(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ボイル野菜用日持向上剤、ボイル野菜用日持向上液、ボイル野菜の日持向上方法、ボイル野菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/154 20060101AFI20231205BHJP
A23B 7/155 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A23B7/154
A23B7/155
(21)【出願番号】P 2020049493
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019058791
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】澤口 譲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美紀
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-67807(JP,A)
【文献】特開2014-23527(JP,A)
【文献】特開2016-21933(JP,A)
【文献】特開2004-337044(JP,A)
【文献】特開2009-34006(JP,A)
【文献】特開2010-22270(JP,A)
【文献】特開2001-112411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00-7/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸カルシウム、pH調整剤およびトレハロースを含むボイル野菜用日持向上剤であって、トレハロースの含有量が15質量%以下であり、濃度が2.5質量%となるように水に溶解した際のpHが6.3以下である、ボイル野菜用日持向上剤。
【請求項2】
更に、リゾチームを含む、請求項1に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【請求項3】
更に、酢酸ナトリウムを含む、請求項1又は2に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【請求項4】
酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、請求項3に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【請求項5】
粉末状である、請求項1~4のいずれか一項に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【請求項6】
酢酸カルシウムおよびトレハロースを含み、pHが6.3以下であるボイル野菜用日持向上液であって、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下である、ボイル野菜用日持向上液。
【請求項7】
更に、pH調整剤として、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項6に記載のボイル野菜用日持向上液。
【請求項8】
更に、リゾチームを含む、請求項6又は7に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【請求項9】
更に、酢酸ナトリウムを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のボイル野菜用日持向上液。
【請求項10】
酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、請求項9に記載のボイル野菜用日持向上液。
【請求項11】
酢酸カルシウムおよびトレハロースを含み、pHが6.3以下であり、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下であるボイル野菜用日持向上液に、野菜を入れた後に加熱する、ボイル野菜の日持向上方法。
【請求項12】
前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、pH調整剤として、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項11に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【請求項13】
前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、リゾチームを含む、請求項11又は12に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【請求項14】
沸騰前の前記ボイル野菜用日持向上液に野菜を入れた後に加熱して沸騰させる、請求項11~13のいずれか一項に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【請求項15】
前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、酢酸ナトリウムを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【請求項16】
前記ボイル野菜用日持向上液中の酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、請求項15に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【請求項17】
酢酸カルシウムおよびトレハロースを含み、pHが6.3以下であり、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下であるボイル野菜用日持向上液に、野菜を入れた後に加熱する、ボイル野菜の製造方法。
【請求項18】
前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、pH調整剤として、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項17に記載のボイル野菜の製造方法。
【請求項19】
前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、リゾチームを含む、請求項17又は18に記載のボイル野菜の製造方法。
【請求項20】
沸騰前の前記ボイル野菜用日持向上液に野菜を入れた後に加熱して沸騰させる、請求項17~19のいずれか一項に記載のボイル野菜の製造方法。
【請求項21】
前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、酢酸ナトリウムを含む、請求項17~20のいずれか一項に記載のボイル野菜の製造方法。
【請求項22】
前記ボイル野菜用日持向上液中の酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、請求項21に記載のボイル野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイル野菜用日持向上剤、ボイル野菜用日持向上液、ボイル野菜の日持向上方法及びボイル野菜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストアやスーパーマーケット等で販売されている弁当には、彩や健康志向からボイルされた野菜が多く使われているが、弁当は製造されてから長時間おかれることもあり、菌の繁殖や色調、味質の低下を防ぐことが必要とされる。
【0003】
この課題を解決するため、特許文献1には、酢酸カルシウムと酢酸ナトリウムを含む食品添加用組成物を用いることで、保存性と、食品本来のもつ風味や食感の低下を引き起こしにくくすることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、乳酸カルシウムと所定の物質を所定の比率で含む日持向上剤を用いることで、ボイル野菜の食感の低下および褪色の程度を少なくし、保存性の改善を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-23527号公報
【文献】特開2001-112411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ボイルされた野菜についての検討はなされておらず、ボイル野菜に対する静菌性や、味質および食感への影響は不明であった。また特許文献2に開示の技術は、静菌性、味質および食感において、更なる改善が望まれる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、静菌性、味質に優れたボイル野菜用日持向上剤及びこれを用いたボイル野菜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、野菜をボイルする際に、ボイル液として、酢酸カルシウムを含み、トレハロースを特定量以下含有し、且つpHを特定値以下としたものを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 酢酸カルシウム、pH調整剤およびトレハロースを含むボイル野菜用日持向上剤であって、トレハロースの含有量が15質量%以下であり、濃度が2.5質量%となるように水に溶解した際のpHが6.3以下である、ボイル野菜用日持向上剤。
【0011】
[2] 更に、リゾチームを含む、[1]に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【0012】
[3] 更に、酢酸ナトリウムを含む、[1]又は[2]に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【0013】
[4] 酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、[3]に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【0014】
[5] 粉末状である、[1]~[4]のいずれかに記載のボイル野菜用日持向上剤。
【0015】
[6]酢酸カルシウムおよびトレハロースを含み、pHが6.3以下であるボイル野菜用日持向上液であって、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下である、ボイル野菜用日持向上液。
【0016】
[7] 更に、pH調整剤として、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[6]に記載のボイル野菜用日持向上液。
【0017】
[8] 更に、リゾチームを含む、[6]又は[7]に記載のボイル野菜用日持向上剤。
【0018】
[9] 更に、酢酸ナトリウムを含む、[6]~[8]のいずれかに記載のボイル野菜用日持向上液。
【0019】
[10] 酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、[9]に記載のボイル野菜用日持向上液。
【0020】
[11] 酢酸カルシウムおよびトレハロースを含み、pHが6.3以下であり、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下であるボイル野菜用日持向上液に、野菜を入れた後に加熱する、ボイル野菜の日持向上方法。
【0021】
[12] 前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、pH調整剤として、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[11]に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【0022】
[13] 前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、リゾチームを含む、[11]又は[12]に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【0023】
[14] 沸騰前の前記ボイル野菜用日持向上液に野菜を入れた後に加熱して沸騰させる、[11]~[13]のいずれかに記載のボイル野菜の日持向上方法。
【0024】
[15] 前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、酢酸ナトリウムを含む、[11]~[14]のいずれかに記載のボイル野菜の日持向上方法。
【0025】
[16] 前記ボイル野菜用日持向上液中の酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、[15]に記載のボイル野菜の日持向上方法。
【0026】
[17] 酢酸カルシウムおよびトレハロースを含み、pHが6.3以下であり、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下であるボイル野菜用日持向上液に、野菜を入れた後に加熱する、ボイル野菜の製造方法。
【0027】
[18] 前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、pH調整剤として、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[17]に記載のボイル野菜の製造方法。
【0028】
[19] 前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、リゾチームを含む、[17]又は[18]に記載のボイル野菜の製造方法。
【0029】
[20] 沸騰前の前記ボイル野菜用日持向上液に野菜を入れた後に加熱して沸騰させる、[17]~[19]のいずれかに記載のボイル野菜の製造方法。
【0030】
[21] 前記ボイル野菜用日持向上液が、更に、酢酸ナトリウムを含む、[17]~[20]のいずれかに記載のボイル野菜の製造方法。
【0031】
[22] 前記ボイル野菜用日持向上液中の酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%である、[21]に記載のボイル野菜の製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、静菌性、味質に優れたボイル野菜用日持向上剤により、ボイル野菜の長期保存中の野菜本来の退色や味質の低下を抑えた上で生菌の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0034】
[ボイル野菜用日持向上剤]
本発明のボイル野菜用日持向上剤は、酢酸カルシウム、pH調整剤およびトレハロースを含み、好ましくは更にリゾチーム及び/又は酢酸ナトリウムを含み、トレハロースの含有量が15質量%以下であり、濃度が2.5質量%となるように水に溶解した際のpHが6.3以下のものである。
【0035】
酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)は、特に酢酸ナトリウムとの併用で高い静菌性を示すものである。酢酸カルシウムには無水物と、一水和物や二水和物等の水和物とがあるが、本発明で用いる酢酸カルシウムは、いずれの形態であってもよい。ただし、無水酢酸カルシウムは、吸湿性が高いために取り扱いが困難になることがあるので、水和物を用いることが好ましい場合がある。
【0036】
pH調整剤としては、リンゴ酸、クエン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、コハク酸、フマル酸、リン酸、アジピン酸、クエン酸一カリウム、コハク酸一ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、フィチン酸等の1種又は2種以上、好ましくはリンゴ酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、コハク酸、酒石酸、乳酸、酢酸の1種又は2種以上を用いることができるが、これらのうち、特にリンゴ酸を用いることが食味の観点から好ましい。
リンゴ酸は、L-リンゴ酸、D-リンゴ酸のいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。
【0037】
トレハロースは、グルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖類の一種であり、食品の保水性向上、野菜の褐変抑制、酸味の矯味に機能する。
【0038】
リゾチームは、真正細菌の細胞壁を構成する多糖類を加水分解する酵素であり、日持向上剤として従来公知である。
【0039】
酢酸ナトリウム(CH3COONa)も静菌性に機能する。酢酸ナトリウムとしては、無水物と、三水和物等の水和物とがあるが、本発明で用いる酢酸ナトリウムは、特に静菌性に優れることから、無水物、すなわち無水酢酸ナトリウムであることが好ましい。無水酢酸ナトリウムは力価が高いので、静菌作用の発現性に優れる。
【0040】
本発明のボイル野菜用日持向上剤中のトレハロースの含有量は15質量%以下である。
トレハロースの含有量が15質量%を超えると、糖類であるトレハロースが多過ぎることで、本発明のボイル野菜用日持向上剤を用いたボイル野菜に甘みが付加され、野菜本来の味質が損なわれる。本発明のボイル野菜用日持向上剤中のトレハロースの含有量は、2~15質量%であることが好ましく、7~15質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることがさらに好ましく、11~13質量%であることが特に好ましい。トレハロースの含有量が2質量%以上であれば、トレハロースを用いることによる野菜の褐変抑制、酸味の矯味効果を十分に得ることができる。
【0041】
本発明のボイル野菜用日持向上剤中の酢酸カルシウムの含有量は、特に限定されないが、2~20質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、8~15質量%であることがさらに好ましく、8~13質量%であることが特に好ましい。酢酸カルシウムの含有量が2質量%以上であれば、酢酸カルシウムを用いたことによる静菌効果を十分に得ることができる。一方、酢酸カルシウムの含有量が20質量%以下であれば、本成分特有の苦みを生じにくい。
【0042】
本発明のボイル野菜用日持向上剤は、濃度が2.5質量%となるように水に溶解して水溶液(以下、「本発明の日持向上剤水溶液」と称す場合がある。)とした際のpHが6.3以下の酸性であることを特徴とする。本発明の日持向上剤水溶液のpHが6.3以下であれば、十分な静菌効果を得ることができる。静菌効果の観点から本発明の日持向上剤水溶液のpHは6.3以下であり、好ましくは6.2以下である。一方、本発明の日持向上剤水溶液のpHの下限は6.0以上であることが好ましい。本発明の日持向上剤水溶液のpHが6.0以上であれば、野菜の退色が生じにくい。
なお、ここで「濃度2.5質量%」とは、本発明のボイル野菜用日持向上剤を水に溶解して得られる水溶液に含まれる水等の液体成分以外の成分の合計の濃度が2.5質量%であることを意味する。
【0043】
本発明のボイル野菜用日持向上剤のpH調整剤の含有量は、本発明の日持向上剤水溶液のpHが上記範囲となるような量であればよく、特に限定されないが、0.5~8.0質量%であることが好ましく、2.0~7.0質量%であることがより好ましく、3.0~6.0質量%であることがさらに好ましい。pH調整剤としてリンゴ酸を用いる場合のその含有量は、0.5~2.0質量%であることが好ましく、1.0~1.5質量%であることがより好ましい。pH調整剤の含有量が0.5質量%以上であれば、本発明の日持向上剤水溶液及び後述のボイル液(日持向上液)のpHを上記好適pHに調整しやすい。pH調整剤の含有量が8.0質量%以下であれば、過度のpH低下による野菜の退色が生じにくい。
【0044】
本発明のボイル野菜用日持向上剤がリゾチームを含む場合、ボイル野菜用日持向上剤中のリゾチームの含有量は、特に限定されず、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.3~1.0質量%であることがより好ましく、0.3~0.6質量%であることがさらに好ましく、0.4~0.5質量%であることが特に好ましい。リゾチームの含有量が0.1質量%以上であれば、リゾチームを用いたことによる日持向上の効果を十分に得ることができる。一方、リゾチームの含有量が2.0質量%以下であれば、ボイル液の加熱時のタンパク質の凝集が起こりにくい。
【0045】
本発明のボイル野菜用日持向上剤が酢酸ナトリウムを含む場合、本発明のボイル野菜用日持向上剤中の酢酸ナトリウムの含有量は、酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量が0.1~40質量%となるような量であることが好ましく、10~20質量%となるような量であることがより好ましい。酢酸ナトリウムの含有量が上記範囲であれば、酢酸ナトリウムと酢酸カルシウムとを併用することによる静菌性の相乗効果が有効に得られやすい。
【0046】
本発明のボイル野菜用日持向上剤は、前述の通り、通常、酢酸カルシウム、pH調整剤、トレハロース、好ましくは更にリゾチーム及び/又は酢酸ナトリウムの粉体混合物として提供されるが、必要に応じて、通常の食品添加物として用いられる他の成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含むものであってもよい。
ただし、酢酸カルシウム、pH調整剤、トレハロース、好ましくは更にリゾチーム及び/又は酢酸ナトリウムを配合して用いることによる効果を有効に得る上で、本発明のボイル野菜用日持向上剤中のこれらの合計の含有量は80質量%以上であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。
【0047】
本発明のボイル野菜用日持向上剤が含有していてもよい他の成分としては特に制限はないが、グリシンやアラニン等のアミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、タンパク質、リゾチーム以外の酵素、トレハロース以外の糖類、食塩、酸化防止剤、増粘剤、保存剤、乳化剤、香料等が例示される。
【0048】
本発明のボイル野菜用日持向上剤は、粉末状であってもよいし、溶液等の液状であってもよいが、取り扱い性やコスト等の点から、粉末状態であることが有利な場合もある。
【0049】
[ボイル野菜用日持向上液]
本発明のボイル野菜用日持向上液は、酢酸カルシウムおよびトレハロース、好ましくは更にリゾチーム及び/又は酢酸ナトリウムを含み、pHが6.3以下で、液中の全固形分に対するトレハロースの割合が15質量%以下であるものであり、通常、本発明のボイル野菜用日持向上剤を水に溶解させて調製され、野菜のボイル液として用いられる。
ここで、液中の全固形分とは、本発明のボイル野菜用日持向上液に含まれる水等の液体成分以外の成分の合計である。
【0050】
pH調整剤としては、前述の本発明のボイル野菜用日持向上剤に含まれるpH調整剤として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0051】
本発明のボイル野菜用日持向上液のpHは6.3以下の酸性である。このpHが6.3を超えると、十分な静菌効果を得ることができない。静菌効果の観点から本発明のボイル野菜用日持向上液のpHは6.3以下であり、好ましくは6.2以下である。一方、本発明のボイル野菜用日持向上液のpHは6.0以上であることが好ましい。本発明のボイル野菜用日持向上液のpHが6.0以上であれば、野菜の退色が生じにくい。
【0052】
従って、前述のpH調整剤は、本発明のボイル野菜用日持向上液のpHが上記好適pHとなるように用いられる。
【0053】
本発明のボイル野菜用日持向上液中の全固形分に対する、酢酸カルシウム、トレハロースの含有量、リゾチームを含有する場合のリゾチームの含有量、酢酸ナトリウムを含有する場合の酢酸ナトリウムに対する酢酸カルシウムの含有量は、前述の本発明のボイル野菜用日持向上剤におけると同様の理由から、本発明のボイル野菜用日持向上剤における各成分の含有量と同様であることが好ましい。
【0054】
本発明のボイル野菜用日持向上液は、例えば、本発明のボイル野菜用日持向上剤を水に添加して、ボイル液として用いる本発明のボイル野菜用日持向上液中の各成分の含有量が好ましくは以下の範囲となり、pHが上記好適範囲となるように調製される。
【0055】
<ボイル液組成>
リゾチーム:0.001~0.02質量%
酢酸カルシウム:0.02~0.5質量%
トレハロース:0.025~0.6質量%
リンゴ酸等のpH調整剤:0.01~0.25質量%
酢酸ナトリウム:0.15~3.7質量%
【0056】
なお、本発明のボイル野菜用日持向上液には、本発明のボイル野菜用日持向上剤と同様に、本発明の効果を損なわない範囲で、酢酸カルシウム、pH調整剤、トレハロース、リゾチーム、酢酸ナトリウム以外の前述の他の成分が含まれていてもよい。
【0057】
[ボイル野菜の日持向上方法・ボイル野菜の製造方法]
本発明のボイル野菜の日持向上方法およびボイル野菜の製造方法は、上述の本発明のボイル野菜用日持向上液をボイル液として用い、このボイル野菜用日持向上液中に野菜を投入した後加熱(ホイル)することを特徴とする。
【0058】
ここで、野菜は、加熱され沸騰したボイル液中に投入してもよいが、沸騰前の温度5~50℃程度のボイル液に投入し、その後加熱して沸騰させることで、野菜と日持向上剤の成分が長時間接触することになり、本発明のボイル野菜用日持向上剤による静菌効果をより有効に発揮させることができる。
【0059】
野菜のボイルは、野菜を投入したボイル液を沸騰させることにより行うことができる。沸騰後の加熱時間は、当該野菜の種類に応じて適宜決定されるが、10秒以上、特に30秒以上、沸騰状態を保つことが好ましい。
【0060】
本発明において、ボイル対象となる野菜としては、ボイルして調理する野菜であれば、特に制限がない。例えば、ブロッコリー、ピーマン、パプリカ、ニンジン、浅葱、明日葉、アスパラガス、インゲンマメ、エンダイブ、サヤエンドウ、オカヒジキ、オクラ、貝割れ大根、カブの葉、カボチャ、カラシナ、ギョウジャニンニク、京菜、クレソン、ケール、こごみ、小松菜、山東菜、シシトウガラシ、サラダ菜、シソ、十六ささげ、春菊、せり、ダイコンの葉、高菜、たらの芽、チンゲンサイ、ツクシ、ツルムラサキ、唐辛子、トマト、とんぶり、ナズナ、なばな、ニラ、ニンニクの芽、万能ねぎ、野沢菜、パクチョイ、バジル、パセリ、広島菜、ほうれん草、みつば、芽キャベツ、モロヘイヤ、ヨメナ、ヨモギ、リーキ、ロマネスコ、ロケットサラダ、ワケギ等の緑黄色野菜や、ダイコン、キャベツ、カブ、ハクサイ、カリフラワー、レンコン、サツマイモ、ジャガイモ、レタス、セロリ、ラディッシュ、ゴボウ、タマネギ等の淡色野菜が挙げられる。
なお、野菜は生の野菜に限らず、冷凍保存された野菜であってもよい。
【0061】
ボイル後の野菜は、水切り後、冷水で冷却するか或いは放冷後冷蔵庫内で冷却され、保存される。
【0062】
本発明によれば、このように保存されるボイル野菜の経時による菌の繁殖や色調、味質の低下を防止して、ボイル直後の良好な状態を維持することができる。
【0063】
なお、本発明のボイル野菜用日持向上剤及びボイル野菜用日持向上液は、保存時の退色抑制効果の観点からは、緑黄色野菜に有効であるが、静菌効果の観点では緑黄色野菜に限らず、淡色野菜のボイルにも有効である。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0065】
[日持向上剤の調製]
下記表1の組成となるように原料を混合し、粉末状の日持向上剤A~Eを調製した。
【0066】
【0067】
[ボイルブロッコリーの作成と評価]
<実施例1,3、比較例1~3>
(1)ボイルするブロッコリー質量の3倍量の水に日持向上剤A~Eをそれぞれ日持向上剤濃度が2.5質量%となるように添加、混合してボイル液(日持向上液)を調製した。
(2)各ボイル液のpHをpHメーター(F-72:堀場製作所製、使用電極:9615S)を用いて測定した。
(3)上記のボイル液を沸騰させた後、冷凍ブロッコリーを投入し、再沸騰後90秒間加熱した。
(4)ボイルしたブロッコリーを殺菌済みのザルで水切りし、放冷後に冷蔵庫にて1時間冷却した。
(5)冷蔵庫で冷却したブロッコリーの各々10gをストマッカー袋にとり、25℃で48時間保存後に以下の方法で生菌数の測定、評価を行った。
別にブロッコリー2個をストマッカー袋にとり、25℃で48時間保存した後の色味を下記方法で評価した。実施例1,3及び比較例2では更に下記方法で味質の評価を行った。
【0068】
<実施例2>
実施例1において日持向上剤Aを水に添加後、10℃のボイル液にブロッコリーを投入した後に、加熱して沸騰させ、沸騰後90秒間加熱して沸騰状態を保ったこと以外は実施例1と同様にボイルブロッコリーの作成と評価を行った。
【0069】
[生菌数の測定と評価]
試料の入ったストマッカー袋に滅菌済生理食塩水90mLを加え、60秒間ストマッキングし、これを試料懸濁液とし、必要に応じて滅菌済生理食塩水で段階希釈後、標準寒天培地(日水製薬)を用いた混釈平板法(35℃,48時間)にて生菌数を測定し、下記基準で評価した。
○:48時間後の菌数<102CFU/g
△:48時間後の菌数102~104CFU/g
×:48時間後の菌数>104CFU/g
【0070】
[味質の評価]
3人のパネラーによりボイルブロッコリーの味を評価し、下記基準で評価した。
×:全員がおいしくない(甘みがあり、ブロッコリー本来の味が損なわれている)と感じる。
○:おいしいと感じる人がいる。
-:未測定
【0071】
[色味の評価]
ボイルブロッコリーの色を観察し、退色の有無を下記基準で評価した。
○:保存後に大きな退色がない。
×:保存後に大きく退色している。
【0072】
実施例1~3、比較例1~3において用いた日持向上剤の種類と評価結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
表2より明らかなように、実施例のブロッコリーはいずれも48時間保存後でも、生菌数が少なく、色味も良好である。
比較例1のボイルブロッコリーと実施例のボイルブロッコリーとを比較すると、比較例1では、酢酸カルシウム、pH調整剤およびトレハロースを含有していないため、酢酸ナトリウムと酢酸カルシウムの併用効果が得られず、ボイル液のpHも高く、静菌性が劣る。
比較例2のボイルブロッコリーと実施例のボイルブロッコリーとを比較すると、比較例2では、トレハロースの含有量が多いため、味が劣り、静菌性も不十分である。
比較例3のボイルブロッコリーと実施例のボイルブロッコリーとを比較すると、比較例3では、ボイル液のpHが高く、静菌性が劣る。
また、実施例1と実施例2の比較から、加熱前の水に日持向上剤とブロッコリーを入れてから加熱して沸騰させることで、保存後の生菌数がより少ないボイルブロッコリーが得られることが分かる。