
【0043】
上記の中でも、多官能(メタ)アクリレートは、比較的硬化速度が速く、架橋密度を高めやすく、硬化物が高硬度となりやすく、好ましい。
特に、多官能ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。多官能ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物は、比較的高い硬度を有するとともに、イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーとの反応により形成される骨格を含むため、適度な柔軟性(伸び性)を有することができる。1種以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを用いることで、より優れた表面硬度とより優れた熱延伸性を有する硬化被膜を得ることができ好ましい。
【0044】
硬化性(メタ)アクリレートとして、モノマー及び/又はオリゴマーを少なくとも1種以上用いることで、硬化被膜の表面硬度を向上させることができる。用いる硬化性(メタ)アクリレートの分子量を調節することで、硬化被膜の破断伸度を調節することができる。
例えば、硬化性(メタ)アクリレートが2個の(メタ)アクリロイル基を有する場合、その数平均分子量(Mn)が高いほど、硬化被膜の破断伸度が高くなる傾向があり、好ましい。例えば、末端に水酸基又はカルボキシ基を有する、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、及び水添ポリブタジエン等の分子量を好適に選択し、これにイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて、好適な分子量の硬化性(メタ)アクリレートが得ることができる。
【0045】
硬化性(メタ)アクリレートモノマーとしては例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
硬化性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、多官能のウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、及びアクリルアクリレート等が挙げられる。
中でも、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が、耐摩耗性及び硬化速度の観点から好ましい。
【0046】
硬化性(メタ)アクリレートの市販品として、紫光UV-3000B、UV-3200B(日本合成化学工業(株)、商品名)、UN-7600(根上工業(株)、商品名)、RX8-3-6、RX43-21(亜細亜工業(株)、商品名)等が挙げられる。
【0047】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートは例えば、単官能又は多官能の水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーと、多価アルコールと、単官能又は多官能のイソシアネートモノマー又は有機ポリイソシアネートとを反応させることによって得られる。かかる多官能ウレタン(メタ)アクリレートの市販品としては、根上工業株式会社製;アートレジン“UN-952”、“UN-954”(商品名)等が挙げられる。
【0048】
硬化性(メタ)アクリレートとして、3官能以上の(メタ)アクリロイル基及び水酸基を有する多官能アクリレートを用いる場合、硬化後に高架橋密度が得られ、表面硬度が高い硬化被膜が得られ、好ましい。
また、硬化性(メタ)アクリレートの分子量を比較的高くすることで、硬化被膜の破断伸度が増加し、熱成形性の良い硬化被膜が得られ、好ましい。
【0049】
シロキサン変性(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系化合物と、シロキサン結合(-Si-O―Si-)を有する化合物とが結合したものである。このような構成のシロキサン変性(メタ)アクリレートを用いることで、硬化被膜の表面硬度を効果的に高め、硬化被膜にシロキサン結合による優れた撥油性を付与することができる。
【0050】
水酸基を有する単官能(メタ)アクリル酸エステルは、高粘度の硬化主剤を希釈すると同時に硬化反応性を上げ、また硬化被膜の親水性を向上させ白濁を防止するために、使用することができる。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、及び4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
多価アルコールとしては例えば、(メタ)アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0052】
イソシアネートとしては、直鎖式又は環式の脂肪族イソシアネートが好ましい。芳香族系イソシアネートも使用可能である。ただし、芳香族系イソシアネートを用いる場合、容易に硬さ及び耐擦傷性の点で優れたハードコート性を得ることができる反面、耐光性が低下し、光への暴露により黄変しやすい傾向がある。
直鎖式又は環式の脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、及び水添キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0053】
水酸基を有しない単官能アクリレートは、硬化性組成物の低粘度化と硬化性向上、硬化物の表面硬度と弾性率の低下又は向上等を目的として利用できる。例えば、エステル部位に、アルキル鎖、若しくは、芳香環及び/又は脂環式の環構造を有するものを利用できる。
【0054】
アルキル鎖を有する単官能アクリレートは、エステル部位に炭素数が2~14のアルキル基を有する単官能アクリル酸エステルモノマーのことで、硬化物の透明性を維持しつつ硬化性組成物の粘度調整が可能な成分である。アルキル鎖を有する単官能アクリレートは、硬化性組成物への添加量に応じて、硬化被膜の凝集力を低下させ弾性率を下げることができる。例えば、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及びラウリルアクリレート等が挙げられる。
【0055】
芳香環を有する単官能アクリレートは、エステル部位に芳香環を有するアクリレートのことで、その凝集力により弾性率を高めることができる。例えば、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、エトキシ化オルト-フェニルフェノールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、及びネオペンチルグリコール-アクリル酸-安息香酸エステル等が挙げられる。
【0056】
嵩高い官能基を有する単官能アクリレートは、エステル部位に、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、イソボルニル基、アダマンタニル基、テトラヒドロフラニル基、及びシクロヘキサニル基等を有する。例えば、ジシクロペンテニルアクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレ-ト、ジシクロペンタニルアクリレ-ト、イソボルニルアクリレート、アダマンタニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、及びシクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。その強固な骨格から、高い表面硬度を有する硬化物を得ることができる。例えば、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アダマンタニル(メタ)アクリレート、及びテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
重合開始剤としては、紫外線及び電子線等の活性エネルギー線の照射により、重合反応のきっかけとなるラジカルを生じるものであればよく、汎用性の高い光重合開始剤が好ましい。例えば、ベンゾインノルマルブチルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール及びベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;2,2-ジメトキシアセトフェノン及び2,2-ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-エチレンフェニル)プロパン-1-オン]、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-イソプロピルフェニル)プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアルキルフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-1-モルフォリノプロパン、及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン等のα-アミノアルキルフェノン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド等のモノアシルホスフィンオキサイド類;ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のモノアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
重合開始剤の配合量は特に制限されず、ラジカル重合性成分に対し、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0058】
硬化性組成物の硬化にはエネルギーの高い紫外線を利用できるのが好ましく、220~260nmに最大吸収波長を有する紫外線重合開始剤と300~380nmに最大吸収波長を有する紫外線重合開始剤とを組み合わせて、硬化性組成物を効率的に重合してもよい。
【0059】
硬化性組成物は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては例えば、硬化触媒、フィラー、酸化防止剤、連鎖移動剤、重合促進剤、増感剤、増感助剤、光安定剤等の安定化剤、粘着付与剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、イオントラップ剤、着色剤、及び溶媒等が挙げられる。
【0060】
フィラーとしては、有機又は無機の微粒子が挙げられる。硬化被膜の表面及びその近傍に存在し、硬化被膜の表面の滑り性を向上し、硬化被膜の破壊を抑制して耐擦傷性(表面硬度)を向上でき、硬化性化合物の硬化物との屈折率差からヘイズを増加させ反射率を低下させてディスプレイの前面ギラツキを抑制できる等の観点から、無機微粒子が好ましい。
【0061】
無機微粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、及び酸化セリウム等の金属酸化物微粒子;フッ化マグネシウム及びフッ化ナトリウム等の金属フッ化物微粒子等が挙げられる。中でも、シリカ、チタニア、ジルコニア、及びアルミナ等が好ましい。これら無機粒子は粒子表面に、無機粒子が硬化性化合物の硬化物と適度に相互作用して良分散するための表面修飾基、又は、無機粒子が硬化性化合物の硬化物と反応して強固に結合するための表面修飾基を有していてもよい。
【0062】
フィラーの粒子径と添加量は、特に制限されない。硬化被膜において、表面硬度向上の観点からはフィラーは多く含有させることが好ましいが、透過率を維持してギラツキを防止するにはフィラーは少量に留めた方がよい。また、熱成形時の引張延伸においてフィラーを起点にクラックが形成される場合がある。そのため、熱成形時のクラック抑制の観点からは、フィラーの添加量は少なく、フィラーの粒子径は小さいことが好ましい。
フィラーの添加量は、硬化性化合物100質量部に対し、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。フィラーの添加量が上記上限を超えると、フィラーを起点としたクラックが発生しやすくなり、熱成形時にクラックが発生しない曲げ半径Rが大きくなる恐れがある。
フィラーの平均粒子径(D50)は、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0063】
硬化性組成物には、防汚性及び/又は防指紋性を目的として、重合性基を有する含フッ素化合物を添加してもよい。
【0064】
硬化性組成物には、その粘度調整等を目的として、溶媒を含有させるのがよい。溶媒としては特に制限されず、トルエン、酢酸ブチル、イソブタノール、酢酸エチル、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。硬化性組成物の固形分は、好ましくは0.1~50vol%に調整される。
【0065】
硬化性組成物として、市販品を用いてもよい。市販品としては、アイカ工業株式会社製;AICAAITRON(登録商標)“Z-850-3”、日本化工塗料株式会社製;TOMAX(登録商標)“NXD-002AP”、“NXD-004AP”、及び“FA-3371”等が挙げられる。市販品1種をそのまま用いてもよいし、硬化被膜が上記式(1)を充足するように、複数の市販品を混合して、又は、1種又は2種以上の市販品と硬化性組成物の一部の材料とを混合して用いてもよい。
【0066】
硬化性組成物の組成の調節により、硬化被膜の硬度、柔軟性、複合弾性率、及び破断伸度等の物性を調節し、積層体の表面硬度/耐擦傷性と熱成形性の両立が可能となる。
【0067】
<低反射性硬化被膜(低反射性層)>
必要に応じて併用される低反射性硬化被膜(低反射性層)としては、公知のものを用いることができる。低反射性硬化被膜の屈性率は、耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜より低い。低反射性硬化被膜の厚みは一般的な範囲内でよく、好ましくは50~200nm、より好ましくは100~150nmである。薄すぎても厚すぎても低反射性能が不充分となる。
【0068】
低反射性硬化被膜は、表面に凹凸を付与して反射率を下げ、ギラツキを防止してもよい。凹凸の付与は公知方法にて行うことができ、膜中に粒子を含有させる方法、及び、微細凹凸を有する型を用いてその形状を膜表面に転写する方法等が挙げられる。
低反射性硬化被膜には、防汚性及び/又は防指紋性を目的として、重合性基を有する含フッ素化合物を添加してもよい。
低反射性硬化被膜の形成は公知方法にて行うことができ、塗工により形成してもよいし、転写フィルムの貼り付けにより形成してもよい。
【0069】
((メタ)アクリル樹脂含有層)
本発明の積層体に含まれる積層構造の熱可塑性樹脂層は、第1の樹脂層(層A)として(メタ)アクリル樹脂含有層を含むことが好ましい。(メタ)アクリル樹脂含有層は、1種以上の(メタ)アクリル樹脂(PM)を含む。(メタ)アクリル樹脂は、1種以上の(メタ)アクリル酸炭化水素エステル(以下、単に(メタ)アクリル酸エステルとも言う)に由来する構造単位を含む単独重合体又は共重合体である。
(メタ)アクリル樹脂として、メタクリル酸メチル(MMA)単位を含む1種以上のメタクリル酸炭化水素エステル(以下、単にメタクリル酸エステルとも言う)に由来する構造単位を含む単独重合体又は共重合体であるメタクリル樹脂が好ましい。
メタクリル酸エステル中の炭化水素基は、メチル基、エチル基、及びプロピル基等の非環状脂肪族炭化水素基であっても、脂環式炭化水素基であっても、フェニル基等の芳香族炭化水素基であってもよい。
透明性の観点から、メタクリル樹脂中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0070】
メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、及びアクリル酸3-ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。中でも、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、及びアクリル酸tert-ブチル等が好ましく、MA及びアクリル酸エチル等がより好ましく、MAが特に好ましい。メタクリル樹脂における他の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0071】
メタクリル樹脂は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0072】
メタクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000~500,000である。Mwが40,000以上であることで(メタ)アクリル樹脂含有層は耐擦傷性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが500,000以下であることで(メタ)アクリル樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。
本明細書において、特に明記しない限り、「Mw」はゲルパーエミーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値である。数平均分子量(Mn)についても同様である。
【0073】
本明細書において、(メタ)アクリル樹脂含有層のガラス転移温度をTgAと表す。曲面加工等の熱成形におけるしわ発生及び割れ等の外観不良を抑制する観点から、TgAは好ましくは115~135℃、より好ましくは120~130℃である。TgAが低すぎて熱成形温度がTgAに対して高すぎる場合、熱成形時に(メタ)アクリル樹脂含有層の表面荒れが生じる恐れがある。TgAが高すぎて熱成形温度がTgAに対して低すぎる場合、(メタ)アクリル樹脂含有層の割れ等の外観不良が生じる恐れがある。
なお、(メタ)アクリル樹脂含有層は、1種以上の(メタ)アクリル樹脂のみからなる層であってもよいし、1種以上の(メタ)アクリル樹脂と1種以上の他の成分とを含む層であってもよい。(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは115~135℃、より好ましくは120~130℃である。ただし、(メタ)アクリル樹脂含有層が複数の成分を含む場合、層全体のTgAが115~135℃の範囲内であれば、ガラス転移温度が115~135℃の範囲を外れる成分があってもよい。
【0074】
<メタクリル樹脂(MK)>
硬化被膜の(メタ)アクリル樹脂含有層に対する密着性を高めることができる第1の態様として、(メタ)アクリル樹脂含有層が、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂(MK)を含む態様が挙げられる。
【0075】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)は、連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)中に在る2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(rrと表記する)である割合である。なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。本明細書において、特に明記しない限り、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)は、重水素化クロロホルム中、30℃で、H-NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の、0.6~0.95ppmの領域の面積(X)と0.6~1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出した値である。
【0076】
メタクリル樹脂(MK)は、rr比率が65%以上、好ましくは70~90%、より好ましくは72~85%である。rr比率が65%以上である場合、α緩和温度(Tα)が有意に高まり、これを含む(メタ)アクリル樹脂含有層を含む積層体の表面硬度が有意に高まる。また、硬化被膜の(メタ)アクリル樹脂含有層に対する密着性が向上する。
【0077】
(メタ)アクリル樹脂含有層は、樹脂の粘度調整、(メタ)アクリル樹脂含有層に対する靭性付与等の目的で、メタクリル樹脂(MK)の他に、他のメタクリル樹脂を含有していてもよい。
(メタ)アクリル樹脂含有層中のメタクリル樹脂(MK)の含有量は、好ましくは1~90質量%、より好ましくは33~66質量%である。
【0078】
メタクリル樹脂(MK)の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されず、好ましくは1.0~1.8、より好ましくは1.0~1.4、特に好ましくは1.03~1.3である。かかる範囲内の分子量分布(Mw/Mn)を有するメタクリル樹脂(MK)を用いると、(メタ)アクリル樹脂含有層が力学強度に優れるものとなる。MwおよびMw/Mnは、製造時に使用する重合開始剤の種類および/又は量を調整することによって制御できる。
【0079】
<メタクリル樹脂組成物(MR)>
(メタ)アクリル樹脂含有層は、(メタ)アクリル樹脂、及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。
硬化被膜の(メタ)アクリル樹脂含有層に対する密着性を高めることができる第2の態様として、(メタ)アクリル樹脂含有層が、メタクリル樹脂(PM)とSMA樹脂(SM)とを含むメタクリル樹脂組成物(MR)(以下、単に樹脂組成物(MR)とも言う)からなる態様が挙げられる。
本明細書において、「SMA樹脂」とは、1種以上の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び無水マレイン酸(MAH)を含む1種以上の酸無水物に由来する構造単位を含み、さらに好ましくはメタクリル酸エステルに由来する構造単位を含む共重合体である。
メタクリル樹脂組成物(MR)は好ましくは、メタクリル樹脂(PM)5~80質量%と、SMA樹脂(SM)95~20質量%とを含むことができる。(メタ)アクリル樹脂含有層がかかる組成のメタクリル樹脂組成物(MR)からなる態様では、硬化被膜の(メタ)アクリル樹脂含有層に対する密着性を高めることができ、好ましい。
【0080】
TgAを120℃以上とする等の観点から、樹脂組成物(MR)中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~55質量%、特に好ましくは10~50質量%である。
【0081】
SMA樹脂(SM)は、1種以上の芳香族ビニル化合物及びMAHを含む1種以上の酸無水物に由来する構造単位を含む共重合体である。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン(St);2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、及び4-tert-ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α-メチルスチレン及び4-メチル-α-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン;が挙げられる。中でも、入手性の観点からスチレン(St)が好ましい。樹脂組成物(MR)の透明性及び耐湿性の観点から、SMA樹脂(SM)中の芳香族ビニル化合物単量体単位の含有量は、好ましくは50~85質量%、より好ましくは55~82質量%、特に好ましくは60~80質量%である。
酸無水物としては入手性の観点から少なくとも無水マレイン酸(MAH)を用い、必要に応じて、無水シトラコン酸及びジメチル無水マレイン酸等の他の酸無水物を用いることができる。樹脂組成物(MR)の透明性及び耐熱性の観点から、SMA樹脂(SM)中の酸無水物単量体単位の含有量は、好ましくは15~50質量%、より好ましくは18~45質量%、特に好ましくは20~40質量%である。
【0082】
SMA樹脂(SM)は、芳香族ビニル化合物及び酸無水物に加え、1種以上のメタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を含むことができる。メタクリル酸エステルとしては、MMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチルメタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸1-フェニルエチル等が挙げられる。中でも、アルキル基の炭素数が1~7であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。SMA樹脂(SM)の耐熱性及び透明性の観点から、MMAが特に好ましい。熱可塑性樹脂層の曲げ加工性及び透明性の観点から、SMA樹脂(SM)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~30質量%、特に好ましくは5~26質量%である。この場合において、芳香族ビニル化合物単量体単位の含有量は好ましくは50~84質量%、酸無水物単量体単位の含有量は好ましくは15~49質量%である。
【0083】
SMA樹脂(SM)は、芳香族ビニル化合物、酸無水物、及びメタクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位を有していてもよい。他の単量体としては、メタクリル樹脂(PM)の説明において上述したものを用いることができる。SMA樹脂(SM)中の他の単量体単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0084】
SMA樹脂(SM)は、芳香族ビニル化合物、酸無水物、必要に応じてメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。この重合においては、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法は特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法及び溶液重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0085】
SMA樹脂(SM)のMwは、好ましくは40,000~300,000である。Mwが40,000以上であることで(メタ)アクリル樹脂含有層は耐擦傷性及び耐衝撃性に優れるものとなり、Mwが300,000以下であることで(メタ)アクリル樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。
【0086】
TgAを120℃以上とする等の観点から、樹脂組成物(MR)中のSMA樹脂(SM)の含有量は、好ましくは20~95質量%、より好ましくは45~95質量%、特に好ましくは50~90質量%である。
【0087】
樹脂組成物(MR)は例えば、メタクリル樹脂(PM)とSMA樹脂(SM)とを混合して得られる。混合法としては、溶融混合法及び溶液混合法等が挙げられる。溶融混合法では、単軸又は多軸の混練機、オープンロール、バンバリーミキサー、及びニーダー等の溶融混練機を用い、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、及びヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気下で溶融混練を行うことができる。溶液混合法では、メタクリル樹脂(PM)とSMA樹脂(SM)とを、トルエン、テトラヒドロフラン、及びメチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解させて混合することができる。
【0088】
一実施形態において、(メタ)アクリル樹脂含有層は、メタクリル樹脂(PM)、及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。
他の実施形態において、(メタ)アクリル樹脂含有層はメタクリル樹脂組成物(MR)からなり、メタクリル樹脂組成物(MR)は、メタクリル樹脂(PM)、SMA樹脂(SM)、及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。
他の重合体としては特に制限されず、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂含有層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0089】
(メタ)アクリル樹脂含有層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料・顔料、光拡散剤、艶消し剤、コアシェル粒子及びブロック共重合体等の耐衝撃性改質剤、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。(メタ)アクリル樹脂含有層を構成する樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
【0090】
メタクリル樹脂(PM)に他の重合体及び/又は添加剤を含有させる場合、添加タイミングはメタクリル樹脂(PM)の重合時でも重合後でもよい。
メタクリル樹脂組成物(MR)に他の重合体及び/又は添加剤を含有させる場合、添加タイミングは、メタクリル樹脂(PM)及び/又はSMA樹脂(SM)の重合時でもよいし、これら樹脂の混合時又は混合後でもよい。
【0091】
加熱溶融成形の安定性の観点から、(メタ)アクリル樹脂含有層の構成樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~10g/10分、より好ましくは1.5~7g/10分、特に好ましくは2~4g/10分である。本明細書において、特に明記しない限り、(メタ)アクリル樹脂含有層の構成樹脂のMFRは、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定される値である。
【0092】
(ポリカーボネート樹脂含有層)
本発明の積層体に含まれる積層構造の熱可塑性樹脂層は、第2の樹脂層(層B)としてポリカーボネート樹脂含有層を含むことが好ましい。ポリカーボネート樹脂含有層は、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)を含む。ポリカーボネート樹脂(PC)は、好ましくは1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。製造方法としては、二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法、及び、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法等が挙げられる。
【0093】
二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。カーボネート前駆体としては、ホスゲン等のカルボニルハライド;ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル;二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート;等が挙げられる。
【0094】
ポリカーボネート樹脂(PC)のMwは、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~70,000である。Mwが10,000以上であることでポリカーボネート樹脂含有層は耐衝撃性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが100,000以下であることでポリカーボネート樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。
【0095】
ポリカーボネート樹脂(PC)は市販品を用いてもよい。住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」及び「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、及び帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。
【0096】
本明細書において、ポリカーボネート樹脂含有層のガラス転移温度をTgBと表す。曲面加工等の熱成形性の観点から、TgBは120~180℃、好ましくは135~165℃である。TgBが120℃未満では、製造工程、熱成形工程、又は使用環境下で熱可塑性樹脂層が高温に曝された場合に面内のレタデーション値(Re)が大きく低下する恐れがある。TgBが180℃超では、熱成形時の成形温度を高くする必要があり、熱可塑性樹脂層の少なくとも一方の面に形成された硬化被膜にしわ等の外観不良が発生する恐れがある。
なお、ポリカーボネート樹脂含有層は、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)のみからなる層であってもよいし、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)と1種以上の他の成分とを含む層であってもよい。ポリカーボネート樹脂(PC)のガラス転移温度は、好ましくは120~180℃、より好ましくは135~165である。ただし、ポリカーボネート樹脂含有層が複数の成分を含む場合、層全体のTgBが120~150℃の範囲内であれば、ガラス転移温度が120~150℃の範囲を外れる成分があってもよい。
【0097】
ポリカーボネート樹脂含有層と(メタ)アクリル樹脂含有層とのガラス転移温度差(TgB-TgA)がマイナス側で過大では、熱可塑性樹脂層が高温に曝されたときに(メタ)アクリル樹脂含有層にかかる応力が大きくなる。例えば、熱成形時に(メタ)アクリル樹脂含有層にかかる応力が大きくなり、(メタ)アクリル樹脂含有層の割れが生じる恐れがある。高温に曝されたときに(メタ)アクリル樹脂含有層にかかる応力を低減する観点、例えば、熱成形時の応力を低減し、(メタ)アクリル樹脂含有層の割れを抑制する観点から、TgB-TgAは-5℃以上、好ましくは-1℃以上である。
【0098】
ガラス転移温度差(TgB-TgA)がプラス側で過大な場合、曲面加工等の熱成形可能な温度では、(メタ)アクリル樹脂含有層にかかる温度が(メタ)アクリル樹脂含有層のガラス転移温度(TgA)より大幅に高くなる恐れがある。熱成形温度がTgAより高すぎた場合、表面荒れ等が生じて表面性が悪化する恐れがある。高温に曝されたときに(メタ)アクリル樹脂含有層の表面性の悪化を抑制する観点から、TgB-TgAは+20℃以下、好ましくは15℃以下である。
【0099】
一般的なポリカーボネート樹脂(PC)のガラス転移温度は150℃程度である。ポリカーボネート樹脂(PC)単独を用いる場合よりも低いTgB、例えば120~145℃のTgBを実現できる態様として、ポリカーボネート樹脂含有層がポリカーボネート樹脂(PC)と芳香族ポリエステルとのアロイを含む第1の態様、及び、ポリカーボネート樹脂含有層がポリカーボネート樹脂(PC)と可塑剤又は反可塑剤とを含む第2の態様が挙げられる。第2の態様において、ポリカーボネート樹脂含有層は、ポリカーボネート樹脂(PC)85~99質量部と、可塑剤又は反可塑剤15~1質量部とを含むことが好ましい。
【0100】
<芳香族ポリエステル>
芳香族ポリエステルとしては例えば、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合物が挙げられる。
代表的な芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。他のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、及びp-オキシ安息香酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることができる。
代表的なジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及びシクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。他のジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、メトキシポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いることができる。
【0101】
芳香族ポリエステルの代表例としては、テレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合物であるポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。テレフタル酸及びエチレングリコールと、他のジカルボン酸成分及び/又は他のジオール成分を用いた共重合ポリエステルも好ましい。
芳香族ポリエステルの他の代表例としては、テレフタル酸又はテレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールとの重縮合物であるポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールと、他のジカルボン酸成分及び/又は他のジオール成分を用いた共重合ポリエステルも好ましい。
中でも、PETにおけるエチレングリコールの一部、好ましくは55~75モル%、より好ましくは50~75モル%にシクロヘキサンジメタノール(1.4-CHDM)を併用した共重合ポリエステル(PCTG)、及び、PBTにおけるテレフタル酸の一部、好ましくは10~30モル%にイソフタル酸を併用した共重合ポリエステル(PCTG)、及びこれらの組合せ等が好ましい。これらの共重合ポリエステルは、ポリカーボネートと溶融ブレンドすることによって、完全相溶してポリマーアロイ化することができる。また、このポリマーアロイ化によって、ガラス転移温度を効果的に下げることができる。
【0102】
<可塑剤>
可塑剤としては特に制限されず、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及び2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系化合物;これらリン酸エステル系化合物に対応するホスファイト系化合物;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ビス(2-エチルヘキシルフタレート)、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、及びエチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル系化合物;トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート等のトリメリット酸エステル系化合物;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、及びジエチルサクシネート等の脂肪族二塩基酸エステル系化合物;これら脂肪族二塩基酸エステル系化合物に含まれる脂肪族二塩基酸単位を含むポリエステル系化合物;メチルアセチルリシノレート等のリシノール酸エステル系化合物;トリアセチン、及びオクチルアセテート等の酢酸エステル系化合物;N-ブチルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド系化合物;等が挙げられる。中でも、ポリカーボネートとの相溶性がよいこと、相溶後の樹脂の透明性がよいことから、リン酸エステル系化合物、特にクレジルジフェニルホスフェート(CDP)及びトリクレジルホスフェート(TCP)等が好ましい。
【0103】
<反可塑剤>
反可塑剤としては特に制限されず、工業的に入手可能なビフェニル化合物及びターフェニル化合物等を使用することができる。ビフェニル化合物は2つのベンゼン環が結合した化合物であり、ターフェニル化合物は3つのベンゼン環が結合した化合物である。反可塑剤として、ポリカプロラクトンを用いることもできる。
【0104】
ポリカーボネート樹脂含有層は必要に応じて、1種以上の他の重合体及び/又は各種添加剤を含むことができる。他の重合体及び各種添加剤としては、(メタ)アクリル樹脂含有層の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。ポリカーボネート樹脂含有層中の他の重合体の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。添加剤の含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。ポリカーボネート樹脂(PC)100質量部に対して、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
ポリカーボネート樹脂(PC)に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、ポリカーボネート樹脂(PC)の重合時時でも重合後でもよい。
【0105】
加熱溶融成形の安定性の観点から、ポリカーボネート樹脂含有層の構成樹脂のMFRは、好ましくは1~30g/10分、より好ましくは3~20g/10分、特に好ましくは5~10g/10分である。本明細書において、ポリカーボネート樹脂含有層の構成樹脂のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定される値である。
【0106】
(積層体及び各層の厚み)
本発明の積層体の総厚みは、液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の保護板等の用途では、好ましくは75μm~5000μm(5mm)、より好ましくは500μm超3000μm(3mm)以下、特に好ましくは800μm~3000μm(3mm)である。薄すぎると剛性が不充分となる恐れがあり、厚すぎると液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の軽量化の妨げになる恐れがある。
本発明では、積層体の総厚みが500μm超3000μm以下の比較的厚い条件においても、熱成形時に、内側の曲面に働く面方向の圧縮応力による硬化被膜のしわを効果的に抑制することができる。
【0107】
第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)の厚みは特に制限されず、好ましくは40~200μm、より好ましくは50~150μm、特に好ましくは60~100μmである。第1の樹脂層の厚みは70μm以上であることが好ましく、70~100μmであることが特に好ましい。薄すぎると耐擦傷性が劣り、厚すぎると衝撃性が劣る恐れがある。
第2の樹脂層(層B、好ましくはポリカーボネート樹脂含有層)の厚みは特に制限されず、好ましくは0.3~4.9mm、より好ましくは0.6~2.9mmである。
【0108】
(積層構造)
本発明の積層体は、第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)と第2の樹脂層(層B、好ましくはポリカーボネート樹脂含有層)とを含む積層構造の熱可塑性樹脂層の少なくとも一方の面に硬化被膜を有するものであれば、他の樹脂層を有していてもよい。ディスプレイ保護板用として好適な本発明の積層体に含まれる熱可塑性樹脂層の積層構造としては、ポリカーボネート樹脂含有層-(メタ)アクリル樹脂含有層の2層構造;(メタ)アクリル樹脂含有層-ポリカーボネート樹脂含有層-(メタ)アクリル樹脂含有層の3層構造;(メタ)アクリル樹脂含有層-ポリカーボネート樹脂含有層-他の樹脂層の3層構造;他の樹脂層-(メタ)アクリル樹脂含有層-ポリカーボネート樹脂含有層の3層構造;等が挙げられる。
【0109】
図1図2は、本発明に係る第1、第2実施形態の積層体の模式断面図である。図中、符号17X、17Yは積層体、符号16X、16Yは熱可塑性樹脂層、符号21、21A、21Bは(メタ)アクリル樹脂含有層、符号31はポリカーボネート樹脂含有層、符号41、41A、41Bは硬化被膜を示す。
第1実施形態の積層体17Xは、ポリカーボネート樹脂含有層31-(メタ)アクリル樹脂含有層21の2層構造を有する熱可塑性樹脂層16Xの(メタ)アクリル樹脂含有層21上に硬化被膜41が形成されたものである。
第2実施形態の積層体17Yは、第1の(メタ)アクリル樹脂含有層21A-ポリカーボネート樹脂含有層31-第2の(メタ)アクリル樹脂含有層21Bの3層構造を有する熱可塑性樹脂層16Yの両面にそれぞれ硬化被膜41A、41Bが形成されたものである。なお、熱可塑性樹脂層及び積層体の構成は、適宜設計変更が可能である。
【0110】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法は特に制限されず、好ましくは、
第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)と第2の樹脂層(層B、好ましくはポリカーボネート樹脂含有層)とを含む積層構造の熱可塑性樹脂層を用意する工程(S1)と、
熱可塑性樹脂層の第1の樹脂層上に、硬化性組成物を塗工して、塗工膜を形成する工程(S2)と、
塗工膜を硬化して硬化被膜を形成する工程(S3)とを含むことができる。
【0111】
(工程(S1))
第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)と第2の樹脂層(層B、好ましくはポリカーボネート樹脂含有層)とを含む積層構造の熱可塑性樹脂層は、押出成形法、キャスト成形法、及び射出成形法等の公知の成形方法を用いて成形することができる。中でも、共押出成形法が好ましい。
【0112】
以下、共押出成形法による熱可塑性樹脂層の製造方法について、説明する。
図3に、一実施形態として、Tダイ11、第1~第3冷却ロール12~14、及び一対の引取りロール15を含む押出成形装置の模式図を示す。
各層の構成樹脂はそれぞれ押出機を用いて溶融混練され、所望の積層構造の形態で、幅広の吐出口を有するTダイ11からフィルム状、シート状、又は板状の形態で共押出される。
積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
Tダイ11から共押出された溶融状態の積層構造の熱可塑性樹脂層は複数の冷却ロール12~14を用いて加圧及び冷却される。加圧及び冷却された熱可塑性樹脂層(熱可塑性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂シート、又は熱可塑性樹脂板)16は、一対の引取りロール15により引き取られる。冷却ロールの数は、適宜設計することができる。なお、製造装置の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜設計変更が可能である。

【0113】
硬化被膜の密着性を向上させる目的で、プライマー処理、サンドブラスト処理、及び溶剤処理等の表面凹凸化処理;コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン照射処理、及び紫外線照射処理等の表面酸化処理等の表面処理を施してもよい。
【0114】
(工程(S2)、(S3))
工程(S2)では、工程(S1)で得られた積層構造の熱可塑性樹脂層の第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)上に、硬化性組成物を塗工して、塗工膜を形成する。工程(S2)としては、熱可塑性樹脂層の第1の樹脂層(層A、好ましくは(メタ)アクリル樹脂含有層)上に、光重合性硬化性組成物を塗工して、塗工膜を形成する工程(S2-L)が好ましい。
工程(S3)では、塗工膜を硬化して硬化被膜を形成する。工程(S3)としては、塗工膜に紫外線等の光を照射して、塗工膜を光硬化して硬化被膜を形成する工程(S3-L)が好ましい。
これら工程は、公知方法にて行うことができる。硬化性組成物の組成と硬化条件を調整することで、所望の物性の硬化被膜を形成することができる。
【0115】
[成形体の製造方法]
本発明の積層体に対して、公知方法にて、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の熱成形を実施して、曲面加工等の形状加工が施された成形体を製造することができる。
第1の樹脂層の弾性率と第2の樹脂層の弾性率のうち、弾性率の大きい方の弾性率の小さい方に対する弾性率の比が1.2以上217未満、好ましくは1.0~63.5を充足する温度で、曲げ加工を含む熱成形を行うことが好ましい。
このような条件で熱成形を行うことで、しわの発生を効果的に抑制することができる。
【0116】
以上説明したように、本発明によれば、表面硬度が高く耐擦傷性が良好で、熱成形時の硬化被膜のしわが抑制され、熱成形用保護板用として好適な積層体と、その製造方法を提供することができる。
【0117】
[用途]
本発明の積層体は、液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ及びタッチパネル等に用いられる曲面加工等の形状加工が施された保護板;車両用及び建材用の内装材、外装材、及び窓材等として好適である。例えば、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;携帯電話(スマートフォンを含む)、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用される、液晶ディスプレイ等のパネルディスプレイ及びタッチパネル等の保護板として好適である。
【実施例
【0118】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(SMA樹脂(SM)の共重合組成)
SMA樹脂(SM)の共重合組成は、核磁気共鳴装置(日本電子社製「GX-270」)を用い、下記の手順で13C-NMR法により求めた。
SMA樹脂(SM)1.5gを重水素化クロロホルム1.5mlに溶解させて試料溶液を調製し、室温環境下、積算回数4000~5000回の条件にて13C-NMRスペクトルを測定し、以下の値を求めた。
・[スチレン単位中のベンゼン環(炭素数6)のカーボンピーク(127、134,143ppm付近)の積分強度]/6
・[無水マレイン酸単位中のカルボニル部位(炭素数2)のカーボンピーク(170ppm付近)の積分強度]/2
・[MMA単位中のカルボニル部位(炭素数1)のカーボンピーク(175ppm付近)の積分強度]/1
以上の値の面積比から、試料中のスチレン単位、無水マレイン酸単位、MMA単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれの単量体単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位:MMA単位=104:98:100)から、SMA樹脂(SM)中の各単量体単位の質量組成を求めた。
【0119】
(ガラス転移温度(Tg))
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して測定した。樹脂10mgをアルミパンに入れ、示差走査熱量計(株式会社リガク社製;DSC-50)を用いて、測定を実施した。30分以上素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦25℃から230℃まで10℃/分の速度で昇温し、10分間保持し、25℃まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で230℃まで昇温し(2次走査)、2次走査で得られた結果から、中点法でガラス転移温度を算出した。なお、2種以上の樹脂を含有する樹脂組成物において複数のTgデータが得られる場合は、主成分の樹脂に由来する値をTgデータとして採用した。
【0120】
(重量平均分子量(Mw))
樹脂のMwは、下記の手順でGPC法により求めた。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPCで測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、Mwを決定した。
【0121】
(各層の厚み)
熱可塑性樹脂層の各層(層A、層B)又は硬化被膜の厚みは、ウルトラミクロトームを用いて熱可塑性樹脂層又は積層体の断面を出し、光学顕微鏡を用いて観察することにより測定した。
【0122】
(しわの発生しない曲げ半径R)
表1に記載の例については、以下の方法にて、しわの発生しない曲げ半径Rを求めた。
積層体から幅60mm、長さ200mmの短冊状試料を切り出した。この試料を170℃で5分間加熱した後、直ちに半円柱状の凸型の凸曲面上に載せ、さらにその上に直ちに、凸型の凸曲面形状に沿った形状で、凸型の凸曲面よりも曲げ半径が試料厚み分大きい凹曲面を有する凹型を載せて、152.3℃で30秒プレスした。このとき、積層体の硬化被膜側が内側(凸型側)となるように、また、断面視にて、積層体の長さ方向が凸型の円弧に沿うように、積層体を型にセットした。熱プレス後、常温まで冷却し、断面視円弧状に湾曲させた積層体を型から取り出した。湾曲させた積層体の内側にある硬化被膜を目視観察し、硬化被膜のしわの有無を調べた。凸型の直径は、10mm、30mm、45mm、75mm、100mmの5条件とし、これら5条件の評価のうち、しわの発生しない最低の曲げ半径Rを、「しわの発生しない曲げ半径R」として求めた。しわの発生しない曲げ半径Rが小さい程、熱成形時の硬化被膜のしわの抑制効果が高い。
【0123】
(しわの有無)
表2、表3に記載の例については、表に示す曲げ温度にて、上記の「しわの発生しない曲げ半径R」と同様の評価を行い、湾曲させた積層体の内側にある硬化被膜を目視観察し、しわの有無を評価した。凸型の直径は、30mmの1条件とした。しわが見られなかったものを○(良好)、しわが見られたものを×(不良)と判定した。
【0124】
(鉛筆硬度)
積層体を23℃/相対湿度50%の環境下に24時間静置した後、JIS-K5600-5-4に準拠して、硬化被膜の鉛筆硬度を評価した。テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機社製)を用いて、積層体に含まれる硬化被膜の表面に対して、角度45°、荷重750gの条件で、鉛筆の芯を押し付けながら引っ掻き、引っ掻き傷の傷跡の有無を確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、傷跡を生じた時点よりも1段階軟かい芯の硬度をデータとして採用した。
【0125】
(複合弾性率)
SPM装置(日立ハイテック社製;多機能型SPM装置)を用いて、ISO14577に準拠して、ナノインデンテーション法により、硬化被膜の複合弾性率を求めた。測定環境条件は、温度25℃/相対湿度25%とした。
プローブとしてパーコビッチ圧子を用い、押し込み圧力50μNの条件で、積層体に含まれる硬化被膜の表面に対して、プローブの先端部を3秒間圧入し、荷重と圧入深さの変位を検出した。硬化被膜の表面にプローブの先端部を圧入した後には、プローブの先端形状に応じた凹部が形成される。目視にて、この凹部内の最上にある任意の点と最下にある任意の点をそれぞれ選定し、各点における荷重-変位曲線(除荷曲線)から複合弾性率を下記の方法にて理論的に算出した。硬化被膜の面位置を変えて30箇所についてこれらの操作を実施して、複合弾性率の平均値を算出した。
【0126】
複合弾性率Erは、スティフネスSと接触投影面積Acから、下記式(2)に基づいて算出した。
【数1】
・・・(2)
スティフネスSは、荷重-変位曲線における除荷曲線の傾きから算出した。なお、除荷曲線の傾きは、高変位時における除荷曲線の傾き、つまりプローブを圧入した後、除荷の開始直後における除荷曲線の傾きを指す。
接触投影面積Acは、接触深さ(所定の圧入深さと最大荷重における除荷曲線の勾配から求められる接触点の周辺表面での表面変位の差)とプローブの幾何学的形状固有の定数及び補正項から、所定の式により求めた。
【0127】
(各層の弾性率、弾性率比)
表2、表3に記載の例については、以下の方法にて、表に示す曲げ温度における各層の弾性率を求め、弾性率比として層Aの弾性率に対する層Bの弾性率の比(層B/層A)を求めた。
測定装置として、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム社製;Rheogel-E4000)を用いた。厚み1mm、長さ20mm、幅5mmの短冊状の試料を用意し、一対のチャック(チャック間距離:10mm)で固定した。引張測定モードにて、ひずみ3%、周波数1Hzの条件で、30℃から200℃まで昇温速度5℃/分で1回目の昇温(1stラン)を実施し、30℃まで5℃/分にて冷却した後、30から200℃まで昇温速度5℃/分で2回目の昇温(2ndラン)を実施した。弾性率として、2ndランの測定における貯蔵弾性率E’を採用した。
【0128】
[樹脂基材、樹脂]
用意した樹脂は、以下の通りである。
<(メタ)アクリル系樹脂>
(PM-1)クラレ社製;パラペット(登録商標)HR、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、温度230℃、3.8kg荷重下でのMFR=2.0g/10分、Tg=115℃)。
(PM-2)
オートクレーブ内に、96.5質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、2.5質量部のアクリル酸メチル(MA)、0.06質量部のアゾビスイソブチロニトリル、0.25質量部のn-オクチルメルカプタン、250質量部の水、0.09質量部の分散剤、及び1.07質量部のpH調整剤を入れた。次いで、内容液を攪拌しながら、液温を室温から70℃に上げ、70℃で120分間保持して、重合反応を行った。次いで、液温を室温まで下げ、反応液をオートクレーブから抜き出した。反応液を濾過し、得られた固形分を水で洗浄し、80℃にて24時間熱風乾燥させた。このようにして、Tg=110℃のビーズ状のメタクリル系樹脂(PM-2)を得た。
【0129】
<SMA樹脂>
(SM-1)
国際公開第2010/013557号に記載の方法に準拠して、SMA樹脂(SM-1)(スチレン-無水マレイン酸-MMA共重合体、スチレン単位/無水マレイン酸単位/MMA単位(質量比)=56/18/26、Mw=150,000、Tg=138℃)を得た。
【0130】
<(メタ)アクリル系樹脂組成物>
(MR-1)
SMA樹脂(SM-1)70質量部、(メタ)アクリル系樹脂(PM-2)30質量部、及び滑剤としてステアリン酸モノグリセリド(花王株式会社製;エキセルT95)0.03質量部を、二軸押出機(TEM-28;東芝機械社製)に投入し、230℃で溶融混練し、ストランド状に押出して切断した。このようにして、Tg=125℃の(メタ)アクリル系樹脂組成物(MR-1)のペレットを得た。
【0131】
<ポリカーボネート系樹脂>
(PC-1)住化スタイロンポリカーボネート株式会社製;SDポリカ(登録商標) PCX(温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=6.7g/10分、Tg=150℃)。
【0132】
<ポリエステル系樹脂>
(E-1)ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート。
【0133】
<ポリカーボネート系樹脂含有樹脂組成物>
(PC-2)
ポリカーボネート系樹脂(PC-1)34質量部と、ポリエステル系樹脂(E-1)67質量部とを混合して、Tg=125℃のポリカーボネート系樹脂含有樹脂組成物(PC-2)を得た。
【0134】
[実施例1~14、比較例1~7]
(積層構造の熱可塑性樹脂層の製造)
実施例1~14及び比較例1~7の各例においては、以下の方法にて、積層構造の熱可塑性樹脂層を共押出成形した。
層A用と層B用の2種類の樹脂をそれぞれ、別の25mmΦベント式単軸押出機(G.M.ENGINEERJNG社製;VGM25-28EX)のホッパーに投入し、溶融混練した後、これらの樹脂をマルチマニホールドダイを用いて押出温度240℃で共押出した。各樹脂の吐出量を調整することで、各層の厚みを調整した。
次いで、溶融状態の熱可塑性樹脂層を、互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた熱可塑性樹脂層を一対の引取りロールによって引き取った。なお、第3冷却ロールに層Bが接するようにした。このようにして、2層構造の熱可塑性樹脂層を得た。
各例について、製造した熱可塑性樹脂層の各層の樹脂の種類と厚みを表1~表3に示す。なお、表に記載以外の条件は、共通条件とした。
【0135】
(硬化被膜の形成)
実施例1~14及び比較例1~7の各例においては、以下のいずれかの方法にて、製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に、硬化被膜(HC-A-1)~(HC-A-3)、(HC-N-1)~(HC-N-3)のうちいずれかを形成して、積層体を製造した。各例で形成した硬化被膜の種類と厚み、得られた積層体の評価結果を表1~表3に示す。
【0136】
<硬化被膜(HC-A-1)の形成方法>
製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に、多官能ウレタンアクリレートを含む光重合性硬化性組成物であるアイカ工業株式会社製;AICAAITRON(登録商標)Z-850-3を塗工し、80℃のオーブン内に60秒間静置し、溶媒を除去した。次いで、アイグラフィックス株式会社製;高圧水銀ランプH04-L41を搭載した紫外線(UV)照射装置を用い、照度150mW/cm、積算照射量368mJ/cmの条件で、塗工膜に対して紫外線(UV)を照射して硬化させて、硬化被膜(HC-A-1)を形成した。
【0137】
<硬化被膜(HC-A-2)の形成方法>
積算照射量を156mJ/cmに変更した以外は硬化被膜(HC-A-1)の形成方法と同様の方法で、製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に硬化被膜(HC-A-2)を形成した。
【0138】
<硬化被膜(HC-A-3)の形成方法>
積算照射量を144mJ/cmに変更した以外は硬化被膜(HC-A-1)の形成方法と同様の方法で、製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に硬化被膜(HC-A-3)を形成した。
【0139】
<硬化被膜(HC-N-1)の形成方法>
製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に、多官能アクリレートを含む光重合性硬化性組成物である日本化工塗料株式会社製;TOMAX(登録商標)NXD-002APを塗工し、100℃のオーブン内に30秒間静置し、溶媒を除去した。次いで、アイグラフィックス株式会社製;高圧水銀ランプH04-L41を搭載したUV照射装置を用い、照度150mW/cm、積算照射量522mJ/cmの条件で、塗工膜に対してUVを照射して硬化させて、硬化被膜(HC-N-1)を形成した。
【0140】
<硬化被膜(HC-N-2)の形成方法>
光重合性硬化性組成物として、多官能アクリレートを含む日本化工塗料株式会社製;TOMAX(登録商標)NXD-004APを用いた以外は硬化被膜(HC-N-1)の形成方法と同様の方法で、製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に硬化被膜(HC-N-2)を形成した。
【0141】
<硬化被膜(HC-N-3)の形成方法>
光重合性硬化性組成物として、日本化工塗料株式会社製;TOMAX(登録商標)NXD-002APを20質量部と同NXD-004APを80質量部とを(いずれも多官能アクリレートを含むミキサーを用いて混合したものを用いた以外は硬化被膜(HC-N-1)の形成方法と同様の方法で、製造した熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂含有層(層A)上に硬化被膜(HC-N-3)を形成した。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
[結果のまとめ]
実施例1~6及び比較例1~3では、SMA樹脂を含む(メタ)アクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層との2層構造の熱可塑性樹脂層を製造し、この熱可塑性樹脂層の(メタ)アクリル樹脂層上に硬化被膜を形成した。
【0146】
実施例1~6で得られた積層体に含まれる硬化被膜は、式(1)で定義されるZ値が10~75であった。これら実施例で得られた積層体に含まれる硬化被膜の鉛筆硬度は2H~5Hの範囲内であり、しわの発生しない曲げ半径Rが30~75mmであった。これら実施例では、表面硬度が高く耐擦傷性が良好で、500μm超の比較的厚い積層体であっても、熱成形時の硬化被膜のしわが抑制され、熱成形用保護板用として好適な積層体が得られた。
【0147】
比較例1で得られた積層体に含まれる硬化被膜は、式(1)で定義されるZ値が10未満であった。得られた積層体に含まれる硬化被膜は、鉛筆硬度は5Hであったが、複合弾性率が低く、変形に対する回復量が小さいため、得られた積層体はしわの発生しない曲げ半径Rが100mmであり、熱成形時のしわ抑制効果が不充分であった。
【0148】
比較例2、3で得られた積層体に含まれる硬化被膜は、式(1)で定義されるZ値が10未満であり、ほとんどゼロであった。得られた積層体に含まれる硬化被膜は、鉛筆硬度はHであり、表面硬度が不充分であった。
【0149】
実施例7~14、比較例4~7では、硬化被膜の種類と厚みは共通とし、層組成又は曲げ温度を変えて、評価を実施した。
実施例7~14で得られた積層体に含まれる硬化被膜は、弾性率比(層B/層A)が1.2以上217未満の範囲内であり、熱成形時に硬化被膜にしわが見られなかった。これら実施例では、500μm超の比較的厚い積層体であっても、熱成形時の硬化被膜のしわが抑制され、熱成形用保護板用として好適な積層体が得られた。
比較例4~7では、弾性率比(層B/層A)が217以上であり、熱成形後に硬化被膜にしわが見られた。
【0150】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【0151】
この出願は、2019年5月29日に出願された日本出願特願2019-100576号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0152】
11 Tダイ
12 第1冷却ロール(第1番目の冷却ロール)
13 第2冷却ロール(第2番目の冷却ロール)
14 第3冷却ロール(第3番目の冷却ロール)
15 引取りロール
16、16X、16Y 熱可塑性樹脂層
17X、17Y 積層体
21、21A、21B 第1の樹脂層((メタ)アクリル樹脂含有層)
31 第2の樹脂層(ポリカーボネート樹脂含有層)
41、41A、41B 硬化被膜
図1
図2
図3