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特許7396137フェライト仮焼体、フェライト焼結磁石及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】フェライト仮焼体、フェライト焼結磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/10 20060101AFI20231205BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20231205BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20231205BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01F1/10
H01F41/02 G
C04B35/40
C01G51/00 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020046198
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021150362
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】谷奥 泰明
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-246243(JP,A)
【文献】国際公開第2007/105398(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/077811(WO,A1)
【文献】特開2001-052912(JP,A)
【文献】特開2015-020926(JP,A)
【文献】特開2018-160672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/10
H01F 41/02
C04B 35/40
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、 前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、 0.40≦x<0.5、 0<x’≦0.10、 0.20<y<0.30、 0<z<0.05、 x<1-x-x’、 4.5≦n≦5.5、及び 2n-y-z≧10x’+8.5、を満足するフェライト仮焼体。
【請求項2】
2n-y-z≧10x’+9.0である、請求項1に記載のフェライト仮焼体。
【請求項3】
9.5≦2n-y-z≦10.0である、請求項1又は2に記載のフェライト仮焼体。
【請求項4】
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、 前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、 0.30≦x<0.5、 0<x’≦0.10、 0.20<y<0.30、 0<z<0.05、 x<1-x-x’、 3.5≦n≦5.5、及び 2n-y-z≧10x’+7.0、を満足するフェライト焼結磁石。
【請求項5】
2n-y-z≧10x’+7.5である、請求項4に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項6】
8.0≦2n-y-z≦10.0である、請求項4又は5に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項7】
SiO 換算で1.5mass%以下のSiをさらに含有する、請求項4乃至6のいずれかに記載のフェライト焼結磁石。
【請求項8】
SiをSiO 換算で0.5~0.8mass%含有する、請求項4乃至7のいずれかに記載のフェライト焼結磁石。
【請求項9】
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、 前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、 0.40≦x<0.5、 0<x’≦0.10、 0.20<y<0.30、 0<z<0.05、 x<1-x-x’、 4.5≦n≦5.5、及び 2n-y-z≧10x’+8.5、を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程と、 前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程と、 前記仮焼体を粉砕し、仮焼体の粉末を得る粉砕工程と、 前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、 前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、を含むフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
2n-y-z≧10x’+9.0である、請求項9に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項11】
9.5≦2n-y-z≦10.0である、請求項9又は10に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項12】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して1.5mass%以下のSiOを添加する工程を更に含む、請求項9乃至11のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項13】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して0.5~0.8mass%のSiOを添加する工程を更に含む、請求項9乃至12のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項14】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対してCaO換算で1.5mass%以下のCaCOを添加する工程を更に含む、請求項9乃至13のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程の800℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度が、600℃/時以上、1000℃/時以下である、請求項9乃至請求項14のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程の焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度が1000℃/時以上である、請求項15に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト仮焼体、フェライト焼結磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は最大エネルギー積が希土類系焼結磁石(例えばNdFeB系焼結磁石)の1/10にすぎないが、主原料が安価な酸化鉄であることからコストパフォーマンスに優れており、化学的に極めて安定であるという特長を有している。そのため、各種モータやスピーカなど様々な用途に用いられており、世界的な生産重量は現在でも磁石材料の中で最大である。
【0003】
代表的なフェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト構造を有するSrフェライトであり、基本組成はSrFe1219で表される。1990年代後半にSrFe1219のSr2+の一部をLa3+で置換し、Fe3+ の一部をCo2+で置換したSr-La-Co系フェライト焼結磁石が実用化されたことによりフェライト磁石の磁石特性は大きく向上した。また、2007年には、磁石特性をさらに向上させたCa-La-Co系フェライト焼結磁石が実用化された。
【0004】
前記のSr-La-Co系フェライト焼結磁石及びCa-La-Co系フェライト焼結磁石ともに、高い磁石特性を得るためにはCoが不可欠である。一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石では原子比で0.2程度(Co/Fe=0.017、すなわちFe含有量の1.7%程度)のCoが、従来のCa-La-Co系フェライト焼結磁石では原子比で0.3程度のCo(Co/Fe=0.03、すなわちFe含有量の3%程度)が含有されている。また、一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石では原子比で0.2程度(La/Fe=0.017、すなわちFe含有量の1.7%程度)のLaが、従来のCa-La-Co系フェライト焼結磁石では原子比でCaと同等程度のLaが含有されている。Co(酸化Co)の価格はフェライト焼結磁石の主原料である酸化鉄の十倍から数十倍に相当し、La(酸化Laや水酸化La)も酸化鉄に比べ高価である。従って、従来のCa-La-Co系フェライト焼結磁石では、一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石に比べ原料コストの増大が避けられない。フェライト焼結磁石の最大の特長は安価であるという点にあるため、たとえ高い磁石特性を有していても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。従って、世界的には、未だSr-La-Co系フェライト焼結磁石の需要が高い。
【0005】
近年、電気自動車の供給量増加によるLiイオン電池の需要増大に伴い、Coの価格が急騰している。その余波を受け、コストパフォーマンスに優れるSr-La-Co系フェライト焼結磁石やさらに磁石特性の高いCa-La-Co系フェライト焼結磁石においても、製品価格を維持することが困難な状況にある。このような背景から、磁石特性を維持しながら、いかにしてCoの使用量を削減するかが喫緊の課題となっている。
【0006】
Co量低減を目的とするものではないが、例えば、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石において、Coの一部をZnで置換することにより、残留磁束密度(以下「B」という)が向上することが知られている(特許文献1など)。
【0007】
Ca-La-Co系フェライト焼結磁石においてもCoの一部をZnで置換することが提案されている(特許文献2及び3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-154604号公報
【文献】韓国公開特許第10-2017-0044875号公報
【文献】特開2009-246243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した場合、Bの向上幅はそれほど大きくなく、一方で保磁力(以下「HcJ」という)が著しく低下するという問題があり、実用化には至っていない。
【0010】
特許文献2では、Ca-Sr-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石が開示されているが、磁気特性として飽和磁化(4πIs)、異方性磁界(HA)、最大エネルギー積は記載されるものの、B及びHcjの値は記載されていない。
【0011】
特許文献3では、Ca-A(Sr,Ba)-La-Fe-Co-Znフェライト焼結磁石が開示されているが、実施例においては、第一の微粉砕工程と、第一の微粉砕工程によって得られた粉末に熱処理を施す工程と、熱処理が施された粉末を再度粉砕する第二の微粉砕工程とからなる粉砕工程(以下「熱処理再粉砕工程」という)が必須となっている。熱処理再粉砕工程は、長時間(88時間)の第一の微粉砕工程と熱処理(800℃で1時間)が必須となる一般的ではない粉砕工程であるため、量産規模での一般的な粉砕工程(粉砕は1回のみ、10時間程度)でどれくらいの磁石特性が得られるか記載されていない。
【0012】
本開示の実施形態は、高いBを有し、HcJの低下が少なく、従来のCa-La-Co系フェライト焼結磁石よりもCoとLaの使用量を削減したフェライト焼結磁石の提供を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の限定的ではない例示的なフェライト仮焼体は、
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.40≦x<0.50、
0<x’≦0.10、
0.20<y<0.30、
0<z<0.05、
x<1-x-x’、
4.5≦n≦5.5、及び
2n-y-z≧10x’+8.5、
を満足する。
【0014】
ある実施形態において、2n-y-z≧10x’+9.0である。
ある実施形態において、9.5≦2n-y-z≦10.0である。
【0015】
本開示の限定的ではない例示的なフェライト焼結磁石は、
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦x<0.50、
0<x’≦0.10、
0.20<y<0.30、
0<z<0.05、
x<1-x-x’、
3.5≦n≦5.5、及び
2n-y-z≧10x’+7.0、
を満足する。
【0016】
ある実施形態において、2n-y-z≧10x’+7.5である。 ある実施形態において、8.0≦2n-y-z≦10.0である。 ある実施形態において、SiO 換算で1.5mass%以下のSiをさらに含有する。 ある実施形態において、SiをSiO 換算で0.5~0.8mass%含有する。
【0017】
本開示の限定的ではない例示的なフェライト焼結磁石の製造方法は、
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.40≦x<0.50、
0<x’≦0.10、
0.20<y<0.30、
0<z<0.05、
x<1-x-x’、
4.5≦n≦5.5、及び
2n-y-z≧10x’+8.5、
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程と、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程と、
前記仮焼体を粉砕し、仮焼体の粉末を得る粉砕工程と、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、
を含む。
【0018】
ある実施形態において、2n-y-z≧10x’+9.0である。
ある実施形態において、9.5≦2n-y-z≦10.0である。
【0019】
ある実施形態において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して1.5mass%以下のSiOを添加する工程を更に含む。
【0020】
ある実施形態において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して0.5~0.8mass%のSiOを添加する工程を更に含む。
【0021】
ある実施形態において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対してCaO換算で1.5mass%以下のCaCOを添加する工程を更に含む。
【0022】
ある実施形態において、前記焼成工程の800℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度が、600℃/時以上、1000℃/時以下である。
【0023】
ある実施形態において、前記焼成工程の焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度が1000℃/時以上である。
【発明の効果】
【0024】
本開示の実施形態によれば、高いBを有し、HcJの低下が少なく、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石よりもCoとLaの使用量を削減したフェライト焼結磁石の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.フェライト仮焼体
本開示の実施形態のフェライト仮焼体は、
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.40≦x<0.50、
0<x’≦0.10、
0.20<y<0.30、
0<z<0.05、
x<1-x-x’、
4.5≦n≦5.5、及び
2n-y-z≧10x’+8.5、
を満足する。
【0026】
本開示のフェライト仮焼体において、原子比x(Rの含有量)は、0.40≦x<0.50である。xが0.4よりも少ない又は0.5以上になると高いBを得ることができない。また、xが0.5以上になるとR含有量の削減効果を得ることができない。Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素である。La以外の希土類元素の含有量はモル比でRの合計量の50%未満であるのが好ましく、R=Laのみであることがさらに好ましい。
【0027】
原子比x’(A元素の含有量)は0<x’≦0.10である。AはSrおよび/またはBaである。x’が0(含有されない)ではR含有量の削減効果を得ることができない。x’が0.1を超えると高いBを得ることができない。
【0028】
原子比1-x-x’(Caの含有量)とx(Rの含有量)とは、x<1-x-x’の関係を満足する。つまり、Rの含有量よりもCaの含有量を多くする。Rの含有量がCaの含有量よりも多い場合、Laが過剰となりLaFeOの異相が残存するため、高いBを得ることができず、また、R含有量の削減効果を得ることができない。1-x-x’は0.5以上であることが好ましい。
【0029】
原子比y(Coの含有量)は、0.20<y<0.30である。yが0.30以上ではCo使用量の削減効果を得ることができない。yが0.20ではHcJの低下が大きくなるため好ましくない。
【0030】
原子比z(Znの含有量)は、0<z<0.05である。zが0(含有されない)では高いBを得ることができず、また、Co使用量の削減効果を得ることができない。zが0.05以上であると高いHcJを得ることができない。
【0031】
前記一般式において、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される。nは4.5≦n≦5.5である。nが4.5未満の場合、高いBを得ることができない。nが5.5を超える場合、高いB、Hcjを得ることができない。
【0032】
原子比2n-y-z(Feの含有量)とx’(A元素の含有量)は、2n-y-z≧10x’+8.5の関係を満足する。より好ましくは、2n-y-z≧10x’+9.0の関係を満足する。Feの含有量が、10x’+8.5未満の場合、高いBを得ることができない。また、Feの含有量は9.5≦2n-y-z≦10.0であることが更に好ましく、高いB、Hcjを得ることができる。
【0033】
前記一般式は、金属元素の原子比で示したが、酸素(O)を含む組成は、一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnαで表される。酸素のモル数αは基本的にはα=19であるが、Fe及びCoの価数、x、y及びzやnの値などによって異なってくる。また、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率が変化する。従って、実際の酸素のモル数αは19からずれる場合がある。そのため、本開示の実施形態においては、最も組成が特定し易い金属元素の原子比で組成を表記している。
【0034】
本開示の実施形態のフェライト仮焼体を構成する主相は、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造を有する化合物相(フェライト相)である。一般に、磁性材料、特に焼結
磁石は、複数の化合物から構成されており、その磁性材料の特性(物性、磁石特性など)を決定づけている化合物が「主相」と定義される。
【0035】
「六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造を有する」とは、フェライト仮焼体のX線回折を一般的な条件で測定した場合に、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のX線回折パターンが主として観察されることを言う。
【0036】
上述した本開示の実施形態のフェライト仮焼体の製造方法を含む、本開示の実施形態のフェライト焼結磁石の製造方法の一例を以下に説明する。
【0037】
2.フェライト焼結磁石の製造方法
原料粉末としては、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等の化合物を使用することができる。原料粉末を溶解した溶液であってもよい。Caの化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Rの化合物としては、Laを例にすると、La等の酸化物、La(OH)等の水酸化物、La(CO・8HO等の炭酸塩等が挙げられる。A元素の化合物としては、Srおよび/またはBaの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Feの化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等が挙げられる。Coの化合物としては、CoO、Co等の酸化物、CoOOH、Co(OH)等の水酸化物、CoCO等の炭酸塩、及びmCoCO・mCo(OH)・mO等の塩基性炭酸塩(m、m、m は正の数である)が挙げられる。Znの化合物としてはZnOが挙げられる。
【0038】
仮焼時の反応促進のため、必要に応じてB、HBO等のB(硼素)を含む化合物を1mass%程度まで添加してもよい。特にHBOの添加は、磁石特性の向上に有効である。HBOの添加量は0.3mass%以下であるのが好ましく、0.1mass%程度が最も好ましい。HBOは、焼成時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前や焼成前)に添加してもよく、仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0039】
上述した本開示の実施形態のフェライト仮焼体の成分、組成を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末とする。原料粉末の配合、混合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、分散媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーはそのまま仮焼してもよいし、原料スラリーを脱水した後、仮焼してもよい。
【0040】
乾式混合又は湿式混合することによって得られた混合原料粉末は、電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応により、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0041】
仮焼工程では、温度の上昇とともにフェライト相が形成される固相反応が進行する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要することがある。従って、仮焼温度は1100℃~1450℃であるのが好ましい。仮焼時間は0.5時間~5時間であるのが好ましい。仮焼後の仮焼体はハンマーミルなどによって粗粉砕することが好ましい。
【0042】
以上のような工程を経ることによって、本開示の実施形態のフェライト仮焼体を得ることができる。引き続き、本開示の実施形態のフェライト焼結磁石の製造方法を説明する。
【0043】
仮焼体を、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕(微粉砕)し、仮焼体の粉末(微粉砕粉末)とする。仮焼体の粉末の平均粒径は0.4μm~0.8μm程度にするのが好ましい。なお、本開示の実施形態においては、粉体比表面積測定装置(例えば島津製作所製SS-100)などを用いて空気透過法によって測定した値を粉末の平均粒径(平均粒度)という。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよく、双方を組み合わせてもよい。湿式粉砕の場合は、分散媒として水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。典型的には、水(分散媒)と仮焼体とを含むスラリーを生成する。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2mass%~2mass%を添加してもよい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮してもよい。
【0044】
成形工程は、粉砕工程後のスラリーを、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、成形前のスラリーに分散剤及び潤滑剤をそれぞれ0.1mass%~1mass%添加してもよい。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0045】
前記仮焼工程後、成形工程前に、仮焼体又は仮焼体の粉末(粗粉砕粉末又は微粉砕粉末)に焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤としてはSiO及びCaCOが好ましい。本開示の実施形態のフェライト焼結磁石は、その組成から明らかなようにCa-La-Co系フェライト焼結磁石に属する。Ca-La-Co系フェライト焼結磁石においては、主相成分としてCaが含まれているため、一般的なSr-La-Co系フェライト焼結磁石などのようにSiOやCaCOなどの焼結助剤を添加しなくても、液相が生成し、焼結することができる。すなわち、フェライト焼結磁石において主として粒界相を形成するSiOやCaCOを添加しなくても本開示の実施形態のフェライト焼結磁石を製造することができる。但し、HcJの低下を抑制するために、以下に示す量のSiO及びCaCOを添加してもよい。
【0046】
SiOの添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して1.5mass%以下が好ましく、0.5~0.8mass%がさらに好ましい。また、CaCOの添加量は、添加する対象となる仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対してCaO換算で1.5mass%以下が好ましい。焼結助剤の添加は、例えば、仮焼工程によって得られた仮焼体に添加した後、粉砕工程を実施する、粉砕工程の途中で添加する、又は粉砕工程後の仮焼体の粉末(微粉砕粉末)に添加、混合した後成形工程を実施する、などの方法を採用することができる。焼結助剤として、SiO及びCaCOの他に、Cr、Al等を添加してもよい。これらの添加量は、それぞれ1mass%以下であってよい。
【0047】
なお、本開示の実施形態においては、CaCOの添加量は全てCaO換算で表記する。CaO換算での添加量からCaCOの添加量は、式:(CaCOの分子量×CaO換算での添加量)/CaOの分子量によって求めることができる。例えば、CaO換算で0.5mass%のCaCOを添加する場合、{(40.08[Caの原子量]+12.01[Cの原子量]+48.00[Oの原子量×3]=100.09[CaCOの分子量])×0.5mass%[CaO換算での添加量]}/(40.08[Caの原子量]+16.00[Oの原子量]=56.08[CaOの分子量])=0.892mass%[CaCOの添加量]、となる。
【0048】
プレス成形により得られた成形体を、必要に応じて脱脂した後、焼成(焼結)する。焼成は電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は酸素濃度が10体積%以上の雰囲気中で行うことが好ましい。より好ましくは20体積%以上であり、最も好ましくは100体積%である。焼成温度は1150℃~1250℃が好ましい。焼成時間は0時間(焼成温度での保持無し)~2時間が好ましい。
【0049】
焼成工程の昇温時において、800℃から焼成温度までの温度範囲における平均昇温速度を600℃/時以上、1000℃/時以下とし、さらに、焼成工程の焼成時間キープ後(保持無しの場合も含む)の降温時において、焼成温度から800℃までの温度範囲における平均降温速度を1000℃/時以上とすると、リードタイムの短縮が図れるとともに、磁石特性がより向上するため好ましい。なお、これらの効果は、前記降温速度のみ採用することで得ることができるが、前記昇温速度と降温速度の両方を採用する方がより好ましい。
【0050】
昇温時において、800℃から焼成温度までの温度範囲での平均昇温速度が600℃/時未満であると、リードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を十分に得ることができない。平均昇温速度が1000℃/時を超えてもリードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を奏することは可能であるが、焼成炉の構造や大きさによっては、被焼成物(成形体)の温度が炉内温度(又は焼成炉の設定温度)に追随することが困難となる場合がある。従って、平均昇温速度の上限は1000℃/時とした。なお、本発明の実施形態において、温度を記載する場合は全て被熱処理物の温度を指す。温度の測定は、焼成炉内の被熱処理物にR熱電対を接触させることにより測定する
【0051】
800℃までの昇温速度は特に問わないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、800℃から焼成温度までの温度範囲と同様の昇温速度、すなわち、室温あるいは炉内温度(予備加熱温度等)から焼成温度までの温度範囲全域において、平均昇温速度を600℃/時以上1000℃/時以下とすることが望ましい。
【0052】
焼成温度で所定時間(保持無しの場合も含む)キープ後の降温時において、焼成温度から800℃までの温度範囲での平均降温速度が1000℃/時未満であると、リードタイムの短縮及び磁石特性の向上効果を十分に得ることができない。800℃以下の降温速度は特に問わないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、焼成温度から800℃までの温度範囲と同様、あるいはそれに近い降温速度で室温付近まで冷却することが好ましい。
【0053】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石を製造する。
【0054】
3.フェライト焼結磁石
前記の通り、本開示の実施形態のフェライト仮焼体は、SiOやCaCOなどの焼結助剤を添加しなくても、液相が生成し、焼結することができ、本開示の実施形態のフェライト焼結磁石を得ることができる。この時、フェライト仮焼体の成分、組成と、フェライト焼結磁石の成分、組成は、基本的に同じとなる(製造工程における不純物の混入などは考慮しない)。
【0055】
一方、焼結助剤を添加した場合、特にフェライト仮焼体の主成分でもあるCa成分(例えばCaCO)を焼結助剤として添加した場合は、フェライト焼結磁石全体としてはCa成分が増加するため、相対的に他の元素が減少することとなる。例えば、本開示の実施形態のフェライト仮焼体を用いて、焼結助剤としてCaO換算でCaCOを1.5mass%添加すると、最も変動する場合で、0.4≦x<0.5(仮焼体)が0.3≦x<0.5(焼結磁石)に、4.5≦n≦5.5(仮焼体)が3.5≦n≦5.5(焼結磁石)となる。
【0056】
また、原子比2n-y-z(Feの含有量)とx’(A元素の含有量)の関係も変動し、2n-y-z≧10x’+8.5(仮焼体)が2n-y-z≧10x’+7.0(焼結体)、より好ましい範囲である2n-y-z≧10x’+9.0(仮焼体)が2n-y-z≧10x’+7.5(焼結体)となる。そして、Feの含有量として更に好ましい範囲である9.5≦2n-y-z≦10.0(仮焼体)が8.0≦2n-y-z≦10.0(焼結体)となる。
【0057】
従って、本開示の実施形態のフェライト焼結磁石は、
Ca、R、A、Fe、Co及びZnの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも一種であってLaを必須に含む元素、AはSrおよび/またはBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnにおいて、
前記x、x’、y及びz、並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co+Zn)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦x<0.50、
0<x’≦0.10、
0.20<y<0.30、
0<z<0.05、
x<1-x-x’、
3.5≦n≦5.5、及び
2n-y-z≧10x’+7.0、
を満足するものとなる。
【0058】
なお、本開示の実施形態のフェライト焼結磁石の、酸素(O)を含む場合の組成、フェライト焼結磁石を構成する主相、六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造の定義などは、本開示の実施形態のフェライト仮焼体と同様である。また、前記の通り、フェライト仮焼体から範囲が変動しているものの、原子比x、x’、y、zの限定理由、nの限定理由も前記フェライト仮焼体と同様であるため説明を省略する。
【0059】
前記の通り、本開示の実施形態のフェライト焼結磁石の製造方法において、焼結助剤としてSiOを、仮焼体又は仮焼体の粉末100mass%に対して1.5mass%以下添加する場合がある。焼結助剤として添加されたSiOは焼成(焼結)時に液相成分となり、フェライト焼結磁石において粒界相の一成分として存在することとなる。従って、焼結助剤として前記添加量のSiOを添加した場合は、得られるフェライト焼結磁石はSiO 換算で1.5mass%以下のSiを含有する。この時、Siの含有により、前記一般式:Ca1-x-x’x’Fe2n-y-zCoZnで示される各元素の含有量が相対的に減少するが、前記一般式におけるx、x’、y、z、nなどの範囲は基本的に変化しない。なお、Siの含有量は、フェライト焼結磁石の成分分析結果(例えば、ICP発光分光分析装置による結果)におけるCa、La、Sr、Ba、Fe、Co、Zn及びSiの各組成(mass%)から、CaCO、La(OH)、SrCO、BaCO、Fe、Co、ZnO及びSiOの質量に換算し、それらの合計100質量に対する含有比率(mass%)である。
【実施例
【0060】
本開示の実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示の実施形態はそれらに限定されるものではない。
【0061】
実験例1
本開示の実施形態に基づく実験例として、一般式Ca1-x-x’Lax’Fe2n-y-zCoZnにおいて、AをSr(試料No.1~7、9、10)またはBa(試料No.8)とし、原子比が表1の試料No.1~10に示す1-x-x’、x、x’、y、z及び2n-y-zになるようにCaCO粉末、La(OH)粉末、SrCO粉末、BaCO粉末、Fe粉末、Co粉末及びZnO粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100mass%に対してHBO粉末を0.1mass%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して10種類の混合原料粉末を得た。
【0062】
また、比較例として、一般式Ca1-xLaFe2n-y-zCoZnにおいて、1-x-x´、x、y、z、2n-y-zの原子比が表1の試料No.11~14になるようにCaCO粉末、La(OH)粉末、Fe粉末、Co粉末及びZnO粉末を所定の組成で秤量し、秤量後の粉末の合計100mass%に対してHBO粉末を0.1mass%添加後、それぞれ湿式ボールミルで4時間混合した後、乾燥、整粒して4種類の混合原料粉末を得た。
【0063】
得られた全14種類の混合原料粉末をそれぞれ大気中において表1に示す仮焼温度で3時間仮焼し、14種類の仮焼体を得た。
【0064】
得られた各仮焼体を小型ミルで粗粉砕して14種類の仮焼体の粗粉砕粉末を得た。得られた各仮焼体の粗粉砕粉末100mass%に対して、表1に示すCaCO(添加量はCaO換算)及びSiOを添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで、表1に示す平均粒度(粉体比表面積測定装置(島津製作所製SS-100)を用いて空気透過法により測定)になるまで微粉砕し、14種類の微粉砕スラリーを得た。
【0065】
粉砕工程により得られた各微粉砕スラリーを、分散媒を除去しながら、加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)を用い、約1Tの磁界を印加しながら約2.4MPaの圧力で成形し、14種類の成形体を得た。
【0066】
得られた各成形体を焼結炉内に挿入し、大気中で、表1に示す焼成温度まで昇温速度1000℃/時で昇温した後、1時間焼成し、40L/分の空気を送りながら表1に示す焼成温度から900℃まで1500℃/時で降温し、その後室温まで6時間かけて冷却することにより14種類のフェライト焼結磁石を得た。得られたフェライト焼結磁石のB、HcJ及びH/HcJの測定結果を表1に示す。表1において試料No.の横に*印を付していない試料No.1~10が本開示の実施形態に基づく実験例であり、*印を付した試料No.11~14は本開示の実施形態を満足しない実験例(比較例)である。*印を付した試料No.11~14が一般的なCa-La-Co系焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した実験例(比較例)である。なお、表1におけるHは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95×J(Jは残留磁化、J=B)の値になる位置のHの値である。
【0067】
なお、表1における原子比は原料粉末の配合時の原子比(配合組成)を示す。焼成後の焼結体(フェライト焼結磁石)における原子比(焼結磁石の組成)は、配合時の原子比を元に、仮焼工程前に添加される添加物(HBOなど)の添加量や、仮焼工程後成形工程前に添加される焼結助剤(CaCO及びSiO)の添加量を考慮し、計算によって求めることができ、その計算値は、フェライト焼結磁石をICP発光分光分析装置(例えば、島津製作所製ICPV-1017など)で分析した結果と基本的に同様となる。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、一般的なCa-La-Co系焼結磁石においてCoの一部をZnで置換した実験例(比較例)である試料No.11~14に比べ、更にLaの一部をSrで置換した実験例である試料No.1~7、9、10は、BとHcjがほぼ同等レベルの磁石特性を有している。すなわち、BとHcjがほぼ同等レベルの磁石特性でありながら、一般的なCa-La-Co系フェライト焼結磁石(原子比で0.3程度のCoを含有)に対してCoの一部をZnで置換してCoの使用量を削減し、更にLaの一部をSrで置換してLaの使用量を削減することができる。
【0070】
また、試料No.1~7、9、10はSr(x´)とFe(2n-y-z)量の関係が2n-y-z≧10x’+7.0を満たしており、このSrとFe量の関係を満たすことで試料No.11~14のBとHcjとほぼ同等レベルの磁石特性となった。更に、試料No.1、2、4~7は2n-y-z≧10x’+7.5を満たしており、このSrとFe量の関係を満たすことで試料No.11~14のBとHcjと同等以上の磁石特性となった。
【0071】
また、Srの代わりにBaを用いた本開示の実施形態に基づく実験例である試料No.8は、Srを用いた他の実験例とほぼ同等の磁石特性が得られていることが分かる。また、Ba(x´)とFe(2n-y-z)量の関係もSrとFe量の関係と同様に、2n-y-z≧10x’+7.0を満たし、更に2n-y-z≧10x’+7.5を満たしていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本開示の実施形態によれば、高いBを有し、HcJの低下が少なく、従来のCa-La-Co系フェライト焼結磁石よりもCoとLaの使用量を削減したフェライト仮焼体、フェライト焼結磁石は、各種モータなどに好適に利用することができる。