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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】識別媒体、真正性判定方法、及び物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231205BHJP
   B42D 25/391 20140101ALI20231205BHJP
【FI】
G02B5/30
B42D25/391
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020527435
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024162
(87)【国際公開番号】W WO2020004155
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018125357
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 泰秀
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-134333(JP,A)
【文献】特開2010-196005(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118013(WO,A1)
【文献】特開2007-171310(JP,A)
【文献】特開2012-198316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B42D 25/391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の層と、前記第一の層に直接重なるように設けた第二の層と、を含む識別媒体であって、
前記第一の層は、透明であり、かつ、右円偏光または左円偏光の一方を反射し、それ以外の円偏光を透過させうる層であり、
前記第二の層は、前記第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光の少なくとも一部を反射し、前記第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層であり、かつ、前記第一の層に形成されたパターンを有し、その全域が前記第一の層と重なる位置に形成された層であり、
下記式(1)で定義するSに対する、下記式(2)で定義するSsfの比(Ssf/S)が0.7より大きい識別媒体。
【数1】
(式中、λは波長(nm)を示し、Rf(λ)は第二の層の波長λにおける反射率を示す)。
【数2】
(式中、Rs(λ)は第一の層の波長λにおける反射率を示す)。
【請求項2】
前記第一の層はコレステリック規則性を有する樹脂の層であり、
前記第二の層は、コレステリック規則性を有する樹脂のフレークを含み、
透明または半透明である、請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記第一の層の非偏光入射に対する反射率が、波長領域420nm~650nmにおける、すべての波長において、35%以上50%以下である、請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記第一の層の、前記第二の層を設けた面とは反対側の面に、前記第一の層と重なるように設けた第三の層を含み、
前記第三の層は、前記第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層であり、コレステリック規則性を有する樹脂のフレークを含む層であり、かつ、前記第一の層に形成されたパターンを有し、その全域が前記第一の層と重なる位置に形成された層である、請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項5】
下記式(3)で定義するSに対する、下記式(4)で定義するSsfの比(Ssf/S)が0.7より大きい、請求項4に記載の識別媒体。
【数3】
(式中、Rf(λ)は第三の層の波長λにおける反射率を示す)。
【数4】
【請求項6】
前記第一の層の非偏光入射に対する反射率が、波長領域420nm~650nmにおける、すべての波長において、35%以上50%以下である、請求項4または5に記載の識別媒体。
【請求項7】
前記第二の層の反射光の波長及び前記第三の層の反射光の波長がそれぞれ可視光領域内であり、
前記第二の層の反射光による色相と前記第三の層の反射光による色相との差ΔEが10以上である、請求項4~6のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の識別媒体の真正性判定方法であって、
前記識別媒体の前記第二の層側から照射した光の反射光を、当該第二の層側から観察して、当該第二の層による情報を視認可能か否かを判定する第一の工程と、
前記識別媒体の前記第二の層側の反対側から照射した光の反射光を、前記第二の層側の反対側から観察して、前記第二の層による情報を視認可能か否かを判定する第二の工程と、を含む、真正性判定方法。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか一項に記載の識別媒体の真正性判定方法であって、
前記識別媒体の前記第二の層側から照射した光の反射光を、当該第二の層側から観察して、当該第二の層による情報及び当該第三の層による情報が視認可能か否かを判定する第三の工程と、
前記識別媒体の前記第三の層側から照射した光の反射光を、当該第三の層側から観察して、当該第二の層による情報及び当該第三の層よる情報が視認可能か否かを判定する第四の工程と、を含む、真正性判定方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の識別媒体を備える物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別媒体、識別媒体の真正性判定方法及び識別媒体を備える物品に関する。
【背景技術】
【0002】
物品が正規メーカーから供給された真正品であるか否かを判定するために、物品に、容易に複製できない識別媒体を設けることが一般的に行われている。このような識別媒体としては、円偏光分離機能を有する材料を用いたものが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の識別媒体は、右円偏光及び左円偏光の一方を反射し、それ以外の円偏光を透過させうる光反射層と、光反射層に重なるように設けられた、所定の平均透過率を有する偏光解消吸収層とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6065667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
円偏光分離機能を有する材料は、右円偏光及び左円偏光のうちの一方の円偏光を透過させ、他方の円偏光の一部又は全部を反射させる機能を持つ。このような材料を用いた識別媒体を、右円偏光板を通して観察した場合と、左円偏光板を通して観察した場合とでは、異なる像が現れる。よって、このような識別媒体を設けた物品の真正性の判定においては、右円偏光板及び左円偏光板という2枚の円偏光板を備えるビュワーを用いることが一般的である。
【0006】
従来の識別媒体を用いた真正性の判定では、上述のような2枚の円偏光板を備えるビュワーが必要であるため、コスト高であった。また、一般のユーザーはビュワーの入手が困難であるため、真正性の判定を実施するのは難しく、真正性判定の実施は正規品メーカーや一部の小売店、公共機関等に限られていた。そのため、上述のような特別なビュワーを用いなくても真正性の判定が可能な識別媒体が求められていた。
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みて創案されたもので、特別なビュワーを用いなくても真正性の判定が可能な識別媒体、識別媒体の真正性の判定方法、および識別媒体を備える物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、一方の円偏光を反射し、それ以外の円偏光を透過させうる第一の層と、第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光を反射し、第一の層と重なるように配され、第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる第二の層と、を備える識別媒体において、第一の層の反射率及び第二の層の反射率が所定の関係を満たすことにより、肉眼視により真正性の判定が可能な識別媒体を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕 第一の層と、前記第一の層に重なるように設けた第二の層と、を含む識別媒体であって、
前記第一の層は、右円偏光または左円偏光の一方を反射し、それ以外の円偏光を透過させうる層であり、
前記第二の層は、前記第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光の少なくとも一部を反射し、前記第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層であり、
下記式(1)で定義するSに対する、下記式(2)で定義するSsfの比(Ssf/S)が0.7より大きい識別媒体。
【数1】
(式中、λは波長(nm)を示し、Rf(λ)は第二の層の波長λにおける反射率を示す)
【数2】
(式中、Rs(λ)は第一の層の波長λにおける反射率を示す)。
〔2〕 前記第一の層はコレステリック規則性を有する樹脂の層であり、
前記第二の層は、コレステリック規則性を有する樹脂のフレークを含み、
透明または半透明である、〔1〕に記載の識別媒体。
〔3〕 前記第一の層の、前記第二の層を設けた面とは反対側の面に、前記第一の層と重なるように設けた第三の層を含み、
前記第三の層は、前記第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層であり、コレステリック規則性を有する樹脂のフレークを含む層である、〔1〕または〔2〕に記載の識別媒体。
〔4〕 下記式(3)で定義するSに対する、下記式(4)で定義するSsfの比(Ssf/S)が0.7より大きい、〔3〕に記載の識別媒体。
【数3】
(式中、Rf(λ)は第三の層の波長λにおける反射率を示す)。
【数4】
〔5〕 前記第一の層の非偏光入射に対する反射率が、波長領域420nm~650nmにおける、すべての波長において、35%以上50%以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の識別媒体。
〔6〕 前記第二の層の反射光の波長及び前記第三の層の反射光の波長がそれぞれ可視光領域内であり、
前記第二の層の反射光による色相と前記第三の層の反射光による色相との差ΔEが10以上である、〔3〕~〔5〕のいずれか一項に記載の識別媒体。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の識別媒体の真正性判定方法であって、
前記識別媒体の前記第二の層側から照射した光の反射光を、当該第二の層側から観察して、当該第二の層による情報を視認可能か否かを判定する第一の工程と、
前記識別媒体の前記第二の層側の反対側から照射した光の反射光を、前記第二の層側の反対側から観察して、前記第二の層による情報を視認可能か否かを判定する第二の工程と、を含む、真正性判定方法。
〔8〕 〔3〕~〔6〕のいずれか一項に記載の識別媒体の真正性判定方法であって、
前記識別媒体の前記第二の層側から照射した光の反射光を、当該第二の層側から観察して、当該第二の層による情報及び当該第三の層による情報が視認可能か否かを判定する第三の工程と、
前記識別媒体の前記第三の層側から照射した光の反射光を、当該第三の層側から観察して、当該第二の層による情報及び当該第三の層よる情報が視認可能か否かを判定する第四の工程と、を含む、真正性判定方法。
〔9〕 〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の識別媒体を備える物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、右円偏光板及び左円偏光板を備えるビュワーを用いなくても真正性の判定が可能な識別媒体、識別媒体の真正性の判定方法、および識別媒体を備える物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態1に係る識別媒体を、模式的に示した分解斜視図である。
図2図2は、実施形態1の識別媒体を模式的に示した平面図である。
図3図3は、図2のX1-X1方向における断面を模式的に示した断面図である。
図4図4は、図2のY1-Y1方向における断面を模式的に示した断面図である。
図5図5は、第二の層を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。
図6図6は、識別媒体の第二の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。
図7図7は、基材層(第一の層側)を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。
図8図8は、図4の識別媒体の上下を反転させた状態を模式的に示した断面図である。
図9図9は、識別媒体の第一の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。
図10図10は、実施形態2に係る識別媒体を、模式的に示した分解斜視図である。
図11図11は、実施形態2の識別媒体を第二の層側から模式的に示した平面図である。
図12図12は、実施形態2の識別媒体を第三の層側から模式的に示した平面図である。
図13図13は、図11のX2-X2方向における断面を模式的に示す断面図である。
図14図14は、図11のY2-Y2方向における断面を模式的に示した断面図である。
図15図15は、第二の層を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。
図16図16は、識別媒体の第二の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。
図17図17は、第三の層を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。
図18図18は、図14の識別媒体の上下を反転させた状態を模式的に示した断面図である。
図19図19は、識別媒体の第三の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。
図20図20は、実施例で作製したコレステリック樹脂層A、B及びCの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。
図21図21は、実施例で作製したコレステリック樹脂層D及びEの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。
図22図22は、実施例で作製したコレステリック樹脂層F及びGの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。
図23図23は、実施例で作製したコレステリック樹脂層H及びIの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。
図24図24は、実施例において、コレステリック樹脂層の剥離片(フレーク)を製造する際に用いた剥離片の製造装置を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
また、以下の説明において、「パターン」とは、別に断らない限り、平面的なものの形を指す。このパターンには、例えば文字、数字、図形などを含む。
【0014】
また、以下の説明において、「可視光領域」とは、波長400nm以上780nm以下の波長範囲を示す。
【0015】
また、以下の説明において、フィルム又は層の面内レターデーションは、(nx-ny)×dで表される値を示す。また、フィルム又は層の厚み方向のレターデーションは、{(nx+ny)/2-nz}×dで表される値を示す。ここで、nxは、そのフィルム又は層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を示す。また、nyは、そのフィルム又は層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を示す。さらに、nzは、そのフィルム又は層の厚み方向の屈折率を示す。また、dは、そのフィルム又は層の厚みを示す。これらのレターデーションは、市販の位相差測定装置(例えば、フォトニックラティス社製「WPA-micro」)あるいはセナルモン法を用いて、波長560nmにおいて測定しうる。
【0016】
また、以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル、メタクリル及びこれらの組み合わせを包含する。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート及びこれらの組み合わせを包含する。また、「(チオ)エポキシ」とは、エポキシ、チオエポキシ及びこれらの組み合わせを包含する。また、「イソ(チオ)シアネート」とは、イソシアネート、イソチオシアネート及びこれらの組み合わせを包含する。
【0017】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1に係る識別媒体について、図1図9を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る識別媒体を、模式的に示す分解斜視図である。図2は、実施形態1の識別媒体を模式的に示した平面図である。図3は、図2のX1-X1方向における断面を模式的に示した断面図である。図4は、図2のY1-Y1方向における断面を模式的に示した断面図である。図5は、第二の層を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。図6は、識別媒体の第二の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。図7は、基材層(第一の層側)を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。図8は、図4の識別媒体の上下を反転させた状態を模式的に示した断面図である。図9は、識別媒体の第一の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。
【0018】
(識別媒体の概要)
図1図4に示すように、本実施形態の識別媒体10は、第一の層11と、第一の層11に重なるように設けた第二の層12とを含む。また、本実施形態の識別媒体10は、第一の層11の反射率と第二の層12の反射率とが所定の関係を有する。本実施形態の識別媒体10においては、図3に示すように、第一の層11の下側には粘着層15及び基材層14が設けられている。本願において、ある層と、もう一つのある層とが「重なる」とは、これらの平面的位置関係を識別媒体の厚み方向から観察した場合において、これらの少なくとも一部が、同じ平面的位置にあることをいう。
【0019】
第一の層11は、右円偏光または左円偏光の一方を反射し、それ以外の円偏光を透過させうる層である。第二の層12は、第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光の少なくとも一部を反射し、前記第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層である。本実施形態において、第二の層12は、第一の層11の上面に直接形成された、ABCDという文字パターンの部分である。第二の層12は、その全域が完全に第一の層11と重なる位置に形成されている。
図3は、模式的な図であるので、第二の層12の断面形状は模式的な形状として示している。具体的には、第二の層12として、文字パターンの平面形状及び一定の厚みを有する層の模式的な断面形状を示している。図4及び図8における第二の層12の断面形状、並びに図13図14及び図18における第二の層112及び第三の層113の断面形状も同様である。
【0020】
(第一の層の反射率と第二の層の反射率との関係)
本実施形態の識別媒体10においては、下記式(1)で定義するSに対する、下記式(2)で定義するSsfの比(Ssf/S)が0.7より大きい。
【0021】
【数5】
【0022】
式(1)中、λは波長(nm)を示し、Rf(λ)は第二の層の波長λにおける反射率を示す。式(1)で定義されるS値は、波長400nm~780nmにおける第二の層の反射率Rfの積分値である。
【0023】
【数6】
【0024】
式(2)中、λは波長(nm)を示し、Rs(λ)は第一の層の波長λにおける反射率を示す。式(2)で定義されるSsf値は、波長400nm~780nmにおける、第一の層の反射率Rsと第二の層の反射率Rfとの積の平方根の積分値である。
【0025】
Rs(λ)およびRf(λ)は、波長400nm~780nmの非偏光を対象となる層に入射したときの波長(λ)における反射率であり、当該反射率は、例えば紫外可視分光光度計(UV-Vis 550、日本分光社製)を用いて測定しうる。前記装置により測定した測定値は界面反射を含みうるので、このような場合には、界面反射分を差し引いて反射率Rs(λ)およびRf(λ)を算出する。
【0026】
Ssf/Sが0.7より大きいと、第二の層側から識別媒体を観察したときに第二の層の情報を肉眼視により視認できるが、識別媒体を反転して第一の層側から観察すると、第二の層の情報が視認できない。そのため、Ssf/S値が大きいと、真正性の判定において有効である。Ssf/S値は、好ましくは0.75以上であり、より好ましくは1.0以上である。Ssf/S値が1.0以上であると、視認不可・視認可の判定について、人による差がほとんどなくなり、判定を客観的に行いうる。Ssf/S値の上限値は、特に限定されないが、好ましくは5以下、より好ましくは3以下としうる。このような範囲とすることで、第二の層の文字パターンを良好に視認できる。
【0027】
第一の層の非偏光入射に対する反射率は、波長領域420nm~650nmにおけるすべての波長において、35%以上50%以下であるのが好ましい。前記反射率は、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上である。第一の層の非偏光入射に対する反射率が、上述した範囲であると、第一の層を、広帯域の層とすることができ、これにより、第一の層の反射スペクトルと、第二の層の反射スペクトルとが重なりあう波長域が大きくなり、Ssf/S値を大きくすることができる。第一の層の非偏光入射に対する反射率は、界面反射分を含みうる。
【0028】
(識別媒体の透明性)
本実施形態の識別媒体は、透明又は半透明であるのが好ましい。識別媒体10が透明又は半透明であると、識別媒体の複製や偽造を困難なものとすることができるので好ましい。識別媒体の透明性は、識別媒体を、文字や絵柄等を印刷した物品の上に置き、当該物品に印刷した文字等が識別媒体を通じて視認できる程度の透明性であればよい。識別媒体が透明又は半透明である場合において、識別媒体に入射した非偏光の透過率は、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上としうる。透過率の上限は限定されないが、例えば90%としうる。
【0029】
次に本実施形態の識別媒体10を構成する各層について説明する。
(第一の層)
第一の層11は、右円偏光または左円偏光の一方を反射し、それ以外の円偏光を透過させうる層である。第一の層11としては、コレステリック規則性を有する樹脂の層(以下、「コレステリック樹脂層」ともいう。)を用いうる。コレステリック規則性を有する樹脂層が有するコレステリック規則性とは、一平面上では分子軸が一定の方向に並んでいるが、それに重なる次の平面では分子軸の方向が少し角度をなしてずれ、さらに次の平面ではさらに角度がずれるというように、重なって配列している平面を順次透過して進むに従って当該平面中の分子軸の角度がずれて(ねじれて)いく構造である。即ち、層内の分子がコレステリック規則性を有する場合、分子は、樹脂層内において、多数の分子の層をなす態様で整列する。かかる多数の分子の層の中のある層Aにおいては、分子の軸がある一定の方向となるよう分子が整列し、それに隣接する層Bでは、層Aにおける方向と角度を成してずれた方向に分子が整列し、それにさらに隣接する層Cでは層Bにおける方向と角度を成してさらにずれた方向に分子が整列する。このように、多数の分子の層において、分子の軸の角度が連続的にずれて、分子がねじれる構造が形成される。このように分子軸の方向がねじれてゆく構造は光学的にカイラルな構造となる。
【0030】
コレステリック樹脂層は、通常、円偏光分離機能を有する。すなわち、コレステリック樹脂層は、右円偏光及び左円偏光のうちの一方の円偏光を透過させ、他方の円偏光の一部又は全部を反射させる性質を有する。コレステリック樹脂層における反射は、円偏光を、そのキラリティを維持したまま反射する。
【0031】
円偏光分離機能を発揮する波長は、コレステリック樹脂層におけるらせん構造のピッチに依存する。らせん構造のピッチとは、らせん構造において分子軸の方向が平面を進むに従って少しずつ角度がずれていき、そして再びもとの分子軸方向に戻るまでの平面法線方向の距離である。このらせん構造のピッチの大きさを変えることによって、円偏光分離機能を発揮する波長を変えることができる。
【0032】
コレステリック樹脂層は、例えば、樹脂層形成用の適切な支持体上にコレステリック液晶組成物の膜を設け、前記コレステリック液晶組成物の膜を硬化して得ることができる。得られた層は、そのままコレステリック樹脂層として用いることができる。このコレステリック樹脂層は、右円偏光及び左円偏光の一方を反射しそれ以外の円偏光を透過させうる材料自体の膜からなる層となる。よって、コレステリック樹脂層自体を、第一の層として用いうる。
【0033】
コレステリック樹脂層を形成するためのコレステリック液晶組成物としては、例えば、液晶性化合物を含有し、支持体上に膜を形成した際にコレステリック液晶相を呈しうる組成物を用いることができる。ここで液晶性化合物としては、高分子化合物である液晶性化合物、及び重合性液晶性化合物を用いることができる。高い熱安定性を得る上では、重合性液晶性化合物を用いることが好ましい。かかる重合性液晶性化合物を、コレステリック規則性を呈した状態で重合させることにより、コレステリック液晶組成物の膜を硬化させ、コレステリック規則性を呈したまま硬化した非液晶性の樹脂層を得ることができる。
【0034】
波長領域420nm~650nmにおける反射率が高い好適なコレステリック樹脂層としては、例えば、(i)らせん構造のピッチの大きさを段階的に変化させたコレステリック樹脂層、(ii)らせん構造のピッチの大きさを連続的に変化させたコレステリック樹脂層、などが挙げられる。
【0035】
(i)らせん構造のピッチを段階的に変化させたコレステリック樹脂層は、らせん構造のピッチが異なる複数のコレステリック樹脂層を形成することによって得ることができる。具体例を挙げると、このようなコレステリック樹脂層は、予めらせん構造のピッチが異なる複数のコレステリック樹脂層を作製した後に、各層を粘着剤又は接着剤を介して固着することによって製造しうる。又は、あるコレステリック樹脂層を形成した上に、他のコレステリック樹脂層を順次形成していくことによって、製造しうる。
【0036】
(ii)らせん構造のピッチの大きさを連続的に変化させたコレステリック樹脂層は、その製法によって特に制限されないが、このようなコレステリック樹脂層の製法の好ましい例としては、コレステリック樹脂層を形成するための重合性液晶性化合物を含有するコレステリック液晶組成物を、好ましくは配向膜等の他の層上に塗布して液晶組成物の層を得、次いで1回以上の、光照射及び/又は加温処理により、らせん構造のピッチを連続的に変化させた状態で当該層を硬化する方法が挙げられる。かかる操作は、コレステリック樹脂層の反射帯域を拡張する操作であるので、広帯域化処理と呼ばれる。広帯域化処理を行うことにより、例えば5μm以下という薄い厚みのコレステリック樹脂層であっても、広い反射帯域を実現できるので、好ましい。
このような広帯域化処理に供するコレステリック液晶組成物の好ましい態様としては、下記に詳述するコレステリック液晶組成物(X)を挙げることが出来る。
【0037】
らせん構造のピッチの大きさを連続的に変化させたコレステリック樹脂層は、1層のみを単独で用いてもよいし、複数層を重ねて用いてもよい。例えば、可視光領域のうちの一部の領域において円偏光分離機能を発揮するコレステリック樹脂層と、他の領域において円偏光分離機能を発揮するコレステリック樹脂層とを組み合わせ、可視光領域のうちの広い領域において円偏光分離機能を発揮する態様の第一の樹脂層を用いてもよい。
【0038】
このように、コレステリック樹脂層は、1層のみからなる樹脂層でもよく、2層以上の層からなる樹脂層であってもよい。2層以上の層を備える場合、コレステリック樹脂層は、上記(i)のコレステリック樹脂層を2層以上備えていてもよく、上記(ii)のコレステリック樹脂層を2層以上備えていてもよく、これらの両方を組み合わせて2層以上備えていてもよい。コレステリック樹脂層を構成する層の数は、製造のし易さの観点から、1層~100層であることが好ましく、1層~20層であることがより好ましい。上に述べた広帯域化処理の結果、1層のみで高い反射率を有するコレステリック樹脂層を得た場合、当該層1層のみを用いるだけでも、好ましい態様の識別媒体を得ることができる。
【0039】
コレステリック液晶組成物(X)は、下記式(5)で表される化合物、及び特定の棒状液晶性化合物を含有する。また、式(5)で表される化合物及び棒状液晶性化合物は、それぞれ、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
以下、これら各成分について順次説明する。
【0040】
1-A1-B-A2-R2 (5)
式(5)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンオキサイド基、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基、及びシアノ基からなる群より選択される基である。
【0041】
前記アルキル基及びアルキレンオキサイド基は、置換されていないか、若しくはハロゲン原子で1つ以上置換されていてもよい。さらに、前記ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基、及びシアノ基は、炭素原子数1~2個のアルキル基、及びアルキレンオキサイド基と結合していてもよい。
【0042】
1及びR2として好ましい例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基、及びシアノ基が挙げられる。
【0043】
また、R1及びR2の少なくとも一方は、反応性基であることが好ましい。R1及びR2の少なくとも一方として反応性基を有することにより、前記式(5)で表される化合物が硬化時にコレステリック樹脂層中に固定され、より強固な層を形成することができる。ここで反応性基とは、例えば、カルボキシル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、及びアミノ基を挙げることができる。
【0044】
式(5)において、A1及びA2はそれぞれ独立して1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキセニル基、4,4’-ビフェニレン基、4,4’-ビシクロヘキシレン基、及び2,6-ナフチレン基からなる群より選択される基を表す。前記1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキセニル基、4,4’-ビフェニレン基、4,4’-ビシクロヘキシレン基、及び2,6-ナフチレン基は、置換されていないか、若しくはハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、炭素原子数1個~10個のアルキル基、ハロゲン化アルキル基等の置換基で1つ以上置換されていてもよい。A1及びA2のそれぞれにおいて、2以上の置換基が存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0045】
1及びA2として特に好ましいものとしては、1,4-フェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、及び2,6-ナフチレン基からなる群より選択される基が挙げられる。これらの芳香環骨格は脂環式骨格と比較して比較的剛直であり、棒状液晶性化合物のメソゲンとの親和性が高く、配向均一能がより高くなる。
【0046】
式(5)において、Bは、単結合、-O-、-S-、-S-S-、-CO-、-CS-、-OCO-、-CH2-、-OCH2-、-CH=N-N=CH-、-NHCO-、-OCOO-、-CH2COO-、及び-CH2OCO-からなる群より選択される。
Bとして特に好ましいものとしては、単結合、-OCO-及び-CH=N-N=CH-が挙げられる。
【0047】
式(5)の化合物は、少なくとも一種が液晶性を有することが好ましく、また、キラリティを有することが好ましい。また、コレステリック液晶組成物(X)は、式(5)の化合物として、複数の光学異性体の混合物を含有することが好ましい。例えば、複数種類のエナンチオマー及び/又はジアステレオマーの混合物を含有してもよい。式(5)の化合物の少なくとも一種は、その融点が、50℃~150℃の範囲内であることが好ましい。
【0048】
式(5)の化合物が液晶性を有する場合には、Δnが高いことが好ましい。Δnが高い液晶性化合物を式(5)の化合物として用いることによって、コレステリック液晶組成物(X)としてのΔnを向上させることができ、円偏光を反射可能な波長範囲が広いコレステリック樹脂層を作製することができる。式(5)の化合物の少なくとも一種のΔnは、好ましくは0.18以上、より好ましくは0.22以上である。Δnの上限は、例えば0.50としうる。
【0049】
式(5)の化合物として特に好ましい具体例としては、例えば下記の化合物(A1)~(A10)が挙げられる:
【0050】
【化1】
【0051】
【化2】
【0052】
上記化合物(A3)において、「*」はキラル中心を表す。
【0053】
前記コレステリック液晶組成物(X)は、通常、Δnが0.18以上であって、1分子中に少なくとも2つ以上の反応性基を有する棒状液晶性化合物を含有する。
前記棒状液晶性化合物としては、式(6)で表される化合物を挙げることができる。
3-C3-D3-C5-M-C6-D4-C4-R4 (6)
【0054】
式(6)において、R3及びR4は、反応性基であり、それぞれ独立して、(メタ)アクリル基、(チオ)エポキシ基、オキセタン基、チエタニル基、アジリジニル基、ピロール基、ビニル基、アリル基、フマレート基、シンナモイル基、オキサゾリン基、メルカプト基、イソ(チオ)シアネート基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びアルコキシシリル基からなる群より選択される基を表す。これらの反応性基を有することにより、コレステリック液晶組成物を硬化させた際に、実用に耐えうる膜強度を有した硬化物を得ることができる。ここで、実用に耐えうる膜強度とは、鉛筆硬度(JIS K5400)で、通常HB以上、好ましくはH以上である。膜強度をこのように高くすることにより、傷をつきにくくできるので、ハンドリング性を高めることができる。
【0055】
式(6)において、D3及びD4は、単結合、炭素原子数1個~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、及び炭素原子数1~20個の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンオキサイド基からなる群より選択される基を表す。
【0056】
式(6)において、C3~C6は、単結合、-O-、-S-、-S-S-、-CO-、-CS-、-OCO-、-CH2-、-OCH2-、-CH=N-N=CH-、-NHCO-、-OCOO-、-CH2COO-、及び-CH2OCO-からなる群より選択される基を表す。
【0057】
式(6)において、Mは、メソゲン基を表す。具体的には、Mは、非置換又は置換基を有していてもよい、アゾメチン類、アゾキシ類、フェニル類、ビフェニル類、ターフェニル類、ナフタレン類、アントラセン類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類の群から選択された2~4個の骨格を、-O-、-S-、-S-S-、-CO-、-CS-、-OCO-、-CH2-、-OCH2-、-CH=N-N=CH-、-NHCO-、-OCOO-、-CH2COO-、及び-CH2OCO-等の結合基によって結合された基を表す。
【0058】
前記メソゲン基Mが有しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、-O-R5、-O-C(=O)-R5、-C(=O)-O-R5、-O-C(=O)-O-R5、-NR5-C(=O)-R5、-C(=O)-NR5、または-O-C(=O)-NR5が挙げられる。ここで、R5及びRは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。R及びRがアルキル基である場合、当該アルキル基には、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR6-C(=O)-、-C(=O)-NR6-、-NR6-、または-C(=O)-が介在していてもよい(ただし、-O-および-S-がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、R6は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0059】
前記「置換基を有してもよい炭素数1~10個のアルキル基」における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、炭素原子数1~6個のアルコキシ基、炭素原子数2~8個のアルコキシアルコキシ基、炭素原子数3~15個のアルコキシアルコキシアルコキシ基、炭素原子数2~7個のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2~7個のアルキルカルボニルオキシ基、炭素原子数2~7個のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0060】
また、棒状液晶性化合物は、非対称構造であることが好ましい。ここで非対称構造とは、式(6)において、メソゲン基Mを中心として、R3-C3-D3-C5-と-C6-D4-C4-R4が異なる構造のことをいう。棒状液晶性化合物として非対称構造のものを用いることにより、配向均一性をより高めることができる。
【0061】
棒状液晶性化合物のΔnは、好ましくは0.18以上、より好ましくは0.22以上である。Δn値が0.30以上の棒状液晶性化合物を用いると、紫外線吸収スペクトルの長波長側の吸収端が可視域に及ぶ場合がある。しかしながら、該スペクトルの吸収端が可視域に及ぶ棒状液晶性化合物も、当該スペクトル所望する光学的性能に悪影響を及ぼさない限り、使用可能である。このような高いΔnを有する棒状液晶性化合物を用いることにより、高い光学的性能(例えば、円偏光の選択反射性能)を有するコレステリック樹脂層を得ることができる。Δnの上限は、例えば0.50としうる。
【0062】
棒状液晶性化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物(B1)~(B10)が挙げられる。ただし、棒状液晶性化合物は、下記の化合物に限定されるものではない。
【0063】
【化3】
【0064】
【化4】
【0065】
コレステリック液晶組成物(X)において、(式(5)の化合物の合計重量)/(棒状液晶性化合物の合計重量)の重量比は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、特に好ましくは0.15以上であり、好ましくは1以下、より好ましくは0.65以下、特に好ましくは0.45以下である。前記の重量比を前記範囲の下限値以上にすることにより、配向均一性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、配向均一性を高くでき、液晶相の安定性を高くでき、さらには液晶組成物としてのΔnを高くして所望の光学的性能(例えば、円偏光を選択的に反射させる特性)を安定して得ることができる。ここで、合計重量とは、1種類を用いた場合にはその重量を示し、2種類以上を用いた場合には合計の重量を示す。
【0066】
コレステリック液晶組成物(X)においては、式(5)の化合物の分子量が600未満であることが好ましく、棒状液晶性化合物の分子量が600以上であることが好ましい。これにより、式(5)の化合物がそれよりも分子量の大きい棒状液晶性化合物の隙間に入り込むことができ、配向均一性を向上させることができる。
【0067】
コレステリック液晶組成物(X)等のコレステリック液晶組成物は、硬化後の膜強度向上及び耐久性向上のために、任意に架橋剤を含有しうる。架橋剤としては、コレステリック液晶組成物の膜の硬化時に同時に反応したり、硬化後に熱処理を行って反応を促進したり、又は湿気により自然に反応が進行して、コレステリック樹脂層の架橋密度を高めることができ、かつ配向均一性を悪化させないものを適宜選択し用いることができる。そのため、例えば、紫外線、熱、湿気等で硬化する任意の架橋剤を好適に使用できる。架橋剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート型イソシアネート、ビウレット型イソシアネート、アダクト型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン等のアルコキシシラン化合物;が挙げられる。また、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いてもよい。触媒を用いることにより、コレステリック樹脂層の膜強度及び耐久性向上に加えて、生産性を向上させることができる。
【0068】
架橋剤の量は、コレステリック液晶組成物の膜を硬化して得られる硬化膜中における架橋剤の量が0.1重量%~15重量%となるようにすることが好ましい。架橋剤の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、架橋密度を効果的に高めることができる。また、上限値以下にすることにより、コレステリック液晶組成物の膜の安定性を高めることができる。
【0069】
コレステリック液晶組成物は、任意に光開始剤を含有しうる。光開始剤としては、例えば、紫外線又は可視光線によってラジカル又は酸を発生させる公知の化合物が使用できる。光開始剤の具体例としては、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾフェノン、ビアセチル、アセトフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルイソブチルエーテル、テトラメチルチウラムモノ(ジ)スルフィド、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、2,2-ジエトキシアセトフェノン、β-アイオノン、β-ブロモスチレン、ジアゾアミノベンゼン、α-アミルシンナックアルデヒド、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェノン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-プロピルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ジフェニルスルフィド、ビス(2,6-メトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、アントラセンベンゾフェノン、α-クロロアントラキノン、ジフェニルジスルフィド、ヘキサクロルブタジエン、ペンタクロルブタジエン、オクタクロロブテン、1-クロルメチルナフタリン、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]や1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン1-(o-アセチルオキシム)などのカルバゾールオキシム化合物、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、3-メチル-2-ブチニルテトラメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル-(p-フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて公知の光増感剤又は重合促進剤としての三級アミン化合物を用いて、硬化性をコントロールしてもよい。
【0070】
光開始剤の量は、コレステリック液晶組成物中0.03重量%~7重量%であることが好ましい。光開始剤の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合度を高くできるので、コレステリック樹脂層の膜強度を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、液晶材料の配向を良好にできるので、コレステリック液晶組成物の液晶相を安定にできる。
【0071】
コレステリック液晶組成物は、任意に界面活性剤を含有しうる。界面活性剤としては、例えば、配向を阻害しないものを適宜選択して使用しうる。このような界面活性剤としては、例えば、疎水基部分にシロキサン又はフッ化アルキル基を含有するノニオン系界面活性剤が好適に挙げられる。中でも、1分子中に2個以上の疎水基部分を持つオリゴマーが特に好適である。これらの界面活性剤の具体例としては、OMNOVA社のPolyFoxのPF-151N、PF-636、PF-6320、PF-656、PF-6520、PF-3320、PF-651、PF-652;ネオス社のフタージェントのFTX-209F、FTX-208G、FTX-204D;セイミケミカル社のサーフロンのKH-40;等を用いることができる。また、界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
界面活性剤の量は、コレステリック液晶組成物を硬化して得られる硬化膜中の界面活性剤の量が0.05重量%~3重量%となるようにすることが好ましい。界面活性剤の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、空気界面における配向規制力を高くできるので、配向欠陥を防止できる。また、上限値以下にすることにより、過剰の界面活性剤が液晶分子間に入り込むことによる配向均一性の低下を防止できる。
【0073】
コレステリック液晶組成物は、任意にカイラル剤を含有しうる。通常、コレステリック樹脂層のねじれ方向は、使用するカイラル剤の種類及び構造により適宜選択できる。ねじれを右方向とする場合には、右旋性を付与するカイラル剤を用い、ねじれ方向を左方向とする場合には、左旋性を付与するカイラル剤を用いることで、実現できる。カイラル剤の具体例としては、特開2005-289881号公報、特開2004-115414号公報、特開2003-66214号公報、特開2003-313187号公報、特開2003-342219号公報、特開2000-290315号公報、特開平6-072962号公報、米国特許第6468444号明細書、国際公開第98/00428号、特開2007-176870号公報、等に掲載されるものを適宜使用することができ、例えばBASF社パリオカラーのLC756として入手できる。また、カイラル剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
カイラル剤の量は、所望する光学的性能を低下させない範囲で任意に設定しうる。カイラル剤の具体的な量は、コレステリック液晶組成物中で、通常1重量%~60重量%である。
【0075】
コレステリック液晶組成物は、必要に応じてさらに他の任意成分を含有しうる。この任意成分としては、例えば、溶媒、ポットライフ向上のための重合禁止剤、耐久性向上のための酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を挙げることができる。また、これらの任意成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの任意成分の量は、所望する光学的性能を低下させない範囲で任意に設定しうる。
【0076】
コレステリック液晶組成物の製造方法は、特に限定されず、上記各成分を混合することにより製造することができる。
【0077】
コレステリック樹脂層は、例えば、透明樹脂等のフィルムからなる支持体の表面上に、必要に応じてコロナ放電処理及びラビング処理等の処理を施し、さらに必要に応じて配向膜を設け、さらにこの面上にコレステリック液晶組成物の膜を設け、さらに必要に応じて配向処理及び/又は硬化の処理を行うことにより、得ることができる。
【0078】
コレステリック樹脂層の形成に用いうる支持体としては、例えば、脂環式オレフィンポリマー、ポリエチレンやポリプロピレンなどの鎖状オレフィンポリマー、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、変性アクリルポリマー、エポキシ樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂などの合成樹脂からなる単層又は積層のフィルムが挙げられる。
【0079】
配向膜は、例えば、支持体表面上に、必要に応じてコロナ放電処理等を施した後、配向膜の材料を溶媒に溶解させた溶液を塗布し、乾燥させ、その後ラビング処理を施すことにより形成することができる。
配向膜の材料としては、例えば、セルロース、シランカップリング剤、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシアクリレート、シラノールオリゴマー、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリオキサゾール、環化ポリイソプレンなどを用いることができる。
【0080】
支持体上又は配向膜上へのコレステリック液晶組成物の塗布は、公知の方法、例えば押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法等により実施することができる。
【0081】
配向処理は、例えばコレステリック液晶組成物の膜を50℃~150℃で0.5分間~10分間加温することにより行うことができる。配向処理を施すことにより、膜中のコレステリック液晶組成物を良好に配向させることができる。
【0082】
硬化の処理は、1回以上の光照射と加温処理との組み合わせにより行うことができる。
加温条件は、例えば、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは140℃以下の温度において、通常1秒以上、好ましくは5秒以上、また、通常3分以下、好ましくは120秒以下の時間としうる。
また、光照射に用いる光とは、可視光のみならず紫外線及びその他の電磁波をも含む。光照射は、例えば、波長200nm~500nmの光を0.01秒~3分照射することにより行うことができる。
【0083】
ここで、0.01mJ/cm~50mJ/cm2の微弱な紫外線照射と加温とを複数回交互に繰り返すことにより、らせん構造のピッチの大きさを連続的に大きく変化させた、反射帯域の広い円偏光分離機能を得ることができる。さらに、上記の微弱な紫外線照射等による反射帯域の拡張を行った後に、50mJ/cm~10,000mJ/cm2といった比較的強い紫外線を照射し、液晶性化合物を完全に重合させることにより、コレステリック樹脂層を得ることができる。上記の反射帯域の拡張及び強い紫外線の照射は、空気下で行ってもよく、又はその工程の一部又は全部を、酸素濃度を制御した雰囲気(例えば、窒素雰囲気下)中で行ってもよい。
【0084】
配向膜等の他の層上へのコレステリック液晶組成物の塗布及び硬化の工程は、1回に限られず、塗布及び硬化を複数回繰り返して2層以上のコレステリック樹脂層を形成してもよい。ただし、コレステリック液晶組成物(X)等のコレステリック液晶組成物を用いることにより、1回のみのコレステリック液晶組成物の塗布及び硬化によっても、良好に配向したΔnが0.18以上の棒状液晶性化合物を含み、かつ5μm以上といった厚みのコレステリック樹脂層を容易に形成することができる。
【0085】
このようにして得られたコレステリック樹脂層は、支持体及び配向膜と共にそのまま第一の層として用いうる。また、必要に応じて支持体等を剥離しコレステリック樹脂層のみを転写して第一の層として用いうる。
【0086】
第一の層の厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下である。第一の層の厚みを下限値以上とすることにより、第一の層側から第二の層を観察したときに第二の層の情報を視認しにくくすることができ、これにより、真正性の識別をより明確にすることができる。第一の層の厚みを上限値以下とすることにより、透明性を高めることができる。ここで、第一の層の厚みは、当該第一の層が2層以上の層である場合は、各層の厚みの合計を指し、第一の層が1層である場合にはその厚みを指す。支持体を用いる場合は、支持体の面内レターデーションは、好ましくは20nm以下、より好ましくは、10nm以下であり、理想的に0nmである。レターデーションを上限値以下にすることにより、第一の層および第二の層で生成された円偏光が保持され、真正性の判別をより明確にすることができる。
【0087】
(第二の層)
本発明において第二の層は第一の層に直接(即ち、接した状態で)または間接的(即ち、他の層を介する等して離隔して)に重なるように設けた層である。本実施形態において、第二の層12は、第一の層に直接重なるように設けた層である。第二の層は、第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光の少なくとも一部を反射し、第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層である。つまり第二の層12は第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を反射しないか、またはほとんど反射しない層である。
【0088】
第二の層12は、コレステリック規則性を有する樹脂(「コレステリック樹脂」ともいう)のフレークを含む層であるのが好ましい。第一の層11として好適なコレステリック樹脂層は、破砕物とした場合においても、可視光領域の少なくとも一部において右円偏光及び左円偏光の一方を反射しそれ以外の円偏光を透過させうるので、当該破砕物を第二の層12のフレークとして用いるのが好ましい。
【0089】
フレークの材料となるコレステリック樹脂は、真正性の識別が明確になり、且つ、デザインの自由度が高いという観点から、なるべく高い反射率を有し、その結果、反射すべき波長範囲における反射率が高いものが好ましい。
【0090】
コレステリック樹脂のフレークは、例えば特許第6142714号公報に記載の剥離片の製造方法等により製造することができる。
【0091】
コレステリック樹脂のフレークとともに、偏光特性を有さない材料のフレークを用いうる。偏光特性を有さないフレークとしては、例えば、カーボンブラック、元素周期表の第4周期の3族~11族に属する金属の酸化物、窒化物、および窒酸化物から選ばれる少なくとも1種以上のフレークが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0092】
第二の層12に含まれるフレーク12Fの粒径は、装飾性を得る上で1μm以上であることが好ましく、中でも、第二の層12の膜厚以上であることがより好ましい(この場合、フレークの粒径とは、当該フレークと同面積の円の直径をいう。即ち、フレークの平面的な像を観察し、当該像と同面積の円の直径を計算し、かかる直径を、フレークの粒径とする。)。これにより、フレークにおいて厚み方向の寸法よりも面内方向の寸法が大きくなるので、各フレークを、フレークの面内方向と第二の層の面内方向とが平行又は鋭角をなすように配向させやすい。そのため、第二の層に入射する光をフレークが効果的に受光できるようになるので、第二の層の円偏光分離機能を高めることができる。また、フィルムの成形性や印刷適性を得るとの観点から、フレークの粒径は500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0093】
本実施形態において、第二の層12は、例えば、コレステリック樹脂層の粉砕物からなるフレーク12F、溶媒、及びバインダー、並びに必要に応じて任意の成分を含むインキを支持体上に塗布し、乾燥させることにより製造しうる。
【0094】
溶媒としては、例えば水等の無機溶媒を用いてもよいが、通常は有機溶媒を用いる。有機溶媒の例を挙げると、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、およびエーテル類などの有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が好ましい。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0095】
溶媒の量は、コレステリック樹脂層の粉砕物100重量部に対して、通常40重量部以上、好ましくは60重量部以上、より好ましくは80重量部以上であり、通常1000重量部以下、好ましくは800重量部以下、より好ましくは600重量部以下である。溶媒の量を前記範囲とすることで、インキの塗布性を良好にできる。
【0096】
バインダーとしては、通常、重合体を用いる。その重合体の例としては、ポリエステル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリビニル系ポリマーなどが挙げられる。バインダーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0097】
バインダーの量は、コレステリック樹脂層の粉砕物100重量部に対して、通常20重量部以上、好ましくは40重量部以上、より好ましくは60重量部以上であり、通常1000重量部以下、好ましくは800重量部以下、より好ましくは600重量部以下である。バインダーの量を前記範囲とすることで、インキの塗布性を良好にできる。また、第二の層内に、コレステリック樹脂層の粉砕物を安定して固定することができる。
【0098】
インキが含みうる任意の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブルーイング剤等が挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0099】
本実施形態では、第一の層11に、前記のインキを文字のパターンの形状に印刷し、乾燥させることにより、コレステリック樹脂層の粉砕物からなるフレーク12Fを含む層として第二の層12が得られる。
【0100】
前記のインキは、バインダーとしての重合体の代わりに、又は重合体と組み合わせて、その重合体の単量体を含みうる。この場合、インキを支持体に塗布し、乾燥させた後で単量体を重合させることにより、コレステリック樹脂層の粉砕物からなるフレークとバインダーとを含む第二の層を製造できる。ただし、単量体を含む場合は、インキは、重合開始剤を含むことが好ましい。
【0101】
(粘着層)
第一の層11の図3に示す下側面には、粘着層15が設けられている。粘着層15は、第一の層11と基材層14とを接合する層である。本発明において、粘着層は任意の層である。粘着層15としては、例えば、粘着性を発現するポリマー(以下において単に「主ポリマー」という場合がある。)を含む粘着性組成物の層を用いうる。このような粘着性組成物としては特許第6067667号公報に記載の粘着性組成物を用いうる。
【0102】
粘着層15の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。粘着層の厚みを前記下限値以上にすることにより、高い接着強度が得られ、粘着層の厚みを前記上限値以下にすることにより、透過率等の光学性能を良好とすることができる。
【0103】
粘着層15の、波長450nm~650nmにおける可視光透過率は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。
【0104】
(基材層)
本実施形態において、基材層14は粘着層15を介して第一の層11と接着されている層である。基材層14としては、例えば、塩化ビニルシート、アクリル樹脂シート等のプラスチック製のフィルム及びシート等が挙げられる。
【0105】
基材層14の厚みは、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上であり、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1000μm以下である。基材層の厚みを前記下限値以上にすることにより、識別媒体の強度を高めることができ、基材層の厚みを前記上限値以下にすることにより、透過率等の光学性能を良好なものとすることができる。
【0106】
基材層14の可視光透過率は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。第一の層11の円偏光状態が保たれるという観点から、基材層14の面内方向のレターデーションは、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、理想的には0である。
【0107】
(識別媒体を備える物品)
識別媒体10を備える物品としては、パスポート等の冊子、衣料品等の商品のタグ、医薬品および化粧品などの商品の包装等が挙げられる。
【0108】
(真正性判定方法)
本実施形態の識別媒体10の真正性判定方法は、識別媒体10の第二の層12側から照射した光の反射光を、当該第二の層12側から観察して、当該第二の層12による情報を視認可能か否かを判定する第一の工程と、識別媒体10の第二の層側の反対側から照射した光の反射光を、第二の層側の反対側から観察して、第二の層12による情報を視認可能か否かを判定する第二の工程と、を含む。識別媒体10における「第二の層側の反対側」は、第一の層11側である。他の例として、識別媒体が、(第一の層)/(第二の層)/(任意の構成要素である層X)の層構成を有する場合、識別媒体の「第二の層側の反対側」は、識別媒体の、層Xの側である。
【0109】
識別媒体10の真正性判定方法について、図4図9を参照しつつ具体的に説明する。下記説明において、第一の層11が、右円偏光(右円偏光及び左円偏光の一方に相当。)を反射し、それ以外の円偏光を透過させる例を示して説明する。この例では、第二の層12は右円偏光(第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光)の少なくとも一部を反射し、左円偏光を透過する(左円偏光を反射しない)層である。
【0110】
本実施形態の識別媒体10を、パスポート等の冊子20(物品)の一部に用いる例について説明する。図5及び図7に示すように、冊子のn枚目のリーフ21の一部に識別媒体10を設ける。識別媒体10を、第二の層12が冊子の「n-1」枚目のリーフ23と対面する側に配し、基材層14が冊子の「n+1」枚目のリーフ22と対面する側となるように配置する。冊子のn枚目のリーフ21(識別媒体を備える部分)の、第二の層12側の面21Aは、冊子の「n-1」枚目のリーフ23に重ねられる面であり、冊子のn枚目のリーフ21の基材層14側の面21Bは、冊子の「n+1」枚目のリーフ22に重ねられる面である。
【0111】
図5及び図7に示すように、冊子の「n-1」枚目のリーフ23には、識別媒体10が重ねられる部分23Aに「Genuine」との文字情報が印刷されている。また、冊子の「n+1」枚目のリーフ22には、識別媒体10が重ねられる部分22Aに「SECURITY」との文字情報が印刷されている。
【0112】
本実施形態では、第一の工程において、第二の層12が上になるように識別媒体10を冊子の「n+1」枚目のリーフ22に重ねて、第二の層12側から、識別媒体10を観察したときに、第二の層12による情報を視認可能か否かを判定する。
【0113】
本実施形態では、第二の工程において、第一の層11が上になるように、識別媒体10を冊子の「n-1」枚目のリーフ23に重ねて、第一の層11側から、第二の層12による情報を視認可能か否かを判定する。
【0114】
第一の工程において、第二の層12による情報が視認可能で、かつ第二の工程で第二の層による情報が視認できない場合は、識別媒体10を備える物品(冊子)は真正なものであると判断できる。
【0115】
第一の工程及び第二の工程を行うとともに、識別媒体10の透明性(透明、半透明または不透明)を確認する工程を行いうる。透明性を確認する工程は、以下のようにして行うことができる。
識別媒体10が重ねられる下地(本実施形態では「n+1」枚目のリーフ22と「n-1」枚目のリーフ23)に、あらかじめ、文字や絵柄等の情報を印刷しておき、識別媒体10を通じて下地に印刷された情報を観察し、当該情報が目視可能であれば識別媒体10が透明または半透明であることが確認可能である。本実施形態では、冊子の「n+1」枚目のリーフ22の「SECURITY」との文字情報と、冊子の「n-1」枚目のリーフ23の「Genuine」との文字情報が目視可能であれば識別媒体10が透明または半透明であることが確認可能である。
【0116】
(本実施形態の作用・効果)
本実施形態の識別媒体10による真正性の識別の作用を説明する。実際の識別媒体においては、下記に説明する以外にも、様々な吸収及び反射が発生しうるが、以下の説明では、作用の説明の便宜上、主な光の経路を概略的に説明する。図6及び図9においては、粘着層及び基材層の図示は省略し、且つ、各層はそれぞれ離して示す。
【0117】
図5および図6に示すように、第二の層12が上になるように識別媒体10を下地22(冊子の「n+1」枚目のリーフ22)の上に重ねて、第二の層12側から、肉眼視により観察した場合を説明する。
【0118】
第二の層12は右円偏光の少なくとも一部を反射し、左円偏光を反射しないかほとんど反射しない層である。したがって、図6に示すように、自然光等の非偏光A1のうち、右円偏光の一部が第二の層12で反射し、後方散乱光A2Rとして視認されるので、第二の層12の情報が視認できる。
非偏光A1のうち、左円偏光A1Lと右円偏光A1Rの一部は第二の層12を透過する。第二の層12を透過した右円偏光A1Rは第一の層11で右円偏光A3Rとして反射し、第二の層12を透過した左円偏光A1Lは第一の層11を透過する。第一の層11を透過した左円偏光A1Lは下地22で非偏光A4として反射する。非偏光A4の一部は第一の層11で右円偏光A5Rとして反射する。下地22で反射した非偏光A4のうち左円偏光A4は、第一の層11および第二の層を順に透過し識別媒体10の外部に出射する。
【0119】
次に、図7および図8に示すように、第一の層11が上になるように識別媒体10を下地23(冊子の「n-1」枚目のリーフ)の上に重ねて、第一の層11側から、肉眼視により観察した場合を説明する。
【0120】
第一の層11は右円偏光を反射し、左円偏光を透過させうる層である。したがって、図9に示すように、自然光等の非偏光A1のうち、右円偏光は第一の層11で正反射光A2Rとして反射し、左円偏光A1Lは第一の層11を透過する。第一の層11を透過した左円偏光A1Lは第二の層12を透過し、下地23において非偏光A4として反射する。非偏光A4のうち右円偏光は第二の層12において後方散乱光A5Rとして反射するが、該反射光は下地23の方向に進むので、上方から第二の層12の情報を視認することができない。非偏光A4のうち左円偏光は第二の層12および第一の層11を順に透過し、識別媒体10の外部に出射する。
【0121】
このように、本実施形態の識別媒体10を備える物品においては、第二の層12側から観察した場合に第二の層12の情報を視認でき、第一の層11側から観察した場合に第二の層12の情報を視認できないので、当該識別媒体10を備える物品は真正なものであると判断することができる。
【0122】
本実施形態によれば、識別媒体10が真正なものであるか否かを肉眼視により識別できるので、特別なビュワーを用いなくても真正性の判定が可能である。したがって、本実施形態によれば、特別なビュワーを用いなくても真正性の判定が可能な識別媒体、識別媒体の真正性の判定方法、および識別媒体を備える物品を提供することができる。
【0123】
[実施形態2]
以下、本発明の実施形態2に係る識別媒体について、図10図19を参照しつつ説明する。
図10は、実施形態2に係る識別媒体を、模式的に示した分解斜視図である。図11は、実施形態2の識別媒体を第二の層側から模式的に示した平面図である。図12は、実施形態2の識別媒体を第三の層側から模式的に示した平面図である。図13は、図11のX2-X2方向における断面を模式的に示す断面図である。図14は、図11のY2-Y2方向における断面を模式的に示した断面図である。図15は、第二の層を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。図16は、識別媒体の第二の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。図17は、第三の層を上に配した状態の物品を模式的に示した斜視図である。図18は、図14の識別媒体の上下を反転させた状態を模式的に示した断面図である。図19は、識別媒体の第三の層側から光を照射した場合の光の経路を模式的に示す分解断面図である。
【0124】
本実施形態の識別媒体100は、第一の層の、第二の層を設けた面とは反対側の面に、第一の層と重なるように設けた第三の層を含む点で実施形態1と相違する。
本実施形態の識別媒体100は、実施形態1の識別媒体10の基材層に第三の層を設けた態様である。つまり、本実施形態の識別媒体100の第一の層111、第二の層112、粘着層115、基材層114は、それぞれ実施形態1の識別媒体10の第一の層11、第二の層12、粘着層15、基材層14に対応する。以下の説明においては実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0125】
(識別媒体100の概要)
図10図13に示すように、本実施形態の識別媒体100は、第一の層111と、第一の層111に重なるように設けた第二の層112と、を含む。また、識別媒体100は、図13に示すように、第一の層111の下側面(第二の層112を設けた面とは反対側の面)に、粘着層115、基材層114および第三の層113が設けられている。以下第三の層113について説明する。
【0126】
(第三の層)
本実施形態において、第三の層113は第一の層111の下側面に、粘着層115および基材層114を介して(間接的に)設けた層である。第三の層は第一の層の第二の層を設けた面とは反対側の面に、直接重なるように設けた構成としうる。
【0127】
第三の層113は、第一の層が反射する円偏光と反対の回転方向の円偏光を透過させうる層、つまり当該円偏光を反射しないか、またはほとんど反射しない層である。本実施形態において、第三の層113は、基材層114の(図10及び図13における)下面に直接形成された、EFGという文字パターンの部分である(図12参照)。第三の層113は、その全域が完全に第一の層111と重なる位置に形成されている。
【0128】
(第一の層の反射率と第三の層の反射率との関係)
本実施形態の識別媒体100においては、式(3)で定義するSに対する、下記式(4)で定義するSsfの比(Ssf/S)が0.7より大きい。
【0129】
【数7】
【0130】
式(3)中、Rf(λ)は第三の層の波長(λ)における反射率を示す。式(3)で定義されるS値は、第三の層の反射率Rfの積分値である。
【0131】
【数8】
【0132】
式(4)で定義されるSsf値は、波長400nm~780nmにおける、第一の層の反射率Rsと第三の層の反射率Rfとの積の平方根の積分値である。
【0133】
Rs(λ)およびRf(λ)は、波長400nm~780nmの非偏光を対象となる層に入射したときの波長(λ)における反射率であり、当該反射率は、例えば紫外可視分光光度計(UV-Vis 550、日本分光社製)を用いて測定しうる。前記装置により測定した測定値は界面反射を含みうるので、このような場合には、界面反射分を差し引いて反射率Rs(λ)およびRf(λ)を算出する。
【0134】
Ssf/Sが0.7より大きいと、第三の層側から識別媒体を観察したときに第三の層の情報を肉眼視により視認できるが、識別媒体を反転して第二の層側から観察すると、第三の層の情報が視認できないので、真正性の判定において有効である。Ssf/S値は、好ましくは0.75以上であり、より好ましくは1.0以上である。Ssf/S値が1.0以上であると、視認不可・視認可の判定について、人による差がほとんどなくなり、判定を客観的に行いうる。Ssf/S値の上限値は、特に限定されないが、好ましくは5以下、より好ましくは3以下としうる。このような範囲とすることで、第三の層の文字パターンを良好に視認できる。
【0135】
第三の層113は、第二の層112に含まれるフレーク112Fと同様に、コレステリック規則性を有する樹脂(「コレステリック樹脂」ともいう)のフレークを含む層であるのが好ましい。当該フレークについては実施形態1の第二の層12で説明したフレークを用いうる。
【0136】
(第二の層の反射光と第三の層の反射光との関係)
第二の層の反射光の波長及び第三の層の反射光の波長がそれぞれ可視光領域内であり、第二の層の反射光による色相と第三の層の反射光による色相の差ΔEが、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、特に好ましくは50以上である。ΔEが下限値以上であると、第二の層と第三の層の反射色が相違することを目視により容易に確認することができ、識別媒体の複製や偽造をより困難なものとすることができ、また、明確な色の違いによるデザイン性を付与することが可能となるので、好ましい。ΔEの上限は、例えば140としうる。
色相の差ΔEは、色差計を用いて定量的に評価し得る。定量的に評価する際の表色系としては、任意の系を使用でき、例えば、XYZ表色系やL表色系などを使用できる。
【0137】
本実施形態において、第三の層113は、例えば、コレステリック樹脂層の粉砕物からなるフレーク113F、溶媒、及びバインダー、並びに必要に応じて任意の成分を含むインキを支持体上に塗布し、乾燥させることにより製造しうる。第三の層113を製造するインキとしては、第二の層112(実施形態1の第二の層12)を製造するインキを用いうる。
【0138】
本実施形態では、基材層114(実施形態1の識別媒体の基材層14)に、前記のインキを文字のパターンの形状に印刷し、乾燥させることにより、コレステリック樹脂層の粉砕物からなるフレーク113Fを含む層として第三の層113が得られる。
【0139】
(真正性判定の方法)
本実施形態の識別媒体100の真正性判定の方法は、識別媒体100の第二の層112側から照射した光の反射光を、当該第二の層112側から観察して、当該第二の層112による情報及び第三の層による情報113を視認可能か否かを判定する第三の工程と、識別媒体100の第三の層113側から照射した光の反射光を、当該第三の層113側から観察して、第二の層112による情報及び第三の層113による情報を視認可能か否かを判定する第四の工程と、を含む。
【0140】
識別媒体100の真正性判定方法について、図14図19を参照しつつ具体的に説明する。下記説明において、第一の層111が、右円偏光(右円偏光及び左円偏光の一方に相当。)を反射し、それ以外の円偏光を透過させる例を示して説明する。この例では、第二の層112は右円偏光(第一の層が反射する円偏光と同一の回転方向の円偏光)の少なくとも一部を反射し、左円偏光を透過し得る層(左円偏光を反射しないかほとんど反射しない層)である。また、第三の層113は左円偏光を透過し得る層(左円偏光を反射しないかほとんど反射しない層)である。
【0141】
本実施形態の識別媒体100を、実施形態1と同様に、パスポート等の冊子200の一部に備える例について説明する。図15及び図17に示すように、冊子のn枚目のリーフ201の一部に識別媒体100を設ける。識別媒体100を、第二の層112が冊子の「n-1」枚目のリーフ203と対面する側に配し、第三の層113が冊子の「n+1」枚目のリーフ202と対面する側となるように配置する。冊子のn枚目のリーフ201(識別媒体を備える部分)の、第二の層112側の面201Aは、冊子の「n-1」枚目のリーフ203に重ねられる面であり、冊子のn枚目のリーフ201の第三の層113側の面201Bは、冊子の「n+1」枚目のリーフ202に重ねられる面である。
【0142】
図15及び図17に示すように、冊子の「n-1」枚目のリーフ203には、識別媒体100が重ねられる部分203Aに「Genuine」との文字情報が印刷されている。また、冊子の「n+1」枚目のリーフ202には、識別媒体100が重ねられる部分202Aに「SECURITY」との文字情報が印刷されている。
【0143】
本実施形態では、第三の工程において、第二の層112が上になるように識別媒体100を冊子の「n+1」枚目のリーフ202に重ねて、第二の層112側から、識別媒体100を観察したときに、第二の層112による情報及び第三の層113による情報を視認可能か否かを判定する。
【0144】
本実施形態では、第四の工程において、第三の層113が上になるように、識別媒体10を冊子の「n-1」枚目のリーフ203に重ねて、第三の層113側から、第二の層112による情報及び第三の層113による情報を視認可能か否かを判定する。
【0145】
第三の工程において、第二の層112による情報のみが視認可能で、かつ第四の工程で第三の層113による情報が視認可能である場合は、識別媒体100を備える物品(冊子)は真正なものであると判断できる。
【0146】
本実施形態でも、第三の工程及び第四の工程を行うとともに、識別媒体100の透明性(透明、半透明または不透明)を確認する工程を行いうる。透明性を確認する工程は、実施形態1と同じ方法により行うことができる。
【0147】
(本実施形態の作用・効果)
本実施形態の識別媒体100による真正性の識別の作用を説明する。実際の識別媒体においては、下記に説明する以外にも、様々な吸収及び反射が発生しうるが、以下の説明では、作用の説明の便宜上、主な光の経路を概略的に説明する。図16及び図19においては、粘着層及び基材層の図示は省略し、且つ、各層はそれぞれ離して示す。
【0148】
図15及び図16に示すように、第二の層112が上になるように識別媒体100を下地202(冊子の「n+1」枚目のリーフ)の上に重ねて、第二の層112側から、肉眼視により観察した場合を説明する。
【0149】
第二の層112は右円偏光の少なくとも一部を反射し、左円偏光を反射しないか、ほとんど反射しない層である。したがって、図16に示すように、自然光等の非偏光A1のうち、右円偏光の一部が第二の層12で反射し、後方散乱光A2Rとして視認されるので、第二の層12の情報が視認できる。
非偏光A1のうち、左円偏光A1Lと右円偏光A1Rの一部は第二の層112を透過する。第二の層112を透過した右円偏光A1Rは第一の層111で右円偏光A3Rとして反射し、第二の層112を透過した左円偏光A1Lは第一の層111及び第三の層113を透過する。第一の層111及び第三の層113を透過した左円偏光A1Lは下地202で非偏光A4として反射する。非偏光A4の一部は第三の層114で右円偏光A5Rとして反射する。下地202で反射した非偏光A4のうち左円偏光A4は、第三の層113、第一の層111および第二の層112を順に透過し識別媒体100の外部に出射する。
【0150】
次に、図18及び図19に示すように、第三の層113が上になるように識別媒体100を下地203(冊子の「n-1」枚目のリーフ)の上に重ねて、第三の層113側から、肉眼視により観察した場合を説明する。
【0151】
第三の層113は左円偏光を反射しないかほとんど反射しない層である。したがって、図19に示すように、自然光等の非偏光A1のうち、右円偏光は一部が第三の層113で反射し、後方散乱光A2Rとして視認されるので、第二の層12の情報が視認できる。第三の層113を透過した右円偏光の一部は、第一の層111で正反射光A2Rとして反射する。
【0152】
非偏光A1のうち、左円偏光A1Lは第三の層113で反射されず、第三の層113、第一の層111、第二の層を透過する。第三の層113、第一の層111及び第二の層112を透過した左円偏光A1Lは、下地203において非偏光A4として反射する。非偏光A4のうち右円偏光は第二の層112において後方散乱光A5Rとして反射するが、該反射光は下地203の方向に進む。該反射光が強い場合上方から第二の層112の情報を視認することができない。非偏光A4のうち左円偏光は第二の層112、第一の層111及び第三の層113を順に透過し、識別媒体100の外部に出射する。
【0153】
このように、本実施形態の識別媒体100を備える物品においては、第二の層112側から観察した場合に第二の層12の情報を視認でき、第三の層113側から観察した場合に第三の層113の情報は視認できるが、第二の層112の情報を視認できない。したがって、そのような観察結果をもたらす識別媒体は、真正な識別媒体100を備える物品であると判断することができる。
【0154】
本実施形態によっても、識別媒体100が真正なものであるか否かを肉眼視により識別できるので、特別なビュワーを用いなくても真正性の判定が可能である。したがって、本実施形態によれば、特別なビュワーを用いなくても真正性の判定が可能な識別媒体、識別媒体の真正性判定方法、および識別媒体を備える物品を提供することができる。
【0155】
さらに本実施形態によれば、第二の層112と第三の層113のそれぞれに相違する情報を付与することができるので、真正性の判定をより明確に行うことができ、偽造防止効果が高まる。
【0156】
[他の実施形態]
上記実施形態では、第二の層及び第三の層を形成する方法として、コレステリック樹脂のフレークを含むインキを文字のパターンとして印刷する方法を示したが、第二の層及び第三の層の形成方法はこれに限定されない。フレークを含むインキを模様状に印刷する方法、フレークを含む分散物を例えば押出し成形法及び溶剤キャスト法等の成型方法により層状の形状に形成する方法により、第二の層及び第三の層を形成してもよい。
【実施例
【0157】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0158】
[試薬の説明]
以下の実施例および比較例で使用した試薬は、以下の通りである。
【0159】
光重合性液晶性化合物1としては、下記の構造を有する化合物を用いた。
【0160】
【化5】
【0161】
光重合性液晶性化合物2としては、下記の構造を有する化合物を用いた。
【0162】
【化6】
【0163】
光重合性非液晶性化合物としては、下記の構造を有する化合物を用いた。
【0164】
【化7】
【0165】
カイラル剤としては、BASF社製「LC756」を用いた。
光重合開始剤としては、チバ・ジャパン社製「イルガキュアOXEO2」を用いた。
界面活性剤としては、ネオス社製「フタージェント209F」を用いた。
【0166】
[実施例1~18、比較例1~12]
1.コレステリック樹脂層を備えた複層フィルムの製造
以下に示す方法により調製した光硬化性の液晶組成物を用いて、実施例および比較例の識別媒体の製造に用いるコレステリック樹脂層を製造した。コレステリック樹脂層は、ある場合において第一の層として用い、別のある場合において粉砕してフレーク状とし第二の層を形成する塗料の顔料として用いた。
【0167】
(光硬化性の液晶組成物の調製)
表1及び表2に示す比率で、光重合性液晶性化合物1、光重合性液晶性化合物2、光重合性非液晶性化合物、カイラル剤、光重合開始剤、界面活性剤及びシクロペンタノンを混合して、光硬化性の液晶組成物を調製した。
【0168】
(コレステリック樹脂層を備えた複層フィルムの製造)
支持体として、面内の屈折率が等方性で長尺のポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製「PETフィルムA4100」;厚み100μm、以下「PETフィルム」という)を用意した。このPETフィルムをフィルム搬送装置の繰り出し部に取り付け、当該PETフィルムを長尺方向に搬送しながら以下の操作を行った。まず、搬送方向と平行な長尺方向にラビング処理を施した。次に、ラビング処理を施した面に、用意した液晶組成物を、ダイコーターを使用して塗布した。これにより、PETフィルムの片面に、未硬化状態の液晶組成物の膜を形成した。未硬化状態の液晶組成物の膜に120℃で4分間配向処理を施した。
【0169】
配向処理後の膜に、表1または表2に記載の処理を施して、コレステリック樹脂層A~Iを備える複層フィルムを得た。
【0170】
コレステリック樹脂層A~Eについては、配向処理後の膜に、窒素雰囲気下で800mJ/cmの紫外線を照射して、液晶組成物の膜を完全に硬化させ、これにより、長尺のPETフィルムの片面に、表1に示す厚みのコレステリック樹脂層を備える複層フィルムを得た。
【0171】
コレステリック樹脂層F~Iについては、配向処理後の膜に対して、表2に示す条件で、1回目の紫外線照射処理、1回目の加温処理、2回目の紫外線照射処理及び2回目の加温処理を行った後、液晶組成物の膜に、窒素雰囲気下で800mJ/cmの紫外線を照射して、液晶組成物の膜を完全に硬化させた。これにより、長尺のPETフィルムの片面に、表2に示す厚みのコレステリック樹脂層を備える複層フィルムを得た。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
(コレステリック樹脂層の反射率の測定)
複層フィルムからPETフィルムを剥離して、コレステリック樹脂層A~Iを、単層のフィルムとして得た。得られたコレステリック樹脂層A~Iに、非偏光(波長400nm~780nm)を入射したときの反射率を、紫外可視分光光度計(UV-Vis 550、日本分光社製)を用いて測定した。測定結果を図20図23に示す。
【0175】
図20は、コレステリック樹脂層A、B及びCの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。図21は、コレステリック樹脂層D及びEの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。図22は、コレステリック樹脂層F及びGの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。図23は、実施例で作製したコレステリック樹脂層H及びIの、波長400nm~780nmにおける反射率の測定結果を示すグラフである。各図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は反射率(%)である。
【0176】
各測定値には、界面反射分(コレステリック樹脂層A~Iにおいて7%)が含まれているので、各測定値から界面反射分を差し引いた値を反射率(Rs(λ)、Rf(λ)、Rf(λ))とした。
【0177】
値、S値、Ssf値、Ssf値は、積分値の近似値として以下の式(7)~(10)により算出した。S値、S値、Ssf値、Ssf値の算出にあたり、波長400nm~780nmにおける5nmごとの波長に対する反射率を用いた。
【数9】
【0178】
2.フレークを用いた塗料の製造
(剥離片の製造)
1.で得られたコレステリック樹脂層A~Iを備える複層フィルムを用いてコレステリック樹脂層の剥離片A~Iを作製した。剥離片を製造する装置として図24に示す装置を用いた。図24は、コレステリック樹脂層の剥離片を製造する装置を模式的に示す側面図である。
【0179】
図24に示したように、フィルム送出部420、剥離部430、及び、フィルム回収部440を備える製造装置400を用意した。剥離部430は、鋭角に設けられた角部分435を有するバー434、及び、角部分435の直ぐ下流に設けられた空気を噴射しうるノズル436を備えていた。この際、バー434の角部分435の角度は、複層フィルム410を角度θ(45°)で折り返せるように設定した。角部分はR=0.2mm~0.3mmの面取り構造となっている。
【0180】
フィルム送出部420に、バー434の角部分435においてPETフィルム412よりもコレステリック樹脂層411を外にして複層フィルム410を折り返せる向きで、複層フィルム410を取り付けた。そして、フィルム回収部440によって複層フィルム410に対して搬送方向に張力を与えた状態で、フィルム送出部420から複層フィルム410を送り出した。この際、複層フィルム410に与える張力の大きさは、80N/mに設定した。また、ノズル436からは空気を圧力0.5MPaで噴射させた。
【0181】
複層フィルム410は、バー434の角部分435において折り返され、多くの亀裂が形成された。その後、ノズル436から噴射された空気により亀裂の形成されたコレステリック樹脂層411が剥離し吹き飛ばされ、剥離片411Aが得られた。得られた剥離片411Aを回収器により回収した。
【0182】
(フレークの製造)
回収したコレステリック樹脂層の剥離片A~Iを、石臼式粉砕機(ウエスト社製「ミクロ・パウダーMPW-G008」)を用いて粉砕して、フレークA~Iを得た。得られたフレークの平均粒子径は、50μmであった。
【0183】
(塗料の製造)
得られたフレークA~Iをコレステリック樹脂層顔料として用いて、下記方法により塗料A~Iを製造した。バインダー溶液としてのスクリーンインキ(十条ケミカル社製「No.2500メジウム」)100重量部と、そのスクリーンインキの専用希釈剤(テトロン標準溶剤)10重量部と、前記のフレーク15重量部と、を混合して、塗料を製造した。
【0184】
3.識別媒体の製造
1.で得られたコレステリック樹脂層を備えた複層フィルム及び、2.で得られたフレークを含む塗料を用いて実施例1~18および比較例1~12の識別媒体を製造し、全光線反射率を測定し、視認性を評価した。
【0185】
(識別媒体の透明性の評価)
あらかじめ、絵柄を印刷した紙の印刷面の上に、各例の識別媒体をおき、識別媒体を通じて紙に印刷された絵柄が目視可能か否か観察した。目視により前記絵柄が観察可能であれば識別媒体が透明または半透明であると判断し、絵柄が観察できない場合は不透明であると判断した。結果を表3及び表4に示す。表3および4においては、「A」は透明または半透明の場合を示し、「B」は不透明の場合を示す。
【0186】
(識別媒体の視認性の評価方法)
各例の識別媒体を、白色の紙の上に置き、白色蛍光灯下で、フレークを含む塗料により印刷した文字が肉眼視により視認可能か否か観察を行い、以下の評価基準により評価を行った。結果を表3及び4に示す。
【0187】
表3及び表4中の、「第二層側から観察」とは、識別媒体を第二の層が上になるように紙の上に置いて、その上方から光を照射して観察した場合を意味する。表3及び表4中、「第一層又は第三層側から観察」とは、第三の層を備える識別媒体については第三の層側、第三の層を備えない識別媒体については第一の層側(基材層側)が上になるように紙の上に置いて、その上方から光を照射して観察した場合を意味する。
【0188】
実施例および比較例においては、一方の面にのみ、フレークを含む塗料による印刷処理が施されている識別媒体(タイプ1:第三の層を備えない識別媒体)、及び両面にフレークを含む塗料による印刷処理が施されている識別媒体(タイプ2:第三の層を備える識別媒体)を製造し評価を行ったので、識別媒体のタイプごとに評価方法及び評価基準を説明する。
【0189】
(タイプ1の識別媒体の評価方法)
タイプ1の識別媒体は、第二の層(フレークを含む層)、第一の層、粘着剤、及び基材層(塩化ビニルシート)がこの順で積層された構造である。
識別媒体を、第二の層が上になるように白色の紙の上に置いた場合、及び第一の層側(基材層側)が上になるように白色の紙の上に置いた場合について、第二の層に印刷した文字が肉眼視により視認可能か否か観察した。評価基準は以下の通りである。
良:第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認できるが、第一の層側から観察したときには第二の層の文字が視認できない。
不良:第二の層側から観察したときに第二の層の文字が視認でき、かつ、第一の層側から観察したときに、第二の層の文字が視認できる。
第二の層側から観察した場合にのみ、第二の層に印刷した文字が視認可能であれば、真正性の識別を明確に行い得る識別媒体である。
【0190】
(タイプ2の識別媒体)
タイプ2の識別媒体は、第二の層(フレークを含む層)、第一の層、粘着剤、基材層(塩化ビニルシート)、及び第三の層(フレークを含む層)がこの順で積層された構造である。
識別媒体を、第二の層が上になるように白色の紙の上に置いて観察した場合、及び第三の層が上になるように白色の紙の上に置いて観察した場合について、第二の層に印刷した文字および第三の層に印刷した文字が視認可能か否か観察した。評価基準は以下の通りである。
良:第二の層側から観察したときには、第二の層の文字のみが視認できるが、第三の層側から観察したときには第二の層の文字が視認できない。
不良:第二の層側から観察したときに第二の層の文字が視認でき、かつ、第三の層側から観察したときに、第二の層の文字が視認できる。
第二の層側から観察した場合のみに、第二の層に印刷した文字が視認可能であれば真正性の識別を明確に行いうる。第二の層側から観察した場合に第二の層に印刷した文字のみが視認可能で、かつ、第三の層側から観察した場合に第三の層に印刷した文字のみが視認可能であると、より真正性の識別を明確に行いうる。
【0191】
(色相の差ΔEの算出方法)
第二の層及び第三の層を形成した識別媒体については、第二の層の色相と第三の層の色相との差ΔEを以下の方法により算出した。結果を表3及び表4に示す。
【0192】
分光光度計(日本分光社製「UV-Vis550」)により、識別媒体の第二の層および第三の層に対して、反射スペクトルを測定した。C光源を用い、視野角2°にて測定を行った。
測定した反射スペクトルR(λ)を用いて、三刺激値X、Y、Zを求め(STEP.1)、更にCIE 1976L色空間の明度L、a、bを算出し(STEP.2)、各層に対して、求めたL、a、bを用いて、ΔEを算出した(STEP.3)。各STEPについて説明する。
【0193】
(STEP.1)
測定した反射スペクトルR(λ)と以下の式(11)~式(13)を用いて、三刺激値X、Y、Zを算出した。
【数10】
【0194】
ここで、S(λ)は光源のスペクトルであり本実施例ではC光源の値を使用した。また、x(λ)、y(λ)、z(λ)は等色関数を表す。
【0195】
(STEP.2)
STEP.1で算出した三刺激値X、Y、Zを用いて、CIE 1976L色空間の明度L、a、bを算出した。算出には以下の式(14)~(16)を利用した。
【0196】
【数11】
【0197】
ここで、X、Y、Zはそれぞれ、以下の式(17)~式(19)で算出される三刺激値である。
【0198】
【数12】
【0199】
また、f(X/X)、f(Y/Y)、f(Z/Z)はそれぞれ、式(20)~式(22)で表される。
【0200】
【数13】
【0201】
(STEP.3)
さらに、得られた各層のL、a、bの値から式(23)を用いてΔEを算出した。
ΔE=((L* 2-L )+(a -a )+(b -b ))1/2・・・式(23)
式(23)中、L は第二の層のL、L は第三の層のL、a は第二の層のa、a は第三の層のa、b は第二の層のb、b は第三の層のbを示す。
【0202】
(実施例1)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムの、コレステリック樹脂層Fを、粘着剤を介して塩化ビニル製シートに転写し、PETフィルムを剥離して、コレステリック樹脂層F、粘着剤及び塩化ビニル製シートがこの順で積層された構造を有する積層体Xを得た。
粘着剤としては、日東電工社製の透明粘着テープ(LUCIACS CS9621T、厚み:25μm、可視光透過率:90%以上、レターデーション3nm以下)を使用した。塩化ビニル製シートしては、アズワン社の品番6-607-01(厚み100μm、可視光透過率:85%以上、レターデーション3nm以下)を用いた。
【0203】
積層体Xの一方の面(コレステリック樹脂層F側の面)に、フレークAを含む塗料を用いて、スクリーン印刷を実施した。スクリーン印刷用の版としては、100メッシュの文字パターン付スクリーンを用意した。文字として図1及び図2に示すようにABCDの文字を印刷した。
【0204】
印刷後に得られた、フレークAを含む塗料、コレステリック樹脂層F、粘着剤及び塩化ビニルシートがこの順で積層された積層体X1を、ホットプレート上で、80℃で10分間加熱し、塗料を乾燥させることにより、識別媒体を得た。この識別媒体は実施形態1の識別媒体に対応する。識別媒体は、図3に示すように、第二の層12、第一の層11(コレステリック樹脂層F)、粘着剤15、及び塩化ビニルシート14がこの順で積層された構造であり、第二の層12はABCDの文字が印刷された層である。識別媒体は半透明であった。得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認できるが、塩化ビニルシート側から観察したときには第二の層の文字が視認できなかった。
【0205】
(実施例2~9)
フレークAを含む塗料に代えて、表3の「構成」の欄の「第二の層」に記載のフレーク(フレークB~I)を含む塗料を用いたこと以外は実施例1と同一の操作を行い、識別媒体を得た。これらの識別媒体は、いずれも実施形態1の識別媒体に対応する。いずれの識別媒体も半透明であった。得られた各識別媒体について評価を行ったところ、いずれにおいても、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認できるが、塩化ビニルシート側から観察したときには第二の層の文字が視認できなかった。
【0206】
(実施例10の識別媒体)
実施例1で作製した、コレステリック樹脂層F、粘着剤及び塩化ビニル製シートがこの順で積層された構造を有する積層体Xの両面に、フレークを含む塗料を用いてスクリーン印刷を実施した。積層体Xのコレステリック樹脂層F側の面に、フレークAを含む塗料を用いて、スクリーン印刷を実施し、かつ積層体Xの塩化ビニルシート側の面に、フレークCを含む塗料を用いてスクリーン印刷を実施した。スクリーン印刷用の版としては、100メッシュの文字パターン付スクリーンを用意した。文字として図10図12に示すように、コレステリック樹脂層F(第1の層)側の面にABCDの文字を印刷し、塩化ビニルシート側の面にEFGの文字を印刷した。
【0207】
印刷後に得られた、フレークAを含む塗料、コレステリック樹脂層F、粘着剤、塩化ビニルシート、フレークCを含む塗料がこの順で積層された積層体X10を、ホットプレート上で、80℃で10分間加熱し、塗料を乾燥させることにより、識別媒体を得た。この識別媒体は実施形態2の識別媒体に対応する。識別媒体は、図13に示すように、第二の層112、第一の層111(コレステリック樹脂層F)、粘着剤115、及び塩化ビニルシート114、第三の層113がこの順で積層された構造である。第二の層112はABCDの文字が印刷された層であり、第三の層113はEFGの文字が印刷された層である。識別媒体は半透明であった。得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認できるが、第三の層の文字は視認できず、第三の層側から観察したときには第三の層の文字は視認できるが、第二の層の文字は視認できなかった。
【0208】
(実施例11の識別媒体)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムに代えて、コレステリック樹脂層Iを備えた複層フィルムを用いたこと以外は実施例1と同一の操作を行い、識別媒体を得た。この識別媒体は、実施形態1の識別媒体に対応する。識別媒体は半透明であった。得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認でき、塩化ビニルシート側から観察したときには第二の層の文字が視認できなかった。
【0209】
(実施例12~15の識別媒体)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムに代えて、コレステリック樹脂層Iを備えた複層フィルムを用い、かつ、フレークAを含む塗料に代えて、表3及び表4の「構成」の欄の「第二の層」に記載のフレーク(フレークD、E、H、I)を含む塗料を用いたこと以外は、実施例1と同一の操作を行い、識別媒体を得た。これらの識別媒体は、実施形態1の識別媒体に対応する。識別媒体は半透明であった。得られた識別媒体について評価を行ったところ、いずれにおいても、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認でき、塩化ビニルシート側から観察したときには第二の層の文字が視認できなかった。
【0210】
(実施例16の識別媒体)
コレステリック樹脂層I、粘着剤及び塩化ビニル製シートがこの順で積層された構造を有する積層体Yの両面に、フレークを含む塗料を用いてスクリーン印刷を実施した。積層体Yのコレステリック樹脂層I側の面に、フレークDを含む塗料を用いて、スクリーン印刷を実施し、かつ積層体Yの塩化ビニルシート側の面に、フレークBを含む塗料を用いてスクリーン印刷を実施した。スクリーン印刷用の版としては、100メッシュの文字パターン付スクリーンを用意した。文字として図10図12に示すように、コレステリック樹脂層I(第1の層)側の面にABCDの文字を印刷し、塩化ビニルシート側の面にEFGの文字を印刷した。
【0211】
印刷後に得られた、フレークDを含む塗料、コレステリック樹脂層I、粘着剤、塩化ビニルシート、フレークBを含む塗料がこの順で積層された積層体Y1を、ホットプレート上で、80℃で10分間加熱し、塗料を乾燥させることにより、識別媒体を得た。この識別媒体は、第二の層、第一の層(コレステリック樹脂層I)、粘着剤、及び塩化ビニルシート、第三の層がこの順で積層された構造であり、第二の層はABCDの文字が印刷された層であり、第三の層はEFGの文字が印刷された層である。識別媒体は半透明であった。
得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字及び第三の層の文字がともに視認できた。第三の層側から観察したときには第三の層の文字は視認できたが、第二の層の文字は視認できなかった。
【0212】
(実施例17の識別媒体)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムに代えて、コレステリック樹脂層Dを備えた複層フィルムを用いたこと以外は実施例1と同一の操作を行い、識別媒体を得た。この識別媒体は、実施形態1の識別媒体に対応する。識別媒体は半透明であった。得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認でき、塩化ビニルシート側から観察したときには第二の層の文字が視認できなかった。
【0213】
(実施例18の識別媒体)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムに代えて、コレステリック樹脂層Dを備えた複層フィルムを用い、かつ、フレークAを含む塗料に代えてフレークDを含む塗料を用いたこと以外は実施例1と同一の操作を行い、識別媒体を得た。この識別媒体は、実施形態1の識別媒体に対応する。識別媒体は半透明であった。得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字が視認でき、塩化ビニルシート側から観察したときには第二の層の文字が視認できなかった。
【0214】
(比較例1~4の識別媒体)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムに代えて、コレステリック樹脂層Iを備えた複層フィルムを用い、かつ、フレークAを含む塗料に代えて、表3及び表4の「構成」の欄の「第二の層」に記載のフレーク(フレークB、C、F、G)を含む塗料を用いたこと以外は実施例1と同一の操作を行い、識別媒体を得た。各識別媒体は、第二の層、第一の層(コレステリック樹脂層)、粘着剤、及び塩化ビニルシートがこの順で積層された構造ではあるが、Ssf/Sの値が0.7以下であった。識別媒体は半透明であった。
得られた各識別媒体について評価を行ったところ、いずれの識別媒体においても、両側面(第二の層側及び塩化ビニルシート側)から、第二の層の文字が視認できた。
【0215】
(比較例5~11の識別媒体)
コレステリック樹脂層Fを備えた複層フィルムに代えて、コレステリック樹脂層Dを備えた複層フィルムを用い、かつ、フレークAを含む塗料に代えて、表4の「構成」の欄の「第二の層」に記載のフレーク(フレークB、C、E~I)を含む塗料を用いたこと以外は実施例1と同一の操作を行い、各識別媒体を得た。各識別媒体は、第二の層、第一の層(コレステリック樹脂層)、粘着剤、及び塩化ビニルシートがこの順で積層された構造ではあるが、Ssf/Sの値が0.7以下であった。識別媒体は半透明であった。
得られた各識別媒体について評価を行ったところ、いずれの識別媒体においても、両側面(第二の層側及び塩化ビニルシート側)から、第二の層の文字が視認できた。
【0216】
(比較例12の識別媒体)
比較例5の、コレステリック樹脂層D、粘着剤及び塩化ビニル製シートがこの順で積層された構造を有する積層体C5の両面に、フレークを含む塗料を用いてスクリーン印刷を実施した。積層体C5のコレステリック樹脂層D側の面に、フレークBを含む塗料を用いて、スクリーン印刷を実施し、かつ積層体C5の塩化ビニルシート側の面に、フレークCを含む塗料を用いてスクリーン印刷を実施した。スクリーン印刷用の版としては、100メッシュの文字パターン付スクリーンを用意した。文字として図10図12に示すように、コレステリック樹脂層I(第1の層)側の面にABCDの文字を印刷し、塩化ビニルシート側の面にEFGの文字を印刷した。
【0217】
印刷後に得られた、フレークBを含む塗料、コレステリック樹脂層D、粘着剤、塩化ビニルシート、フレークCを含む塗料がこの順で積層された積層体C12を、ホットプレート上で、80℃で10分間加熱し、塗料を乾燥させることにより、識別媒体を得た。この識別媒体は、第二の層、第一の層(コレステリック樹脂層D)、粘着剤、及び塩化ビニルシート、第三の層がこの順で積層された構造であり、第二の層はABCDの文字が印刷された層であり、第三の層はEFGの文字が印刷された層である。しかしながら、Ssf/Sの値およびSsf/Sの値はいずれも0.7以下であった。識別媒体は半透明であった。
得られた識別媒体について評価を行ったところ、第二の層側から観察したときには、第二の層の文字と第三の層の文字が視認可能であり、第三の層側から観察したときには第二の層の文字と第三の層の文字が視認可能であった。
【0218】
【表3】
【0219】
【表4】
【0220】
[結果]
表3および4に示すように、本発明の実施例1~18においては、第二の層の情報は第二の層側からは視認することができるが、反対側(第一の層側または第三の層側)からは視認できないことが確認できた。また、本発明の実施例においては、特別なビュワーを用いることなく肉眼視により真正性の判定が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0221】
10,100…識別媒体
11,111…第一の層
12,112…第二の層
12F,112F,113F…フレーク
14,114…基材層
15,115…粘着層
20,200…冊子(物品)
21,201…冊子のn枚目のリーフ(識別媒体を備える部分)
21A,201A…「n-1」枚目のリーフに重ねられる面
21B,201B…「n+1」枚目のリーフに重ねられる面
22,202…冊子の「n+1」枚目のリーフ(下地)
22A,23A,202A,203A…識別媒体が重ねられる部分(情報が印刷された部分)
23,203…冊子の「n-1」枚目のリーフ(下地)
113…第三の層
400…コレステリック樹脂層の剥離片の製造装置
410…複層フィルム
411…コレステリック樹脂層
412…支持体(PETフィルム)
411A…剥離片
420…フィルム送出部
430…剥離部
434…バー
435…バーの角部分
436…ノズル
440…フィルム回収部
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