(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及び記録物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20231205BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231205BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20231205BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41J2/175 119
B41M5/00 100
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2019145333
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164207(JP,A)
【文献】特開2016-138259(JP,A)
【文献】特開2016-138228(JP,A)
【文献】特開2014-005421(JP,A)
【文献】特開2018-030957(JP,A)
【文献】特開2017-115127(JP,A)
【文献】特開2017-226743(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159685(WO,A1)
【文献】特開2012-201838(JP,A)
【文献】特開2013-177559(JP,A)
【文献】特開2016-169370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/38
B41J 2/01
B41J 2/175
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物、ウレタン樹脂、色材、3-メトキシ-3-メチルブタノール、
及び下記一般式(2)で表される化合物を含有し、前記一般式(2)で表される化合物の含有量は、前記インクの量に対して1.0質量%以上8.0質量%以下であるインク。
【化1】
(前記一般式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、a、b、c、n、及びmは、(a+b+c)/(n+m)≧0.5を満たす。)
【化2】
(前記一般式(2)中、R
1
、R
2
、及びR
3
は、炭素数1の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記ウレタン樹脂の含有量は、前記インクの量に対して8.5質量%以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物の含有量は、前記インクの量に対して1.0質量%以上2.0質量%以下である請求項1
又は2に記載のインク。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のインクが収容されたインク収容容器。
【請求項5】
請求項
4に記載のインク収容容器と、収容された前記インクを記録媒体に付与するインク付与手段と、を有する記録装置。
【請求項6】
前記インク付与手段は、非浸透性基材に対して前記インクを付与する請求項
5に記載の記録装置。
【請求項7】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載のインクを付与するインク付与工程を有する記録方法。
【請求項8】
前記インク付与工程は、非浸透性基材に対して前記インクを付与する請求項
7に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク、インク収容容器、記録装置、記録方法、及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、低騒音、低ランニングコスト、カラー印刷が容易であるなどの利点を有しており、デジタル信号の出力機器として一般家庭に広く普及している。また、近年では、家庭用のみならず商業用途や産業用途にもインクジェット技術が利用されてきている。そして、商業用途や産業用途では、インク低吸収性の印刷用塗工紙(コート紙)やインク非吸収性のプラスチックメディアが記録媒体として用いられるため、これらメディアに対しても、インクジェット記録方法により、従来のオフセット印刷並の画質を実現することが求められている。
【0003】
特許文献1には、実施例において、顔料分散液、ポリシロキサン界面活性剤、ポリウレタン樹脂粒子を含有するインクが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ビーディング性及び密着性に優れる画像が得られるインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、下記一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物、ウレタン樹脂、色材、3-メトキシ-3-メチルブタノール、
及び下記一般式(2)で表される化合物を含有し、前記一般式(2)で表される化合物の含有量は、前記インクの量に対して1.0質量%以上8.0質量%以下であるインクである。
【化1】
(前記一般式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、a、b、c、n、及びmは、(a+b+c)/(n+m)≧0.5を満たす。)
【化2】
(前記一般式(2)中、R
1
、R
2
、及びR
3
は、炭素数1の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、ビーディング性及び密着性に優れる画像が得られるインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、記録装置の一例を示す斜視説明図である。
【
図2】
図2は、メインタンクの一例を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。
【0009】
<<インク>>
本実施形態のインクは、一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物、ウレタン樹脂、及び色材を含有し、必要に応じて、有機溶剤、水、ウレタン樹脂以外の樹脂、及びその他添加剤を含有してもよい。
【0010】
<一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物>
インクに含有されるポリエーテル変性シロキサン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物であり、界面活性剤として用いられることが好ましい。インクが一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物を含有することで、インクにより形成される画像においてビーディング性が向上する。なお、一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【化2】
【0011】
一般式(1)におけるRは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0012】
炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。
【0013】
一般式(1)におけるa、b、c、n、及びmは、数値を表し、次式「(a+b+c)/(n+m)≧0.5」を満たし、「2.0≧(a+b+c)/(n+m)≧0.5」であることが好ましく、「1.5≧(a+b+c)/(n+m)≧0.5」であることがより好ましく、「1.0≧(a+b+c)/(n+m)≧0.5」であることが更に好ましい。「(a+b+c)/(n+m)≧0.5」を満たすポリエーテル変性シロキサン化合物は、本化合物を含有するインクの記録媒体に対する濡れ性を向上させることができるため、インクにより形成される画像においてビーディング性が向上する。
また、一般式(1)において、「a+b+c+n+m」は、500以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましい。
【0014】
一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物の分子量は、2000以上30000以下であることが好ましく、2000以上5000以下であることがより好ましい。
【0015】
一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物の含有量は、インクの量に対して、0.1質量%以上4.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。0.1質量%以上4.0質量%以下であると、ウレタン樹脂と併用した場合に、非浸透性基材に対する画像の密着性が向上し、画像光沢等の画像品質も向上する。
【0016】
<ウレタン樹脂>
インクはウレタン樹脂を含有する。ウレタン樹脂を含有することでインクにより形成される画像に、高い画像光沢度、耐擦過性、及び密着性を付与することができる。これら機能をより付与するために、ウレタン樹脂はウレタン樹脂粒子としてインク中で用いられることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0017】
ウレタン樹脂は、製造品を使用しても市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ユーコートUX-485(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子)、ユーコートUWS-145(ポリエステル系ポリウレタン樹脂粒子)、パーマリンUA-368T(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子)、パーマリンUA-200(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂粒子)(以上、三洋化成工業株式会社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ウレタン樹脂の含有量は特に限定されないが、分散性を高める点から、インクの量の12.0質量%以下とすることが好ましく、8.5質量%以下とすることがより好ましい。また、8.5質量%以下とすることで、光沢度が高く、画像光沢に優れる画像が得られ、好ましい。また、インクを用いて形成される画像の耐擦過性を高める点から、ウレタン樹脂の含有量をインク全量の5.0質量%以上とすることが好ましい。
【0019】
-ウレタン樹脂の製造に用いる各種材料-
ウレタン樹脂は、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得ることができる。
【0020】
--ポリオール--
ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ウレタン樹脂は、ポリカーボネートポリオールを用いて得られるポリカーボネート系ウレタン樹脂であることが好ましい。カーボネート基は高い凝集力を有するため、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を含有したインクは耐水性、耐熱性、耐摩耗性、耐候性、及び耐擦過性に優れる。そのため、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を含有したインクは、屋外用途のような過酷な環境において使用されるインク用途に好適である。
【0021】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、活性水素原子を2個以上有する化合物の少なくとも1種を出発原料として、アルキレンオキサイドを付加重合させたものなどが挙げられる。
活性水素原子を2個以上有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、具体的には、ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールなどが好ましい。これらを用いることで、優れた耐擦過性を付与できるインク用バインダーとしてのウレタン樹脂を得ることができる。
【0022】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルとポリオールとを反応させて得られるもの、ホスゲンとビスフェノールA等とを反応させて得られるものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F、4,4’-ビフェノール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール;ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるもの、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステル、これらの共重合ポリエステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、これらの無水物又はエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
--ポリイソシアネート--
ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、インクが、ポスターや看板などの屋外向けの用途として用いられた場合に、長期耐候性を持つ画像を形成できる点から、脂環式ジイソシアネートを用いることが好ましい。また、脂環式ジイソシアネートを用いることで、画像の強度が向上し、優れた耐擦過性を得られる。脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環式ジイソシアネートの含有量としては、ポリイソシアネート全量に対して、60.0質量%以上が好ましい。
【0025】
-ウレタン樹脂の製造方法-
ウレタン樹脂は、従来一般的に用いられている製造方法により得ることができ、例えば、次の方法などが挙げられる。
まず、無溶剤下又は有機溶剤の存在下で、上記ポリオールと上記ポリイソシアネートとを、イソシアネート基が過剰になる当量比で反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造する。次いで、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー中のアニオン性基を必要に応じて中和剤により中和し、その後、鎖延長剤と反応させて、最後に必要に応じて系内の有機溶剤を除去することによってウレタン樹脂を得る。
【0026】
--有機溶剤--
ウレタン樹脂の製造に使用できる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のアミド類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
--鎖延長剤--
鎖延長剤としては、例えば、ポリアミンやその他の活性水素基含有化合物などが挙げられる。
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、N,N’-ジメチルヒドラジン、1,6-ヘキサメチレンビスヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
その他の活性水素基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類;水などが挙げられる。これらは、インクの保存安定性が低下しない範囲内であれば、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
-ウレタン樹脂の状態-
ウレタン樹脂は、上述した通りウレタン樹脂粒子の状態でインク中に存在することが好ましい。このようなインクは、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合して得ることが好ましい。樹脂エマルションの状態で有機溶剤、色材、及び水等と配合してインクを作製することで、作業の容易性や均一分散性が向上する。
【0029】
ウレタン樹脂粒子は、インクに添加されている有機溶剤に溶解することで造膜し、膜状の記録層(画像)を形成する。すなわち、インク付与後にインクから水が蒸発することでウレタン樹脂粒子の造膜が促進される。そのため、使用するウレタン樹脂粒子の種類によっては、加熱工程を有さない記録を行うことも可能である。
【0030】
ウレタン樹脂粒子を、水に分散させる方法としては特に限定されないが、例えば、分子構造中にアニオン性基を有する自己乳化型の樹脂粒子を用いる方法、及び分散剤を利用した強制乳化型の樹脂粒子を用いる方法などが挙げられる。これらの中でも、記録物の強度を上げる点から、分子構造中にアニオン性基を有する自己乳化型の樹脂粒子を用いる方法が好ましい。
【0031】
自己乳化型のウレタン樹脂粒子を用いた場合のアニオン性基の酸価としては、水分散性、耐擦過性、及び耐薬品性の点から、5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下が好ましく、5mgKOH/mg以上50mgKOH/mg以下がより好ましい。
【0032】
アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基などが挙げられる。これらの中でも、良好な水分散安定性を維持する点から、一部又は全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基が好ましい。なお、アニオン性基を樹脂中に導入するには、アニオン性基を持ったモノマーを使用すればよい。
また、アニオン性基は、塩基性化合物により中和されていることが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン等のアルカノールアミン;Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
強制乳化型のウレタン樹脂粒子を用いて水分散体を製造する方法としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤を用いる方法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐水性の点から、ノニオン性界面活性剤を用いる方法が好ましい。
【0034】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩が好ましい。
【0036】
強制乳化型のウレタン樹脂粒子を用いて水分散体を製造する場合、界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、強制乳化型のウレタン樹脂粒子全量に対して、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。含有量が、0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であれば、好適にウレタン樹脂粒子が造膜し、付着性や耐水性に優れたインクが得られ、記録物がブロッキングすることなく好適に用いられる。
【0037】
-ウレタン樹脂の各種物性-
ウレタン樹脂粒子の体積平均粒径としては、インクジェット記録装置で使用することを考慮すると、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上500nm以下がより好ましく、10nm以上200nm以下が更に好ましい。体積平均粒径が、10nm以上1,000nm以下であると、有機溶剤とウレタン樹脂粒子表面との接触部位が増加し、ウレタン樹脂粒子の造膜性が高まり、強靭な樹脂の連続被膜が形成されるため、高い強度の記録物を得ることができる。なお、体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(マイクロトラック MODEL UPA9340、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0038】
樹脂の定性及び定量としては、例えば、「プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果(22);安田武夫著、プラスチックス:日本プラスチック工業連盟誌/「プラスチックス」編集委員会編」に詳述されているような手順で確認することができる。具体的には、赤外線分光分析(IR)、熱分析(DSC、TG/DTA)、熱分解ガスクロマトグラフィ(PyGC)核磁気共鳴法(NMR)などで分析することにより確認することができる。
【0039】
ウレタン樹脂のガラス転移温度としては、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、DSC6200)を用いて測定することができる。具体的には、下記の連続する温度プログラム1~4の条件で測定を行い、温度プログラム3で測定された値をガラス転移温度とする。温度プログラム3の測定値を用いるのは、測定値の再現性を確保するためである。
温度プログラム:
(1)30℃以上250℃以下:昇温速度30℃/分間、保持時間1分間
(2)250以上-100℃以下:冷却速度30℃/分間、保持時間30分間
(3)-100以上250℃以下:昇温速度5℃/分間、保持時間1分間
(4)250以上30℃以下:冷却速度30℃/分間、保持時間2分間
【0040】
ウレタン樹脂の最低造膜温度(以下、「MFT」とも称することがある)は特に制限がない。但し、最低造膜温度が80℃を超える場合、樹脂の造膜不良なく、画像堅牢性を向上できる点から、付与後のインクを加熱することが好ましい。
最低造膜温度を調整する場合、例えば、ウレタン樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」とも称することがある)をコントロールすることで調整することができ、ウレタン樹脂が共重合体である場合には、共重合体を形成するモノマーの比率を変えることにより調整することができる。なお、最低造膜温度とは、ウレタン樹脂をアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていったときに透明な連続フィルムが形成される最低温度のことをいい、最低造膜温度未満の温度領域では、エマルジョンは白色粉末状となる点をいう。最低造膜温度は、例えば、「造膜温度試験装置」(株式会社井元製作所製)、「TP-801 MFTテスター」(テスター産業株式会社製)などの市販の最低造膜温度測定装置により測定することができる。また、最低造膜温度は、樹脂の体積平均粒径によっても変化するため、樹脂の体積平均粒径の制御因子により樹脂の最低造膜温度を狙いの値とすることもできる。
【0041】
<色材>
本実施形態のインクは、色材を含有する。色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
【0042】
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
【0043】
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
【0044】
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0045】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な密着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0046】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
分散剤として、竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
<顔料分散体>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0048】
<有機溶剤>
【0049】
インクに使用される有機溶剤としては、特に限定されないが、25℃1気圧下で液体の有機溶剤を好適に用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類を用いることができる。
【0050】
有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
【0051】
有機溶剤としては、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
炭素数8以上のポリオール化合物及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0052】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、インク全量に対して、10.0質量%以上60.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以上60.0質量%以下がより好ましい。
【0053】
-一般式(1)で表される化合物-
有機溶剤としては、下記一般式(2)で表される化合物も好適に使用される。一般式(2)で表される化合物をインク中に含有させることで、インクを付与する記録媒体として非浸透性記録媒体を用いた場合においても、インクのビーディング性を向上させることができる。
【化3】
一般式(2)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1以上8以下の炭化水素基を表す。具体的には、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
また、一般式(2)で表される化合物の含有量は、インクの全量に対して、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下であることが更に好ましい。
また、一般式(2)で表される化合物の含有量の一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物に対する質量比(一般式(2)/一般式(1))は、1.5以上15.0以下であることが好ましく、1.0以上10.0以下であることがより好ましい。
【0054】
<水>
本実施形態のインクは、水を含有することが好ましい。インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、インク全量に対して、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0055】
<添加剤>
インクには、必要に応じて、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0056】
-消泡剤-
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0057】
-防腐防黴剤-
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0058】
-防錆剤-
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0059】
-pH調整剤-
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0060】
<インクの物性>
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0061】
<記録媒体>
記録媒体としては特に制限はなく、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などを用いることもできるが、非浸透性基材を用いても良好な画像形成が可能である。
非浸透性基材とは、水透過性、吸収性が低い表面を有する基材であり、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれ、より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である基材をいう。
非浸透性基材としては、例えば、塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムを、好適に使用することができる。
【0062】
ポリプロピレン、ポリエチレンを用いた非浸透性基材としては、例えば、AR1025、AR1056、AR1082、EC1082、1082D、1073D、1056D、1025D、FR1073(旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社)、P2002、P2102、P2108、P2161、P2171、P2111、P4266、P5767、P3162、P6181、P8121、P1162、P1111、P1128、P1181、P1153、P1157、P1146、P1147、P1171(東洋紡株式会社)、YPI、アクアユポ、スーパーユポ、ウルトラユポ、ニューユポ、ユポ電飾用紙、ユポ建材用紙、ユポハイグロス、ユポジェット、メタリックユポ(株式会社ユポ・コーポレーション)などが挙げられる。
【0063】
<<記録物>>
記録物は、記録媒体と、記録媒体上に形成された印刷層と、を有し、必要に応じてその他の層を有する。印刷層は、本実施形態のインクを用いて形成されるので、インクに含有されている上記一般式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン化合物、ウレタン樹脂、及び色材を含有する。
【0064】
<<記録装置、記録方法>>
本実施形態のインクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
記録装置、記録方法とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて記録を行う方法である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
記録装置、記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有しても良い。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
加熱手段、乾燥手段として赤外線ヒーターを用いた場合、少なくとも近赤外線照射装置を備えている。近赤外線照射装置は、ハロゲンランプと反射ミラーから成る装置が知られている。反射ミラーにハロゲンヒーターを組み込み、加熱ユニット化することにより効率の良い加熱を実現しようとしたものが製品化されており、例えば、UH-USC-CL300、UHUSC-CL700、UH-USC-CL1000、UH-USD-CL300、UHUSD-CL700、UH-USD-CL1000、UH-MA1-CL300、UHMA1-CL700、UH-MA1-CL1000(全てウシオ電機製)などが挙げられる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
【0065】
記録装置の一例について
図1乃至
図2を参照して説明する。
図1は同装置の斜視説明図である。
図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出(付与)可能となる。
【0066】
なお、インクの使用方法としては、インクジェット記録方法に制限されず、広く使用することが可能である。インクジェット記録方法以外にも、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
<顔料分散体の調製例>
以下の処方混合物をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、KDL型、メディア:直径0.3mmジルコニアボール使用)で7時間循環分散して自己分散型ブラック顔料分散体(顔料固形分濃度:15質量%)を得た。
・カーボンブラック顔料(商品名:Monarch800、キャボット社製):15.0質量部
・アニオン性界面活性剤(商品名:パイオニンA-51-B、竹本油脂株式会社製):2.0質量部
・イオン交換水:83.0質量部
【0069】
<ポリエーテル変性シロキサン化合物の合成例>
-ポリエーテル変性シロキサン化合物1の合成例-
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、エチレングリコールアリルメチルエーテル400gと、塩化白金酸の0.5質量%トルエン溶液0.5gとを仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱したのち、シロキサン鎖の両末端が水素原子であるヘキサデカメチルオクタシロキサン400gを30分かけて滴下した。次いで、反応容器内を110℃まで加熱し、攪拌しながら3時間保持することで、上記材料を反応させた。反応終了後、低沸分を減圧下で留去することで、ポリエーテル変性シロキサン化合物1を得た。NMRで構造分析を行ったところ、ポリエーテル変性シロキサン化合物1は、a+b+c=20,m=0,n=10、(a+b+c)/(n+m)=2.0であった。
【0070】
-ポリエーテル変性シロキサン化合物2の合成例-
ヘキサデカメチルオクタシロキサンの代わりに、中心のケイ素原子に水素原子が2個結合しているオクタメチルヘプタンテトラシロキサンを150g用いた以外は、ポリエーテル変性シロキサン化合物1の合成例と同様の方法により、ポリエーテル変性シロキサン化合物2を得た。NMRで構造分析を行ったところ、ポリエーテル変性シロキサン化合物2は、a+b+c=10,m=0,n=20、(a+b+c)/(n+m)=0.5であった。
【0071】
-ポリエーテル変性シロキサン化合物3の合成例-
エチレングリコールアリルメチルエーテルの添加量を300gとし、またヘキサデカメチルオクタシロキサンの代わりに、中心のケイ素原子に水素原子が1個結合しているヘプタメチルトリシロキサンを200g用いた以外は、ポリエーテル変性シロキサン化合物1の合成例と同様の方法により、ポリエーテル変性シロキサン化合物3を得た。NMRで構造分析を行ったところ、ポリエーテル変性シロキサン化合物3は、a+b+c=6,m=0,n=15、(a+b+c)/(n+m)=0.4であった。
【0072】
<インクの調整例>
(実施例1)
以下の配合で、全部で100質量部になるようにイオン交換水を加え、調合後混合攪拌し、5μmのフィルター(ザルトリウス社製ミニザルト)で濾過して、実施例1のインクを得た。
・顔料分散体:15.0質量部
・スーパーフレックス300(ポリウレタン系樹脂粒子、樹脂固形分濃度:30質量%、第一工業製薬社製):26.7質量部
・ポリエーテル変性シロキサン化合物1:2.0質量部
・1,2-プロパンジオール:10.0質量部
・1,3-ブタンジオール:10.0質量部
・3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド:8.0質量部
・3-メトキシ-3-メチルブタノール:5.0質量部
・プロキセルLV(アビシア製防腐剤):0.1質量部
・イオン交換水:残量
【0073】
(実施例2~6、比較例1~2)
表1に記載の処方で実施例1のインクと同様にして実施例2~6および比較例1~2のインクを調整した。なお、表1において、色材と樹脂に関する各数値は全量を表すため、色材と樹脂に関する固形分量はこれら数値に固形分濃度を積算した値となる。また、各数値の単位は質量部であり、各インクの全量は100質量部である。
【0074】
なお、表中における各成分は以下の材料を使用した。
・WBR-2122C(ポリウレタン樹脂粒子、樹脂固形分濃度:30質量%、大成ファインケミカル株式会社製)
・J-450(スチレンアクリル系樹脂粒子、樹脂固形分濃度:42質量%、ジョンソンポリマー社製)
【0075】
【0076】
得られたインクを用いて、以下のようにして、「密着性」、「耐擦過性」、「ビーディング性」、及び「画像光沢度」を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
[ベタ画像の形成]
調整したインクをインクジェットプリンター(装置名:IPSiO GXe5500改造機、株式会社リコー製)に充填し、PPフィルム(東洋紡製、P2161)の記録媒体に対し、インク付着量が0.6g/cm2となるように、ベタ画像を記録した。記録後、ベタ画像をホットプレート(NINOS ND-1、アズワン株式会社製)上で、80℃で1時間乾燥させた。
なお、IPSiO GXe5500改造機は、IPSiO GXe5500機を、150cmの印字幅で30m2/hrの記録速度相当の記録をA4サイズで再現できるように改造したものである。また、IPSiO GXe5500改造機には上記ホットプレートも設置されており、記録後の加熱条件(加熱温度、加熱時間)を変えることができるように改造されている。
【0078】
<密着性>
PPフィルムの記録媒体に形成されたベタ画像に対し、布粘着テープ(ニチバン株式会社製、123LW-50)を用いた碁盤目剥離試験により、試験マス目100個の残存マス数をカウントし、下記評価基準に基づいて、記録媒体に対する「密着性」を評価した。評価がB以上であることが実使用上望ましい。
〔評価基準〕
AA:残存マス数が98個以上
A:残存マス数が90個以上98個未満
B:残存マス数が70個以上90個未満
C:残存マス数が70個未満
【0079】
<耐擦過性>
上記ベタ画像の形成において、PPフィルムの代わりにPVCフィルムの記録媒体(CPPVWP1300、桜井株式会社製)を用いた以外は同様にしてベタ画像を形成した。次に、このベタ画像を綿布で10回擦り、綿布への顔料転写具合を目視で観察し、下記の基準で評価した。評価がB以上であることが望ましい。
〔評価基準〕
A:綿布への顔料転写は殆どみられない
B:若干の顔料転写がみられる
C:明らかに顔料が転写している
【0080】
<ビーディング性>
上記ベタ画像の形成において、PPフィルムの代わりにPVCフィルムの記録媒体(CPPVWP1300、桜井株式会社製)を用いた以外は同様にしてベタ画像を形成した。次に、このベタ画像の記録ムラを目視により観察し、下記評価基準に基づいて、ビーディング性を評価した。評価がB以上であることが実使用上望ましい。
〔評価基準〕
A:非常に良好(ビーディングが全くなかった)
B:良好(わずかにビーディングが観察された)
C:普通(ビーディングがあった)
D:不良(著しいビーディングがあった)
【0081】
<画像光沢度>
上記ベタ画像の形成において、PPフィルムの代わりにPVCフィルムの記録媒体(CPPVWP1300、桜井株式会社製)を用いた以外は同様にしてベタ画像を形成した。次に、このベタ画像の60°光沢度を、光沢度計(BYK Gardener社製、4501)により4回測定し、光沢値の平均値を求め、下記評価基準に基づいて、「画像光沢度」を評価した。評価がB以上であることが望ましい。
〔評価基準〕
AA:光沢値が100以上
A:光沢値が90以上100未満
B:光沢値が80以上90未満
C:光沢値が80未満
【0082】
【0083】
実施例1、2は、好ましい実施形態であり、密着性及びビーディング性に優れ、非浸透性記録媒体に印字した際にも高い画像光沢度が得られると共に、耐擦過性を有する画像を得られることが分かる。
実施例3は樹脂固形分量が8.0質量%以上である例であり、実施例1、2に比べて画像光沢度が劣る結果となった。
実施例4は、一般式(2)で表される化合物を含まない例であり、実施例1、2に比べビーディング性が劣る結果となった。
実施例5は、ポリエーテル変性シロキサン化合物の添加量がやや少ない例であり、実施例1、2に比べ画像光沢度が劣る結果となった。
実施例6は、ポリエーテル変性シロキサン化合物の添加量がやや多い例であり、実施例1、2に比べ密着性およびビーディング性が劣る結果となった。
【0084】
比較例1は、ポリエーテル変性シロキサン化合物の「(a+b+c)/(n+m)」の値が0.5未満である例であり、実施例に比べビーディング性および画像光沢度が劣る結果となった。
比較例2は、ウレタン樹脂を用いない例であり、実施例に比べ密着性、耐擦過性、及び画像光沢度が劣る結果となった。
【0085】
なお、表2の結果から、本実施形態におけるインクが屋外用途に適したものであることが分かる。また、実施例1~6のインクは、比較例に対し、密着性、耐擦過性、ビーディング性、及び画像光沢度に優れていた。
【符号の説明】
【0086】
400 画像形成装置
401 画像形成装置の外装
401c 装置本体のカバー
404 カートリッジホルダ
410 メインタンク
410k、410c、410m、410y ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク
411 インク収容部
413 インク排出口
414 収容容器ケース
420 機構部
434 吐出ヘッド
436 供給チューブ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0087】