(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 18/36 20060101AFI20231205BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20231205BHJP
C08G 18/16 20060101ALI20231205BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20231205BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231205BHJP
【FI】
C08G18/36
C08G18/76 057
C08G18/16
C08L75/04
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2020085161
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 一
【審査官】山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077234(JP,A)
【文献】特開平01-022914(JP,A)
【文献】特開2010-280760(JP,A)
【文献】特開2014-111686(JP,A)
【文献】特開2007-277390(JP,A)
【文献】特開2010-150476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00-18/87;71/00-71/04
C08K3/00-13/08;C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひまし油系ポリオール
を98質量%を超えて含有するポリオール、ポリイソシアネート化合物、及びフィラーを含むウレタン樹脂組成物であって、
前記ひまし油系ポリオールが、(A)水酸基数が1を超え6以下のひまし油系ポリオールと、(B)水酸基数が1のひまし油系ポリオールとからなり、
前記ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と、前記ひまし油系ポリオールの水酸基との当量比[NCO/OH]が、0.8~1.2であり、
前記フィラーの含有量が、前記ウレタン樹脂組成物全量に対し53~90体積%であるウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分と(B)成分との質量比[(A):(B)]が9:1~5:5である請求項1に記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート化合物が、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、及びアロファネート変性ポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記フィラーが、金属、ケイ素、又はホウ素の、酸化物、窒化物、炭化物、及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、反応促進剤を含む請求項1~4のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記反応促進剤が、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ビスマス化合物、有機タングステン化合物、有機モリブデン化合物、有機コバルト酸化合物、有機亜鉛化合物、有機カリウム化合物、有機鉄化合物、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、可塑剤を含む請求項1~6のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物の硬化物。
【請求項9】
熱伝導率が2.0W/m・K以上である請求項8に記載のウレタン樹脂組成物の硬化物。
【請求項10】
JIS K7312:1996に準拠して測定したタイプA硬度が95以下である請求項8又は9に記載のウレタン樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、発熱体から熱を取り除くことがさまざまな分野で問題になっている。特に、電子機器、パソコン、自動車用のエンジンコントロールユニット(ECU)や電池など、発熱性の電子部品から熱を取り除くことが重要な問題となっている。これらは部品の温度が上昇するにつれて、その部品が誤動作を起こし故障の要因となる。そのため、色々な放熱材料が熱対策として使われてきている。
【0003】
シリコーン材料はフィラーを充填しやすく、その組成物は流動しやすい。また、その硬化物の硬度を比較的低くすることが容易である。そこで、注型用材料としてシリコーン材料にフィラーを添加して熱伝導率を高めた、ポッティング材と呼ばれるものが使われている。前記ポッティング材は液状であるため、流し込む、あるいは塗るなどができ作業が簡単に自動化できるため、盛んに使用されている。しかしながら、シリコーン材料は低分子シロキサンを含み、これらが気化し、導通障害などを起こすことから、使用を躊躇する場合が多い。そのため、シリコーン材料以外の注型材料で熱伝導率の高いものが求められてきている。
【0004】
シリコーン材料の代替材料としてはウレタン材料が挙げられる。ウレタン材料となるポリオールにも低粘度品はあるが、それらはポリエーテル系あるいはポリエステル系ポリオールと呼ばれるものであり、これら由来のウレタンは耐加水分解性がないという問題があった。
【0005】
これら問題を解決するために従来からさまざまな手法が提案されてきた。例えば、特許文献1には、ポリブタジエンポリオールおよびひまし油系ポリオールを含有する水酸基含有化合物と、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含有するイソシアネート基含有化合物とを反応させてなるポリウレタン樹脂と、無機充填材とを含有するポリウレタン樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリブタジエンポリオールおよびひまし油系ポリオールを含有する水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体およびポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体を含有するイソシアネート基含有化合物並びに無機充填材を含有するポリウレタン樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-1426号公報
【文献】特開2015-89909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1及び2では、ポリオールとしてひまし油系ポリオールを使用しているが、メインポリマーはポリブタジエンポリオールであるため、フィラーの充填量が40~95質量%であると、樹脂組成物が高粘度になり、流動しないという問題がある。また、環境試験について記述はあるが、ひまし油由来のポリオールを用いたウレタンの特性である耐加水分解性については検討されていない。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、流動性を有し、かつ高熱伝導性を有するとともに、硬度を低くすることができ、耐加水分解性に優れる硬化物を得ることができるウレタン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により前記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
[1]ひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、及びフィラーを含むウレタン樹脂組成物であって、前記ひまし油系ポリオールが、(A)水酸基数が1を超え6以下のひまし油系ポリオールと、(B)水酸基数が1のひまし油系ポリオールとからなり、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と、前記ひまし油系ポリオールの水酸基との当量比[NCO/OH]が、0.8~1.2であり、前記フィラーの含有量が、前記ウレタン樹脂組成物全量に対し53~90体積%であるウレタン樹脂組成物。
[2]前記(A)成分と(B)成分との質量比[(A):(B)]が9:1~5:5である上記[1]に記載のウレタン樹脂組成物。
[3]前記ポリイソシアネート化合物が、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、及びアロファネート変性ポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[1]又は[2]に記載のウレタン樹脂組成物。
[4]前記フィラーが、金属、ケイ素、又はホウ素の、酸化物、窒化物、炭化物、及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[1]~[3]のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
[5]さらに、反応促進剤を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
[6]前記反応促進剤が、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ビスマス化合物、有機タングステン化合物、有機モリブデン化合物、有機コバルト酸化合物、有機亜鉛化合物、有機カリウム化合物、有機鉄化合物、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[5]に記載のウレタン樹脂組成物。
[7]さらに、可塑剤を含む上記[1]~[6]のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物の硬化物。
[9]熱伝導率が2.0W/m・K以上である上記[8]に記載のウレタン樹脂組成物の硬化物。
[10]JIS K7312:1996に準拠して測定したタイプA硬度が95以下である上記[8]又は[9]に記載のウレタン樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流動性を有し、かつ高熱伝導性を有するとともに、硬度を低くすることができ、耐加水分解性に優れる硬化物を得ることができるウレタン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、ひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、及びフィラーを含むウレタン樹脂組成物であって、前記ひまし油系ポリオールが、(A)水酸基数が1を超え6以下のひまし油系ポリオールと、(B)水酸基数が1のひまし油系ポリオールとからなり、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と、前記ひまし油系ポリオールの水酸基との当量比[NCO/OH]が、0.8~1.2であり、前記フィラーの含有量が、前記ウレタン樹脂組成物全量に対し53~90体積%である。
【0014】
[ひまし油系ポリオール]
本実施形態で用いられるひまし油系ポリオールは、(A)水酸基数が1を超え6以下のひまし油系ポリオールと、(B)水酸基数が1のひまし油系ポリオールとからなる。これにより、ウレタン樹脂組成物の流動性が良好となり、また、ウレタン樹脂組成物の硬化物の耐加水分解性を優れたものとすることができる。
【0015】
ここで、本明細書において、「水酸基数」とは、ひまし油系ポリオール一分子中に含まれる平均水酸基数を意味し、例えば、1.5等の少数点以下の値をとり得る。なお、「ひまし油系ポリオール」には、水酸基数が1のものも含むものとする。また、「ひまし油系」とは、リシノレイン酸とグリセリンとのトリエステル化合物を含む天然油脂、天然油脂加工物、又は合成で得られたトリエステル化合物を含む合成油脂を意味する。「ひまし油系ポリオール」とは、リシノレイン酸及び/又は水添リシノレイン酸と多価アルコールとのエステル化合物を意味する。前記エステル化合物は、ひま(トウゴマ 学名Ricinus communis L.)の種子を搾油することによって得たひまし油、もしくはその誘導体を出発原料として変性された化合物であってもよく、ひまし油以外の原料を出発原料として得られたポリオールであってもよい。
【0016】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールは、水酸基数が1を超え6以下であり、好ましくは2以上5以下であり、より好ましくは2以上4以下である。水酸基数が1を超えるとウレタン樹脂組成物の硬化が良好となり、6以下であるとポリイソシアネート化合物のイソシアナト基との結合点が多くなり過ぎず、ウレタン樹脂組成物の硬化物の硬度が高くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0017】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールは、結合数(ウレタン結合数)を調整する観点から、水酸基価が好ましくは60~230mgKOH/gであり、より好ましくは70~180mgKOH/gである。
前記水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定した値である。
【0018】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールは、25℃における粘度が好ましくは30~1000mPa・sであり、より好ましくは50~500mPa・sであり、さらに好ましくは80~300mPa・sである。前記粘度が30mPa・s以上であるとフィラーの含有量をさらに多くすることができ、ウレタン樹脂組成物の粘度をより低下させ、流動させることができる。1000mPa・s以下であるとフィラーの含有量を多くすることができ、ウレタン樹脂組成物の粘度を低下させることができる。
前記粘度は、JIS Z8803:2011に準拠して測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールとしては、水酸基数が1を超え6以下であれば特に限定されないが、例えば、ひまし油、ひまし油脂肪酸、ひまし油に水素付加した水添ひまし油又はひまし油脂肪酸に水素付加した水添ひまし油脂肪酸を用いて製造されたポリオールが挙げられる。さらに、ひまし油とその他の天然油脂とのエステル交換物、ひまし油と多価アルコールとの反応物、ひまし油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物、水添ひまし油、水添ひまし油とその他の天然油脂とのエステル交換物、水添ひまし油と多価アルコールとの反応物、水添ひまし油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物、及びこれらにアルキレンオキサイドを付加重合したポリオールなどが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールは、公知の製造方法にしたがって製造してもよく、または、市販品を用いてもよい。前記(A)成分のひまし油系ポリオールの市販品としては、例えば、URIC H-57、URIC Y-403、H-30、H-52(以上、伊藤製油株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0021】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールの含有量は、ウレタン樹脂組成物全量に対し、好ましく1.5~15.0質量%であり、より好ましくは3.0~12.0質量%であり、さらに好ましくは5.0~10.0質量%であり、よりさらに好ましくは5.0~8.0質量%である。(A)成分のひまし油系ポリオールの含有量が1.5質量%以上であるとウレタン樹脂組成物の硬化物の耐加水分解性を良好にすることができ、15.0質量%以下であるとウレタン樹脂組成物の流動性が向上し、低硬度の硬化物が得られやすくなる。
【0022】
前記(B)成分の水酸基数が1のひまし油系ポリオールは、ウレタン樹脂組成物の硬化物の硬度を低下させる効果を有する。また、(B)成分のひまし油系ポリオールは、反応希釈剤としても作用する。
前記(B)成分のひまし油系ポリオールとしては、水酸基数が1であれば特に限定されないが、例えば、ひまし油脂肪酸(リシノール酸)低級アルキルエステル、部分脱水ひまし油、部分アシル化ひまし油などが挙げられる。ひまし油脂肪酸低級アルキルエステルは、ひまし油と低級アルコールとのエステル交換反応、あるいはひまし油脂肪酸と低級アルコールとのエステル化反応により得ることができる。ここで低級アルコールとしては、メタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。部分脱水ひまし油は、ひまし油を硫酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸などとの酸性触媒の存在下に加熱することにより得ることができる。部分アシル化ひまし油は、ひまし油を部分的にアシル化することにより得ることができる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
前記(B)成分のひまし油系ポリオールは、結合数及び粘度を調整する観点から、水酸基価が好ましくは130~200mgKOH/gであり、より好ましくは140~190mgKOH/gであり、さらに好ましくは150~180mgKOH/gである。
前記水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定した値である。
【0024】
前記(B)成分のひまし油系ポリオールは、25℃における粘度が好ましくは10~70mPa・sであり、より好ましくは15~50mPa・sであり、さらに好ましくは20~40mPa・sである。前記粘度が10mPa・s以上であるとウレタン樹脂組成物の流動性が向上し、かつ低硬度の硬化物が得られやすくなり、70mPa・s以下であると硬化物の取り扱いをよくすることができる。
前記粘度は、JIS Z8803:2011に準拠して測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
前記(B)成分のひまし油系ポリオールは、公知の製造方法にしたがって製造してもよく、または、市販品を用いてもよい。前記(B)成分のひまし油系ポリオールの市販品としては、例えば、URIC H-31(伊藤製油株式会社製)、HS-CM(ヒマメチ)(豊国製油株式会社製)などが挙げられる。
【0026】
前記(B)成分のひまし油系ポリオールの含有量は、ウレタン樹脂組成物全量に対し、好ましくは0.5~4.0質量%であり、より好ましくは0.6~3.0質量%であり、さらに好ましくは0.7~2.5質量%であり、よりさらに好ましくは0.7~2.4質量%である。(B)成分のひまし油系ポリオールの含有量が0.5質量%以上であるとウレタン樹脂組成物の硬化物の硬度を低下させることができ、4.0質量%以下であるとウレタン樹脂組成物の硬化ができ、低硬度な硬化物にすることができる。また、(B)成分のひまし油系ポリオールは、反応希釈剤としても作用するため、含有量が2.5質量%以下であると適度な反応速度となり、また、室温でウレタン樹脂組成物を硬化させることができる。
【0027】
前記(A)成分のひまし油系ポリオールと、前記(B)成分のひまし油系ポリオールとの質量比[(A):(B)]は、好ましくは9:1~5:5であり、より好ましくは9:1~6:4であり、さらに好ましくは9:1~7:3である。前記質量比[(A):(B)]が9:1以下であるとウレタン樹脂組成物の硬化物の硬度を低下させることができ、5:5以上であると硬化物の取り扱いをよくすることができ、低硬度の硬化物を得ることができる。
【0028】
本実施形態で用いられるひまし油系ポリオールの含有量は、ウレタン樹脂組成物全量に対し、好ましくは2.0~19.0質量%であり、より好ましくは3.5~15.0質量%であり、さらに好ましくは6.0~13.0質量%であり、よりさらに好ましくは6.0~10.0質量%である。ひまし油系ポリオールの含有量が2.0質量%以上であるとウレタン樹脂組成物が硬化でき、その硬化物のタイプA硬度を後述の範囲内とすることが可能となり、19.0質量%以下であると結合数が増え、確実にウレタン樹脂組成物が硬化でき、その硬化物のタイプA硬度を後述の範囲内とすることができる。
【0029】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、前記ひまし油系ポリオール以外のポリオールを含有してもよい。前記ひまし油系ポリオール以外のポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが挙げられる。
本実施形態で用いられるポリオールが前記ひまし油系ポリオール以外のポリオールを含有する場合、その含有量は、ポリオール全量に対して好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。前記ひまし油系ポリオール以外のポリオールの含有量が2.0質量%以下であると、ウレタン樹脂組成物の粘度を低下させることができ、また、ウレタン樹脂組成物の硬化物の耐加水分解性を良好にすることができる。
【0030】
[ポリイソシアネート化合物]
本実施形態で用いられるポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアナト基を2個以上有する化合物である。例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0031】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0032】
前記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0033】
前記脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0034】
また、前記芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートの、カルボジイミド変性ポリイソシアネート、ビウレット変性ポリイソシアネート、アロファネート変性ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0035】
なかでも、ウレタン樹脂組成物の硬化物の低硬度化と、ポリイソシアネート化合物自体の安全性の観点から、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、及びアロファネート変性ポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、ポリイソシアネート化合物は、後述するフィラーによっては失活しやすい場合もあるため、フィラーの種類によって適宜選択することが好ましい。
【0036】
前記ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基と、前記ひまし油系ポリオールの水酸基との当量比[NCO/OH]は、0.8~1.2である。当量比[NCO/OH]が0.8以上であるとウレタン樹脂組成物の硬化が十分に進み、1.2以下であるとウレタン樹脂組成物の硬化物の硬度を低下させることができる。このような観点から、当量比[NCO/OH]は0.8~1.1であることが好ましい。
【0037】
前記ポリイソシアネート化合物の含有量は、ウレタン樹脂組成物全量に対し、好ましくは0.5~5.0質量%であり、より好ましくは1.0~4.0質量%であり、さらに好ましくは1.4~3.5質量%である。ポリイソシアネート化合物の含有量が0.5質量%以上であるとウレタン樹脂組成物が硬化でき、その硬化物のタイプA硬度を後述の範囲内とすることが可能となり、5.0質量%以下であると確実にウレタン樹脂組成物が硬化でき、その硬化物のタイプA硬度を後述の範囲内とすることができる。
【0038】
[フィラー]
本実施形態で用いられるフィラーは、熱伝導性付与の観点から、熱伝導率が1W/m・K以上であることが好ましい。
前記フィラーは、金属、ケイ素、又はホウ素の、酸化物、窒化物、炭化物、及び水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、シリカ、石英粉などが挙げられ、前記窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などが挙げられる。前記炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素などが挙げられ、前記水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄などが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
熱伝導率とコストのバランスを考慮すると酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。また、高熱伝導性の観点からは窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好適に用いられ、低コストの観点からはシリカ、石英粉、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。特に、水酸化アルミニウムは異なる粒径の組み合わせやアルミナの併用により、期待以上の熱伝導性が発揮でき、しかも、水酸化物なので難燃性も付与できることから有用なフィラーである。
【0039】
前記フィラーの形状は、粒子であれば特に限定されないが、真球状、球状、丸み状、鱗片状、破砕状などが挙げられる。これらは組み合わせて用いてもよい。
前記フィラーの粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径(50%粒径D50)が、発熱体と放熱体の距離(BLT(Bond Line Thickness))の観点から、好ましくは0.01~200μmであり、より好ましくは0.1~150μmであり、さらに好ましくは0.5~100μmである。D50の異なるフィラーを組み合わせて用いてもよい。
前記フィラーのD50は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
前記フィラーは、BET法により求めた比表面積が好ましくは0.05~10.0m2/gであり、より好ましくは0.06~8.0m2/gであり、さらに好ましくは0.06~6.0m2/gである。前記比表面積が、0.05m2/g以上2m2/g未満のフィラーは、ベース樹脂(ひまし油系ポリオール)に充填しやすく、2m2/g以上10m2/g以下のフィラーは、他のフィラーとの空隙を埋め、熱経路を形成することができ、熱伝導性の向上が見込める。
前記フィラーの比表面積は、比表面積測定装置を用いて、窒素吸着によるBET 1点法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0041】
前記フィラーは、ベース樹脂(ひまし油系ポリオール)への充填性とウレタン樹脂組成物の流動性の観点から、表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ステアリン酸などのカルボン酸、ポリシロキサンあるいはシリコーンオイル、変性シロキサン、変性シリコーンなどがあり、公知のものが使用できる。また、界面活性剤も使用できる。具体的には、フッ素界面活性剤、シリコーン界面活性剤などがある。シリコーン界面活性剤としては、シリコーン骨格あるいは炭化水素骨格などの分子内に水酸基、アミノ基、アミン塩、カルボン酸塩などを有するものなどが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、表面処理剤は、ウレタン樹脂組成物の保存安定性を得る観点から、前記ポリイソシアネート化合物と反応しないものが好ましい。
【0042】
表面処理方法には、前もってフィラーに表面処理をする直接法がある。直接法には乾式法、湿式法、インテグラル法がある。乾式法はフィラーに薬剤を滴下して撹拌混合する方法で、場合によっては薬剤を希釈した溶剤や反応副産物を蒸発乾燥させる。湿式法はフィラーを表面処理剤の溶液に埋没させ、撹拌混合、ろ過後、溶剤や反応副産物を蒸発乾燥させる。インテグラル法はポリマーとの混練りの際に表面処理剤を添加する。処理する際の装置としてはヘンシェルミキサー、ナウターなどがあり、混合する際の装置としてはニーダー、プラネタリーミキサーなどがあり、乾燥はオーブンによる乾燥、自然乾燥などがあり、公知の方法が用いられる。
【0043】
前記フィラーの含有量は、ウレタン樹脂組成物全量に対し53~90体積%である。フィラーの含有量が53体積%以上であるとウレタン樹脂組成物の硬化物の熱伝導性を高めることができる。一方、フィラーの含有量が90体積%以下であると硬化物の硬度を低下させることができる。また、フィラーの充填性が良好となる。このような観点から、フィラーの含有量は、好ましくは58~88体積%、より好ましくは60~85体積%、さらに好ましくは65~80体積%である。
なお、前記フィラーの含有量は、下記式(1)より算出されるウレタンの密度db(g/cm3)を用いて、下記式(2)より算出され、計算値とする。
【0044】
【0045】
式(1)中、mpはひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、必要に応じて配合されるひまし油系ポリオール以外のポリオール、可塑剤、及び難燃剤等の各種添加剤の質量部(g)、dpはひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、必要に応じて配合されるひまし油系ポリオール以外のポリオール、可塑剤、及び難燃剤等の各種添加剤の密度であり、lは1からnの自然数である。
なお、ひまし油系ポリオールの密度としては、例えば、URIC Y-403 0.98g/cm3、URIC H-57 0.98g/cm3、URIC H-31 0.98g/cm3であり、ひまし油系ポリオール以外のポリオールの密度としては、例えば、1,5-ペンタンジオール 0.994g/cm3、エクセノール1030 0.98g/cm3であり、ポリイソシアネート化合物の密度としては、例えば、ミリオネートMR-200(ポリメリックMDI)1.236g/cm3、ミリオネートMTL(カルボジイミド変性MDI)1.217g/cm3であり、可塑剤の密度としては、例えば、リックサイザーCR301 0.97g/cm3であり、難燃剤の密度としては、例えば、アデカスタブPER 1.30g/cm3である。
【0046】
【0047】
式(2)中、mbはウレタンの質量部(g)、dbはウレタンの密度(g/cm3)(式(1)による計算値)、mfはフィラーの質量部(g)、dfはフィラーの密度(g/cm3)であり、kは1からnの自然数であり、nはフィラーの種類の数である。なお、dfのフィラーの密度としては、例えば、アルミナ:3.98g/cm3、水酸化アルミニウム:2.43g/cm3、窒化アルミニウム:3.26g/cm3である。
【0048】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、さらに、反応促進剤を含むことが好ましい。
従来、ウレタン化反応の反応促進剤として有機錫化合物が用いられているが、該有機錫化合物の中には一部毒性のため規制されている物質がある。そのため、有機錫化合物は極力使わないことが望ましい。
本実施形態で用いられる反応促進剤としては、例えば、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ビスマス化合物、有機タングステン化合物、有機モリブデン化合物、有機コバルト酸化合物、有機亜鉛化合物、有機カリウム化合物、有機鉄化合物、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)などが挙げられ、これらを好ましく用いることができる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
本実施形態のウレタン樹脂組成物が反応促進剤を含有する場合、その含有量は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計100質量部に対して、好ましくは0.01~0.1質量部であり、より好ましくは0.02~0.1質量部である。反応促進剤の含有量が0.01質量部以上であるとウレタン樹脂組成物の硬化がより良好となり、0.1質量部以下であるとウレタン樹脂組成物を確実に硬化させることがき、室温放置での硬化もできるようになる。
【0050】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、さらに、可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えば、官能基を有さないひまし油由来のポリマー(但し、ひまし油系ポリオールは除く)、カルボン酸エステル、ポリリン酸エステル、トリメット酸エステル、ポリブテン、α-オレフィンなどが挙げられる。ウレタン樹脂組成物に可塑剤を含有させることで、ウレタン樹脂組成物の粘度を低減させることができ、また、硬化物の硬度を低下させることができる。
【0051】
本実施形態のウレタン樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、ひまし油系ポリオールとポリイソシアネート化合物との合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下である。可塑剤の含有量が50質量部以下であると、オイルブリードの発生、及び硬化物が脆くなるのを抑制することができる。また、可塑剤の含有量の下限値としては、好ましくは5質量部である。
【0052】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、以上の各成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、難燃剤、耐熱安定剤、顔料などの添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0053】
難燃剤としては、例えば、水酸化カルシウムなどの水酸化物;酸化モリブデン、酸化ホウ素などの酸化物;カーボン;リン化合物;リン酸アンモニウム、リン酸エステルなどのリン酸化合物などが挙げられる。但し、前記フィラーに該当するものは除く。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ウレタン樹脂は水分に弱いことから、なるべく、水酸化物、カーボン、リン酸アンモニウムなどのリン酸化合物を用いることが好ましい。
【0054】
耐熱安定剤としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化セリウムあるいはそれらの複合酸化物などの酸化物(但し、フィラー及び難燃剤に該当するものは除く)、カーボン、フェノール系化合物、硫黄系化合物、リン系化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物などが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、フェノール系化合物と硫黄系化合物との組み合わせが好ましい。
なお、前記フィラーの中には難燃剤及び耐熱安定剤としての役割を有するものもある。また、前記カーボンは、難燃剤及び耐熱安定剤としての役割を有する。
【0055】
本実施形態のウレタン樹脂組成物中、前記ひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、及びフィラーの合計含有量は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%である。
【0056】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、前記ひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、フィラー、必要に応じて配合される反応促進剤、可塑剤、及び各種添加剤を自転公転式混合機、小型プラネタリーミキサー、二本ロール、混合ミキサー等の撹拌装置を用いて混合することで得ることができる。
【0057】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、流動性の観点から、25℃における粘度が好ましくは10~800Pa・sであり、より好ましく30~700Pa・sであり、さらに好ましくは50~600Pa・sである。ウレタン樹脂組成物の粘度が10Pa・s以上であると保管中にフィラーが沈降するのを抑制することができ、800Pa・s以下であるとウレタン樹脂組成物の膜厚を厚くして印刷、塗布作業をすることができる。
前記粘度は、JIS Z8803:2011に準拠して測定することができる。
【0058】
[ウレタン樹脂組成物の硬化反応]
本実施形態のウレタン樹脂組成物を、金型等に注入し、必要に応じて乾燥した後、加熱硬化することにより、前記ウレタン樹脂組成物からなる硬化物を得ることができる。前記乾燥は、常温下でも自然乾燥でもよい。前記加熱は、温度50~100℃で、30分~20時間行うことが好ましく、温度60~90℃で、1~10時間行うことがより好ましい。
【0059】
本実施形態のウレタン樹脂組成物の硬化物の熱伝導率は、好ましくは2.0W/m・K以上であり、より好ましくは2.5W/m・K以上であり、さらにより好ましくは2.7W/m・K以上である。前記硬化物の熱伝導率は、フィラーの種類及び含有量を適宜調整することにより2.0W/m・K以上とすることができる。
前記熱伝導率は、ISO22007-2に準拠して測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0060】
本実施形態のウレタン樹脂組成物の硬化物の硬度は、JIS K7312:1996に準拠して測定したタイプA硬度が好ましくは95以下であり、より好ましくは5~95であり、さらに好ましくは10~95であり、よりさらに好ましくは15~90である。硬化物の硬度が前記範囲内であると適度な硬さを有する硬化物とすることができる。
前記硬度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0061】
ウレタン樹脂は、温水にさらされると加水分解が生じるため、温水に弱い。ウレタン結合が長期の暴露により切断し、ウレタン樹脂組成物の硬化物がグリースのような液状になる現象がしばしば確認される。よって長期の信頼性が必要な電子部品には耐加水分解性は必要な特性である。
耐加水分解性の評価には、HAST試験、及びPCT試験(プレッシャークッカー試験)が用いられる。HAST試験、及びPCT試験は、100℃以上の温湿度環境、かつ飽和蒸気中での暴露試験であり、試験槽内の水蒸気圧力を試料内部の水蒸気分圧よりも極端に高めることにより、試料内部への水分の侵入を時間的に加速することで、その耐湿性(耐加水分解性)を評価する。試料(試験片)は厚みの薄いものを使うと試験時間を短くすることができる。試験片の厚みは好ましくは0.2~0.5mmである。
【0062】
本実施形態のウレタン樹脂組成物は、適度な流動性を有するため、成形加工が容易であり、その硬化物は高熱伝導性を有するとともに、耐加水分解性に優れ、適度な硬さを有する。したがって、本実施形態のウレタン樹脂組成物の硬化物は、電子機器、パソコン、自動車用のECUや電池など、発熱性の電子部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0063】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
容器にひまし油系ポリオールとして、(A)成分のひまし油系ポリオールであるURIC Y-403(伊藤製油株式会社製)6.4質量%、(B)成分のひまし油系ポリオールであるURIC H-31(伊藤製油株式会社製)0.72質量%、フィラーとしてアルミナ AL45H(昭和電工株式会社製)の表面処理品45質量%、及びアルナビーズ(登録商標)CB-A70(昭和電工株式会社製)の表面処理品45質量%を加え、温度100℃で30分間オーブンにて乾燥した。その後、自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、あわとり練太郎(登録商標)AR310)にて、回転数2000rpmで30秒間撹拌し混合物を得た。前記混合物を室温(23℃)まで冷却した後、該混合物にポリイソシアネート化合物としてミリオネートMR-200(東ソー株式会社製)2.88質量%を加え、すぐに自転・公転混合ミキサーにて回転数2000rpmで30秒間、脱泡撹拌を行い、ウレタン樹脂組成物を得た。
【0065】
(実施例2、比較例1、2)
表1に記載の種類及び配合量の各成分に変更したこと以外は実施例1と同様にして各実施例及び比較例のウレタン樹脂組成物を得た。
なお、表1中、空欄は配合なしを表す。
【0066】
(実施例3~11、比較例3、4)
容器に表2に記載の種類及び配合量の(A)成分のひまし油系ポリオール、(B)成分のひまし油系ポリオール、及びフィラーを加え、温度100℃で30分間オーブンにて乾燥した。その後、自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、あわとり練太郎(登録商標)AR310)にて、回転数2000rpmで30秒間撹拌した。その後、表2に記載の種類及び配合量の反応促進剤を加え、温度100℃で30分間オーブンにて乾燥した。その後、自転・公転混合ミキサーにて、回転数2000rpmで30秒間撹拌し混合物を得た。前記混合物を室温(23℃)まで冷却した後、該混合物に表2に記載の種類及び配合量のポリイソシアネート化合物を加え、すぐに自転・公転混合ミキサーにて回転数2000rpmで30秒間、脱泡撹拌を行い、各実施例及び比較例のウレタン樹脂組成物を得た。
なお、表2中、空欄は配合なしを表す。
【0067】
(実施例12~23、比較例5~8)
容器に表3に記載の種類及び配合量の(A)成分のひまし油系ポリオール、(B)成分のひまし油系ポリオール、可塑剤、及びフィラーを加え、温度100℃で30分間オーブンにて乾燥した。その後、自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、あわとり練太郎(登録商標)AR310)にて、回転数2000rpmで30秒間撹拌した。その後、表3に記載の種類及び配合量の難燃剤、及び反応促進剤を加え、温度100℃で30分間オーブンにて乾燥した。その後、自転・公転混合ミキサーにて、回転数2000rpmで30秒間撹拌し混合物を得た。前記混合物を室温(23℃)まで冷却した後、該混合物に表3に記載の種類及び配合量のポリイソシアネート化合物を加え、すぐに自転・公転混合ミキサーにて回転数2000rpmで30秒間、脱泡撹拌を行い、各実施例及び比較例のウレタン樹脂組成物を得た。
なお、表3中、空欄は配合なしを表す。
【0068】
ウレタン樹脂組成物の作製に使用した表1~3に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。また、各成分の物性(粘度、D50、比表面積)は後述する方法で評価した。
【0069】
<ひまし油系ポリオール>
〔(A)水酸基数が1を超え6以下のひまし油系ポリオール〕
・URIC Y-403:伊藤製油株式会社製、商品名、25℃における粘度:160mPa・s、水酸基数:2、水酸基価:160mgKOH/g
・URIC H-57:伊藤製油株式会社製、商品名、25℃における粘度:460mPa・s、水酸基数:3、水酸基価:105mgKOH/g
【0070】
〔(B)水酸基数が1のひまし油系ポリオール〕
・URIC H-31:伊藤製油株式会社製、商品名、25℃における粘度:30mPa・s、水酸基数:1、水酸基価:160mgKOH/g
【0071】
〔ひまし油系ポリオール以外のポリオール〕
・1,5-ペンタンジオール:甘糟化学産業株式会社製、25℃における粘度:135mPa・s、水酸基数:2、水酸基価:1044mgKOH/g
・エクセノール1030(ポリエーテルポリオール):AGC株式会社製、商品名、25℃における粘度:250mPa・s、水酸基数:2、水酸基価:162mgKOH/g
【0072】
<ポリイソシアネート化合物>
・ミリオネートMR-200(ポリメリックMDI):東ソー株式会社製、商品名、25℃における粘度:190mPa・s、NCO含量32%
・ミリオネートMTL(カルボジイミド変性MDI):東ソー株式会社製、商品名、25℃における粘度:30mPa・s、NCO含量33%
【0073】
<フィラー>
・アルミナ AL45H:昭和電工株式会社、商品名、D50:1.2μm、比表面積:1.8m2/g
(アルミナ AL45Hの表面処理)
表面処理剤としてKBM-3103C(デシルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製) 1.2g、エタノール 5g、及び水 0.6gを混合し薬剤を調製した。
容器にアルミナ AL45H 200gを投入し、前記薬剤を添加して自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、あわとり練太郎(登録商標)AR310)で回転数1500rpm、30秒間の撹拌混合を3回繰り返し、1日風乾後、温度100℃で2時間乾燥し、アルミナ AL45Hの表面処理品を得た。
【0074】
・アルミナ AL30:昭和電工株式会社、商品名、D50:3.0μm、比表面積:1.2m2/g
(アルミナ AL30の表面処理)
表面処理剤としてKBM-3103C(デシルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製) 0.81g、エタノール 5g、及び水 0.41gを混合し薬剤を調製した。
容器にアルミナ AL30 200gを投入し、前記薬剤を添加して自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、あわとり練太郎(登録商標)AR310)で回転数1500rpm、30秒間の撹拌混合を3回繰り返し、1日風乾後、温度100℃で2時間乾燥し、アルミナ AL30の表面処理品を得た。
【0075】
・アルナビーズ(登録商標)CB-A70:昭和電工株式会社、商品名、D50:70μm、比表面積:0.1m2/g
(アルナビーズ(登録商標)CB-A70の表面処理)
容器にアルナビーズ(登録商標)CB-A70 200gと、表面処理剤としてTSF458-50cSt(シリコーンオイル、モメンティブ社製) 0.1gとを投入し、自転・公転混合ミキサーで回転数1500rpm、30秒間の撹拌混合を3回繰り返した後、温度200℃で4時間のオイル焼き付け処理を行い、アルナビーズ(登録商標)CB-A70の表面処理品を得た。
【0076】
・BF013(水酸化アルミニウム):日本軽金属株式会社製、商品名、D50:1.2μm、比表面積:4.5m2/g
(BF013の表面処理)
表面処理剤としてDynasylan(登録商標)OCTEO(オクチルトリエトキシシラン、エボニック社製) 1.6g、エタノール 5g、及び水 0.8gを混合し薬剤を調製した。
容器にBF013 100gを投入し、前記薬剤を添加して自転・公転混合ミキサーで回転数1500rpm、30秒間の撹拌混合を3回繰り返し、1日風乾後、温度100℃で2時間乾燥し、BF013の表面処理品を得た。
【0077】
・BF083(水酸化アルミニウム):日本軽金属株式会社製、商品名、D50:10μm、比表面積:0.7m2/g
(BF083の表面処理)
表面処理剤としてDynasylan(登録商標)OCTEO(オクチルトリエトキシシラン、エボニック社製) 0.25g、エタノール 5g、及び水 0.13gを混合し薬剤を調製した。
容器にBF083 100gを投入し、前記薬剤を添加して自転・公転混合ミキサーで回転数1500rpm、30秒間の撹拌混合を3回繰り返し、1日風乾後、温度100℃で2時間乾燥し、BF083の表面処理品を得た。
【0078】
・FAN-f80-A1(窒化アルミニウム):古河電子株式会社、商品名、D50:80μm、比表面積:0.08m2/g
【0079】
<反応促進剤>
・Borchi(登録商標)Kat315(ネオデカン酸ビスマス):Borchers社製
【0080】
<可塑剤>
・リックサイザーCR-301(ひまし油由来の脂肪酸エステル):伊藤製油株式会社製、商品名、25℃における粘度:220mPa・s
【0081】
<難燃剤>
・アデカスタブPER(レゾルシノール ビス(ジフェニルホスフェート)):株式会社ADEKA製、商品名
【0082】
<評価項目>
(1)粘度(25℃)
JIS Z8803:2011に準拠して、回転粘度計(東機産業株式会社製、商品名:TVB-10)を用いて、ローターNo.1 回転数60rpmで、25℃における粘度を測定した。
【0083】
(2)D50
レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:MT3300EXII)を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径(50%粒径D50)から求めた。
【0084】
(3)比表面積
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb MS30)を用いて、窒素ガス吸着によるBET 1点法により測定した。
【0085】
(4)フィラーの含有量(体積%)
ウレタン樹脂組成物全量に対するフィラーの含有量(体積%)は、下記式(1)より算出されるウレタンの密度db(g/cm3)を用いて、下記式(2)より算出した。
【0086】
【0087】
式(1)中、mpはひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ひまし油系ポリオール以外のポリオール、可塑剤、及び液体の難燃剤の質量部(g)、dpはひまし油系ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ひまし油系ポリオール以外のポリオール、可塑剤、及び液体の難燃剤の密度であり、lは1からnの自然数である。
なお、ひまし油系ポリオールの密度は、URIC Y-403 0.98g/cm3、URIC H-57 0.98g/cm3、URIC H-31 0.98g/cm3であり、ひまし油系ポリオール以外のポリオールの密度は、1,5-ペンタンジオール 0.994g/cm3、エクセノール1030 0.98g/cm3であり、ポリイソシアネート化合物の密度は、ミリオネートMR-200(ポリメリックMDI)1.236g/cm3、ミリオネートMTL(カルボジイミド変性MDI)1.217g/cm3であり、可塑剤の密度は、リックサイザーCR301 0.97g/cm3であり、難燃剤の密度は、アデカスタブPER 1.30g/cm3である。
【0088】
【0089】
式(2)中、mbはウレタンの質量部(g)、dbはウレタンの密度(g/cm3)(式(1)による計算値)、mfはフィラーの質量部(g)、dfはフィラーの密度〔アルミナ:3.98g/cm3、水酸化アルミニウム:2.43g/cm3、窒化アルミニウム:3.26g/cm3〕であり、kは1からnの自然数であり、nはフィラーの種類の数である。
【0090】
(5)硬度
シリコーン製の型(φ50mm×深さ30mm 6個取り)を用意し、脱泡したウレタン樹脂組成物を60g流し込み、1日室温(23℃)で放置した。その後、温度80℃で2時間加熱し硬化させて試験片(φ50mm×厚み10mm)を得た。得られた試験片を用いて、JIS K7312:1996に準拠してタイプA硬度を測定した。なお、5以上95以下を合格とする。
【0091】
(6)熱伝導率
シリコーン製の型(φ50mm×深さ30mm 6個取り)を用意し、脱泡したウレタン樹脂組成物を60g流し込み、1日室温(23℃)で放置した。その後、温度80℃で2時間加熱し硬化させて試験片(φ50mm×厚み10mm)を得た。ホットディスク法 熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 商品名 TPS 2500 S)を用いて、ISO22007-2に準拠して、前記試験片の熱伝導率を測定した。なお、2.0W/m・K以上を合格とする。
【0092】
(7)耐加水分解性(HAST試験)
シリコーン離型処理を施した厚み0.1mmのポリエステルフィルムを用意し、該ポリエステルフィルムのシリコーン離型処理面上に、厚み0.5mmの枠を置き、脱泡したウレタン樹脂組成物を流し込み、その上から厚み0.1mmのポリエステルフィルムを空気の混入がないように被せ、プレス成形にて温度100℃で30分間加熱し硬化させ、厚み0.5mmのシートを得た。
得られたシートをφ30mmのポンチにて打ち抜いて試験片とした。該試験片をHAST試験用の容器に入れ、そこにイオン交換水5gを入れ、密封した。その密封した容器を温度120℃のオーブンに入れ、試験を行った。初期と暴露後の試験片の様子、及び添加されているイオン交換水の着色性を目視で確認し、下記の基準により判定した。
◎:試験片にひび割れが見られず、イオン交換水がごく薄い黄色に着色した
〇:試験片にひび割れが見られず、イオン交換水が薄い茶色に着色した
△:試験片にひび割れが見られた及び/又はイオン交換水が茶色に着色した
×:試験片にひび割れが見られた及び/又はイオン交換水が焦げた茶色に着色した
【0093】
(8)流動性
ウレタン樹脂組成60gをシリコーン製の型(φ50mm×深さ30mm)に流し込んだ際の状態を目視により観察し、下記の基準により判定した。
〇:ウレタン樹脂組成物が流動し、自力で広がり、表面が平らになった
×:ウレタン樹脂組成物が流動せず、自力で広がらず、入れた状態が保持された
【0094】
(9)硬化性
ウレタン樹脂組成物60gをシリコーン製の型(φ50mm×深さ30mm)に流し込み、室温(23℃)で17時間放置した後のウレタン樹脂組成物の状態を目視により観察し、下記の基準により判定した。
〇:ウレタン樹脂組成物が硬化し、シリコーン型からウレタン樹脂組成物の硬化物を取り出すことができた
△:ウレタン樹脂組成物の硬化が不十分であり、シリコーン型からウレタン樹脂組成物の硬化物を取り出すときに、シリコーン型に該硬化物の一部が付着し残った
×:ウレタン樹脂組成物が硬化せず、シリコーン型にウレタン樹脂組成物付着し取り出せなかった
【0095】
【0096】
(A)成分の水酸基数が1を超え6以下のひまし油系ポリオールと、(B)成分の水酸基数が1のひまし油系ポリオールとからなるひまし油系ポリオールを用いた実施例1及び2のウレタン樹脂組成物は、流動性に優れ、硬化物の熱伝導率が2.0W/m・K以上と高く、耐加水分解性に優れる。また、該硬化物は、硬度が5以上95以下であり適度な硬さを有することが分かる。
一方、ポリオールとして(A)成分のひまし油系ポリオールの代わりに1,5-ペンタンジオールを含む比較例1のウレタン樹脂組成物は、流動性を有さない。また、硬化物の熱伝導率が2.0W/m・K以上と高いものの、硬度が95を超え非常に硬く、HAST試験後の試験片は砕け、イオン交換水が茶色に変色したことから耐加水分解性に劣るといえる。また、ポリオールとして(A)成分のひまし油系ポリオールの代わりにポリエーテルポリオールを含む比較例2のウレタン樹脂組成物は、流動性を有し、硬化物の熱伝導率が2.0W/m・K以上と高いものの、硬度が95を超え非常に硬く、HAST試験後の試験片は砕け、イオン交換水が焦げた茶色と濃く変色したことから、耐加水分解性が比較例1よりも更に劣るといえる。
【0097】
【0098】
(A)成分と(B)成分との質量比[(A):(B)]が同じ場合、反応促進剤を用いると硬度が高くなり(実施例3及び5の比較、実施例4及び6の比較等)、(A)成分に対し(B)成分の割合が増えると硬度が低下することが分かる(実施例5、9、及び11の比較)。
【0099】
【0100】
当量比[NCO/OH]が0.8~1.2の範囲を満たす実施例12~23のウレタン樹脂組成物は、流動性に優れ、その硬化物は、硬度がいずれも5以上95以下であり適度な硬さを有することが分かる。また、実施例12~15よりイソシアナト基の割合が増えると硬度が高くなることが分かる。
また、フィラーの含有量が増えると硬化物の熱伝導率が高くなる傾向があることが分かる(実施例12、及び19~23の比較)。フィラーとして水酸化アルミニウム及びアルミナを併用することで、硬化物の熱伝導率を高めることができる(実施例12及び19の比較)。また、実施例20は、フィラーとしてD50の異なる水酸化アルミニウム及びアルミナを併用しており、該フィラーの含有量が80.0体積%と高いことから、硬化物の熱伝導率が3.34W/m・Kと高いことが分かる。
一方、当量比[NCO/OH]が0.8未満の比較例5及び6のウレタン樹脂組成物は、硬度が10以下と非常に低く、室温で17時間経過しても硬化が不十分であることが分かる。また、当量比[NCO/OH]が1.2を超える比較例7及び8のウレタン樹脂組成物は、硬化物の硬度が95を超え非常に硬いことが分かる。