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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20231205BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20231205BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231205BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20231205BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231205BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
C22C28/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020053407
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021153147
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】山道 大介
(72)【発明者】
【氏名】水野 晶仁
(72)【発明者】
【氏名】松本 綾二
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/133071(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/061836(WO,A1)
【文献】特開2006-144064(JP,A)
【文献】特開2006-265602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 38/00
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素の少なくとも1種であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1種を必ず含む、TはFeまたはFeとCoである)を準備する工程と、
R1-M系合金粉末(R1は希土類元素の少なくとも1種であり、MはCu、Ga、Al、Zn、Fe、Co、Niからなる群から選択される少なくとも1種を必ず含む)からなる拡散源を準備する工程と、
前記R-T-B系焼結磁石素材の表面に前記拡散源を存在させて拡散用磁石素材を準備する工程と、
前記拡散用磁石素材を拡散用板上に設置する工程と、
前記拡散用板上に設置された前記拡散用磁石素材の温度を400℃以上1000℃以下に加熱する拡散工程と、
前記拡散工程後の拡散用板を処理容器内に配置し、処理容器内の温度を110℃以上160℃以下、圧力を150kPa以上650kPa以下、相対湿度を75%以上、にして2時間以上10時間以下に加熱する付着物除去工程と、
を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記拡散工程は、前記拡散源除去工程が為された拡散用板を用いる、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記R1-M系合金粉末におけるR1は、Nd、Pr、Ce、Dy、Tbからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記R1-M系合金粉末におけるMは、Cu、Ga、Zn、Fe、Coからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1から3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記R1-M系合金粉末におけるR1の含有量は、R1-M系合金粉末全体の60mass%以上98mass%以下であり、Mの含有量は、R1-M系合金粉末全体の2mass%以上40mass%以下である、請求項1から4のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe14B型化合物を主相とするR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品等に使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてRFe14B型化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるRFe14B型化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R-T-B系焼結磁石において、R14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、DyやTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、HcJは向上する。しかし、特にTbやDyなどのRHは、資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されているなどの理由から、供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、RHをできるだけ使用することなく、HcJを向上させることが求められている。
【0006】
特許文献1には、R-T-B系合金焼結体にR、Ga、Cuを含む合金を拡散させることにより、RHをできるだけ使用することなく、高いHcJを有する焼結磁石が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/133071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
拡散処理は、例えば、R-T-B系焼結磁石素材の表面に拡散源を存在させた磁石素材を拡散用板上に設置し、拡散用熱処理炉内に搬送して拡散用板ごと磁石素材を加熱することによって実行され得る。このため、拡散用板は拡散に必要な熱処理の温度(例えば500℃)に耐える材料から形成される。具体的には、拡散用板の材料としては、モリブデンおよびステンレス鋼が使用されている。本発明者らの検討によると、特に特許文献1などのR-M系合金粉末を拡散源として用いた場合、拡散工程後、拡散用板上に希土類成分を主とする付着物(以下、単に「付着物」という場合がある)が溶着する場合があることがわかった。これは、拡散源及び拡散磁石素材の成分(主に希土類成分)が拡散処理中(加熱中)に拡散板と反応し、その後、冷却されることで溶着されるものだと考えられる。付着物が溶着した拡散用板をくりかえし用いて拡散処理を行うと、磁石素材と拡散用板との溶着が顕著に起こり、磁石素材を拡散用板から持ち上げるときに磁石素材が破損する場合があることがわかった。さらに、付着物が溶着した拡散用板上は溶着部分により平坦でなくなり、これにより拡散用板上に設置された磁石が拡散中に変形を起こし、寸法不良が発生する場合があることがわかった。また、拡散用板は、上述したようにモリブデンやステンレス鋼のため高価であり、くりかえし用いなければ生産コストの増大をまねく。よって、拡散用板から溶着した付着物を取り除く必要がある。しかし、本発明者らの検討によると、拡散用板に対してショットブラスト等を行っても溶着した付着物を容易に取り除くことができないことがわかった。そのため、手作業で溶着した付着物を削り落としたり、溶着した付着物を避けて磁石素材をセットしたりしなければならず、これにより、R-T-B系焼結磁石の生産性の悪化を招いていた。
そこで、本開示は、拡散板上に溶着した付着物を容易に取り除くことができ、生産性の悪化を抑制するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素の少なくとも1種であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1種を必ず含む、TはFeまたはFeとCoである)を準備する工程と、R1-M系合金粉末(R1は希土類元素の少なくとも1種であり、MはCu、Ga、Al、Zn、Fe、Co、Niからなる群から選択される少なくとも1種を必ず含む)からなる拡散源を準備する工程と、前記R-T-B系焼結磁石素材の表面に前記拡散源を存在させて拡散用磁石素材を準備する工程と、前記拡散用磁石素材を拡散用板上に設置する工程と、前記拡散用板上に設置された前記拡散用磁石素材の温度を400℃以上1000℃以下に加熱する拡散工程と、前記拡散工程後の拡散用板を処理容器内に配置し、処理容器内の温度を110℃以上160℃以下、圧力を150kPa以上650kPa以下、相対湿度を75%以上、にして2時間以上10時間以下に加熱する付着物除去工程と、
を含む。
【0010】
ある実施形態において、前記拡散工程は、前記拡散源除去工程が為された拡散用板を用いる。
【0011】
ある実施形態において、前記R1-M系合金粉末におけるR1は、Nd、Pr、Ce、Dy、Tbからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0012】
ある実施形態において、前記R1-M系合金粉末におけるMは、Cu、Ga、Zn、Fe、Coからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0013】
ある実施形態において、前記R1-M系合金粉末におけるR1の含有量は、R1-M系合金粉末全体の60mass%以上98mass%以下であり、Mの含有量は、R1-M系合金粉末全体の2mass%以上40mass%以下である。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、拡散板上に溶着した付着物を容易に取り除くことができ、生産性の悪化を抑制するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは検討の結果、拡散工程後の拡散用板を処理容器内に配置し、特定範囲の圧力をかけた上で、特定の温度、相対湿度及び時間で加熱することにより、拡散板上に溶着した付着物を容易に取り除くことができることを見出した。これにより、手作業で付着物を削り落とす必要もなく、さらに、複数枚の拡散用板を処理容器内に配置することにより、一度に多くの拡散板を処理することができるため、生産性の悪化を抑制するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【0016】
(R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程)
Rは希土類元素の少なくとも1種であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1種を必ず含む、TはFeまたはFeとCoである。
R-T-B系焼結磁石素材は公知のものが使用できる。例えば、以下の組成を有する。
希土類元素R:27.5~35.0質量%、
B(B(ボロン)の一部はC(カーボン)で置換されていてもよい):0.80~1.20質量%、
Ga:0~0.8質量%、
添加元素M(Al、Cu、Zr、Nbからなる群から選択された少なくとも1種):0~2質量%、
T((TはFe又はFeとCo)及び不可避不純物:残部。
Rは重希土類元素RH(RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1種)を含有していてもよい。
上記組成のR-T-B系焼結磁石素材は、公知の任意の製造方法によって製造される。R-T-B系焼結磁石素材は焼結上がりでもよいし、切削加工や研磨加工が施されていてもよい。
【0017】
(R1-M系合金粉末からなる拡散源を準備する工程)
R1は希土類元素の少なくとも1種であり、MはCu、Ga、Al、Zn、Fe、Co、Niからなる群から選択される少なくとも1種を必ず含む。
好ましくは、R1は、Nd、Pr、Ce、Dy、Tbからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、Mは、Cu、Ga、Zn、Fe、Coからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
R1―M合金の典型例は、NdCu合金、PrCu合金、NdPrCu合金、DyNdCu合金、TbNdCu合金、DyPrCu合金、TbPrCu合金、DyNdPrCu合金、TbNdPrCu合金、NdCeCu合金、DyNdCeCu合金、TbNdCeCu合金、NdCePrCu合金、DyNdCePrCu合金、TbNdCePrCu合金、NdGa合金、DyNdGa合金、TbNdGa合金、NdGaCu合金、DyNdGaCu合金、TbNdGaCu合金、NdCeGaCu合金、DyNdCeGaCu合金、TbNdCeGaCu合金、NdPrGaCu合金、DyNdPrGaCu合金、TbNdPrGaCu合金、NdPrCuZn合金、NdPrGaFe合金、NdPrGaCo合金などである。また、R1―M合金粉末と共にRHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物等を準備してもよい。RHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物としては、例えば、TbF、DyF、Tb、Dy、TbOF、DyOFが挙げられる。
R1の含有量は、R1-M系合金粉末全体の60mass%以上98mass%以下が好ましい。Mの含有量は、R1-M系合金粉末全体の2mass%以上40mass%以下が好ましい。
R1-M系合金粉末の作製方法は、特に限定されない。ロール急冷法によって合金薄帯を作製し、この合金薄帯を粉砕する方法で作製してもよいし、遠心アトマイズ法、回転電極法、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法で作製してもよい。鋳造法で作製したインゴットを粉砕してもよい。
【0018】
(R-T-B系焼結磁石素材の表面に前記拡散源を存在させて拡散用磁石素材を準備する工程)
前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、前記拡散源(R1-M系合金粉末)の少なくとも一部を存在させて拡散用磁石素材を準備する。R-T-B系焼結磁石素材の表面に拡散源粉末を存在させる方法は特に問わない。R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、拡散源粉末の少なくとも一部を付着させることができればどのような方法でも良い。例えば、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーによる塗布などがあげられる。また、R-T-B系焼結磁石素材の表面に粘着剤を塗布し、粘着剤が付着したR-T-B系焼結磁石素材の表面に拡散源粉末を散布する方法により付着させてもよい。例えば、流動させた拡散源粉末の中に粘着剤が塗布されたR-T-B系焼結磁石素材を浸漬させる方法いわゆる流動浸漬法(fulidized bed coating process)を用いてもよい。
【0019】
(拡散用磁石素材を拡散用板上に設置する工程)
表面に拡散源が存在させた拡散用磁石素材を拡散板上に設置する。拡散用板のサイズは、例えば、300mm×200mm×2mm(厚さ)である。拡散用板は拡散に必要な熱処理の温度(例えば500℃)に耐える材料から形成され、例えば、モリブデン、ステンレス鋼から形成される。拡散用磁石素材の拡散板上への設置方法は特に問わない。ロボットなどの機械により拡散用磁石素材を拡散板上に設置してもよいし、手作業で配置してもよい。
【0020】
(拡散用板上に設置された拡散用磁石素材の温度を400℃以上1000℃以下に加熱する拡散工程)
拡散用板上に設置された拡散用磁石素材の温度を400℃以上1000℃以下に加熱する熱処理をして、前記拡散源に含まれる元素をR-T-B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散させる。加熱温度が400℃以下であると、R-T-B系焼結磁石の内部への拡散が不十分となり高いHcJを得ることが出来ない可能性があり、1000℃を超えると、磁石素材に異常粒成長が発生し、B及びHcJが大きく低下する可能性がある。加熱温度は、好ましくは850℃以上950℃以下である。より高いHcJを得ることができる。また、熱処理は、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。この拡散工程中に、磁石素材表面に存在した拡散源(R1-M系合金粉末)や磁石素材に含まれる主に希土類成分が拡散用板と反応し、その後、冷却されることで付着物が溶着される。そのため、本開示では、付着物が溶着した拡散用板を付着物除去工程によって除去する。
拡散工程を行った後のR-T-B系焼結磁石は、磁気特性を向上させることを目的とした第二の熱処理を行ってもよい。第二の熱処理における温度、時間などの条件は、拡散温度より低く、焼結磁石の熱処理条件として公知の条件を採用することができる。また、最終的な磁石寸法の調整を研削などの機械加工等により行ってもよい。この場合、第二の熱処理の前に行っても、後に行ってもよい。
【0021】
(拡散工程後の拡散用板を処理容器内に配置し、処理容器内の温度を110℃以上160℃以下、圧力を150kPa以上650kPa以下、相対湿度を75%以上、にして2時間以上10時間以下に加熱する付着物除去工程)
拡散工程後の拡散用板を処理容器内に配置し、処理容器内の温度を110℃以上160℃以下、圧力を150kPa以上650kPa以下、相対湿度を75%以上、にして2時間以上10時間以下に加熱して、拡散用板に溶着した付着物を除去する。
処理温度が110℃未満であると拡散用板に付着物が残存する可能性があり、160℃を超えると拡散用板が変形する可能性がある。好ましくは、処理温度は125℃以上150℃以下である
処理容器内の圧力が150kPa未満であると拡散用板に付着物が残存する可能性があり、650kPaを超えると、拡散用板が変形する可能性がある。好ましくは、処理容器内の圧力は200kPa以上300kPa以下である。また、処理容器の相対湿度は、75%以上である。相対湿度が75%未満であると、水分量が少ないため、拡散用板に付着物が残存する可能性がある。好ましくは、相対湿度は85%以上である。より確実に付着物を除去することができる。加熱時間が2時間未満であると拡散用板に付着物が残存する可能性があり、10時間を超えると、処理時間が長すぎるため、量産コストが増大する可能性がある。好ましくは、加熱時間は3時間以上6時間以下である。
【0022】
本開示の付着物除去工程は、付着物が溶着した拡散用板を一度に大量に処理容器に投入できるため、効率よく付着物を除去することができる。そして、前記付着物除去工程が為された拡散用板を用いて前記拡散工程を行うことにより、生産性の悪化を抑制してR-T-B系焼結磁石を製造することが可能となる。
【実施例
【0023】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0024】
実験例1
(R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程)
R-T-B系焼結磁石素材がおよそ表1の符号1-Aの組成となるよう各元素を秤量しストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
【0025】
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100質量%に対して0.05質量%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0026】
得られた成形体を4時間焼結(焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)し、R-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)を複数個用意した。得られたR-T-B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m以上であった。得られたR-T-B系焼結磁石素材の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解-赤外線吸収法で測定した結果、0.1質量%前後であることを確認した。また、No.1-AのR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、4.4mm×10.0mm×11.0mmの直方体(10.0mm×11.0mmの面が配向方向と垂直な面、4.4mm方向が厚み方向であり、配向方向)とした。
【0027】
【表1】
【0028】
(R1-M系合金粉末からなる拡散源を用意する工程)
表2のNo.1-aに示す組成の合金粉末をアトマイズ法により作成することにより、R1-M系合金粉末を用意した。得られた拡散源粉末の粒度は106μm以下であった。
【0029】
【表2】
【0030】
(R-T-B系焼結磁石素材の表面に拡散源を存在させて拡散用磁石素材を準備する工程)
次に、表1のNo.1-AのR-T-B系焼結磁石素材表面全面に粘着剤を塗布した。塗布方法は、R-T-B系焼結磁石素材をホットプレート上で60℃に加熱後、スプレー法でR-T-B系焼結磁石素材に粘着剤を塗布した。粘着剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を用いた。
次に、粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)に対して、表2のNo.1-aの拡散源粉末を付着させた。付着方法は、容器に拡散源粉末を広げ、容器内で拡散源粉末を粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材全面にまぶすように付着させた。
【0031】
(拡散用磁石素材を拡散用板上に設置する工程)
サイズが300mm×200mm×2mm(厚さ)の拡散用板(モリブデン)を複数枚準備し、拡散用板上に拡散用磁石素材を設置した。なお、拡散用板1枚に対して拡散用磁石素材を10個設置した。
【0032】
(拡散工程)
拡散処理用の炉を用いて、200Paに制御した減圧アルゴン中で、拡散源粉末(No.1-a)が接触した状態の拡散用磁石素材を、920℃で8時間加熱する熱処理(拡散処理)を行った。更に拡散処理後のR-T-B系焼結磁石に対し、490℃で6時間加熱する第二の熱処理を行いR-T-B系焼結磁石を得た。拡散工程後の拡散用板を確認した所、拡散板上に付着物が溶着していることを確認した。また、付着物の組成を確認した所、主に希土類成分(Nd及びPr)であることを確認した。
【0033】
(付着物除去工程)
付着物が溶着した拡散工程後の拡散用板を処理容器内に配置し、表3に示す処理条件で拡散除去工程を行った。また、圧力拡散除去工程後の拡散用板上の付着物の溶着残りの有無を観察した。溶着残りが無い場合は〇と、溶着残りがある場合は×として、結果を表3にしめす。
【0034】
【表3】
【0035】
表3に示すように、本開示の拡散除去工程の条件を満たすNo.1~4は、溶着残りが確認されなかった。これに対し、圧力が本開示から外れているNo.5や温度(加熱温度)及び湿度が本開示から外れているNo.6や時間(加熱時間)が本開示から外れているNo.7は、いずれも溶着残りが確認された。
【0036】
また、表3に示すNo.1~4の拡散用板をそのままくりかえし使用して拡散工程を再度行った所、磁石と拡散用板との溶着は発生せず、かつ、拡散後に得られた磁石は寸法不良等なく拡散処理を行えたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本開示により得られたR-T-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品等などに好適に利用することができる。