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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】化学強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019186403
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021059481
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】静井 章朗
(72)【発明者】
【氏名】大原 盛輝
(72)【発明者】
【氏名】野中 寧
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-178004(JP,A)
【文献】国際公開第2017/087742(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062141(WO,A1)
【文献】特表2005-529056(JP,A)
【文献】特公昭47-050849(JP,B1)
【文献】大木道則他編,化学大辞典,日本,株式会社東京化学同人,2005年07月01日,p.1142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩にケイ酸を添加する工程と、
前記溶融塩にガラスを接触させイオン交換する工程と、を含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記溶融塩に前記ケイ酸を添加する工程の後における前記溶融塩は、
前記溶融塩を固化させて純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液とした際のpHが5.0以上8.5以下である、化学強化ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩に前記ケイ酸を添加する工程の前における前記溶融塩は、
前記溶融塩を固化させて純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液とした際のpHが8.0以上10.5以下である、請求項1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記溶融塩に前記ケイ酸を添加する工程の前に、
前記溶融塩を固化させて純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液とした際のpHを測定する工程を含む、請求項1または2に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記溶融塩に前記ガラスを接触させイオン交換する工程の後に、
前記化学強化ガラスの白曇り外観不良の発生を確認する工程、
前記化学強化ガラスに前記白曇り外観不良が発生した場合、前記溶融塩にケイ酸を添加する工程、および
前記溶融塩に新たなガラスを接触させイオン交換する工程、を含む請求項1から3のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ケイ酸がシリカゲルSiO・mHO(m=0.1~1.0)である、請求項1から4のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記シリカゲルの二次粒子の細孔における空孔容積が0.20ml/g以上である、請求項5に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記シリカゲルの二次粒子径が5.0mm以下である、請求項5または6に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記シリカゲルの二次粒子径が0.03mm以上であり、前記シリカゲルを網目状の容器内に入れて前記溶融塩に添加する、請求項5から7のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記シリカゲルの前記溶融塩に対する添加量は理論添加量の10倍~10000倍である、請求項5から8のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記ケイ酸がメタケイ酸である、請求項1から4のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記ガラスはリチウム含有ガラスである、請求項1から10のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記溶融塩に前記ケイ酸を添加する工程の前における前記溶融塩は、
前記溶融塩を固化させて純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液とした際のpHと、前記溶融塩中のLi濃度とが、下記式を満たす、請求項11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
Y > -1930X+18300
〔Y:前記溶融塩中のLi濃度(ppm)、X:前記溶融塩のpH〕
【請求項13】
前記溶融塩に前記ケイ酸を添加する工程の後における前記溶融塩は、
前記溶融塩を固化させて純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液とした際のpHと、前記溶融塩中のLi濃度が、下記式を満たす、請求項11または12に記載の化学強化ガラスの製造方法。
Y < -1930X+18300
〔Y:前記溶融塩中のLi濃度(ppm)、X:前記溶融塩のpH〕
【請求項14】
前記溶融塩に前記ガラスを接触させイオン交換する工程より前に、
前記溶融塩にリチウム吸着剤を添加する工程を含む、請求項11から13のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項15】
前記リチウム吸着剤が、前記溶融塩を構成するアニオンとは異なるアニオン種を含む化合物である、請求項14に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項16】
前記リチウム吸着剤は、メタケイ酸ナトリウムまたはメタケイ酸カリウムである、請求項14または15に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項17】
前記ケイ酸がシリカゲルであり、前記リチウム吸着剤がメタケイ酸ナトリウムまたはメタケイ酸カリウムであり、前記リチウム吸着剤の前記溶融塩に対する添加量は前記シリカゲルの前記溶融塩に対する添加量の6質量倍以下である、請求項14から16のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンなどの携帯端末のディスプレイ用カバーガラスとして、落下に耐えうる強度をもったガラスが要求されており、高い表面圧縮応力値(CS)及び大きな圧縮応力層深さ(DOL)を有した化学強化ガラスの開発が盛んに行われている。化学強化処理においては、化学強化用ガラスが溶融塩に浸漬され、化学強化用ガラス中のイオン半径の小さいアルカリイオンと溶融塩中のイオン半径の大きいアルカリイオンが交換されることにより、化学強化用ガラスの表面に圧縮応力層が形成されて化学強化ガラスが得られる。
【0003】
溶融塩としては、例えば硝酸ナトリウムや硝酸カリウムといった硝酸塩を含む塩が用いられる。また、リチウムを含有するガラスの化学強化においては、ガラスから溶融塩中に溶出したリチウムがイオン交換を阻害するため、リチウム吸着剤を添加する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-71521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、硝酸塩を長時間加熱し続けると、化学強化処理のためにガラスを溶融塩に浸漬する際、ガラス表面に析出物が生成し、部分的に白く曇ったように見える外観不良(以下、白曇り外観不良とも略す。)が発生しうる。また、リチウムを含有するガラスの化学強化においては、リチウム吸着剤の添加により同様の外観不良が発生しうる。
【0006】
以上の背景を鑑みて、化学強化ガラスの白曇り外観不良を抑制する技術が求められていた。本発明は、白曇り外観不良の低減された化学強化ガラスを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、溶融塩にケイ酸を添加する工程と、前記溶融塩にガラスを接触させイオン交換する工程と、を含む、化学強化ガラスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化学強化ガラスの製造方法によると、溶融塩にケイ酸を添加する工程を含むことにより、白曇り外観不良の低減された化学強化ガラスを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、溶融塩にシリカゲルを添加した後の、溶融塩のpHと経過時間との関係を示す図である。
図2A図2Aは、溶融塩にシリカゲルを添加した際の、溶融塩のpHとシリカゲルの平均粒径(mm)との関係を示す図である。
図2B図2Bは、溶融塩にシリカゲルを添加した際の、溶融塩のpHとシリカゲルの平均細孔径(Å)との関係を示す図である。
図2C図2Cは、溶融塩にシリカゲルを添加した際の、溶融塩のpHとシリカゲルの比表面積(m/g)との関係を示す図である。
図2D図2Dは、溶融塩にシリカゲルを添加した際の、溶融塩のpHとシリカゲルの空孔容積(ml/g)との関係を示す図である。
図3図3は、溶融塩にシリカゲルを添加した際の、溶融塩のpHと溶融塩中のLiイオン濃度との関係を示す図である。図3において、黒丸は実施例を、白丸は比較例を示す。破線は化学強化ガラスにおける白曇り外観不良の発生率が80%の閾値を示す線である(Y=-1930X+18300)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の製造方法の実施形態について説明する。実施形態1では、1段階のイオン交換工程によりガラスを化学強化する場合、実施形態2では、リチウム含有ガラスにおいて、2段階のイオン交換工程によりガラスを化学強化する場合、実施形態3では、リチウム含有ガラスにおいて、ナトリウム、カリウムの混合塩との接触による1段階のイオン交換により化学強化する場合、実施形態4では、一度化学強化処理を施したガラスを再び溶融塩に接触させてイオン交換し、ガラス表面に形成された応力層を緩和する工程を有する場合についてそれぞれ説明する。
【0011】
<実施形態1>
本発明の化学強化ガラスの製造方法では、溶融塩にケイ酸を添加する工程と、前記溶融塩にガラスを接触させイオン交換する工程と、を含むことを特徴とする。本発明の実施形態1では、ガラスを1段階のイオン交換により化学強化する場合について説明する。
【0012】
実施形態1は下記工程を含む。以下では、各工程について詳細を説明する。
(工程S101)ガラス準備工程
(工程S102)溶融塩調製工程
(工程S103)溶融塩のpH測定工程
(工程S104)ケイ酸添加工程
(工程S105)イオン交換工程
(工程S106)白曇り外観不良確認工程
【0013】
(工程S101)ガラス準備工程
工程S101はガラスを用意する工程である。本発明で使用されるガラスは、成形、化学強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用できる。実施形態1におけるガラスとしては、例えばナトリウムを含むガラスが挙げられる。具体的には、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等が挙げられる。
【0014】
ガラスの組成としては特に限定されないが、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。
(1)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを50~74%、Alを1~15%、NaOを6~18%、KOを0~3%、MgOを2~15%、CaOを0~6%、ZrOを0~5%およびTiOを0~1%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が76%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12~25%であるガラス
(2)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを55.5~80%、Alを8~20%、NaOを8~25%、KOを0~3%、TiOを0~1%、ZrOを0~5%、アルカリ土類金属RO(ROはMgO+CaO+SrO+BaOである)を1%以上含有するガラス
(3)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを56~72%、Alを8~20%、Bを3~20%、NaOを8~25%、KOを0~5%、MgOを0~15%、CaOを0~15%およびTiOを0~1%含有するガラス
(4)酸化物基準の質量%で表示した組成で、SiOを60~72%、Alを1~18%、MgOを1~5%、CaOを0~5%、NaOを12~19%、KOを0~5%含有し、アルカリ土類金属RO(ROはMgO+CaO+SrO+BaOである)を1%以上含有するガラス
(5)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを55.5~80%、Alを12~20%、NaOを8~25%、Pを2.5%以上、アルカリ土類金属RO(ROはMgO+CaO+SrO+BaOである)を1%以上含有するガラス
(6)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを57~76.5%、Alを12~18%、NaOを8~25%、Pを2.5~10%、アルカリ土類金属ROを1%以上含有するガラス
(7)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを56~72%、Alを8~20%、Bを3~20%、NaOを8~25%、KOを0~5%、MgOを0~15%、CaOを0~15%、SrOを0~15%、BaOを0~15%およびZrOを0~8%含有するガラス
【0015】
(工程S102)溶融塩調製工程
工程S102は、工程S101のガラスを化学強化するための溶融塩を調製する工程である。本明細書において、「溶融塩」とは、溶融塩を含有する溶融塩組成物を包含する。
【0016】
化学強化処理は、ガラスを溶融塩に接触させ、ガラスの表面をイオン交換することで圧縮応力が残留する表面層を形成させる。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。
【0017】
したがって、溶融塩としては、上記イオンを含むものが好ましい。また、溶融塩は化学強化を行うガラスの歪点(通常500~600℃)以下に融点を有するものが好ましく、本実施形態においては硝酸塩が用いられる。すなわち、例えば、ナトリウム含有ガラスであれば、硝酸カリウムを含有する溶融塩に接触させることで、ガラス表面に応力層を形成できる。
【0018】
また、イオン交換工程は、ガラス内に形成させる所望の圧縮応力のプロファイルにより、適宜設計される。例えばイオン交換工程を1段階で行ってもよく、2段階で行ってもよい。実施形態1では、1段階のイオン交換工程により化学強化する場合について説明する。
【0019】
1段階のイオン交換工程により化学強化を行う場合、溶融塩における硝酸カリウムの含有量は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上であり、最も好ましくは90質量%以上である。
【0020】
溶融塩の温度は、被強化ガラスの歪点(通常500~600℃)以下が好ましく、より高い圧縮応力層深さを得るためには特に350℃以上が好ましく、処理時間の短縮及び低密度層形成促進のために380℃以上がより好ましく、410℃以上がさらに好ましい。なお、溶融塩の温度が450℃以上であると、硝酸塩の分解反応により、溶融塩のpHが上昇しやすい。
【0021】
(工程S103)溶融塩のpH測定工程
工程S103は、溶融塩のpHを測定する工程である。なお、本工程は任意の工程である。すなわち、工程S103により溶融塩におけるpHの上昇を確認した後に工程S104によりケイ酸を溶融塩に添加してもよいし、工程S103を経ずにpHの上昇を予測してあらかじめ溶融塩にケイ酸を添加してもよい。工程S103で溶融塩におけるpHの上昇を確認し、工程S104のケイ酸添加工程を実施することにより、溶融塩のpHを常に一定値以下に保ち、白曇り外観不良の発生を抑制できるため好ましい。
【0022】
ここで、本願で「溶融塩のpH」と称した場合は、溶融塩を固化させて純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液とした際のpHを意味する。溶融塩のpHは、溶融塩中のOH濃度の指標となる値である。
【0023】
硝酸塩を含む溶融塩を高温で長時間加熱すると、硝酸塩が分解することにより、溶融塩のpHが上昇することがある。以下に反応式を示す。
【0024】
【化1】
【0025】
ここで、HOは、溶融塩上部の大気の水蒸気圧に応じて、溶融塩中に溶解したHOと考えられる。なお、pH上昇の原理はこれに限られず、その他の原理で説明されてもよい。
【0026】
上述の理由などにより、溶融塩のpHが上昇すると、溶融塩中のOHが化学強化中にガラス表面のネットワークを切断するため、ガラス表面に析出物が生成し、ガラス表面が部分的に白く曇る様な外観不良が発生しうる。
【0027】
化学強化に用いられる溶融塩のpHは、一般的に5.0以上であり、溶融塩のpHが8.0を超えると、溶融塩中のOHが増加する。溶融塩のpHが8.5を超えると、化学強化ガラスの表面において白曇り外観不良が発生し始め、pHが9.0を超えると、白曇り外観不良の発生率が50%を超える。
【0028】
したがって、工程S104のケイ酸添加工程は、溶融塩のpHが例えば8.0以上の場合実施されることが好ましい。工程S104のケイ酸添加工程は、溶融塩のpHが例えば10.5以下、好ましくは9.5以下、より好ましくは8.5以下において実施されることが好ましい。このようにすることで、溶融塩のpHの上昇による化学強化ガラスの白曇り外観不良の発生を有意に抑制できる。
【0029】
(工程S104)ケイ酸添加工程
工程S104は、溶融塩にケイ酸を添加する工程である。工程S104は本発明に必須の工程であり、溶融塩にケイ酸を添加することにより、溶融塩のpHを低下できる。
【0030】
本発明において、ケイ酸とは、化学式nSiO・xHOで表されるケイ素、水素、酸素からなる化合物を指す。ここで、n、xは自然数である。このようなケイ酸の一種としては、例えばメタケイ酸(SiO・HO)、メタ二ケイ酸(2SiO・HO)、オルトケイ酸(SiO・2HO)、ピロケイ酸(2SiO・3HO)、シリカゲル[SiO・mHO(mは0.1~1の実数)]等が挙げられる。
【0031】
溶融塩にケイ酸を添加すると、溶融塩中のOHイオンと、ケイ酸中のシラノール基とが脱水反応を起こすことにより、溶融塩のpHを低下させ、中性に戻すことができる。以下に、具体例としてメタケイ酸を溶融塩に添加した場合の反応式を示す。
【0032】
【化2】
【0033】
前記反応により、溶融塩にケイ酸を添加することにより、化学強化工程における溶融塩のpHを低下できる。なお、pH低下の原理はこれに限られず、その他の原理で説明されてもよい。
【0034】
なお、工程S104は工程S105におけるイオン交換工程の間に実施してもよいし、イオン交換を実施していない間に実施してもよい。具体的には例えば、化学強化用ガラスが浸漬されている溶融塩にケイ酸を添加してもよいし、化学強化用ガラスが浸漬されていない溶融塩にケイ酸を添加してもよい。好ましくは、化学強化用ガラスが溶融塩に浸漬されていない期間に、工程S104を実施することで、ガラス表面への異物の付着を抑制できる。
【0035】
ケイ酸を溶融塩に添加する方法は特に限られず、ケイ酸の粒径や性質に応じて好適な方法が用いられる。例えば溶融塩に直接ケイ酸を投入してもよく、網目状の容器にケイ酸を入れて投入してもよい。容器の材質は、腐食耐性の観点で、SUS材(SUS304やSUS316等)やチタン材が好ましい。
【0036】
溶融塩に添加したケイ酸は、溶融塩が中性に戻った後、速やかに溶融塩から回収されることが好ましい。pHを低下させて安定化する点から、溶融塩にケイ酸を添加してから回収するまでの時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは8時間以上である。また、ガラス表面に異物が付着することを抑制する点から、好ましくは120時間以下である。
【0037】
ケイ酸を添加した後の溶融塩のpHは、8.5以下が好ましく、より好ましくは8.0以下、更に好ましくは7.5以下である。一方、ケイ酸を添加した後の溶融塩のpHは一般的に5.0以上であることが好ましい。ケイ酸を添加した後の溶融塩のpHが前記範囲であると、工程S106でガラスを溶融塩に接触させた際、溶融塩のpHの上昇による化学強化ガラスの白曇り外観不良の発生を有意に抑制できる。
【0038】
以下では、溶融塩に添加するケイ酸(以下、pH低下剤とも略す)として、特にシリカゲルまたはメタケイ酸を選択した場合について、詳細を説明する。
【0039】
(pH低下剤がシリカゲルである場合)
溶融塩にpH低下剤としてシリカゲルを添加する場合について説明する。シリカゲルは表面にシラノール基を有する無孔質状の一次粒子が凝集し、微小な多孔質を有する二次粒子を形成している。シリカゲルによる溶融塩のpH低下作用は、溶融塩中のOHが、シリカゲルの一次粒子表面のシラノール基と反応することにより発生する。
【0040】
シリカゲルは二次粒子が比較的大きいため、溶融塩に沈降しやすく、投入や回収がしやすいという利点がある。また、粉塵が舞う恐れがなく、作業者の安全を確保できる。更に、多孔体であり、一次粒子の表面に溶融塩が供給されやすいため、反応性に優れ、溶融塩のpHを低下する効果が大きい。以上の観点から、シリカゲルはpH低下剤として好ましい。
【0041】
ここで、溶融塩のpHを低下する効果が得られやすいシリカゲルの構造について説明する。シリカゲルによる溶融塩のpH低下反応は拡散律速反応であると考えられる。したがって、シリカゲルによる溶融塩のpHを低下する効果を向上するには、溶融塩中のOHイオンが、シリカゲルの一次粒子表面へ供給されやすい構造のシリカゲルを用いることが有効である。
【0042】
前記構造の指標として、シリカゲルの二次粒子の細孔の空孔容積、平均細孔径、二次粒子の比表面積、平均粒子径等が挙げられる。このうち、特に細孔の空孔容積、平均細孔径、および平均粒子径が、溶融塩のpHの低下に顕著な影響を与える。
【0043】
シリカゲルの二次粒子の細孔における空孔容積は溶融塩のpHを低下する効果に最も影響を与える因子である。空孔容積は大きいほど、溶融塩が二次粒子の内部に拡散しやすいため、溶融塩のpHを低下する効果が向上し、また、溶融塩のpHが下がるまでにかかる時間を短縮できるため、好ましい。空孔容積は、好ましくは0.20ml/g以上、より好ましくは0.60ml/g以上、更に好ましくは1.00ml/g以上である。一方、空孔容積が大きすぎると、比表面積が小さくなり、反対に反応性が低下することから、空孔容積は2.0ml/g以下が好ましい。
【0044】
シリカゲルの平均細孔径が大きいほど、溶融塩が二次粒子の内部に拡散しやすいため、溶融塩のpHを低下する効果が向上し、また、溶融塩のpHが下がるまでにかかる時間を短縮できるため、好ましい。平均細孔径は、好ましくは2.0nm以上、より好ましくは4.0nm以上、更に好ましくは6.0nm以上である。一方、二次粒子の平均細孔径が大きすぎると、比表面積が小さくなり、反対に反応性が低下する。したがって、平均細孔径は、30nm以下であることが好ましい。
【0045】
二次粒子の平均粒子径(二次粒子径又は平均粒径とも略す)が小さいほど、溶融塩中で分散しやすく、また二次粒子表面の表面積を増加できるため、反応性が向上する。したがって、シリカゲルの二次粒子の平均粒子径は、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは3.0mm以下であり、更に好ましくは1.5mm以下である。一方、二次粒子が一定以上の大きさであると、後述するように網目状の容器で保持することができ、シリカゲルの投入、回収の面で利点がある。したがって、シリカゲルの二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。
【0046】
以上のようなシリカゲルを添加することで、溶融塩のpHを有意に低下させることができる。次に、シリカゲルの投入・回収方法について説明する。
【0047】
溶融塩を中性にするためのシリカゲルの添加量は、理論的に必要な添加量(理論添加量とも略す)の10~10000倍であることが好ましく、100~1000倍であるとより好ましい。上記量を添加することで溶融塩中のOHイオンとシリカゲルのシラノール基の反応を十分に起こすことができる。
【0048】
なお、理論的に必要な添加量とは、シリカゲルのシラノール基量から計算される、pH=7.0にするために理論的に必要なシリカゲルの添加量であり、以下の手順で求められる。
(i)固化させた溶融塩z[g]を純水に溶解させ、9wt%の濃度の水溶液を作成し、該水溶液のpHを測定する。
(ii)次に、(i)で求めたpHから逆算される水溶液中のOH量を、溶解させた固化溶融塩z[g]中のOHの量とみなし、実際の溶融塩の量Z[g]中のOH量は、固化溶融塩中のZ/z倍であるとして見積もる。
(iii)シリカゲルの量論比(シリカゲルの種類によるが、例えばSiO・0.4HO。)から求められるシリカゲル中のシラノール基の量と、(ii)で求めたOHの量から、OHとシラノール基が1対1で反応するとして、シリカゲルの必要量を算出する。
【0049】
溶融塩に添加したシリカゲルは、pHの低下効果を次第に発揮しなくなるため、溶融塩にシリカゲルを添加してから一定時間経過後には溶融塩から回収することが好ましい。化学強化ガラス表面への異物の付着を防ぐため、シリカゲルを溶融塩に添加してから回収するまでの時間は短いほど好ましく、溶融塩が中性に戻った後は速やかに回収することが好ましい。
【0050】
シリカゲルを溶融塩に添加してから溶融塩から回収するまでの時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは8時間以上であると、pHが低下し、安定化するために十分な時間が確保できる。好ましくは120時間以下であると、ガラス表面に異物が付着することを抑制できる。
【0051】
シリカゲルの溶融塩への投入方法、及び溶融塩からのシリカゲルの回収方法は特に限られない。シリカゲルの溶融塩への投入方法としては、例えば、溶融塩中にシリカゲルのみを直接添加してもよく、シリカゲルを容器に入れた状態で溶融塩中に投入してもよい。
【0052】
シリカゲルを直接添加することにより、投入量を調整しやすく、反応性を向上できる。一方、シリカゲルを容器に入れて投入することにより、反応後のシリカゲルを回収しやすい。またシリカゲルを入れた容器を揺動することで、反応性を向上できる。
【0053】
シリカゲルを入れる容器は、網目状であることが好ましい。網目の大きさは、溶融塩が容器内に拡散しやすいよう、100μm以上であることが好ましい。一方、シリカゲルが落下しないよう、網目の大きさはシリカゲルの粒径より小さくなるように設定される。容器の材質は、腐食耐性の観点で、SUS材(SUS304やSUS316等)またはチタン材が好ましい。
【0054】
更に、シリカゲルを入れた容器は、溶融塩中で揺動することが好ましい。揺動は上下運動でもよく、左右運動でもよく、溶融塩槽内を回転してもよい。シリカゲルを入れた容器を揺動することで、溶融塩のpHが低下する速度を速めることができるため、好ましい。
【0055】
以上のように溶融塩にシリカゲルを添加することで、溶融塩のpHを低下させることができる。
【0056】
シリカゲルを溶融塩から回収する方法としては、例えば、溶融塩槽の底部に受け皿を設置し、沈下したシリカゲルを引き上げる方法が挙げられる。
【0057】
(pH低下剤がメタケイ酸である場合)
次に、溶融塩にpH低下剤としてメタケイ酸を添加する場合について説明する。
【0058】
メタケイ酸は量論比におけるシラノール基の量が多く、また粒子径が小さいことから、反応性に優れる。したがって、溶融塩を中性にするために必要な添加量が少なくて済み、更に溶融塩のpH低下にかかる時間を短縮できる。
【0059】
溶融塩を中性にするためのメタケイ酸の添加量は、理論的に必要な添加量の5~5000倍であることが好ましい。上記量を添加することで溶融塩中のOHイオンとメタケイ酸のシラノール基の反応を十分に起こすことができる。なお、理論的に必要な添加量とは、メタケイ酸のシラノール基量から計算される、pH=7.0にするために理論的に必要なシリカゲルの添加量であり、上述したシリカゲルの理論必要量と同様に計算できる。
【0060】
メタケイ酸を溶融塩に投入する場合は、溶融塩槽の上部から直接投入することが好ましい。メタケイ酸の粒径は比較的小さいため、時間をかけて溶融塩中を沈降させて、溶融塩のpHを効果的に低下できる。
【0061】
反応が終了したメタケイ酸は溶融塩から回収することが好ましい。回収方法は特に限られないが、例えば溶融塩槽底部に設置した受け皿により回収する方法が挙げられる。溶融塩のpHを低下させ、安定化するまでに十分な時間を確保する点から、メタケイ酸を添加してから回収するまでの時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは8時間以上である。ガラス表面への異物の付着を抑制する点から、好ましくは120時間以下である。
【0062】
以上のように溶融塩にメタケイ酸を添加することで、溶融塩のpHを低下できる。
【0063】
(工程S105)イオン交換工程
工程S105は、工程S104の溶融塩にガラスを接触させ、ガラス表面と溶融塩の間でイオン交換を実施する工程である。実施形態1では、1段階のイオン交換によりガラス表面が化学強化される。イオン交換の原理は、工程S102で述べた通りである。
【0064】
溶融塩にガラスを接触させる方法としては、例えば、ペースト状の溶融塩をガラスに塗布する方法、溶融塩組成物をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱した溶融塩組成物の塩浴にガラスを浸漬させる方法などが挙げられるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させる方法が好ましい
【0065】
ガラスの溶融塩への浸漬時間は1分~10時間が好ましく、5分~8時間がより好ましく、10分~4時間がさらに好ましい。かかる範囲にあれば、強度とDOLのバランスに優れた化学強化ガラスを得ることができる。
以上の方法により、溶融塩のpH上昇を抑制し、白曇り外観不良の少ない化学強化ガラスを製造できる。
【0066】
(工程S106)白曇り外観不良確認工程
工程S106は任意の工程である。複数枚のガラスを化学強化し、溶融塩を連続して使用する場合、溶長時間の加熱とイオン交換により溶融塩のpHが徐々に上昇し、化学強化ガラスに白曇り外観不良が発生し始める。そこで、工程S106では、化学強化ガラスへの白曇り外観不良の発生を確認する。化学強化ガラスに白曇り外観不良が認められた場合、工程S104のケイ酸添加工程を実施することで、溶融塩のpHを低下させることができる。その後、新たなガラスに対し工程S105のイオン交換工程を実施することで、白曇り外観不良の発生を抑制し、化学強化ガラスを連続して製造できる。
【0067】
白曇り外観不良の確認方法としては、目視観察が挙げられる。具体的には例えば、照度2000Luxの白色蛍光灯下で、黒色の背景から1~3cmの位置でガラスを保持し、ガラスを30~80度に傾け、ガラス表面から30±5cmの距離からガラスを目視観察する。
【0068】
なお、本発明の製造方法においては、本発明の効果を損ねない限り、上記工程S101~工程S106以外の工程を有してもよい。例えばイオン交換工程の後に、酸、アルカリで処理する工程や洗浄工程を含んでもよい。
【0069】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2では、リチウム含有ガラスを2段階のイオン交換により化学強化する場合について、実施形態1と異なる点について説明する。
【0070】
本発明の製造方法の実施形態2は、下記工程を含む。
(工程S201)ガラス準備工程
(工程S202)溶融塩調製工程
(工程S203)リチウム吸着剤の添加工程
(工程S204)溶融塩のpH測定工程
(工程S205)ケイ酸添加工程
(工程S206)イオン交換工程
(工程S207)白曇り外観不良確認工程
【0071】
(工程S201)ガラス準備工程
実施形態2におけるガラスとしては、リチウムを含有するガラスが挙げられる。リチウムの含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、0.1~20%であることが好ましい。ガラスの組成としては特に限定されないが、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。
(i)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0.1~20%、NaOを0.1~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%、Pを0~5%、Bを0~8%、Yを0~5%およびZrOを0~5%含有するガラス。
(ii)酸化物基準のモル%表示でSiOを40~60%、Alを0.5~10%、LiOを15~50%、Pを0~4%、ZrOを0~6%、NaOを0~7%、KOを0~5%含有するガラス。
【0072】
(工程S202)溶融塩調製工程
工程S202は、工程S201のガラスを化学強化するための溶融塩を調製する工程である。2段階のイオン交換により化学強化を行う場合、1段階目のイオン交換では、例えば、ナトリウムを母体とする溶融塩にガラスを接触させ、ガラス中のLiイオンと溶融塩中のNaイオンを交換する。また、2段階目のイオン交換では、例えば、カリウムを母体とする溶融塩にガラスを接触させ、ガラス中のNaイオンと溶融塩中のKイオンを交換する。このようにすることで、ガラス最表面の圧縮応力値が大きく、圧縮応力層の深さが深い応力プロファイルを得ることができ、より割れにくい化学強化ガラスを製造できる。
【0073】
1段階目のイオン交換に用いる溶融塩は、硝酸ナトリウムを含有することが好ましく、溶融塩における硝酸ナトリウムの含有量は好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上である。1段目のイオン交換に用いる溶融塩はその他に、硝酸カリウムや硝酸リチウムを0.1%以上含有することが好ましい。溶融塩が前記構成であると、化学強化ガラスの圧縮応力層の深さを深くできる。
【0074】
2段階目のイオン交換に用いる溶融塩は、硝酸カリウムを含有することが好ましく、溶融塩における硝酸カリウムの含有量は好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。2段目のイオン交換に用いる溶融塩はその他に、硝酸ナトリウムや硝酸リチウムを0.1%以上含有することが好ましい。溶融塩が前記構成であると、化学強化ガラスの最表面の圧縮応力値を高くできる。
【0075】
(工程S203)リチウム吸着剤の添加工程
実施形態2では、イオン交換工程において、ガラス中のLiイオンと溶融塩中のNa,Kイオンの交換が発生するため、溶融塩中のLiイオン濃度が増加する。溶融塩中のLiイオン濃度が増加すると、ガラス中のLiイオンと溶融塩中のNaイオンとのイオン交換が阻害されることがある。
【0076】
そこで、リチウム吸着剤として異種アニオン化合物を溶融塩に添加することにより、溶融塩中のLiイオンが異種アニオン化合物に吸着されて該阻害が抑制され、溶融塩の強化性能が安定化し、ガラス表面の応力を向上できる。リチウム吸着剤は、1段階目のイオン交換の溶融塩に添加されることが好ましく、更に2段階目のイオン交換の溶融塩に添加してもよい。
【0077】
異種アニオン化合物とは、溶融塩を構成するアニオンとは異なるアニオン種を含む化合物をいう。異種アニオン化合物を溶融塩に含有させることにより、溶融塩中の異種アニオンナトリウムとLiイオンとが反応して、溶融塩中のLiイオンを吸着することができる。
【0078】
異種アニオン化合物としては、例えば、異種アニオンナトリウム、異種アニオンカリウムが挙げられる。異種アニオンナトリウムとしては、例えば、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムが挙げられる。異種アニオンカリウムとしては、例えば、メタケイ酸カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウムが挙げられる。これらは1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このうち、メタケイ酸ナトリウムやメタケイ酸カリウムは、特に高いリチウム吸着効果を示すため、好ましい。
【0079】
溶融塩への異種アニオン化合物の添加量は、全溶融塩組成物における含有量が、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。溶融塩における異種アニオン化合物の含有量が1質量%以上であると、溶融塩中のLiイオンを効果的に吸着し、溶融塩の強化性能を安定化できる。また、全溶融塩組成物における異種アニオン化合物の含有量は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7.5質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0080】
溶融塩組成物における異種アニオン化合物の含有量は、硝酸カリウム及び硝酸ナトリウムの合計含有量に対し好ましくは0.1~10モル%である。硝酸カリウム及び硝酸ナトリウムの合計含有量に対する異種アニオン化合物の量を前記範囲とすることにより、溶融塩中のLiイオンを効果的に吸着し、溶融塩の強化性能を安定化できる。
【0081】
(工程S204)溶融塩のpH測定工程
実施形態1と同様に、硝酸塩を含む溶融塩を高温で長時間加熱すると、硝酸塩が分解することにより、溶融塩のpHが上昇することがある。以下に反応式を示す。
【0082】
【化3】
【0083】
ここで、HOは、溶融塩上部の大気の水蒸気圧に応じて、溶融塩中に溶け込んだHOと考えられる。なお、pH上昇の原理はこれに限られず、その他の原理で説明されてもよい。
【0084】
また、カリウム、ナトリウム、リチウムの硝酸塩の分解温度は、高い方から順に、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウムである。したがって、同一温度であれば、硝酸リチウムが最も分解しやすく、OHを生成して溶融塩のpHが上昇しやすい。
【0085】
更に、異種アニオン化合物を添加した場合、溶融塩のpHが上昇することがあり、特に、メタケイ酸ナトリウムやメタケイ酸カリウムを用いた場合、リチウム吸着の効果は大きいが、溶融塩のpH上昇が顕著であり、化学強化ガラスの表面に白曇り外観不良が発生しやすい。
【0086】
また、実施形態2においてリチウム含有ガラスをイオン交換する場合、溶融塩中のLiイオン濃度が増加しやすい。特に、1段階目のイオン交換においては、ガラス中のLiイオンと溶融塩中のNa、Kイオンを交換するため、溶融塩中のLiイオン濃度が高くなる。溶融塩中のLiイオン濃度が高いと、Liイオンにより硝酸塩の分解反応を促進しpHが上昇しやすいこと、また高pH条件下では、Liイオンにより溶融塩中のアニオン(例えばSiO 2-、SO4-等)と反応して、溶融塩に不溶な物質を生成することから、更に白曇り外観不良が発生しやすくなる。
【0087】
ここで、溶融塩中のLi濃度と溶融塩のpHとの関係において、該溶融塩にガラスを接触させイオン交換して得られる化学強化ガラスにおける白曇り外観不良の発生率が80%以上となる条件は、下記式で表される。
Y > -1930X+18300
〔Y:溶融塩中のLi濃度(ppm)、X:溶融塩のpH〕
【0088】
前記式を満たす場合、化学強化ガラス表面への白曇り外観不良の発生率が80%以上になる。従って、工程S205のケイ酸添加工程は、例えば、溶融塩中のLi濃度と溶融塩のpHとが前記式を満たす溶融塩に対して実施される。白曇り外観不良の発生率は、具体的には例えば、実施例において後述するように、白曇り外観不良が発生したガラス板の比率により算出できる。
【0089】
溶融塩のpHは一般的に5.0以上であり、工程S205のケイ酸添加工程は、溶融塩のpHが例えば8.0以上の場合に実施されることが好ましい。工程S205のケイ酸添加工程は、溶融塩のpHが例えば10.5以下、好ましくは9.5以下、より好ましくは8.5以下において実施されることが好ましい。このようにすることで、溶融塩のpHの上昇による化学強化ガラスの白曇り外観不良の発生を有意に抑制できる。
【0090】
更に、ガラスがホウ素を含有する場合、高pH条件下でホウ素と異種アニオンが結合し白曇り外観不良の原因になる。このようなホウ素由来の白曇り外観不良も、溶融塩のpHを低下させることで抑制できる。
【0091】
(工程S205)ケイ酸添加工程
実施形態1と同様に溶融塩にケイ酸を添加することで、溶融塩のpHを低下させる。ケイ酸は、1段階目のイオン交換における溶融塩に必須で添加され、2段階目のイオン交換においても溶融塩に添加されることが好ましい。ここで、本発明者らによれば、溶融塩のpH低下剤としてケイ酸を添加しても、上述のリチウム吸着剤の吸着効果を阻害しないことが分かっている。したがって、リチウム吸着剤としてメタケイ酸ナトリウムまたはメタケイ酸カリウムを添加し、溶融塩のpH低下剤としてケイ酸を添加することで、溶融塩中のLi除去と溶融塩pHの低下を両立することができるため、ガラス表面の圧縮応力値を上昇させ、白曇り外観不良の発生をより効果的に抑制した化学強化ガラスを製造できる。メタケイ酸ナトリウムとメタケイ酸の平衡反応は下記式で表される。リチウム吸着剤としてメタケイ酸ナトリウムを、pH低下剤としてケイ酸系の物質を選択すると、平衡反応の両辺の物質の量を直接制御できるため、制御性に優れ、好ましい。
【0092】
【化4】
【0093】
上記したリチウム吸着剤の溶融塩への添加量は、ケイ酸の溶融塩への添加量の6質量倍以下であることが好ましい。具体的には例えば、リチウム吸着剤がメタケイ酸ナトリウム又はメタケイ酸カリウムであり、ケイ酸がシリカゲルである場合、リチウム吸着剤の溶融塩への添加量は、シリカゲルの溶融塩への添加量の6質量倍以下であることが好ましい。リチウム吸着剤の溶融塩への添加量を、ケイ酸の溶融塩への添加量の6質量倍以下とすることにより、溶融塩のpHを中性付近に調整しやすく、化学強化ガラスの表面の白曇り外観不良が効果的に抑制できる。
【0094】
なお、ケイ酸添加工程におけるその他の構成は、実施形態1の工程S104に準ずる。
【0095】
ケイ酸添加後の、溶融塩中のLi濃度と溶融塩のpHとの関係は、下記式で表されることが好ましい。
Y < -1930X+18300
〔Y:溶融塩中のLi濃度(ppm)、X:溶融塩のpH〕
【0096】
前記式を満たす溶融塩にガラスを接触させイオン交換する場合、化学強化ガラス表面への白曇り外観不良の発生率が80%以下になるため、好ましい。
【0097】
溶融塩組成物中におけるLi濃度は、好ましくは8000質量ppm以下、より好ましくは4000質量ppm以下であると、ケイ酸添加によるpH低下により、白曇り外観不良の発生を有意に抑制できるため、好ましい。一方、溶融塩組成物中におけるLiイオン濃度は好ましくは10ppm以上であると、イオン交換初期のリチウム溶出によるイオン交換阻害の影響を低減できるため好ましい。
【0098】
溶融塩のpHは、8.5以下に保たれることが好ましい。白曇り外観不良を有意に抑制する点から、より好ましくは8.0以下、更に好ましくは7.5以下である。一方、溶融塩のpHは一般的に5.0以上である。ケイ酸を添加した後の溶融塩のpHが前記範囲であると、溶融塩のpHの上昇による化学強化ガラスの白曇り外観不良の発生を有意に抑制できる。
【0099】
(工程S206)イオン交換工程
実施形態2では、イオン交換工程は2段階で行われる。イオン交換の原理は、工程S202で述べた通りである。溶融塩のLiイオン濃度とpHは、ガラスが接触される期間において、工程S204で述べた範囲に調整されることで、白曇り外観不良の発生を抑制できる。
【0100】
以上の工程により、リチウム含有ガラスにおいても、表面圧縮応力値が高く、ガラス表面の白曇り外観不良が少ない化学強化ガラスを製造することが可能になる。
【0101】
(工程S207)白曇り外観不良確認工程
また、複数枚のガラスを処理する際に溶融塩を連続して使用する場合は、工程S203~206を繰り返し実施してもよい。イオン交換工程の繰り返しにより溶融塩のpHが上昇し、またLiイオン濃度が上昇する。この時、工程S206のイオン交換工程の後に、化学強化ガラスへの白曇り外観不良の発生を確認する工程S207を有することが好ましい。工程S207において白曇り外観不良の発生を確認した場合、工程S203でリチウム吸着剤を添加することで、溶融塩のLiイオン濃度を低下させ、更に工程S205でケイ酸を添加することによりpHを低下させることができるため、工程S206のイオン交換を実施することで表面の圧縮応力が高く、白曇り外観不良のない化学強化ガラスを製造できる。
【0102】
なお、本発明の製造方法においては、本発明の効果を損ねない限り、上記工程S201~工程S207以外の工程を有してもよい。例えばイオン交換工程の後に、酸、アルカリで処理する工程や洗浄工程を含んでもよい。
【0103】
<実施形態3>
実施形態3では、リチウム含有ガラスをナトリウムとカリウムの混合塩を用い、一段階のイオン交換を行う場合について説明する。
【0104】
本発明の製造方法の実施形態3は、下記工程を含む。
(工程S301)ガラス準備工程
(工程S302)溶融塩調製工程
(工程S303)リチウム吸着剤の添加工程
(工程S304)溶融塩のpH測定工程
(工程S305)ケイ酸添加工程
(工程S306)イオン交換工程
(工程S307)白曇り外観不良確認工程
【0105】
(工程S301)ガラス準備工程
実施形態3では、実施形態2同様、リチウムを含有するガラスが準備される。なお、化学強化前のガラス組成は、実施形態2の工程S301に準ずる。
(工程S302)溶融塩調製工程
工程S302は、工程S301のガラスを化学強化するための溶融塩を調製する工程である。工程S306では、KイオンとNaイオンの両方を含む溶融塩(以下、混合溶融塩とも称する)にガラスを接触させることにより、ガラスを化学強化する。混合溶融塩による化学強化では、1段階のイオン交換により、実施形態2のような2段階のイオン交換により得られる応力プロファイルと類似の応力プロファイルを形成でき、割れにくい化学強化ガラスを製造できる。
【0106】
溶融塩は、例えば硝酸ナトリウムと硝酸カリウムを含有することが好ましい。溶融塩における硝酸カリウムの含有量は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。溶融塩における硝酸ナトリウムの含有量は、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上である。溶融塩が上記構成であると、表面の圧縮応力値が大きく、圧縮応力層の深さを深くできる。
【0107】
(工程S303)リチウム吸着剤の添加工程
工程S303では、溶融塩中にLiイオンが存在するため、実施形態2と同様に、溶融塩にリチウム吸着剤を添加することが好ましい。リチウム吸着剤の添加工程の構成は、実施形態2の工程S203に準ずる。
【0108】
(工程S304)溶融塩のpH測定工程
工程S304では、溶融塩のpHを測定する。工程S304の構成は、実施形態2の工程S204に準じる。
【0109】
(工程S305)ケイ酸添加工程
工程S305では、溶融塩にケイ酸を添加する。工程S304の構成は、実施形態2の工程S204に準じる。
【0110】
(工程S306)イオン交換工程
工程S306では、溶融塩にガラスを浸漬し、イオン交換を実施する。イオン交換工程は、工程S302で調整された混合溶融塩を用い、1段階で実施される。溶融塩のLiイオン濃度とpHは、ガラスが接触される期間において、実施形態2の工程S204で述べた範囲に調整されることで、白曇り外観不良の発生を抑制できる。
【0111】
(工程S307)白曇り外観不良確認工程
複数枚のガラスを処理する際に溶融塩を連続して使用する場合は、工程S303~306を繰り返し実施してもよい。イオン交換工程の繰り返しにより溶融塩のpHが上昇し、またLiイオン濃度が上昇する。この時、工程S306のイオン交換工程の後に、化学強化ガラスへの白曇り外観不良の発生を確認する工程S307を有することが好ましい。工程S307において白曇り外観不良の発生を確認した場合、工程S303でリチウム吸着剤を添加することで、溶融塩のLiイオン濃度を低下させ、更に工程S305でケイ酸を添加することによりpHを低下させることができるため、工程S306のイオン交換を実施することで表面の圧縮応力が高く、白曇り外観不良のない化学強化ガラスを製造できる。
【0112】
なお、本発明の製造方法においては、本発明の効果を損ねない限り、上記工程S301~工程S307以外の工程を有してもよい。例えばイオン交換工程の後に、酸、アルカリで処理する工程や洗浄工程を含んでもよい。
【0113】
<実施形態4>
実施形態4では、1度化学強化したガラス表面の圧縮応力を緩和させるイオン交換(以下、逆強化と称する)を行ったのち、再び化学強化を行う場合について説明する。化学強化により所望の応力プロファイルを形成できなかった場合、逆強化を行うことでガラスを再利用できる。
【0114】
本発明の製造方法の実施形態4は下記工程を含む。以下では、各工程について詳細を説明する。
(工程S401)ガラス準備工程
(工程S402)溶融塩調製工程
(工程S403)溶融塩のpH測定工程
(工程S404)ケイ酸添加工程
(工程S405)イオン交換工程(逆強化工程)
(工程S406)白曇り外観不良確認工程
(工程S407)イオン交換工程(再強化工程)
【0115】
(工程S401)ガラス準備工程
工程S401では、化学強化されたガラスを準備する。なお、化学強化前の組成は、実施形態1や実施形態2に準ずる。
【0116】
(工程S402)溶融塩調製工程
工程S405では、一度化学強化されたガラス表面の圧縮応力を緩和するためにイオン交換を行う。イオン交換によりガラス板表面のイオン半径が大きなアルカリ金属イオン(典型的には、Kイオン、Liイオン)をイオン半径のより小さなアルカリイオン(典型的には、Kイオンに対してはLiイオンまたはNaイオンであり、Naイオンに対してはLiイオン)に置換することにより、ガラス表面の圧縮応力を緩和できる。
【0117】
したがって、逆強化における溶融塩は、LiイオンとNaイオンを主に含むものが好ましい。溶融塩としては化学強化を行うガラスの歪点(通常500~600℃)以下に融点を有するものが好ましく、本実施形態においては硝酸塩が挙げられる。
【0118】
逆強化における溶融塩の組成は、硝酸リチウムおよび硝酸ナトリウムの合計含有量が50%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上であり、最も好ましくは90質量%以上である。逆強化における溶融塩の組成は、元のガラスの組成に応じて適宜調整されることが好ましい。
【0119】
(工程S403)溶融塩のpH測定工程
逆強化における溶融塩は、溶融塩中にLiイオンを多く含むため、Liイオンが硝酸塩の分解反応を促進し、またLiイオンが溶融塩中のアニオン(例えばSiO 2-、SO 等)と反応して、溶融塩に不要な物質を生成することから、白曇り外観不良が発生しやすい。そのため、溶融塩のpHの管理が重要である。
【0120】
(工程S404)ケイ酸添加工程
このような逆強化工程においても、pHを低下させることで白曇り外観不良の発生量を減少できる。実施形態1や2と同様の方法で、ケイ酸を添加し、pHを減少させる。
【0121】
(工程S405)イオン交換工程(逆強化工程)
工程S404で得られた溶融塩にガラスを接触させ、イオン交換を行うことで、ガラス表面の圧縮応力を緩和させる。
【0122】
(工程S406)白曇り外観不良確認工程
また、複数枚のガラスを処理する際に溶融塩を連続して使用する場合は、工程S403~405を繰り返し実施してもよい。イオン交換工程の繰り返しにより溶融塩のpHが上昇するため、工程S405のイオン交換工程の後に、化学強化ガラスへの白曇り外観不良の発生を確認する本工程を有することが好ましい。白曇り外観不良の発生を確認した場合、工程S404でケイ酸を添加することによりpHを低下させることができるため、工程S405で白曇り外観不良の発生を抑制できる。
【0123】
(工程S407)イオン交換工程(再強化工程)
工程S405で得られたガラスを、再び化学強化する。化学強化の工程は、実施形態1~3に準じる。
【0124】
なお、実施形態4において、本発明の効果を損ねない限り、上記工程S401~工程S407以外の工程を有してもよい。例えば逆強化工程の後に、表面を研磨またはHFエッチングすることで、再強化工程でガラス表面に所望の応力プロファイルを形成しやすくなる。
【0125】
以上の実施形態1~4によって、化学強化ガラスが製造できる。なお、本発明の実施形態はこれに制限されず、発明の効果を奏する範囲で修正、変形されてもよい。
【実施例
【0126】
次に、本発明における実施例について説明する。
【0127】
<例1>
(ガラス準備工程)
化学強化するガラスとして、酸化物基準のモル%表示で下記組成のガラスを用いた。
SiO66.2%、Al11.2%、Li 10.4%、Na 5.6%、K 1.5%、MgO 3.1%、CaO 0.2%、ZrO 1.3%、Y0.5%。
サンプルに用いたガラスの寸法は、50mm角の正方形であり、厚さは0.55mmであった。
【0128】
(溶融塩調整工程・pH測定工程)
SUS製のカップに溶融塩として、硝酸ナトリウム1385g、硝酸リチウム15gを加え、マントルヒーターで410℃まで加熱して、溶融塩を調製した。この時の溶融塩中のLiイオン濃度は1103wtppm、pHは6.3であった。
【0129】
上記溶融塩に、リチウム吸着剤としてメタケイ酸ナトリウム(青島海湾化学社製)を0.6wt%、pH低下剤としてシリカゲル(関東化学社製)を1wt%添加し、410℃で24時間加熱した後、溶融塩のpHが安定したことを確認した。この時、溶融塩中のLiイオン濃度は477wtppmであり、安定後の溶融塩のpHは5.8であった。なお、溶融塩中のLiイオン濃度は原子吸光光度計(日立ハイテクサイエンス社製ZA3300)により測定され、溶融塩のpHは、後述する方法により測定された。
【0130】
次に、上記溶融塩にガラスを浸漬することで、化学強化処理を行った。ガラスは410℃の溶融塩に4時間浸漬し、化学強化処理を程化した後、250℃の大気雰囲気中で30分間待機した。なお、250℃におけるガラスの待機中に、ガラス表面への固着物を抑制するためのものであり、待機中に溶融塩は融点以下となり固化するため、イオン交換は発生しない。
【0131】
以上により、例1の化学強化ガラスを製造した。同様のサンプルを10枚作製し、外観を観察した。外観の観察は、後述する方法により実施された。例1では、10枚のサンプルとも白曇りによる外観不良は発生しなかった。
【0132】
(評価方法)
(1)溶融塩のpH測定
イオン交換水20gに、pHを測定したい溶融塩サンプル2gを溶解させ、pH測定器(HORIBA社D70電極式pHメータ)により測定した。
【0133】
(2)化学強化ガラスの外観検査
照度2000Luxの白色蛍光灯下で、化学強化ガラスを目視観察した。黒色の背景から1~3cmの位置でガラスを保持し、ガラスを30~80度に傾け、ガラス表面から30±5cmの距離から観察を行った。白曇り外観不良の発生率は、10枚のガラス板において、白曇り外観不良が目視により観察されたガラス板の割合から算出した。
【0134】
<例2~8>
例2~4では、添加するメタケイ酸ナトリウム、およびシリカゲル濃度を変化させたこと以外は例1と同様の条件で実験を行った。例5、6では、メタケイ酸ナトリウムを添加せずに溶融塩を調製後、溶融塩を470℃で200時間加熱し、シリカゲルを添加した。例7では溶融塩を470℃で200時間加熱した後にシリカゲルを添加せず、ガラスの浸漬を行った。例8では、硝酸リチウムの量を調節し、Liイオン濃度が3170wtppmになるように調整した溶融塩を用い、メタケイ酸ナトリウム、シリカゲルは添加しなかった例である。なお、各実験において、その他の条件は例1と同じであった。
【0135】
表1に、添加したメタケイ酸ナトリウム、およびシリカゲル濃度、ガラス浸漬時の溶融塩のLiイオン濃度、およびpHと、白曇り外観不良の発生率を示す。例1~3、5、6は実施例であり、例4、7及び8は比較例である。
【0136】
【表1】
【0137】
表1に示すように、例1~4によると、溶融塩にメタケイ酸ナトリウムを添加することで、溶融塩中のLi濃度を低下させられる一方、溶融塩のpHが上昇し、白曇り外観不良が発生し、シリカゲルを添加することで溶融塩のpH上昇を抑制し、白曇り外観不良を減らせることが分かった。
【0138】
例5~7によると、溶融塩を長時間加熱することにより、溶融塩のpHが上昇するが、シリカゲルを添加することでpH上昇を抑制し、白曇り外観不良を抑制できることが分かった。例8によると、溶融塩のLiイオン濃度が高い場合は、溶融塩のpHが8.5以下であっても、一部のガラスに白曇り外観不良が発生する場合があることが分かった。
【0139】
また、溶融塩のpH、Liイオン濃度と白曇り外観不良発生の関係について、図3に示す。図3の黒丸は実施例、白丸は比較例を表し、溶融塩中のLi濃度と溶融塩のpHとが下記条件を満たす溶融塩を用いてガラスをイオン交換したとき、化学強化ガラスにおける白曇り外観不良の発生率が80%以下であった。
Y < -1930X+18300
〔Y:溶融塩中のLi濃度(ppm)、X:溶融塩のpH〕
【0140】
<例9~19>
例9~19では、ケイ酸の構造による溶融塩のpHを低下する効果を検討した。例9~19は実施例である。メタケイ酸ナトリウム1.15wt%、シリカゲル1wt%を溶融塩に添加し、更に、添加するシリカゲルの種類を変更したこと以外は、例1と同様の条件で実験を行った。条件及び結果を表2、図1図2A~D、図3に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
表2、図1図2A~D、図3に示すように、例9~19により、シリカゲルの平均粒子径、空孔容積、平均細孔径によって、溶融塩のpHを低下する効果の大きさが異なることが分かった。特に、シリカゲルの空孔容積と溶融塩のpHを低下する効果との間に強い相関があることか分かった。
【0143】
<例20~22>
例20~22では、例14のシリカゲルを用い、シリカゲルの添加量を変えたこと以外は例14と同様の条件で実験した。例20~22は実施例である。条件及び結果を表3に示す。表3において、「メタケイ酸Na/シリカゲル比率」は溶融塩に対する各々の添加量の質量比を示す。
【0144】
【表3】
【0145】
表3に示すように、例14、20~22によると、メタケイ酸ナトリウムのシリカゲルに対する割合が6倍に近づくと、pHが下がりきらず、白曇り外観不良が発生する場合があることが分かった。
【0146】
<例23、24>
例23及び例24では、溶融塩の不純物にホウ素が含まれる場合について実験した。例23は、溶融塩調製時に四ホウ酸ナトリウム0.617gを添加したこと以外は、例12と同様の条件で実験した。例24は、シリカゲルを添加しなかった例である。結果と条件を表4に示す。例23は実施例、例24は比較例である。
【0147】
【表4】
【0148】
表4に示すように、溶融塩の不純物にホウ素が含まれる場合も白曇り外観不良が発生するが、溶融塩にシリカゲルを添加することにより、溶融塩のpHを低下する効果が得られ、白曇り外観不良の発生を抑制できることがわかった。
【0149】
<例25~27>
例25~27では、シリカゲルを網目状容器に入れて揺動し、pHを繰り返し調節することについて検討した。メタケイ酸ナトリウム1.0wt%、シリカゲル1.0wt%を、網目状の容器に入れて浸漬し、容器を上下に揺動させ8時間経過の後取り出す操作を3回繰り返した。1回目の操作を例24、2回目の操作を例25、3回目の操作を例26とする。網目状の容器は、SUS304製、直径75mmの円筒状であり、網目0.5mmであった。揺動は、20mm/secの速度で、50mmの幅を移動させ、1時間の上下運動の回数は20回であった。なお、各回に添加したシリカゲル、メタケイ酸ナトリウムはそれぞれ未使用のものに交換した。それ以外の条件は例11と同様とした。条件と結果を表5に示す。
【0150】
【表5】
【0151】
表5に示すように、例11、例25~27によると、揺動を加えながらケイ酸を溶融塩に添加することで、溶融塩のpH低下に要する時間が短縮されたことが分かる。また、実施例25~27によると、ケイ酸を繰り返し溶融塩に添加した場合も、溶融塩のpHを低下する効果が得られることが確認できた。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3