(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】撮像光学系およびカメラ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20231205BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G02B13/04
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2019184705
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】畑下 千恵子
(72)【発明者】
【氏名】中沼 寛
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅人
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-083799(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0122871(KR,A)
【文献】特開平11-223762(JP,A)
【文献】特開2000-352665(JP,A)
【文献】特開平09-166748(JP,A)
【文献】特開平09-197266(JP,A)
【文献】特開2002-267926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0343772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側に向かって順に、第1群、第2群、開口絞り、第3群および第4群を配
してなり、
前記第1群は、像側に凹面を向けたメニスカス状の負の第1レンズより成り、
前記第2群は、正の第2レンズより成り、
前記第3群は、物体側から像側へ向かって、物体側に凹面を向けた負の第3レンズと像
側に凸面を向けた正の第4レンズとを接合した接合レンズより成り、全体として負の屈折
力を有し、
前記第4群は、正の第5レンズより成り、
4群5枚構成で、物体側から像側へ向かって負・正・負・正の屈折力配分を有し、
第i群(i=1~4)の焦点距離:fi、全系の焦点距離:fが、条件式:
(1) 0.3 <f/|f1|< 0.7
(2) 0.4 <f/|f2|< 0.7
(3) 0.4 <f/|f4|< 0.7
(4) 1.2<f/|f1|+f/|f2|+f/|f3|+f/|f4|<
1.7
を満足するとともに、
前記第3群を構成する第3レンズと第4レンズの材質の-30℃~70℃の温度範囲における平均線膨張係数:αjが、条件式:
(6) |α3-α4|<
10×10
-7/℃
を満足し、
前記第1群ないし第4群を構成する各レンズ群がそれぞれ、光軸直交方向に2μm偏芯
したときの、全系の最大像高;Y’に対する像の光軸ずれの割合が0.5%よりも小さい
撮像光学系。
【請求項2】
請求項1記載の撮像光学系であって、
前記第1レンズの、物体側面の曲率半径:R1、および、像側面の曲率半径:R2が、
条件式:
(5) -3.0<(R1+R2)/(R2-R1)<-1.0
を満足する撮像光学系。
【請求項3】
請求項1または2記載の撮像光学系であって、
前記第1レンズおよび前記第2レンズのいずれか一方が少なくとも1面の非球面を有す
るとともに、前記第5レンズが少なくとも1面の非球面を有する撮像光学系。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1項に記載の撮像光学系を含むカメラ装置。
【請求項5】
撮影用のカメラ装置、検査用カメラ装置、ステレオカメラ装置、車載カメラ装置、監視
用カメラ装置の何れかである、請求項4記載のカメラ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、撮像光学系およびカメラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像光学系を用いる撮像装置は近来、撮影用のカメラ装置のみならず、車載カメラ装置やステレオカメラ装置、検査用カメラ装置、監視用カメラ装置等、広範な種類のものが実用化されている。
これら広範囲な種類の撮像装置に搭載される撮像光学系には、一般に、高解像度、低ディストーションであることに加え、夜などの暗い使用環境においても良好な撮像が可能であるようにFナンバが小さい大口径であることや、広画角で小型であることが求められている。
【0003】
撮像光学系が結像する像をCCDやCMOS等の撮像素子で読み取る方式の撮像装置に用いられる撮像光学系として好適なものとして「レトロフォーカスタイプ」のものが知られている(特許文献1~5)。
レトロフォーカスタイプの撮像光学系は、物体側の前群に負のパワーのレンズ群、像側の後群に正のパワーのレンズ群を配置することにより、前群、後群ともに射出瞳を像面から離すことができ、軸外光線の受光面への入射角を小さくできるため、撮像素子への入射光を効率よく利用できる。また、バックフォーカスを大きくできるところから、撮像光学系と撮像素子との間に光学的ローパスフィルタや赤外カットフィルタ等のフィルタ類を配置するスペースの確保が容易である。
撮像装置は、使用される環境(「使用環境」という。)が非常に広範である。
例えば、撮像装置として車載カメラ装置の場合であれば、サファリラリーのように炎熱地域で使用されることもあれば、高緯度の厳寒地域で使用される場合もあり、使用環境における環境温度は-30℃~70℃のように広い。
【0004】
従って、撮像光学系は、このような広い環境温度範囲においても、適正に機能し得ることが必要である。
大きな環境温度変化が、撮像光学系に与える影響の1つとして以下の如きものがある。
【0005】
撮像光学系の環境温度が変化すると、撮像光学系を構成する複数のレンズが、光軸に直交する方向(以下「光軸直交方向」という。)へ変位し、光軸直交方向における「複数のレンズの相対的な位置関係」に変化が生じる。
このような「個々のレンズの変位による複数レンズ間の相対的な位置関係の変化」をこの明細書中において「レンズ偏芯」と称する。
レンズ偏芯が生じた撮像光学系による像の結像位置は、像面上において光軸直交方向へ変位する。撮像光学系におけるレンズ偏芯に起因する結像位置の光軸直交方向への変位をこの明細書中において「像の光軸ずれ」と称する。
【0006】
撮像光学系が、例えば、車載カメラ装置や検査用カメラ装置に用いられるような場合、レンズ偏芯による「像の光軸ずれ」が生じると、撮像対象物の位置情報や形状情報に対する精度の低下をもたらす。また、レンズ偏芯による像の光軸ずれが生じると、単に、像そのものの位置がずれるのみならず、各種の収差、特に歪曲収差を劣化させ易い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、レトロフォーカスタイプで、明るく広画角でありながら4群5枚構成と少ないレンズ枚数で小型に構成でき、環境温度変化による像の光軸ずれを有効に軽減できる新規な撮像光学系の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の撮像光学系は、物体側から像側に向かって順に、第1群、第2群、開口絞り、第3群および第4群を配してなり、前記第1群は、像側に凹面を向けたメニスカス状の負の第1レンズより成り、前記第2群は、正の第2レンズより成り、前記第3群は、物体側から像側へ向かって、物体側に凹面を向けた負の第3レンズと像側に凸面を向けた正の第4レンズとを接合した接合レンズより成り、全体として負の屈折力を有し、前記第4群は、正の第5レンズより成り、4群5枚構成で、物体側から像側へ向かって負・正・負・正の屈折力配分を有し、第i群(i=1~4)の焦点距離:fi、全系の焦点距離:fが、条件式:
(1) 0.3 <f/|f1|< 0.7
(2) 0.4 <f/|f2|< 0.7
(3) 0.4 <f/|f4|< 0.7
(4) 1.2<f/|f1|+f/|f2|+f/|f3|+f/|f4|<1.7
を満足するとともに、前記第3群を構成する第3レンズと第4レンズの材質の-30℃~70℃の温度範囲における平均線膨張係数:αjが、条件式:
(6) |α3-α4|<10×10-7/℃
を満足し、前記第1群ないし第4群を構成する各レンズ群がそれぞれ、光軸直交方向に2μm偏芯したときの、全系の最大像高;Y’に対する像の光軸ずれの割合が0.5%よりも小さい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、レトロフォーカスタイプで、明るく広画角でありながら4群5枚構成と少ないレンズ枚数で小型に構成でき、環境温度変化による像の光軸ずれを有効に軽減できる新規な撮像光学系を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の撮像光学系の構成を説明する図である。
【
図2】撮像光学系の実施例1のレンズデータを示す図である。
【
図3】撮像光学系の実施例1の諸データを示す図である。
【
図4】撮像光学系の実施例1の収差図を示す図である。
【
図5】撮像光学系の実施例2のレンズデータを示す図である。
【
図6】撮像光学系の実施例2の諸データを示す図である。
【
図7】撮像光学系の実施例2の収差図を示す図である。
【
図8】撮像光学系の実施例3のレンズデータを示す図である。
【
図9】撮像光学系の実施例3の諸データを示す図である。
【
図10】撮像光学系の実施例3の収差図を示す図である。
【
図11】撮像光学系の実施例4のレンズデータを示す図である。
【
図12】撮像光学系の実施例4の諸データを示す図である。
【
図13】撮像光学系の実施例4の収差図を示す図である。
【
図14】撮影用のカメラ装置の1実施形態を説明するための図である。
【
図15】撮影用のカメラ装置の1実施形態を説明するための図である。
【
図16】検査用カメラ装置の1実施形態を説明するための図である。
【
図17】ステレオカメラ装置の1実施形態を説明するための図である。
【
図18】車載用カメラ装置の1実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して説明する。
図1は、この発明の撮像光学系の構成を説明する図である。図の左方が「物体側」、右方が「像側」である。
撮像光学系は、物体側から像側に向かって順に、第1群G10、第2群G21、開口絞りS、第3群G22および第4群G23を配してなる。
第1群G10は、像側に凹面を向けたメニスカス状の負の第1レンズL11より成り、第2群G21は、正の第2レンズL22より成る。
開口絞りSの像側に配置される第3群G22は、物体側から像側へ向かって、物体側に凹面を向けた負の第3レンズL23aと像側に凸面を向けた正の第4レンズL23bとを接合した接合レンズより成り、「全体として負の屈折力」を有する。
第4レンズ群G23は、正の第5レンズL24より成る。
従って、全体は、
4群5枚構成で、物体側から像側へ向かって負・正・負・正の屈折力配分を有する。
【0012】
この発明の撮像光学系は上記の如きレンズ構成において、以下の条件式(1)~(4)および後述の条件式(6)を満足する。
(1) 0.3 <f/|f1|< 0.7
(2) 0.4 <f/|f2|< 0.7
(3) 0.4 <f/|f4|< 0.7
(4) 1.2 <f/|f1|+f/|f2|+f/|f3|+f/|f4|<
1.7
これら条件式(1)~(4)において、「f」は全系の焦点距離、fiは「第i群(i=1~4)の焦点距離」である。
条件式(4)はまた、
1.2<f{1/|f1|+1/|f2|+1/|f3|+1/|f4|}<
1.7
と書くこともでき、また、これを、
1.2<fΣ(1/fi)(i=1~4) <
1.7
と書くこともできる。
なお、
図1の撮像光学系は、撮像素子を用いる場合が想定されており、図中の符号CGは撮像素子のカバーガラス、符号Imは像(撮像素子の受光面に結像している。)を示し、符号F1は、赤外線カットフィルタ、ローパスフィルタ等の各種フィルタを、これらと「光学的に等価」な透明平行平板(ガラス板)として示している。
また、以下において、第1レンズ群G10を「前群」、第2レンズ群G21、第3レンズ群G22、第4レンズ群G23を、前群G10に対して「後群G20」と言うこともある。
【0013】
説明を補足する。
第1レンズ群G10を構成する第1レンズL11は、像側に凹面を有する負メニスカスレンズであり、負の屈折力を保ちつつ、歪曲収差の発生を抑える役割を担っている。
レトロフォーカスタイプで広画角を実現しようとすると、コマ収差、非点収差、像面湾曲、特に歪曲収差が増大し易く、また、大口径化を進めると、コマ収差や、特に球面収差が増大し易い。
また、レトロフォーカスタイプにおける「広画角とバックフォーカスの確保」には、軸外主光線を屈曲させる作用を第1レンズL11にある程度持たせる必要がある。第1レンズL11に必要とされる負の屈折力が強くなるに従い、歪曲収差が発生し易くなる。また、「像の光軸ずれ」が第1レンズL11の光軸直交方向の変位に大きく影響され易くなる。
歪曲収差の発生を抑えるには、軸外光束の主光線がレンズ面へ入射する角度を小さくすることが有効であるが、前群G10に必要とされる「負の屈折力」を確保することが難しくなる。
【0014】
この発明の撮像光学系は、第1レンズL11を「物体側に凸面を有するメニスカス形状」とすることにより、歪曲収差の発生を最小限としつつ、第1レンズL11の像側に正の第2レンズL22を配置することにより、広角化に伴って増大しがちな「軸外光の像面への入射角度」を抑制する構成としている。
この発明の撮像光学系においては、開口絞りSの像側に設けられた第3レンズ群G22を「負の接合レンズ」とすることにより像面特性を良好にしている。即ち、接合レンズである第3レンズ群G22の屈折力を「負に設定」することで前群G10と後群G20で屈折力を相殺させ「全系のペッツバール和」を小さくしている。
また、第4レンズL23bの像側の面を凸面とすることにより、軸外主光線を屈曲させる作用を、第5レンズL24(以下「最終レンズL24」ともいう。)を含め3つのレンズ面で分担することにより、最終レンズL24の屈折力が極端に強くならないようにしている。
最終レンズL24の屈折力が強すぎると、最終レンズL24の偏芯が「像の光軸ずれ」に大きく影響するので、最終レンズL24の直前のレンズである負の接合レンズG22の像側面を凸面とし、最終レンズL24の正の屈折力を極端に強めることなく、射出瞳を像面より離している。 このように、第3レンズL23aと第4レンズL23bを接合レンズとすることにより、「レンズ偏心に関わるエレメント数」を減らすことができ、環境温度変化によるレンズ偏芯が発生した際の「像の光軸ずれ」の抑制に有利としている。
【0015】
以下、条件式(1)~(4)について説明する。
条件式(1)~(4)は、軸外光も含めた収差特性を良好に保ちつつ、環境温度変化時に各レンズの偏芯によるレンズ偏心により発生する「像の光軸ずれ」を有効に低減させるための条件である。
【0016】
条件式(1)は、第1レンズ群G10のパワーに関するものである。
条件式(1)の上限値をこえて第1レンズL11の屈折力が強まると「レンズ偏心における第1レンズL11の偏心(光軸直交方向への変位)の成分」が大きくなり、「像の光軸ずれ」が第1レンズL1の偏芯に影響され易くなり、環境温度変化時の第1レンズ群G10の偏芯による「像の光軸ずれ」が大きくなる。
【0017】
条件式(1)の下限値を超えて屈折力が弱まると、バックフォーカスの確保が困難になる。この場合、第1レンズ群G10の負のパワーを、後群G20で補ってバックフォーカスの確保しようとすると、ペッツバール和を小さくすることが困難となって、大きな像面湾曲が発生し易くなる。
また、後群G20の屈折力を強めずに射出瞳を像面から遠ざけようとすると、レンズ全長が長くなる。
条件式(1)のパラメータ:f/|f1|は、より好ましくは、条件式(1)よりも若干狭い条件式:
(1A) 0.3 <f/|f1|< 0.60
を満足するのが良い。
【0018】
条件式(2)は、第2群G21のパワーに関するものである。
条件式(2)の上限値をこえて第2レンズ群G21の屈折力が強まると、「像の光軸ずれ」が第2群の偏芯に対して「敏感に変化」するようなり、環境温度変化時の第2群G21の偏芯による像の光軸ずれが大きくなる。また、球面収差・コマ収差・歪曲収差・非点収差を補正しきれなくなる。
条件式(2)の下限値をこえて第2群G21の屈折力が弱まると、撮像光学系のバックフォーカスが長くなり光学全長の短縮による撮像光学系の小型化が困難となる。
条件式の(2)のパラメータ:f/|f2|は、より好ましくは、条件式(2)よりも若干狭い条件式:
(2A) 0.4 <f/|f2|< 0.60
を満足するのが良い。
【0019】
条件式(3)は、第4群G23のパワーに関するものである。
条件式(3)の上限値をこえて第4群G23の屈折力が強まると、像の光軸ずれが第4群G23の偏芯に対して「敏感に変化」するようになり、環境温度変化時の第4群G23の偏芯による「像の光軸ずれ」が大きくなり、第4群G23において歪曲収差、像面湾曲、非点収差が過剰に発生し、補正困難となる。
条件式(3)の下限値をこえて第4群G23の屈折力が弱まると、バックフォーカスの確保が困難になる。
条件式(3)のパラメータ:f/|f4|は、より好ましくは、条件式(3)よりも若干狭い条件式:
(3A) 0.4 <f/|f4|< 0.60
を満足するのが良い。
【0020】
条件式(4)は、第1群G10~第4群G23の相互の「パワーのバランス」に関するものである。
条件式(4)の上限値を超えると、環境温度変化時に、第1群G10~第4群G23が同時に偏芯した場合の「レンズ偏心」による「像の光軸ずれ」が大きくなる。
条件式(4)の下限値を超えると、レンズ全長の短縮化を行ないつつ、諸収差を良好に補正することができなくなる。
条件式(4)のパラメータ:fΣ(1/fi)(i=1~4)は、上記の如く、
(4) 1.2<fΣ(1/fi)(i=1~4)<1.7
と書ける。
この発明の撮像光学系は、上記構成において、条件式(1)~(4)と共に、以下の条件式(6)を満足するが、さらに、以下の条件式(5)を満足することが好ましい。
【0021】
(5) -3.0 <(R1+R2)/(R2-R1)< -1.0
(6) |α3-α4|<13×10-7/℃
条件式(5)、(6)におけるパラメータの記号の意味は以下の通りである。
「R1」 第1レンズL11(G10)の、物体側面の曲率半径:R1
「R2」 第1レンズL11(G10)の、像側面の曲率半径
「α3」 第3レンズL23aの材質の-30℃~70℃の温度範囲における平均線膨張係数
「α4」 第4レンズL23bの材質の-30℃~70℃の温度範囲における平均線膨張係数
この発明の撮像光学系は、前述の如く、第1群G10ないし第4レンズ群G23における「レンズ形状」やパワー配置(条件式(1)~(4))により、各種収差特性を良好に保ちつつ、レンズ偏心に起因する「像の光軸ずれ」の有効な抑制・軽減を実現するものであるが、さらに、第1群G10をなす第1レンズL11の「形状」や、第3群G22をなす第3レンズL23a、第4レンズL23bの材質を選択することにより、さらなる効果を得ることができる。
【0022】
条件式(5)は、第1レンズL11の「負のメニスカス形状」の好ましい範囲に関するものである。第1レンズL11は「像側に凹面を向けた負のメニスカスレンズ」であるから、R1>0、R2>0であり、且つ、R1>R2である。
従って、条件式(5)における分母は負であり、条件式(5)のパラメータが大きく(小さく)なると、メニスカスレンズの負の屈折力が、小さく(大きく)なる。
【0023】
条件式(5)のパラメータの増大は歪曲収差の増大につながり、後群G20内レンズとの歪曲収差のやりとりの増大により、第1レンズL11の偏心による「偏芯歪曲収差」も増大する。
【0024】
条件式(5)のパラメータの減少は、周辺光束が通る光線高さの増大を招き、第1レンズL11のレンズ系の増大を招く。
条件式(5)を満足することにより、像の光軸ずれを有効に抑制軽減しつつ、偏心歪曲収差の増大や、第1レンズL11のレンズ径増大を有効に回避できる。
【0025】
なお、条件式(5)のパラメータ:(R1+R2)/(R2-R1)は、より好ましくは、条件式(5)よりも若干狭い条件式:
(5A) -2.5 <(R1+R2)/(R2-R1)< -1.0
を満足するのが良い。
【0026】
条件式(6)のパラメータ:|α3-α4|が増大すると、温度変化による第3レンズL23aと第4レンズL23bとの「変形量の差」が増大する。
また、パラメータ:|α3-α4|の減少は、第3群G22を構成する2枚の接合レンズの材料が制限され、色収差を良好に補正し得る屈折率とアッベ数の硝種の選択の幅が狭くなる。
【0027】
条件式(6)を満足することにより、ペッツバール和のバランスを取りながら色収差を良好に補正し得る屈折率とアッベ数を持つ硝種の選択が容易となり、環境温度変化による、第3レンズL23a、第4レンズL23bの熱変形の差を有効に小さくでき、広い温度変化領域において、接合レンズの剥離の恐れをなくすことができる。
【0028】
条件式(6)のパラメータ:|α3-α4|は、より好ましくは、条件式(6)よりも若干狭い条件式:
(6A) 3×10-7/℃<|α3-α4|<10×10-7)/℃
を満足するのが良い。
なお、光学樹脂材料に比較して熱膨張率が小さく、環境変動による光学特性変化が小さいガラス製レンズを全レンズに採用することで、環境変動や経時変化耐性に優れた撮像光学系を構成することが可能となる。
【0029】
この発明の撮像光学系は勿論、1面以上の非球面を採用することができる。
2面以上の非球面を採用するにあたっては、第1レンズL11および第2レンズL22の「いずれか一方」が、少なくとも1面の非球面を有するとともに、第5レンズL24が少なくとも1面の非球面を有するようにすることが好ましい。
【0030】
第4群G23を構成する第5レンズL24は、撮像光学系における最終レンズである。この最終レンズの少なくとも1面に非球面を用いることで、諸収差(歪曲、球面、像面湾曲、コマ収差)を補正しながら、球面レンズのみの構成よりもレンズ全長を短くし、また、最終レンズL24の屈折力が極端に強くならないようにできる。
また、第1レンズL11の偏芯が、像の光軸ずれに極端に影響しないように、レンズ系全形で屈折力バランスを取ることが容易となる。
【0031】
第1レンズL11、第2レンズL22の何れか一方に非球面を用いることで、広画角、良好な結像性能を保ちながら、第1レンズL11、第2レンズL22の屈折力が極端に強くならないようにできる。
第1レンズL11に非球面を用いる場合、第1レンズL11の負の屈折力を保ちながら、歪曲収差の発生を有効に抑えることができる。
第1レンズL11での「アンダーの歪曲収差」の発生を抑えるには、軸外光束の主光線がレンズ面へ入射する角度を小さくすることが効果的である。
第1レンズL11の像側の凹面に、光軸から周辺に向かって発散力が弱まるような非球面を設定することにより、歪曲収差と共に、コマ収差、非点収差を補正しながら、第1レンズL11の屈折力が極端に強くならないようにできる。
第1レンズL11の歪曲収差の発生を抑えることで、第1レンズL11の歪曲収差をキャンセルさせるために後群G20内のレンズで発生させる歪曲収差も抑えることができ、各レンズが環境温度変化による偏芯で発生する歪曲収差(「偏芯歪曲収差」という。)も有効に抑えることができる。
【0032】
第2レンズL22に非球面を用いることにより、第1レンズL11で生じる歪曲収差、コマ収差、非点収差を補正しながら、第2レンズL22の屈折力が極端に強くならないようにできる。 後述する実施例においては、第1レンズL11で発生した歪曲収差、コマ収差、非点収差を補正するために、第2レンズL22の物体側凸面に「光軸から周辺に向かって屈折力が強まるような非球面」を設定し、歪曲収差、コマ収差、非点収差を補正しながら、第2レンズL22の屈折力が極端に強くならないようにしている。
なお、非球面レンズは球面レンズと比較して高価であり、撮像光学系の低コスト化を鑑みると、非球面レンズの使用は必要最低限に留めるべきことは言うまでもない。
【0033】
以下に撮像光学系の具体的な実施例を挙げるが、実施例に関連した「像の光軸ずれ」について説明する。
「像の光軸ずれ」を惹起する「レンズ偏芯」は、撮像光学系を構成する複数のレンズの個々の「光軸直交方向への偏芯」により生じ、この偏芯は「撮像光学系の環境温度の変化」により生じる。
環境温度変化によるレンズの偏芯は、レンズ毎に異なるが、以下に挙げる実施例や、これと同様の構成では、環境温度範囲:-30℃~70℃において、サブミクロンオーダーから、最大でも2μmを超えない。
個々のレンズの偏芯は、撮像光学系の光軸直交方向であるが、偏芯の向きは区々であり、偏芯量が同じでも、偏心の向きにより「レンズ偏心」は異なったものとなり「像の光軸ずれ」も異なる。
像の光軸ずれは、各レンズが「光軸を含む同一平面内」で光軸ずれを強め合うように偏芯するときに最も大きくなる。
そこで、光軸を含む同一平面内における各群G11~G23の偏芯量を表す変数を、第1群G11につきh1、第2群G21につきh2、第3群につきh3、第4群につきh4とし、像の光軸の位置:Zを、関数:f(h1,h2,h3,h4)を用いて、
Z=f(h1,h2,h3,h4)
とする。
【0034】
Z(0)=f(0,0,0,0)
は「レンズ偏心による像の光軸ずれが無い時の像の光軸」の位置である。
この状態で、第1群G11ないし第4群G23がそれぞれ、Δh1、Δh2、Δh3、Δh4だけ偏芯したとすると、このときの像の光軸位置は、
f(Δh1、Δh2、Δh3、Δh4)
であるが、1次までの近似で、
f(0,0,0,0)
+(∂f(0,0,0,0)/∂h1)Δh1
+(∂f(0,0,0,0)/∂h2)Δh2
+(∂f(0,0,0,0)/∂h3)Δh3
+(∂f(0,0,0,0)/∂h1)Δh3
となり、像の光軸ずれは、
(∂f(0,0,0,0)/∂h1)Δh1
+(∂f(0,0,0,0)/∂h2)Δh2
+(∂f(0,0,0,0)/∂h3)Δh3
+(∂f(0,0,0,0)/∂h1)Δh3
となる。
Δh1、Δh2、Δh3、Δh4は、何れも2μmを超えない微小量であるから、2次以上の変化は無視できる。
前述の如く、各群を構成するレンズの偏芯は「2μm」を超えないから、偏芯量:Δh1、Δh2、Δh3、Δh4として、それぞれ2μmとすると、
像の光軸ずれは、
{∂f(0,0,0,0)/∂h1
+∂f(0,0,0,0)/∂h2
+∂f(0,0,0,0)/∂h3
+∂f(0,0,0,0)/∂h4}×2
となる。
【0035】
この式において、例えば、∂f(0,0,0,0)/∂h3は、第1群G11ないし第4群G23のうち第3群G22のみを1μmだけ偏芯させ、他の群を光軸上に固定した場合の像の光軸のずれ量である。
【0036】
従って、第1群G11ないし第4群G23が、それぞれ2μmずつ偏芯した場合の「像の光軸ずれ」は、4つの群のうちの1つのみを偏芯させ、他の3つの群を固定した場合の「像の光軸ずれ」を4つの群につき加算し、2倍したもので与えられる。
【0037】
このとき、個々の群の偏芯の向きは、「像の光軸ずれ」が互いに強め合うように設定する。
【0038】
「像の光軸ずれ」は、最大像高に対して0.5%以下であることが好ましい。
【0039】
また、撮像素子で読み取った読み取り画像に対しては、その歪曲収差分を電子的に補正することができるが、補正の手法や補正に伴う画像劣化を考慮すると、撮影光学系で生じる歪曲収差は、最大で-2%未満であることが望ましい。
【0040】
「実施例」
以下、撮像光学系の具体的な実施例を4例挙げる。
各実施例における共通の記号の意味は、以下の通りである。
f:全系の焦点距離
Fno:Fナンバ
ω:半画角(度)
R:曲率半径
D:面間隔
Nd:屈折率
νd:アッベ数 。
【0041】
また、「非球面:X」は、近軸曲率(近軸曲率半径:Rの逆数):C、光軸からの高さ:H、円錐定数:K、非球面係数:Ai(i=2~14)を用いて、周知の次式で表現される。
X=CH2/[1+√(1-(1+K)C2H2)]
+A4・H4+A6・H6+A8・H8+A10・H10+A12・H12+A14・H14 。
【0042】
「実施例1」
実施例1のデータを
図2(a)に示す。
【0043】
図2(a)において、左端の欄における数字は、物体側から像側へ向かう面番号を表す。この面番号には開口絞りの面番号:5、各種フィルタに対応する透明平行平板F1の面番号:12、13、撮像素子のカバーガラスCGの面番号:14、15が含まれている。
面間隔:Dにおける最下段の「BF」は、カバーガラスCGの像側面から像面Imまでの距離を表している。また、レンズ材質のガラスにおいて(OHARA)は「株式会社オハラ製」、(SUMITA)は「株式会社住田光学ガラス製」を示し、これらにおける光学硝種名(商品名)を挙げてある。以下の他の実施例においても同様である。
また、曲率半径:R=∞は「平面」であり、面番号に「*」印を付した面は非球面である。
【0044】
実施例1の撮像光学系における非球面データを
図2(b)に示す。
なお、
図2(b)に記載された数値において、例えば「5.8534E-04」は「5.8534×10
-4」を表す。以下の他の実施例においても同様である。
実施例1の撮像光学系の、全系の焦点距離:f、Fナンバ:Fno、画角:2wを、
図3(a)に、また、条件式:(1)~(6)の各パラメータにかかる量の値を(b)に、条件式(1)~(6)の各パラメータの値を(c)に示す。
図3(d)には「像の光軸ずれ」の値を示す。
図3(d)に示す像の光軸ずれについて説明を補足する。
像の光軸ずれは、前述の如く「レンズ偏心」により生じる。この発明の撮像光学系の場合、接合レンズL23a、L23bを含む5枚のレンズで構成されるが、
図3(d)の左欄において、第1群の第1レンズL11を「L1」、第2群の第2レンズL22をレンズ「L2」、第3群をなす第3レンズL23a、第4レンズL23bの接合レンズを「L34」、第4群の第5レンズを「L5」で表している。
【0045】
図3(d)の右欄において、これら「L1」~「L5」に対する数値は、それぞれ、これらレンズのうちの1つのみを1μm偏芯させ、他のレンズの偏芯量を0とした場合の「像の光軸ずれ」を表している。
【0046】
例えば、「L5」に対する「7.8E-04mm(=0.78μm)」は、上の説明における「∂f(0,0,0,0)/∂h4」に相当する。
【0047】
図3(d)における「SUM1」は、「L1ないしL5」における「像の光軸ずれ」を合算したものである。先に説明したように、この値は、第1群ないし第4群が、それぞれ1μm偏芯したときの「像の光軸ずれ」に相当する。SUM2は第1群ないし第4群が、それぞれ2μm偏芯したときの「像の光軸ずれ」に相当する。
【0048】
また、「SUM2/Y’」は第1群ないし第4群が、それぞれ2μm偏芯したときの、最大像高に対する、レンズユニット全系の「像の光軸ずれ」の割合である。
【0049】
実施例1においては、各群G1~G4が「像の光軸ずれを強め合う方向」に偏芯した場合においても、レンズユニット全系の光軸ずれは、最大像高Y’に対して0.18%であり、0.5%よりも十分に小さい。
【0050】
図4に、実施例1の撮像光学系の収差図を示す。球面収差、非点収差、歪曲収差(
図4の上側の図)、コマ収差(下側の図)は、何れも、環境温度:20℃における無限遠物体の結像状態におけるものである。各収差図において、「d」はd線(λ=587.6nm)、「g」はg線(λ=435.8nm)を表している。非点収差の図における実線はサジタル収差、破線はメリディオナル収差を表す。
【0051】
「実施例2」
実施例2のデータおよび非球面データを、
図2に倣って
図5(a)、
図5(b)に示す。
実施例2の撮像光学系の、全系の焦点距離:f、Fナンバ:Fno、画角:2wを、
図6(a)に、また、条件式:(1)~(6)の各パラメータにかかる量の値を(b)に、条件式(1)~(6)の各パラメータの値を(c)に示す。
図6(d)には「像の光軸ずれ」の値を、
図3(d)に倣って示す。
図7に、実施例2の撮像光学系の収差図を
図4に倣って示す。
【0052】
「実施例3」
実施例3のデータおよび非球面データを、
図2に倣って
図8(a)、
図8(b)に示す。
実施例3の撮像光学系の、全系の焦点距離:f、Fナンバ:Fno、画角:2wを、
図9(a)に、また、条件式:(1)~(6)の各パラメータにかかる量の値を(b)に、条件式(1)~(6)の各パラメータの値を(c)に示す。
図9(d)には「像の光軸ずれ」の値を、
図3(d)に倣って示す。
図10に、実施例3の撮像光学系の収差図を
図4に倣って示す。
【0053】
「実施例4」
実施例4のデータ及び非球面データを、
図2に倣って
図11(a)、
図11(b)に示す。
実施例4の撮像光学系の、全系の焦点距離:f、Fナンバ:Fno、画角:2wを、
図11(a)に、また、条件式:(1)~(6)の各パラメータにかかる量の値を(b)に、条件式(1)~(6)の各パラメータの値を(c)に示す。
図12(d)には「像の光軸ずれ」の値を、
図3(d)に倣って示す。
図13に、実施例4の撮像光学系の収差図を
図4に倣って示す。
【0054】
各実施例の撮像光学系は、何れも、FNo.1.9と明るく、半画角が略30°と広画角であり、各実施例とも、収差図に示すように各収差は高いレベルで補正され、球面収差、軸上色収差は問題にならないほど小さい。非点収差、像面湾曲、倍率色収差も十分に小さく、コマ収差やその色差の乱れも最周辺部まで良く抑えられている他、歪曲収差も「絶対値で2.0%未満」となっており、環境温度変化時の「像の光軸ずれ」を抑えた、良好な光学性能を確保できている。
【0055】
上に示した実施例では、環境温度変化によるレンズの偏芯が「環境温度範囲:-30℃~70℃において、サブミクロンオーダーから、最大でも2μmを超えない」場合を示した。
第1~第4群の環境温度変化によるレンズの偏芯量は、各レンズの外径、レンズ保持方法、レンズや保持部材の線膨張係数に応じて異なり、外径の大きいレンズの場合には、10μm程度の偏芯が生じる場合がある。このように、偏心量の大きいレンズを含む場合でも、この発明のレンズ構成と、条件式(1)~(4)、さらにはこれらと、条件式(5)や(6)を満足させつつ、環境温度変化に拘らず「像の光軸ずれ」を有効に軽減させた撮像光学系を実現できる。
【0056】
以下、この発明の撮像光学系を用いる「カメラ装置」の実施の形態を説明する。この発明のカメラ装置は、上に説明した撮像光学系を用いるものであり、種々の撮像装置、即ち「撮影用のカメラ装置」、「検査用カメラ装置」、「ステレオカメラ装置」、「車載カメラ装置」や「監視用カメラ装置」として実施できる。
「撮影用のカメラ装置」であるデジタルカメラの実施形態を
図14、
図15を参照して説明する。
図14は、デジタルカメラの外観を示している。
図14(a)は全面側図、(b)は背面側図である。
図14に示すように、デジタルカメラ100は、筐体(カメラボディ)5に、撮像光学系1、光学ファインダ2、ストロボ(電子フラッシュライト)3、シャッタボタン4、電源スイッチ6、液晶モニタ7、操作ボタン8及びメモリカードスロット9等を装備している。
図15に示すように、デジタルカメラ100は、筐体5内に、中央演算装置(CPU)11、画像処理装置12、受光素子13、信号処理装置14、半導体メモリ15及び通信カード16等を具備している。
図15においては、光学ファインダ2は「ファインダ」と、また、撮像光学系1は「撮影レンズ」とされている。また、受光素子13は上に説明した「撮像素子」である。
【0057】
デジタルカメラ100は、撮像光学系1と、CMOS(相補型金属酸化物半導体)撮像素子又はCCD(電荷結合素子)撮像素子等を用いてイメージセンサとして構成された受光素子13とを有し、撮像光学系1によって結像される被写体光学像を受光素子13によって読み取る。撮像光学系1として、上述した実施例1~実施例4の撮像光学系を用いることができる。
受光素子13の出力は、中央演算装置11によって制御される信号処理装置14によって処理され、デジタル画像情報に変換される。信号処理装置14によってデジタル化された画像情報は、やはり中央演算装置11によって制御される画像処理装置12において所定の画像処理を施された後、不揮発性メモリ等の半導体メモリ15に記録される。この場合、半導体メモリ15は、メモリカードスロット9に装填されたメモリカードや、デジタルカメラ本体にオンボードで内蔵された半導体メモリを用いることもできる。
【0058】
液晶モニタ7には、撮影中の画像を表示することもできるし、半導体メモリ15に記録されている画像を表示することもできる。また、半導体メモリ15に記録した画像は、通信カードスロット(明確には図示していないが、メモリカードスロット9と兼用することもできる)に装填した通信カード16等を介して外部へ送信することも可能である。
【0059】
撮像光学系1は、カメラの携帯時には、その対物面がレンズバリア(明確には図示していない)により覆われており、ユーザが電源スイッチ6を操作して電源を投入すると、レンズバリアが開き、対物面が露出する構成とする。
半導体メモリ15に記録した画像を液晶モニタ7に表示させたり、通信カード16等を介して外部へ送信させたりする際には、操作ボタン8を操作する。半導体メモリ15及び通信カード16等は、メモリカードスロット9及び通信カードスロット等のような、それぞれ専用または汎用のスロットに装填して使用される。
【0060】
図16を参照して「検査カメラ装置」の実施の1形態を説明する。
【0061】
以下に説明する検査カメラ装置は、所謂「製品検査」を行うための検査装置である。
製品検査には種々の検査や検査項目があり得るが、簡単のために多数個が製造される製品の「傷の有無」を検査する場合を例にとって説明する。
図16(a)において、符号20は「撮像部」、符号23は「検査プロセス実行部」を示し、符号24は「表示部」を示す。また、符号Wは「製品」、符号26は「製品搬送ベルト(以下においては単に「搬送ベルト26」と言う。)」を示している。
撮像部20は、検査装置におけるカメラ機能部であり、撮像光学系21と画像処理部22とを有する。
検査対象としての製品Wは、搬送ベルト26上に等間隔に置かれ、搬送ベルト26により矢印方向(図の右方)へ等速的に搬送される。
撮像光学系21は、検査対象である製品Wの像を結像するものであり、この発明の撮像光学系、具体的には上に説明した実施例1ないし4の何れかを用いることができる。
製品検査は、
図16(b)に示す「準備工程」、「検査工程」、「結果表示工程」の各工程に從って行われる。これらの工程のうち、「検査工程と結果表示工程」が「検査プロセス」である。
【0062】
「準備工程」では、検査条件を設定する。
即ち、搬送ベルト26により搬送される製品Wの大きさや形状、傷の有無を検査する部位等に応じて、撮像光学系21の撮影位置、撮影態位(結像レンズの向きや撮影対象との距離、即ち、物体距離)を定める。
そして、有無を検出すべき「傷」の位置や大きさに応じて、撮像光学系21の位置を設定する。
一方において「傷のないことが確認されているモデル製品」を搬送ベルト26上の検査位置に置いて、これを結像レンズ21により撮影する。
撮影は、画像処理部22に配置された撮像素子による撮像で行われ、撮像素子により撮像された画像は「画像情報」とされデジタルデータ化する画像処理が行われる。
【0063】
画像処理されたデジタルデータは、検査プロセス実行部23に送られ、検査プロセス実行部23は、前記デジタルデータを「モデルデータ」として記憶する。
「検査工程」では、製品Wが搬送ベルト26上に「モデル製品と同一態位」に置かれ、搬送ベルト26により順次搬送される。搬送される個々の製品Wが「検査位置」を通過する際に撮像光学系21による撮影が行われ、画像処理部22でデジタルデータ化されて、検査プロセス実行部23に送られる。
検査プロセス実行部23は「コンピュータやCPU」として構成され、画像処理部22を制御し、また、画像処理部22を介して撮像光学系21の撮影を制御する。
【0064】
検査プロセス実行部23は、画像処理部22でデジタルデータ化された「製品Wの画像データ」を受けると、この画像データと、前記記憶したモデルデータのマッチングを行う。
撮影された製品Wに「傷」がある場合は、画像データとモデルデータとが合致しないので、この場合には、当該製品は「不良品」と判定する。
また、製品Wに傷が無い場合は、該製品の画像データとモデルデータが合致するので、この場合は、当該製品が「良品」であると判定する。
「結果表示工程」は、検査プロセス実行部23による個々の製品の「良品、不良品」の判定結果を、表示部24に表示する工程である。
なお、装置の構成上は、検査プロセス実行部23と表示部24とが「検査プロセス実行手段」を構成する。
【0065】
次に、
図17を参照して、ステレオカメラ装置の実施の形態を説明する。
図17において、符号111A、111Bは撮像光学系で、同一仕様のものである。
撮像光学系111A、111Bとしては、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のもの、具体的には、上述の実施例1ないし4の適宜のものを用いる。
符号112A、112Bは撮像素子であり、例えばCCDセンサやCMOSセンサを用いることができる。
撮像光学系111A、111Bは、光軸AXAと光軸AXBとを互いに平行にして、所定の距離:D(基線長という。)を隔して配置されている。
撮像光学系111Aは、物体Obの像を撮像素子112Aの受光面に結像させる。
撮像光学系111Bは、物体Obの像を撮像素子112Bの受光面に結像させる。
【0066】
撮像素子112A、112Bは、撮像光学系111A、111Bにより結像した画像を撮影画像のデータとして制御演算部113に入力させる。
コンピュータやCPUとして構成された制御演算部13は、撮像素子112A、112Bから入力される画像情報をデジタル情報化する。
そして、デジタル情報化された画像情報に基づき、物体Obまでの距離を演算により算出する。即ち、制御演算部113は「撮像素子112A、112Bから入力され、デジタル情報化された画像情報」に対して歪曲収差の電子的な補正を行い、このように歪曲収差を補正された画像情報に基づき、物体Obまでの距離を演算算出する。
制御演算部113では、各撮像素子112A、112Bに結像する物体Obの像位置に基づき、像位置間の距離:D+Δを求める。
撮像光学系の焦点距離:f、上記基線長:Dを用いると、上記の如く求められた「D+Δ」により、撮像面から物体Obまでの距離:Zは、次式:
Z=f{1+(D/Δ)}
により算出される。
これが、ステレオカメラ装置による距離測定である。
【0067】
図18は、車載カメラ装置の実施の1形態を概略図として示す図である。
図18(a)において、符号114により示された撮像装置は「車載カメラ装置」として、車両AUに載置され、車両外の画像情報を取得する。
車載カメラ装置114は、
図18(b)に示すように、撮像系120と制御演算部113Cとを有する。撮像系120は撮像光学系111Cと撮像素子112Cとを有する。
車両AUに搭載された車載カメラ装置114は、車両外の画像情報を取得してデジタル情報化する。デジタル情報化された画像情報は、制御演算部113Cで画像処理等のデジタル処理を受け、適宜の方法で表示される。
撮像光学系111Cとしては、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のもの、具体的には、実施例1ないし4の適宜のものを用いる。
なお、
図18(b)における撮像系120と制御演算部13Cの部分(車載カメラ装置114)を、
図17の「ステレオカメラ装置」に代えることができる。
即ち、
図18に示すステレオカメラ装置は、これを車載カメラ装置として車両に搭載することができる。
【0068】
図14、
図15に即して説明したデジタルカメラ、
図16に即して説明した検査カメラ装置、
図17に即して説明したステレオカメラ装置、
図18に即して説明した車載カメラ装置は、何れも、この発明の撮像光学系を用いるので、明るく、画角の広い画像を撮像でき、また、環境温度の広範囲な変化に対しても影響を受けにくいので、広い使用環境での使用が可能である。
【0069】
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、カメラ装置は、動画撮影を主としたビデオカメラ、及び在来の所謂銀塩フィルムを用いるフィルムカメラ等を含む主として撮影専用のカメラ装置としても用い得る。
また、このようなカメラ装置だけでなく、携帯電話機や、PDA(personal data assistant)などと称される携帯情報端末装置、さらにはこれらの機能を含む、いわゆるスマートフォンやタブレット端末などの携帯端末装置を含む種々の情報装置に、デジタルカメラ等に相当する撮像機能が組み込まれることが多い。このような情報装置にも、この発明の撮像光学系を用いることができる。
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0070】
G10 第1群
L11 第1レンズ
G21 第2群
L22 第2レンズ
G22 第3群
L23a 第3レンズ
L23b 第4レンズ
G23 第4群
L24 第5レンズ
Im 像面
CG 撮像素子のカバーガラス
F1 各種フィルタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【文献】特許第6372744号公報
【文献】特許第6459521号公報
【文献】特開2015-118152号公報
【文献】特開2018-077291号公報
【文献】特開2019-020505号公報