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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ワーク矯正方法およびワーク矯正装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 3/02 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B21D3/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019226664
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021094576
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山本 学
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】青谷 繁
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寛祥
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 政行
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-118266(JP,A)
【文献】特開2008-161890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 3/00 - 3/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ラインを挟んで配置される一対の矯正ロールが、搬送ラインに沿って間隔をおいて複数配置されるロール矯正機を備え、搬送ラインに沿って配置される長尺なワークをその後端部を押動部材で支持しつつ前方へ押動することにより、前記ロール矯正機に投入するようにしたワーク矯正方法であって、
前記押動部材によって支持されたワークの位置をワーク後方支持位置とし、前記ロール矯正機のうち、1番目に配置される矯正ロールに拘束されたワークの位置をワーク矯正入口位置とし、ワークにおける前記ワーク矯正入口位置から前記ワーク後方支持位置までの部分を未投入部分として、未投入部分に対しバタつき抑制手段を搬送ラインに対し直交する方向から当接するに際して、
未投入部分の2次固有振動モードでの固有振動数と、ワークの回転数とが一致する際の未投入部分の長さを「L1」としたとき、
前記バタつき抑制手段によるワークに対する当接位置を、前記ワーク矯正入口位置を基点にして、(0.15×L1)~(0.35×L1)の範囲または(0.65×L1)~(0.85×L1)の範囲に設定するようにし
ワークが前記矯正ロールに投入する際には前記バタつき抑制手段が退避してワークに当接しておらず、
未投入部分の2次固有振動モードでの2次固有振動数と、ワークの回転数とが一致する時点において前記バタつき抑制手段がワークに当接されていることを特徴とするワーク矯正方法。
【請求項2】
未投入部分の長さが(0.9×L1)~(1.1×L1)の間に、前記バタつき抑制手段をワークに当接するようにした請求項1に記載のワーク矯正方法。
【請求項3】
前記バタつき抑制手段としてバタつき抑制ロールが用いられる請求項1または2に記載のワーク矯正方法。
【請求項4】
前記ロール矯正機の後方に、搬送ラインに沿って複数のサポートロールが設けられ、
各サポートロールは、ワークを支持する上昇位置と、ワークから退避する下降位置との間で昇降自在に設けられ、
前記複数のサポートロールのいずれかが前記バタつき抑制ロールを兼用するものである請求項3に記載のワーク矯正方法。
【請求項5】
ワークがアルミニウム管によって構成されている請求項1~4のいずれか1項に記載のワーク矯正方法。
【請求項6】
ワークが引抜管によって構成されている請求項1~5のいずれか1項に記載のワーク矯正方法。
【請求項7】
ワークが感光ドラム用基体として用いられる請求項1~6のいずれか1項に記載のワーク矯正方法。
【請求項8】
搬送ラインを挟んで配置される一対の矯正ロールが、搬送ラインに沿って間隔をおいて複数配置されるロール矯正機を備え、搬送ラインに沿って配置される長尺なワークをその後端部を押動部材で支持しつつ前方へ押動することにより、前記ロール矯正機に投入するようにしたワーク矯正装置であって、
前記押動部材によって支持されたワークの位置をワーク後方支持位置とし、前記ロール矯正機のうち、1番目に配置される矯正ロールに拘束されたワークの位置をワーク矯正入口位置とし、ワークにおける前記ワーク矯正入口位置から前記ワーク後方支持位置までの部分を未投入部分として、未投入部分に対し搬送ラインに対し直交する方向から当接するためのバタつき抑制手段を備え、
未投入部分の2次固有振動モードでの固有振動数と、ワークの回転数とが一致する未投入部分の長さを「L1」としたとき、
前記バタつき抑制手段によるワークに対する当接位置が、前記ワーク矯正入口位置を基点にして、(0.15×L1)~(0.35×L1)の範囲または(0.65×L1)~(0.85×L1)の範囲に設定され
ワークが前記矯正ロールに投入する際には前記バタつき抑制手段が退避してワークに当接しておらず、未投入部分の2次固有振動モードでの2次固有振動数と、ワークの回転数とが一致する時点において前記バタつき抑制手段がワークに当接されるように構成されていることを特徴とするワーク矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム(Al)製管材等の長尺な金属製ワークにおける真直度や真円度等を矯正するためのワーク矯正方法およびワーク矯正装置に関する。
【0002】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語は、アルミニウムおよびその合金を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置の感光ドラム用の基体として、押出加工されたアルミニウム製管材を、引抜加工して得られる引抜管、いわゆるED管が多く用いられている。
【0004】
感光ドラム用基体としてのED管は、高い表面精度が要求されると同時に、高い寸法精度も要求される。特に真直度、すなわち軸心方向にうねりや曲がりを有しないことが厳しく要求される。
【0005】
このような状況下にあって従来から、押出加工および引抜加工を経た長尺ワークとしてのED管に対し、真直度や真円度を向上させるために矯正加工が施され、その矯正後のワークを所定寸法に切断して感光ドラム用基体として用いることが一般に行われている。
【0006】
下記特許文献1,2に示すように長尺ワークの矯正加工は、ワーク矯正装置が用いられる。図4に示すように、ワーク矯正装置は、実際に管状ワークWを矯正するロール矯正機1と、そのロール矯正機1に管状ワークWを投入するワーク投入機2とを備えている。
【0007】
ロール矯正機1は、管状ワークの搬送ライン(矯正パスライン)Xに沿って配置され、かつ上下で一対をなす多数組の鼓状矯正ロール11,11を備えている。さらに多数組の矯正ロール11,11のうち、最も入側(後側)に配置された1番目の矯正ロール11,11の後側(上流側)には、搬送ラインXに沿って位置決め用ガイドロール13が配置されている。このガイドロール13は、昇降駆動用シリンダ14によって、搬送ラインXに対応し、かつ管状ワークWを支持可能な上昇位置と、搬送ラインXから下方に退避する退避位置との間で昇降自在に支持されている。そして矯正ロール11,11間に管状ワークWを導通させることにより、管状ワークWに矯正ロール11,11の駆動力による自軸回転を付与しつつ前方(下流側)に送り出していき、その間に真直度や真円度の矯正が行われるようになっている。
【0008】
一方、ワーク投入機2は、ロール矯正機1の後方(上流側)において搬送ラインXに沿って間隔をおいて配置された複数のサポートロール21を備えている。各サポートロール21は、管状ワークWを下方から担持支承できるように構成されるとともに、昇降駆動用シリンダ22によって支持され、管状ワークWを支承する上昇支承位置と、管状ワークWから離間する下方の退避位置との間で個別に昇降作動可能に構成されている。
【0009】
またワーク投入機2の後部には、搬送ラインXに対応してワーク押送用の押動部材23が装備されている。この押動部材23は、管状ワークWの後端部を支持しながら、駆動手段によって管状ワークWを前方へ送り出すことができるように構成されている。
【0010】
上記のワーク矯正装置によって管状ワークWの矯正加工を遂行する場合、ワーク投入機2のサポートロール21をすべて上昇支承位置に保ったまま、管状ワークWをロール矯正機1に投入すると、管状ワークWの先端が、1番目の矯正ロール11,11間に進入した時点で、管状ワークWに自軸回転が付与されるため、管状ワークWが揺動して、管状ワークWの外周面がサポートロール21に激しく干渉して管状ワークWの外周面に有害なキズが付いてしまうおそれがある。
【0011】
そこで図5に示すように、上記の表面損傷の発生を避けるため、管状ワークWの先端がロール矯正機1の導入位置決め用ガイドロール13に投入される際に、ワーク投入機20側の全てのサポートロール21を退避位置に下降させて、管状ワークWを前後両端の2点で支持することにより、管状ワークWとサポートロール21との干渉を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-161890号公報
【文献】特開2018-118266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、従来のワーク矯正装置において正常に稼働している状態であっても、管状ワークWの先端(前端)が1番目の矯正ロール11,11間に進入すると、管状ワークWが揺動して振動が生じるが、矯正処理を繰り返し行っていると、大きな振幅を持った異常な振動(バタつき)が発生するという課題があった。特にこのようなバタつきが発生すると、管状ワークWにおける1番目の矯正ロール11,11に対する接触部が凹陥変形等して損傷してしまうおそれがある。
【0014】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ワークの有害なバタつきの発生を抑制することができるワーク矯正方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明者はまず、バタつきが発生する際のメカニズムについて調査した。それによると、ワークの後端を押動部材で支持しつつ押し込んでワークの前端をロール矯正機の1番目の矯正ロールに投入した状態においては、ワークの後端および前端を節として、ワークは固有振動モードで振動するが、そのワークの固有振動数(Hz)と、矯正ロールへの投入によって自軸回転するワークの回転数(r/s)との間に密接な関係があることが次第に明らかになってきた。さらに本発明者はその調査結果を分析し、綿密な実験研究を繰り返し行ったところ、ワークの2次固有振動モードでの固有振動数と、ワーク回転数とが一致した際に共振が起こり、その共振によってバタつきが多く発生していることを突き止めた。一方、固有振動するワークは腹(anti-node)の部分が最も大きく変位するため、その最も大きく変位する部分を抑制すれば、バタつきの発生を有効に抑制することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
すなわち本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0017】
[1]搬送ラインを挟んで配置される一対の矯正ロールが、搬送ラインに沿って間隔をおいて複数配置されるロール矯正機を備え、搬送ラインに沿って配置される長尺なワークをその後端部を押動部材で支持しつつ前方へ押動することにより、前記ロール矯正機に投入するようにしたワーク矯正方法であって、
前記押動部材によって支持されたワークの位置をワーク後方支持位置とし、前記ロール矯正機のうち、1番目に配置される矯正ロールに拘束されたワークの位置をワーク矯正入口位置とし、ワークにおける前記ワーク矯正入口位置から前記ワーク後方支持位置までの部分を未投入部分として、未投入部分に対しバタつき抑制手段を搬送ラインに対し直交する方向から当接するに際して、
未投入部分の2次固有振動モードでの固有振動数と、ワークの回転数とが一致する際の未投入部分の長さを「L1」としたとき、
前記バタつき抑制手段によるワークに対する当接位置を、前記ワーク矯正入口位置を基点にして、(0.15×L1)~(0.35×L1)の範囲または(0.65×L1)~(0.85×L1)の範囲に設定するようにしたことを特徴とするワーク矯正方法。
【0018】
[2]未投入部分の長さが(0.9×L1)~(1.1×L1)の間に、前記バタつき抑制手段をワークに当接するようにした前項1に記載のワーク矯正方法。
【0019】
[3]前記バタつき抑制手段としてバタつき抑制ロールが用いられる前項1または2に記載のワーク矯正方法。
【0020】
[4]前記ロール矯正機の後方に、搬送ラインに沿って複数のサポートロールが設けられ、
各サポートロールは、ワークを支持する上昇位置と、ワークから退避する下降位置との間で昇降自在に設けられ、
前記複数のサポートロールのいずれかが前記バタつき抑制ロールを兼用するものである前項3に記載のワーク矯正方法。
【0021】
[5]ワークがアルミニウム管によって構成されている前項1~4のいずれか1項に記載のワーク矯正方法。
【0022】
[6]ワークが引抜管によって構成されている前項1~5のいずれか1項に記載のワーク矯正方法。
【0023】
[7]ワークが感光ドラム用基体として用いられる前項1~6のいずれか1項に記載のワーク矯正方法。
【0024】
[8]搬送ラインを挟んで配置される一対の矯正ロールが、搬送ラインに沿って間隔をおいて複数配置されるロール矯正機を備え、搬送ラインに沿って配置される長尺なワークをその後端部を押動部材で支持しつつ前方へ押動することにより、前記ロール矯正機に投入するようにしたワーク矯正装置であって、
前記押動部材によって支持されたワークの位置をワーク後方支持位置とし、前記ロール矯正機のうち、1番目に配置される矯正ロールに拘束されたワークの位置をワーク矯正入口位置とし、ワークにおける前記ワーク矯正入口位置から前記ワーク後方支持位置までの部分を未投入部分として、未投入部分に対し搬送ラインに対し直交する方向から当接するためのバタつき抑制手段を備え、
未投入部分の2次固有振動モードでの固有振動数と、ワークの回転数とが一致する未投入部分の長さを「L1」としたとき、
前記バタつき抑制手段によるワークに対する当接位置が、前記ワーク矯正入口位置を基点にして、(0.15×L1)~(0.35×L1)の範囲または(0.65×L1)~(0.85×L1)の範囲に設定されていることを特徴とするワーク矯正装置。
【発明の効果】
【0025】
発明[1]のワーク矯正方法によれば、振動するワークにおける変位量が大きい部分を特定し、その特定部分にバタつき抑制手段を適宜当接するようにしているため、ワークにバタつきが発生するのを有効に防止することができる。
【0026】
発明[2]のワーク矯正方法によれば、未投入部分の長さが「L1」前後の状態で、バタつき抑制手段をワークWに当接しているため、バタつきの発生をより一層効率良く抑制することができる。
【0027】
発明[3]のワーク矯正方法によれば、バタつき抑制ロールをワークに当接させるものであるため、ワークを安定した状態に支持することができる。
【0028】
発明[4]のワーク矯正方法によれば、サポートロールのいずれかをバタつき抑制ロールと兼用させるものであるため、バタつき抑制ロールを別途設ける必要がなくその分、構成部品を省略できて、装置の簡素化を図ることができる。
【0029】
発明[5]~[7]のワーク矯正方法によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0030】
発明[8]のワーク矯正装置によれば、上記[1]の方法発明を実施可能な装置を特定するものであるため、上記と同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A図1Aはこの発明の実施形態であるワーク矯正方法を実施するためのワーク矯正装置においてワークを矯正ロールに投入する前の状態で示す側面図である。
図1B図1Bはこの発明の実施形態であるワーク矯正方法を実施するためのワーク矯正装置においてワークを矯正ロールに投入した直後の状態で示す側面図である。
図2図2は実施形態のワーク矯正装置におけるワークと変位量測定器との位置関係を説明するための模式平面図である。
図3A図3Aは実施形態のワーク矯正装置に適用可能な押動部材の一例を説明するための断面図である。
図3B図3Bは実施形態のワーク矯正装置に適用可能な押動部材の他の例を説明するための断面図である。
図4図4は従来のワーク矯正装置においてワークを矯正ロールに投入する前の状態で示す側面図である。
図5図5は従来のワーク矯正装置においてワークを矯正ロールに投入した直後の状態で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1Aおよび図1Bはこの発明の実施形態であるワーク矯正方法が適用されたワーク矯正装置を示す側面図である。なお本明細書においては、発明の理解を容易にするため、図1Aおよび図1Bの紙面に向かって左側を「前側(下流側)」とし、右側を「後側(上流側)」として説明する。
【0033】
まず始めに、本実施形態のワーク矯正装置において矯正処理されるワークWは、管状のワークWであって例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置の感光ドラム用の基体として用いられるED管等によって構成されるアルミニウム製管材を対象としている。
【0034】
図1Aおよび図1Bに示すように、本実施形態のワーク矯正装置は、前方側(下流側)に設けられたロール矯正機1と、後方側(上流側)に設けられたワーク投入機2とを備えている。
【0035】
ロール矯正機1は、ハウジング10を備え、そのハウジング10内に、搬送ラインXに沿って配置され、かつ上下で一対をなす多数組(多数対)の鼓状矯正ロール11,11が設けられている。本実施形態においては、多数組の矯正ロール11,11のうち、最も上流側(後側)に配置される一対の矯正ロール11,11を1番目の矯正ロール11a,11aと称している。
【0036】
またハウジング10内における1番目の矯正ロール11a,11aの上流側には、位置決め用ガイドロール13が昇降自在に配置されている。
【0037】
ワーク投入機2は、搬送ラインXの後方に対応してワーク押送用の押動部材23が装備されている。この押動部材23は、管状ワークWの後端部を支持しながら、図示しないチェーン駆動機構あるいは流体圧シリンダ機構等の駆動力で管状ワークWを所定の距離範囲にわたって前方に押動することができるように構成されている。
【0038】
ここで本実施形態においては後述するように、押動部材23によって実質的に支持されたワークWの位置をワーク後方支持位置として規定するものであるが、このワーク後方支持位置は、ワークWが固有振動モードで振動する際の後端の節(node)の位置である。従って例えば押動部材23が図3Aに示すようにワークWの後端外周面を開放して非支持状態で後端面のみを支持するようなラッパ状の押動部材23の場合には、ワークWの後端面がワーク後方支持位置P2に設定される。さらに押動部材23が図3Bに示すようにワークWの後端部周辺を把持するように拘束する把持型の押動部材23の場合には、ワークWにおける押動部材23の把持部先端の位置がワーク後方支持位置P2に設定される。
【0039】
またワーク投入機2には、ロール矯正機1の上流側(後方側)において搬送ラインXに沿って間隔をおいて配置された複数のサポートロール21が設けられている。各サポートロール21は、昇降駆動シリンダ22によって、搬送ラインX上の管状ワークWを支持する上昇位置と、管状ワークWから離間する退避位置との間で昇降自在に支持されている。
【0040】
複数のサポートロール21のうち、前側2つのサポートロール21aは、バタつき抑制手段を構成するバタつき抑制ロールを兼用するものである。
【0041】
バタつき抑制ロール21aは、後に詳述するように本実施形態特有の位置に配置されており、ワークWの特定部分を支持当接してバタつきの発生を抑制するように構成されている。
【0042】
なお言うまでもなく、サポートロール21の設置数は特に限定されるものではない。さらにバタつき抑制ロール21aを兼用しないサポートロール21を、バタつき抑制ロール21aの間や前方に設置するようにしても良い。
【0043】
本実施形態のワーク矯正装置においては図1Aに示すように、上昇位置のサポートロール21によって管状ワークWを支持しつつ、押動部材23によってワークWを搬送ラインXに沿って前方に押動させていき、ワークWの先端が1番目の矯正ロール11a,11aに投入されて拘束された際には、バタつき抑制ロールを兼用するサポートロール21a,21aを含めて全てのサポートロール21が退避位置に一旦降下し、ワークWは矯正ロール11a,11aによる拘束位置と押動部材23による支持位置との前後2点で支持されながら、矯正ロール11,11間を通過していく。続いて、ワークWが後述の所定の区間を通過する際に、バタつき抑制ロール21a,21aが上昇してワークWに当接して、その状態でワークWが前方へ押動されていく。そして、所定の区間を通過した後、バタつき抑制ロール21a,21aが退避位置に降下し、ワークWは、1番目の矯正ロール11a,11aと押動部材23との前後2点で支持されながら、矯正ロール11,11間を通過して矯正処理が完了するようになっている。
【0044】
なお、本実施形態においては、ワークWの先端が1番目の矯正ロール11a,11a間に投入された際に、バタつき抑制ロールを兼用するサポートロール21a,21aが上昇したままでワークWを支持しながら他のサポートロール21が退避位置に降下し、その後、ワークWが所定の区間を通過した後、バタつき抑制ロール21a,21aが退避位置に降下してワークWから離脱するようにしても良い。
【0045】
次に本実施形態におけるバタつき抑制ロール21a,21aによるワークWに対する当接位置について詳細に説明する。
【0046】
図2は実施形態のワーク矯正装置におけるワークとバタつき抑制ロール21a,21aとの位置関係を説明するための模式平面図であって、同図に示される波状の太線は2次振動モードでワークWが固有振動する際の波形を誇張して示している。
【0047】
図1A図2に示すようにワークWが押動部材23によって押動されつつ矯正ロール11によって矯正されている際に、全てのサポートロール21が退避位置に降下している状態では、1番目の一対の矯正ロール11a,11aと押動部材23との間においてワークWは、前側が1番目の矯正ロール11a,11aによって拘束されるとともに、後端が押動部材23によって支持されているため、前後両端を節として固有振動する振動モードの状態となっている。
【0048】
ここで図2に示すようにワークWにおける1番目の矯正ロール11a,11aによって拘束されている位置、つまり前側の節の位置をワーク矯正入口位置P1とし、ワークWにおける押動部材23によって支持されている位置、つまり後側(後端)の節の位置をワーク後端支持位置P2とし、さらにワークWにおけるワーク矯正入口位置P1からワーク後端支持位置P2までの部分を未投入部分W1とし、未投入部分W1の長さを「L」とする。この長さ「L」は矯正処理が進むに従って次第に短くなる可変の値である。
【0049】
一方、ワークWは、矯正ロール11を通過する際に矯正ロール11の駆動力により周方向に自軸回転する。
【0050】
そして本実施形態において、ワークWにおける未投入部分W1の2次固有振動モードでの固有振動数fn(Hz)と、ワークWの自軸回転時の回転数Rn(r/s)とが一致する際の未投入部分W1の長さを「L1」としたとき、バタつき抑制ロール21aによるワークWに対する当接位置(支持位置)L2を、ワーク矯正入口位置P1を基点にして、(0.15×L1)~(0.35×L1)の範囲または(0.65×L1)~(0.85×L1)の範囲に設定している。
【0051】
換言すると、(0.15×L1)≦L2≦(0.35×L1)または(0.65×L1)≦L2≦(0.85×L1)の関係を成立させるようにしている。
【0052】
このようにバタつき抑制ロール21aによる当接位置L2を上記の範囲に設定することによって、ワークWのバタつき等の異常な振動を効果的に抑制することができる。
【0053】
すなわち本発明者は、ワークWの2次固有振動モードでの固有振動数fnと、ワーク回転数Rnとが一致した際に共振が起こり、その共振により有害なバタつきが多く発生していることを解明した。また、固有振動するワークは腹の部分の変位量が大きいため、その部分ではバタつきが発生した際に大きく変動する。従ってその腹部周辺にバタつき抑制ロール21aを当接して支持することによって、バタつきの発生を有効に抑制することができる。
【0054】
そこで2次固有振動モードで固有振動する長さL1のワークW(未投入部分W1)においては、腹の位置が、ワーク矯正入口位置P1を基点にして、0.25×L1の位置と、0.75×L1の位置との位置に設定されるため、その周辺を監視するという手法を見出し、上記の関係式を導き出したものである。
【0055】
さらに未投入部分W1の長さLは、矯正処理が進行するに従って次第に短くなるが、未投入部分W1の長さは、2次固有振動モードでの固有振動数が回転数に等しくなった際に「L1」となり、変位量が大きくなるため、未投入部分W1の長さが「L1」になる前後でバタつき抑制ロール21aを当接させることによって、バタつきの発生をより一層有効に抑制することが可能になる。具体的には、未投入部分W1の長さLが、(0.9×L1)~(1.1×L1)の間にバタつき抑制ロール21aを当接させるのが良く、より好ましくは(0.95×L1)~(1.05×L1)の間にバタつき抑制ロール21aを当接させるのが良い。本実施形態においては、このバタつき抑制ロール21aを当接させるのに好ましい未投入部分W1の長さ範囲が、上記の所定の区間に相当するものである。なお、本実施形態においては、バタつき抑制ロール21aを当接させるのに好ましい未投入部分W1の長さ範囲は、上限値および下限値をそれぞれ含むものである。つまり、バタつきロール21aを当接させるのに好ましい未投入部分W1の長さを「La」としたとき、(0.9×L1)≦La≦(1.1×L1)の関係を成立させるのが良く、より好ましくは(0.95×L1)≦La≦(1.05×L1)の関係を成立させるのが良い。
【0056】
なお本実施形態においては、サポートロール21の一部をバタつき抑制ロール21aとして兼用するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、バタつき抑制ロール21aをサポートロール21とは別に設けるようにしても良い。さらに上記実施形態においては、バタつき抑制手段として、バタつき抑制ロール21aを用いるようにしているが、本発明において、バタつき抑制手段は、ロールに限定されるものではなく、ワークWを軸心方向に対し直交する方向から当接してバタつき(振動)を抑制できるものであればどのようなものであっても良く、例えばバタつき抑制手段として、ガイドロールを用いるようにしても良い。
【0057】
次にバタつき抑制ロール21aによるワークWに対する当接位置の具体的な算出方法について説明する。
【0058】
まず、矯正時に周方向に自軸回転する管状ワークWの回転数Rn(r/s)を実測等により求める。例えば矯正ロール11の駆動力によって安定した状態で回転する管状ワークWを、回転速度計を用いて回転速度を計測して回転数Rnを求める。なお矯正ロール11と管状ワークWとの滑りの影響を明確に把握している場合には、矯正ロール11の回転数と矯正ロール11の設置角度とから管状ワークWの回転数Rnを算出するようにしても良い。
【0059】
次に以下の関係式を用いて管状ワークWの2次固有振動モードでの固有振動数fnを求める。
【0060】
【数1】
【0061】
ここに、「kn」は固有値に対応した定数、「E」は縦弾性係数、「I」は断面二次モーメント、「A」は断面積、「L」は長さ(未投入部分W1の長さ)、「ρ」は密度とする。
【0062】
この関係式においては、「kn」は片端固定・片端支持の2次固有振動モードを用いて計算する。つまり矯正ロール11側が固定状態で、押動部材23側が支持状態と見做すことができるからである。
【0063】
従って既述した通り、未投入部分W1の長さが「L1」となったときに、固有振動数fnと回転数Rnとが等しくなる。
【0064】
本実施形態のワーク矯正装置においては、既述した通り、バタつき抑制ロール21aの当接位置L2を決定した後、本格的な量産を開始するものである。そして量産時には、バタつき抑制ロール21aによって、ワークWを適宜当接支持することによって、バタつきの発生を効果的に抑制し、不良ワークの発生を防止して、生産効率の向上を図るようにしている。
【0065】
以上のように本実施形態のワーク矯正装置においては、振動するワークWにおける変位量が大きい部分を特定し、その特定部分にバタつき抑制ロール21aを当接するようにしているため、ワークWにバタつきが発生するのを有効に防止することができる。このためバタつきによる不良のワークWが発生するのを確実に防止でき、歩留まりおよび生産効率を向上させることができる。
【0066】
また本実施形態のワーク矯正装置において、未投入部分W1の長さが「L1」前後の間に、バタつき抑制ロール21aをワークWに当接する場合には、バタつきの発生をより一層効率良く抑制することができる。もっとも本発明においては、未投入部分W1の長さが「L1」前後の間にバタつき抑制ロール21aをワークWに当接するのに加えてさらに、未投入部分W1の長さが「L1」前後ではないときに、バタつき抑制ロール21aをワークWに当接するようにしていても良い。
【実施例
【0067】
ワークWとしての管状の薄肉アルミニウム管に対し、上記実施形態と同様なロール矯正装置を用いて矯正処理を行った。この際、実測によりワークWの周方向の回転数Rn(r/s)を測定し、2次固有振動モードでの固有振動数fn(Hz)が上記の回転数Rnと一致する際のワークW(未投入部分W1)の長さL1を上記実施形態と同様に算出した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、水準(実験例)1においては、ワーク矯正入口位置P1を基点にして、0.1×L1の距離に、バタつき抑制ロールを兼用するサポートロール21aを設置するようにした。同様に水準2~9においては、ワーク矯正入口位置P1を基点にして、0.2×L1、0.3×L1、0.4×L1、0.5×L1、0.6×L1、0.7×L1、0.8×L1、0.9×L1の距離に、バタつき抑制ロールを兼用するサポートロール21aをそれぞれ設置するようにした。なお、表1の測定位置の項目には、L1に対する距離の比率のみが記載されている。
【0070】
ここで、水準2,3,7,8は、表1に示すように実施例に相当し、バタつき抑制ロール21aが、本発明特有の範囲である「L2」の範囲、つまり(0.15×L1)~(0.35×L1)の範囲または(0.65×L1)~(0.85×L1)の範囲に設置されている。
【0071】
これに対し、水準1,4~6,9は、表1に示すように比較例に相当し、バタつき抑制ロール21aが、上記の「L2」の範囲を逸脱する位置に設置されている。
【0072】
そして各水準1~9毎に、200本ずつワークWを通過させて矯正処理を行った。この際、各水準1~9毎にバタつき抑制ロール21aを、ワークWの未投入部分W1の長さが少なくとも(0.95×L1)~(1.05×L1)の間にそれぞれ当接支持して、バタつきの発生を抑制するようにした。
【0073】
そしてオペレータの観察によって、各水準1~9毎に有害なバタつきが発生したか否かを確認し、1本以上バタつきが発生した水準については、バタつきを確実に抑制できないとして「×」と評価し、バタつきが1本も発生しなかった水準については、バタつきを確実に抑制できるとして「○」と評価した。その評価結果を表1に併せて示す。
【0074】
表1から明らかなように、本発明(実施例)に関連した水準2,3,7,8においては、バタつきの発生を確実に防止できることが判る。これに対し本発明の要旨を逸脱する比較例に関連した水準1,4~6,9においては、バタつきの発生を確実に防止できないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0075】
この発明のワーク矯正方法は、アルミニウム製の管材等のワークにおける真直度や真円度等を矯正する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1:ロール矯正機
11:矯正ロール
11a:1番目の矯正ロール
21a:サポートロール(バタつき抑制ロール、バタつき抑制手段)
23:押動部材
fn:2次固有振動モードでの固有振動数
L:ワーク未投入部分の長さ
L1:2次固有振動数と回転数とが一致する際のワーク未投入部分の長さ
L2:測定位置(検知位置)
P1:ワーク矯正入口位置
P2:ワーク後端支持位置
Rn:ワーク回転数
W:ワーク
W1:ワーク未投入部分
X:搬送ライン
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5