(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】プレフィルドシリンジおよびプレフィルドシリンジの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/31 20060101AFI20231205BHJP
A61M 5/28 20060101ALI20231205BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231205BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231205BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61M5/31 530
A61M5/28
A61K9/08
A61K47/34
A61K39/395 U
(21)【出願番号】P 2020533463
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019029094
(87)【国際公開番号】W WO2020026927
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018143856
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018189474
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月5日付で、https://jpharmsci.orga/article/S0022-3549(18)30063-7/fulltextにて公開。
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】澤口 太一
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/087798(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/051962(WO,A1)
【文献】特開2016-059635(JP,A)
【文献】特開2018-070784(JP,A)
【文献】特開2008-093830(JP,A)
【文献】国際公開第2021/153511(WO,A1)
【文献】特表2021-514781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/28
A61M 5/31
A61K 9/08
A61K 47/34
A61K 39/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部にノズル部を備える外筒と、
前記ノズル部を封止する封止部材と、
前記外筒内に摺動可能に収納されたガスケットと、
前記ガスケットに連結され、前記ガスケットを前記外筒の長手方向に移動操作する押し子と、
前記外筒の内壁面の一部の領域と、前記
封止部材と、前記ガスケットで画定される空間に充填されたタンパク質溶液製剤を備えるプレフィルドシリンジであって、
前記外筒は、環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂からなり、
前記外筒の成形に用いられる樹脂が、酸素濃度が10質量ppm以下であり、
そして、前記タンパク質溶液製剤中における非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満である、
プレフィルドシリンジ。
【請求項2】
前記内壁面の前記一部の領域の水接触角が90°以上である、請求項1に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項3】
前記タンパク質溶液製剤が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項4】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項5】
前記タンパク質溶液製剤が、オファツムマブ、セツキシマブ、トシリズマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、エクリズマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アダリムマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、リツキシマブ、ラニビズマブ、インフリキシマブ、アフリベルセプト、アバタセプト、エタネルセプト、ゲムツズマブオゾガマイシン、パニツムマブ、バシリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル、およびパリビズマブからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項6】
先端部にノズル部を備える外筒と、前記ノズル部を封止する封止部材と、前記外筒内に摺動可能に収納されたガスケットと、前記ガスケットに連結され、前記ガスケットを前記外筒の長手方向に移動操作する押し子とを備えるシリンジ内部に、タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを製造する方法であって、
環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂
を予備乾燥する工程と、
前記予備乾燥後の樹脂を成形して、前記外筒を得る工程と、
前記外筒に、非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を注入して、前記外筒の内壁面の一部の領域と、前記
封止部材と、前記ガスケットで画定される空間に前記タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを得る工程
と、
を備え
、
前記予備乾燥後の前記樹脂中の酸素濃度が、10質量ppm以下である、プレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項7】
前記内壁面の前記一部の領域の水接触角が90°以上である、請求項6に記載のプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項8】
前記予備乾燥を、不活性ガス雰囲気下で行う、請求項
6または7に記載のプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項9】
前記予備乾燥の乾燥温度が、80℃以上120℃以下である、請求項
6~8の何れかに記載のプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項10】
前記タンパク質溶液製剤が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含む、請求項6~
9の何れかに記載のプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項11】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
10に記載のプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項12】
前記タンパク質溶液製剤が、オファツムマブ、セツキシマブ、トシリズマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、エクリズマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アダリムマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、リツキシマブ、ラニビズマブ、インフリキシマブ、アフリベルセプト、アバタセプト、エタネルセプト、ゲムツズマブオゾガマイシン、パニツムマブ、バシリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル、およびパリビズマブからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項6~
9の何れかに記載のプレフィルドシリンジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジおよびプレフィルドシリンジの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、使用時の簡便性に優れかつ注射液の取り違えなどの医療事故を防止できるという点から、予め注射液をシリンジに充填したプレフィルドシリンジの使用が拡大している。
【0003】
ここで、プレフィルドシリンジに充填される注射液としては、例えば、水溶液中にタンパク質を含有してなる製剤(タンパク質溶液製剤)が用いられている。そして、このようなタンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジにおいては、長期保存した際にタンパク質が凝集してしまうという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特許文献1では、タンパク質としてエリスロポエチンを含むタンパク質溶液製剤中のタンパク質濃度を所定範囲内にしつつ、当該製剤中に非イオン性界面活性剤および等張剤を含有させ、且つ、当該製剤を充填する容器として、当該製剤と直接接触する部分の材質が、1)環状オレフィンとオレフィンの共重合体であるシクロオレフィンコポリマー、2)シクロオレフィン類開環重合体、3)シクロオレフィン類開環重合体に水素添加したもの、から選択される疎水性樹脂である容器を用いる手法が提案されている。そして、特許文献1では、非イオン性界面活性剤として、例えばポリソルベート80とポリソルベート20が用いられている。この非イオン性界面活性剤は、タンパク質であるエリスロポエチンの安定化剤として機能しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリソルベート80やポリソルベート20などの非イオン性界面活性剤は、プレフィルドシリンジを長期保存すると、タンパク質溶液製剤中で分解し、分解産物が生成することがあった。このような分解産物は、人体に投与した場合に、過敏症や染色体異常などの問題を引き起こす虞、発がん性があるといったデメリットがある。
即ち、上記従来のプレフィルドシリンジには、長期保存した際に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制する一方で、非イオン性界面活性剤の分解産物生成を抑えるという点において、更なる改善の余地があった。
【0007】
従って、本発明は、長期保存後のタンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制しつつ、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうるプレフィルドシリンジを提供することを目的とする。
また、本発明は、長期保存後のタンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制しつつ、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうるプレフィルドシリンジを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、非イオン界面活性剤の濃度が所定の範囲内であるタンパク質溶液製剤を、所定の樹脂を用いて形成される外筒を備えるシリンジに充填してプレフィルドシリンジを作製すれば、当該プレフィルドシリンジを長期保存した場合であっても、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制することができ、更には非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のプレフィルドシリンジは、先端部にノズル部を備える外筒と、前記ノズル部を封止する封止部材と、前記外筒内に摺動可能に収納されたガスケットと、前記ガスケットに連結され、前記ガスケットを前記外筒の長手方向に移動操作する押し子と、前記外筒の内壁面の一部の領域と、前記キャップと、前記ガスケットで画定される空間に充填されたタンパク質溶液製剤を備えるプレフィルドシリンジであって、前記外筒は、環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂からなり、そして、前記タンパク質溶液製剤中における非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満である、ことを特徴とする。このように、非イオン界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体を含む樹脂から形成される外筒を備えるシリンジに充填してなるプレフィルドシリンジは、長期保存した場合であっても、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制され、また非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量が低い。
【0010】
ここで、本発明のプレフィルドシリンジは、前記内壁面の前記一部の領域の水接触角が90°以上であることが好ましい。タンパク質溶液製剤と接する内壁面の一部の領域(以下、「製剤接触領域」と称する場合がある。)の水接触角が90°以上である外筒を備えるプレフィルドシリンジは、長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。
なお、本発明において、製剤接触領域の「水接触角」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
そして、本発明のプレフィルドシリンジでは、前記タンパク質溶液製剤が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含むことができる。
【0012】
更に、本発明のプレフィルドシリンジでは、前記抗体を、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つとすることができる。
【0013】
また、本発明のプレフィルドシリンジでは、前記タンパク質溶液製剤が、オファツムマブ、セツキシマブ、トシリズマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、エクリズマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アダリムマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、リツキシマブ、ラニビズマブ、インフリキシマブ、アフリベルセプト、アバタセプト、エタネルセプト、ゲムツズマブオゾガマイシン、パニツムマブ、バシリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル、およびパリビズマブからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、先端部にノズル部を備える外筒と、前記ノズル部を封止する封止部材と、前記外筒内に摺動可能に収納されたガスケットと、前記ガスケットに連結され、前記ガスケットを前記外筒の長手方向に移動操作する押し子とを備えるシリンジ内部に、タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを製造する方法であって、環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂からなる外筒に、非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を注入して、前記外筒の内壁面の一部の領域と、前記キャップと、前記ガスケットで画定される空間に前記タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを得る工程、を備える、ことを特徴とする。このように、非イオン界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体を含む樹脂から形成される外筒を備えるシリンジに充填すれば、得られるプレフィルドシリンジを長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制することができ、また非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減することができる。
【0015】
ここで、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、前記内壁面の前記一部の領域の水接触角が90°以上であることが好ましい。製剤接触領域の水接触角が90°以上である外筒を用いれば、得られるプレフィルドシリンジを長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。
【0016】
そして、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、前記プレフィルドシリンジを得る工程に先んじて、更に、前記樹脂を予備乾燥する工程と、前記予備乾燥後の樹脂を成形して、前記外筒を得る工程を備えることが好ましい。予備乾燥した樹脂を成形して得られる外筒を用いれば、得られるプレフィルドシリンジを長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。
【0017】
更に、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、前記予備乾燥後の前記樹脂中の酸素濃度が、10質量ppm以下であることが好ましい。予備乾燥した樹脂中の酸素濃度が10質量ppm以下であれば、得られるプレフィルドシリンジを長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集をより一層抑制することができる。
なお、本発明において、樹脂中の「酸素濃度」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0018】
また、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、前記予備乾燥を、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。樹脂の予備乾燥を不活性ガス雰囲気下で行えば、得られるプレフィルドシリンジを長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集をより一層抑制することができる。
【0019】
ここで、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、前記予備乾燥の乾燥温度が、80℃以上120℃以下であることが好ましい。樹脂の予備乾燥を上述した範囲内の温度で行えば、得られるプレフィルドシリンジを長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集をより一層抑制することができる。
【0020】
そして、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法では、前記タンパク質溶液製剤が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含むことができる。
【0021】
更に、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法では、前記抗体を、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つとすることができる。
【0022】
また、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法では、前記タンパク質溶液製剤が、オファツムマブ、セツキシマブ、トシリズマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、エクリズマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アダリムマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、リツキシマブ、ラニビズマブ、インフリキシマブ、アフリベルセプト、アバタセプト、エタネルセプト、ゲムツズマブオゾガマイシン、パニツムマブ、バシリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル、およびパリビズマブからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、長期保存後のタンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制しつつ、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうるプレフィルドシリンジを提供することができる。
また、本発明によれば、長期保存後のタンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制しつつ、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうるプレフィルドシリンジを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に従うプレフィルドシリンジの一例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
ここで、本発明のプレフィルドシリンジは、シリンジ内部にタンパク質溶液製剤が充填されてなる。そして、本発明のプレフィルドシリンジは、例えば、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法を用いて製造することができる。
【0026】
(プレフィルドシリンジ)
本発明のプレフィルドシリンジは、先端部にノズル部を備える外筒と、ノズル部を封止する封止部材と、外筒内に摺動可能に収納されたガスケットと、ガスケットに連結され、ガスケットを外筒の長手方向に移動操作する押し子とを備え、タンパク質溶液製剤が、外筒の内壁面の一部である製剤接触領域と、封止部材と、ガスケットで画定される空間に充填されている。
【0027】
ここで、上述した本発明のプレフィルドシリンジの構造の一例を、図を用いて説明する。
図1に示されるプレフィルドシリンジ1は、外筒10と、封止部材(
図1ではキャップ)20と、ガスケット30と、押し子40と、タンパク質溶液製剤50とを備える。外筒10は、先端部11にノズル部12を有しており、ノズル部12に封止部材20が嵌合している。ガスケット30は、外筒10の長手方向に、当該外筒10内を摺動可能であり、ガスケット30の摺動は、ガスケット30に連結された押し子40により行うことが可能である。また、タンパク質溶液製剤50は、外筒10の内壁面13の一部の領域である製剤接触領域14と、封止部材20と、ガスケット30と、で画定される空間に充填されている。
【0028】
そして、本発明のプレフィルドシリンジにおいては、充填されたタンパク質溶液製剤中における非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であり、更には、外筒が、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂を成形してなることを特徴とする。
本発明のプレフィルドシリンジは、長期保存した場合であっても、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集が抑制され、また長期保存後における、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低く抑えることができる。このような効果が得られる理由は、以下の通りであると推察される。
【0029】
すなわち、本発明のプレフィルドシリンジには、非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤が充填されている。このタンパク質溶液製剤に必須成分として含まれる非イオン性界面活性剤が、タンパク質の安定化剤として機能する。一方で、このタンパク質溶液製剤は、非イオン性界面活性剤の濃度が0.05mg/mL未満と少量であるため、非イオン性界面活性剤が分解した場合であっても、その分解産物の生成量を低く抑えることができる。
更には、本発明のプレフィルドシリンジでは、上述したタンパク質溶液製剤が、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂から成形してなる外筒に充填されている。上述した所定の樹脂の成形体である外筒は、当該樹脂の有する疎水的な性質により、製剤接触領域とタンパク質との親和性が低下して、製剤接触領域へのタンパク質の吸着が抑えられ、製剤接触領域における(即ち、外筒の内壁面上における)タンパク質の凝集を抑制することができると推察される。このような樹脂の寄与と、上述した非イオン性界面活性剤の安定化剤としての寄与が相まって、プレフィルドシリンジを長期間保存した場合であっても、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制できると考えられる。
【0030】
以下、本発明のプレフィルドシリンジに充填されるタンパク質溶液製剤、並びに本発明のプレフィルドシリンジを構成するシリンジ(外筒、封止部材、ガスケット、および押し子)について、必要に応じて
図1を参照しつつ説明する。
【0031】
<タンパク質溶液製剤>
タンパク質溶液製剤は、少なくとも、タンパク質と、非イオン界面活性剤と、水とを含み、非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL以未満である。
【0032】
<<タンパク質>>
タンパク質溶液製剤に含まれるタンパク質としては、特に限定されないが、例えば、抗体(キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、およびこれらのドメイン抗体)、並びにその抗原結合断片が挙げられる。
【0033】
そして、より具体的なタンパク質としては、例えば、オファツムマブ(商品名「アーゼラ(登録商標)」)、セツキシマブ(商品名「アービタックス(登録商標)」)、トシリズマブ(商品名「アクテムラ(登録商標)」)、ベバシズマブ(商品名「アバスチン(登録商標)」)、カナキヌマブ(商品名「イラリス(登録商標)」)、ゴリムマブ(商品名「シンポニー(登録商標)」)、ウステキヌマブ(商品名「ステラーラ(登録商標)」)、エクリズマブ(商品名「ソリリス(登録商標)」)、オマリズマブ(商品名「ゾレア(登録商標)」)、トラスツズマブ(商品名「ハーセプチン(登録商標)」)、ペルツズマブ(商品名「パージェタ(登録商標)」)、アダリムマブ(商品名「ヒュミラ(登録商標)」)、デノスマブ(商品名「プラリア(登録商標)」、商品名「ランマーク(登録商標))、モガムリズマブ(商品名「ポテリジオ(登録商標)」)、リツキシマブ(商品名「リツキサン(登録商標)」)、ラニビズマブ(商品名「ルセンティス(登録商標)」)、インフリキシマブ(商品名「レミケード(登録商標)」)、アフリベルセプト(商品名「アイリーア(登録商標)」)、アバタセプト(商品名「オレンシア(登録商標)」)、エタネルセプト(商品名「エンブレル(登録商標)」)、ゲムツズマブオゾガマイシン(商品名「マイロターグ(登録商標)」)、パニツムマブ(商品名「ベクティビックス(登録商標)」)、バシリキシマブ(商品名「シムレクト(登録商標)」)、セルトリズマブ ペゴル(商品名「シムジア(登録商標)」)、およびパリビズマブ(商品名「シナジス(登録商標)」)が挙げられる。
【0034】
なお、タンパク質溶液製剤は、1種のタンパク質を含んでいてもよいし、2種以上のタンパク質を含んでいてもよい。すなわち、タンパク質溶液製剤は、例えば、抗体と抗原結合断片の双方を含んでいてもよいし、2種以上の抗体を含んでいてもよいし、2種以上の抗原結合断片を含んでいてもよい。
【0035】
ここで、タンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の濃度は、0.005mg/mL以上であることが好ましく、0.01mg/mL以上であることがより好ましく、0.05mg/mL以上であることが更に好ましく、500mg/mL以下であることが好ましく、300mg/mL以下であることがより好ましく、200mg/mL以下であることが更に好ましい。タンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の濃度が0.005mg/mL以上であれば、タンパク質溶液製剤を人体などに投与した際に当該タンパク質の所期の効果を十分に得ることができ、500mg/mL以下であれば、プレフィルドシリンジを長期保存した際に、タンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を更に抑制することができる。
【0036】
<<非イオン性界面活性剤>>
非イオン性界面活性剤は、上述したタンパク質を安定化させる、安定化剤として機能しうる成分である。このような非イオン性界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80)およびモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)など)、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドが挙げられる。
なお、非イオン性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ここで、タンパク質溶液製剤中の非イオン性界面活性剤の濃度は、0mg/mL超0.05mg/mL未満であることが必要であり、0.005mg/mL以上であることが好ましく、0.01mg/mL以上であることがより好ましく、0.045mg/mL以下であることが好ましく、0.04mg/mL以下であることがより好ましい。タンパク質溶液製剤中の非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mLである(即ち、タンパク質溶液製剤が非イオン性界面活性剤を含まない)と、プレフィルドシリンジを長期保存した際に、タンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制することができない。一方、タンパク質溶液製剤中の非イオン性界面活性剤の濃度が0.05mg/mL以上であると、プレフィルドシリンジを長期保存した際に、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低く抑えることができない。
なお、このような分解産物としては、例えば、非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドなど)である場合は、長期保存の際に、ポリオキシエチレン鎖末端が自己酸化により切断されて生成する分解産物が挙げられる。
【0038】
<<その他の成分>>
ここで、タンパク質溶液製剤は、タンパク質と、水と、非イオン性界面活性剤以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。タンパク質溶液製剤に任意に含まれるその他の成分としては、タンパク質溶液製剤の調製に用いられる既知の成分が挙げられる。このような既知の成分としては、例えば、安定化剤(上述した非イオン性界面活性剤を除く)、希釈剤、溶解補助剤、等張化剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤などが挙げられる。さらに、その他の成分としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩なども挙げられる。なお、タンパク質溶液製剤中の無機塩の濃度は、300mM以下が好ましい。また、タンパク質溶液製剤中の有機塩の濃度は、300mM以下が好ましい。
【0039】
<<調製方法>>
タンパク質溶液製剤の調製方法は、少なくともタンパク質が溶解し、非イオン性界面活性剤の濃度が所定の範囲内のタンパク質溶液製剤を得ることができれば特に限定されない。例えば、タンパク質および必要に応じて用いられる界面活性剤を、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、およびクエン酸緩衝液などの水性緩衝液に溶解させることで得ることができる。
そして、得られるタンパク質溶液製剤のpHは、特に限定されないが、3.0以上8.0以下とすることができる。
【0040】
<外筒>
本発明のプレフィルドシリンジが備える外筒は、先端部にノズル部を備えると共に、内部にタンパク質溶液製剤およびガスケットを収納可能な部材である。例えば、
図1のプレフィルドシリンジ1において、外筒10は、外筒本体部15と、外筒本体部15の先端側(先端部11)に設けられたノズル部12と、外筒本体部15の後端側に設けられたフランジ16とを備える。
外筒本体部15は、ガスケット30を液密かつ摺動可能に収納する筒状の部分である。
ノズル部12は、外筒本体部15より小径の筒状部となっている。また、ノズル部12は、先端に外筒10内のタンパク質溶液製剤50を排出するための開口を備える。
そして、外筒10は、外筒本体部15とノズル部12において、内壁面13の一部である製剤接触領域14でタンパク質溶液製剤50と接している。
【0041】
ここで、外筒は、環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含む樹脂の成形体である。なお、外筒の形成に用いる樹脂は、上述した環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0042】
<<環状オレフィン開環重合体水素添加物>>
環状オレフィン開環重合体水素添加物は、単量体としての環状オレフィンを開環重合して得られる環状オレフィン開環重合体を更に水素添加反応に供することで得られる重合体である。
【0043】
[環状オレフィン開環重合体]
ここで、環状オレフィン開環重合体の調製に用いる、単量体である環状オレフィンとしては、炭素原子で形成される環状構造を有し、かつ該環状構造中に重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を用いることができる。具体的に、単量体である環状オレフィンとしては、ノルボルネン系単量体(ノルボルネン環を含む単量体)や、単環の環状オレフィン単量体が挙げられる。なお、ノルボルネン系単量体に含まれる「ノルボルネン環」は、その環構造を構成する炭素-炭素単結合の間に一又は複数の炭素原子が介在していてもよく、また、これらの介在した炭素原子同士が更に単結合を形成した結果、ノルボルネン環内に新たな環構造を形成していてもよい。
【0044】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、
ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの。以下同じ)、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:エチリデンノルボルネン)およびその誘導体等の2環式単量体;
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)およびその誘導体等の3環式単量体;
7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレンおよびその誘導体、テトラシクロ[7.4.0.02,7.110,13]トリデカ-2,4,6,11-テトラエンともいう)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体(例えば、8-メチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン)、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンおよびその誘導体等の4環式単量体;
が挙げられる。
【0045】
ここで、上述した誘導体が有する置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロパン-2-イリデン基等のアルキリデン基;フェニル基等のアリール基;ヒドロキシ基;酸無水物基;カルボキシル基;メトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;が挙げられる。
【0046】
また、単環の環状オレフィン単量体としては、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の環状モノオレフィン;シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエン等の環状ジオレフィン;等が挙げられる。
【0047】
上述した環状オレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、環状オレフィンを2種以上用いる場合、環状オレフィン開環重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
そして、これらの中でも、環状オレフィンとしては、ノルボルネン系単量体が好ましく、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエンおよびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンおよびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エンおよびその誘導体がより好ましく、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エンが更に好ましい。
【0048】
ここで、環状オレフィン開環重合体の調製に用いられるノルボルネン系単量体の量は、特に限定されないが、環状オレフィン開環重合体の調製に用いる環状オレフィン全体の量100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%(すなわち、環状オレフィン開環重合体は、単量体として、1種類または2種類以上のノルボルネン系単量体のみを用いて得られる重合体である)ことが更に好ましい。
【0049】
環状オレフィン開環重合体の調製方法は、特に限定されず、例えば、上述した単量体としての環状オレフィンを、メタセシス重合触媒を用いて開環重合する既知の方法を採用することができる。このような方法としては、例えば、特開2016-155327号公報に記載の方法が挙げられる。
【0050】
なお、上述のようにして得られる環状オレフィン開環重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましく、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。環状オレフィン開環重合体の重量平均分子量が10,000以上であれば、当該環状オレフィン開環重合体の水素添加物を含む樹脂を成形して得られる外筒の強度を十分に確保することができる。一方、環状オレフィン開環重合体の重量平均分子量が100,000以下であれば、当該環状オレフィン開環重合体の水素添加物を含む樹脂の成形性を十分に確保することができる。
また、環状オレフィン開環重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上4以下である。環状オレフィン開環重合体の分子量分布が上記範囲内にあることで、十分な機械的強度を有する外筒を得ることができる。
なお、本発明において、環状オレフィン開環重合体などの重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、シクロヘキサンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)による標準ポリイソプレン換算値である。
【0051】
[水素添加反応]
上記環状オレフィン開環重合体を水素添加反応に供することで、環状オレフィン開環重合体水素添加物を得ることができる。環状オレフィン開環重合体に水素添加する方法は、特に限定されず、例えば、水素化触媒の存在下で、反応系内に水素を供給する既知の方法を採用することができる。このような方法としては、例えば、特開2016-155327号公報に記載の方法が挙げられる。
なお、水素添加反応における水素添加率(水素化された主鎖炭素-炭素二重結合の割合)は、特に限定されないが、環状オレフィン開環重合体水素添加物を成形して外筒を作製する際のヤケ発生や酸化劣化を抑える観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは99%以上である。
なお、本発明において、水素添加反応における「水素添加率」は、核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0052】
上述した水素添加反応後に得られる環状オレフィン開環重合体水素添加物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましく、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。環状オレフィン開環重合体水素添加物の重量平均分子量が10,000以上であれば、環状オレフィン開環重合体水素添加物を含む樹脂を成形して得られる外筒の強度を十分に確保することができる。一方、環状オレフィン開環重合体水素添加物の重量平均分子量が100,000以下であれば、環状オレフィン開環重合体水素添加物を含む樹脂の成形性を十分に確保することができる。
また、環状オレフィン開環重合体水素添加物の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上4以下である。環状オレフィン開環重合体水素添加物の分子量分布が上記範囲内にあることで、十分な機械的強度を有する外筒を得ることができる。
【0053】
<<環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体>>
環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体(以下、単に「共重合体」と略記する場合がある。)は、単量体である環状オレフィンと、単量体である鎖状オレフィンとを共重合して得られる重合体である。
【0054】
[環状オレフィン]
共重合体の調製に用いる、単量体である環状オレフィンとしては、「環状オレフィン開環重合体水素添加物」の項で上述したものと同様のものを用いることができる。環状オレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。そして、これらの中でも、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体が好ましく、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンがより好ましい。
【0055】
[鎖状オレフィン]
共重合体の調製に用いる、単量体である鎖状オレフィンとしては、炭素原子で形成される鎖状構造を有し、かつ該鎖状構造中に重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を用いることができる。なお、本発明において、環状オレフィンに該当する化合物は、鎖状オレフィンには含まれないものとする。
【0056】
ここで、鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等のα-オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香環ビニル化合物;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン;が挙げられる。
【0057】
鎖状オレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。そして、これらの中でも、鎖状オレフィンとしては、α-オレフィンが好ましく、炭素数1以上20以下のα-オレフィンがより好ましく、エチレンが更に好ましい。
【0058】
[共重合]
共重合体の調製方法は、特に限定されず、例えば、上述した環状オレフィンおよび鎖状オレフィンを、重合触媒を用いて付加重合する既知の方法を採用することができる。このような方法としては、例えば、特開2016-155327号公報に記載の方法が挙げられる。
ここで、共重合体の調製に用いられる環状オレフィンと鎖状オレフィンの量の比は、特に限定されないが、共重合体の調製に用いられる環状オレフィンと鎖状オレフィンの量の合計量100質量%に対して、環状オレフィンの量が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましい。
なお、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0059】
そして、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、20,000以上であることが好ましく、25,000以上であることがより好ましく、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量が20,000以上であれば、共重合体を含む樹脂を成形して得られる外筒の強度を十分に確保することができる。一方、共重合体の重量平均分子量が100,000以下であれば、共重合体を含む樹脂の成形性を十分に確保することができる。
また、共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上4以下である。共重合体の分子量分布が上記範囲内にあることで、十分な機械的強度を有する外筒を得ることができる。
【0060】
<<好適な重合体>>
上述した通り、外筒の形成に用いる樹脂は、環状オレフィン開環重合体水素添加物と、環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の少なくとも一方を含めばよいが、樹脂は、少なくとも環状オレフィン開環重合体水素添加物を含むことが好ましい。少なくとも環状オレフィン開環重合体水素添加物を含む樹脂を成形して得られる外筒を採用すれば、プレフィルドシリンジを長期保存した際に、タンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を更に抑制することができる。
【0061】
<<その他の成分>>
外筒の形成に用いる樹脂が含みうるその他の成分としては、上述した重合体以外の重合体成分(熱可塑性エラストマー等)や、既知の添加剤が挙げられる。ここで、既知の添加剤としては、例えば特開2016-155327号公報に記載された、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、酸補足剤等が挙げられる。
これらその他の成分の樹脂中の含有量は、当該成分の添加目的に合わせて適宜決定することができる。例えば、熱可塑性エラストマーを用いる場合には、その使用量は、環状オレフィン開環重合体水素添加物および環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体の合計量を100質量部(それぞれ単独で使用する場合は、何れかの量を100質量部)として、0.05質量部以上0.5質量部以下であることが好ましい。
そして、上述した重合体と、任意にその他の成分とを含む樹脂を得る際の混合方法は、特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、フィーダールーダー等の既知の溶融混練機を用いて行うことができる。
混合後は、常法に従って、棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切ることで、ペレット化することができる。
【0062】
<<外筒の作製方法>>
上述の成分を含む樹脂を成形して外筒を得る方法は、特に限定されず、例えば、後述する「プレフィルドシリンジの製造方法」の項に記載の方法を用いて、先端部にノズル部を備える外筒を成形することができる。
【0063】
<<水接触角>>
そして、上述のようにして得られる外筒は、その内壁面に水接触角が90°以上である製剤接触領域を有することが好ましい。製剤接触領域の水接触角が90°以上であれば、当該外筒を備えるプレフィルドシリンジを長期保存した際に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。そして、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集をより一層抑制する観点からは、製剤接触領域の水接触角は、91°以上であることがより好ましく、92°以上であることが更に好ましく、93°以上であることが特に好ましい。また、製剤接触領域の水接触角の上限は、特に限定されないが、通常110°以下である。
なお、製剤接触領域の水接触角は、外筒の形成に用いる樹脂に含まれる重合体および添加剤の種類や、外筒の作製方法を変更することにより調整することができる。例えば、重合体や添加剤として疎水性のもの(親水性基を有さないもの等)を用いることで、製剤接触領域の水接触角の値を向上させることができる。また、例えば、樹脂の成形に先んじて、後述する「プレフィルドシリンジの製造方法」の項に記載の予備乾燥を行うことで、製剤接触領域の水接触角の値を向上させることができる。
【0064】
<<封止部材>>
本発明のプレフィルドシリンジが備える封止部材は、外筒の先端部からタンパク質溶液製剤の漏れを防ぐことができるものであれば特に限定されず、キャップや注射針など既知のものを用いることができる。例えば、
図1のプレフィルドシリンジ1では、封止部材20として、外筒10のノズル部12と嵌合するキャップを備えている。
また、封止部材の形成材料は特に限定されない。例えば、封止部材がキャップである場合は、実用新案登録第3150720号に記載の既知の樹脂を用いることができる。
【0065】
<<ガスケット>>
本発明のプレフィルドシリンジが備えるガスケットは、外筒中のタンパク質溶液製剤を密封できるものであれば特に限定されない。ガスケットは、その少なくとも外周部が弾性材料で構成されていることが好ましく、ガスケットの構成としては、例えば、剛直な材料で構成された芯部(図示せず)を有し、この芯部の外周を覆うように剛直な材料が配置された構成が挙げられる。
また、ガスケットの形成材料は特に限定されず、例えば、特許第5444835号に記載の弾性を有するゴムおよび合成樹脂を使用することができる。
【0066】
<<押し子>>
本発明のプレフィルドシリンジが備える押し子は、上述したガスケットに連結し、ガスケットを上述した外筒内で長手方向に移動させうる部材である。例えば、
図1のプレフィルドシリンジ1では、押し子40は、ガスケット30とは反対側の端部に指当て部41を備えており、この指当て部41を指等で押圧することにより押し子40を移動操作する。この押し子40の移動操作に連動してガスケット30も移動するため、タンパク質溶液製剤50を外筒10のノズル部12から外部に排出することができる。
また、押し子の形成材料は特に限定されず、例えば、特許第5444835号に記載の樹脂を使用することができる。
【0067】
(プレフィルドシリンジの製造方法)
そして、上述した本発明のプレフィルドシリンジは、例えば、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法により好適に製造することができる。
本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、先端部にノズル部を備える外筒と、ノズル部を封止する封止部材と、外筒内に摺動可能に収納されたガスケットと、ガスケットに連結され、ガスケットを外筒の長手方向に移動操作する押し子とを備えるシリンジ内部に、タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを製造する方法である。ここで、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、外筒にタンパク質溶液製剤を注入して、当該タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを得る工程(充填工程)を、少なくとも含む。そして、外筒が、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体を含む樹脂の成形体であり、当該外筒の内壁面の一部の領域(製剤接触領域)と、封止部材と、ガスケットで画定される空間に、非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を充填することを特徴とする。
非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体を含む樹脂からなる外筒に、上述した充填工程により充填して得られるプレフィルドシリンジは、「プレフィルドシリンジ」の項で上述した理由と同様の理由で、長期保存した場合であっても、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制することができ、また非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低く抑えることができる。
【0068】
なお、以下の説明における「ノズル部」、「外筒」、「環状オレフィン開環重合体水素添加物」、「環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体」、「樹脂」、「封止部材」、「ガスケット」、「押し子」、および「タンパク質溶液製剤」等は、「プレフィルドシリンジ」の項で上述したものと同じである。すなわち、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法における「ノズル部」、「外筒」、「環状オレフィン開環重合体水素添加物」、「環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体」、「樹脂」、「封止部材」、「ガスケット」、「押し子」、および「タンパク質溶液製剤」の具体例および好適例などは、上述した本発明のプレフィルドシリンジにおける「ノズル部」、「外筒」、「環状オレフィン開環重合体水素添加物」、「環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体」、「樹脂」、「封止部材」、「ガスケット」、「押し子」、および「タンパク質溶液製剤」の具体例および好適例などと同一であるため、本項での説明は省略する。
【0069】
<充填工程>
外筒にタンパク質溶液製剤を注入して、外筒内壁面の製剤接触領域と、封止部材と、ガスケットで画定される空間に、非イオン性界面活性剤の濃度が所定の範囲内であるタンパク質溶液製剤を充填する方法は、特に限定されず、既知の方法、例えば、特開2012-29918号公報に記載の方法が挙げられる。また、充填工程は、滅菌下で行うことが好ましい。
【0070】
<その他の工程>
本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、任意に、上述した充填工程以外の工程(その他の工程)を含むことができる。
ここで、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法では、上述した充填工程の前に、好適な内壁面性状を有する外筒を容易に作製し得る一連の操作を実施することが好ましい。具体的には、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、上述した充填工程に先んじて、成形材料である樹脂を予備乾燥する工程(予備乾燥工程)と、予備乾燥後の樹脂を成形して、外筒を成形する工程(成形工程)を備えることが好ましい。
【0071】
<<予備乾燥工程>>
外筒の形成に用いる樹脂を、成形に先んじて乾燥することで、外筒表面(特には、内壁面の製剤接触領域)の水接触角を向上させて、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。なお、成形前の樹脂を乾燥させることで、成形後に得られる外筒表面の水接触角を向上させることができる理由は、定かではないが、乾燥により樹脂中の酸素濃度を低下させることができるため、成形の際の熱により外筒表面が酸化して親水性を帯びるのを抑制できるからと推察される。
なお、予備乾燥する際の樹脂の形状は、特に限定されないが、シート状、ペレット状など任意の形状とすることができるが、乾燥効率や、成形の容易さの観点から、ペレット状であることが好ましい。
【0072】
ここで、予備乾燥後の樹脂中の酸素濃度は、10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、4質量ppm以下であることが更に好ましい。予備乾燥後の樹脂中の酸素濃度が10質量ppm以下であれば、当該樹脂から形成される外筒の製剤接触領域の水接触角の値を向上させることができ、当該外筒を備えるプレフィルドシリンジにおいて、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。
【0073】
また、予備乾燥は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。予備乾燥を不活性ガス雰囲気下で行うことで、当該樹脂中から酸素を効率的に除去しつつ外部の酸素による樹脂の酸化を防ぐことができ、結果として、得られる外筒を備えるプレフィルドシリンジにおいて、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。なお、不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオンおよびクリプトンや、これらの混合物を用いることができる。
【0074】
そして、予備乾燥において、乾燥温度(雰囲気温度)は80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。予備乾燥の乾燥温度が80℃以上であれば、樹脂中の酸素を効率的に除去することができ、結果として、得られる外筒を備えるプレフィルドシリンジにおいて、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。一方、予備乾燥の乾燥温度が120℃以下であれば、成形に先んじて樹脂が硬化してしまうのを防ぐことができる。
【0075】
また、予備乾燥において、乾燥時間は、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、4時間以上であることが更に好ましく、24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましい。予備乾燥の乾燥時間が1時間以上であれば、樹脂中の酸素を効率的に除去することができ、結果として、得られる外筒を備えるプレフィルドシリンジにおいて、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を更に抑制することができる。一方、予備乾燥の乾燥時間が24時間以下であれば、成形に先んじて樹脂が酸化劣化してしまうのを防ぐことができる。
【0076】
<<成形工程>>
上述した予備乾燥後の樹脂を、所望形状の外筒に成形する方法は、特に限定されず、射出成形法、射出ブロー成形法(コールドパリソン法)、熱成形法等の既知の成形方法が挙げられる。これらの中でも、目的の外筒を効率よく製造することができることから、射出成形法が好ましい。
【0077】
射出成形法を用いて外筒を製造する際は、通常、樹脂を射出成形機のホッパに投入し、シリンダー内で加熱することによりこれを可塑化し、次いで、溶融樹脂(可塑化された樹脂)を、射出口から金型内に射出する。そして、溶融樹脂が金型内で冷却固化することにより、外筒が形成される。
【0078】
ここで、樹脂を可塑化する際のシリンダー温度は、200℃以上400℃以下であることが好ましく、200℃以上350℃以下であることがより好ましく、250℃以上310℃以下であることが更に好ましい。シリンダー温度が200℃以上であれば、溶融樹脂の流動性が確保され、外筒にヒケやひずみを生じることもない。一方、シリンダー温度が400℃以下であれば、成形材料の熱分解によるシルバーストリークの発生や、外筒の黄変を抑制することができる。
【0079】
また、シリンダーから金型へ溶融樹脂を射出するときの射出速度は、1cm3/秒以上1,000cm3/秒以下であることが好ましい。射出速度がこの範囲であることで、外観形状に優れる外筒が得られ易くなる。なお、シリンダーから金型へ溶融樹脂を射出するときの射出圧は、特に限定されず、金型の種類や、溶融樹脂の流動性等を考慮して適宜設定すればよいが、通常、30MPa以上250MPa以下である。
【0080】
そして、金型温度は、通常、樹脂中の重合体(環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体)のガラス転移温度(Tg)よりも低い温度であり、好ましくはTgよりも5℃~50℃低い温度、より好ましくはTgよりも5℃~30℃低い温度である。金型温度がこの範囲内であることで、歪の少ない外筒が得られ易くなる。
【0081】
なお、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、上述した予備乾燥工程および成形工程以外に、その他の工程として、例えば、充填工程の前に、外筒、ガスケット、封止部材を滅菌する工程を備えることもできる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、重合体の分子量等(重量平均分子量、数平均分子量、および分子量分布)、重合体に水素化添加した際の水素添加率、重合体のガラス転移温度、樹脂中の酸素濃度、外筒の内壁面における製剤接触領域の水接触角、プレフィルドシリンジの長期保存後におけるタンパク質溶液製剤中の非イオン性界面活性剤の濃度(保存後濃度)、プレフィルドシリンジの長期保存後におけるタンパク質溶液製剤中の非イオン性界面活性剤の分解産物生成の有無、並びに、プレフィルドシリンジの長期保存後におけるタンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集抑制、については、以下の方法を使用して測定および評価した。
【0083】
<分子量等>
重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、シクロヘキサンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、標準ポリイソプレン換算値として測定した。また、得られたMwとMnから、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。なお、測定装置としては、「HLC8320GPC」(東ソー社製)を用いた。また、標準ポリイソプレンとしては、東ソー社製の標準ポリイソプレン(単分散)、Mw=602、1390、3920、8050、13800、22700、58800、71300、109000、280000の計10点を用いた。そして、測定は、カラムとして、「TSKgel G5000HXL」、「TSKgel G4000HXL」および「TSKgel G2000HXL」(何れも東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/分、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
<水素添加率>
溶媒として重クロロホルムを用いて、1H-NMR測定を行い、水素化反応における水素添加率を算出した。
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量分析計(ナノテクロノジー社製、製品名「DSC6220S11」)を用いて、JIS K 6911に基づいて測定した。
<樹脂中の酸素濃度>
樹脂ペレットを、昇温脱離分析装置(電子科学社製、製品名「WA1000S/W型」)を用いて、130℃で60分間加熱し、その際に脱離する酸素の量を測定することで、樹脂中の酸素濃度を算出した。
<水接触角>
外筒をニッパーでカットして製剤接触領域を切り出し、製剤接触領域の任意の10箇所について、協接触角計(協和界面科学社製、製品名「Drop Master 300」)を用い、カーブフィッティング法により静的接触角を測定し、これらの平均値を当該製剤接触領域の水接触角とした。
<非イオン性界面活性剤の保存後濃度>
プレフィルドシリンジを、暗所にて4℃の条件下で1週間静置した。1週間静置後のプレフィルドシリンジ中のタンパク質溶液製剤を、ガスケットに連結する押し子に圧力を加えてノズル部から押し出して、回収した。
そして、長期保存後のタンパク質溶液製剤中における非イオン性界面活性剤の濃度(保存後濃度)を、下記の式により算出した。
保存後濃度(mg/mL)=長期保存前の非イオン性界面活性剤の濃度(mg/mL、初期濃度)×(A1/A0)
なお、上記式中、A0とA1は、それぞれ、長期保存前と長期保存後のタンパク質溶液製剤について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析を行い、得られたデータから得られる非イオン性界面活性剤に帰属されるピークの面積強度である。このHPLCの実施条件は、下記の通りである。
装置:製品名「HP-1100」(アジレント・テクノロジー社製)
カラム:製品名「ZORBAX(登録商標) Eclipse Plus C18HT」(2.1mm i.d.×150mm、1.8μm、アジレント・テクノロジー社製)
溶媒:アセトニトリル/水=70/30
注入量:16μL
流速:0.4mL/分
検出法:UV198nm
<非イオン性界面活性剤の分解産物生成の有無>
プレフィルドシリンジを、暗所にて4℃の条件下で1週間静置した。1週間静置後のプレフィルドシリンジ中のタンパク質溶液製剤を、ガスケットに連結する押し子に圧力を加えてノズル部から押し出して、回収した。
そして、長期保存後のタンパク質溶液製剤について、「非イオン性界面活性剤の保存後濃度」と同様の条件でHPLCによる分析を行い、分解産物に帰属されるピークの有無を確認し、このピークが確認された場合には保存後の分解産物生成が「有り」と判断し、このピークが確認されない場合には保存後の分解産物生成が「無し」(生成量が検出限界以下)と判断した。
<タンパク質の凝集抑制>
プレフィルドシリンジを、暗所にて4℃の条件下で1週間静置した。1週間静置後のプレフィルドシリンジ中のタンパク質溶液製剤を、ガスケットに連結する押し子に圧力を加えてノズル部から押し出して、回収した。回収したタンパク質溶液製剤に含まれる粒子径1μm以上の凝集物の数を、FlowCam8100(Fluid Imaging Technologies、Scarborough、ME)を使用して視覚的に計数した。なお、サンプル容量は0.15mLであり、0.05mL/分の流速で分析した。また、データ解析にはVisual Spreadsheetソフトウェア(Fluid Imaging Technologies)を使用した。同様の操作を合計4回行った。そして、各回について単位体積当たりの凝集物の個数(個/mL)を算出し、それらの平均値を保存後凝集物濃度(個/mL)とした。保存後凝集物濃度の値が小さいほど、プレフィルドシリンジを長期保存した際に、タンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集が抑制されていると言える。
【0084】
(実施例1)
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたヒュミラ(アダリムマブ)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH:7.0、NaCl:200mM、リン酸:100mM)を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
<外筒の作製>
<<環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物A)の調製>>
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1-ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部、及びトリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン、以下、「DCP」と略記する。)76部と、8-メチル-テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ-3-エン70部と、テトラシクロ[7.4.0.0
2,7.1
10,13]トリデカ-2,4,6,11-テトラエン(以下「MTF」と略す。)54部と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)80部とを、並行して2時間かけて連続的に添加し重合した。次いで、重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。得られた開環重合体を含有する反応溶液をガスクロマトグラフィー分析したところ、各モノマーの重合転化率は、99.5%であった。
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン270部を加え、さらに水素添加触媒としてケイソウ土担持ニッケル触媒(ニッケル担持率:58重量%、細孔容積:0.25ml/g、比表面積:180m
2/g)5部を加え、水素により5MPaに加圧して撹拌しながら温度200℃まで加温した後、8時間反応させ、DCP/8-メチル-テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ-3-エン/MTF開環共重合体水素添加物を含有する反応溶液を得た。濾過により水素化触媒を除去し、次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製)を用いて、温度270℃、圧力1kPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン及びその他の揮発成分を除去し、次いで水素化物を溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化してペレットを得た。このペレット化された環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物A)のMwは33,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.4、水素添加率は99.8%、Tgは136℃であった。
<<水素化物Aを含む樹脂ペレットの作製>>
上記のようにして得られた水素化物A100部と、酸化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.017部とを、ブレンダーで混合し、ポッパーを窒素置換した2軸混練機を用い、275℃のシリンダー温度で混練して押し出し、樹脂ペレットを得た。
<<予備乾燥および成形>>
上記のようにして得られた樹脂ペレットを、熱風式乾燥機を用いて、窒素雰囲気下、雰囲気温度:100℃、乾燥時間:6時間の条件で乾燥した(予備乾燥)。この予備乾燥後の樹脂の酸素濃度を測定した。結果を表1に示す。
そして、予備乾燥後の樹脂について、シリンジ成形品(シリンジサイズ:ISO規格11040-6の1mL-Longに準拠)の金型を搭載した射出成形機(ファナック社製、製品名「ROBOSHOT αS―50iA」)を用いて、以下の条件で射出成形を行い、シリンジの外筒を製造した。
シリンダー温度:305℃
金型温度:120℃
射出速度:180mm/秒
冷却時間:30秒
射出圧力(保圧):100MPa
保圧時間:5秒
得られた外筒の製剤接触領域の水接触角を測定した。結果を表1に示す。
<プレフィルドシリンジの作製>
上述した外筒とタンパク質溶液製剤を用いて、
図1に示す構成を有するプレフィルドシリンジを以下の手順で作製した。なお、プレフィルドシリンジの作製は、滅菌環境下で行った。
得られた外筒の先端部にイソプレンゴム製のキャップを取り付け、当該外筒にタンパク質溶液製剤1.0mLを充填した。次いで、外筒の後端側から、ブチルゴム製のガスケットを取り付けた押し子を挿入して密封して、タンパク質溶液製剤が充填されたプレフィルドシリンジを得た。得られたプレフィルドシリンジを用いて、非イオン性界面活性剤の保存後濃度、非イオン性界面活性剤の分解産物生成の有無、および、タンパク質の凝集抑制を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例3)
外筒の作製に際し、環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物A)に替えて、下記のように調製した環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体(共重合体B)を使用した以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<<環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体(共重合体B)の調製>>
シクロヘキサン258リットルを装入した反応容器に、常温、窒素気流下でノルボルネン(120kg)を加え、5分間撹拌を行った。さらにトリイソブチルアルミニウムを系内の濃度が1.0ml/リットルとなるように添加した。続いて、撹拌しながら常圧でエチレンを流通させ系内をエチレン雰囲気とした。オートクレーブの内温を70℃に保ち、エチレンにて内圧がゲージ圧で6kg/cm2となるように加圧した。10分間撹拌した後、予め用意したイソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド及びメチルアルモキサンを含むトルエン溶液0.4リットルを系内に添加することによって、エチレンとノルボルネンとの共重合反応を開始させた。このときの触媒濃度は、全系に対してイソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリドが0.018mmol/リットルであり、メチルアルモキサンが8.0mmol/リットルである。この共重合反応中、系内にエチレンを連続的に供給することにより、温度を70℃、内圧をゲージ圧で6kg/cm2に保持した。60分後、イソプロピルアルコールを添加することにより、共重合反応を停止した。脱圧後、ポリマー溶液を取り出し、その後、水1m3に対し濃塩酸5リットルを添加した水溶液と1:1の割合で強撹拌下に接触させ、触媒残渣を水相へ移行させた。この接触混合液を静置したのち、水相を分離除去し、さらに水洗を2回行い、重合液相を精製分離した。
次いで精製分離された重合液相を、3倍量のアセトンと強撹拌下で接触させ、共重合体を析出させた後、固体部(共重合体)を濾過により採取し、アセトンで十分洗浄した。さらに、未反応のモノマーを抽出するため、この固体部を40kg/m3となるようにアセトン中に投入した後、60℃で2時間の条件で抽出操作を行った。抽出処理後、固体部を濾過により採取し、窒素流通下、130℃、350mmHgで12時間乾燥し、エチレン・ノルボルネン共重合体(共重合体B)を得た。
製造例1の水素化物Aと同様にして、エチレン・ノルボルネン共重合体(共重合体B)をペレット化した。このペレット化されたエチレン・ノルボルネン共重合体(共重合体B)の重量平均分子量(Mw)は96,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.4、Tgは138℃であった。
【0087】
(実施例4)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例3と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例5)
外筒の作製に際し、予備乾燥を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例6)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例5と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例7)
外筒の作製に際し、予備乾燥を行わなかった以外は、実施例3と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例8)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例7と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例9)
以下のようにして準備したタンパク質溶液製剤を使用した以外は、実施例1と同様にして、外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたレミケード(インフリキシマブ)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH:7.0、NaCl:200mM、リン酸:100mM)を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
【0093】
(実施例10)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例9と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例11)
外筒の作製に際し、環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物A)に替えて、実施例3と同様にして調製した環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体(共重合体B)を使用した以外は、実施例9と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0095】
(実施例12)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例11と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0096】
(実施例13)
外筒の作製に際し、予備乾燥を行わなかった以外は、実施例11と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
(実施例14)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例13と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
(実施例15)
外筒の作製に際し、予備乾燥を行わなかった以外は、実施例11と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
(実施例16)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例15と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
(実施例17)
以下のようにして準備したタンパク質溶液製剤を使用した以外は、実施例1と同様にして、外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたヒュミラ(アダリムマブ)を、リン酸緩衝液(pH:7.0、NaCl:0mM、リン酸:100mM)を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
【0101】
(実施例18)
以下のようにして準備したタンパク質溶液製剤を使用した以外は、実施例1と同様にして、外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたヒュミラ(アダリムマブ)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH:7.0、NaCl:20mM、リン酸:100mM)を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
【0102】
(実施例19)
以下のようにして準備したタンパク質溶液製剤を使用した以外は、実施例1と同様にして、外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたヒュミラ(アダリムマブ)を、酢酸緩衝液(pH:4.0、酢酸:100mM)にNaClを加え200mM(NaCl濃度)となるように調整した溶液を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
【0103】
(実施例20)
以下のようにして準備したタンパク質溶液製剤を使用した以外は、実施例1と同様にして、外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたヒュミラ(アダリムマブ)を、酢酸緩衝液(pH:5.0、酢酸:100mM)にNaClを加え200mM(NaCl濃度)となるように調整した溶液を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
【0104】
(実施例21)
以下のようにして準備したタンパク質溶液製剤を使用した以外は、実施例1と同様にして、外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<タンパク質溶液製剤の準備>
精製されたヒュミラ(アダリムマブ)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH:6.0、NaCl:200mM、リン酸:100mM)を用いて、0.1mg/mLの濃度に調整すると共に、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を0.01mg/mLとなるように添加して、タンパク質溶液製剤を得た。
【0105】
(実施例22)
外筒の作製に際し、環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物A)に替えて、下記のように調製した環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物C)を使用した以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<<環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物C)の調製>>
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1-ヘキセン0.55部、ジブチルエ-テル0.11部、トリイソブチルアルミニウム0.22部を室温で反応器に入れて混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(以下DCPDと略す)170部、8-エチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(以下ETCDと略す)30部、六塩化タングステン0.7%トルエン溶液30部を2時間かけて連続的に添加し、重合した。得られた重合反応液を耐圧性の水素化反応器に移送し、ケイソウ土担持ニッケル触媒(日産ガードラー社製;G-96D、ニッケル担持率58重量%)10部及びシクロヘキサン200部を加え、150℃、水素圧45kgf/cm2で8時間反応させた。ステンレス製金網を備えたろ過器の、該金網上に、珪藻土をろ過助剤として敷詰め、水素化反応液をろ過して、触媒を除去した。ろ過した反応溶液を3000部のイソプロピルアルコ-ル中に攪拌下に注いで水素添加物を沈殿させ、ろ別して回収した。さらに、得られた水素添加物をアセトン500部で洗浄した後、1torr以下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物C)190部を得た。
製造例1の水素化物Aと同様にして、環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物C)をペレット化した。このペレット化された環状オレフィン開環重合体水素添加物(水素化物C)のMwは40,000、分子量分布は(Mw/Mn)は3.3、水素添加率は99.8%、Tgは102℃、共重合組成(重量比)はDCPD/ETCD=85/15であった。
【0106】
(実施例23)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.04mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例22と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
(実施例24)
樹脂ペレットを得るに際し、安定剤(熱可塑性エラストマー)として芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、タフテック(登録商標)H1043)0.1部および芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製、タフテック(登録商標)H1051)0.1部を追添加した以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す
【0108】
(比較例1)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0109】
(比較例2)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0110】
(比較例3)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例3と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0111】
(比較例4)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例3と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0112】
(比較例5)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例5と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0113】
(比較例6)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例5と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0114】
(比較例7)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例7と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0115】
(比較例8)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例7と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0116】
(比較例9)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、実施例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0117】
(比較例10)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、実施例2と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0118】
(比較例11)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、比較例1と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0119】
(比較例12)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、比較例2と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0120】
(比較例13)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例9と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0121】
(比較例14)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例9と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0122】
(比較例15)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例11と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0123】
(比較例16)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例11と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0124】
(比較例17)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例13と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0125】
(比較例18)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例13と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0126】
(比較例19)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が0.50mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例15と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0127】
(比較例20)
タンパク質溶液製剤の準備に際し、非イオン性界面活性剤としてのポリソルベート80を濃度が1.00mg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例15と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、また外筒およびプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0128】
(比較例21)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、実施例9と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0129】
(比較例22)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、実施例10と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0130】
(比較例23)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、比較例13と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0131】
(比較例24)
外筒として、ガラス製の外筒を使用した以外は、比較例14と同様にして、タンパク質溶液製剤を準備し、またプレフィルドシリンジを作製し、各種評価を行った。結果を表4に示す。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
表1~2より、非イオン性界面活性剤の濃度が0mg/mL超0.05mg/mL未満であるタンパク質溶液製剤を、環状オレフィン開環重合体水素添加物および/または環状オレフィンと鎖状オレフィンの共重合体を含む樹脂で形成された外筒に充填することで得られる実施例1~24のプレフィルドシリンジは、長期保存した場合に、タンパク質溶液製剤中のタンパク質の凝集を抑制することができ、また非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低く抑えることができることがわかる。
一方、表3~4より、非イオン性界面活性剤の濃度が0.05mg/mL以上のタンパク質溶液製剤を用いた比較例1~8、13~20のプレフィルドシリンジでは、長期間保管後における非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低く抑えることができないことがわかる。
更に、表3~4により、ガラスで形成された外筒を用いた比較例9~12、21~24のプレフィルドシリンジでは、長期間保管後におけるタンパク質の凝集を抑制できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、長期保存後のタンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制しつつ、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうるプレフィルドシリンジを提供することができる。
また、本発明によれば、長期保存後のタンパク質溶液製剤中におけるタンパク質の凝集を抑制しつつ、非イオン性界面活性剤の分解産物の生成量を低減しうるプレフィルドシリンジを製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 プレフィルドシリンジ
10 外筒
11 先端部
12 ノズル部
13 内壁面
14 製剤接触領域
15 外筒本体部
16 フランジ
20 封止部材(キャップ)
30 ガスケット
40 押し子
41 指当て部
50 タンパク質溶液製剤