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特許7396276アクリル樹脂及びその製造方法、樹脂組成物セット、蓄熱材並びに物品
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  • 特許-アクリル樹脂及びその製造方法、樹脂組成物セット、蓄熱材並びに物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】アクリル樹脂及びその製造方法、樹脂組成物セット、蓄熱材並びに物品
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20231205BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20231205BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20231205BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20231205BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20231205BHJP
   C08G 18/81 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08F8/00
C09K5/06 J
C08F8/30
C08F220/26
C08F290/12
C08G18/81 016
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020532239
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025728
(87)【国際公開番号】W WO2020021958
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018139571
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】古川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松原 望
(72)【発明者】
【氏名】森本 剛
(72)【発明者】
【氏名】永井 晃
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-252214(JP,A)
【文献】特開2009-046638(JP,A)
【文献】特開2004-137301(JP,A)
【文献】特開2017-122174(JP,A)
【文献】特開2012-219180(JP,A)
【文献】特開2011-032365(JP,A)
【文献】特開2010-024283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00、283/00、
290/00-290/14、299/00-
299/08、301/00
C08G 18/81
C09K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される第1の構造単位と、下記式(2)で表される第2の構造単位とを含む、蓄熱材の形成に用いられるアクリル樹脂。
【化1】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
【化2】
[式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、Rは2価の有機基を表す。]
【請求項2】
前記第1の構造単位の含有量が、前記アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して60質量部以上である、請求項1に記載のアクリル樹脂。
【請求項3】
前記第2の構造単位の含有量が、前記アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して25質量部以下である、請求項1又は2に記載のアクリル樹脂。
【請求項4】
下記式(3)で表される第1のモノマーと、前記第1のモノマーと共重合可能であり、反応性基Aを有する第2のモノマーと、を含むモノマー成分を重合させて、前記反応性基Aを有するアクリル樹脂中間体を得る工程と、
前記アクリル樹脂中間体と、前記アクリル樹脂中間体の反応性基Aと反応し得る反応性基Bを有する第3のモノマーを含むモノマー成分と、を反応させる工程と、を備える、蓄熱材の形成に用いられるアクリル樹脂の製造方法。
【化3】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
【請求項5】
前記反応性基Aがヒドロキシル基である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応性基Bがイソシアネート基である、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
酸化剤を含有する第一液と、還元剤を含有する第二液とを備え、
前記第一液及び前記第二液の少なくとも一方は、請求項1~3のいずれか一項に記載のアクリル樹脂を含有する、蓄熱材の形成に用いられる樹脂組成物セット。
【請求項8】
前記第一液及び前記第二液の少なくとも一方が、下記式(4)で表されるモノマーを更に含有する、請求項7に記載の樹脂組成物セット。
【化4】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
【請求項9】
請求項7又は8に記載の樹脂組成物セットにおける、前記第一液及び前記第二液の混合物の硬化物を含む、蓄熱材。
【請求項10】
熱源と、
前記熱源と熱的に接触するように設けられた、請求項に記載の蓄熱材と、を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂及びその製造方法、樹脂組成物セット、蓄熱材並びに物品に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材は、蓄えたエネルギーを必要に応じて熱として取り出すことのできる材料である。この蓄熱材は、空調設備、床暖房設備、冷蔵庫、ICチップ等の電子部品、自動車内外装材、キャニスター等の自動車部品、保温容器などの用途で利用されている。
【0003】
蓄熱の方式としては、物質の相変化を利用した潜熱蓄熱が、熱量の大きさの点から広く利用されている。潜熱蓄熱物質としては、水-氷がよく知られている。水-氷は、熱量の大きい物質であるが、相変化温度が大気下において0℃と限定されてしまうため、適用範囲も限定されてしまう。そのため、0℃より高く100℃以下の相変化温度を有する潜熱蓄熱物質として、パラフィンが利用されている。しかし、パラフィンは加熱により相変化すると液体になり、引火及び発火の危険性がある。そのため、パラフィンを蓄熱材に用いるためには、袋等の密閉容器中に収納するなどして、蓄熱材からパラフィンが漏えいすることを防ぐ必要があり、適用分野の制限を受ける。
【0004】
パラフィンを含む蓄熱材を改良する方法として、例えば特許文献1には、ゲル化剤を用いる方法が開示されている。この方法で作られるゲルは、パラフィンの相変化後もゲル状の成形体を保つことが可能である。しかし、この方法では、蓄熱材として使用する際に液漏れ、蓄熱材の揮発等が起こる可能性がある。
【0005】
また、別の改良方法として、例えば特許文献2には、水添共役ジエン共重合体を用いる方法が開示されている。この方法では、炭化水素化合物の融解又は凝固温度近辺では形状保持が可能であるが、更に高温になると、相溶性が低いため相分離を発生して、炭化水素化合物の液漏れが発生する。
【0006】
また、別の改良方法として、例えば特許文献3には、蓄熱材をマイクロカプセル化する方法が開示されている。この方法では、蓄熱材がカプセル化されているため、相変化に関わらずハンドリング性は良好であるが、高温域においては、カプセルからの蓄熱材の滲み出しの懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-109787号公報
【文献】特開2014-95023号公報
【文献】特開2005-23229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一側面において、蓄熱材に好適に用いられるアクリル樹脂及び該アクリル樹脂を用いた樹脂組成物セットを提供することを目的とする。本発明は、他の一側面において、蓄熱量に優れる蓄熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定の構造単位を含むアクリル樹脂が蓄熱材に好適に用いられること、及び、当該アクリル樹脂により蓄熱材に好適に用いられる二液型の樹脂組成物セットが得られることを見出した。すなわち、本発明者らは、特定の構造単位を含むアクリル樹脂を含む樹脂組成物セットから得られる蓄熱材が蓄熱量に優れることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、いくつかの側面において、下記の[1]~[11]を提供する。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される第1の構造単位と、下記式(2)で表される第2の構造単位とを含むアクリル樹脂。
【化1】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
【化2】
[式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、Rは2価の有機基を表す。]
[2] 第1の構造単位の含有量が、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して60質量部以上である、[1]に記載のアクリル樹脂。
[3] 第2の構造単位の含有量が、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して25質量部以下である、[1]又は[2]に記載のアクリル樹脂。
【0011】
[4] 下記式(3)で表される第1のモノマーと、第1のモノマーと共重合可能であり、反応性基Aを有する第2のモノマーと、を含むモノマー成分を重合させて、反応性基Aを有するアクリル樹脂中間体を得る工程と、アクリル樹脂中間体と、アクリル樹脂中間体の反応性基Aと反応し得る反応性基Bを有する第3のモノマーを含むモノマー成分と、を反応させる工程と、を備える、アクリル樹脂の製造方法。
【化3】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
[5] 反応性基Aがヒドロキシル基である、[4]に記載の製造方法。
[6] 反応性基Bがイソシアネート基である、[4]又は[5]に記載の製造方法。
【0012】
[7] 酸化剤を含有する第一液と、還元剤を含有する第二液とを備え、第一液及び第二液の少なくとも一方は、[1]~[3]のいずれかに記載のアクリル樹脂を含有する、樹脂組成物セット。
[8] 第一液及び第二液の少なくとも一方が、下記式(4)で表されるモノマーを更に含有する、[7]に記載の樹脂組成物セット。
【化4】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
[9] 蓄熱材の形成に用いられる、[7]又は[8]に記載の樹脂組成物セット。
[10] [7]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物セットにおける、第一液及び第二液の混合物の硬化物を含む、蓄熱材。
[11] 熱源と、熱源と熱的に接触するように設けられた、[10]に記載の蓄熱材と、を備える、物品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、蓄熱材に好適に用いられるアクリル樹脂及び該アクリル樹脂を用いた樹脂組成物セットを提供することができる。加えて、本発明の一側面に係る樹脂組成物セットは、二液を混合した際の反応性に優れ、1時間以内、より好ましくは30分以内、更に好ましくは10分以内という短時間で樹脂組成物の硬化物を得ることができる。また、本発明の他の一側面によれば、蓄熱量に優れる蓄熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】蓄熱材を備える物品の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本明細書における「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
【0017】
本明細書における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定され、ポリスチレンを標準物質として決定される値を意味する。
・測定機器:HLC-8320GPC(製品名、東ソー(株)製)
・分析カラム:TSKgel SuperMultipore HZ-H(3本連結)(製品名、東ソー(株)製)
・ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-H(製品名、東ソー(株)製)
・溶離液:THF
・測定温度:25℃
【0018】
一実施形態に係るアクリル樹脂は、下記に示す第1の構造単位と、第2の構造単位とを含む。
【0019】
第1の構造単位は、下記式(1)で表される。
【化5】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。
【0020】
で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは12~28、より好ましくは12~24、更に好ましくは12~22、特に好ましくは12~18である。Rで表されるアルキル基としては、例えば、ドデシル基(ラウリル基)、テトラデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、ドコシル基(ベヘニル基)、テトラコシル基、ヘキサコシル基、オクタコシル基等が挙げられる。Rで表されるアルキル基は、好ましくは、ドデシル基(ラウリル基)、テトラデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、及びオクタデシル基(ステアリル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。アクリル樹脂は、これらの第1の構造単位の1種又は2種以上を含んでいる。
【0021】
第1の構造単位は、言い換えれば、炭素数12~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位である。
【0022】
第1の構造単位の含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上であり、例えば98質量部以下であってよい。
【0023】
第2の構造単位は、下記式(2)で表される。
【化6】
式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、Rは2価の有機基を表す。
【0024】
で表される2価の有機基は、特に限定されず、第2の構造単位が有する(メタ)アクリロイル基を導入する際に付随的に生成される基であってよい。2価の有機基は、後述する第2のモノマーが有する反応性基A、及び後述する第3のモノマーが有する反応性基Bの種類に応じて種々の基をとり得る。2価の有機基は、例えば、下記式(5)~(8)のいずれかで表される基であってよい。
【化7】
式中、R10及びR11はそれぞれ独立に2価の炭化水素基を表し、*は結合手を表す(以下同様)。
【0025】
【化8】
式中、R12及びR13はそれぞれ独立に2価の炭化水素基を表す。
【0026】
【化9】
式中、R14及びR15はそれぞれ独立に2価の炭化水素基を表す。
【0027】
【化10】
式中、R16及びR17はそれぞれ独立に2価の炭化水素基を表す。
【0028】
10~R17で表される2価の炭化水素基は、アルキレン基又はシクロアルキレン基であってよい。2価の炭化水素基がアルキレン基である場合、アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。R10~R17で表される2価の炭化水素基の炭素数は、例えば、1~10、1~8、1~6、1~4又は1~2であってよい。
【0029】
第2の構造単位は、言い換えれば、(メタ)アクリロイル基を有する構造単位である。第2の構造単位における(メタ)アクリロイル基は、遊離ラジカルにより互いに反応し得るため、これによりアクリル樹脂が硬化する。
【0030】
第2の構造単位の含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは16質量部以下、特に好ましくは13質量部以下であり、例えば2質量部以上であってよい。
【0031】
アクリル樹脂は、第1の構造単位及び第2の構造単位に加えて、必要に応じてその他の構造単位を更に含むことができる。その他の構造単位は、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数12未満(炭素数1~11)のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の環状炭化水素基をエステル基の末端に有するシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位などが挙げられる。
【0032】
アクリル樹脂は、一実施形態において、第1の構造単位と、第2の構造単位と、必要に応じて、炭素数1~11のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレート及び環状炭化水素基をエステル基の末端に有するシクロアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーに由来する構造単位(構造単位α)のみを含有する。言い換えれば、アクリル樹脂は、一実施形態において、第1の構造単位、第2の構造単位及び構造単位α以外の構造単位(例えばシロキサン骨格を有する(メタ)アクリルモノマーに由来する構造単位)を含有しない。アクリル樹脂は、一実施形態において、第1の構造単位と第2の構造単位のみを含有してよく、他の一実施形態において、第1の構造単位と第2の構造単位と構造単位αのみを含有してよい。
【0033】
アクリル樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0034】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、一実施形態において、アクリル樹脂が室温(25℃)で液体状になり、後述する樹脂組成物セットに使用した際に第一液及び/又は第二液の粘度を低減して混合しやすくする観点から、好ましくは100000以下、より好ましくは70000以下、更に好ましくは40000以下である。この場合、アクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば5000以上であってよい。
【0035】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、他の一実施形態において、蓄熱材の強度に優れる観点から、200000以上、250000以上、又は300000以上であってよい。アクリル樹脂の重量平均分子量は、アクリル樹脂のハンドリングのしやすさの観点から、2000000以下、1500000以下、又は1000000以下であってもよい。重量平均分子量が200000以上のアクリル樹脂を後述する樹脂組成物セットの第一液及び/又は第二液に使用する場合には、好ましくは、後述するモノマーXを併用する。これにより、第一液及び/又は第二液の室温(25℃)における形状を液体状にすることができる。
【0036】
上述のアクリル樹脂の製造方法は、一実施形態において、第1のモノマーと、第1のモノマーと共重合可能であり、反応性基Aを有する第2のモノマーと、を含むモノマー成分(以下、「モノマー成分A」ともいう。)を重合させて、反応性基Aを有するアクリル樹脂中間体を得る工程と、アクリル樹脂中間体と、アクリル樹脂中間体の反応性基Aと反応し得る反応性基Bを有する第3のモノマーを含むモノマー成分(以下、「モノマー成分B」ともいう。)と、を反応させる工程と、を備える。
【0037】
アクリル樹脂中間体を得る工程において、第1のモノマーは、好ましくは、下記式(3)で表される。
【化11】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。
【0038】
で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは12~28、より好ましくは12~24、更に好ましくは12~22、特に好ましくは12~18である。
【0039】
第1のモノマーは、言い換えれば、炭素数12~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートである。第1のモノマーとしては、例えば、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート(セチル(メタ)アクリレート)、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレート)、テトラコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの第1のモノマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。第1のモノマーは、好ましくは、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、テトラデシルアクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート(セチル(メタ)アクリレート)、及びオクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0040】
第1のモノマーの含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、モノマー成分の総量(モノマー成分A及びモノマー成分Bの合計量。以下同様。)100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上であり、例えば98質量部以下であってよい。
【0041】
第2のモノマーは、第1のモノマーと共重合可能であり、反応性基Aを有するモノマー(反応性モノマー)である。第2のモノマーは、第1のモノマーと共重合可能なように、(メタ)アクリロイル基を有している。すなわち、第2のモノマーは、好ましくは、反応性基A及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(反応性基Aを有する(メタ)アクリルモノマー)である。
【0042】
第2のモノマーにおける反応性基Aは、後述する第3のモノマーと反応し得る基であり、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基である。すなわち、第2のモノマーは、例えば、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリルモノマー、アミノ基含有(メタ)アクリルモノマー、又はエポキシ基含有(メタ)アクリルモノマーである。
【0043】
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキルシクロアルカン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0044】
アミノ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
エポキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、α-エチル(メタ)アクリル酸グリシジル、α-n-プロピル(メタ)アクリル酸グリシジル、α-n-ブチル(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸-3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸-4,5-エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、α-エチル(メタ)アクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、(メタ)アクリル酸-3-メチル-3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸-4-メチル-4,5-エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸-5-メチル-5,6-エポキシヘキシル、(メタ)アクリル酸-β-メチルグリシジル、α-エチル(メタ)アクリル酸-β-メチルグリシジル等が挙げられる。
【0046】
第2のモノマーの含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、モノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは16質量部以下、特に好ましくは13質量部以下であり、例えば2質量部以上であってよい。
【0047】
第1のモノマーと第2のモノマーを含むモノマー成分Aを重合させることにより、アクリル樹脂中間体が得られる。アクリル樹脂中間体は、第1のモノマーに由来する構造単位と、第2のモノマーに由来する構造単位とを有する。アクリル樹脂中間体は、第2のモノマーに由来する反応性基Aも有する。
【0048】
モノマー成分Aは、第1のモノマー及び第2のモノマーに加えて、必要に応じてその他のモノマーを更に含有することができる。その他のモノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数12未満(炭素数1~11)のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の環状炭化水素基をエステル基の末端に有するシクロアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その他のモノマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。モノマー成分Aがその他のモノマーを含有する場合、アクリル樹脂中間体は、第1のモノマーに由来する構造単位及び第2のモノマーに由来する構造単位に加えて、その他のモノマーに由来する構造単位を有する。
【0049】
モノマー成分Aを重合させる方法は、各種ラジカル重合等の公知の重合方法から適宜選択でき、例えば、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等であってよい。重合方法としては、アクリル樹脂の重量平均分子量を大きく(例えば200000以上に)する場合には、好ましくは懸濁重合法が用いられ、アクリル樹脂の重量平均分子量を小さく(例えば100000以下に)する場合には、好ましくは溶液重合法が用いられる。
【0050】
懸濁重合法を用いる場合には、原料となるモノマー成分、重合開始剤、必要に応じて添加される連鎖移動剤、水及び懸濁剤を混合し、分散液を調製する。
【0051】
懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子が好ましく用いられる。
【0052】
懸濁剤の配合量は、原料であるモノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.005~1質量部、より好ましくは0.01~0.07質量部、更に好ましくは0.01~0.03質量部である。懸濁重合法を用いる場合、必要に応じて、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α-メチルスチレンダイマー等の分子量調整剤を更に添加してもよい。重合温度は、好ましくは0~200℃、より好ましくは40~120℃、更に好ましくは60~100℃である。
【0053】
溶液重合法を用いる場合、使用する溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、四塩化炭素等の塩素系溶媒、2-プロパノール、2-ブタノール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。溶液重合開始時の溶液における固形分濃度は、得られるアクリル樹脂の重合性の観点から、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%、更に好ましくは50~60質量%である。重合温度は、好ましくは0~200℃、より好ましくは40~120℃、更に好ましくは60~100℃である。
【0054】
各重合法において用いられる重合開始剤は、ラジカル重合開始剤であれば、特に制限なく使用することができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン-1-カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0055】
重合開始剤の配合量は、モノマーを充分に重合させる観点から、モノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上である。重合開始剤の配合量は、アクリル樹脂の分子量が好適な範囲になると共に、分解生成物を抑制し、及び蓄熱材として使用した際に好適な接着強度が得られる観点から、モノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0056】
アクリル樹脂中間体とモノマー成分Bを反応させる工程は、アクリル樹脂中間体に第3のモノマーを付加反応により反応させる工程であってよい。付加反応は、例えば、アクリル樹脂中間体及びモノマー成分Bの混合物を加熱することにより行われてよい。このときの反応温度は、50℃以上であってよく、120℃以下であってよい。
【0057】
モノマー成分Bに含まれる第3のモノマーは、アクリル樹脂中間体と反応し得るモノマーであり、アクリル樹脂中間体における反応性基Aと反応し得る反応性基Bを有するモノマーである。第3のモノマーは、反応性基B及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(反応性基Bを有する(メタ)アクリルモノマー)である。上述した第2の構造単位における(メタ)アクリロイル基は、第3のモノマーにおける(メタ)アクリロイル基に由来する。
【0058】
第3のモノマーにおける反応性基Bは、アクリル樹脂中間体と反応し得る基であり、より具体的には、アクリル樹脂中間体における反応性基Aと反応し得る基である。第3のモノマーにおける反応性基Bは、例えば、イソシアネート基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基である。すなわち、第3のモノマーは、例えば、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマー、又はカルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーである。
【0059】
イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。
【0060】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0061】
第3のモノマーの含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、モノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下であり、例えば0.1質量部以上であってよい。
【0062】
アクリル樹脂中間体とモノマー成分Bを反応させる工程では、アクリル樹脂中間体への第3のモノマーの付加反応を促進させる観点から触媒を添加してもよい。触媒は、トリフェニルホスフィン等の有機リン系触媒、第3級アミン系触媒、第4級アンモニウム塩系触媒、ジラウリン酸ジブチルスズ等のスズ触媒などであってよい。
【0063】
上述したアクリル樹脂は、二液型の樹脂組成物セットの原料として用いることができる。一実施形態に係る樹脂組成物セットは、酸化剤を含有する第一液と、還元剤を含有する第二液とを備える樹脂組成物セット(二液型の樹脂組成物セット)である。第一液及び第二液の少なくとも一方は、上述したアクリル樹脂を含有する。第一液と第二液を混合することにより、酸化剤及び還元剤が反応して遊離ラジカルが発生し、アクリル樹脂を含む混合物の硬化(架橋反応を含む。)が進行する。本実施形態に係る樹脂組成物セットによれば、第一液と第二液を混合することにより、直ちに第一液と第二液との混合物の硬化物が得られる。すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物セットは、速い速度でアクリル樹脂を含む混合物を硬化させることができる。
【0064】
第一液及び第二液を混合する際の親和性に優れ、混合度を高くでき、かつ特性のばらつきを抑える観点から、一実施形態において、第一液は、アクリル樹脂及び酸化剤を含有し、第二液は、アクリル樹脂及び還元剤を含有する。
【0065】
他の一実施形態において、第一液は、アクリル樹脂及び酸化剤を含有し、第二液は、還元剤を含有する(アクリル樹脂を含有しない)。他の一実施形態において、第一液は、酸化剤を含有し(アクリル樹脂を含有しない)、第二液は、アクリル樹脂及び還元剤を含有する。
【0066】
アクリル樹脂の含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、第一液及び第二液の総量100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは60質量部以上、特に好ましくは80質量部以上である。アクリル樹脂の含有量は、第一液及び第二液の総量100質量部に対して、99.5質量部以下、99.0質量部以下又は98.0質量部以下であってよい。
【0067】
第一液に含まれる酸化剤は、重合開始剤(ラジカル重合開始剤)としての役割を有する。酸化剤は、例えば、有機過酸化物又はアゾ化合物であってよい。有機過酸化物は、例えば、ハイドロパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド等であってよい。アゾ化合物は、AIBN(2、2’-アゾビスイソブチロニトリル)、V-65(アゾビスジメチルバレロニトリル)等であってよい。酸化剤は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
ハイドロパーオキサイドとしては、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0069】
パーオキシジカーボネートとしては、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシメトキシパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルへキシルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0070】
パーオキシエステルとしては、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロへキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-へキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルへキサノネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1-シクロへキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノネート、t-へキシルパーオキシ-2-エチルへキサノネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルへキサノネート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロへキサン、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルへキサノネート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(m-トルオイルパーオキシ)へキサン、t-へキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート等が挙げられる。
【0071】
パーオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-へキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロへキサン、1,1-ビス(t-へキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロへキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)デカン等が挙げられる。
【0072】
ジアルキルパーオキサイドとしては、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)へキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。
【0073】
ジアシルパーオキサイドとしては、イソブチルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルへキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシニツクパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシトルエン、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0074】
酸化剤は、貯蔵安定性の観点から、好ましくは過酸化物であり、より好ましくはハイドロパーオキサイドであり、更に好ましくはクメンハイドロパーオキサイドである。
【0075】
第一液における酸化剤の含有量は、第一液100質量部に対して、0.5質量部以上、1質量部以上、又は2質量部以上であってよく、20質量部以下、10質量部以下、又は5質量部以下であってよい。第一液における酸化剤の含有量は、第一液及び第二液の総量100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は1質量部以上であってよく、10質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってよい。
【0076】
第二液に含まれる還元剤は、例えば、第3級アミン、チオ尿素誘導体、遷移金属塩等であってよい。第3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルパラトルイジン等が挙げられる。チオ尿素誘導体としては、2-メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素等が挙げられる。遷移金属塩としては、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、バナジルアセチルアセトネート等が挙げられる。還元剤は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
還元剤は、硬化速度に優れる観点から、好ましくは、チオ尿素誘導体又は遷移金属塩である。チオ尿素誘導体は、例えば、エチレンチオ尿素であってよい。同様の観点から、遷移金属塩は、好ましくはバナジルアセチルアセトネートである。
【0078】
第二液における還元剤の含有量は、第二液100質量部に対して、0.1質量部以上、0.3質量部以上、又は0.5質量部以上であってよく、10質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下であってよい。第二液における還元剤の含有量は、第一液及び第二液の総量100質量部に対して、0.05質量部以上、0.1質量部以上、又は0.3質量部以上であってよく、5質量部以下、3質量部以下、又は1質量部以下であってよい。
【0079】
樹脂組成物セットは、アクリル樹脂、酸化剤及び還元剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は、第一液及び第二液の一方又は両方に含まれていてよく、第一液及び第二液とは異なる第三液に含まれていてもよい。
【0080】
その他の成分は、下記式(4)で表されるモノマー(モノマーX)であってよい。
【化12】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。
【0081】
で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは12~28、より好ましくは12~24、更に好ましくは12~22、特に好ましくは12~18、最も好ましくは12~14である。
【0082】
モノマーXは、言い換えれば、炭素数12~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートである。第1のモノマーとしては、例えば、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート(セチル(メタ)アクリレート)、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレート)、テトラコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーXは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0083】
モノマーXの含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、第一液及び第二液の総量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上であり、例えば60質量部以下であってよい。
【0084】
その他の成分は、硬化促進剤、炭化水素化合物、酸化防止剤、着色剤、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族ケトン、脂肪族アルデヒド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、フィラー、結晶核剤、熱安定剤、熱伝導材、可塑剤、発泡剤、難燃剤、制振剤等であってもよい。これらのその他の成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。その他の成分は、第一液及び第二液の一方又は両方に含まれていてよい。
【0085】
第一液及び/又は第二液は、好ましくは室温(25℃)で液体状であり、20℃以上の範囲において液体状であってよい。第一液及び/又は第二液の60℃における粘度は、流動性及びハンドリング性に優れる観点から、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下、更に好ましくは20Pa・s以下、特に好ましくは10Pa・s以下である。同様の観点から、第一液及び/又は第二液の粘度は、アクリル樹脂の融点+20℃において、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下、更に好ましくは20Pa・s以下、特に好ましくは10Pa・s以下である。第一液及び/又は第二液の60℃における粘度又はアクリル樹脂の融点+20℃における粘度は、例えば0.5Pa・s以上であってよい。
【0086】
第一液及び/又は第二液の粘度は、JIS Z 8803に基づいて測定された値を意味し、具体的には、E型粘度計(東機産業(株)製、PE-80L)により測定された値を意味する。なお、粘度計の校正は、JIS Z 8809-JS14000に基づいて行うことができる。また、アクリル樹脂の融点は、実施例に記載の方法で測定された値を意味する。
【0087】
以上説明した樹脂組成物セットにおいては、第一液及び第二液を混合することにより、混合物(樹脂組成物)を硬化させることができる。この混合物の硬化物は、蓄熱材として好適に用いられる。すなわち、第一液と第二液の混合物は、蓄熱材用樹脂組成物として好適である。一実施形態に係る蓄熱材は、上述した第一液及び第二液の混合物の硬化物を含んでいる。この蓄熱材では、アクリル樹脂の硬化物が蓄熱性を有する成分として機能するため、蓄熱材は、一実施形態において、例えば従来の蓄熱材に用いられるような潜熱蓄熱材が内包された蓄熱カプセルを含んでいなくてもよく、この場合であっても優れた蓄熱量が得られる。
【0088】
蓄熱材(第一液及び第二液の混合物の硬化物)は、様々な分野に活用され得る。蓄熱材は、例えば、自動車、建築物、公共施設、地下街等における空調設備(空調設備の効率向上)、工場等における配管(配管の蓄熱)、自動車のエンジン(当該エンジン周囲の保温)、電子部品(電子部品の昇温防止)、下着の繊維などに用いられる。
【0089】
これらの各用途において、蓄熱材は、各用途で熱を発生させる熱源に対して熱的に接触するように配置されることにより、当該熱源の熱を蓄えることができる。つまり、本発明の一実施形態は、熱源と、熱源と熱的に接触するように設けられた蓄熱材(第一液及び第二液の混合物の硬化物)と、を備える物品である。
【0090】
図1は、蓄熱材を備える物品の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示すように、物品1は、熱源2と、熱源2と熱的に接触するように設けられた蓄熱材3と、を備える。蓄熱材3は、熱源2の少なくとも一部に熱的に接触するように配置されていればよく、図1に示すように熱源2の一部が露出していてもよいし、熱源2の表面全体が覆われるように配置されてもよい。蓄熱材3が熱源2に熱的に接触していれば、熱源2と蓄熱材3とは直接接していてもよく、熱源2と蓄熱材3との間に他の部材(例えば熱伝導性を有する部材)が配置されてもよい。
【0091】
例えば、蓄熱材3が、熱源2としての空調設備(又はその部品)、配管、又は自動車のエンジンと共に用いられる場合、蓄熱材3がこれらの熱源2と熱的に接触していることにより、熱源2から生じた熱を蓄熱材3が蓄え、熱源2が一定以上の温度に保たれやすくなる(保温される)。蓄熱材3が下着の繊維として使用される場合、熱源2としての人体から生じた熱を蓄熱材3が蓄えるため、長時間に亘り温かさを感じることができる。
【0092】
例えば、蓄熱材3が、熱源2としての電子部品と共に用いられる場合、電子部品と熱的に接触するように配置されることにより、電子部品で生じた熱を蓄えることができる。この場合、例えば、蓄熱材を放熱部材と熱的に更に接触するように配置すれば、蓄熱材に蓄えられた熱を徐々に放出することができ、電子部品で生じた熱が急激に外部に放出される(電子部品近傍が局所的に高温になる)ことを抑制できる。
【0093】
蓄熱材3は、上述した第一液及び第二液の混合物の硬化物をシート状(フィルム状)に形成してから、熱源2に配置されてもよい。シート状の硬化物は、樹脂組成物セットの第一液及び第二液を混合しながら成形することによって得られる。すなわち、蓄熱材3の製造方法は、一実施形態において、樹脂組成物セットの第一液及び第二液を混合しながらシート状に成形する工程(成形工程)を備えている。成形工程における成形は、射出成形、圧縮成形又はトランスファー成形であってよい。この場合、蓄熱材3は、ケーシングを必要とせず、蓄熱材3単独でも、取り付ける対象物に貼り付けられたり、巻き付けられたり、様々な状態で取り付けられることが可能である。
【0094】
他の一実施形態においては、上述した上述した第一液及び第二液の混合物の硬化物(単に「硬化物」ともいう。)は、蓄熱材用途以外にも用いることができる。硬化物は、例えば、撥水材、防霜材、屈折率調整材、潤滑材、吸着材、熱硬化応力緩和材又は低誘電材の形成に好適に用いられる。撥水材、防霜材、屈折率調整材、潤滑材、吸着材、熱硬化応力緩和材及び低誘電材は、それぞれ、例えば上述した硬化物を含んでいてよい。
【実施例
【0095】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
[アクリル樹脂の合成]
以下のとおり、公知の溶液重合方法により、実施例1~7で用いたアクリル樹脂A~Eを合成した。
【0097】
(アクリル樹脂Aの合成例)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、排出管及び加熱ジャケットから構成された500mLフラスコを反応器とし、モノマーとしてテトラデシルアクリレート80g、ブチルアクリレート10g、2-ヒドロキシエチルアクリレート10g、溶媒として2-プロパノール81.8gを混合し、反応器に加え、室温下(25℃)、撹拌回転数250回/分で撹拌し、1時間、窒素を100mL/分で流した。
その後、30分かけて70℃に昇温し、昇温完了後、アゾビスイソブチロニトリル0.28gをメチルエチルケトン2mLに溶解した溶液を反応器に添加し、反応を開始させた。その後、反応器内温度70℃で撹拌し、5時間反応させた。その後、アゾビスイソブチロニトリル0.05gをメチルエチルケトン2mLに溶解した溶液を反応器に添加し、15分かけて90℃まで昇温し、更に2時間反応させた。その後、溶媒を除去、乾燥し、アクリル樹脂A中間体を得た。次に、300mLナス型フラスコを反応器とし、アクリル樹脂A中間体100g、2-イソシアナトエチルメタクリレート1.5g、ジラウリン酸ジブチルスズ0.005gを混合し、75℃で1時間、撹拌回転数400rpmで撹拌しアクリル樹脂Aを得た。アクリル樹脂Aの重量平均分子量(Mw)は、26000であった。
【0098】
アクリル樹脂B~Eについては、モノマー成分を表1に示すモノマー成分に変更した以外は、アクリル樹脂Aの合成例と同様の方法で合成した。得られた各アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)と融点を表1に併せて示す。
【0099】
アクリル樹脂の融点は、以下のとおり測定した。
示差走査熱量測定計(パーキンエルマー社製、型番DSC8500)を用いて、20℃/分で100℃まで昇温し、100℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で-30℃まで降温し、次いで-30℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで再び昇温することによって、アクリル樹脂の熱挙動を測定し、融解ピークをアクリル樹脂の融点として算出した。
【0100】
【表1】
【0101】
なお、ラウリルアクリレートは大阪有機化学工業(株)製、テトラデシルアクリレートは東京化成工業(株)製、ブチルアクリレートは和光純薬工業(株)製、セチルアクリレート、ステアリルアクリレートは日油(株)製、2-ヒドロキシエチルアクリレートは日本触媒(株)製、2-イソシアナトエチルメタクリレートは昭和電工(株)製を用いた。
【0102】
[蓄熱材の作製]
(実施例1)
アクリル樹脂A 50g、テトラデシルアクリレート50g、クメンヒドロキシパーオキサイド3.5gを混合し、第一液を得た。また、アクリル樹脂A 50g、テトラデシルアクリレート50g、バナジルアセチルアセトナート1.0gを混合し、第二液を得た。この第一液の60℃における粘度を、E型粘度計(東機産業(株)製、PE-80L)を用いて、JIS Z 8803に基づいて測定した。結果を表2に示す。
次に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に10cm×10cm×1mmの型枠(SUS板)をスペーサとして設置し、その中に第一液及び第二液をミキシングノズル(トミタエンジニアリング株式会社製)を用いて混合しながら充填し、別のPETフィルムを被せ、24時間養生した。養生後、PETフィルム及び型枠を除去し厚さ1mmのシート状の蓄熱材を得た。
【0103】
(実施例2~7)
第一液と第二液の組成を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で第一液の粘度測定及び蓄熱材の作製を実施した。結果を表2に示す。
【0104】
[融点及び蓄熱量の評価]
実施例で作製した各蓄熱材を、示差走査熱量測定計(パーキンエルマー社製、型番DSC8500)を用いて測定し、融点と蓄熱量を算出した。具体的には、20℃/分で100℃まで昇温し、100℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で-30℃まで降温し、次いで-30℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで再び昇温して熱挙動を測定した。融解ピークを蓄熱材の融点とし、面積を蓄熱量とした。結果を表2に示す。なお、蓄熱量が30J/g以上であれば、蓄熱量に優れているといえる。
【0105】
[液漏れ及び揮発性の評価]
実施例で作製した各蓄熱材を、80℃の温度にて大気雰囲気下で1000時間静置前後の重量変化を測定し、重量減少率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0106】
[ゲル化時間の測定]
実施例で作製した第一液、第二液それぞれ1gを直径4cmアルミカップに充填し、このアルミカップを竹串で撹拌しながら、ゲル化するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2中、TDAはテトラデシルアクリレート(東京化成工業(株)製)、CHPはクメンヒドロキシパーオキサイド(和光純薬(株)製)、VAAはバナジルアセチルアセトナート(和光純薬(株)製)をそれぞれ示す。エチレンチオ尿素は和光純薬(株)製を使用した。
【0109】
実施例の蓄熱材は、第一液及び第二液を素早く硬化させて得ることができ、蓄熱量に優れており、加えて、液漏れ及び揮発を抑制できる。また、実施例の蓄熱材は、液体状の第一液及び第二液を混合して硬化させることにより得られるので、複雑な形状を有する部材に対しても適用可能な点で有利である。
【符号の説明】
【0110】
1…物品、2…熱源、3…蓄熱材。
図1