(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ニップ形成部材、定着装置、画像形成装置、及びニップ形成部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
G03G15/20 515
(21)【出願番号】P 2019232509
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】今田高広
(72)【発明者】
【氏名】服部良雄
(72)【発明者】
【氏名】佐々木良州
(72)【発明者】
【氏名】高木啓正
(72)【発明者】
【氏名】石ヶ谷康功
(72)【発明者】
【氏名】和井田匠
(72)【発明者】
【氏名】正路圭太郎
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-161849(JP,A)
【文献】特開2015-075562(JP,A)
【文献】特開2014-137491(JP,A)
【文献】特開2015-158535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着装置の定着ニップ部を形成するニップ形成部材であって、
ニップ形成部材は、前記定着ニップ部を形成するニップ部と、前記ニップ部の短手方向の端部に設けられた少なくとも1つの延長部とを有し、
前記ニップ部の長手方向における前記延長部の幅は、前記ニップ部の前記端部に近づくに従って
広がるニップ形成部材において、
前記延長部に加え、
定形部のみからなる第2の延長部を有することを特徴とするニップ形成部材。
【請求項2】
前記延長部は、前記ニップ部の前記端部に近づくに従って、前記長手方向の幅が増える徐変部と、前記幅が一定の定形部とを有することを特徴とする請求項1に記載のニップ形成部材。
【請求項3】
前記ニップ部の厚みと前記延長部の厚みは異なることを特徴とする請求項1又は2に記載のニップ形成部材。
【請求項4】
前記延長部の厚みは、前記ニップ部の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項3に記載のニップ形成部材。
【請求項5】
前記ニップ部及び前記延長部は、それぞれ板状の部材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のニップ形成部材。
【請求項6】
前記ニップ部及び前記延長部は、金属で形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のニップ形成部材。
【請求項7】
前記延長部は、接触式の温度検知手段又は安全装置が設けられる接触面を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のニップ形成部材。
【請求項8】
前記ニップ部と前記延長部の間に曲げ部が設けられ、
前記曲げ部により、前記延長部の前記接触面は前記定着ニップ部に対し角度をなすことを特徴とする請求項7に記載のニップ形成部材。
【請求項9】
前記曲げ部は、さらに前記延長部にも設けられていることを特徴とする請求項8に記載のニップ形成部材。
【請求項10】
前記延長部と前記曲げ部は、一体に構成されていることを特徴とする請求項8に記載のニップ形成部材。
【請求項11】
一箇所の前記延長部当たりの、前記ニップ部の長手方向における徐変部の長さの総和は、長手方向における定形部の長さ以上であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のニップ形成部材。
【請求項12】
筒状の定着部材と、
前記定着部材の外周側に対向するように配置された加圧部材と、
前記定着部材の内周側に配置され、輻射により加熱する定着熱源と、
前記定着部材の内周側に配置され、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の前記ニップ形成部材と、
前記延長部の接触面に設けられた接触式の温度検知手段又は安全装置と、
を備える定着装置。
【請求項13】
前記接触面は、前記延長部の定形部内で、前記ニップ部の前記端部から離れた位置にあることを特徴とする
請求項12に記載の定着装置。
【請求項14】
前記延長部は前記定着熱源の輻射範囲外にあることを特徴とする
請求項12又は13に記載の定着装置。
【請求項15】
前記接触式の温度検知手段又は前記安全装置の接触箇所は、長手方向において定形部の範囲内にあることを特徴とする
請求項12乃至14のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項16】
請求項12乃至15のいずれか一項に記載の前記定着装置を備える画像形成装置。
【請求項17】
請求項3又は4に記載のニップ形成部材の製造方法であって、
前記ニップ形成部材は、つぶし加工により厚みを異ならせることを特徴とするニップ形成部材の製造方法。
【請求項18】
請求項3又は4に記載のニップ形成部材の製造方法であって、
前記ニップ形成部材は、切削加工により厚みを異ならせることを特徴とするニップ形成部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニップ形成部材、定着装置、画像形成装置、及びニップ形成部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定着装置として、無端状の定着ベルトと、定着ベルトの内部に配置された発熱体と、定着ベルトの内部に配置された平板状のニップ部材と、ニップ部材との間で定着ベルトを挟む加圧ローラとを備えるものが知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
これらのニップ部材を発熱体で直接加熱する構成では、ニップ部材の一部を延長してサーモスタットやサーミスタを接触させ、ニップ部材の温度を検知している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、従来のニップ部材の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、ニップ部材10は、ニップ部12の上端から上方に向けて突出する3つの被検知部14を有する。これら被検知部14には、ニップ部材10の温度を検知する接触式センサ(サーミスタ、サーモスタットなど)が設けられる。
【0005】
しかし、ニップ部12の被検知部14を設けた部分(3箇所)は、他の部分よりも断面積が増加するため、ニップ部12の長手方向に温度ムラが生じる。結果的に、画像の定着性や光沢度にムラが生じるおそれがあった。
【0006】
これに対し、特許文献3には、ニップ部から延長して設けられ、センサが接触して設けられる延長部を有するニップ部材が開示されている。しかし、延長部の両端で急激に熱容量が変化するため、温度ムラの低減は不十分である。
【0007】
そこで本発明は、長手方向の温度ムラを抑制するニップ形成部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、定着装置の定着ニップ部を形成するニップ形成部材であって、ニップ形成部材は、前記定着ニップ部を形成するニップ部と、前記ニップ部の短手方向の端部に設けられた少なくとも1つの延長部とを有し、前記ニップ部の長手方向における前記延長部の幅は、前記ニップ部の前記端部に近づくに従って広がるニップ形成部材において、前記延長部に加え、定形部のみからなる第2の延長部を有することを特徴とするニップ形成部材によって解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のニップ形成部材は、ニップ部の長手方向における延長部の幅が、ニップ部の端部に近づくに従って広がるので、ニップ形成部材の断面当たりの熱容量も徐々に増減する。したがって、延長部の両端において温度変化を穏やかにでき、ニップ形成部材の長手方向の温度ムラを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来のニップ部材の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置の断面構成図である。
【
図6】
図1に示した従来のニップ部材の断面当たりの熱容量を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るニップ形成部材の構成を示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るニップ形成部材の延長部を示す拡大平面図である。
【
図9】(a)は、
図7に示したニップ形成部材の平面図であり、(b)は、(a)に示したニップ形成部材の断面当たりの熱容量を説明するグラフである。
【
図10】ニップ形成部材の変形例(その1)を示す斜視図である。
【
図11】ニップ形成部材の変形例(その2)を示す斜視図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係るニップ形成部材の構成を示す断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係るニップ形成部材の延長部を示す拡大平面図(その2)である。
【
図14】延長部(接触面)に対するサーミスタの接触箇所を説明する模式図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る画像形成装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る定着装置を
図2~
図4を用いて説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る定着装置の断面構成図であり、
図3は、
図2に示した定着装置の斜視図である。
図4は、
図2に示した定着装置の側面図である。
【0012】
定着装置100は、薄肉で可撓性を有する筒状の定着部材である無端状の定着ベルト110と、この定着ベルト110の外周側から当接する加圧部材である加圧ローラ150とを備える。
【0013】
定着ベルト110の内部には、定着熱源としてのハロゲンヒータ120と、定着ベルト110を介して加圧ローラ150とで実質的に定着ニップ部Nを形成するニップ形成部材130と、ニップ形成部材130を支持するステー部材160とが配置されている。また、ハロゲンヒータ120からの輻射熱をニップ形成部材130に集める反射部材140が配置されている。
【0014】
定着ベルト110の幅方向に渡って配されたニップ形成部材130は、ステー部材160に固定支持され、加圧ローラ150からの圧力によってニップ形成部材130に撓みが生じることを防止している。したがって、加圧ローラ150の軸方向(長手方向)に渡って均一なニップ幅が得られる(
図3参照)。
【0015】
定着ベルト110はニップ形成部材130を介して、定着熱源としてのハロゲンヒータ120の輻射熱によって加熱される。なお、ハロゲンヒータ120は、主たる熱源である定着熱源としての、輻射型熱源を代表するものである。
【0016】
ステー部材160やハロゲンヒータ120は、その長手方向両端を、定着装置100の側板180、又は別途設けられたフランジ170に固定保持されている。
【0017】
(ニップ形成部材)
ニップ形成部材130は、短時間で熱移動が可能となる熱伝導率の高い材料、例えば銅(398W/mk)やアルミニウム(236W/mk)などの金属で形成されている。定着ベルト110の内周面に対向する面が、定着ベルト110に直接接触するニップ形成面である。
【0018】
ニップ形成部材130のニップ形成面には、耐摩耗性や摺動性を向上させるためにアルマイト処理やフッ素樹脂系材料の塗布などを施してもよい。また、継時的に摺動性を確保するために、フッ素グリスなどの潤滑剤を塗布したり、その潤滑剤を維持できる構成としたりしてもよい。
【0019】
図2~
図4では、ニップ形成面は平坦状となっているが、凹形状やその他の形状であってもよい。例えば、ニップ形成面が凹形状であると、用紙先端の排出方向が加圧ローラ寄りになり、分離性が向上してジャムの発生を抑制できる。
【0020】
また、定着装置100の用紙搬送方向下流側には、定着ベルト110から用紙Pを分離する、分離部材を備えてもよい。さらに、加圧ローラ150を定着ベルト110へ加圧/脱圧可能な加圧手段(
図4中に加圧力Fと示す)が設けられる場合もある。
【0021】
ニップ形成部材130には、通紙方向下流側で、短手方向の端部に延長部134が設けられ、その延長部134に接触式温度検知手段であるサーミスタ190又は安全装置200が接触して設けられている(
図2参照)。このサーミスタ190の検出結果により、ニップ形成部材130が所望の温度となるように、ハロゲンヒータ120の出力を適宜制御できる。
【0022】
また、安全装置200は、何らかの異常によるニップ形成部材130の閾値を超える温度を検知すると、加熱源への電力供給を物理的に遮断する装置である。
図5に、安全装置の一例を示す。安全装置200として、例えば、接触式のサーモスタット、温度ヒューズなどが挙げられる。
【0023】
(定着部材)
低熱容量化を図るため、フィルムのように薄肉で小径化した無端状の定着ベルト110は、ニッケルやSUSなどの金属材料やポリイミドなどの樹脂材料で形成された内周側の基材と、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などで形成された外周側の離型層によって構成されている。基材と離型層の間に、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、又はフッ素ゴムなどのゴム材料で形成された弾性層を介在させてもよい。
【0024】
この弾性層の厚さを100μm程度にすれば、未定着トナーを押し潰して定着させるときに弾性層の弾性変形により、ベルト表面の微小な凹凸を吸収でき、光沢ムラの発生を回避できる。低熱容量化の観点から、定着ベルト110は、全体として厚さ1mm以下で、直径20~40mmに設定されている。そして、定着ベルト110を構成する基材、弾性層、離型層のそれぞれの厚さは、20~50μm、100~300μm、10~50μmの範囲に設定されている。
【0025】
さらに低熱容量化を図るためには、望ましくは、定着ベルト110全体の厚さを0.2mm以下にするのがよく、さらに望ましくは、0.16mm以下の厚さとするのがよく、直径は30mm以下とするのが望ましい。
【0026】
(加圧部材)
加圧ローラ150は、芯金と、芯金の表面に設けられた発泡性シリコーンゴムやフッ素ゴムなどから成る弾性層と、弾性層の表面に設けられたPFAやPTFEなどから成る離型層によって構成されている。バネなどの加圧手段により加圧ローラ150が定着ベルト110に押し付けられ、定着ベルト110と圧接する箇所では加圧ローラ150の弾性層が押し潰されることで、所定幅の定着ニップ部Nが形成される。
【0027】
加圧ローラ150は、プリンタ本体に設けられたモータなどの駆動源によって回転駆動する。加圧ローラ150が回転駆動すると、その駆動力が定着ニップ部Nで定着ベルト110に伝達され、定着ベルト110が従動回転する。定着ベルト110は定着ニップ部Nで挟み込まれて回転し、定着ニップ部N以外では両端部に配されたフランジ170にガイドされ、走行する。
【0028】
本実施形態では、加圧ローラ150を中実のローラとしているが、中空のローラであってもよい。その場合、加圧ローラ150の内部にハロゲンヒータなどの熱源を配設してもよい。弾性層はソリッドゴムでもよいが、加圧ローラ150の内部に熱源が無い場合は、スポンジゴムを用いてもよい。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルト110の熱が奪われにくくなるのでより望ましい。
【0029】
(ステー部材)
ステー部材160は、ニップ形成部材130の通紙方向両端部を支持することでニップ形成部材130の剛性を確保する部材である。ステー部材160はニップ形成部材130方向に断面がおおむねU字の形状を有して覆うように配置されており、SUSやSECCのような鉄系金属を用いることで十分な剛性を確保できる。
【0030】
(反射部材)
ステー部材160とハロゲンヒータ120の間には反射部材140が配されている。これにより、ハロゲンヒータ120のニップ形成部材130に対する加熱効率を上げるとともに、ハロゲンヒータ120からの輻射熱によりステー部材160が加熱されることによる無駄なエネルギー消費を抑制できる。反射部材140を備える代わりに、ステー部材160のハロゲンヒータ120側表面に断熱、又は鏡面処理を行っても同様の効果を得ることができる。
【0031】
(定着熱源)
ハロゲンヒータ120の出力制御は、例えば定着ベルト110のベルト回転方向上流側外周に設けられた温度センサによるベルト表面の温度検知結果に基づいて行われる。このようなヒータの出力制御によって、定着ベルト110の温度(定着温度)を所望の温度に設定できるようになっている。
【0032】
本実施形態において、ハロゲンヒータ120の発熱部は、一本のシングルヒータを用いている。これに代えて、例えば、一方が小サイズ紙に対応した長手方向中央部に発熱部を有し、他方が大サイズ紙に対応して長手方向両端部に発熱部を有する複数の発熱部を有するヒータを用いてもよい。
【0033】
給紙機構から給紙された用紙P(=転写紙)は、転写機構によりトナー像を転写された後、定着装置100の定着ニップ部Nに送られ、定着ニップ部Nで加熱及び加圧されることにより、トナー像が記録媒体に定着される。
【0034】
続いて、本発明の課題について詳細に説明する。
【0035】
図6は、
図1に示した従来のニップ部材の断面当たりの熱容量を説明する図である。
図6の下部にあるグラフにおいて、横軸はニップ部材10の長手方向位置を示し、縦軸は断面当たりの熱容量を示す。
【0036】
ニップ部12の被検知部14を設けた部分(3箇所)は、他の設けていない部分よりも断面積が増加するため、断面当たりの熱容量が増加する。したがって、被検知部14を設けた部分(3箇所)は、他の部分よりも温度が下がり、その部分で定着される画像は光沢が低下する。
【0037】
特に、
図6のグラフにおいて、破線の丸で囲った部分(被検知部14の両端部の位置)は、断面当たりの熱容量が急激に変化(増加又は減少)するため、長手方向の温度ムラが大きくなる。したがって、光沢差を視認し易くなるため、光沢ムラとして目立ってしまうという問題があった。
【0038】
そこで、本実施形態のニップ形成部材130は、断面当たりの熱容量の変化を穏やかにすることで、長手方向の温度ムラを抑制する。
【0039】
図7は、本発明の一実施形態に係るニップ形成部材の構成を示す斜視図である。
図7に示すように、本実施形態のニップ形成部材130は、定着ニップ部Nを形成するニップ部132と、ニップ部132の短手方向端部の一部分に設けられた3つの延長部134とを有する。本実施形態では、延長部134は通紙方向下流側で、ニップ部132の長手方向に沿って延びている。ただし、これに限定されず、定着装置構成の設計思想やレイアウトの都合などから、通紙方向上流側に延長部134を設けてもよい。
【0040】
これら延長部134は、サーミスタ190又は安全装置200が設けられる接触面をそれぞれ有している。なお、
図7では、ニップ部132に3つの延長部134を設けているが、これに限定されない。仕様に応じて1~2つ、又は4つ以上の延長部134を設けてもよい。
【0041】
図8は、本発明の一実施形態に係るニップ形成部材の延長部を示す拡大平面図である。
図8に示すように、ニップ形成部材130は、ニップ部132の長手方向における延長部134の幅(延長部134の両端の距離L)が、ニップ部132の端部132aに近づくに従って広がることを特徴としている。
【0042】
言い換えると、延長部134は、ニップ部132の端部132aに近づくに従って、ニップ部長手方向の幅が増える徐変部134aと、幅が一定の定形部134bとを有する。
【0043】
図9(a)は、
図7に示したニップ形成部材の平面図であり、
図9(b)は、(a)に示したニップ形成部材の断面当たりの熱容量を説明するグラフである。
図9(b)において、横軸はニップ形成部材130の長手方向位置を示し、縦軸は断面当たりの熱容量を示す。
【0044】
ニップ形成部材130の延長部134を設けた部分(3箇所)は、他の部分よりも断面積が増加するため、断面当たりの熱容量が増加する点は、従来技術(
図6参照)と変わらない。しかし、延長部134の断面積が長手方向にわたって徐々に変化(増加及び減少)するため、断面当たりの熱容量(
図9(b)のグラフにおいて、丸を付けた部分)も徐々に変化する。したがって、温度変化が穏やかになり、温度ムラを抑制できる。結果的に、光沢差が視認しにくくなるため、光沢ムラを抑えることができる。
【0045】
また、本実施形態のニップ形成部材130は、延長部134の厚さ(
図8の紙面に垂直な方向の厚さ)を小さくしなくても、長手方向の温度ムラを抑制することができる。また、延長部134の徐変部134aにより、局所的な応力の増大(応力集中)が生じにくい。したがって、延長部134自体の強度(剛性)を損なわないという効果もある。
【0046】
図10は、ニップ形成部材の変形例(その1)を示す斜視図である。本変形例のニップ形成部材130’は、延長部134’に定形部がなく、徐変部のみの三角形の形状となる点で上記実施形態(
図7など)と異なる。このような形状も、延長部134’の幅がニップ部132の端部132aに近づくに従って広がるため、断面当たりの熱容量の変化を穏やかにできる。
【0047】
図11は、ニップ形成部材の変形例(その2)を示す斜視図である。上記実施形態(
図7など)では、徐変部134aを構成する辺を直線としたが、これに限定されない。
図11に示すように、ニップ部132の長手方向における延長部134’’の幅がニップ部132の端部132aに近づくに従って広がるのであれば、曲線であってもよい。また、延長部134’’とニップ部132との接続箇所に、C面取り又はR形状を設けてもよい。
【0048】
続いて、本発明の有利な構成について説明する。
【0049】
(ニップ形成部材)
本実施形態のニップ形成部材130は、ニップ部132及び延長部134が熱伝導性の高い金属部材で形成されることで、顕著に温度ムラを低減する。そして、ニップ部132及び延長部134は、それぞれ板状の部材であることが好ましい。また、ニップ部132の厚みと延長部134の厚みは互いに異なることが好ましく、特に、延長部134の厚みはニップ部132の厚みよりも小さいことがより好ましい。
【0050】
(曲げ部の追加)
上記したように、延長部134は、接触式のサーミスタ190又は安全装置200が設けられる接触面を有している。これらサーミスタ190又は安全装置200は、定着ベルト110の接圧の影響を直接受けないようにするため、定着ベルト110から離間した配置にすることが有効である。そのため、
図12(a)に示すように、延長部134とニップ部132の間に曲げ部138を設け、接触面136と定着ベルト110とを離している。
【0051】
この曲げ部138は、温度ムラの観点から、定着ニップ部Nの外に設けることが好ましく、
図12(b)に示すように、延長部134の接触面136が定着ニップ部Nに対し角度をなすことが望ましい。
【0052】
さらに、強度の観点や延長部134のエッジがベルトに接触しないように延長部134に、又は延長部134よりも前に曲げ部を設けておくのが好ましい。
図12(a)、(b)に示す延長部134に、さらに曲げ部を設けることで、接触面136を適切な方向に精度良く設けることができる。
【0053】
なお、
図12(c)に示すように、延長部134と曲げ部138とを一体に構成してもよい。
【0054】
このように延長部134に曲げ部138を追加した場合、延長部134の幅を、延長部134と曲げ部138の接続部分に近づくに従って広がるように構成する。すなわち、延長部134の徐変部134aは、延長部134と曲げ部138の接続部分に近づくに従って、ニップ部長手方向の幅が増えるように構成する。
【0055】
(徐変部)
図13は、本発明の一実施形態に係るニップ形成部材の延長部を示す拡大平面図(その2)である。
図13に示すように、一箇所の延長部当たりの、ニップ部132の長手方向における徐変部134aの長さの総和(L1+L1)は、長手方向における定形部134bの長さ(L2)以上としてもよい(2×L1≧L2)。
【0056】
このように構成することにより、ニップ形成部材130(ニップ部132)の温度変化を十分に穏やかにする(光沢低下を十分に緩やかにする)ことができる。ただし、この場合、延長部134の熱容量が増えるため、省エネルギーと光沢低下のトレードオフを考慮してそれぞれの長さ(L1、L2)を定めることが望ましい。
【0057】
徐変部134aを設けることで、ニップ形成部材130(ニップ部132)の温度変化を穏やかにできるが、その反面、熱容量が大きくなる。一般に、ニップ形成部材130の長手方向両端部は定着コールドオフセットが起き易い。端部に徐変部134aを設けると端部の温度がさらに下がるおそれがある。そのため、ニップ部132の長手方向端部には、ニップ部132の長手方向における幅が一定である(徐変部の無い、定形部のみからなる)延長部(第2の延長部と呼ぶ)を設けることが望ましい。
【0058】
なお、この第2の延長部の設置箇所はニップ部132の長手方向端部に限定するものでない。定着装置100の仕様に応じて、ニップ部132の任意の箇所に設けてよい。また、延長部と第2の延長部とを混在して設けてもよい。
【0059】
(輻射熱への対応)
本実施形態の定着装置100において、サーミスタ190又は安全装置200が、ハロゲンヒータ120の輻射範囲内にあると、例えば、延長部134の厚さがニップ部132よりも小さい場合、それらはニップ部132よりも早く温度が上昇するおそれがある。そのため、延長部134(徐変部134a及び定形部134b)は、全て輻射範囲外にあることが望ましい。
【0060】
また、延長部134の、接触式のサーミスタ190又は安全装置200が設けられる接触面136は、延長部134の定形部134b内にあり、曲げ部138を介してニップ部132の端部132aから離れた位置にあること(
図12(a)、(b)参照)が望ましい。
【0061】
特に、
図14に示すように、延長部134(接触面136)に対するサーミスタ190(又は安全装置200)の接触箇所139(図中、ハッチングで示す)は、長手方向において定形部134bの範囲内にあり、ニップ部132の端部132a(又は、曲げ部138)から十分に離れた位置にあることが望ましい。徐変部134aはニップ部132の長手方向の温度変化を緩和するものであり、温度が安定しないためである。センサ類は、定形部134bにて安定した温度を計測することで、正確な温度制御を実施できる。
【0062】
(ニップ形成部材の製造方法)
続いて、本実施形態のニップ形成部材130の製造方法について説明する。ニップ部132及び延長部134が、それぞれ板状の部材であれば、例えば特許文献3に記載されているつぶし加工を施すことができる。
【0063】
つぶし加工は、強度や加工性を考慮して従来の潰し量に比べてより小さい潰し量にすることができる。また、一回のプレス加工でニップ部132の厚みと延長部134の厚みが異なるニップ形成部材130を製造可能であり、コストが安いというメリットもある。
【0064】
また、つぶし加工に代えて、切削加工により厚みを異ならせてもよい。つぶし加工に比べてコストは高くなるが、延長部134(徐変部134a及び定形部134b)の寸法精度が要求される場合、こちらの加工法が好ましい。
【0065】
最後に、本発明の定着装置100を備える画像形成装置について説明する。
【0066】
図15は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置を示す模式図である。
図15に示すように、用紙搬送部30のほぼ上方に画像形成部40が設けられ、さらにその上方に画像読取部50が設けられている。用紙搬送部30は、給紙部として、用紙Pを積載する給紙トレイ20と、給紙トレイ20上の用紙Pを送り出すピックアップコロ2aと、用紙Pを分離する一対のコロ(フィードコロ2b及びリバースコロ2c)とを備える。また、用紙搬送部30は、搬送ローラ3a、3bと、レジストローラ4a、4bなどを備える。このように、用紙搬送部30は、給紙トレイ20から送り出された用紙Pを画像形成部40に向けて搬送する構成である。
【0067】
画像形成部40は、感光体(転写ローラ)14と、感光体(転写ローラ)14周りに配置された帯電手段5と、現像手段6と、転写手段7と、クリーニング手段8と、画像転写後の用紙Pを搬送する搬送ベルト9などを備える。また、画像形成部40は、画像形成された用紙Pを定着する定着装置100と、一様に帯電された感光体(転写ローラ)14を部分的に露光して潜像を形成する書込み手段11などを備える。
【0068】
続いて、用紙Pに画像形成される工程を説明する。給紙信号がオンになるとピックアップコロ2aが降下回転し、給紙トレイ20上の用紙Pを繰り出す。繰り出された用紙Pはフィードコロ2bとリバースコロ2cとのニップ部で一枚ずつ分離されて搬送ローラ3a、3bに至り、さらに搬送されてレジストローラ4a、4bのニップ部に突き当てられてスキュー補正される。そして、ドラム状をした感光体(転写ローラ)14上のトナー像と会合する適時のタイミングで送り出される。
【0069】
次いで画像形成部40は、用紙搬送部30から供給された用紙Pに画像を形成し、定着装置100にて画像を用紙Pに定着させる。定着後の用紙Pは、排紙ローラ16を経て、排紙トレイ13へと排出される。
【0070】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明した。この実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して使用できる。また、画像形成装置としては、本発明を適用可能であれば任意な構成を採用可能である。画像形成装置としては複写機あるいはプリンタに限らず、ファクシミリや複数の機能を備える複合機であっても良い。
【符号の説明】
【0071】
2a ピックアップコロ
2b フィードコロ
2c リバースコロ
3a、3b 搬送ローラ
4a、4b レジストローラ
5 帯電手段
6 現像手段
7 転写手段
8 クリーニング手段
9 搬送ベルト
10 ニップ部材
11 書込み手段
12 ニップ部
13 排紙トレイ
14 被検知部
16 排紙ローラ
20 給紙トレイ
30 用紙搬送部
40 画像形成部
50 画像読取部
100 定着装置
110 定着ベルト
120 ハロゲンヒータ
130、130’ ニップ形成部材
132 ニップ部
132a 端部
134、134’、134’’ 延長部
134a 徐変部
134b 定形部
136 接触面
138 曲げ部
139 接触箇所
140 反射部材
150 加圧ローラ
160 ステー部材
170 フランジ
180 側板
190 サーミスタ
200 安全装置
F 加圧力
N 定着ニップ部
P 用紙
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【文献】特開2016-071333号公報
【文献】特開2016-164590号公報
【文献】特開2015-75562号公報