(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系フィルム及び偏光膜
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231205BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20231205BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20231205BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20231205BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231205BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K5/103
C08K5/00
C08K5/053
C08J5/18 CEX
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2019541386
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2019029583
(87)【国際公開番号】W WO2020027021
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018143770
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】可児 昭一
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072710(JP,A)
【文献】特開2008-184614(JP,A)
【文献】特開2012-058754(JP,A)
【文献】特開2003-215338(JP,A)
【文献】特開2002-155218(JP,A)
【文献】特開昭51-123257(JP,A)
【文献】特開昭49-131240(JP,A)
【文献】特開平09-272771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)、炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)、及び可塑剤(C)を含有するポリビニルアルコール系フィルムであって、上記エステル(B)の含有量が1~
2000ppmであり、上記可塑剤(C)に対する上記エステル(B)の重量含有比率((B)/(C))が0.00001~0.03であることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】
上記多価アルコールが、炭素数2~6の多価アルコール(b2)であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
上記エステル(B)がグリセリンの酢酸エステルであることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
上記可塑剤(C)としてグリセリンを含有することを特徴とする請求項1~3いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項5】
請求項1~4いずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムからなることを特徴とする偏光膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムに関する。更に詳しくは、透明性が高く、優れた帯電防止性能を有するポリビニルアルコール系フィルム及び偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール系フィルムは、透明性や染色性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、例えば、光学用ポリビニルアルコール系フィルムとして偏光膜用の原反フィルムなどに利用されている。
かかる偏光膜は、液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では、高輝度、高精細な液晶テレビへとその使用が拡大されている。また、偏光膜は、液晶テレビ以外でも、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、プロジェクター、車載パネル等に幅広く使用されている。
かかる光学用ポリビニルアルコール系フィルムとして用いる場合において、ポリビニルアルコール系フィルムには、液晶ディスプレイの高性能化に伴いフィルムの更なる高透明化が求められており、また、傷や表示欠点の原因となる埃や塵などの異物がフィルム表面に付着することを防ぐために高い帯電防止性能も求められている。
【0003】
また、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を調整したり、アニオン性官能基などをポリビニルアルコール分子鎖に導入(変性)することにより、水に溶解する水溶性を特徴とする水溶性フィルムとしても利用されている。具体的には、農薬や洗剤等の薬剤の包装(ユニット包装)用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材、等に用いられている。
【0004】
これらのなかでも、農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途では、使用時に薬剤量を一々計量する手間が省けるうえ、手を汚したりすることもないという利点があり、特に液体洗剤のような液体製品に対するユニット包装(液体製品包装体)用途が拡大している。
このようなユニット包装用途においては、最近では意匠性の観点から、透明性が高い水溶性フィルムや、印刷適性に優れた水溶性フィルムが求められており、印刷時に印刷不良の原因となる埃や塵等の異物がフィルム表面に付着することがないように帯電防止性能に優れる等、従来よりも多様な物性を満足するポリビニルアルコール系フィルムが必要となっている。
【0005】
かかる光学用フィルム用途に用いるポリビニルアルコール系フィルムとしては、高ケン化度のポリビニルアルコール樹脂に水膨潤剤として多価アルコールを配合したポリビニルアルコール系フィルム(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【0006】
また、かかる水溶性フィルム用途に用いるポリビニルアルコール系フィルムとして、例えば、ポリビニルアルコール100重量部に対して、可塑剤5~30重量部、澱粉1~10重量部及び界面活性剤0.01~2重量部を配合してなる水溶性フィルム(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-302867号公報
【文献】特開2001-329130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示のポリビニルアルコール系フィルムは、高湿度下でも偏光性能の著しい低下が起こらず、耐久性に優れ、液晶ディスプレイ用として好適な偏光膜の原反フィルムとして優れるものであるが、近年の様々な性能が求められる状況においては、透明性や帯電防止性能等を充分には満足しないものであり、更なる改善が望まれるものであった。
【0009】
また、上記特許文献2に開示のポリビニルアルコール系フィルムは、水溶性、耐ブロッキング性、衝撃破裂強度に優れるものであるが、薬剤包装体の高付加価値化に伴い、透明性や帯電防止性能において更なる改善が望まれるものであった。
【0010】
そこで、本発明ではこのような背景下において、透明性が高く、帯電防止性能にも優れるポリビニルアルコール系フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究した結果、低級脂肪酸と多価アルコールとのエステルを、ポリビニルアルコール系フィルムに配合される一般的な添加剤の配合量と比べて微量に含有するポリビニルアルコール系フィルムが、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]ポリビニルアルコール系樹脂(A)、及び炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)を含有するポリビニルアルコール系フィルムであって、上記エステル(B)の含有量が1~4000ppmである、ポリビニルアルコール系フィルム。
[2]上記多価アルコールが、炭素数2~6の多価アルコール(b2)である、[1]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[3]更に、可塑剤(C)を含有する、[1]または[2]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[4]上記可塑剤(C)に対する上記エステル(B)の重量含有比率((B)/(C))が0.00001~0.03である、[3]記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[5]上記エステル(B)がグリセリンの酢酸エステルである、[1]~[4]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[6]上記可塑剤(C)としてグリセリンを含有する、[3]~[5]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルム。
[7] [1]~[6]いずれかに記載のポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能にも優れるため、偏光膜にした場合に高い光学特性を発揮し、これを用いた液晶表示装置は高輝度・高精細で傷や表示欠点の少ないものとなる。また薬剤包装体に使用した場合には、意匠性に優れた包装体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)、炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)を1~4000ppm含有することが必要である。
以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがあり、「PVA系フィルム」とは、「ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルム」を略記したものである。また、「炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステル(B)」を「多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)」と記載することがある。
【0015】
上記のPVA系フィルム中の多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量は、動的ヘッドスペース装置を備えたガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)によって定量的に測定されるものである。
具体的には、フィルム試料(約5mg)を動的ヘッドスペース装置にて120℃、30分間の条件で多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を揮発させて、凝集装置により捕集したガス成分をGC/MS装置にて同定、定量を行う。GCのMSスペクトルより多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を同定して、各多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の検量線をもとにGCで得られたアバンダンス強度のピーク面積より揮発量を求めて、測定に供したフィルム試料重量から換算することで、PVA系フィルムにおける多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量を求めることができる。
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を2種以上併せて含有している場合には、検出された各多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量を合計した値を多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量として算出することができる。
【0016】
PVA系フィルム中の多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量は、1~4000ppmであり、好ましくは10~2000ppmであり、特に好ましくは50~1500ppmである。かかる多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量が下限値未満であると、帯電防止性が充分に得られず、ヘイズ低減効果が不足することから透明性改善作用も得られない。一方で含有量が上限値を超えると、反対にヘイズが高くなり、透明性を満足しないフィルムとなる。
【0017】
本発明では、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)はPVA系フィルム表面に移行されやすい特徴を有することから、少量の添加によって表面抵抗率を低減させることができ、フィルムへの帯電を防止して埃の付着を防止する効果が付与されるものと考えられる。
一方で、可塑剤を配合したPVA系フィルムにおいて多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を少量添加することで、PVA系樹脂と可塑剤間の可塑効果に対する補助作用が働き、PVA結晶が微細化されることでフィルムの透明性が向上するものと考えられる。
【0018】
即ち、本発明においては、多価アルコールの低級脂肪酸エステルを特定範囲で微量配合することにより、透明性と帯電防止性能の効果がバランスよく得られ、優れたPVA系フィルムを得ることができるのである。
【0019】
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)としては、通常、未変性のPVA系樹脂、即ち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂や、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる樹脂を用いることもできる。
【0020】
PVA系樹脂(A)の重量平均分子量は、2万~30万であることが好ましく、特に好ましくは5万~28万、更に好ましくは10万~26万である。かかる重量平均分子量が小さすぎると偏光膜の偏光度が低下する傾向があり、大きすぎると偏光膜製造時の延伸が困難となる傾向がある。なお、上記PVA系樹脂の重量平均分子量は、GPC-MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0021】
本発明で用いるPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、通常80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは90モル%以上、更に好ましくは99モル%以上、殊に好ましくは99.5モル%以上である。かかる平均ケン化度が小さすぎると偏光膜の偏光度が低下する傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるものである。
【0022】
本発明に用いるPVA系樹脂(A)として、重量平均分子量、平均ケン化度、変性種、変性量等の異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0023】
<多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)>
本発明で用いられる多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)は、炭素数2~4の脂肪酸(b1)と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの少なくとも一つの水酸基に対して、炭素数2~4の脂肪酸(b1)がエステル結合した化合物である。
【0024】
本発明においては、脂肪酸(b1)の炭素数、多価アルコールの炭素数・水酸基量、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)内のエステル結合数・水酸基数・エステル結合数/水酸基数の含有比率等を調整することによって、PVA系フィルムの透明性と帯電防止性能の改善作用を得ることができる。
【0025】
上記炭素数2~4の脂肪酸(b1)の具体例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸(n-ブタン酸)、イソ酪酸(2-メチルプロピオン酸)等の飽和脂肪酸や、クロトン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0026】
炭素数2~4の脂肪酸(b1)の炭素数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性の点から炭素数が2~3であることが好ましく、更に飽和脂肪酸であることが好ましい。なかでも、炭素数が2~3である酢酸、プロピオン酸が好ましく、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立する点から炭素数が2である酢酸が最も好適である。かかる炭素数が5以上の場合には、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなり好ましくない。
【0027】
更に本発明においては、上記多価アルコールが、脂肪族の多価アルコールであることが好ましく、炭素数2~6の多価アルコール(b2)であることが好ましい。
炭素数2~6の多価アルコール(b2)の具体例としては、例えば、エチレングリコール(1,2-エタンジオール)等の炭素数2の多価アルコール類、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、グリセリン(1,2,3-プロパントリオール)等の炭素数3の多価アルコール類、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、エリスリトール(1,2,3,4-ブタンテトラオール)、トレイトール等の炭素数4の多価アルコール類、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2,5-ペンタントリオール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、キシリトール、アラビトール、フシトール等の炭素数5の多価アルコール類、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、グルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール等の炭素数6の多価アルコール類等が挙げられる。
【0028】
炭素数2~6の多価アルコール(b2)の炭素数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性の点から炭素数が2~3であることが好ましい。かかる炭素数が多すぎると、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなり好ましくない傾向がある。
【0029】
炭素数2~6の多価アルコール(b2)の水酸基数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)による可塑剤の補助作用の点から水酸基数が2~3であることが好ましい。
【0030】
これらの多価アルコール(b2)のなかで、炭素数が2~3で水酸基数が2~3であるエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが好ましく、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立する点から炭素数が3、かつ水酸基数が3であるグリセリンが最も好適である。
【0031】
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の具体例としては、例えば、エチレングリコールジアセテート等のエチレングリコールの脂肪酸エステル類、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノブチレート、プロピレングリコールジブチレート等のプロピレングリコールの脂肪酸エステル類、モノアセチン(グリセロールモノアセテート)、ジアセチン(グリセロールジアセテート)、トリアセチン(グリセロールトリアセテート)、モノブチリン(グリセロールモノブチラート)、ジブチリン(グリセロールジブチラート)、トリブチリン(グリセロールトリブチラート)等のグリセリンの脂肪酸エステル類、1,3-ブタンジオールジアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート等のブタンジオールの脂肪酸エステル類、1,6-ヘキサンジオールジアセテートなどのヘキサンジオールの脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0032】
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)のエステル結合数は、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)による可塑剤の補助作用の点から1~3であることが好ましい。かかるエステル結合数が多すぎると、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水酸基が減少することで水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすくなり好ましくない傾向がある。
【0033】
また、水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立させる点ではエステル結合と水酸基が共存していることが好ましく、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)内のエステル結合数/水酸基数の比率が、20/80~80/20であることが好ましく、更には30/70~70/30であることが好ましい。かかる比率が大きすぎると、即ち、水酸基数に対してエステル結合数が多すぎると、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水酸基が減少することで水溶解性が低下してフィルム製造時に相分離しやすく、また、かかる比率が小さすぎると、即ち、水酸基数に対してエステル結合数が少なすぎると本発明の作用効果が得られにくくなる傾向となる。
【0034】
これらの多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)のなかで、多価アルコールの炭素数が2~3、かつ水酸基数が2~3であり、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)のエステル結合数が1~3であるエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンの脂肪酸エステル類であることが好ましく、特には、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の水溶解性、及び可塑剤の補助作用を両立する点から、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等グリセリンの酢酸エステルであることが好ましく、更には、エステル結合数/水酸基数の比率が20/80~80/20であるモノアセチン、ジアセチンが最も好適である。
【0035】
また、これらの多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)は単独で用いることもできるし、もしくは2種以上を併せて用いることもできる。
【0036】
本発明のPVA系フィルムは、PVA系樹脂(A)、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)以外に、製膜性、PVA系フィルムの強度、透明性、染色性等の向上のために、添加剤として、可塑剤(C)や界面活性剤(D)を含有することが好ましい。
【0037】
本発明で用いられる可塑剤(C)は、一般的に、偏光フィルムを製造する際の延伸性に効果的に寄与するものであり、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレングリコール類またはポリアルキレングリコール類や、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらの可塑剤(C)は単独または2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも特に好ましいものとしてはグリセリン単独、もしくはグリセリンとジグリセリンまたは、グリセリンとトリメチロールプロパンの組み合わせ等が挙げられる。グリセリンとジグリセリンを併用する場合は、通常グリセリン/ジグリセリン(重量比)=20/80~80/20であり、グリセリンとトリメチロールプロパンを併用する場合は、通常グリセリン/トリメチロールプロパン(重量比)=20/80~80/20であることが好ましい。
【0038】
かかるPVA系フィルム中の可塑剤(C)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して1~35重量部であることが好ましく、特には3~30重量部、更には5~25重量部であることが好ましい。可塑剤(C)の含有量が少なすぎると偏光膜作製時の延伸性が低下する傾向があり、多すぎると得られるPVA系フィルムの強度が低下する傾向がある。
【0039】
本発明においては、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)、可塑剤(C)を含有し、更に、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)と可塑剤(C)の重量含有比率((B)/(C))が特定の範囲であることがPVA系フィルムの透明性改善の点において好ましい。
【0040】
PVA系フィルム中の上記可塑剤(C)に対する多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の重量含有比率((B)/(C))は、0.00001~0.03であることが好ましく、特に好ましくは0.0001~0.01、更に好ましくは0.0005~0.003である。かかる重量含有比率が大きすぎるとヘイズが増加してPVA系フィルムの透明性が低下する傾向があり、小さすぎると帯電防止性が充分に得られず、なおかつヘイズ低減効果が不足して透明性改善作用が得られにくくなる傾向となる。
【0041】
本発明で用いられる界面活性剤(D)は、一般的に、フィルム表面の平滑性や、ロール状に巻き取る際のフィルム同士の付着を抑制する働きがあり、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンエイコシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、やし油還元アルコールエチレンオキサイド付加物、牛脂還元アルコールエチレンオキサイド付加物等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、カプロン酸モノまたはジエタノールアミド、カプリル酸モノまたはジエタノールアミド、カプリン酸モノまたはジエタノールアミド、ラウリン酸モノまたはジエタノールアミド、パルミチン酸モノまたはジエタノールアミド、ステアリン酸モノまたはジエタノールアミド、オレイン酸モノまたはジエタノールアミド、やし油脂肪酸モノまたはジエタノールアミド、あるいはこれらのエタノールアミドに代えてプロパノールアミド、ブタノールアミド等の高級脂肪酸アルカノールアミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリオキシエチレンヘキシルアミン、ポリオキシエチレンヘプチルアミン、ポリオキシエチレンオクチルアミン、ポリオキシエチレンノニルアミン、ポリオキシエチレンデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンテトラデシルアミン、ポリオキシエチレンヘキサデシルアミン、ポリオキシエチレンオクタデシルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンエイコシルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンカプロン酸アミド、ポリオキシエチレンカプリル酸アミド、ポリオキシエチレンカプリン酸アミド、ポリオキシエチレンラウリン酸アミド、ポリオキシエチレンパルミチン酸アミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド等のポリオキシエチレン高級脂肪酸アミド、ジメチルラウリルアミンオキシド、ジメチルステアリルオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド等のアミンオキシド、パーフルオロオクタン酸等のフルオロアルキル酸等が挙げられる。
【0043】
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩型として、ヘキシル硫酸ナトリウム、ヘプチル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ノニル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、エイコシル硫酸ナトリウム、あるいはこれらのカリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘプチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンエイコシルエーテル硫酸ナトリウム、あるいはこれらのカリウム塩、アンモニウム塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンヘキシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘプチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンテトラデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘキサデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクタデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンエイコシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、あるいはこれらのカリウム塩、アンモニウム塩等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、カプロン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、カプリル酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、カプリン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、ラウリン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、パルミチン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、ステアリン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、オレイン酸エタノールアミド硫酸ナトリウムあるいはこれらのカリウム塩、更にはこれらエタノールアミドに代えてプロパノールアミド、ブタノールアミド等の高級脂肪酸アルカノールアミド硫酸エステル塩、硫酸化油、高級アルコールエトキシサルフェート、モノグリサルフェート等が挙げられる。また、上記硫酸エステル塩型以外に、脂肪酸石鹸、N-アシルアミノ酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルエステルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩型、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸の塩ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸の塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルメチルタウリン塩、ジメチル-5-スルホイソフタレートナトリウム塩等のスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩型等も挙げられる。
【0044】
上記カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド等が挙げられる。
【0045】
これらのなかでも、ノニオン性界面活性剤が好ましく、特に好ましくは高級脂肪酸アルカノールアミドであり、更に好ましくはラウリン酸モノまたはジエタノールアミド、パルミチン酸モノまたはジエタノールアミド、ステアリン酸モノまたはジエタノールアミド、オレイン酸モノまたはジエタノールアミドであり、殊に好ましくはラウリン酸モノまたはジエタノールアミド、より好ましくはラウリン酸ジエタノールアミドである。
【0046】
上記界面活性剤(D)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用することが、フィルムの透明性の点で好ましい。
【0047】
かかる界面活性剤(D)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して0.01~1重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.02~0.5重量部、更に好ましくは0.03~0.2重量部である。界面活性剤(D)の含有量が少なすぎるとブロッキング防止効果が得難い傾向にあり、多すぎるとフィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0048】
また、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用する場合には、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、アニオン性界面活性剤が0.01~1重量部、特には0.02~0.2重量部、更には0.03~0.1重量部であることが好ましく、ノニオン性界面活性剤が0.01~1重量部、特には0.02~0.2重量部、更には0.03~0.1重量部であることが好ましい。アニオン性界面活性剤が少なすぎると偏光フィルム作成時の染料の分散性が低下し、染色斑が多くなる傾向にあり、多すぎるとPVA系樹脂溶解時の泡立ちが激しく、フィルム中に気泡が混入しやすくなり光学用フィルムとして使用できなくなる傾向にあり、ノニオン性界面活性剤が少なすぎるとブロッキング防止効果が得難く、多すぎるとフィルムの透明性や平面平滑性が低下する傾向にある。
【0049】
また、本発明のPVA系フィルムを構成する成分としては、PVA系樹脂(A)、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)、必要に応じて、可塑剤(C)、界面活性剤(D)、更には、下記の任意成分のみから実質的になることもできる。これら必要に応じて加える成分は、単独もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0050】
また、その他の添加剤として、フィルムの黄変を防止するために、酸化防止剤を配合することも有用であり、フェノール系酸化防止剤等の任意の酸化防止剤が例示され、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,2′-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4′-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が好適である。酸化防止剤はPVA系樹脂(A)に対して2~100ppm程度の範囲で使用されることが好ましい。
【0051】
本発明において、透明性、厚み精度、位相差の均一性、染色性等のフィルム物性の観点から、PVA系樹脂(A)がPVA系フィルムの主成分であることが好ましい。ここで主成分とは、その材料の特性に大きな影響を与える成分の意味である。PVA系フィルム中のPVA系樹脂(A)の含有量は、50重量%以上であることが好ましく、特に好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。かかる含有量が少なすぎると、PVA系フィルムの強度が低下する傾向がある。かかる含有量の上限については、通常特に制限はないが、偏光膜作成時の延伸性の点からは、好ましくは99重量%以下、特に好ましくは97重量%以下、更に好ましくは95重量%以下であることが好ましい。
【0052】
<PVA系フィルムの製造>
本発明のPVA系フィルムは、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有するPVA系樹脂組成物の水溶液(製膜原料)を調製し、製膜することにより製造することができる。
【0053】
多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)をPVA系樹脂に含有させる方法としては、(1)PVA系樹脂組成物と多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を予め混合して(B)を含有するPVA系樹脂組成物を得て、該PVA系樹脂組成物を水で溶解・分散させたPVA系樹脂水溶液を調整する方法、(2)PVA系樹脂組成物を水で溶解・分散させたPVA系樹脂水溶液に対して多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を配合する方法等が挙げられるが、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の熱劣化を抑制する点では方法(2)により含有させることが好ましい。
【0054】
以下方法(2)について詳述する。詳細には、PVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(C)、界面活性剤(D)等を含有してなるPVA系樹脂組成物を水で溶解または分散してPVA系樹脂水溶液を得る溶解工程、溶解工程で得られたPVA系樹脂水溶液に対して多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有させて製膜原料を調製する製膜原料の調製工程、前記工程で得られた製膜原料を用いてPVA系フィルムを製膜する製膜工程、をこの順序で備える製造方法によってPVA系フィルムを製造することができる。
【0055】
以下、各工程について具体的に説明する。
〔溶解工程〕
溶解工程は、PVA系樹脂組成物を水で溶解または分散して、PVA系樹脂水溶液を調製する工程である。
なお、溶解工程はPVA系樹脂組成物が水に溶解または分散して未溶解物のないPVA系樹脂水溶液を得るまでの工程を示す。
上記PVA系樹脂組成物を水に溶解する際の溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、なかでも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。
溶解温度としては、高温溶解の場合には、通常80~100℃、好ましくは90~100℃であり、加圧溶解の場合には、通常80~140℃、好ましくは90~130℃である。溶解時間としては、溶解温度、溶解時の圧力により適宜調整すればよいが、通常1~20時間、好ましくは2~15時間、更に好ましくは3~10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。
【0056】
また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツインスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。
【0057】
〔製膜原料の調製工程〕
上記溶解工程で調整したPVA系樹脂水溶液に対して、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有させて製膜原料を得る工程である。
【0058】
PVA系樹脂水溶液に対する多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量としては、0.0001~2重量%であることが好ましく、特に好ましくは0.001~1重量%、更に好ましくは0.01~0.5重量%である。かかる濃度が低すぎると帯電防止性が充分に得られず、なおかつヘイズ低減効果が不足して透明性改善作用が得られない傾向があり、高すぎるとヘイズが増加してPVA系フィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0059】
上記製膜原料の固形分濃度は、5~50重量%であることが好ましく、更に好ましくは10~40重量%である。かかる濃度が低すぎるとフィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜原料の脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。
【0060】
上記製膜原料の調製工程で得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。なかでも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。静置脱泡の温度としては、通常50~100℃、好ましくは70~95℃であり、脱泡時間は、通常2~30時間、好ましくは5~20時間である。
【0061】
〔製膜工程〕
製膜工程では、上記製膜原料の調製工程で調製した製膜原料を膜状に賦形し、必要に応じて乾燥処理を施すことで、水分率を15重量%以下にしたPVA系フィルムに製膜する工程である。
製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。
流延法を行うに際しては、例えば、上記製膜原料を、(i)アプリケーター、バーコーター等を用いてギャップ間に通過させて金属表面等のキャスト面に流延する方法、(ii)T型スリットダイ等のスリットから吐出させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面に流延する方法等により製膜原料を流延した後に乾燥することにより本発明のPVA系フィルムを製造することができる。
【0062】
以下、(ii)の、製膜原料をT型スリットダイからキャストドラム(ドラム型ロール)、エンドレスベルト等のキャスト型に吐出及び流延して製膜し、乾燥することによりPVA系フィルムを製造する方法について説明する。
【0063】
T型スリットダイ出口の製膜原料の温度は80~100℃であることが好ましく、特に好ましくは85~98℃である。かかる樹脂温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0064】
製膜原料の粘度は、吐出時に50~200Pa・sであることが好ましく、特に好ましくは70~150Pa・sである。かかる水溶液の粘度が、低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると流涎が困難となる傾向がある。
【0065】
本発明においてキャスト型としてキャストドラムを用いる場合、キャストドラムの直径は、2~5mであることが好ましく、特に好ましくは2.4~4.5m、更に好ましくは2.8~4mである。
かかる直径が小さすぎると乾燥長が不足し速度が出にくい傾向があり、大きすぎると輸送性が低下する傾向がある。
【0066】
かかるキャストドラムの幅は、4~7mであることが好ましく、特に好ましくは4.5~7m、更に好ましくは5~7mである。キャストドラムの幅が小さすぎると生産性が低下する傾向があり、大きすぎると輸送性が低下する傾向がある。
【0067】
キャスト型の表面温度は、40~99℃であることが好ましく、特に好ましくは50~97℃である。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると発泡してしまう傾向がある。
【0068】
本発明においては、転写性の点で、キャスト型からフィルム剥離する時のフィルムの含水率が25重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは10~20重量%である。かかる含水率が大きすぎると、PVA系フィルムの位相差が増大する傾向があり、小さすぎるとPVA系フィルムにうねりが発生する傾向がある。
【0069】
本発明においては、キャスト型からフィルムを剥離する時の剥離応力が、0.1~100mN/10mmであることが好ましく、特に好ましくは1~10mN/10mmである。かかる応力が大きすぎると、フィルムが破断しやすく、PVA系フィルムの位相差ムラが増大する傾向があり、逆に、低すぎると剥離が安定化せず、PVA系フィルムに厚みムラが発生しやすい傾向がある。
【0070】
かくして本発明の製膜が行われ、得られたフィルムは乾燥される。
フィルムの乾燥は、フィルムの表面と裏面とを複数の乾燥ロールに交互に接触させることにより行なわれることが好ましい。乾燥ロールの表面温度は特に限定されないが、通常50~150℃であり、好ましくは60~120℃である。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となり、高すぎると乾燥しすぎることとなり、うねり等の外観不良を招く傾向がある。
【0071】
本発明においては、熱ロールによる乾燥後、フィルムに熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は、60~150℃であることが好ましく、特に好ましくは70~140℃である。熱処理温度が低すぎると、PVA系フィルムの耐水性が低下する傾向があり、高すぎると偏光フィルム製造時の延伸性が低下する傾向がある。かかる熱処理方法としては、例えば、フローティングドライヤーにて行う方法、乾燥後一旦常温程度まで冷却した後に再度高温の熱ロールに接触させる方法、赤外線ランプを用いてフィルムの両面に近赤外線を照射する方法等が挙げられるが、これらのなかでも、均一に熱処理できる点で、フローティングドライヤーにて行う方法が好ましい。
【0072】
かくして本発明のPVA系フィルムが製造される。
得られたPVA系フィルムは、幅方向両端部をスリットされ、ロールに巻き取られて製品となる。
【0073】
本発明のPVA系フィルムは、厚さが100μm以下であることが好ましく、偏光膜の薄型化の点から、5~60μmであることがより好ましく、特に好ましくは破断回避の点から5~45μmである。厚みが厚すぎると、偏光フィルムの薄型化が困難となる傾向がある。また、本発明のPVA系フィルムは、幅4m以上であることが、生産性の点で好ましく、長さ4km以上であることが、生産性の点で特に好ましい。
【0074】
本発明のPVA系フィルムは、フィルムの水分率が1~12重量%であることが好ましく、更に好ましくは2~8重量%である。フィルムの水分率が低すぎると膨潤速度が低下し、皺が発生しやすい傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0075】
本発明のPVA系フィルムは、内部ヘイズが0.4%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.2%以下である。ヘイズが高すぎると、偏光膜に微細な光線透過率のムラが発生しやすい傾向がある。
ここで、内部ヘイズとは、表面凹凸等表面散乱に伴う光散乱因子を取り除いた状態でフィルムの光散乱物性を評価した数値であり、PVA結晶状態や屈折率の異なる添加剤の分散状態等によって影響を受ける。一般的には、フィルム透明度の指標として用いられており、内部ヘイズの数値が低くなるに従いフィルム内部の透明性が良好であることを示す。
【0076】
本発明のPVA系フィルムは、厚み変動係数が1%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.9%以下、更に好ましくは0.8%以下である。厚み変動係数が大きすぎると、偏光膜に微細な色ムラが発生しやすい傾向がある。
【0077】
本発明のPVA系フィルムは、面内位相差ムラが30nm以下であることが好ましく、特に好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下である。面内位相差ムラが大きすぎると、偏光膜に微細な色ムラが発生する傾向にある。
【0078】
かくして得られる本発明のPVA系フィルムは透明性が高く、帯電防止性能にも優れることを特徴とすることから、高い光学特性が要求される偏光膜用途(液晶テレビ、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、プロジェクター、車載パネル等)や、水溶性フィルム用途(農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材等)に有用である。
【0079】
以下、本発明の偏光膜の製造方法について説明する。
【0080】
本発明の偏光膜は、上記PVA系フィルムを、ロールから巻き出して水平方向に移送し、膨潤、染色、架橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て製造される。
【0081】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、PVA系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、PVA系フィルムを膨潤させることで染色ムラ等を防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。当該処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10~45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1~10分間程度である。
【0082】
染色工程は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素-ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は通常0.1~2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は通常1~100g/Lである。染色時間は通常30~500秒間程度が実用的である。処理浴の温度は5~50℃であることが好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。
【0083】
架橋工程は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は、水溶液または水-有機溶媒混合液の形で、通常濃度10~100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。
処理時の温度は通常30~70℃程度、処理時間は0.1~20分間程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0084】
延伸工程は、一軸方向に3~10倍することが好ましく、特に好ましくは3.5~6倍である。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、30~170℃が好ましい。更に、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0085】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にPVA系フィルムを浸漬することにより行われ、フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1~80g/L程度でよい。洗浄処理時の温度は、通常、5~50℃、好ましくは10~45℃である。処理時間は、通常1~300秒間、好ましくは10~240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0086】
乾燥工程は、通常大気中で40~80℃で1~10分間行えばよい。
【0087】
また、偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、特に好ましくは99.9%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H1)により、下式にしたがって算出される。
〔(H11-H1)/(H11+H1)〕1/2
【0088】
更に、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上、特に好ましくは43%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0089】
かくして、本発明の偏光膜が得られるが、本発明の偏光膜は、偏光度ムラの少ない偏光板を製造するのに好適である。
【0090】
得られた偏光膜は、その片面または両面に光学的に等方性の高分子フィルムまたはシートを保護フィルムとして積層接着して、偏光板として用いることもできる。保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、架橋メタクリレート系樹脂、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ-4-メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド等のフィルムまたはシートが挙げられる。
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その方面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、硬化して積層させることもできる。
【0091】
本発明のPVA系フィルムから得られる偏光膜は、色ムラがなく、偏光性能の面内均一性にも優れており、例えば、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0093】
<実施例1>
PVA系樹脂(A)として重量平均分子量142000、平均ケン化度99.8モル%の未変性PVA系樹脂を100部、可塑剤(C)としてグリセリンを12部、界面活性剤(D)としてラウリン酸ジエタノールアミドを0.05部、及び水1000部を混合し、130℃まで昇温して60分間の加圧溶解を行い、固形分濃度10%のPVA系樹脂水溶液を得た。
上記のPVA系樹脂水溶液を80℃に温度調整したのち、上記のPVA系樹脂水溶液に対して、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)として純度41.5%のジアセチン試薬((b1)=酢酸と、(b2)=グリセリンとのエステル)(東京化成工業社製)を0.05部(ジアセチン量:0.021部)添加して、撹拌機(アズワン社製、MIX-ROTAR「MR-5」)を用いて30分間の撹拌混合を行ない製膜原料を得た。
ついで、かかる製膜原料を80℃に加温して30分静置保管した後、ギャップ560μmのアプリケーターを用いて表面温度を85℃に調整したクロムメッキ表面処理した金属板の上に流延した。流延したPVA系樹脂水溶液を温度85℃の金属板上で5分間乾燥させた後、金属板から25mm/秒の速度で乾燥フィルムを剥離させて長さ20cm、幅15cm、厚み30μm、水分率6.2%のPVA系フィルムを得た。
【0094】
(偏光膜の作製)
得られたPVA系フィルムから長さ(MD方向)100mm×幅(TD方向)50mmの試験片を切り出し、チャック延伸機にチャック間距離が40mmとなるように長さ方向(MD方向)の両端部をチャックではさんだ後、20℃の温水中に60秒間浸漬しつつ、長さ方向(MD方向)に1.7倍に延伸した。
次いでヨウ素0.9g/L、ヨウ化カリウム30g/L、ホウ酸10g/Lよりなる25℃の染色液中にて長さ方向(MD方向)に1.6倍に延伸し、ついでホウ酸35g/L、ヨウ化カリウム35g/Lよりなる48℃の水溶液に浸漬してホウ酸架橋しながら長さ方向(MD方向)に2.0倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、50℃で2分間乾燥して総延伸倍率5.4倍の偏光膜を得た。
【0095】
<実施例2>
実施例1においてジアセチン試薬の添加量を0.5部(ジアセチン量:0.21部)に変えた以外は同様にして、PVA系フィルム及び偏光膜を得た。
【0096】
<比較例1>
実施例1において、ジアセチン試薬を添加しなかった以外は同様にして、PVA系フィルム及び偏光膜を得た。
【0097】
<比較例2>
実施例1において、ジアセチン試薬の添加量を5部(ジアセチン量:2.1部)に変えた以外は同様にして、PVA系フィルム及び偏光膜を得た。
【0098】
上記実施例1,2、比較例1,2で得られたPVA系フィルムを用いて、下記に示す方法に従って、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)(ジアセチン)及び可塑剤(C)(グリセリン)の含有量、フィルムの各種物性を測定し、評価した。結果を下記の表1に示す。また、上記実施例1,2、比較例1,2で得られたPVA系フィルムから作製した偏光膜について、外観評価を行った。結果を下記の表2に示す。
【0099】
〔多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量〕
(測定方法)
PVA系フィルムの多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量について、動的ヘッドスペース装置を備えたGC/MS装置を用いて以下に示した条件で測定した。
<動的ヘッドスペース条件>
・加熱脱着装置: TDS-3(ゲステル社製)
・試料量 : 約5mg
・加熱条件 : 120℃、30分間
<GC/MS測定条件>
・GC部装置: Agilent 7890GC(アジレント・テクノロジー社製)
・カラム : DB-WAX(架橋PEGキャピラリーカラム)
・カラム温度: 40℃で5分間保持 → 10℃/分で250℃まで昇温 → 250℃で10分間保持
・注入口温度: -150℃(捕集)→ 250℃
・キャリアーガス: ヘリウム
・カラム流量: 1.0mL/分
・スプリット比: 1/30
・MS部装置: Agilent 5977MSD(アジレント・テクノロジー社製)
・モード : SCANモード
【0100】
〔可塑剤(C)の含有量〕
(測定方法)
得られたPVA系フィルムから、試験片1gを切り出し、溶媒としてメタノール40mLを用いて、高速溶媒抽出装置で可塑剤を抽出した。得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、メスフラスコで10mLに定容し、定容液10μLを、バイアルビン中でトリメチルシリル化試薬N-methyl-N-trimethylsilyl trifluoroacetamide(MSTFA)400μLと混合及び加温(60℃)することで、可塑剤をトリメチルシリル誘導体化した。誘導体化した液1μLを、ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)測定することにより、可塑剤を定量し、得られた重量から、フィルム1gに対する可塑剤量(重量%)を算出した。
【0101】
〔PVA系フィルムの水分率〕
(評価方法)
得られたPVA系フィルムから、幅方向中央部で5cm×5cmサイズの水分率測定用の試料を切り出した。切り出したフィルム試料について、フィルム重量(W)を電子天秤で秤量したのち、フィルム試料を水分率0.03%以下の脱水メタノール15mL(S)内に浸漬させて室温,1時間の条件でフィルム内の水分を抽出した。カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKA-610」)を用いて、容量滴定法によって抽出液10mL(E)の水分量を測定し、以下の式からフィルム水分率(重量%)を算出した。
【0102】
【0103】
〔PVA系フィルムの透明性:内部ヘイズ〕
(測定方法)
得られたPVA系フィルムについて、JIS K 7136に準じて、ヘイズメーター「NDH4000」(日本電色工業社製)を用いて測定した。得られたフィルムの表面・裏面にパラフィンオイルを塗布した表面状態で測定した値を内部ヘイズとした。
【0104】
〔PVA系フィルムの帯電防止性:表面抵抗率〕
(測定方法)
得られたPVA系フィルムを縦10cm、横10cmに切り出し、23℃、50%RHで3日間静置した後、三菱ケミカルアナリテック社製「ハイレスタ-UP MCP-HT450」を用いてPVA系フィルムの表面抵抗率(Ω/□)を測定した。なお、表面抵抗率が小さいほど帯電防止性能が高いことを意味する。
【0105】
〔偏光膜の外観評価〕
得られた偏光膜を暗室で、LEDランプ(明るさ160ルーメン)を用いて斜め透過で観察を行い、以下の基準により肉眼で外観特性を評価した。
○:透明で、白濁なし
×:白濁している
【0106】
【0107】
【0108】
上記表1の結果より、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定微量含有する実施例1、2のPVA系フィルムは、透明性が高く、帯電防止性能にも優れたものであることがわかる。
これに対して、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を含有しない比較例1では、実施例に対して内部ヘイズが高く透明性に劣り、また、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量が多い比較例2では、帯電防止性能は向上したものの、実施例に対して内部ヘイズが高く透明性向上の効果は得られないものであった。
即ち、上記表1の結果より、多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)を特定微量含有する場合に、PVA系フィルムの透明性と帯電防止性能の効果がバランスよく得られることがわかる。
なお、表1に示すように、本発明における、PVA系フィルムにおける多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)の含有量は測定値であって仕込み量と差異が生じることがあるが、この差異はフィルム製膜時に流延した金属板上に多価アルコールの低級脂肪酸エステル(B)が移行すること等により生じるものと推測される。
【0109】
また表2の結果より、実施例1,2のPVA系フィルムから得られた偏光膜は透明性が高いのに対し、比較例1,2のPVA系フィルムから得られた偏光膜は白く濁っていた。このことから、液晶ディスプレイ用途として用いられる偏光膜についても、実施例のPVA系フィルムは透明性に優れ、表示品質に優れていると考えられ、偏光膜用原反としても好ましいことがわかる。
【0110】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のPVA系フィルムは透明性が高く、優れた帯電防止性能を有することを特徴とすることから、高い光学特性が要求される偏光膜用途(液晶テレビ、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、プロジェクター、車載パネル等)や、水溶性フィルム用途(農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材等)に有用である。
なかでも、本発明のPVA系フィルムは、透明性に優れ、偏光膜の原反として好ましく用いられる。