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特許7395969顔料混練物の製造方法及び水性顔料分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】顔料混練物の製造方法及び水性顔料分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20231205BHJP
   C09C 3/04 20060101ALI20231205BHJP
   C09B 67/04 20060101ALI20231205BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C3/04
C09B67/04
C09B67/46 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019201461
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2020090662
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018221190
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】菅生 兼司
(72)【発明者】
【氏名】早川 耕平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義浩
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-140646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09C 3/00-3/12
C09B 67/04
C09B 67/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練装置が備える容器に、少なくとも顔料と樹脂を供給する工程[1]、前記容器の内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力が0.02N以上となるまで混練する工程[2]を有することを特徴とする顔料混練物の製造方法であって、前記樹脂が顔料分散樹脂であり、その粒子径が1mm以下である、顔料混錬物の製造方法
【請求項2】
前記内容物(a1)の不揮発分が50質量%以上である請求項1に記載の顔料混練物の製造方法。
【請求項3】
前記混練装置が閉鎖型混練装置である請求項1または2に記載の顔料混練物の製造方法。
【請求項4】
前記混練装置がプラネタリーミキサーである請求項3に記載の顔料混練物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法で得られた顔料混練物と、水性媒体を混合する工程[3]を含む水性顔料分散体の製造方法。
【請求項6】
前記工程[3]で得られた水性顔料分散体を、30℃~70℃の範囲内で遠心分離処理する工程[4]を含む請求項5に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【請求項7】
前記工程[4]が円筒型遠心分離装置を用いる工程である請求項5または6に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクの製造に使用可能な顔料混練物及び水性顔料分散体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷法は、様々な印刷物の製造場面で採用されている。インクジェット印刷法は、通常、インク吐出ノズルからインクを吐出させ、紙や布帛等の被記録媒体の表面に着弾させることによって印刷物を製造する方法である。そのため、インクには、経時的にインク吐出ノズルの目詰まりを引き起こしにくく、また、経時的にインクの吐出方向が変化することがないといった吐出安定性が求められている。
【0003】
前記インクジェット印刷用水性インクは、一般に、予め顔料が水性媒体に分散された水性顔料分散体に、必要に応じてバインダー樹脂や水溶性有機溶剤や水性媒体等を供給し混合することによって製造される。そのため、前記インクに良好な吐出安定性を付与するためには、前記インク吐出ノズルの目詰まりの原因となりうる、例えば顔料に起因する粗大粒子の発生を低減でき、また、顔料等の経時的な沈降を防止可能な水性顔料分散体を使用することが重要である。
【0004】
前記粗大粒子の発生を低減でき、顔料等の経時的な沈降を防止可能な水性顔料分散体としては、例えば少なくともアニオン性基を有する樹脂、顔料、及び塩基性化合物を含む混合物を閉鎖系の混練装置で混練し、固体もしくは半固体状の混練物を用いた水性顔料分散液が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、高精細な印刷物の製造に使用可能な、微細化されかつ高密度化されたインク吐出ノズルは、インク中の極僅かな粗大粒子や沈殿物の影響によって目詰まりやインクの吐出方向の異常を発生させやすく、その結果、印刷物にスジ等を発生させる場合があった。
【0006】
とりわけ、一般にラインヘッドによるシングルパス方式でのインクジェット印刷法では、いわゆるマルチパス方式(スキャン方式)でのインクジェット印刷法と比較して、インク吐出ノズルの目詰まり等に起因した画像品質の低下を引き起こしやすい場合があった。
【0007】
以上のとおり、高精細な印刷物の製造に使用可能な微細化されたインク吐出ノズルの目詰まり等の原因となるインク中の粗大粒子や沈降物の経時的な発生を効果的に抑制できることが、産業界から求められているものの、従来技術ではその要求性能にあと一歩及ばない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-226832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、混練装置が備える容器に、少なくとも顔料と樹脂を供給する工程[1]、前記容器の内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力が0.02N以上となるまで混練する工程[2]を有することを特徴とする顔料混練物の製造方法によって、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法で得られた顔料混練物を用いて得られた水性顔料分散体は、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備える。前記水性顔料分散体は、吐出安定性に優れたインクジェット印刷用インク等の製造に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の顔料混練物の製造方法は、混練装置が備える容器に、少なくとも顔料と樹脂を供給する工程[1]、前記容器の内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力が0.02N以上となるまで混練する工程[2]を有することを特徴とする。
【0013】
前記工程[1]は、混練装置が備える容器に、顔料と樹脂と、必要に応じてその他の成分を供給する工程である。前記工程[1]を経た前記容器のなかには、少なくとも前記顔料と樹脂を含む内容物(a1)が存在する。
【0014】
前記内容物(a1)は、不揮発分が50%質量以上であることが好ましく、50質量%~90質量%であることがより好ましく、50質量%~85質量%であることが特に好ましい。
ここで、前記不揮発分とは、1gの前記内容物(a1)を3hPaの減圧条件下で、175℃で4時間加熱した後に残存した成分の質量と、加熱前の前記内容物(a1)の質量と、式[質量/質量]×100とに基づいて算出された値を指す。
【0015】
前記不揮発分が50質量%以上の前記内容物(a1)を使用することによって、混練中の前記内容物(a1)の粘度を適度に高く保ち、混練装置から前記内容物(a1)にかかるシェアを大きくすることで、前記顔料の凝集物の粉砕と、前記樹脂の前記顔料への吸着を効率よく並行して進行させることができ、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができる。
【0016】
前記内容物(a1)に含まれる前記顔料としては、特に限定されず公知の有機顔料または無機顔料を使用することができる。とりわけインクジェット印刷用インクの製造に使用可能な顔料混練物及び水性顔料分散体を得る場合には、前記顔料としては、例えば、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料、アゾ顔料(モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、ピラゾロン顔料等の不溶性アゾ顔料やベンズイミダゾロン顔料、ベータナフトール顔料、ナフトールAS顔料、縮合アゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料など)、フタロシアニン顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなど有機顔料を使用することができる。前記顔料としては、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0017】
前記顔料としては、カーボンブラックであれば三菱ケミカル株式会社製のNo.980、No.960、No.900、No.52、No.45L、No,45、No.40、No.33、MA100、MA8、MA7等、キャボット社製のRegalシリーズ、Monarchシリーズ、オリオン・エンジニアドカーボンズ株式会社製のColor Blackシリーズ、Printexシリーズ、Special Blackシリーズ等の顔料を使用することができる。
【0018】
前記顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等のイエロー顔料を使用することができる。
【0019】
前記顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、149、150、168、176、184、185、202、209、213、269、282等のマゼンタ顔料を使用することができる。
【0020】
前記顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等のシアン顔料を使用することができる。
【0021】
前記顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、34、36、43、51、64、71等のオレンジ顔料を使用することができる。
【0022】
前記顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット1、3、5:1、16、19、23、38、50、58等のバイオレット顔料を使用することができる。
【0023】
前記顔料としては、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等のグリーン顔料を使用することができる。
【0024】
前記顔料としては、ドライパウダーの状態のものや、ウェットケーキの状態のものを使用することができる。前記顔料としては、2種以上を含む混合物や固溶体を使用することができる。
【0025】
前記顔料としては、一次粒子径が1.0μm以下であるものを使用することが好ましく、0.01μm~0.5μmであるものを使用することがより好ましい。前記した範囲内の一次粒子径を有する顔料を使用することによって、顔料の経時的な沈降をより一層効果的に抑制することができる。前記一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定した数平均粒子径を指す。
【0026】
前記顔料は、前記内容物(a1)の全量に対して30質量%~80質量%の範囲で使用することが好ましく、35質量%~75質量%の範囲で使用することが、前記内容物(a1)の粘度を適度に高く保ち、混練装置から前記内容物(a1)にかかるシェアを大きくすることで、前記顔料の凝集物の粉砕と、前記樹脂の前記顔料への吸着を効率よく並行して進行させることができ、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができるため特に好ましい。
【0027】
前記内容物(a1)に含まれる前記樹脂としては、例えば顔料分散樹脂やバインダー樹脂等を使用することができる。前記顔料分散樹脂としては、従来知られたものを使用できるが、例えば芳香族環式構造または複素環式構造を有するラジカル重合体を使用することが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえでより好ましい。
【0028】
前記顔料分散樹脂等の樹脂としてアニオン性基を有するラジカル重合体を使用する場合には、前記アニオン性基の一部または全部が塩基性化合物によって中和されたもの(中和物)を使用することが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえで好ましい。
【0029】
前記芳香族環式構造または複素環式構造としては、後述する芳香族環式構造を有する単量体または複素環式構造を有する単量体を使用することによって前記ラジカル重合体に導入された環構造が挙げられる。
【0030】
前記芳香族環式構造としては、ベンゼン環構造を使用することが好ましく、スチレン由来の構造であることがより好ましい。
前記芳香族環式構造または複素環式構造を有するラジカル重合体である顔料分散樹脂を使用することによって、前記顔料分散樹脂の前記顔料への吸着性を高めることができ、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を効率よく得ることが可能となる。
【0031】
また、前記顔料分散樹脂等の樹脂としては、酸価60~300mgKOH/gのものを使用することが好ましく、80~250mgKOH/gの範囲であることがより好ましく、100~200mgKOH/gの範囲であることが、前記顔料分散樹脂等の樹脂の前記顔料への吸着性を向上でき、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降の発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができるため特に好ましい。具体的には、前記範囲の酸価を有する顔料分散樹脂は、前記工程[2]において後述する水溶性有機溶剤及び塩基性化合物を組み合わせ使用する場合に、水溶性有機溶剤に全部溶解または一部溶解したり、水溶性有機溶剤によって膨潤しやすく、その結果、後述する塩基性化合物と塩(中和物)を形成しやすい。これにより、前記顔料分散樹脂等の樹脂が吸着した前記顔料の親水性が著しく向上し、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、より一層優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができる。
【0032】
前記顔料分散樹脂として使用可能な前記ラジカル重合体としては、例えば各種単量体をラジカル重合することによって得られた重合体を使用することができる。
【0033】
前記単量体としては、前記顔料分散樹脂に芳香族環式構造を導入する場合であれば芳香族環式構造を有する単量体を使用することができ、複素環式構造を導入する場合であれば複素環式構造を有する単量体を使用することができる。
【0034】
前記芳香族環式構造を有する単量体としては、例えばスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等を使用することができる。
【0035】
前記複素環式構造を有する単量体としては、例えば2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体を使用することができる。
【0036】
前記ラジカル重合体として芳香族環式構造及び複素環式構造の両方を有するものを使用する場合、前記単量体として、芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を組合せ使用することができる。
【0037】
本発明では、前記顔料分散樹脂として芳香族環式構造を有するラジカル重合体を使用することが好ましいことから、前記単量体としても芳香族環式構造を有する単量体を使用することが好ましく、スチレン、α-メチルスチレン、tert-ブチルスチレンを使用することがより好ましい。
【0038】
前記芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体は、前記顔料分散樹脂の前記顔料への吸着性をより一層高めるうえで、前記単量体の全量に対して20質量%以上使用することが好ましく、40質量%以上使用することがより好ましく、50質量%以上95質量%以下の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0039】
また、前記顔料分散樹脂としては、前記した特定範囲の酸価を有するラジカル重合体を製造するうえで、前記単量体としてアニオン性基を有する単量体を使用することができる。
【0040】
前記アニオン性基を有する単量体としては、例えばカルボキシ基、スルホ基またはリン酸基等のアニオン性基を有する単量体を使用することができる。
【0041】
前記アニオン性基を有する単量体としては、入手しやすいカルボキシ基を有する単量体を使用することが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえで好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸を使用することがより好ましい。
【0042】
前記アニオン性基を有する単量体は、前記顔料分散樹脂の製造に使用可能な前記単量体の全量に対して5質量%~80質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%~60質量%で使用することより好ましく、5質量%~50質量%で使用することが、前記した所定範囲の酸価を有するラジカル重合体を得るうえでさらに好ましい。
【0043】
また、前記顔料分散樹脂の製造に使用可能な単量体としては、前記したもの以外に、必要に応じてその他の単量体を使用することができる。
【0044】
前記その他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等を単独または2種以上組合せ使用することができる。なお、このような上記「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを指す。
【0045】
また、前記顔料分散樹脂としては、前記単量体のラジカル重合によって形成される構造が線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体を使用することができる。それぞれの重合体において、モノマー配列は特に限定することはなく、ランダム型やブロック型配列の重合体を使用することができる。
【0046】
前記架橋構造を有する重合体は、前記単量体として架橋性官能基を有する単量体を使用することによって製造することができる。
【0047】
前記架橋性官能基を有する単量体としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等を使用することができる。
【0048】
本発明で使用する前記顔料分散樹脂としては、前記した単量体の重合体を使用できるが、アニオン性基を有する単量体及び芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体を重合して得られる重合体を使用することが好ましい。
【0049】
前記顔料分散樹脂としては、前記したなかでも、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸系エステル-(メタ)アクリル酸重合体等のスチレン構造単位と(メタ)アクリル酸構造単位を有する重合体を使用することが好ましく、それらのうち、前記した好ましい範囲の酸価を有するものを使用することが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生をより一層効果的に防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生をより一層効果的に防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえで好ましい。
【0050】
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-メタクリル酸共重合体のいずれも使用できるが、スチレン-アクリル酸-メタクリル酸共重合体を使用することが、前記単量体の共重合性が向上して、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子がより少なく、経時的な粗大粒子の発生をより一層効果的に防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生をより一層効果的に防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物が得られるため好ましい。
【0051】
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としては、その製造に使用する単量体の全量に対するスチレンとアクリル酸とメタクリル酸との合計量が80質量%~100質量%であるものを使用することが好ましく、90質量%~100質量%のものを使用することがさらに好ましい。
【0052】
なお、本発明では、前記ラジカル重合の際の各単量体のラジカル重合率(反応率)は、ほぼ同一とし、各単量体の使用割合(仕込み割合)が、ラジカル重合体を構成する各単量体由来の構造単位の割合と同一であるとみなした。
【0053】
前記ラジカル重合体は、例えば前記した単量体を、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法でラジカル重合することによって製造することができる。
【0054】
前記ラジカル重合体を製造する際には、必要に応じて公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤(重合度調整剤)、界面活性剤及び消泡剤を使用することができる。
【0055】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。前記重合開始剤は、前記ラジカル重合体の製造に使用する単量体の全量に対して0.1質量%~10質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0056】
前記顔料分散樹脂として前記溶液重合法で得られたラジカル重合体を使用する場合、前記顔料分散樹脂としては、前記溶液重合法で得られたラジカル重合体溶液に含まれる溶媒を除去した後、乾燥、粉砕し微粒子化したものを使用することができる。
前記微粒子化されたラジカル重合体である顔料分散樹脂は、前記工程[2]において後述する水溶性有機溶剤及び塩基性化合物を組み合わせ使用する場合に、水溶性有機溶剤に全部溶解または一部溶解したり、水溶性有機溶剤によって膨潤しやすく、その結果、前記顔料に吸着しやすくなり、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、より一層優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができる。
前記顔料分散樹脂としては、メッシュ状のふるいにより分級したものを使用してもよく、その粒子径が概ね1mm以下であるものを使用することが好ましい。
【0057】
前記顔料分散樹脂等の樹脂としては、その重量平均分子量が2000~40000の範囲内であるものを使用することが好ましく、5000~30000の範囲内にあることがより好ましく、5000~25000範囲内にあることが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能なより一層優れた分散安定性及び吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえで特に好ましい。
なお、前記重量平均分子量とはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0058】
前記内容物(a1)としては、前記顔料に対する前記顔料分散樹脂等の樹脂の質量比率が、5質量%~200質量%の範囲であるものを使用することが好ましく、10質量%~100質量%の範囲であるものを使用することが、前記工程[2]において、前記内容物(a1)を適正な粘度での混練を可能とし、前記顔料分散樹脂等の樹脂が前記顔料に吸着しやすくなることで、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができるためより好ましい。
【0059】
また、前記内容物(a1)としては、前記顔料及び前記顔料分散樹脂等の樹脂の他に、必要に応じて塩基性化合物を含有するものを使用することができる。
前記塩基性化合物は、前記顔料分散樹脂がアニオン性基を有する場合に、そのアニオン性基を中和する。前記顔料分散樹脂が前記塩基性化合物によって中和されることで、前記工程[3]において、前記顔料分散樹脂が吸着した前記顔料の水性媒体への親和性が高まる。その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少なく、前記水性顔料分散体中の顔料粒子の分散状態がより安定となり、経時的な粗大粒子の発生をより効果的に防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生をより一層効果的に防止することができる。
【0060】
前記塩基性化合物としては、例えば無機系塩基性化合物、有機系塩基性化合物を使用することができる。
前記塩基性化合物としては、公知のものを使用でき、例えばカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、カルシウム、バリウム等の炭酸塩等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N-ジメタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等のアミノアルコール類、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のモルホリン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレート等のピペラジン、水酸化アンモニウム等の有機系塩基性化合物が挙げられる。なかでも、前記塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物を使用することが、前記顔料分散樹脂等の樹脂の中和効率に優れるため、前記顔料分散樹脂が吸着した前記顔料の水性媒体に対する分散安定性が向上するため好ましく、特に水酸化カリウムが好ましい。
【0061】
前記塩基性化合物は、前記顔料分散樹脂としてアニオン性基を有するものを使用する場合であれば、前記顔料分散樹脂の中和率が80%~120%となる範囲で使用することが、中和された前記顔料分散樹脂の水性媒体に対する親和性を高め、その結果、前記分散樹脂が吸着した前記顔料の水性媒体中での分散安定性が向上するため好ましい。
【0062】
中和率(%)=((塩基性化合物の質量(g)×56×1000)/(顔料分散樹脂の酸価×塩基性化合物の当量×顔料分散樹脂の質量(g)))×100
【0063】
また、前記内容物(a1)としては、前記顔料や前記顔料分散樹脂等の樹脂の他に、必要に応じて顔料誘導体を含有するものを使用することができる。
【0064】
前記顔料誘導体は、前記水性顔料分散体ならびにそれらを用いたインクに、経時的な粗大粒子の発生防止と、顔料等の経時的な沈降の発生防止を可能にする分散安定性を付与することができる。
【0065】
前記顔料誘導体としては、顔料に後述する特定の官能基を導入したものを使用することができる。前記顔料としては、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料が挙げられる。前記官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、ニトロ基、酸アミド基、カルボニル基、カルバモイル基、フタルイミド基、スルホニル基等が挙げられる。
【0066】
また、前記内容物(a1)としては、前記したものの他に、必要に応じて水溶性有機溶剤や水等を含有するものを使用することができる。
【0067】
前記水溶性有機溶剤は、工程[2]において、前記顔料分散樹脂等の樹脂の一部もしくは全部を溶解または膨潤させやすく、その結果、前記顔料分散樹脂等の樹脂が前記顔料に吸着しやすくなる。これにより、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、より一層優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができる。
【0068】
前記水溶性有機溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシル、カルビトールなどのジエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコールなどのアルコール類;スルホラン、エステル、ケトン、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン、2-ピロリジノンなどのラクタム類、グリセリンおよびそのポリアルキレンオキサイド付加物など、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。前記水溶性有機溶剤としては、前記したものを単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0069】
なかでも、前記水溶性有機溶剤としては、湿潤剤として機能する高沸点、低揮発性で、高表面張力の多価アルコール類、及び、グリセリンの誘導体類を使用することが好ましく、特にジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類、及び、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物等のグリセリンのポリアルキレンオキサイド付加物を使用することが好ましい。
【0070】
前記水溶性有機溶剤は、前記工程[1]において、前記顔料の質量に対して、10質量%~200質量%の範囲で使用することが好ましく、15質量%~150質量%の範囲で使用することが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、より一層優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえでより好ましい。
【0071】
前記工程[1]で使用可能な前記水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0072】
前記工程[1]では、前記混練装置が備える容器に、例えば前記樹脂、前記顔料、必要に応じて、前記水溶性有機溶剤や水、塩基性化合物等を任意の順番で供給することができる。前記樹脂等の前記容器への供給方法としては、例えば一括して供給する方法、分割して供給する方法等が挙げられる。
【0073】
次に、本発明を構成する工程[2]について説明する。
前記工程[2]は、前記工程[1]を経た後に前記混練装置の容器内に存在する前記内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力が0.02N以上となるまで混練を継続する工程である。これにより、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができる。
【0074】
ここで、前記力が0.02N未満であるにもかかわらず混練を終了した場合、前記内容物(a1)に十分な剪断力が与えることができず、その結果、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得ることができない場合がある。
前記混練は、前記内容物(a1)に対する前記力が0.02N以上に達した時点で、直ちに終了してもよく、前記力が0.02N以上である状態を維持して一定時間継続してもよい。前記混練の終了は、使用する顔料の種類に応じて適宜調整することができ、前記力が0.02N以上に達した時点で、混練を終了することが好ましい。一般に、前記混練は、内容物(a1)に対する前記力が0.02N以上に達した時から、5時間以内に終了することが好ましい。
前記力は、前記工程[2]の混練途中で内容物(a1)を採取し、その採取物の前記力を測定することで確認することができる。
【0075】
前記工程[2]における混練は、前記内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力が0.02~1.5Nの範囲になるまで継続することが、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少ない水性顔料分散体の製造に使用可能で、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生抑止と、顔料等の経時的な沈降発生の防止を両立可能な優れた分散安定性と吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な顔料混練物を得るうえで好ましい。
【0076】
前記内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力の測定方法を説明する。
はじめに、前記工程[2]の混練途中で内容物(a1)を採取する。
次に、前記採取した内容物(a1)を用いて18~21gの範囲の球を作製する。次に、前記球を、万力プレス機(株式会社ナベヤ製のN-735C)で押しつぶすことで、直径5~7cm及び厚さ2.5~5mmの成形物を作製し、これを試験片とする。前記試験片の密度は、1.4~2.6g/mの範囲とする。
次に、27℃の環境下、27℃の試験片を用い、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記試験片をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度(プローブを押し込む速度)0.1mm/sの条件のもと、前記試験片を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を測定する。前記測定を10回行い、その平均値を本発明でいう「0.1mm押し込むために必要な力」とした。
【0077】
前記工程[2]において、前記内容物(a1)の混練に使用する混練装置としては、例えばヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、トリミックス、プラネタリーミキサー等を使用することができる。
【0078】
前記混練装置としては、例えば前記工程[1]において前記水溶性有機溶剤や水等の溶媒を使用する場合であれば、前記混練装置が備える容器の内部を閉鎖できるものを使用することが好ましい。前記閉鎖とは、例えば混練装置が備える容器とその蓋部とによって構成される空間を閉鎖できることを指し、このような閉鎖型混練装置を使用することが、前記水溶性有機溶剤の含有量が前記工程[2]において著しく変化することを防止うえで好ましい。
なお、前記「著しく変化」とは、前記内容物(a1)の質量に対する、工程[2]終了後に得られた前記顔料混練物の質量の割合が90質量%未満となる状態を指す。
【0079】
前記混練装置としては、例えば撹拌槽である前記容器と、一軸または多軸の撹拌羽根を備えた混練装置を使用することができ、さらに前記容器の蓋部を備えた閉鎖型混練装置を使用することが好ましい。
前記閉鎖型混練装置としては、高い混練作用を得るうえで、二つ以上の攪拌羽根を有するものを使用することが好ましい。
前記閉鎖型混練装置としては、特にプラネタリーミキサーを使用することが、前記内容物(a1)として好ましくは不揮発分50質量%以上のものを使用した場合に強い剪断力を与えることができ、前記顔料の凝集物の粉砕と、前記顔料分散樹脂等の樹脂の前記顔料への吸着のしやすさを高めることができるため好ましい。
また、前記プラネタリーミキサーは、前記内容物(a1)の粘度が広範なものであっても、前記顔料の凝集物の粉砕と、前記顔料分散樹脂等の樹脂の前記顔料への吸着のしやすさを高めることができるため好ましい。
また、前記プラネタリーミキサーを使用する場合であれば、前記工程[2]の終了後、引き続きプラネタリーミキサーの容器内に後述する水性媒体を供給するなどして水性顔料分散体を製造することができるため、水性顔料分散体やインクの生産効率を向上するうえでも好ましい。
【0080】
前記内容物(a1)の混練は、60℃~120℃の範囲内を維持した状態で行うことが、前記内容物(a1)により一層十分な剪断力を与え、その結果、前記顔料の凝集物の粉砕と、前記顔料分散樹脂等の樹脂の前記顔料への吸着のしやすさを高めることができるためより好ましい。
前記内容物(a1)の前記温度は、顔料の種類によって、顔料混練物等に異なる影響を与える場合がある。例えばイエロー顔料であるC.I.ピグメントイエロー74を使用する場合、前記温度が80℃を超えると、得られる水性顔料分散体の製造直後の分散物の体積平均粒子径が若干大きくなる傾向にあるため、後述するように水や水溶性有機溶剤等の溶媒を供給することで、前記温度を調整することが好ましい。一方、ブラック顔料であるC.I.ピグメントブラック7を使用する場合、前記温度が120℃を超えると前記内容物(a1)の粘度が低下する傾向にあり、内容物(a1)に加えられる剪断力が小さくなる場合があるため、後述するように水や前記水溶性有機溶剤等の溶媒を供給することで、前記温度を調整することが好ましい。
【0081】
前記工程[2]の途中で前記内容物(a1)の温度が前記範囲外にならないよう、必要に応じて前記内容物(a1)に水や水溶性有機溶剤等の溶媒を供給したり、ドライアイスや液体窒素等を用いて前記混練装置及び内容物(a1)を冷却してもよい。
【0082】
前記した本発明の製造方法で得られた顔料混練物は、常温において半固体または固体の形状を有し、後述する水性媒体に対して容易に分散することができる。
【0083】
次に、前記方法で得られた顔料混練物を用いて水性顔料分散体を製造する方法について説明する。
前記水性顔料分散体は、例えば前記方法で得られた顔料混練物と、後述する水性媒体と、必要に応じてその他の成分を混合する工程[3]を経ることによって製造することができる。
【0084】
前記工程[3]では、前記顔料混練物に後述する水性媒体を供給し混合してもよく、前記水性媒体に前記顔料混練物を供給し混合してもよい。
【0085】
前記工程[2]においてプラネタリーミキサー等の閉鎖型混練装置を用いた場合には、前記顔料混練物を含む前記混練装置の前記容器に、後述する水性媒体を供給し混合することが、水性顔料分散体の製造効率を向上するうえで好ましい。この場合、前記混練装置が稼動した状態(すなわち、前記内容物(a1)を0.1mm押し込むために必要な力が0.02N以上に達した後も、前記工程[2]の混練が継続した状態)で、工程[3]の前記水性媒体の供給を行うことが、前記顔料混練物の前記水性媒体中への分散効率と前記水性顔料分散体の生産効率を向上させるうえで好ましい。前記水性媒体としては、前記顔料混練物の温度の著しい低下を抑制するうえで、25℃~65℃の水を使用することが好ましい。
また、前記顔料混練物に後述する水性媒体を供給する方法としては、一括して供給する方法や、連続的または断続的に供給する方法等が挙げられる。前記水性媒体を供給する方法としては、連続的または断続的に供給する方法を採用することが、前記水性媒体への前記顔料混練物の分散を効率的に行え、水性顔料分散体の製造に要する時間を短縮できるため好ましい。
【0086】
前記工程[3]で使用可能な水性媒体としては、例えば水、水と容易に混ざり合う水溶性有機溶剤、または、水と水溶性有機溶剤との混合物を使用することができる。前記水溶性有機溶剤としては、前記工程[2]で使用可能なものとして例示したものと同様のものを1種または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0087】
前記工程[1]、[2]及び[3]を経ることによって得られた前記水性顔料分散体は、前記顔料分散樹脂等の樹脂が吸着した前記顔料が水性媒体中に分散して、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少なく、経時的に粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備えた液体状のものである。
前記水性顔料分散体は、前記水性顔料分散体の全量に対する不揮発分が10質量%~30質量%であることが好ましく、12質量%~25質量%であることがより好ましい。
【0088】
本発明では、前記水性顔料分散体の経時的な粗大粒子の発生または顔料等の経時的な沈降の発生をより一層抑えることを目的として、後述する工程[4]の前に、必要に応じて、分散装置を用いて分散処理を行ってもよい。前記分散装置としては、例えば、メディアを用いたものとして、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができ、メディアを用いないものとして超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機、高圧ホモジナイザー等を使用することができる。
【0089】
また、前記水性顔料分散体に多価金属イオン等の不純物が含まれる場合、本発明では、前記工程[3]で得られた前記水性顔料分散体を、後述する工程[4]の前に、必要に応じて、キレート樹脂等を用いて不純物を除去する処理を行うことが好ましい。
インクジェット印刷方式としては、ピエゾ方式とサーマル方式とが知られている。特にサーマル方式では、インクを吐出する際のインクノズル内部の急激な温度上昇により、インクノズル内部の発熱抵抗素子表面に、顔料分散樹脂等の樹脂と多価金属イオンとの凝集物や、前記多価金属イオン由来の多価金属塩などの凝集物が堆積するコゲーションという現象が発生する場合がある。前記凝集物は、インクの吐出不良の原因となるため、インクジェット記録用インクには、多価金属イオンの低減が強く望まれている。
【0090】
前記多価金属イオンを低減する方法としては、例えば、水性顔料インクや水性顔料分散体にキレート形成基を持つ粒子又は繊維状樹脂を接触させて多価金属を取り除く方法等が挙げられる。
【0091】
本発明では、少なくとも前記工程[1]、工程[2]及び工程[3]を経ることによって得られた前記水性顔料分散体を、30℃~70℃の範囲内で遠心分離処理することが好ましい。
前記水性顔料分散体には、前記顔料の未粉砕物や前記顔料分散樹脂等の樹脂の未溶解物や、前記顔料分散樹脂が十分吸着していない顔料等の前記粗大粒子等の原因となりうる成分が、ごくわずかに残留する場合がある。
【0092】
高精細な印刷物の製造に使用可能な、微細化され、高密度化されたインク吐出ノズルは、インク中の極僅かな粗大粒子や沈殿物の影響によって目詰まりやインクの吐出異常を発生させやすく、その結果、印刷物にスジ等が発生させる場合があった。とりわけ、一般にラインヘッドによるシングルパス方式でのインクジェット印刷法では、いわゆるマルチパス方式(スキャン方式)でのインクジェット印刷法と比較して、インク吐出ノズルの目詰まり等に起因した画像品質の低下を引き起こしやすい場合があった。
本発明では、前記水性顔料分散体を製造した後に、所定の条件下で遠心分離処理する工程[4]を経ることによって、微細化され、高密度化されたインク吐出ノズルの目詰まり等を引き起こさないインクの製造に使用可能な水性顔料分散体が製造可能である。
ここで、本発明でいう粗大粒子は、Particle Sizing Systems社製の個数カウント方式による粒度分布計(Accusizer 780 APS)を用いて測定された粒子径が直径0.5μm以上のものを指す。
前記工程[4]では、単に遠心分離処理をすればよいわけではなく、30℃~70℃の範囲で遠心分離処理することが好ましく、40℃~65℃の範囲で遠心分離処理することが効率よく、かつ実用上十分に粗大粒子を除去するうえでより好ましい。なお、前記温度は、遠心分離される水性顔料分散体の温度を指す。
【0093】
前記水性顔料分散体は、遠心分離装置に供給される前に、例えば熱交換装置等を用いて予め30℃~70℃に温度調整されていてもよく、遠心分離装置として温度設定機能を有するものを使用する場合には、遠心分離装置に供給された後、前記温度範囲に調整されてもよい。
加温された前記水性顔料分散体は、低粘度化されることによって、遠心分離効率が向上し、効率良く粗大粒子を取り除くことができる。また、前記水性顔料分散体を前記温度範囲で制御することにより、外気温による影響が受けにくくなり、粗大粒子の少ない水性顔料分散体を安定的に製造することができる。
【0094】
前記遠心分離処理される前記水性顔料分散体としては、25℃での粘度が13mPa・s以下であるものを使用することが、前記水性顔料分散体から粗大粒子を一層効率よく、かつ実用上十分に取り除くことができるため好ましい。
とりわけ、遠心分離装置として、後述する円筒型の遠心分離装置を使用する場合には、前記水性顔料分散体として25℃での粘度が10.5mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s~10.5mPa・sであるものことが、前記水性顔料分散体から粗大粒子をより一層効率よく、かつ実用上十分に取り除くことができるためより好ましい。
【0095】
前記遠心分離装置としては、ローターの形状が円筒型の遠心分離装置を使用することが、前記粗大粒子を含む粘土状のスラッジがローター内に堆積したことに起因する遠心分離効率の低下を効果的に抑制できるため好ましい。
前記工程[1]、工程[2]及び工程[3]を経て得られた前記水性顔料分散体は、前記したとおり、前記顔料の粗大粒子、前記顔料の未粉砕物、または前記顔料分散樹脂等の樹脂の未溶解物等のさまざまな大きさの粗大粒子が含まれやすい。前記円筒型遠心分離装置を用いて前記工程[4]を行うことによって、生産性を損ねることなく、上記の粗大粒子を効率よく、かつ継続的に除去できる。
【0096】
また、前記工程[4]は、前記円筒型遠心分離機が備えるローターに前記水性顔料分散体を供給し、前記水性顔料分散体の温度を30℃~70℃の範囲内に維持した状態で行う工程であることが、安定的に好適な遠心分離効率を長期間維持でき、前記水性顔料分散体から粗大粒子をより一層効率的かつ十分に取り除くことができるため好ましい。その際、前記ローターの容積に対する前記水性顔料分散体の供給量(体積)の比率[水性顔料分散体の供給量(体積)/ローターの容積]×100は、1000%~8000%であることが、粗大粒子ではない顔料等の成分が取り除かれることを抑制できる一方で、前記水性顔料分散体から粗大粒子を一層効率的に取り除くことができため好ましい。
【0097】
前記遠心分離装置の遠心加速度は、8000G~20000Gの範囲であることが前記顔料分散樹脂が顔料から引き剥がされることを防止でき、かつ前記水性顔料分散体から粗大粒子を効率良く取り除くことができるため好ましい。
【0098】
なお、前記遠心加速度は、相対遠心加速度を意味し、下記式により定義される。
【0099】
相対遠心加速度(G)=r×(2πN/60)/g
(式中、Nは1分間当たりの回転数(rpm)、rは回転半径(m)、gは重力加速度(9.8m/s)、πは円周率を指す)
【0100】
以上のとおり、本発明の製造方法によって得られた水性顔料分散体は、分散物の体積平均粒子径が非常に小さく、粗大粒子が少なく、経時的な粗大粒子の発生を防止でき、かつ顔料等の経時的な沈降の発生を防止可能な分散安定性を備え、かつ優れた吐出安定性を備えたインクの製造に使用可能な水性顔料分散体である。
【0101】
前記水性顔料分散体は、所望の濃度に希釈することによってインクとして使用することができる。
前記インクとしては、例えば自動車や建材用の塗料や、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキまたはインクジェット印刷用インク等が挙げられる。
前記インクをインクジェット印刷用インクとして使用する場合、前記インクとしては、インク全量に対する顔料の濃度が1質量%~10質量%であるものを使用することが好ましい。
前記インクは、本発明の水性顔料分散体と、必要に応じて水溶性有機溶剤や水等の溶媒と、バインダーとしてアクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等の樹脂と、乾燥抑止剤、浸透剤、界面活性剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合することによって製造することができる。前記インクは、前記方法で製造した後に、遠心分離処理やろ過処理を施してもよい。
前記水溶性有機溶剤は、前記インクの乾燥を防止し、インクの粘度や濃度を好適な範囲に調整するうえで使用することができる。
【0102】
前記水溶性有機溶剤としては、前記水性顔料分散体の前記工程[1]で使用可能なものとして例示したものと同様のものを使用することができる。なかでも、水溶性有機溶剤としては、被記録媒体へのインクの浸透性を高めるうえで、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルなどのアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物;プロピレングリコールプロピルエーテルなどのアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0103】
前記乾燥防止剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。なかでも、前記乾燥防止剤としては、グリセリン、トリエチレングリコールを使用することが、安全性を有し、かつインクが乾燥しにくく、吐出性能に優れたインクを得ることができる。
なお、前記乾燥防止剤は、水性顔料分散体で使用する前記の水溶性有機溶剤と同じ化合物を使用することができる。従って水性顔料分散体に既に水溶性有機溶剤を使用している場合、乾燥防止剤としての役割を兼ねることできる。
【0104】
前記浸透剤は、記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として使用することができる。
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのグリコールモノエーテルが挙げられる。
【0105】
前記界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために使用することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0106】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0107】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0108】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
また、前記界面活性剤は、単独または2種類以上を組み合わせ使用することができる。
【0109】
上記方法で得られたインクは、インクジェット印刷用インクとして好適に用いることができる。なかでも、インクジェット印刷方式として、一般に、マルチパス方式(スキャン方式)のインクジェット印刷法と比較してインク吐出ノズルの目詰まり等に起因した画像品質の低下を引き起こしやすいラインヘッドによるシングルパス方式でのインクジェット記録方式を選択し、本発明のインクと組み合わせ使用する印刷方法や印刷物の製造方法が、インク吐出ノズルの目詰まり等に起因した画像品質の低下を引き起こしにくく、スジ等の発生が抑制された印刷物を得るうえで好ましい。
【実施例
【0110】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0111】
(顔料分散樹脂)
顔料分散樹脂Aとして、スチレン72質量部とアクリル酸12質量部とメタアクリル酸16質量部との重合体(重量平均分子量8200、酸価180mgKOH/g)を使用した。
顔料分散樹脂Bとして、スチレン77質量部とアクリル酸10質量部とメタクリル酸13質量部との重合体(重量平均分子量8800、酸価154mgKOH/g)を使用した。
顔料分散樹脂Cとして、スチレン74質量部とアクリル酸11質量部とメタクリル酸15質量部との重合体(重量平均分子量11000、酸価173mgKOH/g)を使用した。
顔料分散樹脂Dとして、スチレン77質量部とアクリル酸10質量部とメタクリル酸13質量部との重合体(重量平均分子量11000、酸価154mgKOH/g)を使用した。
【0112】
顔料分散樹脂A~Dの重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定した値であり、ポリスチレン分子量に換算した値である。測定条件は以下の通りである。
送液ポンプ:LC-9A
システムコントローラー:SLC-6B
オートインジェクター:S1L-6B
検出器:RID-6A
以上 株式会社島津製作所製
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ 社製)。
カラム:GL-R400(ガードカラム)+GL-R440+GL-R450+GL-R400M(日立化成工業株式会社製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
溶出流量:2mL/min
カラム温度:35℃
【0113】
酸価は、溶剤としてジエチルエーテルの代わりにテトラヒドロフランを用いること以外は日本工業規格「K0070:1992. 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、顔料分散樹脂1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を指す。
【0114】
(実施例1)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、3.0質量部の顔料分散樹脂Aと、10.0質量部のC.I.ピグメントブルー15:3としてFASTOGEN BLUE TGR-SD(DIC株式会社製)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温した後、3.80質量部のトリエチレングリコール(株式会社日本触媒製)と、1.59質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液を順番に供給することによって内容物(a1-1)を得た。
【0115】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を60℃に保温した状態で、前記内容物(a1-1)を、自転回転数30rpm、公転回転数10rpmで10分間撹拌した後、自転回転数51rpm、公転回転数17rpmでの混練を開始した。前記混練を開始してから60分間後、前記力の測定を開始した。
はじめに、前記プラネタリーミキサーから前記内容物(a1-1)の一部(19.4g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、万力プレス機(株式会社ナベヤ製のN-735C)を用いて押しつぶすことによって、直径5.5cm及び厚さ4.7mm(密度1.7g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に、27℃の前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記平均値が0.02N以上になったことを確認できた後、ただちに前記混練を終了することによって固形状の顔料混練物(a2-1)を得た。
【0116】
(工程[3])
前記顔料混練物(a2-1)に、60℃に加温したイオン交換水を少量ずつ添加し撹拌することによって、顔料濃度を16.3質量%に調整した後、さらに60℃に加温したイオン交換水で希釈したトリエチレングリコールを供給し、混合することによって、顔料濃度が14.9質量%、トリエチレングリコール濃度が11.9質量%、不揮発分が20.2質量%の水性顔料分散体(a3-1)を得た。
【0117】
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(a3-1)を、円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)1.2L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行うことによって、水性顔料分散体(C1)を得た。
【0118】
(比較例1)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、3.0質量部の顔料分散樹脂Aと、10.0質量部のC.I.ピグメントブルー15:3としてFASTOGEN BLUE TGR-SD(DIC株式会社製)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温した後、5.33質量部のトリエチレングリコール(株式会社日本触媒製)と、1.59質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液を順番に供給することによって内容物(a1-1’)を得た。
【0119】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を60℃に保温した状態で、前記内容物(a1-1’)を、自転回転数30rpm、公転回転数10rpmで10分間撹拌した後、自転回転数51rpm、公転回転数17rpmでの混練を開始した。前記混練を開始してから60分間後、前記力の測定を開始した。
はじめに、前記プラネタリーミキサーから前記内容物(a1-1’)の一部(18.7g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、前記した万力プレス機を用いて押しつぶすことによって、直径6.5cm及び厚さ3.8mm(密度1.5g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記混練開始から60分経過後、前記力が0.02N未満であることを確認した時点で前記混練を終了し、固形状の顔料混練物(a2-1’)を得た。
【0120】
(工程[3])
前記顔料混練物(a2-1’)に、60℃に加温したイオン交換水を少量ずつ添加し撹拌することによって、顔料濃度を15.9質量%に調整した後、さらに60℃に加温したイオン交換水で希釈したトリエチレングリコールを供給し、混合することによって、顔料濃度が14.9質量%、トリエチレングリコール濃度が11.9質量%、不揮発分が20.2質量%の水性顔料分散体(a3-1’)を得た。
【0121】
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(a3-1’)円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)1.2L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行うことによって、水性顔料分散体(C1’)を得た。
【0122】
(実施例2)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、4.0質量部の顔料分散樹脂Bと、10.0質量部のC.I.ピグメントブラック7として960(三菱ケミカル株式会社製)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温した後、10.9質量部のトリエチレングリコール(株式会社日本触媒製)と、1.78質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液を順番に供給することによって、内容物(a1-2)を得た。
【0123】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を60℃に保温した状態で、上記内容物(a1-2)を、自転回転数30rpm、公転回転数10rpmで10分間撹拌した後、自転回転数36rpm、公転回転数12rpmで混練を開始した。前記混練開始から30分後に0.132質量部のイオン交換水を供給した。次に、前記混練開始から40分後に0.132質量部のイオン交換水を供給した。次に、前記混練開始から50分後に0.132質量部のイオン交換水を供給した。前記混練を開始してから60分間後、前記力の測定を開始した。
はじめに前記プラネタリーミキサーから前記内容物(a1-2)の一部(19.6g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、前記した万力プレス機を用いて押しつぶすことによって、直径5.5cm及び厚さ3.2mm(密度2.6g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記平均値が0.02N以上になったことを確認できた後、ただちに前記混練を終了することによって固形状の顔料混練物(a2-2)を得た。
(工程[3])
前記混練物(a2-2)に、60℃に加温したイオン交換水を添加し撹拌することによって、顔料濃度が12.9質量%、トリエチレングリコール濃度が14.1質量%、不揮発分が18.8質量%の水性顔料分散体(a3-2)を得た。
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(a3-2)を、円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)に1.6L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行い、水性顔料分散体(K2)を得た。
【0124】
(比較例2)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、4.0質量部の顔料分散樹脂Bと、10.0質量部のC.I.ピグメントブラック7として960(三菱ケミカル株式会社製)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温した後、12.5質量部のトリエチレングリコール(株式会社日本触媒製)と、1.78質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液を順番に供給することによって、内容物(a1-2’)を得た。
【0125】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を60℃に保温した状態で、上記内容物(a1-2’)を、自転回転数30rpm、公転回転数10rpmで10分間撹拌した後、自転回転数36rpm、公転回転数12rpmで混練を開始した。前記混練開始から30分後に0.132質量部のイオン交換水を供給した。次に、前記混練開始から40分後に0.132質量部のイオン交換水を供給した。次に、前記混練開始から50分後に0.132質量部のイオン交換水を供給した。前記混練を開始してから60分間後、前記力の測定を開始した。
はじめに、前記プラネタリーミキサーから前記内容物(a1-2’)の一部(20.3g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、前記と同様の万力プレス機を用いて押しつぶすことによって、直径6cm及び厚さ3mm(密度2.4g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記混練開始から60分経過後、前記力が0.02N未満であることを確認した時点で前記混練を終了し、固形状の顔料混練物(a2-2’)を得た。
(工程[3])
前記混練物(a2-2’)に、60℃に加温したイオン交換水を添加し撹拌することによって、顔料濃度が12.9質量%、トリエチレングリコール濃度が16.1質量%、不揮発分が18.8質量%の水性顔料分散体(a3-2’)を得た。
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(a3-2’)を、円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)に1.6L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行い、水性顔料分散体(K2’)を得た。
【0126】
(実施例3)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、3.0質量部の顔料分散樹脂Cと、10.0質量部のキナクリドン系顔料としてCinquasia Magenta D4500J(BASF SE社製)、0.50質量部の顔料誘導体として「フタルイミドメチル化3,10-ジクロロキナクリドン(1分子あたりの平均フタルイミドメチル基数1.4)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温した後、4.93質量部のEG-1(グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物,VANTAGE SPECIALTY CHEMICALS製)と、1.55質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液を順番に供給することによって、内容物(a1-3)を得た。
【0127】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を60℃に保温した状態で、上記内容物(a1-3)を、自転回転数30rpm、公転回転数10rpmで10分間撹拌した後、自転回転数36rpm、公転回転数12rpmで混練を開始した。前記混練を開始してから60分間後、前記内容物(a1-3)の一部(19.4g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、前記した万力プレス機を用いて押しつぶすことによって、直径5.5cm及び厚さ4.4mm(密度1.9g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記平均値が0.02N以上になったことを確認できた後、ただちに前記混練を終了することによって固形状の顔料混練物(a2-3)を得た。
(工程[3])
前記混練物(a2-3)に、60℃に加温したイオン交換水を添加し撹拌することによって、顔料濃度が13.4質量%、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物の濃度が6.6質量%、不揮発分が18.2質量%の水性顔料分散体(a3-3)を得た。
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(a3-3)を、円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)に1.6L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行い、水性顔料分散体(M3)を得た。
【0128】
(実施例4)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、2.05質量部の顔料分散樹脂Cと、10.0質量部のキナクリドン系顔料としてFASTOGEN Super Magenta RY(DIC株式会社製)、0.26質量部のフタルイミドメチル化3,10-ジクロロキナクリドン(1分子あたりの平均フタルイミドメチル基数1.4)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を40℃に加温した後、7.06質量部のトリエチレングリコール(株式会社日本触媒製)と、1.06質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液を順番に供給することによって、内容物(a1-4)を得た。
【0129】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を40℃に保温した状態で、上記内容物(a1-4)を、自転回転数30rpm、公転回転数10rpmで10分間撹拌した後、自転回転数36rpm、公転回転数12rpmでの混練を開始した。前記混練を開始してから60分間後、前記内容物(a1-4)の一部(19.9g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、前記した万力プレス機を用いて押しつぶすことによって、直径5.5cm及び厚さ4.6mm(密度1.8g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記平均値が0.02N以上になったことを確認できた後、ただちに前記混練を終了することによって固形状の顔料混練物(a2-4)を得た。
(工程[3])
前記混練物(a2-4)に、50℃に加温したイオン交換水を添加し撹拌することによって、顔料濃度を19.0質量%に調整した後、さらに50℃に加温したイオン交換水で希釈したトリエチレングリコールを供給し、混合することによって、顔料濃度が18.3質量%、トリエチレングリコール濃度が12.9質量%、不揮発分が22.7質量%の水性顔料分散体(a3-4)を得た。
続いて、ステンドラムに、5.65質量%の純水、0.59質量%のキレストファイバーIRY-LW(キレスト社製、イミノジ酢酸型キレート樹脂)、0.05質量%の48質量%水酸化カリウムの順番に加え、十分に撹拌して得たキレート樹脂組成物を前記水性顔料分散体(a3-4)に投入し、3時間撹拌した。前記撹拌終了後、前記水性顔料分散体(a3-4)と前記キレート樹脂組成物との混合物を、270メッシュ(孔径53μm)のふるいでろ過し、前記キレート樹脂を除去することによって水性顔料分散体(a4-4)を得た。
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(a4-4)を、円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)に1.6L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行い、水性顔料分散体(M4)を得た。
【0130】
(実施例5)
(工程[1])
プラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製PLM-50)の50Lジャケット付タンクに、3.0質量部の顔料分散樹脂Dと、10.0質量部のC.I.ピグメントレッド149としてPaliogen Red K3580(BASF SE株式会社製)を順番に投入し、ジャケット付タンクの温度を60℃に加温した後、5.57質量部のトリエチレングリコール(株式会社日本触媒製)と、1.36質量部の34質量%の水酸化カリウム水溶液、0.43質量%のイオン交換水を順番に供給することによって、内容物(a1-5)を得た。
【0131】
(工程[2])
ジャケット付タンクの温度を60℃に保温した状態で、上記内容物(a1-5)を、自転回転数15rpm、公転回転数5rpmで10分間撹拌した後、自転回転数60rpm、公転回転数21rpmで混練を開始した。前記混練開始から30分後に0.1質量%のトリエチレングリコール混練を供給した。前記混練を開始してから60分間後、前記内容物(a1-5)の一部(19.2g)を分取し、球を作製した。
次に、前記球を、前記した万力プレス機を用いて押しつぶすことによって、直径6.5cm及び厚さ2.8mm(密度2.1g/cm)の成形物を作製した。
次に、27℃の環境下、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製のTA.XT Plus)に前記成形物をセットし、直径1/2インチのプローブ(SUS球(ステンレス球))を用い、プローブ速度0.1mm/sの条件のもと、前記成形物を0.1mm押し込み、前記押し込みに要した力を10回測定し、その平均値を算出した。
前記平均値が0.02N以上になったことを確認できた後、ただちに前記混練を終了することによって固形状の顔料混練物(a2-5)を得た。
(工程[3])
前記混練物(a2-5)に、60℃に加温したイオン交換水を添加し撹拌することによって、顔料濃度を18.9質量%に調整した後、さらに60℃に加温したイオン交換水で希釈したトリエチレングリコールを供給し、混合することによって、顔料濃度が16.0質量%、トリエチレングリコール濃度が9.1質量%、不揮発分が21.5質量%の水性顔料分散体(a3-5)を得た。
25℃以下に冷却した前記水性顔料分散体(a3-5)を、φ0.3mmジルコニアビーズが80%充填されたビーズミル(浅田鉄工株式会社製ナノミルNM-G2L)に流速1.2L/min-1で送液し、回転数2300min-1で分散装置を2回通して、水性顔料分散体(a5-5)を得た。
(工程[4])
熱交換装置(株式会社テイエルブイ製真空蒸気加熱システム)で60℃に加温した前記水性顔料分散体(5M)を、円筒型遠心分離機(遠心分離機ASM260FH、ローター容積7.7L、巴工業株式会社製)に0.8L/分の送液速度で供給し、20000Gの遠心加速度で連続的に遠心分離処理を行い、水性顔料分散体(R5)を得た。
【0132】
(インクジェット印刷用水性インクの製造方法)
実施例及び比較例で得られた各水性顔料分散体とイオン交換水と混合することによって、顔料濃度が6質量%の水性顔料分散体の希釈液を得た。
次に、8.0質量部の2-ピロリジノン、8.0質量部のトリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、3.0質量部のグリセリン、0.5質量部のサーフィノール440(エアープロダクツ社製)、30.5質量部のイオン交換水を含む混合液と、前記水性顔料分散体の希釈液50質量部を混合撹拌することによって、顔料濃度が3質量%のインクジェット印刷用水性インクを得た。
【0133】
〔体積平均粒子径の測定方法〕
実施例及び比較例で得られた製造直後の水性顔料分散体をイオン交換水で下記の倍率で希釈したものを測定試料とし、下記の測定条件で測定した。前記測定試料の25℃における分散物の体積平均粒子径の評価を、粒度分布測定装置(日機装株式会社製:Microtracモデル名Nanotrac-UPA150)を用いて測定した。
【0134】
【表1】
【0135】
〔粗大粒子数の測定方法〕
実施例及び比較例で得られた水性顔料分散体をイオン交換水で希釈したものを測定試料とした。前記測定試料に含まれる直径0.5μm以上の粗大粒子の数を、個数カウント方式粒度分布計(Particle Sizing Systems社製:アキュサイザー780APS)を用いて測定した。前記方法で測定された粗大粒子の数に、前記希釈倍率を乗じることによって、実施例及び比較例の水性顔料分散体1mLに含まれる粗大粒子数を算出した。なお、水性顔料分散体は、1秒当たりに検出器を通過する粒子径0.5μm以上の粗大粒子数が1000~4000個/mLとなるように希釈した。
【0136】
〔水性顔料分散体の経時的な粗大粒子の発生の有無の評価方法(保存安定性)〕
製造直後の水性顔料分散体に含まれる粗大粒子の数を、上記した方法で測定した。
次に、前記水性顔料分散体をポリプロピレン容器に密封し60℃条件下に4週間静置した。
次に、前記静置後の水性顔料分散体に含まれる粗大粒子の数を、上記した方法で測定した。
次に、前記静置前後の粗大粒子数の変化率(%)を、[(前記静置後の水性顔料分散体に含まれる粗大粒子数)/(製造直後の水性顔料分散体に含まれる粗大粒子数)×100]に基づき算出し、下記基準にしたがって評価した。
【0137】
○ 前記変化率が10%未満
△ 前記変化率が10%以上20%未満
× 前記変化率が20%以上
【0138】
〔インクジェット印刷用水性インクの経時的な粗大粒子の発生の有無の評価方法(保存安定性)〕
製造直後のインクジェット印刷用水性インクに含まれる粗大粒子の数を、上記した方法で測定した。
次に、前記インクジェット印刷用水性インクをポリプロピレン容器に密封し60℃条件下に4週間静置した。
次に、前記静置後のインクジェット印刷用水性インクに含まれる粗大粒子の数を、上記した方法で測定した。
次に、前記静置前後の粗大粒子数の変化率(%)を、[(前記静置後のインクジェット印刷用水性インクに含まれる粗大粒子数)/(製造直後のインクジェット印刷用水性インクに含まれる粗大粒子数)×100]に基づき算出し、下記基準にしたがって評価した。
【0139】
○ 前記変化率が10%未満
△ 前記変化率が10%以上20%未満
× 前記変化率が20%以上
【0140】
〔インクジェット印刷用水性インクに含まれる顔料等の経時的な沈降の有無の評価方法(沈降性)〕
実施例及び比較例で得たインクジェット印刷用水性インクを10mL容量のガラスバイアルに入れ、密封して25℃の条件下に2週間静置した。
前記静置後、前記ガラスバイアルを倒置した際に、前記ガラスバイアルの壁面に前記顔料等の沈降物の付着を目視で観察し、下記基準にしたがって評価した。
【0141】
○ ガラスバイアルの壁面に顔料等の沈降物の付着が確認できなかった。
△ ガラスバイアルの壁面に顔料等の沈降物の付着が認められた。
× ガラスバイアルの壁面に顔料等の沈降物の付着が顕著に認められた。
【0142】
〔インクジェット印刷用水性インクの初期吐出安定性〕
製造直後のインクジェット印刷用水性インクの吐出安定性を、市販のインクジェットプリンターENVY4500(HP社製)を用いて評価した。前記インクジェット印刷用水性インクを、ブラックインクカートリッジに充填し、ノズルチェック用パターンを印刷した(1回目)。次に、モノクロモードでA4用紙1枚の340cmの範囲に、印刷濃度設定100%でベタ印刷をした。次に、ノズルチェックテスト用パターンを再度印刷した(2回目)。前記1回目と2回目のノズルチェックテスト用パターンを比較することによって、インク吐出ノズルの目詰まり状態を評価した。
◎ 1回目及び2回目のノズルチェックテスト用パターンのいずれにおいても、印刷パターンの欠けが発生しなかった
○ 1回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数と、2回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数とが同一であった。
△ 1回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数よりも、2回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数の方が1~5個多かった。
× 1回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数よりも、2回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数の方が6個以上多かった。
【0143】
〔インクジェット印刷用水性インクの経時吐出安定性〕
製造直後のインクジェット印刷用水性インクを、ブラックインクカートリッジに充填し、常温下で4週間静置した。
次に、市販のインクジェットプリンターENVY4500(HP社製)を用いて評価した。前記インクジェット印刷用水性インクを、ブラックインクカートリッジに充填し、ノズルチェック用パターンを印刷した(1回目)。次に、モノクロモードでA4用紙1枚の340cmの範囲に、印刷濃度設定100%でベタ印刷をした。次に、ノズルチェックテスト用パターンを再度印刷した(2回目)。前記1回目と2回目のノズルチェックテスト用パターンを比較することによって、インク吐出ノズルの目詰まり状態を評価した。
◎ 1回目及び2回目のノズルチェックテスト用パターンのいずれにおいても、印刷パターンの欠けが発生しなかった
○ 1回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数と、2回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数とが同一であった。
△ 1回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数よりも、2回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数の方が1~5個多かった。
× 1回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数よりも、2回目のノズルチェックテスト用パターンで確認された印刷パターンの欠けの数の方が6個以上多かった。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】